(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の動力源の出力軸から動力が入力される入力軸と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統が形成され且つ前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である減速比が異なる予め定められた複数の変速段と、前記入力軸と前記出力軸との間で動力伝達系統が形成されないニュートラル段とを有する、トルクコンバータを備えていない変速機と、
前記動力源の出力軸と前記変速機の入力軸との間に介装されたクラッチであってクラッチが伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを調整可能なクラッチと、
前記クラッチを制御して前記クラッチトルクを調整する第1アクチュエータと、
前記変速機を制御して前記複数の変速段及び前記ニュートラル段のうちから実現される変速段を変更する第2アクチュエータと、
前記車両の走行状態に基づいて、前記動力源の出力軸の駆動トルクである動力源駆動トルク、前記クラッチトルク、前記第1アクチュエータ、及び前記第2アクチュエータを制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置であって、
前記変速機は、
それぞれが前記変速機の入力軸又は出力軸に相対回転不能に設けられるとともに、それぞれが前記複数の変速段のそれぞれに対応する複数の固定ギヤと、
それぞれが前記変速機の入力軸又は出力軸に相対回転可能に設けられるとともに、それぞれが前記複数の変速段のそれぞれに対応し且つ対応する変速段の固定ギヤと常時歯合し、それぞれの側面にドグ歯が設けられた複数の遊転ギヤと、
それぞれが前記変速機の入力軸及び出力軸のうち対応する1つ又は複数の前記遊転ギヤが設けられた対応する軸に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられるとともに、それぞれが前記対応する軸に対して前記対応する遊転ギヤを相対回転不能に固定するために前記対応する遊転ギヤのドグ歯と係合可能なドグ歯を備えた複数のスリーブと、
を備え、
前記複数の変速段のうち前記減速比が最も大きい最低速段及び前記減速比が最も小さい最高速段のそれぞれは、対応する前記遊転ギヤと対応する前記スリーブとの間にシンクロナイザリングを含むシンクロメッシュ機構が設けられたシンクロ段であり、前記複数の変速段のうち前記最低速段及び前記最高速段以外の変速段のそれぞれは、前記シンクロメッシュ機構が設けられていないノンシンクロ段であり、
前記複数のスリーブの全てが何れの遊転ギヤとも係合していない状態において前記ニュートラル段が実現され、前記複数のスリーブのうちの何れか一つが対応する1つの前記遊転ギヤと係合している状態において、前記複数の変速段のうち前記対応する一つの遊転ギヤに対応する変速段が実現され、
前記第2アクチュエータが前記複数のスリーブのそれぞれの軸方向の位置を制御することによって、前記実現される変速段が変更されるように構成され、
前記制御手段は、
前記車両の走行状態に基づいて変速要求が発生した場合に、前記実現される変速段を前記変速要求に基づいて変更するように構成され、
前記制御手段は、
前記実現される変速段を、前記複数の変速段及び前記ニュートラル段のうちの何れか一つから前記ノンシンクロ段に変更する際、この変速が、前記変速機の入力軸の回転速度を、変速後の変速段が実現された状態における前記車両の速度に対応する同期回転速度に近づけるために、前記変速機の入力軸の回転速度を減少する必要があるか又は増大する必要があるかを判定し、
前記変速機の入力軸の回転速度を減少する必要があると判定された場合、前記ニュートラル段が実現され且つ前記クラッチトルクがゼロに維持された状態において、前記最高速段に対応する前記スリーブを軸方向に移動して前記最高速段の前記シンクロメッシュ機構を作動させることによって、前記変速機の入力軸の回転速度を前記同期回転速度に近づけるように減少し、次いで、変速後の変速段に対応する前記スリーブを軸方向に移動することによって変速後の変速段の前記遊転ギヤと係合させ、次いで、前記クラッチトルクをゼロから増大するように構成され、
