【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の範囲内で、SGLT2 インヒビター及びインスリンの組み合わせがインスリン又はSGLT2 インヒビター単独を使用する治療と較べて一層高い血液グルコース低下をもたらすことが今驚くべきことにわかった。こうして、或るレベルの基準線血液グルコースを得るために、インスリンの用量がSGLT2 インヒビターとインスリンの組み合わせを使用することにより減少し得る。更に、インスリンの投与後の時間の期間におけるSGLT2 インヒビターの投与がインスリン単独の投与と較べて血液グルコースの低下を延長することが驚くべきことにわかった。
それ故、SGLT2 とインスリンの組み合わせが代謝障害を予防し、その進行を遅くし、遅延又は治療し、特に患者の血糖調節を改善するのに有利に使用し得る。これは1型真性糖尿病、2型真性糖尿病、真性糖尿病の合併症及び近隣の症状の治療及び予防における新しい治療可能性を拓く。
それ故、第一の局面において、本発明は
(a) SGLT2 インヒビター、及び
(b) インスリン
を含む医薬組成物を提供する。
【0008】
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とする患者の真性糖尿病の治療方法が提供される。
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするインスリンによる治療が必要とされる場合の患者の真性糖尿病の治療方法が提供される。
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とする患者の1型真性糖尿病の治療方法が提供される。
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とする患者の低血糖を治療し、予防し、又はそのリスクを低減するための方法が提供される。
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の真性糖尿病の合併症、例えば、白内障並びに微小血管疾患及び大血管疾患、例えば、腎症、網膜症、神経障害、組織虚血、糖尿病の足、動脈硬化、心筋梗塞、急性冠動脈症候群、不安定な狭心症、安定な狭心症、卒中、末梢動脈閉塞疾患、心筋症、心不全、心臓律動障害及び血管再狭窄からなる群から選ばれた症状又は障害を予防し、その進行を遅くし、遅延し、又は治療するための方法が提供される。特に、糖尿病性腎症の一つ以上の特徴、例えば、過潅流、タンパク尿及びアルブミン尿が治療され、それらの進行が遅くされ、又はそれらの発症が遅延もしくは予防されるかもしれない。“組織虚血”という用語は特に糖尿病性大血管症、糖尿病性微小血管症、創傷治癒障害及び糖尿病性潰瘍を含む。“微小血管疾患及び大血管疾患”及び“微小血管合併症及び大血管合併症”という用語はこの出願で互換可能に使用される。
【0009】
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の2型真性糖尿病、耐糖能異常 (IGT)、空腹時血糖異常 (IFG)、高血糖、食後の高血糖、過剰体重、肥満、代謝症候群、妊娠糖尿病及び膵のう胞性繊維症に関連する糖尿病からなる群から選ばれた代謝障害を予防し、その進行を遅くし、遅延又は治療するための方法が提供される。
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の血糖調節を改善し、かつ/又は空腹時血漿グルコース、食後の血漿グルコース及び/又はグリコシル化ヘモグロビンHbA1cを減少するための方法が提供される。
本発明の医薬組成物はまた耐糖能異常 (IGT)、空腹時血糖異常 (IFG)、インスリン耐性及び/又は代謝症候群と関連する疾患又は症状に関して有益な疾患軽減特性を有し得る。
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の耐糖能異常 (IGT)、空腹時血糖異常 (IFG)、インスリン耐性及び/又は代謝症候群から2型真性糖尿病への進行を予防し、遅くし、遅延又は反転するための方法が提供される。
