【実施例】
【0054】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0055】
例A1:各種表面処理銅箔の作製及び評価
(1)試料の作製及び評価
種々の加熱後耐力及びPv/Pp比を有する電極箔試料A1〜A3の作製を行った。その際、各試料の表面性状の測定方法は以下のとおりとした。
【0056】
(算術平均粗さRa)
走査型プローブ顕微鏡(Veeco社製、Nano Scope V)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して各試料表面の算術平均粗さRaを測定した。この測定は、10μm平方の範囲について、Tapping Mode AFMにて行った。
【0057】
(Pv/Pp比)
非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して、181μm×136μmの矩形領域に対して、断面曲線の最大山高さPpに対する断面曲線の最大谷深さPvを測定し、Pv/Pp比を算出した。その際の測定条件及びフィルタリング条件は以下とした。
‐レンズ:50×
‐ImageZoom:0.8X
‐測定エリア:181×136μm
‐Filter High:Auto
‐Filter Low:Fixed(150μm)
【0058】
(0.2%耐力)
ロール状電解銅箔から12.5mm×90mmのサイズの矩形状試験片を、その長辺及び短辺がロール状電解銅箔の長尺方向(MD方向)及び短尺方向(TD方向)とそれぞれ一致するように採取した。得られた矩形状試験片を用いて、引張試験機(インストロン社製、1122型)に長尺方向(MD方向)に引っ張られるようにセットして、JIS Z 2241(2011)に準拠して0.2%耐力を測定した。このとき、引張試験機に固定するための片側20mmのつかみ部を試験片の両端に確保することで、実質的な測定箇所の長さを50mmとした。
【0059】
(試料A1‐加熱後低耐力箔(比較))
本発明の比較態様としての加熱後低耐力箔を次のようにして作製した。まず、硫酸濃度を140g/L及び銅濃度80g/Lの硫酸系硫酸銅水溶液を調製した。この硫酸銅水溶液を用いて、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム20ppm、膠10ppm及び塩素30ppmを含む電解液を調製した。この電解液の液温を60℃とし、電解電流密度40A/dm
2で電解し、厚さ35μm、幅300mm及び長さ100mの電解銅箔を作製した。この電解銅箔の作製は、ドラム形状をしたチタン製の陰極と、その回転陰極の形状に沿って対向して配置される陽極電極との間に、上記硫酸系電解液を液ポンプで循環させながら電解電流を印加させることで、チタン製の回転ドラムに銅を析出させ、所定の厚さに達した銅箔を引き剥がして連続的に巻き取ることにより行った。この電解銅箔のメッキ面のRaは82nmであった。そして常態での0.2%耐力を測定したところ、396N/mm
2であった。次に、この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:50rpm、荷重:170gf/cm
2、液供給量:30cc/minの条件で60秒間行った。こうして銅箔表面を超平坦面とした。CMP処理後の試料A1のPv/Pp比は1.5、Raは3.1nmであった。試料A1を200℃で60分間、窒素雰囲気中で焼成した後の0.2%耐力を3回にわたって測定したところ、233、220及び204N/cm
2であった。また、ロール・トゥ・ロール・プロセスで行われたCMP処理工程から搬出された電解銅箔を観察したところ、
図6に示されるように箔中央部分にアンジュレーションが発生し、
図7に示されるように箔の端部にフレアが発生していた。
【0060】
(試料A2‐加熱後高耐力箔)
本発明の加熱後高耐力箔を次のようにして作製した。まず、硫酸濃度140g/L及び銅濃度80g/Lの硫酸系硫酸銅水溶液を調製した。この硫酸銅水溶液を用いて、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム20ppm、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド15ppm及び塩素30ppmを含む電解液を調製した。この電解液の液温を60℃とし、電解電流密度60A/dm
2で電解し、厚さ35μm、幅300mm及び長さ100mの電解銅箔を試料A1と同様の手順で作製した。この電解銅箔のメッキ面のRaは44nmであった。そして常態での0.2%耐力を測定したところ、347N/mm
2であった。次に、この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:80rpm、荷重:170gf/cm
