(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の一実施の形態に係る車両制御装置を示す概略図を示している。
【0019】
図1に示すように、車両としてのハイブリッド車両10は、駆動系を形成する車両駆動装置20と、制御系を形成する車両制御装置50とを備えている。車両駆動装置20は、駆動源としてのエンジン21および電動モータ22を有している。また、車両駆動装置20には無段変速機23が設けられており、無段変速機23にはプライマリプーリ24およびセカンダリプーリ25が設けられている。
【0020】
プライマリプーリ24の一方側(図中左側)には、トルクコンバータ26を介してエンジン21が連結され、プライマリプーリ24の他方側(図中右側)には、電動モータ22が連結されている。また、セカンダリプーリ25には、ヒューズクラッチ27を介して駆動輪出力軸28が連結されている。この駆動輪出力軸28には、ディファレンシャル機構29および一対のアクスル軸30を介して一対の駆動輪31が連結されている。
【0021】
また、エンジン21のクランク軸32には、駆動ベルト33を介してモータジェネレータ34が連結されている。モータジェネレータ34は、発電機および電動機として機能する所謂ISG(Integrated Starter Generator)であり、モータジェネレータ34を用いてクランク軸32を始動回転させることが可能となっている。
【0022】
トルクコンバータ26とプライマリプーリ24との間には、解放状態と締結状態とに切り換えられる入力クラッチ35が設けられている。入力クラッチ35を解放状態に切り換えることにより、プライマリプーリ24とエンジン21とを切り離すことが可能となる。これにより、走行モードを「モータ走行モード」に設定することができ、エンジン21を停止させて電動モータ22の動力のみを各駆動輪31に伝達することが可能となる。
【0023】
一方、入力クラッチ35を締結状態に切り換えることにより、プライマリプーリ24とエンジン21とを接続することが可能となる。これにより、走行モードを「パラレル走行モード」に設定することができ、電動モータ22およびエンジン21の動力を各駆動輪31に伝達することが可能となる。
【0024】
電動モータ22と各駆動輪31との間に設けられる無段変速機23は、電動モータ22のロータ軸36に連結されるプライマリ軸37と、これに平行となるセカンダリ軸38とを有している。プライマリ軸37にはプライマリプーリ24が設けられており、プライマリプーリ24の背面側にはプライマリ室39が区画されている。また、セカンダリ軸38にはセカンダリプーリ25が設けられており、セカンダリプーリ25の背面側にはセカンダリ室40が区画されている。さらに、プライマリプーリ24およびセカンダリプーリ25には駆動チェーン41が巻き掛けられている。
【0025】
そして、プライマリ室39に供給されるプライマリ圧とセカンダリ室40に供給されるセカンダリ圧とを調整することにより、プーリ溝幅を変化させて駆動チェーン41の巻き掛け径を変化させることが可能となる。これにより、プライマリ軸37からセカンダリ軸38に対する無段変速が可能となる。なお、無段変速機23と各駆動輪31との間に設けたヒューズクラッチ27は、設定トルクを超えるとスリップ状態となる摩擦クラッチであり、無段変速機23を保護するためのトルクリミッタとして機能している。
【0026】
ここで、無段変速機23,トルクコンバータ26,ヒューズクラッチ27,入力クラッチ35等の油圧系は、本発明における動力伝達機構を構成している。これらの動力伝達機構は、図示しないオイルポンプおよび複数の電磁バルブや油路を備えたバルブ装置により制御されるようになっている。
【0027】
電動モータ22には、3本の電源線42を介して三相出力型のインバータ43が接続されている。また、インバータ43には、高電圧バッテリ44が接続されている。そして、インバータ43の内部に設けられた各スイッチング素子(図示せず)を開閉制御することにより、電動モータ22の駆動状態(出力トルクや回転数等)が制御されるようになっている。
【0028】
