特許第6140517号(P6140517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 理想科学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6140517-製本装置 図000002
  • 特許6140517-製本装置 図000003
  • 特許6140517-製本装置 図000004
  • 特許6140517-製本装置 図000005
  • 特許6140517-製本装置 図000006
  • 特許6140517-製本装置 図000007
  • 特許6140517-製本装置 図000008
  • 特許6140517-製本装置 図000009
  • 特許6140517-製本装置 図000010
  • 特許6140517-製本装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6140517
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】製本装置
(51)【国際特許分類】
   B42C 9/00 20060101AFI20170522BHJP
   B42C 11/04 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B42C9/00
   B42C11/04
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-95498(P2013-95498)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-213597(P2014-213597A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】野口 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】廣島 淳
(72)【発明者】
【氏名】西川 正敏
【審査官】 櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−219231(JP,A)
【文献】 特開2002−127635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42C 9/00− 9/02
11/04
19/00−19/08
B65H37/02−37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の本文用紙を重ねた本文用紙束を両側面から挟んで背面が下向きとなるように保持する保持手段と、
前記保持手段に保持された前記本文用紙束の天地方向と平行な回転軸を中心として一部が接着剤に浸漬された状態で回転する塗布ローラと、
前記保持手段と前記塗布ローラを相対的に移動させる移動手段と、
前記本文用紙束の前記天地方向と直交する厚さ方向に沿って前記背面上に設定した複数の位置に前記塗布ローラをそれぞれ接触させ、前記各位置において前記塗布ローラを回転させて前記背面に接着剤を塗布するように、前記保持手段と前記塗布ローラと前記移動手段を制御する制御部と、
を有することを特徴とする製本装置。
【請求項2】
前記厚さ方向について前記背面上に設定した所定の中央領域内にある第1位置に前記塗布ローラを接触させ、前記塗布ローラを所定の第1方向に回転させて前記背面に接着剤を塗布し、
前記第1位置における前記塗布ローラの移動方向について先方にある前記本文用紙束の一側面と前記第1位置との間で前記厚さ方向について前記背面上に設定した第2位置に前記塗布ローラを接触させ、前記塗布ローラを前記第1方向に回転させて前記背面に接着剤を塗布するように、
前記制御部が前記塗布ローラと前記移動手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の製本装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記背面に沿う前記両側面の一部に前記塗布ローラでそれぞれ接着剤を塗布した後に、前記背面に対する接着剤の塗布を行なうように前記塗布ローラと前記移動手段を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の製本装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の本文用紙を重ねて本文用紙束を構成し、その背面に接着剤を塗布して製本を行う製本装置に係り、特に、本文用紙束が厚さ方向の中間で割れてしまう背割れや、本文用紙束の一部の本文用紙が抜けてしまう中抜け等の不具合が起こりにくくなるように、本文用紙束の背面に適正な厚さで均一に接着剤を塗布することができる製本装置に関するものである。この製本装置は、例えば、背面に接着剤を塗布して本文用紙を綴じる無線綴じや、背面に接着剤を塗布した本文用紙束を表紙用紙で包んで製本を行なうくるみ製本等に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、用紙を重ねて構成した冊子の背面に糊付けを行なう糊塗布装置に関する発明が開示されている。同文献に記載されているように、この糊塗布装置は、製本用の糊を貯留する容器6と、容器6内に設けられて糊を付着して回転するドラム7と、冊子を挟持してドラム7の上方を往復通過できるクランパ4を備えている。この装置によれば、冊子をクランプしたクランパ4が、回転するドラム7の上方を通過して冊子の背面がドラム7に接触することにより、クランパ4に挟持された冊子の背面に糊を塗布することができる。そして、この装置では、ドラム7を回転駆動するモータ8と、クランパ4を移動駆動するモータ9とが別々に設けられており、各モータ8、9の回転速度を任意に設定することにより、ドラム7の周速度とクランパ4の通過速度との相対速度を任意に変更して、冊子の背面部に対する糊付けを適切に行なうことができるものとされている。なお、以上の説明における各部の参照符号は下記特許文献1中のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−62147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の糊塗布装置の発明によれば、冊子の背面に対する糊の塗布は、回転するドラムに背面を接触させつつ、ドラムの上方を冊子が1回だけ通過して行なっている。図10を参照して説明すると、ドラム100を図10(a)中に矢印Aで示す方向に回転させ、糊を塗布しようとする冊子101の背面102をドラム100の上側に接触させながら冊子101を同図中右方向に移動させ、1回の操作で背面102に糊Gを塗布する。しかしながら、このような塗布方法によれば、実際には冊子101の背面102に適正な厚さで均一に糊Gを塗布することができない場合があるという問題があった。