2、液供給量:30cc/minの条件で60秒間行った。こうして銅箔表面を超平坦面とした。CMP処理後のサンプルのPv/Pp比は1.3、Raは2.4nm、200℃で60分間、窒素雰囲気中で焼成した後の0.2%耐力を3回にわたって測定したところ、301、289及び261N/cm
2であり、試料A1よりも加熱後0.2%耐力が高い箔が得られた。また、ロール・トゥ・ロール・プロセスで行われたCMP処理工程から搬出された電解銅箔を観察したところ、
図8及び9に示されるとおり、アンジュレーション及びフレアはいずれも発生しなかった。
【0061】
(試料A3‐加熱後高耐力箔))
硫酸濃度を140g/L及び銅濃度80g/Lの硫酸系硫酸銅水溶液を用いて調製した、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド60ppm、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド90ppm、2−メルカプト−5−ベンズイミダゾールスルホン酸30ppm及び塩素45ppmを含む電解液を使用したこと以外は試料A2と同様にして電解銅箔を作製した。200℃で60分間、窒素雰囲気中で焼成した後の0.2%耐力は938N/mm
2であった。この電解銅箔でも試料A2と同様の効果が得られることを確認した。すなわち、ロール・トゥ・ロール・プロセスで行われたCMP処理工程から搬出された電解銅箔を観察したところ、アンジュレーション及びフレアはいずれも発生しなかった。
【0062】
例B
以下に示す例B1〜B4は、表面及び/又は裏面を処理した電解銅箔について評価を行った参考例である。なお、以下の例において、参考例と称しているのは、0.2%耐力の評価を行っていないためである。
【0063】
例B1:両面処理銅箔の作製及び評価
本発明の両面処理銅箔の作製を以下のとおり行った。まず、厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。なお、以下の説明において、この電解銅箔のめっき面(Ra:57nm)を「表面」と称し、ドラム面(Ra:164nm)を「裏面」と称する。この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:50rpm、荷重:170gf/cm
2、液供給量:30cc/minの条件で180秒間行った。こうして銅箔表面を超平坦面とした。
【0064】
一方、銅箔の裏面に対しても、エムエーティー社製研磨機を用いて、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:100rpm、荷重:100gf/cm
2、液供給量:50cc/minの条件で180秒間の条件でCMP処理を行った。次いで、銅箔を1質量%の過酸化水素水に浸漬させ、その後超純水にて洗浄して、銅箔裏面を凹部優位面とした。こうして得られた本発明の両面処理銅箔に対して以下の評価1〜3を行った。
【0065】
評価1:
Ra及びPv/Pp比の測定
得られた両面処理銅箔の両面について、非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して、181μm×136μmの矩形領域に対して、断面曲線の最大山高さPpに対する断面曲線の最大谷深さPvを測定し、Pv/Pp比を算出した。同時に、JIS B 0601−2001に準拠して算術平均粗さRaをも測定した。具体的な測定条件及びフィルタリング条件は以下のとおりとした。
‐レンズ:50×
‐ImageZoom:0.8X
‐測定エリア:181×136μm
‐Filter High:Auto
‐Filter Low:Fixed(150μm)
【0066】
その結果、両面処理銅箔の表面(超平坦面)のRaは1.698nm、Pv/Pp比は0.7127である一方、その裏面(凹部優位面)のRaは11.407nm、Pv/Pp比は5.4053であった。非接触表面形状測定機で得られた表面の三次元プロファイルは
図10に示されるとおりであり、裏面の三次元プロファイルは
図11に示されるとおりであった。
【0067】
評価2:
耐酸化性の評価
両面処理銅箔をロール状態で大気中に2週間放置した。両面処理銅箔をロールから引き出し、その表面を観察したところ、
図12に示されるとおりメタリックな光沢を有する外観を有していた。2週間放置後の銅箔表面の酸化状態の分析を、Cu−KLLオージェ電子スペクトルを測定することにより行った。この測定は、X線光電子分光装置(XPS)(Quantum2000、アルバック・ファイ(株)製)を用いて以下の条件で行った。
‐X線源:Al線
‐出力40W
‐測定ビーム径200umφ
‐測定エリア:300×900um(上記ビームをこの範囲でラスター)
‐サーベイ測定(定性用):測定範囲0〜1400eV、パスエネルギー58.7eV、ステップ1.0eV、積算時間20分
