【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、ミリ波を活用するヘテロジニアスセルラネットワークの研究開発の委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
齋藤昭裕,木村知弘,櫻井利昭,岡坂昌蔵,外山隆行,中尾正悟,[MiWEBA]ORIフロントホール圧縮方式に関する一検討,2015年電子情報通信学会総合大会講演論文集,2015年 2月24日,通信1,p.563,B-17-16
【文献】
Open Radio equipment Interface(ORI);ORI interface Specification;Part 1:Low Layers(Release4),ETSI GS ORI 002-1,2014年10月,V4.1.1,pp.1-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記決定部は、前記歪度が正方向に大きくなるほど、前記補正係数βを正方向により大きくなるように設定し、前記歪度が負方向に大きくなるほど、前記補正係数βを負方向により小さくなるように設定する、
請求項2又は3に記載の送信装置。
前記標準偏差σと前記補正係数αとの乗算結果(σ*α)が、ORI C&M仕様のTxSigPathオブジェクトのフィールドのうち、前記標準偏差σに対応するフィールドで通知される、
請求項6に記載の送信装置。
【背景技術】
【0002】
国際標準規格のORI(Open Radio equipment Interface)に準拠するインタフェースでは、REC(Radio Equipment Control)とRE(Radio Equipment)との間のIQ信号の転送レートを削減することを目的としてデータ圧縮技術が検討されている(例えば、非特許文献1〜3を参照)。
【0003】
IQ信号のデータ圧縮技術には、ダウンサンプリング(サンプリングレートの削減)、及び、非線形量子化(伝送ビット数の削減)が含まれる。
【0004】
非線形量子化では、実部、虚数部(以降、IQと呼ぶ)信号の振幅分布が正規分布を示す特性であることを利用し(例えば、
図1(a)を参照)、IQ信号の振幅の累積分布関数(CDF:Cumulative Distribution Function)を用いて(例えば、
図1(b)を参照)、1サンプルあたりの伝送ビット数を削減させるアルゴリズムが採用されている。具体的には、非線形量子化では、入力信号の振幅の発生頻度(生起確率)を考慮し、生起確率がより高い振幅に対応するサンプル値を、生起確率がより低い振幅に対応するサンプル値よりも正確に表わすように(量子化誤差を低減するように)量子化閾値が設定される。すなわち、IQ信号の振幅分布において、生起確率が高い振幅(平均値付近)における量子化閾値の間隔は、生起確率が低い振幅における量子化閾値の間隔よりも狭く設定される(例えば、
図1(c)を参照)。
【0005】
正規分布の累積分布関数g(x)は、次式(1)に示すように、誤差関数(erf)を用いて表現可能である。
【数1】
【0006】
ここで、xは圧縮されるIQ信号(つまり、入力信号)を表す整数値であって、[−2
N−1,…,2
N−1−1]の範囲内の値を採る(Nは自然数)。例えば、入力信号xのサンプル値は、例えば、N=15ビットで表される。また、σは標準偏差を表す。
【0007】
次いで、式(1)に示す関数g(x)の値は、次式(2)に従って、圧縮後のIQ信号のサンプル値h(x)(つまり、量子化データ)に対応付けられる。
【数2】
【0008】
ここで、h(x)は量子化データを表す整数値であって、[0,…,2
M−1]の範囲内の値を採る(MはN未満の自然数)。量子化データのサンプル値は、例えば、M=10ビットで表される。また、式(2)の右辺はg(x)*(2
M−1)以上の最小の整数を表す。
【0009】
すなわち、上記例では、非線形量子化によって、N=15ビットの入力信号がM=10ビットの量子化データに圧縮される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の一態様に係る各実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
(実施の形態1)
[通信システムの構成]
図2は、本実施の形態に係る通信システムの構成例を示す。
【0023】
図2に示す通信システム10は、送信装置100と、受信装置200とを備える。
