特許第6142025号(P6142025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6142025中赤外から遠赤外のダイヤモンド・ラマンレーザーシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142025
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】中赤外から遠赤外のダイヤモンド・ラマンレーザーシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/30 20060101AFI20170529BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20170529BHJP
   G02F 1/35 20060101ALI20170529BHJP
   G02F 1/39 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   H01S3/30
   H01S3/00 F
   H01S3/00 A
   G02F1/35 502
   G02F1/39
【請求項の数】27
【外国語出願】
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2016-34324(P2016-34324)
(22)【出願日】2016年2月25日
(62)【分割の表示】特願2012-554166(P2012-554166)の分割
【原出願日】2011年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-119491(P2016-119491A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2016年3月22日
(31)【優先権主張番号】2010900786
(32)【優先日】2010年2月24日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】500125504
【氏名又は名称】マックォーリー・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100180194
【弁理士】
【氏名又は名称】利根 勇基
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ポール ミルドレン
【審査官】 林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−026389(JP,A)
【文献】 特表2009−533847(JP,A)
【文献】 特開平05−082916(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0176563(US,A1)
【文献】 米国特許第07259906(US,B1)
【文献】 特表2013−517631(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0163169(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0198397(US,A1)
【文献】 特表2004−503460(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/010352(WO,A1)
【文献】 特表2006−507204(JP,A)
【文献】 黒田 隆、他,ダイアモンドにおける2フォノン共鳴CARSの観測,日本物理学会講演集 第65巻第1号第4分冊,(社)日本物理学会,2010年 3月 1日,第65巻,p.781
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体ラマンレーザーシステムであって、
3マイクロメートル〜7.5マイクロメートルの範囲内の赤外波長を有する入力ビームを生成するためのポンプ源であって、前記ポンプ源は、強度0.1GW/cm2〜60GW/cm2及びパルス幅1ns〜100nsの第1波長のポンプ・パルスを含むパルス化ポンプ・ビームを生成する、ポンプ源と、
固体ダイヤモンド・ラマン材料であって、前記固体ダイヤモンド・ラマン材料の2フォノン吸収バンドの中の5.5マイクロメートル〜100マイクロメートルの長波側の出力波長を有するラマンシフト出力ビームを生成、前記固体ダイヤモンド・ラマン材料は、10000ppb未満の窒素不純物含量を有する、固体ダイヤモンド・ラマン材料とを備えた、固体ラマンレーザーシステム。
【請求項2】
前記出力波長は6マイクロメートル〜12マイクロメートルの範囲内にある、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項3】
前記出力波長は6マイクロメートル〜8マイクロメートルの範囲内にある、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項4】
前記第1波長は、前記固体ダイヤモンド・ラマン材料の2フォノン吸収バンドの中の短波側にある、請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項5】
