特許第6140851号(P6140851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6140851
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/08 20060101AFI20170522BHJP
   H04B 1/40 20150101ALI20170522BHJP
【FI】
   H04B7/08 D
   H04B1/40
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-14258(P2016-14258)
(22)【出願日】2016年1月28日
【審査請求日】2016年1月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 律
(72)【発明者】
【氏名】小柳 芳雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩
【審査官】 大野 友輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−040988(JP,A)
【文献】 特開2013−236219(JP,A)
【文献】 特開2002−152116(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/042748(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/026739(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02
H04B 1/40
H04J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つのアンテナを用いて送受信する通信装置であって、
装置本体に直交3軸方向のx軸、y軸、z軸に各々設けられた3つのアンテナと、
各アンテナの傾き角度を検出する傾きセンサと、
1つの信号を予め設定された比率に基づき2つの信号に分配する、又は、2つの信号を予め設定された比率に基づき1つの信号に合成する、複数の比率の異なるウィルキンソン電力分配合成器と、を備え、
既知の電波到来方向の傾き角度に対し、前記傾きセンサにおける前記各アンテナの傾き角度から前記各アンテナの受信信号振幅を算出し、算出された受信信号振幅の大きい2つのアンテナを前記3つのアンテナの中から選択し、この選択された2つのアンテナの受信信号振幅の理想比率に最も近い比率を有するウィルキンソン電力分配合成器を選択する、
通信装置。
【請求項2】
前記既知の電波到来方向の傾き角度(φx、φy、φz)及び前記各アンテナの傾き角度(θx、θy、θz)を用いて、下記数式から前記各アンテナの受信信号振幅を算出する、
x軸のアンテナの受信信号振幅:Ax=|cos(θy−φy)・cos(θz−φz)|
y軸のアンテナの受信信号振幅:Ay=|sin(θz−φz)|
z軸のアンテナの受信信号振幅:Az=|cos(θx−φx)・sin(θz−φz)|
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記理想比率が0:1又は1:0の場合、前記複数のウィルキンソン電力分配合成器のいずれも経由することなく、前記2つのアンテナのうち1つのアンテナで送信する、
請求項1又は2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記複数のウィルキンソン電力分配合成器は、1:1、1:2.5、1:7、2.5:1、7:1の比率をそれぞれ有する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェアラブル端末、携帯電話、スマートフォン等に用いて好適な通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェアラブル端末は、身につけて持ち歩くことができる情報端末の総称であり、腕時計型のものや眼鏡型のものなどがある。ウェアラブル端末の他、携帯電話やスマートフォン等に用いられているアンテナ装置として、例えば特許文献1に記載されているものがある。