特許第6141085号(P6141085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6141085
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】収穫機
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/04 20060101AFI20170529BHJP
   F16D 55/38 20060101ALI20170529BHJP
   A01D 45/02 20060101ALI20170529BHJP
   B60K 17/10 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   B60K17/04 C
   F16D55/38
   A01D45/02
   B60K17/10 C
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-88468(P2013-88468)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-210526(P2014-210526A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180507
【弁理士】
【氏名又は名称】畑山 吉孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137590
【弁理士】
【氏名又は名称】音野 太陽
(72)【発明者】
【氏名】内 孝広
(72)【発明者】
【氏名】新家 衛
(72)【発明者】
【氏名】福岡 義剛
(72)【発明者】
【氏名】木村 竜一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】上北 千春
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有作
(72)【発明者】
【氏名】熊取 剛
(72)【発明者】
【氏名】永田 康弘
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−105021(JP,A)
【文献】 特開2000−324913(JP,A)
【文献】 特開2005−029117(JP,A)
【文献】 特開2009−083796(JP,A)
【文献】 特開平09−207590(JP,A)
【文献】 特開2012−046152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/04
A01D 45/02
B60K 17/10
F16D 55/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の前車輪に伝える伝動機構を備えている収穫機であって、
前記伝動機構が、前記変速ケースからの駆動力が伝えられる左右一対の走行駆動軸と、この左右一対の走行駆動軸からの駆動力を左右の前記前車輪のうち対応したものに伝える左右一対の伝動ケースと、前記走行駆動軸を収容する状態で前記変速ケースと前記伝動ケースとに対して両端部が連結する筒状の左右一対の駆動軸ケースと、
前記変速ケースの前下側、且つ、前記駆動軸ケースの前下側に位置する状態で、左右の前記伝動ケースを連結する支持フレームと、を備え
左側の前記伝動ケースが前記変速ケースから左側に離れた位置に配置され、かつ、左側の前記駆動軸ケースは、前記変速ケースと前記左側の伝動ケースとに亘るように設けられ、
右側の前記伝動ケースが前記変速ケースから右側に離れた位置に配置され、かつ、右側の前記駆動軸ケースは、前記変速ケースと前記右側の伝動ケースとに亘るように設けられ、
前記支持フレームは、前記変速ケースから前下側に離れた箇所において、前記左右の伝動ケースに亘るように設けられている収穫機。
【請求項2】
走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の走行装置に伝える伝動機構を備えている収穫機であって、
前記伝動機構が、前記変速ケースからの駆動力が伝えられる左右一対の走行駆動軸と、この左右一対の走行駆動軸からの駆動力を左右の前記走行装置のうち対応したものに伝える左右一対の伝動ケースと、前記走行駆動軸を収容する状態で前記変速ケースと前記伝動ケースとに対して両端部が連結する筒状の左右一対の駆動軸ケースと、
左右の前記伝動ケースの内部空間同士を連通させるように、左右の前記伝動ケースを連結する筒状の支持フレームと、を備え、
前記支持フレームは、油圧機器に対して給排されるオイルを貯留可能であり、
前記支持フレームが、前記変速ケースとは別体に構成され、
前記支持フレームの左端部が、左側の前記伝動ケース内に入り込んでいると共に、前記支持フレームの右端部が、右側の前記伝動ケース内に入り込んでいる収穫機。
【請求項3】
左右の前記伝動ケースの各々に対してブレーキ機構を内蔵している請求項1または2に記載の収穫機。
【請求項4】
走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の走行装置に伝える伝動機構を備えている収穫機であって、
前記伝動機構が、前記変速ケースからの駆動力が伝えられる左右一対の走行駆動軸と、この左右一対の走行駆動軸からの駆動力を左右の前記走行装置のうち対応したものに伝える左右一対の伝動ケースと、前記走行駆動軸を収容する状態で前記変速ケースと前記伝動ケースとに対して両端部が連結する筒状の左右一対の駆動軸ケースと、を備え、
前記伝動ケースが、前記走行駆動軸と平行姿勢で前記走行装置に駆動力を伝える車軸を備えると共に、前記伝動ケースの内部空間に、前記走行機体の中央側から外側に向けて順に並ぶように、前記走行駆動軸に支持されたブレーキ機構と、前記走行駆動軸からの駆動力を減速する第1ギヤ減速機構と、前記第1ギヤ減速機構で減速された駆動力を減速して車軸に伝える第2ギヤ減速機構と、を備え、
左右の前記伝動ケースを連結する支持フレームを備え
前記支持フレームの左端部が、左側の前記伝動ケースにおける前記変速ケース側の部分のうち、前記走行駆動軸の径方向にて、前記ブレーキ機構の外周部よりも外側であって前記ブレーキ機構と隣り合う部位に連結されると共に、前記支持フレームの右端部が、右側の前記伝動ケースにおける前記変速ケース側の部分のうち、前記走行駆動軸の径方向にて、前記ブレーキ機構の外周部よりも外側であって前記ブレーキ機構と隣り合う部位に連結されている収穫機。
