特許第6141143号(P6141143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6141143
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 5/14 20060101AFI20170529BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20170529BHJP
   C08L 23/22 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   B60C5/14 A
   C08L53/02
   C08L23/22
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-167670(P2013-167670)
(22)【出願日】2013年8月12日
(65)【公開番号】特開2015-36277(P2015-36277A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 睦樹
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−214167(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/014232(WO,A1)
【文献】 特開平08−025908(JP,A)
【文献】 特開2008−174037(JP,A)
【文献】 特開2011−051320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/14
C08L 23/22
C08L 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカス層と、
前記カーカス層のタイヤ内側に配置されるインナーライナー層と、
前記インナーライナー層のタイヤ内側に配置されるゴム層と、
を備え、
前記インナーライナー層は、
スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を含む厚み0.02mm〜0.2mmの第1層と、
前記カーカス層と接するように配置されており、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体及びスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを含む厚み0.01mm〜0.3mmの第2層と、
からなり、
次の(a)及び(b):
(a)前記インナーライナー層が、第1領域と、前記第1領域とは異なる領域であって、前記第1領域よりも厚みが大きい第2領域とを含む、
(b)前記ゴム層が、第3領域と、前記第3領域とは異なる領域であって、前記第3領域よりも厚みが大きい第4領域とを含む、
の少なくともいずれかを満たし、
前記第4領域は、前記ゴム層におけるトレッド部に対応する領域であり、
前記第3領域は、前記ゴム層における、前記第4領域以外のすべての領域である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1領域は、前記インナーライナー層におけるトレッド部に対応する領域であり、
前記第2領域は、前記インナーライナー層における、前記第1領域以外の少なくとも一部の領域である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体は、スチレン成分含有量が10〜30質量%であり、重量平均分子量が50,000〜400,000である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体は、スチレン成分含有量が10〜30質量%であり、重量平均分子量が100,000〜290,000である、請求項1〜のいずれか記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記スチレン−イソブチレンジブロック共重合体は、直鎖状であり、スチレン成分含有量が10〜35質量%であり、重量平均分子量が40,000〜120,000である、請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム層は、ブチル系ゴムからなる、請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、より詳しくは、熱可塑性樹脂層の積層構造からなるインナーライナー層を備える空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
インナーライナー層は、空気入りタイヤの内部に配され、タイヤ内部から外部への空気漏れの量(空気透過量)を低減して耐空気透過性を向上させる働きを担うタイヤ部材である。
【0003】
インナーライナー層には、耐空気透過性は勿論のこと、耐久性も求められる。インナーライナー層は、リム組み作業等の際に工具類が接触して損傷を生じやすく、また、パンク修理等においてタイヤ内面をバフ処理する際にも損傷を受けやすい部材であるためである。インナーライナー層の損傷は、タイヤの耐空気透過性を大きく低下させ得る。
【0004】
また、近年における車の低燃費化に対する強い社会的要請からタイヤの軽量化が求められており、その一部材であるインナーライナー層においても軽量化が要求されている。従来、チューブレスの空気入りタイヤのインナーライナー層には一般的に、耐空気透過性が比較的高いブチル系ゴムが使用されてきたが、ブチル系ゴムは比重が大きいため、タイヤを重くし、タイヤの転がり抵抗が上昇して燃費を悪化させる一因となっていた。
【0005】
インナーライナー層の特性を改善すべく、従来、様々な技術が提案されている(特許文献1〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−258506号公報
