特許第6141708号(P6141708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6141708-光沢度に優れためっき付き銅合金板 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6141708
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】光沢度に優れためっき付き銅合金板
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20170529BHJP
   C25D 5/34 20060101ALI20170529BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170529BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20170529BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C25D5/34
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 613
   !C22F1/08 B
   !C22F1/00 685Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-143454(P2013-143454)
(22)【出願日】2013年7月9日
(65)【公開番号】特開2015-17286(P2015-17286A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2015年9月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176822
【氏名又は名称】三菱伸銅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 淳一
(72)【発明者】
【氏名】船木 真一
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−111999(JP,A)
【文献】 特開2000−219996(JP,A)
【文献】 特開2012−099555(JP,A)
【文献】 特開2012−114260(JP,A)
【文献】 特開2011−252215(JP,A)
【文献】 特開2009−293091(JP,A)
【文献】 特開2011−208271(JP,A)
【文献】 特開2007−039804(JP,A)
【文献】 特開2011−214066(JP,A)
【文献】 特開2011−195927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00 − 9/10
C25D 5/34
C22F 1/00 − 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe;1.8〜2.4質量%、P;0.01〜0.08質量%、Zn;0.1〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有し、イオンミリングシステム(日立ハイテクノロジーズ社IM4000)を用いて試料の表面の横断面を研磨し、圧延方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察して測定した、表面の加工変質層の厚みが0.3〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.3μmであり、前記加工変質層の表面の最大高さ粗さ(Rz)と表面の二乗平均平方根粗さ(Rq)との比(Rz/Rq)が6.6〜7.9である銅合金母板と、前記加工変質層の上に形成された光沢度が570を超えるAgめっき層或いは光沢度が250を超えるNiめっき層とを有することを特徴とする光沢度に優れためっき付き銅合金板。
【請求項2】
前記銅合金母板は、更にNi;0.003〜0.5質量%及びSn;0.003〜0.5質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の光沢度に優れためっき付き銅合金板。
【請求項3】
前記銅合金母板は、更にAl、Be、Ca、Cr、Mg及びSiのうちの少なくとも1種以上を含有し、その含有量の合計が0.0007〜0.5質量%に設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光沢度に優れためっき付き銅合金板。
【請求項4】
