(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6140969
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】転がり軸受けの転動室内に流体を供給するための装置を備えた転がり軸受けアッセンブリならびに転がり軸受けの転動室内に流体を供給するための方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20170529BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20170529BHJP
F16C 33/38 20060101ALI20170529BHJP
F16N 7/32 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/16
F16C33/38
F16N7/32 C
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-226024(P2012-226024)
(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公開番号】特開2013-87949(P2013-87949A)
(43)【公開日】2013年5月13日
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】10 2011 084 420.1
(32)【優先日】2011年10月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509015590
【氏名又は名称】アクツィエブーラゲート エスケイエフ
【氏名又は名称原語表記】Aktiebolaget SKF
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン クロイツケンパー
(72)【発明者】
【氏名】イェアク シュヴァーツ
(72)【発明者】
【氏名】インゴ ヴァークラー
【審査官】
瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/046706(WO,A1)
【文献】
特開2006−125540(JP,A)
【文献】
特開2006−258192(JP,A)
【文献】
特開2007−092886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16C 19/16
F16C 33/38
F16N 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受け(13)の転動室(12)内に流体を供給するための装置(11)を備えた転がり軸受けアッセンブリ(10;30;35;40)において、該転がり軸受けアッセンブリ(10;30;35;40)が、
軸方向で転がり軸受け(13)の側方に配置された流体供給リング(15)と、
軸方向で転がり軸受け(13)の側方に配置された該流体供給リング(15)から転動室(12)内に、流体用の少なくとも1つの管路(16)とを備えており、転動室(12)内では、転動体(17)が、軸受け内輪(18)と軸受け外輪(19)との間で軌道面において転動して、その際、転動室(12)内に、軸方向で転動体(17)の側方に位置する、回転に起因したエアクッション(20)を発生させるようになっており、
管路(16)の、転動室(12)内に突入した端部が、軸方向で、回転に起因したエアクッション(20)と、転動体(17)および/または軌道面との間に位置しているように、管路(16)の前記端部が、転動体(17)および/または軌道面の近くに案内されており、
流体が、転がり軸受け(13)に用いられる潤滑剤であり、
少なくとも1つの管路(16)が交換可能であり、これによって、該管路(16)の、転動室(12)内に突入した端部が、管路(16)から流出する所望の流体滴形状に適合させられるようになっていることを特徴とする、転がり軸受けの転動室内に流体を供給するための装置を備えた転がり軸受けアッセンブリ。
【請求項2】
