(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記空気極は、La、Sr、Co、及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む複合酸化物を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の固体酸化物型燃料電池。
前記汚染物質トラップ層は、La、Sr、Sm、Gd、Pr、Nd、Co、及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に関し、さらに詳しくは、電池の作動中に、酸化剤ガスに含まれる汚染物質により空気極の触媒が被毒することを防止することによって、長時間の作動後でも電池の発電性能の低下を防止することのできる固体酸化物形燃料電池に関する。
【0002】
従来より、非特許文献1に示されるように、燃料電池として、固体電解質の一例である固体酸化物を用いた固体酸化物形燃料電池が知られている。固体酸化物形燃料電池は、例えば板状の固体電解質層の各面に、燃料極と空気極とを有する単セルを多数積層して、燃料電池セルスタックを形成する。固体酸化物形燃料電池の作動中には、燃料極に燃料ガス、例えば水素ガスが供給され、空気極に酸化剤ガス、例えば空気が供給される。燃料ガスと酸化剤ガスとが、燃料極で700〜1000℃という高温条件で化学反応することによって、電力が発生する。燃料極における燃料ガスの反応、及び空気極における酸化剤ガスの反応は、それぞれ燃料極及び空気極に含まれる触媒によって促進される。また、燃料ガス及び酸化剤ガスを拡散させるために、燃料極及び空気極は、多孔質体に形成される。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の空気極の材料としては、例えば、La、Sr、及びMnを含有するLSM系材料、La、Sr、及びCoを含有するLSC系材料、La、Sr、及びFeを含有するLSF系材料、並びに、La、Sr、Co、及びFeを含有するLSCF系材料などの導電性材料が古くから知られており、標準的に用いられている。
固体酸化物形燃料電池の固体電解質層の材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)などの電解質材料が古くから知られており、標準的に用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
酸化剤ガスには、不純物質が含まれている。本発明の発明者らの検討によると、これらの不純物質の中には、固体酸化物形燃料電池が作動する高温条件において、空気極の触媒を被毒させ、その触媒活性を低下させる汚染物質が存在することが見出された。汚染物質が空気極の触媒を被毒させると、空気極の触媒活性が低下する。その結果として、酸化剤ガス中の不純物質が固体酸化物形燃料電池の発電性能を低下させる。
【0005】
従来、固体酸化物形燃料電池に供給される酸化剤ガスに着目して固体酸化物形燃料電池の発電性能の向上を図る技術は知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、長時間の作動後においても、空気極における触媒が酸化剤ガス中の汚染物質によって被毒することを防止することができ、発電性能が低下しにくい固体酸化物形燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
(1) 固体電解質層と、前記固体電解質層の一方の面に形成された燃料極と、前記固体電解質層の他方の面に形成された空気極とを備える単セルを有し、
前記空気極へ酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給口と、前記空気極を通過した酸化剤ガスを放出する酸化剤ガス放出口と、前記酸化剤ガス供給口から前記酸化剤ガス放出口までの酸化剤ガスの流路である酸化剤ガス室とを有する固体酸化物形燃料電池において、
前記空気極の触媒を被毒させる前記酸化剤ガス中に含まれる汚染物質を吸着する汚染物質トラップ層を有し、
前記汚染物質トラップ層は、前記酸化剤ガス室における酸化剤ガス供給口側に配置され、前記空気極と分離して形成され、発電に寄与しないことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
(2) 前記汚染物質トラップ層と前記空気極とは、前記固体電解質層における同じ面に設置されてなることを特徴とする前記(1)に記載の固体酸化物形燃料電池。
(3) 前記固体酸化物形燃料電池は、前記燃料極へ供給される燃料ガスの流路である燃料ガス室と、前記酸化剤ガス室とを隔てるセパレータを有し、
