【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、この目的は測定対象物の寸法特性を特定する方法によって達成され、この方法は、
ワークピース・テーブルと、画像センサ及び撮像光学系を有するカメラとを具えた光学測定機器を用意するステップであって、この撮像光学系が、収差を呈し、かつワークピース・テーブルに対する複数の異なる作動位置に焦点を結ぶように構成されているステップと、
上記複数の異なる作動位置のうちの所定の作動位置について上記収差が最小化されるように選択された第1較正値を用意するステップと、
上記カメラの像面の曲がりを表す第2較正値を用意するステップと、
測定対象物をワークピース・テーブル上に位置決めするステップと、
測定対象物上に第1関心領域を規定するステップと、
第1関心領域に対するカメラの第1作動距離を決定するステップと、
第1作動距離及び第2較正値を用いて、第1関心領域が上記所定の作動位置に来るように、撮像光学系を焦点合わせするステップと、
第1関心領域が上記所定の作動位置にある間に、第1関心領域の画像を記録するステップと、
上記画像に基づいて、かつ上記第1較正値に基づいて、第1関心領域内の測定対象物の寸法特性を表す測定値を定めるステップと
を含む。
【0009】
本発明の他の態様によれば、上記目的は、測定対象物の寸法特性を特定する測定機器によって達成され、この測定機器は、
ワークピース・テーブルと、画像センサ及び撮像光学系を有するカメラであって、この撮像光学系が、収差を呈し、ワークピース・テーブルに対する複数の異なる作動位置に焦点を結ぶように構成されたカメラと、
複数の異なる作動位置のうちの所定の作動位置について上記収差が最小化されるように選択された第1較正値を提供するための第1メモリと、
上記カメラの像面の曲がりを表す第2較正値を提供するための第2メモリと、
測定対象物上に第1関心領域を規定するための評価兼制御装置とを具え、
上記評価兼制御装置は、
a)第1関心領域に対するカメラの第1作動距離を決定し、
b)第1作動距離を用いて、かつ第2較正値を用いて、第1関心領域が上記所定の作動位置に来るように、上記撮像光学系を焦点合わせし、
c)第1関心領域が上記所定の作動位置にある間に、カメラを用いて第1関心領域の画像を記録し、
d)上記画像に基づいて、かつ上記第1較正値に基づいて、第1関心領域内の測定対象物の寸法特性を表す測定値を定める
ように構成されている。
【0010】
上記の新規な方法及び測定機器は、複数の可能な作動位置のうちの所定の作動位置について、上記収差、特に上記撮像光学系の個別の収差が所定の品質基準に従って最小化されるように選択された第1較正値を利用する。換言すれば、上記の新規な方法及び測定機器は、例えば測定対象物についての測定値が補正した画像に基づいて定まる前に、さらにはその後に、計算による上記光学系の収差の補正を可能にする較正を必要とする。特に、第1較正値は、撮像光学系の歪みが、1つの所定の作動距離だけについて、あるいは1つの所定の作動位置について最小化されるように選択する。
【0011】
複数の異なる可能な作動位置のうちの所定の作動位置に対する較正は、最適な作動位置を提供し、即ち最適な測定面を撮像光学系の直前に提供し、この最適な作動位置は、上記の較正及び結果的な補正により、最高の測定精度を有する測定結果を可能にする。1つの所定の作動位置にあるこの測定面は、ある程度まで「最良の測定面」を構成する。しかし、上記複数の可能な作動位置のうちの他の作動位置については、特にこれらの他の作動位置について別個の較正を実行しておらず、その結果、当該作動位置に依存する第1較正値が利用可能でない場合に、測定誤差がより大きくなり得る。
【0012】
この理由で、上記の新規な方法及び測定機器は、第1較正値の提供、あるいは「最良の測定面」の提供に加えて、撮像光学系の選択的な焦点合わせによって、測定対象物上で測定される関心領域(ROI(region of interest)とも称する)が「最良の測定面」のできる限り近くに来るという特徴を含む。像面の曲がりに起因して、正確な焦点位置が第1関心領域の横方向位置に依存し得るので、このことは重要である。一例として、像面の曲がりに起因して、測定対象物の右上隅は撮像光学系の焦点に位置することができるのに対し、同時に、同じ測定対象物の左下隅は最適な焦点外に位置し得る。
【0013】