図1に示すように、車両制御装置50は、ハイブリッド車両コントロールユニット(HEV-CU)51を備えている。このHEV-CU51は、本発明におけるコントローラを構成しており、ハイブリッド車両10を統括的に制御するようになっている。
【0029】
車両制御装置50は、HEV-CU51に加えて、エンジンコントロールユニット(EG-CU)52,トランスミッションコントロールユニット(TM-CU)53およびモータコントロールユニット(M-CU)54を備えている。これらの各コントローラユニット51〜54は、通信線55を介して接続されており、互いにCAN通信(Controller Area Network)により車両状態信号等の種々の情報を送受信できるようになっている。
【0030】
なお、通信線55には、他の車載コントロールユニット(図示せず)も電気的に接続されており、他の車載コントロールユニットとしては、高電圧バッテリ44の充電状態等を監視するバッテリコントロールユニット(BT-CU)や、車内のエアコン装置(図示せず)を制御するエアコンコントロールユニット(A/CCU)等が挙げられる。ここで、上述した各コントロールユニットは、CPU、ROM、RAM等を備えたマイクロコンピュータを主体に構成されている。
【0031】
EG-CU52の入力側には、エンジン回転センサ56,アクセル開度センサ57,水温センサ58,スロットル開度センサ59が接続されている。エンジン回転センサ56は、エンジン21の回転数、つまりクランク軸32の回転数を検出して、エンジン回転数Ne[rpm]を出力する。アクセル開度センサ57は、運転者のアクセルペダル(図示せず)の踏込み量であるアクセル開度を検出し、アクセル開度Ao[%]を出力する。水温センサ58は、エンジン温度の代表である冷却水温度を検出し、水温Wt[℃]を出力する。スロットル開度センサ59は、エンジン21に設けられたスロットルバルブ21aのスロットル開度を検出し、スロットル開度To[%]を出力する。
【0032】
また、EG-CU52の出力側には、燃料噴射装置のインジェクタ(図示せず),点火装置のイグナイタ(図示せず),電子制御スロットルのスロットルバルブ21aを駆動するスロットルモータ等、エンジン21を制御する種々の電装部品(アクチュエータ等)が接続されている。
【0033】
TM-CU53の入力側には、ブレーキスイッチ60,タービン回転センサ61,車速センサ62が接続されている。ブレーキスイッチ60は、運転者のブレーキペダル(図示せず)の踏込/開放を検出してON/OFF信号を出力する。タービン回転センサ61は、トルクコンバータ26を形成するタービンランナ26aの回転数を検出し、タービン回転数Tn[rpm]を出力する。車速センサ62は、各アクスル軸30の回転数を検出し、車速Vs[km/h]を出力する。
【0034】
また、TM-CU53の出力側には、無段変速機23,トルクコンバータ26,ヒューズクラッチ27,入力クラッチ35等、つまりトランスミッション装置に対する油液の給排を制御するバルブ装置の各電磁バルブ(図示せず)が接続されている。
【0035】
M-CU54には、通信線55を介して種々の車両状態信号(アクセル開度Aoやブレーキスイッチ60のON/OFF信号等)が入力されるようになっている。また、M-CU54の出力側には、電動モータ22を駆動するインバータ43が接続されている。
【0036】
HEV-CU51は、通信線55を介して得たアクセル開度Ao等に基づいて、エンジン21の目標出力トルクを演算する。そして、EG-CU52に、エンジン21の実際の出力トルク(実出力トルク)を目標出力トルクに近付けるように、つまり収束させるようにスロットルバルブ21aの開度(スロットル開度)を制御させる。また、これと同時に、周知の燃料制御,点火時期制御等を実行して、EG-CU52に制御させることにより、エンジン21の全体が制御されるようになっている。
【0037】
