【実施例】
【0013】
図1に示すように、内歯車加工機械(例えば、歯車形削盤)1のベッド11上には、コラム(カッタ切り込み手段)12が、水平なX軸方向(切り込み軸方向)に移動可能に支持されている。また、コラム12の前面には、サドル(カッタ送り手段)13が、X軸方向と直交する鉛直なZ軸方向(送り軸方向)に昇降可能に支持されている。更に、サドル13の前面には、旋回ヘッド(旋回手段、軸交差角設定手段)14が、X軸方向に延在するカッタ旋回軸A周りに旋回可能に支持されている。
【0014】
また、旋回ヘッド14の前面には、スライドヘッド(カッタ横移動手段)15が、内歯車加工機械1の横方向(以下、機械横方向と称す)となるY軸方向(横軸方向)に移動可能に支持されている。更に、スライドヘッド15の前部には、カッタヘッド16が、そのスライドヘッド15から半円状に膨出するように形成されている。そして、カッタヘッド16内には、主軸16aが、X軸,Y軸方向と直交するカッタ回転軸B周りに回転可能に支持されており、この主軸16aの先端には、円筒状のピニオンカッタ(歯車状カッタ)17が着脱可能に装着されている。
【0015】
一方、ベッド11上におけるコラム12の正面側には、回転テーブル(ワーク回転手段)18が、Z軸方向に延在するワーク回転軸C周りに回転可能に支持されている。そして、回転テーブル18の上面には、円筒状の取付治具19が取り付けられており、この取付治具19の上端内周面には、ワーク(被加工内歯車)Wが、着脱可能に装着されている。なお、ワークWを取付治具19に装着すると、当該ワークWの中心は、回転テーブル18のワーク回転軸Cと同軸状となる。
【0016】
従って、コラム12及びサドル13を駆動させることにより、ピニオンカッタ17に対して、X軸方向への切り込み及びZ軸方向への送りを与えることができる。また、スライドヘッド15を駆動させることにより、ピニオンカッタ17をY軸方向に横移動させることができる。そして、カッタヘッド16の主軸16aを回転駆動させることにより、ピニオンカッタ17をB軸周りに回転させることができる一方、回転テーブル18を回転駆動させることにより、ワークWをワーク回転軸C周りに回転させることができる。
【0017】
更に、
図1及び
図2に示すように、旋回ヘッド14をカッタ旋回軸A周りに旋回させることにより、主軸16a及びピニオンカッタ17の回転中心となるカッタ回転軸Bの旋回角度を変更することができる。これにより、カッタ回転軸Bとワーク回転軸Cとの間の軸交差角Σが調整可能となっており、この軸交差角Σは、ワークWのねじれ角等に応じて調整されるようになっている。
【0018】
即ち、軸交差角Σは、Y軸及びZ軸を含んだYZ平面(第1平面、垂直面)内において、カッタ回転軸Bとワーク回転軸Cとによって形成される交差角度となっている。よって、歯切り加工時におけるピニオンカッタ17は、ワークWのワーク回転軸Cに対して軸交差角Σで交差するカッタ回転軸B周りに回転する。
【0019】
なお、上述したように、旋回ヘッド14をカッタ旋回軸A周りに旋回可能としているため、その旋回ヘッド14の旋回動作に伴って、主軸16a及びピニオンカッタ17の回転中心となるカッタ回転軸Bだけでなく、その旋回ヘッド14に支持されるスライドヘッド15の移動方向も、旋回する(傾く)ことになる。
【0020】
つまり、カッタ回転軸Bの旋回角度が、どのような角度であっても、ピニオンカッタ17は、機械横方向(スライドヘッド17の幅方向)となるY軸方向に移動することになり、そのカッタ回転軸Bは、常に、X軸,Y軸方向と直交するように配置されている。その中でも、カッタ回転軸Bの旋回角度が0°となる場合には、Y軸方向は、X軸,Z軸方向と直交することになり、カッタ回転軸Bは、Z軸方向に延在することになる(ワーク回転軸Cと平行になる)。
【0021】
