【実施例】
【0092】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これら実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎなく、本発明の範囲がこれら実施例によって制限されるものと解釈されないことは、当業界で通常の知識を有するた者にとって自明であろう。
【0093】
[細胞培養]
DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)、グルコース、FBSをWelGENE(韓国)から購入し、インスリン及び及び3―isobutyl―1―methylxanthine(IBMX)をWako(日本)から、デキサメタゾン及びOil Red OをSigma―Aldrich(米国)から購入した。3T3―L1前駆脂肪細胞(preadipocyte)を韓国細胞株銀行から購入し、その分化を誘導した。
【0094】
前駆脂肪細胞をグルコース、10%のFBS、1%のペニシリン及びストレプトマイシンが補充された完全培地で37℃、5%のCO
2大気下で培養した。各細胞を週3回継代培養した。
【0095】
脂肪細胞の分化のために、シーディングしてから4日目に各細胞を完全培地、10μg/mLのインスリン、1μMのデキサメタゾン(Dexamethasone)及び0.5mMのIBMXを含有する分化誘導培地で72時間処理した。分化培地を完全培地及び10μg/mLのインスリンを含有する脂肪細胞維持培地に取り替えた。培地は2日ごとに取り替えた。
【0096】
[ペプチド準備]
ローダミンB結合されたATS(CKGGRAKDC)ペプチド、FITC結合されたATS―R9(CKGGRAKDRRRRRRRRRC)及びR9(CRRRRRRRRRC)ペプチドをPeptron(Daejoen、Korea)社から入手した。凍結・乾燥したペプチドを脱イオン水に溶かした後、使用前まで−20℃で保管した。
【0097】
ペプチド分子量は、以下の通りであった:ATS:937、Rhodamine B ATS:1361、ATS―R9:2341、FITC―ATS―R9:2844、R9:1628
【0098】
[Oil Red O染色」
脂肪細胞分化をOil Red O染色で確認した。
【0099】
Oil Red O溶液を準備するために、0.7gのOil Red Oパウダーを200mLのイソプロパノールに溶かして一晩中撹拌した後、0.22μmのシリンジフィルターを介してろ過した。Oil Red O溶液を脱イオン水と6:4の比率で混合してOil Red Oワーキング溶液を製造し、これを0.22μmのシリンジフィルターを介してろ過した。
【0100】
細胞染色のために、各細胞をPBS(Phosphate Buffered Saline)で濯ぎ、3.7%のホルムアルデヒドを含有するPBSで常温で1時間固定させた。固定後、各細胞を60%イソプロパノールで洗浄し、クリーンベンチで乾燥させた。これを完全に乾燥させた後、各細胞をOil Red Oワーキング溶液で染色して15分間培養した。
【0101】
各細胞を脱イオン水で4回洗浄し、イメージを顕微鏡でキャプチャーした。
【0102】
脂肪細胞分化の定量分析のために、100%のイソプロパノールで蓄積されたOil Red Oを細胞から除去し、520nmで吸光度を測定した。
【0103】
[共焦点顕微鏡用サンプル製作]
Cellmask Deep RedをInvitrogenから購入し、DAPI―Fluoromount―GをSouthern Biotechから購入した。3T3―L1前駆脂肪細胞、H9c2及びHEK293細胞を6ウェルプレートに置いたカバースリップ上で成長及び分化させた。
【0104】
シーディングしてから24時間後、各細胞に対してFITC結合ATS―R9(25μg/mL)を処理し、これらを15分〜72時間範囲で時間依存的方式で培養した。
【0105】
培養後、培養培地を取り替え、各細胞をPBSで3回洗浄した後、3.7%のホルムアルデヒドで固定させた。プラズマメンブレインをCellmask Deep Redで染色し、各細胞を再びPBSで洗浄した後、核染色のためにDAPIの存在下でマウンティングさせた。各イメージをCarl Zeiss共焦点顕微鏡でキャプチャーした。