本発明の医薬組成物の使用により、これを要する患者の血糖調節の改善が得られ、また増大された血糖レベルと関連し、又はそれにより生じられるこれらの症状及び/又は疾患が治療し得る。
【0010】
本発明の医薬組成物の投与により、かつSGLT2 インヒビターの活性のために、過剰の血液グルコースレベルが脂肪のような不溶性貯蔵形態に変換されないが、患者の尿により排泄される。SGLT2 インヒビターを使用する動物モデルにおいて、脂肪の損失が観察された体重の損失の大半を説明し、一方、生体の水又はタンパク質含量の有意な変化が観察されないことがわかる。それ故、体重の獲得のないこともしくは少ない獲得又は更には体重の減少がその結果である。
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の体重及び/又は体脂肪を減少し、又は体重及び/又は体脂肪の増加を予防もしくは軽減し、或いは体重及び/又は体脂肪の減少を促進するための方法が提供される。
本発明の組み合わせ又は医薬組成物の投与により、異所性脂肪(特に肝臓の)の異常な蓄積が軽減又は抑制し得る。それ故、本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に投与することを特徴とするこれを要する患者の異所性脂肪(特に肝臓の)の異常な蓄積を原因とする疾患又は症状を予防し、遅くし、遅延又は治療するための方法が提供される。肝脂肪の異常な蓄積を原因とする疾患又は症状は特に一般の脂肪肝、非アルコール性脂肪肝 (NAFL)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、過栄養誘発脂肪肝、糖尿病性脂肪肝、アルコール誘発脂肪肝又は毒性脂肪肝からなる群から選ばれる。
その結果として、本発明の別の局面はSGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に投与することを特徴とする、それを要する患者のインスリン感受性を維持し、かつ/又は改善するため、かつ/又は高インスリン血症及び/又はインスリン耐性を治療又は治療するための方法を提供する。
【0011】
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に投与することを特徴とするこれを要する患者の移植後に新たに発症する糖尿病 (NODAT)及び/又は移植後の代謝症候群(PTMS)を予防し、その進行を遅くし、遅延、又は治療するための方法が提供される。
本発明の更なる局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に投与することを特徴とするこれを要する患者のNODAT 及び/又はPTMS関連合併症(微小血管及び大血管の疾患及びイベント、移植片拒絶、感染症、及び死亡を含む)を予防し、遅延し、又は軽減するための方法が提供される。
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の膵のう胞性繊維症と関連する糖尿病を予防し、その進行を遅くし、遅延、又は治療するための方法が提供される。
本発明の医薬組成物は患者の血清全尿酸塩レベルの低下を促進し得る。それ故、本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の高尿酸血及び高尿酸血関連症状、例えば、痛風、高血圧及び腎不全を治療するための方法が提供される。
医薬組成物の投与はグルコースの尿排泄を増大する。浸透性排泄及び水放出のこの増大並びに尿酸塩レベルの低下は腎臓結石の治療又は予防として有益である。それ故、本発明の更なる局面において、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の腎臓結石を治療又は予防するための方法が提供される。
本発明の更なる局面によれば、SGLT2 インヒビター及びインスリンを患者に、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の低ナトリウム血、水貯留及び水中毒を治療するための方法が提供される。本発明の医薬組成物の投与により、腎臓に作用してこれらの疾患及び障害と関連する水貯留及び電解質インバランスを反転することにより低ナトリウム血、水貯留及び水中毒の作用を反転することが可能であるかもしれない。
