(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6141880
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】低IC電力放散及び高ダイナミックレンジを備えた回路のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20170529BHJP
H03G 3/10 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H03G3/10 E
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-554857(P2014-554857)
(86)(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公表番号】特表2015-510722(P2015-510722A)
(43)【公表日】2015年4月9日
(86)【国際出願番号】US2013023160
(87)【国際公開番号】WO2013112846
(87)【国際公開日】20130801
【審査請求日】2016年1月22日
(31)【優先権主張番号】13/443,525
(32)【優先日】2012年4月10日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/598,500
(32)【優先日】2012年2月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/590,607
(32)【優先日】2012年1月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390020248
【氏名又は名称】日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507107291
【氏名又は名称】テキサス インスツルメンツ インコーポレイテッド
(74)【上記1名の代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】アンジェロ ウィリアム ペレイラ
(72)【発明者】
【氏名】ポールエルベ アイメリック フォンテーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル ヴェルシエール
(72)【発明者】
【氏名】チンタン トゥレハン
(72)【発明者】
【氏名】ソーピング ソー
(72)【発明者】
【氏名】バラジ ナレンドラン シェラッパ
【審査官】
大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−021834(JP,A)
【文献】
特開2003−092537(JP,A)
【文献】
特開2000−102098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03G 3/10
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択された出力ボリュームを検出する選択されたボリューム検出器と、
アナログ出力信号増幅器と、
デジタルボリューム増幅器と、
前記選択されたボリューム検出器と前記アナログ出力信号増幅器と前記デジタルボリューム増幅器とに結合されるブースト利得制御要素と、
を含む装置であって、
前記ブースト利得制御要素が、前記デジタルボリューム増幅器と前記アナログ出力信号増幅器との経路の利得を実質的に一定に保つように構成され、
前記ブースト利得制御要素が、前記デジタルボリューム増幅器と前記アナログ出力信号増幅器との前記経路の前記利得を実質的に一定に且つ前記選択された出力ボリュームに等しく保つために、
(a)前記デジタルボリューム制御の利得と、
(b)前記アナログ出力信号増幅器の利得と、
の両方を調節することができ、
前記ブースト利得制御要素が、
前記選択された出力ボリュームを閾値と比較し、
前記選択された出力ボリュームが前記閾値を下回る場合に、前記ブースト利得制御要素が、前記デジタルボリューム増幅器と前記アナログ出力信号増幅器との前記経路の前記利得を実質的に一定に且つ前記選択された出力ボリュームに等しく保つために、(a)前記デジタルボリューム増幅器のデジタルボリュームを上向きに調節することと、(b)前記アナログ出力信号増幅器のボリュームを下向きに調節することと、が可能である、
ように更に構成される、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
前記ブースト利得制御要素が、
前記選択されたボリュームを閾値と比較し、
振幅の所与のボリュームが前記閾値を上回る場合に、前記ブースト利得制御要素が、前記デジタルボリューム増幅器と前記アナログ出力信号増幅器との前記経路の前記利得を実質的に一定に且つ前記選択された出力ボリュームに等しく保つために、(a)前記デジタルボリューム増幅器のデジタルボリュームを下向きに調節することと、(b)前記アナログ出力信号増幅器のボリュームを上向きに調節することと、が可能である、
