(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6141154
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】基地局装置並びにその制御方法、通信装置並びにその制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/28 20090101AFI20170529BHJP
H04W 24/10 20090101ALI20170529BHJP
【FI】
H04W16/28
H04W24/10
【請求項の数】19
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-188709(P2013-188709)
(22)【出願日】2013年9月11日
(65)【公開番号】特開2015-56755(P2015-56755A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】スイヒリ ウサマ
(72)【発明者】
【氏名】畑川 養幸
(72)【発明者】
【氏名】小西 聡
【審査官】
青木 健
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−071497(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/004042(WO,A1)
【文献】
特開2010−200146(JP,A)
【文献】
KDDI Corp.,Proposal Towards a Simplified Extension of the 2D ITU-R channel models to 3D: Scenario-Based Channel Gain Modelling,3GPP TSG-RAN WG1#72b R1-131316,2013年 4月15日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 − 99/00
H04B 7/24 − 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信装置との間の通信のためのアンテナのチルト角を設定する基地局装置であって、
前記通信装置から、前記基地局装置からの信号が前記通信装置に到来した際の仰角に関する情報を取得する取得手段と、
前記仰角と、前記信号が前記通信装置に届くまでの経路において最後に回折する点の高さと、前記通信装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置と前記通信装置との水平方向における距離とに基づいて、前記チルト角として設定すべき値を決定する決定手段と、
決定された値に応じて前記チルト角を設定する設定手段と、
を有することを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
前記点の高さは、前記通信装置の位置に基づいて定められる、
ことを特徴とする請求項1に記載の基地局装置。
【請求項3】
前記決定手段は、前記点の高さと前記通信装置のアンテナが位置する高さとの差と、前記仰角とから、前記通信装置と前記点との間の水平方向における距離を算出し、当該距離を前記基地局装置と前記通信装置との水平方向における距離から減じた値により、前記基地局装置のアンテナが位置する高さから前記点の高さを減じた値を除算した値の逆正接を算出することにより、前記チルト角として設定すべき値を決定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の基地局装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記仰角、前記点の高さ、及び前記基地局装置と前記通信装置との水平方向における距離に対応するチルト角を記憶するテーブルから、前記チルト角として設定すべき値を抽出して決定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の基地局装置。
【請求項5】
前記決定手段は、前記仰角と前記チルト角との差が所定値未満である場合、前記仰角を、前記チルト角を設定すべき値として決定する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項6】
前記設定手段は、設定することができる前記チルト角の候補のうち、決定された値との差が最小となる候補を選択して、選択された候補に前記チルト角を設定する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項7】
前記設定手段は、設定することができる前記チルト角の候補のうち、決定された値より大きい候補または小さい候補の中で当該決定された値との差が最小となる候補を選択して、選択された候補に前記チルト角を設定する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項8】
前記取得手段は、さらに、前記通信装置における前記基地局装置からの信号の無線品質に関する情報を、前記通信装置から取得し、
前記設定手段は、前記決定された値に応じて前記チルト角を設定した後に前記無線品質が劣化した場合、当該設定を行う前のチルト角に前記チルト角を戻す、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項9】