‐ナロー測定(状態用):
・Cu2pの場合:測定範囲925〜975eV、パスエネルギー23.5eV、ステップ0.1eV、積算回数3回
・CuKLLの場合:測定範囲560〜580eV、パスエネルギー23.5eV、ステップ0.1eV、積算回数3回
【0068】
得られた結果は
図13に示されるとおりであり、本発明の両面処理銅箔はロール状態で2週間大気放置しても、0価のCu(すなわち金属Cu)に起因するピークが観察された。このように、両面処理銅箔においては酸化の進行が抑制されることが確認された。
【0069】
また、両面処理銅箔の作製後2日、4日及び7日経過後におけるCu−KLLオージェ電子スペクトルを上記同様にして測定したところ、
図14に示される結果が得られ、いずれの日数においても0価のCu(すなわち金属Cu)に起因するピークが明確に観察された。
図14に示されるピーク高さに基づいて1価Cuに対する0価Cuの比率を算出したところ下記の表1に示されるとおり、いずれの放置時間においても0価のCuである金属Cu成分の割合が高く、本発明の両面処理銅箔は耐酸化性に優れることが分かる。
【表1】
【0070】
評価3:
巻き傷の有無の評価
ロールから引き出した両面処理銅箔の表面における巻き傷の有無を確認すべくレーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS3000)にて観察をおこなったところ、
図15に示される写真が得られた。同図において右下に存在するスケールバーの長さは200μmである。
図15から明らかなように、本発明の両面処理銅箔の表面には目立った巻き傷は見られなかった。
【0071】
例B2:両面処理銅箔の作製及び評価
銅箔裏面に対するCMP処理時間を60秒にしたこと以外は、例B1と同様にして両面処理銅箔の作製及び評価を行った。その結果、得られた両面処理銅箔の表面(超平坦面)のRaは1.698nm、Pv/Pp比は0.7127である一方、その裏面(凹部優位面)のRaは56.072nm、Pv/Pp比は2.3852であった。また、非接触表面形状測定機で得られた表面の三次元プロファイルは
図10と同様であり、裏面の三次元プロファイルは
図16に示される通りであった。ロール状態で2週間大気放置された両面処理銅箔の表面を観察したところ、例B1に関する
図12と同様の外観を有していた。
【0072】
例B3:片面処理銅箔の作製及び評価
銅箔裏面に対して何ら処理を行わなかったこと以外は例B1及びB2と同様にして、片面処理銅箔の作製及び評価を行った。得られた片面処理銅箔の表面(超平坦面)のRaは1.313nm、Pv/Pp比は1.3069である一方、その裏面のRaは164.387nm、Pv/Pp比は1.0711であった。また、非接触表面形状測定機で得られた表面の三次元プロファイルは
図17に示されるとおりである一方、裏面の三次元プロファイルは
図18に示される通りであった。ロール状態で2週間大気放置された片面処理銅箔の表面を観察したところ、
図19に示されるとおりであり、酸化に起因する褐色の度合いが薄く、酸化抑制効果が確認された。ロールから引き出した片面処理銅箔の表面における巻き傷の有無を確認すべくレーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS3000)にて観察を行ったところ、
図20に示される写真が得られた。同図において右下に存在するスケールバーの長さは200μmである。
図20から明らかなように、本発明の片面処理銅箔の表面には巻き傷が散見された。
【0073】
例B4(比較):両面未処理銅箔の作製及び評価
銅箔両面に対して何ら表面処理を行わなかったこと以外は例B1〜B3と同様にして、両面未処理銅箔の作製及び評価を行った。得られた両面未処理銅箔の表面のRaは57.213nm、Pv/Pp比は0.9856である一方、その裏面のRaは164.387nm、Pv/Pp比は1.0711であった。また、非接触表面形状測定機で得られた表面の三次元プロファイルは
図21に示されるとおりである一方、裏面の三次元プロファイルは例B3に関する
図18と同様であった。ロール状態で2週間大気放置された両面未処理銅箔の表面を観察したところ、
図22に示されるとおりであり、酸化に起因する褐色系の変色が例B3の片面未処理銅箔よりも顕著であった。従って、両面未処理銅箔はロール状態でも極めて酸化し易いことが分かる。Cu−KLLオージェ電子スペクトルの結果は
図13に示されるとおりであり、両面未処理銅箔はロール状態で2週間大気放置後、0価のCu(すなわち金属Cu)に起因するピークが観察されなかった。このように、両面未処理銅箔は酸化しやすいことが確認された。
【0074】
また、両面未処理銅箔を希硫酸で処理して酸化膜の除去を試みたが、2価のCuに相当するCuOの高抵抗膜は除去できたものの、酸洗後2日目にして既に1価のCuに相当するCu