Fe;1.8〜2.4質量%、P;0.01〜0.08質量%、Zn;0.1〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有し、イオンミリングシステム(日立ハイテクノロジーズ社IM4000)を用いて試料の表面の横断面を研磨し、圧延方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察して測定した、表面の加工変質層の厚みが0.3〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.3μmであり、前記加工変質層の表面の最大高さ粗さ(Rz)と表面の二乗平均平方根粗さ(Rq)との比(Rz/Rq)が6.6〜7.9である銅合金母板の製造方法であって、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で前記銅合金母板を製造するに際して、前記仕上げ冷間圧延の前或いは後に、ライン速度を30〜100mm/minとして、ワイヤー直径が0.4〜0.6mmである回転型ワイヤーブラシにて、押付け圧力を5〜15KPa、回転数を500〜2500rpmとして、前記仕上げ冷間圧延の前或いは後の銅合金板の表面を機械研磨することを特徴とするCu−Fe−P系銅合金母板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リードフレームとしての使用に適した光沢度に優れたAg或いはNiめっき付き銅合金板及びその製造に使用するCu−Fe−P系銅合金母板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSI等の半導体装置に用いられるリードフレーム用の銅合金板として、熱伝導性、プレス加工性、導電性、機械的強度等の特性のバランスが取れ、その表面にSn、Ag、Ni等のめっき処理が施されたCu−Fe−P系銅合金板が多用されている。最近の発光ダイオードを用いたLEDチップ等の光学部材では、リードフレーム自体に高い光沢度が必要であり、特に、良好で均質なめっき光沢度を有するCu−Fe−P系銅合金板が求められている。
銅合金板は、一般的に鋳造、熱間圧延、冷間圧延、バフ研磨処理、焼鈍等の工程を適切に組み合わせて製造されており、その過程において、種々の塑性加工を受け、銅合金板の表層には、銅合金板内部よりも微細な結晶組織を呈する加工変質層と塑性変形層とが形成されている。加工変質層は、ベイルビー層(上層)と微細結晶層(下層) とからなり、その表面に形成されるめっきの諸性状に大きな影響を及ぼすことが知られている。
特許文献1では、銅合金の表層に存在する加工変質層の厚さを0.2μm以下、好ましくは、0.05μm以下にすることにより、めっき時の異常析出を防止してめっき性を向上させ、また、表層の加工変質層の厚さが0.2μm以下の銅合金上にめっきを施したものをリードフレーム、端子、コネクタ等の電子機器に適用することより、これらの製品の品質向上に寄与することが開示されている。
特許文献2では、良好な外観を有する光沢ニッケルめっき材、光沢ニッケルめっき材を用いた電子部品、及び、光沢ニッケルめっき材の製造方法が開示されており、光沢ニッケルめっき材は、圧延、スキンパス圧延、バフ研磨、ブラシ研磨により、表面に厚さが0.2μm以上で、結晶粒径が0.01〜0.3μmである加工変質層を形成した、ステンレス鋼、銅または銅合金等の金属基材と、該金属表面に形成したニッケルめっき層とを備えている。
特許文献3では、機械研磨上がりのNi−P−Sn系銅合金板において、錫めっきの耐熱剥離性を改善した、Ni:0.4〜1.6%(mass%、以下同じ)、Sn:0.4〜1.6%、P:0.027〜0.15%、Fe:0.005〜0.15%、及びZn:0.1〜1.1%を含み、Ni含有量とP含有量の比Ni/Pが15未満、残部が銅と不可避不純物からなる銅合金板が開示されており、熱処理上がり後に機械研磨で表面を清浄化され、微細結晶粒からなる表層の加工変質層の厚さは0.4μm以下とされている。
特許文献4には、Feを0.1質量%以上3.0質量%以下、Pを0.01質量%以上0.3質量%以下でそれぞれ含有し、残部がCuと不可避不純物からなる圧延された銅合金板において、銅合金板の表面層の加工変質層の厚さが100nm以下とし、銅合金板の酸化膜密着性を向上させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−39804号公報
【特許文献2】特開2011−214066号公報
【特許文献3】特開2010−236038号公報
【特許文献4】特開2012−153950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のAgめっき或いはNiめっきが表面に施されたCu−Fe−P系銅合金板は、光沢度が不足気味で均質性に欠け、リードフレームとしてLED等の光学部材へ適用した際には、光学素子からの光の取出し効率を低下させる大きな要因となっていた。
【0005】
本発明では、上述の欠点を改良し、均質で良好なAg或いはNiめっき光沢度を有するリードフレーム用のめっき付き銅合金板及びその製造に使用するCu−Fe−P系銅合金母板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の組成を有するCu−Fe−P系銅合金母板の表面に形成された加工変質層と、その加工変質層の表面に形成されたAgめっき層或いはNiめっき層の光沢度との関係につき、鋭意検討した結果、加工変質層の厚みと結晶粒径と表面粗さの比{(Rz=最大高さ粗さ)/(Rq=二乗平均平方根粗さ)}とが、それぞれに適正な範囲内である場合にのみ、加工変質層の表面に均質で良好な光沢度を有するAgめっき層或いはNiめっき層が形成されることを見出した。