上記の新規な方法及び測定機器は、特に、最初の焦点合わせステップを計測学的に用いて、測定対象物上の関心領域の局所的焦点を定める思想に基づき、この局所的焦点は像面の曲がりに依存する。換言すれば、この場合の第1関心領域は、最初の焦点測定を用いて、できる限り最適に、(空間的横方向に依存する)撮像光学系の焦点に来る。しかし、その後に、撮像光学系を第1関心領域に対して選択的に再焦点合わせ(リフォーカス)または焦点ぼけ(デフォーカス)させて、第1関心領域を所定の作動位置のできる限り近くにもっていき、この所定の作動位置は、第1較正値及びそれに基づく画像補正に起因して、最良の測定面を表す。従って、第1関心領域は、第1測定面に来るか、少なくとも上記最良の測定面に目標を定めたやり方で、そのできる限り近くに来る。ここで、上記新規な方法及び測定機器は、第1関心領域が、測定画像の記録にとって最適な焦点に位置しないことがあることを許容する。実際の場合に、このことは、測定対象物が横方向に高さの変化がない場合でも、カメラの焦点合わせが、第1関心領域の横方向位置に依存することを意味する。第1関心領域が、例えば測定対象物の右上隅に位置する場合、上記の新規な方法及び測定機器におけるカメラの焦点合わせは、第1関心領域を測定対象物の左下隅であるように選択した場合の焦点合わせとは異なり得る。しかし、両方の場合において、上記較正に基づいて最良である測定面は、測定される関心領域を目標とするやり方でこの関心領域に来る。
【0014】
従って、上記の新規な方法及び測定機器は、関心領域に対する局所的な焦点ぼけを許容して、所定の作動位置についての撮像光学系の較正から得られた最良の測定面のできる限り近くに、さらには最良の測定面に、関心領域をもっていく。
【0015】
測定される関心領域に対する撮像光学系の選択的な「焦点ずらし」は、まさに像面の曲がりを表す、即ち、空間的横方向に依存する撮像光学系の焦点を表す第2較正値を用いて実行する。従って、換言すれば、第2較正値は、関心領域についての最適な焦点位置と上記較正に基づいて最良である測定面との間の、空間的横方向に依存する(光軸に沿った、あるいは焦点方向の)距離を表す。
【0016】
一部の好適例では、第2較正値を、複数のドットを有するドット・マトリクスを記録することによって決定することができ、これらのドットは、マトリクスの様式で1つの所定の作動位置に分布し、この作動位置は上記較正による最良の測定面を表す。ドット・マトリクス内の一部のドットは、記録した画像中に尖鋭に表現することができる、というのは、これらのドットは較正された作動位置で最適に焦点が合っているからである。しかし、他のドットは、像面の曲がりに起因して、より尖鋭でなく、さらには全体的に不尖鋭に撮像することができる。最初は不尖鋭に撮像されたドットをできる限り尖鋭に撮像するために、即ち、これらのドットを空間的横方向に依存する焦点にもっていくためにカメラの作動位置を変更する場合、こうした作動位置の変更は、観測される関心領域にとって最良の測定面からの、最適な焦点位置の空間的横方向に依存する距離を表す。第2較正値中に表現され、上記の新規な方法及び測定装置において、測定画像を記録する前に、較正された最良の測定面内または測定面上に関心領域をできる限り最適に位置決めするために利用される像面の曲がりに相当するものは、まさにこの情報である。
【0017】
第2較正値を記録することは、上記の新規な方法の一部となり得る。しかし、このことは上記の新規な方法の前に行うことができる、というのは、上記の新規な方法及び測定機器に求められるすべてのことが、画像記録の前に上記作動位置を調整するために、最良の測定面からの、最適な焦点の空間的横方向に依存する距離を用いることであるからである。
【0018】
上記の新規な方法及び測定機器は、高度な測定精度での測定対象物の測定を可能にする、というのは、測定対象物上の個別の関心領域が、その横方向位置に応じて、かつカメラの個別の像面の曲がりに応じて、最良の測定面に最適に位置決めされるからである。好適例では、上記の新規な方法及び測定機器が、上記の新規な方法により測定対象物が最適な作動位置に来た後に、測定対象物の1つの画像のみを記録する。従って、上記の新規な方法及び測定機器は比較的迅速な測定を可能にする。画像記録前の、即ち撮像光学系の焦点合わせ前の最終的な作動位置の設定も、既知であるが空間的横方向に依存する焦点位置に基づいて迅速に見出すことができる。
【0019】
さら、上記の新規な方法及び測定機器は、1つだけの所定の作動位置について一組の第1較正値で動作することを可能にする。その結果、上記の新規な方法及び測定機器は、比較的小さい第1較正値の集合を必要とするに過ぎない。
【0020】