また、HEV-CU51は、セレクトレバー(図示せず)がDレンジ(ドライブ状態)にセットされている場合、通信線55を介して得たアクセル開度Aoと車速Vsとに基づいて、ROM等に予め記憶されている変速パターンを参照して変速タイミングを判定する。そして、TM-CU53に、バルブ装置の各電磁バルブを制御させて、これによりトランスミッション装置の変速比等が制御される。また、これと同時に、トルクコンバータ26のロックアップやスリップロックアップ等のトルクコンバータ制御を、TM-CU53に実行させる。
【0038】
HEV-CU51は、さらに、通信線55を介して得た種々の車両状態信号に基づいて、電動モータ22の出力トルクや回転数等を演算する。そして、M-CU54に、インバータ43の内部に設けられた各スイッチング素子を開閉制御させることにより、電動モータ22の駆動状態が制御されるようになっている。
【0039】
ところで、ハイブリッド車両10をストール発進させるためにアクセルペダルを大きく踏み込むと、トルクコンバータ26のトルク増幅率が過大となり、無段変速機23には大きな負荷が掛かることになる。そのため、HEV-CU51は、ストール発進を検出した場合、まず、無段変速機23が許容し得るプレエンジントルク上限値PRETRQLIMを演算する。そして、HEV-CU51は、プレエンジントルク上限値PRETRQLIMを初期値としてエンジントルク上限値TRQLIMを演算し、当該エンジントルク上限値TRQLIMをEG-CU52へ送信するようになっている(
図3のフローチャートを参照)。
【0040】
EG-CU52は、受信したエンジントルク上限値TRQLIMを目標出力トルクTRQTとして設定し、実際のエンジン21の実出力トルクTRQが目標出力トルクTRQTとなるようにスロットルバルブ21aの開度を制御する。これにより、ストール発進時において無段変速機23に過大な負荷が掛かることが防止され、ハイブリッド車両10の発進性向上と無段変速機23の保護とを両立させることができる。
【0041】
しかしながら上述したように、高地においては空気密度が低いため、実出力トルクTRQが目標出力トルクTRQTに到達しない場合が生じ得る。その結果、通常の空気密度(標準大気圧)の低地において可能なストール発進が、高地ではトルク不足により不可能となり得る。そのため、本実施の形態においては、HEV-CU51により、
図2のフローチャートに示すような高地ストール発進制御が実行されるようになっている。
【0042】
以下、車両制御装置50の動作である高地ストール発進制御の内容について、図面を用いて詳細に説明する。
【0043】
図2は高地ストール発進制御の制御内容(前段部分)を示すフローチャートを、
図3は高地ストール発進制御の制御内容(後段部分)を示すフローチャートを、
図4は高地ストール発進制御の制御状態を説明するタイミングチャートをそれぞれ示している。
【0044】
まず、
図2に示すように、ステップS1において、運転者によりイグニッションスイッチ(図示せず)がON操作されたことをトリガとして、車両制御装置50が始動する。
【0045】
続くステップS2では、車速Vs,アクセル開度Ao,エンジン回転数Ne,ブレーキスイッチ60からのON/OFF信号等の車両状態信号を読み込み、高地ストール発進フラグSTLSTを設定する。ここで、ステップS2で設定される高地ストール発進フラグSTLSTは、以下の条件(1)〜(7)が揃うことで立ち上がる(STLST=1とされる)。
(1)車速Vsが停止判定車速VsSL(≒0)未満(Vs<VsSL)である。
(2)アクセル開度Aoが高負荷発進判定開度AoSL以上(Ao≧AoSL)である。
(3)エンジン回転数Neがストール発進判定回転数STLSL以上(Ne≧STLSL)である。
(4)プレエンジントルク上限値PRETRQLIMが、想定するエンジントルク上限値TRQLIM以下(PRETRQLIM≦TRQLIM)である。
(5)想定するエンジントルク上限値TRQLIMが、目標出力トルクTRQTと略同一(TRQLIM≒TRQT)である。
(6)例えば、高油温時制御やフェイルセーフ制御等の他の制御が実行されていない。
(7)ブレーキスイッチ60からOFF信号が出力されている(ブレーキ開放)。
【0046】
ここで、高負荷発進判定開度AoSLおよびストール発進判定回転数STLSLは、通常の空気密度の低地等でのアクセルペダル操作であれば、十分にストール発進が可能な上限値であり、これらの値は、実験等に基づいて予め設定されている。