前記変速機の入力軸の回転速度を増大する必要があると判定された場合、前記ニュートラル段が実現され且つ前記クラッチトルクがゼロに維持された状態において、前記最低速段に対応する前記スリーブを軸方向に移動して前記最低速段の前記シンクロメッシュ機構を作動させることによって、前記変速機の入力軸の回転速度を前記同期回転速度に近づけるように増大し、次いで、変速後の変速段に対応する前記スリーブを軸方向に移動することによって変速後の変速段の前記遊転ギヤと係合させ、次いで、前記クラッチトルクをゼロから増大するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【発明の概要】
【0004】
近年、AMTであって、変速機としてシンクロナイザリングを含むシンクロメッシュ機構が設けられていないタイプのもの(ノンシンクロトランスミッションとも呼ばれる。)が用いられた構成が開発されてきている。ノンシンクロトランスミッションは、シンクロメッシュ機構が設けられた変速機と比べて、シンクロナイザリングの省略に起因して、変速機の全長が短い、シンクロナイザリングの回転に係る摩擦損失が発生しない、並びに、変速機の重量が軽い、などの利点を有する。
【0005】
ノンシンクロトランスミッションの変速においては、変速ショック(変速に起因する車両の前後加速度の急激な変化)を抑制するため、変速前の変速段の遊転ギヤと係合しているスリーブを軸方向に移動することによって前記係合を解除してニュートラル段を実現した後、シンクロメッシュ機構に代わる何等かの手段を用いて、変速機の入力軸の回転速度を「同期回転速度」に近づく(より好ましくは、一致する)ように調整し、変速機入力軸の回転速度が「同期回転速度」に維持された状態にて、変速後の変速段に対応するスリーブを軸方向に移動することによって同スリーブを変速後の変速段の遊転ギヤと係合させる必要がある。ここで、「同期回転速度」とは、「変速後の変速段が実現された状態における車両の速度に対応する変速機の入力軸の回転速度」を指す。以下、変速機入力軸の回転速度を「同期回転速度」に一致することを「同期」と呼び、変速機入力軸の回転速度を「同期回転速度」に近づく(より好ましくは、一致する)ように変更・調整することを、「同期を行う」、「同期する」などと呼ぶ(以下、本明細書において同じ)。
【0006】
ノンシンクロトランスミッションを備えたAMTでは、変速機入力軸の回転速度の同期を行うため、内燃機関駆動トルクを利用する手法が考えられる。この場合、クラッチトルクを内燃機関駆動トルクより大きい値に維持した状態(即ち、クラッチを接合状態に維持した状態)で、内燃機関駆動トルクを調整することによって変速機入力軸の回転速度の同期が行われ得る。
【0007】
内燃機関の駆動トルクを利用して変速機入力軸の回転速度の同期が行われる場合、同期に関する応答性は、内燃機関の出力軸の回転速度の変化速度に大きく依存する。一般に、内燃機関の出力軸の回転に係る慣性モーメントが大きいことに起因して、内燃機関の出力軸の回転速度は急激に変化し得ない。従って、変速機入力軸の回転速度の同期を行うために内燃機関駆動トルクを利用する手法が採用される場合、変速機入力軸の回転速度の同期に関する応答性は必ずしも良好とはいえなかった。以上より、ノンシンクロ段(シンクロメッシュ機構が設けられていない変速段)への変速時における、変速機入力軸の回転速度の同期に関する応答性を向上することが望まれているところである。
【0008】
本発明の目的は、車両の動力伝達制御装置であって、ノンシンクロ段への変速時において変速機入力軸の回転速度の同期に関する応答性が良好なものを提供することにある。
【0009】
本発明に係る動力伝達制御装置は、AMTに係り、変速機としては、複数の変速段のうち減速比が最も大きい最低速段及び減速比が最も小さい最高速段のそれぞれが、シンクロメッシュ機構が設けられたシンクロ段であり、残りの変速段のそれぞれが、シンクロメッシュ機構が設けられていないノンシンクロ段であるものが使用される。従って、変速機が有する1つ又は複数のノンシンクロ段の減速比は、最高速段の減速比より大きく且つ最低速段の減速比より小さい。
【0010】