ここで、上述したように、ピニオンカッタ17のカッタ回転軸Bは、YZ平面内において、旋回することになるが、内歯車加工機械1における各構成部材の組み付け誤差等の要因から、そのカッタ回転軸Bが、YZ平面と平行にならない場合がある。即ち、カッタ回転軸Bが、YZ平面に対して傾斜(交差)した状態となることがある。このような状態において、ワークWをピニオンカッタ17によって歯切りすると、その加工精度が低下するおそれがある。
【0022】
そこで、本発明に係る内歯車加工機械1においては、歯切り加工に先立って、カッタ回転軸BにおけるYZ平面に対する傾斜角φを検出し、ピニオンカッタ17を、その傾斜角φが打ち消されるような位置に配置する。
【0023】
具体的に、
図3に示すように、内歯車加工機械1は、YZ平面に対するカッタ回転軸Bの傾斜角φを検出する検出機能(検出手段、検出器)を有している。そして、詳細は後述するが、先ず、内歯車加工機械1では、検出した傾斜角φに応じて、ワークWの中心位置(ワーク回転軸C)を座標原点としたオフセット位置Pb(X軸座標:Xb、Y軸座標:Yb)を、X軸及びY軸を含んだXY平面(第2平面、水平面)内において設定する。次いで、ピニオンカッタ17を、そのカッタ回転軸Bがオフセット位置Pbを通るように、XY平面内において水平移動させる。
【0024】
このように、YZ平面に対して傾斜角φで傾斜するカッタ回転軸Bを、その傾斜角φに応じて、XY平面内において平行移動させることにより、そのカッタ回転軸B周りに回転可能となるピニオンカッタ17を、傾斜角φが打ち消された状態にして、ワークWに噛み合わせることができる。
【0025】
次に、内歯車加工機械1の動作について、
図2乃至
図6を用いて説明する。
【0026】
先ず、ピニオンカッタ17をカッタ旋回軸A周りに旋回させて、そのカッタ回転軸Bに対して、軸交差角Σを与える。次いで、
図3に示すように、ピニオンカッタ17を、X軸,Y軸,Z軸方向に移動させ、その傾斜角φが検出可能となる検出可能領域内に配置する。そして、YZ平面に対するカッタ回転軸Bの傾斜角φを検出する。
【0027】
ここで、検出した傾斜角φが0°となる場合には、ピニオンカッタ17のカッタ回転軸Bが、YZ平面と平行になっているため、XY平面内におけるピニオンカッタ17の歯切り開始位置を変更することなく、歯切りを行う。
【0028】
つまり、
図4に示すように、ピニオンカッタ17を、X軸,Y軸,Z軸方向に移動させる。これにより、ピニオンカッタ17は、軸交差角Σが与えられた状態で、ワークWと噛み合うことになる。
【0029】
このとき、ピニオンカッタ17は、そのカッタ回転軸Bが、XY平面内において、ワークWの中心位置(ワーク回転軸C)を座標原点とした基準位置Pa(X軸座標:Xa、Y軸座標:Ya)を通るように配置されている。また、基準位置Paに配置されたピニオンカッタ17におけるワークWとの噛み合い位置17aは、XY平面内において、ワークWの中心位置(ワーク回転軸C)及び基準位置Pa(カッタ回転軸B)を通る直線上(X軸上)に配置されている。
【0030】
次いで、上述した噛み合い状態から、ピニオンカッタ17をカッタ回転軸B周りに回転させると共に、ワークWをワーク回転軸C周りに回転させる。そして、ピニオンカッタ17に対して、X軸方向への切り込みと、Z軸方向への送りとを与える。即ち、ピニオンカッタ17とワークWとを噛み合わせて同期回転させると共に、ピニオンカッタ17を、X軸方向に段階的に切り込ませながら、Z軸方向に往復移動させる。
【0031】
なお、Z軸方向に往復移動するピニオンカッタ17においては、下方に移動するときに、ワークWを歯切りする一方、上方に移動するときに、ワークWからX軸方向に離間して、当該ワークWに対する歯切りを行わないようになっている。
【0032】
これにより、ピニオンカッタ17とワークWとの間に、大きなすべりが発生すことになり、ピニオンカッタ17の刃面(歯面)によって、ワークWに内歯が歯切りされる。