前記ラマンシフト出力ビームは、前記ラマン材料中の第1ストークス・シフトに相当する波長を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザーシステム。
【請求項6】
中赤外から遠赤外の固体ラマンレーザーシステムであって、
3マイクロメートル〜7.5マイクロメートルの範囲内の赤外波長を有する入力ビームを生成するためのポンプ源であって、前記ポンプ源は、強度0.1GW/cm2〜60GW/cm2及びパルス幅1ns〜100nsの第1波長のポンプ・パルスを含むパルス化ポンプ・ビームを生成する、ポンプ源と、
前記第1波長を有するポンプ・ビームを共振器空洞内に入れるために、前記第1波長を有する光について高透過性である入力リフレクタを含む、共振器空洞と、
前記ポンプ・ビームをラマンシフトして固体ダイヤモンド・ラマン材料の2フォノン吸収バンドの中の長波側の第2波長を生成するために前記共振器空洞内に配置されておりかつ10000ppb未満の窒素不純物含量を有する、固体ダイヤモンド・ラマン材料と、
前記固体ダイヤモンド・ラマン材料内で2フォノンの吸収なく前記2フォノン吸収バンドの中の長波側の前記第2波長を前記共振器空洞内で共振させて出力ビームを出力するために、前記第2波長を有する光について部分的に透過性である出力リフレクタであって、前記入力リフレクタはさらに、前記共振器空洞内の前記第2波長を共振させるために、前記第2波長において高反射性である、出力リフレクタとを含む、固体ラマンレーザーシステム。
【請求項7】
前記出力リフレクタは前記第2波長において1%〜80%の透過率を有する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記出力リフレクタは前記第2波長において20%〜50%の透過率を有する、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1波長は前記2フォノン吸収バンドの中の短波側にある、請求項6〜8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記ラマン材料は非ドープ・ラマン材料である、請求項6〜9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記ラマン材料は単結晶ダイヤモンド材料又は同位体的に純粋なダイヤモンド材料である、請求項6〜10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記ダイヤモンド・ラマン材料は化学蒸着製造工程から導出される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記共振器空洞は前記第2波長の光について高フィネス共振器空洞であり、前記第2波長における前記共振器空洞のフィネスは100を上回る、請求項6に記載のシステム。
【請求項14】
前記第2波長は一次ストークス波長若しくは二次ストークス波長又はこれらの任意の組み合わせである、請求項6に記載のシステム。
【請求項15】
サイドポンプ・レーザーシステム又は非共線式ポンプ・レーザーシステムである、請求項6に記載のシステム。
【請求項16】
前記パルス幅が1ns〜10nsである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザーシステム。
【請求項17】
前記ポンプ・レーザー源が、光パラメトリック発振器、固体ラマンシフト・ツリウム・レーザー、固体ラマンシフト・ホルミウム・レーザー、及び固体ラマンシフト・エルビウム・レーザーから成る群から選択される、請求項6〜15のいずれか一項に記載のレーザーシステム。
【請求項18】
前記ラマン材料は、前記共振器空洞内において前記第1波長及び/又は第2波長の光を案内するための導波路を含む、請求項6〜15のいずれか一項に記載のレーザーシステム。
【請求項19】
前記第1波長を同調することによって前記第2波長を同調することができるように、前記第1波長が同調可能な源から導出される、請求項6〜15のいずれか一項に記載のレーザーシステム。
【請求項20】
前記第2波長は5.5マイクロメートル〜100マイクロメートルの範囲にわたって同調可能である、請求項19に記載のレーザーシステム。
【請求項21】
前記第2波長は5.5マイクロメートル〜100マイクロメートルの範囲にわたって連続的に同調可能である、請求項20に記載のレーザーシステム。
【請求項22】
固体ラマンレーザーシステム内で中赤外から遠赤外のビームを生成する方法であって、
3マイクロメートル〜7.5マイクロメートルの範囲内の第1波長を有するポンプ・ビームであって、前記第1波長で強度0.1GW/cm2〜60GW/cm2及びパルス幅1ns〜100nsのポンプ・パルスを含むパルス化ポンプ・ビームであるポンプ・ビームを生成するステップと、
共振器空洞を提供するステップであって、該共振器空洞は、前記第1波長を有するポンプ・ビームを該共振器空洞内に入れるために、前記第1波長を有する光について高透過性である入力リフレクタと、前記ポンプ・ビームをラマンシフトして固体ダイヤモンド・ラマン材料の2フォノン吸収バンドの中の長波側の5.5マイクロメートル〜100マイクロメートルの範囲内の第2波長を生成するために前記共振器空洞内に配置された、固体ダイヤモンド・ラマン材料と、前記固体ダイヤモンド・ラマン材料内で2フォノンの吸収なく2フォノン吸収バンドの中の長波側の第2波長を該共振器空洞内で共振させて出力ビームを出力するために、前記第2波長について部分的に透過性である、出力リフレクタとを含み、前記入力リフレクタはさらに、前記共振器空洞内の前記第2波長を共振させるために前記第2波長において高反射性であり、前記固体ダイヤモンド・ラマン材料は、10000ppb未満の窒素不純物含量を有する、ステップと、
