【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、
青色光、紫色光、または紫外光を発する半導体発光素子と該半導体発光素子の光で励起され固有の光を発する蛍光体からなる発光装置において、
前記固有の光として、
青色系の光を発する青色系蛍光体、
緑色系の光を発する緑色系蛍光体、
黄色系の光を発する黄色系蛍光体、および、
赤色系の光を発する赤色系蛍光体
の中から、異なる発光色の蛍光体が2種類以上用いられ、
前記2種類以上の蛍光体は互いに上下に重ならない状態で横方向に配置されて、蛍光体間の相互作用が抑制される特定構造すなわち蛍光体分離型構造とされていることを特徴としている。
【0026】
また、本発明では、
前記蛍光体分離構造を構成する蛍光体で構成される蛍光体層の厚みが500μm以下であることを特徴としている。
【0027】
図8に示した発光スペクトルデータNo3から明らかなように、緑色系蛍光体と赤色系蛍光体を同じ質量だけ混合して、青色光を発光するLED素子の光取り出し面上に配置した場合、緑色系蛍光体と赤色系蛍光体間で生じる相互作用(すなわちLED素子からの青色光で励起された緑色系蛍光体から発されたブロードなスペクトルを持つ緑色系の光は、赤色系蛍光体によって再吸収され、ブロードなスペクトルを持つ赤色系の光に変換される)は、トータル光である白色光の発光効率や演色性に好ましくない重大な影響を及ぼしている。すなわち、前記したように、2段階の変換を経由した光となり、2段階の変換による損失が伴うため発光効率が悪くなること。および、緑色光成分の消失は、色温度の変化はもちろんであるが、平均演色評価数Raを大きく損なっていることである。
【0028】
より具体的なデータとして、
図6に色温度が同じ場合の、緑色系蛍光体と赤色蛍光体間で相互作用がある場合(混合型サンプル/3B2D(7)73:1)と相互作用がない場合(分離型サンプル/3B2D(2)(1)L7)のスペクトルを示す。同じ色温度3000K近傍で、光特性値は、混合型で光束=70.1lm,Ra=81.9,R9=5.3、分離型で光束=73.8lm,Ra=85.2,R9=25.4である。このデータから、相互作用がない分離型サンプルの方が、白色光としての発光効率と演色性が良くなっていることがわかる。
【0029】
その他の蛍光体においても、赤色系蛍光体間で同様な相互作用があり、特に青色系蛍光体は、緑色系蛍光体や黄色系蛍光体間でも相互作用がある。
【0030】
このように、蛍光体間の相互作用が抑制された特定構造にすることにより、演色性が良くて高輝度な照明が実現できる。ここで、特定構造とは、具体的には蛍光体分離型構造を示しており、異なる発光色の蛍光体を混合せずに、分離した構造で、分離した境界面での相互作用が微小にできるように境界の厚みを500μm以下(さらに好ましくは、300μm以下)にしている。
【0031】
さらにまた、本発明では、
前記発光装置を、青色光、紫色光、または紫外光を発光する半導体発光素子と該半導体発光素子の光取り出し面の上に形成された蛍光体層により光を発するように構成し、
前記蛍光体層を層面と垂直に複数分割し、分割した領域ごとに、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの蛍光体を1つ割り当てて、前記蛍光体層を構成し、該蛍光体層の全面積のうち、赤色系蛍光体が占める総面積の割合が最も大きくなるように前記特定構造を構成したことを特徴とす
る。
【0032】
ハロゲンランプをLEDデバイスで実現するためには、演色性が良くて高輝度なLEDデバイスが必要である。このような目的のためには、蛍光体層に使用する複数の蛍光体間で相互作用が殆どないような構造にする必要がある。その1つの方法として、蛍光体層を層面と垂直な面で複数に分割し、分割した領域ごとに、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの蛍光体を1つ割り当てて、蛍光体層を構成すれば、蛍光体間の相互作用を殆どなくすことができる。
【0033】