前記汚染物質トラップ層は、前記酸化剤ガスと接する前記セパレータの表面に設置されてなることを特徴とする前記(1)に記載の固体酸化物形燃料電池。
(4) 前記汚染物質トラップ層の面積は、前記空気極の面積の5%以上50%以下であることを特徴とする前記(1)乃至(3)の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
(5) 前記空気極は、La、Sr、Co、及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む複合酸化物を有することを特徴とする前記(1)乃至(4)の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
(6) 前記汚染物質トラップ層は、La、Sr、Sm、Gd、Pr、Nd、Co、及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物を有することを特徴とする前記(1)乃至(5)の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
(7) 前記汚染物質トラップ層の比表面積が、前記空気極の比表面積以上であることを特徴とする前記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【発明の効果】
【0010】
(1)前記(1)に記載の手段によると、ガス供給口から供給される酸化剤ガスは、汚染物質トラップ層と接触した後に、空気極へと到る。よって、酸化剤ガスに含有される汚染物質が予め汚染物質トラップ層にて吸着された後に、汚染物質の含有量の少ない酸化剤ガスが空気極へと到達する。以上より、酸化剤ガス中に含有される汚染物質によって空気極の触媒が被毒することを防止することができるので、発電性能が低下しにくい固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
(2)前記(2)に記載の手段によると、汚染物質トラップ層と空気極とが固体電解質層における同じ面に設置されることにより、酸化剤ガスが空気極へと到る前に、より確実に酸化剤ガスと汚染物質トラップ層とが接触し、酸化剤ガスに含まれる汚染物質が汚染物質トラップ層によって吸着されやすい。よって、酸化剤ガスに含まれる汚染物質によって空気極の触媒が被毒することをより確実に防止することができ、発電性能が低下しにくい固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
(3)前記(3)に記載の手段によると、汚染物質トラップ層がセパレータ上に設置されることにより、汚染物質トラップ層と空気極とを確実に分離することができるとともに、汚染物質トラップ層が確実に発電に寄与しないようにすることができる。
(4)前記(4)に記載の手段によると、汚染物質トラップ層の面積が空気極の面積の5%以上50%以下であるので、固体酸化物形燃料電池の発電性能を落とすことなく、酸化剤ガス中の汚染物質が空気極へと到ることを防止することできる。
(5)前記(5)に記載の手段によると、La、Sr、Co、及びFeは、高い導電特性を有するLSM系材料、LSC系材料、LSF系材料、又はLSCF系材料を構成する元素なので、これらの材料によって形成された空気極は高い導電性を有することとなり、発電性能に優れた固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
(6)前記(6)に記載の手段によると、汚染物質トラップ層に含有されるLa、Sr、Sm、Gd、Pr、Nd、Co、及びFe等の少なくとも1種の元素を含む酸化物は、汚染物質を効果的に吸着することができるので、空気極の触媒が被毒することを防止する性能に優れた固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
(7)前記(7)に記載の手段によると、汚染物質トラップ層の比表面積が、空気極の比表面積以上であるので、単位重量あたりの汚染物質トラップ層における汚染物質の吸着効率を上げることができる。よって、汚染物質を十分に吸着するのに必要な汚染物質トラップ層を小型化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0013】
まず、
図1〜
図3において、本発明における固体酸化物形燃料電池の一般的な説明を行う。なお、
図1〜
図3には、汚染物質トラップ層を図示していない。
【0014】
図1において示された固体酸化物形燃料電池スタック1は、発電単位である板状の単セル41が直列に複数積層されることによって形成される。
図2及び
図3に示されるように、単セル41を積層する際には、単セル41にセパレータ25を接合し、このセパレータ25を介して単セル41が積層される。また、単セル41と単セル41との間にはインターコネクタ46が設けられ、単セル41の積層方向の両側には、エンドプレート6及び7が設けられる。
