特許第6141092号(P6141092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6141092ガス化発電プラントの制御装置、ガス化発電プラント、及びガス化発電プラントの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6141092
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】ガス化発電プラントの制御装置、ガス化発電プラント、及びガス化発電プラントの制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02C 3/28 20060101AFI20170529BHJP
   C10J 3/46 20060101ALI20170529BHJP
   C10J 3/48 20060101ALI20170529BHJP
   F23L 7/00 20060101ALI20170529BHJP
   F23N 5/00 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   F02C3/28
   C10J3/46 H
   C10J3/46 J
   C10J3/48
   F23L7/00 A
   F23N5/00 T
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-94273(P2013-94273)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-214706(P2014-214706A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】田村 憲
(72)【発明者】
【氏名】藤井 貴
(72)【発明者】
【氏名】堤 孝則
(72)【発明者】
【氏名】木嶋 太志
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−336551(JP,A)
【文献】 特開平05−240577(JP,A)
【文献】 特開平11−022485(JP,A)
【文献】 特開2003−336081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/46
F01K 23/10
F02C 3/28, 6/18
F23L 7/00
F23N 5/00
F25J 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気から酸素ガスと窒素ガスとを分離する空気分離装置、前記酸素ガスを酸化剤として炭素含有燃料をガス化させるガス化炉、及び前記ガス化炉によって生成されたガスをガス精製設備で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービンを備えるガス化発電プラントの制御装置であって、
前記空気分離装置によって製造される前記窒素ガスの製造量を、前記ガス化発電プラントの運転負荷に応じて決定する空気分離量決定部を備え、
前記空気分離量決定部によって決定された前記窒素ガスの製造量に応じて副生された酸素ガスの全量を、前記ガス化炉へ供給するガス化発電プラントの制御装置。
【請求項2】
前記ガス化炉へ供給される酸化剤の合計量を、前記ガスタービンから抽気される空気量によって調整する請求項1記載のガス化発電プラントの制御装置。
【請求項3】
前記ガス化発電プラントの運転負荷は、前記ガス化発電プラントに対する出力指令値である請求項1又は請求項2記載のガス化発電プラントの制御装置。
【請求項4】
前記ガス化炉は、ガス化炉内のスラグを溶融するスラグ溶融バーナを備え、
前記スラグ溶融バーナが用いられる場合、前記空気分離装置で製造された酸素ガスは、炭素含有燃料をガス化させるバーナよりも前記スラグ溶融バーナに優先して供給される請求項1から請求項3の何れか1項記載のガス化発電プラントの制御装置。
【請求項5】
前記ガス化発電プラントは、前記ガスタービンの空気圧縮機より抽気した空気又は該空気より分離される酸素を前記ガス化炉の酸化剤として供給する酸化剤供給路を備え、
前記ガス化発電プラントが静定状態の場合、炭素含有燃料の理論燃焼酸化剤量に対して前記ガス化炉に供給される酸化剤量の比である空気比を固定とする空気比固定モードとし、前記ガス化炉の運転状態量又は前記ガス化発電プラントの負荷が変動した場合、前記空気比を変動可能とする空気比変動モードとする請求項1から請求項4の何れか1項記載のガス化発電プラントの制御装置。
【請求項6】
前記ガス化発電プラントは、前記ガスタービンの空気圧縮機より抽気した空気又は該空気より分離される酸素を前記ガス化炉の酸化剤として供給する酸化剤供給路を備え、
前記ガス化炉の運転状態量の変動又は前記ガス化発電プラントの負荷の変動に応じて、炭素含有燃料の理論燃焼酸化剤量に対して前記ガス化炉に供給される酸化剤量の比である空気比が予め定められた設定値からずれることを許容して、前記ガス化炉に供給する酸化剤量を所定の上限値内で制御する請求項1から請求項4の何れか1項記載のガス化発電プラントの制御装置。
【請求項7】
空気から酸素ガスと窒素ガスとを分離する空気分離装置と、
前記酸素ガスを酸化剤として炭素含有燃料をガス化させるガス化炉と、
前記ガス化炉によって生成されたガスをガス精製設備で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービンと、
請求項1から請求項6の何れか1項記載の制御装置と、
を備えるガス化発電プラント。
【請求項8】
空気から酸素ガスと窒素ガスとを分離する空気分離装置、前記酸素ガスを酸化剤として炭素含有燃料をガス化させるガス化炉、及び前記ガス化炉によって生成されたガスをガス精製設備で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービンを備えるガス化発電プラントの制御方法であって、
前記空気分離装置によって製造される窒素ガスの製造量を、前記ガス化発電プラントの運転負荷に応じて決定する第1工程と、
前記第1工程によって決定された前記窒素ガスの製造量に応じて副生された酸素ガスの全量を、前記ガス化炉へ供給する第2工程と、
