(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
着用者の甲側の部分を覆うインステップカバー部と、前記インステップカバー部の爪先側の部分に無縫製で接続され、着用者の甲に宛てがわれるタンと、を備えるシューズアッパーにおいて、
前記タンの左側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ左側中間編地部、および前記タンの右側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ右側中間編地部を備え、
前記タンの爪先側の端部の幅よりも履き口側の端部の幅が広く形成され、そのタンの両側縁部が、前記インステップカバー部の厚み方向に重複しており、かつ
前記インステップカバー部、前記タン、および両中間編地部が全て、無縫製で一体に編成されているシューズアッパー。
互いに対向する一側針床および他側針床を備える横編機を用いて、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバー部と、前記インステップカバー部の爪先側の部分に接続され、着用者の甲に宛てがわれるタンと、を無縫製で編成するシューズアッパーの編成方法において、
下記条件A〜Cに従って、前記タン、および前記タンの左側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ左側中間編地部、ならびに前記タンの右側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ右側中間編地部を、前記インステップカバー部と共に無縫製で編成するシューズアッパーの編成方法。
[条件A]…シューズアッパーの甲側から底側に向かって編成する、あるいはシューズアッパーの底側から甲側に向かって編成する。
[条件B]…シューズアッパーを構成する各部を順次編成し、その編成の際、少なくとも前記インステップカバー部の左側部分および右側部分はそれぞれ、前記一側針床および前記他側針床で編成する。
[条件C]…前記タンの爪先側の端部の幅よりも履き口側の端部の幅を広くする。
互いに対向する一側針床および他側針床を備える横編機を用いて、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバー部と、前記インステップカバー部の爪先側の部分に接続され、着用者の甲に宛てがわれるタンと、を無縫製で編成するシューズアッパーの編成方法において、
下記条件D〜Fに従って、前記タン、および前記タンの左側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ左側中間編地部、ならびに前記タンの右側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ右側中間編地部を、前記インステップカバー部と共に無縫製で編成するシューズアッパーの編成方法。
[条件D]…シューズアッパーの踵側から爪先側に向かって編成する、あるいはシューズアッパーの爪先側から踵側に向かって編成する。
[条件E]…シューズアッパーを構成する各部の左側部分を前記一側針床で針床の長手方向に重複することなく並べた状態で編成すると共に、前記各部の右側部分を前記他側針床で針床の長手方向に重複することなく並べた状態で編成する。
[条件F]…前記タンの爪先側の端部の幅よりも履き口側の端部の幅を広くする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の編成方法では、一つの針床上でインステップカバー部の左側部分と右側部分、およびタンを編幅方向に並べた状態で編成している(特許文献1の
図36A〜
図36Gなどを参照)。そして、目移しなどを利用して、タンの両側縁部をインステップカバー部の左側部分と右側部分の厚み方向に重複させ、タンとインステップカバー部とを接続している。しかし、タンとインステップカバー部とを重複させる必要から、それぞれを同時に編成することができない。
【0006】