転がり軸受け(13)が、軸方向の軸受け幅BLと軸方向の転動体幅BWとを有しており、管路(16)の、転動室(12)内に突入した端部が、[0.8×(BL−BW)/2]≦L≦[1.9×(BL−BW)/2]の範囲内の長さLにわたって、一方の軸受け端面から軸方向で転がり軸受け(13)内に延びている、請求項1記載の転がり軸受けアッセンブリ。
【請求項3】
流体用の少なくとも1つの管路(16)が、軸方向で転がり軸受け(13)の側方に配置された流体供給リング(15)から転動室(12)の内部に延びる注射針として形成されている、請求項1または2記載の転がり軸受けアッセンブリ。
【請求項4】
少なくとも1つの管路(16)の流体供給リング(15)寄りの端部が、流体供給リング(15)に設けられた、該流体供給リング(15)内で半径方向外向きに延びる流体供給通路(24)に接続されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の転がり軸受けアッセンブリ。
【請求項5】
流体供給通路(24)の半径方向外側に位置する端部が、流体に対する流体供給溜めおよび/またはマイクロ調量システムに接続されている、請求項4記載の転がり軸受けアッセンブリ。
【請求項6】
転動体(17)が、スピンドルころである、請求項1から5までのいずれか1項記載の転がり軸受けアッセンブリ。
【請求項7】
転がり軸受け(13)の転動室(12)内に流体を供給するための方法において、
軸方向で転がり軸受け(13)の側方に流体供給リング(15)を配置し、
軸方向で転がり軸受け(13)の側方に配置された該流体供給リング(15)から転動室(12)内に、流体用の少なくとも1つの管路(16)を案内し、転動室(12)内では、転動体(17)が、軸受け内輪(18)と軸受け外輪(19)との間で軌道面において転動して、その際、転動室(12)内に、軸方向で転動体(17)の側方に位置する、回転に起因したエアクッション(20)を発生させるようになっており、
管路(16)を転動室(12)内に案内し、これによって、管路(16)の、転動室(12)内に突入した端部が、軸方向で、回転に起因したエアクッション(20)と、転動体(17)および/または軌道面との間に位置しているように、管路(16)の前記端部を転動体(17)および/または軌道面の近くに案内し、
流体として、転がり軸受け(13)に用いられる潤滑剤を使用し、
少なくとも1つの管路(16)を交換可能とすることで、これによって、該管路(16)の、転動室(12)内に突入した端部を、管路(16)から流出する所望の流体滴形状に適合させることを特徴とする、転がり軸受けの転動室内に流体を供給するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受けの転動室内に流体を供給するための装置を備えた転がり軸受けアッセンブリに関する。
【0002】
さらに、本発明は、転がり軸受けの転動室内に流体を供給するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
転がり軸受けは、通常、摩耗を減少させるために、流体を用いて潤滑される。これは、流体、たとえば油、グリースまたは摩擦を減少させるその他の潤滑剤が、転がり軸受けの転動室内に供給されて、転動体および軌道面の、転がり摩擦および/または滑り摩擦により生じる摩耗を予防することを意味している。転動室内では、運転の間、転動体、たとえば玉またはころが、転がり軸受けの軸受け軌道輪の間で転動する。さらに、潤滑剤が軸受けから流出して、潤滑すべきでない箇所に留まることを阻止するために、しばしば、部分的に複雑な構造の1つまたはそれ以上のシール部材が使用される。
【0004】
流体もしくは潤滑剤がシール部材によって軸受け軌道輪の間の転動室内に保たれる場合でさえ、潤滑剤が、軸受け軌道輪もしくは軌道と転動体との間の潤滑すべき接触点に全く達しないか少ない量でしか達しないと、摩耗が高められることがある。幾つかの従来の解決手段では、潤滑剤に対する搬送媒体として圧縮空気が使用されるかまたは高圧下にある潤滑剤が使用され、これによって、高い軸受け回転数により回転している軸受けの側方に形成される、空気の壁あるいはエアカーテンとも呼ばれるエアクッションが乗り越えられ、つまり、貫かれ、十分な軸受け潤滑が達成される。
【0005】
