特許第6141277号(P6141277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6141277電気手術器具、電気手術装置および関連する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6141277
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】電気手術器具、電気手術装置および関連する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/08 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
   A61B18/08
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-528968(P2014-528968)
(86)(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公表番号】特表2014-529478(P2014-529478A)
(43)【公表日】2014年11月13日
(86)【国際出願番号】EP2012067379
(87)【国際公開番号】WO2013034629
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2015年4月1日
(31)【優先権主張番号】102011082307.7
(32)【優先日】2011年9月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510320416
【氏名又は名称】オリンパス・ウィンター・アンド・イベ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ハノ ヴィンター
【審査官】 吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−112768(JP,A)
【文献】 特表2004−500207(JP,A)
【文献】 特表2005−525861(JP,A)
【文献】 特開2002−325772(JP,A)
【文献】 再公表特許第2011/052349(JP,A1)
【文献】 特表2010−505596(JP,A)
【文献】 特表2009−504313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持面と、前記把持面の少なくとも一領域に設けられた電極と、を備えた電気手術器具であって、冷却流体を供給するための流体供給ラインに接続された流体出口が、前記把持面の外方の近傍に設けられている電気手術器具と、
前記流体供給ラインに接続されている流体ポンプと、
前記電極に電気的に接続された、凝固電流を発生するための発生器と、
を備えており、
前記流体ポンプおよび前記発生器は、前記流体ポンプの動作および前記発生器の動作を整合する制御器に接続され、
前記制御器は、パルス状の凝固電流を発生するよう前記発生器を制御するよう構成され、
印加される電圧は、組織の抵抗に依存し、
前記制御器は、予め定めた抵抗しきい値を超えると、パルスが停止するよう前記発生器を制御するよう構成され
前記制御器は、前記抵抗しきい値が各パルスとともにしだいに上昇するよう構成されている、
電気手術装置。
【請求項2】
互いに対向し、相対的に可動な2つの把持面を備えている、
請求項1記載の電気手術装置。
【請求項3】
前記電気手術器具は、互いに連結し、相対的に可動な2つのブランチを備えており、
前記把持面はそれぞれ、他のブランチに面する表面により形成されている、
請求項2記載の電気手術装置。
【請求項4】
前記把持面の外方の近傍に、吸引により前記冷却流体を回収するための吸引開口が設けられている、
請求項1から3のいずれか1項記載の電気手術装置。
【請求項5】
前記冷却流体を吸引により回収可能な吸引ポンプをさらに備えている、
請求項1から4のいずれか1項記載の電気手術装置。
【請求項6】
前記電気手術器具には、前記把持面の外方の近傍に、吸引により前記冷却流体を回収するための吸引開口が設けられており、前記吸引ポンプは前記吸引開口に接続されている、請求項5記載の電気手術装置。
【請求項7】
前記流体ポンプは、作動時に1℃〜3℃の温度の前記冷却流体を供給する、
請求項1から6のいずれか1項記載の電気手術装置。
【請求項8】
前記制御器は、前記電圧が各パルスに対して一定に維持されるよう前記発生器を制御するよう構成されている、
請求項1から7のいずれか1項記載の電気手術装置。
【請求項9】
前記電極には、交流電圧がパルス状に印加され、
前記冷却流体は、前記交流電圧の印加と整合して前記電極の直近に供給される、
請求項1から8のいずれか1項記載の電気手術装置。
【請求項10】
前記冷却流体は、非導電性流体である、
請求項1から9のいずれか1項記載の電気手術装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持面を有する電気手術器具と、把持面の一領域に設けられた少なくとも1つの電極を備えた電気手術器具に関する。本発明はさらに、本発明にかかる電気手術器具を備えた電気手術装置に関する。さらに、本発明は、電気手術装置の作動方法、ならびに、組織融合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気手術器具は、たとえば、脈管系の切開、凝固および熱封止に用いられる。このために、インピーダンス制御式の双極式高周波技術が開発されており、これは、低コストの、手術分野で確立された方法を提供する。これを用いて、温度、時間および圧力に依存して、他種の組織、たとえば、腸壁、尿道または皮膚も融合し、創傷を閉じることができる。このために、人体内のタンパク質の熱による変質(変性)を用いることができる。組織の加熱による創傷の閉鎖を成功させるためには、組織細胞の起こりうる熱損傷(融合縫合の端の領域における過熱により生じうる)は、最小かつ局所的なものでなければならない。