また、特許文献1の編成方法では、インステップカバー部の踵側の部分が繋がっていないため、インステップカバー部の左側部分と右側部分の踵側部分を縫製にて接続しなければならない。この縫製作業は非常に煩雑で、シューズアッパーの生産性を低下させる要因となっている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的の一つは、インステップカバー部の厚み方向に重複するタンを簡単に編成することができ、生産性に優れるシューズアッパー、およびその編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバー部と、前記インステップカバー部の爪先側の部分に無縫製で接続され、着用者の甲に宛てがわれるタンと、を備えるシューズアッパーに係る。本発明のシューズアッパーは、前記タンの左側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ左側中間編地部、および前記タンの右側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ右側中間編地部を備える。この本発明のシューズアッパーでは、前記タンの爪先側の端部の幅よりも履き口側の端部の幅が広く形成され、そのタンの両側縁部が、前記インステップカバー部の厚み方向に重複しており、かつ前記インステップカバー部、前記タン、および両中間編地部が全て、無縫製で一体に編成されている。
【0009】
本発明のシューズアッパーとして、前記左側中間編地部と前記右側中間編地部が、インステップカバー部の内側に折り込まれている形態を挙げることができる。
【0010】
本発明のシューズアッパーとして、前記左側中間編地部と前記右側中間編地部が、弾性編糸で編成されている形態を挙げることができる。
【0011】
本発明のシューズアッパーとして、前記インステップカバー部は、靴紐を通す複数の第一鳩目孔を備え、前記左側中間編地部と前記右側中間編地部は、前記靴紐を通す複数の第二鳩目孔を備え、前記第二鳩目孔は、前記左側中間編地部と前記右側中間編地部を前記インステップカバー部の内側に折り込んだときに、前記第一鳩目孔に重なる位置に設けられている形態を挙げることができる。
【0012】
また、本発明は、互いに対向する一側針床および他側針床を備える横編機を用いて、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバー部と、前記インステップカバー部の爪先側の部分に接続され、着用者の甲に宛てがわれるタンと、を無縫製で編成するシューズアッパーの編成方法に係る。本発明のシューズアッパーの編成方法は、以下に示す第一のシューズアッパーの編成方法と第二のシューズアッパーの編成方法とに分けることができる。
【0013】
第一のシューズアッパーの編成方法は、下記条件A〜Cに従って、前記タン、および前記タンの左側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ左側中間編地部、ならびに前記タンの右側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ右側中間編地部を、前記インステップカバー部と共に無縫製で編成するシューズアッパーの編成方法である。
[条件A]…シューズアッパーの甲側から底側に向かって編成する、あるいはシューズアッパーの底側から甲側に向かって編成する。
[条件B]…シューズアッパーを構成する各部を順次編成し、その編成の際、少なくとも前記インステップカバー部の左側部分および右側部分はそれぞれ、前記一側針床および前記他側針床で編成する。
[条件C]…前記タンの爪先側の端部の幅よりも履き口側の端部の幅を広くする。
【0014】
第二のシューズアッパーの編成方法は、下記条件D〜Fに従って、前記タン、および前記タンの左側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ左側中間編地部、ならびに前記タンの右側縁部と前記インステップカバー部とを繋ぐ右側中間編地部を、前記インステップカバー部と共に無縫製で編成するシューズアッパーの編成方法である。
