特許第6141641号(P6141641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6141641
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】電解銅箔及び電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/26 20060101AFI20170529BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20170529BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170529BHJP
   H05B 33/24 20060101ALI20170529BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20170529BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20170529BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   H05B33/26 Z
   H05B33/02
   H05B33/14 A
   H05B33/24
   H05B33/28
   H05B33/22 A
   H01L31/04 130
   C25D1/04 311
【請求項の数】14
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-1895(P2013-1895)
(22)【出願日】2013年1月9日
(65)【公開番号】特開2014-135175(P2014-135175A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宜範
【審査官】 中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−212675(JP,A)
【文献】 特開2001−345460(JP,A)
【文献】 特開2004−111354(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/139495(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50−51/56
H05B 33/00−33/28
H01L 31/04−31/06
H01S 10/00−10/40
H01S 30/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子デバイス用電極として用いられる、銅又は銅合金からなる電解銅箔であって、
窒素雰囲気中、200℃で60分間の熱処理を施した後における前記電解銅箔の0.2%耐力が250N/mm以上であり、かつ、
前記電解銅箔の少なくとも一方の最表面に、JIS B 0601−2001に準拠して181μm×136μmの矩形領域に対して測定される、断面曲線の最大山高さPpに対する断面曲線の最大谷深さPvのPv/Pp比が1.2以上の凹部優位面を備えてなり、前記凹部優位面が、JIS B 0601−2001に準拠して測定される、10nm以下の算術平均粗さRaを有する、電解銅箔。
【請求項2】
前記凹部優位面のPv/Pp比が1.5以上である、請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項3】
前記凹部優位面のPv/Pp比が2.0以上である、請求項1又は2に記載の電解銅箔。
【請求項4】
前記凹部優位面が、JIS B 0601−2001に準拠して測定される、7.0nm以下の算術平均粗さRaを有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項5】
前記電解銅箔の片面が前記凹部優位面を構成し、前記電解銅箔の他方の面がJIS B 0601−2001に準拠して測定される、10nm以下の算術平均粗さRaを有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項6】
前記電解銅箔の両面が前記凹部優位面を構成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項7】
ロール・トゥ・ロール・プロセスによって製造される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項8】
前記電子デバイスがフレキシブル電子デバイスであり、該フレキシブル電子デバイスの支持基材を兼ねた電極として用いられる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項9】
前記電子デバイスが、発光素子又は光電素子である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項10】
前記電解銅箔上に反射層及び/又はバッファ層を更に備えた、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電解銅箔。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電解銅箔で構成される電極箔と、
前記電極箔の前記超平坦面上に設けられる、半導体特性を有する半導体機能層と、
を備えた、電子デバイス。
【請求項12】
前記電極箔と前記半導体機能層の間に反射層及び/又はバッファ層を更に備えた、請求項11に記載の電子デバイス。
【請求項13】
前記半導体機能層が励起発光又は光励起発電の機能を有し、それにより前記電子デバイスが発光素子又は光電素子として機能する、請求項11又は12に記載の電子デバイス。
【請求項14】
前記半導体機能層上に透明又は半透明の対向電極を備えた、請求項11〜13のいずれか一項に記載の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解銅箔及びそれを用いた電子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL照明等の発光素子が、環境に配慮したグリーンデバイスとして注目されている。有機EL照明の特徴としては、1)白熱灯に対して低消費電力であること、2)薄型かつ軽量であること、3)フレキシブルであることが挙げられる。現在、有機EL照明は、上記2)及び3)の特徴を実現すべく開発が進められている。この点、フラットパネルディスプレイ(FPD)等で従来使用されてきたガラス基板では、上記2)及び3)の特徴を実現することは不可能である。
【0003】
そこで、有機EL照明のための支持体としての基板(以下、支持基材という)に対する研究が進められており、その候補として、極薄ガラス、樹脂フィルム、金属箔等が提案されている。極薄ガラスは、耐熱性、バリア性、及び光透過性に優れ、フレキシブル性も良好であるが、ハンドリング性がやや劣り、熱伝導性が低く、材料コストも高い。また、樹脂フィルムは、ハンドリング性及びフレキシブル性に優れ、材料コストも低く、光透過性も良好であるが、耐熱性及びバリア性に乏しく、熱伝導性が低い。
【0004】
これに対し、金属箔は、光透過性が無いことを除けば、耐熱性、バリア性、ハンドリング性、熱伝導性に優れ、フレキシブル性も良好であり、材料コストも低いといった優れた特徴を有する。特に、熱伝導性については、典型的なフレキシブルガラスやフィルムが1W/m℃以下と極めて低いのに対し、銅箔の場合、400W/m℃程度と極めて高い。
【0005】
金属基板を用いた発光素子を実現するために、特許文献1(特開2009−152113号公報)では金属基板の表面を研磨処理やメッキ処理により平滑化して、その上に有機層を形成することが提案されている。また、特許文献2(特開2008−243772号公報)では金属基板上にニッケルめっき層を設けることで研磨等をすることなく平滑面を形成し、その上に有機EL素子を形成することが提案されている。一方、金属基板を用いた光電素子も提案されており、例えば、特許文献3(特開2011−222819号公報)には平滑化処理された金属基材上に有機薄膜起電力層を設けた太陽電池が開示されている。これらの技術においては、電極間の短絡防止のため、金属基板表面の平滑化が重要な課題となっている。この課題に対処した技術として、特許文献4(国際出願第2011/152091号)及び特許文献5(国際出願第2011/152092号)では、算術平均粗さRaが10.0nm以下と極めて低い超平坦面を備えた金属箔を支持基材兼電極として用いることが提案されている。
【0006】
一方、リチウムイオン二次電池用電解銅箔として、両面ともに表面粗さRzが0.8〜2.8μmであり、200〜400℃で加熱処理後の0.2%耐力が250N/mm以上の電解銅箔が知られている(特許文献6(特開2012−151106号公報)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−152113号公報
【特許文献2】特開2008−243772号公報
【特許文献3】特開2011−222819号公報
【特許文献4】国際出願第2011/152091号
【特許文献5】国際出願第2011/152092号
【特許文献6】特開2012−151106号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、今般、電解銅箔において、加熱後0.2%耐力を高くし、かつ、凹部優位な表面プロファイルを付与することにより、電子デバイス用電極として極めて有用な電解銅箔を提供できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、電子デバイス用電極として極めて有用な電解銅箔を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、電子デバイス用電極として用いられる、銅又は銅合金からなる電解銅箔であって、
窒素雰囲気中、200℃で60分間の熱処理を施した後における前記電解銅箔の0.2%耐力が250N/mm以上であり、かつ、