【0003】
生物組織が融合処理の際に100℃超に過熱されると、細胞液は蒸発し、組織は脱水する。組織内に形成され、組織から放出される水蒸気は、比較的低温の組織周辺の表面での凝縮により、熱損傷に関与する。このような損傷を防ぐため、これまですでに様々なアプローチがなされている。
【0004】
US7,789,883B2には、熱融合のための装置が記載されており、これにおいては、電極の特別な構成によりまたは電極の端部領域のチャネルにより、水蒸気の側方への拡散は防がれる。この文献には、電極の端部領域の冷却ユニットも記載されている。
【0005】
DE60738220T2には、加熱時に水蒸気が吸引により回収される孔を有する電極が記載されている。
【0006】
US7,815,641B2には、電極のそばに、少なくとも1つの冷却ユニットが設けられた電気手術器具が開示されており、冷却ユニットは電極と冷却ユニットとの間に温度勾配を生じさせる。
【0007】
US5,647,871A1には、内部に冷却チャネルを有する電極を備えた電気手術器具が開示されている。冷却流体の供給により電極は冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】US7,789,883B2
【特許文献2】DE60738220T2
【特許文献3】US7,815,641B2
【特許文献4】US5,647,871A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
代替的な、特に改善されたやり方で、形成された水蒸気により生じる熱損傷を防ぐことが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このために、本発明によれば、独立請求項に記載の電気手術器具および電気手術装置が提供される。さらに、独立請求項に記載の電気手術装置の作動方法および組織融合方法が提供される。有利な実施形態は、たとえば、従属請求項に記載されている。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、本発明は、把持面と、前記把持面の少なくとも一領域に設けられた電極と、を備えた電気手術器具に関する。また、この電気手術器具においては、冷却流体を供給するための流体供給ラインに接続された流体出口が、前記把持面の外方の近傍に設けられている。
【0012】
冷却流体とは、水蒸気およびこれに保存されたエネルギーのための所定のドレン(drain)を表す。水蒸気が冷却流体に達すると、水蒸気は冷却流体内で凝縮し、これにより生成される凝縮熱が冷却流体を加熱する。その後、凝縮した水は、冷却流体の温度まで冷却され、これにより、冷却流体から吸収されたエネルギーが再び解放される。冷却流体が十分な量供給されれば、冷却流体はそれにもかかわらず蒸発しないが、熱を放散する。これにより、水蒸気の凝縮および冷却の間に生成されたエネルギーによって、所望の領域の外方の組織が加熱され、すなわち損傷されることは防がれる。
【0013】
本発明は、融合縫合部の周りの組織の熱損傷を低減するための従来技術により知られる方法の効果が限定されていることに基づいている。すなわち、電極の周りの溝は、溝を超えた損傷を防ぐが、溝は、融合処理の際に形成される組織の流体−細胞−集塊により詰まらないように、最小の幅でなければならない。したがって、溝が十分に広い場合に限ってのみ、損傷はこの方法によって低減可能である。従来技術で知られる水蒸気を出すための孔においては、孔が詰まるリスクもある。
【0014】
また、本発明は、電極に当接する組織または電極を洗い流すことにより最もよく水蒸気が放散されることに基づいている。低温の非導電性流体流による熱遮断は、吸引による水蒸気の放散または回収よりもはるかに効果的である。
【0015】
好適な実施形態では、電気手術器具において、把持面の外方の近傍に、吸引による冷却流体の回収のための吸引開口が設けられている。これにより、流体出口から放出され、水蒸気により加熱された冷却流体は、再び吸引により回収可能である。したがって、電気手術器具におけるまたは治療すべき器官内の冷却流体の蓄積は防がれる。また、このような吸引開口によって、電極に沿った冷却流体の連続的な流れが可能になる。これにより、流れは、必要とされる冷却能力に整合可能である。
【0016】
電気手術器具の把持面は、器具の使用の間、組織と接触される。この領域に設けられた電極は、好ましくは、導電性材料、例えばステンレス鋼またはアルミニウムなどの金属の表面を有する。電極は、典型的には、接続配線によって、高周波電圧を電極に印加可能な高周波発生器に接続されている。すなわち、電極の組織(対向電極も接触される)との適切な接触の間、高周波電流が組織を通って流れる。
【0017】
流体出口は、電気手術器具の本体における簡単な開口であってよい。典型的には、開口はこれにより電気手術器具の外面に、すなわち、近傍に向けられている。流体チャネルは、電気手術器具の内部の管またはダクトから構成されても良い。これにより、特に簡単な実施形態が容易化される。
【0018】
ただ1つの流体出口を用いる代わりに、複数の流体出口を用いても良い。これにより、特定の一領域にわたる冷却流体の拡散または複数の領域にわたる供給が実現可能となる。流体出口は、また、特定の方向への放出の間、冷却流体を方向付けるように特に構成されていても良い。
【0019】
