(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用電気治療器に関する。
【0002】
従来、生体の各所に電極を接続し、当該電極から、電流を通電する電気治療器が知られている(例えば、特許文献1から4参照)。このような、電気治療器としては、用いられる電流の周波数に応じて、低周波治療器、高周波治療器等が挙げられる。一般的な電気治療器においては、特殊な波形で神経に局所的に強い電気刺激を与えて、中枢神経からβ−エンドルフィンを分泌させることが知られている。β−エンドルフィンは、中枢神経系と末梢神経系の両方のニューロンでみられる内生オピオイドの神経ペプチドであり、神経系においてβ−エンドルフィンが分泌されると、オピオイド受容体にアゴニストとして作用し、モルヒネの6.5倍とも言われる鎮痛効果を生じせしめる。このように、低周波治療器、高周波治療器等、電気治療器を用いた治療においては、神経に与えられる局所的な電気刺激により、β−エンドルフィンの生成が促され、鎮痛作用がもたらされることが知られている。
【0003】
しかしながら、従来の電気治療器を用いた治療は、脳を始めとする中枢神経に器質的障害を有している患者に対しては、ほとんど効果がなかった。このような、中枢神経(特に、脳)に器質的障害を有している患者としては、例えば、脳出血や脳梗塞等の脳血管障害に罹患した患者が挙げられる。脳血管障害は脳出血と脳梗塞に分類され、脳出血は脳内出血とクモ膜下出血、脳梗塞は脳血栓及び脳塞栓に分類される。脳血管障害は、日本人の死因の10.3%を占め、日本人に3番目に多い死因といわれており、日本における現在の患者数は118万人にも上る。脳血管障害の危険因子としては、動脈硬化、高血圧、脂質異常、糖尿病、喫煙等が挙げられる。これらの中でも、血管を傷害する傾向を有する糖尿病は、脳血管障害や、心疾患の予備群であるとされているが、世界保健機関(WHO)によれば、成人の糖尿病有病者数が2014年までに4億2,200万人に達し、特に、中国、インド、アメリカ、ブラジル、インドネシアに集中していることが報告されており、糖尿病有病者数の増加に伴い、脳血管障害や、心疾患の罹患者が激増することが強く懸念されている。
【0004】
運動麻痺からの回復は、年齢や脳の障害部位と大きさ、意識障害の有無等により、個人差が大きい。運動麻痺からの回復は発症から2ヶ月から3ヶ月がピークとされており、その後は緩やかな回復をたどり、運動麻痺の発症後6ヶ月から1年で停滞状態になり治療してもほとんど改善されない状態へと到達する。6ヶ月を過ぎた時点で、手足に麻痺が残っていると完治はほぼ不可能とされている。従来、片麻痺などのリハビリテーションにおいては、麻痺が生じた手や足の機能訓練に費やされ、運動麻痺の原因を生じている錐体外路の治療は放置されることが多い。
【0005】
脳血管障害に罹患した患者は、多くの場合、後遺症としての運動障害を有しているため、就業が困難になる場合も多く、労働による収入が大幅に減少する傾向にある。このような、身体障害を抱える患者に対しては、公的保険制度や障害者年金制度により、国家がその生活を保障していく必要があるが、高齢化の進行に伴い、多くの先進諸国では公的保険制度や公的年金制度の維持に苦慮しているのが現状である。今後、仮に、脳血管障害の罹患者が大幅に増大した場合、公的保険や公的年金の財源を圧迫することも想定され、脳血管障害の罹患者の身体能力を回復させるため、これらの患者にとっても経済的な負担となりにくい、低コストで手軽に実施できる治療方法を開発することが求められている。
【0006】
ところで、現在、携帯電話保有者の爆発的な増加によって、携帯型通信端末は日常生活における主要な必需品の1つとなっている。ここで、携帯型通信端末の流通量の爆発的な増加に伴い、携帯型通信端末の機能自体も高機能化・多機能化しており、携帯型通信端末を製造・販売する各事業者の間では、携帯型通信端末の機能開発競争が激化しているのが現状である。このような携帯型通信端末の中でも、スマートフォンは、近年世界で広く流通するに至っており、電話機能・メール機能に加えて、インターネット閲覧、音楽再生、動画再生、情報生成・記録、静止画/動画撮影、スケジュール管理、家電操作等、様々な機能を発揮できる、特に高機能・多機能の端末となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上述したように、従来知られていた電気治療器は、中枢神経に器質的障害を有している患者に対しては、ほとんど効果がなかった。このため、中枢神経に器質的障害を有している患者に対しても有効な、電気治療器の開発が求められており、特に、家庭においても手軽に利用できる家庭用電気治療器を開発することが求められているが、中枢神経に器質的障害を有している患者については、収入が少ないため、そのような収入の少ない患者にも容易に入手可能なように、そのような家庭用電気治療器については、安価なものである必要があった。
【0009】
また、従来の家庭用電気治療器は、診断機能を有していなかった。家庭用電気治療器を使用する場合、患者は、自身の知識のみに頼って家庭用電気治療器を操作・設定しなければならないため、家庭用電気治療器が診断機能を有している場合、家庭においても、低価格・高品質の電気治療を実現することができる。
【0010】
したがって、本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、中枢神経に器質的障害を有している患者に対しても有効な、安価な家庭用電気治療器であって、患者の状態を簡易診断可能な簡易診断機能を備えた家庭用電気治療器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究を行った。その結果、携帯型通信端末として広く流通しているスマートフォンを家庭用電気治療器に利用可能なことを見出した。そして、この家庭用電気治療器において、医学情報をスマートフォンに入力するとともに、診断プログラムであるエキスパートシステムをインストールし、マイクロプロセッサにより、出力信号を制御して、手の末梢神経、足の末梢神経、仙骨孔、頚椎に電極を設置して電圧を付加することにより、脳血管障害をはじめとしたもろもろの疾患を総合的に改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0012】
