(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6141103
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】燃料電池のシール構造
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0271 20160101AFI20170529BHJP
H01M 8/0202 20160101ALI20170529BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20170529BHJP
【FI】
H01M8/02 S
H01M8/02 B
H01M8/10
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-110787(P2013-110787)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-229584(P2014-229584A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】島添 稔大
(72)【発明者】
【氏名】渡部 茂
【審査官】
小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−323984(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/158286(WO,A1)
【文献】
特開2003−331873(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/100906(WO,A1)
【文献】
特開2009−026633(JP,A)
【文献】
特開2011−222245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0271
H01M 8/0202
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに積層され厚さ方向に対向するセパレータのうち一方のセパレータに形成したシール装着溝に、ゴム状弾性材料からなるガスケットを装着し、このガスケットが、前記シール装着溝に非接着で嵌合される基部と、この基部に隆起形成されて他方のセパレータに形成したシール溝に圧縮状態で密接されるシール突条を有する燃料電池のシール構造において、前記シール溝の幅方向両側に、前記ガスケットの基部を押さえ込む押さえ突起及びこの押さえ突起から見て前記シール溝と反対側に位置する逃げ溝が形成され、前記シール溝とその両側の押さえ突起の幅の和が前記シール装着溝の幅より小さく、前記シール溝とその両側の押さえ突起及び逃げ溝の幅の和が前記シール装着溝の幅より大きいことを特徴とする燃料電池のシール構造。
【請求項2】
押さえ突起がガスケットの基部に対する締め代を有することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池のシール構造。
【請求項3】
逃げ溝の溝深さがガスケットの基部の肉厚より小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池のシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池のシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の両面に一対の電極層を設けた膜電極複合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の厚さ方向両側にセパレータを積層して燃料電池セルとし、さらにこの燃料電池セルを多数積層したスタック構造となっている。そして酸化ガス(空気)が膜電極複合体のカソード側に供給され、燃料ガス(水素)が膜電極複合体のアノード側に供給され、水の電気分解の逆反応である電気化学反応、すなわち水素と酸素から水を生成する反応によって、電力を発生するものである。
【0003】
この種の燃料電池は、各燃料電池セルに、燃料ガスや酸化ガス、上述の電気化学反応により生成された水や、余剰空気等をシールするためのガスケットが用いられる。すなわちたとえば
図7に示すように、互いに積層されるセパレータ101,102のうち一方のセパレータ101に形成したシール装着溝101aに、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるガスケット103を保持し、このガスケット103に隆起形成されたシール突条103aを、他方のセパレータ102に形成したシール溝102aに密接させるものである。
【0004】
ここで、セパレータ101のシール装着溝101aとセパレータ102のシール溝102aの幅が互いに同一である場合は、セパレータ101,102を積層して組み立てる過程で、ガスケット103のシール突条103aがその厚さ方向へ圧縮変形されることによる応力で、その根元の基部103bが盛り上がり、この基部103bの端部がセパレータ101,102の溝肩部間に咬み込まれるおそれがある。
【0005】
そして、このような咬み込みを防止するには、
