特許第6140992号(P6140992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6140992
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】車両用の等速ジョイント
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/20 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
   F16D3/20
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-265804(P2012-265804)
(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公開番号】特開2013-249947(P2013-249947A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年11月27日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0059998
(32)【優先日】2012年6月4日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(73)【特許権者】
【識別番号】512313436
【氏名又は名称】現代威亞株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】崔 元 準
(72)【発明者】
【氏名】金 容 辰
(72)【発明者】
【氏名】趙 香 徹
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−194089(JP,A)
【文献】 特開2009−174639(JP,A)
【文献】 特開2009−191911(JP,A)
【文献】 特開2009−250411(JP,A)
【文献】 特開2010−112469(JP,A)
【文献】 特開2010−164106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪及び内輪を備え、前記外輪と内輪との間に取り付けられるボールを収容するために多数のボールトラックが前記外輪の球状内面及び内輪の球状外面にそれぞれ形成され、前記外輪の球状内面に接触されて案内される球状外面と、前記内輪の球状外面に接触されて案内される球状内面とを有するケージを有する車両用の等速ジョイントにおいて、
前記外輪のボールトラックから前記ボールに働くボールトラック圧力角と、前記内輪のボールトラックから前記ボールに働くボールトラック圧力角とを相異させて設定すると共に前記外輪のボールトラック圧力角は、前記内輪のボールトラック圧力角よりも小さく設定されることを特徴とする車両用の等速ジョイント。
【請求項2】
前記外輪のボールトラック圧力角は、
35°〜40°の範囲内で設定されることを特徴とする請求項1に記載の車両用の等速ジョイント。
【請求項3】
前記内輪のボールトラック圧力角は、
40°〜45°の範囲内で設定されることを特徴とする請求項1に記載の車両用の等速ジョイント。
【請求項4】
前記外輪は、前記外輪のボールトラック圧力角が小さくなるほどその外径が縮まることを特徴とする請求項1に記載の車両用の等速ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用の等速ジョイントに係り、より詳しくは、外輪及び内輪のボールトラック(ball track)の構造を改善してトルク伝達効率を向上させる車両用の等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ジョイントは、回転軸の角度が異なる回転軸に回転動力(トルク)を伝えるためのものであり、動力伝達角度が小さな推進軸の場合にはフックジョイント、フレキシブルジョイントなどが用いられ、動力伝達角度が大きな自動車駆動軸の場合には等速ジョイントが用いられる。この種の等速ジョイントは、普通、球状の内面に多数の曲線状のボールトラックが形成される外輪と、これらの各ボールトラックに放射状に向かい合い、その球状の外面に多数の曲線状ボールトラックを形成した内輪と、放射状に向かい合う一対の各ボールトラックにそれぞれ収容されて内輪の回転動力を外輪に伝えるための多数のボールと、前記各ボールを支持するためのケージと、を備えてなる。ここで、ケージは、外輪の球状内面によって案内される球状外面と、内輪の球状外面によって案内される球状内面とを有し、各ボールを収容するための多数のポケットが円弧方向に沿って形成される。
【0003】
しかしながら、上述のような従来の車両用の等速ジョイントは、普通、前輪と後輪との区別なしに用いられるが、車両の前輪に適用される場合に、操向機能に起因して大きな角度の変化が求められることにより車両用の等速ジョイントのねじれ角が大きくなってしまい、且つ、内部部品間の摩擦力の発生に起因してトルク損失が生じてトルク伝達効率が低下するという問題点がある。
【0004】
また、等速ジョイントの内部において外輪及び内輪の各ボールトラックに接触されるボールの各圧力角の大きさに応じて摩擦力の大きさが決定されるが、圧力角を大きくすればするほど効率を増大させることはできるが、ボールがボールトラックの外側に押し出されることにより最大のねじれ角において外輪及び内輪のボールトラックからボールが離脱する現象が発生するという問題点がある。