図1に示されるように、単セル41の積層方向に、エンドプレート6及び7を貫くように、4つの柱状の固定部材8〜11が、単セル41に接合されたセパレータ25の横断面の略矩形における4つの角に、1つずつ設けられる。また、隣り合う固定部材8〜11と固定部材8〜11との間において、単セル41の積層方向に、中空柱状の燃料ガス導入管2、燃料ガス導出管3、酸化剤ガス導入管4、及び酸化剤ガス導出管5が設けられる。本願においては図示されていないが、固体酸化物形燃料電池スタック1は、その他の補機類等と共に、収納容器に収められることにより、発電が可能な固体酸化物形燃料電池を形成する。収納容器は、固体酸化物形燃料電池スタック1の発電性能を損なわない限りにおいて、従来公知の容器を用いることができる。固体酸化物形燃料電池の作動中に、燃料ガスは、燃料ガス導入管2から導入され、固体酸化物形燃料電池スタック1の内部に至り、固体酸化物形燃料電池スタック1の内部で燃料ガスが燃料極43と接触した後の排燃料ガスが、燃料ガス導出管3から排出される。また、固体酸化物形燃料電池の作動中に、酸化剤ガスが酸化剤ガス導入管4から導入され、固体酸化物形燃料電池スタック1の内部に至り、固体酸化物形燃料電池スタック1の内部で酸化剤ガスが空気極44と接触した後の排酸化剤ガスが、酸化剤ガス導出管5から排出される。燃料ガス導入管2、燃料ガス導出管3、酸化剤ガス導入管4、酸化剤ガス導出管5、及び固定部材8〜11において、それぞれ、例えばナットのような締付部材を用いて、エンドプレートに押圧力を加えることによって、複数の単セル41の積層体が一体化され、固体酸化物形燃料電池スタック1が形成される。燃料ガス導入管2、燃料ガス導出管3、酸化剤ガス導入管4、酸化剤ガス導出管5は、ガスの導出入の機能に加えて、前記固定部材8〜11と同様に、複数の単セル41の積層体を一体化する機能をも有する。
【0015】
図2には、固体酸化物形燃料電池スタック1の縦断面図における燃料ガスの経路が示される。図の上下方向に複数の単セル41がインターコネクタ46を介して複数積層される。
図2において、単セル41の積層体の左手には、積層された複数の単セル41を含む積層体を貫通するように燃料ガス導入管2が配設される。この燃料ガス導入管2は、その一端部がナットの形状に形成され、他端がガス導入口として開口し、前記ガス導入口からナット形状に形成された一端部近傍まで中空に形成された中空管部21を有する。燃料ガス導入管2には、中空管部21における内部中空空間と単セル41とが連通する燃料ガス供給口22が設けられる。
また、
図2において、単セルの積層体の右手には、積層された複数の単セル41を含む積層体を貫通するように燃料ガス導出管3が配設される。この燃料ガス導出管3は、その一端部がナットの形状に形成され、他端がガス導出口として開口し、前記ガス導出口からナット形状に形成された一端部近傍まで中空に形成された中空管部24を有する。燃料ガス導出管3には、中空管部24と単セル41とが連通する燃料ガス放出口23が設けられる。
燃料ガス導入管2から供給された燃料ガスは、中空管部21内を下方向へと移動するとともに、燃料ガス供給口22を通過し、単セル41側へと移動する。単セル41側へ移動した燃料ガスは、多孔質の燃料極43内に至る。燃料極43内で燃料ガスが反応して生成するガスが排ガスとして燃料ガス放出口23を通過し、中空管部24へと到る。排ガスは、中空管部24を上方向へと移動した後に、燃料ガス導出管3のガス導出口から固体酸化物形燃料電池スタック1の外部に排出される。
燃料ガス供給口22から燃料ガス放出口23までの間におけるガスの流路が、燃料ガス室26である。言い換えると、燃料ガス室26は、燃料ガス供給口22から燃料極43に到るまでの空間と、燃料極43内部における孔空間と、燃料極43から燃料ガス放出口23に到るまでの空間とを有する。
【0016】
図3には、固体酸化物形燃料電池スタック1の縦断面図における酸化剤ガスの経路が示される。図の上下方向に複数の単セル41がインターコネクタ46を介して複数積層される。
図3において、単セル41の積層体の左手には、積層された複数の単セル41を含む積層体を貫通するように酸化剤ガス導入管4が配設される。この酸化剤ガス導入管4は、その一端部がナットの形状に形成され、他端がガス導入口として開口し、前記ガス導入口からナット形状に形成された一端部近傍まで中空に形成された中空管部31を有する。酸化剤ガス導入管4には、中空管部31における内部中空空間と単セル41とが連通する酸化剤ガス供給口32が設けられる。
また、