すなわち、特に迅速に回転する転がり軸受けでは、長寿命の軸受けを提供することができるようにするために、確実な潤滑を保証することが必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、確実な潤滑が保証されている長寿命の軸受けを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために本発明に係る転がり軸受けアッセンブリによれば、該転がり軸受けアッセンブリが、軸方向で転がり軸受けの側方に配置された流体供給リングと、軸方向で転がり軸受けの側方に配置された該流体供給リングから転動室内に、流体用の少なくとも1つの管路とを備えており、転動室内では、転動体が、軸受け内輪と軸受け外輪との間で軌道面において転動して、その際、転動室内に、軸方向で転動体の側方に位置する、回転に起因したエアクッションを発生させるようになっており、管路の、転動室内に突入した端部が、軸方向で、回転に起因したエアクッションと、転動体および/または軌道面との間に位置しているように、管路の前記端部が、転動体および/または軌道面の近くに案内されている。
【0008】
本発明に係る転がり軸受けアッセンブリの有利な態様によれば、転がり軸受けが、軸方向の軸受け幅B
Lと軸方向の転動体幅B
Wとを有しており、管路の、転動室内に突入した端部が、[0.8×(B
L−B
W)/2]≦L≦[1.9×(B
L−B
W)/2]の範囲内の長さLにわたって、一方の軸受け端面から軸方向で転がり軸受け内に延びている。
【0009】
本発明に係る転がり軸受けアッセンブリの有利な態様によれば、流体用の少なくとも1つの管路が、軸方向で転がり軸受けの側方に配置された流体供給リングから転動室の内部に延びる注射針として形成されている。
【0010】
本発明に係る転がり軸受けアッセンブリの有利な態様によれば、少なくとも1つの管路が交換可能であり、これによって、該管路の、転動室内に突入した端部が、管路から流出する所望の流体滴形状に適合させられるようになっている。
【0011】
本発明に係る転がり軸受けアッセンブリの有利な態様によれば、少なくとも1つの管路の流体供給リング寄りの端部が、流体供給リングに設けられた、該流体供給リング内で半径方向外向きに延びる流体供給通路に接続されている。
【0012】
本発明に係る転がり軸受けアッセンブリの有利な態様によれば、流体供給通路の半径方向外側に位置する端部が、流体に対する流体供給溜めおよび/またはマイクロ調量システムに接続されている。
【0013】
本発明に係る転がり軸受けアッセンブリの有利な態様によれば、転動体が、スピンドルころである。
【0014】
本発明に係る転がり軸受けアッセンブリの有利な態様によれば、流体が、転がり軸受けに用いられる潤滑剤である。
【0015】
さらに、前述した課題を解決するために本発明に係る方法によれば、軸方向で転がり軸受けの側方に流体供給リングを配置し、軸方向で転がり軸受けの側方に配置された該流体供給リングから転動室内に、流体用の少なくとも1つの管路を案内し、転動室内では、転動体が、軸受け内輪と軸受け外輪との間で軌道面において転動して、その際、転動室内に、軸方向で転動体の側方に位置する、回転に起因したエアクッションを発生させるようになっており、管路を転動室内に案内し、これによって、管路の、転動室内に突入した端部が、軸方向で、回転に起因したエアクッションと、転動体および/または軌道面との間に位置しているように、管路の前記端部を転動体および/または軌道面の近くに案内する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、流体、たとえば潤滑剤を、軸受け回転数が高い場合に形成されるエアクッション、すなわち、軸受け回転に起因したエアクッションを貫いて転がり軸受け内に調量し、これによって、最適で均質な潤滑剤供給および/または潤滑剤分配を達成することが可能となる。本発明では、潤滑剤搬送のための補助空気も、高圧下にある潤滑剤も不要となる。
【0017】
