【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である足踏み式パーキングブレーキ操作装置10を示す概略図で、車載状態における車両側方(左側)から見た一部を切り欠いた側面図であり、
図2および
図3はそれぞれ
図1におけるII−II矢視部分、 III−III 矢視部分の断面図である。この足踏み式パーキングブレーキ操作装置10は、運転席前方においてダッシュパネル等の車体側部材に位置固定に配設されるペダルサポート14に、支持軸16の軸心である支持軸心Sまわりに回動可能に配設された操作ペダル18を備えている。操作ペダル18は、金属板材にプレスによる曲げ加工等を施して所定形状に形成したもので、下端部にはペダルパッド等の踏部20が設けられている。そして、その踏部20が運転者によって足踏み操作されると、操作ペダル18は支持軸心Sまわりの一方向である
図1における右まわり方向に回動させられ、ブレーキケーブル22を引っ張って図示しない車輪に配設されたパーキングブレーキを作動させる。操作ペダル18は、支持軸心Sに対して略直角な平坦なベース板部24を主体として構成されており、そのベース板部24の右側面(
図1と反対側の面)には、ブレーキケーブル22を巻き掛けるためのガイド部材26が溶接等により一体的に固設されている。
【0023】
操作ペダル18の上部前方には、ベース板部24に対して板厚方向(
図1における紙面の表面側)へクランク状に曲げられた平坦な取付座28が設けられているとともに、その取付座28には、支持軸心Sを中心とする円弧形状に沿って多数の鋸歯30を有するラチェット部材32が一対のリベット34、36を介して一体的に固設されている。一方、ペダルサポート14には、支持軸心Sと平行なポールピン40の軸心まわりに回転可能にポール42が配設されているとともに、そのポール42は、両端部がポール42およびペダルサポート14に掛け止められた捩りコイルスプリング44によってポールピン42の右まわり方向へ回動するように付勢されており、爪部46がラチェット部材32の鋸歯30と噛み合わされるようになっている。捩りコイルスプリング44はポール付勢スプリングに相当する。
【0024】
多数の鋸歯30は、支持軸心Sまわりにおいて操作ペダル18の踏込み方向と反対方向である
図1における左まわり方向へ傾斜している傾斜歯で、操作ペダル18が
図1に示す原位置から踏込み操作されるブレーキ開始時には、ポール42の爪部46がラチェット部材32の前端部(
図1における上端部)側から鋸歯30と係合させられるが、捩りコイルスプリング44の付勢力に抗して揺動しながら鋸歯30を乗り越えることが可能で、その操作ペダル18の踏込み操作が許容される。しかし、操作ペダル18が原位置側へ戻り回動させられる際には爪部46が鋸歯30と噛み合わされ、その戻り回動が阻止されてパーキングブレーキの作動状態が維持される。ラチェット部材32は金属材料製で、ポール42は金属材料と合成樹脂との複合材料製であるが、例えば鋸歯30の非噛合側の歯面、すなわちブレーキ開始時にポール42が当接させられて乗り越える側の歯面や、その歯面に当接させられるポール42の爪部46の当接面等を合成樹脂などで被覆することも可能である。一対のリベット34、36は、ラチェット部材32の前端部、およびその前端部と後端部との間の中間位置の2箇所で、そのラチェット部材32を操作ペダル18の取付座28に固定している。
【0025】
ポールピン40はポール42に設けられた長穴48内を挿通させられており、操作ペダル18の足踏み操作が解除され、ブレーキケーブル22の張力に従って操作ペダル18が戻り回動しようとすると、ポール42の爪部46がラチェット部材32の鋸歯30と噛み合わされるとともに、長穴48によって許容される範囲でポール42の回転中心が支持軸心Sの左まわりに変位し、捩りコイルスプリング44による付勢方向が逆転する。その場合でも、ブレーキケーブル22の張力に基づいてポール42と鋸歯30とか噛合状態に維持され、パーキングブレーキが作動状態に保持されるが、再び操作ペダル18が踏まれて噛合圧力が解放されると、ポール42は捩りコイルスプリング44の付勢力に従ってポールピン40の左まわりに回動させられ、鋸歯30との噛合が不能になる。これにより、操作ペダル18の戻り回動が許容され、ブレーキケーブル22の張力や図示しないリターンスプリングの付勢力に従って原位置まで戻されるとともに、パーキングブレーキが解除される。操作ペダル18の原位置は、ペダルサポート14に取り付けられたストッパ50によって規定される。また、操作ペダル18が原位置まで戻り回動させられる際に、戻し係合部52がポール42と係合させられることにより、そのポール42がポールピン40の右まわりに回動させられ、回転中心が