同公報に記載されたアンテナ装置は、互いに直交する3つのアンテナ素子を有するアンテナ部と、アンテナ部が動かされる方向に基づいて、3つのアンテナ素子のうち2つのアンテナ素子を選択する選択部と、2つのアンテナ素子で形成される平面において2つのアンテナ素子の一方が第1位置にあるときを基準とした2つのアンテナ素子の一方の傾きを示す変数と、2つのアンテナ素子に到来する到来波の受信電力の比とで定義される重み付け関数を用いて、選択部により選択された2つのアンテナ素子の受信信号を合成して出力する合成部と、を備え、合成部は、受信電力の比として、2つのアンテナ素子の一方が第1位置にあるときに2つのアンテナ素子に到来する到来波の受信電力の比を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−164294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1には、重み付けを行う回路に、ダイオードやFET(Field Effect Transistor)などの電子部品で構成された簡便な可変減衰器を用いることができるとの記載があるが、このような可変減衰器は減衰量が大きく、送信時において高い送信電力が必要となる。このため、消費電力の増大、ひいては通信可能時間の低下を招くという課題がある。
【0005】
なお、消費電力が増大することで発熱量も大きくなることから、特に筐体の一部でも人の肌に触れるようなウェアラブル端末に適用する場合は電力消費を少なく抑えることは重要である。
【0006】
図8は、上述した可変減衰器を有する重み付け回路100を用いた通信装置90の一例の概略構成を示すブロック図である。なお、同図に示す通信装置90は2つのアンテナ200,201を備えた例であるが、3つのアンテナを備える場合は、上述した特許文献1に記載されたアンテナ装置のように、3つのアンテナを互いに直交する位置関係で配置するとともに、3つのアンテナのうち2つのアンテナを選択する選択部(不図示)を備える構成とすればよい。
【0007】
図8に示す通信装置90の重み付け回路100は、2つの可変減衰器101,102と、2分配合成器103とを備える。一方の可変減衰器101は、2分配合成器103とアンテナ200との間に介挿され、他方の可変減衰器102は、2分配合成器103とアンテナ201との間に介挿される。2分配合成器103は、送信時には、送受信回路400からの送信信号を2分配して可変減衰器101,102に出力し、受信時には、アンテナ200,201からの受信信号を合成して送受信回路400に出力する。
【0008】
ここで、可変減衰器101,102に対する重み付けを例えば可変減衰器101に0dB(実質重み付けを行わない)、可変減衰器102に10dBとしても、理想通りにはならず、実際は内部スイッチ等の損失が2dB程度存在するため、可変減衰器101における減衰量は2dB程度、可変減衰器102における減衰量は12dB程度となる。2分配合成器103にも0.3dB程の損失があるため、送信時において、送受信回路400からは損失を補うための高い送信電力が必要となる。例えばアンテナ200における送信電力が0dBm、アンテナ201における送信電力が−10dBmの場合、総送信電力は+0.41dBmとなり、送受信回路400には約+5dBmの出力電力が必要となる。
【0009】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、3つのアンテナの中から2つのアンテナを選択して受信した2つの受信信号及び1つの送信信号を2分配した2つの送信信号に対する重み付けを低損失で行うことができる通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の通信装置は、3つのアンテナを用いて送受信する通信装置であって、装置本体に直交3軸方向のx軸、y軸、z軸に各々設けられた3つのアンテナと、各アンテナの傾き角度を検出する傾きセンサと、1つの信号を予め設定された比率に基づき2つの信号に分配する、又は、2つの信号を予め設定された比率に基づき1つの信号に合成する、複数の比率の異なるウィルキンソン電力分配合成器と、を備え、既知の電波到来方向の傾き角度に対し、前記傾きセンサにおける前記各アンテナの傾き角度から前記各アンテナの受信信号振幅を算出し、算出された受信信号振幅の大きい2つのアンテナを前記3つのアンテナの中から選択し、この選択された2つのアンテナの受信信号振幅の理想比率に最も近い比率を有するウィルキンソン電力分配合成器を選択する。
【0011】
上記構成によれば、3つのアンテナで受信した3つの受信信号の中から受信信号振幅の大きい2つのアンテナを選択し、選択した2つのアンテナで受信した2つの受信信号及び1つの送信信号を2分配した2つの送信信号のそれぞれに対して低損失で重み付けができるので、省電力化が図れ、通信可能時間を延ばすことができる。また、発熱量も少ないことから、ウェアラブル端末としても問題なく使用することができる。
【0012】