ように更に構成される、装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、
デジタルシグナルプロセッサを更に含み、
前記デジタルシグナルプロセッサの出力が前記デジタルボリューム増幅器の入力に結合される、装置。
【請求項4】
請求項1に記載の装置であって、
前記アナログ出力信号増幅器が「クラスG」チャージポンプである、装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置であって、
前記選択されたボリューム検出器が、選択されたボリューム信号を受け取るデジタルシグナルプロセッサに結合される、装置。
【請求項6】
請求項1に記載の装置であって、
ブーストモードの閾値が実質的に18デシベルの増幅であり、
前記デジタルボリューム増幅器のダイナミックレンジが実質的に12dBの増加であり、
前記ブースト利得制御要素により調節されるような前記アナログ出力信号増幅器のダイナミックレンジが実質的にマイナス12dBである、装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置であって、
前記デジタルボリューム増幅器のユニティ増幅と12dB値との間に遷移期間があり、実質的1dBで前記デジタルボリューム増幅器の遷移が変化する、装置。
【請求項8】
選択された出力オーディオ信号ボリュームを検出する選択されたボリューム検出器と、
アナログ出力信号増幅器と、
デジタルボリューム増幅器と、
前記選択されたボリューム検出器と前記アナログ出力信号増幅器と前記デジタルボリューム増幅器とに結合されるブースト利得制御要素と、
を含む装置であって、
前記ブースト利得制御要素が、前記デジタルボリューム増幅器と前記アナログ出力信号増幅器との経路の利得を実質的に一定に保つように構成され、
前記ブースト利得制御要素が、前記デジタルボリューム増幅器と前記アナログ出力信号増幅器との前記経路の利得を実質的に一定にかつ前記選択された出力ボリュームに等しく保つために、前記デジタルボリューム増幅器の利得と前記アナログ出力信号増幅器の利得との両方を調整でき、
前記ブースト利得制御要素が、
前記選択された出力ボリュームを閾値と比較し、
前記選択された出力ボリュームが前記閾値を下回る場合に、前記ブースト利得制御要素が、前記デジタルボリューム増幅器と前記アナログ出力信号増幅器との前記経路の前記利得を実質的に一定に且つ前記選択された出力ボリュームに等しく保つために、(a)前記デジタルボリューム増幅器のデジタルボリュームを上向きに調節することと、(b)前記アナログ出力信号増幅器のボリュームを下向きに調節することと、が可能である、
ように更に構成される、装置。
【請求項9】
請求項8に記載の装置であって、
前記ブースト利得制御要素が、
前記選択されたボリュームを閾値と比較し、
振幅の所与のボリュームが前記閾値を上回る場合に、前記ブースト利得制御要素が、前記デジタルボリューム増幅器と前記アナログ出力信号増幅器との前記経路の前記利得を実質的に一定に且つ前記選択された出力ボリュームに等しく保つために、(a)前記デジタルボリューム増幅器のデジタルボリュームを下向きに調節することと、(b)前記アナログ出力信号増幅器のボリュームを上向きに調節することと、が可能である、
ように更に構成される、装置。
【請求項10】
請求項8に記載の装置であって、
デジタルシグナルプロセッサを更に含み、
前記デジタルシグナルプロセッサの出力が前記デジタルボリューム増幅器の出力に結合される、装置。
【請求項11】
請求項8に記載の装置であって、
前記アナログ出力信号増幅器が「クラスG」チャージポンプである、装置。
【請求項12】
請求項8に記載の装置であって、
前記選択されたボリューム検出器が、選択されたボリューム信号を受信するデジタルシグナルプロセッサに結合され、装置。
【請求項13】
選択されたオーディオ出力ボリュームがボリューム閾値より大きいか否か判定することと、
前記選択されたオーディオ出力ボリュームが前記ボリューム閾値より大きい場合に、デジタル増幅器の利得を増大させることと、
前記選択されたオーディオ出力ボリュームが前記ボリューム閾値より大きくない場合に、アナログ出力信号増幅器の利得を低減させることと、
を含む方法であって、
前記デジタル増幅器と前記アナログ出力信号増幅器との経路の利得が実質的に一定であり、前記選択されたオーディオ出力ボリュームに等しくしようとする、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、
前記選択されたオーディオ出力ボリュームでオーディオストリームを再生することを更に含む、方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法であって、
前記選択されたオーディオ出力ボリュームが前記ボリューム閾値より大きくない場合に、前記デジタル増幅器の利得が前記デジタル増幅器の許容可能な利得より大きいか否か判定することを更に含む、方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法であって、