図1に示す初期位置へ復帰させられるとともに、捩りコイルスプリング44による付勢方向が右まわり方向に戻される。このポール42の初期位置は、ポールストッパ54によって規定される。
【0026】
ここで、パーキングブレーキを作動させるために操作ペダル18が足踏み操作されるブレーキ開始時には、ポール42が捩りコイルスプリング44の付勢力に抗して揺動しながらラチェット部材32の鋸歯30を連続的に乗り越えるが、一つの鋸歯30を乗り越える毎に捩りコイルスプリング44の付勢力に従って次の鋸歯30に当接させられるため、連続する打撃音から成るラチェット音が発生する。特に、操作ペダル18は金属板材にて構成されているため、ラチェット部材32の振動が操作ペダル18の取付座28やベース板部24に伝播して増幅され、大きなラチェット音が生じる可能性がある。
【0027】
これに対し、本実施例の足踏み式パーキングブレーキ操作装置10は、操作ペダル18の取付座28に、平板状のままであればポール42が鋸歯30に当接させられることによって生じるラチェット音の振動波形に対して交差する方向に、断面が凸状に曲げられたビード56が設けられている。すなわち、取付座28のうちラチェット部材32の前端部が位置する
図1における上部側は支持軸心S方向へ向かってせり出しており、そのせり出し部分に、
図2に示されるようにラチェット部材32が固設された面側へ凸状に突き出すビード56が設けられている。ビード56の断面は、本実施例では台形状であり、プレス加工によって設けられている。上記振動波形は、例えばモーダル解析によって求めることが可能で、その波形に対して略直角に交差する方向に設けることが望ましく、例えば直交方向に対して±20°程度以下の範囲内となるように設けられる。本実施例では、略直線状のビード56が設けられており、振動波形の直交方向に対する交差角度の平均値が±20°程度以下とされている。このようなビード56は、結果的に支持軸心Sを中心とする円周方向に設けられ、例えば円周の接線方向に対する交差角度の平均値が±20°程度以下になるように設けられる。上記取付座28は平坦部に相当する。
【0028】
本実施例ではまた、ラチェット部材32の後端部側にも、取付座28と支持軸心Sとの間の平坦なベース板部24に、前記ビード56と同様に断面が台形状でラチェット部材32が固設された面側へ凸状に突き出すビード58が振動波形に対して交差する方向、言い換えれば支持軸心Sを中心とする円周方向に、直線状に設けられている。このビード58は、前記ビード56とは別個に分離して設けられているが、例えば
図6に示す足踏み式パーキングブレーキ操作装置60のビード62のように、ビード56および58を連続して繋いで設けることも可能である。本実施例では、このビード58が設けられたベース板部24も平坦部に相当する。
【0029】
このような本実施例の足踏み式パーキングブレーキ操作装置10、60においては、操作ペダル18の支持軸心Sとラチェット部材32との間に平坦部として取付座28およびベース板部24を備えているため、ラチェット部材32の振動がそれ等の取付座28およびベース板部24に伝播してラチェット音が増幅される可能性がある。しかし、本実施例ではそれ等の取付座28およびベース板部24に、平板状のままであればポール42が鋸歯30に当接させられることによって生じるラチェット音の振動波形に対して略直交する方向、言い換えれば支持軸心Sを中心とする円周方向に、断面が凸状に曲げられたビード56、58が設けられているため、その振動に対する剛性が高くなって振動の伝播が抑制され、ラチェット音が効果的に低減される。
【0030】
また、本実施例では、取付座28のうちラチェット部材32の前端部が位置する側は支持軸心S側へ向かってせり出しており、そのせり出し部分にビード56が設けられているとともに、ラチェット部材32の後端部側では、取付座28と支持軸心Sとの間のベース板部24にビード58が設けられているため、取付座28およびベース板部24の剛性が何れも高くなってラチェット音が適切に低減される。