また、上述のCu−Fe−P系銅合金母板は、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で銅合金母板を製造するに際して、仕上げ冷間圧延の前或いは後に、ライン速度を0〜10mm/minとして、ワイヤー直径が0.〜0.6mmである回転型ワイヤーブラシにて、押付け圧力を〜15KPa、回転数を500〜2500rpmとして、仕上げ冷間圧延の前或いは後の銅合金板の表面を機械研磨することにより、上述の最適な加工変質層が得られ、その表面上にAgめっき或いはNiめっきを施した際に、均質で良好な光沢度を有するAgめっき層或いはNiめっき層が得られることも見出した。
【0007】
即ち、本発明の光沢度に優れためっき付き銅合金板は、Fe;1.8〜2.4質量%、P;0.01〜0.08質量%、Zn;0.1〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有し、イオンミリングシステム(日立ハイテクノロジーズ社IM4000)を用いて試料の表面の横断面を研磨し、圧延方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察して測定した、表面の加工変質層の厚みが0.3〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.3μmであり、前記加工変質層の表面の最大高さ粗さ(Rz)と表面の二乗平均平方根粗さ(Rq)との比(Rz/Rq)が6.6〜7.9である銅合金母板と、前記加工変質層の上に形成された光沢度が570を超えるAgめっき層或いは光沢度が250を超えるNiめっき層とを有することを特徴とする。
本発明で使用する銅合金母板の基本組成は、Fe;1.8〜2.4質量%、P;0.01〜0.08質量%、Zn;0.1〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物からなる。
Feは、銅の母相中に分散する析出物粒子を形成して強度及び耐熱性を向上させる効果があるが、その含有量が1.5質量%未満では析出物の個数が不足し、その効果を奏功せしめることができない。一方、2.4質量%を超えて含有すると、強度及び耐熱性の向上に寄与しない粗大な析出物粒子が存在してしまい、耐熱性に効果のある析出物粒子が不足してしまうことになる。このため、Feの含有量は1.5〜2.4質量%の範囲内とすることが好ましいが、1.8〜2.4質量%が本発明の範囲である。
Pは、Feと共に銅の母相中に分散する析出物粒子を形成して強度及び耐熱性を向上させる効果があるが、その含有量が0.008質量%未満では析出物粒子の個数が不足し、その効果を奏功せしめることができない。一方、0.08質量%を超えて含有すると、強度及び耐熱性の向上に寄与しない粗大な析出物が存在してしまい、耐熱性に効果のあるサイズの析出物粒子が不足してしまうことになると共に導電率及び加工性が低下してしまう。このため、Pの含有量は0.008〜0.08質量%の範囲内とすることが好ましいが、0.01〜0.08質量%が本発明の範囲である。
Znは、銅の母相中に固溶して半田耐熱剥離性を向上させる効果を有しており、0.01質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有しても、更なる効果を得ることが出来なくなると共に母層中への固溶量が多くなって導電率の低下をきたす。このため、Znの含有量は0.01〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましいが、0.1〜0.5質量%が本発明の範囲である。
【0008】
銅合金母板の表面に形成される加工変質層が、その表面に形成されるめっきの性状に大きな影響を及ぼすことは周知であるが、Fe;1.〜2.4質量%、P;0.0〜0.08質量%、Zn;0.〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金板において、その表面の加工変質層の厚みが0.〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.μmであり、加工変質層の表面の最大高さ粗さ(Rz)と表面の二乗平均平方根粗さ(Rq)との比(Rz/Rq)が6.7.9であると、その表面に形成されたAgめっき層或いはNiめっき層のめっき光沢度が良好となり、圧延方向のGoodway方向とBadway方向での光沢度の差が少なくなり、光沢度の均質化が促進される。
加工変質層の厚みを0.1μm未満とするのは製造技術的に難しく、0.5μmを超えると、充分な光沢度が得られない。本発明では、加工変質層の厚みの範囲は0.3〜0.5μmである。結晶粒径が0.05μm未満では、均質性に乏しくなり、0.5μmを超えると充分な光沢度が得られない。本発明では、結晶粒径の範囲は0.05〜0.3μmである。表面粗さ比(Rz/Rq)が6.5未満では、均質性に乏しくなり、8.0を超えると充分な光沢度が得られない。本発明では、表面粗さ比(Rz/Rq)の範囲は6.6〜7.9である。