【0024】
送信装置100は、入力信号(IQ信号)に対して非線形量子化を施し、量子化データを光回線を介して受信装置200へ伝送する。送信装置100は、RECであって、例えば、BBU(Base Band Unit)である。なお、送信装置100は、更に、入力信号のデータレートを変換(ダウンサンプリング)してもよい(図示せず)。
【0025】
受信装置200は、送信装置100から伝送される量子化データに対して逆量子化を施し、逆量子化後の信号(出力信号)を得る。受信装置200は、REであって、例えば、RRH(Remote Radio Head)である。なお、受信装置200は、更に、受信信号のデータレートを変換(アップサンプリング)してもよい(図示せず)。
【0026】
[送信装置100の構成]
送信装置100は、標準偏差測定部101、尖度測定部102、補正係数決定部103、制御部104、量子化部105、多重部106、光デバイス107を含む構成を採る。
【0027】
標準偏差測定部101は、入力信号の標準偏差σを測定し、測定した標準偏差σを尖度測定部102及び制御部104に出力する。
【0028】
尖度測定部102は、入力信号、及び、標準偏差測定部101から入力される標準偏差σを用いて、入力信号の振幅分布の集中度を示す「尖度」を測定する。尖度測定部102は、測定した尖度を示す情報を補正係数決定部103に出力する。
【0029】
図3は、尖度の特性の説明に供する図である。
図3に示すように、入力信号の振幅分布が正規分布である場合には、尖度は0となる。また、
図3に示すように、入力信号の振幅分布において、正規分布と比較して平均値付近への集中度が高いほど、尖度は正方向に大きな値(
図3では0.5)となり、正規分布と比較して平均値付近への集中度が低いほど、尖度は負方向に大きな値(
図3では−0.5)となる。
【0030】
補正係数決定部103は、尖度測定部102から入力される情報に示される尖度に応じて、非線形量子化に用いる累積分布関数の補正係数(Scaling Factor)αを決定する。補正係数決定部103は、決定した補正係数αを制御部104に出力する。
【0031】
補正係数決定部103は、尖度の値と補正係数αの値との対応付け(尖度テーブル)を予め保持する。例えば、補正係数決定部103は、尖度の値と補正係数αの値との対応付けを示す尖度テーブルにおいて、尖度が0の場合(正規分布の場合)における補正係数αを基準値として予め設定する。補正係数αの基準値は、例えば、計算シミュレーションなどによって求められる(詳細は後述する)。そして、尖度テーブルにおいて、尖度が正方向に大きくなるほど(尖度>0)、基準値よりも小さい値の補正係数αが対応付けられ、尖度が負方向に大きくなるほど(尖度<0)、基準値よりも大きい値の補正係数αが対応付けられる(例えば、
図4を参照)。
【0032】
制御部104は、標準偏差測定部101から入力されるσ、及び、補正係数決定部103から入力される補正係数αを含む量子化制御情報を生成し、量子化制御情報を量子化部105及び多重部106に出力する。
【0033】
量子化部105は、制御部104から入力される量子化制御情報(σ,α)を用いて、入力信号に対して非線形量子化を施し、量子化データを算出する。量子化部105は、算出した量子化データを多重部106に出力する。具体的には、量子化部105は、次式(3)に示す累積分布関数g(x)、及び、式(2)に従って入力信号に対する非線形量子化を行う。式(3)は、上述した式(1)に対して、補正係数αが追加されている点が異なる。
【数3】
【0034】
多重部106は、量子化部105から入力される量子化データと、制御部104から入力される量子化制御情報とを多重し、多重信号を生成する。多重部106は、生成した多重信号を光デバイス107に出力する。
【0035】
光デバイス107は、多重部106から入力される多重信号を光回線を介して受信装置200へ送信する。
【0036】
なお、量子化制御情報(σ、α)は、量子化データと同時に通知されてもよく、非線形量子化/逆量子化が行われる前に予め受信装置200へ通知されてもよい。また、送信装置100は、標準偏差σ又は補正係数αが更新される度に、量子化制御情報(更新後のσ又はα)を受信装置200へ通知してもよい。量子化制御情報の通知方法の詳細については後述する。
【0037】
[受信装置200の構成]
受信装置200は、光デバイス201、分離部202、制御部203、逆量子化部204を含む構成を採る。
【0038】