(1)本発明の第1の態様は、マイクロプロセッサと、電源制御ユニットと、過電圧保護ユニットと、前記マイクロプロセッサ、前記電源制御ユニット、及び前記過電圧保護ユニットを制御するスマートフォンと、スマートフォンにインストールされたプログラムであるエキスパートシステムと、正中神経が通過する手のひらの部位、並びに橈骨神経及び尺骨神経が通過する手の甲の部位に電極を固定可能な手のサポータと、腓骨神経及び脛骨神経が通過する足の甲の部位、並びに大腿神経が通過する脛の内側面に電極を固定可能な足のサポータと、手のサポータ及び足のサポータに配置する複数の電極と、左右の耳に配置する脳波耳電極と、骨盤に配置する医療電極と、前記電極及び前記マイクロプロセッサを連結可能なケーブルと、を有する家庭用電気治療器であって、前記スマートフォンが、前記エキスパートシステムを介して、電流の出力パターン、電流の出力強度、通電時間、通電開始/終了のタイミング、通電状態、通電履歴を制御可能であり、前記家庭用電気治療器が、左右の耳に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、骨盤に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、
手の末梢神経に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、足の末梢神経に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、手の末梢神経が、正中神経、橈骨神経、尺骨神経であり、足の末梢神経が、腓骨神経、脛骨神経、及び大腿神経であり、信号を付加する手の末梢神経と、足の末梢神経の組み合わせは、正中神経と大腿神経が一対であり、尺骨神経と脛骨神経が一対であり、橈骨神経と腓骨神経が一対であり、手の末梢神経、及び足の末梢神経のそれぞれに、大脳の中心後回に刺激を伝える、プラス信号と、大脳の運動野を介して末梢神経に刺激を伝える、マイナス信号と、を付加可能であり、左右の耳と骨盤を結ぶ左右合計2対の組み合わせ、並びに手の末梢神経と足の末梢神経を結ぶ左右合計6対の組み合わせに、プラス信号とマイナス信号を組み合わせた16パターンを通電することを基本とし、各付加パターンは、6回の通電刺激から構成され、エキスパートシステムは、患者の手指の伸展又は屈曲の運動不能を判断可能であり、エキスパートシステムは、スマートフォンの画面に、第2指、第3指、第4指の操作ボタンと、各指に対応して各指の操作ボタンの上側に配置される各指の伸展ボタンと、各指に対応して各指の操作ボタンの下側に配置される屈曲ボタンと、を、右手モードと左手モードに区分して表示可能であり、エキスパートシステムは、第2指、第3指、及び第4指のいずれかについて、伸展又は屈曲のいずれかを表示可能であり、エキスパートシステムは、第2指、第3指、及び第4指のいずれかについて、伸展又は屈曲を表示した後、患者が、各指の伸展ボタン又は屈曲ボタンを操作するまでの時間を測定可能であり、エキスパートシステムは、患者が、各指の伸展ボタン又は屈曲ボタンを操作するまでの時間を、左右の指で比較したデータに基づいて、インターネット上のデータベースを基礎とする統計処理によって、患者の状態に応じた電流の出力パターン、電流の出力強度、通電時間、通電開始/終了のタイミング、通電状態を特定可能である、家庭用電気治療器である。
【0013】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載の家庭用電気治療器であって、前記エキスパートシステムは、
1−1)左右の指の比較が50%を超える場合や計測不能の場合は、患側の治療時間を24%増加可能であり、
1−2)正中神経と大腿神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
1−3)尺骨神経と脛骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
1−4)橈骨神経と腓骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
1−5)迷走神経と骨盤神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
1−6)治療時間と出力強度は、左右の指の計測により増減し、
2−1)自発運動が可能で、左右の指の比較が40%を超え50%以下である場合は、患側の治療時間を20%増加可能であり、
2−2)正中神経と大腿神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
2−3)尺骨神経と脛骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
2−4)橈骨神経と腓骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
2−5)迷走神経と骨盤神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
2−6)治療時間と出力強度は、左右の指の計測により増減し、
3−1)自発運動が可能で、左右の指の比較が30%を超え40%以下である場合は、患側の治療時間を16%増加可能であり、
3−2)正中神経と大腿神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
3−3)尺骨神経と脛骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
3−4)橈骨神経と腓骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
3−5)迷走神経と骨盤神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
3−6)治療時間と出力強度は、左右の指の計測により増減し、
4−1)自発運動が可能で、左右の指の比較が20%を超え30%以下である場合は、患側の治療時間を8%増加可能であり、
4−2)正中神経と大腿神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