【請求項5】
前記伝動ケースの内部空間が、前記第1ギヤ減速機構が配置される内側空間と、前記第2ギヤ減速機構が配置される外側空間とを有し、前記走行機体の左右傾斜時において前記内側空間と前記外側空間との間でのオイルの流れを制限する隔壁が前記伝動ケースの内部に備えられている請求項4に記載の収穫機。
【請求項6】
前記ブレーキ機構が、多板式の摩擦ブレーキである請求項3〜5のいずれか一項に記載の収穫機。
【請求項7】
前記ブレーキ機構が、前記伝動ケースの内部空間のうち前記走行機体の中央側に偏位した位置に配置されている請求項3〜6のいずれか一項に記載の収穫機。
【請求項8】
前記支持フレームに貯留されているオイルを油圧機器に供給する供給油路が形成されると共に、前記油圧機器からのオイルを戻す還元油路が前記伝動ケースの前記ブレーキ機構の上部に接続している請求項3〜7のいずれか一項に記載の収穫機。
【請求項9】
左右の前記伝動ケースの前記ブレーキ機構を同時に操作する連係操作機構を備えている請求項3〜8のいずれか一項に記載の収穫機。
【請求項10】
前記伝動ケースが、前記走行機体の内側に配置される内側ケースと、前記走行機体の外側に配置される外側ケースとに分離自在に連結して構成され、前記内側ケースが前記走行機体の機体フレームに支持されている請求項1〜9のいずれか一項に記載の収穫機。
【請求項11】
前記変速ケースが、前記エンジンの駆動力を無段階に変速する静油圧式の無段変速装置を備えて構成されている請求項1〜10のいずれか一項に記載の収穫機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の走行装置に伝える伝動機構を備えている収穫機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された作業機として特許文献1には、変速ケース(文献ではミッションケース)の下部から左右に突出した駆動軸によりクローラ式の走行装置を駆動する伝動機構を有したコンバインが示されている。具体的には、左右の駆動軸の外端にスプロケットを備え、このスプロケットにクローラベルトを巻回する伝動構成を有している。
【0003】
この特許文献1の収穫機では、左右の駆動軸に制動力を作用させる左右のブレーキが変速ケースの内部に備えられている。左右のブレーキを操作する際には、爪クラッチの切り操作に連動してブレーキの制動操作を行うように作動形態が設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002‐293149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
収穫機として自脱型のコンバインを考えると、この種のコンバインは穀粒タンクを備えているため作業時には重量化する。このような理由から、特許文献1に記載されるように駆動軸の駆動力を走行装置に対して直接的に伝える伝動構成では、走行に必要とするトルクを得るために変速ケースでは大きい減速比となる変速装置を必要とし、変速ケースの大型化を招くものであった。
【0006】
また、駆動軸に大きいトルクが作用するものでは、駆動軸の強度を高めるため駆動軸の大径化を招くことにも繋がるものであった。
【0007】
異なる観点から考えると、作業時に重量化した機体の走行を停止するためには強力な制動力を得るブレーキを必要とする。これに対して、特許文献1に記載されるように変速ケースの内部にブレーキを備える収穫機では、強力に制動を行うために大型のブレーキを必要とし、変速ケースの大型化を招くものであった。
【0008】
本発明の目的は、走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の走行装置に伝える伝動機構を備えた収穫機を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一発明の特徴は、走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の前車輪に伝える伝動機構を備えている収穫機であって、
前記伝動機構が、前記変速ケースからの駆動力が伝えられる左右一対の走行駆動軸と、この左右一対の走行駆動軸からの駆動力を左右の前記前車輪のうち対応したものに伝える左右一対の伝動ケースと、前記走行駆動軸を収容する状態で前記変速ケースと前記伝動ケースとに対して両端部が連結する筒状の左右一対の駆動軸ケースと、
前記変速ケースの前下側、且つ、前記駆動軸ケースの前下側に位置する状態で、左右の前記伝動ケースを連結する支持フレームと、を備え
左側の前記伝動ケースが前記変速ケースから左側に離れた位置に配置され、かつ、左側の前記駆動軸ケースは、前記変速ケースと前記左側の伝動ケースとに亘るように設けられ、
右側の前記伝動ケースが前記変速ケースから右側に離れた位置に配置され、かつ、右側の前記駆動軸ケースは、前記変速ケースと前記右側の伝動ケースとに亘るように設けられ、
前記支持フレームは、前記変速ケースから前下側に離れた箇所において、前記左右の伝動ケースに亘るように設けられている点にある。
【0010】
この構成によると、変速ケースからの駆動力は走行駆動軸から伝動ケースに伝えられ、この伝動ケースから走行装置に伝えられることになる。
従って、走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の走行装置に伝える伝動機構を備えた収穫機が構成された。
【0011】
本発明の第二発明の特徴は、走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の走行装置に伝える伝動機構を備えている収穫機であって、
前記伝動機構が、前記変速ケースからの駆動力が伝えられる左右一対の走行駆動軸と、この左右一対の走行駆動軸からの駆動力を左右の前記走行装置のうち対応したものに伝える左右一対の伝動ケースと、前記走行駆動軸を収容する状態で前記変速ケースと前記伝動ケースとに対して両端部が連結する筒状の左右一対の駆動軸ケースと、
左右の前記伝動ケースの内部空間同士を連通させるように、左右の前記伝動ケースを連結する筒状の支持フレームと、を備え、
前記支持フレームは、油圧機器に対して給排されるオイルを貯留可能であり、
前記支持フレームが、前記変速ケースとは別体に構成され、
