特許第6141256号(P6141256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6141256フッ素アパタイト、吸着装置および分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6141256
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】フッ素アパタイト、吸着装置および分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/04 20060101AFI20170529BHJP
   C01B 25/455 20060101ALI20170529BHJP
   C01B 25/32 20060101ALI20170529BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20170529BHJP
   B01D 15/08 20060101ALI20170529BHJP
   G01N 30/88 20060101ALN20170529BHJP
   G01N 30/02 20060101ALN20170529BHJP
【FI】
   B01J20/04 A
   C01B25/455
   C01B25/32 W
   C07K1/22
   B01D15/08
   !G01N30/88 101C
   !G01N30/02 B
   !G01N30/88 J
   !G01N30/88 201X
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-507602(P2014-507602)
(86)(22)【出願日】2013年3月6日
(86)【国際出願番号】JP2013056126
(87)【国際公開番号】WO2013146142
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年11月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-76337(P2012-76337)
(32)【優先日】2012年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-76338(P2012-76338)
(32)【優先日】2012年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】吉武 朋彦
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−047551(JP,A)
【文献】 特開2009−035464(JP,A)
【文献】 特開2009−084119(JP,A)
【文献】 特開平01−264915(JP,A)
【文献】 特開昭64−013453(JP,A)
【文献】 特開2010−083713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
B01D 15/00−15/42
C01B 25/00−25/46
C04B 35/00−35/84
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負帯電物質と、該負帯電物質以外からなる物質とを含有する試料液中から、前記負帯電物質を分離するために用いられるフッ素アパタイトであって、
前記フッ素アパタイトは、下記一般式で表され、
Ca10(PO(OH)2−2x2X
前記一般式中、xは0.05≦x≦0.40の関係を満足し、
かつ、前記フッ素アパタイトは、粒状をなし、その比表面積が30m/g以上50m/g以下であり、その平均粒径が0.5μm以上150μm以下であることを特徴とするフッ素アパタイト。
【請求項2】
前記負帯電物質は、酸性タンパク質である請求項1に記載のフッ素アパタイト。
【請求項3】
前記一般式中、xは0.05≦x≦0.25の関係を満足する請求項1または2に記載のフッ素アパタイト。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフッ素アパタイトを吸着剤として備えることを特徴とする吸着装置。
【請求項5】
負帯電物質と、該負帯電物質以外からなる物質とを含有する試料液中から、前記負帯電物質を分離する分離方法であって、
Ca10(PO(OH)2−2x2Xの一般式で表され、前記一般式中、xは0.05≦x≦0.40の関係を満足する、フッ素アパタイトで構成され、比表面積が30m/g以上50m/g以下、かつ、平均粒径が0.5μm以上150μm以下の粒状をなす充填剤を充填空間の少なくとも一部に充填してなる吸着装置内に、前記試料液を供給する工程と、
前記吸着装置内に、緩衝液を供給して、前記吸着装置内から流出する流出液を得る工程と、
前記流出液を所定量ずつ分画することにより、この分画された各画分の流出液中に、前記試料液から前記負帯電物質を分離する工程とを有することを特徴とする分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素アパタイト、吸着装置および試料液中から帯電物質を分離する分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部がフッ素原子で置換されたものである。
【0003】
このフッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトと比較すると、より安定な物質であるため、耐酸性が高いという性質を有する。このため、フッ素アパタイトは、酸性溶液に対する耐久性が高く、酸性溶液中でのタンパク質等の吸着物質の分離が可能であるという利点を有することから、近年、着目されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、フッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトとほぼ同一の結晶構造を有している。このため、吸着物質に対するフッ素アパタイトの吸着特性(吸着能)が、ハイドロキシアパタイトのそれとほぼ等しくなっている。しかし、水酸基の少なくとも一部がフッ素原子で置換されていることに起因して、その吸着特性は、ハイドロキシアパタイトの吸着特性とは若干異なっている。
【0005】
特に、酸性タンパク質のような負帯電物質や塩基性タンパク質のような正帯電物質を吸着物質として選択し、フッ素アパタイトを用いて、それらの帯電物質を分離する場合、次のような問題が生じる。フッ素アパタイト中における水酸基とフッ素原子との置換率に応じて、負帯電物質や正帯電物質の吸着特性に変化が生じる。それにより、負帯電物質および正帯電物質の分離能および吸着量が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−330113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐酸性に優れ、かつ、帯電物質と、この帯電物質以外からなる物質とを含有する試料液中から、帯電物質を高精度で分離することができるフッ素アパタイト、かかるフッ素アパタイトを吸着剤として備える吸着装置、かかるフッ素アパタイトを用いた帯電物質の分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜()の本発明により達成される。
【0009】
(1) 負帯電物質と、該負帯電物質以外からなる物質とを含有する試料液中から、前記負帯電物質を分離するために用いられるフッ素アパタイトであって、
前記フッ素アパタイトは、下記一般式で表され、
Ca10(PO(OH)2−2x2X
前記一般式中、xは0.05≦x≦0.40の関係を満足し、
かつ、前記フッ素アパタイトは、粒状をなし、その比表面積が30m/g以上50m/g以下であり、その平均粒径が0.5μm以上150μm以下であることを特徴とするフッ素アパタイト。
【0010】
これにより、耐酸性に優れ、かつ、負帯電物質と、この負帯電物質以外からなる物質とを含有する試料液中から、フッ素アパタイトに負帯電物質を吸着や脱離させることによって、負帯電物質を高精度で分離することができる。
【0013】
) 前記負帯電物質は、酸性タンパク質である上記()に記載のフッ素アパタイト。