光デバイス201は、送信装置100から伝送される信号を光回線を介して受信し、受信信号を分離部202に出力する。受信信号には、量子化データ又は量子化制御情報が含まれる。
【0039】
分離部202は、光デバイス201から入力される受信信号を、量子化データと量子化制御情報とに分離し、量子化制御情報を制御部203に出力し、量子化データを逆量子化部204に出力する。
【0040】
制御部203は、分離部202から入力される量子化制御情報から、非線形逆量子化に用いるパラメータを抽出する。非線形逆量子化に用いるパラメータには、標準偏差σ及び補正係数αが含まれる。制御部203は、標準偏差σ及び補正係数αを逆量子化部204に出力する。
【0041】
逆量子化部204は、制御部203から入力されるパラメータ(σ,α)を用いて、分離部202から入力される量子化データに対して非線形逆量子化を施す。すなわち、逆量子化部204は、送信装置100の量子化部105における非線形量子化データと通知パラメータを用いてIQ信号の復元を行い、得られた信号を出力する。
【0042】
[補正係数αの設定方法]
次に、上述した送信装置100及び受信装置200において用いられる補正係数αの設定方法の詳細について説明する。
【0043】
まず、補正係数αの基準値、つまり、入力信号の振幅分布が正規分布となる場合(尖度:0)の補正係数αの設定について説明する。
【0044】
図5A〜
図5Cは、補正係数αを用いない場合(補正係数α=1に相当)における量子化誤差の説明に供する図である。
【0045】
図5Aは、入力信号xと、式(1)、式(2)に従って得られる量子化値h(x)(ただし、M=4ビット)との関係(図中の太い実線)を示す図である。入力信号xの発生頻度が高い領域ほど、量子化閾値の設定間隔が密になり、入力信号xの発生頻度が低い領域ほど、量子化閾値の設定間隔が粗くなる。これにより、量子化値h(x)の各値の発生確率はほぼ均一となる。
【0046】
図5Aに示す複数のマーカー(図中の丸印)は隣接する量子化値h(x)の中間値に対応する式(1)上の点を表し、それらのマーカーの入力信号xへの射影は各々の量子化区間の代表値を表す。非線形逆量子化は、量子化値h(x)をその量子化値h(x)が示す量子化区間の代表値へ変換することである。
【0047】
図5Bは、
図5Aに示す特性を有する非線形量子化を行った場合の、入力信号xとその入力信号xに対応する量子化区間の代表値との2乗誤差を示す図である。すなわち、
図5Bは、入力信号xに対し、非線形量子化及び非線形逆量子化を施すことによって生じた誤差の2乗(以下、量子化誤差という)を表している。
図5Bに示すように、量子化区間が粗い領域ほど、量子化誤差がより大きくなることが分かる。
【0048】
図5Cは、入力信号xの生起確率が正規分布とし、
図5Aに示す特性を有する非線形量子化を行った場合の、入力信号xとその入力信号xに対応する量子化区間の代表値との2乗誤差にその入力信号xの生起確率(発生頻度)を乗じたものを示す図である。すなわち、
図5Cは、量子化誤差に入力信号xの生起確率(発生頻度)を乗じたもの(以下、重み付け量子化誤差という)を表している。重み付け量子化誤差を入力信号xについて積分した結果は平均量子化誤差を表す。
【0049】
図5Cに示すように、入力信号xの生起確率による重み付けを行っても量子化区間が粗い領域の重み付け量子化誤差は大きな値になっており、平均量子化誤差を増加させている。平均量子化誤差を低減させる方法として、各量子化区間における重み付け量子化誤差が小さくとなるように量子化閾値を最適に設定することが考えられる。しかしながら、入力信号の生起確率(発生頻度)が変動する環境では、量子化閾値をリアルタイムにその都度最適化することは極めて困難である。
【0050】
そこで、本実施の形態では、送信装置100及び受信装置200は、補正係数αを用いて、非線形量子化に用いる累積分布関数g(x)の特性を補正する。
【0051】
図6は、本発明者らが行った、入力信号の振幅分布が正規分布である場合における、式(3)に示す累積分布関数g(x)内の補正係数αの値と、量子化誤差との関係を示す計算機シミュレーション結果である。
図6では、ORI仕様と同様、量子化後のビット数M=10とする。
【0052】
図6に示すように、補正係数α=1.6付近において、平均量子化誤差は最小(−56dB程度)となる。これに対して、補正係数α=1の場合(つまり、補正無しの場合。ORI仕様に相当)には、平均量子化誤差は−41dB程度となる。
【0053】