管またはダクトの代わりに、電気手術器具は、少なくとも部分的に、内部に冷却流体が供給され少なくとも1つの流体出口が構成されている中空体として構成されてもよい。これにより、器具のさらなる冷却が実現可能となる。
【0020】
流体出口を電極にできるだけ近く配置することが望ましい。これにより、電極周辺の熱損傷される領域を、できるだけ小さくすることができ、または、なくすことができる。好ましくは、冷却流体と電極との間には、良好な断熱が、たとえば、絶縁層の形態で、設けられている。これにより、電極自体の過剰な冷却により、過大な熱エネルギーの放散が防がれ、これにより、融合縫合部の急速な加熱は防がれる。この断熱層が電気的に絶縁性でもあることが、(好ましくは非導電性の)冷却流体にわたる横方向の電流の流れを防ぐためにさらに好ましい。というのも、組織からの電解質の洗い流しによって、冷却流体が電極の領域内で電気絶縁性を失う場合があるからである。
【0021】
好ましい実施形態によれば、電気手術器具は互いに面し、相対的に可動な2つの把持面を有する。したがって、把持面は、互いに最も近く対向する面である。かかる場合、少なくとも1つの電極が各把持面の領域に設けられている。すなわち、かかる器具は、全体で2つの、異なる極性の電極を有し、これらは、治療すべき組織を通る電流を通過させるために用いることができる。
【0022】
電気治療器具が2つの把持面を有する場合、流体出口に関して、基本的に2つの実施形態が可能である。一方では、把持面の近傍にのみ、1つまたは複数の流体出口が設けられており、すなわち、流体出口は、他方の電極には設けられていない。他方では、両方の把持面の近傍に、それぞれ、1つまたは複数の流体出口が設けられて、冷却流体が2つの電極の近傍に放出される。この場合、水蒸気は、1つの電極においてではなく、2つの電極において冷却流体により吸収または冷却可能である。
【0023】
2つの把持面を有する電気手術器具の好ましい実施形態では、電気手術器具は、互いに結合され、相対的に可動な2つのブランチを有し、把持面は、他方のブランチに面する面によって形成される。このような実施形態の典型的な例は、プライヤ状の構成であり、これにおいては、ブランチがプライヤ状器具の構成要素によって形成される。これにより、電気手術器具は、電気手術把持器具となる。ブランチが、中間に位置する組織を把持可能なように、すなわち、両側に接触し、それぞれの力でもってその位置に把持されるように互いに十分近くに動かされると、電気手術器具は組織に固定可能である。
【0024】
第2の態様では、本発明は、第1の態様にかかる電気手術器具および流体ポンプを備えた電気手術装置に関する。流体ポンプは、冷却流体の供給用の流体チャネルに接続されている。
【0025】
電気手術装置は、さらに、凝固電流を生成するための発生器を備え、これは、電気手術器具の把持面の領域に設けられた電極に電気的に接続されている。さらに、流体ポンプおよび発生器は制御器に接続されており、制御器は流体ポンプの動作および発生器の動作を互いに整合する。流体ポンプと発生器の整合は、発生器により影響される加熱能力と流体ポンプに影響される冷却能力とが調和するように行われる。
【0026】
第2の態様にかかる電気手術器具は、本発明の第1の態様にかかる電気手術器具に関してすでに説明した利点を有する。言及した可能な実施形態および修正も、本発明の第2の態様にかかる電気手術装置の範囲内でのかかる電気手術器具の使用のために相応に実施可能である。
【0027】
本発明の第2の態様にかかる電気手術装置によれば、組織の電気手術処置が可能となり、これによれば、凝固領域の外側の組織の熱損傷は冷却ポンプを介して供給される冷却流体によって防がれる。
【0028】
流体ポンプは、液体または各冷却流体のポンプ輸送に適した任意のポンプであってよく、たとえば、ピストンポンプ、遠心ポンプ、膜ポンプ、好ましくは、蠕動ポンプであってよい。発生器は、好ましくは、電気手術器具との使用に関して従来技術において知られた高周波発生器である。典型的には、発生器は、組織の凝固、融合または他の処置に十分な高周波電力を供給する。発生器は、電気手術装置に使用される電気治療器具の1つの電極のいずれかのみに、さらには、治療される患者の体に当てられる背面電極に接続されてよい。電気手術装置に用いられる電気手術器具が少なくとも2つの電極を有する場合、発生器はこの電気手術器具の2つの電極に接続されていても良い。電気手術器具が電気手術把持器具であり、発生器が、ブランチに設けられた、互いに相対的に可動であり、互いに結合された2つの互いに対向する双極の電極である場合が特に有利である。この場合、組織を流れる電流は局所的に制限される。
【0029】
制御器は、流体ポンプの動作と発生器の動作を整合する。これは、たとえば、制御器が流体ポンプの動作を、十分な量の冷却流体が、発生器により生じる凝固効果により形成される水蒸気の凝縮を生じさせるように常に供給されるように制御するものと理解される。これらの手段により、組織の熱損傷は防がれる。かかる制御器は、たとえば、供給されたおよび/または放散されたおよび/または体内に存在する流体および/または融合した組織の温度をモニタするための1つまたは複数の温度センサに接続されている。これにより、制御器は、供給される流体の量が、水蒸気に起因して存在するエネルギーを吸収および放散するのにもはや十分でないときを知ることができる。
【0030】
好ましい実施形態では、制御器は、パルス化高周波電流を生成するように発生器を制御するよう構成されている。これにより、以下に詳細に説明するように、冷却効果は大きく改善される。
【0031】