【0014】
本発明のフッ素アパタイトは、試料液中から酸性タンパク質を分離する際に好ましく用いられる。
【0015】
(3) 前記一般式中、xは0.05≦x≦0.25の関係を満足する上記(1)または(2)に記載のフッ素アパタイト。
【0016】
比表面積がかかる範囲内のものであれば、比表面積が広いものであるということができ、負帯電物質の分離能および吸着量の向上を図ることができる。
【0025】
) 上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のフッ素アパタイトを吸着剤として備えることを特徴とする吸着装置。
【0026】
これにより、吸着装置は、耐酸性が高く、かつ帯電物質の分離能および吸着量に優れた吸着剤を備えるものとなる。
【0027】
(5) 負帯電物質と、該負帯電物質以外からなる物質とを含有する試料液中から、前記負帯電物質を分離する分離方法であって、
Ca10(PO(OH)2−2x2Xの一般式で表され、前記一般式中、xは0.05≦x≦0.40の関係を満足する、フッ素アパタイトで構成され、比表面積が30m/g以上50m/g以下、かつ、平均粒径が0.5μm以上150μm以下の粒状をなす充填剤を充填空間の少なくとも一部に充填してなる吸着装置内に、前記試料液を供給する工程と、
前記吸着装置内に、緩衝液を供給して、前記吸着装置内から流出する流出液を得る工程と、
前記流出液を所定量ずつ分画することにより、この分画された各画分の流出液中に、前記試料液から前記負帯電物質を分離する工程とを有することを特徴とする分離方法。
【0028】
これにより、低pHの緩衝液を溶出液として用いることができる。さらに、負帯電物質と、この負帯電物質以外からなる物質とを含有する試料液中から、負帯電物質を吸着剤に優れた吸着能で吸着させることができる。したがって、試料液中から負帯電物質を高精度で分離することができるようになる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、耐酸性に優れ、かつ帯電物質と、この帯電物質以外からなる物質とを含有する試料液中から、帯電物質を高精度で分離し得るフッ素アパタイトとすることができる。
【0034】
特に、帯電物質が負帯電物質である場合、耐酸性に優れ、試料液中から負帯電物質を高精度で分離することができるフッ素アパタイトを提供することができる。
【0035】
また、帯電物質が正帯電物質である場合、耐酸性に優れ、試料液中から正帯電物質を高精度で分離することができるフッ素アパタイトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、本発明で用いる吸着装置の一例を示す縦断面図である。
図2図2は、焼結粒子1〜5からのCa溶出量と、焼結粒子1〜5におけるフッ素原子の置換率との関係を示す図である。
図3図3は、焼結粒子1〜5への酸性タンパク質吸着量および焼結粒子1〜5の比表面積と、焼結粒子1〜6におけるフッ素原子の置換率との関係を示す図である。
図4図4は、焼結粒子1〜5への塩基性タンパク質吸着量および焼結粒子1〜5の比表面積と、焼結粒子1〜5におけるフッ素原子の置換率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明のフッ素アパタイト、吸着装置および分離方法を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0038】
まず、本発明のフッ素アパタイトについて説明するのに先立って、本発明で用いられる吸着装置(本発明の吸着装置)の一例について説明する。
【0039】
なお、以下では、吸着装置を用いて分離する帯電物質は、負帯電物質として酸性タンパク質を、正帯電物質として塩基性タンパク質を代表として挙げる。まず、この酸性タンパク質を、酸性タンパク質を含有する試料液中から、吸着装置を用いて分離する場合を代表に説明する。次に、この塩基性タンパク質を、塩基性タンパク質を含有する試料液中から、吸着装置を用いて分離する場合を代表に説明する。
【0040】
<吸着装置>
図1は、本発明で用いる吸着装置の一例を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「流入側」、下側を「流出側」と言う。
【0041】
ここで、流入側とは、目的とする酸性タンパク質または塩基性タンパク質を分離(精製)する際に、例えば、試料液(試料を含む液体)、溶出液であるリン酸系緩衝液等の液体を、吸着装置内に供給する側のことを言い、一方、流出側とは、前記流入側と反対側、すなわち、前記液体が吸着装置内から流出する側のことを言う。
【0042】
酸性タンパク質または塩基性タンパク質を分離(精製)する、図1に示す吸着装置1は、カラム2と、粒状の吸着剤(充填剤)3と、2枚のフィルタ部材4、5とを有している。
【0043】
カラム2は、カラム本体21と、このカラム本体21の流入側端部および流出側端部に、それぞれ装着されるキャップ(蓋体)22、23とで構成されている。
【0044】
カラム本体21は、例えば円筒状の部材で構成されている。カラム本体21を含めカラム2を構成する各部(各部材)の構成材料としては、例えば、各種ガラス材料、各種樹脂材料、各種金属材料、各種セラミックス材料等が挙げられる。
【0045】
カラム本体21には、その流入側開口および流出側開口を、それぞれ塞ぐようにフィルタ部材4、5を配置した状態で、その流入側端部および流出側端部に、それぞれキャップ22、23が螺合により装着される。
【0046】
このような構成のカラム2では、カラム本体21と各フィルタ部材4、5とにより、吸着剤充填空間20が画成されている。そして、この吸着剤充填空間20の少なくとも一部に(本実施形態では、ほぼ満量で)、吸着剤3が充填されている。
【0047】
吸着剤充填空間20の容積は、試料液の容量に応じて適宜設定され、特に限定されないが、試料液1mLに対して、0.1〜100mL程度が好ましく、1〜50mL程度がより好ましい。
【0048】
また、カラム本体21に各キャップ22、23を装着した状態で、これらの間の液密性が確保されるように構成されている。
【0049】
各キャップ22、23のほぼ中央には、それぞれ、流入管24および流出管25が液密に固着(固定)されている。この流入管24およびフィルタ部材4を介して吸着剤3に、前記液体が供給される。また、吸着剤3に供給された液体は、吸着剤3同士の間(間隙)を通過して、フィルタ部材5および流出管25を介して、カラム2外へ流出する。このとき、試料液(試料)に含まれる酸性タンパク質と、酸性タンパク質以外の物質(塩基性タンパク質が含まれていてもよい)とは、吸着剤3に対する吸着性の差異およびリン酸系緩衝液に対する親和性の差異に基づいて分離される。また、試料液に含まれる塩基性タンパク質と、塩基性タンパク質以外の物質(酸性タンパク質が含まれていてもよい)とは、吸着剤3に対する吸着性の差異およびリン酸系緩衝液に対する親和性の差異に基づいて分離される。
【0050】
各フィルタ部材4、5は、それぞれ、吸着剤充填空間20から吸着剤3が流出するのを防止する機能を有するものである。これらのフィルタ部材4、5は、それぞれ、例えば、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエーテルポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の合成樹脂からなる不織布、発泡体(連通孔を有するスポンジ状多孔質体)、織布、メッシュ等で構成されている。
【0051】
吸着剤3は、本発明のフッ素アパタイトで構成されている。すなわち、吸着剤3は、Ca10(PO(OH)2−2x2Xの化学式で表され、化学式中、xは0.05≦x≦0.76であるフッ素アパタイトで構成されている。
【0052】
このフッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部がフッ素原子で置換されたものである。具体的には、そのフッ素原子による水酸基の置換率が、5%以上、76%以下となっているものである。
【0053】
ここで、本発明において、前記試料液中から酸性タンパク質を分離する際に用いられるフッ素アパタイトと、前記試料中から塩基性タンパク質を分離する際に用いられるフッ素アパタイトとは、その化学式中におけるxの範囲において、互いに異なっている。以下、前記試料液中から酸性タンパク質を分離する際に用いられるフッ素アパタイトと、前記試料中から塩基性タンパク質を分離する際に用いられるフッ素アパタイトとを説明する。