上記構成において、前記既知の電波到来方向の傾き角度(φx、φy、φz)及び前記各アンテナの傾き角度(θx、θy、θz)を用いて、下記数式から前記各アンテナの受信信号振幅を算出する、x軸のアンテナの受信信号振幅:Ax=|cos(θy−φy)・cos(θz−φz)|、y軸のアンテナの受信信号振幅:Ay=|sin(θz−φz)|、z軸のアンテナの受信信号振幅:Az=|cos(θx−φx)・sin(θz−φz)|。
【0013】
上記構成によれば、3つのアンテナで受信した3つの受信信号それぞれの受信信号振幅を算出することができる。
【0014】
上記構成において、前記理想比率が0:1又は1:0の場合、前記複数のウィルキンソン電力分配合成器のいずれも経由することなく、前記2つのアンテナのうち1つのアンテナで送信する。
【0015】
上記構成によれば、0:1の比率を有するウィルキンソン電力分配合成器と、1:0の比率を有するウィルキンソン電力分配合成器が不要となり、その分、コストの削減が可能となる。
【0016】
上記構成において、前記複数のウィルキンソン電力分配合成器は、1:1、1:2.5、1:7、2.5:1、7:1の比率をそれぞれ有する。
【0017】
上記構成によれば、2つのアンテナで受信した2つの受信信号及び1つの送信信号を2分配した2つの送信信号のそれぞれに対して低損失で重み付けができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、3つのアンテナの中から2つのアンテナを選択して受信した2つの受信信号及び1つの送信信号を2分配した2つの送信信号に対する重み付けを低損失で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る通信装置の概略構成を示すブロック図
図2図1の通信装置の人体への装着イメージを示す図
図3図1の通信装置の重み付け回路が有する各切替器の端子配列を示す図
図4図1の通信装置の重み付け回路が有するウィルキンソン電力分配合成器の一例の概略構成を示す図
図5図1の通信装置の重み付け回路における傾き情報による比率の判定を説明するための図
図6図1の通信装置における重み付け比毎の合成後出力電力特性を示すグラフ
図7図1の通信装置における所要送信電力を比較した結果を示すグラフ
図8】可変減衰器を有する重み付け回路を用いた通信装置の一例の概略構成を示すブロック図
図9】従来の重み付け処理を説明するための図
図10】従来の重み付け処理において、受信信号電力差が3dBの場合における重み付け係数と合成後SN改善量(dB)のシミュレーション結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
先ず、受信信号に対する重み付け処理について説明する。
図9は、従来の重み付け処理を説明するための図である。図中に示すSrx1、Srx2、N、Xの意味は以下の通りである。
rx1:アンテナ200の受信信号電力(dBm)
rx2:アンテナ201の受信信号電力(dBm)
N:ノイズ電力(dBm)
X:重み付け係数(電力比、真値)、X=10(Srx1−Srx2)/10、可変減衰器101,102の重み付け係数の比は、1:Xである。
【0022】
2つのアンテナ200,201間の受信信号電力差(Srx1−Srx2)より算出される重み付け係数を用いて2つの受信信号に対する重み付けを行うことで、2つの受信信号を合成した後のSN(信号対雑音比)を最大化できる。図10は、受信信号電力差(Srx1−Srx2)が3dBの場合における重み付け係数Xと合成後SN改善量(dB)のシミュレーション結果を示すグラフである。このグラフから分かるように、重み付け係数X=0.5でSN改善量が最大となる。
【0023】
通信路の可逆性により、送信信号は重み付け比1:Xの電力比で送信することで、相手局に到達する電力が最大となる。
【0024】
このように、2つのアンテナ200,201間の受信信号電力差から算出される重み付け係数を用いて2つの受信信号に対して重み付けを行う。しかしながら、既に述べたように、可変減衰器101,102及び2分配合成器103のそれぞれに損失があり、これらの損失によって消費電力の増大、ひいては通信可能時間の低下を招いてしまう。また、消費電力が増大することで発熱量も大きくなることから、特に筐体の一部でも人の肌に触れるようなウェアラブル端末に適用するには問題がある。
【0025】
以下、2つのアンテナ200,201で受信した2つの受信信号及び1つの送信信号を2分配した2つの送信信号に対する重み付けを低損失で行うことができる通信装置について説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る通信装置1の概略構成を示すブロック図である。なお、同図において、アンテナそのものは従来と同様のものを用いているので、同じ符号200,201を付けている。