パルス化高周波電流は、冷却流体によって凝固されるべき組織に供給される対流冷却との組み合わせで、一時に発生する水蒸気の量の大きな減少をもたらす。常に対流冷却されることにより、組織は、熱により生じうる最短のストレスの後で、再び冷却可能である。さらに、周囲の組織は、冷却流体により冷却される。これにより、組織の温度は、パルス毎に過度に上昇しない。この効果を担保するため、冷却流体の供給が凝固電流の印加の前に行われることが有利である。
【0032】
パルス状印加において、最短のパルス内で、組織の流体の僅かな量のみが凝固される領域で蒸発することが好ましい。換言すれば、組織の流体を、一度にではなく、少量ずつ蒸発させる。その量は、全ての水分が一度に蒸発する場合の熱エネルギーよりも顕著に低い熱エネルギーを有する。冷却流体の温度および周囲組織の温度は、より大きい量の場合よりも、過度に上昇しない。好ましくは、パルスは、組織内に、(融合に十分な)蒸発に必要な沸騰温度に短時間のみ温度を上昇可能とするちょうど十分な量のエネルギーを組織に放出する。
【0033】
対流のような熱伝導の影響は、また、電極の端部領域における熱損傷を生じるため、沸騰温度にできるだけ早く達することが望ましい。すなわち、温度上昇のエッジはできるだけ急峻であるべきである。しかし、組織の抵抗は、組織内の所望の温度に達したときに顕著にかつ急速に上昇するため、この高エネルギーはたとえば非常に短い時間のみ維持される。というのも、そうでなければ、出力電圧の急速な上昇のために、電極間にアークが発生しうるからである。これにより、電極間の組織は、破壊されて、炭化される。
【0034】
高周波電流のパルス化放出の制御器をできるだけ有効に構成するため、種々の制御技術を用いることができる。
【0035】
可能な制御アルゴリズムは、抵抗制御式および電圧制御式の印加として設計される。これにより、発生器により提供される出力電圧を調整することにより、放出されるエネルギーを一定に維持するよう基本的に試みられる。すなわち、印加される電圧は、組織の抵抗に依存する。組織の流体の液相と気相の間の転移の間、この組織の抵抗の急速な上昇が生じ、これにより、出力電圧がこれに応じて上昇する。実際に組織の流体を蒸発させるが、電圧をさほど上昇させない量のエネルギーのみをパルス毎に放出するため、抵抗制御されたパルス長が有利である。予め定めた抵抗しきい値を超えると、パルスは自動的に停止される。組織の脱水とともに、組織の抵抗はパルス毎に上昇し、かつ、融合の際に最大脱水レベルに達するべきであるため、抵抗しきい値を各パルスとともにしだいに上昇させることが有利である。ここで、パルス長は、パルス毎に次第に長くなる。スイッチオフしきい値のレベルは、非常に多種のパラメタに依存し、印加に応じて個別に構成可能である。確実に休止期間が再び周囲の組織を冷却するために十分であるように、時間制御によってパルス間の時間間隔を実現することが有利である。
【0036】
このような制御において、抵抗しきい値によりパルス長を制限することがさらに有利である。組織の脱水によって、抵抗はパルス毎に増大し、抵抗は、パルス中、および、パルス間隔すなわちパルスの間においても測定されても良い。組織の流体の蒸発によるパルス中の抵抗の増大は、短時間のみである。というのも、蒸気の一部は、加熱された体積から圧縮されずに、すぐに組織内で再度凝縮するからである。しかし、これに対して、パルス間の抵抗は、長期に維持される脱水状態の程度を表している。組織の融合において特に長い割合が重要であるため、パルス休止における抵抗に関する抵抗しきい値に達した後に、印加を停止することが有利である。
【0037】
温度制御式かつ電圧制御式の印加が、抵抗制御式かつ電圧制御式の印加の代替である。これによれば、温度しきい値の到達は、電極に統合された少なくとも1つの熱センサによる組織温度の連続的な測定により検出される。組織の温度が所定の温度限度値、例えば、100℃に達すると、パルスは自動的に停止される。温度がより低い温度しきい値(たとえば30℃)以下に再度降下すると、パルスは再開される。パルス毎に増大する組織抵抗によって、パルス電力は電圧しきい値のために低下する。これにより、組織を温度の上限まで加熱するのに必要な時間の長さは長くなる。結果的に、パルスは典型的には経時的により長い時間となる。
【0038】
記載した温度制御式かつ電圧制御式の印加は、発生器のパルスの長さおよび休止の長さ(すなわちエネルギー放出の長さも)が自動的に組織の種類、および、たとえば使用する器具に依存した他のパラメタに対して調整されるという利点を有する。これにより、異なる印加においても、電極間の同じ組織の温度が生成可能である。しかしまた、この場合、印加の全体持続時間を、抵抗しきい値によって制限することが有利である。これは、抵抗制御式かつ電圧制御式の印加に関して上述したように実施される。
【0039】
好ましい実施形態では、本発明の第2の態様の電気手術装置は、冷却流体を吸引により回収可能な吸引ポンプをさらに備える。これにより、電極近傍における、すなわち典型的には組織における、したがって患者の体内における冷却流体の放出だけでなく、この領域からの吸引によるその回収も可能となる。患者体内への冷却流体の蓄積および制御されない分布は、したがって避けることができる。
【0040】
吸引ポンプは、種々の共通モードにおいて、たとえば、ピストンポンプ、遠心ポンプまたは膜ポンプの形態で構成可能である。蠕動ポンプが好ましい。
【0041】
一方で、吸引ポンプは、吸引により回収した冷却流体を循環して再導入し、流体ポンプから流体出口に戻すよう導くことができる。換言すれば、かかる実施形態では、吸引により回収された冷却流体は、再使用可能である。好ましくは、かかる場合、吸引により回収された冷却流体は、再循環の前に、精製され(たとえばフィルタにより行われる)、および/または、冷却される(たとえば冷却装置によって行われる)。かかる場合、冷却ポンプは、吸引ポンプと同時に動作し、たとえば、循環路内で実際にただ1つのポンプが設けられる。
【0042】