前記第1波長を有するポンプ・ビームを前記共振器空洞内に導いて前記ラマン材料に入射させ、このことによって前記ラマン材料内において誘導ラマン散乱を誘発して前記第2波長を生成するステップと、
前記第2波長を有する出力ビームを前記共振器空洞から出力するステップとを含む、中赤外から遠赤外のビームを生成する方法。
【請求項23】
請求項6に記載のレーザーシステムを用いたレーザー処理方法であって、
3.47マイクロメートルの第1波長でポンプ・ビームを提供するステップと、
前記ポンプ・ビームを前記共振器空洞内に導いて前記ラマン材料に入射させ、このことによって前記ラマン材料内において誘導ラマン散乱を誘発して、6.45マイクロメートルの第2波長を有する出力ビームを生成するステップと、
選択された処理区域にレーザー処理を施すべく、前記処理区域に前記出力ビームを導くステップとを含む、レーザー処理方法。
【請求項24】
前記レーザー処理方法は、神経外科処置に用いられる、請求項23に記載の処理方法。
【請求項25】
請求項6に記載のレーザーシステムを用いたリモート・センシング方法であって、
3マイクロメートル〜7.5マイクロメートルの範囲内の第1波長でポンプ・ビームを提供するステップと、
前記ポンプ・ビームを共振器空洞内に導いて前記ラマン材料に入射させ、このことによって前記ラマン材料内において誘導ラマン散乱を誘発して、5.5マイクロメートル〜100マイクロメートルの範囲内の第2波長を有する出力ビームを生成するステップと、
前記共振器空洞から前記第2波長を出力ビームとして出力するステップと、
前記出力ビームを対象に向かって又は対象若しくは環境物質が位置していることが疑われる環境内に導くステップと、
前記対象又は環境物質からの後方散乱放射を検出するステップと、
検出された放射を処理し、このことによって前記対象又は環境物質の有無を検知するステップと
を含む、リモート・センシング方法。
【請求項26】
前記第1波長は、前記固体ダイヤモンド・ラマン材料の2フォノン吸収バンドの中の長波側にある、請求項6に記載のレーザーシステム。
【請求項27】
固体ラマンレーザーシステムのためにポンプ光を生成するステップであって、固体ダイヤモンド・ラマン材料を備えかつ前記固体ダイヤモンド・ラマン材料の2フォノン吸収バンドの中の長波側の5.5マイクロメートル〜100マイクロメートルの出力波長を有するラマンシフト出力ビームを生成、前記ポンプ・ビームは、3マイクロメートル〜7.5マイクロメートルの範囲内の第1波長を有し、前記第1波長で強度0.1GW/cm2〜60GW/cm2及びパルス幅1ns〜100nsのポンプ・パルスを含むパルス化ポンプ・ビームである、固体ラマンレーザーシステムのためにポンプ光を生成するステップを備えた、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中赤外から遠赤外のスペクトル領域内の出力波長を有するレーザーシステム、及びこれらのレーザーの操作方法に関し、具体的には中赤外から遠赤外のラマンレーザーシステム及び方法に関する。
【0002】
本発明は主として、中赤外から遠赤外のスペクトル領域内のコヒーレント放射を生成するために、固体ダイヤモンド・ゲイン結晶内のラマン変換を利用する固体レーザーシステムとして用いるために開発された。このような用途に関連して以下に本発明を説明することにする。しかし言うまでもなく、本発明はこの特定の利用分野に限定されるものではない。
【背景技術】
【0003】
本明細書全体を通して行われる背景技術のいかなる考察も、このような背景技術が先行技術であることを承認したものと考えられるべきではなく、またこのような背景技術が広く周知のものであるか、又はこの分野における共通の一般知識の一部を形成することを承認したものと決して考えられるべきではない。
【0004】
結晶性ラマンレーザーは、より長い波長及びより高いビーム質にするためのポンプ・レーザーの効率的なコンバータである。優れた光学品質を有するように現在合成することができるIV族結晶ダイヤモンドは、特に興味深く、最近ではその高い熱伝導率、高いラマンゲイン、及び広い光透過範囲に起因して全ての他の材料を凌ぐ効率、波長範囲、及びパワーを有する際だった光学ポンプ・ラマンレーザー材料であることが示されている。これらの尺度の全てによって、ダイヤモンドは、全ての他の既知材料の中で際立っており、かつてない平均パワー及び波長範囲を有する小型ラマンレーザーを可能にする潜在能力を有している。化学蒸着(CVD)によって成長させられる高い光学品質の合成ダイヤモンド結晶を最近、利用できるようになったことで、ダイヤモンド・ラマンレーザーの開発への関心が目下、急激に高まる可能性がでてきている。
【0005】