前記電解銅箔の少なくとも一方の最表面に、JIS B 0601−2001に準拠して181μm×136μmの矩形領域に対して測定される、断面曲線の最大山高さPpに対する断面曲線の最大谷深さPvのPv/Pp比が1.2以上の凹部優位面を備えてなる、電解銅箔が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、前記電極箔と、
前記電極箔の前記超平坦面上に設けられる、半導体特性を有する半導体機能層と、
を備えた、電子デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の電解銅箔を示す模式断面図である。
図2】本発明の電解銅箔を用いた電極箔の一例を示す模式断面図である。
図3】本発明の電解銅箔をアノードとして用いた有機EL素子の一例を示す模式断面図である。
図4】本発明によるトップエミッション型有機EL照明の一例を示す模式断面図である。
図5】本発明による電解銅箔をカソードとして用いた有機EL素子の一例を示す模式断面図である。
図6】例A1において、ロール・トゥ・ロール・プロセスによりCMP処理工程から搬出される試料A1の全体を撮影した写真である。
図7】例A1において、ロール・トゥ・ロール・プロセスによりCMP処理工程から搬出される試料あ1の端部を撮影した写真である。
図8】例A1において、ロール・トゥ・ロール・プロセスによりCMP処理工程から搬出される試料A2の全体を撮影した写真である。
図9】例A1において、ロール・トゥ・ロール・プロセスによりCMP処理工程から搬出される試料A2の端部を撮影した写真である。
図10】例B1において測定された両面処理銅箔の表面の三次元プロファイルである。
図11】例B1において測定された両面処理銅箔の裏面の三次元プロファイルである。
図12】例B1において2週間大気放置したロールから引き出した両面処理銅箔の表面を撮影した写真である。
図13】例B1及びB4において銅箔について測定されたCu−KLLオージェ電子スペクトルである。
図14】例B1において両面処理銅箔作製後の日数を変えて測定されたCu−KLLオージェ電子スペクトルである。
図15】例B1においてロール状態で放置した後の両面処理銅箔の表面を撮影したレーザー顕微鏡写真である。
図16】例B2において測定された両面処理銅箔の裏面の三次元プロファイルである。
図17】例B3において測定された片面処理銅箔の表面の三次元プロファイルである。
図18】例B3において測定された片面処理銅箔の裏面の三次元プロファイルである。
図19】例B3においてロール状態で2週間大気放置した後の片面処理銅箔の表面を撮影した写真である。
図20】例B3において2週間大気放置したロールから引き出した片面処理銅箔の表面を撮影したレーザー顕微鏡写真である。図中の矢印は巻き傷を指している。
図21】例B4において測定された両面未処理銅箔の表面の三次元プロファイルである。
図22】例B4において2週間大気放置したロールから引き出した両面未処理銅箔の表面を撮影した写真である。
図23】例C1で用いた光学測定系を説明する模式図である。
図24】例C2において作製された電極箔における、算術平均粗さRaとPv/Pp比との関係をプロットした図である。
図25図24に示される試料C6の表面をSEM(1000倍)で観察した画像である。
図26図24に示される試料C6の表面を非接触表面形状測定機で測定して得られた表面三次元プロファイルである。
図27図24に示される試料C6の表面を非接触表面形状測定機で測定して得られた表面プロファイルである。
図28図24に示される試料C7の表面を非接触表面形状測定機で測定して得られた表面三次元プロファイルである。
図29図24に示される試料C7の表面を非接触表面形状測定機で測定して得られた表面プロファイルである。
図30】例C3において作製された光電素子の層構成を示す模式断面図である。
図31】例C3において光電素子について測定された電圧と電流の関係を示す図である。
図32】例C4において作製された試料C8の表面をSEM(1000倍)で観察した画像である。
図33図32に示される試料C8の表面を非接触表面形状測定機で測定して得られた表面三次元プロファイルである。
図34図32に示される試料C8の表面を非接触表面形状測定機で測定して得られた表面プロファイルである。
図35】例D1において試料D1の表面を非接触表面形状測定機で測定して得られた表面プロファイルである。
図36】例D1において試料D2の表面を非接触表面形状測定機で測定して得られた表面プロファイルである。
図37】例D1において試料D3の表面を非接触表面形状測定機で測定して得られた表面プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本明細書において使用される用語の定義を以下に示す。
【0014】
「0.2%耐力」は、応力−ひずみ線図において、除荷時の永久ひずみが0.2%になる応力を意味し、降伏現象を示さない材料における降伏応力の代替指標として一般的に使用されているものである。本明細書における0.2%耐力は、電解銅箔から12.5mm×90mmのサイズの矩形状試験片を採取し、得られた矩形状試験片を市販の引張試験機にセットして、JIS Z 2241(2011)に準拠して測定することができる。このとき、引張試験機に固定するための片側20mmのつかみ部を試験片の両端に確保することで、実質的な測定箇所の長さを50mmとするのが望ましい。なお、ロール状電解銅箔から矩形状試験片を採取する場合、矩形状試験片の長辺及び短辺がロール状電解銅箔の長尺方向(MD方向)及び短尺方向(TD方向)とそれぞれ一致するように矩形状試験片が採取され、長尺方向(MD方向)に引っ張られるように引張試験機にセットされる。
【0015】
「Pv/Pp比」は、試料表面に対して、JIS B 0601−2001に準拠して181μm×136μmの矩形領域に対して測定される、断面曲線の最大山高さPpに対する断面曲線の最大谷深さPvの比である。最大山高さPpは凸部の高さを表す一方、最大谷深さPvは凹部の深さを表すことから、Pv/Pp比が高いほど凹部優位の表面であることを意味する。なお、最大山高さPp及び最大谷深さPvは、市販の非接触表面形状測定機を用いてJIS B 0601−2001に準拠して測定することができる。
【0016】
電解銅箔
本発明による電解銅箔は電子デバイス用電極として用いられるものである。図1に本発明による電解銅箔の模式断面図を示す。図1に示される電解銅箔12は、銅又は銅合金からなり、表面12a及び裏面12bを有する。電解銅箔は比較的安価でありながら、強度、フレキシブル性、電気的特性等に優れる。電解銅箔12は、窒素雰囲気中、200℃で60分間の熱処理を施した後における0.2%耐力(以下、加熱後0.2%耐力ともいう)が250N/mm以上のものである。そして、電解銅箔12の少なくとも一方の最表面(すなわち表面12a及び/又は裏面12b)は、JIS B 0601−2001に準拠して181μm×136μmの矩形領域に対して測定される、断面曲線の最大山高さPpに対する断面曲線の最大谷深さPvのPv/Pp比が1.2以上の凹部優位面となっている。すなわち、最大山高さPpは凸部の高さを表す一方、最大谷深さPvは凹部の深さを表す。したがって、1.2以上のPv/Pp比は、凹部を凸部よりも優先的に備えた特異的な表面プロファイルを意味する。このように加熱後0.2%耐力を高くし、かつ、凹部優位な表面プロファイルを付与することにより、電子デバイス用電極として極めて有用な電解銅箔を提供することができる。
【0017】
すなわち、加熱後0.2%耐力を250N/mm以上とすることによって、電解銅箔を電極として用いて電子デバイスを製造するに際し、加熱を伴う工程で起こりうる箔のうねりを効果的に抑制することができる。例えば、有機EL照明や有機薄膜太陽電池のように、電解銅箔上に有機半導体材料を連続的に塗布していく場合、一連のロール・トゥ・ロール・プロセスで併せて焼成を連続して行うことが望まれる。この焼成は、有機半導体材料の種類にもよるが、150〜300℃の温度域で行われるのが一般的である。しかしながら、現在使用されている平滑銅箔では、150℃以上の温度で焼成されると、結晶粒の再結晶化によって箔が軟化する現象が起こる。特に、電極機能以外に基板としての機能を平滑銅箔に持たようとした場合、平滑銅箔の軟化はその箔自身のうねりをもたらしうるため、積層させる有機半導体の膜厚の不均一化など、箔上に設けられる電子デバイスの不具合(発光斑等)を引き起こす可能性がある。例えば、張力がかかった状態で電解銅箔に熱処理を行うと、局所的に再結晶化により塑性変形を起こし、大きなうねりを伴うアンジュレーションという現象を起こすことがある。また、銅箔端部の波模様のうねりが発生するフレアという現象も起こることがある。これらの現象が発生すると、銅箔上に有機高分子材料を塗布した際、塗膜の膜厚に悪影響を与える可能性があり、上述した不具合を電子デバイスにもたらしうる。また、フレアが大きくなると、塗布用のスリットコータ部に接触してキズを与えることがある。これらの問題はロール形態の電解銅箔に限らず、所定サイズに切断されたシート状の電解銅箔についても同様に当てはまる。もっとも、ロール・トゥ・ロール・プロセスにおいては、平滑銅箔の軟化は正確な搬送を阻害して巻ズレや巻皺の誘発しうるため、歩留りを下げる原因にもなりうる。これらの種々の問題が加熱後0.2%耐力を250N/mm以上とすることによって解決又は軽減され、そのような電解銅箔を用いた電子デバイスの信頼性を格段に向上することができる。好ましい加熱後0.2%耐力は280N/mm以上であり、より好ましくは300N/mm以上であり、さらに好ましくは350N/mm以上である。なお、加熱後0.2%耐力の上限値は特に限定されないが、より好ましくは1000N/mm以下であり、さらに好ましくは900N/mm以下である。
【0018】
また、電解銅箔12の少なくとも一方の最表面(すなわち表面12a及び/又は裏面12b)をPv/Pp比が1.2以上の凹部優位面とすることによっても、そのような電解銅箔を用いた電子デバイスの信頼性を格段に向上することができる。これは凸部の形成が抑制されることで電極間の短絡(具体的には対向電極との短絡や半導体機能層間における短絡)が防止されることによるものと考えられる。好ましいPv/Pp比は1.5以上であり、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは3.0以上、特に好ましくは4.0以上であり、最も好ましくは5.0以上である。Pv/Pp比は高ければ高い程望ましいため特に限定されないが、費用対効果の観点からその上限値は10.0辺りが現実的である。