代替的に、吸引により回収される冷却流体は、貯蔵システムまたは廃棄システム、たとえばタンクまたは廃棄管に供給されてもよい。かかる場合、これは再使用されない。
【0043】
吸引により冷却流体を回収するため、吸引口を有する個別の管が設けられ、この管は、電気手術器具とは独立に患者体内に挿入可能である。これにより、吸引による冷却流体の回収を柔軟に行うことができ、すなわち、管は体内位置に正確に配置可能であり、そこで冷却流体は回収される。
【0044】
しかし、代替的に、電気手術器具は、把持面の外方の近傍で吸引により冷却流体を回収するための吸引口を有してよい。この吸引口は、その後、吸引ポンプに接続されている。これにより、吸引ポンプは、電極の所定位置にある吸引口を介して冷却流体を回収する。これにより、電極に沿った所定の流体チャネルが提供可能である。
【0045】
好ましい実施形態では、電気手術装置は、流体ポンプが動作時に1℃〜6℃、好ましくは1℃〜3℃の冷却流体を供給するように構成されている。実際に、この値域が特に有利であることがわかっている。かかる温度は、たとえば、電気手術装置がさらに、ペルチェ素子またはコンプレッサ式冷却ユニットをたとえば有する冷却ユニットを有する場合に実現可能である。しかし、熱遮断のために、冷却ユニットはまた、たとえば建物内に設置された外部冷却循環路に接続されても良い。あるいは、1℃〜6℃、特に3℃での流体の供給は、冷却流体が各温度ですでに供給されることにおいて実現されてもよい。このために、冷却流体を含む容器がたとえば、冷蔵器内に貯蔵され、使用直前にのみ取り出されても良い。
【0046】
第3の態様では、本発明は、電気手術装置の動作方法に関する。本方法は、以下のステップを含む:
電気手術器具の把持面の少なくとも1つの電極に交流電圧を印加するステップ、
交流電圧の印加と整合して、電極の直近に冷却流体を供給するステップ。
【0047】
本発明の第3の態様にかかる方法は、組織を融合すべき場合に有利である。冷却流体の電極の直近への整合された供給によって、組織の熱損傷は防がれる。
【0048】
本発明の第3の態様にかかる方法は、好ましくは、本発明の第2の態様にかかる電気手術装置を用いて行われる。それは、本発明の第1の態様にかかる電気手術器具を用いてのみ実行されても良い。本明細書に記載された種々の実施形態および利点は、同様に、本発明の第3の態様にかかる方法にあてはまる。特に、冷却流体は、好ましくは、水蒸気が大部分実質的に完全に凝縮し、これにより生じる冷却流体の加熱が許容値を超えないような量で供給される。さらに、上記で詳述したように、冷却流体は、1℃〜6℃、好ましくは1℃〜3℃の温度で供給され、交流電圧がパルス化モードで供給されることがさらに好ましい。
【0049】
しかし、処理は、本発明の第2の態様にかかる電気手術装置を用いずに行われても良い。特に、共通の電気手術器具が用いられ、それとは独立に、流体チャネルに沿った凝固すべき組織部分の洗い流しが行われる。これは、たとえば、冷却流体がポンプおよび管によって凝固すべき組織部分の近傍にポンプ輸送され、別のポンプおよび別の管によって吸引により再度回収されるように、行われる。
【0050】
特に好ましくは、流体の流れは一定であり、これによって、一定した熱遮断が可能となる。
【0051】
好ましくは、非導電性流体が冷却流体として用いられる。これにより、電極間の冷却流体の浸透の際に起こりうる短絡が防がれる。このため、たとえば、電解質を含まない溶液を用いることができる。このようなものは、フレゼニウス・カービAG社(バート・ホンブルク)のPurisole(商標)の商標の下で現在流通している。
【0052】
第4の態様では、本発明は、組織融合の方法に関し、該方法は、以下の工程ステップを含む:
融合地帯において互いに対して融合されるべき組織部分同士を押圧するステップ、
融合地帯における融合されるべき組織部分を加熱するステップ、
冷却流体の供給により融合地帯の近傍の組織を冷却するステップ。
【0053】
本発明の第4の態様では、2つの組織部分が1つの融合段階に互いに融合可能である。これは、これらがその後永続的に互いに接続されることを意味している。本発明の第4の態様による方法は、好ましくは、本発明の第2の態様の電気手術装置を用いて、または、本発明の第1の態様の電気手術器具を用いて行われる。これらに記載の変形例および利点は、同様に、本発明の第4の態様にかかる工程ステップにも当てはまる。特に、本発明の第4の態様にかかる方法は、融合地帯の外側の熱損傷の防止を容易にし、というのも、組織は供給される冷却流体により冷却されるからである。
【0054】
一実施形態では、加熱ステップは、凝固されるべき組織部分に凝固電流を供給することを含む。別の実施形態では、しかし、必ずしも代替的な実施形態ではないが、加熱ステップは、少なくとも1つの加熱ユニットによる、凝固されるべき部分の加熱を含んでもよい。両方の実施形態を組み合わせてもよく、すなわち、組織は、凝固電流および加熱ユニットで同時にまたは交互に加熱されても良い。加熱ユニットによる加熱は、組織の脱水により抵抗がすでに大きく増大している場合に、特に有利である。
【0055】
本発明の別の利点をおよび実施形態は、添付図面を関して記載された以下の実施形態を見るとき、当業者に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本発明の第1の態様の第1の実施形態にかかる電気手術器具を示す。
図2】本発明の第1の態様の第2の実施形態にかかる電気手術器具を示す。
図3】本発明の第1の態様の第3の実施形態にかかる電気手術器具を示す。
図4a】本発明の第1の態様の電気手術器具の概略的な適用を示す。
図4b】本発明の第1の態様の電気手術器具の概略的な適用を示す。
図5】本発明の第2の態様の電気手術装置の一実施形態を示す。