また、ハロゲンランプの色温度は、3000K以下であり、そのような色温度とするためには、赤色系蛍光体の分割領域の面積を他の蛍光体の分割領域の面積より最も広くする必要がある。
【0034】
図6の色温度が3000Kのサンプルで具体的に記述すると、蛍光体間の相互作用がある混合型サンプルの場合、緑色系蛍光体と赤色系蛍光体の重量比は、3:1で、緑色系蛍光体の重量を赤色系蛍光体の重量の3倍に多くしなければならないが、相互作用が殆どない分離型サンプルでは、重量比で1:1.66と赤色系蛍光体の重量が多く、また蛍光体層の分割領域の面積比では、緑色系蛍光体の分割領域の面積と赤色系蛍光体の分割領域の面積の比は、7:17と赤色系蛍光体の分割領域の面積を2.4倍以上広く取っている。
このように、蛍光体間の相互作用をなくした構造では、ハロゲンランプや電球色の光源とするためには、赤色系蛍光体の分割領域の面積を他の蛍光体の分割領域の面積より、最も広くすることが重要である。
好ましくは、前記赤色系蛍光体には、スペクトル特性調整のための異なる発光色の蛍光体が含まれていることを特徴とす
る。
【0035】
図8で示したように、赤色系蛍光体に同量の緑色系蛍光体を混合しても、混合した蛍光体からの発光色は赤色系の色になるが、そのスペクトル形状は赤色系蛍光体が単体の場合に比べて、ピーク値や裾野の形状が異なってくる。それは当然のことで、LED素子からの青色光で(緑色系蛍光体により)変換された緑色系の光がすべて赤色系に変換されるのではなく、変換されない光は、裾野の形状を変えるのである。これを利用して、若干の2重変換による損失は生じるが、演色性の観点から、または製造方法の観点から、その方が良好な場合がある。その場合は、これを利用しても良いのである。つまり、赤色系蛍光体にスペクトル形状調整のために異なる発光色の蛍光体を混ぜても良いのである。
【0036】
このことは、赤色系蛍光体に限らず、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、および黄色系蛍光体についても同じで、母体となる蛍光体の固有光の色区分の範囲内で、スペクトルのピーク値や裾野の形状を調整する程度に異なる発光色の蛍光体を混ぜたものも、該母体となる蛍光体の固有光を発する蛍光体に属する。
さらにまた、本発明
では、
前記発光装置は、青色光、紫色光、または紫外光を発光する半導体発光素子と該半導体発光素子の光取り出し面の上に形成された蛍光体層により、光を発するように構成され、前記発光装置の発光スペクトルの波長520nmの発光強度成分値S1に対する波長530nmの発光強度成分値S2の増加率、すなわち(S2―S1)/S1が負の値、または正の値で6%以下であることを特徴とす
る。
【0037】
図6の混合型サンプルと分離型サンプルのスペクトルで特徴的に異なる部分は、緑色系の光のスペクトルの部分である。これは、蛍光体間の相互作用の有無による差であることは、繰り返し述べていることであるが、任意の色温度(特に3000Kから6000Kの範囲)で、発光スペクトルの波長520nmの発光強度成分値S1に対する波長530nmの発光強度成分値S2の増加率、すなわち(S2―S1)/S1が負の値、または正の値で6%以下を満たせば、演色性が良くて、高輝度な照明用LEDデバイスとすることができることを示している。
また本発
明は、青色光、紫色光、または紫外光を発光し、対向する2つの主面を持ち、一方の主面を光取り出し面とし、他方の主面を電極形成面とする半導体発光素子の上に、前記光取り出し面と同等もしくは大きな対向する2つの主面を持ち、一方の主面を入光面とし、他方の主面を出光面とする蛍光体含有フィルム片が、前記光取り出し面と前記入光面を対向するように重ねて配置されて構成され、前記蛍光体含有フィルム片を主面と垂直に複数分割し、分割した領域(分割領域と記する)ごとに、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの蛍光体を1つ割り当てて、前記蛍光体含有フィルム片を構成して、前記特定構造を構成したことを特徴とす
る。
【0038】