を含むガス化発電プラントの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス化発電プラントの制御装置、ガス化発電プラント、及びガス化発電プラントの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、石炭火力プラントの発電効率を向上させるため、石炭ガス化複合発電(IGCC;Integrated Gasification Combined Cycle)プラントが、開発・実用化されている。このIGCCプラントは、ガス化炉によって石炭をガス化して得られる生成ガスをガス精製設備で精製して得られる可燃性ガスを燃料として運転するガスタービンと、ガスタービンの排熱を回収して得られる蒸気により運転する蒸気タービンとを備えた構成とされている。
【0003】
特許文献1には、空気中の窒素と酸素を沸点の違いを利用して分留する酸素製造装置によって製造した酸素又は酸素富化空気を用いて石炭をガス化し、ガスタービンにより発電する石炭ガス化発電プラントが開示されている。
【0004】
また、特許文献2に開示されているように、石炭ガス化炉の下部にスラグ溶融バーナが設置されている装置もある。通常、石炭ガス化炉のコンバスタ内の温度は、石炭中の灰分の溶融温度以上となるように維持されているが、運転状態や石炭性状の変動等により石炭中の灰分が一時的に排出不良になる場合がある。このようなときにスラグ排出口下部に設置されているスラグ溶融バーナによって、スラグを溶融させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−22485号公報
【特許文献2】特開2010−91193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒素ガスで搬送した微粉炭を石炭ガス化炉へ燃料として供給する噴流床ガス化炉では酸素濃度が、ガス化炉に投入される入熱を規定するパラメータであるガス化炉入力指令(GID;Gasifier Input Demand)に対して一定となるように酸化剤の供給量をフィードバック制御(酸素濃度一定制御)している(図12参照)。なお、ここでいう酸素濃度とは、石炭ガス化炉のコンバスタ部へ供給される空気及び酸素ガス等の酸化剤と搬送用の窒素ガス等に代表されるイナートガスの合計ガス量に占める酸素濃度である。
特に、空気吹きのIGCCプラントでは、石炭ガス化炉へ供給される空気として、ガスタービンが有する圧縮機からの抽気を空気昇圧機にて再加圧して使用し、酸素ガスは空気分離設備(ASU)で窒素ガスを製造する際に副生するものを使用している。また、石炭ガス化炉へ供給する酸化剤流量は、石炭ガス化炉の負荷見合いで増減するべく、図13に示されるように制御している。
【0007】
ここで、酸素濃度を計算する際に必要となる窒素ガス量(微粉炭の搬送用の窒素ガス)は、精度の高い計測が難しいため各種状態量に基づいて算出するが、各種状態量の変動によって算出される窒素ガス量も変動する。ガス化炉に投入されるガス中の酸素濃度を一定とすべく制御すると、窒素ガス量の変動に伴って、空気流量及び酸素流量といった酸化剤流量の指令値も変動することとなる。
また、ガスタービンからの抽気を空気昇圧機にて再加圧して使用する上述の空気流量は、空気昇圧機が有するIGVの開閉調整により比較的容易に調整できる。一方、深冷分離方式等による空気分離設備は、応答が遅いため、酸素流量指令値の変動分を予め考慮し、常時酸素及び窒素を放風して運転する必要がある。
【0008】
石炭ガス化炉の下部にスラグ溶融バーナが設置されている装置において、スラグの溶融には高温が必要なため、空気分離設備で製造された酸素ガスを使用するが、使用時期が予測困難なスラグ溶融バーナのために、常時スラグ溶融バーナが使用する酸素ガス流量分を放風する必要があり、空気分離設備の動力増の要因となっている。
なお、スラグ溶融バーナは、ガス化炉の状態量や石炭性状の変動により、一時的に溶融スラグの排出性が悪くなったときに、加熱し排出性を改善するために使用するものである。
【0009】
また、上述した制御を考慮し、消費側の変動に対応するために、常時余剰の酸素ガス及び窒素ガスを放風する運転をしており、動力損失の一因となっている。
【0010】
さらに、IGCCプラントが発電出力指令(MWD;Mega Watt Demand)によって運転されている場合、石炭ガス化炉は、石炭ガス化炉の出口圧力が設定値を維持するように、GIDに関連付けられた石炭流量や酸化剤流量に基づいて制御されている。しかし、GIDも変動が多く、これも酸素ガス流量が変動する一因となっている。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、空気から製造された酸素ガスの放風を最小限にすることができる、ガス化発電プラントの制御装置、ガス化発電プラント、及びガス化発電プラントの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のガス化発電プラントの制御装置、ガス化発電プラント、及びガス化発電プラントの制御方法は以下の手段を採用する。
【0013】
本発明の第一態様に係るガス化発電プラントの制御装置は、空気から酸素ガスと窒素ガスとを分離する空気分離装置、前記酸素ガスを酸化剤として炭素含有燃料をガス化させるガス化炉、及び前記ガス化炉によって生成されたガスをガス精製設備で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービンを備えるガス化発電プラントの制御装置であって、前記空気分離装置によって製造される前記窒素ガスの製造量を、前記ガス化発電プラントの運転負荷に応じて決定する空気分離量決定部を備え、前記空気分離量決定部によって決定された前記窒素ガスの製造量に応じて副生された酸素ガスの全量を、前記ガス化炉へ供給する。
【0014】
本発明によれば、ガス化発電プラントは、空気から酸素ガスと窒素ガスとを分離する空気分離装置、前記酸素ガスを酸化剤として炭素含有燃料をガス化させるガス化炉、及びガス化炉によって生成されたガスをガス精製設備で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービンを備える。炭素含有燃料は例えば石炭である。
【0015】
ガス化炉へ供給される炭素含有燃料の量は、ガス化発電プラントの運転負荷に応じて定められ、定められた炭素含有燃料の量を搬送するための窒素ガスが必要とされる。そして搬送用の窒素ガスと共に酸素ガスが空気分離装置によって空気から製造される。