本発明に係る動力伝達制御装置では、前記実現される変速段を、前記複数の変速段及び前記ニュートラル段のうちの何れか一つから前記ノンシンクロ段に変更する際、この変速が、前記変速機の入力軸の回転速度を、変速後の変速段が実現された状態における前記車両の速度に対応する同期回転速度に近づけるために、前記変速機の入力軸の回転速度を減少する必要があるか又は増大する必要があるかが判定される。典型的には、実現される変速段を、「複数の変速段のうちの何れか一つの変速段」から「ノンシンクロ段」に変更する際、この変速が、減速比が減少するシフトアップ及び減速比が増大するシフトダウンの何れに対応するかが判定される。
【0011】
前記変速機の入力軸の回転速度を減少(増大)する必要があると判定された場合(典型的には、シフトアップ(シフトダウン)と判定された場合)、クラッチトルクをゼロまで低減し(且つ、動力源駆動トルクをゼロ、或いは微小値まで低減し)、クラッチトルクがゼロに維持された状態において、変速前の変速段の遊転ギヤと係合しているスリーブを軸方向に移動することによって前記係合を解除してニュートラル段が実現される。次いで、ニュートラル段が実現され且つクラッチトルクがゼロに維持された状態において、最高速段(最低速段)に対応するスリーブを軸方向に移動して最高速段(最低速段)のシンクロメッシュ機構が作動させられる。これにより、変速機の入力軸の回転速度が「同期回転速度」に近づくように(より好ましくは、一致するように)減少(増大)させられる。次いで、変速後の変速段に対応するスリーブを軸方向に移動することによって変速後の変速段の前記遊転ギヤと係合させ、次いで、クラッチトルク(及び、動力源駆動トルク)がゼロから増大させられる。
【0012】
一般に、シフトアップの場合、変速機の入力軸の回転速度を同期するために同回転速度を減少する必要があり、シフトダウンの場合、変速機の入力軸の回転速度を同期するために同回転速度を増大する必要がある。上記構成では、ノンシンクロ段へのシフトアップの場合、変速機の入力軸の回転速度を減少するために、「変速後のノンシンクロ段より減速比が小さいシンクロ段である最高速段」のシンクロメッシュ機構が活用され、ノンシンクロ段へのシフトダウンの場合、変速機の入力軸の回転速度を増大するために、「変速後のノンシンクロ段より減速比が大きいシンクロ段である最低速段」のシンクロメッシュ機構が活用される。換言すれば、シンクロ段である最高速段及び最低速段のシンクロメッシュ機構が、ノンシンクロ段への変速時において変速機の入力軸の回転速度を減少・増大させる手段として活用される。
【0013】
一般に、シンクロメッシュ機構を利用して変速機入力軸の回転速度の同期が行われる場合の同期に関する応答性は、上述のように内燃機関の駆動トルクを利用して変速機入力軸の回転速度の同期が行われる場合と比べて高い。従って、上記構成によれば、変速機が有する複数の変速段の全てがノンシンクロ段である構成が採用され得ない一方で、ノンシンクロ段への変速時において変速機入力軸の回転速度の同期に関する応答性が良好な動力伝達制御装置を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関を備え、且つ、トルクコンバータを備えない変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を備えた車両である。
【0017】
この車両は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Dとを備えている。E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/Gの出力軸A1は、フライホイールF/W、及び、クラッチC/Dを介して、変速機T/Mの入力軸A2と接続されている。
【0018】
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段(シフト位置)、後進用の1つの変速段(シフト位置)、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の有段変速機の1つである。T/Mの出力軸A3は、ディファレンシャルD/Fを介して車両の駆動輪と接続されている。
【0019】