4−3)尺骨神経と脛骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
4−4)橈骨神経と腓骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
4−5)迷走神経と骨盤神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
4−6)治療時間と出力強度は、左右の指の計測により増減し、
5−1)自発運動が可能で、左右の指の比較が10%を超え20%以下のである場合は、患側の通電時間を4%増加可能であり、
5−2)正中神経と大腿神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
5−3)尺骨神経と脛骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
5−4)橈骨神経と腓骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
5−5)迷走神経と骨盤神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
5−6)治療時間と出力強度は、左右の指の計測により増減し、
6)自発運動が可能で、左右の指の比較が10%以下の場合は、治療時間を増加させずに、患側の出力強度を4.0Hzに設定することが可能であり、
7)健側は、治療時間を増加させず、出力強度を4.0Hzに設定することが可能であることを特徴とするものである。
【0014】
(3)本発明の第3の態様は、マイクロプロセッサと、電源制御ユニットと、過電圧保護ユニットと、前記マイクロプロセッサ、前記電源制御ユニット、及び前記過電圧保護ユニットを制御するスマートフォンと、スマートフォンにインストールされたプログラムであるエキスパートシステムと、正中神経が通過する手のひらの部位、並びに橈骨神経及び尺骨神経が通過する手の甲の部位に電極を固定可能な手のサポータと、腓骨神経及び脛骨神経が通過する足の甲の部位、並びに大腿神経が通過する脛の内側面に電極を固定可能な足のサポータと、手のサポータ及び足のサポータに配置する複数の電極と、左右の耳に配置する脳波耳電極と、骨盤に配置する医療電極と、前記電極及び前記マイクロプロセッサを連結可能なケーブルと、を有する家庭用電気治療器であって、前記スマートフォンが、前記エキスパートシステムを介して、電流の出力パターン、電流の出力強度、通電時間、通電開始/終了のタイミング、通電状態、通電履歴を制御可能であり、前記家庭用電気治療器が、左右の耳に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、骨盤に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、手の末梢神経に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、足の末梢神経に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、手の末梢神経が、正中神経、橈骨神経、尺骨神経であり、足の末梢神経が、腓骨神経、脛骨神経、及び大腿神経であり、信号を付加する手の末梢神経と、足の末梢神経の組み合わせは、正中神経と大腿神経が一対であり、尺骨神経と脛骨神経が一対であり、橈骨神経と腓骨神経が一対であり、手の末梢神経、及び足の末梢神経のそれぞれに、大脳の中心後回に刺激を伝える、プラス信号と、大脳の運動野を介して末梢神経に刺激を伝える、マイナス信号と、を付加可能であり、左右の耳と骨盤を結ぶ左右合計2対の組み合わせ、並びに手の末梢神経と足の末梢神経を結ぶ左右合計6対の組み合わせに、プラス信号とマイナス信号を組み合わせた16パターンを通電することを基本とし、各付加パターンは、6回の通電刺激から構成され、エキスパートシステムは、患者の手指の伸展又は屈曲の運動不能を判断可能であり、エキスパートシステムは、スマートフォンの画面に、第5指の操作ボタンと、第5指に対応して第5指の操作ボタンの上側に配置される第5指の伸展ボタンと、第5指に対応して第5指の操作ボタンの下側に配置される屈曲ボタンと、を、右手モードと左手モードに区分して表示可能であり、エキスパートシステムは、第5指について、伸展又は屈曲のいずれかを表示可能であり、エキスパートシステムは、第5指について、伸展又は屈曲を表示した後、患者が、第5指の伸展ボタン又は屈曲ボタンを操作するまでの時間を測定可能であり、エキスパートシステムは、患者が、第5指の伸展ボタン又は屈曲ボタンを操作するまでの時間を、左右の指で比較したデータに基づいて、インターネット上のデータベースを基礎とする統計処理によって、患者の状態に応じた電流の出力パターン、電流の出力強度、通電時間、通電開始/終了のタイミング、通電状態を特定可能である、家庭用電気治療器である。
【0015】
(4)本発明の第4の態様は、マイクロプロセッサと、電源制御ユニットと、過電圧保護ユニットと、前記マイクロプロセッサ、前記電源制御ユニット、及び前記過電圧保護ユニットを制御するスマートフォンと、スマートフォンにインストールされたプログラムであるエキスパートシステムと、正中神経が通過する手のひらの部位、並びに橈骨神経及び尺骨神経が通過する手の甲の部位に電極を固定可能な手のサポータと、腓骨神経及び脛骨神経が通過する足の甲の部位、並びに大腿神経が通過する脛の内側面に電極を固定可能な足のサポータと、手のサポータ及び足のサポータに配置する複数の電極と、左右の耳に配置する脳波耳電極と、骨盤に配置する医療電極と、前記電極及び前記マイクロプロセッサを連結可能なケーブルと、を有する家庭用電気治療器であって、前記スマートフォンが、前記エキスパートシステムを介して、電流の出力パターン、電流の出力強度、通電時間、通電開始/終了のタイミング、通電状態、通電履歴を制御可能であり、前記家庭用電気治療器が、左右の耳に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、骨盤に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、手の末梢神経に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