【0016】
従来、空気分離装置によって製造される窒素ガスは、消費側の変動に対応するために酸素ガスと共に余剰に製造し、余剰となった窒素ガス及び酸素ガスは放風されていた。
【0017】
そこで、上述の空気分離量決定部によって、空気分離装置で製造される窒素ガスの製造量が、ガス化発電プラントの運転負荷に応じて決定され、窒素ガスの製造量に応じて副生された酸素ガスの全量が、ガス化炉へ供給される。
これにより、窒素ガスと共に酸素ガスが余剰に製造されることが無く、副生された酸素ガスの全量がガス化炉へ供給されるので、本発明は、空気から製造された酸素ガスの放風を最小限にすることができる。
【0018】
上記第一態様では、前記ガス化炉へ供給される酸化剤の合計量を、前記ガスタービンから抽気される空気量によって調整することが好ましい。
【0019】
本発明によれば、空気分離装置によって製造された酸素ガスの量が少なくても、ガスタービンから空気をガス化炉へ抽気することによって、ガス化炉へ供給されるガスにおける酸素濃度を制御することなく、ガス化炉で消費される酸素ガスの量を満たす酸素をガス化炉へ供給可能とする。
【0020】
上記第一態様では、前記ガス化発電プラントの運転負荷を前記ガス化発電プラントに対する出力指令値とすることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、ガス化発電プラントに対する出力指令値に基づいて窒素ガスの製造量が決定される。これにより酸素ガスの製造量が一意に決定されることとなる。出力指令値は、ガス化炉に投入される入熱を規定するパラメータであるガス化炉入力指令値に比べて、より安定した値を示すので、窒素ガス並びに酸素ガスの製造量もより安定したものとなる。
【0022】
上記第一態様では、前記ガス化炉は、ガス化炉内のスラグを溶融するスラグ溶融バーナ
を備え、前記スラグ溶融バーナが用いられる場合、前記空気分離装置で製造された酸素ガスは、炭素含有燃料をガス化させるバーナよりも前記スラグ溶融バーナに優先して供給されることが好ましい。
【0023】
本発明によれば、スラグ溶融バーナが用いられる場合、製造された酸素ガスが、炭素含有燃料をガス化させるバーナよりも優先してスラグ溶融バーナに供給されるので、スラグ溶融バーナへ常時、酸素ガスを供給する必要が無くなる。あるいは、スラグ溶融バーナで使用される酸素ガスの量を考慮して、常時、酸素ガスを放風する必要が無くなる。
【0024】
上記第一態様では、前記ガス化発電プラントは、前記ガスタービンの空気圧縮機より抽気した空気又は該空気より分離される酸素を前記ガス化炉の酸化剤として供給する酸化剤供給路を備え、前記ガス化発電プラントが静定状態の場合、炭素含有燃料の理論燃焼酸化剤量に対して前記ガス化炉に供給される酸化剤量の比である空気比を固定とする空気比固定モードとし、前記ガス化炉の運転状態量又は前記ガス化発電プラントの負荷が変動した場合、前記空気比を変動可能とする空気比変動モードとすることが好ましい。
【0025】
本発明によれば、ガス化発電プラントは、酸化剤を用いて炭素含有燃料をガス化させるガス化炉、ガス化炉によって生成されたガスをガス精製設備で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービン、及びガスタービンの空気圧縮機より抽気した空気又は該空気より分離される酸素をガス化炉の酸化剤として供給する酸化剤供給路を備える。炭素含有燃料は例えば石炭である。
【0026】
ガス化炉の運転状態量が変動した場合やガス化発電プラントの負荷が変動した場合でも、従来は、ガス化発電プラントが静定状態の場合と変わらずに、空気比を固定した空気比固定モードで制御していた。しかし、空気比を固定することにより、ガス化炉における他の制御量(例えば酸化剤の供給量)にオーバーシュートが発生し、ガス化発電プラント全体の制御が安定するのに時間を要する場合があった。なお、ガス化炉の運転状態量は、例えばガス化炉で生成されるガスの発熱量(生成ガス発熱量)である。
そこで、本発明は、ガス化炉の運転状態量又はガス化発電プラントの負荷が変動した場合、空気比固定モードから空気比を変動可能とする空気比変動モードへ運転モードが切り替えられる。
【0027】
ガス化炉の運転状態量又はガス化発電プラントの負荷が変動した場合、空気比変動モードとなることによって、酸化剤量が負荷に応じて変動するので、酸化剤量のオーバーシュートが抑制される。また、酸化剤量のオーバーシュートが抑制されることによって、ガス化炉に供給される炭素含有燃料量に対する酸化剤量が小さくなるため、ガス化炉で生成されるガス中の可燃性ガス(例えばCO)の生成量が増加するので生成ガス発熱量が従来に比べてより速く増加し、より短時間でガス化発電プラントが静定する。
また、酸化剤量のオーバーシュートが抑制されるため、酸化剤の供給設備の容量に対して考慮するオーバーシュート裕度が小さくなるので、該供給設備の容量を従来に比べて小さくできる。また、オーバーシュート裕度が小さくなるほど、該供給設備の設備計画点と通常運転時の運転点とのずれが抑制される。
【0028】
従って、本構成は、酸化剤の供給設備の容量を増加させることなく、かつプラント全体の制御を迅速に安定させることができる。
【0029】
上記第一態様では、前記ガス化発電プラントは、前記ガスタービンの空気圧縮機より抽気した空気又は該空気より分離される酸素を前記ガス化炉の酸化剤として供給する酸化剤供給路を備え、前記ガス化炉の運転状態量の変動又は前記ガス化発電プラントの負荷の変動に応じて、炭素含有燃料の理論燃焼酸化剤量に対して前記ガス化炉に供給される酸化剤量の比である空気比が予め定められた設定値からずれることを許容して、前記ガス化炉に供給する酸化剤量を所定の上限値内で制御することが好ましい。
【0030】
本発明によれば、ガス化発電プラントは、酸化剤を用いて炭素含有燃料をガス化させるガス化炉、ガス化炉によって生成されたガスをガス精製設備で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービン、及びガスタービンの空気圧縮機より抽気した空気又は該空気より分離される酸素をガス化炉の酸化剤として供給する酸化剤供給路を備える。酸化剤は例えば空気や酸素であり、炭素含有燃料は例えば石炭である。