【0019】
特に、凹部優位面のPv/Pp比を2.0以上とすれば電解銅箔に優れた光散乱性を持たせることができ、この目的のためには、好ましくは2.3以上であり、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは2.8以上、特に好ましくは3.0以上である。すなわち、本発明者らの知見によれば、このような凹部優位の特異的な表面プロファイルを電解銅箔に付与することにより、優れた光散乱性を電極箔自体に発揮させることができ、それにより電極箔自体で発光効率や発電効率を向上することができる。これは、優先的に形成される凹部に起因して光が散乱されるとともに、上述したように凸部の形成が抑制されることで電極間の短絡(具体的には対向電極との短絡や半導体機能層間における短絡)が防止されることによるものと考えられる。特に、本発明の電極箔にあっては、金属箔ないし電極箔の表面プロファイル自体で光散乱効果が得られるため、マイクロレンズ形成及びそれに伴う微細加工を不要として生産性やコスト効率の低下を回避することができ、それ故、大面積化にも適している。
【0020】
さらに、本発明者らは、1.2以上のPv/Pp比を有する凹部優位面が、何らかの要因によって、ロール状態で準備又は保管された電解銅箔の酸化を抑制する効果をも与えうることを知見している。この酸化抑制効果は、電解銅箔の電子デバイス用電極としての適性を向上しうるものである。すなわち、銅箔は錆びやすいため、有機防錆、無機防錆、カップリング処理等の表面処理が従来から行われてきた。しかしながら、銅箔を電極基板として使用する場合、有機防錆剤等が存在すると、素子特性等への悪影響が懸念される。一方で、防錆処理を行わないと表面の酸化が進行してしまい、反射膜の剥離や素子抵抗の増加といった問題が懸念される。特に、ロール・トゥ・ロール・プロセス用に銅箔をロール状にした場合、酸化の進行が顕著となることから、特に電子デバイス用の電極基板として量産化する際に問題となる。このような問題が電解銅箔12の少なくとも一方の最表面におけるPv/Pp比を1.2以上とすることで解決又は軽減され、そのような銅箔を用いた電子デバイスの信頼性を向上することができる。好ましいPv/Pp比は1.5以上であり、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは3.0以上、特に好ましくは4.0以上であり、最も好ましくは5.0以上である。
【0021】
凹部優位面は、JIS B 0601−2001に準拠して測定される、10nm以下の算術平均粗さRaを有する超平坦面でもあるのが好ましく、より好ましくは7.0nm以下であり、さらに好ましくは5.0nm以下であり、特に好ましくは3.0nm以下である。電解銅箔に求められる用途や性能等に応じて粗さを適宜決定すればよい。算術平均粗さRaの下限は特に限定されずゼロであってもよいが、平坦化処理の効率を考慮すると0.5nmが下限値の目安として挙げられる。この算術平均粗さRaは、JIS B 0601−2001に準拠して市販の粗さ測定装置を用いて測定することができる。凹部優位面の算術平均粗さRaが上述のごとく極めて小さいことで、発光素子、光電素子等の電子デバイスに使用した際の電極間の短絡をより一層効果的に防止できる。このような超平坦面は、CMP(Chemical Mechanical Polishing)処理により電解銅箔を研磨することにより実現することができる。CMP処理は、公知の研磨液及び公知の研磨パッドを用いて、公知の条件に従って行うことができる。好ましい研磨液としては、セリア、シリカ、アルミナ、ジルコニア等から選択される1種以上の研磨砥粒約0.1〜10重量%程度を含んでなり、かつ、ベンゾトリアゾール(BTA)等の防錆剤と、更に/又は、キナルシン酸、キノリン酸、ニコチン酸、リンゴ酸、アミノ酸、クエン酸、カルボン酸、ポリアクリル酸等の有機錯体形成剤と、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等の界面活性剤と、所望により防食剤とをさらに含むものが挙げられる。好ましい研磨パッドとしては、ウレタン製のパッドが挙げられる。研磨条件は、パッド回転速度、ワーク荷重、研磨液塗布流量等を適宜調整すればよく特に限定されないが、回転速度を20〜1000rpmの範囲内に、ワーク荷重を100〜500gf/cmの範囲内に、研磨液塗布流量を20〜200cc/min範囲内に調整するのが好ましい。
【0022】
あるいは、電解銅箔の片面が凹部優位面を構成し、電解銅箔の他方の面が10nm以下の算術平均粗さRaを有する超平坦面になるようにしてもよい。好ましくは、電解銅箔の表面12aがRa:10nm以下の超平坦な表面プロファイルを有し、かつ、裏面12bがPv/Pp比:1.2以上の凹部優位な表面プロファイルを有する。このように両面処理された箔とすることにより、上述した電極間の短絡防止効果に加えて、ロール状態とされた際に、巻き傷を防止しながら、超平坦面の酸化をより効果的に抑制することができる。特に、素子形成されるための超平坦面の酸化を、素子特性等への悪影響が懸念される有機防錆剤を用いることなく効果的に抑制できる点で、本発明の電解銅箔は電子デバイス用の電極基板として特に適する。この酸化抑制効果の詳細なメカニズムについては定かではないが、以下のように幾つかの要因によるものではないかと推察される。第一に、電解銅箔表面の平坦性をRa:10nm以下と極度に向上させ、表面に形成される酸化膜が極薄(例えば厚さ数nm)で均一かつ緻密に形成されることで、その後の酸化の進行が抑制されるものと考えられる。なお、この酸化抑制状態は電解銅箔の表面をX線光電子分光装置(XPS)で分析することにより確認することができるが、表層から深さ10nm未満の情報を取得することになるため、電解銅箔の表面にその測定深さ未満の極薄の酸化膜しか形成されていないのであれば、測定深さ内に存在する未酸化の金属銅に起因するピークが検出されることになる。第二に、上記のように酸化の進行が抑制されることで、ロール状態とされた際に互いに接触する表面と裏面の間で未酸化の金属銅が酸化物と接触する頻度や程度が低下し、それによっても酸化物の成長が更に抑制されるものと考えられる。これは、酸化物との接触があると本来未酸化の金属部分も酸化環境に曝され、酸化されやすくなるためである。第三に、ロール状態とされた際に電解銅箔の超平坦面及び凹部優位面の特有の表面プロファイルに起因して表面と裏面の間に入り込みにくくなり、それによる酸化抑制効果もありうるものと推察される。いずれにしても、このように両面処理された電解銅箔において実現される酸化抑制効果は予想外なものであり、従来から実施されていた防錆処理を不要とすることが可能であり、それにより素子特性等への悪影響が懸念される有機防錆剤を箔表面から無くすことができる。また、銅箔がロール状態とされると巻き傷が箔表面に発生しやすいという問題に対して、両面(特に粗度が高くなりがちな裏面)の表面プロファイルを制御したことで、ロール品とした際の巻き傷を低減することもできる。この効果は裏面のPv/Pp比を1.5以上とすることでより効果的に実現される。
【0023】
電解銅箔12の両面が凹部優位面を構成するのも好ましい。すなわち表面12aのみならず裏面12bも上述したPv/Pp比を有する凹部優位面とすることでロール品とした際の巻き傷をより一層効果的に防止することができる。この効果は裏面のPv/Pp比を1.5以上とすることでより効果的に実現される。
【0024】
算術平均粗さRaが10nm以下の超平坦面は、電解研磨法、バフ研磨法、薬液研磨法、及びこれらの組み合わせ等を用いて電解銅箔を研磨することによっても実現することができる。薬液研磨法は、薬液、薬液温度、薬液浸漬時間等を適宜調整して行えばよく特に限定されないが、例えば、銅箔の薬液研磨は、2−アミノエタノールと塩化アンモニウムとの混合物を使用することにより行うことができる。薬液温度は室温が好ましく、浸漬法(Dip法)を用いるのが好ましい。また、薬液浸漬時間は、長くなると平坦性が悪化する傾向があるため、10〜120秒間が好ましく、30〜90秒間がより好ましい。薬液研磨後の電解銅箔は流水により洗浄されるのが好ましい。このような平坦化処理によれば、Ra算術平均粗さRa12nm程度の表面をRa10.0nm以下、例えば3.0nm程度にまで平坦化することができる。
【0025】
超平坦面は、電解銅箔の表面をブラストにより研磨する方法や、電解銅箔12の表面をレーザー、抵抗加熱、ランプ加熱等の手法により溶融させた後に急冷させる方法等によっても実現することもできる。
【0026】
しかしながら、単に超平坦面と同様にして超平坦化したとしても、凹部及び凸部が概ね同程度に形成されるため、1.2以上のPv/Pp比になることは通常あり得ない。そこで、1.2以上のPv/Pp比を付与するための処理が行われるのが好ましい。そのような表面処理の好ましい例としては、超音波洗浄、化学研磨液を用いた化学研磨、及び/又はドライアイスブラスト法等が挙げられる。超音波洗浄は、例えば、市販の流水式超音波洗浄機を用い、所定の高周波出力(例えば60W)で電解銅箔表面を所定時間(例えば10分間)処理することによって行うことができる。化学研磨は、例えば、化学研磨液(例えば三菱ガス化学社製のCPB−10等の純銅用の研磨液)を用い、研磨液と水を所定の割合(例えば1:2の重量割合)で混合して室温下で1分間浸漬させ、純水洗浄、希硫酸(例えば0.1N希硫酸)での洗浄、再度の純水洗浄、及び乾燥を経ることにより行うことができる。あるいは、電解銅箔を1質量%の過酸化水素水に浸漬させ、その後超純水にて洗浄してもよい。ドライアイスブラスト法は、例えばドライアイススノーシステム(エアウォーター社製)等の市販の装置を用いて、高圧に圧縮した炭酸ガスを細いノズルから噴射させることにより、低温固化した炭酸を裏面12bに吹き付けることにより行うことができる。なお、電解銅箔を電積させる際に、有機物、塩素等添加の有無や量を適宜調整することにより、電解銅箔の表面形状を制御することも可能である。この場合、得られた電解銅箔の表面平坦度に応じて後処理(例えば超音波洗浄、化学研磨、ドライアイスブラスト処理、CMP処理等)を適宜選択すればよい。