2Oの酸化膜で箔表面が覆われてしまうことが分かった。ロール状態で2週間大気放置した後に酸洗処理を行った両面未処理銅箔のCu−KLLオージェ電子スペクトルが
図13に示されるが、同図から明らかなように酸洗処理によって酸化膜の除去を試みたとしても箔表面には1価のCu(すなわちCu
2O)の酸化膜で覆われていることが分かる。この結果から、本発明の両面処理銅箔により実現される耐酸化性表面は単なる酸洗処理では実現できないことが分かる。
【0075】
例C
以下に示す例C1〜C4は、Pv/Pp比が2.0以上であることの優位性を実証するための参考例である。なお、以下の例において、参考例と称しているのは、0.2%耐力の評価を行っていないためである。
【0076】
例C1:各種Pv/Pp比の電極箔における光散乱効果の測定
(1)試料の作製
各種Pv/Pp比の電極箔試料C1〜C5の作製を行った。その際、各試料の表面性状の測定方法は以下のとおりとした。
【0077】
(算術平均粗さRa)
走査型プローブ顕微鏡(Veeco社製、Nano Scope V)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して各試料表面の算術平均粗さRaを測定した。この測定は、10μm平方の範囲について、Tapping Mode AFMにて行った。
【0078】
(Pv/Pp比)
非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)を用いてJIS B 0601−2001に準拠して、181μm×136μmの矩形領域に対して、断面曲線の最大山高さPpに対する断面曲線の最大谷深さPvを測定し、Pv/Pp比を算出した。その際の測定条件及びフィルタリング条件は以下とした。
‐レンズ:50×
‐ImageZoom:0.8X
‐測定エリア:181×136μm
‐Filter High:Auto
‐Filter Low:Fixed(150μm)
【0079】
(試料C1‐比較)
比較のための標準反射膜を備えた試料C1を得るために、算術平均粗さRaが0.2nmの石英基板の表面上に、反射層として厚さ200nmのアルミニウム膜をスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、純度99.99%のAlターゲットをクライオ(Cryo)ポンプが接続されたマグネトロンスパッタ装置(MSL−464、トッキ株式会社製)に装着した後、投入パワー(DC):1000W(3.1W/cm
2)、到達真空度:<5×10
−5Pa、スパッタ圧力:0.5Pa、Ar流量:100sccm、基板温度:室温の条件で行った。こうして得られた試料C1の表面性状を測定したところ、算術平均粗さRaは0.8nmであり、Pv/Pp比は1.02であった。
【0080】
(試料C2)
Pv/Pp比が1.2以上2.0未満のPv/Pp比の試料C2の作製を以下のとおり行った。まず、金属箔として、厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。この銅箔表面の算術平均粗さRaは16.5nmであった。この銅箔基板の表面を、化学研磨剤(三菱ガス化学社製、CPB−10)を用いて化学研磨した。この化学研磨は、化学研磨剤と水を1:2の重量割合で混合して希釈した溶液に、銅箔基板を室温で1分間浸漬させることにより行った。こうして処理された銅箔基板を純水で洗浄した後、0.1Nの希硫酸で洗浄を行い、純水で再度洗浄して、乾燥を行った。こうして研磨処理された表面上に、試料C1と同様の条件でアルミニウム反射層の形成を行った。得られた試料C2の表面の性状を試料C1と同様にして測定したところ、算術平均粗さRaは19.3nm、Pv/Pp比は1.86であった。
【0081】
(試料C3)
Pv/Pp比が2.0以上の試料C3の作製を以下のとおり行った。まず、金属箔として、厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:30rpm、荷重:200gf/cm
2、液供給量:100cc/minの条件で40秒間行った。こうしてCMP処理された銅箔表面の算術平均粗さRaは6.2nmであった。流水式超音波洗浄機(本多電子社製)を用いて、高周波出力60Wで銅箔表面を20分間処理した。こうして研磨及び表面改質された表面上に、試料C1と同様の条件でアルミニウム反射層の形成を行った。得られた試料C3の表面の性状を測定したところ、算術平均粗さRaは16.2nm、Pv/Pp比は2.14であった。
【0082】
(試料C4)
Pv/Pp比が2.0以上の試料C4の作製を以下のとおり行った。まず、金属箔として、厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:30rpm、荷重:200gf/cm