つまり、入力信号が正規分布となる場合には、式(3)に示す累積分布関数g(x)のαを1.6とすることにより、非線形量子化における平均量子化誤差を最小にすることができる。
【0054】
図7は、入力信号が正規分布となる場合に、補正係数α=1.6とし、式(3)に従って非線形量子化を行った場合の量子化値h(x)と入力信号xとの2乗誤差に入力信号の生起確率を乗じた重み付け量子化誤差を示す図である(ただし、M=4ビット)。
【0055】
図5C(補正無しの場合)と比較すると、
図7では、入力信号xの発生頻度が高い領域における重み付け量子化誤差が若干高くなっているものの、入力信号xの発生頻度が低い領域も含めて全体的に重み付け量子化誤差が低減されていることが分かる。
【0056】
つまり、式(1)に従って非線形量子化を行う場合(補正無し)と比較して、補正係数αを適切に設定し、式(3)に従って非線形量子化を行う場合(補正有り)の方が、平均量子化誤差を低減できることが分かる。
【0057】
なお、
図6に示す補正係数α=1.6は、上記計算機シミュレーションにおいて想定した条件下での最適値であって、入力信号の振幅分布が正規分布である場合の補正係数αの最適値は1.6に限定されるものではない。入力信号の振幅分布が正規分布である場合の補正係数αの最適値は、条件に応じて適切に設定されればよい。
【0058】
次に、上述した入力信号の振幅分布が正規分布である場合の補正係数αを基準値として、入力信号の振幅分布の尖度に応じた補正係数αの設定方法について説明する。
【0059】
図3に示すように、入力信号の振幅分布の尖度が大きいほど、振幅分布の平均値への集中度がより高くなり、平均値付近の分布が急峻になる。一方、
図3に示すように、入力信号の振幅分布の尖度が低いほど、振幅分布の平均値への集中度がより低くなり、平均値付近の分布がなだらかになる。
【0060】
一方で、式(3)に示すように、補正係数αは、正規分布の累積分布関数に対応する誤差関数(erf)の分母を構成する標準偏差σに乗算されるパラメータである。つまり、補正係数α>1の場合には、式(3)に示す累積分布関数g(x)における分布がなだらかになり、補正係数α<1の場合には、式(3)に示す累積分布関数g(x)における分布が急峻になる。
【0061】
すなわち、補正係数αは、累積分布関数g(x)における分布の変動の度合いを調整する機能を有する。換言すると、補正係数αは、非線形量子化における量子化閾値の設定間隔(量子化区間)及び非線形逆量子化における各量子化区間の代表値を調整する機能を有する。具体的には、補正係数αが1より大きいほど量子化閾値の設定間隔が広くなり、補正係数αが1より小さいほど量子化閾値の設定間隔が狭くなる。
【0062】
そこで、補正係数決定部103は、
図4に示すように、入力信号の振幅分布の尖度が大きくなるほど、補正係数αの値を基準値と比較してより小さくなるように設定する。これにより、
図8に示すように、量子化部105は、量子化閾値の設定間隔が狭い(量子化区間が急峻となる)特性を有する非線形量子化を施す。
【0063】
一方、補正係数決定部103は、
図4に示すように、入力信号の振幅分布の尖度が小さくなるほど、補正係数αの値を基準値と比較してより大きくなるように設定する。これにより、
図8に示すように、量子化部105は、量子化閾値の設定間隔が広い(量子化区間がなだらかになる)特性を有する非線形量子化を施す。
【0064】
このように、送信装置100は、入力信号の振幅分布に応じて、非線形量子化における量子化閾値の間隔を適応的に調整する。これにより、入力信号の生起確率が変動する場合であっても、入力信号の振幅分布に応じた量子化閾値を用いた非線形量子化(非線形逆量子化)が行われるので、量子化誤差を低減させることができる。
【0065】
[補正係数αの通知方法]
次に、送信装置100(REC)から受信装置200(RE)への量子化制御情報の通知方法の詳細について説明する。
【0066】
図9は、送信装置100及び受信装置200の信号の送受信動作を示すシーケンス図である。
【0067】
図9において、ステップ(以下、単に「ST」と表す)101では、送信装置100は、非線形量子化に用いる標準偏差σ及び補正係数αを含む量子化制御情報を受信装置200へ送信する。
【0068】