このために、本発明によれば、転がり軸受けの転動室内に流体を供給するための装置を備えた転がり軸受けアッセンブリが提案される。この転がり軸受けアッセンブリは、軸方向、すなわち、軸受け回転軸線の方向で転がり軸受けの側方に配置された流体供給リングを有している。さらに、軸方向で転がり軸受けの側方に配置された流体供給リングから転動室内に、流体用の少なくとも1つの管路が設けられており、転動室内では、転動体(たとえば玉、円筒ころ、針状ころ、樽形ころまたは円錐ころ)が、軸受け内輪と軸受け外輪との間で軌道面において転動して、その際、転動室内に、軸方向で転動体の側方に位置する、回転に起因したエアクッションを発生させるようになっている。管路の、転動室内に突入した端部が、軸方向で、回転に起因したエアクッションと、転動体および/または軌道面との間に位置しているように、管路端部は、転動体および/または軌道面の近くに案内されている。これによって、流体、たとえば潤滑剤を、軸受け回転数が高い場合に形成されるエアクッションを貫いて転がり軸受け内に調量することができ、最適な潤滑剤供給および潤滑剤分配を達成することができる。
【0018】
流体供給リングと転がり軸受けとは、たとえば、流体供給リングが転がり軸受けの一方の端面もしくは軸受け内輪および軸受け外輪の端面に軸方向で直接接触していて、ひいては、転がり軸受けを少なくとも部分的に軸方向で、たとえば支承したい軸に位置決めしているように軸受けハウジング内に組み付けることができる。流体供給リングはその内部に、半径方向に延びる少なくとも1つの流体供給通路を有していてよい。この流体供給通路は転がり軸受けアッセンブリを、組込み状態もしくは組付け状態において、転がり軸受けアッセンブリもしくは流体供給リングの半径方向外側に位置する流体(たとえば潤滑剤)の流体供給溜めおよび/またはマイクロ調量システムに接続している。有利には、流体供給リングは、軸方向で直接的に隣り合って配置された転がり軸受け同様、金属、たとえば硬化させられた鋼から製造されている。
【0019】
幾つかの態様によれば、少なくとも1つの流体管路が剛性的に、すなわち、ほぼ非可撓性に形成されている。このためには、たとえば、流体管路を金属から製造することができる。有利な態様によれば、流体用の管路が、軸方向で転がり軸受けの側方に配置された流体供給リングから転動室の内部にまで突入した注射針状の管、すなわち、毛管管路または針管として形成されている。この態様では、流体管路の流体供給リング側の端部が、流体供給リングに加工されて半径方向外側に向けられた流体供給通路に接続されており、これによって、流体を、転がり軸受けアッセンブリの外部に位置する流体供給溜めから、流体供給リングの流体供給通路と注射針とを通して、潤滑すべき箇所、すなわち、たとえば転動室の内部の転動体および/または軌道面の可能な限り近くにもたらすことができる。この態様では、注射針状の管路が、軸受け回転数が高い場合に形成されるエアバリヤを転動室に向かって貫通して、軸方向で十分に軸受け内部にもしくは転動室内に突入している。
【0020】
幾つかの態様によれば、流体管路の、転動室内に突入した端部が、一方の軸受け端面から軸方向で転がり軸受け内に0.8×(B
L−B
W)/2〜1.9×(B
L−B
W)/2の範囲内で延びている。ここで、B
Lは、軸方向の軸受け軌道輪幅を意味しており、B
Wは、軸方向の転動体幅を意味している。円筒ころ軸受けの場合には、転がり軸受け内部への流体管路の軸方向の延在長さ、すなわち、たとえば軸受け軌道輪縁部から軸受け内部までの流体管路の軸方向の延在長さが、たとえば0.85×(B
L−B
W)/2以上であってよい。この態様では、B
Wが、軸方向の円筒ころ延在長さを意味している。玉軸受けの場合には、転がり軸受け内部への流体管路の軸方向の延在長さを、たとえば0.9×(B
L−B
W)/2以上に設定することができる。この態様では、B
Wが、玉直径を意味している。幾つかの態様では、流体管路の、転動室内に突入した区分の長さが、一方の軸受け端面から軸方向で転がり軸受け内に1.0×(B
L−B
W)/2〜1.7×(B
L−B
W)/2の範囲内であってもよい。
【0021】
さらに、流体用の少なくとも1つの管路を交換可能に形成することが有利であり、これによって、流体管路の、転動室内に突入した端部を構造的に、管路から流出する流体滴の所望の形状に適合させることができる。たとえば、このためには、斜めに、丸みづけられた形に、楔状にまたは鳩尾状に切り取られて延びる、形状に応じて、流出する大小の流体滴を発生させることができる流体管路先端もしくは注射針先端が可能である。