前記取得手段は、さらに、前記通信装置における前記基地局装置からの信号の無線品質に関する情報を、前記通信装置から取得し、
前記設定手段は、前記決定された値に応じて前記チルト角を設定した後に前記無線品質が劣化した場合、前記チルト角が、当該設定を行う前の前記チルト角と当該設定を行った後の前記チルト角との間の値となるように、当該チルト角を設定する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項10】
前記設定手段は、前記チルト角が、設定を行う前の前記チルト角と前記決定された値との間の値となるように、当該チルト角を設定する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の基地局装置。
【請求項11】
アンテナのチルト角を設定できる基地局装置との間で通信を行う通信装置であって、
前記基地局装置からの信号が到来した際の仰角を取得する取得手段と、
前記仰角に関する情報を前記基地局装置へ通知する通知手段と、
を有し、
前記基地局装置は、前記仰角と、前記信号が前記通信装置に届くまでの経路において最後に回折する点の高さと、前記通信装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置と前記通信装置との水平方向における距離とに基づいて、前記チルト角として設定すべき値を決定する、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項12】
前記取得手段は、前記信号が最も強く受信される経路に関して、前記仰角を取得する、
ことを特徴とする請求項11に記載の通信装置。
【請求項13】
前記取得手段は、所定値以上の電力で前記信号が最も早いタイミングで受信される経路に関して、前記仰角を取得する、
ことを特徴とする請求項11に記載の通信装置。
【請求項14】
前記通知手段は、前記仰角を量子化した値に関する情報を前記基地局装置へ通知する、
ことを特徴とする請求項11から13のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項15】
前記通知手段は、前記仰角または当該仰角を量子化した値を特定するためのインデックスを前記基地局装置へ通知する、
ことを特徴とする請求項11から14のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項16】
通信装置との間の通信のためのアンテナのチルト角を設定する基地局装置の制御方法であって、
取得手段が、前記通信装置から、前記基地局装置からの信号が前記通信装置に到来した際の仰角に関する情報を取得する取得工程と、
決定手段が、前記仰角と、前記信号が前記通信装置に届くまでの経路において最後に回折する点の高さと、前記通信装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置と前記通信装置との水平方向における距離とに基づいて、前記チルト角として設定すべき値を決定する決定工程と、
設定手段が、決定された値に応じて前記チルト角を設定する設定工程と、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項17】
アンテナのチルト角を設定できる基地局装置との間で通信を行う通信装置の制御方法であって、
取得手段が、前記基地局装置からの信号が到来した際の仰角を取得する取得工程と、
通知手段が、前記仰角に関する情報を前記基地局装置へ通知する通知工程と、
を有し、
前記基地局装置は、前記仰角と、前記信号が前記通信装置に届くまでの経路において最後に回折する点の高さと、前記通信装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置と前記通信装置との水平方向における距離とに基づいて、前記チルト角として設定すべき値を決定する、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項18】
通信装置との間の通信のためのアンテナのチルト角を設定する基地局装置に備えられたコンピュータに、
前記通信装置から、前記基地局装置からの信号が前記通信装置に到来した際の仰角に関する情報を取得する取得工程と、
前記仰角と、前記信号が前記通信装置に届くまでの経路において最後に回折する点の高さと、前記通信装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置と前記通信装置との水平方向における距離とに基づいて、前記チルト角として設定すべき値を決定する決定工程と、
決定された値に応じて前記チルト角を設定する設定工程と、
を実行させるためのプログラム。
【請求項19】
アンテナのチルト角を設定できる基地局装置との間で通信を行う通信装置に備えられたコンピュータに、
前記基地局装置からの信号が到来した際の仰角を取得する取得工程と、
前記仰角に関する情報を前記基地局装置へ通知する通知工程と、
を実行させ、
前記基地局装置は、前記仰角と、前記信号が前記通信装置に届くまでの経路において最後に回折する点の高さと、前記通信装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置と前記通信装置との水平方向における距離とに基づいて、前記チルト角として設定すべき値を決定する、 ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムにおける、基地局装置のチルト角の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