例えば、ORIのC&M(Control and Management)仕様では、REC(送信装置100に相当)からRE(受信装置200)へのパラメータ通知にOBJECT CREATION REQUESTメッセージが使用される。また、ORIでは、OBJECT CREATION REQUESTメッセージ内のTxSigPathオブジェクトによって表されるフィールドにおいて非線形量子化(つまりデータ圧縮)に用いる標準偏差σが通知される。
【0069】
そこで、送信装置100は、例えば、TxSigPathオブジェクトを用いて、標準偏差σ及び補正係数αを通知してもよい。つまり、補正係数αは、ORI C&M仕様のTxSigPathオブジェクトのパラメータとして受信装置200に通知される。
【0070】
ST102では、受信装置200は、ST101で量子化制御情報を含むOBJECT CREATION REQUESTメッセージ受け取ると、応答としてOBJECT CREATION RESPONSEメッセージを生成し、送信装置100へ送信する。当該応答には、例えば、量子化制御情報の受信の成否などが含まれる。
【0071】
ST102においてOBJECT CREATION RESPONSEメッセージに量子化制御情報の受信が成功したことが示される場合、ST103では、送信装置100及び受信装置200は、ST101で通知された標準偏差σ及び補正係数αを用いて、非線形量子化及び非線形逆量子化を行う。
【0072】
その後、送信装置100における入力信号の振幅分布が変動し、標準偏差σ又は補正係数αが更新された場合、ST104では、送信装置100は、更新後の標準偏差σ又は補正係数αを含む量子化制御情報を受信装置200へ送信する。
【0073】
例えば、ORIでは、REC(送信装置100に相当)からRE(受信装置200)へのパラメータ更新の通知にOBJECT PARAMETER MODIFICATION REQUESTメッセージが使用される。また、ORIのC&M仕様では、当該メッセージ内のTxSigPathオブジェクトによって表されるフィールドにおいて更新標準偏差σが通知される。
【0074】
そこで、送信装置100は、例えば、TxSigPathオブジェクトを用いて、更新後の標準偏差σ又は補正係数αを通知してもよい。
【0075】
ST105では、受信装置200は、ST104で量子化制御情報を含むOBJECT PARAMETER MODIFICATION REQUESTメッセージ受け取ると、応答としてOBJECT PARAMETER MODIFICATION RESPONSEメッセージを生成し、送信装置100へ送信する。応答には、例えば、量子化制御情報の受信の成否などが含まれる。
【0076】
ST105においてOBJECT PARAMETER MODIFICATION RESPONSEメッセージに量子化制御情報の受信が成功したことが示される場合、ST106では、送信装置100及び受信装置200は、ST104で通知された、更新後の標準偏差σ又は補正係数αを用いて、非線形量子化及び非線形逆量子化を行う。
【0077】
このように、
図9では、ORIのC&M仕様のTxSigPathオブジェクトにおいて、既存の標準偏差σに加え、補正係数αを新規に追加する場合について説明した。
【0078】
なお、式(3)に示すように、補正係数αは、標準偏差σに乗算されるパラメータである。そこで、送信装置100は、
図9に示すように標準偏差σ及び補正係数αを個別に通知する代わりに、標準偏差σに補正係数αを乗算した結果(σ'=σ*α)を受信装置200へ通知してもよい。この場合、パラメータσ’は、ORIのC&M仕様において規定されている既存の通知フィールドのうち、標準偏差σに対応する通知フィールドを用いて通知されてもよい。これにより、新規に補正係数αのための通知フィールドを規定する必要がない。
【0079】
なお、上記では補正係数αによって量子化閾値及び各量子化区間の代表値を調整する方法について説明したが、補正係数αによって入力信号x及び逆量子化後の信号を補正してもよい。
【0080】
以上、量子化制御情報の通知方法について説明した。
【0081】
以上のようにして、本実施の形態では、送信装置100は、IQ信号の振幅分布の尖度に応じて補正係数αを決定し、非線形量子化における量子化閾値の間隔を調整する。こうすることで、IQ信号の振幅分布の変動に応じて量子化閾値が適応的に設定されるので、非線形量子化における量子化誤差を低減することができる。
【0082】
[実施の形態2]
実施の形態1では、入力信号の振幅分布の尖度に応じた補正係数を用いて非線形量子化を行う場合について説明した。これに対して、本実施の形態では、入力信号の振幅分布の歪度に応じた補正係数を用いて非線形量子化を行う場合について説明する。