前記支持フレームの左端部が、左側の前記伝動ケース内に入り込んでいると共に、前記支持フレームの右端部が、右側の前記伝動ケース内に入り込んでいる点にある。
【0012】
この構成によると、変速ケースからの駆動力は走行駆動軸から伝動ケースに伝えられ、この伝動ケースから走行装置に伝えられることになる。
従って、走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の走行装置に伝える伝動機構を備えた収穫機が構成された。
さらに、左右の伝動ケースの内部空間が、駆動軸ケースを介して変速ケースの内部空間と連通する状態となり、更に、支持フレームの内部空間とをオイルの貯留空間に用いるため、オイルの貯留空間を拡大することが可能となる。
【0013】
上記構成において、左右の前記伝動ケースの各々に対してブレーキ機構を内蔵していると好適である。
【0014】
これによると、変速ケースの内部にブレーキ機構を備えるもののように、変速ケースの大型化を招くことがない。
【0015】
本発明の第三発明の特徴は、走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の走行装置に伝える伝動機構を備えている収穫機であって、
前記伝動機構が、前記変速ケースからの駆動力が伝えられる左右一対の走行駆動軸と、この左右一対の走行駆動軸からの駆動力を左右の前記走行装置のうち対応したものに伝える左右一対の伝動ケースと、前記走行駆動軸を収容する状態で前記変速ケースと前記伝動ケースとに対して両端部が連結する筒状の左右一対の駆動軸ケースと、を備え、
前記伝動ケースが、前記走行駆動軸と平行姿勢で前記走行装置に駆動力を伝える車軸を備えると共に、前記伝動ケースの内部空間に、前記走行機体の中央側から外側に向けて順に並ぶように、前記走行駆動軸に支持されたブレーキ機構と、前記走行駆動軸からの駆動力を減速する第1ギヤ減速機構と、前記第1ギヤ減速機構で減速された駆動力を減速して車軸に伝える第2ギヤ減速機構と、を備え、
左右の前記伝動ケースを連結する支持フレームを備え
前記支持フレームの左端部が、左側の前記伝動ケースにおける前記変速ケース側の部分のうち、前記走行駆動軸の径方向にて、前記ブレーキ機構の外周部よりも外側であって前記ブレーキ機構と隣り合う部位に連結されると共に、前記支持フレームの右端部が、右側の前記伝動ケースにおける前記変速ケース側の部分のうち、前記走行駆動軸の径方向にて、前記ブレーキ機構の外周部よりも外側であって前記ブレーキ機構と隣り合う部位に連結されている点にある。
【0016】
この構成によると、変速ケースからの駆動力は走行駆動軸から伝動ケースに伝えられ、この伝動ケースから走行装置に伝えられることになる。
従って、走行機体のエンジンの駆動力を、変速ケースから左右の走行装置に伝える伝動機構を備えた収穫機が構成された。
さらに、変速ケースの内部にブレーキ機構を備えるもののように、変速ケースの大型化を招くことがない。
さらに、伝動ケースに第1ギヤ減速機構と第2減速機構とを備えることにより、変速ケースで減速のために用いるギヤの数を低減して変速ケースの小型化が可能となる。また、第1ギヤ減速機構と第2ギヤ減速機構とで構成される減速系より変速ケース側に近い伝動系に制動力を作用させるので、ブレーキ機構に作用するトルクを低減でき、ブレーキ機構の大型化を抑制できる。
【0017】
上記構成において、前記伝動ケースの内部空間が、前記第1ギヤ減速機構が配置される内側空間と、前記第2ギヤ減速機構が配置される外側空間とを有し、前記走行機体の左右傾斜時において前記内側空間と前記外側空間との間でのオイルの流れを制限する隔壁が前記伝動ケースの内部に備えられていると好適である。
【0018】
これによると、走行機体が左右方向に大きく傾斜して第2ギヤ減速機構が持ち上げられる状況でも、この第2ギヤ減速機構が配置された空間のオイルが流れ出す不都合を隔壁が抑制することになり潤滑に必要なオイルを確保できる。
【0019】
上記構成において、前記ブレーキ機構が、多板式の摩擦ブレーキであると好適である。
【0020】
これによると、ブレーキ機構を構成する多板式の摩擦ブレーキにより強い制動力を得ることが可能となる。
【0021】
上記構成において、前記ブレーキ機構が、前記伝動ケースの内部空間のうち前記走行機体の中央側に偏位した位置に配置されていると好適である。
【0022】
これによると、伝動ケースのうち走行装置から離間する位置にブレーキ機構が配置されるので、ブレーキ機構を大型化した構成でも走行装置との距離を拡大して、走行装置との接触を回避できる。
【0023】
上記構成において、前記支持フレームに貯留されているオイルを油圧機器に供給する供給油路が形成されると共に、前記油圧機器からのオイルを戻す還元油路が前記伝動ケースの前記ブレーキ機構の上部に接続していると好適である。
【0024】
これによると、支持フレームのオイルを油圧機器に供給することが可能になると共に、ブレーキ機構が発熱した場合には、油圧機器から戻されるオイルが、ブレーキ機構の上部から下部に流れることによりブレーキ機構の熱をオイルで奪い良好な冷却が実現する。
【0025】
上記構成において、左右の前記伝動ケースの前記ブレーキ機構を同時に操作する連係操作機構を備えていると好適である。
【0026】
これによると、連係操作機構により左右のブレーキ機構を同時に操作することが可能となる。
【0027】
上記構成において、前記伝動ケースが、前記走行機体の内側に配置される内側ケースと、前記走行機体の外側に配置される外側ケースとに分離自在に連結して構成され、前記内側ケースが前記走行機体の機体フレームに支持されていると好適である。
【0028】
これによると、内側ケースと外側ケースとを分離することにより、内部空間を開放して伝動ケースの内部のメンテナンスを容易にする。
【0029】
上記構成において、前記変速ケースが、前記エンジンの駆動力を無段階に変速する静油圧式の無段変速装置を備え構成されていると好適である。
【0030】
これによると、無段変速装置により走行速度を無段階に設定できる。
【0031】
【0032】
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】トウモロコシ収穫機の全体の側面図である。
図2】トウモロコシ収穫機の全体の平面図である。
図3】機体フレームの構成を示す平面図である。
図4】変速ケースと伝動ケースとの側面図である。
図5】変速ケースから前車輪に駆動力を伝える伝動機構の正面図である。