、足の末梢神経に5V若しくは6V又は−5V若しくは−6Vを付加可能であり、手の末梢神経が、正中神経、橈骨神経、尺骨神経であり、足の末梢神経が、腓骨神経、脛骨神経、及び大腿神経であり、信号を付加する手の末梢神経と、足の末梢神経の組み合わせは、正中神経と大腿神経が一対であり、尺骨神経と脛骨神経が一対であり、橈骨神経と腓骨神経が一対であり、手の末梢神経、及び足の末梢神経のそれぞれに、大脳の中心後回に刺激を伝える、プラス信号と、大脳の運動野を介して末梢神経に刺激を伝える、マイナス信号と、を付加可能であり、左右の耳と骨盤を結ぶ左右合計2対の組み合わせ、並びに手の末梢神経と足の末梢神経を結ぶ左右合計6対の組み合わせに、プラス信号とマイナス信号を組み合わせた16パターンを通電することを基本とし、各付加パターンは、6回の通電刺激から構成され、エキスパートシステムは、患者の手指の伸展又は屈曲の運動不能を判断可能であり、エキスパートシステムは、スマートフォンの画面に、第1指の操作ボタンと、第1指に対応して第1指の操作ボタンの右側又は左側に配置される第1指の伸展ボタンと、第1指に対応して第1指の操作ボタンの左側又は右側に配置される屈曲ボタンと、を、右手モードと左手モードに区分して表示可能であり、エキスパートシステムは、第1指について、伸展又は屈曲のいずれかを表示可能であり、エキスパートシステムは、第1指について、伸展又は屈曲を表示した後、患者が、第1指の伸展ボタン又は屈曲ボタンを操作するまでの時間を測定可能であり、エキスパートシステムは、患者が、第1指の伸展ボタン又は屈曲ボタンを操作するまでの時間を、左右の指で比較したデータに基づいて、インターネット上のデータベースを基礎とする統計処理によって、患者の状態に応じた電流の出力パターン、電流の出力強度、通電時間、通電開始/終了のタイミング、通電状態を特定可能である、家庭用電気治療器である。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、家庭用電気治療器にスマートフォンを用いている。スマートフォンは、コンピュータと同等の機能を備えているが、携帯電話保有者の増加に伴って、世界的に広く流通しており、入手が容易であって価格も安価である。このため、スマートフォンを家庭用電気治療器に利用することにより、家庭においても手軽に電気治療器を用いた有効性の高い治療を実施することができる。
【0017】
さらに、本発明の好ましい態様における家庭用電気治療器を用いて、上肢に屈曲拘縮(くっきょくこうしゅく)、下肢に伸展拘縮(しんてんこうしゅく)が生じている脳血管障害の罹患者に通電を行う場合、わずか15分の通電で下肢の伸筋が改善され、下肢の随意的な屈曲が可能となる。上肢は高度な運動を要求されるものであるため、治療初期には上肢の屈筋に対して治療効果が不足する傾向があるものの、本発明の家庭用電気治療器を用いた治療によれば、わずか15分の通電で、上肢の屈曲拘縮についても、効果的に改善された。
【0018】
また、脳内のドーパミン不足とアセチルコリンの相対的な増加を病態とし錐体外路症状を示す進行性の疾患であるパーキンソン病を罹患した患者に対して、本発明の家庭用電気治療器を使用する場合、15分の通電で筋強剛、姿勢保持反射障害が改善され、歩行距離も改善される。ただし、パーキンソン病に罹患する患者の40%は、認知症が合併するとの報告があるが、本発明の電気治療器によって歩行距離が改善されると遠距離まで徘徊するという欠点が生じてしまうこともある。
【0019】
本発明の電気治療器は脳機能の基礎条件を改善するものであるが、24時間の単位で効果は徐々に消失する。しかしながら、上肢の随意的な伸展と、下肢の随意的な屈曲が可能になるため、本発明の電気治療器を用いることにより、脳血管障害等を罹患する患者に対して、高い治療効果をもたらすとともに、疾患の治癒に対する大きな希望をもたらすものとなる。
【0020】
本発明の電気治療器は、エキスパートシステムを備え、これにより患者の状態を把握する。ここで、橈骨神経、正中神経、尺骨神経の、健側と患側の反応速度の差は拘縮の状態を専門医が客観的に把握する基礎データになる。治療後の計測は、通電効果を確認する手段になる。スマートフォンによる計測は医療機関以外でも可能であるので、インターネットを利用すると膨大な臨床データを収集することができる。世界各地に居住する専門医により、疾患、症状、糖尿病の既往、喫煙の有無、血圧、年齢、性別、居住地域等の項目ごとに分類し、比較検討することにより、優れた治療指針を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<家庭用電気治療器>
以下、本発明の家庭用電気治療器100について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の家庭用電気治療器100を実施するための形態は、本発明の家庭用電気治療器100の一例を示すものであり、本発明は、以下に示す実施形態に何ら限定されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の家庭用電気治療器100の概略構成図を示す図面である。本発明の家庭用電気治療器100は、マイクロプロセッサ50と、電源制御ユニット20と、過電圧保護ユニット30と、スマートフォン40と、手のサポータ801と、足のサポータ802と、手のサポータ801及び足のサポータ802に配置する複数の電極80と、左右の耳に配置する脳波耳電極と、骨盤に配置する医療電極と、電極80、脳波耳電極、医療電極、及びマイクロプロセッサ50を連結可能なケーブルと、を有する。
【0024】
[スマートフォン]
スマートフォン40は一般的なコンピュータと同等の機能を備えている。スマートフォン40の所有者が、スマートフォン40を家庭用電気治療器100に応用することにより、高性能な家庭用電気治療器100を、安価に利用することが可能となる。脳血管障害を罹患する患者は、収入が大幅に減少した状態で、長期間のリハビリテーションが必要となり、リハビリテーションによる経済的負担は非常に大きい。しかしながら、本発明の家庭用電気治療器100においては、スマートフォン40を、家庭用電気治療器100の中心的な役割を担う部材として使用するため、高性能の家庭用電気治療器100を、安価なコストで利用することが可能となる。
