(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
周知のごとく、進行波形超音波モーター(以下、超音波モーター)は、円環状の圧電体に弾性体を貼着したステータに円周方向の進行波を発生させて、その進行波を摩擦力を介してロータに伝達することでロータを回転させている。そして、電磁石を用いたモーターと比べ、低速で高トルク、高速応答性、停止時におけるトルクの保持、静粛性、磁気ノイズが発生しない、などの特徴を有している。
【0003】
図1は、超音波モーターの基本構成を示す図であり、この図では、ステータを構成する円環状の圧電体1の分極極性と電極の配置を平面図によって示している。以下では、この図に示した圧電体の面をおもて面とし、このおもて面側を上方とする。なお、ステータを構成する弾性体は、この圧電体1の裏面側に貼着されることになる。
【0004】
圧電体1は円環状に一体成形された圧電セラミックスからなり、ここでは円環の中心角がθ1となる二つの領域(A相領域10a、B相領域10b)に区分されている例を示した。各相の領域(10a、10b)の上面には個別の電極(以下、駆動用電極)が形成されており、圧電体1の裏面には、A相とB相に共通の接地電極が形成されている。弾性体が導電性である場合は、その弾性体自体が接地電極となる。
【0005】
A相とB相の領域(10a、10b)はさらに複数の領域(以下、分極領域:11a、12a、11b、12b)に区分されて、各分極領域(11a、12a、11b、12b)は圧電体1の厚み方向(紙面の法線方向)に分極処理されている。そして、A相とB相の各領域(10a、10b)では、隣接する分極領域(11a−12a、11b−12b)の分極極性の方向が逆方向となっている。以下では、図の紙面おもて面側から裏面に向かう分極極性を「+」、その逆方向を「−」で表すこととし、さらに、例えば、A相領域10aに属するとともに分極極性が+となる分極領域11aであれば、この領域を「A+」と標記することとする。すなわち圧電体1には、「A+」「A−」「B+」「B−」の4種類の分極領域が存在することになる。
【0006】
ここで、4種類の分極領域(11a、12a、11b、12b)に区分された圧電体1に対し、A相領域10aとB相領域10bのいずれかの領域に形成されている駆動用電極と接地電極間に高周波電圧からなる駆動信号を印加したとする。A相とB相の領域(10a、10b)では、隣り合う分極領域(11a−12a、11b−12b)の分極極性が逆であることから、各分極領域(11a、12a、11b、12b)は、駆動信号の1/2波長(1/2λ)分に相当することになる。そして、各分極領域(11a、12a、11b、12b)は、駆動信号が印加されると円周方向に屈曲振動を起こし、駆動信号の周波数がこの圧電体1を含んで構成されるステータの固有振動数に等しければ、ステータが共振して定在波が発生する。
【0007】
この定在波を利用して円周方向に進行波を発生させるためには、周知のごとく、円周上で隣接する一対の+極と−極に対応する分極領域(11a−12a、11b−12b)に対応する円弧が1波長(λ)分に対応していることを利用し、A相領域10aとB相領域10bを1/4λ分ずらすとともに、圧電体1においてA相領域10aとB相領域10bの各領域に相互に時間的位相が90°異なる高周波電圧を印加する。それによって、A相領域10aとB相領域10bの双方に発生した定在波が相互干渉を起こし進行波が発生する。
【0008】
なお、A相領域10aとB相領域10bが相対的に1/4λ分ずれていることから、一般的には、分極領域(11a、12a、11b、12b)を円環状の圧電体1の全領域に亘って隙間無く配置しないようにしている。具体的には、
図1に示したように、円周の二箇所に駆動用電極が形成されていない間隙部分(13、14)を設けている。一方の間隙部分13は、1/4λ分の中心角θ2に相当する領域であり、他方の間隙14は、3/4λ分の中心角θ3(=3×θ2)に相当する。また、多くの超音波モーターでは、この間隙(13、14)に接地用電極を形成し、圧電体1の裏面に形成されている接地電極と接続している。それによって、分極領域(11a、12a、11b、12b)に対応して形成されている駆動用電極からの配線と、接地用電極からの配線の双方をおもて面から引き出せるようにしている。あるいは、駆動用信号による圧電体1の振動状態を検出するために、当該間隙14の中央に分極領域(11a、12a、11b、12b)と同じ形状の「フィードバック電極」などと呼ばれる電極を設ける場合もある。この場合、超音波モーターは、そのフィードバック電極と接地電極間に発生した電圧信号の検出結果に基づいて駆動用信号を制御するように構成されている。