第1の時間の経過の間に前記オーディオ出力ボリュームが前記ボリューム閾値より小さいか否か判定することと、
第2の時間経過の後の中で前記デジタル増幅器と前記アナログ出力信号増幅器との少なくとも一方の更新が生じるか否かを判定することと、
を更に含む、方法。
【請求項17】
請求項13に記載の方法であって、
前記選択されたオーディオ出力ボリュームが「クラスG」チャージポンプの補助により発生される、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、
前記選択されたオーディオ出力ボリュームでオーディオストリームを再生することを更に含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、概して、圧縮された(MP3など)又は圧縮されていない(PCMを有するなど)任意のデジタルフォーマットで符号化されたオーディオ信号を再生するオーディオチャネルを有する集積回路(IC)に関し、更に特定して言えば、低IC電力放散及び高ダイナミックレンジ(DR)が同時に所望とされるオーディオチャネルに関連する。
【背景技術】
【0002】
概して、発明者らにより認識されているように、オーディオ再生のための最新のオーディオICは、ダイナミックレンジ(DR)だけでなく電力放散及び信号対雑音比(SNR)間のエンジニアリングとユーザのトレードオフをつくり得る、幾つかの制約を有し得る。1つの例において、クラス最良のポータブルオーディオCODEC(即ち、デジタルデータストリーム又は信号を符号化又は復号化することが可能)は、4ミリワットでのMPEG−1又はMPEG−2オーディオ層III(MP3)静止電力を報告しており、最良SNRは101dB(振幅)である。しかし、これらのパラメータは同時には達成されない。
【0003】
例えば、
図1に移ると、従来技術のデジタルアナログ(DAC)ヘッドホン再生チャネルである回路100が図示されている。回路100において、パルス符号変調(PCM)コーデック110が、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)120に結合される。DSP120はその後、復調器(DMOD)130においてオーバーサンプリングされ、この出力は、デジタルアナログコンバータ(DAC)140の入力に結合される。DAC140のアナログ信号がその後、ドライバ150に搬送され、ドライバ150はクラス「G」チャージポンプ160により電力供給される。これは、一対のヘッドホン170に電力供給するために用いられる。
【0004】
しかし、本願発明者らにより認識されているように、この従来技術の回路100に関して課題がある。概して、従来技術の回路100は、ヘッドホン(HP)のオーディオ再生のためのポータブルICに用いられる他の回路だけでなく、DMOD130、DAC140、及びヘッドホン170内で、ホワイトノイズ又はその他の、カウンタノイズの問題に遭遇し、この問題は、電力放散、ダイサイズなどと回路100のダイナミックレンジとの間のトレードオフを強いる。
【0005】
幾つかの特許が、概して、ヘッドホン(HP)のオーディオ再生のためのポータブルICに用いられる、従来技術の回路100における節電に対処している。例えば、Woodfordらの米国特許番号第7,808,324号、発明の名称「Operating environment and process position selected charge-pump operating mode in an audio power amplifier integrated circuit」を参照されたい。米国特許番号第7,808,324号は、概して、SNR、又はDACやHPアンプの電力ではなく、クラスG効率に向けられている。Tuckerらの米国特許出願番号第11/610496号、発明の名称「Energy-Efficient Consumer Device Audio Power Output Stage」は、CPモード制御にフォーカスする低電力オーディオ再生経路に向けられているが、同時に生じるダイナミックレンジ改善又は電力低減は記載していない。Lessoらの米国特許番号第7,622,984号、発明の名称「Charge pump circuit and methods of operation thereof」は、単一のCFLYを用いて複数の正及び負の出力を生成するためのチャージポンプ回路を記載しているが、同時のDR改善及び電力低減については対処していない。Lessoらの米国特許番号第7,714,660号、発明の名称「Amplifier circuit and methods of operation thereof」は、概して、「効率」を改善することに向けられているチャージポンプ及びヘッドホン増幅器回路に向けられるが、米国特許番号第7,714,660号は、ダイナミックレンジに対処しておらず、信号振幅を追跡するためオペレーションのCPモードを制御するために用いられる。その他の参考文献は、クラスG増幅器に向けられ得る、Wangらの米国特許出願番号第2011/0123048号、発明の名称「Class G Audio Amplifiers and Associated Methods of Operation」、及びGuoらの米国特許出願番号第2011/0084760号であるが、これらは、同時に生じるダイナミックレンジ改善又は電力低減に対処していない。