【0012】
本発明の別の局面によれば、SGLT2 インヒビターをインスリンと、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の
−真性糖尿病を治療し、
−インスリンによる治療が必要とされる、真性糖尿病を治療し、
−1型真性糖尿病を治療し、
−低血糖を治療し、予防し、又はそのリスクを低減し、
−真性糖尿病の合併症からなる群から選ばれた症状又は障害を予防し、その進行を遅くし、遅延し、又は治療し、
−1型真性糖尿病、2型真性糖尿病、耐糖能異常(IGT) 、空腹時血糖異常(IFG) 、高血糖、食後の高血糖、過剰体重、肥満、代謝症候群及び妊娠糖尿病からなる群から選ばれた代謝障害を予防し、その進行を遅くし、遅延し、又は治療し、又は
−血糖調節を改善し、かつ/又は空腹時血漿グルコース、食後の血漿グルコース及び/又はグリコシル化ヘモグロビン HbA1cを減少し、又は
−耐糖能異常(IGT) 、空腹時血糖異常(IFG) 、インスリン耐性及び/又は代謝症候群から2型真性糖尿病への進行を予防し、遅くし、遅延し、又は反転し、又は
−真性糖尿病の合併症、例えば、白内障並びに微小血管疾患及び大血管疾患、例えば、腎症、網膜症、神経障害、組織虚血、動脈硬化、心筋梗塞、卒中及び末梢動脈閉塞疾患からなる群から選ばれた症状又は障害を予防し、その進行を遅くし、遅延し、又は治療し、又は
−体重及び/又は体脂肪を減少し、もしくは体重及び/又は体脂肪の増加を予防もしくは軽減し、又は体重及び/又は体脂肪の減少を促進し、又は
−異所性脂肪の異常な蓄積に起因する疾患又は症状を予防し、遅くし、遅延し、又は治療し、又は
−インスリン感受性を維持し、かつ/又は改善し、かつ/又は高インスリン血症及び/又はインスリン耐性を治療もしくは予防し、
−移植後に新たに発症した糖尿病(NODAT) 及び/又は移植後の代謝症候群(PTMS) を予防し、その進行を遅くし、遅延し、又は治療し、
−微小血管及び大血管の疾患及びイベント、移植片拒絶、感染症、及び死亡を含むNODAT 及び/又はPTMS関連合併症を予防し、遅延し、又は軽減し、
−膵のう胞性繊維症と関連する糖尿病を治療し、
−高尿酸血及び高尿酸血関連症状を治療し、
−腎臓結石を治療又は予防し、
−低ナトリウム血を治療するための薬物の製造のためのSGLT2 インヒビターの使用が提供される。
【0013】
本発明の別の局面によれば、インスリンをSGLT2 インヒビターと、例えば、組み合わせて、又は交互に、投与することを特徴とするこれを要する患者の
−真性糖尿病を治療し、
−インスリンによる治療が必要とされる、真性糖尿病を治療し、
−1型真性糖尿病を治療し、
−低血糖を治療し、予防し、又はそのリスクを低減し、
−真性糖尿病の合併症からなる群から選ばれた症状又は障害を予防し、その進行を遅くし、遅延し、又は治療し、
−1型真性糖尿病、2型真性糖尿病、耐糖能異常(IGT) 、空腹時血糖異常(IFG) 、高血糖、食後の高血糖、過剰体重、肥満及び代謝症候群からなる群から選ばれた代謝障害を予防し、その進行を遅くし、遅延し、又は治療し、又は
−血糖調節を改善し、かつ/又は空腹時血漿グルコース、食後の血漿グルコース及び/又はグリコシル化ヘモグロビン HbA1cを減少し、又は
−耐糖能異常(IGT) 、空腹時血糖異常(IFG) 、インスリン耐性及び/又は代謝症候群から2型真性糖尿病への進行を予防し、遅くし、遅延し、又は反転し、又は
−真性糖尿病の合併症、例えば、白内障並びに微小血管疾患及び大血管疾患、例えば、腎症、網膜症、神経障害、組織虚血、動脈硬化、心筋梗塞、卒中及び末梢動脈閉塞疾患からなる群から選ばれた症状又は障害を予防し、その進行を遅くし、遅延し、又は治療し、又は
−体重及び/又は体脂肪を減少し、もしくは体重及び/又は体脂肪の増加を予防もしくは軽減し、又は体重及び/又は体脂肪の減少を促進し、又は
−肝脂肪の異常な蓄積に起因する疾患又は症状を予防し、遅くし、遅延し、又は治療し、又は
−インスリン感受性を維持し、かつ/又は改善し、かつ/又は高インスリン血症及び/又はインスリン耐性を治療もしくは予防するための薬物の製造のためのインスリンの使用が提供される。