【0025】
本発明の家庭用電気治療器100においては、スマートフォン40はケーブルにより、マイクロプロセッサ50、電源制御ユニット20、及び過電圧保護ユニット30と双方向に接続されている。そして、スマートフォン40が医学情報を保持し、この医学情報に基づいて、マイクロプロセッサ50、電源制御ユニット20、及び過電圧保護ユニット30を制御して、正確で安全な電気治療を実現する。より具体的には、スマートフォン40は、医学情報として、電流の出力パターン、電流の出力強度、通電時間、通電開始/終了のタイミング、通電状態、通電履歴を記憶するとともに、後述するエキスパートシステムを介して、これを制御し、マイクロプロセッサ50、電源制御ユニット20、及び過電圧保護ユニット30を制御して、電気治療を実現する。スマートフォン40にあらかじめ、医学情報を記憶させ、これを制御することにより、医学的知識に乏しい患者の場合であっても、高い再現性をもって、高い効果を有する電気治療を施行することができる。
【0026】
(エキスパートシステム)
本発明においては、スマートフォン40にエキスパートシステムと称するプログラムがインストールされており、これにより、高品質の電気治療を提供可能になっている。エキスパートシステムは、患者の手指の伸展又は屈曲の運動不能を判断可能であり、スマートフォン40の画面に、第1指、第2指、第3指、第4指、第5指のいずれかの操作ボタンと、各指に対応して各指の操作ボタンの上側又は右側若しくは左側に配置される各指の伸展ボタンと、各指に対応して各指の操作ボタンの下側又は左側若しくは右側に配置される屈曲ボタンと、を、右手モードと左手モードに区分して表示可能であり、第1指、第2指、第3指、第4指、及び第5指のいずれかについて、伸展又は屈曲のいずれかを表示可能であり、第1指、第2指、第3指、第4指、及び第5指のいずれかについて、伸展又は屈曲を表示した後、患者が、各指の伸展ボタン又は屈曲ボタンを操作するまでの時間を測定可能であり、患者が、各指の伸展ボタン又は屈曲ボタンを操作するまでの時間を、左右の指で比較したデータに基づいて、インターネット上のデータベースを基礎とする統計処理によって、患者の状態に応じた電流の出力パターン、電流の出力強度、通電時間、通電開始/終了のタイミング、通電状態を特定可能である。以下、第2指、第3指、及び第4指について、同時に、伸展及び屈曲の反応時間を測定する方法を記載し、次いで、第5指、第1指についてそれぞれ伸展及び屈曲の反応時間を測定する方法を記載するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0027】
手指の自然な位置はテニスボールを軽く握るような状態と表現される。手指の屈曲は手指を握る動作で、伸展は手指を伸ばす動作である。運動障害を有する患者における手指を引く動作や手指を押す動作は、屈曲や伸展の運動が不能であると判断される。エキスパートシステムは、
図2に示すように、スマートフォン40に第2指、第3指、第4指の操作ボタンと、各指に対応する伸展ボタン(Extension button)と屈曲ボタン(Flexion button)を表示する。第2指、第3指、及び第4指の伸展及び屈曲の反応時間の左右差は、個人差が少ないため、これらの指についての反応時間を測定することが好ましい。人間の約90%の人は右手が利き手とされるため、計測条件を揃えるために右手から伸展及び屈曲の反応時間を測定し、次いで、左手について伸展及び屈曲の反応時間を測定する。
【0028】
図2には右手について伸展及び屈曲の反応時間を測定する例を示す。右手の第2指、ダ第3指、第4指を画面上に置き、左手でスタートボタンを押す。
図2(b)に示すように、スタートボタンを押すと画面左に数字と方向記号が現れる。
図2(b)の例では、第2指の上方向の伸展ボタンに触れるまでの時間を計測する。左手も同様の操作で伸展と屈曲の反応時間を計測する。
【0029】
手指の上方向の操作である伸展(Extension)には橈骨神経が関与している。このため、第2指、第3指、第4指の反応速度を平均化して橈骨神経の数値とする。第2指と第3指の屈曲(Flexion)には正中神経が関与している。このため、第2指と第3指の反応速度を平均化して正中神経の数値とする。第4指の屈曲(Flexion)には尺骨神経が関与する。このため、第4指の反応速度を尺骨神経の数値とする。
【0030】
次いで、
図11(a)に、右手の第5指について、伸展及び屈曲の反応時間を測定する際のスマートフォン40の画面の表示を示し、
図11(b)に、右手の第1指について、屈曲及び伸展の反応時間を測定する際のスマートフォン40の画面の表示を示した。ここで、第1指の伸展及び屈曲に対しては、は横方向の計測が必要になるため、計測対象が右手であるか左手であるかに応じて、伸展ボタン及び屈曲ボタンを右側及び左側に配置するようにする。
【0031】
脳血管障害による片麻痺では、手指の運動麻痺の改善度は様々である。自由な運動が可能な健側を正常値とする。運動制限のある患側の末梢神経の反応速度の数値を得てから、利き手と患側が同一の場合は数値を補正することが好ましい。計測作業に対する慣れもある。慣れは健側に強く現れる傾向があり、患側には現れにくい。健康人の手指の反応速度を計測するアプリケーションがあるが、若者と高齢者の、指の伸展運動及び屈曲運動の反応速度を比較しても意味がない。90%の人は利き手が右手であり、右手の第2指か第3指の屈曲運動の計測から開始する。左右の手指の伸展及び屈曲の反応時間を計測することに意味がある。本発明の家庭用電気治療器100を臨床応用する場合は伸展ボタン(Extension button)及び屈曲ボタン(Flexion button)をスマートフォン40の画面に表示して、患側と健側の時間差を正確に計測して、専門医により疾患別や症状、血圧、糖尿病の既往等を比較検討する作業が必要になる。本発明のエキスパートシステムは、他の従来公知のアプリケーションとは類似性が見られないことは明らかである。
【0032】
