【実施例】
【0047】
以下に、本発明の具体的な実施例を比較例と対比して説明する。これら実施例は、本発明の実施態様の一例であり、本発明がこれらの実施例に特に限定されるものではなく、また、これにより限定的に解釈されたりするものではない。
【0048】
〔実施例1〕
La
0.86Sr
0.11Ga
0.8Mg
0.2O
2.8で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と 、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.86:0.11:0.8:0.2となるように秤量し、乳鉢を用いて3時間粉砕混合した。得られた粉砕粉を大気中で1250℃にて2時間仮焼した。得られた仮焼粉を再度乳鉢により粉砕して得られた粉砕粉を、大気中で1400℃にて10時間本焼成した。得られた焼結体を粉砕することで、ランタンガレート複合酸化物Aの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Aの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.03、z=0.2である。
【0049】
(X線回折測定)
ランタンガレート複合酸化物Aの粉末のX線回折測定を行った。X線回折測定には、Rigaku社製のXRD測定装置RINT2000を使用した。40kV×40mAの出力のCuKα線をX線源とし、2°/分のスキャン速度で測定した。その結果、ランタンガレート複合酸化物Aはペロブスカイト構造に帰属できた。
【0050】
〔実施例2〕
La
0.90Sr
0.05Ga
0.8Mg
0.2O
2.8で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.90:0.05:0.8:0.2となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Bの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Bの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.05、z=0.2である。
ランタンガレート複合酸化物Bの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Bはペロブスカイト構造に帰属できた。
(酸素イオン伝導度測定)
ランタンガレート複合酸化物Bの粉末5gとGd
0.1Ce
0.9O
1.955gを、内容積250mlのジルコニア製ポットに入れ、直径5mmのジルコニアボールとともにフリッチュ社製の遊星ミルを用いて100rpmの回転速度で10分間粉砕混合した。単味のランタンガレート複合酸化物Bの粉末、または上記のランタンガレート複合酸化物Bの粉末とGd
0.1Ce
0.9O
1.95との混合物を用い、JIS曲げ試験(JIS−R1601) 片の作製方法に従い試験片を作製した。なお、試験片の焼成温度は1400℃とした。
酸素イオン伝導度の測定には直流4 端子法を用いた。上記試験片を用い、白金線を等間隔に白金ペーストで固定した後、1000℃で焼成し、試験片とした。測定は空気中で692.6K〜1075.58Kの温度範囲で5度/分の降温速度で降温しながら抵抗率を測定して逆数を酸素イオン伝導度とした。伝導は100%酸素イオン伝導性に基づくものと仮定した。計算式は以下の式を用いた。その結果を
図1に示す。
σ(S/cm)=電流( A )/電圧(V)×有効試験片長さ(cm)/試験片断面積(cm
2)
【0051】
〔実施例3〕
La
0.92Sr
0.02Ga
0.8Mg
0.2O
2.8で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.92:0.02:0.8:0.2となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Cの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Cの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.06、z=0.2である。
ランタンガレート複合酸化物Cの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Cはペロブスカイト構造に帰属できた。
【0052】
〔比較例1〕
La
0.8Sr
0.2Ga
0.8Mg
0.2O
2.8で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と 、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.8:0.2:0.8:0.2となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Dの粉末を得た。ランタンガレート複合酸化物Dの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.00、z=0.2である。
ランタンガレート複合酸化物Dの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Dはペロブスカイト構造に帰属できた。
実施例1と同様にして、単味のランタンガレート複合酸化物粉末Dからなる、またはランタンガレート複合酸化物Dの粉末とGd
0.1Ce
0.9O
1.95との混合物からなる酸素イオン伝導度測定用の焼結体を作製し、酸素イオン伝導度を測定した。その結果を
図1に示す。
【0053】
〔比較例2〕
La
0.79Sr
0.2Ga
0.8Mg
0.2O
2.785で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と 、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.79:0.2:0.8:0.2となるように秤量した以外には、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Eの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Eの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.01、z=0.215である。