図3において、単セルの積層体の右手には、積層された複数の単セル41を含む積層体を貫通するように酸化剤ガス導出管5が配設される。この酸化剤ガス導出管5は、その一端部がナットの形状に形成され、他端がガス導出口として開口し、前記ガス導出口からナット形状に形成された一端部近傍まで中空に形成された中空管部34を有する。酸化剤ガス導出管5には、中空管部34と単セル41とが連通する酸化剤ガス放出口33が設けられる。
酸化剤ガス導入管4から供給された酸化剤ガスは、中空管部31内を下方向へと移動するとともに、酸化剤ガス供給口32を通過し、単セル41側へと移動する。単セル41側へ移動した酸化剤ガスは、空気極44内に至る。空気極44を通過したガスが排ガスとして酸化剤ガス放出口33を通過し、中空管部34へと到る。排ガスは、中空管部34を上方向へと移動した後に、酸化剤ガス導出管5のガス導出口から外部に排出される。
酸化剤ガス供給口32から酸化剤ガス放出口33までの間における酸化剤ガスの流路が、酸化剤ガス室36である。言い換えると、酸化剤ガス室36は、酸化剤ガス供給口32から空気極44に到るまでの空間と、空気極44内部における孔空間と、空気極44から酸化剤ガス放出口33に到るまでの空間とを有する。
【0017】
セパレータ25は、単セルの周囲に設けられる。
図1で示される例のように、固体酸化物形燃料電池スタック1の横断面つまりXY平面で切断した断面の外形が矩形であると、固体酸化物形燃料電池スタック1の横断面において示される矩形の4辺に沿って枠板状に形成されたセパレータ25を設けることが好ましい。セパレータ25は、燃料ガス室26と酸化剤ガス室36とを隔てるように設けられる。さらに詳しくは、燃料ガス室26における燃料ガスが酸化剤ガス室36へと漏れること、及び酸化剤ガス室36における酸化剤ガスが燃料ガス室26へと漏れることがないように、セパレータ25は酸化剤ガス室36と燃料ガス室26とを気密に隔てるように形成される。酸化剤ガス室36と燃料ガス室26とを気密に隔てるには、例えば、
図2及び
図3で示される例のように、固体電解質層42の上面の一部とセパレータ25の下面の一部とが面接触するように、ロウ付け等によってセパレータ25を取り付ける方法を用いることができる。
【0018】
セパレータ25は、固体酸化物形燃料電池の作動時における高温条件下においても、変形及び破損をしない限りにおいて、様々の材質を用いることができる。セパレータ25は金属製であることが好ましく、セパレータ25はステンレス製であることがさらに好ましい。
【0019】
燃料ガスとしては、水素、炭化水素、及び水素と炭化水素との混合ガスが挙げられる。この混合ガスはそのまま使用することもできるし、この混合ガスを加湿して使用することもできる。前記炭化水素は特に限定されず、例えば、天然ガス、ナフサ、及び石炭ガス化ガス等が挙げられる。燃料ガスは、一種類の炭化水素であっても良く、また二種類以上の炭化水素の混合物であってもよい。また、燃料ガスは、50体積%以上の窒素及びアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。
酸化剤ガスとしては、例えば、酸素と他の気体との混合ガスが挙げられる。この混合ガスには80体積%以上の窒素及びアルゴン等の不活性ガスが含有されていても良い。酸化剤ガスとしては、安全であって安価である空気が好ましい。
【0020】
次に、
図4〜
図6を用いて、本発明における単セルの一般的な説明と、汚染物質トラップ層についての説明を行う。
【0021】
図4は、固体酸化物形燃料電池スタック1を構成する単セル41とその周辺の部材を、酸化剤ガスの経路を中心として示した縦断面図である。単セル41は、端面に比べて大きな面積の平面を有するように薄板状に形成された固体電解質層42と、固体電解質層42の一方の平面に形成され、且つ端面に比べて大きな面積の平面を有するように薄板状に形成された燃料極43と、固体電解質層42の他方の平面に形成され、且つ端面に比べて大きな面積の平面を有するように薄板状に形成された空気極44とを備える。
図4及び
図5に記載された単セル41は、空気極44及び固体電解質層42の厚みに比べて、燃料極43の厚みが著しく大きい燃料極支持形の単セル41である。しかし、本発明で用いることのできる単セル41は、燃料極支持形の単セル41に限定されず、例えば、固体電解質層及び燃料極の厚みに比べて、空気極の厚みが著しく大きい空気極支持形の単セルであってもよく、燃料極及び空気極の厚みに比べて、固体電解質層の厚みが著しく大きい電解質支持形の単セルであってもよい。
【0022】
固体電解質層42は、電解質材料を有し、固体酸化物形燃料電池スタック1の作動時に、空気極44において発生したイオンを、燃料極43へと移動させるイオン導電性を有する。固体電解質層42中を移動するイオンの好適例として、酸素イオンを挙げることができる。固体電解質層42に含有される電解質材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、サマリウム添加セリア(CeSmO