[条件D]…シューズアッパーの踵側から爪先側に向かって編成する、あるいはシューズアッパーの爪先側から踵側に向かって編成する。
[条件E]…シューズアッパーを構成する各部の左側部分を前記一側針床で針床の長手方向に重複することなく並べた状態で編成すると共に、上記各部の右側部分を前記他側針床で針床の長手方向に重複することなく並べた状態で編成する。
[条件F]…前記タンの爪先側の端部の幅よりも履き口側の端部の幅を広くする。
【0015】
なお、上記条件BおよびEにおいて、一側針床で編成する左側部分に、表目と裏目が混在した編組織(例えば、リブ組織)を形成する場合、一時的に左側部分の一部が他側針床に移された状態で編成されることは許容される。同様に、他側針床で編成する右側部分に混在組織を形成する場合、一時的に右側部分の一部が一側針床に移された状態で編成されることは許容される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシューズアッパーは、インステップカバー部の厚み方向に重複するタンを簡単に編成することができ、インステップカバー部に予めタンが一体に編成されているため、生産性に優れる。また、本発明のシューズアッパーは、無縫製で立体的に編成されているため、縫製などのシューズアッパーを立体的にするための後工程が不要である。
【0017】
左側中間編地部と右側中間編地部をインステップカバー部の内側に折り込むことで、両中間編地部が折り込まれて二重になった部分が補強されたシューズアッパーとすることができる。
【0018】
両中間編地部を弾性編糸で編成することで、優れた伸縮性を有する中間編地部を形成することができるため、着用し易く、かつフィット性に優れたシューズアッパーとすることができる。
【0019】
一方、本発明のシューズアッパーの編成方法によれば、上記本発明のシューズアッパーを、複雑な編成動作を用いることなく、インステップカバー部の厚み方向に重複するタンを容易に製造することができる。また、本発明のシューズアッパーの編成方法によれば、立体的なシューズアッパーを編成することができるので、縫製などのシューズアッパーを立体的にするための後工程が不要となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のシューズアッパー、およびその編成方法の実施形態を図に基づいて説明する。実施形態では、少なくとも前後に対向する一側針床と他側針床を備え、これらの針床間で編目の目移しが可能な2枚ベッド横編機を用いた。もちろん、使用する横編機は、2枚ベッド横編機に限定されるわけではなく、例えば4枚ベッド横編機であっても良い。
【0022】
<実施形態1>
≪シューズアッパーの構成≫
図1〜
図3に示すシューズアッパー1は、着用者の足裏の部分を覆うソールカバー部2と、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバー部3と、インステップカバー部3の爪先側の部分に無縫製で接続され、着用者の甲に宛てがわれるタン4と、を備える。タン4に臨むインステップカバー部3の縁には靴紐6が取り付けられている。シューズアッパー1はさらに、ソールカバー部2の外側に図示しないアウターソールを備えていても良い。この実施形態のシューズアッパー1の主たる特徴は次の通りである。
【0023】
[1]タン4の左側縁部とインステップカバー部3とを繋ぐ左側中間編地部5L(特に
図2(A)参照)と、タン4の右側縁部とインステップカバー部3とを繋ぐ右側中間編地部5R(特に
図3(A)参照)と、を備えている。中間編地部5(5L,5R)は、従来のシューズアッパーには備わっていない構成である。本実施形態では、インステップカバー部3と中間編地部5との境界を山折り、中間編地部5とタン4との境界を谷折りすることで、中間編地部5をインステップカバー部3の内部に折り込んでいる。
[2]タン4の爪先側の端部の幅よりも履き口7側の端部の幅が広く形成され、そのタン4の両側縁部が、インステップカバー部3の厚み方向に重複している(
図1、
図2(B)、
図3(B)の点線を参照)。