【0009】
なお、超音波モーターの基本的な構造や原理については以下の非特許文献1や2に記載されている。また以下の特許文献1には、
図1に示した圧電体1における3/4λ分の間隙部分14を二分割して3/8λ分に相当する領域を二つ設け、この二つの領域にA相とB相の分極領域を追加して、圧電体のより広い領域を振動させるようにしている。また特許文献2には、A相領域とB相領域をそれぞれ2分割するとともに、それらの領域を間隙を介して等角度間隔で円周上に交互に配置した超音波モーターについて記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
周知のごとく、超音波モーターの性能を評価するための指標として「振幅」と「位相」がある。振幅はトルクの性能を評価する際の指標であり、位相は超音波モーターの共振性能を評価する際の指標である。そして、超音波モーターは共振現象を利用して駆動している以上、モーターの直径を小さくすると振幅が小さくなりトルク性能が劣化するという原理的な問題がある。すなわち、トルク特性を維持したまま小型化を達成することが難しい。一方、位相は圧電体を構成する圧電材料の圧電定数や機械品質係数に依存している。
【0013】
ところで、超音波モーターの主要部である円環状の圧電体を形成する圧電材料としてはPbTiO
3−PbZrO
3(以下、PZT)系セラミックスがよく知られている。PZTは、電気機械結合係数や圧電定数などの圧電特性に優れ、このPZTは、超音波モーターに限らず、センサーやフィルターなどの圧電素子に広く使用されている。その一方で、近年の環境問題に対する配慮から工業製品の「鉛フリー」化が求められている。そして、PZTにはその鉛が含まれていることから、今後は、圧電材料も鉛(Pb)が含まれているPZTから鉛を含まない他の圧電材料に置換していく必要がある。
【0014】
鉛を含まない圧電材料(非鉛圧電材料)としては、例えば、一般式K
xNa
(1−x)NbO
3で表される化合物やチタン酸バリウム(Ba
nTiO
3)系の圧電材料などがよく知られている。しかし、現時点においてはPZTに代替するほどの圧電特性(比誘電率、圧電定数、機械品質係数など)を備えた非鉛圧電材料が存在しない。とくに、圧電定数や機械品質係数が不十分であり、位相が低くなる傾向がある。したがって、
図1に示したような従来の構成や構造では十分な共振特性が得られない。もちろん、圧電体を構成する材料がどのようなものであっても、超音波モーターの共振性能を向上させることには大きな意義がある。
したがって本発明の目的は、トルク性能と共振性能に優れ、小型で環境問題にも対応可能な超音波モーターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための本発明は、分極極性が逆となる+分極領域と−分極領域が円環を形成するように配置されてなる圧電体を備えた超音波モーターであって、
前記+分極領域および−分極領域の表面に、位相が互いに90゜ずれたA相とB相の高周波信号が印加されるA相電極とB相電極のいずれかが形成されて、前記+と−の分極領域が、A相+領域とA相−領域とB相+領域とB相−領域の4種類の分極領域のいずれかに区分され、
前記A相+領域と前記A相−領域は、前記円環の中心角が1/2波長分の角度に対応する分極領域を有して交互に分極極性が逆となるように円環状にn(但し、nは2以上の自然数)波長分配置されてなるA相の分極パターンから、当該パターンを構成する1/2波長分の分極領域
、および当該分極領域を2等分する1/4波長分の領域から合計n/2波長分の領域が選択されて配置され、
前記B相+領域と前記B相−領域は、前記A相の分極パターンを1/4波長に対応する角度で回転させたB相の分極パターンから、前記A相+領域と前記A相−領域の双方に重複しない位置にある分極領域から選択されて配置され、