【0106】
[競争分析(competition assay)]
競争分析(competition assay)のために、3T3―L1前駆脂肪細胞と成熟脂肪細胞(10日目)に対して自由ATS(free―ATS)(100μg/mL)を処理した。培養してから6時間後、各細胞をFITC―ATS―R9オリゴ―ペプトプレックスで処理して24時間培養した。H9c2及びHEK293細胞株を対照群として使用した。H9c2及びHEK293細胞に対してFITC結合されたATS―R9(25μg/mL)オリゴ―ペプトプレックスを処理し、これを24時間培養した。
【0107】
[ゲル遅延分析(Gel retardation assay)]
1μgのルシフェラーゼプラスミドDNA(p―β―Luci、Promega(USA)から入手)、脱イオン水及びATS―R9(電荷比率:0.25、0.5、1、3、5、7、及び9)を30分間常温で培養してオリゴペプトプレックス(oligo―peptoplexes)を製作し、0.8%のアガロースゲルで0.5%のTBE緩衝溶液下で25分間電気泳動を行った(100V)。
【0108】
Naked DNAを対照群として使用し、DNA凝縮効率を分枝型PEI(25KDa、Sigma、USA)と比較した。
【0109】
[ゼータポテンシャル及びサイズ測定]
5μgのルシフェラーゼプラスミドDNA(p―β―Luci)、脱イオン水及びATS―R9(電荷比率:0.5、1、3、5、7、及び9)を30分間常温で培養し、オリゴペプトプレックス(oligo―peptoplexes)を製作した。前記オリゴペプトプレックスの平均直径及び表面ゼータポテンシャルは、Zetasizer―Nano ZS(Malvern Instruments、UK)を備えたDLSを使用して測定した。
【0110】
[in vitroトランスフェクション効率]
ルシフェラーゼ分析キットをPromega(USA)から購入し、DCタンパク質分析キット及び小血清アルブミンスタンダードをBio―Rad Laboratories(USA)から購入した。前駆脂肪細胞3T3―L1及び分化した脂肪細胞を24ウェルプレートにシーディングした。
【0111】
電荷比率5でATS―R9及び2μgのルシフェラーゼプラスミドDNAを混合することによって、オリゴ―ペプトプレックスを製作した。R9及びPEIポリプレックスを電荷比率5で対照群として使用した。各細胞は、シーディングしてから24時間後にトランスフェクションした。
【0112】
培養してから72時間後、各細胞をPBSで洗浄し、150μlの1x cell溶解バッファー試薬を20分間処理した。細胞溶解物を擦り落として収得し、これを1.5mLのマイクロチューブに移した後、13,000rpmで3分間遠心分離した。
【0113】
細胞溶解物の蛍光度(luminescence)を20秒integrationで96―ウェルプレート光度計(Berthold Detection Systems、Germany)で測定し、細胞タンパク質のmg当たりのRLU(relative luminescence units)値で表現した。小血清アルブミンスタンダードを使用するDCタンパク質分析キットでタンパク質を決定した。
【0114】
[in vitro細胞毒性分析]
細胞生存能をMTT[3―(4,5―dimethylthiazol―2―yl)―2,5―diphenyltetrazolium bromide]分析法で測定した。
【0115】
3T3―L1分化した各脂肪細胞を24ウェルプレートで培養させ、各脂肪細胞(10日目)を、規定された電荷比率でルシフェラーゼプラスミドDNA、プレーンDMEM、ATS―R9で製作したオリゴ―ペプトプレックスで処理した。PEIポリプレックスを対照群として使用した。
【0116】
トランスフェクションしてから48時間後、50μlのMTT試薬及び500μlの培地を各ウェルに添加し、これを3時間37℃で培養した。前記各培養培地を除去し、500μlのジメチルスルホキシド(DMSO)を各ウェルに添加し、これを常温で20分間培養した。吸光度を570nmで測定した。
【0117】
[マウスモデルでの肥満誘導]