基地局装置においてアンテナのチルト角を制御することによって、通信相手の端末における通信品質を向上させることができることが知られている(非特許文献1参照)。例えば、見通し(LOS)環境において、アンテナのゲインが最も強くなる方向を、端末が存在する位置に向けるようにチルト角を制御することにより、その端末において最も良好な通信品質を達成できると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】G.Wilson、“ビームステアリングを通じた電気的ダウンチルト対機械的ダウンチルト(Electrical downtilt through beam−steering versus mechanical downtilt)”、IEEE 42nd Vehicular Technology Conference 予稿、vol.1、pp.1−4、1992年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、非見通し環境では、端末において良好な通信品質を得るためにどのようなチルト角制御を行えばよいかは必ずしも明らかではない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、端末の置かれた環境に応じた基地局装置のアンテナのチルト角の制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明による基地局装置は、通信装置との間の通信のためのアンテナのチルト角を設定する基地局装置であって、前記通信装置から、前記基地局装置からの信号が前記通信装置に到来した際の仰角に関する情報を取得する取得手段と、
前記仰角と、前記信号が前記通信装置に届くまでの経路において最後に回折する点の高さと、前記通信装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置のアンテナが位置する高さと、前記基地局装置と前記通信装置との水平方向における距離とに基づいて、前記チルト角として設定すべき値を決定する決定手段と、決定された値に応じて前記チルト角を設定する設定手段と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、端末の置かれた環境に応じて基地局装置のアンテナのチルト角を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】見通し環境におけるチルト角制御例を示す図。
【
図2】非見通し環境におけるチルト角制御例を示す図。
【
図5】基地局装置及び端末のハードウェア構成例を示す図。
【
図6】チルト角制御処理の流れを示すシーケンス図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
(無線通信システム)
図1は、本実施形態に係る無線通信システムの概要を示す図である。本無線通信システムでは、基地局装置と端末とが通信を行い、基地局装置は、アンテナのチルト角(
図1におけるα)を制御することによって、端末における無線品質を改善させることができる。なお、無線品質とは、例えば、受信信号電力、信号対雑音電力比(SNR)、信号対干渉及び雑音電力比(SINR)などの、一般的な指標を含む。また、本実施形態において、チルト角は、水平方向に対する俯角のことであり、チルト角が大きくなるほど、水平方向において基地局装置に近い位置に向けてアンテナのビームが向けられる。ここで、アンテナのチルト角の制御は、基地局装置において電気的に行うことができる。
【0011】
本実施形態では、端末が、基地局装置からの信号が到来した際の仰角を測定し、その仰角に関する情報を基地局装置へ通知する。仰角に関する情報は、例えば、仰角の値そのものの情報であってもよいし、仰角の値を量子化した値に関する情報であってもよい。さらに、基地局装置と端末との間で、複数の仰角の候補に対してそれぞれ異なるインデックスを付して記憶しておき、端末は、測定した仰角又はその仰角を量子化した値を特定するために、それに対応するインデックスを基地局装置へ通知してもよい。なお、対応するインデックスは、測定した仰角に最も近い候補に対応するインデックスであってもよいし、例えば測定した仰角を超える又は超えない候補のうち、その仰角に最も近い候補に対応するインデックスであってもよい。また、インデックスに対応する候補の値のうち、最も近い候補の値又は測定した仰角の値を超える若しくは超えない候補の値のうち最も測定値に近い候補の値に、測定した仰角の値を量子化してもよい。
【0012】
なお、端末は、基地局装置から到来した信号のうち、信号が最も強く受信される経路についての仰角を取得してもよいし、最も早いタイミングで受信される経路についての仰角を取得してもよい。すなわち、端末は、受信信号の直接波又は反射波等のうち、主波と考えられる電波について、その到来する際の仰角を測定によって取得し、基地局装置へその主波に関する仰角の情報を通知する。
【0013】