【0054】
[1]酸性タンパク質を分離するためのフッ素アパタイト
フッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部がフッ素原子で置換されていることに起因して、ハイドロキシアパタイトと比較して、耐酸性に優れるものとなる。その結果、吸着剤3に吸着した酸性タンパク質を溶出液で溶出させる際に、用いる溶出液の選択の幅が広がる。すなわち、溶出液のpH値を広範囲に設定することができるため、高精度で酸性タンパク質が精製される条件に、溶出液をより確実に設定することができるようになる。
【0055】
このように、水酸基をフッ素原子で置換することにより、フッ素アパタイトの耐酸性が向上する。これに反して、その置換率が高くなり過ぎると、フッ素アパタイトで構成される吸着剤3への酸性タンパク質の吸着能が低下してくることが本発明者の検討により判ってきた。
【0056】
ところで、酸性タンパク質は、一般的に、その構成アミノ酸として酸性アミノ酸を比較的多く含んでおり、これに起因して負に帯電するタンパク質(負電荷タンパク質)である。一方、フッ素アパタイトは、その結晶構造中に、多量のカルシウム原子(カルシウムイオン)とリン酸基とを含んでおり、正に帯電するCaサイトと、負に帯電するリン酸サイトとを形成している。
【0057】
したがって、酸性タンパク質は、一般的に、フッ素アパタイトが有するCaサイトとの間でイオン結合を形成することで、フッ素アパタイトに結合(吸着)することとなる。しかし、水酸基のフッ素原子による置換率が高くなり過ぎると、負帯電性を有するフッ素原子が正帯電性を有するCaサイトに対して何らかの影響を及ぼし、その結果、フッ素アパタイトで構成される吸着剤3への酸性タンパク質の吸着能が低下するものと推察される。
【0058】
本発明者は、かかる点に着目し、鋭意検討を重ねた結果、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基のフッ素原子による置換率を、5%以上、55%以下とすることにより、前記問題点を解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0059】
すなわち、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基のフッ素原子による置換率を、5%以上、55%以下とすることで、フッ素アパタイトは、耐酸性に優れ、かつ、酸性タンパク質と、この酸性タンパク質以外からなる物質とを含有する試料液中から、酸性タンパク質を高精度で分離し得るものとなる。
【0060】
また、水酸基のフッ素原子による置換率は、5%以上、55%以下であれば良いが、20%以上、40%以下であることが好ましく、25%程度であることがより好ましい。すなわち、前記化学式中、xは0.05≦x≦0.55であれば良いが、0.20≦x≦0.40であることが好ましく、0.25程度であることがより好ましい。これにより、吸着剤(フッ素アパタイト)3の耐酸性の向上と、吸着剤3による酸性タンパク質の高精度での分離との両立をより確実に図ることができる。
【0061】
なお、以上のようなフッ素アパタイトを製造する製造方法については、後に詳述する。
【0062】
また、吸着剤3の形態(形状)は、特に限定されず、例えば、粒状(顆粒状)、ペレット状(小塊状)、ブロック状(例えば、隣接する空孔同士が互いに連通する多孔質体、ハニカム形状)等とすることができる。中でも、吸着剤3の形態は、粒状(顆粒状)であるのが好ましい。これにより、その表面積を増大させることができ、酸性タンパク質の分離能の向上を図ることができる。
【0063】
粒状の吸着剤3の平均粒径は、特に限定されないが、0.5〜150μm程度であるのが好ましく、10〜80μm程度であるのがより好ましい。このような平均粒径の吸着剤3を用いることにより、前記フィルタ部材5の目詰まりを確実に防止しつつ、吸着剤3の表面積を十分に確保することができる。
【0064】
さらに、粒状の吸着剤3の比表面積は、より広いほうが好ましい。フッ素アパタイトを後述するような製造方法を用いて製造する場合、その比表面積は、30m/g以上、50m/g以下であることが好ましく、42m/g以上、50m/g以下であることがより好ましい。後述する製造方法において、水酸基のフッ素原子による置換率を、5%以上、55%以下に、好ましくは20%以上、40%以下に設定する。そうすることにより、その比表面積を前記範囲内とすることができるため、酸性タンパク質の分離能の向上を図ることができる。
【0065】
なお、吸着剤3は、その全体がフッ素アパタイトで構成されたものであってもよく、担体(基体)の表面をフッ素アパタイトで被覆したものであってもよいが、その全体がフッ素アパタイトで構成されたものであるのが好ましい。これにより、吸着剤3の強度をさらに向上させることができ、多量の酸性タンパク質を分離する際の使用に適した吸着剤3とすることができる。
【0066】
また、本実施形態のように、吸着剤3を吸着剤充填空間20にほぼ満量充填する場合には、吸着剤3は、吸着剤充填空間20の各部において、ほぼ同一の組成をなしているのが好ましい。これにより、吸着装置1は、酸性タンパク質の分離(精製)能が特に優れたものとなる。
【0067】
なお、吸着剤充填空間20の一部(例えば流入管24側の一部)に吸着剤3を充填し、その他の部分には他の吸着剤を充填するようにしてもよい。
【0068】
[2]塩基性タンパク質を分離するためのフッ素アパタイト
フッ素アパタイトは、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部がフッ素原子で置換されていることに起因して、ハイドロキシアパタイトと比較して、耐酸性に優れるものとなる。その結果、吸着剤3に吸着した塩基性タンパク質を溶出液で溶出させる際に、用いる溶出液の選択の幅が広がる。すなわち、溶出液のpH値を広範囲に設定することができるため、高精度で塩基性タンパク質が精製される条件に、溶出液をより確実に設定することができるようになる。さらに、塩基性タンパク質の精製の過程で、一時的に溶出液のpH値が酸性側に変化したとしても、吸着剤3の変質(溶解等)を好適に防止することができる。このように、水酸基をフッ素原子で置換することにより、フッ素アパタイトの耐酸性が向上する。
【0069】
さらに、フッ素アパタイトが有する水酸基のフッ素原子による置換率を高くするにしたがって、フッ素アパタイトに対する塩基性タンパク質の吸着能が向上することが本発明者の検討により判ってきた。
【0070】
ところで、塩基性タンパク質は、一般的に、その構成アミノ酸として塩基性アミノ酸を比較的多く含んでおり、これに起因して正に帯電するタンパク質(正電荷タンパク質)である。一方、フッ素アパタイトは、その結晶構造中に、多量のカルシウム原子(カルシウムイオン)とリン酸基とを含んでおり、正に帯電するCaサイトと、負に帯電するリン酸サイトとを形成している。
【0071】
したがって、塩基性タンパク質は、一般的に、フッ素アパタイトが有するリン酸サイトとの間でイオン結合を形成することで、フッ素アパタイトに結合(吸着)することとなる。水酸基のフッ素原子による置換率が高くなるにしたがって、負帯電性を有するフッ素原子が正帯電性を有するCaサイトに対して何らかの影響を及ぼすと考えられる。そのため、Caサイトにおける塩基性タンパク質に対する反発力(斥力)が低下し、これに起因して、フッ素アパタイトに対する塩基性タンパク質の吸着能が向上するものと推察される。
【0072】
これに反して、フッ素アパタイトが有する水酸基のフッ素原子による置換率が高くなり過ぎると、フッ素アパタイトで構成される吸着剤3の比表面積が狭く(小さく)なることが判ってきた。このように吸着剤3の比表面積が狭くなると、当然、吸着剤3と塩基性タンパク質との接触機会が減少するため、フッ素アパタイトで構成される吸着剤3による塩基性タンパク質の吸着能が低下する。
【0073】
以上のように、フッ素アパタイトが有する水酸基をフッ素原子で置換することは、フッ素アパタイトの耐酸性および塩基性タンパク質吸着能を向上させるという観点からは、良好である。しかし、フッ素アパタイトで構成される吸着剤3の比表面積を広く(大きく)するという観点、すなわち、吸着剤3に対する塩基性タンパク質の接触機会を増大させるという観点からは、それは不良になりそうである。