本発明の家庭用電気治療器100は診断機能を有しているため、脳血管障害による片麻痺やパーキンソン病等の患者の臨床データを収集可能であり、インターネットを経由して膨大な臨床データを蓄積せしめることができる。この膨大な臨床データの集積は専門医による解析ルールの作成を容易にする。エキスパートシステムにおける診断機能は、治療後の臨床データの解析を可能とし、治療要素の自動制御を可能とする。難治性疾患は治療期間が長期になるため、患者が早期の回復を願って、強い刺激を選択することがある。しかしながら、強い刺激は難治性の疾患を増悪する懸念がある。本発明で用いられるエキスパートシステムは、患者の状態の計測を通じて、治療強度を自動補正するため、適切で安全な治療方法の提供が可能となる。
【0033】
本発明においては、スマートフォン40は、エキスパートシステムを介して、電流の出力パターン、電流の出力強度、通電時間、通電開始/終了のタイミング、通電状態、通電履歴を制御可能である。より具体的には、スマートフォン40に以下のような制御を行う。
【0034】
1−1)左右の指の比較が50%を超える場合や計測不能の場合は、患側の治療時間を24%増加可能であり、
1−2)正中神経と大腿神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
1−3)尺骨神経と脛骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
1−4)橈骨神経と腓骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
1−5)迷走神経と骨盤神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
1−6)治療時間と出力強度は、左右の指の計測により増減し、
2−1)自発運動が可能で、左右の指の比較が40%を超え50%以下である場合は、患側の治療時間を20%増加可能であり、
2−2)正中神経と大腿神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
2−3)尺骨神経と脛骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
2−4)橈骨神経と腓骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
2−5)迷走神経と骨盤神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
2−6)治療時間と出力強度は、左右の指の計測により増減し、
3−1)自発運動が可能で、左右の指の比較が30%を超え40%以下である場合は、患側の治療時間を16%増加可能であり、
3−2)正中神経と大腿神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
3−3)尺骨神経と脛骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
3−4)橈骨神経と腓骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
3−5)迷走神経と骨盤神経を一対とし、患側の出力強度を2.4Hzに設定することが可能であり、
3−6)治療時間と出力強度は、左右の指の計測により増減し、
4−1)自発運動が可能で、左右の指の比較が20%を超え30%以下である場合は、患側の治療時間を8%増加可能であり、
4−2)正中神経と大腿神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
4−3)尺骨神経と脛骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
4−4)橈骨神経と腓骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
4−5)迷走神経と骨盤神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
4−6)治療時間と出力強度は、左右の指の計測により増減し、
5−1)自発運動が可能で、左右の指の比較が10%を超え20%以下のである場合は、患側の通電時間を4%増加可能であり、
5−2)正中神経と大腿神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
5−3)尺骨神経と脛骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
5−4)橈骨神経と腓骨神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
5−5)迷走神経と骨盤神経を一対とし、患側の出力強度を3.2Hzに設定することが可能であり、
5−6)治療時間と出力強度は、左右の指の計測により増減し、
6)自発運動が可能で、左右の指の比較が10%以下の場合は、治療時間を増加させずに、患側の出力強度を4.0Hzに設定することが可能であり、
7)健側は、治療時間を増加させず、出力強度を4.0Hzに設定することが可能である。
【0035】
[マイクロプロセッサ]
マイクロプロセッサ50は、スマートフォン40による、医学情報に基づく制御を受けて、出力信号の電圧、電流、周波数等を個別に制御する機能を有する。マイクロプロセッサ50は、信号出力ユニット60とケーブルにより接続されており、信号出力ユニット60は、マイクロプロセッサ50の制御を受けて、そのポート1からポート15の各ポートから、各神経に通電する電気刺激を出力可能になっている。マイクロプロセッサ50が、出力信号の電圧、電流、周波数等を個別に制御することにより、本発明の家庭用電気治療器100による電気治療が高い安全性と正確性をもって施行され、かつ、医学的知識に乏しい患者においても高い治療上の効果をもたらすことができるようになる。マイクロプロセッサ50の具体的構成は、特に限定されるものではないが、例えば、中央演算装置(CPU)と、記憶装置であるメモリと、記憶装置である記憶メディアと、を備えていることが好ましく、マイクロプロセッサ50自体の制御を行う制御手段を、更に有していることが好ましい。マイクロプロセッサ50は、ケーブルにより、スマートフォン40と双方向で接続されており、後述する電源制御ユニット20及び過電圧保護ユニット30とも、ケーブルにより双方向で接続されている。
【0036】
[電源制御ユニット]