【0027】
電解銅箔の厚さは、フレキシブル性を損なうことなく、箔として単独でハンドリングが可能な厚さである限り特に限定されないが、1〜250μmであり、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは15〜100μmであるが、電極箔に求められる用途や性能等に応じて厚さを適宜決定すればよい。したがって、金属の使用量の低減や軽量化がより望まれる場合には厚さの上限は50μm、35μm又は25μmとするのが特に好ましい一方、強度がより望まれる場合には厚さの下限を25μm、35μm又は50μmとするのが特に好ましい。このような厚さであれば、市販の裁断機を用いて簡単に切断することが可能である。また、電解銅箔は、ガラス基板と異なり、割れ、欠け等の問題が無く、また、切断時のパーティクルが発生しづらい等の利点も有する。電解銅箔は、四角形以外の形状、例えば、円形、三角形、多角形といった様々な形状とすることができ、しかも切断及び溶接も可能なことから、切り貼りによりキュービック状やボール状といった立体的な形状の電子デバイスを作製することも可能である。この場合、電解銅箔の切断部や溶接部には、半導体機能層を形成しないことが好ましい。
【0028】
電解銅箔の長さは特に限定されずが、ロール・トゥ・ロール・プロセスに適用させるためにはある程度の長さを有するのが好ましい。電解銅箔の好ましい長さは、装置の仕様等に応じて異なってくるが、概ね2m以上であり、生産性向上の観点から、より好ましくは20m以上、さらに好ましくは50m以上、特に好ましくは100m以上、最も好ましくは1000m以上である。もっとも、電解銅箔は所定サイズに切断されたシート状であってもよい。また、電解銅箔の好ましい幅は、装置の仕様等に応じて異なってくるが、概ね150mm以上であり、生産性向上の観点から、好ましくは350mm以上、より好ましくは600mm以上、特に好ましくは1000mm以上である。なお、前述したとおり、本発明の特定の態様による電解銅箔にあっては、巻きによって発生しうる傷を効果的に抑制できることから、フィルム、エンボスフィルム等、電極箔よりも弾力性の高い材料を表面と裏面の間に挟むといった巻き傷防止対策が不要となり、ロール品としての取り扱いが簡素化する。
【0029】
超平坦面及び凹部優位面はアルカリ溶液で洗浄することが好ましい。そのようなアルカリ溶液としては、アンモニアを含有した溶液、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等の公知のアルカリ溶液が使用可能である。好ましいアルカリ溶液はアンモニアを含有した溶液であり、より好ましくはアンモニアを含有した有機系アルカリ溶液、さらに好ましくはテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)溶液である。TMAH溶液の好ましい濃度は0.1〜3.0wt%である。そのような洗浄の一例としては、0.4%TMAH溶液を用いて23℃で1分間の洗浄を行うことが挙げられる。このようなアルカリ溶液による洗浄と併せて、又は、アルカリ溶液による洗浄の代わりに、UV(Ultra Violet)処理を行っても同様の洗浄効果を得ることができる。さらに、銅箔等の場合、希硫酸等の酸性洗浄液を用いて、銅表面に形成されうる酸化物を除去することも可能である。酸洗浄の一例としては、希硫酸を用いて30秒間の洗浄を行うことが挙げられる。
【0030】
超平坦面及び凹部優位面上に存在するパーティクルを除去することが好ましい。有効なパーティクル除去の手法としては、超純水によるソニック洗浄法やドライアイスブラスト法等が挙げられるが、ドライアイスブラスト法がより効果的である。ドライアイスブラスト法は、高圧に圧縮した炭酸ガスを細いノズルから噴射させることにより、低温固化した炭酸を超平坦面12aに吹き付けてパーティクルを除去する方法である。このドライアイスブラスト法は、ウェット工程とは異なり、乾燥工程を省くことができ、また有機物の除去ができる等の利点を有する。ドライアイスブラスト法は、例えばドライアイススノーシステム(エアウォーター社製)等の市販の装置を用いて行うことができる。もっとも、1.5以上のPv/Pp比を付与するための処理(例えばドライアイスブラスト法)によって既にパーティクルが除去されている場合には、このパーティクル除去工程は省略可能である。
【0031】
電極箔
本発明の電解銅箔は、箔単独の形態で、又は他の機能層を積層させた形態で、電極箔として使用されるのが好ましい。図2に電極箔10の一例の模式断面図を示す。図2に示される電極箔10は電解銅箔12を備えてなる。電極箔10は、所望により電解銅箔12の表面12aに直接、又は拡散防止層を介して設けられる反射層13を備えていてもよい。また、電極箔10は、所望により少なくとも電解銅箔12の超平坦面12a又は(存在する場合には)反射層13の表面13a上に直接設けられるバッファ層14を備えていてもよい。図2に示される電極箔10は電解銅箔12、反射層13及びバッファ層14を備えた3層構成であるが、本発明の電極箔はこれに限定されず、電解銅箔12の1層構成であってもよいし、電解銅箔12及び反射層13の2層構成であってもよい。あるいは、電解銅箔12の両面に反射層13及びバッファ層14を備えた5層構成であってもよい。
【0032】
このように電解銅箔12を支持基材のみならず電極として用いることで、支持基材と電極の機能を兼ね備えた電極箔を提供することができる。特に、電解銅箔12の厚さを適切な範囲(好ましくは1〜250μm)とすれば、フレキシブル電子デバイス用の支持基材を兼ねた電極として用いることができる。このようなフレキシブル電子デバイスの製造に関して、電極箔12は、電解銅箔をベースとしているため、支持基材を特に必要とすることなく、例えばロール・トゥ・ロール(roll-to-roll)プロセスによって効率的に製造することができる。ロール・トゥ・ロール・プロセスは、ロール状に巻いた長尺状の箔を引き出して所定のプロセスを施したのち再び巻き取るという電子デバイスを効率的に量産する上で極めて有利なプロセスであり、本願発明の用途である発光素子及び光電素子等の電子デバイスの量産化を実現する上で鍵になるプロセスである。このように、本発明の電極箔は、支持基材及び反射層を不要にすることができる。このため、本発明の電極箔は、少なくとも電子デバイスが構築される部分に絶縁層を有しないのが好ましく、より好ましくはいかなる部位にも絶縁層を有しない。
【0033】
所望により電解銅箔12の表面12a上には反射層13が直接、又は後述する反射防止層を介して設けられてもよい。反射層13は、アルミニウム、アルミニウム系合金、銀、及び銀系合金からなる群から選択される少なくとも一種で構成されるのが好ましい。これらの材料は、光の反射率が高いため反射層に適しており、しかも薄膜化した際の平坦性にも優れる。特に、アルミニウム又はアルミニウム系合金は安価な材料であることから好ましい。アルミニウム系合金及び銀系合金としては、発光素子や光電素子においてアノード又はカソードとして使用される一般的な合金組成を有するものが幅広く採用可能である。好ましいアルミニウム系合金組成の例としては、Al−Ni、Al−Cu、Al−Ag、Al−Ce、Al−Zn、Al−B、Al−Ta、Al−Nd、Al−Si、Al−La、Al−Co、Al−Ge、Al−Fe、Al−Li、Al−Mg、Al−Mn、Al−Ti合金が挙げられる。これらの合金を構成する元素であれば、必要な特性に合わせて任意に組み合わせることが可能である。また、好ましい銀合金組成の例としては、Ag−Pd、Ag−Cu、Ag−Al、Ag−Zn、Ag−Mg、Ag−Mn、Ag−Cr、Ag−Ti、Ag−Ta、Ag−Co、Ag−Si、Ag−Ge、Ag−Li、Ag−B、Ag−Pt、Ag−Fe、Ag−Nd、Ag−La、Ag−Ce合金が挙げられる。これらの合金を構成する元素であれば、必要な特性に合わせて任意に組み合わせることが可能である。反射層13の膜厚は特に限定されるものではないが、30〜500nmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは50〜300nmであり、さらに好ましくは100〜250nmである。
【0034】
反射層13がアルミニウム膜又はアルミニウム系合金膜で構成される場合、反射層を少なくとも2つの層からなる積層構造で構成してもよい。この態様にあっては、反射層13が界面によって仕切られた2つの層の積層構造を有し、この界面を境に下層及び上層が互いに異なる結晶方位を有する。これにより、電極箔がかなりの高温に曝される場合であっても、銅箔とアルミニウム含有反射層の間の界面から起こりうるサーマルマイグレーションを効果的に抑制して、サーマルマイグレーションに起因する表面平坦性や反射率の低下を抑制することができる。すなわち、電極箔の耐熱性を向上することができる。したがって、この態様は、200℃以上、好ましくは230℃以上、より好ましくは250℃以上の温度で行われる、正孔注入層塗布後の熱処理において特に有効であるといえる。このような耐熱性の向上は、結晶粒界を優先して進行するサーマルマイグレーションが、結晶粒界が不連続となる界面によって阻止されることにより実現されるものと考えられる。なお、反射層13中の界面の数は2つ以上であってもよく、この場合、反射層は3層以上の積層構造となる。
【0035】
所望により電解銅箔12と反射層13との間に設けられる拡散防止層は、電解銅箔に由来する金属の拡散を防止する機能を有するものであればよく、公知のあらゆる組成および構造の膜が採用可能である。これにより、電極箔がかなりの高温に曝される場合であっても、銅箔とアルミニウム含有反射層の間の界面から起こりうるサーマルマイグレーションを効果的に抑制して、サーマルマイグレーションに起因する表面平坦性や反射率の低下を抑制することができる。すなわち、電極箔の耐熱性を向上することができる。したがって、この態様は、200℃以上、好ましくは230℃以上、より好ましくは250℃以上の温度で行われる、正孔注入層塗布後の熱処理において特に有効であるといえる。なお、拡散防止層は2層以上の積層構造としてもよい。
【0036】