【特許文献2】特開平09−019987号公報
【特許文献3】特許第2999188号明細書
【特許文献4】特開2008−024219号公報
【特許文献5】特開2005−343379号公報
【特許文献6】特開2009−279977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、ポリ塩化ビニリデンのような熱可塑性樹脂からなるフィルムを空気入りタイヤのインナーライナー層(空気透過防止層)に用いることが記載されている。熱可塑性樹脂は、ブチル系ゴムに比べて耐空気透過性の面でより優れており、また、これを適用したインナーライナー層によれば、ブチル系ゴムを用いる場合と比較してタイヤの軽量化も可能である。
【0008】
しかし、熱可塑性樹脂からなるインナーライナー層は、耐屈曲疲労性を確保するために極めて薄くする必要があり、このため、上述したような場面で損傷を生じやすかった。また、タイヤ使用時にショルダー部近傍に大きなせん断歪が作用するため、インナーライナー層とカーカス層との接着界面で剥離が発生しやすくなり、タイヤの空気漏れが発生しやすいという問題もあった。
【0009】
特許文献2には、ガスバリヤー層(A)及びその両面に配置される接着層(B)からなる積層フィルム(インナーライナー層)と、カーカス層のようなゴム層(R)とを含む積層体であって、接着層(B)とゴム層(R)とが加熱接着されてなる積層体が記載されており、ガスバリヤー層(A)の両側に接着層(B)を設けることで、インナーライナー層の重ね合わせ部において接着層(B)同士が接触するようになり、加熱によって強固に接着されるので、空気圧保持性を向上できることが述べられている。しかし、このインナーライナー層の重ね合わせのための接着層(B)は、加硫工程においてブラダーと加熱状態で接触することになり、ブラダーに粘着するという問題があった。
【0010】
特許文献3には、エラストマー組成物(A)を分散相、2種以上の熱可塑性樹脂のブレンドからなる熱可塑性樹脂組成物(B)をマトリックスとする熱可塑性エラストマー組成物を空気入りタイヤの空気透過防止層に用いることが記載されている。上記2種以上の熱可塑性樹脂にはナイロン樹脂が用いられる。
【0011】
しかし、ナイロン樹脂は室温で硬いため、当該文献に記載の熱可塑性エラストマー組成物は、空気入りタイヤのインナーライナー層としては不向きである。また、この熱可塑性エラストマー組成物は、カーカス層のようなゴム層に加硫接着させることができないため、仮にこの熱可塑性エラストマー組成物をインナーライナー層に用いた場合には、ゴム層との接着のための加硫用接着層を別途設ける必要がある。このため、タイヤ構造及びタイヤ製造工程が複雑となり、生産性の観点からも不利であった。
【0012】
特許文献4には、無水マレイン酸変性水素添加スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体のような柔軟樹脂が分散されたエチレン−ビニルアルコール共重合体層の両面に熱可塑性ウレタン系エラストマー層を積層し、この積層体を、ブチルゴム等を含む接着剤組成物を用いてゴム状弾性体層に接着してなるインナーライナー層が記載されている。
【0013】
しかしながら、柔軟樹脂が分散されたエチレン−ビニルアルコール共重合体は接着力が低いため、熱可塑性ウレタン系エラストマー層との剥離が生じやすい傾向にある。また、柔軟樹脂が分散されているものの、マトリックスであるエチレン−ビニルアルコール共重合体自体は耐屈曲疲労性に乏しいため、当該文献に記載のインナーライナー層は、耐屈曲性に関してなお改善の余地があった。さらに、接着剤組成物を用いて上記積層体をゴム状弾性体層に接着するという別途の工程が必要であり、生産性の観点からも不利であった。
【0014】
特許文献5には、ゴム組成物を含む熱可塑性樹脂からなるインナーライナー層において、ショルダー部における厚さ寸法がタイヤクラウン部における厚さ寸法よりも大きくすることにより、低温耐久性を向上させ得ることが記載されている。
【0015】
しかしながら、インナーライナー層の一部の厚さ寸法を大きくすることは、空気入りタイヤの重量増加、ひいてはタイヤの転がり抵抗の上昇を伴うため、燃費を悪化させる要因となる。
【0016】
特許文献6には、タイヤ内面に熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物からなる熱可塑性樹脂フィルム層(インナーライナー層)を設け、その熱可塑性樹脂フィルム層の内面に保護ゴム層を積層した構成において、熱可塑性樹脂フィルム層又は保護ゴム層の少なくとも一方の厚さを変化させることにより、上述したような場面でのインナーライナー部の損傷を防止できることが記載されている。しかしながら、インナーライナー層の一部を厚くすることに伴う燃費悪化の懸念は上記特許文献5に記載の発明と同様であり、また、タイヤの耐久性の面でもなお改善の余地があった。
【0017】
そこで本発明の目的は、優れた耐空気透過性を維持しつつ、転がり抵抗性及び耐久性が向上された空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、次の空気入りタイヤを提供する。
[1] カーカス層と、
前記カーカス層のタイヤ内側に配置されるインナーライナー層と、
前記インナーライナー層のタイヤ内側に配置されるゴム層と、
を備え、
前記インナーライナー層は、
スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を含む厚み0.02mm〜0.2mmの第1層と、
前記カーカス層と接するように配置されており、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体及びスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを含む厚み0.01mm〜0.3mmの第2層と、
からなり、
次の(a)及び(b):
(a)前記インナーライナー層が、第1領域と、前記第1領域とは異なる領域であって、前記第1領域よりも厚みが大きい第2領域とを含む、