【0031】
ガス化炉の運転状態量やガス化発電プラントの負荷が変動した場合でも、従来は、ガス化炉の運転状態を一定に保つべく空気比(ガス化炉に対する炭素含有燃料の理論燃焼酸化剤量に対してガス化炉に供給される酸化剤量の比)を予め定められた設定値に保つように制御していた。しかし、空気比を一定に保つことにより、ガス化炉における他の制御量(例えば酸化剤の供給量)にオーバーシュートが発生し、ガス化発電プラント全体の制御が安定するのに時間を要する場合があった。なお、ガス化炉の運転状態量は、例えばガス化炉で生成されるガスの発熱量(生成ガス発熱量)である。
【0032】
そこで、本発明は、酸化剤量制御手段によって、ガス化炉の運転状態量又はガス化発電プラントの負荷の変動に応じて、過渡的なガス化炉の運転状態の変動を許容して、すなわち空気比が予め定められた設定値からずれることを許容して、ガス化炉に供給する酸化剤量を所定の上限値内で制御する。なお、上限値は、空気圧縮機がガス化炉へ送気可能な風量に基づく。具体的には、上限値は、空気圧縮機の最大風量に対して裕度を持たせた値である。また、予め定められた設定値からのずれの許容範囲は、例えば設定値に対する相対比で3%、好ましくは5%である。
ガス化炉に供給する酸化剤量の制御量に積極的に上限値が設けられることによって、酸化剤量のオーバーシュートが抑制される。また、上限値が設けられることによって、ガス化炉に供給される炭素含有燃料量に対する酸化剤量が小さくなるため、ガス化炉で生成されるガス中の可燃性ガス(例えばCO)の生成量が増加するので生成ガス発熱量が従来に比べてより速く増加し、より短時間でガス化発電プラントが静定する。
また、上限値が設けられることによって、酸化剤量のオーバーシュートが抑制されるため、酸化剤の供給設備の容量に対して考慮するオーバーシュート裕度が小さくなるので、該供給設備の容量を従来に比べて小さくできる。また、オーバーシュート裕度が小さくなるほど、該供給設備の設備計画点と通常運転時の運転点とのずれが抑制される。
【0033】
以上説明したように、本発明は、空気比が予め定められた設定値からずれることを許容し、ガス化炉に供給する酸化剤量に上限値を設けるので、酸化剤の供給設備の容量を増加させることなく、かつプラント全体の制御を迅速に安定させることができる。
【0034】
本発明の第二態様に係るガス化発電プラントは、空気から酸素ガスと窒素ガスとを分離する空気分離装置と、前記酸素ガスを酸化剤として炭素含有燃料をガス化させるガス化炉と、前記ガス化炉によって生成されたガスをガス精製設備で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービンと、上記記載の制御装置と、を備える。
【0035】
本発明の第三態様に係るガス化発電プラントの制御方法は、空気から酸素ガスと窒素ガスとを分離する空気分離装置、前記酸素ガスを酸化剤として炭素含有燃料をガス化させるガス化炉、及び前記ガス化炉によって生成されたガスをガス精製設備で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービンを備えるガス化発電プラントの制御方法であって、前記空気分離装置によって製造される窒素ガスの製造量を、前記ガス化発電プラントの運転負荷に応じて決定する第1工程と、前記第1工程によって決定された前記窒素ガスの製造量に応じて副生された酸素ガスの全量を、前記ガス化炉へ供給する第2工程と、を含む。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、空気から製造された酸素ガスの放風を最小限にすることができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施形態に係るIGCCプラントの構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る石炭ガス化炉が有するスラグ溶融バーナへ供給されるガスの経路を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るIGCCプラントの制御装置における石炭ガス化炉へのガス供給に関する制御を示す機能ブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係る酸素量決定処理の流れを示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態に係るMWDと窒素ガスの消費量との関係を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態に係る窒素ガスの製造量と酸素ガスの製造量との関係を示すグラフである。
図7】本発明の実施形態に係る酸素ガスの製造量とMWDとの関係を示すグラフである。
図8】本発明の実施形態に係るスラグ溶融バーナを用いる場合における各流量調整弁の開度の変化を示す図である。
図9】本発明の実施形態に係るスラグ溶融バーナを用いる場合における各流量調整弁の開度の変化を示す他の形態の図である。
図10】本発明の変形例に係る石炭ガス化炉の運転状態量の変動に応じた各種状態量の時間変化を示したグラフである。
図11】本発明の変形例に係るIGCCプラントの負荷の変動に応じた各種状態量の時間変化を示したグラフである。
図12】従来の石炭ガス化炉におけるGIDと酸素濃度との関係を示すグラフである。
図13】従来の石炭ガス化炉におけるGIDと酸化剤流量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明に係るガス化発電プラントの制御装置、ガス化発電プラント、及びガス化発電プラントの制御方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態では、本発明を、酸化剤を用いて炭素含有燃料をガス化させるガス化炉、ガス化炉によって生成されたガスをガス精製設備で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービン、及びガス化炉及びガスタービンの排ガスにより加熱された蒸気によって駆動する蒸気タービンを備えるガス化複合発電プラント(以下、「IGCCプラント」という。)に適用した場合について説明する。なお、酸化剤の一例を空気及び酸素とし、炭素含有燃料の一例を石炭とする。
【0039】