電解銅箔12又は存在する場合には反射層13の少なくとも一方の最表面にはバッファ層14が直接設けられ、このバッファ層の表面が光散乱面を構成するのが好ましい。発光素子又は光電素子の場合、バッファ層14は、半導体機能層と接触して所望の仕事関数を与えるものであれば特に限定されない。本発明におけるバッファ層は、光散乱効果を十分に確保するため、透明又は半透明であるのが好ましい。
【0037】
バッファ層14は、導電性非晶質炭素膜、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜、及びフッ化物膜から選択される少なくとも一種であるのが好ましく、電子デバイスのアノード又はカソードといった適用用途及び要求される特性に応じて適宜選択すればよい。
【0038】
本発明による電解銅箔又は電極箔は、各種電子デバイス用の電極(すなわちアノード又はカソード)として好ましく用いることができる。本発明の電極箔は、概して低応力で屈曲が容易なことからフレキシブル電子デバイス用の電極として用いるのが特に好ましいが、フレキシブル性に劣る又は剛性のある電子デバイスに用いるものであってもよい。そのような電子デバイス(主としてフレキシブル電子デバイス)の例としては、i)発光素子、例えば有機EL素子、有機EL照明、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、液晶ディスプレイ、無機EL素子、無機ELディスプレイ、LED照明、LEDディスプレイ、ii)光電素子、例えば薄膜太陽電池が挙げられるが、好ましくは有機EL素子、有機EL照明、有機ELディスプレイ、有機太陽電池、色素増感太陽電池であり、より好ましくは極薄で高輝度の発光が得られる点で有機EL照明である。また、有機太陽電池の場合、電極材料に求められる特性の多くが有機EL素子の場合に求められる特性と共通するため、本発明による電極箔は有機太陽電池のアノード又はカソードとして好ましく用いることができる。すなわち、本発明による電極箔上に積層させる有機半導体機能層の種類を公知の技術に従い適宜選択することにより、有機デバイスを有機EL素子及び有機太陽電池のいずれにも構成することが可能となる。
【0039】
本発明の電解銅箔又は電極箔はその両面を超平坦にしてもよく、その場合には電極箔の両側に電子デバイスを設けるのに有利となり、これにより電子デバイスを両面に備えた両面機能素子又は両面機能素子箔を提供することができる。また、同一電極の一方の面に発光素子を、他方の面に発電素子を形成することも可能となり、それによって有機EL素子の機能と有機太陽電池の機能を併せ持った従来に無い複合電子デバイスを作製することもできる。さらに、本発明による電極箔は、有機EL素子の電極のみならず、LEDの実装基板にも使用することができる。特に、本発明による電極箔は、LED素子を密に実装することができる点でLED照明用のアノード又はカソードとして好ましく用いることができる。
【0040】
電子デバイス
本発明による電解銅箔又はそれを用いた電極箔を用いることで、半導体特性を有する半導体機能層を電極箔の光散乱面上に備えた電子デバイスを提供することができる。半導体機能層は光散乱面に直接形成されるのが好ましい。半導体機能層は、電極上又は電極間で所望の機能を発現しうる半導体特性を有する層であればいかなる構成や材質のものであってもよいが、有機半導体、無機半導体又はそれらの混合物又は組合せを含むものであるのが好ましい。例えば、半導体機能層は、励起発光又は光励起発電の機能を有し、それにより電子デバイスが発光素子又は光電素子として機能するのが好ましい。また、発光素子や光電素子にあっては、半導体機能層上に透明又は半透明の対向電極が設けられるのが好ましい。本発明の電極箔は、半導体機能層の形成に際して、高分子材料や低分子材料をクロロベンゼン等の溶剤に溶解させて塗布するプロセスが好ましく適用可能であり、また、インライン式の真空プロセスも適用可能であり、生産性の向上に適する。前述したとおり、半導体機能層は電極箔の両面に設けられてもよい。
【0041】
(1)有機EL素子及び有機EL照明
本発明による電極箔を反射電極として用いて、その光散乱面にトップエミッション型有機EL素子を備えた発光素子及び有機EL照明を構築することができる。
【0042】
図3に、本発明の電極箔をアノードとして用いたトップエミッション型有機EL素子の層構成の一例を示す。図3に示される有機EL素子は、電解銅箔22、反射層23及び所望によりバッファ層24を備えたアノードとしての電極箔20と、バッファ層24の表面に直接設けられる有機EL層26と、有機EL層26の表面に直接設けられる透光電極としてのカソード28とを備えてなる。バッファ層24は、アノードとして適するように導電性非晶質炭素膜又は導電性酸化物膜で構成されるのが好ましい。
【0043】
有機EL層26としては、有機EL素子に使用される公知の種々のEL層構成が使用可能であり、所望により正孔注入層及び/又は正孔輸送層、発光層、ならびに所望により電子輸送層及び/又は電子注入層を、アノード電極箔20からカソード28に向かって順次備えてなることができる。正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び電子注入層としては、それぞれ公知の種々の構成ないし組成の層が適宜使用可能であり特に限定されるものではない。
【0044】
図4に、図3に示される有機EL素子が組み込まれたトップエミッション型有機EL照明の層構成の一例が示される。図4に示される有機EL照明において、有機EL素子はアノード電極箔20の電解銅箔22を介して電源30に電気的に接続可能とされる。バッファ層24表面の、有機EL層26と非接触の領域は層間絶縁膜29で被覆される。層間絶縁膜29としては、CVD成膜したSi系絶縁膜が、有機層を劣化させる原因となる水分及び酸素に対するバリア性が高いことから好ましく、より好ましくはSiN系絶縁膜である。さらに好ましい層間絶縁膜は、膜の内部応力が小さく、屈曲性に優れる点で、SiNO系絶縁膜である。
【0045】
カソード28の上方には有機EL素子と対向して封止材32が設けられ、封止材32とカソード28との間には封止用樹脂が充填されて封止膜34が形成される。封止材32としては、ガラスやフィルムを用いることができる。ガラスの場合は、封止膜34上に疎水性粘着テープを用いて直接接着することができる。フィルムの場合は、両面及び端面をSi系絶縁膜で被覆して用いることが可能である。将来的にバリア性の高いフィルムが開発された場合には、被覆処理を行うことなく封止することが可能となり、量産性に優れたものになることが予想される。封止材32としては、フレキシブル性を付与する観点からはフィルムの方が望ましいが、厚さ20〜100μmの非常に薄いガラスにフィルムを接着させた封止材を使用して所望の性能を得ることも可能である。
【0046】
カソード28としてはトップエミッション型有機EL素子に使用される公知の種々のカソードが使用可能であり、光を透過する必要があるため透明又は半透明のものであれば特に限定されないが、仕事関数の低いものが好ましい。好ましいカソードとしては、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜及びフッ化物膜が挙げられ、これらを2層以上に組み合わせるのがより好ましい。これらの膜は、電極箔のバッファ層で述べたものと同様のものが使用可能である。
【0047】
特に好ましいカソードは、導電性酸化物膜からなるカソード層としての透明酸化物層に、マグネシウム系合金膜及び/又はフッ化物膜からなるバッファ層としての半透過金属層を積層させた2層構造であり、抵抗の観点からも実用性が高い。この場合、カソード28の半透過金属層(バッファ層)側を有機EL層26と接触させて用いることにより、高い光透過性と低い仕事関数がもたらされ、有機EL素子の輝度及び電力効率を向上することができる。最も好ましい例としては、IZO(インジウム亜鉛酸化物)からなる透明酸化物層(カソード層)とMg−Agからなる半透過金属層(バッファ層)が積層されてなるカソード構造体が挙げられる。また、カソード構造体は、2層以上の透明酸化物層及び/又は2層以上の半透過金属層を備えるものであってもよい。こうして、有機EL層26で発生した光はカソード28及び封止膜34及び封止材32を通過して外部に放出される。
【0048】
なお、電極箔20の裏面には、使用形態に応じて補助的な基材を適宜設置してもよい。この部分は、発光特性に影響を与えない為、材料選択の自由度は高い。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルニトリル(PEN)等の樹脂フィルムを使用すればフレキシブル性を損なうことが無いので最適といえる。
【0049】
図5に、本発明の電極箔をカソードとして用いたトップエミッション型有機EL素子の層構成の一例を示す。図5に示される有機EL素子は、電解銅箔42、反射層43及びバッファ層44を備えたカソード電極箔40と、バッファ層44の表面に直接設けられる有機EL層46と、有機EL層46の表面に直接設けられる対向電極としてのアノード48とを備えてなる。有機EL層46は、図3に示される有機EL層26と同様に構成可能であり、バッファ層44は、図3に示されるカソード28と同様に構成可能であり、導電性酸化物膜、マグネシウム系合金膜、フッ化物膜、又はそれらの2層以上の組み合わせで構成されるのが好ましい。より好ましいバッファ層44は、マグネシウム系合金膜及び/又はフッ化物膜からなる半透過金属層である。
【0050】
すなわち、図5に示されるカソード電極箔40を用いた有機EL素子は、図3に示されるアノード電極箔20を用いた有機EL素子において、バッファ層24とカソード28を入れ替え、かつ、有機EL層26内部のアノード側からカソード側への積層順序を逆転させた構成に相当する。例えば、カソード電極箔40のバッファ層44としてマグネシウム系合金膜又はフッ化物膜をスパッタリング又は蒸着により形成する一方、アノード48として導電性非晶質炭素、MoO又はVの膜を蒸着法により形成するのが好ましい。特に、導電性非晶質炭素膜を有機EL層上に成膜する場合には、スパッタ時のプラズマダメージを避けるため真空蒸着法を用いるのが好ましい。
【0051】
(2)光電素子