【0005】
このようなドラム100を用いた糊Gの塗布においては、冊子101の背面102に塗布すべき糊Gの量は一般に冊子101の厚さに比例し、また冊子101の背面102に塗布される糊Gの量はドラム100の回転量(回転角度)によって決まるため、冊子101の厚さが大きい場合には、これに対応して必要な量の糊Gを背面102に塗布するためにドラム100の回転量を増加させなければならない。しかし、ドラム100に付着して容器から汲み上げられた糊Gは、互いに接触している背面102とドラム100の間に送り込まれるが、背面102とドラム100でせき止められて押し戻されてしまうため、必要とされる量の糊Gを送り込もうとしても、図10(a)中に矢印Bで示すように、送り込まれた糊Gがドラム102の周面に沿って回転方向の上流側に滑り落ちてしまい、背面102には一定量以上の糊Gを塗布することができない場合があった。
【0006】
そして、このように多量の糊Gを背面102に付着させたとしても、糊Gの付着を一回の操作で行なうために、背面102における糊Gの分布が均一にならず、また一般に使用されている糊Gの粘度では重力に抗して背面102に付着した状態を維持できる量には限界があるため、図10(b)に示すように、背面102に付着した糊Gのうち、特に偏って付着した部分が重力に引かれて垂れ落ち、背面102に残存する糊Gの量が減ってしまうことがあった。このため、背面102に塗布できる糊Gの量は良好な製本のためには必ずしも十分とはいえない場合があった。
【0007】
さらに、図10において冊子101はドラム100に接触しながら左方から右方に移動して背面102に糊Gを塗布するため、上述したように背面102における糊Gの分布が均一になりにくい傾向がある。すなわち、同図中(c)に示すように、糊Gを塗布し始めた側(図中左方)では上述したように背面102に付着する糊Gの量が少なくなるが、冊子101の背面102がドラム100と離れた側(図中右方)では供給された糊Gが背面102に残りやすいために付着した糊Gの量が比較的多くなり、結果として前述したように糊Gが垂れ落ちて背面102に対する糊Gの付着量が不十分になるとともに、背面102における糊Gの付着状態が不均一になっていた。
【0008】
従って、このような従来の糊塗布装置を用いて製本を行なうと、複数枚の本文用紙を重ねた本文用紙束の背面に必要量の接着剤を均一に塗布することが困難であるため、結果として出来上がった本(冊子)が厚さ方向の中間で割れてしまう背割れや、本文用紙束の一部の本文用紙が抜けてしまう中抜け等の不具合が起こり易いという問題の発生が避けられなかった。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、本文用紙束の背面に適正な厚さで均一に接着剤を塗布することができるため、出来上がった本に背割れや中抜け等の不具合が起こりにくい製本装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された製本装置は、
複数枚の本文用紙を重ねた本文用紙束を両側面から挟んで背面が下向きとなるように保持する保持手段と、
前記保持手段に保持された前記本文用紙束の天地方向と平行な回転軸を中心として一部が接着剤に浸漬された状態で回転する塗布ローラと、
前記保持手段と前記塗布ローラを相対的に移動させる移動手段と、
前記本文用紙束の前記天地方向と直交する厚さ方向に沿って前記背面上に設定した複数の位置に前記塗布ローラをそれぞれ接触させ、前記各位置において前記塗布ローラを回転させて前記背面に接着剤を塗布するように、前記保持手段と前記塗布ローラと前記移動手段を制御する制御部と、
を有することを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載された製本装置は、請求項1に記載の製本装置において、
前記厚さ方向について前記背面上に設定した所定の中央領域内にある第1位置に前記塗布ローラを接触させ、前記塗布ローラを所定の第1方向に回転させて前記背面に接着剤を塗布し、
前記第1位置における前記塗布ローラの移動方向について先方にある前記本文用紙束の一側面と前記第1位置との間で前記厚さ方向について前記背面上に設定した第2位置に前記塗布ローラを接触させ、前記塗布ローラを前記第1方向に回転させて前記背面に接着剤を塗布するように、
前記制御部が前記塗布ローラと前記移動手段を制御することを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載された製本装置は、請求項1又は2に記載の製本装置において、
前記制御部は、前記背面に沿う前記両側面の一部に前記塗布ローラでそれぞれ接着剤を塗布した後に、前記背面に対する接着剤の塗布を行なうように前記塗布ローラと前記移動手段を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載された製本装置によれば、本文用紙束の保持手段と、塗布ローラと、これらを相対的に移動させる移動手段は、制御部によって以下に説明するように統括的に制御される。すなわち、保持手段は、複数枚の本文用紙を重ねた本文用紙束を両側面から挟み、背面が下向きとなるように保持する。塗布ローラは、接着剤に浸漬された状態で回転し、接着剤を周面に付着させて汲み上げる。そして移動手段は、保持手段と塗布ローラを相対的に移動させ、本文用紙束の背面上の一位置に塗布ローラを接触させ、背面に接着剤を塗布させる。移動手段は、保持手段と塗布ローラをさらに相対的に移動させ、塗布ローラと背面との接触箇所を前記一位置から厚さ方向に移動させて背面上の他の位置に設定し、当該位置にて塗布ローラの回転により背面に接着剤を塗布させる。
【0014】
このように、本文用紙束の背面上の複数位置で背面に対する接着剤の塗布を行なうので、各位置において背面に塗布された接着剤の山が均一化されて本文用紙束の背面に適正な厚さで平坦な接着剤の層を形成することができ、その結果、出来上がった本に背割れや中抜け等の不具合が起こりにくくなる。
【0015】
請求項2に記載された製本装置によれば、本文用紙束の背面上の中央領域にある第1位置に塗布ローラを接触させ、所定の第1方向に回転させて背面に接着剤を塗布する(第1塗布工程)。次に、第1位置において塗布ローラが移動していく方向に関して第1位置に隣接する第2位置に塗布ローラを移動させ、ここで塗布ローラを第1位置での回転と同方向に回転させて背面に接着剤を塗布する(第2塗布工程)。第1塗布工程によれば、背面の略中央にある第1位置において、塗布ローラの回転方向の手前側に接着剤が塗布されていく。また、第2塗布工程では、第1位置よりも本文用紙束の一側面側に近い第2位置において、塗布ローラの回転方向の手前側、すなわち第1位置の側に接着剤が塗布されていく。
【0016】