【0047】
ステップS3では、ステップS2において、高地ストール発進フラグSTLSTが立ち上げられたか否か、つまりSTLST=1であるか否かを判定する。ステップS2において、上述の条件(1)〜(7)の全てを満足しているとされた場合には、STLST=1であるのでステップS3ではyes判定とされて、ステップS4に進む。
【0048】
一方、これとは逆に、ステップS2においてSTLST=0とされた場合には、ステップS3ではno判定とされて、ステップS5に進む。そして、ステップS5では、プレエンジントルク上限加算値TRQNEUPをクリア(TRQNEUP=0)するとともに、制御状態CONTSITを高地ストール発進制御ではない制御外(CONTSIT=NON)として、ステップS6に進む。
【0049】
ステップS4では、高地ストール発進制御用の目標エンジン回転数STLEGを設定する。この目標エンジン回転数STLEGは、高地ストール発進制御時において、エンジン21に目標出力トルクTRQTを出力させることができるエンジン回転数の目標値(目標回転数)であって、トルクコンバータ26や無段変速機23等の駆動系(動力伝達機構)が許容し得る回転数(許容回転数)よりも低く設定され、しかもその中で最も大きなエンジン回転数に設定されている。ここで、目標エンジン回転数STLEGは、トルクコンバータ26のストールトルク比、および無段変速機23内の油液の温度等に基づいて設定されている。
【0050】
ステップS4に続くステップS7では、目標エンジン回転数STLEG(目標回転数)とエンジン回転数Ne(実回転数)との差分の絶対値と、微小判定値ΔNe1とを比較して、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数STLEGに近付いて略到達したか否か(差が小さくなったか否か)を判定する。
【0051】
そして、両エンジン回転数STLEG,Neの差分の絶対値が、微小判定値ΔNe1以下、つまり「0」に近い値になった場合には、運転者のアクセルペダルの踏み込み操作でエンジン回転数Neが上昇されて、目標エンジン回転数STLEGに略到達したと判定(yes判定)し、ステップS8へ進む。
【0052】
ステップS8では、今回のプレエンジントルク上限加算値TRQNEUPを、前回の制御周期で得られたプレエンジントルク上限加算値TRQNEUP(n-1)に、両エンジン回転数STLEG,Neの差分から得られるFB項を加算して算出し、制御状態CONTSITを、高地ストール発進制御用のフィードバック制御(FB制御)に切り換えられるようにして、ステップS6に進む。
【0053】
ステップS7でno判定の場合、つまり、両エンジン回転数STLEG,Neの差分の絶対値が、微小判定値ΔNe1よりも大きいと判定された場合には、ステップS9へ進む。ステップS9では、ステップS2で読み込んだスロットル開度Toが、比較的大きい値を示すスロットル開度判定閾値THJD以上の状態が、所定時間THTM継続しているか否かを判定する。ここで、所定時間THTMは、駆動系に対する高負荷状態の時間を短時間として駆動系をより確実に保護するためにも、例えば、3.0[sec]以内等の短時間に設定するのが望ましい。
【0054】
ステップS9において、スロットル開度Toがスロットル開度判定閾値THJD以上、つまりスロットル開度の大きい状態が所定時間THTM継続された場合(yes判定)には、ステップS8に進む。すなわち、スロットル開度Toの大きい状態が続いてしまうような状態においては、両エンジン回転数STLEG,Neの差分の絶対値が、微小判定値ΔNe1よりも大きい場合であっても、ステップS8に進めるようにして、制御状態CONTSITをフィードバック制御に切り換えられるようにしている。一方、ステップS9においてno判定の場合には、ステップS10に進む。
【0055】