【0074】
本発明者は、これらの点に着目し、耐酸性および塩基性タンパク質吸着能の双方に優れるフッ素原子による置換率の範囲について、鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者は、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基のフッ素原子による置換率を、6%以上、76%以下とすることにより、前記問題点を解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0075】
すなわち、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基のフッ素原子による置換率を、6%以上、76%以下とする。そうすることで、フッ素アパタイトは、耐酸性に優れ、かつ、塩基性タンパク質と、この塩基性タンパク質以外からなる物質とを含有する試料液中から、塩基性タンパク質を高精度で分離し得るものとなる。
【0076】
水酸基のフッ素原子による置換率は、6%以上、76%以下であれば良いが、25%以上、60%以下であることが好ましく、25%程度であることがより好ましい。すなわち、前記化学式中、xは0.06≦x≦0.76であれば良いが、0.25≦x≦0.60であることが好ましく、0.25程度であることがより好ましい。これにより、吸着剤(フッ素アパタイト)3の耐酸性の向上と、吸着剤3による塩基性タンパク質の高精度での分離との両立をより確実に図ることができる。
【0077】
なお、以上のようなフッ素アパタイトを製造する製造方法については、後に詳述する。
【0078】
また、吸着剤3の形態(形状)は、特に限定されず、例えば、粒状(顆粒状)、ペレット状(小塊状)、ブロック状(例えば、隣接する空孔同士が互いに連通する多孔質体、ハニカム形状)等とすることができる。中でも、吸着剤3の形態は、粒状(顆粒状)であるのが好ましい。これにより、その表面積を増大させることができ、塩基性タンパク質の分離能の向上を図ることができる。
【0079】
粒状の吸着剤3の平均粒径は、特に限定されないが、0.5〜150μm程度であるのが好ましく、10〜80μm程度であるのがより好ましい。このような平均粒径の吸着剤3を用いることにより、前記フィルタ部材5の目詰まりを確実に防止しつつ、吸着剤3の表面積を十分に確保することができる。
【0080】
さらに、吸着剤3の比表面積は、より広いほうが好ましい。具体的には、その比表面積は、25m/g以上、50m/g以下に、好ましくは30m/g以上、50m/g以下に、より好ましくは35m/g以上、50m/g以下とされる。特に、フッ素アパタイトを製造する製造方法において、フッ素アパタイトが備える水酸基のフッ素原子による置換率を、好ましくは6%以上、76%以下に、より好ましくは25%以上、60%以下に設定する。そうすることにより、その比表面積を前記範囲内とすることができるため、塩基性タンパク質の吸着能を優れたものとすることができる。
【0081】
なお、吸着剤3は、その全体がフッ素アパタイトで構成されたものであってもよく、担体(基体)の表面をフッ素アパタイトで被覆したものであってもよいが、その全体がフッ素アパタイトで構成されたものであるのが好ましい。これにより、吸着剤3の強度をさらに向上させることができ、多量の塩基性タンパク質を分離する際の使用に適した吸着剤3とすることができる。
【0082】
また、本実施形態のように、吸着剤3を吸着剤充填空間20にほぼ満量充填する場合には、吸着剤3は、吸着剤充填空間20の各部において、ほぼ同一の組成をなしているのが好ましい。これにより、吸着装置1は、塩基性タンパク質の分離(精製)能が特に優れたものとなる。
【0083】
なお、吸着剤充填空間20の一部(例えば流入管24側の一部)に吸着剤3を充填し、その他の部分には他の吸着剤を充填するようにしてもよい。
【0084】
<分離方法A>
次に、このような吸着装置1を用いた酸性タンパク質の分離方法(本発明の分離方法)について説明する。
【0085】
[1A] 調製工程
まず、精製すべき酸性タンパク質(抗体等)と、酸性タンパク質以外の混入物(物質)とを含有する試料液を用意する。
【0086】
酸性タンパク質が遺伝子組み換えタンパク質(モノクローナル抗体等)である場合、試料液としては、酸性タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸を導入したヒツジ、ウサギ、ニワトリ等の哺乳動物、カイコ等の昆虫のような動物、チャイニーズハムスター卵巣細胞由来のCHO細胞のような動物細胞、大腸菌のような微生物等からの分泌物や、それらの細胞質成分等が挙げられる。
【0087】
また、酸性タンパク質が天然のタンパク質である場合、試料液としては、例えば、各種動物由来の血液(血漿)、リンパ液、唾液、鼻汁のような体液等が挙げられる。
【0088】
さらに、酸性タンパク質としては、BSA、HSA、フィブリノゲン、ペプシノーゲン、α−グロブリン、β−グロブリンおよびγ−グロブリン等が挙げられる。
【0089】
なお、これらの酸性タンパク質は、そのアミノ酸配列の一部のアミノ酸が他のアミノ酸に置き換えられた改変体であっても良い。
【0090】
なお、試料液としては、前記微生物等からの分泌物や、動物由来の体液をそのまま用いてもよいが、これらを水や生理食塩水のような中性緩衝液中で希釈したもの、およびフィルタ等の濾過膜で濾過したものを用いるようにしてもよい。また、試料液には、複数種の酸性タンパク質が含まれていてもよい。
【0091】
[2A] 供給工程
次に、得られた試料液を、流入管24およびフィルタ部材4を介して吸着剤3に供給して、カラム2(吸着装置1)内を通過させて、吸着剤3に接触させる。
【0092】
これにより、吸着剤3に対して吸着能が高い酸性タンパク質や、酸性タンパク質以外の混入物(夾雑タンパク質等)の中でも吸着剤3に対して比較的吸着能の高いもの(タンパク質)は、カラム2内に保持される。そして、吸着剤3に対して吸着能の低い混入物は、フィルタ部材5および流出管25を介してカラム2内から流出する。
【0093】
この際、本発明では、吸着剤3がフッ素アパタイトで構成され、そのフッ素原子による水酸基の置換率が、5%以上、55%以下となっているため、酸性タンパク質をより確実に吸着剤3に保持させることができる。
【0094】
[3A] 分画工程
次に、流入管24からカラム2内に、酸性タンパク質を溶出させるための溶出液として例えばリン酸系緩衝液を供給する。そして、カラム2内から流出管25を介して流出する流出液を、所定量ずつ分画(採取)する。これにより、吸着剤3に吸着している酸性タンパク質および混入物は、それぞれ、それぞれが有する吸着剤3に対する吸着力の差に応じて、各分画内に溶解した状態で回収(分離)される。
【0095】
すなわち、吸着剤3には、酸性タンパク質および混入物が、それぞれに固有の吸着(担持)力で特異的に吸着しているため、この吸着力の差に応じて、酸性タンパク質と混入物とが分離、精製される。
【0096】
緩衝液は、リン酸系緩衝液が好ましく用いられる。このリン酸系緩衝液としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウムおよびリン酸アンモニウム等が挙げられる。また、緩衝液は、リン酸系緩衝液の他、MESや硫酸であってもよい。
【0097】
リン酸系緩衝液を用いる場合、そのpHは、特に限定されないが、好ましくは5.5〜8.5程度、より好ましくは6.5〜7.5程度に設定される。これにより、酸性タンパク質を確実に溶出させることができ、その精製率の向上を図ることができる。また、吸着剤3がフッ素アパタイトで構成され、そのフッ素原子による水酸基の置換率が、5%以上、55%以下となっており、吸着剤3は優れた耐酸性を有している。そのため、かかるpHの範囲のリン酸系緩衝液を用いたとしても、吸着剤3の変質(溶解等)を好適に防止することができ、吸着装置1における分離能の変化を確実に防止することもできる。
【0098】
このリン酸系緩衝液の温度も、特に限定されないが、10〜50℃程度であるのが好ましく、20〜35℃程度であるのがより好ましい。これにより、分離する酸性タンパク質の変質(変成)を防止することができる。
【0099】