[3]ソールカバー部2、インステップカバー部3、タン4、および両中間編地部5L,5Rが全て、無縫製で一体に編成されている。なお、ソールカバー部2は、インステップカバー部3とは別に用意し、後からインステップカバー部3に接続しても構わない。
なお、中間編地部5やタン4などの各部2,3,4,5の左右の配分は特に限定されず、足の形状に合わせて適宜変更することができるが、当該配分はおよそ1:1とすることが好ましい。
【0024】
上記[1]〜[3]の構成は、シューズアッパー1の編成方法に起因して形成される。シューズアッパー1の編成方法については後ほど詳しく説明するが、簡単に言えば当該編成方法は、次の条件A〜Cに従って、タン4および左側中間編地部5Lならびに右側中間編地部5Rを、ソールカバー部2およびインステップカバー部3と共に無縫製で編成するシューズアッパーの編成方法である。
[条件A]…シューズアッパー1の甲側から底側に向かって編成する、あるいはシューズアッパー1の底側から甲側に向かって編成する。つまり、シューズアッパー1の長さ方向(踵−爪先方向)が針床の長手方向に向いた状態でシューズアッパー1を編成する。
[条件B]…ソールカバー部2、インステップカバー部3、中間編地部5、およびタン4を順次編成する。その編成の際、少なくともインステップカバー部3の左側部分(本体左部3L)および右側部分(本体右部3R)はそれぞれ、一側針床および他側針床で編成する。
[条件C]…タン4の爪先側の端部の幅よりも履き口7側の端部の幅を広くする。
【0025】
上記ソールカバー部2とインステップカバー部3とタン4は、熱融着糸を含む融着編糸で編成することが好ましい。各部2,3,4を融着編糸で編成することで、シューズアッパー1を足型にはめて熱処理したときに、シューズアッパー1を立体的に成形することができる。もちろん、各部2,3,4を、熱融着糸を含まない非融着編糸で編成することもできるし、各部2,3,4の一部を融着編糸、残部を非融着編糸で編成しても構わない。
【0026】
一方、左側中間編地部5Lと右側中間編地部5Rは、それ以外の部分2,3,4とは別の給糸口から給糸される編糸で編成される。これら中間編地部5L,5Rは、弾性糸を含む弾性編糸で編成することが好ましい。両中間編地部5L,5Rを弾性編糸で編成することで、シューズアッパー1に足を挿入する際には両中間編地部5L,5Rが伸張するため履き易く、シューズアッパー1を着用した際には両中間編地部5L,5Rが収縮するため、フィット性に優れるシューズアッパー1となる。その他、中間編地部5L,5Rを柔らかい編糸で編成すれば、中間編地部5L,5Rをインステップカバー部3の内部に折り込み易くなる。
【0027】
インステップカバー部3には、靴紐6(
図1参照)を通す複数の第一鳩目孔3hが設けられている。また、左側中間編地部5L(
図2(A)参照)と右側中間編地部5R(
図3(A)参照)には、靴紐6を通す複数の第二鳩目孔5hが設けられている。これら第二鳩目孔5hは、
図2(B),
図3(B)に示すように左側中間編地部5Lと右側中間編地部5Rをインステップカバー部3の内側に折り込んだときに、第一鳩目孔3hに重なる位置に設けられている。
【0028】
上記構成を備えるシューズアッパー1を使用する場合、まず
図2(B),
図3(B)に示すように、両中間編地部5L,5Rをインステップカバー部3の内側に折り込み、第一鳩目孔3hと第二鳩目孔5hとを重ねる。そして、その重なった鳩目孔3h(5h)に靴紐6を通すことで、
図1に示すシューズアッパー1を完成させることができる。
【0029】
≪シューズアッパーの編成方法≫
上記シューズアッパー1は、シューズアッパー1の甲側から底側に向かって編成する編成方法α、あるいはシューズアッパー1の底側から甲側に向かって編成する編成方法βによって編成することができる。本実施形態では、
図2(A),
図3(A)を参照しながら編成方法αの一例について説明する。
図2(A),
図3(A)における両端にアローヘッドを有する矢印は、編幅方向を示す。
【0030】
まず、一側針床と他側針床の両方にわたる編出し部を編成する(
図2(A),