【0083】
[通信システムの構成]
図10は、本実施の形態に係る通信システムの構成例を示す。
【0084】
図10に示す通信システム20は、送信装置300と、受信装置400とを備える。なお、
図10において、実施の形態1(
図2)と同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。送信装置300は、送信装置100(
図2)の尖度測定部102の代わりに歪度測定部301を備える。
【0085】
送信装置300の歪度測定部301は、入力信号、及び、標準偏差測定部101から入力される標準偏差σを用いて、入力信号の振幅分布における左右対称性を示す「歪度」を測定する。歪度測定部301は、測定した歪度を示す情報を補正係数決定部302に出力する。
【0086】
図11は、歪度の特性の説明に供する図である。
図11に示すように、入力信号の振幅分布が正規分布である場合には、歪度は0となる。また、
図11に示すように、入力信号の振幅分布において、正規分布と比較して正方向への偏りが大きいほど、歪度は正方向に大きな値(
図11では0.5)となり、正規分布と比較して負方向への偏りが大きいほど、歪度は負方向に大きな値(
図11では−0.5)となる。
【0087】
補正係数決定部302は、歪度測定部301から入力される情報に示される歪度に応じて、非線形量子化に用いる累積分布関数の補正係数βを決定する。補正係数決定部302は、決定した補正係数βを制御部104に出力する。
【0088】
補正係数決定部302は、歪度の値と補正係数βの値との対応付け(歪度テーブル)を予め保持する。例えば、歪度テーブルにおいて、歪度が0の場合(正規分布の場合)における補正係数βを0(つまり、補正無し)とする。そして、歪度テーブルにおいて、歪度が正方向に大きくなるほど(歪度>0)、正方向により大きい値の補正係数βが対応付けられ、歪度が負方向に大きくなるほど(歪度<0)、負方向により大きい値の補正係数βが対応付けられる(例えば、
図12を参照)。
【0089】
制御部104から出力される量子化制御情報には、標準偏差σ及び補正係数βが含まれる。
【0090】
量子化部303は、制御部104から入力される量子化制御情報(σ,β)を用いて、入力信号に対して非線形量子化を施し、量子化データを算出する。具体的には、量子化部303は、次式(4)に示す累積分布関数g(x)、及び、式(2)に従って入力信号に対する非線形量子化を行う。式(4)は、上述した式(1)に対して、補正係数βが追加されている点が異なる。
【数4】
【0091】
図10に示す受信装置400において、逆量子化部401は、制御部203から入力されるパラメータ(σ,β)を用いて、分離部202から入力される量子化データに対して非線形逆量子化を施す。すなわち、逆量子化部401は、送信装置300の量子化部303における非線形量子化処理の逆の処理を行い、IQ信号の復元を行う。
【0092】
なお、量子化制御情報(σ、β)は、量子化データと同時に通知されてもよく、非線形量子化/逆量子化が行われる前に予め受信装置400へ通知されてもよい。また、送信装置300は、標準偏差σ又は補正係数βが更新される度に、量子化制御情報(更新後のσ又はβ)を受信装置400へ通知してもよい。
【0093】
図13は、送信装置300及び受信装置400の信号の送受信動作を示すシーケンス図である。
図13において、実施の形態1(
図9)と同一動作には同一符号を付し、その説明を省略する。具体的には、
図13に示すST101a及び104aにおいて、TxSigPathオブジェクトによって表されるフィールドを用いて補正係数βが通知される点のみが実施の形態1(
図9)と異なる。すなわち、補正係数βは、ORI C&M仕様のTxSigPathオブジェクトのパラメータとして受信装置400に通知される。
【0094】
[補正係数βの設定方法]
次に、上述した送信装置300及び受信装置400において用いられる補正係数βの設定方法の詳細について説明する。
【0095】
図11に示すように、入力信号の振幅分布の歪度が大きいほど、振幅分布は正規分布と比較して正方向へ偏り、入力信号の振幅分布の歪度が小さいほど、振幅分布は正規分布と比較して負方向へ偏る。
【0096】