【特許文献1】米国特許番号第7,808,324号
【特許文献2】米国特許出願番号11/610496
【特許文献3】米国特許番号第7,622,984号
【特許文献4】米国特許番号第7,714,660号
【特許文献5】米国特許出願番号2011/0123048
【特許文献6】米国特許出願番号2011/0084760A1
【0006】
従って、同時に生じるダイナミックレンジ改善又は電力低減に関連付けられる問題の少なくとも幾つかに対処することが当該技術で求められている。
【発明の概要】
【0007】
第1の態様は或る装置を提供し、この装置は、選択された出力ボリュームを検出する選択されたボリューム検出器、アナログ出力信号増幅器、デジタルボリューム増幅器、及び、選択されたボリューム検出器とアナログ出力信号増幅器とデジタルボリューム増幅器とに結合されるデジタル利得制御要素を含む。この利得制御要素は、デジタルボリューム増幅器及びアナログ出力信号増幅器の経路の利得を実質的に一定に保つように構成される。デジタルボリューム増幅器及びアナログ出力信号の経路の利得を、実質的に一定に且つ適切なリスニングレベルのために設計される選択された出力ボリュームに等しく保つため、デジタル利得制御要素は、(a)デジタルボリューム制御の利得と(b)アナログ出力信号増幅器の利得との両方を調節することができる。
【0008】
第2の態様は或る装置を提供し、この装置は、選択された出力ボリュームを検出する選択されたボリューム検出器、アナログ出力信号増幅器、デジタルボリューム増幅器、(a)選択されたボリューム検出器と(b)アナログ出力信号増幅器とに結合される利得制御要素、及びデジタルボリューム増幅器を含む。この利得制御要素は、デジタルボリューム増幅器及びアナログ出力信号増幅器の経路の利得を実質的に一定に保つように構成される。デジタルボリューム増幅器及びアナログ出力信号の経路の利得を、実質的に一定に且つ選択された出力ボリュームに等しく保つため、ブースト利得制御要素が、(a)デジタルボリューム制御の利得と(b)アナログ出力信号増幅器の利得との両方を調節することができる。ブースト利得制御要素は更に、選択された出力ボリュームを閾値と比較するように構成される。選択された出力ボリュームが閾値を下回る場合、デジタルボリューム増幅器及びアナログ出力信号の利得経路を実質的に一定に且つ選択された出力ボリュームに等しく保つため、利得制御要素が、(a)デジタルボリューム増幅器のデジタルボリュームを上向きに調節すること、及び(b)増幅器のボリュームを下向きに調節することができる。
【0009】
第3の態様において、説明される装置におけるデジタル利得制御要素は、合計が実質的に一定となるように、プログラム可能な大きさの個別のステップで(a)及び(b)両方を一層高く又は一層低く調節するように適合される。(a)及び(b)の調節は、実質的に一定の利得の要件を達成するために、方向又は極性において相補型であることが示唆されている。ステップの数も装置においてプログラム可能である。プログラマビリティは、工場において設計されてもよく、又は現場で調節可能とされてもよい。利得の解像度又は範囲に対するいかなる明示的制限も装置により課せられることはない。
【0010】
第4の態様において、或る方法が提供され、この方法は、選択された出力ボリュームがボリューム閾値より大きいか否か判定すること、選択された出力ボリュームが閾値ボリュームより大きい場合、デジタル増幅器の利得を増大させること、及び選択された出力ボリュームが閾値ボリュームより大きくない場合、増幅器の利得を低減させることを含む。デジタルボリューム増幅器及びアナログ出力信号の経路の利得が実質的に一定であり、選択された出力ボリュームに等しくしようとする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、従来技術のDACヘッドホン再生チャネルを図示する。
【0012】
【
図2A】
図2Aは、DACチャネルのデジタル/アナログ利得区分のダイナミックアロケーションのための第1の分析を図示する。
【0013】
【
図2B】
図2Bは、DACチャネルのデジタル/アナログ利得区分のダイナミックアロケーションのための第2の分析を図示する。
【0014】
【
図3】
図3は、複数の出力を備えた
図2A及び
図2Bのダイナミックアロケーション回路を用いた例である。
【0015】
【0016】
【
図5A】
図5Aは、ブーストモードに入るときのDACチャネル回路のダイナミックなデジタル/アナログ利得区分のグラフである。
【0017】
【
図5B】
図5Bは、ブーストモードを出るときのDACチャネル回路のダイナミックなデジタル/アナログ利得区分のグラフである。