電子産業と極めて類似して、レーザーはパワー、速度、及び周波数範囲を常に高めるように開発が行われている。科学技術分野のほとんど全てが今や、何らかの形でレーザー技術の恩恵を被っており、出力波長、ビーム・パワー、時間的フォーマット、コヒーレンス及びシステム・パラメータ、例えばフットプリント及び効率を含む種々の仕様を要求している。従って、レーザー性能の基礎である光学ゲイン材料の代替となるものの模索が進行中である。ダイヤモンドはレーザー材料として極めて魅力的である。それというのも、その極限的な特性に従って、他の材料から生じ得るものを十分に凌ぐ能力を約束するからである。
【0006】
現在までのほとんどのダイヤモンド・レーザー研究は、色中心レーザー、半導体ダイオード・レーザー、及び希土類ドープ・レーザーのためのドープ・ダイヤモンドに集中している。光−光変換効率が13.5%であることが実証されている、窒素空孔に依存する色中心レーザー以外は、おそらく成功は極めて限定的なものとなっている[S.C. Rand and L.G. DeShazer, Opt. Lett. 10, 481 (1985)参照]。レーザーホストとしてのダイヤモンドの主要な課題は、好適な濃度の色中心レーザーイオン又はアクティブ・レーザーイオンを、きつく結合された格子内に置換によって又は格子間に組み込むことである。他方において、ラマンレーザーは、基礎格子振動からの誘導散乱に依存し、ひいてはドープを必要としない。光増幅の原理は、反転分布に依存するコンベンショナルなレーザーとは区別されるものの、多くの点で、ラマンレーザーは他のレーザーポンプ・レーザーと同様の基本特性を有している。ラマンレーザーは機能的には周波数をダウンシフトし、ビーム質を改善するレーザーコンバータと考えることができる。これらの開発は大抵の場合、コンベンショナルなレーザー媒質によっては満たされないレーザー波長、そして多種多様の分野、例えば電気通信分野、医学分野、生物学的診断分野、防衛分野、及びリモート・センシング分野において利用されるレーザー波長に対する必要性によって後押しされている。
【0007】
ラマンレーザーにおいて実現するのに十分適したサイズ、光学品質、及び再現性を有する合成(CVD)単結晶ダイヤモンドがこの数年において利用可能になってきている。「コンベンショナル」な材料と比較して全く異なるダイヤモンドの光学・熱特性は、ラマンレーザー能力を広げる上で極めて重要である。ダイヤモンドは、全ての既知の材料のうち最も高い(硝酸バリウムよりもほぼ1.5倍高い)ラマンゲイン係数と、際だった(ほとんどの他のラマン結晶よりも2桁超高い)熱伝導率と、光透過範囲(0.230μm〜100μm超、ただし、多フォノン相互作用に起因して3〜6μm範囲を除く)とを有している。大抵の固体ラマン材料は、4マイクロメートル未満の波長でのみ透過性である(ケイ素は僅かな例外の1つである)。
【0008】
中赤外、長波赤外、遠赤外、及びテラヘルツの放射を生成するダイヤモンドの潜在能力は多くの用途にとって極めて重要であり、6〜100μmの波長における強力で実用的なレーザー源が深刻に不足していることに対処することができる。この波長範囲は、現在の光学的電子的マイクロ波源間の悪名高いギャップ内にあるが、極めて有意義ないくつかのもの、例えば病原体、密輸入及び毒性の化学物質のリモート遠隔センシング、工業プロセスのモニタリング・コントロール、環境モニタリング及び生物学的「ラボチップ(lab-on-a-chip)」デバイスを含む、物理学、生物学、材料科学、化学及び医学における応用及び研究にとっては恵まれた領域である。この波長領域は、われわれの環境を検知し、プローブし、そしてこれと相互作用するのに不可欠に重要であり、一端の分子「指紋(fingerprint)」領域(5〜20μm)から、多くの有機物質に安全に浸透する「T線(T-rays)」(50〜200μm)までを含む。
【0009】
例えば、レーザーは外科処置において広く使用されている。なぜならば、レーザーは良好な精度、キーホール・ファイバー送達の選択肢、及び出血の低減をもたらすからである。種々の適応症及び効力に対する主要な制限が、レーザービーム・パワーが組織内にデポジットされる際の空間精度が低いことによってもたらされる。例えば脳腫瘍の切除のような神経外科処置は現在のレーザー技術を用いては実施できないことがよくある。それというのもビーム・パワーが細胞内に直接にデポジットされるのではなく、細胞を取り囲む発色団、例えば水及びメラニン内にデポジットされるからである。しかしながら、波長6.45μmが、タンパク質のアミドIIバンドによる強い吸収と、水中の比較的弱い吸収とをもたらすための主要吸収波長として同定されてきた。6.45μmのレーザーは、単細胞レベル(<5μm)の分解能で組織をアブレートする能力、及びさもなければ困難な適応症を治療する新しい選択肢を外科医に潜在的に提供する。米国バンダービルト大学において自由電子レーザーを用いて取り組まれた原理研究の試験[Edwards, G. S., Nature 371, p 416(1994)参照]は、効率的なアブレーションと極めて低い付随的損傷を実証し、システムは続いて、成功裡に行われたヒトの脳の手術試行及び眼科手術試行において使用された[例えばKoos, K他、Lasers Surg. Med. 27, p 191 (2000)]。自由電子レーザーはしかし、大規模(建物サイズ)で高価な、そして非効率的な設備であり、小規模な試行にしか適さない。より実用的な代替物が吟味されているが、広範囲な使用のためのサイズ及び性能に対する要件をなおも満たさなければならない。克服されるべき主要なハードルは、現在まで、効率的な作業のために必要とされる波長及びパワーレベルを生成し得るものとして同定されている固体レーザー材料がないことである。