ステップS10では、両エンジン回転数STLEG,Neの差分の絶対値が、判定値ΔNe2(ΔNe1<ΔNe2)以上であるか否かを判定する。ステップS10で、両エンジン回転数STLEG,Neの差分の絶対値が判定値ΔNe2以上であると判定(yes判定)した場合には、未だエンジン回転数Neが目標エンジン回転数STLEGに近付いていないとして、ステップS11に進む。
【0056】
一方、ステップS10で、両エンジン回転数STLEG,Neの差分の絶対値が判定値ΔNe2未満であると判定(no判定)した場合には、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数STLEGに近付いてきたとして、ステップS12に進む。
【0057】
ステップS11では、今回のプレエンジントルク上限加算値TRQNEUPを、前回の制御周期で得られたプレエンジントルク上限加算値TRQNEUP(n-1)に、設定増減値ΔUPを加算することにより得る。また、制御状態CONTSITを、高地ストール発進制御用のフィードフォワード制御(FF制御)に設定して、ステップS6に進む。これにより、ステップS11では、目標エンジン回転数STLEGに対して、エンジン回転数Neが素早く近付けられるようにしている。
【0058】
ステップS12では、今回のプレエンジントルク上限加算値TRQNEUPを、前回の制御周期で得られたプレエンジントルク上限加算値TRQNEUP(n-1)から設定増減値ΔUP減算することにより得る。また、制御状態CONTSITを、高地ストール発進制御用のフィードフォワード制御(FF制御)に設定して、ステップS6に進む。これにより、ステップS12では、目標エンジン回転数STLEGに対して、エンジン回転数Neが徐々に近付けられるようにしている。
【0059】
このように、ステップS11およびステップS12においては、高地ストール発進制御の制御状態CONTSITをFF制御とすることにより、目標エンジン回転数STLEGに対してエンジン回転数Neを素早く近付けつつ、目標エンジン回転数STLEGに対してエンジン回転数Neがオーバーシュート等することなく収束できるようにしている。
【0060】
ステップS6では、ステップS8,ステップS11,ステップS12およびステップS5を経て設定された制御状態CONTSIT、つまりFB制御またはFF制御または制御外(=NON)を、EG-CU52,TM-CU53,M-CU54にそれぞれ送信する。そして、ステップS6において、制御状態CONTSITがFB制御である場合(FB制御に切り換えられた場合)には、M-CU54は電動モータ22を始動させて、電動モータ22のモータトルクMTRQを上昇させる制御を実行し、ひいてはエンジン21の実出力トルクTRQがアシストされるようになる。つまり、ハイブリッド車両10には、「実出力トルクTRQ+モータトルクMTRQ」の合計出力トルクが作用して、スムーズなストール発進を可能としている。
【0061】
ステップS8,ステップS11,ステップS12およびステップS5で得られたプレエンジントルク上限加算値TRQNEUPは、
図3に示すフローチャートのステップS15およびステップS18で読み込まれ、プレエンジントルク上限値PRETRQLIM、あるいはエンジントルク上限初期値TRQLIMINIに加算されてエンジントルク上限値TRQLIMが設定される。
【0062】
ステップS3で高地ストール発進制御であると判定された直後は、目標エンジン回転数STLEGとエンジン回転数Neとの開きが大きいため、エンジントルク上限値TRQLIMは、プレエンジントルク上限加算値TRQNEUPに設定増減値ΔUPを加算した大きな値となり、比較的急勾配の傾斜で増加される。
【0063】
一方、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数STLEGに近付くと、エンジントルク上限値TRQLIMは、プレエンジントルク上限加算値TRQNEUPから設定増減値ΔUPを減算した小さな値となり、比較的緩勾配の傾斜で増加される。
【0064】
すなわち、ステップS3で高地ストール発進制御であると判定されたときから、エンジントルク上限値TRQLIMは、目標エンジン回転数STLEGとエンジン回転数Neとの差分に対応した勾配で上昇される。
【0065】