図3(A)において編出し部の両端部の位置を楔型矢印で例示する)。その編出し部に基づいて、タン4の左側部分であるタン左部4Lと右側部分であるタン右部4Rとをそれぞれ、一側針床と他側針床で編成する。編出し部は、タン4の幅方向中間でなくても構わない。上記タン左部4Lとタン右部4Rとはそれぞれ別々の給糸口を用いた引き返し編成によって編成することができる。履き口7側で引き返し編成を多く行うことで、タン4の爪先側端部の幅よりもタン4の履き口7側の端部の幅を広くすることができる。このように、編目の増減によって簡単にタン4の成形を行うことができる。ここで、タン4の編成と共に、タン4よりも爪先側にあるインステップカバー部3の爪先側の部分の一部を引き返し編成によって編成しても良い。
【0031】
タン4の編成が終了したら、左側中間編地部5Lと右側中間編地部5Rとをそれぞれ、一側針床と他側針床で編成する。左側中間編地部5Lはタン左部4Lのウエール方向終端部に続けて編成し、右側中間編地部5Rはタン右部4Rのウエール方向終端部に続けて編成する。これら中間編地部5L,5Rはそれぞれ、別々の給糸口を用いた引き返し編成によって編成することができる。このとき、引き返し編成の位置や回数を変化させることで、両中間編地部5L,5Rのウエール方向終端部のラインをタン4の側に湾曲させても良い。上記ラインは、インステップカバー部3と両中間編地部5L,5Rとの境界線となるラインであり、このラインを湾曲させることで、多様なデザインのシューズアッパー1を作製できる。なお、両中間編地部5L,5Rの第二鳩目孔5hは、公知の編目の寄せなどを用いて形成することができる。
【0032】
次いで、インステップカバー部3の左側部分である本体左部3Lと右側部分である本体右部3Rとをそれぞれ、一側針床と他側針床で編成する。本体左部3Lは左側中間編地部5Lのウエール方向終端部に続けて編成し、本体右部3Rは右側中間編地部5Rのウエール方向終端部に続けて編成する。これら本体左部3Lと本体右部3Rとは、引き返し編成、C字状編成、および筒状編成を適宜使い分けて編成することができる。踵と爪先の部分では、C字状編成あるいは筒状編成を用いて本体左部3Lと本体右部3Rとを繋げると良い。インステップカバー部3の第一鳩目孔3hも、公知の編目の寄せなどを用いて形成することができる。
【0033】
さらに、ソールカバー部2の左側部分である底左部2Lと右側部分である底右部2Rとをそれぞれ、一側針床と他側針床で編成する。底左部2Lは本体左部3Lのウエール方向終端部に続けて編成し、底右部2Rは本体右部3Rのウエール方向終端部に続けて編成する。これら底左部2Lと底右部2Rとはそれぞれ、別々の給糸口を用いた引き返し編成によって編成することができる。
【0034】
最後に、底左部2Lと底右部2Rとを接続し、シューズアッパー1を完成させる。底左部2Lと底右部2Rとの接続方法は特に限定されず、例えば公知の伏目処理を利用することができる。あるいは、前後の針床に交互に編目を編成する前後ニットで底左部2Lと底右部2Rとを接続しても良い。目移しを必要としない前後ニットを用いることで、目移しを必須とする伏目処理よりも極めて短時間で両部2L,2R同士を接続できる。後述する熱処理によって接続部(即ち、シューズアッパー1の編終り部)が融着されるので、どのような接続方法を利用して接続部を形成しても、接続部の接続強度は確保される。また、接続部はシューズアッパー1の着用時に見えない位置にあるため、接続部によってシューズアッパー1の見栄えが損なわれることはない。
【0035】
以上説明した手順に従えば、増し目や減らし目の形成、複雑な目移しなどを行なうことなくシューズアッパー1を編成することができる。それは、シューズアッパー1を構成する各部4,5,3,2が順次編成されるからである。
【0036】
また、上記シューズアッパー1では、ソールカバー部2、インステップカバー部3、タン4、左側中間編地部5L、および右側中間編地部5Rの編幅方向が、シューズアッパー1の長さ方向に向いている(
図2(A),3(A)の両矢印の方向を参照)。シューズアッパー1の編目の向きが揃っていることで、見栄えが良く、履き心地に優れるシューズアッパー1となる。
【0037】
シューズアッパー1の編成が終了したら、
図2(B),