(b)前記ゴム層が、第3領域と、前記第3領域とは異なる領域であって、前記第3領域よりも厚みが大きい第4領域とを含む、
の少なくともいずれかを満たす、空気入りタイヤ。
【0019】
[2] 前記第1領域は、前記インナーライナー層におけるトレッド部に対応する領域であり、
前記第2領域は、前記インナーライナー層における、前記第1領域以外の少なくとも一部の領域である、[1]に記載の空気入りタイヤ。
【0020】
[3] 前記第4領域は、前記ゴム層におけるトレッド部に対応する領域であり、
前記第3領域は、前記ゴム層における、前記第4領域以外のすべての領域である、[1]又は[2]に記載の空気入りタイヤ。
【0021】
[4] 前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体は、スチレン成分含有量が10〜30質量%であり、重量平均分子量が50,000〜400,000である、[1]〜[3]のいずれか記載の空気入りタイヤ。
【0022】
[5] 前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体は、スチレン成分含有量が10〜30質量%であり、重量平均分子量が100,000〜290,000である、[1]〜[4]のいずれか記載の空気入りタイヤ。
【0023】
[6] 前記スチレン−イソブチレンジブロック共重合体は、直鎖状であり、スチレン成分含有量が10〜35質量%であり、重量平均分子量が40,000〜120,000である、[1]〜[5]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【0024】
[7] 前記ゴム層は、ブチル系ゴムからなる、[1]〜[6]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、優れた耐空気透過性を維持しつつ、転がり抵抗性及び耐久性が向上された空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る空気入りタイヤを説明するためのタイヤ右半分を示す概略断面図である。
図2】インナーライナー層の層構成の好ましい一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、カーカス層と、カーカス層のタイヤ内側に配置されるインナーライナー層と、インナーライナー層のタイヤ内側に配置されるゴム層とを少なくとも備える空気入りタイヤに関する。空気入りタイヤは、トラック、バス等の重荷重用空気入りタイヤであってもよいし、乗用車用空気入りタイヤであることもできる。
【0028】
本発明の空気入りタイヤにおいてインナーライナー層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体を含む厚み0.02mm〜0.2mmの第1層と、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体及びスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを含む厚み0.01mm〜0.3mmの第2層との積層体からなり、上記カーカス層側に第2層が配置される。第2層は、カーカス層に接しており、密着している。一方、第1層は上記ゴム層側に配置され、通常、第1層はゴム層に接しており、密着している。
【0029】
また、本発明の空気入りタイヤは、次の(a)及び(b):
(a)インナーライナー層が、第1領域と、第1領域とは異なる領域であって、第1領域よりも厚みが大きい第2領域とを含む、
(b)ゴム層が、第3領域と、第3領域とは異なる領域であって、第3領域よりも厚みが大きい第4領域とを含む、
の少なくともいずれかを満たしている。
【0030】
図1は、本発明に係る空気入りタイヤ(重荷重用空気入りタイヤ)を説明するためのタイヤ右半分を示す概略断面図(タイヤ子午線方向の半断面図)である。ただし、この図は、空気入りタイヤの全体像を把握するためのものであるため、上記(a)及び(b)の厚みに関する事項は反映されていない。
【0031】
図1に示される空気入りタイヤ100は、タイヤ周方向に延びる主溝5を有し、クラウン中心位置Aからショルダー部11にわたって形成されているトレッド部10;ショルダー部11から延びるバットレス部15;バットレス部15から延びるサイドウォール部20;サイドウォール部20から延び、ビードコア26が埋設されるとともに、チェーファー27が配置されたビード部25;左右一対のビードコア26間に装架され、両端をビードコア26のまわりに折り返して係止されるカーカス層30;カーカス層30のクラウン部外側に配置される複数のベルト層35;カーカス層30のタイヤ半径方向内側において、左右一対のビード部25間にわたって配置されるインナーライナー層40;インナーライナー層40のタイヤ半径方向内側において、左右一対のビード部25間にわたって配置されるゴム層50を含む。
【0032】
<インナーライナー層>
図2は、インナーライナー層40の層構成の好ましい一例を示す概略断面図である。図2に示されるように、インナーライナー層40は、ゴム層50側に配置される第1層41と、カーカス層30側に配置される第2層42とで構成される。図2の例において第2層42はカーカス層30と接しており、第1層41はゴム層50と接している。
【0033】
(1)第1層
第1層41は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう。)を含み、好ましくはSIBSからなる。SIBSが有するイソブチレンブロックに起因して、SIBSを含む層は優れた耐空気透過性を有する。従って、SIBSを含む第1層41を備えるインナーライナー層40を用いることにより、耐空気透過性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0034】