本発明による電極箔を反射電極として用いて、その光散乱面に光電素子を構築することができる。本発明の好ましい態様による光電素子は、電極箔と、電極箔の表面に直接設けられる半導体機能層としての光励起層と、光励起層の表面に直接設けられる対向電極としての透光電極とを備えてなる。光励起層としては、光電素子の半導体機能層として知られる種々の構成及び材料が使用可能である。
【0052】
例えば、図3に示される有機EL層26を公知の有機太陽電池活性層で置き換えることにより、有機太陽電池を構成することができる。本発明の電極箔をアノードとして用いる有機太陽電池の場合、バッファ層(例えばカーボンバッファ層)上に、正孔輸送層(PEDOT:PSS(30nm))、p型有機半導体機能層(例えばBP(ベンゾポルフィリン))、n型有機半導体とp型有機半導体のi型ミキシング層(例えばBP:PCBNB(フラーレン誘導体))、n型有機半導体機能層(例えばPCBM(フラーレン誘導体))、低い仕事関数を有するバッファ層(例えばMg−Ag)及び透明電極層(例えばIZO)を順次積層させて太陽電池を構成することが可能である。また、別の例としては、電解銅箔(例えば銅箔)が反射層(例えばアルミニウム膜)及びn型半導体バッファ層(例えばZnO、SnO、TiO、NbO、In、Ga、及びこれらの組合せ等のn型酸化物半導体)を備え、このn型半導体バッファ層上に、p型有機半導体とn型有機半導体のブレンド層(例えばP3HT:PCBM)、正孔輸送層(例えばPEDOT:PSS)、並びに電極を順次積層させて太陽電池を構成してもよい。これらの各層を構成する材料としては公知の材料を適宜使用することができ、特に限定されない。有機太陽電池に使用される電極は、有機EL素子に使用される電極と同じ材料及び構造を有するものであってよい。本発明の電極箔は反射層を備えることで、キャビティー効果に起因する光の閉じ込めによる発電効率の向上が期待される。
【0053】
このように光励起層は公知の複数の機能層を有して構成されるが、その積層は電極箔から対向電極に向かって各相を順に積層させることによって行ってもよいし、あるいは、電極箔側の第一の積層部分と対向電極側の第二の積層部分とを別個に作製した後、第一及び第二の積層部分を互いに貼り合わせて所望の光励起層を備えた光電素子を得てもよい。
【実施例】
【0054】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0055】
例A1:各種表面処理銅箔の作製及び評価
(1)試料の作製及び評価
種々の加熱後耐力及びPv/Pp比を有する電極箔試料A1〜A3の作製を行った。その際、各試料の表面性状の測定方法は以下のとおりとした。
【0056】
(算術平均粗さRa)
走査型プローブ顕微鏡(Veeco社製、Nano Scope V)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して各試料表面の算術平均粗さRaを測定した。この測定は、10μm平方の範囲について、Tapping Mode AFMにて行った。
【0057】
(Pv/Pp比)
非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して、181μm×136μmの矩形領域に対して、断面曲線の最大山高さPpに対する断面曲線の最大谷深さPvを測定し、Pv/Pp比を算出した。その際の測定条件及びフィルタリング条件は以下とした。
‐レンズ:50×
‐ImageZoom:0.8X
‐測定エリア:181×136μm
‐Filter High:Auto
‐Filter Low:Fixed(150μm)
【0058】
(0.2%耐力)
ロール状電解銅箔から12.5mm×90mmのサイズの矩形状試験片を、その長辺及び短辺がロール状電解銅箔の長尺方向(MD方向)及び短尺方向(TD方向)とそれぞれ一致するように採取した。得られた矩形状試験片を用いて、引張試験機(インストロン社製、1122型)に長尺方向(MD方向)に引っ張られるようにセットして、JIS Z 2241(2011)に準拠して0.2%耐力を測定した。このとき、引張試験機に固定するための片側20mmのつかみ部を試験片の両端に確保することで、実質的な測定箇所の長さを50mmとした。
【0059】
(試料A1‐加熱後低耐力箔(比較))
本発明の比較態様としての加熱後低耐力箔を次のようにして作製した。まず、硫酸濃度を140g/L及び銅濃度80g/Lの硫酸系硫酸銅水溶液を調製した。この硫酸銅水溶液を用いて、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム20ppm、膠10ppm及び塩素30ppmを含む電解液を調製した。この電解液の液温を60℃とし、電解電流密度40A/dmで電解し、厚さ35μm、幅300mm及び長さ100mの電解銅箔を作製した。この電解銅箔の作製は、ドラム形状をしたチタン製の陰極と、その回転陰極の形状に沿って対向して配置される陽極電極との間に、上記硫酸系電解液を液ポンプで循環させながら電解電流を印加させることで、チタン製の回転ドラムに銅を析出させ、所定の厚さに達した銅箔を引き剥がして連続的に巻き取ることにより行った。この電解銅箔のメッキ面のRaは82nmであった。そして常態での0.2%耐力を測定したところ、396N/mmであった。次に、この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:50rpm、荷重:170gf/cm、液供給量:30cc/minの条件で60秒間行った。こうして銅箔表面を超平坦面とした。CMP処理後の試料A1のPv/Pp比は1.5、Raは3.1nmであった。試料A1を200℃で60分間、窒素雰囲気中で焼成した後の0.2%耐力を3回にわたって測定したところ、233、220及び204N/cmであった。また、ロール・トゥ・ロール・プロセスで行われたCMP処理工程から搬出された電解銅箔を観察したところ、図6に示されるように箔中央部分にアンジュレーションが発生し、図7に示されるように箔の端部にフレアが発生していた。
【0060】
(試料A2‐加熱後高耐力箔)
本発明の加熱後高耐力箔を次のようにして作製した。まず、硫酸濃度140g/L及び銅濃度80g/Lの硫酸系硫酸銅水溶液を調製した。この硫酸銅水溶液を用いて、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム20ppm、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド15ppm及び塩素30ppmを含む電解液を調製した。この電解液の液温を60℃とし、電解電流密度60A/dmで電解し、厚さ35μm、幅300mm及び長さ100mの電解銅箔を試料A1と同様の手順で作製した。この電解銅箔のメッキ面のRaは44nmであった。そして常態での0.2%耐力を測定したところ、347N/mmであった。次に、この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:80rpm、荷重:170gf/cm、液供給量:30cc/minの条件で60秒間行った。こうして銅箔表面を超平坦面とした。CMP処理後のサンプルのPv/Pp比は1.3、Raは2.4nm、200℃で60分間、窒素雰囲気中で焼成した後の0.2%耐力を3回にわたって測定したところ、301、289及び261N/cmであり、試料A1よりも加熱後0.2%耐力が高い箔が得られた。また、ロール・トゥ・ロール・プロセスで行われたCMP処理工程から搬出された電解銅箔を観察したところ、図8及び9に示されるとおり、アンジュレーション及びフレアはいずれも発生しなかった。
【0061】
(試料A3‐加熱後高耐力箔))
硫酸濃度を140g/L及び銅濃度80g/Lの硫酸系硫酸銅水溶液を用いて調製した、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド60ppm、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド90ppm、2−メルカプト−5−ベンズイミダゾールスルホン酸30ppm及び塩素45ppmを含む電解液を使用したこと以外は試料A2と同様にして電解銅箔を作製した。200℃で60分間、窒素雰囲気中で焼成した後の0.2%耐力は938N/mmであった。この電解銅箔でも試料A2と同様の効果が得られることを確認した。すなわち、ロール・トゥ・ロール・プロセスで行われたCMP処理工程から搬出された電解銅箔を観察したところ、アンジュレーション及びフレアはいずれも発生しなかった。
【0062】
例B
以下に示す例B1〜B4は、表面及び/又は裏面を処理した電解銅箔について評価を行った参考例である。なお、以下の例において、参考例と称しているのは、0.2%耐力の評価を行っていないためである。
【0063】
例B1:両面処理銅箔の作製及び評価
本発明の両面処理銅箔の作製を以下のとおり行った。まず、厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。なお、以下の説明において、この電解銅箔のめっき面(Ra:57nm)を「表面」と称し、ドラム面(Ra:164nm)を「裏面」と称する。この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:50rpm、荷重:170gf/cm、液供給量:30cc/minの条件で180秒間行った。こうして銅箔表面を超平坦面とした。
【0064】
一方、銅箔の裏面に対しても、エムエーティー社製研磨機を用いて、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:100rpm、荷重:100gf/cm、液供給量:50cc/minの条件で180秒間の条件でCMP処理を行った。次いで、銅箔を1質量%の過酸化水素水に浸漬させ、その後超純水にて洗浄して、銅箔裏面を凹部優位面とした。こうして得られた本発明の両面処理銅箔に対して以下の評価1〜3を行った。
【0065】
評価1:Ra及びPv/Pp比の測定
得られた両面処理銅箔の両面について、非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して、181μm×136μmの矩形領域に対して、断面曲線の最大山高さPpに対する断面曲線の最大谷深さPvを測定し、Pv/Pp比を算出した。同時に、JIS B 0601−2001に準拠して算術平均粗さRaをも測定した。具体的な測定条件及びフィルタリング条件は以下のとおりとした。