ランタンガレート複合酸化物Eの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Eはペロブスカイト構造に帰属できた。
【0054】
〔比較例3〕
La
0.77Sr
0.2Ga
0.8Mg
0.2O
2.755で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と 、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.77:0.2:0.8:0.2となるように秤量した以外には、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Fの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Fの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.03、z=0.245である。
ランタンガレート複合酸化物Fの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Fはペロブスカイト構造に帰属できた。
【0055】
〔比較例4〕
La
0.75Sr
0.2Ga
0.8Mg
0.2O
2.725で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と 、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.75:0.2:0.8:0.2となるように秤量した以外には、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Gの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Gの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.05、z=0.275である。
ランタンガレート複合酸化物Gの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Gはペロブスカイト構造に帰属できた。
【0056】
〔比較例5〕
La
0.7Sr
0.2Ga
0.8Mg
0.2O
2.650で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と 、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.7:0.2:0.8:0.2となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Hの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Hの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.10、z=0.35である。
ランタンガレート複合酸化物Hの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Hはペロブスカイト構造に帰属できた。
【0057】
〔比較例6〕
(La
0.8Sr
0.2)
0.99Ga
0.8Mg
0.2O
2.786で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と 、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.792:0.198:0.8:0.2となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Iの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Iの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.01、z=0.214である。
ランタンガレート複合酸化物Iの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Iはペロブスカイト構造に帰属できた。
【0058】
〔比較例7〕
(La
0.8Sr
0.2)
0.97Ga
0.8Mg
0.2O
2.758で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と 、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.776:0.194:0.8:0.2となるように秤量した以外には、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Jの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Jの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.03、z=0.242である。
ランタンガレート複合酸化物Jの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Jはペロブスカイト構造に帰属できた。
【0059】
〔比較例8〕
(La
0.8Sr
0.2)
0.95Ga
0.8Mg
0.2O
2.73で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と 、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.76:0.19:0.8:0.2となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Kの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Kの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.05、z=0.27である。