【0018】
【
図6A】
図6Aは、DACチャネル回路のダイナミックなデジタル/アナログ利得区分の例示のシリコン結果である。
【
図6B】
図6Bは、DACチャネル回路のダイナミックなデジタル/アナログ利得区分の例示のシリコン結果である。
【0019】
【
図7A】
図7Aは、高速フーリエ変換(FFT)に適用されるときのDACチャネル回路のダイナミックなデジタル/アナログ利得区分の例示のシリコン結果である。
【
図7B】
図7Bは、高速フーリエ変換(FFT)に適用されるときのDACチャネル回路のダイナミックなデジタル/アナログ利得区分の例示のシリコン結果である。
【0020】
【
図8】
図8は、説明される装置を用いた場合及び用いない場合のダイナミックレンジ測定のグラフである。ダイナミックレンジの業界標準測定は、−60dBFS(フルスケールを60デシベル下回る)の出力振幅において実行される。
【0021】
【
図9】
図9は、−18dBFS(フルスケールを18デシベル下回る)の選択されたボリュームレベルを上回る及び下回る信号振幅の遷移の結果が、一層低いIC電力放散を助ける供給電圧レベルにおけるどのような変動となるかのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図2Aに移ると、図示されているのは、本願の原理に従って構築された例示のダイナミックレンジブースト回路200の1つの態様である。回路200において、ダイナミックレンジエンハンスメントを備えたDACヘッドホン再生チャネルのブロック図が図示されている。
【0023】
概して、回路200は、単一のICでのDACヘッドホン再生に対して実質的に同時に生じる一層低い電力放散も有する高ダイナミックレンジのためのダイナミックブーストのアプローチに向けられている。ヘッドホンは、説明される装置の挙動を変更することなく、スピーカー、外部オーディオ増幅装置など、任意の他の負荷で置き換えられてもよい。
【0024】
回路200は、ダイナミックアロケーションを用い、幾つかの好ましい実施例において、オーディオ信号のデジタル/アナログ利得区分の最適化を用いる。言い換えると、回路200は、デジタルボリューム増幅器225とアナログ増幅器255との間の利得を区分し得、それにもかかわらず、選択された出力ボリュームをヘッドホン又はリスナーに搬送する。言い換えると、絶対的な経路利得は不変であり、デジタル/アナログ利得分配が変更される。
【0025】
デジタル利得が最大化され、且つ、アナログ利得が最小化されるように利得を区分することは、DMOD、DAC、及び増幅器回路ノイズを低減させ、従って、回路200のダイナミックレンジのためになる。また本願の原理に従って、デジタルアナログ変換に関して、要素DMOD、DAC、及びアナログ増幅器がオペレーションのそれらの線形領域に保たれる限り、望ましくない歪みを導入することなく区分が続行され得る。上記原理を用いるエンハンストダイナミックレンジは、本願内で用いることができる。
【0026】
概して、ダイナミックレンジは、同じ出力端子におけるノイズの総量に対する、指定された出力端子における信号振幅の比である。そのため一層低いノイズを備えた一定の信号振幅は、事実上、ダイナミックレンジを高める。エンハンストダイナミックレンジは、非常に望ましい一層高品位のオーディオリスニングエクスペリエンスを提供する。
【0027】
回路200は、従来技術のヘッドホンドライバに比して多数の利点を有する。回路200は、可聴アーティファクトを低減するか又はなくすことを助ける。このようなアーティファクトの1つは、オーディオシステムにおいてノイズが前段で生成される場合、そのノイズは後段の増幅器により増幅されることである。ただ、種々の電子的要素の関連電力消費などの他の問題点もあり得る。
【0028】
しかし、ヘッドホンドライバの前段では、電力がより多く消費され得る。従って、回路200は、デジタルボリューム増幅器225とアナログ増幅器255との間で割り当て及び最適化をする。回路200は、オペレーション2つの主要モード:「ブースト」モード及び「逆ダイナミックブースト(通常)モードを有する。
【0029】
ブーストモードにおいて、ヘッドホン(HP)におけるなどのドライバ出力における振幅が、例えば−18dBFSなどの指定されたデジタル閾値より下であるとき、DACの前のデジタル利得が、値ΔG
D(例えば、+12dB程度の高さ)だけ増大されるのに対し、アナログ増幅器/ヘッドホンドライバ利得は−12dB程度の低さまで同じ量低減される。ここでも、絶対的な経路利得は不変であるが、デジタル/アナログ利得分配が変更される。回路200において、DSPのノイズは線形にではなくランプアップし、そのため、システムの利得が一定であり得る一方、ノイズ自体は一定ではない。
【0030】
これは、DMOD、DAC、及び増幅器ノイズを低減させ、従って、回路200のダイナミックレンジのためとなる。
【0031】
通常モードにおいて、信号が閾値を上回って突出する(stab)とき、DAC前のデジタル利得は下向きにランプダウンし、アナログ増幅器/ヘッドホンドライバ利得はレジスタ設定までランプアップする。