2、液供給量:100cc/minの条件で60秒間行った。こうしてCMP処理された銅箔表面の算術平均粗さRaは3.1nmであった。流水式超音波洗浄機(本多電子社製)を用いて、高周波出力60Wで銅箔表面を10分間処理した。こうして研磨及び表面改質された表面上に、試料C1と同様の条件でアルミニウム反射層の形成を行った。得られた試料C4の表面の性状を測定したところ、算術平均粗さRaは6.1nm、Pv/Pp比は2.54であった。
【0083】
(試料C5)
Pv/Pp比が2.0以上の試料C5の作製を以下のとおり行った。まず、金属箔として、厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製DFF(Dual Flat Foil)を用意した。この銅箔の表面を、エムエーティー社製研磨機を用いたCMP処理に付した。このCMP処理は、XY溝付き研磨パット及びコロイダルシリカ系研磨液を用いて、パッド回転数:30rpm、荷重:200gf/cm
2、液供給量:100cc/minの条件で40秒間行った。こうしてCMP処理された銅箔表面の算術平均粗さRaは6.8nmであった。流水式超音波洗浄機(本多電子社製)を用いて、高周波出力60Wで銅箔表面を10分間処理した。こうして研磨及び表面改質された表面上に、試料C1と同様の条件でアルミニウム反射層の形成を行った。得られた試料C5の表面の性状を測定したところ、算術平均粗さRaは13.7nm、Pv/Pp比は4.9であった。
【0084】
(2)光散乱特性の測定
試料C1〜C5について光散乱特性の測定を、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U4100)を用いて行った。この測定は、
図23に示されるように、各試料Sに対して所定の角度θで光を入射及び反射させて積分球74に導くように複数のミラー72a,72b,72c,72dを配置させてなる光学測定系70を用意して、測定波長域:250nm〜800nm(可視光域全域)、スキャン速度:300nm/minの条件で行った。この測定系70においては、試料Sによる光散乱が大きいほど、積分球74に取り込まれる光量が減少する。
【0085】
光散乱効果の評価は、10°、30°及び60°の各反射角について、標準反射膜としての試料C1の正絶対反射率を1として、試料C2〜5の正絶対反射率を相対的に評価することにより行った。すなわち、試料C2〜5の正絶対反射率の値を測定し、これを標準反射膜(試料C1)の正絶対反射率の値で割った値を光散乱相対値として算出した。したがって、光散乱相対値が大きいほど光散乱効果が改善したことを意味する。なお、上述のとおり、各試料の反射層はいずれも同一の材質(純度99.99%のアルミニウム被膜)及び実質的に同一の膜厚(200nm(±5%))として、反射膜の材質や厚さに起因する光吸収条件等が一致するようにした。また、試料のサイズは80mm×80mm平方とした。
【0086】
各試料について得られた光散乱相対値は以下の表2〜4に示されるとおりであった。
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
その結果、各測定反射角及び、各測定波長領域において、Pv/Ppが2.0以上の時、0.1以上の散乱効果がえられた。
【0090】
例C2:各種表面性状の電極箔の作製及び評価
例C1の試料C2〜C5に示される各種の条件を適宜変更して、
図24に示される算術平均粗さRa及びPv/Pp比を有する各種の電極箔を作製した。これらの電極箔について例C1と同様にして光散乱特性を評価したところ、
図24に示されるように、Pv/Pp比が2.0以上の試料はいずれも光散乱特性が1.2倍向上する一方、Pv/Pp比が2.0未満の試料はそのような高い光散乱性が得られなかった。また、これらの電極箔を用いて発光素子又は発電素子を作製したところ、
図24に示されるように、Raが60nm以下の場合には対向電極との短絡を回避して初期の素子特性が得られた。したがって、Pv/Pp比が2.0以上で、かつ、Raが60nm以下の表面プロファイルが好ましいことが分かる。
【0091】
図24に矢印で特定される試料C6の光散乱面をSEM(1000倍)で観察したところ、
図25に示されるように凹凸形状の判別が困難であった。そこで、
図24に矢印で特定される試料C6及びC7について表面プロファイルを非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)で測定したところ、
図26〜
図29に示されるプロファイル画像が得られた。
図26及び27に示される表面プロファイルは本発明による光散乱効果の改善がみられた試料C6に関するものであり、凸部の形成が抑制され凹部が優先的に形成された望ましい表面プロファイルである。一方、