図2に示すように、T/Mは、複数の固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iと、複数の遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oと、複数の円筒状のスリーブS1、S2、S3と、を備える。固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iのそれぞれは、入力軸A2に相対回転不能に設けられ、前進用の複数の走行用変速段のそれぞれに対応している。遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oのそれぞれは、出力軸A3に相対回転可能に設けられ、前進用の複数の走行用変速段のそれぞれに対応している。遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oのそれぞれは、対応する固定ギヤと常時歯合するとともに、側面のピースにドグ歯が設けられている。スリーブS1、S2、S3のそれぞれは、出力軸A3に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられ、出力軸A3に対して対応する遊転ギヤを相対回転不能に固定するために対応する遊転ギヤのドグ歯と係合可能なドグ歯を備える。
【0020】
図2に示すように、T/Mの複数の走行用変速段(1速〜5速)のうち、減速比が最も大きい最低速段(1速)及び減速比が最も小さい最高速段(5速)のそれぞれが、「シンクロナイザリングSNRを含むシンクロメッシュ機構」が設けられたシンクロ段であり、残りの変速段(2速、3速、4速)のそれぞれが、シンクロメッシュ機構が設けられていないノンシンクロ段である。
【0021】
図3は、一例として、スリーブS1のドグ歯と、遊転ギヤG1o、G2oのピースのドグ歯の形状を示し、
図4は、一例として、スリーブS2のドグ歯と、遊転ギヤG3o、G4oのピースのドグ歯の形状を示す。
図3、
図4に示すように、スリーブには、周方向において等間隔で配置され且つそれぞれが軸方向に延びる複数のドグ歯(典型的には、内歯)が出力軸A3と同軸的に形成されている。遊転ギヤのピースには、周方向においてスリーブのドグ歯の間隔と同じ等間隔で配置され且つそれぞれが軸方向に延びる複数のドグ歯(典型的には、外歯)が出力軸A3と同軸的に形成されている。
【0022】
特に、ノンシンクロ段の遊転ギヤ(G2o、G3o、G4o)のドグ歯として、遊転ギヤのピースの側面からスリーブに向けて軸方向に突出している歯(以下、「噛合歯」と呼ぶ)と、突出していない歯(以下、「トルク伝達歯」と呼ぶ)とが、周方向において交互に形成されている。同様に、ノンシンクロ段に対応するスリーブのドグ歯として、スリーブの側面から対応するノンシンクロ段の遊転ギヤ(G2o、G3o、G4o)のピースに向けて軸方向に突出している歯と、突出していない歯とが、周方向において交互に形成されている。従って、スリーブが中立位置(N位置、
図3、
図4に示す位置)から、ノンシンクロ段の遊転ギヤに向けて軸方向に移動していく過程において、スリーブの前記突出しているドグ歯の軸方向端は、先ず、遊転ギヤの周方向に隣接する噛合歯同士の間に入り込む。これにより、スリーブの前記突出しているドグ歯が遊転ギヤの噛合歯のみと係合する(これにより、スリーブが遊転ギヤと係合する)。その後、スリーブの各ドグ歯(前記突出しているドグ歯、及び、前記突出していないドグ歯)の軸方向端が、遊転ギヤの周方向に隣接する噛合歯及びトルク伝達歯の間にそれぞれ入り込む。これにより、スリーブの各ドグ歯が遊転ギヤの噛合歯及びトルク伝達歯と係合する(これにより、スリーブが遊転ギヤと完全に係合する)。スリーブの噛合完了位置は、スリーブのドグ歯と遊転ギヤのトルク伝達歯との軸方向における噛合長さが所定値(>0)に達する位置に対応する。
【0023】
スリーブS1、S2、S3のそれぞれが対応する遊転ギヤと係合していない状態では、ニュートラル段が実現される。スリーブS1、S2、S3のうちの何れか一つが対応する1つの遊転ギヤと係合している状態では、その遊転ギヤに対応する変速段が実現される。
【0024】
T/Mの変速段の変更・設定は、変速機アクチュエータACT2(