前記4種類の分極領域の内、少なくとも一種類の分極領域が
1/2波長分に対応する角度で前記円環の中心に対して
点対称となる位置に配置されている、
ことを特徴とする超音波モーターとしている。
【0016】
そして、
前記A相あるいは前記B相の一方の相に属する+分極領域と−分極領域のいずれか一つの特定の分極領域が円環上に90゜の等角度間隔ごとに4箇所に1/2波長分の角度で配置され、
前記A相あるいは前記B相の他方の相に属する+分極領域と−分極領域が、1/4波長分の角度で、前記特定の分極領域が配置されていない領域に前記円環上に90゜の等角度間隔で配置されている、
ことを特徴とする超音波モーターとすることもできる。
【0017】
あるいは、前記A相あるいは前記B相の一方の相に属する+分極領域と−分極領域が、それぞれ1/2波長分に対応する角度で前記円環の中心に対して点対称となる位置に2箇所に配置され、
前記A相あるいは前記B相の他方の相に属する+分極領域と−分極領域の一方の分極領域が1/2波長分に対応する角度で2箇所に回転対称となる位置に配置されている、
ことを特徴とする超音波モーター
とすることもできる。
さらに、前記A相あるいは前記B相の一方の相に属する+分極領域と−分極領域が互いに隣接していることを特徴とする超音波モーターとしてもよい。
そして、前記1/4波長分の角度が22.5゜であることを特徴とする超音波モーターとすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、トルク特性と共振特性に優れた超音波モーターを提供することができる。それによって、超音波モーターの小型化を達成することができる。また、非鉛圧電材料の利用を可能にして環境に優しい超音波モーターを提供することも期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
===本発明の技術思想===
本発明の対象となる進行波型超音波モーターの駆動原理は、上述したように、A相とB相の駆動信号のそれぞれによって駆動される円環状の圧電体を互いに1/4λ分ずらして配置することで、位相がずれた二つの定在波を干渉させて進行波を発生させることにある。
図2に、超音波モーターの圧電体1における分極極性と駆動用電極の配置についての概念を示した。
図2(A)はA相とB相の一方(ここではA相とする)の駆動信号によって駆動させる仮想的な圧電体1aの分極領域(11a、12a)の配置状態(以下、A相分極パターン1aともいう)を示しており、(B)は他方の相(B相)の駆動信号によって駆動させる仮想的な圧電体1bの分極領域(11b、12b)の配置状態(以下、B相分極パターン1bともいう)を示している。なお、図中では上記4種類の分極領域である、A+領域11a、A−領域12a、B+領域11b、B−領域12bを異なるハッチングで示した。
【0021】
図2の(A)と(B)に示したA相とB相の分極パターン(1a、1b)では、分極領域(11a、12a、11b、12b)が等角度(=α)間隔で配置されている。ここでは、1/2λ分に相当する中心角が45゜に設定されている例を示した。また、隣接する分極領域(11a−12a、11b−12b)ではその分極極性が逆になっている。
【0022】
つぎに、A相分極パターンの圧電体1aとB相分極パターンの圧電体1bに互いに位相が90゜ずれた高周波信号を印加して、それぞれの圧電体(1a、1b)に定在波を発生させ、さらにその定在波を合成して進行波を発生させる。そのためには、
図2の(A)と(B)に示したように、一方の相の分極パターン(1a、1b)を他方の相の分極パターン(1b、1a)に対して1/4λに相当する22.5゜だけ回転させた状態となるようにずらせばよい。なお実際の超音波モーターでは、ステータを構成する圧電体が一体成形された円環状の一つの圧電セラミックスであるので、A相分極パターン1aとB相分極パターン1bから適宜な分極領域(11a、12a、11b、12b)を選択して一つの圧電体に円環上に配置することになる。そして、従来の超音波モーターでは円を二等分した一方の半円については、A相分極パターン1aにおける分極領域(11a、12a)の配置を採用し、他方の半円については、B相分極パターン1bにおける分極領域(11b、12b)の配置を採用し、それらの採用された分極領域(11a、12a、11b、12b)を円環状に配置して一つの圧電体としたものである。