図6】変速ケースと支持フレームとの側面図である。
図7】トウモロコシ収穫期の油圧回路図である。
図8】変速ケースから前車輪に駆動力を伝える伝動機構の模式図である。
図9】変速ケースと伝動ケースと支持フレームとの断面図である。
図10】変速ケースの断面図である。
図11】伝動ケースと支持フレームの端部との断面図である。
図12】変速ケースの外壁面に形成された油路の断面図である。
図13】隔壁を示す図である。
図14】磨耗チェッカーを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1図2に収穫機の一例としてホイール走行型のトウモロコシ収穫機を示している。このトウモロコシ収穫機は、走行装置としての左右一対の前車輪1と、左右一対の後車輪2とを備えると共に、走行機体Fの前部位置にキャビン3を備えている。走行機体Fの前端に昇降自在に収穫部Aを備え、走行機体Fの中央位置には収穫部Aで収穫したトウモロコシを後方上方に搬送するフィーダBを備えている。走行機体Fの後端位置にはフィーダBで搬送されたトウモロコシを貯留する貯留タンクとしての収穫物タンク4を備え、走行機体Fの下側で前車輪1と後車輪2との中間には残稈処理装置Cを備えている。
【0035】
本実施形態では、前車輪1を走行装置の具体例として示しているが、走行装置が前車輪1と後車輪2と駆動する4輪駆動型に構成されるものでも良い。また、走行装置として、6輪や8輪以上の多数の車輪を備え、全ての車輪を駆動する全輪駆動側に構成されるものでも良く、走行装置としてクローラベルトを有するクローラ走行装置に構成されるものでも良い。
【0036】
植物としてのトウモロコシは、植立する茎稈に対し収穫時期に多数の実を内包する複数の房状部を作る。この房状部の包葉の内部に多数の種子(穀物としてのトウモロコシ)が含まれ、この種子は棒状の芯の外面に整列する形態で形成される。本発明においてトウモロコシと称する場合には、棒状の芯の外周に多数の種子を備えたもの(収穫物の具体例)を指す。
【0037】
〔走行機体の構成〕
図1図3に示すように、走行機体Fは、前後に延びる左右一対の機体フレーム6と、この前部位置のキャビンフレーム7と、走行機体Fの前後方向の中央位置の原動部フレーム8と、機体フレーム6の後部位置のタンクフレーム9とを連結して構成されている。機体フレーム6の前部位置には左右の前車輪1に駆動力を伝える変速ケースMが支持されている。機体フレーム6の後部位置には左右の後車輪2を支持する後車輪フレーム11が支持され、この後車輪フレーム11と平行する姿勢でステアリングシリンダ12(油圧機器の一例)が備えられている。なお、変速ケースMは潤滑油(オイル)の貯留部として機能する。
【0038】
キャビンフレーム7は、キャビン3を支持するように配置されている。原動部フレーム8は、左右一対の機体フレーム6の横幅方向に形成され、これにエンジン10が支持され、この上方にラジエータ13が備えられる。
【0039】
タンクフレーム9に対し、走行機体Fの左側で前後向き姿勢の切換軸芯Qを中心に揺動自在に収穫物タンク4が支持され、この収穫物タンク4を前後から挟む位置にダンプシリンダ19(油圧機器の一例)が配置されている。ダンプシリンダ19は、ボトム側を機体フレーム6に支持し、ピストンロッドの先端側を収穫物タンク4に支持している。
【0040】
この構成により、ダンプシリンダ19が収縮する状態では、この収穫物タンク4の上部開口4Aが上方に開放する格納姿勢に保持され、ダンプシリンダ19を伸長させることにより、上部開口4Aが側方に開放してトウモロコシの排出が可能となる排出姿勢に設定される。
【0041】
図1に示すように、収穫部Aは、機体フレーム6の前端位置に対して横向き姿勢の揺動軸芯Rを中心に揺動自在に支持され、この収穫部Aの前端側を昇降させる左右一対のリフトシリンダ14(油圧機器の一例)を走行機体Fの前部位置に備えている。このリフトシリンダ14は基端部が、支持フレーム63に支持され、ピストンロッドの先端側が収穫部Aに連結されている。この構成により、リフトシリンダ14の伸縮により揺動軸芯Rを中心にする揺動により収穫部Aの前端側の昇降が可能となる。なお、支持フレーム63は潤滑油(オイル)の貯留部として機能する。
【0042】
この収穫部Aは、横方向に並列する複数列の導入経路が形成され、夫々の導入経路において穀稈から分離されたトウモロコシを後方に挟持搬送するように、導入経路を挟む位置に搬送機構15が配置されると共に、搬送機構15で搬送されたトウモロコシを横方向の中央位置に移送するように横向き姿勢の軸芯を中心に回転するオーガ16を備えている。
【0043】
フィーダBは、オーガ16の中央位置に移送されたトウモロコシを、後方上方に搬送するように斜め姿勢となる筒状ケース17の内部にコンベアを備えて構成されている。このフィーダBの搬送終端位置にはトウモロコシと共に排出される葉の一部や稈身の一部等の非収穫物を風圧により吹き飛ばす排塵ファン18を備えている。
【0044】
残稈処理装置Cは、横向き姿勢の回転軸21に対して複数の破砕刃21Aを備え、これらを下方に開放する処理ケース22の内部に備えた構成を有している。エンジン10から伝えられる駆動力により回転軸21が回転し、破砕刃21Aが圃場面の残稈を細断破砕し、土壌に拡散させる処理を行う。
【0045】
また、走行機体Fの中央位置には、縦向き姿勢の昇降シリンダ23(油圧機器の一例)が備えられている。昇降シリンダ23はボトム側を機体フレーム6に支持し、ピストンロッドの先端に回転自在にスプロケットを備えている。機体フレーム6に一端を連結し、他端を残稈処理装置Cに連結したチェーン24の中間をスプロケットに巻き掛けている。この構成により、昇降シリンダ23を収縮させることにより、チェーン24を弛緩させて残稈処理装置Cを地面に接地させ、昇降シリンダ23を伸長させることにより、残稈処理装置Cを地面から上方に離間させることが可能となる。
【0046】
キャビン3は前面には透明ガラス製のフロントガラス25を備え、側部には開閉自在に透明ガラス製のドア26を備えている。キャビン3の内部には作業者が着座する運転座席27と、ステアリングホイール28と、ブレーキペダル29を備えている。キャビンフレーム7の左側部には、縦向き姿勢の支軸を中心に姿勢変更自在に乗降用のラダー30を備えている。
【0047】
また、このトウモロコシ収穫機では、エンジン10の駆動力をベルト式の主伝動ユニットにより変速ケースMに伝える走行伝動系を有している。これと同様にエンジン10の駆動力をカウンター軸に伝え、このカウンター軸から収穫部AとフィーダBと残稈処理装置Cとに伝えるベルト式の伝動ユニットを備えている。