図1を参照)によってスリーブS1、S2、S3を駆動し、スリーブS1、S2、S3の軸方向位置を制御することで実行される。変速段を変更することで、減速比(出力軸A3の回転速度Noに対する入力軸A2の回転速度Niの割合)が調整される。具体的には、「N」速の「減速比」は、「GNoの歯数/GNiの歯数)(N:1,2,3,4,5)で表される。「1速」から「5速」に向けて、減速比は次第に小さくなっていく。
【0025】
クラッチC/Dは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。より具体的には、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールF/Wに対して、クラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)が互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールF/Wに対するクラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)の軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/Dの軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT1(
図1を参照)により調整される。なお、このクラッチC/Dは、運転者によって操作されるクラッチペダルを備えていない。
【0026】
以下、クラッチC/Dの原位置(クラッチディスクがフライホイールから最も離れた位置)からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量をクラッチストロークと呼ぶ。クラッチC/Dが「原位置」にあるとき、クラッチストロークが「0」となる。
図5に示すように、クラッチストロークを調整することにより、クラッチC/Dが伝達可能な最大トルク(クラッチトルクTc)が調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
【0027】
本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサS1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサS2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサS3と、エンジンE/Gの出力軸A1の回転速度を検出する回転速度センサS4と、変速機T/Mの入力軸A2の回転速度を検出する回転速度センサS5と、クラッチC/Dのクラッチストロークを検出するストロークセンサS6と、車両の速度(車速)を検出する車速センサS7と、を備えている。
【0028】
また、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S6、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1、ACT2を制御することで、C/Dのクラッチストローク(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/Mの変速段を制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルクを制御する。
【0029】
以下、説明の便宜上、E/Gの燃焼により出力軸A1に発生する駆動トルクを「エンジントルクTe」と呼ぶ。Teは、車両の加速方向について正の値を採り、減速方向について負の値を採るものとする。Teは、通常(後述する変速作動中を除く)、アクセル開度及び車速等の車両の走行状態に基づいて調整される。
【0030】
本装置では、シフトレバーSLが「自動モード」に対応する位置(例えば、Dレンジ)にある場合、ECU内のROMに記憶された変速マップ(
図6を参照)と、車速及びアクセル開度等の車両の走行状態とに基づいて要求される変速段(選択・実現すべき変速段、以下、「要求変速段」と呼ぶ)が選択される。例えば、現在の車速がαで現在のアクセル開度がβの場合、要求変速段として「3速」が選択される。一方、シフトレバーSLが「手動モード」に対応する位置(例えば、M(マニュアル)レンジ)にある場合、シフトレバーSLの位置に基づいて要求変速段が選択される。