【0005】
これにより、等速ジョイントの効率を増大させるべく圧力角を増大させながらボールトラックのマージンを確保するためには等速ジョイントのピッチ円径(PCD:Pitch Circle Diameter)を増大させることを余儀なくされ、その結果、全体的な外径及び重量が増大されて製作コストが高騰し、しかも、車両のパッケージ(Package)性能が低下するという問題点も抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−144287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点を解消するために案出されたものであって、本発明の目的は、外輪及び内輪のボールトラックの構造を改善してトルク伝達効率を向上させ、全体的な外径の縮径及び重量の低減を図って製作コストを削減し、車両のパッケージ性能を向上させる車両用の等速ジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る車両用の等速ジョイントは、外輪及び内輪を備え、前記外輪と内輪との間に取り付けられるボールを収容するために多数のボールトラックが前記外輪の球状内面及び内輪の球状外面にそれぞれ形成され、前記外輪の球状内面に接触されて案内される球状外面と、前記内輪の球状外面に接触されて案内される球状内面とを有するケージを有する車両用の等速ジョイントにおいて、前記外輪のボールトラックから前記ボールに働くボールトラック圧力角と、前記内輪のボールトラックから前記ボールに働くボールトラック圧力角とを相異させて設定すると共に前記外輪のボールトラック圧力角は、前記内輪のボールトラック圧力角よりも小さく設定されることを特徴とする。
前記外輪のボールトラック圧力角は、35°〜40°の範囲内で設定されることを特徴とする。
前記内輪のボールトラック圧力角は、40°〜45°の範囲内で設定されることを特徴とする。
前記外輪は、前記外輪のボールトラック圧力角が小さくなるほどその外径が縮まることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用の等速ジョイントによれば、外輪及び内輪のボールトラック構造を改善して外輪のボールトラック圧力角と内輪のボールトラック圧力角とをそれぞれ相異させるように設定したことにより、トルク伝達効率を向上させることができる。また、全体的な外径の軸径及び重量の低減を両立させて車両用の等速ジョイントの最大のねじれ角において外輪及び内輪のボールトラックからボールが離脱することを防止すると共に、製作コストが低減され、車両のパッケージ性能が向上する。さらに、等速ジョイントの内部部品である外輪、内輪、ボール及びケージ間の摩擦を低減して摩擦熱に対する熱損失を低減したことにより、全体的な耐久性の増大が図れる結果、商品性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る車両用の等速ジョイントの一例を示す正面図である。
図2】本発明に係る車両用の等速ジョイントにおける、外輪及び内輪のボールトラック圧力角の一例を示す図である。
図3】本発明に係る車両用の等速ジョイントにおける、圧力角に応じた数値及び効率を従来技術と比較して示す図表である。
図4】本発明に係る車両用の等速ジョイントにおける、外輪及び内輪の圧力角の違いに応じたジョイント角度と効率との関係を従来技術と比較して示すグラフである。
図5】本発明に係る車両用の等速ジョイントにおける、ジョイント角度に応じたトルク伝達効率の減少(Loss)を従来技術と比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に基づき、本発明の好適な実施形態について詳述する。なお、本発明について詳述するに先立って、本明細書に記載の実施形態及び図面に示す構成は本発明の最適な一実施形態に過ぎず、本発明の技術的思想をいずれも代弁するものではないため、本出願時点においてこれらに代え得る種々の均等物と変形例があり得る。本実施形態に係る車両用の等速ジョイントの正面図を図1に、また、本実施形態に係る車両用の等速ジョイントにおける、外輪及び内輪のボールトラック圧力角を図2に、圧力角に応じた数値及び効率を従来技術との比較表を図3に示したように、車両用の等速ジョイント1は、外輪10及び内輪20のボールトラック12、22の構造を改善してトルク伝達効率を向上させ、全体的な外径及び重量を低減して製作コストを削減し、車両のパッケージ性能を向上させるようになっている。このために、車両用の等速ジョイント1は、基本的に、外輪10及び内輪20を備え、外輪10と内輪20との間に取り付けられるボール30を収容するために多数のボールトラック12、22が外輪10の球状内面と内輪20の球状外面にそれぞれ形成され、外輪10の球状内面に接触されて案内される球状外面と、内輪20の球状外面に接触されて案内される球状内面とを有するケージ40を備えてなる。
【0012】
ここで、車両用の等速ジョイント1は、外輪10のボールトラック12からボール30に働くボールトラック圧力角θ1と、内輪20のボールトラック22からボール30に働く圧力角θ2とを相異させて設定する。外輪10のボールトラック圧力角θ1は、図2(a)に示すように、外輪10の曲率中心から前記ボール30のボール中心Cを通る仮想中心線Lを基準として外輪10のボールトラック12に接触する外輪10のボールトラック圧力点P1とボール中心Cとの間の角度として定義される。また、内輪20のボールトラック圧力角θ2は、図2(b)に示すように、外輪10の曲率中心からボール30のボール中心Cを通る仮想中心線Lを基準として内輪20のボールトラック22に接触する内輪20のボールトラック圧力点P2とボール中心Cとの間の角度として定義される。ここで、外輪10及び内輪20のボールトラック圧力点P1、P2は、各ボールトラック12、22とボール30とが互いに接触しながら作用荷重Fnが働く個所である。