2)、ガドリウム添加セリア(CeGdO
2)、及びカルシア安定化ジルコニア(CaSZ)を挙げることができる。これらの電解質材料は、それらの内の一種のみを用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。
固体電解質層42の厚みは、3μm以上20μm以下であることが好ましい。厚みが3μmを下回ると、欠陥のない単セル41を再現性良く得ることが困難である。また、厚みが20μmを上回ると、固体電解質層42の電気抵抗が大きくなり、固体酸化物形燃料電池の発電性能が低下することがある。
【0023】
固体電解質層42は、酸化剤ガスが燃料極43へと透過すること、及び燃料ガスが空気極44へと透過することを防止する機能を有するように、緻密質に形成される。例えば、固体電解質層42は、アルキメデス法によって求められる相対密度が、95%以上の緻密質であることが好ましい。
【0024】
燃料極43は、燃料ガスをその内部に流通させることができるように、多孔質に形成される。また、固体酸化物形燃料電池スタック1における単セル41のアノードとして機能する限りにおいて、燃料極43の材質及び厚み等を適宜設計変更することができる。
燃料極43の材質としては、例えば、Ni及び/又はFe等の金属と電解質材料との混合物であるサーメットが挙げられる。電解質材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)、サマリウム添加セリア(CeSmO
2)、ガドリウム添加セリア(CeGdO
2)、及びカルシア安定化ジルコニア(CaSZ)が挙げられる。これらの電解質材料は、それらの一種が選択されてもよく、また二種以上が選択されても良い。
【0025】
空気極44は、複合酸化物を有することが好ましく、La、Sr、Co、及びFeの少なくとも1種の元素を含む複合酸化物から成ることがさらに好ましい。このような複合酸化物の一例として、La
1−xSr
xCoO
3系複合酸化物、La
1−xSr
xFeO
3系複合酸化物、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3系複合酸化物、La
1−xSr
xMnO
3系複合酸化物、Pr
1−xBa
xCoO
3系複合酸化物、及びSm
1−xSr
xCoO
3系複合酸化物が挙げられる。空気極44には、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3系複合酸化物を用いることが特に好ましい。
【0026】
空気極44は、酸化剤ガスを透過させる機能を有する限りにおいて、その開気孔率及び厚みを適宜設計変更することができる。空気極44の開気孔率は、10%以上、特に10%以上50%以下であることが好ましく、空気極44の厚みは、30μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0027】
空気極44のうち、固体電解質層42の接する平面とは反対側に、インターコネクタ46が設けられる。また、燃料極43のうち、固体電解質層42の接する平面とは反対側に、インターコネクタ46が設けられる。
図4及び
図5における例では、インターコネクタ46と空気極44との間に、空気極集電体45が別に設けられるが、インターコネクタ46と空気極集電体45とを一体とした部材を用いてもよい。また、
図4及び
図5における例では、インターコネクタ46と燃料極43との間に、燃料極集電体48が別に設けられるが、インターコネクタ46と燃料極集電体48とを一体とした部材を用いてもよい。インターコネクタ46は、単セル41と単セル41との間に設けられるほか、単セル41の積層体の各端部に設けられることによって、エンドプレート6,7を形成する。単セル41と単セル41との間に設けられたインターコネクタ46は、一方の面で燃料極43又は燃料極集電体48と接触し、他方の面で空気極44又は空気極集電体45と接触することとなり、単セル41同士を電気的に接続する機能を有する。エンドプレート6,7は、単セル41の積層体によって発生した電流を、外部回路に接続させる機能を有する。インターコネクタ46は、固体酸化物形燃料電池スタック1の製造過程、及び作動中における高温条件下でも、変形、及び破損等をしないように、金属製であることが好ましく、ステンレス製であることが更に好ましい。
【0028】