3週齢のC57BL/6JマウスをCentral Lab Animal Inc.(Korea)から購入した。最初の2週間は、50%の正常食餌及び脂肪から60kcal%のローデント食餌(rodent diet)で飼育した。マウスに対する高脂肪食餌比率を漸次増加させ、7週に開始した;前記各マウスを脂肪から60kcal%で高脂肪食餌でのみ飼育した。14週後、各マウスは肥満になった(体重>45g)。
【0118】
[in vivo脂肪標的(fat homing)]
FITC結合されたATS―R9(10mg/mL)及びFITC―R9(10mg/mL)をPBSに希釈し、最終濃度を1.5mg/mLとし、肥満マウスに尾静脈注射で100μlのペプチドを注入した。
【0119】
Cellvizio(Mauna Kea Technologies、France)により、注入した直後、他の器官の血管でペプチド位置化(localization)が観察された。
【0120】
[実施例1]:3T3―L1前駆脂肪細胞の分化
3T3―L1脂肪細胞分化過程を
図2に示した。
【0121】
3T3―L1前駆脂肪細胞を脂肪細胞分化用培地で培養したとき、細胞形態は、徐々に細胞質で示す丸い形状及び大きな脂質ドロップレット(droplet)の脂肪細胞の形態に変化した。前記細胞領域の約90%が脂質ドロップレットで充填された(
図2b)。
【0122】
そして、中性脂質を選択的に染色できるので、脂肪細胞分化を確認するために広く使用されるOil red O染色の結果、細胞培養群集の95%が成熟脂肪細胞に分化することを観察した(
図2c)。高いOil Red O蓄積は、より高い脂肪細胞分化を示す。
【0123】
さらに、定量分析のために、分化した各脂肪細胞を5日〜14日間Oil Red Oで染色した。蓄積されたOil Red Oを溶出させ、これを分光光度計で520nmで定量した。その結果を
図2dに示した。Oil Red O蓄積は、細胞分化時間の経過に伴って増加した。時間依存的方法で増加するOil Red Oの量は、前駆脂肪細胞が時間の経過と共に継続して成熟脂肪細胞に分化していることを意味する。
【0124】
[実施例2]:ATS―R9の脂肪細胞内への内在化能
ATS―R9の細胞内への内在化程度をモニターするために、FITC―標識されたATS―R9(FITC―ATS―R9)で成熟脂肪細胞及び前駆脂肪細胞を処理し、担体の細胞内伝達を確認した。
【0125】
10日目に脂肪細胞に分化した3T3―L1に対してFITC―コンジュゲートされたATS―R9(25μg/mL)を処理し、規定された時間になるまでインキュベートした。プラズマメンブレインをCellmask Deep Redで染色し、核をDAPIでカウンター染色した。ブルーチャンネル(for DAPI)を白色で描写し、ATS―R9の核位置化を示した。イメージを共焦点レーザースキャニング顕微鏡でキャプチャーした。スケールバー(Scale Bar):10μm。
【0126】
その結果、ATS―R9は、3T3―L1脂肪細胞内に非常に速く内在化した。15分及び1時間以内に、それぞれ細胞質及び核内に到逹し、48時間まで強い蛍光信号を維持した。
【0127】
これは、上述したプロヒビチンを通じて脂肪細胞をターゲッティングする能力に起因する。3T3―L1成熟脂肪細胞への内在化(internalization)上で、前記融合ペプチドは核膜を迅速に通過する。すなわち、ATS―R9は、非常に速く各細胞に伝達された。時間の経過に伴うATS―R9の細胞内分布を
図3に示した。
【0128】
成熟脂肪細胞では、ATS―R9は15分以内に細胞質に、1時間以内に核に到逹し、48時間停留状態を維持した。その一方、前駆脂肪細胞では、ATS―R9は24時間後に停留状態を維持し、核への移動は48時間後に観察された。
【0129】
このような成熟脂肪細胞及び前駆脂肪細胞におけるATS―R9吸収パターン及び分配の差は、プロヒビチン水準及び位置の差と関連していることが分かる。
【0130】
[実施例3]:競争分析(Competition assay)
ATS―R9の脂肪細胞ターゲッティングに対するATSの影響を確認するために競争分析を行った。
【0131】
3T3―L1前駆脂肪細胞及び成熟脂肪細胞を10日目にfree―ATSで処理し、6時間受容体を遮断させた。
【0132】