基地局装置は、端末から通知された仰角に関する情報に基づいて、設定すべきチルト角の値を決定する。そして、基地局装置は、決定した値に応じて、チルト角を制御する。例えば、基地局装置は、決定した値と、設定できるチルト角の候補とに応じて、決定した値に最も近い候補の値を抽出して、チルト角がその候補の値となるように、チルト角を制御する。また、基地局装置は、例えば、決定した値を超える又は超えない候補の値の中で、決定した値に最も近い値を有する候補を抽出し、チルト角がその候補の値と等しくなるようにチルト角を制御する。例えば、チルト角の候補として、26°、28°、30°のように2°刻みの候補が存在し、設定すべき値が28.5°であった場合、基地局装置は、実際に設定するチルト角を28°としてもよいし、30°としてもよい。
【0014】
ここで、基地局装置は、端末との間に見通しを確保できる場合、
図1に示すように、アンテナのゲインが最も強くなる方向が端末に向くように、チルト角を制御することによって、端末の無線品質を改善することができる。このとき、端末において、基地局からの信号の垂直方向の到来角(仰角)がθであったとする。この場合、アンテナのゲインが最も強くなる方向が端末に向くようにチルト角を制御すると、チルト角αはθと等しくなる。すなわち、基地局装置は、通知された仰角θが使用中のチルト角αと等しいか否か、またはその差が所定値未満であるか否かを判定することにより、端末との間に見通しを確保できているかを判定することができる。そして、例えば、通知された仰角θが使用中のチルト角αと等しい場合、またはその差が所定値未満である場合は、通知された仰角θを、設定すべきチルト角α
0として決定する。その後、決定された値に応じて、上述のようにしてチルト角が設定される。
【0015】
一方、
図2に示すように端末との間に見通しを確保できない場合は、基地局装置が通知された仰角をそのままチルト角として決定すると、チルト角が不必要に大きく設定され、逆に端末まで電波が届かなくなることが考えられる。したがって、基地局装置は、例えば通知された仰角と使用中のチルト角との差が所定値以上である場合は、回折の影響を考慮してチルト角を決定して制御する。
【0016】
本実施形態では、基地局装置から端末までの伝送経路において、信号(電波)が最後に回折することが想定される点(
図2における建造物の角の点P)を基準として、チルト角を算出する。なお、本実施形態では、基地局装置と端末との間に、同様の高さを有する建造物が建ち並んでおり、基地局装置はこれらの建造物より高い位置にアンテナを有することを仮定する。また、このとき、基地局装置は、端末の位置に応じて、点Pの高さを知ることができるものとする。これらの仮定は、アンテナが高い位置に設置される傾向にあることと、例えば都市部において、地域の用途などに応じて建物の高さが制限されうることや、1つの基地局装置がカバーするエリアにおいて、建造物の高さに極端な差がないと考えられることに基づく。このような仮定のもとでは、信号が最後に回折することが想定される点と基地局装置のアンテナとの間には見通しを確保できる。すなわち、基地局装置から端末までの伝送経路において、信号(電波)が最後に回折することが想定される点は、この伝送経路において、信号が回折する唯一の点であると仮定することができる。
【0017】
この場合、基地局装置は、アンテナのゲインが最も強くなる方向が点Pに向くようにチルト角を制御することにより、端末における無線品質を最大化することができると考えられる。この場合、端末に到達する信号の主波の経路に対して、ゲインが最大化されるようにチルト角が制御されることとなるからである。したがって、基地局装置は、通知された仰角θに基づいて、アンテナのゲインが最も強くなる方向が点Pに向くようなチルト角を決定することとなる。
【0018】
ここで、端末のアンテナが位置する高さは例えば1.5mなど、モデル化することができる。なお、端末のアンテナが位置する高さが、点Pの高さ及び基地局装置におけるアンテナが位置する高さと比べて十分に小さい場合は、計算上この値を無視してもよい。また、上述の通り、点Pの高さも端末の位置に応じて推定することができる。また、基地局装置のアンテナの高さは固定されているため既知である。このため、
図2における、点Pの高さと端末のアンテナが位置する高さとの差hと、基地局装置におけるアンテナの高さと端末のアンテナが位置する高さとの差Hを算出することができる。また、基地局装置と端末との水平方向における距離Dは、例えば、基地局装置と端末との間で信号を送受信することによる到来時間から推定されることができる。また、端末においてGPS測位を行い、複数の基地局装置が協働して三辺測量を行い、または、端末が近隣の無線LANのアクセスポイントを探索し、端末の位置を推定してもよい。基地局装置は、端末の位置の推定値と、基地局装置自身の位置とから、水平方向の距離Dを推定することができる。なお、水平方向の距離Dは、大まかな距離が分かる程度であってもよい。
【0019】
端末と点Pとの水平方向における距離dは、点Pの高さと端末のアンテナが位置する高さとの差hと仰角θとから算出することができる。すなわち、
tan(θ)=h/d
であるから、
d=h/tan(θ)
のように、端末と点Pとの水平方向における距離dを計算することができる。
【0020】
このとき、設定すべきチルト角α
0の正接(タンジェント)は、
tan(α
0)=(H−h)/(D−d)
であり、したがって、設定すべきチルト角α
0は逆正接を用いて、
α
0=tan
-1((H−h)/(D−d))