また、SIBSは芳香環以外の分子構造が完全飽和であるため、劣化硬化が生じにくく、優れた耐久性を有する。従って、SIBSを含む第1層41を備えるインナーライナー層40を用いることにより、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0035】
このように、SIBSを含む第1層41を備えるインナーライナー層40を適用することで優れた耐空気透過性を得ることが可能である。従って、耐空気透過性を付与するために従来使用されてきた高比重のブチル系ゴム(ハロゲン化ブチルゴム等)を使用する必要がない。これによってタイヤの軽量化、ひいてはタイヤの転がり抵抗の低減が可能となり、その結果、燃費の向上効果を得ることができる。また、他の熱可塑性樹脂からなる従来のインナーライナー層を用いる場合と比較しても、耐空気透過性を維持しながら、タイヤの軽量化、ひいてはタイヤの転がり抵抗の低減に伴う燃費の向上効果を得ることができ、また、耐久性向上効果を得ることもできる。
【0036】
SIBSの分子量は特に制限されないが、SIBSのゴム弾性及び流動性、インナーライナー層への成形加工性等の観点から、GPC測定による重量平均分子量が50,000〜400,000であることが好ましい。重量平均分子量が50,000未満であると、SIBSのゴム弾性、引張強度及び引張伸びが低下するおそれがある。また、重量平均分子量が400,000を超えると、SIBSの流動性の低下によりインナーライナー層への成形加工性(押出加工性等)が低下するおそれがある。
【0037】
SIBSは、耐空気透過性及び耐久性をより良好にする観点から、SIBS中のスチレン成分の含有量が10〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましく、14〜23質量%であることがさらに好ましい。SIBSを構成するイソブチレン成分とスチレンとのモル比(イソブチレン/スチレン)は、SIBSのゴム弾性の観点から、40/60〜95/5であることが好ましい。
【0038】
SIBSを構成する各ブロックの重合度は、SIBSのゴム弾性及び取扱い性(重合度が10,000未満では液状になる)の観点から、イソブチレンブロックが10,000〜150,000程度であることが好ましく、また、スチレンブロックが5,000〜30,000程度であることが好ましい。
【0039】
SIBSは、リビングカチオン重合法のような一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。たとえば、特開昭62−48704号公報及び特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル系化合物としてのイソブチレン及び他の化合物をリビングカチオン重合することでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。この他にも、リビングカチオン重合法によるビニル系化合物重合体の製造法が、例えば、米国特許第4,946,899号、米国特許第5,219,948号、特開平3−174403号公報等に記載されている。
【0040】
SIBSは、分子内に芳香環以外の二重結合を有していないために、分子内に二重結合を有している重合体、例えばポリブタジエンに比べて紫外線に対する安定性が高く、従って耐候性も良好である。また、分子内に芳香環以外の二重結合を有しておらず、飽和系のゴム状ポリマーであるにも関わらず、波長589nmの光の20℃での屈折率(nD)は、ポリマーハンドブック〔1989年:ワイリー(Polymer Handbook, Willy,1989)〕によると、1.506である。これは他の飽和系のゴム状ポリマー、例えばエチレン−ブテン共重合体に比べて有意に高い。
【0041】
SIBSを含む第1層41の厚みは、0.02〜0.2mmである。第1層41の厚みが0.02mm未満であると、生タイヤの加硫時に、第1層41がプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、第1層41の厚みが0.2mmを超えると、タイヤ重量が増加し、低燃費性能が低下する傾向にある。第1層41の厚みは、好ましくは0.02〜0.1mmである。SIBSを含む第1層41は、耐空気透過性に優れているため、極めて薄くすることが可能である。このことは、タイヤの軽量化、ひいては燃費の向上をもたらす。
【0042】
なお、第1層41は、補強剤、充填剤、顔料、加硫剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、カップリング剤、粘着付与剤のような添加剤を含有することができる。
【0043】
(2)第2層
第2層42は、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIS」ともいう。)及びスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(以下、「SIB」ともいう。)の少なくともいずれかを含み、好ましくはSIS及び/又はSIBからなる。
【0044】
SISのイソプレンブロック及びSIBのイソブチレンブロックはソフトセグメントであるため、SIS及び/又はSIBを含む層はゴム成分と加硫接着しやすい。従って、SIS及び/又はSIBを含む第2層42を備えるインナーライナー層40を用いることにより、インナーライナー層40とカーカス層30との接着強度に優れる空気入りタイヤを得ることができる。これにより、空気入りタイヤの耐久性及び耐空気透過性を向上させることができる。
【0045】
SISの分子量は特に制限はないが、SISのゴム弾性及びインナーライナー層への成形加工性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が100,000〜290,000であることが好ましい。重量平均分子量が100,000未満であると、SISのゴム弾性、引張強度が低下するおそれがある。また、重量平均分子量が290,000を超えると、SISの流動性の低下によりインナーライナー層への成形加工性(押出加工性等)が低下するおそれがある。SIS中のスチレン成分の含有量は、SISの粘着性及びゴム弾性、並びに、第1層41及びカーカス層30に対する第2層42の接着強度の観点から、10〜30質量%であることが好ましい。