【0032】
回路200において、PCM CODEC210がデジタルシグナルプロセッサ(DSP)120に結合される。回路200の一例において、PCMは48キロビット秒毎のレートでビットを出力する。DSP230がその後、8倍オーバーサンプリングであり得るデジタルフィルタであるDMOD220においてオーバーサンプリングされ、DMODの出力は、デジタルアナログコンバータ(DAC)140の入力に結合される。DAC140のアナログ信号がその後ドライバ150に搬送され、ドライバ150は、クラス「G」チャージポンプ160により電力供給される。これは、例示の1対のヘッドホン170に給電するために用いられる。
【0033】
回路200において、DFILT220の出力がその後、デジタル増幅器255に搬送される。デジタル増幅器225は、受信したデジタル信号をデジタルに増幅するか又は減衰することができる。一例において、増幅又は減衰の範囲は−63dBから+16dBであり得る。
【0034】
図2Bは、回路200を更に詳細に図示する。回路200において、PCM CODEC210がDSP220に結合される。回路250の一例において、PCM210は48キロビット秒毎のレートでビットを出力する。DSP220は更に、それに結合される信号レベル検出器223を有する。信号レベル検出器は、デジタル信号の実際の等価ボリューム増幅を検出する。
【0035】
信号レベル検出器223は更に、ダイナミックレンジブースト利得制御235に結合される。ダイナミックレンジブースト利得制御235は、デジタルボリューム225及びドライバ255に結合される。ダイナミックレンジブースト利得制御235は、信号レベル検出器223の出力の関数として、デジタルボリューム225とドライバ255との間の相対的増幅を割り当てる。
【0036】
ブーストモードでは、ヘッドホン(HP)におけるなどドライバ出力における振幅が、例えば−18dBFsなどのデジタル閾値より下であるとき、DAC前のデジタル利得が(例えば、+12dB程度の高さ)増大されるのに対し、アナログ増幅器/ヘッドホンドライバ利得は−12dB程度まで低減される。ここでも、絶対的な経路利得は不変であるが、デジタル/アナログ利得分配が変更される。回路200において、DSPのノイズは、線形にではなくランプアップし、そのため、システムの利得が一定であり得る一方、ノイズ自体は一定ではない。通常モードでは、信号が閾値を上回って突出するとき、デジタル利得はランプダウンし、ドライバ利得はレジスタ設定までランプアップする。
【0037】
図3は、複数のエンドユーザ増幅器355〜357の文脈において、回路200の態様を用いる集積回路300の一部を図示する。デジタルボリューム増幅器225の利得又はその増幅器をどのように制御するかを判定するためのアルゴリズムが、DRブースト利得コントローラ335内に埋め込まれ得る。
【0038】
一例として、DRブースト利得コントローラ335は、個別の左及び右チャネルを含むステレオオーディオチャネルのダイナミックレンジを高めるために用いられ得る。別の例は、左、右、及び、通常、サブウーファチャネルとして知られている低周波数の第3のチャネルを含むサラウンドサウンドチャネルのものであり得る。これらの例示の目的は、DRブーストコントローラ335の原理は、複数のチャネルに同時に又は個別に適用し得ることを示すためである。
【0039】
概して、
図2A〜
図3に関して上述したように、複数の異なる数の閾値が用いられ得、それらに対して、出力ボリュームが比較され得、結果の利得調節が成され得る。そのため、単一閾値を備えて上述した装置300は、複数の閾値を有し得る実装のサブセットとして扱われるべきである。
【0040】
図4は、デジタル増幅器225などのデジタル増幅器の利得、及びドライバ255などのドライバの利得のダイナミック区分がどのように区分され得るかを判定するための例示の方法400を図示する。
【0041】
開始ステップ401の後、ステップ410において、デジタル増幅器の利得が「0」に設定される。
【0042】
ステップ420において、オーディオが再生されるべきであるという命令が受信される。この命令は、例えば、
図2BのPCM210において受け取られ得る。方法400はその後ステップ430に進む。
【0043】
ステップ430において、所望とされる全体的なボリュームレベルV
OUTが、例えば−18dBFsなどのV
THRESHOLDより大きいか否かが判定される。YESである場合、方法400はステップ455における通常モード403に進む。NOである場合、方法400はステップ440におけるブーストモード407に進む。
【0044】
ブーストモード407において、ステップ440で、増幅器255などの増幅器の利得が例えば−12dBなどの最小利得より大きいか否か判定される。大きくない場合、ステップ440はステップ420に戻る。しかし、増幅器の利得が増幅器の最小利得より大きい場合、ステップ440はステップ450に進む。
【0045】
ステップ450において、選択されたV
OUTが、例えば21.2ミリ秒などの或る時間量より短い間、V