のように算出することができる。すなわち、基地局装置は、基地局装置と点Pとの高さの差(H−h)を、基地局装置と点Pとの水平方向の距離(D−d)で除算した結果の値の、逆正接を算出することにより、設定すべきチルト角を決定することとなる。そして、このとき、dを算出するために、通知された仰角θが使用される。
【0021】
なお、基地局装置は、仰角θ、点Pの高さ、及び基地局装置と端末との水平方向における距離を上述の式に従って予め算出しておき、テーブル化しておいてもよい。これにより、基地局装置は、仰角θと端末の位置とを取得すると、端末の位置から点Pの高さ及び基地局装置と端末との水平方向における距離を推定し、仰角と推定値とに基づいてテーブルを参照して、容易に設定すべきチルト角を決定することが可能となる。
【0022】
基地局装置は、チルト角を上述の式に基づいて設定した後に、例えば、端末から無線品質に関する情報を取得して、チルト角を再調節してもよい。例えば、チルト角を設定したことにより、端末における無線品質が劣化した場合は、基地局装置は、その設定の前の値にチルト角を戻してもよいし、設定前の値と設定後の値との間の値となるようにチルト角を再設定してもよい。また、基地局装置は、上述のように算出されたチルト角α
0と、そのチルト角を算出した時点で設定されているチルト角α
1とから、実際に設定するチルト角αを、
α=βα
1+(1−β)α
0
のように算出してもよい。ここで、0≦β<1である。すなわち、基地局装置は、上述の式において算出したチルト角の値と、その時点で使用しているチルト角の値との中間値となるように、チルト角を設定してもよい。
【0023】
また、基地局装置は、上述の点Pの高さについて、これらのチルト角の調節に基づいて、高さの情報を蓄積してもよい。例えば、端末の位置ごとに、チルト角を調節した結果、無線品質が所定以上であったチルト角から、その端末の位置周辺における点Pの高さを上述の式などから算出して、その値を記憶しておいてもよい。これにより、端末の位置に対して建造物の高さをきめ細かく記憶しておくことが可能となり、端末の位置に応じてより適切な設定すべきチルト角の値を算出することが可能となる。
【0024】
続いて、上述のような処理を実行する基地局装置及び端末の構成例と、処理の流れの例について説明する。
【0025】
(基地局装置及び端末の構成例)
図3は、基地局装置の機能構成の例を示すブロック図である。基地局装置は、例えば、アンテナ301、通信部302、情報取得部303、チルト角決定部304、及びチルト角制御部305を有する。なお、基地局装置は、通常の基地局装置が備える他の機能部をさらに有することができるが、本実施形態では、説明を簡単にするため、そのような機能部については説明を省略する。
【0026】
アンテナ301は、電気的にチルト角の制御が可能なアンテナであり、1つ以上のアンテナ素子を含む。端末へ向けた信号はアンテナ301から送信され、端末からの信号はアンテナ301によって受信されて通信部302へと受け渡される。通信部302は、端末からの受信信号を復調してデータを抽出し、または、端末へ送信するデータを無線信号に変換してアンテナ301を通じて端末へ送信する。
【0027】
情報取得部303は、通信部302を介して端末から通知された、端末が基地局装置からの信号を受信した際のその信号の到来角(仰角)に関する情報を取得する。そして、情報取得部303は、取得した情報をチルト角決定部304へ受け渡す。また、情報取得部303は、端末が無線品質を通知してきた場合は、その無線品質の情報を取得して、チルト角制御部305へ受け渡してもよい。
【0028】
チルト角決定部304は、受け取った仰角の情報から、設定すべきチルト角を決定する。チルト角決定部304は、例えば、仰角が、現在使用されているチルト角と等しい又は仰角と現在使用されているチルト角との差が所定値未満である場合は、その仰角の値を設定すべきチルト角として決定する。また、チルト角決定部304は、例えば、仰角と現在使用されているチルト角との差が所定値以上である場合は、上述の計算式に基づいて、設定すべきチルト角を算出して決定する。決定されたチルト角の値は、チルト角制御部305へ受け渡される。
【0029】
チルト角制御部305は、受け取った設定すべきチルト角の値に応じて、アンテナ301のチルト角を設定する。なお、チルト角制御部305は、チルト角が受け取った値そのものになるように、チルト角を制御してもよい。また、チルト角制御部305は、実際に設定可能なチルト角の候補のうち、受け取った値との差が最小のもの、または受け取った値より大きい若しくは小さい候補の中で受け取った値との差が最小のものを選択して、チルト角を設定してもよい。さらに、上述のように、現在使用中のチルト角の値と、受け取った値との中間値に、チルト角を設定してもよい。さらに、チルト角制御部305は、情報取得部303から受け取った端末における無線品質が劣化した場合は、チルト角を設定前の値又は設定前の値と現在のチルト角との中間値に戻すように、チルト角を制御してもよい。
【0030】
図4は、端末の機能構成の例を示すブロック図である。端末は、例えば、アンテナ401、通信部402、仰角測定部403、及び情報生成部404を有する。なお、端末は、通常の無線通信端末が備える他の機能部をさらに有することができるが、本実施形態では、説明を簡単にするため、そのような機能部については説明を省略する。
【0031】