本発明では、表面の加工変質層の厚み及び結晶粒径は、銅合金板の圧延方向に平行な断面をFE−SEMによる観察から測定した。
発光ダイオードを用いたLEDチップ等への適用では、リードフレーム自体に均質で高い光沢度が求められ、めっきとしては、Agめっき或いはNiめっきが特に好ましいが、用途に応じては、Ni−Auめっき、Ni−Pd−Auめっき等でも支障はない。
【0009】
本発明の光沢度に優れためっき付き銅合金板は、前記銅合金母板が更にNi;0.003〜0.5質量%及びSn;0.003〜0.5質量%を含有することを特徴とする。
Niは、母相中に固溶して強度を向上させる効果を有しており、0.003質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Niを含有する場合には、0.003〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
Snは、母相中に固溶して強度を向上させる効果を有しており、0.003質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Snを含有する場合には、0.003〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0010】
本発明の光沢度に優れためっき付き銅合金板は、前記銅合金母板が更にAl、Be、Ca、Cr、Mg及びSiのうちの少なくとも1種以上を含有し、その含有量の合計が0.0007〜0.5質量%に設定されていることを特徴とする。
これらの元素は、銅合金板の様々な特性を向上させる役割を有しており、用途に応じて選択的に添加することが好ましい。
【0011】
本発明のCu−Fe−P系銅合金母板の製造方法は、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で前記銅合金母板を製造するに際して、前記仕上げ冷間圧延の前或いは後に、ライン速度を0〜10mm/minとして、ワイヤー直径が0.〜0.6mmである回転型ワイヤーブラシにて、押付け圧力を〜15KPa、回転数を500〜2500rpmとして、前記仕上げ冷間圧延の前或いは後の銅合金板の表面を機械研磨することを特徴とする。
本発明では、銅合金母板の表面に形成される加工変質層は、仕上げ冷間圧延の前或いは後の銅合金板の表面を機械研磨することにより調整され、特に、回転型ワイヤーブラシ(ワイヤー直径:0.〜0.6mm、回転数:500〜2500rpm)を使用し、仕上げ冷間圧延の前或いは後の銅合金板(ライン速度:0〜10mm/min)の表面を押圧して機械研磨(押付け圧力:〜15KPa)することにより、表面の加工変質層の厚みを0.〜0.5μmとし、結晶粒径を0.05〜0.μmとし、表面粗さ(Rz)と表面粗さ(Rq)との比(Rz/Rq)を6.7.9とすることができる。
回転型ワイヤーブラシはホイル型或いはカップ型であることが好ましく、縦方向から押圧し、必要に応じて回転型ワイヤーブラシ自体をライン上の銅合金板の幅方向に往復移動させて機械研磨を施しても良い。
上述の機械研磨の条件の何れか一つでも範囲を外れると、目的とする加工変質層は得られない。
また、この機械研磨により形成された加工変質層に影響を及ぼさないように酸洗液にて酸洗処理しても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、リードフレームとしての使用に適した光沢度に優れたAg或いはNiめっき付き銅合金板及びその製造に使用するCu−Fe−P系銅合金母板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施対応例の光沢度に優れたAg或いはNiめっき付き銅合金板の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の光沢度に優れためっき付き銅合金板1は、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有し、表面の加工変質層2の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、加工変質層2の表面の最大高さ粗さ(Rz)と表面の二乗平均平方根粗さ(Rq)との比(Rz/Rq)が6.5〜8.0である銅合金母板3と、加工変質層2の上に形成されたAgめっき層或いはNiめっき層4とを有する。
【0015】
[銅合金母板の成分組成]
本発明で使用する銅合金母板3の基本組成は、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である。