‐レンズ:50×
‐ImageZoom:0.8X
‐測定エリア:181×136μm
‐Filter High:Auto
‐Filter Low:Fixed(150μm)
【0066】
その結果、両面処理銅箔の表面(超平坦面)のRaは1.698nm、Pv/Pp比は0.7127である一方、その裏面(凹部優位面)のRaは11.407nm、Pv/Pp比は5.4053であった。非接触表面形状測定機で得られた表面の三次元プロファイルは図10に示されるとおりであり、裏面の三次元プロファイルは図11に示されるとおりであった。
【0067】
評価2:耐酸化性の評価
両面処理銅箔をロール状態で大気中に2週間放置した。両面処理銅箔をロールから引き出し、その表面を観察したところ、図12に示されるとおりメタリックな光沢を有する外観を有していた。2週間放置後の銅箔表面の酸化状態の分析を、Cu−KLLオージェ電子スペクトルを測定することにより行った。この測定は、X線光電子分光装置(XPS)(Quantum2000、アルバック・ファイ(株)製)を用いて以下の条件で行った。
‐X線源:Al線
‐出力40W
‐測定ビーム径200umφ
‐測定エリア:300×900um(上記ビームをこの範囲でラスター)
‐サーベイ測定(定性用):測定範囲0〜1400eV、パスエネルギー58.7eV、ステップ1.0eV、積算時間20分
‐ナロー測定(状態用):
・Cu2pの場合:測定範囲925〜975eV、パスエネルギー23.5eV、ステップ0.1eV、積算回数3回
・CuKLLの場合:測定範囲560〜580eV、パスエネルギー23.5eV、ステップ0.1eV、積算回数3回
【0068】
得られた結果は図13に示されるとおりであり、本発明の両面処理銅箔はロール状態で2週間大気放置しても、0価のCu(すなわち金属Cu)に起因するピークが観察された。このように、両面処理銅箔においては酸化の進行が抑制されることが確認された。
【0069】
また、両面処理銅箔の作製後2日、4日及び7日経過後におけるCu−KLLオージェ電子スペクトルを上記同様にして測定したところ、図14に示される結果が得られ、いずれの日数においても0価のCu(すなわち金属Cu)に起因するピークが明確に観察された。図14に示されるピーク高さに基づいて1価Cuに対する0価Cuの比率を算出したところ下記の表1に示されるとおり、いずれの放置時間においても0価のCuである金属Cu成分の割合が高く、本発明の両面処理銅箔は耐酸化性に優れることが分かる。
【表1】
【0070】
評価3:巻き傷の有無の評価
ロールから引き出した両面処理銅箔の表面における巻き傷の有無を確認すべくレーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS3000)にて観察をおこなったところ、図15に示される写真が得られた。同図において右下に存在するスケールバーの長さは200μmである。図15から明らかなように、本発明の両面処理銅箔の表面には目立った巻き傷は見られなかった。
【0071】
例B2:両面処理銅箔の作製及び評価
銅箔裏面に対するCMP処理時間を60秒にしたこと以外は、例B1と同様にして両面処理銅箔の作製及び評価を行った。その結果、得られた両面処理銅箔の表面(超平坦面)のRaは1.698nm、Pv/Pp比は0.7127である一方、その裏面(凹部優位面)のRaは56.072nm、Pv/Pp比は2.3852であった。また、非接触表面形状測定機で得られた表面の三次元プロファイルは図10と同様であり、裏面の三次元プロファイルは図16に示される通りであった。ロール状態で2週間大気放置された両面処理銅箔の表面を観察したところ、例B1に関する図12と同様の外観を有していた。
【0072】
例B3:片面処理銅箔の作製及び評価
銅箔裏面に対して何ら処理を行わなかったこと以外は例B1及びB2と同様にして、片面処理銅箔の作製及び評価を行った。得られた片面処理銅箔の表面(超平坦面)のRaは1.313nm、Pv/Pp比は1.3069である一方、その裏面のRaは164.387nm、Pv/Pp比は1.0711であった。また、非接触表面形状測定機で得られた表面の三次元プロファイルは図17に示されるとおりである一方、裏面の三次元プロファイルは図18に示される通りであった。ロール状態で2週間大気放置された片面処理銅箔の表面を観察したところ、図19に示されるとおりであり、酸化に起因する褐色の度合いが薄く、酸化抑制効果が確認された。ロールから引き出した片面処理銅箔の表面における巻き傷の有無を確認すべくレーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS3000)にて観察を行ったところ、図20に示される写真が得られた。同図において右下に存在するスケールバーの長さは200μmである。図20から明らかなように、本発明の片面処理銅箔の表面には巻き傷が散見された。
【0073】
例B4(比較):両面未処理銅箔の作製及び評価
銅箔両面に対して何ら表面処理を行わなかったこと以外は例B1〜B3と同様にして、両面未処理銅箔の作製及び評価を行った。得られた両面未処理銅箔の表面のRaは57.213nm、Pv/Pp比は0.9856である一方、その裏面のRaは164.387nm、Pv/Pp比は1.0711であった。また、非接触表面形状測定機で得られた表面の三次元プロファイルは図21に示されるとおりである一方、裏面の三次元プロファイルは例B3に関する図18と同様であった。ロール状態で2週間大気放置された両面未処理銅箔の表面を観察したところ、図22に示されるとおりであり、酸化に起因する褐色系の変色が例B3の片面未処理銅箔よりも顕著であった。従って、両面未処理銅箔はロール状態でも極めて酸化し易いことが分かる。Cu−KLLオージェ電子スペクトルの結果は図13に示されるとおりであり、両面未処理銅箔はロール状態で2週間大気放置後、0価のCu(すなわち金属Cu)に起因するピークが観察されなかった。このように、両面未処理銅箔は酸化しやすいことが確認された。
【0074】
また、両面未処理銅箔を希硫酸で処理して酸化膜の除去を試みたが、2価のCuに相当するCuOの高抵抗膜は除去できたものの、酸洗後2日目にして既に1価のCuに相当するCuOの酸化膜で箔表面が覆われてしまうことが分かった。ロール状態で2週間大気放置した後に酸洗処理を行った両面未処理銅箔のCu−KLLオージェ電子スペクトルが図13に示されるが、同図から明らかなように酸洗処理によって酸化膜の除去を試みたとしても箔表面には1価のCu(すなわちCuO)の酸化膜で覆われていることが分かる。この結果から、本発明の両面処理銅箔により実現される耐酸化性表面は単なる酸洗処理では実現できないことが分かる。
【0075】
例C
以下に示す例C1〜C4は、Pv/Pp比が2.0以上であることの優位性を実証するための参考例である。なお、以下の例において、参考例と称しているのは、0.2%耐力の評価を行っていないためである。
【0076】
例C1:各種Pv/Pp比の電極箔における光散乱効果の測定
(1)試料の作製
各種Pv/Pp比の電極箔試料C1〜C5の作製を行った。その際、各試料の表面性状の測定方法は以下のとおりとした。
【0077】
(算術平均粗さRa)
走査型プローブ顕微鏡(Veeco社製、Nano Scope V)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して各試料表面の算術平均粗さRaを測定した。この測定は、10μm平方の範囲について、Tapping Mode AFMにて行った。
【0078】
(Pv/Pp比)
非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して、181μm×136μmの矩形領域に対して、断面曲線の最大山高さPpに対する断面曲線の最大谷深さPvを測定し、Pv/Pp比を算出した。その際の測定条件及びフィルタリング条件は以下とした。
‐レンズ:50×
‐ImageZoom:0.8X
‐測定エリア:181×136μm
‐Filter High:Auto
‐Filter Low:Fixed(150μm)
【0079】
(試料C1‐比較)
比較のための標準反射膜を備えた試料C1を得るために、算術平均粗さRaが0.2nmの石英基板の表面上に、反射層として厚さ200nmのアルミニウム膜をスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、純度99.99%のAlターゲットをクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):1000W(3.1W/cm)、到達真空度:<5×10−5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。こうして得られた試料C1の表面性状を測定したところ、算術平均粗さRaは0.8nmであり、Pv/Pp比は1.02であった。
【0080】
(試料C2)
Pv/Pp比が1.2以上2.0未満のPv/Pp比の試料C2の作製を以下のとおり行った。まず、金属箔として、厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。この銅箔表面の算術平均粗さRaは16.5nmであった。この銅箔基板の表面を、化学研磨剤(三菱ガス化学社製、CPB−10)を用いて化学研磨した。この化学研磨は、化学研磨剤と水を1:2の重量割合で混合して希釈した溶液に、銅箔基板を室温で1分間浸漬させることにより行った。こうして処理された銅箔基板を純水で洗浄した後、0.1Nの希硫酸で洗浄を行い、純水で再度洗浄して、乾燥を行った。こうして研磨処理された表面上に、試料C1と同様の条件でアルミニウム反射層の形成を行った。得られた試料C2の表面の性状を試料C1と同様にして測定したところ、算術平均粗さRaは19.3nm、Pv/Pp比は1.86であった。
【0081】
(試料C3)