各細胞をfree―ATS存在又は不存在下で培養した。全ての各細胞をFITC―ATS―R9/pLuc複合体で処理した[FITC―ATS―R9/pLuc複合体をオリゴ―ペプトプレックスと称する(オリゴ―ペプチド/DNA複合体)]。
【0133】
このとき、脂肪細胞に対するATS―R9の特異的な結合親和度を確認するために、プラズマメンブレイン上でプロヒビチンを発現しないHEK293及びH9c2細胞を対照群として使用した。各細胞をFITC結合されたATS―R9オリゴ―ペプトプレックスで処理し、これを24時間培養した。
【0134】
その結果を
図4に示した。free―ATS(ATS不存在)の前処理で、ATS―R9オリゴ―ペプトプレックス内在化が抑制された;これは、ATS―R9オリゴ―ペプトプレックスがプロヒビチンを通じて細胞内に内在化することを示唆する。
【0135】
3T3―L1前駆又は成熟脂肪細胞において、free―ATS存在下で培養したグループは、free―ATS不存在下で培養したグループと比較して著しく低い水準のFITC強度を示した(
図4a及び
図4c)。これは、少量のFITC―ATS―R9が細胞膜を透過して細胞内に内在化されるためである。二つのグループ間のFITC強度における差は、free―ATS存在下の前―培養によるプロヒビチンの遮断から起因する。free―ATSと結合するプロヒビチンは、自由にATS―R9/pLucオリゴ―ペプトプレックスと相互作用しないので、結果的にオリゴ―ペプトプレックスの内在化が減少する。類似する結果が前駆脂肪細胞で観察された。しかし、蛍光度強度の差は、成熟脂肪細胞で観察される差より少なかった。このような結果は、成熟脂肪細胞で発見されるプロヒビチン水準と前駆脂肪細胞で発見されるプロヒビチン水準とが異なることから起因する。
【0136】
また、プロヒビチンを発現しないHEK293及びH9c2細胞では、同一量のペプチド及び同一の培養時間で処理した脂肪細胞と比較して、少量のペプチドがHEK293及びH9c2細胞内に位置した(
図4b)。弱いFITC強度が前記各細胞株で観察されたので、非常に少ない量のATS―R9/DNAオリゴ―ペプトプレックスがこれら細胞に内在化されると見なされる。
【0137】
さらに、これら各結果は、ATS―R9が、分化状態とは関係なく各脂肪細胞をターゲッティングし、各脂肪細胞を認知し、プロヒビチン―媒介メカニズムを通じて細胞内に内在化することを示した。すなわち、これら各結果を通じて、ATS―R9の結合親密度は脂肪細胞特異的であるという特性を確認することができた。
【0138】
[実験例1]:分化程度による脂肪細胞ターゲッティング能の確認
脂肪細胞の分化程度によるプロヒビチン発現の位置及び量を確認するために、二つのタイプの脂肪細胞をローダミンB―標識されたATS(RhoB―ATS)で処理した。ATSの高いプロヒビチン結合能力のため、プロヒビチンを確認するための抗体の代わりにATSを使用することができる。
【0139】
該当の実験を通じて、成熟脂肪細胞及び前駆脂肪細胞に存在するATS受容体であるプロヒビチンが分化程度によって異なる様相で分布することが発見された。
【0140】
具体的な結果を
図5に示した。すなわち、分化前の脂肪細胞(前駆脂肪細胞)と分化後の脂肪細胞(肥満脂肪細胞)におけるATSのターゲッティング能を確認することができた。
【0141】
プロヒビチン結合されたATSを免疫沈降分析法によって確認し(
図5a)、3T3―L1前駆脂肪細胞及び成熟脂肪細胞におけるプロヒビチン分布化を染色結果を通じて確認した(それぞれ
図5b及び
図5c)。
図5bを通じて、分化した肥満脂肪細胞にATSが効果的に伝達されることを確認することができ、
図5cを通じて、ATSのリガンドであるプロヒビチンの発現差を確認することができる。
【0142】
このように、プロヒビチンは、成熟脂肪細胞では、原形質膜、細胞質、核で高く発現され、前駆脂肪細胞では、一次的に細胞質で低い発現水準を示した。このようなプロヒビチン分布の差は、成熟脂肪細胞及び前駆脂肪細胞で細胞内ATS―R9伝達及び分布メカニズムが異なることを意味する。
【0143】
したがって、分化前の脂肪細胞では、ATSによる脂肪細胞ターゲッティング効率がそれほど高くないが、分化後の肥満細胞では、ATSによる脂肪細胞ターゲッティング効率が非常に高く示される。
【0144】