図3(B)を用いて既に説明したように、両中間編地部5L,5Rをインステップカバー部3の内側に折り込み、インステップカバー部3の鳩目孔3hと中間編地部5L,5Rの鳩目孔5hとの位置合わせを行う。そして、シューズアッパー1全体を足型にはめて熱処理し、シューズアッパー1を立体的に成形する。また、この熱処理によって、底左部2Lと底右部2Rとの接続部が融着され、両部2L,2Rが分離することを回避できる。熱処理後は、鳩目孔3h(5h)に靴紐6を通して
図1に示すシューズアッパー1を完成させる。
【0038】
<変形形態1−1>
図1に示すシューズアッパー1は、既に説明したように、ソールカバー部2の側から編成を開始し、インステップカバー部3の側で編終る編成方法βによって製造することもできる。その場合、一側針床と他側針床にわたって編出し部を形成し、その編出し部に基づいてソールカバー部2、インステップカバー部3、両中間編地部5L,5R、タン4の順に編成し、最後にタン左部4Lとタン右部4Rとを接続すれば良い。もちろん、シューズアッパー1の左側部分2L,3L,4L,5Lおよび右側部分2R,3R,4R,5Rはそれぞれ、前記一側針床および前記他側針床で編成する。
【0039】
<変形形態1−2>
実施形態1において、中間編地部5とインステップカバー部3との境界部分や、中間編地部5とタン4との境界部分など、シューズアッパー1の使用時に折り目となる部分に編出し部を配置することも可能である。例えば、左側中間編地部5Lと本体左部3Lとの間で編出し、一側針床で本体左部3L→底左部2Lの順に編成すると共に、他側針床で左側中間編地部5L→タン左部4L→タン右部4R→右側中間編地部5R→本体右部3R→底右部2Rの順に編成することを挙げることができる。折り目となる部分に編出し部を配置すれば、編出し部が目立ち難くなり、シューズアッパー1の見栄えを向上させることができる。
【0040】
また、変形形態1−1においても、各部5,3(5,4)の境界部分に編終わり部を配置し、当該編終わり部を目立ち難くすることも可能である。
【0041】
<実施形態2>
実施形態2では、
図1に示すシューズアッパー1を、針床上で縦向きに編成する例を説明する。具体的には、次の条件D〜Fに従って、タン4、およびタン4の左側縁部とインステップカバー部3とを繋ぐ左側中間編地部5L、ならびにタン4の右側縁部とインステップカバー部3とを繋ぐ右側中間編地部5Rを、ソールカバー部2およびインステップカバー部3と共に無縫製で編成する。
[条件D]…シューズアッパー1の踵側から爪先側に向かって編成する、あるいはシューズアッパー1の爪先側から踵側に向かって編成する。つまり、シューズアッパー1の高さ方向(踵−爪先方向と直交する方向)が針床の長手方向に向いた状態でシューズアッパー1を編成する。
[条件E]…シューズアッパー1を構成する各部2,3,4,5の左側部分を一側針床で針床の長手方向に重複することなく並べた状態で編成すると共に、各部2,3,4,5の右側部分を他側針床で針床の長手方向に重複することなく並べた状態で編成する。
[条件F]…タン4の爪先側の端部の幅よりも履き口7側の端部の幅を広くする。
【0042】
≪踵側から爪先側に向かって編成する例≫
上記条件を満たす実施形態2の編成方法として、まずシューズアッパー1の踵側から爪先側に向かって編成する例を説明する。その説明にあたっては、
図4に示すシューズアッパー1の左側面図を利用する。シューズアッパー1の右側面図については図示を省略するが、
図4の紙面奥側にシューズアッパー1の右側部分2R,3R,4R,5Rがあると考えて良い。なお、実施形態2における編幅方向は、
図4の両矢印で示している。
【0043】
踵側からシューズアッパー1を編成する場合、踵側の編出し部を形成する(編出し部の両端部の位置を楔型矢印で例示する)。その編出し部に基づいて、引き返し編成やC字状編成を用いてインステップカバー部3とソールカバー部2を編成する。両部2,3は、中間編地部5およびタン4の直前まで編成する。履き口7のカーブ形状などは、増やしや減らしを利用して成形することができる。なお、踵の編出し方法や踵の形状、増やしや減らしを行う位置は特に限定されない。例えば、国際公開第2014/013790号(以下、文献1)に記載の技術を利用することができる。