最後に、撮像光学系の光学設計を、場合によっては第1較正値を利用して、複数の可能な作動位置のうちの1つに合わせて最適化すれば十分である、というのは、上記の新規な方法及び測定機器は、複数の可能な作動位置にもかかわらず、測定対象物上の関心領域がいずれも最高の測定精度が達成されるように位置決めされることを保証するからである。
【0021】
従って、全体的に、上記の新規な方法及び測定機器は、時間及びコストの意味で効率的な測定を可能にし、高度な測定精度を提供する。上述した目的は完全に達成される。
【0022】
本発明の好適例では、第1較正値が、所定の作動位置における撮像光学系の歪み誤差の補正、特に焦点に依存する歪み誤差の補正をもたらす。
【0023】
歪み誤差は、光学測定機器の測定精度に特に強い悪影響を与える、というのは、歪み誤差は記録された画像中の測定対象物のエッジ位置及び他の特徴に影響し得るからである。従って、較正値を利用した歪み誤差の補正は、高度な測定精度に特に有利に寄与する。ここでは、こうした改良が、上記の新規な方法及び測定機器からの恩恵を特別な度合いで受ける、というのは、歪み誤差の補正及びそのために必要な較正を「最良の測定面」に限定することができるからである。
【0024】
他の改良では、撮像光学系を最初に第1関心領域上に焦点合わせして、上記作動距離を決定する。
【0025】
この改良では、最初の焦点測定を利用して、第1作動距離を瞬時に決定する。その後の撮像光学系の(再)焦点合わせは、第1関心領域が所定の作動位置に来るように、従って目標とする焦点ぼけに相当するように行う。この改良は、特に非常に未知の特性及び/または大きな公差を有する測定対象物の場合に、第1作動距離の非常に単純で正確な決定を可能にする。その代わりに、あるいはこれに加えて、第1作動距離は、CAD(computer aided design:コンピュータ支援設計)データ、及び例えばワークピース・テーブル表面のような基準点または基準面に合わせた測定装置の較正に基づいて決定することもできる。
【0026】
本発明の他の改良では、測定対象物上に第2関心領域を規定し、この第2関心領域は第1関心領域から横方向に間隔をおき、第2較正値を用いて、第1関心領域及び第2関心領域の各々が所定の作動位置(または「最良の測定面」)のできる限り近くに来るように、撮像光学系を焦点合わせする。
【0027】
一部の好適例では、上記最良の測定面を、(焦点方向について、あるいは撮像光学系の光軸に平行に見て)第1関心領域と第2関心領域との間の中央に位置決めすることができる。他の好適例では、重み付けした基準を用いることができ、この基準では、例えば、第1関心領域及び第2関心領域のサイズ、あるいはこれらのサイズ比率を考慮に入れて、最良の測定面をできる限り最適に、2つの関連する関心領域にもっていく。特に好適な例では、測定対象物の1つの画像のみを記録し、補正し、評価し、第1及び第2関心領域についての測定値を、1つの画像に基づいて定める。この改良は、第1及び第2関心領域がある距離だけ互いに間隔をおいている場合、及び/または、これらの領域が1つの画像中に個別の強度な像面の曲がりに起因する尖鋭性の変化を伴って撮像される場合でも、特に高速な測定を高度な測定精度で可能にする。
【0028】
他の改良では、撮像光学系をさらに第2関心領域上に焦点合わせして第2作動距離を決定し、第1作動距離、第2作動距離、及び第2較正値を用いて撮像光学系を焦点合わせして、第1関心領域及び第2関心領域の各々を、上記所定の作動位置のできる限り近くにもっていく。
【0029】
この改良では、第2作動距離を第2関心領域に対して個別に測定し、上記最良の測定面は、第2作動距離に応じて、かつ測定した第1作動距離を考慮に入れて配置する。この構成は、広幅の測定対象物の複数の関心領域にわたって特に高度な測定精度を可能にする。その代わりに、あるいはこれに加えて、原則的に、第1作動距離を測定するか、さもなければ決定した後に、第2作動距離を、例えばCADデータのみに基づいて決定することが考えられる。
【0030】
他の改良では、第1関心領域と第2関心領域とが互いに境界を接して、共通の関心領域のセグメント(区分)を形成する。
【0031】
この改良では、共通の「大きな」関心領域を2つ以上のセグメントに分割して、撮像光学系を個々のセグメントに対してできる限り最適に焦点合わせする。この改良は、大面積の関心領域の、最適な測定精度での測定を可能にする。
【0032】
他の改良では、CADデータ集合を利用可能にし、このCADデータ集合は測定対象物の公称の寸法特性を表し、このCADデータ集合に基づいて第1及び/または第2作動距離を決定する。
【0033】