図1は、本実施形態に係るIGCCプラント1の全体の概略構成を示した図である。
図1に示されるように、本実施形態に係るIGCCプラント1は、主として、石炭ガス化炉3、ガスタービン設備5、蒸気タービン設備7、及び排熱回収ボイラ(以下、「HRSG」という。)30を備えている。
【0040】
石炭ガス化炉3の上流側には、石炭ガス化炉3へと微粉炭を供給する石炭供給設備10が設けられている。この石炭供給設備10は、原料炭を粉砕して数μm〜数百μmの微粉炭とする粉砕機(図示せず)を備えており、この粉砕機によって粉砕された微粉炭が複数のホッパ11に貯留されるようになっている。
各ホッパ11に貯留された微粉炭は、一定流量ずつ空気分離設備(以下、「ASU」という。)15から供給される窒素ガスと共に石炭ガス化炉3へと搬送される。ASU15は、空気から窒素ガス及び酸素ガスを分離し、これらを石炭ガス化炉3へ供給する装置であり、余剰に生成された窒素ガス及び酸素ガスを各々外部へ放風するための弁15A,15Bが石炭ガス化炉3への供給ラインに設けられている。なお、本実施形態に係るIGCCプラント1は、詳細を後述するように窒素ガス及び酸素ガスを余剰に生成することなく、放風を最小限にする。
【0041】
石炭ガス化炉3は、下方から上方へとガスが流されるように形成された石炭ガス化部3aと、石炭ガス化部3aの下流側に接続されて、上方から下方へとガスが流されるように形成された熱交換部3bとを備えている。
石炭ガス化部3aには、下方から、コンバスタ13及びリダクタ14が設けられている。コンバスタ13は、微粉炭及びチャーの一部分を燃焼させてCOを生成し、残りは熱分解により揮発分(CO、H、低級炭化水素)として放出させる部分である。コンバスタ13には噴流床が採用されている。しかし、コンバスタ13は、流動床式や固定床式であっても構わない。
【0042】
コンバスタ13及びリダクタ14には、それぞれ、コンバスタバーナ13a及びリダクタバーナ14aが設けられており、コンバスタバーナ13a及びリダクタバーナ14aに対して石炭供給設備10から微粉炭が供給される。
コンバスタバーナ13aには、ガスタービン設備5の空気圧縮機5cより抽気した空気が空気昇圧機17及び酸化剤供給路8を介して、ASU15において分離された酸素ガスと共に酸化剤として供給されるようになっている。このようにコンバスタバーナ13aには酸素濃度が調整された空気が供給されるようになっている。なお、空気圧縮機5cより抽気した空気は、ASU15にて酸素が分離され、分離された酸素が酸化剤供給路8を介して、コンバスタバーナ13aに供給されてもよい。
【0043】
リダクタ14では、コンバスタ13からの高温燃焼ガスによって微粉炭がガス化される。これにより、石炭からCOやH等の気体燃料となる可燃性ガスが生成される。石炭ガス化反応は、微粉炭及びチャー中の炭素が高温ガス中のCO及びHOと反応してCOやHを生成する吸熱反応である。
【0044】
石炭ガス化炉3は、空気圧縮機5cから供給される供給空気と石炭とを反応させてガスを生成する。具体的には、石炭ガス化炉3の熱交換部3bには、複数の熱交換器(図示略)が設置されており、リダクタ14から導かれる生成ガスから顕熱を得て蒸気を発生させるようになっている。熱交換器において発生した蒸気は、主として、蒸気タービン7bの駆動用蒸気として用いられる。熱交換部3bを通過した生成ガスは、除塵設備20へと導かれる。この除塵設備20は、ポーラスフィルタを備えており、ポーラスフィルタに生成ガスを通過させることによって生成ガスに混在する未燃分を含むチャーを捕捉して回収する。捕捉されたチャーは、ポーラスフィルタに堆積してチャー層を形成している。チャー層には、生成ガスに含まれるNa分及びK分が凝縮し、結果的に除塵設備20においてNa分及びK分も除去される。
【0045】
このように回収されたチャーは、ASU15から供給される窒素ガスと共に石炭ガス化炉3のチャーバーナ21へと返送されてリサイクルされる。なお、チャーと共にチャーバーナ21へと返送されたNa分及びK分は、最終的に溶融した微粉炭の灰と共に石炭ガス化部3aの下方から排出される。溶融排出された灰は水で急冷、破砕されガラス状のスラグとなる。
【0046】
除塵設備20を通過した生成ガスは、ガス精製設備22によって精製されて、燃料ガスとしてガスタービン設備5の燃焼器5aへと送られる。
【0047】
ガスタービン設備5は、生成ガスをガス精製設備22で精製して得られる燃料ガスが燃焼させられる燃焼器5aと、燃焼ガスによって駆動されるガスタービン5bと、燃焼器5aへと高圧空気を送り出す空気圧縮機5cとを備えている。ガスタービン5bと空気圧縮機5cとは同一の回転軸5dによって接続されている。空気圧縮機5cにおいて圧縮された空気は、抽気されて燃焼器5aとは別に、空気昇圧機17へも導かれるようになっている。
【0048】
ガスタービン5bを通過した燃焼排ガスは、HRSG30へと導かれる。
蒸気タービン設備7の蒸気タービン7bは、ガスタービン設備5と同じ回転軸5dに接続されており、いわゆる一軸式のコンバインドシステムとなっている。蒸気タービン7bには、石炭ガス化炉3及びHRSG30から高圧蒸気が供給される。なお、一軸式のコンバインドシステムに限らず、二軸式のコンバインドシステムであっても構わない。
ガスタービン5b及び蒸気タービン7bによって駆動される回転軸5dから電気を出力する発電機Gが、蒸気タービン設備7を挟んでガスタービン設備5の反対側に設けられている。なお、発電機Gの配置位置については、この位置に限られず、回転軸5dから電気出力が得られるようであればどの位置であっても構わない。
HRSG30は、ガスタービン5bからの燃焼排ガスによって蒸気を発生すると共に、燃焼排ガスを煙突31から大気へと放出する。
【0049】
次に、上記構成の石炭ガス化炉3を適用したIGCCプラント1の動作について説明する。
原料炭は粉砕機(図示せず)で粉砕された後、ホッパ11へと導かれて貯留される。ホッパ11に貯留された微粉炭は、ASU15において分離された窒素ガスと共に、リダクタバーナ14a及びコンバスタバーナ13aへと供給される。さらに、チャーバーナ21には、除塵設備20において回収されたチャーが供給される。
【0050】
コンバスタバーナ13aの燃焼用気体としては、ガスタービン設備5の空気圧縮機5cから抽気され、空気昇圧機17によってさらに昇圧された圧縮空気に、ASU15において分離された酸素ガスが添加されて使用される。コンバスタ13では、微粉炭及びチャーが燃焼用空気によって部分燃焼させられてCOを生成し、残部は揮発分(CO,H,低級炭化水素)へと熱分解させられる。