【0031】
変速機T/Mでは、通常、要求変速段と同じ変速段が実現される。要求変速段が変化したとき、「変速要求あり」と判定される。「変速要求あり」と判定された場合、T/Mの変速作動(変速段が変更される際の作動)が行われる。以下、本装置による変速作動について詳細に説明していく。
【0032】
(変速作動)
上述したように、本装置に使用されるT/Mでは、最低速段(1速)及び最高速段(5速)のそれぞれがシンクロ段であり、残りの変速段(2速、3速、4速)のそれぞれがノンシンクロ段である。1速〜5速のうちの何れか一つの変速段からシンクロ段(1速又は5速)への変速作動では、変速ショック(変速に起因する車両の前後加速度の急激な変化)を抑制するため、変速後の変速段であるシンクロ段が有するシンクロメッシュ機構によって、T/Mの入力軸A2の回転速度Niが前記「同期回転速度」に近づく(より好ましくは、一致する)ように調整される(即ち、Niの同期が行われる)。
【0033】
一方、1速〜5速のうちの何れか一つの変速段からノンシンクロ段(2速又は3速又は4速)への変速作動では、変速ショックを抑制するため、シンクロメッシュ機構に代わる何等かの手段を用いてNiの同期を行う必要がある。
【0034】
本装置では、ノンシンクロ段(2速又は3速又は4速)への変速時、シンクロ段(1速又は5速)が備えるシンクロメッシュ機構を利用してNiの同期が行われる。換言すれば、シンクロ段である最低速段(1速)及び最高速段(5速)のシンクロメッシュ機構が、ノンシンクロ段への変速時においてNiを減少・増大させる手段として活用される。以下、この点について、
図7、8に示すフローチャート、並びに、
図9、10に示すタイムチャートを参照しながら詳細に説明する。
【0035】
図7は、「変速要求あり」と判定された場合において、ECU(具体的には、ECUの内部のCPU)からの指令によって実行される変速作動に係る処理の流れを示す。
図9は、ノンシンクロ段(2速又は3速又は4速)へのシフトダウン(減速比が増大する変速)の「変速要求あり」と判定された場合における変速作動の一例を示す。
図10は、ノンシンクロ段へのシフトアップ(減速比が減少する変速)の「変速要求あり」と判定された場合における変速作動の一例を示す。以下、先ず、
図9に示す例について、
図7、8に示すフローチャートを参照しながら説明していく。
【0036】
図9に示す例(シフトダウン)では、シフトレバーSLによって「自動モード」(Dレンジ)が選択・維持され、且つ、時刻t1以前にて3速で走行中(加速中)に、時刻t1にて「3速から2速への変速要求」が発生した場合の一例が示されている。時刻t1以前では、エンジントルクTeが大きい正の値(大きい加速方向の値)に維持され、クラッチトルクTcがTeよりも十分に大きい値(例えば、最大値Tmax)に維持され、入力軸A2の回転速度Niが「3速の同期回転速度」に維持され、スリーブS1がN位置に位置し、スリーブS2が3速の噛合完了位置に位置している。
【0037】
時刻t1にて「3速から2速への変速要求」が発生すると、
図7に示す処理が開始され、Tc及びTeがゼロまで低減される(ステップ710)。ここで、「Te=0」とは、エンジンE/Gがアイドリング状態にあることを意味する。この結果、
図9に示す例では、時刻t1以降、Tc及びTeがゼロに向けて減少していく。
【0038】
時刻t2にてTc及びTeがゼロに達すると、Tc,Teがゼロに維持された状態(クラッチC/Dの分断状態)で、変速前噛合スリーブがN位置まで移動される(
図7のステップ720)。ここで、「変速前噛合スリーブ」とは、変速前の段階で実現されている変速段の遊転ギヤと係合しているスリーブを指す。この結果、
図9に示す例では、時刻t2以降、スリーブS2が、3速の噛合完了位置からN位置に向けて移動していく。Tc,Teは、なおもゼロに維持されている。スリーブS2がN位置に移動することにより、ニュートラル段が実現される。
【0039】
時刻t3にてスリーブS2がN位置に達すると、シンクロ段のシンクロメッシュ機構を利用して、Niの同期が行われる(
図7のステップ730)。具体的には、