本発明の別の局面によれば、先に、また以下に記載される治療方法及び予防方法のための薬物の製造のための本発明の医薬組成物の使用が提供される。
【0014】
定義
本発明の医薬組成物の“活性成分”という用語は本発明のSGLT2 インヒビター及び/又は長期作用インスリンを意味する。
ヒト患者の“体格指数”又は“BMI ”という用語は身長(メートル)の自乗により割られた体重(キログラム)と定義され、その結果、BMI はkg/m
2の単位を有する。
“過剰体重”という用語は個体が25 kg/m
2 より大きく、かつ30 kg/m
2 未満のBMI を有する症状と定義される。“過剰体重”及び“前肥満”という用語は互換可能に使用される。
“肥満”という用語は個体が30 kg/m
2 以上のBMI を有する症状と定義される。WHO 定義によれば、肥満という用語は以下のようにカテゴリー化されてもよい:“クラスI肥満”という用語はBMI が30 kg/m
2 以上であるが、35 kg/m
2 より低い症状であり、“クラスII肥満”という用語はBMI が35 kg/m
2 以上であるが、40 kg/m
2 より低い症状であり、“クラスIII 肥満”という用語はBMI が40 kg/m
2以上である症状である。
“内臓肥満”という用語は男性で1.0 以上のウェスト対ヒップ比また女性で0.8 以上のその比が測定される症状と定義される。それはインスリン耐性及び前糖尿病の発生のリスクを特定する。
“腹部肥満”という用語はウェスト周囲が男性で40インチ即ち102 cmより大きく、また女性で35インチ即ち94cmより大きい症状と通常定義される。日本民族又は日本人患者に関して、腹部肥満は男性で85cm以上、また女性で90cm以上のウェスト周囲と定義されるかもしれない(例えば、日本における代謝症候群の診断に関する調査委員会を参照のこと)。
“正常血糖”という用語は被験者が70 mg/dL (3.89 ミリモル/L) より大きく、かつ100 mg/dL (5.6 ミリモル/L)未満の正常な範囲内の空腹時血液グルコース濃度を有する状態と定義される。“空腹時”という用語は医療用語として通常の意味を有する。
“高血糖”という用語は被験者が100 mg/dL (5.6 ミリモル/L) より大きい、正常な範囲より上の空腹時血液グルコース濃度を有する症状と定義される。“空腹時”という用語は医療用語として通常の意味を有する。
“低血糖”という用語は被験者が正常な範囲より下、特に70 mg/dL (3.89ミリモル/L) 又は更には60mg/dlより下の血液グルコース濃度を有する症状と定義される。
【0015】
“食後の高血糖”という用語は被験者が200 mg/dL (11.11 ミリモル/L)より大きい食後2時間の血液グルコース又は血清グルコース濃度を有する症状と定義される。
“空腹時血糖異常”即ち“IFG ”という用語は被験者が100 〜125 mg/dl (即ち5.6 〜6.9 ミリモル/l) 、特に110 mg/dLより大きく、かつ126 mg/dI (7.00 ミリモル/L) 未満の範囲の空腹時血液グルコース濃度又は空腹時血清グルコース濃度を有する症状と定義される。“正常な空腹時グルコース”を有する被験者は100 mg/dlより小さく、即ち5.6 ミリモル/lより小さい空腹時グルコース濃度を有する。
“耐糖能異常”即ち“IGT ”という用語は被験者が140 mg/dI (7.78 ミリモル/L) より大きく、かつ200 mg/dL (11.11 ミリモル/L) 未満の食後2時間の血液グルコース又は血清グルコース濃度を有する症状と定義される。耐糖能異常、即ち食後2時間の血液グルコース又は血清グルコース濃度は空腹後にグルコース75gを摂取した後2時間の血漿1dL当りのグルコースのmg数で血糖レベルとして測定し得る。“正常な耐糖能”を有する被験者は140 mg/dI (7.8 ミリモル/L)より小さい食後2時間の血液グルコース又は血清グルコース濃度を有する。
“高インスリン血症”という用語は正常血糖を有し、又は有しないで、インスリン耐性を有する被験者が、正常よりも高い空腹時又は食後の血清又は血漿インスリン濃度を有する症状と定義され、インスリン耐性を有しないやせた個体が1.0 未満(男性につき)又は0.8 未満(女性につき)のウェスト対ヒップ比を有する。