【0023】
図3は、
図2(A)と(B)に示したA相とB相の分極パターン(1a、1b)に基づいて、従来の超音波モーターにおける圧電体100の分極領域(11a、12a、11b、12b)の配置を説明するための図である。
図2(A)に示したA相分極パターン1aにおいて隣接し合う分極領域(11a−12a)の境界線の一つを延長した線分20に対して1/8λに対応する角度(ここでは11.25゜)だけずらした線分21で円を二等分したとき、一方の半円30aについてはA相分極パターン1aの分極領域(11a、12a)を採用し、他方の半円30bについては
図2(B)に示したB相分極パターン1bの分極領域(11b、12b)を採用している。
【0024】
なお、A相とB相の分極パターン(1a、1b)に属する分極領域(11a、12a、11b、12b)の一部が円の二等分線21によって分断され、本来1/2λに対応する角度で配置されている分極領域(11a、12a、11b、12b)をそのまま配置することができない。ここに示した例では、二等分線21によってA相とB相の分極パターン(1a、1b)がともに分断された分極領域114については、その分極領域114を2分割して各相の分極領域(12a(114a)、12b(114b))に割り当てている。また、B相分極パターン1bの分極領域(
図2(B)符号15b)のみが分断された箇所については、分断されたB相の分極領域15bに駆動用電極を形成せずに間隙113としている。いずれにしても、従来の圧電体100では、円環を二分割した一方の領域30aにA相の分極領域(11a、12a)のみが配置されたA相領域10aを形成し、他方の半円領域30bにB相の分極領域(11b、12b)のみが配置されたB相領域10bを形成している。そして、A相とB相に対応する振動は、円環を二分割した一方の領域(30a、30b)に形成されているそれぞれの相の領域(10a、10b)で発生させており、その一方の領域(10a、10b)で発生させた振動で他方の相の領域(10b、10a)や間隙113の領域を励振させることで定在波を円環の全周に亘って発生させていることになる。すなわち、円環の半分部分で発生させた振動を、遠い位置にある他方の半円の領域まで伝達させていることになる。
【0025】
しかし、上述したように、非鉛系圧電材料などで圧電体を構成する場合など、位相特性が低い圧電材料からなる円環状の圧電体を用いると、その円環の半分の領域で発生させた振動によって圧電体全体を共振させることが難しくなる。また、円環の半分の領域でのみ振動を発生させているため、その振動の振幅が振動していない領域で減衰してしまう。すなわち、トルク特性の向上に限界がある。これは、圧電体のサイズを小さくするほど顕著になる。
【0026】
そこで本発明者は、A相に対応する分極領域(11a、12a)とB相に対応する分極領域(11b、12b)を、円環状の圧電体の半分の領域(30a、30b)ごとに分離して配置するのではなく、円環の全周に亘って分散配置すれば、個々の分極領域(11a、12a、11b、12b)で発生させた振動を遠い領域まで伝える必要が無く、振幅の減衰を低減させることができると考えた。また、圧電材料自体の位相性能が低くても円環の全周に亘って効率的に定在波を発生させることができると考えた。本発明は、このような考察に基づいて鋭意研究を重ねた結果なされたものである。
【0027】
===本発明の実施例===
本発明の実施例に係る超音波モーターは、円環状の圧電体における分極極性と電極の配置に特徴を有して優れたトルク特性と共振特性を有している。概略的には、
図2(A)と(B)に示したように、分極領域(11aと12a、11bと12b)が等角度間隔に区分されるとともに分極極性が交互に逆となるように円環状に配置された仮想的なA相分極パターン1aと、A相分極パターン1aに対して相対的に1/4λ分回転させたB相分極パターン1bとを重ね合わせたときに、A相の分極領域(11a、12b)とB相の分極領域(11b、2b)が重複する部分について、その一方の分極領域(11a、12a、11b、12b)を選択して実際の圧電体上に配置したものである。