【0046】
SISを構成する各ブロックの重合度は、SISのゴム弾性及び取扱い性の観点から、イソプレンブロックが500〜5,000程度であることが好ましく、また、スチレンブロックが50〜1,500程度であることが好ましい。
【0047】
SISは、リビングカチオン重合法のような一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。
【0048】
SIBとしては、直鎖状のものを用いることがゴム弾性、並びに、第1層41及びカーカス層30に対する第2層42の接着強度の観点から好ましい。SIBの分子量は特に制限はないが、SIBのゴム弾性及びインナーライナー層への成形加工性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が40,000〜120,000であることが好ましい。重量平均分子量が40,000未満であると、SIBのゴム弾性、引張強度が低下するおそれがある。また、120,000を超えると、SIBの流動性の低下によりインナーライナー層への成形加工性(押出加工性等)が低下するおそれがある。SIB中のスチレン成分の含有量は、SIBの粘着性及びゴム弾性、並びに、第1層41及びカーカス層30に対する第2層42の接着強度の観点から、10〜35質量%であることが好ましい。
【0049】
SIBを構成する各ブロックの重合度は、SIBのゴム弾性及び取扱い性の観点から、イソブチレンブロックが300〜3,000程度であることが好ましく、また、スチレンブロックが10〜1,500程度であることが好ましい。
【0050】
SIBは、リビングカチオン重合法のような一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。例えば、国際公開第2005/033035号には、攪拌機にメチルシクロヘキサン、n−ブチルクロライド、クミルクロライドを加え、−70℃に冷却した後、2時間反応させ、その後に大量のメタノールを添加して反応を停止させ、60℃で真空乾燥してSIBを得る方法が開示されている。
【0051】
第2層42は、SISを含む層からなる単層構造又はSIBを含む層からなる単層構造であることができる。また、第2層42は、SIS及びSIBの双方を含んでいてもよい。この場合において第2層42は、SIS及びSIBの双方を含む単層構造であってもよいし、SISを含む層とSIB層を含む層との多層構造であってもよい。
【0052】
第2層42の厚みは、0.01〜0.3mmである。第2層42の厚みとは、第2層42が多層構造である場合には多層の合計厚みをいう。第2層42の厚みが0.01mm未満であると、生タイヤの加硫時に第2層42がプレス圧力で破れてしまい、加硫接着力が低下するおそれがある。一方、第2層42の厚みが0.3mmを超えると、タイヤ重量が増加し、低燃費性能が低下する。第2層42の厚みは、好ましくは0.01〜0.1mmである。
【0053】
なお、第2層42は、補強剤、充填剤、顔料、加硫剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、カップリング剤、粘着付与剤のような添加剤を含有することができる。
【0054】
(3)第1層と第2層との積層体の製造方法
インナーライナー層40となる第1層41と第2層42との積層体は、例えば、第1層41を形成するSIBSを含むゴム組成物と、SIS及びSIBの少なくともいずれかを含むゴム組成物とを用いたラミネート押出や共押出のような積層押出により得ることができる。
【0055】
(4)インナーライナー層の厚み
本発明の空気入りタイヤが上述の厚みに関する条件(a)及び(b)のうち、(a)を満たすものである場合、インナーライナー層40は、第1領域と、第1領域とは異なる領域であって、第1領域よりも厚みが大きい第2領域とを含む。ここでいう厚みとは、タイヤ子午線方向断面における厚みである。本発明の空気入りタイヤが(b)を満たすものである場合、インナーライナー層40は(a)を満たすものであってもよいし、全領域にわたって均一な厚みを有していてもよい。
【0056】
条件(a)において、第1領域よりも厚みを大きくする第2領域は、耐空気透過性が経時的に比較的低くなりやすく、これにより周辺のタイヤ部材が酸化劣化して経時的に耐久性が低下しやすいような領域であり、これに対して第1領域は、このような懸念がなく、耐空気透過性が経時的にも良好な領域である。上記のような第2領域における厚みをより大きくすることにより、タイヤ部材の酸化劣化を効果的に抑制することができ、タイヤの耐久性及び耐空気透過性を向上させることができる。
【0057】
なお、第2領域の厚みを大きくする分、タイヤ重量は増加するが、本発明によれば、所定の材料からなるインナーライナー層を用いるため、他の熱可塑性樹脂からなり、同じ厚みプロファイルを有する従来のインナーライナー層を用いた場合よりもタイヤ重量を低減させる(ひいては転がり抵抗性を向上させる)ことができ、さらには、他の熱可塑性樹脂からなり、厚くする領域を設けない従来のインナーライナー層を用いた場合と比較してもタイヤ重量を低減させることが可能である。このように本発明によれば、インナーライナー層の厚みを大きくする分だけタイヤ重量は増加するが、この重量増加による不利を克服して、耐久性及び耐空気透過性を向上させつつ、転がり抵抗性を向上させることが可能である。この点は、条件(b)を満たす空気入りタイヤについても同様である。
【0058】
図1を参照して、第1領域は、より具体的には、インナーライナー層40におけるトレッド部10に対応する領域R1であることができる。トレッド部10に対応する領域とは、トレッド部10が有する最も外側の主溝5に対応する位置からタイヤ幅方向内側の領域をいう。この領域は、カーカス層30に加えてベルト層35及びトレッド部10が積層されているため、良好な耐空気透過性を有している。