図28及び29に示される表面プロファイルは光散乱効果の改善に乏しかった試料C7に関するものである。
【0092】
例C3:光電特性の評価
(1)光電素子の作製
図30に示されるように、電極箔として例C2で得られた、銅箔82上にアルミニウム反射層83を備えた試料C6及びC7を用いて光電素子を作製した。まず、このアルミニウム反射層83に、スパッタリングによってZnOからなる厚さ20nmのn型半導体バッファ層84を形成した。このバッファ層84上に、プラズマCVD装置(サムコ社製、PD−2202L)を用いて、窒化ケイ素からなる層間絶縁膜を形成した。その際、厚さ0.1mm、幅2mm、長さ10mmの複数枚の薄ガラスを2mm幅で電極箔上に並べることにより、受光部となるべき個所を覆った。窒化ケイ素成膜後、薄ガラスを除去した。その後、電極箔80を、40〜50℃に加熱したイソプロピルアルコール溶液で洗浄し、窒素ガスを用いて乾燥させた。次に、クロロベンゼン溶液中にP3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)とPCBM((6,6)−フェニル−C61−ブチル酸メチルエステル)を各々10mg/ml浸漬させ、24時間で25℃前後の環境下で放置させ、完全に溶解させた。P3HTとPCBMが溶解した混合クロロベンゼン溶液を1500rpmで電極箔80にスピンコートし、P3HT:PCBM層86aが100nmの厚さになるように調整した。次に、PEDOT:PSS(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/ポリ(4−スチレンスルホネート))分散溶液(1.3重量%)を5000rpmで電極箔にスピンコートした。コーティングを180℃で30分間、ホットプレート上で乾燥させて、PEDOT:PSS層86bを得た。金を真空蒸着装置にて約100nmの厚さになるように成膜して対向電極88aを得た。その際、受光部となるべき箇所は、櫛形のメタルマスクを用いて光を遮蔽しないようにした。その後、150℃で30分間、不活性雰囲気(窒素)下で焼成を行った。こうして
図30に示される光電素子を得た。
【0093】
(2)光電特性の評価
得られた光電素子について、シミュレータ(三永電機製、XES−40S1)、IV測定器(ADCMT製、6241A)及びソフトウェア(サンライズ社製)を用いて太陽電池発電効率を、AM(エアマス):1.5(規準光)以下及び入射光強度:100mW/cm
2の計測条件で測定した。測定結果は以下の表5及び
図31に示されるとおりであった。
【0094】
【表5】
【0095】
表4及び
図31に示されるように、Pv/Pp比が高い試料C6においては、Pv/Pp比が低い試料C7と比べて、曲線因子FF及び変換効率ηが有意に高いことから、発電効率が格段に優れていることが分かる。
【0096】
例C4:凹部のみ電極箔の作製及び評価
金属箔として厚さ35μmの市販の電解銅箔(三井金属鉱業社製、3EC−III)を用い、CMP処理を2分間行ったこと以外は、試料C2と同様にして電極箔の作製を行い、試料C8とした。この試料C8の光散乱面をSEM(1000倍)で観察したところ、
図32に示されるように実質的に凹部のみを有する表面性状が観察された。また、試料C8について表面プロファイルを非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)で測定したところ、
図33及び34に示されるプロファイル画像が得られた。これらの結果から明らかなように、試料C8の光散乱面は凸部が実質的に除去され、実質的に凹部のみが形成された極めて望ましい表面プロファイルを有していた。観察した凹部の殆どが深さ1μm以下、長手方向長さ100μm以下のものであった。凹部の個数を、SEM1000倍視野(10000μm
2)の視野においてカウントしたところ約170個であった。このような実質的に凹部のみが形成された電極箔にあっては、電極間の短絡をより一層確実に防止しながら、より優れた光散乱性を発揮することができ、それにより発光効率や発電効率が更に向上することが可能である。
【0097】
例D1:各種Ra及びPv/Pp比の電極箔の作製及び評価
例A1の試料
A2の作製条件を適宜変更させて、表6に示されるRa及びPv/Pp比を表面に有する電解銅箔試料D1〜D3を作製し、有機EL発光素子を作製した。発光素子としての評価を行ったところ表6に示されるとおりであった。表6に示される結果から、Raが低く、かつ、Pv/Ppが1.2以上であると信頼性のある発光素子を得る上で好ましいといえる。試料D1、D2及びD3の表面プロファイルを非接触表面形状測定機(NewView5032、Zygo社製)で測定したところ、
図35、36及び37に示されるプロファイル画像がそれぞれ得られた。
【0098】
【表6】