本実施形態に係る通信装置1は、2つのアンテナ200,201を用いて送受信する通信装置であり、例えば人体の腕に装着して使用される。図2は、本実施形態に係る通信装置1を腕300に装着したときのイメージを示す図である。なお、本実施形態に係る通信装置1においても3つのアンテナを備える場合は、上述した特許文献1に記載されたアンテナ装置のように、3つのアンテナを互いに直交する位置関係で配置するとともに、3つのアンテナのうち2つのアンテナを選択する選択部(不図示)を備える構成とすればよい。
【0027】
本実施形態に係る通信装置1は、複数の比率の異なるウィルキンソン電力分配合成器4〜8を用いた重み付け回路2と、送受信回路9とを備えている。重み付け回路2は、5つのウィルキンソン電力分配合成器4〜8の他に、ウィルキンソン電力分配合成器4〜8を択一的に切り替えるための切替器11〜13と、ウィルキンソン電力分配合成器4〜8の使用を回避し、アンテナ200又は201を直接送受信回路9に接続するための切替器10と、比率切替制御部14と、傾きセンサ15と、理想比率計算部16と、受信電力計算部17とを備えている。
【0028】
切替器10は、1回路2接点の切替器であり、切替器11〜13は、それぞれ1回路6接点の切替器である。アンテナ200は切替器11の共通端子に接続される。アンテナ201は切替器12の共通端子に接続される。送受信回路9の送受信端(送信・受信共用)は切替器13の共通端子に接続される。切替器11の6つの選択端子はウィルキンソン電力分配合成器4〜8及び切替器10の一方の選択端子に接続される。また、切替器12の6つの選択端子はウィルキンソン電力分配合成器4〜8及び切替器10の他方の選択端子に接続される。また、切替器13の6つの選択端子はウィルキンソン電力分配合成器4〜8及び切替器10の共通端子に接続される。
【0029】
図3は、本実施形態に係る通信装置1の重み付け回路2が有する切替器10〜13の端子配列を示す図である。同図の(a)は切替器11〜13の端子配列を示し、同図の(b)は切替器10の端子配列を示している。同図の(a)に示すように、切替器11〜13ではT0が共通端子、T1〜T6がそれぞれ選択端子であり、また図2の(b)に示すように、切替器10ではT0が共通端子、T1,T2がそれぞれ選択端子である。
【0030】
図1に戻り、ウィルキンソン電力分配合成器4〜8は、それぞれ1つの信号を予め設定された比率に基づき2つの信号に分配する、又は、2つの信号を予め設定された比率に基づき1つの信号に合成するものである。ウィルキンソン電力分配合成器4の比率は1:1、ウィルキンソン電力分配合成器5の比率は1:2.5、ウィルキンソン電力分配合成器6の比率は1:7、ウィルキンソン電力分配合成器7の比率は2.5:1、ウィルキンソン電力分配合成器8の比率は7:1となっている。
【0031】
図4は、ウィルキンソン電力分配合成器の一例の概略構成を示す図である。同図に示すように、ウィルキンソン電力分配合成器は、8つのコイルLと、4つのコンデンサCと、1つの抵抗Rとから構成される。ウィルキンソン電力分配合成器は周知なものであるので、詳細な説明は省略する。
【0032】
図1に戻り、比率切替制御部14は、2つのアンテナ200,201で受信した際の、2つのアンテナ200,201の受信電力値の受信比率に基づき、送信時に、この受信比率に対応した比率を有するウィルキンソン電力分配合成器4,5,6,7又は8を択一的に選択する。比率切替制御部14は、アンテナ200,201で受信した際の受信電力値を求めるときには、切替器11〜13それぞれの共通端子T0を選択端子T6に切り替えた状態で、切替器10の切り替えを行う。即ち、切替器10の共通端子T0を選択端子T1に切り替えることでアンテナ200における受信電力値を求め、また切替器10の共通端子T0を選択端子T2に切り替えることでアンテナ201における受信電力値を求める。
【0033】
比率切替制御部14は、切替器11〜13に対する切り替え制御を行い、ウィルキンソン電力分配合成器4,5,6,7又は8を択一的に選択する。選択されたウィルキンソン電力分配合成器4,5,6,7又は8にて1つの送信信号が2分配されて2つのアンテナ200,201から送信される。
【0034】
比率切替制御部14は、受信比率が0:1又は1:0のときに、ウィルキンソン電力分配合成器4〜8のいずれも使用することなく切替器10のみを使用する。即ち、比率切替制御部14は、受信比率が1:0ときは切替器11〜13それぞれの共通端子T0を選択端子T6側に切り替えた状態で、切替器10の共通端子T0を選択端子T1側に切り替える。また、受信比率が0:1のときは、切替器11〜13それぞれの共通端子T0を選択端子T6側に切り替えた状態で、切替器10の共通端子T0を選択端子T2側に切り替える。
【0035】