したがって、かかるpH範囲および温度範囲のリン酸系緩衝液を用いることにより、目的とする酸性タンパク質の回収率の向上を図ることができる。
【0100】
また、リン酸系緩衝液の塩濃度は、500mM以下であるのが好ましく、400mM以下であるのがより好ましい。このような塩濃度のリン酸系緩衝液を用いて、酸性タンパク質の分離を行うことにより、リン酸系緩衝液中の金属イオンによる酸性タンパク質への悪影響を防止することができる。
【0101】
具体的には、塩濃度が1〜400mM程度のリン酸系緩衝液を用いることができる。また、リン酸系緩衝液の塩濃度は、酸性タンパク質の分離操作の際に、連続的または段階的に変化させるのが好ましい。これにより、酸性タンパク質の分離操作の効率化を図ることができる。
【0102】
さらに、リン酸系緩衝液の流速は、0.1〜10mL/分程度であるのが好ましく、1〜5mL/分程度であるのがより好ましい。このような流速で、酸性タンパク質の分離を行うことにより、分離操作に長時間を要することなく、目的とする酸性タンパク質を確実に分離すること、すなわち、高純度な酸性タンパク質を得ることができる。
【0103】
以上のような操作により、所定の画分に、酸性タンパク質が回収される。
【0104】
なお、以上の説明では、酸性タンパク質を負帯電物質の一例としたが、負帯電物質としては、その他、酸性アミノ酸、DNA、RNA、および負電荷リポソーム等が挙げられる。本発明によれば、これらの負帯電物質も酸性タンパク質と同様に、容易かつ高純度で分離することが可能である。
【0105】
<分離方法B>
次に、このような吸着装置1を用いた塩基性タンパク質の分離方法(本発明の分離方法)について説明する。
【0106】
[1B] 調製工程
まず、精製すべき塩基性タンパク質(抗体等)と、塩基性タンパク質以外の混入物(物質)とを含有する試料液を用意する。
【0107】
塩基性タンパク質が遺伝子組み換えタンパク質(モノクローナル抗体等)である場合、試料液としては、塩基性タンパク質をコードする遺伝子を含む核酸を導入したヒツジ、ウサギ、ニワトリ等の哺乳動物、カイコ等の昆虫のような動物、チャイニーズハムスター卵巣細胞由来のCHO細胞のような動物細胞、大腸菌のような微生物等からの分泌物や、それらの細胞質成分等が挙げられる。
【0108】
また、塩基性タンパク質が天然のタンパク質である場合、試料液としては、例えば、各種動物由来の血液(血漿)、リンパ液、唾液、鼻汁のような体液等が挙げられる。
【0109】
さらに、塩基性タンパク質としては、リゾチーム、ソーマチン、チトクロムC、リボヌクレアーゼ、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、α−キモトリプシン、ヒストン、プロタミン、ポリリジンおよびモネリン等が挙げられる。
【0110】
なお、これらの塩基性タンパク質は、そのアミノ酸配列の一部のアミノ酸が他のアミノ酸に置き換えられた改変体であっても良い。
【0111】
なお、試料液としては、前記微生物等からの分泌物や、動物由来の体液をそのまま用いてもよいが、これらを水や生理食塩水のような中性緩衝液中で希釈したもの、およびフィルタ等の濾過膜で濾過したものを用いるようにしてもよい。また、試料液には、複数種の塩基性タンパク質が含まれていてもよい。
【0112】
[2B] 供給工程
次に、得られた試料液を、流入管24およびフィルタ部材4を介して吸着剤3に供給して、カラム2(吸着装置1)内を通過させて、吸着剤3に接触させる。
【0113】
これにより、吸着剤3に対して吸着能が高い塩基性タンパク質や、塩基性タンパク質以外の混入物(夾雑タンパク質等)の中でも吸着剤3に対して比較的吸着能の高いもの(タンパク質)は、カラム2内に保持される。そして、吸着剤3に対して吸着能の低い混入物は、フィルタ部材5および流出管25を介してカラム2内から流出する。
【0114】
この際、本発明では、吸着剤3がフッ素アパタイトで構成され、そのフッ素原子による水酸基の置換率が、6%以上、76%以下となっているため、塩基性タンパク質をより確実に吸着剤3に保持させることができる。
【0115】
[3B] 分画工程
次に、流入管24からカラム2内に、塩基性タンパク質を溶出させるための溶出液として例えばリン酸系緩衝液を供給する。そして、カラム2内から流出管25を介して流出する流出液を、所定量ずつ分画(採取)する。これにより、吸着剤3に吸着している塩基性タンパク質および混入物は、それぞれ、それぞれが有する吸着剤3に対する吸着力の差に応じて、各分画内に溶解した状態で回収(分離)される。
【0116】
すなわち、吸着剤3には、塩基性タンパク質および混入物が、それぞれに固有の吸着(担持)力で特異的に吸着しているため、この吸着力の差に応じて、塩基性タンパク質と混入物とが分離、精製される。
【0117】
緩衝液には、リン酸系緩衝液が好ましく用いられる。このリン酸系緩衝液としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウムおよびリン酸アンモニウム等が挙げられる。また、緩衝液は、リン酸系緩衝液の他、MESや硫酸であってもよい。
【0118】
リン酸系緩衝液を用いる場合、そのpHは、特に限定されないが、好ましくは5.5〜8.5程度、より好ましくは6.5〜7.5程度に設定される。これにより、フッ素アパタイトで構成される吸着剤3を溶解させることなく、吸着剤3に吸着した塩基性タンパク質を確実に溶出させることができ、その精製率の向上を図ることができる。また、吸着剤3がフッ素アパタイトで構成され、そのフッ素原子による水酸基の置換率が、6%以上、76%以下となっており、吸着剤3は優れた耐酸性を有している。そのため、かかるpHの範囲のリン酸系緩衝液を用いたとしても、吸着剤3の変質(溶解等)を好適に防止することができ、吸着装置1における分離能の変化を確実に防止することもできる。さらに、前記供給工程[2B]から本工程[3B]の移行時等にカラム2内のpHが一時的に酸性側に変化したとしても、吸着剤3の変質(溶解等)を好適に防止することができる。
【0119】
このリン酸系緩衝液の温度も、特に限定されないが、10〜50℃程度であるのが好ましく、20〜35℃程度であるのがより好ましい。これにより、分離する塩基性タンパク質の変質(変成)を防止することができる。
【0120】
したがって、かかるpH範囲および温度範囲のリン酸系緩衝液を用いることにより、目的とする塩基性タンパク質の回収率の向上を図ることができる。
【0121】
また、リン酸系緩衝液の塩濃度は、500mM以下であるのが好ましく、400mM以下であるのがより好ましい。このような塩濃度のリン酸系緩衝液を用いて、塩基性タンパク質の分離を行うことにより、リン酸系緩衝液中の金属イオンによる塩基性タンパク質への悪影響を防止することができる。
【0122】
具体的には、塩濃度が1〜400mM程度のリン酸系緩衝液を用いることができる。また、リン酸系緩衝液の塩濃度は、塩基性タンパク質の分離操作の際に、連続的または段階的に変化させるのが好ましい。これにより、塩基性タンパク質の分離操作の効率化を図ることができる。
【0123】
さらに、リン酸系緩衝液の流速は、0.1〜10mL/分程度であるのが好ましく、1〜5mL/分程度であるのがより好ましい。このような流速で、塩基性タンパク質の分離を行うことにより、分離操作に長時間を要することなく、目的とする塩基性タンパク質を確実に分離すること、すなわち、高純度な塩基性タンパク質を得ることができる。
【0124】
以上のような操作により、所定の画分に、塩基性タンパク質が回収される。
【0125】
なお、以上の説明では、塩基性タンパク質を正帯電物質の一例としたが、正帯電物質としては、その他、塩基性アミノ酸、正電荷コレステロールおよび正電荷リポソーム等が挙げられる。本発明によれば、これらの正帯電物質も塩基性タンパク質と同様に、容易かつ高純度で分離することが可能である。
【0126】
<フッ素アパタイトの製造方法>
次に、前述したようなフッ素アパタイトは、いかなる製造方法を用いて製造してもよいが、例えば、以下のようなIまたはIIの方法により製造することができる。
【0127】
I:ハイドロキシアパタイトを含むスラリーと、フッ化水素を含有するフッ化水素含有液とを混合した混合液中において、ハイドロキシアパタイトとフッ化水素とを反応させる。これにより、ハイドロキシアパタイトの水酸基の少なくとも一部を、フッ素原子で置換して、フッ素アパタイトを得る。
【0128】