このように、背面上の略中央にある第1位置と、ここからローラの回転方向に沿って移動した第2位置という異なる2つの位置で、塗布ローラを同方向に回転させることによって接着剤を塗布した結果、各塗布工程で付着させた接着剤が背面上の1箇所に重なって付着することにより特定部分のみが厚い不均一な層を構成する不都合は避けられる。従って、特定位置の厚い部分から接着剤が垂れ落ちて量が不足したり、不均一な塗布状態によって接着が不十分となる部分が生じる等の不具合は回避できる。また、各塗布工程で背面に付着した接着剤が各位置でそれぞれ山状となれば、全体としては完全に平坦な層が構成されることはないが、第1位置と第2位置の配置又はこれら両位置の配置によって決まる2つの山状の接着剤の間隔を、本文用紙束の厚さに対応した適当な値に設定すれば、2つの山状の接着剤の谷部においても接着剤が不足することはなく、製本時には背面に塗布された接着剤の山が均一化されて適正な厚さの平坦な接着剤の層となる構成することが可能であるため、出来上がった本に背割れや中抜け等の不具合を起こりにくくすることができる。
【0017】
請求項3に記載された製本装置によれば、本文用紙束の両側面の一部であり、かつ背面の厚さ方向の2辺にそれぞれ近接した縁部に脇糊としての接着剤を確実に塗布してから、本文用紙束の背面に対して背糊としての接着剤の塗布を行なうことができる。逆に、本文用紙束の背面に接着剤を塗布した後に、本文用紙束の側面に接着剤を塗布する場合には、塗布ローラの回転方向によっては、背面に付着した接着剤が剥ぎ取られ、本文用紙束の側面に接着剤を塗布しようとしても塗布ローラの周面に接着剤が付着していないために塗布できない場合も想定できるが、本請求項の発明によれば、そのような不都合はなく、本文用紙束を背面側から表紙用紙で包みこむくるみ製本を行なうために必要な接着剤の塗布を確実に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る製本システムの概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る製本装置の機能ブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る製本装置における接着剤塗布部の拡大図であり、本文用紙束の背面等に塗布ローラで接着剤を塗布する際の作用を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る製本装置において本文用紙束の背面等に塗布ローラで接着剤を塗布する際の手順を示す工程図である。
図5】本発明の実施形態に係る製本装置において本文用紙束の背面等に塗布ローラで接着剤を塗布する際の一工程を示す拡大正面図である。
図6】本発明の実施形態に係る製本装置において本文用紙束の背面等に塗布ローラで接着剤を塗布する際の一工程を示す拡大正面図である。
図7】本発明の実施形態に係る製本装置において本文用紙束の背面等に塗布ローラで接着剤を塗布した結果を示す拡大正面図である。
図8】本発明の実施形態において本文用紙束の背面等に接着剤が適切に塗布された状態を示す斜視図である。
図9】本発明の実施形態において本文用紙束の背面等に接着剤が適切に塗布された状態を示す背面付近の拡大正面図である。
図10】従来の製本装置において本文用紙束の背面等に塗布ローラで接着剤を塗布する際の糊の挙動及び塗布結果を示す拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施形態の製本システム1の全体構成を図1図3を参照して説明する。
本実施形態の製本システム1は、図1に示すように、印刷装置2と製本装置3を備えており、印刷装置2で用紙に印刷して複数枚の印刷物を作成し、これら複数枚の印刷物を製本装置3で冊子(本)にするためのシステムである。本発明は、この製本システム1中、特に製本装置3において、複数枚の本文用紙を重ねた本文用紙束の背面に接着剤を塗布するための構成(後述する接着部39や接着剤塗布部40等)に係るものである。
【0020】
なお、以下の説明では主として図1を参照する他、適宜図2及び図3も参照するが、図1及び図2を参照した説明では方向乃至位置を示すために上、下、左、右の語を使用する。これは図1中に示す凡例の矢印の通りユーザーが図1に示す製本システム1を図示の通りに見た場合の上、下、左、右に一致する。また、図1を見た場合の紙面の手前側を前(前方)又は正面と称し、紙面の後側を後(後方)又は背面と称する。
【0021】
印刷装置2は、製本装置3で冊子を作製するための表紙用紙P1および本文用紙(中紙とも呼ぶ)P2に印刷を行う装置である。
【0022】
印刷装置2は、図1に示すように、印刷装置筐体4(以下、単に筐体4とも呼ぶ)を備えている。筐体4内には、印刷部5が設けられている。印刷部5は表紙用紙P1及び本文用紙P2に印刷を行う装置である。印刷部5は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各色のインクをそれぞれ吐出する4個のライン型のインクジェツトヘッド6A〜6Dを備えている。また、筐体4内には、表紙用紙P1および本文用紙P2を搬送するためのループ状の印刷搬送路7が印刷部5を囲むように設けられている。図示はしないが、この印刷搬送路7に沿って、表紙用紙P1および本文用紙P2を搬送する複数の搬送用のローラが配置されている。
【0023】
筐体4の左側部には、表紙用紙P1を印刷部5側(印刷搬送路7側)へ給紙する表紙用紙給紙部8が設けられている。表紙用紙給紙部8は、複数の表紙用紙P1を積載する給紙トレイ9と、給紙トレイ9に積載された表紙用紙P1を印刷部5側へ送り出す給紙ローラ10と、給紙トレイ9と印刷搬送路7との間に設けられた給紙搬送路11と、給紙搬送路11に沿って配置された複数のローラ(図示せず)を備えており、表紙用紙P1を印刷部5側へ搬送することができる。
【0024】
筐体4内における印刷部5の下側には、本文用紙P2を印刷部5側(印刷搬送路7側)へ給紙する本文用紙給紙部12が設けられている。本文用紙給紙部12は、複数の本文用紙P2を積載する給紙トレイ13と、給紙トレイ13に積載された本文用紙P2を印刷部5側へ送り出す給紙ローラ14と、給紙トレイ13と印刷搬送路7との間に設けられた給紙搬送路15と、給紙搬送路15に沿って配置された複数のローラ(図示せず)を備えており、本文用紙P2を印刷部5側へ搬送することができる。
【0025】
印刷搬送路7の左側上部には、表紙用紙P1および本文用紙P2を一時的に収容するスイッチバック部16が設けられている。また、筐体4内の左部からスイッチバック部16内にかけて、スイッチバック搬送路17が設けられている。スイッチバック搬送路17は、両面印刷時において、表紙用紙P1および本文用紙P2を表裏反転させて印刷部5側へ搬送するための経路である。スイッチバック搬送路17の基端側(右端側)には、印刷搬送路7に接続、遮断可能とされたフリッパ(図示せず)が切替自在に設けられている。
【0026】
筐体4内の右側部には、印刷搬送路7から送り出された表紙用紙P1および本文用紙P2を製本装置3側(右方向)へ搬送するための連絡搬送路18が設けられている。連絡搬送路18の基端側(左端側)は、印刷搬送路7に接続、遮断可能とされたフリッパ(図示せず)が切替自在に設けられている。