【0048】
このような構成から。トウモロコシ収穫機は、左右の前車輪1の駆動により走行機体Fを走行させ、キャビン3の内部のステアリングホイール28の操作でステアリングシリンダ12を制御して操向制御が可能となる。また、収穫作業時には、収穫部AとフィーダBとを駆動することにより、収穫部Aでトウモロコシが収穫され、収穫されたトウモロコシがフィーダBで搬送され、収穫物タンク4の上部開口4Aから内部に落下供給する形態で貯留される。このように収穫物タンク4に貯留されたトウモロコシはダンプシリンダ19の作動により収穫物タンク4から排出可能となる。
【0049】
また、フィーダBでトウモロコシと伴に搬送される葉の一部や稈身の一部は排塵ファン18からの風圧により吹き飛ばされる。更に、収穫作業により圃場面に残された穀稈は、残稈処理装置Cにより破砕され土壌に拡散される形態で処理される。
【0050】
〔走行伝動系〕
図5図6図8図11に示すように、このトウモロコシ収穫機では、変速ケースMで変速された駆動力を左右の前車輪1(走行装置の一例)に伝える伝動機構を備えている。伝動機構は、変速ケースMと、左右一対の走行駆動軸61と、左右一対の伝動ケースTと、左右一対の駆動軸ケース62とを備えて構成されている。この伝動機構では、変速ケースMで変速された駆動力を左右一対の走行駆動軸61から左右の伝動ケースTに伝え、更に、この伝動ケースTから左右の前車輪1に伝える。左右の走行駆動軸61は、左右の駆動軸ケース62に収容されており、この駆動軸ケース62で保護される。
【0051】
また、駆動軸ケース62の内部空間が内端位置で変速ケースMの内部空間に連通し、駆動軸ケース62の内部空間が外端位置で伝動ケースTの内部空間に連通している。これにより、変速ケースMの内部空間と、駆動軸ケース62の内部空間と、伝動ケースTの内部空間との間での潤滑油(オイル)の流通が可能となる。前述したように変速ケースMは潤滑油(オイル)の貯留部として機能し、これに連通状態で連結する駆動軸ケース62と、伝動ケースTとが潤滑油(オイル)の貯留部として機能する。このトウモロコシ収穫機では潤滑油(オイル)を貯留するための専用のタンク(例えば、リザーブタンク)を備え、このタンクを、変速ケースM、支持フレーム63、あるいは、駆動軸ケース62に連通させるように構成しても良い。
【0052】
更に、左右の伝動ケースTで対向する面(走行機体Fの中央に向かう面)に対して筒状の支持フレーム63の両端部が連結している。この支持フレーム63は、円筒状であり、左側の端部を左側の伝動ケースTの下部位置に挿入する状態で連結し、右側の端部を右側の伝動ケースTの下部位置に挿入する状態で連結している。これにより左右の伝動ケースTの内部空間と支持フレーム63の内部空間とが連通し、これらの間での潤滑油(オイル)の流通が可能となる。なお、支持フレーム63は4角形や6角形等の多角形となる筒状材を用いることが可能である。
【0053】
前述したように支持フレーム63に対して左右一対のリフトシリンダ14の基端部分が支持されている。この支持フレーム63の一方の端部に備えたブラケット64が、一方の伝動ケースTに連結することにより支持フレーム63の位置が固定されている。
【0054】
〔走行伝動系:変速ケース〕
図8図10に示すように、変速ケースMは、ケース体34により外壁が形成されると共に、上部位置には入力プーリ35と一体回転する入力軸36を備え、これより下側に上部中間軸37と、下部中間軸38とを備えている。この変速ケースMの上部位置の外壁面には、静油圧式の無段変速装置V(油圧機器の一例)を備えている。変速ケースMの内部で上部中間軸37には遊星変速部Mp(ギヤ式減速機構の一例)を備え、上部中間軸37と下部中間軸38との間には副変速部Msを備え、この変速ケースMの下部にはデファレンシャルギヤMdを備えている。なお、無段変速装置VとしてベルトCVTやトロイダルCVTを用いても良い。
【0055】
静油圧式の無段変速装置Vは、変速ケースMの外壁に連結するポートブロック41と、この外面に連結する無段変速ケース42とで形成される変速空間に対してアキシャルプランジャ型の可変容量ポンプVpと、アキシャルプランジャ型の定容量モータVmとを収容している。
【0056】
可変容量ポンプVpは、受動軸43と一体的に回転するシリンダブロックと、このシリンダブロックに嵌め込まれた複数のプランジャの作動量を決める斜板45とを備えて構成されている。これと同様に、定容量モータVmは、変速出力軸44と一体的に回転するシリンダブロックと、このシリンダブロックに嵌め込まれた複数のプランジャの作動を回転力に変換する固定斜板とを備えて構成されている。また、ポートブロック41には可変容量ポンプVpのシリンダと、定容量モータVmのシリンダとに連通する油路が形成されている。
【0057】
可変容量ポンプVpの受動軸43を、変速ケースMの入力軸36と同軸芯で連結しており、定容量モータVmの変速出力軸44を、上部中間軸37と同軸芯で相対回転可能に配置している。
【0058】
この無段変速装置Vは、可変容量ポンプVpの斜板45の角度を調節することにより、可変容量ポンプVpからポートブロック46送り出されるオイル量を調節し、このポートブロック41から定容量モータVmに供給されるオイル量を調節して定容量モータVmの回転速度の増減速を実現する一般的な構成を有している。
【0059】
斜板45の角度を変更自在に支持するトラニオン軸45Aが変速ケースMのケース体34に対して回動自在に支持され、図6に示すようにトラニオン軸45Aを操作する変速操作アーム46が、キャビン3の内部の主変速レバー、あるいは、変速ペダルと連係している。
【0060】
これにより、主変速レバー等の変速操作に伴い斜板45の角度を変化させることにより、変速出力軸44を一方の方向に回転させる正転駆動状態と、変速出力軸44の回転を停止する停止状態と、変速出力軸44を逆方向に回転させる逆転駆動状態との間での無段階の変速を実現する。
【0061】
遊星変速部Mpは、変速出力軸44の軸端に取り付けたサンギヤ51と、上部中間軸37と一体回転するキャリア52と、このキャリア52に対して回転自在に支持したプラネタリギヤ53と、上部中間軸37に回転自在に支持された内歯型のリングギヤ54とを備えている。
【0062】