一方で、式(4)に示すように、補正係数βは、正規分布の累積分布関数に対応する誤差関数(erf)の分子を構成する入力信号xから減算されるパラメータである。つまり、補正係数β>0の場合には、式(4)に示す累積分布関数g(x)における分布は、式(1)に示す累積分布関数g(x)の分布と比較して正方向に偏る。また、補正係数β<0の場合には、式(4)に示す累積分布関数g(x)における分布は、式(1)に示す累積分布関数g(x)の分布と比較して負方向に偏る。
【0097】
すなわち、補正係数βは、累積分布関数g(x)における分布の偏り具合を調整する機能を有する。換言すると、補正係数βは、非線形量子化における量子化閾値の位置をシフトさせる機能を有する。具体的には、補正係数βが0より大きいほど、β=0の場合の量子化閾値が正方向にシフトされ、補正係数βが0より小さいほど、β=0の場合の量子化閾値が負方向にシフトされる。
【0098】
そこで、補正係数決定部302は、
図12に示すように、入力信号の振幅分布の歪度が正方向に大きくなるほど、補正係数βの値を正方向により大きくなるように設定する。これにより、
図14に示すように、量子化部303は、量子化閾値が正方向にシフトした特性を有する非線形量子化を施す。
【0099】
一方、補正係数決定部302は、
図12に示すように、入力信号の振幅分布の歪度が負方向に大きくなるほど、補正係数βの値を負方向により大きくなるように設定する。これにより、
図14に示すように、量子化部303は、量子化閾値が負方向にシフトした特性を有する非線形量子化を施す。
【0100】
このように、送信装置300は、入力信号の振幅分布に応じて、非線形量子化における量子化閾値の位置を適応的に調整する。これにより、入力信号の生起確率が変動する場合であっても、入力信号の振幅分布に応じた量子化閾値を用いた非線形量子化(非線形逆量子化)が行われるので、量子化誤差を低減させることができる。
【0101】
以上のようにして、本実施の形態では、送信装置300は、IQ信号の振幅分布の歪度に応じて補正係数βを決定し、非線形量子化における量子化閾値の位置を調整する。こうすることで、IQ信号の振幅分布の変動に応じて量子化閾値が適応的に設定されるので、非線形量子化における量子化誤差を低減することができる。
【0102】
なお、上記では補正係数βによって量子化閾値及び各量子化区間の代表値を調整する方法について説明したが、補正係数βによって入力信号x及び逆量子化後の信号を補正してもよい。
【0103】
[実施の形態3]
本実施の形態では、実施の形態1で説明した補正係数α、及び、実施の形態2で説明した補正係数βの双方を用いて非線形量子化を行う場合について説明する。
【0104】
[通信システムの構成]
図15は、本実施の形態に係る通信システムの構成例を示す。
【0105】
図15に示す通信システム30は、送信装置500と、受信装置600とを備える。なお、
図15において、実施の形態1(
図2)及び実施の形態2(
図10)と同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0106】
送信装置500の補正係数決定部501は、尖度測定部102から入力される情報に示される尖度に応じて非線形量子化に用いる累積分布関数の補正係数αを決定し、歪度測定部301から入力される情報に示される歪度に応じて非線形量子化に用いる累積分布関数の補正係数βを決定する。補正係数決定部302は、決定した補正係数α,βを制御部104に出力する。
【0107】
制御部104から出力される量子化制御情報には、標準偏差σ、及び、補正係数α,βが含まれる。
【0108】
量子化部502は、制御部104から入力される量子化制御情報(σ,α,β)を用いて、入力信号に対して非線形量子化を施し、量子化データを算出する。具体的には、量子化部502は、次式(5)に示す累積分布関数g(x)、及び、式(2)に従って入力信号に対する非線形量子化を行う。式(5)は、上述した式(1)に対して、補正係数α,βが追加されている点が異なる。
【数5】
【0109】
図15に示す受信装置600において、逆量子化部601は、制御部203から入力されるパラメータ(σ,α,β)を用いて、分離部202から入力される量子化データに対して非線形逆量子化を施す。すなわち、逆量子化部601は、送信装置500の量子化部502における非線形量子化処理の逆の処理を行う。
【0110】
なお、量子化制御情報(σ、α,β)は、量子化データと同時に通知されてもよく、非線形量子化/逆量子化が行われる前に予め受信装置600へ通知されてもよい。また、送信装置500は、標準偏差σ、補正係数α又はβが更新される度に、量子化制御情報(更新後のσ、α又はβ)を受信装置600へ通知してもよい。