【0027】
筐体4の上部には、操作入力部19が設けられている。操作入力部19は、ユーザーの入力操作を受け付けるものである。操作入力部19は、ユーザーが各種の入力操作を行うための操作ボタン、タッチパネル等を備えている他、図2に示すように、表示部が設けられており、ユーザーが入力した事項や制御に必要な事項、さらに装置側からユーザーに報知したい事項(警報、注意その他)等を表示できるようになっている。
【0028】
印刷装置2は、印刷制御部20を備えている。印刷制御部20は、CPU、RAM、ROM等を備えており、印刷装置2の各部の動作を統合的に制御して印刷を実行させる手段である。
【0029】
製本装置3は、印刷装置2で印刷された表紙用紙P1および本文用紙P2に所定の製本処理を施して冊子を作製する装置であり、前述したように、本文用紙束の背面に接着剤を塗布するための構成を含んでいる。
【0030】
製本装置3は、製本装置筐体31(以下、単に筐体31とも呼ぶ)を備えている。筐体31内には、印刷装置2の連絡搬送路18から送り出された印刷済みの表紙用紙P1および本文用紙P2を右方向へ搬送するための導入搬送路32が設けられている。導入搬送路32の基端部(左端部)は、連絡搬送路18の先端部(右端部)に接続されている。また、図示はしないが、表紙用紙P1および本文用紙P2を搬送する複数のローラが入搬送路32に沿って配置されている。
【0031】
筐体31内の右側上部には、印刷済みの本文用紙P2を整合して本文用紙束(単に用紙束とも呼ぶ)PSを形成するための整合部33が設けられている。整合部33は、複数の本文用紙P2を積載する整合トレイ34を備えている。整合トレイ34は、例えば水平な軸心周りに回転することにより、積載した用紙束PSを下方に向けて送り出し可能になっている。また、筐体31内の上部には、導入搬送路32から送り出された印刷済みの表紙用紙P1および本文用紙P2を整合部33側へ搬送等するための上部製本搬送路35が設けられている。上部製本搬送路35の基端部(左端部)は、導入搬送路32の先端部(右端部)に接続、遮断可能とされたフリッパ(図示せず)が切替自在に設けられている。
【0032】
筐体31の上部中央には、印刷済みの表紙用紙P1を一時的に待機させるストックトレイ36が設けられてぃる。ストックトレイ36の基端部(左端部)は、フリッパ(図示せず)により上部製本搬送路35に接続、遮断可能になっている。また、ストックトレイ36の適宜位置には、印刷済みの表紙用紙P1をストックトレイ36から上部製本搬送路35側へ送り出すローラ(図示せず)が設けられている。上部製本搬送路35に沿った位置には、表紙用紙P1および本文用紙P2を搬送する複数のローラ(図示せず)が配置されている。このうち、上部製本搬送路35に沿ってストックトレイ36の左側に配置された複数のローラは、印刷済みの表紙用紙P1の搬送方向を反転させて搬送できるようになっている。
【0033】
筐体31内におけるストックトレイ36の左側には、断裁部37が設けられている。断裁部37は、上部製本搬送路35を間にして表紙用紙P1を挟むように断裁するカッタ38を備えており、印刷済みの表紙用紙P1を用紙束PSの厚みに応じた寸法になるように断裁することができる。
【0034】
筐体31内の中央部には、接着部39が設けられている。この接着部39は、整合部33の整合トレイ34から送り出された用紙束PSを受け取り、この用紙束PSの背面PSaと、背面PSaに近接した側面PSbの縁部にホットメルト接着剤(以下、単に接着剤又は糊とも呼ぶ。)を塗布し、さらにこの用紙束PSの背面PSaを、断裁部37から送り出された印刷済みの表紙用紙P1の中央部分に付き当てて接着し、用紙束PSを表紙用紙P1でくるんで冊子状に仕上げるくるみ製本(「くるみ綴じ」とも呼ぶ。)を実行する装置である。この接着部39は、本項の最初に述べたように、複数枚の本文用紙を重ねた本文用紙束の背面に接着剤を塗布するための手段を含んでおり、本発明の要部を構成している。
【0035】
図1に示すように、接着部39は、接着剤の塗布手段である接着剤塗布部40を備えている。接着剤塗布部40は、用紙束PSの背面PSaと、背面PSaに隣接した側面PSbの縁部に接着剤Gを塗布する装置である。
【0036】
図1図3に示すように、接着剤塗布部40は、重ねられた複数枚の本文用紙からなる用紙束PSを保持するとともに所望の位置に搬送して位置決めするための保持手段として、開閉可能な一対のクランパ41A,41Bを備えている。クランパ41A,41Bは、重ねられた複数枚の本文用紙からなる用紙束PSを整合部33から受け取り、これを表裏両面又は一対の側面から挟むことにより、背面を下に向けた状態で保持することができる。なお、図1図3の各図に示すクランパ41A,41Bの形状は互いに異なるように示されているが、いずれの形状であってもよい。これら各図に示された各形状は本実施例中で適用可能なバリエーションを示すものである。なお、この一対のクランパ41A,41Bは後述するように移動可能とされており、保持した用紙束PSの背面PSaを次に説明する糊の塗布ローラ47に対して任意に位置決めすることができる。
【0037】
図1に示すように、接着剤塗布部40は、整合トレイ34の左下側にホットメルト接着剤Gを収容する接着剤収容部46を備えている。図1図3に示すように、接着剤収容部46は、前後方向(紙面垂直方向)を長手方向とする直方体状の容器であり、その上面は開放されており、内部には長手方向に沿って塗布ローラ47が配置されている。塗布ローラ47は、用紙束PSの背面PSaと側面PSbの一部にホットメルト接着剤Gを塗布するための塗布手段である。
【0038】
塗布ローラ47は、前後方向(図1図3の紙面垂直方向)に延びる長尺状の円柱形の部材であり、接着剤収容部46の内側において回転軸48に回転可能に支持されている。この回転軸48は、クランパ41A,41Bに保持された前記本文用紙束の天地方向(図1図3の紙面垂直方向)と平行であり、また接着剤収容部46内に収納されたホットメルト接着剤Gの表面とも略平行である。
【0039】
図2に示すように、回転軸48には塗布ローラ駆動モータMRが連結されており、接着剤収容部46内に収納されたホットメルト接着剤G内で塗布ローラ47を所望の方向に回動させることができる。また、図示はしないが、塗布ローラ47の塗布面である周面には、回転軸48の方向に所定の間隔をおいて多数の周溝が形成されており、ホットメルト接着剤Gが付着しやすい構造となっている。このため、接着剤収容部46内で塗布ローラ47を回転させれば、ホットメルト接着剤Gは周溝に付着して塗布ローラ47とともに移動するので、表面よりも上方に汲み上げることができる。
【0040】