【0022】
すなわち、本発明によれば、軸受け、特に転がり軸受けへの潤滑剤供給のために使用される潤滑剤分配リングまたは潤滑剤供給リングは、1つまたはそれ以上の毛管管路または針管が軸方向で供給リングの側方に取り付けられていて、ひいては、軸受け内部に直接突入していて、潤滑剤を潤滑箇所(たとえば軌道面)のすぐ近くで放出することができるように形成されている。毛管もしくは針管が転動室内、すなわち、内輪と外輪との間の範囲もしくは保持器範囲に突入していることによって、転動体としてのスピンドルころが高速回転する場合に軸受けの周りに特に強力に形成される、回転に起因したエアクッションが乗り越えられる。毛管もしくは針管の相応の配置と、潤滑剤を連続的に流出させる毛管端部もしくは針管端部の形状およびジオメトリとによって、潤滑剤流出の形態および方向に的確な影響を与えることができる。
【0023】
さらに、本発明は、転がり軸受けの転動室内に流体を供給するための方法も提供している。このためには、軸方向で転がり軸受けの側方に流体供給リングが配置され、軸方向で転がり軸受けの側方に配置された流体供給リングから転動室内に、流体用の少なくとも1つの管路が案内され、転動室内では、転動体が、軸受け内輪と軸受け外輪との間で軌道面において転動して、その際、転動室内に、軸方向で転動体の側方に位置する、回転に起因したエアクッションを発生させるようになっている。管路は、転動室内に突入した端部が、軸方向で、回転に起因したエアクッションと、転動体および/または軌道面との間に位置しているように、転動体および/または軌道面の近くに案内されるまで、転動室内に延びている。
【0024】
本発明は、高い軸受け回転数の場合ひいては転動室を「仕切る」、回転に起因した側方の高いエアクッションもしくはエアバリヤの場合でさえ、潤滑剤を直接的にかつ目標に向けて軸受けの軌道面範囲に注入することができるという利点を提供する。流体管路が、回転時に形成されるエアクッションの範囲を軸方向で貫いて転動室内に突入していることによって、圧縮空気または潤滑剤圧なしに、潤滑剤を軸受けに供給することができる。これによって、さらに、エネルギを著しく節約することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】軸を支承するための本発明に係る単列の転がり軸受けアッセンブリの断面図である。
【
図2】軸受け内輪と軸受け保持器との間の流体噴射位置を備えた本発明に係る単列の転がり軸受けアッセンブリの断面図である。
【
図3】軸受け外輪と軸受け保持器との間の流体噴射位置を備えた本発明に係る単列の転がり軸受けアッセンブリの断面図である。
【
図4】本発明に係る複列の転がり軸受けアッセンブリの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明を実施するための形態を図面につき詳しく説明する。
【0027】
以下の本発明の有利な実施の形態の説明において、同一の構成要素または対応する構成要素には、同じ符号が付してある。
【0028】
図1には、転がり軸受け13の転動室12内に流体(図示せず)を供給するための装置11を備えた転がり軸受けアッセンブリ10の横断面図が示してある。
【0029】
この転がり軸受けアッセンブリ10は、軸方向14で転がり軸受け13の側方に配置された流体供給リング15を有している。さらに、この側方の流体供給リング15から転動室12内に、流体用の少なくとも1つの管路16が設けられている。転動室12内では、軸受け内輪18と軸受け外輪19との間で軌道面において転動体17が転動し、その際、転動室12内に、軸方向14で転動体17の側方に位置する、回転に起因したエアクッション20を発生させる。流体管路16の、転動室12内に突入した端部は、この管路端部が、軸方向で、回転に起因したエアクッション20もしくはエアバリヤ(空気障壁)20と、転動体17および/または軌道面との間に位置しているように、転動室12内の転動体17および/または軌道面の近くに案内されている。
【0030】
図1に例示したアンギュラ玉軸受けアッセンブリ10は、軸21を支承するために働き、半径方向で軸受けハウジング22もしくは軸受けハウジング22のハウジング壁によって仕切られる。すなわち、転がり軸受けアッセンブリ10もしくはアンギュラ玉軸受けアッセンブリ10は、半径方向で見て、支承したい軸21と軸受けハウジング22との間に位置している。