リダクタ14では、リダクタバーナ14aから供給された微粉炭及びコンバスタ13内で揮発分を放出したチャーが、コンバスタ13から上昇してきた高温ガスによりガス化され、COやH等の可燃性ガスが生成される。
【0051】
リダクタ14を通過した生成ガスは、石炭ガス化炉3の熱交換部3bを通過しつつ各熱交換器にその顕熱を与え、蒸気を発生させる。熱交換部3bで発生させた蒸気は、主として、蒸気タービン7bの駆動のために用いられる。
熱交換部3bを通過した生成ガスは、除塵設備20へと導かれ、チャーが回収される。生成ガス中のNa分及びK分は、ここで凝縮してチャーに取り込まれる。回収されたNa分及びK分を含むチャーは、石炭ガス化炉3へと返送される。
【0052】
除塵設備20を通過した生成ガスは、ガス精製設備22で精製された後ガスタービン設備5の燃焼器5aへと導かれ、空気圧縮機5cから供給される圧縮空気と共に燃焼させられる。この燃焼ガスによってガスタービン5bが回転させられ、回転軸5dが駆動させられる。
【0053】
ガスタービン5bを通過した燃焼排ガスは、HRSG30へと導かれ、この燃焼排ガスの顕熱を利用することによって蒸気が発生させられる。HRSG30において発生した蒸気は、主として、蒸気タービン7bの駆動のために用いられる。
蒸気タービン7bは、石炭ガス化炉3からの蒸気及びHRSG30からの蒸気によって回転させられ、ガスタービン設備5と同一の回転軸5dを駆動させる。回転軸5dの回転力は、発電機Gによって電気出力へと変換される。
【0054】
図2は、石炭ガス化炉3が有するスラグ溶融バーナ40へ供給されるガスの経路を示す図である。図2は、スラグ溶融バーナ40と共にコンバスタバーナ13aへ供給されるガスの経路も示す。
図2に示されるように、コンバスタバーナ13aには石炭供給設備10からの石炭、空気昇圧機17からの空気、及びASU15で製造された酸素ガスが供給される。また、スラグ溶融バーナ40には燃料ガスと共にASU15で製造された酸素ガスが供給される。
コンバスタバーナ13aへの空気の供給ラインには流量調整弁42aが設けられ、コンバスタバーナ13aへの酸素ガスの供給ラインには流量調整弁42bが設けられ、スラグ溶融バーナ40への酸素ガスの供給ラインには流量調整弁42cが設けられている。
【0055】
なお、チャーバーナ21への空気の供給ラインにも流量調整弁42aと同様の流量調整弁が設けられており、チャーバーナ21への酸素ガスの供給ラインにも流量調整弁42bと同様の流量調整弁が設けられている。
【0056】
図3は、IGCCプラント1の制御を司る制御装置50の機能を示すブロック図である。なお、図3では、石炭ガス化炉3へのガス供給に関する制御に係る機能を示している。
制御装置50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体等から構成されている。そして、後述する空気分離量決定部52、必要酸化剤流量決定部54、抽気量決定部56、及びバーナ弁開度決定部58の各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記録媒体等に記録されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。
【0057】
空気分離量決定部52は、ASU15による窒素ガスの製造量(流量)を、IGCCプラント1の運転負荷に応じて決定する。なお、窒素ガスの製造量に伴い、ASU15による酸素ガスの製造量(流量)も一意に決定される。
【0058】
必要酸化剤流量決定部54は、IGCCプラント1の運転負荷に応じた石炭ガス化炉3が必要とする酸化剤流量(以下、「必要酸化剤流量」という。)を決定する。
【0059】
抽気量決定部56は、ASU15による酸素ガスの製造量と必要酸素量との差分、すなわち必要酸化剤流量の不足分に基づいて、不足する酸素ガス量を満たす空気流量を算出し、ガスタービン設備5が備える空気圧縮機5cから石炭ガス化炉3への抽気量を決定する。すなわち、石炭ガス化炉3へ供給される酸化剤の合計量は、ガスタービン設備5から抽気される空気量によって調整される。
【0060】
バーナ弁開度決定部58は、の各種バーナへのガスの供給ラインに設けられている流量調整弁(流量調整弁42a,42b,42c等)の開度を決定する。
【0061】
図4は、制御装置50で実行される酸素量の決定に関する処理(以下、「酸素量決定処理」という。)の流れを示すフローチャートである。
【0062】
まず、ステップ100では、IGCCプラント1の運転負荷を示す指標として、IGCCプラント1に対する出力指令(本実施形態では発電出力指令値、以下、「MWD」という。)を決定する。
ここで、IGCCプラント1の運転負荷を示す指標として、MWDの他に、例えば石炭ガス化炉3に投入される入熱を規定するパラメータであるガス化炉入力指令(以下、「GID」という。)がある。MWDは、GIDに比べて、より安定した値を示すので、ASU15による窒素ガス並びに酸素ガスの製造量もより安定したものとなる。
【0063】
次のステップ102では、決定したMWDに基づいたASU15による窒素ガスの製造量を決定する。
図5は、MWDと窒素ガスの消費量との関係を示すグラフである。石炭及びチャーをガス化炉13へ搬送するための窒素ガスの消費量は、過渡的な変動により、図5に示されるように幅を有している。このためステップ104では、該幅の最大値をASU15による窒素ガスの製造量として決定する。なお、MWDが大きいほど、窒素ガスの製造量は多くなる。
【0064】
次のステップ104では、酸素ガスの製造量を決定する。
図6は、窒素ガスの製造量と酸素ガスの製造量との関係を示すグラフである。図6に示されるように、窒素ガスの製造量に応じて酸素ガスの製造量がASU15の特性により一意に決定される。
図7は、MWDと酸素ガスの製造量との関係を示すグラフである。図7に示されるように、酸素ガスの製造量は、MWDに対する関数として設定されることとなる。この設定した関数を用いることにより、制御装置50は、簡易に酸素ガスの製造量を決定することができる。
【0065】
なお、ステップ102,104の処理は、空気分離量決定部52の機能に相当する。
【0066】