汚染物質トラップ層47は、酸化剤ガスをその内部に流通させるとともに、酸化剤ガスに含まれる汚染物質を吸着する機能を有する。汚染物質トラップ層47は、金属酸化物を有することが好ましく、La、Sr、Sm、Gd、Pr、Nd、Co、及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物であることが好ましい。これらの金属酸化物として、複合酸化物が用いられることが好ましく、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3系複合酸化物が用いられることが特に好ましい。
汚染物質トラップ層47は、酸化剤ガスを透過させる機能を有する限りにおいて、その開気孔率、及び形状を適宜設計変更することができる。汚染物質トラップ層47の開気孔率は、10%以上、特に10%以上50%以下であることが好ましい。汚染物質トラップ層47の開気孔率は、汚染物質トラップ層47全体の体積に対する、汚染物質トラップ層47中に含まれる金属酸化物の体積の割合であり、通常、アルキメデス法によって測定される。汚染物質トラップ層47の形状として、たとえば、
図4及び
図6に示されるように、直方体を挙げることができる。
図4に示されるように、汚染物質トラップ層47の、単セル41を積層する積層方向に沿う寸法つまり厚みは、30μm以上200μm以下が好ましい。
【0029】
汚染物質トラップ層47は、酸化剤ガス室36内の酸化剤ガス供給口32側に配置される。言い換えると、汚染物質トラップ層47は、酸化剤ガス室36のうち、酸化剤ガス供給口32から空気極44までの空間に配置される。よって、酸化剤ガス供給口32から単セル41に向かって供給された酸化剤ガスは、汚染物質トラップ層47を通過した後に空気極44へと到達することとなり、汚染物質トラップ層47が、空気極44の触媒を被毒させる汚染物質を、予め吸着することができる。
【0030】
汚染物質トラップ層47は、空気極44と分離して形成される。言い換えると、汚染物質トラップ層47は空気極44と直接接触することなく、汚染物質トラップ層47と空気極44との間は、絶縁体で隔絶され、又は絶縁体なしで単に隔絶される。汚染物質トラップ層47が空気極44と分離しているので、汚染物質トラップ層47に一旦吸着された汚染物質が、空気極44へと移動することによって空気極44の触媒が被毒することがない。
【0031】
汚染物質トラップ層47は、発電に寄与しない層である。言い換えると、汚染物質トラップ層47は、電池のカソード及びアノードにおける化学反応に伴う電子の移動経路としての機能を有しない。汚染物質トラップ層47は発電に寄与しないので、汚染物質トラップ層47が汚染物質を吸着しても、固体酸化物形燃料電池の発電性能は何の影響を受けることもない。
例えば、
図4においては、空気極44が、固体電解質層42とインターコネクタ46と接続されることによって、空気極44と燃料極43とにおける化学反応、及びそれに伴う電子の移動が起こり、単セル41及びこの単セル41を有する固体酸化物形燃料電池が発電機能を発揮する。一方で、
図4において、汚染物質トラップ層47は、固体電解質層42と接続されるものの、インターコネクタ46と接続されないので、汚染物質トラップ層47を介して空気極44と燃料極43とにおける化学反応、及びそれに伴う電子の移動が起こらない。よって、汚染物質トラップ層47は発電に寄与しない。
また、
図5において、汚染物質トラップ層47は、セパレータ25と接続されるものの、インターコネクタ46とは接続されないので、汚染物質トラップ層47を介して空気極44と燃料極43とにおける化学反応、及びそれに伴う電子の移動が起こらない。よって、汚染物質トラップ層47は発電に寄与しない。
【0032】
図4では、汚染物質トラップ層47と空気極44とが、固体電解質層42における同じ面に設置される例を示す。
図4では、固体電解質層42の一方の面には燃料極43が形成され、固体電解質層42の他方の面に空気極44と汚染物質トラップ層47とが形成される。汚染物質トラップ層47が設けられるのは、酸化剤ガス供給口32と空気極44との間であって、セパレータ25と空気極44との間における固体電解質層42の表面に設けられる。汚染物質トラップ層47と空気極44とは接触することなく、隙間を設けて配置される。また、
図4における例では、汚染物質トラップ層47とセパレータ25とは隙間を設けて配置されるが、隙間を設けることなく汚染物質トラップ層47とセパレータ25とを、面接触させてもよい。なお、
図4のように、汚染物質トラップ層47が固体電解質層42の一面に設けられる例においては、汚染物質トラップ層47とインターコネクタ46とは、電気的に接続されない。電気的に接続されない例としては、例えば、汚染物質トラップ層47とインターコネクタ46とが接触することなく分離して設けられること、及び汚染物質トラップ層47とインターコネクタ46とが絶縁体を介して接続されることが挙げられる。汚染物質トラップ層47とインターコネクタ46とが電気的に接続されると、汚染物質トラップ層47を介して空気極44と燃料極43とにおける化学反応、及びそれに伴う電子の移動が起こることとなり、汚染物質トラップ層47が発電に寄与するので好ましくない。