Feは、銅の母相中に分散する析出物粒子を形成して強度及び耐熱性を向上させる効果があるが、その含有量が1.5質量%未満では析出物の個数が不足し、その効果を奏功せしめることができない。一方、2.4質量%を超えて含有すると、強度及び耐熱性の向上に寄与しない粗大な析出物粒子が存在してしまい、耐熱性に効果のある析出物粒子が不足してしまうことになる。このため、Feの含有量は1.5〜2.4質量%の範囲内とすることが好ましい。
Pは、Feと共に銅の母相中に分散する析出物粒子を形成して強度及び耐熱性を向上させる効果があるが、その含有量が0.008質量%未満では析出物粒子の個数が不足し、その効果を奏功せしめることができない。一方、0.08質量%を超えて含有すると、強度及び耐熱性の向上に寄与しない粗大な析出物が存在してしまい、耐熱性に効果のあるサイズの析出物粒子が不足してしまうことになると共に導電率及び加工性が低下してしまう。このため、Pの含有量は0.008〜0.08質量%の範囲内とすることが好ましい。
Znは、銅の母相中に固溶して半田耐熱剥離性を向上させる効果を有しており、0.01質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有しても、更なる効果を得ることが出来なくなると共に母層中への固溶量が多くなって導電率の低下をきたす。このため、Znの含有量は0.01〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
更に、この基本組成に対し、Ni;0.003〜0.5質量%及びSn;0.003〜0.5質量%を含有していることが好ましい。
Niは、母相中に固溶して強度を向上させる効果を有しており、0.003質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Niを含有する場合には、0.003〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
Snは、母相中に固溶して強度を向上させる効果を有しており、0.003質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Snを含有する場合には、0.003〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
更に、前述の基本組成に対し、或いは、この基本組成にNi;0.003〜0.5質量%及びSn;0.003〜0.5質量%を含有している上述の組成に対して、Al、Be、Ca、Cr、Mg及びSiのうちの少なくとも1種以上を含有し、その含有量の合計が0.0007〜0.5質量%に設定されていることが好ましい。
これらの元素は、銅合金の様々な特性を向上させる役割を有しており、用途に応じて選択的に添加することが好適である。
【0016】
[銅合金母板の表面の加工変質層]
銅合金母板3の表面に形成される加工変質層2は、その表面に形成されるめっきの性状に大きな影響を及ぼすことは周知であるが、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金母板3において、その表面の加工変質層2の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、加工変質層2の表面の最大高さ粗さ(Rz)と表面の二乗平均平方根粗さ(Rq)との比(Rz/Rq)が6.5〜8.0であると、その表面に形成されたAgめっき層或いはNiめっき層4のめっき光沢度が良好となり、圧延でのGoodway方向とBadway方向での光沢度の差が少なくなり、光沢度の均質化が促進される。
加工変質層4の厚みを0.1μm未満とするのは製造技術的に難しく、0.5μmを超えると、充分な光沢度が得られない。結晶粒径が0.05μm未満では、均質性に乏しくなり、0.5μmを超えると充分な光沢度が得られない。表面粗さ比(Rz/Rq)が6.5未満では、均質性に乏しくなり、8.0を超えると充分な光沢度が得られない。
本発明では、加工変質層4の厚み及び結晶粒径は、銅合金母板3の圧延方向に平行な断面をFE−SEMによる観察から測定した。
【0017】
[加工変質層の表面に施されたAgめっき層或いはNiめっき層]
発光ダイオードを用いたLEDチップ等への適用では、リードフレーム自体に均質な高い光沢度が求められ、そのめっきとしては、Agめっき或いはNiめっきが特に好ましいが、用途に応じては、Ni−Auめっき、Ni−Pd−Auめっき等でも支障はない。
加工変質層2の表面に形成されるAgめっき層或いはNiめっき層4の厚みは、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択すれば良いが、費用対効果を考慮すると1〜5μmが好適である。そのめっき手法や条件も特に限定はされないが、例えば、Niめっき層4は、銅合金母板表面を脱脂及び酸洗した後に、無光沢Niめっき浴(スルファミン酸ニッケル;60g/l、ホウ酸;40g/l)を使用して、液温60℃、電流密度5A/dmにてNiめっきを施して形成されることが好ましい。また、例えば、Agめっき層4は、銅合金母板表面を脱脂及び酸洗した後に、Agめっき浴(シアン化銀;50g/L、シアン化;ナトリウム100g/L、炭酸カリウム;10g/L)を使用して、液温20℃、電流密度1.0A/dmにてAgめっきを施して形成されることが好ましい。