サンギヤ51は、複数のプラネタリギヤ53と咬合し、この複数のプラネタリギヤ53はリングギヤ54に咬合する。リングギヤ54の外周にはギヤ部54Aが形成され、このギヤ部54Aに対して入力軸36と一体回転する入力側ギヤ39が咬合している。
【0063】
この遊星変速部Mpでは、入力軸36からの駆動力で受動軸43が回転する場合には入力側ギヤ39の駆動力によってリングギヤ54が回転する。このリングギヤ54の回転方向は走行機体Fを前進させる方向である。この構成から、無段変速装置Vの変速出力軸44が停止する状況では、遊星変速部Mpのリングギヤ54の回転により前車輪1には前進方向に駆動力が伝えられることになる。
【0064】
従って、走行機体Fの走行を停止させる場合には、リングギヤ54の前進方向への駆動力を、変速出力軸44の後進方向への回転により相殺するように、斜板45の角度を設定することになる。
【0065】
このような構成の採用により、走行機体Fを前進させる際の変速操作時における斜板45の角度の設定可能領域を拡大するとともに、リングギヤ54が常に回転するため、このリングギヤ54に対して入力側ギヤ39で駆動されない構成と比較して前進速度の増大を実現している。
【0066】
上部中間軸37と下部中間軸38との間には、回転速度を高低2段に切り換えるようにギヤ式の副変速部Msを備えている。更に、下部中間軸38の駆動力をデファレンシャルギヤMdに伝える中間伝動ギヤ40を備えている。尚、副変速部Msはキャビン3の内部の副変速レバーと連係している。
【0067】
デファレンシャルギヤMdは、中間伝動ギヤ40と咬合するデフリングギヤ57と、このデフリングギヤ57と一体回転するデフケースに回転自在に支持された一対のピニオンギヤ58と、一対のピニオンギヤ58に咬合する左右一対のサイドギヤ59とを備えて構成されている。
【0068】
〔伝動機構〕
前述したように、伝動機構は、変速ケースMと、左右一対の走行駆動軸61と、左右一対の伝動ケースTと、左右一対の駆動軸ケース62とを備えて構成されている。また、左右の走行駆動軸61の内端は、デファレンシャルギヤMdの左右のサイドギヤ59のうち対応するものと一体回転するようにスプライン嵌合している。この走行駆動軸61の外端は伝動ケースTの内部空間に挿通している。
【0069】
図11に示すように、左右の伝動ケースTは、走行機体Fの内側に配置される内側ケース65と、走行機体Fの外側に配置される外側ケース66とを分離自在にボルトにより連結した構造を有している。内側ケース65と外側ケース66との境界位置となる内部空間に多板摩擦式のブレーキ機構Tbを備え、外側ケース66の内部空間にギヤ減速機構Tg(第1ギヤ減速機構の一例)と、遊星減速機構Tp(第2ギヤ減速機構の一例)とを備えている。つまり、伝動ケースTにおいて走行機体Fの中央側に偏位した位置にブレーキ機構Tbを配置し、これより外側にギヤ減速機構Tgと遊星減速機構Tpとを配置している。このように伝動ケースTで減速を行うように構成されているため、走行駆動軸61に作用するトルクを低減でき、ブレーキ機構Tbに作用するトルクも低減できる。
【0070】
図4図5に示すように、左右の伝動ケースTの内側ケース65は、各々対応する左右の機体フレーム6の下面側にボルトにより連結固定されている。この構成により、伝動ケースTのメンテナンス等の作業を行う場合には、内側ケース65を走行機体側に残したまま、外側ケース66を内側ケース65から分離することになり内部空間を大きく開放して作業を容易に行える。
【0071】
外側ケース66の内部空間には走行駆動軸61と平行姿勢で、この走行駆動軸61より前側に中間支軸67が配置されている。ギヤ減速機構Tgは、走行駆動軸61の回転を減速して中間支軸67に伝える一対の減速ギヤ68を備えて構成されている。
【0072】
中間支軸67と同軸芯となる車軸69が外側ケース66に対して回転自在に支持されている。車軸69は走行駆動軸61と平行姿勢であり、この車軸69の外端にはハブ69Aが一体的に形成され、このハブ69Aに対して前車輪1が取り付けられる。
【0073】
また、ギヤ減速機構Tgが配置される内側空間と、遊星減速機構Tpが配置される外側空間との境界位置には、夫々が配置された空間を仕切る形態で外側空間と内側空間との間でのオイルの流れを制限する隔壁70を備えている。図13に示すように、隔壁70の上下方向での中間位置には潤滑油の流れを可能にする複数の開口70Aが形成されている。この構成により、開口70Aが潤滑油の流れを確保すると共に、走行機体Fが左右方向の何れかに大きく傾斜して、遊星減速機構Tpの部位が持ち上げられる状況においても隔壁70が潤滑油の流れを制限して遊星減速機構Tpは充分な作動油を確保する。なお、隔壁70は外側ケース66と一体的に形成されたものを示しているが、この隔壁70は伝動ケースTの内部にビス等で固定されるものや、伝動ケースTの内部に嵌め込まれるものであっても良い。
【0074】
図8図9図11に示すように、遊星減速機構Tpは、中間支軸67に備えた減速サンギヤ71と、これに咬合する複数の減速プラネタリギヤ72と、この複数の減速プラネタリギヤ72が咬合する減速リングギヤ73と、減速プラネタリギヤ72の公転力を車軸69に伝える減速キャリア74とを備えている。尚、減速リングギヤ73は外側ケース66に対して固定されている。
【0075】
このように、伝動機構は、変速ケースMで変速された駆動力を左右の走行駆動軸61から左右の伝動ケースTに伝える。伝動ケースTでは、走行駆動軸61の駆動力をギヤ減速機構Tgの一対の減速ギヤ68が減速して中間支軸67に伝える。次に、中間支軸67の駆動力は、減速サンギヤ71から減速プラネタリギヤ72に伝えられ、この減速プラネタリギヤ72が減速リングギヤ73の内周に沿って公転する作動を行う。この公転により減速された駆動力が減速キャリア74から車軸69に伝えられ、前車輪1の駆動による走行が実現する。
【0076】
図11図14に示すように、ブレーキ機構Tbは、走行駆動軸61の外端に係合する複数の摩擦板と、ケース内面に係合する摩擦板とで成る摩擦板ユニット81を備えると共に、これらに圧接方向に力を作用させる圧接リング82とを備えて多板摩擦式に構成されている。この圧接リング82は走行駆動軸61の軸芯Xを中心に回転自在に支持されると共に、この圧接リング82には周方向に沿って複数のカム溝82Aが形成され、これらのカム溝82Aの各々にボール83が嵌り込んでいる。これらのボール83はカム溝82Aと内側ケース65の内面とに挟まれる位置に配置される。
【0077】