[比較例1]:非―肥満(成熟)脂肪細胞及び筋肉細胞におけるプロヒビチン発現確認
本発明の融合オリゴ―ペプトプレックスが肥満脂肪細胞特異的な特性を有していることをより明確に確認するために、非―肥満マウスにおけるプロヒビチン発現様相と、筋肉細胞におけるプロヒビチン発現様相とを比較して分析した。このとき、ウエスタンブロット方法を用いた。そして、その結果を
図6に示した。
【0145】
特に、
図6aから分かるように、非―肥満マウスと肥満マウスにおけるプロヒビチン発現様相でも大きな差を示し、
図6bから分かるように、筋肉細胞におけるプロヒビチン発現様相でも明確に大きな差を示した。すなわち、非―肥満脂肪細胞よりも肥満脂肪細胞でプロヒビチンの発現が増加し、筋肉組織とは異なり、肥満脂肪細胞ではプロヒビチンが細胞膜特異的に発現されることも確認した。そのため、細胞膜におけるプロヒビチン発現が特異的に増加する場合、本発明の脂肪細胞へのターゲッティング効率も共に増加することが分かった。
【0146】
[実施例5]:オリゴ―ペプトプレックスの物理的及び生物的特性
陽イオン性ポリマー/DNA複合体の生化学的特性は、細胞吸収能、カーゴ(cargo)安定性、細胞毒性及びトランス遺伝子発現に影響を及ぼす主要な要素の一つである。ATS―R9のDNA凝縮及び保護能力をゲル遅延分析及びマウス血清における分解(degradation)テストによって試験した。
【0147】
5―1.ゲル遅延分析及び血清保護分析(Serum protection assay)
ATS―R9の凝縮効能を分枝型PEI(25kDa)の場合と比較した。
【0148】
オリゴ―ペプトプレックスをルシフェラーゼプラスミドDNA(p―β―Luci)、脱イオン水及びATS―R9又はPEIで規定された電荷比率で製作し、これを30分間室温で培養した。
【0149】
また、オリゴ―ペプトプレックスを規定された電荷比率で製造し、最終濃度50%(vol/vol)でマウス血清を前記ポリプレックスに添加し、サンプルを37℃で2時間培養した。
【0150】
血清培養後、ポリプレックスからのDNAの脱錯体化(decomplexation)のために、リン酸―緩衝された食塩水(pH7.4、0.5mol/LのNaCl)中のヘパリンを0.01mol/LのEDTA存在下でサンプルに添加し、これを1時間培養した。各サンプルを0.8%のアガロースゲルにローディングした。
【0151】
その結果、ATS―R9及びPEIのいずれにおいても、電荷比率3以上でDNA移動が観察されなかった。これは、DNAの完全な凝縮が起こることを意味する(
図7a)。そして、ATS―R9は、適切な電荷比率で血清で分解からDNAを保護する一方、naked DNAはテスト条件で完全に分解された(
図7b)。
【0152】
言い換えると、ATS―R9は、プラスミドDNAを効率的に凝縮することができ、血清分解から保護される。そして、DNAと複合体の形成後には、陽性に帯電したより小さい複合体を形成し、細胞によって効率的に内在化することができる。
【0153】
5―2.ゼータポテンシャル及びサイズ測定
次に、ATS―R9/DNAオリゴ―ペプトプレックスのゼータポテンシャル及び平均直径をDLS(dynamic light scattering)を用いて測定した。
【0154】
その結果、
図8に示したように、ゼータポテンシャルは、電荷比率3以上で正(positive)の値を示し、平均直径は、電荷比率1以上で200nm未満であった。
【0155】
5―3.細胞生存能分析
また、ATS―R9/DNAオリゴ―ペプトプレックスの毒性を試験した。10日目に脂肪細胞に分化した3T3―L1にオリゴ―ペプトプレックスを形質転換した。48時間後、細胞生存能をMTT分析で測定した(n=6)。
【0156】
その結果、
図9に示したように、分化した各脂肪細胞は、電荷比率9まで90%以上の細胞生存能を示し、これは、毒性PEIと比較して、オリゴ―ペプトプレックスが分化した脂肪細胞に対して非毒性であることを意味する。
【0157】
[実施例6]:トランスフェクション効率
6―1.最適な電荷比率
トランスフェクション効率の最適な電荷比率を検討した。
【0158】
成熟脂肪細胞を分化してから10日目にp―β―Luciで電荷比5でATS―R9、R9及びPEIによってトランスフェクションし、72時間後、ルシフェラーゼ分析キットでルシフェラーゼ遺伝子発現を測定した。