【0018】
[銅合金母板の製造方法]
本発明のCu−Fe−P系銅合金母板3の製造方法は、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で銅合金母板を製造するに際して、仕上げ冷間圧延の前或いは後に、ライン速度を20〜120mm/minとして、ワイヤー直径が0.1〜0.6mmである回転型ワイヤーブラシにて、押付け圧力を1〜15KPa、回転数を500〜2500rpmとして、仕上げ冷間圧延の前或いは後の銅合金板の表面を機械研磨することを特徴とする。
銅合金母板3の表面に形成される加工変質層2は、仕上げ冷間圧延の前或いは後の銅合金板の表面を機械研磨することにより調整され、特に、回転型ワイヤーブラシ(ワイヤー直径:0.1〜0.6mm、回転数:500〜2500rpm)を使用し、仕上げ冷間圧延の前或いは後の銅合金板(ライン速度:20〜120mm/min)の表面を押圧して機械研磨(押付け圧力:1〜15KPa)することにより、表面の加工変質層2の厚みを0.1〜0.5μmとし、結晶粒径を0.05〜0.5μmとし、表面粗さ(Rz)と表面粗さ(Rq)との比(Rz/Rq)を6.5〜8.0とすることができる。
回転型ワイヤーブラシはホイル型或いはカップ型であることが好ましく、縦方向から押圧し、必要に応じて回転型ワイヤーブラシ自体をライン上の銅合金板の幅方向に往復移動させて機械研磨を施しても良い。
上述の機械研磨の条件の何れか一つでも範囲を外れると、目的とする加工変質層2は得られない。
また、この機械研磨後に、形成された加工変質層2に影響を及ぼさないように酸洗液にて酸洗処理しても良い。
回転型ワイヤーブラシではなく、適切な番手を有する研磨ロールを使用し、加工変質層2を形成することも考えられるが、研磨ロールよりも銅合金板に対して大きな加工歪みを
与えることができる回転型ワイヤーブラシを適切な条件で使用することにより、より効率的に目的とする加工変質層2を得ることができる。
製造方法の一例としては、所定の組成の原材料を電気炉により還元性雰囲気下で溶解・鋳造してCu−Fe−P系銅合金鋳塊を作製し、この鋳塊を熱間圧延してその表面をフライスで面削し、溶体化処理、冷間圧延、時効処理、仕上げ冷間圧延を実施してCu−Fe−P系銅合金母板3を製造するに際して、仕上げ冷間圧延の前或いは後に、ライン速度を20〜120mm/minとして、ワイヤー直径が0.1〜0.6mmである回転型ワイヤーブラシにて、押付け圧力を1〜15KPa、回転数を500〜2500rpmとして、仕上げ冷間圧延の前或いは後の銅合金板の表面を機械研磨することにより、表面の加工変質層2の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、加工変質層2の表面の最大高さ粗さ(Rz)と表面の二乗平均平方根粗さ(Rq)との比(Rz/Rq)が6.5〜8.0となり、その加工変質層2の上に形成されたAg或いはNiめっき層4は、均質で良好なめっき光沢度を有することになる。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明の実施例について比較例を含めて詳細に説明する。
表1に示す組成(%は質量%である)の銅合金(添加元素以外の成分はCu及び不可避不純物)を、電気炉にて還元性雰囲気下で溶解し、厚さが30mm、幅が100mm、長さが250mmの鋳塊を作製した。この鋳塊を730℃にて1時間加熱した後、圧延率67%にて熱間圧延を施して厚さ10mmに仕上げ、その表面をフライスで板厚8mmになるまで面削した。次に、920℃にて3時間の溶体化処理を施し、板厚1.5mmまで冷間圧延を施し、450〜575℃にて3〜12時間の時効処理を施し、加工率70%にて仕上げ冷間圧延を施した後、ライン上を流れている銅合金板に、表1に示す条件にて、回転型ワイヤーブラシを使用して機械研磨を施し、表面に加工変質層が形成された板厚0.45mmの実施例1〜11、比較例1〜6に示すCu−Fe−P系銅合金薄板を作製した。
この場合、回転型ワイヤーブラシはホイル型(直径:480mmφ)とし、銅合金板幅は460mmとした。
【0020】
【表1】
【0021】
これらの銅合金薄板から試料を切出し、それぞれの試料につき、表面の加工変質層の厚み、結晶粒径、Rz/Rqを測定した。
表面の加工変質層の厚み、結晶粒径は、イオンミリングシステム(日立ハイテクノロジーズ社IM4000)を用いて試料の表面の横断面を研磨し、圧延方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察して測定した。
Rz/Rqは、レーザー顕微鏡(オリンパス社製OLS300)を使用して、Rz、Rqを測定し、その比を計算にて求めた。
これらの測定結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
次に、これらの試料につき、表面を脱脂及び酸洗した後に、無光沢Niめっき浴(スルファミン酸ニッケル;60g/l、ホウ酸;40g/l)を使用して、試料の表面に、液温60℃、電流密度5A/dmにて、厚さ3μmのNiめっき層を形成した。