図6】本発明の第3の態様の電気手術装置の動作方法のフロー図を示す。
図7】本発明の第3の態様の組織融合の方法のフロー図を示す。
図8】連続的な組織の脱水に伴う、エネルギー供給と組織抵抗の特性を示す。
図9】パルス化されたエネルギー供給による組織の脱水を伴う、エネルギー供給と組織抵抗の特性を示す。
図10】パルス化されたエネルギー供給に伴う温度特性を示す。
図11】短高周波パルスの印加に伴う、組織内の所望の温度特性を示す。
図12】抵抗制御式パルス/停止印加に伴う、供給エネルギーと組織抵抗の特性を示す。
図13】温度制御式パルス/停止印加に伴う、供給エネルギーと組織抵抗の特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図1は、本発明の第1の態様における電気手術装置10の第1の実施形態を示す。電気手術装置10は、第1のブランチ20および第2のブランチ30を有する。2つのブランチ20、30は、ヒンジ40によって互いに回転可能に接続されており、これらはともにプライヤ状の把持動作を行うことができる。ヒンジ40を介して、これらは電気手術装置10の把柄部50にも接続され、ここにおいて、電気手術器具は支持または搭載可能である。
【0058】
第1のブランチ20の上には、第2のブランチ30に向いた電極25が設けられている。電極25は、周囲領域24から突き出ており、これにより、高い面を有する把持面を形成している。動作時の電気手術器具10の発生器への接続を容易にするため、電極25は電気手術器具10から出る接続配線路27に接続されている。
【0059】
第2のブランチ30には、第1のブランチ20に向いた電極が同様に設けられているが、図1の記載においては見えない。この付加的な電極は接続配線路28に接続されており、これにより、付加的な電極は発生器にも接続されている。
【0060】
周囲領域24には、電極25の側方に、流体出口100、101、102、103、104、110、111、112、113、114が設けられている。流体出口はここでは2列で設けられており、各列は電極25の長手方向に沿って設けられている。流体出口100、101、102、103、104、110、111、112、113、114によって、冷却流体は電極の側方に供給可能である。
【0061】
流体出口100、101、102、103、104、110、111、112、113、114は、流体供給ライン105に接続されており、流体供給ライン105は電気手術器具10から出ている。たとえば、流体供給ライン105が流体ポンプに接続されたときに、流体供給ライン105を介して、流体出口100、101、102、103、104、110、111、112、113、114に冷却流体が供給される。このような実施形態は、図5を参照して記載されている。
【0062】
さらに、吸引開口120、121、122、123、124は、第1のブランチ20において側方に構成されている。このために、図1に示されていない反対側において、吸引開口が同様に鏡対象に設けられているが、この記載では見えない。吸引開口120、121、122、123、124は、流体排出チャネル125に接続されている。この流体排出チャネル125には、例えば吸引ポンプが、流体排出チャネル125内に負圧を与えるために接続されている。これにより、流体出口100、101、102、103、104、110、111、112、113、114から放出される流体は再度吸引により回収される。上述の図1に記載されていない開口が、さらに、流体排出チャネル125に接続されても良い。
【0063】
第2のブランチ30は第1のブランチ20と同様に構成可能である。このような修正が以下に記載の図4aの適用例において示されている。
【0064】
図2は、本発明の第1の態様の電気手術器具10の第2の実施形態を示す。同じ機能を有する構成要素は、図1と同じ参照番号で示されており、以下では再度言及しない。
【0065】
図2の電気手術器具10は、図1のものとは以下で異なっている、すなわち、複数の流体出口および複数の吸引開口の各列が配置される代わりに、1つの第1の流体出口130および1つの第2の流体出口131ならびに1つの第1の吸引開口および1つの第2の吸引開口133が設けられている。流体出口130、131は、流体供給ライン105に接続されている。また、吸引開口132、133は流体出口125に接続されている。
【0066】
流体出口130、131は、電極の長手方向の端部に設けられており、すなわち、ここでは、ヒンジ40により近い長手方向端部に設けられており、一方で、吸引開口132、133は電極25の反対側の長手方向端部に設けられている。このような配置により、流体の流れは、電極の長手方向に沿って、電極の両側に延在することが達成可能である。すなわち、図2の電気手術器具10の流体流は、図1の電気手術器具10の流体流とはちょうど垂直である。電極の長手方向に沿って延びる流体流によって、電極の大部分の完全な洗い流しが実現可能であり、この際、生じる水蒸気は、特に冷却流体によく吸収される。
【0067】
図3は、本発明の第1の態様の電気手術器具10の第3の実施形態を示す。図1および図2に示される電気手術器具とは異なり、電気手術器具は、ヒンジ40に直接隣接した流体出口140を有する。すなわち、流体出口140は、電極に直接隣接しておらず、動作中により広い流体流を生じさせる。
【0068】
吸引開口145は、ヒンジ40の反対側に位置する第1のブランチ20の端部に配置されている。これにより、流体流は、電気手術器具10に沿った長手方向においてより多い量、より長い距離で導かれることができる。
【0069】
流体出口140は、流体供給ライン105に接続され、そして吸引開口145は流体排出チャネル125に接続されている。図3の電気手術器具10の場合においても、この図中に記載されていない第1のブランチ20の側には、流体出口および吸引開口が鏡対象に配置されているが、図3では見えない。