OUT閾値より小さいか否か判定される。小さくない場合、ステップ450はステップ420に戻る。しかし、選択されたV
OUTが或る時間量より短い間、V
OUT閾値より小さい場合、方法はステップ460に進む。概して、ミリ秒での遅延時間の量は、方法400がいかなる実質的な可聴アーティファクトもオーディオ信号に導入しないように選択される。
【0046】
ステップ460において、直近のデジタル利得増幅器更新が、例えば41.66μs前などの第2の時間期間より短い時間前に成されたか否かが判定される。成されていない場合、ステップ450はステップ420に戻る。しかし、直近のデジタル利得増幅器更新が第2の時間期間より短い時間前に成された場合、デジタル増幅器増幅は2dBなどdB利得毎に増大され、増幅器利得は2dB低減される。その後、ステップ470はステップ420に戻る。概して、μsでの利得ランプ時間の量は、方法400がいかなる実質的な可聴アーティファクトもオーディオ信号に導入しないように選択される。
【0047】
1つの態様において、ダイナミックブースト407は、全体的な閾値ボリュームレベルを超えない場合、デジタル利得増幅器を増大しアナログ出力利得を低減して、同じ全体的なボリュームを保つ。閾値ボリュームが或るレベルを上回らないため、方法400は、前段のデジタル増幅器への増幅を変えることにより電力を節約して、アナログ増幅器が一層低い供給電圧から動作され得るようにする。また、増幅が閾値を下回るため、これは、リスナーが、増幅回路200における、前段からのポップやクリックなどの如何なる以前のノイズの多くの増幅を有さないことを意味する。
【0048】
通常モード403において、デジタル増幅器の利得が0dBより大きいか否か判定される。大きくない場合、ステップ445はステップ420に戻る。しかし、デジタル増幅器の利得が0dBより大きい場合、ステップ445はステップ455に進む。
【0049】
ステップ455において、デジタル増幅器に対する直近の更新が、例えば10μsなどの第3の時間期間内に成されたか否かが判定される。成されていない場合、ステップ445はステップ420に戻る。しかし、デジタル増幅器に対する直近の更新が第3の時間期間内に成された場合、ステップ445はステップ465に進む。
【0050】
ステップ465において、デジタル増幅器の利得は、2デシベルなどの所与の量だけ低減され、アナログ増幅器の利得は、2デシベルなどの同じ所与の量だけ増大される。ステップ465はステップ420に戻る。本願の原理に従って、ステップ465は概して、それぞれの増幅器の増大又は低減の量が実質的に等しくなるように設計される。
【0051】
1つの態様において、通常、407は、全体的な閾値ボリュームレベルを超える場合、デジタル利得増幅器の利得を低減させ、アナログ出力利得を増大させて、同じ全体的なボリュームを保つ。閾値ボリュームが或るレベルを上回るため、方法400は、前段のデジタル増幅器に対する増幅を変えることによりアナログ増幅器に対する電力を節約する。また、増幅が閾値を上回るため、これは、リスナーが増幅回路200において前段からのポップやクリックなどの如何なる以前のノイズの増幅の一層大きな耐性を有することを意味する。
【0052】
下記表は、
図5A及び
図5Bのタイミング図に関連して用いられ得る。HSLDRV及びHSRDRVは、ステレオ増幅器ドライバ組み合わせを指す。HSはヘッドセット又はヘッドホン、L/Rは左/右、DRVはドライバである。
【表1】
【0053】
図5Aは、回路200がブーストモード407などのブーストモードに入るとき、例えば、200及び方法400に関連して用いることができるタイミング図を図示する。
【0054】
図示されているように、出力振幅は、V
THP閾値レベルとしてブーストレベルを下回って交差し、ここで、「ブースト」は、デジタル増幅器ブーストとして考えられ得る。利得の頻繁な変化を避けるため、この方法は、指定された時間量T
HOLDの間、信号が、事前に定義された閾値V
THPを下回ったままであることを確実にするため、待機時間を定義する。この時間T
HOLDの指定された部分の終了後、クラスGチャージポンプ260などのアナログ出力増幅器に用いられるチャージポンプ供給電圧が、一層低い電圧にスイッチングされる。同じ又は低減された電流がアナログ出力増幅器から引かれる一層低い供給電圧の利用は、供給から引かれる全体的な電力を低減させる。時間閾値T
HOLDの後、T
HOLDがブーストモード内として用いられ、アナログ増幅器利得がその後ステップ毎に低減され得、同時にデジタル増幅器利得が
図4の方法を用いるDRブーストコントローラによりステップ毎に増大され得る。
【0055】
利得変化発生前に、信号CHARGEPUMP_HV_TO_LVの状態は、この装置の更なる電力節約のため変更されるべきである。信号CHARGEPUMP_HV_TO_LVは、アサートされた信号を意味する論理レベル「1」に設定される。これにより、望ましくない歪み又は極値信号飽和の恐れなしに、アナログ出力増幅器への供給が一層低い出力値まで安全に遷移され得る。
【0056】