図7に示す例のように、ガスケット103と対向するセパレータ102のシール溝102aの幅Wbを、セパレータ101のシール装着溝101aの幅Waよりも大きく設定することが知られている。このように構成すれば、セパレータ101,102を積層して組み立てる過程で、ガスケット103のシール突条103aの圧縮応力によって基部103bが盛り上がっても、この基部103bの端部がセパレータ101,102の溝肩間に咬み込まれるのを抑制又は回避することができる(下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−277957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、
図7に示す例のように、セパレータ101のシール装着溝101aが浅い場合や、シール装着溝101aの表面性状などによって、このシール装着溝101aに対するガスケット103の基部103bのアンカー作用が弱い場合は、
図8に示すように、セパレータ101,102を積層して組み立てる過程で、ガスケット103のシール突条103aの圧縮応力によって基部103bが大きく盛り上がり、
図9に示すように、内圧Pによってガスケット103が溝内を幅方向へ変位してしまい、シール機能が低下してしまうおそれがある。
【0008】
また、シール突条103aの圧縮応力による基部103bの盛り上がりを防止するために、
図7に示す例とは逆に、ガスケット103と対向するセパレータ102のシール溝102aの幅を、セパレータ101のシール装着溝101aの幅よりも小さくすることも考えられるが、この場合は
図10に示すように、セパレータ101,102を積層して組み立てる過程で、ガスケット103のシール突条103aの圧縮応力によって基部103bが盛り上がると、結局、基部103bの端部103cがセパレータ101,102の溝肩間に咬み込まれてしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、セパレータを積層して組み立てる過程で、ガスケットのシール突条の圧縮応力によって基部が盛り上がってその端部がセパレータの間に咬み込まれるのを抑制又は回避することの可能な燃料電池シール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る燃料電池のシール構造は、互いに積層され厚さ方向に対向するセパレータのうち一方のセパレータに形成したシール装着溝に、ゴム状弾性材料からなるガスケットを装着し、このガスケットが、前記シール装着溝に非接着で嵌合される基部と、この基部に隆起形成されて他方のセパレータに形成したシール溝に
圧縮状態で密接されるシール突条を有する燃料電池のシール構造において、前記シール溝の幅方向両側に、前記ガスケットの基部
を押さえ込む押さえ突起及びこの押さえ突起から見て前記シール溝と反対側に位置する逃げ溝が形成され、前記シール溝とその両側の押さえ突起の幅の和が前記シール装着溝の幅より小さく、前記シール溝とその両側の押さえ突起及び逃げ溝の幅の和が前記シール装着溝の幅より大きいことを特徴とするものである。なお、ゴム状弾性材料とは、ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料をいう。
【0011】
請求項2の発明に係る燃料電池のシール構造は、請求項1に記載された構成において、押さえ突起がガスケットの基部に対する締め代を有することを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の発明に係る燃料電池のシール構造は、請求項1又は2に記載された構成において、逃げ溝の溝深さがガスケットの基部の肉厚より小さいことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る燃料電池のシール構造によれば、セパレータを積層して組み立てる過程で、ガスケットのシール突条がシール溝と圧接し、圧縮されるにしたがい、その応力によってガスケットの基部が盛り上がろうとするが、この基部はシール溝の幅方向両側の押さえ突起によって押さえ込まれ、しかも、もし前記基部の端部がシール装着溝からはみ出ることがあっても、このシール装着溝の溝肩は逃げ溝と対向しているので、前記基部の端部がセパレータ間に咬み込まれるのを有効に抑制又は回避することができる。
【0014】
また、押さえ突起がガスケットの基部に対する締め代を有するものであれば、ガスケットの基部に対する押さえ込み作用を一層高めることができる。
【0015】
また、逃げ溝の溝深さをガスケットの基部の肉厚より小さくしておけば、ガスケットの基部が逃げ溝へ入り込みにくく、このため内圧等によるガスケットの幅方向への変位を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る燃料電池のシール構造の好ましい第一の実施の形態を示す未積層状態の部分断面図である。
【
図2】本発明に係る燃料電池のシール構造の好ましい第一の実施の形態を示す積層状態の部分断面図である。
【
図3】本発明に係る燃料電池のシール構造の好ましい第二の実施の形態を示す未積層状態の部分断面図である。
【
図4】本発明に係る燃料電池のシール構造の好ましい第二の実施の形態を示す積層状態の部分断面図である。
【
図5】本発明に係る燃料電池のシール構造の好ましい第三の実施の形態を示す未積層状態の部分断面図である。