本発明の家庭用電気治療器100は、電源制御ユニット20を有している。電源制御ユニット20は、スマートフォン40、過電圧保護ユニット30、及びマイクロプロセッサ50と、ケーブルにより、双方向で接続されており、スマートフォン40による制御を受けて、マイクロプロセッサ50及びマイクロプロセッサ50が制御する信号出力ユニット60に供給される電流とその電圧を制御する。家庭用電気治療器100が電源制御ユニット20を有することにより、マイクロプロセッサ50及び信号出力ユニット60に供給される電流とその電圧が制御されるため、安全性が高く、かつ正確性の高い電気治療を施行することが可能となる。
【0037】
[過電圧保護ユニット]
本発明の家庭用電気治療器100は、過電圧保護ユニット30を有している。過電圧保護ユニット30は、スマートフォン40、電源制御ユニット20、及びマイクロプロセッサ50と、ケーブルにより、双方向で接続されており、スマートフォン40による制御を受けて、マイクロプロセッサ50及びマイクロプロセッサ50が制御する信号出力ユニット60が、規定された電圧よりも高い電圧の電気刺激を出力することを防止する機能を有する。例えば、過電圧保護ユニット30は、マイクロプロセッサ50が出力しようとする電気刺激、及び信号出力ユニット60が出力する電気刺激の電圧をモニタする手段を有し、出力される電気刺激の電圧が規定電圧を上回る場合には、必要に応じてスマートフォン40及び電源制御ユニット20を介して、電気刺激の出力を停止する手段を実行できるものであることが好ましい。
【0038】
[電極]
上述のとおり、信号出力ユニット60にはポート1からポート15が設けられており、各ポートに接続された複数の電極80が配置されている。電極80は、左右の耳、骨盤、左右の手の正中神経、橈骨神経、及び尺骨神経、並びに、左右の足の腓骨神経、脛骨神経、及び大腿神経に電気刺激を付与可能にしている。各神経の詳細については、後述する。
【0039】
耳には、副交感性である迷走神経の耳介枝が分布している。迷走神経は咽頭・気管・気管支・食道・心臓・胃・腹部の血管・肝臓・胆嚢・膵臓・小腸・結腸の右2/3までの内臓と器官の副交感神経系の運動神経と、知覚神経を支配している。また、迷走神経の分枝である反回神経は口蓋帆挙筋、耳管咽頭筋、茎突咽頭筋、口蓋舌筋、口蓋咽頭筋、上咽頭収縮筋、中咽頭収縮筋、下咽頭収縮筋を支配している。迷走神経は会話機能に対して、中心的な役割を担っているため、耳に脳波耳電極を設置して、迷走神経に電気刺激を与えることにより、脳血管障害で起こりがちな失語症状に対して、効果的な改善をもたらすこともできる。
【0040】
これらの電極80、脳波耳電極、医療電極は、ケーブルを介し、必要に応じて信号出力ユニット60を介して、マイクロプロセッサ50と連結されており、各末梢神経の通過位置に配置される。耳の電極と骨盤の電極は、副交感神経系に対する効果を志向するものである。
【0041】
錐体外路症状は、錐体外路症状の筋緊張亢進−運動減退症候群と筋緊張低下−運動亢進症候群に大別される。筋緊張亢進‐運動減退症候群はパーキンソン症候群、ウィルソン病、マンガン中毒、パントテン酸キナーゼ関連神経変性症がある。筋緊張低下−運動亢進症候群は舞踏病、アテトーゼ、バリスムス、ミオクローヌス、ジスキネジアがあり、疾患として小舞踏病、ハンチントン病、脳性麻痺、脳血管障害等がある。片麻痺による拘縮やパーキンソン病の強剛の改善傾向は、筋緊張亢進−運動減退症候群及び筋緊張低下−運動亢進症候群に、効果を得られる可能性を示す。
【0042】
若い女性は、寒い冬も短いスカートやショートパンツを愛用する。大腿を冷やすと骨盤が冷える。副交感神経系の骨盤神経は子宮や卵巣に関与するため、ホルモンバランスを崩し、副交感神経にストレスを与えている。先進諸国は空調設備が整っているため、真夏も室内は寒さを感じる。造血幹細胞は、血球系細胞に分化可能な幹細胞である。ヒト成体では主に骨髄に存在し、白血球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ)、赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞を生み出す。ヒトの造血組織は骨髄内に存在する。胸骨、肋骨、脊椎など大きな骨が担当し、生体最大の骨である骨盤が最も造血作用に貢献している。骨盤を冷やすと造血能力に悪影響を与える可能性がある。骨盤に適度な刺激を与えると造血作用の維持や強化、生理痛など婦人科疾患、尿漏れなど泌尿器疾患に有効である。副交感神経系である迷走神経は、多くの内臓諸器官に関与している。
【0043】
[手足の末梢神経]
信号を付加する手の末梢神経と、足の末梢神経の組み合わせは、正中神経と大腿神経が一対であり、尺骨神経と脛骨神経が一対であり、橈骨神経と腓骨神経が一対である。本発明においては微弱な電位を、上肢と下肢の各固有神経を結び、体性感覚を伝える求心性回路と、随意運動を促す遠心性の回路とに、順番に通電するものであり、位相幾何学を生理学に応用するものである。
【0044】
右橈骨神経と右腓骨神経を一対で通電する。右橈骨神経にプラス電位を付加すると、大脳皮質の中心後回に体性感覚を伝える。右腓骨神経にマイナス電位を付加すると、大脳皮質の運動野が右腓骨神経領域の骨格筋に随意運動の命令を出す。橈骨神経にマイナス電位を付加すると、大脳皮質の運動野が右橈骨神経領域の骨格筋に随意運動の命令を出す。腓骨神経にプラス電位を付加すると、大脳皮質の中心後回に体性感覚を伝える。橈骨神経と腓骨神経を一対とする通電は体性神経系に作用する。右正中神経と右大腿神経を一対で通電する。右正中神経にプラス電位を付加すると、大脳皮質の中心後回に体性感覚を伝える。右大腿神経にマイナス電位を付加すると、大脳皮質の運動野が右大腿神経領域の骨格筋に随意運動の命令を出す。右正中神経にマイナス電位を付加すると、大脳皮質の運動野が右正中神経領域の骨格筋に随意運動の命令を出す。右大腿神経にプラス電位を付加すると、大脳皮質の中心後回に体性感覚を伝える。正中神経と大腿神経を一対とする通電は体性神経系に作用する。右尺骨神経と右脛骨神経を一対で通電する。右尺骨神経にプラス電位を付加すると、大脳皮質の中心後回に体性感覚を伝える。右脛骨神経にマイナス電位を付加すると、大脳皮質の運動野が右脛骨神経領域の骨格筋に随意運動の命令を出す。右尺骨神経にマイナス電位を付加すると、大脳皮質の運動野が右尺骨神経領域の骨格筋に随意運動の命令を出す。右の脛骨神経にプラス電位を付加すると、大脳皮質の中心後回に体性感覚を伝える。尺骨神経と脛骨神経を一対とする通電は体性神経系に作用する。副交感神経系の右迷走神経と右の骨盤神経を一対で通電する。右迷走神経にプラス電位を付加すると、大脳皮質の中心後回に体性感覚を伝える。右骨盤神経にマイナス電位を付加すると、大脳皮質の運動野が右骨盤神経領域の内臓諸器官に随意運動の命令を出す。右迷走神経にマイナス電位を付加すると、大脳皮質の運動野が右迷走神経領域の内臓諸器官に随意運動の命令を出す。右骨盤神経にプラスの電位を付加すると、大脳皮質の中心後回に体性感覚を伝える。右迷走神経と右骨盤神経を一対とする通電は自律神経系に作用する。左橈骨神経と左腓骨神経を一対で通電し、左正中神経と左大腿神経を一対で通電し、左尺骨神経と左脛骨神経を一対で通電し、左迷走神経と左骨盤神経を一対で通電する。各神経には、プラス信号とマイナス信号を組み合わせた16パターンを通電する。