【0028】
具体的には、A相の分極パターンとB相の分極パターンとを重ね合わせると、自ずと1/4λに相当する角度ごとにいずれか一方の分極領域が採用可能となる。
図4に
図2(A)と(B)に示したA相とB相の分極パターンを重ね合わせたときに1/4λの角度ごとに採用可能な分極領域を示した。この図に示したように、1/4λに相当する22.5゜の角度ごとに、A相とB相に属する分極領域の内、いずれかの分極領域が選択可能となる。本発明の技術思想は、A相とB相の分極領域(11a、12a、11b、12b)を円環状の圧電体の全周に亘って分散配置することにある。すなわち、
図1や
図3に示した圧電体(1、100)において設けられていた間隙(113、114)を無くすことで、円環の全ての領域で振動を発生させている。それによって、間隙(113、114)の部分についても他の領域での振動で励振させる必要がなくなり、圧電体の振動を効率よく利用できる。その上で、同じ種類の分極領域(11a、12a、11b、12b)を円環状の圧電体の中心に対して回転対称となる位置、すなわち円環状の圧電体上に配置されているある特定の種類の分極領域を円環の中心周りに360°/m(但し、mは自然数)だけ回転させると、同じ種類の分極領域に重なるような位置に配置することで、円環を二等分して二つの領域に区分した際、そのどちらの領域にも同じ種類の分極領域(11a、12a、11b、12b)を存在させ、さらには等角度間隔で回転対称となる位置で同期した振動を発生させることができる。それによって、安定した定在波を発生させることができる。
【0029】
したがって本発明の実施例に係る超音波モーターは、
図2に示したA相分極パターン1aとB相分極パターン1bから選択した1/4λ分あるいは1/2λ分の分極領域が円環状に隙間無く配置されているとともに、上述した4種類の分極領域(11a、12a、11b、12b)のうち、少なくとも一つの分極領域(11a、12a、11b、12b)が円環の中心Oに対して回転対称の位置に配置されている圧電体を備えていることを特徴としている。なお、回転対称となる位置に同じ種類の分極領域(11a、12a、11b、12b)が配置されるようにするためには、A相分極パターン1aとB相分極パターン1bには、分極領域が、2λ以上あることが前提となる。
【0030】
以下では、
図2に示したように、1/2λに相当する角度を45゜(n=4)としたA相とB相の分極パターン(1a、1b)に基づく分極領域の配置の内、本発明の技術思想に基づく分極領域の配置の具体例を本発明の実施例として幾つか挙げる。
【0031】
==第1の実施例===
<圧電体における分極領域の配置>
本発明の第1の実施例として、まず、4種類の分極領域(11a、12a、11b、12b)の全てが均等に分散配置された圧電体を挙げる。
図5に第1の実施例に係る圧電体101の分極領域(11a、12a、11b、12b)の配置状態を示した。この図に示したように、円環状の圧電体101の全周に亘り、各分極領域(11a、12a、11b、12b)が1/4λに相当する22.5゜の間隔で配置されている。具体的には、
図2(A)に示したA相分極パターンについては1/4λに相当する22.5゜の角度ごとに分極領域(11b、12a)が選択されており、B相分極パターン1bについてはA相分極パターン1aから切り出した分極領域(11a、12a)と重ならない位置にある分極領域(11b、12b)が選択されている。そして、これら各相のパターン(1a、1b)から選択された分極領域(11a、12a、11b、12b)が一つの圧電体101上に配置されている。すなわち、各分極領域(11a、12a、11b、12b)が1/4λ分の角度(22.5゜)で等間隔に円環状に配置され、かつ隣接し合う分極領域(11a−11b、11a−12b、12a−11b、12a−12b)ではA相とB相の駆動用電極が交互に形成されている。それによって、全ての種類の分極領域(11a、12a、11b、12b)が90゜ごとに4箇所に分散配置され、任意の一つの1/4λ分の分極領域(11a、12a、11b、12b)に着目すると、必ず円環の中心Oに対して回転対称となる位置に同じ分極領域(11a、12a、11b、12b)が配置されることになる。
【0032】
<性能評価>