【0033】
一方、検出した傾斜角φが0°を超える場合には、ピニオンカッタ17のカッタ回転軸Bが、YZ平面と平行になっていないため、歯切り加工に先立って、XY平面内におけるピニオンカッタ17の歯切り開始位置を変更してから、歯切りを行う。
【0034】
つまり、
図2及び
図5に示すように、ピニオンカッタ17を、X軸,Y軸,Z軸方向に移動させる。これにより、ピニオンカッタ17は、軸交差角Σが与えられた状態で、ワークWと噛み合うことになる。
【0035】
このとき、ピニオンカッタ17は、そのカッタ回転軸Bが、XY平面内において、ワークWの中心位置(ワーク回転軸C)を座標原点としたオフセット位置Pbを通るように配置されている。また、オフセット位置Pbに配置されたピニオンカッタ17におけるワークWとの噛み合い位置17bは、XY平面内において、ワークWの中心位置(ワーク回転軸C)及びオフセット位置Pb(カッタ回転軸B)を通る直線上に配置されると共に、ピニオンカッタ17の周方向において、噛み合い位置17aからずれた位置となっている。
【0036】
即ち、基準位置Paにおいて傾斜角φで傾斜するカッタ回転軸Bを、XY平面内において、その基準位置Paからオフセット位置Pbに平行移動させると共に、ピニオンカッタ17におけるワークWとの噛み合い位置を、噛み合い位置17aから噛み合い位置17bにずらすことにより、ピニオンカッタ17とワークWとの間におけるXY平面上の噛み合い方向を、ワークWの中心位置及び基準位置Paを通る基準軸方向から、ワークWの中心位置及びオフセット位置Pbを通るオフセット軸方向に変更する。
【0037】
また、
図6に示すように、カッタ回転軸Bをオフセット位置Pbに配置すると共に、ピニオンカッタ17における噛み合い位置を噛み合い位置17bにずらすことにより、その噛み合い位置17bにおいては、その下端側がワークWと噛み合い、その上端側に向かうに従って離間することになる。即ち、ピニオンカッタ17における噛み合い位置17bに、逃げ角θが付与されることになる。
【0038】
次いで、上述した噛み合い状態から、ピニオンカッタ17をカッタ回転軸B周りに回転させると共に、ワークWをワーク回転軸C周りに回転させる。そして、ピニオンカッタ17に対して、X軸方向への切り込みと、Z軸方向への送りとを与える。即ち、ピニオンカッタ17とワークWとを噛み合わせて同期回転させると共に、ピニオンカッタ17を、X軸方向に段階的に切り込ませながら、Z軸方向に往復移動させる。
【0039】
なお、Z軸方向に往復移動するピニオンカッタ17においては、下方に移動するときに、ワークWを歯切りする一方、上方に移動するときに、ワークWからX軸方向に離間して、当該ワークWに対する歯切りを行わないようになっている。
【0040】
これにより、ピニオンカッタ17とワークWとの間に、大きなすべりが発生すことになり、ピニオンカッタ17の刃面(歯面)によって、ワークWに内歯が歯切りされる。
【0041】
従って、歯切り加工に先立って、ピニオンカッタ17を、カッタ回転Bの傾斜角φに応じて、当該カッタ回転軸BがXY平面内において平行移動するように配置して、ピニオンカッタ17におけるワークWとの噛み合い位置を、その周方向にずらすことにより、機械の組み付け誤差等の要因から、カッタ回転軸Bに傾斜角φが生じても、その傾斜角φを既存の構成を用いて打ち消して、高精度な加工を行うことができる。
【0042】
また、カッタ回転軸Bをオフセット位置Pbに配置すると共に、ピニオンカッタ17における噛み合い位置を噛み合い位置17bにずらすことにより、ピニオンカッタ17における噛み合い位置17bに対して逃げ角θを与えることができる。これにより、円筒状のピニオンカッタ17を用いても、逃げ角θを容易に与えることができ、テーパ形状のピニオンカッタを用いる必要がない。