図12にこの16パターンの通電パターンを示した。
【0045】
手足の末梢神経について、大阪大学運動器バイオマテリアル学、菅本一臣教授(整形外科医)監修の下で開発された医学アプリであるteamLabBodyによれば、以下のような記述がみられる。
【0046】
手の正中神経について、『正中神経の前骨間神経は深指屈筋、長母指屈筋、方形回内筋を支配する。掌枝は手掌の母指側2/3の皮膚を支配する。半回枝は母指球筋、短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、第1,2虫様筋を支配する』。手の尺骨神経について、『尺骨神経の筋枝は尺側手根屈筋、深指屈筋を支配する。深枝は小指球筋、小指対立筋、小指外転筋、母指内転筋、第3,4虫様筋、背側骨間筋、掌側骨間筋を支配する。浅枝と背側枝、掌枝の感覚神経は第5指と第4指の内側皮膚と対応する手掌と手背の皮膚に分布する』。手の橈骨神経について、『橈骨神経筋枝は上腕三頭筋、肘筋、腕撓骨筋、長撓側手根伸筋を支配する。深枝は短撓側手根伸筋、回外筋を支配する。後骨間神経は指伸筋、小指伸筋、尺側手根伸筋、長母指外転筋、長・短母指伸筋、示指伸筋を支配する』。
【0047】
足の脛骨神経について、『脛骨神経の下腿で起こる筋枝は腓腹筋、ヒラメ筋、膝窩筋、長趾屈筋、長母趾屈筋、後脛骨筋を支配する。内側足底神経は母趾外転筋、短母趾屈筋、第1虫様筋、足底の皮膚内側3趾から第5趾を支配する。外側足底神経は小趾外転筋、足底方形筋、骨間筋、第2から第4虫様筋、母趾内転筋、短小趾屈筋を支配する。足底の皮膚は外側第1趾から第5趾の知覚を伝える』。足の腓骨神経について、『総腓骨神経の外側腓腹皮神経は下腿上部の外側の皮膚を支配する。浅腓骨神経は長腓骨筋、短腓骨筋を支配する。内側・中間足背皮神経は足背の大半の皮膚を支配する。深腓骨神経は前脛骨筋、長母趾伸筋、長趾伸筋、第三腓腹筋を支配する。深腓骨神経の外側枝は短趾伸筋、短母趾伸筋を支配する。深腓骨神経の内側枝は母趾と第2趾間の皮膚に分布する』。足の大腿神経について、『大腿神経の筋枝は大腰筋、腸骨筋を支配する。前大腿皮枝は大腿前面内側2/3の皮膚と、膝前面皮膚に分布する。前部の筋枝は恥骨筋、縫工筋を支配する。伏在神経は足内側の皮膚に分布する。後部の筋枝は大腿四頭筋(大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋)を支配する』。
【0048】
これらの記述にみられるように、手の正中神経、橈骨神経、及び尺骨神経、並びに、足の腓骨神経、脛骨神経、及び大腿神経は、手や足の運動をつかさどる様々な筋肉を支配しているため、上肢に屈曲拘縮、下肢に伸展拘縮が生じている脳血管障害の罹患者に通電を行った場合でも、わずか15分の通電で手や足の随意的な運動が可能となる。
【0049】
以上を踏まえ、手について、
図3に、正中神経の領域で最も効果的な部位を示し、
図4に、正中神経に配置する電極80を固定可能な手のサポータ801を示す。
図5に、橈骨神経、尺骨神経の領域で最も効果的な部位を示し、
図6に、橈骨神経、尺骨神経に配置する電極80を固定可能な手のサポータ801を示す。また、足について、
図7に、脛骨神経の領域で最も効果的な部位を示し、
図8に、腓骨神経の領域で最も効果的な部位を示し、
図9に、大腿神経の領域で最も効果的な部位を示す。
図10に、脛骨神経、腓骨神経、大腿神経に配置する電極80を固定可能な足のサポータ802を示す。
【0050】
[手のサポータ、足のサポータ]
本発明の家庭用電気治療器100は、
図4、
図6、及び
図10に示したように、必須の部材として、手のサポータ801及び足のサポータ802を有する。ここで、手のサポータ801は、正中神経が通過する手のひらの部位、並びに橈骨神経及び尺骨神経が通過する手の甲の部位に電極80を固定可能なものであり、足のサポータ802は、腓骨神経及び脛骨神経が通過する足の甲の部位、並びに大腿神経が通過する脛の内側面に電極80を固定可能なものである。このため、手のサポータ801は、少なくとも手のひら、手の甲、手首を被覆可能なものであることが好ましく、足のサポータ802は、少なくとも足の裏、足の甲、足首、脛を被覆可能なものであることが好ましい。
図4、
図6、及び
図10に示すように、手のサポータ801及び足のサポータ802は、それぞれ、正中神経、橈骨神経、及び尺骨神経、並びに、腓骨神経、脛骨神経、及び大腿神経において、電気刺激が最も効果を有する部位に電極80を固定可能であることが好ましい。
【0051】
本発明の家庭用電気治療器100においては、手のサポータ801、及び足のサポータ802を採用し、手のひら、手の甲、足の甲、脛において、治療上最も有効な部位に電極80を固定可能としているため、医学的な知識を有していない脳血管障害に罹患する患者やその介護者であっても、再現性よく、効果的な部位に電極80を配置することができる。これにより、本発明の家庭用電気治療器100を用いた電気治療を、高い正確性をもって施行することができる。
中枢神経に器質的障害を有している患者に対しても有効な、安価な家庭用電気治療器を提供することを目的として、医学情報をスマートフォンに入力し、マイクロプロセッサにより、出力信号を制御して、手の末梢神経、足の末梢神経、仙骨孔、頚椎に電極を設置して電圧を付加することにより、脳血管障害をはじめとしたもろもろの疾患を総合的に改善できる家庭用電気治療器を提供する。