【0033】
図5では、汚染物質トラップ層47が、セパレータ25の表面に設置される一例を示す。より詳しくは、
図5において、汚染物質トラップ層47は、酸化剤ガス供給口32と空気極44との間に設けられたセパレータ25の表面であって、酸化剤ガス室36に面する表面に、配置される。
図5では、セパレータ25と空気極44とが分離して設けられており、汚染物質トラップ層47と空気極44とも同様に、分離して設けられる。また、汚染物質トラップ層47は、空気極44、及びインターコネクタ46のいずれとも電気的に接続されておらず、発電に寄与することがない。
【0034】
汚染物質トラップ層47の面積は、空気極44の面積の5%以上であって50%以下であることが好ましい。汚染物質トラップ層47の面積及び空気極44の面積と言う場合の面積は、単セル41の積層方向に直交する方向の平面に前記汚染物質トラップ層47及び空気極44を投影したときに形成される平面の面積を言う。
例えば、
図6において、
図4のB−B線を含む平面に投影したときの平面図を示す。通常は、
図6に示される汚染物質トラップ層47の上平面の面積と空気極44の上平面の面積とから、汚染物質トラップ層47の面積と空気極44の面積との比を求めることができる。
図6において、図中の左側から右側へと酸化剤ガスが流れる。汚染物質トラップ層47の面積は、空気極44の面積の5%以上50%以下である。汚染物質トラップ層47の面積が、空気極44の面積の5%よりも小さいと、汚染物質が汚染物質トラップ層47において十分に吸着されず、空気極44の触媒が被毒しやすくなる。一方で、汚染物質トラップ層47の面積が空気極44の面積の50%より大きくなると、単セル41における空気極3の占める割合が小さくなるので、固体酸化物形燃料電池の発電性能が不十分となることがある。
なお、
図5の例のように、空気極44と汚染物質トラップ層47とが、同じ面上に配置されていない例においても、単セル41の積層方向に直交する平面に投影される空気極44の上平面の面積と、単セル41の積層方向に直交する平面に投影される汚染物質トラップ層47の上平面の面積とを各々求めることにより、面積比を求めることができる。このように各々求めた空気極44の面積と汚染物質トラップ層47の面積とを比較し、汚染物質トラップ層47の面積が空気極44の面積の5%以上50%以下であればよい。
【0035】
図6における例では、単セル41の積層方向に直交する平面に投影される、汚染物質トラップ層47の投影形状は略矩形であるが、汚染物質を吸着することができる限りにおいて、投影形状は矩形に限定されなくてもよい。例えば、汚染物質トラップ層47の投影形状は、円形、楕円形、及び矩形を除く多角形等の形状であってもよい。
【0036】
汚染物質とは、酸化剤ガスに含有される物質のうち、空気極44を構成する複合酸化物に吸着し、空気極44を構成する複合酸化物の触媒活性を低下させる物質である。汚染物質により生じる技術的問題点の具体例として、汚染物質が空気極44の複合酸化物と反応して生成した反応生成物が、空気極44における孔を塞ぎ、酸化剤ガスが空気極44内に充分に供給されなくなることにより、空気極44における触媒活性が充分に発揮されなくなる例が挙げられる。また、汚染物質により生じる技術的問題点の他の一例としては、汚染物質が空気極44の複合酸化物と反応し、空気極44を構成する複合酸化物が、触媒活性を有しない他の物質に変性してしまうことにより、空気極44における触媒活性が失われる例が挙げられる。空気極44の触媒活性が低下すると、固体酸化物形燃料電池の発電性能が低下するので好ましくない。酸化剤ガスに含有される汚染物質として、例えば、S、Cr、Si、B、及びClの少なくとも1種の元素を含有する物質が挙げられる。このような汚染物質として、例えば、SOxが挙げられる。汚染物質には、H
2Oが含まれていてもよい。
【0037】
汚染物質トラップ層47の比表面積は、空気極44の比表面積以上であることが好ましい。汚染物質トラップ層47及び空気極44の一部を取り出して、従来公知の方法を用いることによって、それぞれの比表面積を求めることができ、例えば、BET法を用いて比表面積を求めることができる。汚染物質トラップ層47の比表面積が大きいと、単位重量あたりの汚染物質トラップ層47の表面積が大きくなり、酸化剤ガスと汚染物質トラップ層47との接触効率が上がるので、酸化剤ガスに含まれる汚染物質を効率的に吸着することができる。特に、汚染物質トラップ層47の比表面積が空気極44の比表面積以上であると、汚染物質トラップ層47において被毒物質を効率的に吸着することができ、ひいては汚染物質トラップ層47を小型化することができる。