また、ステップ100の次のステップ106では、MWDに基づいて必要酸化剤流量を算出する。ステップ106は、ステップ102,104に並行して行われる。
なお、ステップ106の処理は、必要酸化剤流量決定部54の機能に相当する。
【0067】
ステップ104,106の次のステップ108では、必要酸化剤流量の不足分を算出する。本実施形態に係るIGCCプラント1は、製造した酸素ガスの全量を石炭ガス化炉3へ供給するが、必要酸化剤流量の全てを製造した酸素ガスで賄えるとは限らないため、必要酸化剤流量の不足分を算出する。
【0068】
次のステップ110では、必要酸化剤流量の不足分に基づいて、空気圧縮機5cから石炭ガス化炉3への抽気量を決定する。
これにより、石炭ガス化炉3の空気比制御は、ガスタービン5bから抽気した空気により調整されることとなり、酸素濃度そのものは制御されないこととなる。
【0069】
なお、ステップ108,110の処理は、抽気量決定部56の機能に相当する。
【0070】
このように、制御装置50は、MWDに基づいてASU15を運転し、製造した酸素ガス及び窒素ガスの全量を石炭ガス化炉3へ供給し、算出した抽気量に基づいて空気圧縮機5cから石炭ガス化炉3へ空気を供給する。
従って、IGCCプラント1は、窒素ガスと共に酸素ガスを余剰に製造することが無く、製造された酸素ガスの全量が石炭ガス化炉3へ供給するので、空気から製造された酸素ガスの放風を最小限にすることができる。
【0071】
次に、スラグ溶融バーナ40を流量調整弁42a,42b,42cの開度制御について説明する。
【0072】
本実施形態に係るIGCCプラント1は、スラグ溶融バーナ40が用いられる場合、製造された酸素ガスが、コンバスタバーナ13a及びチャーバーナ21よりも優先してスラグ溶融バーナ40に供給される。これにより、IGCCプラント1は、スラグ溶融バーナ40へ常時、酸素ガスを供給する必要が無くなる。あるいは、スラグ溶融バーナ40で使用される酸素ガスの量を考慮して、常時、酸素ガスを放風する必要が無くなる。
【0073】
図8は、スラグ溶融バーナ40を用いる場合における流量調整弁42a,42b,42cの開度の変化を示す図である。
【0074】
スラグ溶融バーナ40を用いる場合には、燃料ガスがスラグ溶融バーナ40へ供給されると共に、流量調整弁42cが開かれ、ASU15で製造された酸素ガスがスラグ溶融バーナ40へ供給される。
【0075】
この場合、流量調整弁42cを流れる酸素ガス流量に応じて、コンバスタバーナ13aへ酸素ガス流量を調整する流量調整弁42bは絞られる。一方、コンバスタバーナ13aへ空気流量を調整する流量調整弁42aの開度は、変化しない。すなわち、コンバスタバーナ13aへの酸化剤流量は一時的に低下する。
【0076】
図9は、スラグ溶融バーナ40を用いる場合における流量調整弁42a,42b,42cの開度の変化の他の形態を示す図である。
図9に示される形態では、スラグ溶融バーナ40を用いる場合、流量調整弁42bを絞ることにより減少した酸素ガス量を補うように、流量調整弁42aが開かれる。これにより、コンバスタバーナ13aへ供給される酸化剤に含まれる酸素量が維持される。
【0077】
以上説明したように、本実施形態に係るIGCCプラント1は、空気から酸素ガスと窒素ガスとを分離するASU15、酸化剤を用いて石炭をガス化させる石炭ガス化炉3、及び石炭ガス化炉3によって生成されたガスをガス精製設備22で精製して得られる燃料ガスを燃焼させた燃焼ガスによって駆動するガスタービン5bを備える。IGCCプラント1の制御装置50は、ASU15によって製造される窒素ガスの製造量を、IGCCプラント1の運転負荷に応じて決定する空気分離量決定部52を備え、決定した窒素ガスの製造量に応じて副生された酸素ガスの全量を、石炭ガス化炉3へ供給させる。
従って、IGCCプラント1は、空気から製造された酸素ガスの放風を最小限にすることができる。
【0078】
(変形例1)
上記実施形態の制御に加えて制御装置50は、IGCCプラント1の運転モードを、IGCCプラント1が静定状態の場合、空気比を固定とする空気比固定モードとし、石炭ガス化炉3の運転状態量又はIGCCプラント1の負荷が変動した場合、空気比を変動可能とする空気比変動モードとしてもよい。なお、空気比は、炭素含有燃料の理論燃焼酸化剤流量に対して石炭ガス化炉3に供給される酸化剤流量の比である。
【0079】
石炭ガス化炉3の運転状態量が変動した場合(図10参照)やIGCCプラント1の負荷が変動した場合(図11参照)でも、従来は、IGCCプラント1が静定状態の場合と変わらずに、空気比を固定した空気比固定モードで制御していた。なお、空気比を固定した制御とは、換言すると空気比を一定に保つ制御である。しかし、空気比を固定することにより、石炭ガス化炉3における他の制御量(例えば酸化剤流量)にオーバーシュートが発生し、IGCCプラント1全体の制御が安定するのに時間を要する場合があった。
【0080】
そこで、制御装置50は、石炭ガス化炉3の運転状態量の変動又はIGCCプラント1の負荷が変動した場合、空気比固定モードから空気比を変動可能とする空気比変動モードへ運転モードを切り替える。
【0081】
石炭ガス化炉3の運転状態量又はIGCCプラント1の負荷が変動した場合、空気比変動モードとなることによって、酸化剤流量が負荷に応じて変動するので、酸化剤流量のオーバーシュートが抑制される。また、酸化剤流量のオーバーシュートが抑制されることによって、石炭ガス化炉3に供給される炭素含有燃料量に対する酸化剤流量が小さくなるため、石炭ガス化炉3で生成されるガス中の可燃性ガス(例えばCO)の生成量が増加するので生成ガス発熱量が従来に比べてより速く増加し、より短時間でIGCCプラント1が静定する。
【0082】
また、酸化剤流量のオーバーシュートが抑制されるため、酸化剤の供給設備である空気昇圧機17の容量に対して考慮するオーバーシュート裕度が小さくなるので、空気昇圧機17の容量を従来に比べて小さくできる。また、オーバーシュート裕度が小さくなるほど、空気昇圧機17の設備計画点と通常運転時の運転点とのずれが抑制される。
【0083】
従って、IGCCプラント1は、空気昇圧機17の容量を増加させることなく、かつプラント全体の制御を迅速に安定させることができる。
【0084】
ここで、石炭ガス化炉3の運転状態量が変動する原因、換言するとIGCCプラント1の発電出力にハンチングが発生する原因は、以下のためである。