カム溝82Aは、軸芯Xを中心に圧接リング82が回転した際にボール83が乗り上がるように周方向に沿って傾斜する姿勢で形成されている。
【0078】
図8に示すように、左右のブレーキ機構Tbの圧接リング82を、軸芯Xを中心にして回転操作する一対のブレーキ操作軸85が、駆動軸ケース62の上方位置で、この駆動軸ケース62と平行する姿勢で配置されている。これらブレーキ操作軸85にはブレーキ操作アーム86を備えており、このブレーキ操作アーム86の端部に操作ロッド87が連結している。この左右の操作ロッド87と、前述したブレーキペダル29とが緩衝機構88を介して連係している。
【0079】
緩衝機構88は、左右の操作ロッド87の上端に圧縮コイルバネを備え、ブレーキペダル29が踏み込み操作された場合に、左右の圧縮コイルバネを圧縮させる形態で左右の操作ロッド87を引き上げ方向に操作する構成を有している。なお、この緩衝機構88として、圧縮コイルバネに代えて、圧縮されるゴム等の弾性部材を用いることや、引っ張りコイルバネを用いることが可能である。また、この緩衝機構88に対してブレーキペダル29の操作力を伝えるワイヤを用いても良い。
【0080】
このように左右のブレーキ機構Tbを操作する構成によって連係操作機構が構成れている。この連係操作機構の構成から、走行時にブレーキペダル29が作業者によって踏み込み操作された場合には、この操作力が、左右のブレーキ操作軸85から左右のブレーキ機構Tbの圧接リング82を回転させる。そして、この回転によりボール83がカム溝82Aに乗り上げる形態となり、圧接リング82を軸芯Xに沿ってシフトさせ、摩擦板ユニット81の複数の摩擦板を圧接させて車軸69に制動力を作用させるのである。
【0081】
また、緩衝機構88を備えたことにより、左右のブレーキ機構Tbの摩擦板ユニット81の磨耗量が等しくない状況でも、ブレーキペダル29を踏み込み操作した場合には、緩衝機構88が左右の摩擦板ユニット81の摩擦板が等しく圧接するまで(操作ロッド87からの操作反力が等しくなるまで)左右のブレーキ操作軸85を回動操作することが可能となり、左右で偏りのない制動を実現する。
【0082】
左右の伝動ケースTには、ブレーキ機構Tbを構成する摩擦板ユニット81の磨耗をチェックするため、図14に示す磨耗チェッカー78を備えている。この磨耗チェッカー78は、本体78Aと、これに一体的に形成された大径部78Bとを有しており、伝動ケースTの内側ケース65に対し走行駆動軸61の軸芯Xと平行する方向に移動できるように貫通状態で支持されている。また、大径部78Bと本体78Aとの境界部分にはオイルシール79を備えており、本体78Aの外周には複数のチェックラインを設定間隔で形成したインジケート部78Cが形成されている。
【0083】
この磨耗チェッカー78は人為操作により内部に押し込み操作自在に構成されている。チェックを行う場合には、本体78Aの外端側を伝動ケースTの内部空間の方向に押し込み操作することにより、大径部78Bの端部が摩擦板ユニット81に接触し、複数の摩擦板同士が接触する状態に達し、磨耗チェッカー78の押し込みの限界に達する。
【0084】
このように押し込みの限界に達した状態でインジケート部78Cの複数のチェックラインと伝動ケースTの外壁面との位置関係は、摩擦板ユニット81の磨耗量により変化するため、磨耗量が増大したことをチェックラインから把握できる。このような原理を利用することにより、磨耗チェッカーを人為的に押し込み操作するだけで、摩擦板ユニット81の磨耗量を把握してメンテナンス時期を容易に把握できるようにする。なお、この磨耗チェッカー78では、チェックラインに代えて摩擦板ユニット81の交換時期を認識させるための目印や数字等を本体78Aの外面に形成しても良い。
【0085】
〔支持フレーム〕
図4図9に示すように、左右の伝動ケースTの一部が下方に突出する形状を有しており、この下方への突出部のうち走行機体Fの中央側に向かう面を貫通する状態で支持フレーム63が備えられている。このように支持フレーム63を備えることにより、左右の伝動ケースTの内部空間と支持フレーム63の内部空間とが連通する。
【0086】
この支持フレーム63は、変速ケースMの内部空間に貯留される潤滑油(オイル)の液面Lより低い位置に配置されている。尚、変速ケースMの内部に貯留される潤滑油の液面Lは、入力軸36と、上部中間軸37との中間レベルに設定されている。
【0087】
前述したように変速ケースMの内部空間と、駆動軸ケース62の内部空間と、伝動ケースTの内部空間とが連通し、左右の伝動ケースTの内部空間と、支持フレーム63の内部空間とが連通している。このような構成により、変速ケースMの内部空間と、左右の駆動軸ケース62の内部空間と、左右の伝動ケースTの内部空間と、支持フレーム63の内部空間が潤滑油の貯留部として機能する。これらの内部空間を利用することにより潤滑油の貯留量の増大を実現しており、表面積を拡大して潤滑油の放熱を良好に行わせ得るものにしている。
【0088】
支持フレーム63の左右方向での中央位置から支持フレーム63の内部空間に貯留される作動油を油圧機器に送り出す供給油路が形成されている。この供給油路として、支持フレーム63の左右方向での中央位置においてサクションパイプ91が上方から内部に向けて貫通する状態で備えられている。更に、このサクションパイプ91から送り出された潤滑油を、作動油として油圧機器に供給するように供給油路が構成されている。この供給油路については後述する。
【0089】
支持フレーム63の内部空間と変速ケースMの内部空間とをオイルの流通が可能に連通させる連通部材として連通配管90を備えている。つまり、支持フレーム63に形成されたプラグと、変速ケースMの下部に形成されたプラグとを繋ぐ状態で連通配管90を備えている。このトウモロコシ収穫機では、変速ケースMの内部空間が、駆動軸ケース62の内部空間と、伝動ケースTの内部空間とを介して支持フレーム63の内部空間と連通しているため、これら駆動軸ケース62と伝動ケースTとが連通部材として機能する。前述したように連通部材として単一の連通配管90を示しているが、この連通部材として、例えば、2つ、あるいは3つ以上となる複数の連通配管90を備えることも可能である。また、連通部材として柔軟に変形し得る(可撓性の)樹脂製やゴム製のホースを用いることや、金属パイプを用いることが可能である。
【0090】