【0016】
“インスリン感作”、“インスリン耐性改善”又は“インスリン耐性低下”という用語は同義であり、互換可能に使用される。
“インスリン耐性”という用語はグルコース負荷に対する正常な応答を超える循環インスリンレベルが正常血糖状態を維持するのに必要とされる状態と定義される(Ford ESら, JAMA. (2002) 287:356-9)。インスリン耐性の測定方法は正常血糖-高インスリン血クランプ試験である。インスリン対グルコースの比が組み合わされたインスリン-グルコース注入技術の範囲内で測定される。グルコース吸収が調べられたバックグラウンド集団の25%より下である場合に、インスリン耐性があるとわかる (WHO 定義)。クランプ試験よりもかなり労力の少ないのが所謂最小モデルであり、この場合、静脈内耐糖能試験中に、血液中のインスリン濃度及びグルコース濃度が一定の時間間隔で測定され、これらからインスリン耐性が計算される。この方法では、肝臓インスリン耐性と末梢インスリン耐性を区別することができない。
更に、インスリン耐性、治療に対するインスリン耐性の患者の応答、インスリン感受性及び高インスリン血は“インスリン耐性についてのホメオスタシスモデル分析 (HOMA-IR)” スコア、インスリン耐性の信頼できるインジケーターを分析することにより定量されてもよい (Katsuki Aら, Diabetes Care 2001; 24: 362-5)。更に、インスリン感受性についてのHOMA-インデックス (Matthews ら, Diabetologia 1985, 28: 412-19)、無傷のプロインスリン対インスリンの比 (Forst ら, Diabetes 2003, 52(Suppl.1): A459) の測定方法及び正常血糖クランプ研究が参考にされる。加えて、血漿アジポネクチンレベルがインスリン感受性の潜在的な代用物として監視し得る。ホメオスタシス分析モデル (HOMA)-IR スコアによるインスリン耐性の推定が下記の式で計算される (Galvin Pら, Diabet Med 1992;9:921-8)。
HOMA-IR = [空腹時血清インスリン (μU/mL)] x [空腹時血漿グルコース(ミリモル/L)/22.5]
一般に、その他のパラメーターがインスリン耐性を分析するために毎日の臨床慣例で使用される。例えば、患者のトリグリセリド濃度が使用されることが好ましい。何とならば、増大されたトリグリセリドレベルがインスリン耐性の存在と有意に相関関係があるからである。
【0017】
IGT もしくはIFG 又は2型糖尿病の発生についての素質を有する患者は高インスリン血とともに正常血糖を有するものであり、定義により、インスリン耐性である。インスリン耐性を有する典型的な患者は通常過剰体重又は肥満であるが、これは常にそうであるとは限らない。インスリン耐性が検出し得る場合、これは前糖尿病の存在の特に強い指示である。こうして、グルコースホメオスタシスを維持するために、ヒトはこれが臨床症候を生じないで、健康なヒトの例えば2-3 倍高い内在性インスリン生成を有するかもしれない。
膵臓ベータ細胞の機能を調べる方法はインスリン感受性、高インスリン血又はインスリン耐性に関する上記方法と同様である。ベータ細胞機能の改善は、例えば、ベータ細胞機能についてのHOMA-インデックス (Matthews ら, Diabetologia 1985, 28: 412-19)、無傷のプロインスリン対インスリンの比 (Forst ら, Diabetes 2003, 52(Suppl.1): A459)、経口耐糖能試験もしくは食事負荷試験後のインスリン/C-ペプチド分泌を測定することにより、又は頻繁にサンプリングされる静脈内耐糖能試験後に高血糖クランプ研究及び/又は最小モデリング (Stumvoll ら, Eur J Clin Invest 2001, 31: 380-81)を使用することにより測定し得る。