第1の実施例に係る超音波モーターの性能を評価するために、先に
図4に示した圧電体100(以下、比較例とも言う)と
図5に示した第1の実施例に係る圧電体(以下、第1実施例とも言う)101に高周波信号を印加し、特性を比較した。
図6は、第1実施例101と比較例100の特性を示す図であり、
図6(A)は、駆動信号の周波数に対する位相を示しており、(B)は駆動信号の周波数と圧電体(100、101)の厚さ方向の振幅との関係を示している。
図6(A)に示した比較例100の位相特性曲線200と第1実施例101の位相特性曲線201において、共振周波数(約104.4KHz)の近傍における位相を見ると、第1実施例101は比較例100に対して位相が約30゜向上している。また(B)に示した比較例の振幅特性曲線210と第1の実施例101の位相特性曲線211とから、第1実施例101では振幅が約40%向上することが確認できる。
【0033】
さらに、第1実施例101と比較例100の複素インピーダンス特性についても評価した。周知のごとく、圧電体の複素インピーダンスは、圧電素子を等価回路で表現した際の複素インピーダンスに相当する。したがって、圧電体は、共振周波数より低い周波数の駆動信号が印加されると、等価回路と同様に複素インピーダンスにおけるコイル成分が大きくなる。すなわち、印加電圧と発生電流の位相差が0゜以下となり、共振の影響が無い周波数では位相差が−90゜となる。そして、周波数が共振周波数に近づくのに伴って位相差が上昇し、理想的な圧電体では、共振周波数で駆動されたときにその位相差が0゜となる。
【0034】
一方、駆動周波数を共振周波数より大きくしていくと等価回路におけるコンデンサ成分の影響により、位相差が90゜に向かって増加していく。なお、駆動周波数が共振周波数より反共振周波数に近づくと位相差は再び−90゜に向かって減少していくため、位相差は、
図5に示したようにある最大値を持つことになる。そして超音波モーターでは、この最大値が位相特性であり、指標の一つとなっている。
【0035】
ここで、
図7に第1実施例101と比較例100についてのインピーダンス特性を示した。当該
図7に示したように、比較例101の複素インピーダンス特性曲線220では、共振周波数とは異なる65KHz近辺にピーク222が見られる。一方、第1実施例101の複素インピーダンス特性曲線221にはその65KHz近辺でのピークが消失している。また、第1実施例101では、共振周波数近辺で鋭いピーク223が現れており、
図5に示した位相特性の評価結果と合致している。
【0036】
===第2〜第5の実施例===
第1の実施例に係る圧電体101は、4種類の分極領域(11a、12a、11b、12b)が全て均一に分散された状態で円環状に配置されており、言わば、理想的な配置であった。そして、
図6と
図7に示したように、第1の実施例に係る圧電体101を用いた超音波モーターは、比較例に係る圧電体100を用いた従来の超音波モーターに対して極めて優れた特性を有することになる。したがって、非鉛系の圧電材料を用いてこの第1の実施例の圧電体101を構成すれば、環境に優しく、かつPZTを用いた従来構成の超音波モーターに匹敵する性能を備えた超音波モーターが得られる可能性がある。
【0037】
しかし、本発明の技術思想は、円環状の圧電体を等角度で二等分して二つの領域に区分したときに、そのどちらの領域にも同じ種類の分極領域を存在させて、二等分された双方の領域で同期した振動を発生させることにある。
【0038】
ところで、従来の技術思想では、分極領域は、1/2λ分の領域を基本単位として設計することを前提としていたため、A相とB相が重なる領域(例えば
図3、符号113、114)ができ、A相あるいはB相の分極領域を円環状の圧電体上に分散して配置することができなかった。一方、本発明の技術思想に基づく第1の実施例に係る圧電体101では、1/2λの半分の領域である1/4λに対応する分極領域を区画に際しての基本単位として採用しているのにも拘わらず、従来の技術思想に基づく比較例100よりも特性が向上している。言い換えれば、1/4λを基本単位とすることでA相とB相を分散配置することが可能となり、その分散配置による効果が1/4λを区画分けの基本単位とすることによる損失を遙かに上回ったということが確認できた。そこで以下では、このA相とB相の分極パターンを円環状の圧電体上に分散配置するという本発明の技術思想の有効性を検証するための具体例を第2〜第5の実施例として挙げる。