蛍光体間の相互作用を殆どなくす構造として、単体の照明用LEDデバイスとして実現するには、蛍光体フィルム片を形成する構造が最も実現的である。例えば、スクリーン印刷法でプラスチックシート上に赤色系蛍光体粉末をシリコン樹脂中に混ぜてペースト状にしたものを印刷し、硬化させ、フィルム状の蛍光体含有フィルム片を形成する。その後、ダイサーを用いてブレード幅の溝を複数ライン入れ、蛍光体含有フィルム片の一部を研削し、蛍光体を取り除く。その後、この取り除いた赤色系蛍光体の部分に、緑色系蛍光体粉末をシリコン樹脂中に混ぜてペースト状にしたものを塗りこみ硬化させる。このようにして赤色系蛍光体の領域と緑色系蛍光体の領域を分離して形成した蛍光体含有フィルム片ができる。これを半導体発光素子(LED素子)の光取り出し面上に配置すれば赤色系蛍光体と緑色系蛍光体間で殆ど相互作用のない発光装置ができる。これに青色系蛍光体や黄色系蛍光体の領域を加えるためには、上記方法を繰り返せばよい。
好ましくは、前記蛍光体含有フィルム片の領域を1つとし、該領域に青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれか1種類の蛍光体を割り当てたことを特徴とす
る。
【0039】
前記蛍光体含有フィルム片を分割せずに、これに青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、何れか1種類の蛍光体を用いれば、もちろん蛍光体間の相互作用は生じない。このような青色系、緑色系、赤色系、黄色系の光を発する発光装置を複数個用いてトータルとして白色光を発するLED電球とすれば、蛍光体間の相互作用の抑制された照明装置となる
。
【0040】
上述の構成を1または複数個用いて、トータルとして白色光を発するLED電球および線状光源や面状光源とすれば、蛍光体間の相互作用が抑制された電球状および線状や面状のLED照明装置とすることができる。
そして本発明は、このように半導体発光素子の光取り出し面の上に蛍光体層が形成されて成る発光装置に用いられ、前記蛍光体層は、蛍光体含有フィルムを構成し、前記蛍光体含有フィルムは、面方向に複数の領域に分割された蛍光体含有フィルム片から構成され、少なくとも一部の蛍光体含有フィルム片間で、相互に異なる蛍光体を含有する、そのような蛍光体層の作成方法であって、青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの第1蛍光体粉末と樹脂とを混合してペースト状にし、該ペースト
をフィルム状に塗布し、それを硬化させて第1蛍光体含有フィルム片を形成する工程1と、前記第1蛍光体含有フィルム片の一部の領域から
、ダイサーカットによって第1蛍光体含有フィルムを取り除く工程2と、前記一部の領域に青色系蛍光体、緑色系蛍光体、赤色系蛍光体、黄色系蛍光体のうち、いずれかの第2蛍光体粉末と樹脂とを混合してペースト状にした該ペーストを塗り込み、硬化させて第2蛍光体含有フィルム片
の領域を形成する工程3とからなることを特徴とす
る。
【0041】
具体的に記述すると、工程1の蛍光体粉末と混合する樹脂は透明なシリコン樹脂を用いペースト状にし、該ペーストを塗布する方法は、メタルマスクを用いたスクリーン印刷法で行う。また、工程2の第1蛍光体含有フィルム片の部分領域から第1蛍光体含有フィルムを取り除く方法は、厚みが例えば200μmのダイシングブレードを用いて、ダイサーにより目的の幅だけ削り取る方法が良い。また、工程3の取り除いた部分領域に第2蛍光体含有のペーストを塗り込む方法は、ディスペンサーを用いて行い、最後に面一の面になるようにレべリングを行い硬化させることにより、分離型蛍光体含有フィルム片が製造できる。
また好ましくは、前記工程2と前記工程3に相当する工程を複数回繰り返し、複数の蛍光体含有フィルム分割領域を形成することを特徴とする。
【0042】
光学特性(光束値や色温度や演色性)を良好にするためには、複数の前記分割領域の形成が必要になるが、工程2と工程3を異なる種類の蛍光体で繰り返せば、複数の分割領域を持つ分離型蛍光体含有フィルム片が形成され、蛍光体間の相互作用が抑制された発光装置ができる。
【0043】
なお、材料は異なるが、同色系の光を発する蛍光体同士を混合しても、蛍光体間の相互作用は発生しないので、前記分割領域に該混合蛍光体を用いても良い。