【0059】
第1領域よりも厚みを大きくする第2領域は、第1領域以外の少なくとも一部の領域であり、より具体的には、図1を参照して、ショルダー部11からバットレス部15に対応する領域R2、サイドウォール部20に対応する領域R3、ビード部25に対応する領域R4のいずれか1つ以上の領域であることができる。これらの領域の一部分の厚みを大きくするようにしてもよい。サイドウォール部20は薄いため、耐空気透過性が低下しやすい。また、ショルダー部11からバットレス部15に至る領域及びビード部25は、耐空気透過性が低下すると周辺のタイヤ部材の酸化劣化により耐久性が低下しやすい。
【0060】
ショルダー部11からバットレス部15に対応する領域R2は、トレッド部10に対応する領域R1とサイドウォール部20に対応する領域R3との間に位置する領域であり、領域R2の少なくとも一部の厚みを大きくする場合、例えば、最大幅を有するベルト層35の末端35aからインナーライナー層40に垂線を下ろしたとき、その垂線とインナーライナー層40との交点を中心として、タイヤ子午線方向断面の内側に沿ってインナーペリフェリー(タイヤ子午線方向断面において、一方のビードトゥから他方のビードトゥまでのタイヤ内周面に沿った長さ)の5〜10%の範囲内の厚みを大きくすることが好ましい。これにより、過度にタイヤ重量を増加させることなく、タイヤ耐久性を向上させることができる。
【0061】
領域R2の少なくとも一部の厚みを大きく態様は、とりわけ重荷重用空気入りタイヤに好適に適用することができる。
【0062】
サイドウォール部20に対応する領域R3は、ショルダー部11からバットレス部15に対応する領域R2とビード部25に対応する領域R4との間に位置する領域であり、領域R3の少なくとも一部の厚みを大きくする場合、例えば、カーカスラインの最大幅の点Bからインナーライナー層40に垂線を下ろしたとき、その垂線とインナーライナー層40との交点を中心として、インナーペリフェリーの3〜8%の範囲内の厚みを大きくすることが好ましい。これにより、過度にタイヤ重量を増加させることなく、タイヤ耐久性を向上させることができる。
【0063】
領域R3の少なくとも一部の厚みを大きく態様は、とりわけ乗用車用空気入りタイヤに好適に適用することができる。
【0064】
ビード部25に対応する領域R4は、サイドウォール部20に対応する領域R3に続く領域であり、領域R4の少なくとも一部の厚みを大きくする場合、例えば、カーカス層30の末端30aからインナーライナー層40に垂線を下ろしたとき、その垂線とインナーライナー層40との交点を中心として、インナーペリフェリーの3〜10%の範囲内の厚みを大きくすることが好ましい。これにより、過度にタイヤ重量を増加させることなく、タイヤ耐久性を向上させることができる。領域R4の厚みを大きくすることは、耐空気透過性の低下により酸化劣化を生じてチェーファーセパレーション等の不具合を起こしやすいチェーファー27の酸化劣化防止にとりわけ有効であり、これによりタイヤの耐久性を向上させることができる。
【0065】
領域R4の少なくとも一部の厚みを大きく態様は、とりわけ重荷重用空気入りタイヤに好適に適用することができる。
【0066】
上述のように、インナーライナー層40を構成する第1層41、第2層42の厚みはそれぞれ、0.02〜0.2mm、0.01〜0.3mmである。従って、本発明においてインナーライナー層40の厚みは、0.03〜0.5mmの範囲を採り得る。インナーライナー層40の第1領域及び第2領域の厚みはそれぞれ、この範囲内にある限り特に制限されないが、第1領域の厚みT1に対する第2領域の厚みT2の比T2/T1は、1.05〜3であることが好ましく、1.1〜2であることがより好ましく、1.1〜1.7であることがさらに好ましい。この範囲内であれば、第2領域の厚みを大きくすることによる上述の効果を十分に得ることができる。
【0067】
第2領域の厚みを大きくする方法は特に制限されず、1)第2領域に相当する第1層41の部分を厚く成形する、2)第2領域に相当する第2層42の部分を厚く成形する、3)第2領域に相当する第2層42の部分の積層数を他の部分よりも多くする、及び、4)これらの組み合わせを採用することができる。
【0068】
<ゴム層>
ゴム層50は、インナーライナー層40のタイヤ半径方向内側において、左右一対のビード部25間にわたって配置される層であり、極めて薄いインナーライナー層40を保護する役割を担う。ゴム層50を備えることより、リム組み作業等の際に工具類が接触することによる損傷や、パンク修理等においてタイヤ内面をバフ処理する際における損傷がインナーライナー層40に生じることを効果的に防止することができる。これにより、タイヤの耐久性及び耐空気透過性の低下を効果的に抑制することができる。
【0069】
ゴム層50を構成するゴムは、耐空気透過性が良好なものであることが好ましく、具体例を挙げれば、例えば、天然ゴム;エポキシ化天然ゴム;イソプレンゴム;スチレンブタジエンゴム;ブタジエンゴム;ニトリルゴム;ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等のブチル系ゴムのようなジエン系ゴムである。好ましくは耐空気透過性のより優れるブチル系ゴムである。
【0070】
ゴム層50の厚みは、インナーライナー層40の損傷を効果的に防止するために、0.2〜2mmであることが好ましく、0.5〜1.5mmであることがより好ましい。
【0071】
本発明の空気入りタイヤが上述の厚みに関する条件(a)及び(b)のうち、(b)を満たすものである場合、ゴム層50は、第3領域と、第3領域とは異なる領域であって、第3領域よりも厚みが大きい第4領域とを含む。ここでいう厚みとは、タイヤ子午線方向断面における厚みである。本発明の空気入りタイヤが(a)を満たすものである場合、ゴム層50は(b)を満たすものであってもよいし、全領域にわたって均一な厚みを有していてもよい。インナーライナー層40が(a)を満たし、かつゴム層50が(b)を満たすことがより好ましい。