【0111】
図16は、送信装置500及び受信装置600の信号の送受信動作を示すシーケンス図である。
図16において、実施の形態1(
図9)及び実施の形態2(
図13)と同一動作には同一符号を付し、その説明を省略する。具体的には、
図16に示すST101b及び104bにおいて、TxSigPathオブジェクトによって表されるフィールドを用いて補正係数α,βが通知される点のみが実施の形態1(
図9)及び実施の形態2(
図13)と異なる。すなわち、補正係数α、βは、ORI C&M仕様のTxSigPathオブジェクトのパラメータとして受信装置600に通知される。
【0112】
また、実施の形態1と同様、送信装置500は、
図16に示すST101b又はST104bにおいて、標準偏差σ及び補正係数αを個別に通知する代わりに、標準偏差σに補正係数αを乗算した結果(σ'=σ*α)を受信装置600へ通知してもよい。この場合、パラメータσ’は、ORIのC&M仕様において規定されている既存の通知フィールドのうち、標準偏差σに対応する通知フィールドを用いて通知されてもよい、これにより、新規に補正係数αのための通知フィールドを規定する必要がない。
【0113】
[補正係数α,βの設定方法]
次に、上述した送信装置500及び受信装置600において用いられる補正係数α,βの設定方法の詳細について説明する。
【0114】
補正係数決定部501は、実施の形態1で説明したように、入力信号の振幅分布の尖度が大きくなるほど、補正係数αの値を基準値と比較してより小さくなるように設定し、入力信号の振幅分布の尖度が小さくなるほど、補正係数αの値を基準値と比較してより大きくなるように設定する(例えば、
図4を参照)。
【0115】
また、補正係数決定部501は、実施の形態2で説明したように、入力信号の振幅分布の歪度が正方向に大きくなるほど、補正係数βの値を正方向により大きくなるように設定し、入力信号の振幅分布の歪度が負方向に大きくなるほど、補正係数βの値を負方向により大きくなるように設定する(例えば、
図12を参照)。
【0116】
これにより、
図17に示すように、入力信号の振幅分布の尖度に応じた補正係数αが設定され、量子化部502は、量子化閾値の設定間隔が調整された非線形量子化を施す。また、
図17に示すように、入力信号の振幅分布の歪度に応じた補正係数βが設定され、量子化部502は、量子化閾値の位置が調整された非線形量子化を施す。
【0117】
すなわち、送信装置500は、入力信号の振幅分布の尖度及び歪度に応じて、非線形量子化における量子化閾値の間隔及び位置を適応的に調整する。これにより、入力信号の生起確率が変動する場合であっても、入力信号の振幅分布に応じた量子化閾値を用いた非線形量子化(非線形逆量子化)が行われるので、量子化誤差を低減することができる。
【0118】
以上のようにして、本実施の形態では、送信装置500は、IQ信号の振幅分布の尖度及び歪度に応じて補正係数α,βを決定し、非線形量子化における量子化閾値の間隔及び位置を調整する。こうすることで、IQ信号の振幅分布の変動に応じて量子化閾値が適応的に設定されるので、非線形量子化における量子化誤差を低減することができる。
【0119】
なお、上記では補正係数α,βによって量子化閾値及び各量子化区間の代表値を調整する方法について説明したが、補正係数α,βによって入力信号x及び逆量子化後の信号を補正してもよい。
【0120】
以上、本発明の各実施の形態について説明した。
【0121】
なお、上記各実施の形態では、本発明をハードウェアで構成する場合を例にとって説明したが、本発明はハードウェアとの連携においてソフトウェアでも実現することも可能である。
【0122】
また、上記各実施の形態の説明に用いた各機能ブロックは、典型的には集積回路であるLSIとして実現される。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部または全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0123】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)又は、LSI内部の回路セルの接続若しくは設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサーを利用してもよい。
【0124】
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。