【0159】
その結果、ATS―R9のオリゴ―ペプトプレックスのトランスフェクション効率は、電荷比率5でR9及びPEIと比較して高く表れた(
図10a)。すなわち、ATS―R9は、同一の電荷比率でR9及びPEIと比較して高い形質転換効率を有する。形質転換及び遺伝子発現効率は、脂肪細胞分化時間の経過に伴って増加した。
【0160】
6―2.最適な時期
そして、トランスフェクションの最適時期を調査するために、3T3―L1分化した各脂肪細胞を異なる分化日付にルシフェラーゼプラスミドDNA(p―β―Luci)で電荷比率5でATS―R9及びPEIによってトランスフェクションした。ルシフェラーゼ遺伝子発現は、ルシフェラーゼ分析キットによって72時間後に測定した。
【0161】
その結果、分化してから9日及び10日目により高い遺伝子発現を示し、これは、成熟脂肪細胞のトランスフェクションに適していることを示唆する(
図10b)
【0162】
[実施例7]:インビボ(in vivo)脂肪ターゲッティング(fat homing)実験
食餌誘導肥満(diet―induced obesity、DIO)マウスを用いてin vivo実験を行った。脂肪組織に対するATS―R9のターゲッティングを観察するために、FITC―ATS―R9を肥満マウスに尾静脈を通じて投与した。プローブ基盤の共焦点レーザーエンドマイクロスコピー(pCLE、Cellvizio)を用いて追跡を可視化した。
【0163】
肝、腎臓及び他の脂肪パッド脈管(fat pad vasculature)に対して観察した結果、ATS―R9が脂肪パッド脈管(fat pad vasculature)で凝集された。他の器官では、ATS―R9は血管に沿ってのみ浮遊し、凝集は観察されなかった(
図11)。
【0164】
そして、脂肪パッド脈管でFITC―コンジュゲートされたATS―R9及びR9の脂肪ターゲッティング(Fat homing)を比較した結果、ATS―R9(R9ではない)のみが脂肪パッド脈管で凝集された。すなわち、R9を投与すると、脂肪血管で凝集は観察されなかったが、内皮(endothelium)上の凝集は観察された(
図12)。
【0165】
また、水平に切断した血管の分析のために、脂肪パッドの微細血管イメージをプローブから血管まで固定された距離で収得した。ATS―R9処理は、高く蓄積された蛍光強度を内皮の縁部で生成した一方、R9処理は全体の血管領域にわたって蛍光強度を生成させた(
図13)。すなわち、脂肪パッド微細血管(fat pad microvessel)でFITC―コンジュゲートされたATS―R9及びR9の脂肪ターゲッティングを比較した結果、ATS―R9は脂肪パッド微細血管(fat pad microvessel)で結合するが、R9の場合は結合が観察されなかった。
【0166】
これは、ATS―R9が脂肪血管と結合し、血管の内皮(endothelium)で凝集を形成したためである。その一方、ATS―R9は、肝及び腎臓でATS―R9―内皮相互作用の代表的な結合又は凝集なしで血管に沿って継続して動く。
【0167】
このような結果から分かるように、ATS―R9は、脂肪組織脈管と選択的に結合できるが、血管及び脂肪組織の微細血管のみで凝集され、肝や腎臓などの他の器官では凝集されない。また、脂肪組織におけるATS―R9結合パターンは、通常の単純アルギニン結合構造体と完全に異なっている。
【0168】
[実施例8]:インビボ(in vivo)での遺伝子発現
まず、in vivo上の脂肪組織内にATS―R9が内在化することを確認した。
C57BL/6J肥満マウスに尾静脈を通じてFITC―コンジュゲートされたATS―R9を注入し、Rhodamine―コンジュゲートされたレクチンを注入することによって血管染色を行った。
【0169】
固定された脂肪組織部分を多光子共焦点レーザースキャニング顕微鏡を用いてイメージ化して観察した結果、ATS―R9は、血管を通じて透過し、脂肪細胞内に漸次内在化することを観察した(
図14a)。白色の矢印は、脂肪細胞内に内在化するFITC―ATS―R9を示す(Scale Bar:50μm)。
【0170】