【0072】
条件(b)において、第3領域よりも厚みを大きくする第4領域は、上述したような場面でインナーライナー層40に損傷が生じやすい領域、具体的には、ゴム層50におけるトレッド部10に対応する領域である。トレッド部10に対応する領域とは、トレッド部10が有する最も外側の主溝5に対応する位置からタイヤ幅方向内側の領域をいう。第3領域は、第4領域以外のすべての領域であることができる。
【0073】
ゴム層50の第3領域及び第4領域の厚みはそれぞれ、0.2〜2mmの範囲内にある限り特に制限されないが、第3領域の厚みT3に対する第4領域の厚みT4の比T4/T3は、1.05〜20であることが好ましく、1.1〜15であることがより好ましく、1.2〜10であることがさらに好ましく、1.2〜5であることが特に好ましい。第4領域の厚みT4は、好ましくは0.5〜2mmであり、より好ましくは0.8〜1.5mmである。
【0074】
ゴム層50は、押出成形、カレンダー成形のような従来公知の方法によって製造することができる。第4領域の厚みを大きくする方法は特に制限されず、1)第4領域に相当する部分を厚く成形する、2)第4領域に相当する部分において複数のゴム層を積層する、等の方法を採用することができる。
【0075】
<カーカス層>
カーカス層30は、コードが配列・埋設されたゴム部材である。コードは、例えばポリエステル、ナイロン、アラミド等の有機繊維や、スチールからなる。カーカス層30を構成するゴムは特に制限されず、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム等であることができる。カーカス層30は、通常の添加剤、例えばカーボンブラック、シリカのような充填剤を含有することができる。
【0076】
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤは、上述の第1層と第2層との積層体をインナーライナー層として用い、そのタイヤ半径方向内側にゴム層を配置すること以外は、一般的な製造方法にに従って生タイヤを構築し、これを加硫成形することよって製造することができる。インナーライナー層は、その第1層は上記ゴム層側、第2層がカーカス層側となるように配置される。このように配置すると、タイヤ加硫工程において、第2層とカーカス層との接着強度を高めることができる。得られる空気入りタイヤは、インナーライナー層とカーカス層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性及び耐久性を示す。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0078】
表1〜3に示される構成の実施例1〜9及び比較例1〜15の空気入りタイヤを製造して、性能を評価した。
【0079】
<実施例1>
(1)SIBの調製
攪拌機付き2L反応容器に、メチルシクロヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)589mL、n−ブチルクロライド(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)613ml、クミルクロライド0.550gを加えた。反応容器を−70℃に冷却した後、α−ピコリン(2−メチルピリジン)0.35mL、イソブチレン179mLを添加した。さらに四塩化チタン9.4mLを加えて重合を開始し、−70℃で溶液を攪拌しながら2.0時間反応させた。次に反応容器にスチレン59mLを添加し、さらに60分間反応を続けた後、大量のメタノールを添加して反応を停止させた。反応溶液から溶剤等を除去した後に、重合体をトルエンに溶解して2回水洗した。このトルエン溶液をメタノールに加えて重合体を沈殿させ、得られた重合体を60℃で24時間乾燥することにより、直鎖状のスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)を得た。得られたSIBのスチレン成分含有量は15質量%であり、GPC測定による重量平均分子量は70,000であった。
【0080】
(2)SIBSの準備
スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)として、カネカ(株)社製の「シブスターSIBSTAR 102T」(ショアA硬度25、スチレン成分含有量25質量%、GPC測定による重量平均分子量:100,000)を準備した。
【0081】
(3)インナーライナー層(未加硫)の作製
第1層を形成するポリマーとして上記SIBS、第2層を形成するポリマーとして上記SIBを用い、これらを2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220℃)にてペレット化した。その後、Tダイ押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイリップ幅:500mm、シリンダ温度:220℃、フィルムゲージ:0.3mm)を用いて、第1層と第2層との積層体を作製した。第1層(SIBS層)の厚みは全体にわたって均一であり、0.03mmであった。また、第2層(SIB層)の厚みは全体にわたって均一であり、0.02mmであった。
【0082】
(4)ゴム層(未加硫)の作製
Tダイ押出機を用いて、ブチルゴムからなるゴム層を作製した。この際、Tダイ押出機の押出口にプロファイルをつけて、トレッド部に対応する領域の厚みを1.0mm、その他の領域のすべての厚みを0.1mmとした。
【0083】
(5)空気入りタイヤの製造
上記第1層と第2層との積層体をインナーライナー層に適用し、そのタイヤ半径方向内側に上記ゴム層を配置して、図1に示す基本構造を有する11R22.5サイズの生タイヤを製造し、次に加硫工程において、170℃で20分間プレス成形して、空気入りタイヤを製造した。第1層と第2層との積層体を生タイヤに適用する際、第2層がカーカス層に接するように配置した。なお、各表では、第1層と第2層との積層体からなるインナーライナー層を「SIBS/SIB IL層」と記載している。