従って、塗布ローラ47の周面のホットメルト接着剤Gが付着した部分に、用紙束PSの背面PSaを接触させれば、用紙束PSの背面PSaにホットメルト接着剤Gを塗布することができる。なお、この塗布ローラ47の塗布面の長手方向(回転軸48の方向)についての長さは、本装置で処理する用紙束のうち、最もサイズの大きい用紙束PSの長手方向の寸法よりも大きく設定されている。このため、いずれの種類の本文用紙(中紙)P2を用いた場合であっても、ホットメルト接着剤Gを用紙束PSの背面PSaの長手方向の全長にわたって接着剤Gを塗布する作業を行なうことができる。
【0041】
図2及び図3に示すように、接着剤収容部46の開口部には糊切りブレード70が設けられている。糊切りブレード70は板状の部材である。糊切りブレード70は、接着剤収容部46の開口部を取り囲む縁辺であるとともに、塗布ローラ47の回転軸48に平行な一対の長手方向の縁辺のうち、図中左側にある一方の縁辺に取り付けられている。この糊切りブレード70は、接着剤収容部46の内部で斜め下方に向けて配置されている。そして、接着剤収容部46内にある接着剤Gの表面に近接した塗布ローラ47の周面と、糊切りブレード70の先端部との間には、所定寸法の隙間が設けられている。
【0042】
従って、塗布ローラ47のうち接着剤Gの表面よりも上にある部分が糊切りブレード70から離れるような方向(図中時計回り方向、これを順方向とも称する。)に塗布ローラ47が回転すれば、糊切りブレード70は、回転する塗布ローラ47の周面に付着して汲み上げられる接着剤Gの一部をかき取り、糊切りブレード70と塗布ローラ47の間隔に対応する所定の厚さで接着剤Gの層を塗布ローラ47の周面に形成することができる。
なお、塗布ローラ47は順方向とは反対の逆方向(図中反時計回り方向)にも回転することができるが、この場合には糊切りブレード70は機能しないので、塗布ローラ47の周面に付着して汲み上げられる糊の層の厚さは必ずしも一定とはならない。
【0043】
図1に示す接着剤塗布部40は、図2に示すように、クランパ41A,41Bを開閉させるクランパ開閉モータMCと、用紙束PSを挟んだ一対のクランパ41A,41Bの間隔を検知して厚さ信号を出力する厚さセンサ71を有している。また、接着剤塗布部40は、クランパ41A,41Bを左右方向に移動させる移動手段としてのクランパ横移動モータMH1と、クランパ41A,41Bを前後方向に移動させる移動手段としてのクランパ前後移動モータMH2と、クランパ41A,41Bを上下方向に移動させる移動手段としてのクランパ縦移動モータMVを備えている。さらに、図2中には示さないが、必要に応じてクランパ41A,41Bを左右方向に揺動させるクランパ揺動モータを備えていてもよい。
【0044】
図2に示すように、クランパ開閉モータMCと塗布ローラ駆動モータMRは製本制御部63に接続されており、製本制御部63によって制御されるようになっている。また、クランパ41A,41Bを移動させることで塗布ローラ47に対して用紙束PSの位置決めを行なうための移動手段である3つのモータ、すなわちクランパ横移動モータMH1と、クランパ前後移動モータMH2と、クランパ縦移動モータMVも、製本制御部63に接続されており、製本制御部63によって制御されるようになっている。また、厚さセンサ71も製本制御部63に接続されており、製本制御部63は厚さセンサ71から送られる厚さ信号を受けてクランパ41A,41Bが保持する本文用紙束の厚さを検知し、上記各モータの制御に用いることができるようになっている。
【0045】
製本制御部63は、所定の受け取り位置に設定したクランパ41A,41Bに整合部33の整合トレイ34から用紙束PSが入ったところで、クランパ開閉モータMCを適宜のタイミングで制御してクランパ41A,41Bを閉じ、用紙束PSを背面が下向きとなるようにクランパ41A,41Bに保持させる。また、製本制御部63は、厚さセンサ71から送られる厚さ信号により、クランパ41A,41Bが保持した本文用紙束の厚さを検知し、これを考慮して塗布時における塗布ローラ駆動モータMRの回転量(回転角度)を適当な値に設定する。これは、本文用紙束の背面に塗布すべき接着剤Gの必要量は本文用紙束の厚さに比例して増大し、また塗布ローラ47によって背面に供給できる接着剤Gの量は塗布ローラ47の回転量に比例するからである。さらにまた、製本制御部63は、クランパ41A,41Bの移動手段であるクランパ横移動モータMH1と、クランパ前後移動モータMH2と、クランパ縦移動モータMVを制御することにより、クランパ41A,41Bが保持している用紙束PSの背面PSaを、塗布ローラ47の周面に対して位置決めする。なお、用紙束PSの背面PSaのどの位置を塗布ローラ47に接触させて塗布を行なうかは、厚さセンサ71によって検知した本文用紙束の厚さと予め与えられたデータ及び各種設定等に基づいて製本制御部63が定めるが、その制御の詳細については後に詳しく説明する。
【0046】
図1に示すように、接着部39は折り曲げ部50を備えている。折り曲げ部50は、前記接着剤塗布部40によって背面にホットメルト接着剤Gが塗布された用紙束PSを表示用紙P1に接着し、この表示用紙P1を折り曲げて用紙束PSをくるむ工程を実行する装置である。
【0047】
折り曲げ部50は、接着剤収容部46の左側に設けられている。折り曲げ部50は、一対の背折りプレート51A,51Bと、背折りプレート51A,51Bの下側に設けられた突き当てプレート52を備えている。背折りプレート51A,51Bは、互いに接近、離間するように、突き当てプレート52上で左右方向に移動可能になっている。背折りプレート51A,51Bは、互いに対向する押圧面51a,51bを有している。押圧面51a,51bは、略水平な突き当てプレート52の上面に略直交する鉛直面である。突き当てプレート52は、左右方向に移動可能になっている。ホットメルト接着剤Gが塗布済みの用紙束PSの背面PSaが表紙用紙P1を介して突き当てプレート52に当接した状態で、左右から背折りプレート51A,51Bの押圧面51a,51bが表紙用紙P1を介して用紙束PSを押圧することで、表紙用紙P1が折り曲げられるようになっている。
【0048】
また、図示はしないが、折り曲げ部50は、背折りプレート51A,51Bはを左右方向に移動させる背折りプレート移動モータと、突き当てプレート52を左右方向に移動させる突き当てプレート移動モータを備えている。
【0049】
筐体31内において、上部製本搬送路35の下側には、上部製本搬送路35から送り出された印刷済みの表紙用紙P1を折り曲げ部50へ搬送するための下部製本搬送路55が設けられている。下部製本搬送路55の基端部(左端部)は、フリッパ(図示せず)により上部製本搬送路35の基端部(左端部)に接続、遮断可能とされている。下部製本搬送路55に沿った位置には、表紙用紙P1を折り曲げ部50側へ搬送する複数のローラ(図示せず)が配置されている。
【0050】
筐体31内には用紙の搬送部56が構成されている。搬送部56は、導入搬送路32、上部製本搬送路35、下部製本搬送路55、およびこれらに沿って配置されたローラ、表紙用紙P1をストックトレイ36から上部製本搬送路35側へ送り出すローラ、そして各ローラを駆動させる図示しないモータ等によって構成されている。