傾きセンサ15は、例えば加速度センサ又は角速度センサを用いて通信装置1本体の傾きを検出する。理想比率計算部16は、傾きセンサ15からの傾き情報に基づいて理想比率を計算し、理想比率情報を比率切替制御部14に出力する。受信電力計算部17は、送受信回路9からの受信信号に基づいて受信電力を計算し、受信電力比情報を比率切替制御部14に出力する。比率切替制御部14は、理想比率情報及び受信電力比情報のいずれか一方の情報に基づいて切替器10〜13に対して切り替え制御を行う。なお、比率切替制御部14が理想比率情報を使用するか、受信電力比情報を使用するかは、ユーザの好みに応じて任意に設定できるようになっている。その選択手段として例えば切替スイッチを用いることができる。
【0036】
次に、比率切替制御における比率の判定方法について詳細に説明する。
本実施形態に係る通信装置1では、上述したように受信電力比情報による判定と傾き情報による判定の2通りの判定方法を採用し、いずれか一方をユーザの好みに応じて任意に選択できるようになっている。
【0037】
受信電力比情報により比率を判定する場合、受信電力を計算すると良いので、これについての説明は省略し、傾き情報による判定についてのみ説明する。図5は、傾き情報による比率の判定を説明するための図である。この説明では3本のアンテナを用いて、これらの中から2つのアンテナを選択している。同図の(a)は傾き無しの基準状態を示し、同図の(b)は傾き状態を示している。3本のアンテナANT-X,アンテナANT-Y,アンテナANT-Zは、互いに偏波面が直交するように配置されている。偏波面がX軸に平行であり、この偏波面に対して直交する方向が電波の到来方向である。アンテナ傾き量:θx,θy,θzは傾きセンサ15により取得することができる。また、電波到来方向傾き量:φx,φy,φzは既知の値である。以下に示す手順P1〜手順P4で比率を選択する。
【0038】
(手順P1)アンテナANT-X,アンテナANT-Y,アンテナANT-Zの受信信号振幅を傾き情報から算出する。
アンテナANT-Xにおける受信信号振幅:Ax=|cos(θy−φy)・cos(θz−φz)|
アンテナANT-Yにおける受信信号振幅:Ay=|sin(θz−φz)|
アンテナANT-Zにおける受信信号振幅:Az=|cos(θx−φx)・sin(θz−φz)|
【0039】
(手順P2)手順P1の算出結果から、振幅の大きい2つのアンテナを選択する。
【0040】
(手順P3)手順P2で選択した2つのアンテナの理想比率を算出する。
例えば、アンテナANT-X,ANT-Yが選択された場合、
アンテナANT-X:アンテナANT-Y=Ax/k:Ay/k
但し、k=Max(Ax,Ay) Ax,Ayのうち、大きい方をとる。
【0041】
(手順P4)選択可能な比率(図1に示す例では、0:1,1:7,1:2.5,1:1,2.5:1,7:1,1:0)の中から手順P3で算出した理想比率に最も近い比率を選択する。
【0042】
通信装置1が3本のアンテナを用いて送受信する場合、構成は次のようになる。即ち、装置本体に直交3軸方向のx軸、y軸、z軸に各々設けられた3つのアンテナANT−X,ANT−Y,ANT−Zと、各アンテナANT−X,ANT−Y,ANT−Zの傾き角度を検出する傾きセンサ15と、1つの信号を予め設定された比率に基づき2つの信号に分配する、又は、2つの信号を予め設定された比率に基づき1つの信号に合成する、複数の比率の異なるウィルキンソン電力分配合成器4〜8とを備え、既知の電波到来方向の傾き角度に対し、傾きセンサ15における各アンテナANT−X,ANT−Y,ANT−Zの傾き角度から各アンテナANT−X,ANT−Y,ANT−Zの受信信号振幅を算出し、算出された受信信号振幅の大きい2つのアンテナ(ANT−XとANT−Y又はANT−YとANT−Z又はANT−XとANT−Z)を3つのアンテナANT−X,ANT−Y,ANT−Zの中から選択し、この選択された2つのアンテナ(ANT−XとANT−Y又はANT−YとANT−Z又はANT−XとANT−Z)の受信信号振幅の理想比率に最も近い比率を有するウィルキンソン電力分配合成器4,5,6,7又は8を選択する。なお、3つのアンテナANT−X,ANT−Y,ANT−Zの中から受信信号振幅の大きい2つのアンテナを選択する手段については図示を省略する。
【0043】
次に、重み付け比として、0:1,1:7,1:2.5,1:1,2.5:1,7:1及び1:0を選定した理由について説明する。本実施形態の構成では重み付け比が離散的であるため、設定された比率が最適でない場合が存在するので、そのような場合でも合成後の出力電力の低下を抑えるために上記の比率を選択した。
【0044】