II:カルシウムを含むカルシウム系化合物を含有する第1の液体、フッ化水素を含有する第2の液体、およびリン酸を含有する第3の液体を、それぞれ調製する。その後、第1の液体、第2の液体および第3の液体を混合して反応液を得る。この反応液中において、カルシウム系化合物、フッ化水素およびリン酸を反応させることにより、フッ素アパタイトを得る。
【0129】
これらの方法によれば、例えば、ハイドロキシアパタイトを含むスラリー中に、フッ素源としてフッ化水素アンモニウムを添加することによりフッ素アパタイトを合成する方法等に比較して、フッ素源としてフッ化水素を用いるので、不純物の残留がないか、または極めて少ないフッ素アパタイトを得ることができる。
【0130】
このため、結晶性が高く、これに起因して耐酸性に優れたフッ素アパタイトとなる。したがって、かかるフッ素アパタイトを用いて構成される吸着剤3を用いれば、分離のために比較的pHの低い溶出液を用いざるを得ない酸性タンパク質や塩基性タンパク質の分離であっても、吸着剤3の溶解を伴うことなく分離を行うことができる。このため、かかる酸性タンパク質や塩基性タンパク質の分離をも確実に行うことができるようになる。
【0131】
これらの中でも、Iの方法では、フッ化水素含有液の添加量を適宜設定するという比較的簡単な作業で、フッ素アパタイトにおける水酸基のフッ素原子による置換率を、5%以上、76%以下の範囲内に設定することができる。
【0132】
以下、Iの方法について詳述する。
【0133】
<Iの方法>
A1:まず、ハイドロキシアパタイトを含むスラリーを調製する。
【0134】
以下、このスラリーとして、ハイドロキシアパタイト一次粒子およびその凝集体が分散されたスラリーを調製する方法について説明する。
【0135】
ハイドロキシアパタイト一次粒子は、各種合成方法を用いて得ることができるが、カルシウム源とリン酸源との少なくとも一方を溶液として用いる湿式合成法によって合成するのが好ましい。
【0136】
これにより得られるハイドロキシアパタイトは、微細な一次粒子となる。かかるハイドロキシアパタイト一次粒子は、その形状が小さいため、フッ化水素との反応性が極めて高い。
【0137】
カルシウム源としてのカルシウム系化合物は、例えば、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム等を用いることができる。一方、リン酸源としてのリン酸化合物は、リン酸、リン酸アンモニウム等を用いることができる。これらの中でも、特に、カルシウム源としてのカルシウム系化合物として、水酸化カルシウムまたは酸化カルシウムを主成分とするものが好ましい。また、リン酸源としてのリン酸化合物として、リン酸を主成分とするものが好ましい。
【0138】
具体的には、例えば、容器内で、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)または酸化カルシウム(CaO)の懸濁液中に、リン酸(H3PO4)溶液を滴下する。これを撹拌混合することにより、ハイドロキシアパタイトが合成され、ハイドロキシアパタイト一次粒子が生成する。こうして、スラリーが得られる。
【0139】
また、スラリー中におけるハイドロキシアパタイト一次粒子の含有量は、1〜20wt%程度であるのが好ましく、5〜12wt%程度であるのがより好ましい。
【0140】
A2:一方、ハイドロキシアパタイトを含むスラリーとは別に、フッ化水素を含有するフッ化水素含有液を調製する。
【0141】
フッ化水素を溶解する溶媒は、ハイドロキシアパタイトとフッ化水素との反応を阻害しないものであれば、いかなるものも使用が可能である。
【0142】
かかる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール類等が挙げられ、これらを混合して用いることもできるが、中でも、特に、水であるのが好ましい。
【0143】
フッ化水素含有液中のフッ化水素の含有量は、1〜60wt%程度であるのが好ましく、2.5〜10wt%程度であるのがより好ましい。
【0144】
A3:次に、調製されたスラリーと調製されたフッ化水素含有液とを混合す。そうすることにより、フッ化水素含有液を含むスラリー(反応液)中において、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させて、フッ素アパタイト一次粒子を得る。
【0145】
すなわち、ハイドロキシアパタイト一次粒子に、フッ化水素を接触させることで、次式に示すように、ハイドロキシアパタイトが有する水酸基の少なくとも一部をフッ素原子で置換される。その結果、ハイドロキシアパタイトがフッ素アパタイトに変換して、フッ素アパタイト一次粒子を得る。
【0146】
Ca10(PO(OH)
Ca10(PO(OH)2−2x2X
[ただし、式中、xは0.05≦x≦0.76である。]
【0147】
このように、ハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリー中で、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素を反応させることにより、フッ素アパタイト一次粒子を簡便に製造することができる。
【0148】
なお、フッ素アパタイト一次粒子における水酸基のフッ素原子による置換率の5%以上、76%以下の範囲内への設定は、本工程A3における、調製されたスラリーと調製されたフッ化水素含有液との混合比(すなわち、フッ化水素含有液の添加量)を、適宜設定することにより容易に行うことができる。
【0149】
また、フッ素源としてのフッ素化合物として、フッ化水素(HF)を用いるので、フッ化水素アンモニウム(NHF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化マグネシウム(MgF)やフッ化カルシウム(CaF)等を用いる場合に比較して副反応生成物の生成がないか、あるいは極めて少ない。
【0150】
具体的には、フッ素アパタイト中の不純物濃度は、できる限り低いことが好ましく、300ppm以下であるのが好ましく、100ppm以下であるのがより好ましい。これにより、フッ素アパタイト一次粒子は、不純物濃度が低くなることに起因して、フッ素アパタイトからのフッ素原子の遊離が抑制され、より耐酸性の高いものとなる。
【0151】
なお、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)とフッ化水素との反応条件(例えば、pH、温度、時間等)を調整することにより、フッ素アパタイト一次粒子中の不純物濃度を前記範囲内に、ひいては前記上清液中で遊離するフッ素濃度を前記範囲内に確実に設定することが可能である。
【0152】
特に、スラリーにフッ化水素含有液を混合することにより、スラリーのpHを好ましくは2.5〜5程度、より好ましくは2.7〜4程度の範囲内に調整する。この状態で、ハイドロキシアパタイト(一次粒子)とフッ化水素を反応させる。これにより、前記濃度をより確実に前記範囲内に設定することが可能である。なお、本明細書中において、スラリーのpHとは、フッ化水素含有液の全量をスラリーに混合した時点のpHとする。
【0153】
ここで、スラリーのpHを2.5未満に調製すると、ハイドロキシアパタイト自体が溶解する傾向を示す。したがって、ハイドロキシアパタイトをフッ素アパタイトに変換して、一次粒子を得ることが困難となる恐れがある。さらに、一次粒子にフッ化水素含有液を混合する際に用いる装置の構成成分がスラリーに溶出し、得られる一次粒子の純度が低下するという問題も生じ得るおそれがある。さらに、フッ化水素含有液を使用してpH2.5未満である低いpHにスラリーを調整することは、技術的に極めて困難である。
【0154】
一方、フッ化水素含有液を用いて、スラリーのpHを5超に調整するには、スラリー中に大量の水を添加せざるを得ない。このため、スラリーの全量が極めて多くなり、スラリー全量に対するフッ素アパタイト一次粒子の収率が低下するおそれがある。そのため、工業的にも不利である。
【0155】
これらに対して、スラリーのpHを2.5〜5に調整することにより、反応により生成したフッ素アパタイト(一次粒子)が一旦溶解傾向を示した後に、再結晶することになる。このため、結晶性の高いフッ素アパタイト一次粒子を得ることができる。
【0156】
また、スラリーとフッ化水素含有液とは、これらを一時(同時)に混合するようにしてもよいが、スラリー中にフッ化水素含有液を滴下することにより混合するのが好ましい。