【0051】
筐体31内における折り曲げ部50の下側には、折り曲げ部50から落下する完成した冊子Bを案内して下方の所定位置に導くガイド部材57、58が設けられている。
【0052】
ガイド部材57、58の下側には、折り曲げ部50から落下した冊子Bを筐体31外に排出するための排出部59が設けられている。排出部59は、折り曲げ部50から落下した冊子Bを受け取り、冊子Bを左側へ搬送して下方に落下させる搬送コンベア60を備えている。また、排出部59は、搬送コンベア60の下側に設けられた排出コンベア61を備えている。排出コンベア61は、搬送コンベア60から落下した冊子Bを受け取り、冊子Bを右側へ搬送して筐体31外に送り出す装置である。排出コンベア61の下流側には、排出コンベア61から送り出された冊子Bを受け取る受取台62が設けられている。
【0053】
製本装置3は、以上説明した製本装置3の各部の動作を制御して製本処理を実行させる制御手段として、製本制御部63を備えている。すなわち、製本制御部63は、前述したようにクランパ41A,41Bによる用紙束PSの保持や、接着剤Gの塗布時における塗布ローラ47の回転量、さらに用紙束PSの背面PSaと塗布ローラ47の位置関係を制御することにより、用紙束の背面に接着剤Gを塗布する塗布動作を制御するとともに、これらを含めた本装置による製本処理を全体として統括的に制御する手段である。製本制御部63はCPU、RAM、ROM等を備えて構成される。
【0054】
次に、以上説明した製本システム1の製本装置3において、用紙束PSの背面PSaに塗布ローラ47で接着剤Gを塗布する際の制御手法を図4図7を参照して説明する。
本実施形態の製本装置3では、接着剤Gを塗布した用紙束PSを表紙用紙で包んで製本を行なう(くるみ製本)。このように用紙束PSを表紙用紙で包んで接着剤Gで一体化するためには、用紙束PSの背面PSaだけでなく、用紙束PSの一対の側面(すなわち表面及び裏面)のうち、背面PSaに近接した縁辺の部分にも接着剤Gを塗布しておく必要がある。ここで、以下の説明においては、用紙束PSの背面PSaに塗布する接着剤Gを背糊とも称し、また側面の前記縁辺の部分に塗布する接着剤Gを脇糊とも称する。さらに、図中、用紙束PSの左側面の縁辺に塗布する脇糊を左脇糊とも称し、用紙束PSの右側面の縁辺に塗布する脇糊を右脇糊とも称する。
【0055】
まず、ユーザーは、印刷装置2の操作入力部19に設けたフォーム情報入力キーの操作により、印刷情報と製本情報を入力する。印刷情報は、冊子の各頁に形成される画像のデータ等を含んでおり、これらのデータは図示しない読み取り装置によって読み取らせて入力することができる。また製本情報は、少なくとも、本文用紙P2のサイズ、冊子の頁数、冊子の製本部数等、冊子の本文用紙P2及び表紙用紙P1に関する情報を含んでいる。なお、これら印刷情報及び製本情報は、印刷装置2の外部のPC(パーソナルコンピュータ)から受信することとしてもよい。
【0056】
ユーザーが、これらの必要な情報を操作入力部19の操作によって入力した後、操作入力部19の図示しないスタートボタンを押すと、製本システム1の印刷動作及び製本動作が開始される。以下の説明では、印刷装置2が必要な印刷を行い、印刷済みの表紙用紙P1及び本文用紙P2を製本装置3に送り込んだ後で、製本装置3において行なわれる製本動作中、用紙束PSの背面PSa及び前記縁辺に塗布ローラ47が接着剤Gを塗布する動作、すなわち背糊と左右の脇糊を塗布する動作を中心に説明する。
【0057】
製本制御部63は、クランパ開閉モータMCを駆動してクランパ41A,41Bを閉止方向に駆動し、整合部33から受け取った用紙束PSをクランパ41A,41Bで保持する。厚さセンサ71はクランパ41A,41Bの間隔(すなわち用紙束PSの厚さ)を検知して厚さ信号を製本制御部63に送る。製本制御部63は、厚さセンサ71から送られる厚さ信号を受けてクランパ41A,41Bが保持している本文用紙束の厚さを知得し、知得した厚さの用紙束PSに必要な量の接着剤Gを背面PSaに塗布できるように、塗布工程における塗布ローラ駆動モータMRの回転量(回転角度)を制御する。さらに製本制御部63は、与えられたプログラムに従い、知得した用紙束PSの厚さに応じてクランパ横移動モータMH1と、クランパ前後移動モータMH2と、クランパ縦移動モータMVを適宜に制御し、以下に示すように用紙束PSを塗布ローラ47に対して位置決めして糊の塗布を行なう。すなわち、製本制御部63に制御された塗布ローラ47は、2箇所の縁辺にそれぞれ脇糊を塗布した後、厚さセンサ71によって知得された用紙束PSの厚さ情報に応じて、適宜に設定した背面PSa上の2箇所の位置に塗布ローラ47を接触させて適当な時間(又は角度)だけ所定方向に回転し、各位置で背糊の塗布を行なう。
【0058】
(1) 第1工程(図4(1)、左脇糊塗布)
用紙束PSの左側面に一致する鉛直面が、塗布ローラ47の回転軸48の中心を通る鉛直面VFと一致するように、用紙束PSの位置を設定する。この状態では、用紙束PSの左側面の下縁が、塗布ローラ47の頂部の母線に概ね一致した状態となる。この状態で塗布ローラ47を順方向Fに回転させ、用紙束PSの左側面の縁辺に左脇糊Gを塗布する。脇糊Gの塗布量は背糊Gに比べて少量でよいため、図4(1)の状態における塗布ローラ47の回転量(回転角度)は比較的小さくてよい。
【0059】
(2) 第2工程(図4(2)、左へ移動)
第1工程が終了したら、塗布ローラ47の回転を停止させ、用紙束PSを塗布ローラ47に接触したままの状態で矢印Cに示すように左方に移動させていく。塗布ローラ47は、用紙束PSの移動に連れ廻りして逆方向Rに回転する。
【0060】
(3) 第3工程(図4(3)、右脇糊塗布)
第2工程の結果、用紙束PSは、その右側面が,塗布ローラ47の回転軸48の中心を通る鉛直面VFと一致する位置に設定される。この状態では、用紙束PSの右側面の下縁が、塗布ローラ47の頂部の母線に概ね一致した状態となる。この状態で塗布ローラ47を逆方向Rに回転させ、用紙束PSの左側面の縁辺に左脇糊Gを塗布する。塗布ローラ47の回転は逆方向Rであるから、糊切りブレード70は機能せず、塗布ローラ47の周面に付着している糊Gの厚さを所定の値にすることはできないが、前述した通り、脇糊Gの塗布量はごく少量でよいため、塗布ローラ47の回転方向が逆方向Rであっても、図4(3)の状態を維持しながら適当な回転角度だけ塗布ローラ47を回転させることにより、塗布ローラ47の回転方向が順方向Fであった左脇糊塗布の工程(図4(1))と同様、適当量の右脇糊Gを塗布することができる。
【0061】
(4) 第4工程(図4(4)、右へ移動)
第3工程が終了したら、塗布ローラ47の回転を停止させ、用紙束PSを塗布ローラ47に接触したままの状態で矢印Dに示すように右方に移動させていく。塗布ローラ47は、用紙束PSの移動に連れ廻りして順方向Fに回転する。