【0031】
軸方向14で軸受け内輪18に直接隣接して、軸21に相対回動不能に中間リング23が位置している。この中間リング23は軸受け内輪18を軸方向で少なくとも部分的に軸21に位置決めしている。半径方向でさらに外側では、中間リング23の上方に流体供給リング15または流体分配リング15が位置している。このリング15は、転がり軸受け13に向けられた端面で軸受け外輪19の一方の端面に直接接触していて、したがって、軸受け外輪19を少なくとも部分的に軸方向で軸受けハウジング22内に位置決めしている。
【0032】
流体供給リング15は、少なくとも1つの半径方向の孔24を有している。この孔24によって、流体を軸受けハウジング22の外部から孔24を通して流体管路16にまで搬送することができる。この流体管路16は、図示の実施の形態では、軸方向14に延びている、すなわち、半径方向の孔24とほぼ90°の角度を成している。流体供給リング15の、流体供給通路と呼ぶこともできる半径方向の孔24は、半径方向外側に設けられた半径方向のハウジング孔25に開口している。このハウジング孔25を通して、流体、たとえば潤滑剤を、たとえばマイクロポンプを用いて流体溜めもしくは潤滑剤溜め(図示せず)から流体供給通路24と軸方向の流体管路16とに圧送することができ、これによって、最終的に、この流体管路16を介してエアバリヤ20の背後の潤滑箇所に到達させることができる。
【0033】
本発明にとって重要なことは、軸方向14に向けられた流体管路16が、軸方向で十分に転がり軸受け13の転動室12内に突入していて、転がり軸受け13の運転中に回転に起因して形成される、転動体17の側方のエアクッション20もしくはエアカーテン20が、流体管路16によって乗り越えられる、つまり、貫かれることにある。このためには、流体管路16の、転動室12内に突入した端部が、潤滑点、たとえば転動体17、軸受け保持器26および/または、内輪18または外輪19に設けられた軌道面の可能な限り近くに延びている。幾つかの実施の形態によれば、このために、流体管路16の、転動室12内に突入した区分が、0.8×(B
L−B
W)/2〜1.9×(B
L−B
W)/2の範囲内の延在長さLを有している。ここで、B
Lは、軸方向の軸受け軌道輪幅を意味しており、B
Wは、軸方向の転動体幅もしくは転動体直径を意味している。すなわち、流体管路16は、0.8×(B
L−B
W)/2〜1.9×(B
L−B
W)/2の長さLを備えて転がり軸受け13内に延びている。さらに言い換えて表現すると、流体管路16と転がり軸受け13とは、軸方向14でL=0.8×(B
L−B
W)/2〜L=1.9×(B
L−B
W)/2だけオーバラップ(重畳)している。
【0034】
円筒ころ軸受けの場合には、転がり軸受け内部への流体管路16の軸方向の延在長さL、すなわち、軸受け軌道輪縁部から軸受け内部までの流体管路16の軸方向の延在長さLが、たとえばL=0.85×(B
L−B
W)/2以上であってよい。この形態では、B
Wが、軸方向の円筒ころ延在長さを意味している。
図1に示したような玉軸受けの場合には、転がり軸受け内部への流体管路16の軸方向の延在長さLを、たとえば0.9×(B
L−B
W)/2以上に設定することができる。この形態では、B
Wが、玉直径を意味している。
【0035】
流体供給通路24の、半径方向内側に位置する端部から転動室12に向かって延びる流体管路16は、本実施の形態によれば、剛性的な流体管路、すなわち、ほぼ非可撓性の流体管路として形成されている。このために、幾つかの実施の形態によれば、流体管路16は、軸受け軌道輪18,19の外部に配置された、流体用の金属製の導管または中空管路として形成されていてよい。
図1に示した実施の形態から認めることができるように、流体管路16は注射針状に、すなわち、針管もしくは毛管として形成することができる。流体管路16は、軸方向で転がり軸受け13の側方に配置された流体供給リング15から、回転に起因したエアクッション20を貫いて転動室12の内部に転動体17の近くの潤滑点にまで延びている。
【0036】