【0031】
また、
図1の実施例のように上記ビード56および58が互いに分離して設けられている場合、
図6の実施例のビード62のように両者を連続して繋いで設ける場合に比較して、ビード56、58を稜線とする折れ曲がり変形に対して高い強度を確保できる。
【0032】
また、本実施例では、ラチェット部材32が前端部および中間位置の2箇所で操作ペダル18に固設されているため、固定部位の領域を大きくすることなく前端部側が拘束されることで、特に大きな打撃音が発生する初期のラチェット音が効果的に低減される。また、ポール42が多数の鋸歯30に当接する際に生じる個々の打撃音の音圧レベル(音の大きさ)の変化幅が小さくなり、耳障り感が軽減される。
【0033】
因に、
図11および
図12に示す足踏み式パーキングブレーキ操作装置100は、上記ビード56、58が設けられていないとともに、ラチェット部材32が後端部および中間位置の2箇所で操作ペダル18の取付座28に固設されている従来品で、
図12は
図11における XII−XII 矢視部分の断面図である。このような足踏み式パーキングブレーキ操作装置100において、操作ペダル18が足踏み操作されるブレーキ開始時に生じるラチェット音の振動波形をモーダル解析によって求めると、
図11におけるXIII−XIII矢視部分において
図13に示すような振動波形になる。
図13は、振動波形を模式的に示した図で、A部、B部、およびC部はそれぞれ
図11におけるA直線、B直線、およびC直線に対応し、
図13はそれ等のA直線、B直線、およびC直線が表す振動波形に対して略直交する方向の断面図である。A直線(A部)およびC直線(C部)は、振動波形の腹(山・谷)に相当し、B直線(B部)は節に相当する。前記足踏み式パーキングブレーキ操作装置10、60も、前記ビード56、58、62を設けなければ、同様の振動波形でラチェット音が発生する。
【0034】
そして、本発明品である前記足踏み式パーキングブレーキ操作装置10、および従来品である足踏み式パーキングブレーキ操作装置100について、操作ペダル18が足踏み操作されるブレーキ開始時のラチェット音(連続打撃音)を測定したところ、
図4に示すように、本発明品によれば特に高い周波数領域(4000Hz以上)の高音側の音圧レベルが低下した。また、ラチェット部材32の多数の鋸歯30の個々の打撃音の音圧レベルを比較すると、
図5に示すように、本発明品によればラチェット部材32の前端部側(鋸歯の位置の数字が小さい側)の音圧レベルが低下し、音圧レベルの変化幅ΔAも従来品の変化幅ΔBに比較して略半分程度になった。
【0035】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0036】
図7および
図8に示す足踏み式パーキングブレーキ操作装置70は、ラチェット部材32を取り付けるための取付座72が、ラチェット部材32の長手方向の全域に亘って支持軸心S側へ向かってせり出して設けられている場合である。そして、その取付座72には、平板状のままであればポール42が鋸歯30に当接させられることによって生じるラチェット音の振動波形に対して略直交する方向、言い換えれば支持軸心Sを中心とする円周方向に、断面が凸状に曲げられた単一のビード74が周方向の全域に設けられている。
図8は
図7におけるVIII−VIII矢視部分の断面図である。本実施例では、取付座72が平坦部に相当する。
【0037】
図9および
図10に示す足踏み式パーキングブレーキ操作装置80は、ラチェット部材32が操作ペダル18のベース板部24に取り付けられている場合で、そのベース板部24には、ラチェット部材32が固設された部分と支持軸心Sとの間の中間部分に、平板状のままであればポール42が鋸歯30に当接させられることによって生じるラチェット音の振動波形に対して略直交する方向、言い換えれば支持軸心Sを中心とする円周方向に、断面が凸状に曲げられた単一のビード82が設けられている。
図10は
図9におけるX−X矢視部分の断面図である。本実施例では、ベース板部24が平坦部に相当する。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。