“前糖尿病”という用語は個体が2型糖尿病の発生の素質があるとされる症状である。前糖尿病は100 mg/dL 以上の高い正常範囲内の空腹時血液グルコース(J. B. Meigs, ら. Diabetes 2003; 52:1475-1484) 及び空腹時高インスリン血 (上昇した血漿インスリン濃度) を有する個体を含むために耐糖能異常の定義を拡大する。前糖尿病を重大な健康脅威と同定するための科学的かつ医療の基礎が米国糖尿病協会及び国立糖尿病学会により共同発行された“2型糖尿病の予防又は遅延”と題するPosition Statement 並びにDigestive and Kidney Diseases (Diabetes Care 2002; 25:742-749)にレイアウトされている。
おそらくインスリン耐性を有する個体は下記の特性の二つ以上を有するものである: 1)過剰体重又は肥満、2)高血圧、3)高脂血症、4) IGTもしくはIFG 又は2型糖尿病の診断と関連する一つ以上の第一級。インスリン耐性はこれらの個体でHOMA-IR スコアを計算することにより確認し得る。本発明の目的のために、インスリン耐性は個体が4.0より大きいHOMA-IR スコア又は研究所が行なうグルコースアッセイ及びインスリンアッセイについて特定される正常の上限より上のHOMA-IR スコアを有する臨床的症状と定義される。
【0018】
“1型糖尿病”という用語は被験者が、膵臓ベータ細胞についての自己免疫又はインスリンの存在下で、125 mg/dL (6.94 ミリモル/L) より大きい空腹時血糖又は血清グルコース濃度を有する症状と定義される。耐糖能試験が行なわれる場合、糖尿病の血糖レベルはグルコース75g が、膵臓ベータ細胞についての自己免疫又はインスリンの存在下で、空の胃で摂取された2時間後に血漿1dL 当りグルコース200mg (11.1 ミリモル/l) を超えるであろう。耐糖能試験では、グルコース75g が10-12時間の空腹後に試験される患者に経口投与され、血糖レベルがグルコース摂取の直前及びその摂取の1時間後及び2時間後に記録される。膵臓ベータ細胞についての自己免疫の存在は循環膵島細胞自己抗体[“1A型真性糖尿病”] 、即ち、GAD65 [グルタミン酸デカルボキシラーゼ-65] 、ICA [膵島細胞細胞質] 、IA-2 [チロシンホスファターゼ様タンパク質IA-2の細胞質内ドメイン]、ZnT8 [亜鉛トランスポーター-8] 又は坑-インスリン; 或いは典型的な循環自己抗体の存在なしの自己免疫のその他の徴候 [1B型糖尿病]の少なくとも一つの検出(即ち、膵臓のバイオプシー又はイメージングにより検出されるような)により観察し得る。典型的には、遺伝的素因が存在する (例えば、HLA 、INS VNTR及びPTPN22) が、これは常にそうであるとは限らない。
【0019】
“2型糖尿病”という用語は被験者が125 mg/dL (6.94 ミリモル/L) より大きい空腹時血液グルコース又は血清グルコース濃度を有する症状と定義される。血液グルコース値の測定はルーチン医療分析における標準の操作である。耐糖能試験が行なわれる場合、糖尿病の血糖レベルはグルコース75g が空の胃で摂取された2時間後に血漿1dL 当りグルコース200mg (11.1 ミリモル/l) を超えるであろう。耐糖能試験では、グルコース75g が10-12時間の空腹後に試験される患者に経口投与され、血糖レベルがグルコース摂取の直前及びその摂取の1時間後及び2時間後に記録される。健康な被験者では、グルコース摂取前の血糖レベルが血漿1dL 当り60〜110mgであり、グルコース摂取1時間後に1dL 当り200mg未満であり、また2時間後に1dL 当り140mg未満であろう。2時間後に、その値が140 〜200mgである場合、これが耐糖能異常と見なされる。
“後期2型真性糖尿病”という用語は二次薬物失敗、インスリン治療についての指示並びに微小血管及び大血管合併症、例えば、糖尿病性腎症、又は心臓冠動脈疾患(CHD) への進行を有する患者を含む。
“HbA1c”という用語はヘモグロビンB鎖の非酵素的グリケーションの産物を表す。その測定は当業者に公知である。真性糖尿病の治療のモニタリングでは、HbA1c 値が格別重要である。その生成は実質的に血糖レベル及び赤血球の寿命に依存するので、“血糖記憶”の意味のHbA1c が先の4-6 週の平均血糖レベルを反映する。HbA1c 値が集中糖尿病治療により一貫して良く調節される(すなわち、サンプル中の全ヘモグロビンの6.5%未満)糖尿病患者は、糖尿病性微小血管障害に対し有意に良く保護されている。例えば、メトホルミンそれ自体は1.0-1.5 %のオーダの糖尿病のHbA1c 値の平均の改善を達成する。HbA1C 値のこの低下は全ての糖尿病でHbA1c 6.5%未満、好ましくは6%未満の所望の目標範囲を達成するのに充分ではない。