【
図6】本発明に係る燃料電池のシール構造の好ましい第三の実施の形態を示す積層状態の部分断面図である。
【
図7】従来技術による燃料電池のシール構造の一例を示す未積層状態の部分断面図である。
【
図8】従来技術による燃料電池のシール構造の一例において、積層によりガスケットが変形した状態を示す部分断面図である。
【
図9】従来技術による燃料電池のシール構造の一例において、積層によりガスケットが変形し、内圧により変位した状態を示す部分断面図である。
【
図10】従来技術による燃料電池のシール構造の他の例において、積層によりガスケットが変形した状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る燃料電池のシール構造の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず
図1及び
図2は、第一の実施の形態を示すものである。
【0018】
図1に示す未積層状態において、参照符号1は燃料電池セルを構成する一方のセパレータ、参照符号2は他方のセパレータである。一方のセパレータ1における他方のセパレータ2との対向面にはシール装着溝11が形成され、このシール装着溝11にはガスケット3が装着されている。
【0019】
ガスケット3はゴム状弾性材料によって成形されたものであって、セパレータ1におけるシール装着溝11に、このシール装着溝11を埋めるように非接着で嵌合され、上面がシール装着溝11の溝肩と略面一の扁平な基部31と、この基部31の幅方向中間部に隆起形成されたシール突条32を有する。
【0020】
他方のセパレータ2における一方のセパレータ1との対向面には、前記セパレータ1におけるシール装着溝11の幅方向中間部と対向し底面にガスケット3のシール突条32が適宜圧縮状態で密接されるシール溝21と、このシール溝21の幅方向両側に位置し前記ガスケット3の基部31に当接される押さえ突起22,22及びこの押さえ突起22,22から見て前記シール溝21と反対側に位置する逃げ溝23,23が形成されている。
【0021】
セパレータ2のシール溝21の幅W
21、言い換えれば押さえ突起22,22間の幅は、積層による圧縮状態でのガスケット3のシール突条32のシール溝21に対する充填率が100%を超えない範囲に設定される。そしてこのシール溝21とその両側の押さえ突起22,22の幅の和W
21+W
22×2(=Wa)は、セパレータ1のシール装着溝11の幅W
11より小さく、前記シール溝21とその両側の押さえ突起22,22及び逃げ溝23,23の幅の和W
21+W
22×2+W
23×2(=Wb)は、前記シール装着溝11の幅W
11より大きいものとなっている。また、シール溝21の深さと逃げ溝23の深さと押さえ突起22の高さは同じである。
【0022】
したがって、セパレータ1,2を積層して組み立てる過程では、まずガスケット3のシール突条32がシール溝21の底面と圧接し、圧縮されていくのにしたがって、その応力によってガスケット3の基部31がシール装着溝11から盛り上がり、浮き上がろうとするが、この基部31は、
図2に示すようにシール溝21の両側の押さえ突起22,22によって押さえ込まれる。また、Wa<W
11<Wbであることによって、前記基部31の両端は逃げ溝23と対向することになる。したがって、ガスケット3の基部31の端部がセパレータ1,2の間に咬み込まれるのを有効に抑制又は回避することができる。
【0023】
次に
図3及び
図4は、第二の実施の形態を示すものである。この実施の形態において、上述した第一の実施の形態と異なるところは、押さえ突起22の高さがセパレータ2におけるセパレータ1との積層面2aよりもΔhだけ高く、このため、
図4に示す積層状態において押さえ突起22がガスケット3の基部31に対して締め代Qをもって当接するようになっていることにある。その他の構成は、第一の実施の形態と同様である。
【0024】
このように構成すれば、ガスケット3の基部31に対する押さえ突起22の押さえ込み力が高まるので、内圧等によるガスケット3の幅方向への変位を有効に防止することができる。
【0025】
なお、押さえ突起22の締め代Qが大きいほど、積層によってセパレータ1,2に作用する負荷が大きくなるため、それを考慮してΔhは適切に設定される。
【0026】
次に
図5及び
図6は、第三の実施の形態を示すものである。この実施の形態において、先に説明した第一の実施の形態と異なるところは、セパレータ2における逃げ溝23の溝深さdをガスケット3の基部31の肉厚t(≒シール装着溝11の深さ)より小さくしたことにある。その他の構成は、第一の実施の形態と同様である。
【0027】
このように構成すれば、ガスケット3が内圧を受けても、ガスケット3の基部31が逃げ溝23へ入り込みにくく、このためガスケット3の幅方向への変位を防止することができる。
【0028】
なお、この第三の実施の形態においても、第二の実施の形態と同様、押さえ突起22にガスケット3の基部31に対する締め代を設定した構成とすることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 一方のセパレータ
11 シール装着溝
2 他方のセパレータ
21 シール溝
22 押さえ突起
23 逃げ溝
3 ガスケット
31 基部
32 シール突条