上記の比率を選択することで、合成後の出力電圧の低下を0.2dB以下に抑えることができる。図6は、重み付け比毎の合成後出力電力特性を示すグラフである。正規化したものであるので、合成後出力電力(dB)「0dB」のときの特性が最もよくなっている。同図において、横軸はアンテナ間受信信号電力差(dB)、縦軸は合成後出力電力(dB)である。同図に示すように、アンテナ間受信信号電力差(dB)が2dBまでは重み付け比1:1の合成後出力電力特性が最も良く、2dBを超えると重み付け比1:2.5の合成後出力電力特性が最も良くなる。その後、アンテナ間受信信号電力差(dB)が6dBを超えると重み付け比1:7の合成後出力電力特性が最も良くなる。更にその後、アンテナ間受信信号電力差(dB)が14.7dBを超えると重み付け比0:1の合成後出力電力特性が最も良くなる。このように、アンテナ間受信信号電力差(dB)が大きくなるに従い、矢印Y1,Y2,Y3のタイミングで重み付け比1:1→1:2.5→1:7→0:1に切り替わる。なお、その他の重み付け比2.5:1,7:1,1:0については、ミラーで得ることができる。同図ではミラーの特性を鎖線で示している。
【0045】
なお、重み付け比として、0:1,1:7,1:2.5,1:1,2.5:1,7:1及び1:0に限定されるものではない。
【0046】
このように、本実施形態に係る通信装置1によれば、1つの信号を予め設定された比率に基づき2つの信号に分配する、又は、2つの信号を予め設定された比率に基づき1つの信号に合成する、1:1,1:2.5,1:7,2.5:1,7:1のウィルキンソン電力分配合成器4〜8を備え、2つのアンテナ200,201で受信した際の、2つのアンテナ200,201の受信電力値の受信比率に基づき、送信時に、この受信比率に対応した比率を有するウィルキンソン電力分配合成器4,5,6,7及び8のうちの1つを選択し、選択したウィルキンソン電力分配合成器4,5,6,7又は8で1つの送信信号を2つの信号に分配して2つのアンテナ200,201から送信するので、従来同様の重み付けを可能としながらも、低損失のウィルキンソン電力分配合成器を用いたことで省電力化が図れ、通信可能時間の延長が可能となる。
【0047】
具体的には、ウィルキンソン電力分配合成器4〜8の実回路での損失は約0.3dB、切替器10〜13等の周辺回路の損失は約1dBであり、重み付け回路2全体として約1.3dB以下の損失となる。図7は、本実施形態の通信装置1と従来の通信装置90(図8参照)における所要送信電力を比較した結果を示すグラフである。同図において、横軸はアンテナ間の送信電力差(dB)、縦軸は通信装置所要送信電力(dBm)である。鎖線で示すグラフは従来の通信装置90における所要送信電力であり、実線で示すグラフは本実施形態の通信装置1の所要送信電力である。本実施形態の通信装置1は、従来の通信装置90と比べて送信電力が約1〜4dB程度低減しているのが分かる。
【0048】
なお、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、3つのアンテナの中から2つのアンテナを選択して受信した2つの受信信号及び1つの送信信号を2分配した2つの送信信号に対する重み付けを低損失で行うことができるといった効果を有し、人体に身につけて使用するウェアラブル端末の他、ポケットや鞄等に入れて持ち運ぶ携帯電話やスマートフォン等の通信装置への適用が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 通信装置
2 重み付け回路
4〜8 ウィルキンソン電力分配合成器
9 送受信回路
10〜13 切替器
14 比率切替制御部
15 傾きセンサ
16 理想比率計算部
17 受信電力計算部
200,201 アンテナ
【要約】
【課題】2つのアンテナで受信した2つの受信信号及び1つの送信信号を2分配した2つの送信信号に対する重み付けを低損失で行うことができる通信装置を提供する。
【解決手段】装置本体に直交3軸方向のx軸、y軸、z軸に各々設けられた3つのアンテナと、各アンテナの傾き角度を検出する傾きセンサ15と、1つの信号を予め設定された比率に基づき2つの信号に分配する、又は、2つの信号を予め設定された比率に基づき1つの信号に合成する、複数の比率の異なるウィルキンソン電力分配合成器4〜8とを備え、既知の電波到来方向の傾き角度に対し、傾きセンサ15における各アンテナの傾き角度から各アンテナの受信信号振幅を算出し、算出された受信信号振幅の大きい2つのアンテナを3つのアンテナの中から選択し、この選択された2つのアンテナの受信信号振幅の理想比率に最も近い比率を有するウィルキンソン電力分配合成器を選択する。
【選択図】図1
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図10