図3に示すように、ステップS13へ進むと、高地ストール発進制御用のプレエンジントルク上限値PRETRQLIMを設定してステップS14に進む。ステップS14では、今回の高地ストール発進フラグSTLSTの値と、前回の制御周期で得た高地ストール発進フラグSTLST(n-1)の値とを調べ、STST=1,かつSTLST(n-1)=0である場合、つまり高地ストール発進と判定されて最初のルーチンのとき(yes判定)はステップS15に進み、それ以外の状態(no判定)ではステップS17に進む。
【0066】
ステップS15では、プレエンジントルク上限値PRETRQLIMにプレエンジントルク上限加算値TRQNEUPを加算してエンジントルク上限値TRQLIMを求めて(TRQLIM=PRETRQLIM+TRQNEUP)、ステップS16に進む。ステップS16では、エンジントルク上限初期値TRQLIMINIを、今回求めたプレエンジントルク上限値PRETRQLIMに設定して(TRQLIMINI=PRETRQLIM)、ステップS20に進む。
【0067】
一方、ステップS17では、高地ストール発進フラグSTLSTの値のみを参照し、STLST=1である場合、高地ストール発進制御中であると判定(yes判定)し、ステップS18に進む。一方、ステップS17において、SRLST=0である場合、高地ストール発進制御中ではないと判定(no判定)して、ステップS19に進む。
【0068】
ステップS18では、ステップS16で設定されたエンジントルク上限初期値TRQLIMINIに、プレエンジントルク上限加算値TRQNEUPを加算してエンジントルク上限値TRQLIMを設定し(TRQLIM=TRQLIMINI+TRQNEUP)、ステップS20に進む。一方、ステップS19では、高地ストール発進制御中ではないため、プレエンジントルク上限値PRETRQLIMをそのままエンジントルク上限値TRQLIMに設定して(TRQLIM=PRETRQLIM)、ステップS20に進む。
【0069】
その後、ステップS20では、ステップS15,ステップS18あるいはステップS19で設定されたエンジントルク上限値TRQLIMをEG-CU52(
図1参照)へ送信する。次いで、ステップS21に進んでリターン処理が施される。
【0070】
次に、
図4のタイミングチャートに基づいて、上述した高地ストール発進制御の制御内容の一例を説明する。例えば、運転者がブレーキペダルから足を離してアクセルペダルを踏み込み、上述した種々条件(1)〜(7)が満たされると、高地ストール発進フラグSTLSTが立ち上げられて(STLST=1)、高地ストール発進と判定される(
図4の時間t0の時点)。
【0071】
これにより、HEV-CU51による高地ストール発進制御がフィードフォワード制御とされる(CONSIT=FF)。すると、エンジン回転数Neがアイドル回転数IDLから徐々に上昇されるとともに、エンジン21の実出力トルクTRQがアイドルトルクIDTRQから徐々に上昇されていく。
【0072】
このとき、高地ストール発進制御用のプレエンジントルク上限値PRETRQLIMが設定され、この値がエンジントルク上限初期値TRQLIMINIとして設定される。ここで、プレエンジントルク上限値PRETRQLIMは実出力トルクTRQの上限値であり、エンジントルク上限値TRQLIMは、高地ストール発進時におけるトルク不足を補うべく、エンジン回転数Neを上昇させるために設定される見かけ上の値となっている。したがって、実出力トルクTRQは、プレエンジントルク上限値PRETRQLIMを超えることはない。
【0073】
その後、アクセルペダルを踏んでいるにも関わらず、ハイブリッド車両10が発進しないような場合には、運転者は更にアクセルペダルを踏み込んで、その結果、スロットル開度Toが急激に大きくなっていく。すると、スロットル開度Toが、スロットル開度判定閾値THJDに到達して、ひいてはスロットル開度判定閾値THJD以上の大きい状態となる(
図4の時間t1の時点)。
【0074】
スロットル開度Toが、スロットル開度判定閾値THJD以上の大きい状態となり、当該状態が所定時間THTM継続されている間(