【0070】
図4aは、図1の電気手術器具10の可能な適用例を示す。これによれば、第1のブランチ20は、中空の管状組織部分200、たとえば腸組織内に挿入されており、第2のブランチ30も同様に中空の管状組織部分200a内に挿入されている。2つの組織部分200、200aは、組織部分210に沿って融合される。
【0071】
図1の実施形態とは少し異なり、図4aでは、電極25aおよび流体出口100a、110aおよび吸引開口120a、115aが第1のブランチ20だけでなく第2のブランチ40においても示されている。その配置および機能は、図1の実施形態の記載から直接すでに明らかである。
【0072】
組織部分210は、2つの電極25、25aの間で融合される。同時に、図示の流体出口100、110、100aおよび110aと、図示の吸引開口120、115、120a、115aとの間で、電極25、25の長手方向に垂直に延びる流体流がトリガ可能である。この流体流は、組織の融合の際に形成される放出水蒸気を、水蒸気を凝縮し、冷却し回収するヒートシンクを設けることにより、直接無害化できる。融合されるべき領域の外側の組織の損傷は、これにより防ぐことができる。
【0073】
さらに、図4aのブランチ20、30は、それぞれ、それぞれ組織とは反対側の電極25、25aの下に設けられた加熱ユニット26、26aを有する。
【0074】
図4bは、図4aの適用例とは少し異なっている。図4aとの違いとして、ブランチ20、30に吸引開口および加熱ユニットは設けられていない。したがって、流体出口100、110、110aから放出される冷却流体は、電気手術器具の周囲に供給されない。この場合、冷却流体は蓄積されるか、または、たとえば、個別の管により除去される。
【0075】
図5は、本発明の第2の態様にかかる電気手術器具300の実施形態を示す。
【0076】
電気手術装置300は、図1〜3を参照してすでに記載した電気手術器具10を有する。したがって、以下では、電気手術器具10についてより詳細にさらに記載しない。
【0077】
電気手術装置300は、供給装置310をさらに有する。供給装置310は、発生器320と、流体ポンプ330と、冷却ユニット332と、流体タンク340と、吸引管335と、吸引ポンプ350と、引出管355と、流体廃棄容器360とを有する。供給装置310は、さらに、供給装置310の構成要素を制御可能な制御器370を有する。
【0078】
高周波発生器320は、接続配線路27、28によって電気手術器具10の電極に接続されている。したがって、高周波発生器320は、融合処理のような、電気手術動作を開始するために、電流および電圧を電極に供給しうる。
【0079】
流体ポンプ330は、流体タンクに入る吸引管335に接続されている。これにより、流体ポンプ330は、流体タンク340から冷却流体を吸引可能である。さらに、流体ポンプ330は、冷却流体を1℃〜3℃に冷却する冷却ユニット332に接続されている。冷却ユニット332は、また、電気手術器具10の流体供給ライン105に接続されており、流体ポンプ330は所望の温度で流体タンク340から冷却流体を、電気手術器具10の流体出口(ここでは再度図示せず)に供給する。
【0080】
吸引ポンプ350は、電気手術器具10の流体排出チャネル125に接続されており、ここで、吸引ポンプは電気手術器具10の吸引開口から流体を吸引できる。このために、吸引ポンプ350は、流体排出チャネル125内に負圧を形成する。さらに、吸引ポンプ350は、引出管355に接続されており、引出管は、流体廃棄容器360に開放されている。これにより、吸引ポンプ350は、電気手術器具10から吸引した流体を、流体廃棄容器360に導き、ここで、流体はその後の廃棄のために保存される。
【0081】
制御器370は、高周波発生器320および流体ポンプ330、冷却ユニット332、および吸引ポンプ350を制御できる。高周波発生器のエネルギーにより、制御器370は、周囲の組織の損傷が防がれるように、融合中に形成される水蒸気を無害化するために必要な冷却流体の量を計算する。制御器370は、流体ポンプ330、冷却ユニット332および吸引ポンプ350を適合的に制御する。
【0082】
制御器370は、パルス化されたやり方でエネルギーを放出するように、高周波発生器320を制御する。このために、制御器は、上述のパルス−休止印加の方法を用いる。
【0083】
制御器370は、高周波発生器に組み込まれていても良い。
【0084】
図6は、本発明の第3の態様における電気手術装置の動作方法の実施形態のフロー図を示す。これによれば、ステップ6.1において、最初に交流電圧が電気手術装置の2つの電極に印加される。
【0085】
その後、ステップ6.2において、冷却流体が供給され、この際、冷却流体の供給は交流電圧と整合される。これは、冷却流体が交流電圧によりトリガされる融合の間に形成される水蒸気を最大限完全に無害化でき、それがもはや周囲組織の熱損傷を引き起こさないような量および/または温度で供給されることを意味する。
【0086】
図7は、本発明の第4の実施形態の組織融合の方法の実施形態のフロー図である。これによれば、ステップ7.1において、最初に、融合されるべき組織部分同士が共に押圧される。次いで、ステップ7.2において、組織部分は凝固電流によって加熱される。これは、組織が電気手術器具の2つの電極の間に配置され、凝固電流を誘導する交流電圧がこれらの電極に印加されるように行われる。さらに、加熱が加熱ユニットによって行われても良い。
【0087】
最後に、ステップ7.3において、冷却流体が、供給が交流電圧の印加と整合されるように供給される。これは、冷却流体が、融合の間に形成される水蒸気ができるだけ完全であるような量および温度で供給されることを意味する。これにより、周囲組織の損傷は防がれる。