【0062】
(5) 第5工程(図4(5)、1回目の背糊塗布)
第4工程の結果、用紙束PSは、その厚さ方向(図中左右方向)に関する背面PSaの中央位置(これを第1位置P1とする)に、塗布ローラ47の頂部の母線が概ね一致するような位置に設定される。この状態で塗布ローラ47を順方向Fに所定の回転角度だけ回転させる。回転する塗布ローラ47の周面には糊切りブレード70の作用によって所定の厚さの糊Gの層が形成されており、用紙束PSの背面PSaと、厚さ方向の中央位置(第1位置P1)に接する塗布ローラ47との隙間に、所定量の糊Gが送り込まれる。
【0063】
図5は、第5工程における用紙束PSと塗布ローラ47の拡大図であり、用紙束PSの厚さを30mmとした一具体例を示している。塗布ローラ47が接触している背面PSaの第1位置P1は、左右の側面からそれぞれ15mmの中央位置である。塗布ローラ47の回転量(塗布ローラ47を中心角度で何度回転させるか)は、塗布ローラ47の外周面に付着する糊Gの厚さと、背面PSaに塗布しようとする糊Gの量に応じて適宜設定するものとする。
【0064】
(6) 第6工程(図4(6)、左へ移動)
第5工程が終了したら、塗布ローラ47の回転を停止させ、用紙束PSを塗布ローラ47に接触したままの状態で矢印Eに示すように左方に移動させていく。塗布ローラ47は、用紙束PSの移動に連れ廻りして逆方向Rに回転する。
【0065】
(7) 第7工程(図4(7)、2回目の背糊塗布)
第6工程の結果、用紙束PSは、第1位置P1と右側面との間に設定された第2位置P2に、塗布ローラ47の回転軸48の中心を通る鉛直面VFが一致する位置に設定される。この状態で塗布ローラ47を順方向Fに回転させる。回転する塗布ローラ47の周面には糊切りブレード70の作用によって所定の厚さの糊Gの層が形成されており、用紙束PSの背面PSaと、背面PSaの第2位置P2に接する塗布ローラ47との隙間に、所定量の糊Gが送り込まれる。
【0066】
図6は、第7工程における用紙束PSと塗布ローラ47の拡大図であり、用紙束PSの厚さを30mmとした一具体例における図5の後の工程を示している。この具体例では、第2位置P2は、第1位置P1における塗布ローラ47の移動方向について先方にある用紙束PSの右側面と、厚さ方向中央である前記第1位置P1との間に設定されている。さらに具体的には、この第2位置P2は、厚さ方向について右側面から第1位置P1に向けて3mmの位置である。塗布ローラ47の回転量(塗布ローラ47を中心角度で何度回転させるか)は、塗布ローラ47の外周面に付着する糊Gの厚さと、背面PSaに塗布しようとする糊Gの量に応じて適宜設定するものとする。
【0067】
(8) 第8工程(図4(8)、糊付け終了)
第7工程の終了後、紙束PSを矢印Hに示すように垂直上方に移動させて塗布ローラ47から離す。これで糊塗布工程が終了する。
【0068】
図7は、糊塗布工程が終了した後の用紙束PSの拡大図であり、用紙束PSの厚さを30mmとした一具体例における図5及び図6の工程による糊塗布結果を示している。
図7に示すように、以上の糊塗布工程によれば、用紙束PSには左右の脇糊Gが適当な量だけ塗布されるとともに、その背面PSaにも適量の背糊Gがくるみ製本時に支障の生じない程度の均一性で塗布されている。図7によれば、第5工程(図4(5)及び図5)で塗布した1回目の背糊Gと、第7工程(図4(7)及び図6)で塗布した2回目の背糊Gは、互いに一部が混合して背面PSa上に層を構成しており、この層は第1位置P1を挟んだ厚さ方向の両側にそれぞれ緩い山状の部分を有している。すなわち、背面PSaに塗布された糊Gは完全な平坦面とはなっていない。しかしながら、この程度の塗布状態であれば、くるみ製本において表紙用紙を背面PSaに押し付けると、背面PSaの糊は押し広げられて概ね均一な厚さになり、表紙用紙と背面PSaを確実に接着することができる。
【0069】
背面PSaに塗布ローラ47で背糊Gを2回塗布した場合、その背面PSaに糊Gの山が2つでき、これら2つの山と、2つの山の間にある谷との高低差が大きいと、2つの糊Gの山が重力で垂れ下がって落下してしまい、背面PSaに塗布する糊量が不足することが考えられるが、この塗布工程によれば山と谷の高低差が小さいため、そのような恐れはない。また、前述のような極端な糊の山が2つできた場合、谷の部分では糊量が少ないため、くるみ製本において表紙用紙を背面PSaに接着した場合に、当該谷の部分で糊量が不足して接着が不十分となることが考えられるが、この塗布工程によれば谷の部分にも十分な糊量が確保されるため、そのような恐れはない。
【0070】
図8は、本発明の実施形態において本文用紙束PSの背面PSa等に接着剤Gが最も適切に塗布された状態を示す斜視図であり、図9は同状態を示す背面PSa付近の拡大正面図である。このように、用紙束PSの背面PSaの厚さに対応して脇糊G及び背糊Gの塗布量を適切に定め、また脇糊Gを塗布した後で、背面PSaに対する背糊Gの塗布位置を適切に定めて第1位置P1及び第2位置P2の順で塗布ローラ47を順方向Fに回転させて塗布を行なえば、これらの図に示すように、左右の脇糊Gの量を一定にするとともに、背糊Gも脇糊Gとほぼ均一な厚さで塗布することが可能である。
【0071】
次に、本発明の実施形態において、くるみ製本を含む無線綴じ製本において、用紙束の背面に塗布ローラで適量の背糊を均一に塗布するための条件等について説明する。
用紙束の背面の背糊を、完全には平坦でなくとも表紙用紙の接着に支障がない程度に均一に塗布するためには、本願発明者が実験によって知得した次に説明する知見が有用である。本実施形態において図4を参照して説明し、さらに図5図7で具体的数値例を挙げて説明した塗布手法は、この知見に基づく具体例である。この知見によれば、まず、背面PSaに対する糊Gの塗布量は用紙束PSの厚さに応じて設定する必要があり、次に糊Gを背面PSaに塗布する工程を2回に分け、合計して必要量の糊Gを背面PSaの2つの位置に分けて塗布する必要がある。
【0072】
まず、背面PSaに塗布すべき糊Gの量について説明する。背面PSaに塗布すべき糊Gは用紙束PSの厚さに比例しており、用紙束PSが厚いほど多くの糊量が必要になる。実施形態の説明で述べたように、糊の塗布量は、塗布ローラを背面PSaに接触させながら回転させた際の回転角度に比例する。
【0073】
次に、用紙束PSの厚さが与えられて、その背面PSaに対する糊の塗布量が決まった場合において、その量の糊Gを背面PSaに塗布するのに最も適した2つの位置と、塗布ローラ47の回転方向をどのように設定するかについて説明する。2回の塗布の場合、1回目の背糊Gの塗布は、背面PSaの厚さ方向の中央領域内にある第1位置P1に塗布ローラ47を接触させて順方向Fの回転で行う。2回目の背糊Gの塗布は、第1位置P1における塗布ローラ47の移動方向について先方にある用紙束PSの一側面(図示例では右側面)と第1位置P1との間に第2位置P2を設定し、この第2位置P2に塗布ローラ47を接触させて順方向Fの回転で行う。