図4の時間t1〜t2の間)は、フィードフォワード制御の状態が継続して行われ、高地ストール発進制御用の目標エンジン回転数STLEGとエンジン回転数Neとの差分に応じてプレエンジントルク上限加算値TRQNEUPが設定され、このプレエンジントルク上限加算値TRQNEUPをエンジントルク上限初期値TRQLIMINIに加算して、エンジントルク上限値TRQLIMが設定される。
【0075】
その際、エンジン回転数Neの上昇が初期段階にあり、目標エンジン回転数STLEGとエンジン回転数Neとの差分が判定値ΔNe2以上である場合、プレエンジントルク上限加算値TRQNEUPに設定増減値ΔUPを加算して、新たなプレエンジントルク上限加算値TRQNEUPが設定される。一方、目標エンジン回転数STLEGとエンジン回転数Neとの差分が判定値ΔNe2よりも小さく、微小判定値ΔNe1よりも大きい場合には、プレエンジントルク上限加算値TRQNEUPから設定増減値ΔUPを減算して、新たなプレエンジントルク上限加算値TRQNEUPが設定される。
【0076】
したがって、実出力トルクTRQの上昇が初期段階(
図4の時間t0〜t2の間の前段)では急勾配となり、直ちにトルクアップさせることができる。一方、終期段階では緩勾配あるいは勾配ゼロとなるため(
図4の時間t0〜t2の間の後段)、エンジントルクのオーバーシュート等が防止される。
【0077】
その後、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数STLEGに近付いていき、エンジン回転数Neが略一定となる。また、実出力トルクTRQも略一定の状態となる。この間(
図4の時間t1〜t2の間)においては、ハイブリッド車両10が、未だストール発進されていない状態であって、スロットル開度Toが、スロットル開度判定閾値THJD以上の大きい状態が継続されている状態を示している。
【0078】
その後、スロットル開度Toが、スロットル開度判定閾値THJD以上の大きい状態が所定時間THTM継続されたら、目標エンジン回転数STLEGとエンジン回転数Neとの差分が大きい状態のままで、フィードフォワード制御中であっても、HEV-CU51は、高地ストール発進制御をフィードバック制御(CONSIT=FB)に切り換えさせる(
図4の時間t2の時点)。
【0079】
これにより、M-CU54(
図1参照)は、制御状態CONTSITがFB制御であることを受けて、電動モータ22を始動させ、当該電動モータ22のモータトルクMTRQを上昇させる制御を実行する。したがって、エンジン21の実出力トルクTRQがアシストされて、ハイブリッド車両10の合計出力トルクが「実出力トルクTRQ+モータトルクMTRQ」とされる。よって、ハイブリッド車両10はスムーズにストール発進され、ハイブリッド車両10の良好な発進性が確保される。その後、つまり
図4の時間t2以降は、高地における通常の走行制御が実行される。
【0080】
以上詳述したように、本実施の形態に係る車両制御装置50によれば、HEV-CU51は、フィードフォワード制御によりエンジン21の実出力トルクTRQを立ち上げているときに、スロットル開度Toの大きい状態、つまりスロットル開度判定閾値THJD以上の状態が所定時間THTM継続されるような場合に、エンジン21の目標エンジン回転数STLEGとエンジン21のエンジン回転数Neとの差が大きくても、フィードバック制御に切り換えて電動モータ22を始動させる。
【0081】
これにより、スロットル開度Toに対してエンジン回転数Neが上昇し難い、所謂、高地ストール発進のような場合に、電動モータ22を始動させてハイブリッド車両10の発進を補助することができる。したがって、ドライバビリティ向上と無段変速機23等の保護との両立を図ることが可能となる。
【0082】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態においては、変速機としてチェーンドライブ式の無段変速機23を採用したものを示したが、本発明はこれに限らず、ベルトドライブ式やトラクションドライブ式の無段変速機を採用することもでき、遊星歯車式や平行軸式の自動変速機であっても良い。