【0157】
フッ化水素含有液を滴下する速度は、1〜100L/時間程度であるのが好ましく、3〜100L/時間程度であるのがより好ましい。
【0158】
また、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素との反応は、スラリーを撹拌しつつ行うのが好ましい。撹拌によって、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とが均一に接触し、反応を効率よく進行させることができる。また、得られるフッ素アパタイト一次粒子間でのフッ素原子の置換率をより均一なものとすることができる。例えば、かかるフッ素アパタイト一次粒子を用いて、吸着剤(乾燥粒子または焼結粒子)3を製造した場合、その特性のバラツキが小さくなり、より信頼性の高いものを得ることができる。
【0159】
この場合、スラリーを撹拌する撹拌力は、スラリー1Lに対して、0.1〜3W程度の出力であるのが好ましく、0.5〜1.8W程度の出力であるのがより好ましい。
【0160】
また、フッ化水素の混合量は、フッ素量がハイドロキシアパタイトが有する水酸基の量に対して0.05〜0.55倍程度となるようにするのが好ましく、0.15〜0.35倍程度となるようにするのがより好ましい。
【0161】
ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させる際の温度は、特に限定されないが、5〜50℃程度であるのが好ましく、20〜40℃程度であるのがより好ましい。
【0162】
この場合、ハイドロキシアパタイト一次粒子にフッ化水素を滴下する時間(加える時間)は、30分〜16時間程度かけて行うのが好ましく、1〜8時間程度かけて行うのがより好ましい。
【0163】
以上のようなIの方法で得られたフッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーは、乾燥や造粒することにより、乾燥粒子(二次粒子)を得、さらに、この乾燥粒子を焼成して焼結粒子とすることができる。
【0164】
なお、吸着剤3としては、機械的強度の点から前記焼結粒子を用いることが好ましい。しかし、吸着剤への負荷が比較的少ない場合等には、吸着剤3として乾燥粒子を用いることもできる。
【0165】
また、一次粒子を含むスラリーを乾燥や造粒する方法としては、特に限定されないが、例えば、スラリーをスプレードライヤー等により噴霧乾燥する方法等が挙げられる。
【0166】
さらに、乾燥粒子を焼成する際の焼成温度は、200〜800℃程度であるのが好ましく、400〜700℃程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に焼成温度を設定することにより、一次粒子内や一次粒子同士間(凝集体)で形成される間隙(空孔)を残存させつつ、機械的強度にも優れる吸着剤3を得ることができる。
【0167】
なお、焼結粒子を吸着剤3として用いる場合、その比表面積は、吸着剤3による酸性タンパク質の分離能を向上させるという観点からより広いほうが好ましい。本発明者の検討により、以下のような点が明らかとなっている。
【0168】
すなわち、ここで説明したIの方法を用いてフッ素アパタイト一次粒子を製造した場合、そのフッ素アパタイトにおける水酸基のフッ素原子による置換率を、5%以上、55%以下に、好ましくは20%以上、40%以下に設定する。そうすることで、吸着剤3の比表面積を、30m/g以上、50m/g以下、好ましくは42m/g以上、50m/g以下のものとし得ることが判っている。
【0169】
以上、本発明のフッ素アパタイト、吸着装置および分離方法について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0170】
例えば、本発明の分離方法では、任意の目的で、1以上の工程を追加することができる。
【実施例】
【0171】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0172】
1.フッ素アパタイトの製造
[1]まず、水酸化カルシウムを純水に懸濁させ、その中へ、リン酸水溶液を滴下していき、かつ十分に撹拌した。これにより、10wt%のハイドロキシアパタイト一次粒子を含むスラリー200Lを得た。
【0173】
なお、得られた合成物(一次粒子)がハイドロキシアパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。
【0174】
一方、4.2wt%フッ化水素(森田化学工業社製、「HF−20」)をフッ化水素含有液として用意した。
【0175】
[2]次に、スラリーを1kWの撹拌力で撹拌した状態で、フッ化水素含有液を、速度5L/時間でスラリーに滴下した。
【0176】
なお、フッ化水素含有液の滴下を終了した時点において、スラリーのpHは、3.00であった。また、フッ化水素の混合量は、フッ素量がハイドロキシアパタイトが有する水酸基の量に対して約1.05倍であった。
【0177】
引き続き、フッ化水素含有液が滴下されたこのスラリーを、温度30℃で48時間、1kWの撹拌力で撹拌を行った。これにより、ハイドロキシアパタイト一次粒子とフッ化水素とを反応させ、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを得た。
【0178】
なお、スラリー中の反応生成物がフッ素アパタイトであることを粉末X線回折法により確認した。また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト一次粒子におけるフッ素原子の置換率は、100%であった。
【0179】
また、粉末X線回折の結果、フッ素アパタイト乾燥粒子中、フッ素アパタイト以外の生成物は、確認できなかった。
【0180】
[3]次に、フッ素アパタイト一次粒子を含むスラリーを、噴霧乾燥機(大川原化工機社製、「OC−20」)を用いて、150℃で噴霧乾燥して、球状の乾燥粒子を製造した。
【0181】
[4]次に、乾燥粒子の一部を中心粒径約40μmとなるように分級した。その後、分級された乾燥粒子を400℃×4時間、電気炉で焼成した。これにより、フッ素原子の置換率が100%の焼結粒子(フッ素アパタイト)1を得た。
【0182】
また、前記工程[2]におけるフッ化水素含有液の滴下量を適宜変更することで、フッ素原子の置換率が75、50、25%の焼結粒子(フッ素アパタイト)2〜4をそれぞれ得た。さらに、前記工程[2]におけるフッ化水素含有液の滴下を省略することで、フッ素原子の置換率が0%の焼結粒子(ハイドロキシアパタイト)5を得た。
【0183】
なお、各焼結粒子1〜5におけるフッ素原子の置換率は、イオン電極を用いて、フッ素アパタイト中のフッ素濃度を測定し、得られた測定値を置換率に換算することにより求めた。
【0184】
2.評価
2−1.Ca溶出による耐酸性評価
まず、各焼結粒子1〜5を、それぞれ、ステンレスカラム(内径4.0mm×長さ100mm)の充填空間にほぼ満量となるように充填して、焼結粒子1〜5が充填されたサンプルNo.1〜5のカラムを製造した。
【0185】
なお、カラムの充填空間の容積は、1.256mLであり、各カラムに充填した焼結粒子1〜5の充填量をそれぞれ測定しておいた。
【0186】
そして、各サンプルNo.のカラムに、それぞれ、400mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH5、温度25℃)を、20mL通液することで各カラムを洗浄した。その後、さらに10mLの400mMリン酸ナトリウム緩衝液を通液して、その流出液(溶出液)を回収した。
【0187】
次に、各サンプルNo.のカラムから回収した流出液について、それぞれ、ICP発光分析装置(島津製作所社製、「ICPS-7500」)を用いて流出液中のカルシウム濃度を測定した。そして、各サンプルNo.のカラムの流出液を、それぞれ予め測定しておいた各カラムに充填した各焼結粒子の充填量で除することで、各焼結粒子からのCa溶出量[ppm/g]を求めた。
【0188】
以上のようにして求めた各焼結粒子1〜5からのCa溶出量と、各焼結粒子1〜5におけるフッ素原子の置換率との関係を図2に示す。
【0189】