【0039】
<第2の実施例>
図8に本発明の第2の実施例に係る圧電体102の分極領域(11a、12a、11b、12b)の配置を示した。第2の実施例における圧電体102は、1/2λ分のA−領域12aが2箇所に互いに円環の中心Oに対して回転対称となる位置に配置されている。すなわち、一つのA−領域12aが45゜の角度に相当し、45゜の角度分の領域を有する二つのA−領域12aが円環の中心Oに対して回転対称となる位置に配置されている。
【0040】
<第3の実施例>
図9は本発明の第3の実施例に係る圧電体103の分極領域(11a、11b、12b)を示す図である。この第3の実施例では、
図2(A)に示したA相分極パターン1aに含まれるA+領域11aとA−領域12aが、1/4λ分の領域に分割されて、その1/4λに相当する角度22.5゜を占有すA+領域11aとA−領域12aが90゜の等角度間隔で配置されている。また、
図2(B)に示したB相分極パターン1bからは、B+領域11bのみが4λ分選択されている。すなわち、B相分極パターン1b中の全てのB+領域11bが選択され、90゜の角度ごとに4箇所に均等配置されている。そしてB−領域12bは選択されていない。
【0041】
<第4の実施例>
図10は本発明の第4の実施例に係る圧電体104の分極領域を示す図である。この第4の実施例では、
図2(A)に示したA相分極パターン1aにおける1/2λ分のA+領域11aとA−領域12aがそれぞれ2箇所選択されて、その選択された2箇所ずつのA+領域11aとA−領域12aが回転対称となる位置に配置されている。また、
図2(B)に示したB相分極パターン1bからは、1/2λ分のB+領域11bが2箇所に回転対称となる位置に配置されている。そして、残りの領域にB−領域12bが配置されている。
【0042】
<第2〜第4の実施例の特性>
上記第2〜第4の実施例に係る圧電体(102〜105)について、位相特性と振幅特性を評価した。
図11に第2、第3、および第4の実施例の圧電体(以下、第2実施例102、第3実施例103、および第4実施例104とも言う)の特性を示した。
図11(A)は、駆動信号の周波数に対する位相を示しており、(B)は駆動信号の周波数に対する圧電体厚さ方向の振幅を示している。なお、
図11(A)(B)には、先に
図6(A)(B)に示した比較例100と第1実施例101の特性曲線(200、210、201、211)も示されている。
【0043】
図11(A)に示したように、第2〜第4実施例(102〜104)の位相特性曲線(202〜204)は、その形状がほとんど同じになっている。また(B)に示したように、振幅特性曲線(212〜214)についてもその形状がほぼ一致している。そして、
図11(A)(B)から、第2〜第4実施例(102〜104)は、第1実施例101には劣るものの、比較例100に対して位相特性が約10゜向上し、振幅特性は約25%向上している。したがって、本発明の技術思想に基づく圧電体は、第1実施例101のような「理想的」な配置を除けば、ほとんど特性が同じとなり、しかも従来の超音波モーターに対応する比較例100よりも特性が向上することが立証できた。また、第1の実施例に係る圧電体101のように理想的な配置を備えた圧電体を備えた超音波モーターを除けば、本発明の技術思想に基づく圧電体を採用した超音波モーターは、ほぼ同様の特性を有することもわかった。
【0044】
<第5の実施例>
上記第1〜第5の実施例に係る圧電体(101〜104)は、1/2λに対応する角度が45゜であった。そのため、回転対称となる分極領域が実質的に点対称の位置に配置されていた。そこで、第5の実施例として、1/2λに対応する角度が60゜となる圧電体を挙げ、本発明が点対称を含む回転対称にまで及んでいることを確認する。
【0045】
図12は、1/2λに対応する角度が60゜となる円環状の圧電体における分極極性と駆動用電極の配置についての概念を示した。この
図12は、先に示した
図2における1/2λの角度を45゜から60゜に変更しているだけで、その他は同様であり、