【0044】
一側針床上の本体左部3Lおよび底左部2Lに重複しない位置に左側中間編地部5Lとタン左部4Lの編出し部(タン4近傍の楔形矢印を参照)を形成すると共に、他側針床上の本体右部3Rおよび底右部2Rと重複しない位置に右側中間編地部5Rとタン右部4Rの編出し部を形成する。そして、一側針床上でシューズアッパー1の左側部分2L,3L,4L,5Lを並列させた状態で編成すると共に、他側針床上でシューズアッパー1の右側部分2R,3R,4R,5Rを並列させた状態で編成する。タン4の編幅は、減らしによって爪先側に向かうに従って連続的に、あるいは段階的に小さくしていく。そうすることで、タン4の爪先側の端部の幅よりも履き口7側の端部の幅を広くすることができる。
【0045】
タン4と中間編地部5の編成が終了したら、タン4の爪先側の端部よりも爪先側にあるインステップカバー部3とソールカバー部2を、筒状編成と、増やしや減らしを伴うC字状編成と、を組み合わせて編成する。各部2,3の左側部分2L,3Lと右側部分2R,3Rはそれぞれ、一側針床と他側針床で編成する。インステップカバー部3の一部は、タン4のウエール方向終端部に続けて編成する。そうすることで、タン4がインステップカバー部3に無縫製で接続される。最後に、爪先の位置で本体左部3Lと本体右部3Rとを編成によって接続する。その接続方法も特に限定されず、例えば文献1に記載の技術を利用することができる。
【0046】
≪爪先側から踵側に向かって編成する例≫
まず、爪先側の編出し部(図示略)を形成する。その編出し部に基づいて、筒状編成や、増やしを伴うC字状編成を用いてインステップカバー部3とソールカバー部2を編成する。両部2,3は、タン4の直前まで編成する。
【0047】
次に、一側針床上でシューズアッパー1の左側部分2L,3L,4L,5Lを並列させた状態で編成すると共に、他側針床上でシューズアッパー1の右側部分を並列させた状態で編成する。その際、一側針床と他側針床に係止されるインステップカバー部3の編目のうち、一部の編目のウエール方向に続けてタン4と中間編地部5を編成すると共に、残りの編目のウエール方向に続けてインステップカバー部3を編成する。そうすることで、各部2,3,4,5が無縫製で接続される。また、タン4の編成にあたり、タン4の編幅は、増やしによって踵側に向かうに従って連続的に、あるいは段階的に大きくしていく。そうすることで、タン4の爪先側の端部の幅よりも履き口7側の端部の幅を広くすることができる。
【0048】
タン4と中間編地部5の編成が終了した後は、タン4と中間編地部5の履き口7側の端部よりも履き口7側にあるインステップカバー部3とソールカバー部2を、引き返し編成やC字状編成を用いて編成する。各部2,3の左側部分2L,3Lと右側部分2R,3Rはそれぞれ、一側針床と他側針床で編成する。最後に、踵の位置で本体左部3Lと本体右部3Rとを編成によって接続する。
【0049】
実施形態2のシューズアッパー1では、各部2,3,4,5の編幅方向が、シューズアッパー1の高さ方向(
図2(A),
図3(A)の両矢印に略直交する方向)に向いている。この場合、インステップカバー部3の編成途中に編糸を変更するだけで、シューズアッパー1の高さ方向に伸びるラインをインステップカバー部3に形成することができる。当該ラインの編糸を伸び難い編糸とすればその部分を伸び止めとすることができる。また、このラインはデザイン的なアクセントにもなる。
【0050】
<実施形態3>
実施形態3では、
図2(A),
図3(A)に基づいて左側中間編地部5Lと右側中間編地部5Rに抜き糸を編成したシューズアッパーを説明する。
【0051】
実施形態3のシューズアッパー1では、左側中間編地部5Lと右側中間編地部5Rの一部あるいは全部を抜き糸で編成する。この場合、シューズアッパー1を完成させた後、抜き糸をシューズアッパー1から取り外すことで、タン4の左側縁部と右側縁部がインステップカバー部3から分離したシューズアッパー1を作製することができる。例えば、中間編地部5L,5Rにおける履き口7側の一部を抜き糸で形成すれば、中間編地部5L,5Rの履き口7側の部分に短い切り込みが形成されたシューズアッパー1となる。