図8に示すように、変速後の変速段がシンクロ段である場合(ステップ810にてNo)、変速後の変速段のシンクロメッシュ機構を利用してNiの同期が行われる(ステップ820)。この点について詳細な作動については、従来と同様であるので詳細な説明を省略する。一方、変速後の変速段がノンシンクロ段である場合(ステップ810にてYes)において、シフトアップのとき(ステップ830でYes)は、最高速段(5速)のシンクロメッシュ機構(具体的には、シンクロナイザリングSNR5、
図2を参照)を利用してNiの同期が行われ(ステップ840)、シフトダウンのとき(ステップ830でNo)は、最低速段(1速)のシンクロメッシュ機構(具体的には、シンクロナイザリングSNR1、
図2を参照)を利用してNiの同期が行われる(ステップ850)。この結果、
図9に示す例(シフトダウン)では、時刻t3以降、スリーブS1が、N位置から、「スリーブS1の軸方向端部が、SNR1と係合し且つ1速の遊転ギヤG1oのピースには係合しない位置」(以下、「SNR1の作動位置」と呼ぶ)に向けて移動していく。Tc,Teは、なおもゼロに維持されている。
【0040】
時刻t4にて、スリーブS1が「SNR1の作動位置」に達すると、SNR1の作動が開始され、Niが、「3速の同期回転速度」から「2速の同期回転速度」に向けて増大していく。Niが「2速の同期回転速度」に達すると、Niの同期が達成される。
【0041】
時刻t5にて、Niが「2速の同期回転速度」に達すると、変速後噛合スリーブが、変速後の変速段の噛合完了位置に向けて移動される(
図7のステップ740)。ここで、「変速後噛合スリーブ」とは、変速後の段階で実現される変速段の遊転ギヤと係合するスリーブを指す。この結果、
図9に示す例では、時刻t5以降、スリーブS1が、「SNR1の作動位置」から2速の噛合完了位置に向けて移動していく。その後、スリーブS1が2速の噛合完了位置に移動することにより、2速が実現される。
【0042】
時刻t6にて、スリーブS1が2速の噛合完了位置に達すると、Te、Tcが増大・復帰される(
図7のステップ750)。
図9に示す例では、時刻t6以降、Teがゼロから「アクセル開度に応じた値」まで増大していき、Tcがゼロから「時刻t1以前での値」に向けて増大していく。そして、時刻t7にて、Te、Tcの増大・復帰が完了すると、今回の変速作動に係る処理が全て終了する。
【0043】
次に、
図10に示す例(シフトアップ)について説明する。
図10に示す例では、シフトレバーSLによって「自動モード」(Dレンジ)が選択・維持され、且つ、時刻t1以前にて3速で走行中(加速中)に、時刻t1にて「3速から4速への変速要求」が発生した場合の一例が示されている。
図10の時刻t1〜t7はそれぞれ、
図9の時刻t1〜t7に対応している。
図10の時刻t1以前の状態は、
図9に示す例と同様である。
【0044】
時刻t1にて「3速から4速への変速要求」が発生すると、Tc及びTeがゼロに向けて減少していく。
【0045】
時刻t2にてTc及びTeがゼロに達すると、スリーブS2が、3速の噛合完了位置からN位置に向けて移動していく。Tc,Teは、なおもゼロに維持されている。スリーブS2がN位置に移動することにより、ニュートラル段が実現される。
【0046】
時刻t3にてスリーブS2がN位置に達すると、スリーブS3が、N位置から、「スリーブS3の軸方向端部が、SNR5と係合し且つ5速の遊転ギヤG5oのピースには係合しない位置」(以下、「SNR5の作動位置」と呼ぶ)に向けて移動していく。Tc,Teは、なおもゼロに維持されている。
【0047】
時刻t4にて、スリーブS3が「SNR5の作動位置」に達すると、SNR5の作動が開始され、Niが、「3速の同期回転速度」から「4速の同期回転速度」に向けて減少していく。Niが「4速の同期回転速度」に達すると、Niの同期が達成される。
【0048】
時刻t5にて、Niが「4速の同期回転速度」に達すると、スリーブS2が、N位置から4速の噛合完了位置に向けて移動していく。その後、スリーブS2が4速の噛合完了位置に移動することにより、4速が実現される。
【0049】
時刻t6にて、スリーブS2が4速の噛合完了位置に達すると、Teがゼロから「アクセル開度に応じた値」まで増大していき、Tcがゼロから「時刻t1以前での値」に向けて増大していく。そして、時刻t7にて、Te、Tcの増大・復帰が完了すると、今回の変速作動に係る処理が全て終了する。