【0074】
これは、背面PSaの中央位置に近い場所(第1位置P1)に塗布ローラ47を接触させて順方向Fの回転で糊Gを塗布することにより、中央位置よりも塗布ローラ47の回転方向の後方側に糊Gを供給することができ、その後、この中央位置よりも塗布ローラ47の回転方向の先方側である第2位置P2に塗布ローラ47を移動して同じく順方向Fの回転で糊Gを供給すれば、1回目に塗布した糊Gを背面PSaから除去するような作用を与えることなく、中央位置よりも塗布ローラ47の回転方向の先方側に残りの必要量の糊Gを供給することができるからである。
【0075】
このように、塗布ローラ47による糊Gの2つの塗布位置を、背面PSaの略中央部分を境にして一方の側面側と、他方の側面側とに分けることとし、さらに前述したように各位置における塗布ローラ47の回転角度を全体として用紙束PSの厚さに応じた糊量が供給できるように定めておけば、背面PSaの2箇所に適当な間隔かつ量で糊Gを塗布することができ、くるみ製本を行なう場合に支障が生じない程度に均一かつ適量の糊塗布を実現することができる。
【0076】
本実施形態において図5図7を参照して説明した具体例では、用紙束PSの厚さが30mmであったが、厚さが20mm以上、40mm未満程度の用紙束PSであれば、塗布ローラ47の第1位置P1を厚さ方向の中央とし、第2位置P2を図中右側面から3mm又はこのごく近傍の位置とすれば、好適な塗布を行なうことができる。
【0077】
図5図7に示したように、厚さ30mmの例では、第2位置P2は右側面からは3mmの位置であり、第1位置P1(中央位置)からは12mmの位置にあった。これに対し、厚さ20mmの場合には、第2位置P2は右側面から3mmの位置である点において厚さ30mmの場合と同様であるが、厚さが10mm減ったことにより、第1位置P1(中央位置)からの距離は7mmとなる。このような配置によれば、用紙束PSの厚さが20mmの場合においても、30mmの場合と同様の好結果を得ることができる。このように、用紙束PSの厚さが20mm以上、40mm未満までは同様の配置で好結果を得ることができる。
【0078】
なお、第1位置P1はなるべく背面PSaの厚さ方向の中央に近い位置とするのが好ましいが、背面PSaの厚さ方向に設定した中央領域内であればよい。本願発明者が実験から得た知見によれば、糊塗布について上記のような好結果を得るためには、第1位置P1を設定する中央領域は、背面PSaの厚さ方向の中央位置を含む背面PSaの厚さの20%以内の範囲であることが好ましい。
【0079】
以上説明した例では、用紙束PSの厚さは40mm未満を限度とし、塗布ローラ47が用紙束PSの背面PSaに接触する箇所数は2箇所としていた。しかし、用紙束PSの厚さが40mm以上になると、必要な糊Gの量と塗布面積が増大することから、糊Gを塗布するために塗布ローラ47を用紙束PSの背面PSaに接触させる箇所は3箇所以上とする必要がある。このような場合、例えば用紙束PSの厚さが40mmの場合には、図5図7を援用して説明すると、同図の背面PSaにおいて、右側面から3mmの位置を3回目に塗布する第3位置P3として設定した場合、この第3位置と左側面との間を2つの分割点で3分割し(間隔は約12.3mmになる)、左側面に近い分割点から順に、1回目に糊を塗布する第1位置P1、2回目に糊を塗布する第2位置P2とする。各位置で塗布ローラ46を順方向Fに回転させる回転量(回転角度)は、用紙束PSの厚さである40mmに必要な糊量が合計して得られるように均等に設定するのが好ましい。このようにすれば、厚さが20mm以上、40mm未満の場合と同様に均一な糊層を背面上に作ることができる。
なお、厚さが20mm未満の薄い用紙束の場合は、厚さが20mm以上、40mm未満程度の場合と同様の手法により、2回の塗布でも対応できるが、第2位置に相当する1箇所だけでの塗布で好適に塗布することもできる。
【0080】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、用紙束PSの背面PSa上の中央領域にある第1位置P1に塗布ローラ47を接触させ、順方向Fに回転させて背糊Gを塗布し、次に塗布した背糊Gを剥ぎ取らない方向に移動して第2位置P2で塗布ローラ47を順方向Fに回転させて2回目の背糊Gを塗布し、全体としては用紙束PSの厚さに対応した必要量の背糊Gを背面PSaに塗布することができる。その結果、背糊Gには、垂れ落ちて量が不足するような厚い部分や、接着が不十分となるような不均一な塗布状態の部分ができることはなく、多用の凹凸があっても製本時には背面PSaに塗布された接着剤Gの凹凸が均一化されて適正な厚さの平坦な接着剤Gの層となるため、出来上がった本には背割れや中抜け等の不具合が起こりにくい。
【0081】
また、本発明の実施形態によれば、左右の脇糊Gを塗布した後で、上述した背糊Gの塗布を行なう。これとは逆に、用紙束PSの背面PSaに接着剤Gを塗布した後に、用紙束PSの側面に接着剤Gを塗布する場合には、塗布ローラ47の回転方向によっては、背面PSaに付着した接着剤Gが剥ぎ取られ、用紙束PSの側面に接着剤Gを塗布しようとしても塗布ローラ47の周面に接着剤Gが付着していないために塗布できない場合も想定できるが、本発明の実施形態によれば、そのような不都合はなく、用紙束PSを背面PSa側から表紙用紙で包みこむくるみ製本を行なうために必要な接着剤Gの塗布を確実に行なうことができる。
【0082】
また、以上説明した実施形態では、背面PSaに塗布する糊量を用紙束PSの厚さに応じて決定するため、用紙束PSの厚さを検知する厚さセンサ71をクランパ41A,41Bに設けていた。しかしながら、用紙束PSの厚さは、入力する製本データに厚さに関する情報が含まれていれば、これを用いてもよいし、含まれていなければ、入力する製本データの頁数や使用する用紙の紙質等から厚さを算出して使用してもよい。
【0083】
さらに、以上説明した実施形態では、用紙束PSの背面PSaに塗布ローラ47を位置決めする際、塗布ローラ47は位置が固定されており、用紙束PSを掴んだクランパ41A,41Bを移動させていた。しかしながら、用紙束PSを掴んだクランパ41A,41Bの位置を固定し、塗布ローラ47を移動させて同様の効果を得るようにすることもできる。
【符号の説明】
【0084】
1…製本システム
2…印刷装置
3…製本装置
39…接着部
40…接着剤塗布部
41A,41B…保持手段としてのクランパ
46…接着剤収容部
47…接着剤の塗布手段である塗布ローラ
G…ホットメルト接着剤、接着剤、糊、背糊、脇糊
P1…表紙用紙
P2…本文用紙
PS…用紙束(本文用紙束)
PSa…背面
PSb…側面
MH1…移動手段としてのクランパ横移動モータ
MH2…移動手段としてのクランパ前後移動モータ
MV…移動手段としてのクランパ縦移動モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10