これらの無光沢Niめっきが施された試料につき、光沢の外観観察を行った。外観評価は、試料のGoodway方向とBadway方向とから、光沢度計(日本電色工業製反射濃度計ND−1)を用いて測定した。Niめっきの光沢度は、測定値が250を超えるものを良好とした。
これらの結果を表3に示す。
また、前述の試料につき表面を脱脂、酸洗した後に、Agめっき浴(シアン化銀;50g/L、シアン化ナトリウム;100g/L、炭酸カリウム;10g/L)を使用して、試料の表面に、液温20℃、電流密度1.0A/dmにて、厚さ3μmのAgめっき層を形成した。
これらのAgめっきが施された試料につき、光沢の外観観察を行った。外観評価は、試料のGoodway方向とBadway方向とから、光沢度計(日本電色工業製反射濃度計ND−1)を用いて測定した。Agめっきの光沢度は、測定値が570を超えるものを良好とした。
これらの結果を表3に示す。
【0024】
【表3】
【0025】
表1、表2、表3の結果より、実施例の試料は、比較例の試料に比べて、圧延方向のGoodway方向とBadway方向での光沢度の差が小さく、均質で高い光沢度を有していることがわかる。
即ち、本発明の製造方法で製造された銅合金母板にAgめっき層或いはNiめっき層を施しためっき付き銅合金板は、均質で優れた光沢度を有しており、光学部材等のリードフレームとして最適であることがわかる。
【実施例2】
【0026】
表4に示す組成(%は質量%である)の銅合金(添加元素以外の成分はCu及び不可避不純物)を、電気炉にて還元性雰囲気下で溶解し、厚さが30mm、幅が100mm、長さが250mmの鋳塊を作製した。この鋳塊を730℃にて1時間加熱した後、圧延率67%にて熱間圧延を施して厚さ10mmに仕上げ、その表面をフライスで板厚8mmになるまで面削した。次に、920℃にて3時間の溶体化処理を施し、板厚1.5mmまで冷間圧延を施し、450〜575℃にて3〜12時間の時効処理を施した後、ライン上を流れている銅合金板に、表4に示す条件にて、回転型ワイヤーブラシを使用して機械研磨を施し、その表面に加工変質層を形成した後、加工率50%にて仕上げ冷間圧延を施し、表面に加工変質層を有する板厚0.75mmの実施例21〜31、比較例21〜26に示すCu−Fe−P系銅合金薄板を作製した。
この場合、回転型ワイヤーブラシはホイル型(直径:480mmφ)とし、銅合金板幅は460mmとした。
【0027】
【表4】
【0028】
これらの銅合金薄板から試料を切出し、それぞれの試料につき、表面の加工変質層の厚み、結晶粒径、Rz/Rqを測定した。
表面の加工変質層の厚み、結晶粒径は、イオンミリングシステム(日立ハイテクノロジーズ社IM4000)を用いて試料の表面の横断面を研磨し、圧延方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察して測定した。
Rz/Rqは、レーザー顕微鏡(オリンパス社製OLS300)を使用して、Rz、Rqを測定し、その比を計算にて求めた。
これらの測定結果を表5に示す。
【0029】
【表5】
【0030】
次に、これらの試料につき、表面を脱脂及び酸洗した後に、無光沢Niめっき浴(スルファミン酸ニッケル;60g/l、ホウ酸;40g/l)を使用して、試料の表面に、液温60℃、電流密度5A/dmにて厚さ3μmのNiめっき層を形成した。
これらの無光沢Niめっきが施された試料につき、光沢の外観観察を行った。外観評価は、試料のGoodway方向とBadway方向とから、光沢度計(日本電色工業製反射濃度計ND−1)を用いて測定した。Niめっきの光沢度は、測定値が250を超えるものは良好とした。
これらの結果を表6に示す。
また、前述の試料につき表面を脱脂、酸洗した後に、Agめっき浴(シアン化銀;50g/L、シアン化ナトリウム;100g/L、炭酸カリウム;10g/L)を使用して、試料の表面に、液温20℃、電流密度1.0A/dmにて厚さ3μmのAgめっき層を形成した。
これらのAgめっきが施された試料につき、光沢の外観観察を行った。外観評価は、試料のGoodway方向とBadway方向とから、光沢度計(日本電色工業製反射濃度計ND−1)を用いて測定した。Agめっきの光沢度は、測定値が570を超えるものは良好とした。
これらの結果を表6に示す。
【0031】
【表6】
【0032】
表4、表5、表6の結果より、実施例の試料は、比較例の試料に比べて、圧延方向のGoodway方向とBadway方向での光沢度の差が小さく、均質で高い光沢度を有していることがわかる。
即ち、本発明の製造方法で製造された銅合金母板にAgめっき層或いはNiめっき層を施しためっき付き銅合金板は、均質で優れた光沢度を有しており、光学部材等のリードフレームとして最適であることがわかる。
【0033】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 Cu−Fe−P系めっき付き銅合金板
2 加工変質層
3 銅合金母板
4 Agめっき層或いはNiめっき層
図1