次に、免疫蛍光分析を通じて、脂肪組織内へのFITC―ATS―R9誘導能(ターゲット能、homing)を確認した。
【0171】
FITC―コンジュゲートされたATS―R9を肥満マウスC57BL/6Jに注入し、固定された脂肪組織部分をビオチン―コンジュゲートされた抗―FITC抗体と共に培養した。Cy3―コンジュゲートされたExtrAvidinをその信号増幅に使用した。多光子共焦点レーザースキャニング顕微鏡を用いてイメージ化して観察した結果、
図14bに示したように、脂肪組織内にFITC―ATS―R9が誘導(homing)されることを確認した。
【0172】
最後に、in vivo遺伝子発現を確認するために、Red Fluorescence Protein(RFP)発現プラスミドをFITC―ATS―R9で濃縮し、オリゴ―ペプトプレックスを肥満マウスC57BL/6Jに注入した。何ら処置もしていないマウスを対照群として使用した。多光子共焦点レーザースキャニング顕微鏡を用いてイメージ化して観察した結果、RFP遺伝子発現が明確に確認された(
図14c)。
【0173】
[実施例9]:sh―RNA及びサイレント遺伝子伝達能
本発明のATS―R9がin vitro及びin vivoでsh―RNA伝達と脂肪細胞へのサイレント遺伝子伝達において優れた効果を有するか否かを確認しようとした。
【0174】
まず、2μgのfabp4 sh―RNAを、ATS―R9、PEI及びリポフェクタミンによって3T3―L1成熟脂肪細胞にトランスフェクションさせ、遺伝子サイレンシング効率をRT―PCRで測定した。GAPDHを内生性対照群として使用した。その結果、Fabp4遺伝子サイレンシング効率は70%以上であった(
図15)。
【0175】
9―1.体重減少効果
また、sh―FABP4処理後、体重減少も確認された(
図16)。
【0176】
C57BL/6Jマウスに対しては、8週間、毎週2回ずつ30μgのsh―FABP4をATS―R9と共に処理し、オリゴ―ペプトプレックスを皮下に注射した。sh―Luciを対照群として使用した。
【0177】
その結果、sh―FABP4―ATS―R9オリゴ―ペプトプレックス処理されたグループは、8週後、体重の約20%が減少した。
【0178】
9―2.インスリン及びグルコース耐性(tolerance)テスト
また、インスリン及びグルコース耐性を観察した。
【0179】
8週間、毎週2回でC57BL/6Jマウスに対してsh―FABP4―ATS―R9オリゴ―ペプトプレックスを処理した。オリゴ―ペプトプレックスを皮下投与によって投与した。sh―Luciを対照群として使用した。
【0180】
sh―FABP4―ATS―R9オリゴ―ペプトプレックス処理されたグループが8週後にインスリン及びグルコースに対してさらに敏感になることも確認された(
図17及び
図18)
【0181】
すなわち、本発明のATS―R9がin vitro及びin vivoでsh―RNA伝達と脂肪細胞へのサイレント遺伝子伝達において効果的なだけでなく、肥満及び肥満由来代謝症候群治療用遺伝子を伝達するときに体重を減少させ、さらに、インスリン及びグルコース敏感度を改善させた。
【0182】
[比較例2]:遺伝子伝達能の比較
(1)他の伝達体の脂肪細胞への遺伝子伝達能
PEIとlipofectaminを比較群とし、肥満脂肪細胞への遺伝子luciferase伝達能力を評価し、これを
図19に示した。
【0183】
その結果、他の伝達体であるPEIとlipofectaminに比べて、ATS―R9の場合に肥満脂肪細胞への伝達効能に優れることを確認した。
【0184】
(2)脂肪細胞の分化前の分化後による遺伝子伝達能
脂肪細胞の分化前と分化後の遺伝子伝達効能を比較した結果を
図20に示した。
【0185】
これを通じて、脂肪細胞の分化が進められて肥満脂肪細胞になっていくことによって、本発明のATS―R9の遺伝子伝達効能が増加することを確認することができた。
【0186】
(3)配列特異性による遺伝子伝達能
伝達遺伝子としてluciferaseを使用し、脂肪ターゲッティング配列としてScrambled ATSを使用して肥満脂肪細胞への遺伝子伝達効能を比較した。
その結果、
図21で確認できるように、ATSの配列をスクランブルして伝達した場合、遺伝子伝達能力が確実に低下することを確認することができた。