図2(A)はA相分極パターン110aを示しており、A相に対応するA+領域11aとA−領域12aが60゜毎に交互に円環状に配置されている。(B)はB相分極パターン110bを示しており、同様に、B相に対応するB+領域11bとA−領域12bが60゜毎に交互に円環状に配置されている。そして、A相パターン110aとB相パターン110bは、位相が1/4λに相当する30゜の角度だけずれている。
【0046】
図13は、
図12(A)と(B)に示したA相とB相の分極パターン(201a、201b)に基づく従来の超音波モーターにおける圧電体110(以下、第2比較例110とも言う)の分極領域(11a、12a、11b、12b)の配置を説明するための図である。第2比較例110は、
図3に示した従来の超音波モーターにおける圧電体100と同様に、円環を二分割した半分の領域(30a、30b)のそれぞれにA相領域10aとB相領域10bが配置されており、それぞれの相の領域(10a、10b)において、
図12に示したA相パターン110aの分極領域(11a、12a)とB相パターン110bの分極領域(11b、12b)が配置されている。また、A相領域10aとB相領域10aとを分割する円の二等分線21によって
図12に示したA相とB相の分極パターン(110a、110b)がともに分断された分極領域114については、その分極領域114を2分割して3/8λに対応する領域(115a、115b)に分割している。また、B相分極パターン110bの分極領域のみが分断された箇所については、間隙113としている。
【0047】
図14は、第5の実施例に係る圧電体105(以下、第5実施例105とも言う)の分極領域(11a、12a、11b、12b)の配置状態を示している。第2比較例110と同様に、
図12に示したA相とB相のパターン(110a、110b)に基づいているものの、円環状の圧電体105の全周に亘り、各分極領域(11a、12a、11b、12b)が1/4λに相当する30゜の間隔で配置されている。そして、特定の種類の分極領域(11a、12a、11b、12bのいずれか)に着目すると、その分極領域(11a、12a、11b、12bのいずれか)は、点対称の位置には配置されておらず、回転対称となる位置に配置されている。
【0048】
図15に、第5実施例105と第2比較例110の特性を比較して示した。
図15(A)は、駆動信号の周波数に対する位相を示しており、(B)は駆動信号の周波数と圧電体(105、110)の厚さ方向の振幅との関係を示している。
図15(A)に示した第2比較例110の位相特性曲線230と第5実施例105の位相特性曲線231において、共振周波数(約65.9KHz)の近傍における位相から、第5実施例105は第2比較例110に対して位相が約47゜向上していることがわかる。また(B)に示した第2比較例110の振幅特性曲線240と第5実施例105の位相特性曲線241とから、第5実施例105では振幅が約0.02μm、割合にして約40%向上することが確認された。
【0049】
===その他の実施例===
上記第2〜第5実施例(102〜104)では、4種類の分極領域(11a、12a、11b、12b)の内、仮想的なA相分極パターン1aやB相分極パターン1bにおいて、所定の規則で回転対称となるように配置されている所定の分極領域が選択されて実際の圧電体上に配置されていたが、当然のことながら、所定の規則に従って配置するのであれば、選択する分極領域の種類はこれらの実施例に限らず、他の種類の分極領域でもよい。例えば、第2実施例102では、1/2λ分のA−領域12aが2箇所に互いに円環の中心Oに対して回転対称となる位置に配置されていたが、1/2λ分の他のいずれかの分極領域(12a、11b、12b)が2箇所に互いに円環の中心Oに対して回転対称となる位置に配置されていてもよい。
【0050】
上記第1〜4実施例では円環における22.5゜の角度が1/4λに相当し、円環上に4λ分の分極領域(11a、12a、11b、12b)が配置されていた。また、第5実施例では30゜の角度が1/λに相当していた。もちろん、これらの例に限らず、nを2以上の自然数として、円環上にnλ分の分極領域(11a、12a、11b、12b)が配置されていれば同様の性能が得られることは容易に予想される。