【0020】
本発明の範囲内の“不十分な血糖調節”又は“不適当な血糖調節”という用語は患者が6.5%より上、特に7.0%より上、更に好ましくは7.5%より上、特に8%より上のHbA1c 値を示す症状を意味する。
“代謝症候群”(また“症候群X”(代謝障害の状況で使用される場合)と称され、また“代謝異常症候群”と称される)はインスリン耐性である基本的な特徴と複合の症候群である (Laaksonen DEら, Am J Epidemiol 2002;156:1070-7) 。ATP III/NCEP ガイドライン(Executive Summary of the Third Report of the National Cholesterol Education Program (NCEP) Expert Panel on Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Cholesterol in Adults (Adult Treatment Panel III) JAMA: Journal of the American Medical Association (2001) 285:2486-2497) によれば、代謝症候群の診断は下記のリスク因子の三つ以上が存在する場合になされる。
1.男性で40インチ即ち102 cmより大きく、また女性で35インチ即ち94 cm より大きいウェスト周囲と定義され、又は日本民族もしくは日本人の患者に関して男性で85 cm 以上、また女性で90 cm 以上のウェスト周囲と定義される、腹部肥満;
2. 150 mg/dL以上のトリグリセリド
3.男性で< 40 mg/dL 未満のHDL-コレステロール
4. 130/85 mm Hg 以上の血圧(SBP ≧ 130 又はDBP ≧ 85)
5. 110 mg/dL以上の空腹時血液グルコース
NCEP 定義が実証されていた (Laaksonen DEら, Am J Epidemiol. (2002) 156:1070-7) 。血液中のトリグリセリド及びHDL コレステロールがまた医療分析における標準方法により測定でき、例えば、Thomas L (編集者): "Labor und Diagnose“, TH-Books Verlagsgesellschaft mbH, Frankfurt/Main, 2000に記載されている。
【0021】
普通に使用される定義によれば、高血圧は収縮期血圧 (SBP)が140 mm Hg の値を超え、また拡張期血圧 (DBP)が90 mm Hgの値を超える場合に診断される。患者が顕著な糖尿病を患っている場合、収縮期血圧が130mm Hgより下のレベルに低下され、拡張期血圧が80 mm Hgより下に低下されることが現在推奨される。
NODAT (移植後に新たに発症した糖尿病)及びPTMS(移植後の代謝症候群)の定義は2型糖尿病についての米国糖尿病協会診断基準の定義、並びに代謝症候群についての、International Diabetes Federation (IDF) 及びAmerican Heart Association/National Heart, Lung, and Blood Instituteの定義にほぼ従う。NODAT 及び/又はPTMSは微小血管及び大血管の疾患及びイベント、移植片拒絶、感染症、並びに死亡の増大されたリスクと関連する。幾つかの前兆となるもの(移植時の高年齢、男性、移植前の体格指数、移植前の糖尿病、及び免疫低下を含む)がNODAT 及び/又はPTMSに関する潜在的なリスク因子として同定されていた。