図1には、右側に拡大して、注射針状の流体管路16の転動室側の可能な管路端部が示してある。注射針状の流体管路16の端部はその形状付与によって、たとえば種々異なる潤滑剤および/またはそれぞれ異なる潤滑剤量に適合させることができる。
図1の一番上側に拡大して示した斜めに延びる針先が、より大きな潤滑剤滴を放出するのに対して、一番下側の拡大図に示した鳩尾状に終わっている注射針16は、より小さな潤滑剤滴に適している。
【0037】
剛性的な流体管路16の、転動室12内に突入した端部を所望の流体滴形状および/または流体滴量に適合させることができるようにするために、幾つかの実施の形態によれば、少なくとも1つの流体管路16が交換可能である。これは、流体管路16が流体供給通路24に、たとえば解離可能な結合(たとえば螺合)によって接続されていてよいことを意味している。
【0038】
図1には、水平な組込み位置における単列の転がり軸受けアッセンブリ10の1つの実施の形態が示してあるのに対して、
図2には、鉛直な組込み位置における本発明に係る単列の転がり軸受けアッセンブリ30が示してある。
【0039】
図2に示した転がり軸受けアッセンブリ30の実施の形態でも、剛性的な流体注射針16は、軸受け回転軸線14に対してほぼ平行に流体供給リング15の流体供給通路24から、転動室12において軸受け内輪18と軸受け外輪19との間で転動する転動体17の潤滑したい周面の直前にまで延びている。
図1に示した実施の形態同様、流体注射針16は、軸受け内輪18と軸受け保持器26との間の半径方向内側に設けられた転動室範囲で終わっている。
【0040】
図3に示した、鉛直な組込み位置における転がり軸受けアッセンブリ35の実施の形態は、流体注射針16もしくは潤滑剤注射針16が、軸受け外輪19と軸受け保持器26との間で転動体周面にまで直接案内されるものの、この転動体周面に接触していない点でのみ、
図2に示した転がり軸受けアッセンブリ30の実施の形態と異なっている。すなわち、流体注射針16が、
図3に示した実施の形態では、軸受け外輪19と軸受け保持器26との間の半径方向外側に設けられた転動室範囲で終わっている。
【0041】
図1〜
図3につき、単列の転がり軸受けを備えた実施の形態を説明したのに対して、
図4には、本発明に係る複列の転がり軸受けアッセンブリ40の断面図が示してある。
【0042】
図4の実施の形態では、両転動体列の各々に、各転動体室12内に潤滑剤を供給するための装置11が割り当てられている。軸方向で隣り合った両転動体列に対する流体注射針16もしくは潤滑剤注射針16は、流体供給リング15に設けられた互いに別個の流体供給通路24に接続されていて、軸方向で互いに逆方向に向けられている。この実施の形態でも、ほぼ剛性的な流体管路16もしくは潤滑剤管路16は、たとえば軸受け内輪18と軸受け保持器26との間、すなわち、半径方向内側に設けられた転動室範囲において転動体表面で(ただし、この転動体表面に接触することなしに)終わっている。
【0043】
また、当然ながら、流体管路16が、たとえば軸受け回転軸線14に対して斜めに延びていて、たとえば軸受け内輪18または軸受け外輪19のすぐ近くで終わっていて、これによって、この軸受け内輪18または軸受け外輪19に加工成形された転動体軌道面を潤滑することができる別の実施の形態も可能である。このような実施の形態でも、斜めの流体管路が軸方向で十分に転がり軸受けの転動室内に突入していて、転がり軸受けの運転時に転動体の側方に形成される、回転に起因したエアクッションもしくはエアカーテンが、流体管路によって乗り越えられるようになっている。すなわち、流体管路の、流体が滴下する端部が、軸方向でエアクッションと転動体との間に位置している。
【符号の説明】
【0044】
10 第1の実施の形態に係る転がり軸受けアッセンブリ
11 転動室内に流体を供給するための装置
12 転動室
13 転がり軸受け
14 軸受け回転軸線
15 流体供給リング
16 流体管路
17 転動体
18 軸受け内輪
19 軸受け外輪
20 エアクッション
21 軸
22 軸受けハウジング
23 中間リング
24 孔、流体供給通路
25 流体用の軸受けハウジング孔
26 軸受け保持器
30 第2の実施の形態に係る転がり軸受けアッセンブリ
35 第3の実施の形態に係る転がり軸受けアッセンブリ
40 第4の実施の形態に係る転がり軸受けアッセンブリ