また、左右の伝動ケースTを繋ぐ位置に支持フレーム63を備えているので、左右の伝動ケースTの相対的な位置関係を維持して左右の前車輪1の位置を安定させることが可能となる。更に、支持フレーム63が駆動軸ケース62より前方位置に配置されるので、走行時に例えば、圃場の突出物が変速ケースMや駆動軸ケース62に接触する状況であっても、この突出物が支持フレーム63に先に接触する。これにより、突出物が変速ケースMや駆動軸ケース62に直接接触して破損する不都合を阻止できる。
【0091】
〔油圧回路〕
このトウモロコシ収穫機では、油圧機器として無段変速装置Vと、ステアリングシリンダ12と、リフトシリンダ14と、ダンプシリンダ19と、昇降シリンダ23とが備えられている。また、油圧機器によって操作される作業部として、ステアリングシリンダ12で操作される後車輪2と、リフトシリンダ14で操作される収穫部Aと、ダンプシリンダ19で操作される収穫物タンク4と、昇降シリンダ23で操作される残稈処理装置Cとが備えられている。
【0092】
また、油圧機器は、これらに限られるものではなく、例えば、フィーダBの排出方向を設定するダクトを備えたものでは、ダクトの排出姿勢を設定する油圧シリンダや油圧モータが油圧機器となる。また、走行機体Fの姿勢を左右にローリングさせる構成ではローリング作動を行わせるローリングシリンダが油圧機器となる。また、ローリングシリンダを備えた場合には、このローリングシリンダで上下に作動する車輪やクローラ走行装置が作業部の具体的な構成となる。更に、フィーダBにダクトの排出姿勢を設定する構成では、このダクトが作業部の具体的な構成となる。
【0093】
図7に示すように、エンジン10によって駆動される第1油圧ポンプP1と第2油圧ポンプP2とが備えられている。リフトシリンダ14と、ダンプシリンダ19と、昇降シリンダ23とに対応するリフト制御弁V14と、ダンプ制御弁V19と、昇降制御弁V23とに対して第1油圧ポンプP1からの作動油を供給する油路が形成されている。また、ステアリングシリンダ12を制御するステアリングバルブV12とメータリングポンプM12とに対して第2油圧ポンプP2からの作動油を供給する油路が形成されている。
【0094】
無段変速装置Vには、受動軸43によって駆動されるチャージポンプPCを備えており、このチャージポンプPCからの作動油は、チャージ用オイルフィルタ47を介して可変容量ポンプVpと定容量モータVmとの間の油路に供給される。
【0095】
図12に示すように、変速ケースMを構成するケース体34の外壁面の一部に凹状部34Aを形成し、この凹状部34Aを覆う位置にプレート93を取り付けて供給油路を形成している。また、ケース体34の外面には、この供給油路から送られる作動油を清浄化する主オイルフィルタ94が取付られている。
【0096】
支持フレーム63の内部空間に貯留されている作動油は、サクションパイプ91から供給管92に送られ、この供給管92から変速ケースMの外壁に溝状に形成された凹状部34Aで成る外部油路に供給される。この外部油路から主オイルフィルタ94を通過した作動油は、この後、主オイルフィルタ94の上側に形成される凹状部34Aに流れ、この凹状部34Aを覆うプレート93に接続するチャージ用油路97からチャージポンプPCに供給され、このプレート93に接続する主供給油路98から第1油圧ポンプP1と第2油圧ポンプP2とに供給される。
【0097】
また、この油圧回路では油圧機器からの作動油は還元油路95に流れ、図9に示すように、変速ケースMの主還元ポート34Pと、左右の伝動ケースTの副還元ポート65Pとに何れかに戻される。
【0098】
主還元ポート34Pは、変速ケースMの内部の遊星変速部Mpの近傍の上方に配置され、油圧機器から戻される作動油を、遊星変速部Mpの各ギヤに潤滑油として供給できる。つまり、変速ケースMの内部に貯留される潤滑油の液面Lが、入力軸36より下方であるので遊星変速部Mpの一部は液面Lより上方に位置しており、この部位に作動油を還元することにより潤滑油の供給不足を解消し、遊星変速部Mpの冷却も行う。
【0099】
副還元ポート65Pは、伝動ケースTの内部のブレーキ機構Tbの上部に近接する位置に配置され、油圧機器から戻される作動油を、ブレーキ機構Tbの上部に供給してブレーキ機構Tbの冷却を行えるようにしている。前述したように潤滑油の液面Lが決められることにより、ブレーキ機構Tbの摩擦板ユニット81の上部が液面Lより上方に露出する状態となる。このような理由から摩擦板ユニット81の露出部位に作動油を還元することによりブレーキ機構Tbの冷却を確実に行えるようにしているのである。
【0100】
この油圧回路では、還元油路95からの作動油を前述した主還元ポート34Pと副還元ポート65Pとにだけ還元する構成に限るものではない。つまり、これらの還元位置に加えて、例えば、変速ケースMの副変速部Msの上方に作動油を還元するようにポートを形成する等、変速ケースMに対して、主還元ポート34Pとは別に2つあるいは3つ以上となる複数のポートを形成し、これらに還元油路95からの作動油を還元するように構成しても良い。尚、無段変速装置Vから排出されるオイルの一部はオイルクーラ96で放熱した後にオイル貯留部に戻される。
【0101】
特に、支持フレーム63を変速ケースMの潤滑油の液面Lより低い位置に配置し、しかも、この支持フレーム63の内部空間のうち底部に近い部位からサクションパイプ91により潤滑油を吸引することにより、空気が混入しない作動油を吸引して、作動油として油圧機器に供給することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、自脱型コンバイン、普通型コンバイン、サトウキビ収穫機等の収穫機に利用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 走行装置(前車輪)
4 貯留タンク(収穫物タンク)
6 機体フレーム
10 エンジン
12 油圧機器(ステアリングシリンダ)
14 油圧機器(リフトシリンダ)
19 油圧機器(ダンプシリンダ)
23 油圧機器(昇降シリンダ)
61 走行駆動軸
62 駆動軸ケース
63 支持フレーム
65 内側ケース
66 外側ケース
69 車軸
70 隔壁
91 供給油路・サクションパイプ
95 還元油路
A 収穫部
F 走行機体
M 変速ケース
T 伝動ケース
Tg 第1ギヤ減速機構(ギヤ減速機構)
Tp 第2ギヤ減速機構(遊星減速機構)
Tb ブレーキ機構
V 油圧機器・無段変速装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14