【0088】
図8は、高周波電圧が連続的に印加された時に生じるときの、組織の連続的な脱水に伴う、エネルギーおよび組織抵抗の特性を示す。これにより、高周波電圧の一定のRMSが合計される。図示の図の水平軸は時間を表し、したがって、tで示されている。同じことが以下の図9〜13にも当てはまる。
【0089】
曲線500は、組織抵抗の特性を示す。組織抵抗が組織の脱水の増加とともに上昇していることは明らかである。これは、組織を通じた導電性は主として電解的導電性により生じるからであり、導電性は水分含量の減少とともに次第に低下する。抵抗の増大に伴い、曲線550に示されているエネルギー出力は低下する。これは、一定電圧ではエネルギー出力は抵抗に逆比例するという、既知の物理法則によるものである。
【0090】
処理前の状態での組織部分600および処理後の組織部分700が概略的に示されている。処理後の組織部分700は、処理前の組織部分600に比べて、格段に低い水分含量を有している。
【0091】
なお、図8に示される高周波電圧の連続的な印加は、多くの適用の場合については有利ではない。
【0092】
図9は、高周波電圧のパルス印加に伴うエネルギー出力および組織抵抗の特性を示す。これによれば、組織抵抗は曲線500で示され、エネルギーは曲線550で示されている。
【0093】
図示のように、エネルギー550は、短パルスでのみ供給される。これは、各高周波電圧が短パルス内でのみ供給される際に生じる。パルスはたとえば50msの長さであり、500msのパルス間休止を有する。エネルギー出力の曲線550の急峻なエッジにより沸騰温度に急速に達している。沸騰温度に達すると、しかし、組織抵抗は水の蒸発によって急激に低下する。すなわち、各高エネルギーの出力は、短時間の間のみ可能である。そうでなければ、電極間のアーク生成の危険が生じ、これは組織を破壊し、炭化させる。
【0094】
図示のように、組織抵抗はパルス毎に増大する。エネルギー出力は図8に関してすでに述べた文脈に従ってパルス毎に低下する。これは組織の脱水によるものであり、このことは図9に、組織部分600、610、620、700に基づいて概略的に記載されており、その脱水のレベルは連続的に増大する。これは、組織部分610は第1のパルスの印加後の組織部分600の状態を概略的に示すものと理解されるべきである。参照番号620で示される組織部分は、連続的にパルス化された脱水と共に生じる複数の状態を概略的に示す。したがって、組織部分700は、最大脱水における最終状態を示している。
【0095】
図10は、パルス化された蒸発と冷却に伴う温度曲線560による組織温度の特性を示す。組織部分600、610、620、700が概略的に示す個々の状態は、図9のものと同様に理解され、図10中においてはさらに、各エネルギー印加は、矢印Q1、Q2、Qnにより象徴化されており、水分の各蒸発は、鋸歯状のシンボルで示されている。
【0096】
この温度特性において、エネルギーの印加と冷却との間の相関が示されている。エネルギーの各印加は、矢印570で示されており、すなわち、エネルギーの減少は矢印580で示されている。各処理は適合的に継続する。
【0097】
明らかに、温度は、エネルギー570の印加の間に上昇し、換言すれば、温度は1パルス内の高周波電圧の印加の間に上昇する。パルス間の休止の間、温度は低下し、これは冷却エネルギーが放散されるからである。
【0098】
図11は、曲線550に示されるエネルギー出力の特性、および、パルスが印加されたときの曲線560に示される温度特性を示す。パルスの開始時では、温度は急峻に上昇し、沸騰温度100℃を超える。その後の水の蒸発と、これによる抵抗の低下によって、温度は、すでに、パルスの終わりの後に再度大きく減少するために、パルスの終わりの前にすでに減少する。すなわち、温度は、沸騰温度より上に短時間だけ維持され、この際、全水分含量の一部のみがパルス毎に蒸発する。上述したように、このことは、水蒸気の排出を容易にする。
【0099】
図12は、抵抗制御式パルス/休止印加の際の、曲線550に示されるエネルギー出力および曲線500に示される対応する組織抵抗の特性を示す。図示のように、エネルギーは個々のパルス内で適用され、この際、電圧は一定に維持される。パルス毎に増大する組織抵抗の上述した効果により、エネルギー出力の絶対値は連続的に低下する。
【0100】
1パルスにおいて、組織抵抗は上述した蒸発効果によって明らかに増大する。このパルスの長さは、しきい値510を超えるまで持続する。次いで、高周波電圧が停止され、次のパルスがオンにされる前に、予め定めた時間維持される。
【0101】
抵抗のしきい値510は、組織の脱水の増大を考慮して、連続的に上昇される。これにより、パルス毎に、それぞれ、より高いしきい値が必要とされ、これは、パルスが停止される前に達しなければならない。すなわち、パルスの長さも経時的に長くなる。
【0102】
図13は、図12と異なり、温度制御式パルス/休止印加に伴う、曲線550に示されるエネルギー出力特性、および、曲線560に示される対応する温度特性を示す。これによれば、温度575を下限として、高周波電圧が常に印加される。その後に印加される高周波電圧により、温度は、それが温度の上限570を超えるまで上昇する。その後、組織の冷却を可能にするために、高周波電圧は再度オフにされる。
【0103】
図示のように、パルスおよび休止の持続時間は、これにより、一定の設定点ではなく、印加の間に動的に決定される。これにより、種々の種類の組織への高周波電圧の良好な適合が可能となる。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13