Pv/Pp比が2.0以上の試料C3の作製を以下のとおり行った。まず、金属箔として、厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:30rpm、荷重:200gf/cm、液供給量:100cc/minの条件で40秒間行った。こうしてCMP処理された銅箔表面の算術平均粗さRaは6.2nmであった。流水式超音波洗浄機(本多電子社製)を用いて、高周波出力60Wで銅箔表面を20分間処理した。こうして研磨及び表面改質された表面上に、試料C1と同様の条件でアルミニウム反射層の形成を行った。得られた試料C3の表面の性状を測定したところ、算術平均粗さRaは16.2nm、Pv/Pp比は2.14であった。
【0082】
(試料C4)
Pv/Pp比が2.0以上の試料C4の作製を以下のとおり行った。まず、金属箔として、厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:30rpm、荷重:200gf/cm、液供給量:100cc/minの条件で60秒間行った。こうしてCMP処理された銅箔表面の算術平均粗さRaは3.1nmであった。流水式超音波洗浄機(本多電子社製)を用いて、高周波出力60Wで銅箔表面を10分間処理した。こうして研磨及び表面改質された表面上に、試料C1と同様の条件でアルミニウム反射層の形成を行った。得られた試料C4の表面の性状を測定したところ、算術平均粗さRaは6.1nm、Pv/Pp比は2.54であった。
【0083】
(試料C5)
Pv/Pp比が2.0以上の試料C5の作製を以下のとおり行った。まず、金属箔として、厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:30rpm、荷重:200gf/cm、液供給量:100cc/minの条件で40秒間行った。こうしてCMP処理された銅箔表面の算術平均粗さRaは6.8nmであった。流水式超音波洗浄機(本多電子社製)を用いて、高周波出力60Wで銅箔表面を10分間処理した。こうして研磨及び表面改質された表面上に、試料C1と同様の条件でアルミニウム反射層の形成を行った。得られた試料C5の表面の性状を測定したところ、算術平均粗さRaは13.7nm、Pv/Pp比は4.9であった。
【0084】
(2)光散乱特性の測定
試料C1〜C5について光散乱特性の測定を、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U4100)を用いて行った。この測定は、図23に示されるように、各試料Sに対して所定の角度θで光を入射及び反射させて積分球74に導くように複数のミラー72a,72b,72c,72dを配置させてなる光学測定系70を用意して、測定波長域:250nm〜800nm(可視光域全域)、スキャン速度:300nm/minの条件で行った。この測定系70においては、試料Sによる光散乱が大きいほど、積分球74に取り込まれる光量が減少する。
【0085】
光散乱効果の評価は、10°、30°及び60°の各反射角について、標準反射膜としての試料C1の正絶対反射率を1として、試料C2〜5の正絶対反射率を相対的に評価することにより行った。すなわち、試料C2〜5の正絶対反射率の値を測定し、これを標準反射膜(試料C1)の正絶対反射率の値で割った値を光散乱相対値として算出した。したがって、光散乱相対値が大きいほど光散乱効果が改善したことを意味する。なお、上述のとおり、各試料の反射層はいずれも同一の材質(純度99.99%のアルミニウム被膜)及び実質的に同一の膜厚(200nm(±5%))として、反射膜の材質や厚さに起因する光吸収条件等が一致するようにした。また、試料のサイズは80mm×80mm平方とした。
【0086】
各試料について得られた光散乱相対値は以下の表2〜4に示されるとおりであった。
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
その結果、各測定反射角及び、各測定波長領域において、Pv/Ppが2.0以上の時、0.1以上の散乱効果がえられた。
【0090】
例C2:各種表面性状の電極箔の作製及び評価
例C1の試料C2〜C5に示される各種の条件を適宜変更して、図24に示される算術平均粗さRa及びPv/Pp比を有する各種の電極箔を作製した。これらの電極箔について例C1と同様にして光散乱特性を評価したところ、図24に示されるように、Pv/Pp比が2.0以上の試料はいずれも光散乱特性が1.2倍向上する一方、Pv/Pp比が2.0未満の試料はそのような高い光散乱性が得られなかった。また、これらの電極箔を用いて発光素子又は発電素子を作製したところ、図24に示されるように、Raが60nm以下の場合には対向電極との短絡を回避して初期の素子特性が得られた。したがって、Pv/Pp比が2.0以上で、かつ、Raが60nm以下の表面プロファイルが好ましいことが分かる。
【0091】
図24に矢印で特定される試料C6の光散乱面をSEM(1000倍)で観察したところ、図25に示されるように凹凸形状の判別が困難であった。そこで、図24に矢印で特定される試料C6及びC7について表面プロファイルを非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)で測定したところ、図26図29に示されるプロファイル画像が得られた。図26及び27に示される表面プロファイルは本発明による光散乱効果の改善がみられた試料C6に関するものであり、凸部の形成が抑制され凹部が優先的に形成された望ましい表面プロファイルである。一方、図28及び29に示される表面プロファイルは光散乱効果の改善に乏しかった試料C7に関するものである。
【0092】
例C3:光電特性の評価
(1)光電素子の作製
図30に示されるように、電極箔として例C2で得られた、銅箔82上にアルミニウム反射層83を備えた試料C6及びC7を用いて光電素子を作製した。まず、このアルミニウム反射層83に、スパッタリングによってZnOからなる厚さ20nmのn型半導体バッファ層84を形成した。このバッファ層84上に、プラズマCVD装置(サムコ社製、PD−2202L)を用いて、窒化ケイ素からなる層間絶縁膜を形成した。その際、厚さ0.1mm、幅2mm、長さ10mmの複数枚の薄ガラスを2mm幅で電極箔上に並べることにより、受光部となるべき個所を覆った。窒化ケイ素成膜後、薄ガラスを除去した。その後、電極箔80を、40〜50℃に加熱したイソプロピルアルコール溶液で洗浄し、窒素ガスを用いて乾燥させた。次に、クロロベンゼン溶液中にP3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)とPCBM((6,6)−フェニル−C61−ブチル酸メチルエステル)を各々10mg/ml浸漬させ、24時間で25℃前後の環境下で放置させ、完全に溶解させた。P3HTとPCBMが溶解した混合クロロベンゼン溶液を1500rpmで電極箔80にスピンコートし、P3HT:PCBM層86aが100nmの厚さになるように調整した。次に、PEDOT:PSS(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/ポリ(4−スチレンスルホネート))分散溶液(1.3重量%)を5000rpmで電極箔にスピンコートした。コーティングを180℃で30分間、ホットプレート上で乾燥させて、PEDOT:PSS層86bを得た。金を真空蒸着装置にて約100nmの厚さになるように成膜して対向電極88aを得た。その際、受光部となるべき箇所は、櫛形のメタルマスクを用いて光を遮蔽しないようにした。その後、150℃で30分間、不活性雰囲気(窒素)下で焼成を行った。こうして図30に示される光電素子を得た。
【0093】
(2)光電特性の評価
得られた光電素子について、シミュレータ(三永電機製、XES−40S1)、IV測定器(ADCMT製、6241A)及びソフトウェア(サンライズ社製)を用いて太陽電池発電効率を、AM(エアマス):1.5(規準光)以下及び入射光強度:100mW/cmの計測条件で測定した。測定結果は以下の表5及び図31に示されるとおりであった。
【0094】
【表5】
【0095】
表4及び図31に示されるように、Pv/Pp比が高い試料C6においては、Pv/Pp比が低い試料C7と比べて、曲線因子FF及び変換効率ηが有意に高いことから、発電効率が格段に優れていることが分かる。
【0096】
例C4:凹部のみ電極箔の作製及び評価
金属箔として厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製、3EC−III)を用い、CMP処理を2分間行ったこと以外は、試料C2と同様にして電極箔の作製を行い、試料C8とした。この試料C8の光散乱面をSEM(1000倍)で観察したところ、図32に示されるように実質的に凹部のみを有する表面性状が観察された。また、試料C8について表面プロファイルを非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)で測定したところ、図33及び34に示されるプロファイル画像が得られた。これらの結果から明らかなように、試料C8の光散乱面は凸部が実質的に除去され、実質的に凹部のみが形成された極めて望ましい表面プロファイルを有していた。観察した凹部の殆どが深さ1μm以下、長手方向長さ100μm以下のものであった。凹部の個数を、SEM1000倍視野(10000μm)の視野においてカウントしたところ約170個であった。このような実質的に凹部のみが形成された電極箔にあっては、電極間の短絡をより一層確実に防止しながら、より優れた光散乱性を発揮することができ、それにより発光効率や発電効率が更に向上することが可能である。
【0097】
例D1:各種Ra及びPv/Pp比の電極箔の作製及び評価
例A1の試料A2の作製条件を適宜変更させて、表6に示されるRa及びPv/Pp比を表面に有する電解銅箔試料D1〜D3を作製し、有機EL発光素子を作製した。発光素子としての評価を行ったところ表6に示されるとおりであった。表6に示される結果から、Raが低く、かつ、Pv/Ppが1.2以上であると信頼性のある発光素子を得る上で好ましいといえる。試料D1、D2及びD3の表面プロファイルを非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)で測定したところ、図35、36及び37に示されるプロファイル画像がそれぞれ得られた。
【0098】
【表6】
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