ランタンガレート複合酸化物Kの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Kはペロブスカイト構造に帰属できた。
【0060】
〔比較例9〕
(La
0.8Sr
0.2)
0.90Ga
0.8Mg
0.2O
2.66で表わされるランタンガレート複合酸化物を作製するにあたり、La
2O
3と 、SrCO
3と 、Ga
2O
3と、MgOとをLaとSrとGaとMgが原子比で0.72:0.18:0.8:0.2となるように秤量した以外は、実施例1と同様にして、ランタンガレート複合酸化物Lの粉末とした。ランタンガレート複合酸化物Lの一般式(1)における組成xとyは、関係式(2)および(3)において、a=0.10、z=0.34である。
ランタンガレート複合酸化物Lの粉末のX線回折測定を実施例1と同様にして行った。ランタンガレート複合酸化物Lはペロブスカイト構造に帰属できた。
【0061】
(セリウム複合酸化物に対する化学的安定性の評価)
実施例1〜3および比較例1〜9で得られたランタンガレート複合酸化物A〜Lについて、固体酸化物形燃料電池の中間層であるCe
0.9Gd
0.1O
1.95に対する高温(1400℃)での化学的安定性について評価した。評価条件は以下の通りである。
実施例1〜3および比較例1〜9で得られたランタンガレート複合酸化物とCe
0.9Gd
0.1O
1.95とを重量比でランタンガレート複合酸化物:Ce
0.9Gd
0.1O
1.95=1:1となるよう秤量し、メノウ乳鉢を用いて乾式混合し、評価用の試料とした。その試料を1400℃にて2時間熱処理した。熱処理後の結晶相の変化をCuKα線を線源とするX線回折測定により調べ、ランタンガレート複合酸化物とCe
0.9Gd
0.1O
1.95との化学的反応性について評価した。X線回折測定には、Rigaku社製のXRD測定装置RINT2000を使用した。CuKα線の管電圧、管電流は、それぞれ40KV、40mAとし、2°/分の速度で連続測定した。
【0062】
上記実施例1〜3と比較例1〜9における、ランタンガレート複合酸化物(LSGM)とCe
0.9Gd
0.1O
1.95(GDC)との混合物の熱処理に対する安定性の評価結果を表1に示す。
実施例1〜3のランタンガレート複合酸化物A〜CとCe
0.9Gd
0.1O
1.95との混合物の熱処理後のX線回折パターンには、ランタンガレート複合酸化物に該当する回折ピークと、Ce
0.9Gd
0.1O
1.95に該当する回折ピークのみが観測された。しかし、比較例1〜9のランタンガレート複合酸化物D〜LとCe
0.9Gd
0.1O
1.95との混合物の熱処理後のX線回折パターンには、ランタンガレート複合酸化物とCe
0.9Gd
0.1O
1.95とが反応した結果として2θ=30°付近にLaSrGa
3O
7相に該当する回折ピークや、31.5°付近にLaSrGaO
4相に該当する回折ピークが観測された。
表1において、ランタンガレート複合酸化物とCe
0.9Gd
0.1O
1.95との混合物を熱処理した結果、2θ=30°付近にLaSrGa
3O
7相に該当する回折ピークが観測されなかった場合を○印で表わし、LaSrGa
3O
7相に該当する回折ピークが観測された場合は×印で表わした。
【0063】
【表1】
【0064】
表1より、実施例1〜3の本発明に係るAサイト欠損型のペロブスカイト構造を有するランタンガレート複合酸化物A〜Cは、1400℃の熱処理によって、不純物相であるLaSrGa
3O
7相が生成せず、Ce
0.9Gd
0.1O
1.95に対して化学的に安定であることがわかる。それに対し、本発明に該当しない従来のランタンガレート複合酸化物D〜Lは、1400℃において、ランタンガレート複合酸化物とCe
0.9Gd
0.1O
1.95とが反応した結果としてLaSrGa
3O
7相が生成していることが分かる。
【0065】
本発明に係わるAサイト欠損型ペロブスカイト構造を有するランタンガレート複合酸化物のセリウム複合酸化物に対する化学的安定性は、酸素イオン伝導度にも現れている。
図1に本発明のランタンガレート複合酸化物B、従来法のランタンガレート複合酸化物D、本発明のランタンガレート複合酸化物Bと中間層材料であるCe
0.9Gd
0.1O
1.95との混合物、および従来法のランタンガレート複合酸化物DとCe
0.9Gd
0.1O
1.95との混合物について、それぞれの焼結体試験片を用いて測定した酸素イオン伝導度の温度依存性を示す。
図1より実施例2のAサイト欠損型のペロブスカイト構造を有するランタンガレート複合酸化物BとGd
0.1Ce
0.9O
1.95との混合物から得られた焼結体試験片の酸素イオン伝導度は、熱処理によってもその酸素イオン伝導度が低下していないことがわかる。なお、
図1においてランタンガレート複合酸化物Bを◇で示し、ランタンガレート複合酸化物BとGd
0.1Ce
0.9O
1.95との混合物を◆で示す。一方、比較例1の化学量論組成のペロブスカイト構造を有するランタンガレート複合酸化物DとGd
0.1Ce
0.9O
1.95の混合物から得られた焼結体試験片の酸素イオン伝導度は、熱処理により大幅に低下していることがわかる。なお、
図1においてランタンガレート複合酸化物Dを○で示し、ランタンガレート複合酸化物DとGd
0.1Ce
0.9O
1.95との混合物を●で示す。これは、本発明に係わるAサイト欠損型のペロブスカイト構造を有するランタンガレート複合酸化物のGd
0.1Ce
0.9O
1.95に対する高温における化学的安定性が高いことに起因すると考えられる。
【0066】
すなわち、酸素イオン伝導度測定用の焼結体作製時の1400℃での熱処理の際に、実施例2の本発明に係わるAサイト欠損型のペロブスカイト構造を有するランタンガレート複合酸化物Bは、比較例1の化学量論組成のペロブスカイト構造を有するランタンガレート複合酸化物DよりもGd
0.1Ce
0.9O
1.95と反応しにくく、酸素イオン伝導性の低いLaSrGa
3O
7相や、LaSrGaO
4相を生じにくいことによると考えられる。
固体電解質として本発明に係わるランタンガレート複合酸化物を、中間層としてGd
0.1Ce
0.9O
1.95を使用して固体酸化物形燃料電池を作製した場合に、作製過程における熱処理により固体電解質と中間層とが反応しないため、作製した固体酸化物形燃料電池は優れた電池特性を示すことが期待できる。