この改良では、上記の新規な方法及び測定機器が測定対象物の公称データを利用して、上記最良の測定面を第1及び/または第2関心領域に対してできる限り最適に配置する。この改良は、作動距離の個別の測定を省略して測定を加速することを可能にする。しかし、この改良は、第1及び/または第2作動距離の個別の測定と組み合わせても有利であり、というのは、第1及び/または第2作動距離の測定のための探索領域をCADデータに基づいて低減することができるからであり、このことは同様により高速な測定を可能にする。
【0034】
他の改良では、測定対象物上に追加的な関心領域を規定し、第2較正値を用いて追加的な関心領域を所定の作動位置にもって来た後に、測定対象物の追加的な画像を記録する。撮像光学系を再焦点合わせする前に、この追加的な領域上に焦点を合わせることによって、追加的な関心領域までの追加的な作動距離を測定し、この追加的な作動距離を用いて、追加的な関心領域を上記所定の作動位置のできる限り近くにもっていくことが有利である。
【0035】
この改良では、上記追加的な関心領域が、上記最適な測定面の第1及び/または第2関心領域とは(焦点方向に)異なる配置で測定される。この改良は、撮像光学系の追加的な焦点合わせを必要とし、従って、測定時間に関しては不利であるように思われる。しかし、この改良は、互いに横方向に間隔をおいた異なる関心領域の最適な測定を可能にする。
【0036】
他の改良では、第1関心領域の面積の重心を特定して、この面積の重心に対して第1作動距離を決定する。
【0037】
この改良では、撮像光学系の再焦点合わせ、及び結果的な、上記最良の測定面の、第1関心領域への、または第1関心領域内への配置を、この関心領域の面積の重心に対して行う。この改良は、特に大面積の関心領域についての再現可能な測定精度を可能にし、従って有利である。
【0038】
他の改良では、第1較正値がさらに、テレセントリックエラー及び/またはコマ収差を補正するための距離依存性の補正値を含み、第1作動距離及びこの距離依存性の補正値に応じて上記(寸法特性を表す)測定値を定める。
【0039】
この改良では、上記の新規な方法及び測定機器が、撮像光学系の収差を、撮像光学系からの測定される関心領域の距離に応じて個別に補正することによって、さらに増加した測定精度を可能にする。距離依存性の補正は、第1関心領域の既知の空間依存性の焦点位置、及び上記最良の測定面からのこの焦点位置の距離により、比較的容易に可能である。
【0040】
他の改良では、測定対象物の表面トポグラフィー(形状)を、第2較正値に応じて測定する。
【0041】
この改良では、上記の新規な方法及び測定機器が、測定対象物の測定上の特徴の3D(三次元)位置情報を提供し、この情報を有利に用いて、平坦であるが滑らかでない測定対象物を測定することができる。「高さ情報」は、撮像光学系の空間的横方向に依存する焦点を表す第2較正値に基づいて、非常に容易かつ費用効果的に定めることができる。
【0042】
他の改良では、第2較正値を数値表形式で用意し、数値表中の各値は空間依存性の焦点シフトを表す。
【0043】
数値表中の各値が、上記最良の測定面に直交する方向の、横方向位置に応じた距離を表すように、空間依存性の焦点シフトは、上記最良の測定面に有利に関係する。数値表形式での第2較正値の提供は、例えば空間依存性の焦点が、撮像光学系によって記録されるドット・マトリクスに基づいて決定される点で、非常に単純かつ費用効果的である。
【0044】
他の改良では、第2較正値を、特にゼルニケ(Zernike)多項式として知られている空間依存性の多項式の係数の形式で用意する。
【0045】
この改良は、第2較正値の記録中には直接捕捉されない「測定位置」におけるより高度な測定精度を可能にする。さらに、この改良は、撮像光学系が非常に大きな領域を横方向に捕捉する場合に有利である、というのは、この場合、第2較正値を提供するためのメモリ必要量を小さく保つことができるからである。
【0046】
他の改良では、第2較正値が、非点収差から生じる像面の曲がりの、方向依存性の寄与分をさらに含む。
【0047】
この改良では、関心領域内の測定対象物のエッジ位置を有利に考慮に入れる。この改良により、撮像光学系の非点収差の結果として発生し得る測定誤差が非常に効率的に最小化される。
【0048】
上述した特徴、及びこれから以下に説明する特徴は、本発明の範囲から逸脱することなしに、個別に示した組合せだけでなく、他の組合せでも、あるいは単独でも用いることができることは言うまでもない。
【0049】
本発明の好適な実施形態を図面中に例示し、以下の記載では、これらの実施形態をより詳細に説明する。