【0013】
このように定義される外輪10及び内輪20の各ボールトラック圧力角θ1、θ2は、その大きさに応じて、各ボールトラック12、22に加えられる力が相違するが、まず、各圧力角θ1、θ2が小さな場合には各ボールトラック12、22に加えられる力が大きくなって外輪10及び内輪20とケージ40との間においてボール30の摩擦抵抗が増大してトルク伝達効率が低下することとなる。これとは逆に、外輪10及び内輪20の各ボールトラック圧力角θ1、θ2が大きな場合には、各ボールトラック12、22に加えられる力が小さくなって外輪10及び内輪20とケージ40との間においてボール30の摩擦抵抗が低減されることにより、トルク伝達効率が向上(増大)するが、等速ジョイントの全体的な大きさ及び重量も増えてしまうこととなる。本実施形態においては、外輪10のボールトラック圧力角θ1は、トルク伝達効率を増大させながらも等速ジョイント1の大きさ及び重量を低減できるように、内輪20のボールトラック圧力角θ2よりも小さく(θ1<θ2)設定されることが好ましい。
【0014】
ここで、外輪10のボールトラック圧力角θ1は35°〜40°の範囲内で設定されることが好ましく、内輪20のボールトラック圧力角θ2は40°〜45°の範囲内で設定されることが好ましい。また、外輪10は、外輪10のボールトラック圧力角θ1が小さくなるようにその外径が縮まることが好ましい。これにより、等速ジョイント1のピッチ円径(PCD:)Pitch Circle Diameter)が小さくなって大きさが縮小されると共に重量が低減される。本実施形態に係る等速ジョイント1では、図3に示したように、最適値としての内輪20のボールトラック圧力角θ2が42°に設定され、外輪10のボールトラック圧力角θ1は内輪20のボールトラック圧力角θ2よりも小さな37.5°に設定される。これにより、本実施形態に係る等速ジョイント1は、従来技術1に比べて効率は向上し、従来技術2に比べて効果はほとんど同様であるものの、外径が縮まると共に重量は低減されることが分かる。
【0015】
本実施形態に係る車両用の等速ジョイントにおける、外輪及び内輪の圧力角の違いに応じたジョイント角度と効率との関係を従来技術と比較したグラフを図4に示したとおり、本実施形態に係る等速ジョイント1は、図3の表に示した数値を基準としてジョイント角度の大きさに応じた効率において、外輪10及び内輪20のボールトラック圧力角θ1、θ2が両方とも小さく設定された従来技術1に比べて効率が向上したことが分かる。これとは逆に、等速ジョイント1は、外輪10及び内輪20のボールトラック圧力角θ1、θ2が両方とも大きく設定された従来技術2に比べて効率面では僅かな違いがあるとはいえ、外径の縮径及び重量の低減によるコスト節減及び車両のパッケージ性能の向上を両立させることが可能になる。
【0016】
本実施形態に係る車両用の等速ジョイントにおける、ジョイント角度に応じたトルク伝達効率の減少率を従来技術と比較したグラフを図5に示したように、この実施形態に係る車両用の等速ジョイント1は、外輪10のボールトラック圧力角θ1を内輪20のボールトラック圧力角θ2よりも小さく設定することにより、従来技術に比べて、ジョイント角度が変化するにつれてトルク伝達効率の減少(Loss)が著しく低下することが分かる。また、本実施形態に係る車両用の等速ジョイント1は、車両に適用したときに動力伝達効率を向上させると共に、内部部品間の摩擦を低減することにより、摩擦熱に対する熱損失を減らして外輪10の表面温度が従来の技術に比べて低くなる。
【0017】
したがって、上記の構成を有する本実施形態に係る車両用の等速ジョイント1を適用すると、外輪10及び内輪20のボールトラック構造を改善して外輪10のボールトラック圧力角θ1と内輪20のボールトラック圧力角θ2とを相異させて設定したことにより、トルク伝達効率を向上させることができる。また、全体的な外径の軸径及び重量の低減を両立させて車両用の等速ジョイント1の最大のねじれ角において外輪10及び内輪20のボールトラック12、22からボールが離脱することが防がれると共に、製作コストが節減され、車両のパッケージ性能が向上する。
【0018】
さらに、等速ジョイント1の内部部品である外輪10、内輪20、ボール30及びケージ40間の摩擦を低下させて摩擦熱に対する熱損失を低減したことにより、全体的な耐久性の増強が図れる結果、商品性が向上する。以上、本発明に係る好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲によって示した構成における均等の範囲内で、種々の修正及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0019】
1 等速ジョイント
10 外輪
12 外輪のボールトラック
20 内輪
22 内輪のボールトラック
30 ボール
40 ケージ
C ボール中心
Fn 作用荷重
L 仮想中心線
P1 外輪のボールトラック圧力点
P2 内輪のボールトラック圧力点
θ1 外輪のボールトラック圧力角
θ2 内輪のボールトラック圧力角
図1
図2
図3
図4
図5