“妊娠糖尿病”(妊娠の糖尿病)という用語は妊娠中に発生し、通常出産直後に再度停止する糖尿病の形態を表す。妊娠糖尿病は妊娠の24週〜28週の間に行なわれるスクリーニング試験により診断される。それは通常血糖レベルがグルコース溶液50 gの投与の1時間後に測定される簡単な試験である。この1時間のレベルが140 mg/dl より上である場合に、妊娠糖尿病が疑われる。最終確認が、例えば、グルコース75 gを用いる、標準耐糖能試験により得られてもよい。
“高尿酸血”という用語は高い血清全尿酸塩レベルの症状を表す。ヒト血液中で、3.6 mg/dL (約214 μモル/L) 〜8.3 mg/dL (約494 μモル/L) の尿酸濃度が米国医療協会により正常と考えられている。高い血清全尿酸塩レベル、又は高尿酸血は、しばしば幾つかの疾患と関連する。例えば、高い血清全尿酸塩レベルは痛風として知られている関節の関節炎の型をもたらし得る。痛風は血流中の全尿酸塩レベルの上昇した濃度のために関節、腱及び周囲の組織の関節軟骨上の尿酸一ナトリウム又は尿酸結晶の蓄積により生じた症状である。これらの組織上の尿酸塩又は尿酸の蓄積がこれらの組織の炎症反応を誘発する。尿中の尿酸の飽和レベルは尿酸又は尿酸塩が腎臓中で結晶化する場合に腎臓結石生成をもたらし得る。更に、高い血清全尿酸塩レベルはしばしば所謂代謝症候群(心血管疾患及び高血圧を含む)と関連する。
【0022】
“低ナトリウム血”という用語はナトリウムの欠乏とともに、又はそれのない水のポジチブバランスの症状を表し、これは血漿ナトリウムが135 mml/L のレベルより下になる場合に認められる。低ナトリウム血は水を過剰消費する個体で隔離中に生じ得る症状であるが、更にしばしば低ナトリウム血は水の減少された排泄をもたらす薬物又はその他の基礎となる医療症状の合併症である。低ナトリウム血は水中毒をもたらすことがあり、これは細胞外の液体の正常な張度が過剰の水の貯留のために安全限界を下回る場合に生じる。水中毒は脳機能の潜在的に致死性の乱れである。水中毒の典型的な徴候として、悪心、嘔吐、頭痛及び倦怠感が挙げられる。
本発明の範囲内の“SGLT2 インヒビター”という用語は、ナトリウム-グルコース輸送体2(SGLT2)、特にヒトSGLT2 に対する抑制効果を示す化合物、特に、グルコピラノシル-誘導体、即ち、グルコピラノシル部分を有する化合物に関する。IC50として測定される hSGLT2に対する抑制効果は好ましくは1000 nM より下、更に好ましくは100 nMより下、最も好ましくは50 nM より下である。SGLT2 インヒビターのIC50値は通常0.01nMより上、又は更には0.1nM以上である。hSGLT2に対する抑制効果は文献で知られており、特に出願WO 2005/092877又はWO 2007/093610 (23/24頁)(これらが参考として本明細書にそのまま含まれる)に記載された方法により測定し得る。“SGLT2 インヒビター”という用語はまたこれらのあらゆる医薬上許される塩、これらの水和物及び溶媒和物(夫々の結晶性形態を含む)を含む。
本発明の範囲内の“インスリン”という用語は患者、特にヒトの治療に使用されるインスリン及びインスリン類似体に関するものであり、これらは通常のインスリン、ヒトインスリン、インスリン誘導体、亜鉛インスリン及びインスリン類似体(特にヒトの治療に使用されるような、改善された放出プロフィールを有するこれらの製剤を含む)を含む。本発明の範囲内の“インスリン”という用語は下記の型のインスリンをカバーする:
−迅速作用インスリン、
−短期作用インスリン、
−中間作用インスリン、
−長期作用インスリン、
及びこれらの混合物、例えば、短期作用インスリン又は迅速作用インスリンと長期作用インスリンの混合物。本発明の範囲内の“インスリン”という用語は注射、注入(ポンプを含む)、吸入、経口、経皮又はその他の投与の経路により患者に投与されるインスリンをカバーする。
“治療”という用語は特に顕著な形態で、前記症状を既に発生した患者の治療措置を含む。治療措置は特別な指示の症候を軽減するための対症措置又は指示の症状を反転もしくは部分反転し、又は疾患の進行を停止もしくは遅延するための原因措置であってもよい。こうして、本発明の組成物及び方法は、例えば、時間の或る期間にわたる治療措置としてだけでなく、慢性治療のために使用し得る。
“予防措置”、及び“予防”という用語は互換可能に使用され、前記症状を発生する恐れのある患者の措置を含み、こうして前記恐れを軽減する。