【0050】
以上、本装置によれば、ノンシンクロ段へのシフトアップの場合、Niを減少するために、「変速後のノンシンクロ段より減速比が小さいシンクロ段である最高速段(5速)」のシンクロメッシュ機構が活用される。他方、ノンシンクロ段へのシフトダウンの場合、Niを増大するために、「変速後のノンシンクロ段より減速比が大きいシンクロ段である最低速段(1速)」のシンクロメッシュ機構が活用される。換言すれば、シンクロ段である最高速段(5速)及び最低速段(1速)のシンクロメッシュ機構が、ノンシンクロ段への変速時においてNiを減少・増大させる手段として活用される。
【0051】
ここで、一般に、シンクロメッシュ機構を利用して変速機入力軸の回転速度の同期が行われる場合の同期に関する応答性は、上記「発明の概要」の欄で述べたように内燃機関の駆動トルクを利用して変速機入力軸の回転速度の同期が行われる場合と比べて高い。従って、本装置によれば、T/Mが有する複数の変速段(1速〜5速)の全てがノンシンクロ段である構成が採用され得ない代わりに、ノンシンクロ段(2速又は3速又は4速)への変速時においてNiの同期に関する応答性が良好な動力伝達制御装置を得ることができる。
【0052】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oの全て、及び、スリーブS1、S2、S3の全てが出力軸A3に設けられているが(
図2を参照)、遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oの一部又は全部、及び、スリーブS1、S2、S3の一部又は全部が、入力軸A2に設けられていてもよい。
【0053】
また、上記実施形態における「走行用の変速段(ニュートラル段を除く)からノンシンクロ段へのシフトアップ又はシフトダウンの場合の制御」は、「ニュートラル段からノンシンクロ段へ変速の場合」にも適用され得る。即ち、この場合、ニュートラル段の状態における回転速度Niが「同期回転速度」よりも大きい場合、「走行用の変速段からノンシンクロ段へのシフトアップの場合の制御」が適用され得る。同様に、ニュートラル段の状態における回転速度Niが「同期回転速度」よりも小さい場合、「走行用の変速段からノンシンクロ段へのシフトダウンの場合の制御」が適用され得る。
【0054】
また、上記実施形態では、Niの同期が行われる際、回転速度Niが「同期回転速度」に近づく(より好ましくは、一致する)ように調整されているが、回転速度Niが「同期回転速度」から所定回転速度だけずれた回転速度に近づく(より好ましくは、一致する)ように調整されてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、T/Mが有する複数の変速段(1速〜5速)の全てが、車両の走行時に実際に選択され得る変速段である。換言すれば、最低速段(1速)は、車両の走行時に実際に選択され得る複数の変速段のうちで減速比が最も大きい変速段であり、最高速段(5速)は、車両の走行時に実際に選択され得る複数の変速段のうちで減速比が最も小さい変速段である。
【0056】
これに対し、変速機が有する複数の変速段のうち最低速段及び最高速段を除く全ての変速段が、車両の走行時に実際に選択され得る変速段であり、最低速段及び最高速段が車両の走行時に実際には選択され得ない変速段であってもよい。換言すれば、最低速段は、車両の走行時に選択され得る複数の変速段のうちで減速比が最も大きい変速段(上記実施形態では、1速に相当)より減速比が大きい変速段であり、最高速段は、車両の走行時に実際に選択され得る複数の変速段のうちで減速比が最も小さい変速段(上記実施形態では、5速に相当)より減速比が小さい変速段であってもよい。
【0057】
加えて、上記実施形態では、車両の動力源としてエンジンE/Gが使用されているが(
図1を参照)、車両の動力源としてエンジンE/Gに代えて電気モータM/Gが使用されてもよい。また、
図11に示すように、車両の動力源として、エンジンE/Gと電気モータM/Gが共に使用されてもよい。
図11に示す例では、M/Gの出力軸がT/Mの入力軸A2に接続される構成(IN接続)と、M/Gの出力軸がT/Mの出力軸A3に接続される構成(OUT接続)と、を選択的に実現する「IN−OUT切替機構」が設けられている。