【0038】
次に、本発明の固体酸化物形燃料電池スタック1の製造方法について説明する。
【0039】
単セル41を製造するには、従来公知の方法を用いることができる。例えば、固体電解質層42を形成するグリーンシート(以下、「グリーンシートA」と称することがある。)、燃料極43を形成するグリーンシート(以下、「グリーンシートB」と称することがある。)を積層し、グリーンシートAに、空気極44を形成するスラリー(以下、「スラリーA」と称することがある。)を塗布し、この積層体を焼成することによって、燃料極43と固体電解質層42と空気極44とがこの順に積層された単セル41を得ることができる。
【0040】
汚染物質トラップ層47と空気極44とが固体電解質層42における同じ面に設置されてなる単セル41の製造方法の一例を以下に挙げる。グリーンシートAの表面に、前述したように形成するスラリーAを塗布すると共に、汚染物質トラップ層47を形成するスラリー(以下、「スラリーB」と称することがある。)を塗布する。この際、スラリーAとスラリーBとは、グリーンシートAの表面であって、グリーンシートBが積層されたのとは反対側の同一表面上に塗布する。また、スラリーAとスラリーBとは、互いに接触しないように、隔離して塗布する。この積層体を焼成することによって、
図4のように、固体電解質層42の表面に、空気極44と汚染物質トラップ層47とが形成された単セル41を得ることができる。
【0041】
単セル41の空気極44と、他方の単セル41の燃料極43との間に、インターコネクタ46を設けて圧着し、複数の単セル41を直列に接続する。単セル41の積層方向の両側には、複数の単セル41を押圧すると共に、固体酸化物形燃料電池スタック1の出力端子として用いられるエンドプレート6、及び7を配置する。単セル41の積層体は、エンドプレート6、及び7を介して、その積層方向に貫くように設けられた固定部材8〜11によって締め付けられて固定化される。
【0042】
複数の単セル41を直列に接続する際に、各々の単セル41において、固体電解質層42の表面に、燃料ガス室26と酸化剤ガス室36とを隔てるように、セパレータ25が設けられる。具体的には、固体電解質層42の表面の一部と、セパレータ25の一部とが面接触するように、ロウ付けを用いることによって、セパレータ25を単セル41の周囲に設けることができる。
【0043】
酸化剤ガスと接触する前記セパレータ25の表面に、この汚染物質トラップ層47を設けることができる。汚染物質トラップ層47を設けるには、例えば、セパレータ25の表面に、スラリーBを塗布し、このセパレータ25を焼成することによって、汚染物質トラップ層47が表面に設けられたセパレータ25が得られる。このセパレータ25を、前記固体酸化物形燃料電池スタック1の組立時に用いることによって、汚染物質トラップ層47が、セパレータ25の表面に設置された固体酸化物形燃料電池スタック1を得ることができる。
【0044】
なお、汚染物質トラップ層47の比表面積が、空気極44の比表面積以上となるようにするには、例えば、スラリーAを調製する際に用いる粉末の粒径よりも、小さい粒径を有する粉末を用いてスラリーBを調製する方法を用いることができる。また、スラリーAの焼成温度よりも、スラリーBの焼成温度を小さくする方法を用いることもできる。
【0045】
次に、本発明の固体酸化物形燃料電池の作用について説明する。
【0046】
本発明の固体酸化物形燃料電池を作動させると、固体酸化物形燃料電池スタック1の内部に酸化剤ガスと燃料ガスとが供給される。酸化剤ガスは、中空管部31及び酸化剤ガス供給口32を順に通過する。酸化剤ガスは、空気極44に接触するより前に、酸化剤ガス供給口32側に設けられた汚染物質トラップ層47に接触する。酸化剤ガスが汚染物質トラップ層47に接触すると、酸化剤ガスに含まれる汚染物質が汚染物質トラップ層47に吸着される。汚染物質トラップ層47と接触した後で空気極44に到達した酸化剤ガスは、汚染物質トラップ層47と接触する前の酸化剤ガスよりも、汚染物質の含有量が少なくなっている。空気極44に到達した酸化剤ガスにおける汚染物質の含有量が少ないと、酸化剤ガスに含まれる汚染物質が空気極44の触媒を被毒させる程度を抑えることができる。故に、本発明の固体酸化物形燃料電池を長時間作動させた後であっても、酸化剤ガス中の汚染物質が空気極44の触媒を被毒させることを防止することができ、ひいては固体酸化物形燃料電池スタック1の耐久性を高めることができる。
【0047】
本発明の固体酸化物形燃料電池は、高圧の出力が可能な電池として、各種用途に用いることができる。本発明の固体酸化物形燃料電池は、例えば、家庭用の小型コージェネレーションシステムにおける発電源として、又は業務用の大型コージェネレーションシステムにおける発電源として、用いることができる。