ここで本発明者の検討により、Ca溶出量が80ppm/g程度を下回る際に、焼結粒子(フッ素アパタイト)が優れた耐酸性を有すると言うことができる。そのため、焼結粒子におけるフッ素原子の置換率を5%以上に設定することで、焼結粒子(フッ素アパタイト)を優れた耐酸性を有するものとし得ることが明らかとなった。
【0190】
2−2.酸性タンパク質吸着能の評価
まず、各焼結粒子1〜5を、それぞれ、ステンレスカラム(内径4.6mm×長さ35mm)の充填空間にほぼ満量となるように充填して、焼結粒子1〜5が充填されたサンプルNo.1〜5のカラムを製造した。
【0191】
なお、各カラムに充填した焼結粒子1〜5の比表面積を、予め全自動BET比表面積測定装置(マウンテック社製、「Macsorb model-1201」)を用いてそれぞれ測定しておいた。
【0192】
次に、BSA(牛血清アルブミン) 0.5mg/mLとなるように、Albumin, bovine serum, >96% Essentially Fatty Acid Free (SIGMA社製、「A6003」)を、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)に溶解させて混合液を得た。その後、混合液を0.22μmのフィルタで濾過し、さらに30分間脱気することで試料液を得た。
【0193】
なお、吸光度計(島津製作所社製、「UV Spectrophotometer UV-1800」)を用いて、試料液の吸光度値(280nm、リファレンス:純水)およびモル吸光係数値を測定した。そうすることで、試料液中の実際のタンパク質吸着量を求めた。
【0194】
次に、各焼結粒子が充填された各サンプルNo.のカラムに、それぞれ、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8、温度25℃)を、通液速度0.42mL/minで通液することで、カラムを平衡化した。
【0195】
次に、各サンプルNo.のカラムを、それぞれ、クロマト装置に装着した。その後、クロマト装置で試料液の吸光度値(280nm)を測定しつつ、試料液をクロマト装置のポンプから送液した。
【0196】
そして、各サンプルNo.のカラムを備えたクロマト装置から得られるクロマトグラムにおいて、溶出ピークの吸光度値(280nm)が、試料液(原液)の吸光度値(280nm)の10%となる時点まで、試料液を送液した。その後、送液した試料液から、酸性タンパク質吸着量を求めた。
【0197】
以上のようにして求めた各焼結粒子1〜5への酸性タンパク質吸着量と、各焼結粒子1〜5におけるフッ素原子の置換率との関係を図3に示す。さらに、各焼結粒子1〜5の比表面積と、各焼結粒子1〜5におけるフッ素原子の置換率との関係についても図3に示す。
【0198】
ここで本発明者の検討により、酸性タンパク質吸着量が2mg/mL程度を上回る際に、焼結粒子(フッ素アパタイト)が優れた酸性タンパク質吸着能を有すると言うことができる。そのため、焼結粒子におけるフッ素原子の置換率を55%以下に設定することで、焼結粒子(フッ素アパタイト)を優れた酸性タンパク質吸着能を有するものとし得ることが明らかとなった。
【0199】
さらに、焼結粒子におけるフッ素原子の置換率を55%以下に設定することで、焼結粒子の比表面積を30m/g以上のものとしやすい。焼結粒子の比表面積が広いものとなっていることから、かかる観点からも、焼結粒子における酸性タンパク質吸着能が向上しているものと推察された。
【0200】
2−3.塩基性タンパク質吸着能の評価
まず、各焼結粒子1〜5を、それぞれ、ステンレスカラム(内径4.6mm×長さ35mm)の充填空間にほぼ満量となるように充填して、焼結粒子1〜5が充填されたサンプルNo.1〜5のカラムを製造した。
【0201】
なお、各カラムに充填した焼結粒子1〜5の比表面積を、予め全自動BET比表面積測定装置(マウンテック社製、「Macsorb model-1201」)を用いてそれぞれ測定しておいた。
【0202】
次に、リゾチーム(Lyso) 0.5mg/mLとなるように、Lysozyme from Chicken Egg White (SIGMA社製、「L6876」)を、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)に溶解させて混合液を得た。その後、0.22μmのフィルタで混合液を濾過し、さらに30分間脱気することで試料液を得た。
【0203】
なお、吸光度計(島津製作所社製、「UV Spectrophotometer UV-1800」)を用いて、試料液の吸光度値(280nm、リファレンス:純水)およびモル吸光係数値を測定した。そうすることで、試料液中の実際のタンパク質吸着量を求めた。
【0204】
次に、各焼結粒子が充填された各サンプルNo.のカラムに、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8、温度25℃)を、通液速度0.42mL/minで通液することで、カラムを平衡化した。
【0205】
次に、各サンプルNo.のカラムを、それぞれ、クロマト装置に装着した。その後、クロマト装置で試料液の吸光度値(280nm)を測定しつつ、試料液をクロマト装置のポンプから送液した。
【0206】
そして、各サンプルNo.のカラムを備えたクロマト装置から得られるクロマトグラムにおいて、溶出ピークの吸光度値(280nm)が、試料液(原液)の吸光度値(280nm)の10%となる時点まで、試料液を送液した。その後、送液した試料液から、塩基性タンパク質吸着量を求めた。
【0207】
以上のようにして求めた各焼結粒子1〜5への塩基性タンパク質吸着量と、各焼結粒子1〜5におけるフッ素原子の置換率との関係を図4に示す。さらに、各焼結粒子1〜5の比表面積と、各焼結粒子1〜5におけるフッ素原子の置換率との関係についても図4に示す。
【0208】
ここで本発明者の検討により、塩基性タンパク質吸着量が30mg/mL程度を上回る際に、焼結粒子(フッ素アパタイト)が優れた塩基性タンパク質吸着能を有すると言うことができる。そのため、焼結粒子におけるフッ素原子の置換率を6%以上、76%以下に設定することで、焼結粒子(フッ素アパタイト)を優れた塩基性タンパク質吸着能を有するものとし得ることが明らかとなった。
【0209】
これは、焼結粒子(フッ素アパタイト)におけるフッ素原子による置換率が高くなるにしたがって、負帯電性を有するフッ素原子が正帯電性を有するCaサイトに対して何らかの影響を及ぼし、その結果、フッ素アパタイトで構成される吸着剤への塩基性タンパク質の吸着能が向上する。他方、フッ素アパタイトにおけるフッ素原子による置換率が高くなるにしたがって、焼結粒子(フッ素アパタイト)の比表面積は、フッ素原子の置換率が25%のときをピークとし、狭くなる傾向を示している。これに起因して、フッ素アパタイトで構成される吸着剤への塩基性タンパク質の吸着能が低下する。これら2つの事実が重なることにより、焼結粒子におけるフッ素原子の置換率が6%以上、76%以下のときに、焼結粒子(フッ素アパタイト)は、優れた塩基性タンパク質吸着能を発揮するものと推察された。
【0210】
2−4.まとめ
以上のことから、焼結粒子におけるフッ素原子の置換率を5%以上に設定することで、焼結粒子(フッ素アパタイト)を優れた耐酸性を有するものとすることができる。さらに、置換率を6%以上、76%以下に設定することで、焼結粒子(フッ素アパタイト)を優れた塩基性タンパク質吸着能を有するものとすることができる。そのため、焼結粒子におけるフッ素原子の置換率を6%以上、76%以下に設定することで、結果的に、焼結粒子(フッ素アパタイト)は、耐酸性および塩基性タンパク質吸着能の双方に優れた特性を発揮するものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0211】
本発明のフッ素アパタイトは、帯電性物質と、該帯電物質以外からなる物質とを含有する試料液中から、前記帯電物質を分離するために用いられるフッ素アパタイトであって、前記フッ素アパタイトは、一般式Ca10(PO(OH)2−2x2Xで表され、前記一般式中、xは0.05≦x≦0.76の関係を満足することを特徴とする。これにより、耐酸性に優れ、かつ、帯電物質と、この帯電物質以外からなる物質とを含有する試料液中から、帯電物質を高精度で分離することができる。したがって、本発明は、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4