【0084】
<実施例2>
トレッド部に対応する領域の厚みが1.0mmであり、その他の領域のすべての厚みが0.5mmであるゴム層を用いたこと以外は、実施例1と同様にして空気入りタイヤを製造した。
【0085】
<実施例3〜9>
表2に示されるように、ショルダー部からバットレス部に対応する領域R2、サイドウォール部に対応する領域R3、ビード部に対応する領域R4のいずれかの厚みを0.075mm(他の領域の厚みはすべて0.05mm)とした第1層と第2層との積層体をインナーライナー層として用いたこと以外は、実施例2と同様にして空気入りタイヤを製造した。厚みの調整は、Tダイ押出機の押出口にプロファイルをつけて、第1層の厚みを大きくすることにより行った。
【0086】
<比較例1〜15>
各領域の厚みが各表に示されるとおりであるインナーライナー層及びゴム層(ただし、一部の比較例ではゴム層を使用していない。)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして空気入りタイヤを製造した。一部の比較例では、第1層(SIBS層)と第2層(SIB層)との積層体ではなく、ナイロン6/66共重合体とイソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物とを含むエラストマー組成物からなる単層構造のインナーライナー層を用いた。各表では、このインナーライナー層を「ナイロン系IL層」と記載している。
【0087】
(タイヤ重量測定及び評価試験)
実施例及び比較例で作製した空気入りタイヤ又はインナーライナー層について、以下のタイヤ重量測定及び評価試験を行った。試験結果を指数で表わしたものを表1〜3に示す。
【0088】
〔1〕タイヤ重量の測定
タイヤ重量を測定し、下記式:
タイヤ重量指数=(基準例のタイヤ重量)/(各実施例・比較例のタイヤ重量)×100
に従って、タイヤ重量指数を算出した。基準例は、実施例1及び比較例1〜7については比較例1であり、実施例2〜9及び比較例8〜15については比較例8である。タイヤ重量指数が大きいほど、タイヤ重量が小さく、軽量化の達成度が高い。
【0089】
〔2〕耐空気透過性の評価
空気入りタイヤをリム(22.5×7.50)に装着し、初期圧力900kPa、室温21℃、無負荷条件にて3ヶ月間静置する間、4日毎に内圧を測定した。初期圧力P0(kPa)、測定圧力Pt(kPa)、経過時間t(日)として、下記式:
t/P0=exp(−αt)
に基づいて、回帰係数αを算出した。得られた回帰係数αから、t=30(日)として、下記式:
β=〔1−exp(−αt)〕×100
に基づいて、1ヶ月当たりの圧力低下率β(%/月)を算出した。そして、下記式:
耐空気透過性指数=(各実施例・比較例のβ値)/(基準例のβ値)×100
に従って、耐空気透過性指数を算出した。基準例は、実施例1及び比較例1〜7については比較例1であり、実施例2〜9及び比較例8〜15については比較例8である。耐空気透過性指数が小さいほど、耐空気透過性が高い。
【0090】
〔3〕タイヤ耐久性の評価
空気入りタイヤをリム(22.5×7.50)に装着し、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機(ドラム径1707mm)にかけて、酸素濃度60%に調整した空気を充填して空気圧をJATMA規定空気圧900kPaにし、JATMA規定負荷能力の150%を負荷し、速度81km/hの条件で、タイヤ故障を起こすまでの走行距離を測定した。そして、下記式:
タイヤ耐久性指数=(各実施例・比較例の走行距離)/(基準例の走行距離)×100
に従って、タイヤ耐久性指数を算出した。基準例は、実施例1及び比較例1〜7については比較例1であり、実施例2〜9及び比較例8〜15については比較例8である。タイヤ耐久性指数が大きいほど、タイヤ耐久性が高い。
【0091】
〔4〕ビード耐久性の評価
上記のタイヤ耐久性試験を行った後、故障が発生した空気入りタイヤを解体し、ビード部のチェーファーセパレーションの発生数を目視評価した。そして、下記式:
ビード耐久性指数=(基準例の発生数)/(各実施例・比較例の発生数)×100
に従って、ビード耐久性指数を算出した。基準例は、実施例1及び比較例1〜7については比較例1であり、実施例2〜9及び比較例8〜15については比較例8である。ビード耐久性指数が大きいほど、ビード耐久性が高い。
【0092】
〔5〕転がり抵抗性の評価
インナーライナー層の転がり抵抗性を次の手順に従って評価した。粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所)を用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪2%の条件下でインナーライナー層のtanδを測定した。そして、下記式:
転がり抵抗性指数=(基準例のtanδ)/(各実施例・比較例のtanδ)×100
に従って、転がり抵抗性指数を算出した。基準例は、実施例1及び比較例1〜7については比較例1であり、実施例2〜9及び比較例8〜15については比較例8である。転がり抵抗性指数が大きいほど、転がり抵抗性に優れる。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【符号の説明】
【0096】
5 主溝、10 トレッド部、11 ショルダー部、15 バットレス部、20 サイドウォール部、25 ビード部、26 ビードコア、27 チェーファー、30 カーカス層、30a カーカス層の末端、35 ベルト層、35a 最大幅を有するベルト層の末端、40 インナーライナー層、41 第1層、42 第2層、50 ゴム層、100 空気入りタイヤ、A クラウン中心位置、B カーカスラインの最大幅の点、R1 トレッド部に対応する領域、R2 ショルダー部からバットレス部に対応する領域、R3 サイドウォール部に対応する領域、R4 ビード部に対応する領域。
図1
図2