ガスタービン5bへの燃料供給量が増加すると、図10のガス化炉圧力の時間変化の領域Aで示されるように、実際のガス化炉圧力(計測値)とガス化炉圧力の設定値との偏差が拡大する。これに伴い、図10の酸化剤流量の時間変化の領域Bで示されるように、ガスタービン5bの空気圧縮機5cからの抽気量が増加し、IGCCプラント1の発電出力が減少する。
すなわち、石炭ガス化炉3の運転状態量が変動する原因は、ガス化炉圧力の計測値とガス化炉圧力の設定値との偏差が大きくなることにあると考えられる。なお、IGCCプラント1が静定時の場合は、ガス化炉圧力の設定値との偏差は0又は小さい。
【0085】
そこで、制御装置50は、ガス化炉圧力の計測値とガス化炉圧力の設定値との偏差が静定時に比べ大きくなった場合に、IGCCプラント1の負荷が変動したと判断し、運転モードを空気比変動モードに設定する。
【0086】
また、IGCCプラント1として、蒸気タービン設備7の駆動軸がガスタービン5bの駆動軸と同軸でないプラントがある。このようなIGCCプラント1では、IGCCプラント1の負荷が変動した場合を、ガスタービン5bの出力が増加しない一方で、GIDが増加する場合とする。GIDが増加すると、図10の石炭流量の時間変化の領域Cで示されるように、石炭流量が増加する。
【0087】
このようなIGCCプラント1の制御装置50は、ガスタービン5bの出力が増加しない一方で、GIDが増加した場合に、IGCCプラント1の負荷が変動したと判断し、運転モードを空気比変動モードに設定する。
【0088】
(変形例2)
上記実施形態の制御に加えて制御装置50は、石炭ガス化炉3の運転状態量の変動又はIGCCプラント1の負荷の変動に応じて、空気比が予め定められた設定値からずれることを許容して、石炭ガス化炉3に供給する酸化剤流量を所定の上限値内で制御する。
【0089】
石炭ガス化炉3の運転状態量が変動した場合やIGCCプラント1の負荷が変動した場合でも、従来は、石炭ガス化炉3の運転状態を一定に保つべく空気比を予め定められた設定値に保つように制御していた。しかし、空気比を一定に保つことにより、石炭ガス化炉3における他の制御量(例えば酸化剤流量)にオーバーシュートが発生し、IGCCプラント1全体の制御が安定するのに時間を要する場合があった。
【0090】
そこで、制御装置50は、石炭ガス化炉3の運転状態量の変動又はIGCCプラント1の負荷の変動に応じて、過渡的な石炭ガス化炉3の運転状態の変動を許容して、すなわち空気比が予め定められた設定値からずれることを許容して、石炭ガス化炉3に供給する酸化剤流量を所定の上限値内で制御する(図10,11の酸化剤流量の時間変化を参照)。なお、上限値は、空気圧縮機5cが石炭ガス化炉3へ送気可能な風量に基づく。具体的には、上限値は、空気圧縮機5cの最大風量に対して裕度を持たせた値である。また、予め定められた設定値からのずれの許容範囲は、例えば設定値に対する相対比で3%、好ましくは5%である。
【0091】
石炭ガス化炉3に供給する酸化剤流量の制御量に積極的に上限値が設けられることによって、酸化剤流量のオーバーシュートが抑制される。また、上限値が設けられることによって、石炭ガス化炉3に供給される炭素含有燃料量に対する酸化剤流量が小さくなるため、石炭ガス化炉3で生成されるガス中の可燃性ガス(例えばCO)の生成量が増加するので生成ガス発熱量が従来に比べてより速く増加し、より短時間でIGCCプラント1が静定する。
【0092】
また、上限値が設けられることによって、酸化剤流量のオーバーシュートが抑制されるため、空気昇圧機17の容量に対して考慮するオーバーシュート裕度が小さくなるので、空気昇圧機17の容量を従来に比べて小さくできる。また、オーバーシュート裕度が小さくなるほど、空気昇圧機17の設備計画点と通常運転時の運転点とのずれが抑制される。
【0093】
以上説明したように、制御装置50は、空気比が予め定められた設定値からずれることを許容し、石炭ガス化炉3に供給する酸化剤流量に上限値を設けるので、空気昇圧機17の容量を増加させることなく、かつプラント全体の制御を迅速に安定させることができる。
【0094】
以上、本発明を、上記実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0095】
また、上記実施形態では、本発明に係るガス化発電プラントとして、蒸気タービン設備7を備えたIGCCプラント1とする形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、蒸気タービン設備を備えないガス化発電プラントに適用する形態としてもよい。
【0096】
また、上記各実施形態では、ASU15で製造される窒素ガスの製造量に応じて副生された酸素ガスの全量を石炭ガス化炉3へ供給する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、窒素ガスの製造量に応じて副生された酸素ガスの略全量を石炭ガス化炉3へ供給する形態としてもよい。
なお、略全量における略とは、酸素ガスの供給ラインにおける酸素ガスの漏れ等を許容する意味である。
【0097】
また、上記各実施形態では、MWDに基づいて算出される必要酸化剤流量から抽気量を決定する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、各MWDに対する抽気量を予め決定しておき、MWDに基づいて抽気量を決定する形態としてもよい。
【0098】
また、上記各実施形態では、石炭ガス化炉3の運転状態量の変動の有無をガス化炉圧力の計測値と設定値との偏差に基づいて判断する形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、石炭ガス化炉3の出口圧力の計測値と設定値との偏差、ガス精製設備22の出口圧力の計測値と設定値との偏差、またはガスタービン5bの入口圧力の計測値と設定値との偏差に基づいて決定する形態としてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1 IGCCプラント
3 石炭ガス化炉
5b ガスタービン
15 ASU
22 ガス精製設備
50 制御装置
52 空気分離量決定部
40 スラグ溶融バーナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13