アンテナ401は、基地局装置へ向けた信号の送信と、基地局装置からの信号の受信及び通信部402への受け渡しを行う。アンテナ401は、例えば複数のアンテナ素子を含む。通信部402は、基地局装置からの受信信号を復調してデータを抽出し、または、基地局装置へ送信するデータを無線信号に変換してアンテナ401を通じて端末へ送信する。また、通信部402は、アンテナ素子ごとの受信信号の到来タイミングなどを仰角測定部403へ通知する。さらに、通信部402は、受信信号の無線品質を測定してもよく、測定結果の情報を基地局装置へ通知してもよい。
【0032】
仰角測定部403は、受信信号が到来した際の、垂直方向における電波の到来方向を測定する。到来方向は、従来の手法、例えば、アンテナ素子ごとの信号の到来タイミング差などに応じて測定することができる。情報生成部404は、仰角測定部403が測定した仰角に関する情報を生成して通信部402へ受け渡す。仰角に関する情報は、通信部402とアンテナ401を介して基地局装置へ通知される。
【0033】
(基地局装置及び端末のハードウェア構成例)
図5は、基地局装置及び端末のハードウェア構成例を示すブロック図である。基地局装置及び端末は、一例において、
図5のように同様のハードウェア構成を有する無線通信装置であり、例えば、CPU501、ROM502、RAM503、外部記憶装置504、及び通信装置505を有する。基地局装置及び端末では、例えばROM502、RAM503及び外部記憶装置504のいずれかに記録された、上述の基地局装置及び端末の各機能を実現するプログラムがCPU501により実行される。そして、基地局装置及び端末は、通信装置505を用いて、基地局と端末との間の通信、又は基地局間通信を行う。なお、
図5では、基地局装置及び端末は、1つの通信装置505を有するとしているが、例えば、基地局装置が基地局間通信用の通信装置及び端末との間の通信装置を有するなどのように、複数の通信装置を有してもよい。
【0034】
なお、基地局装置及び端末は、上述の各機能を実行する専用のハードウェアを備えてもよいし、一部をハードウェアで実行し、プログラムを動作させるコンピュータでその他の部分を実行してもよい。また、以下の全機能をコンピュータとプログラムにより実行させてもよい。
【0035】
(基地局装置及び端末の動作)
図6は、本実施形態に係る基地局装置及び端末の動作例を示すシーケンス図である。
【0036】
処理は、まず、基地局装置が所定の信号(例えばパイロット信号など)を送信することによって開始される(S601)。端末は、その信号を受信して、受信時のその信号の垂直方向における到来方向(仰角)を測定する(S602)。なお、端末は、受信信号を構成する複数の電波(直接波又は反射波)のうち、最も早いタイミングで到来した電波の到来経路に関して仰角を測定してもよいし、最も受信電力が大きい電波の到来経路に関して仰角を測定してもよい。また、端末は、所定値以上の電力で受信した電波の到来経路のうち、最も早いタイミングで到来した電波の到来経路についての仰角を測定してもよい。端末は、仰角を測定すると、その仰角に関する情報を基地局装置へ通知する(S603)。仰角に関する情報は、例えば、仰角の値そのものを示す情報であってもよいし、仰角を量子化した値を示す情報であってもよい。また、仰角の値と、それに対応するインデックスが予め端末と基地局装置とにおいて保持されている場合は、仰角に関する情報として測定した仰角又はその量子化後の値を特定するためのインデックスが用いられてもよい。
【0037】
基地局装置は、仰角の通知を受けると、通知された仰角と、現在使用されているチルト角との差が所定値未満であるかを判定する(S604)。そして、この差が所定値以上である場合(S604でNO)は、基地局装置は、端末との間の通信環境が非見通し環境であると判定し、上述の式により、設定すべきチルト角を算出する(S605)。一方、この差が所定値未満である場合(S604でYES)は、基地局装置は、端末との間の通信環境が見通し環境であると判定し、設定すべきチルト角を、通知された仰角に決定する(S606)。
【0038】
その後、基地局装置は、S605又はS606で決定した、設定すべきチルト角に応じて、アンテナのチルト角を設定する。このとき、上述のように、基地局装置は、アンテナのチルト角を、設定すべきチルト角の値そのものに設定してもよいし、他の値に設定してもよい。
【0039】
そして、基地局装置は、設定後のチルト角を用いて、端末へ信号を送信する(S608)。端末は、この信号の無線品質を測定し(S609)、その無線品質を基地局装置へ通知する(S610)。そして、基地局装置は、例えば無線品質が劣化した場合、チルト角を再調節する(S611)。
【0040】
なお、
図6には、一例としての処理の流れを示したが、
図6に示される処理の全てが実行される必要はない。例えば、S608〜S611の処理は実行されなくてもよい。また、S604の判定を実行せずに、通知された仰角から、設定すべきチルト角を常に計算するようにしてもよい。
【0041】
このようにして、端末で測定した受信信号の垂直方向における到来角(仰角)に応じて、基地局装置のチルト角を定めることができる。この結果、例えば非見通し環境において、端末における受信信号の主波の伝搬経路の方向に、アンテナのゲインが最も強くなる方向が向けられるようにチルト角が設定されるため、端末における無線品質を向上させることができる。また、仮にチルト角の設定によって無線品質が劣化した場合でも、チルト角を例えば戻すように再調節することにより、無線品質を改善することが可能となる。