上述の電力供給遷移は、ダイナミックレンジエンハンスメントを達成することに依存されないことに留意されたい。そのため、これら2つのアプローチは、いずれかのアプローチを害することなく、共に又は別々に実装され得る。これらが共に実装される場合、本願の原理は、従来技術より進歩した方式でダイナミックレンジエンハンスメント及び一層低い電力放散の双方の目的を達成するために、これら2つのアプローチがどのように組み合わされるべきか、このセクション及びこれ以降のその他のセクションで詳細に説明される。
【0057】
その後、デジタル増幅器及びアナログ増幅器がそれらの増幅器状態を変えることが可能なレイテンシー期間であるT
DELAYの後、図示されているように、ユーザが「G」の全体的な増幅レベルを有する場合、AMP信号は、xが例えば2デシベルであるときGo−xで変化し、デジタル増幅器はその出力を2デシベル増大させる。これは、増幅器の最小レベルが成され、最大デジタル利得が成されるまで、後のステップで継続する。エンハンストダイナミックレンジのための低減された電力放散及び利得制御のためのサプライ制御は、前述の適用において記載されたように同時にDRブーストコントローラにより成されることに慎重に留意されたい。典型的なオーディオ信号は正及び負のスイングを有する。そのため、0V辺りで正及び負の偏移を有するオーディオ信号を扱うため
【数1】
であり、ここで、V
THP=−V
THNである。
【0058】
図5Bは、回路200が逆ブーストモード403などの逆ブーストモードに入るとき、回路200及び方法400に関連して用いることができるものなどのタイミング図を図示する。
【0059】
図示されているように、出力振幅は、VTH閾値レベル逆ブーストレベルとして交差し、ここで、逆「ブースト」は、ブーストされないデジタル増幅器及び再ブーストされた増幅器として考えられ得る。この時間T
attackの間、デジタル増幅器の利得は、X、増幅器の利得が2デシベルだけ増大されるため、例えば2デシベル、だけ減少される。
【0060】
時間閾値T
HOLDの後、T
HOLDがブーストモード内として用いられ、アナログ増幅器が始動され、デジタル増幅器が停止される。
【0061】
図6Aは、信号対ノイズ+歪み(SNDR)対出力振幅のスウィープの例示の測定であり、本原理及び方法のシリコン実施例が、VTH(例では−18dBFS)と等しいかそれより小さい範囲に従う信号に対する信号対雑音比を高める一方で、チャネルの挙動をその性能において従来技術に対して不利に変えないことを示す。この方法はVTHの選択肢を制限しない。−18dBFSの例示の値の利用は、対象の特定の状況に対し、VTHのこの選択肢に対してチャネルのダイナミックレンジで最大エンハンスメントが得られることを示す。他の状況では、妥当性を損なうことなくVTHの異なる値が選択され得る。
【0062】
図6B、
図7A、及び
図7Bは、本原理及び方法のシリコン実施例の測定されたスペクトルの高速フーリエ変換(FFT)の例であり、
図6のスウィープにおける特定の点を示す。これらの特定の点は、−1dBFS、−3dBFS、及び−60dBFSとなるよう選択される。前のレベルにおいて回路の歪みがチャネル性能を決めると考えられ、一方、−60dBFSにおいてノイズがチャネル性能を決めると考えられる。上述したように−1dBFS及び−3dBFSにおいて悪影響は見られず、本原理が望ましくない歪みを増大させたり又は可聴アーティファクトを導入したりすることはないことが示唆されたことが明らかである。同様に、測定されるSNDRが45dBとなる、−60dBFSスペクトルにおいて、上述のように一層低いノイズの有益な態様がはっきりとみられる。従って、ダイナミックレンジは60+45=105dBであり、これは、従来技術より少なくとも4デシベル高く、37%低いノイズの線形図と同等である。従来技術において説明されるように、同様のクラスのオーディオチャネルのために求められる最高性能は101dBである。
【0063】
図8は、従来技術とここで説明される原理及び方法との比較を更に補強するものであり、グリーン曲線はここで説明される原理及び方法を適用しない信号対ノイズ比(SNR)を表し、レッド曲線はここで説明される原理及び方法を適用するSNRを表す。
【0064】
図9は、ブーストモードと逆ブーストモードとの間のシリコン実施例遷移としての例示の出力信号を示す。オーディオ信号増幅及び再生の技術に習熟した者であれば、この信号は、上述のように明らかな可聴アーティファクトを示さないことを充分に留意されたい。発明者らは、振幅が非常に小さな大きさとなることが知られている、このようなアーティファクトの完全な不存在を示すため、表の解像度は、有限であり、容易に改変可能ではないことに留意されたい。そのため上記利点は、適切な解像度の適切な試験機器を備えたオーディオ集積回路の分野にわたって幅広く採用される定量測定試験及び主観リスニング試験を用いて発明者らにより実証されていることに留意されたい。
【0065】
当業者であれば、本発明の特許請求の範囲内で、説明した例示の実施例に変形が成され得ること、及び多くの他の実施例が可能であることが分かるであろう。