【0010】
固体レーザーに基づく光学パラメトリック発振器の作業の延長が、非線形材料、例えばZnGeP、AgGaSe2、及びGaAsを使用して考察されているが、現時点では、ポンプ・レーザーパルスによる表面損傷が未解決の問題であり、波長はほぼ20μm未満に制限される。量子カスケード半導体ダイオード・レーザーは極めて有望な装置ではあるが、広範囲な受け入れを阻んでいるいくつかの深刻な制限がある。すなわち、ピーク及び平均出力パワーが低く(<100mW)、同調範囲が狭く、そして極低温冷却がしばしば必要となることである。幅広い同調性及び高いパワーを提供する唯一の源は、高エネルギー電子加速器(例えば自由電子レーザー及びシンクロトロン)に基づく数百万ドルの大規模設備である。このような設備は大抵の実際的な用途には不適切である。結果として、ここに提案されるような実用的な卓上又はより小型の源の開発が、大きな影響を与えることなる。
【0011】
ダイヤモンドは以前から、興味深いラマンレーザー材料であることが知られているが、ラマンレーザーが実証されたのはこの数年に過ぎない。事実、1928年のラマン及びクリシュナンによるラマン効果の発見後まもなく、ラマスワミが、ダイヤモンド中の強力な分離された1332cm-1ラマンモードを発見した[C. Ramaswamy, Indian J. Phys. 5, 97 (1930)参照]。ダイヤモンドは、SRSを呈するために使用される第1結晶の1つであった[G. Eckhardt, D.P. Bortfeld, 及びM. Geller, Appl. Phys. Lett. 3,137, (1963)参照]。原則的にはラマンレーザーは天然ダイヤモンドから形成され、確かにコーティングされていない天然ダイヤモンド結晶における共振効果が1970年に観察されてはいるものの、主に合成成長方法によって提供される光学品質材料の再現可能な供給が不足していることに起因して、実質的なダイヤモンド・ラマンレーザーの開発は制限されてきた。このような合成成長方法は最近になってやっと利用可能になってきている。
【0012】
重要な技術的課題は、3〜6μmで強力に吸収するダイヤモンド(>0.5cm-1)中の2又は3フォノンバンドから生じる。3.8μmよりも長いポンプ波長の場合、ポンプの強い吸収を考慮することが重要である。第1ストークス波長の吸収量も、3.2μmよりも短いポンプ波長に対する考慮事項である。長い波長を生成するための更なる課題は、より長い波長をラマン散乱させるときに通常発生するゲインの低下である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、従来技術の欠点のうちの1つ以上を実質的に克服するか、又は少なくとも緩和することであり、或いは、少なくとも有用な代替手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
下記定義は、一般的な定義として提供され、本発明の範囲をこれらの用語だけに限定するものでは決してなく、下記説明のよりよい理解のために示される。
【0015】
他に定義されない場合には、ここに使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野における当業者によって広く理解されているのと同じ意味を有する。本発明の目的上、次の用語を以下のように定義する。
【0016】
本明細書に使用される冠詞「a」及び「an」は、1つ以上(すなわち少なくとも1つ)の、冠詞の文法的対象を意味する。例えば「an element」は1つのエレメント又は2つ以上のエレメントを意味する。
【0017】
本明細書に使用される用語「約(about)」は、基準の量に対して30%、好ましくは20%、より好ましくは10%だけ変化する量を意味する。
【0018】
本明細書全体を通して、文脈が他のものを必要としないならば、「comprise」、「comprises」、及び「comprising」という語は、言及した工程又はエレメント又は工程群又はエレメント群を含むが、任意の他の工程又はエレメント又は工程群又はエレメント群を排除することはないことを暗示するものと理解されたい。
【0019】
本明細書中に記載されたものと同様又は同等のいかなる方法及び材料も本発明の実施又は試験において用いることができるが、好ましい方法及び材料が記載されている。言うまでもなく、本明細書中に記載されている方法、装置及びシステムは、種々の方法で、そして種々の目的で実施されてよい。本明細書中の説明は一例を示すに過ぎない。
【0020】
第1の態様によれば、固体ラマン材料を含む固体ラマンレーザーシステムであって、約5.5マイクロメートルを上回る出力波長を有するラマンシフト出力ビームを生成するようになっている、固体ラマンレーザーシステムが提供される。出力波長は約6〜約10マイクロメートルの範囲内にあってよい。出力波長は約6〜約8マイクロメートルの範囲内にあってよい。出力波長は、約5.5μm〜150μm、例えば5.5μm、又は6,6.5,7,7.5,8,8.5,9,9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5,13,13.5,14,14.5,15,15.5,16,16.5,17,17.5,18,18.5,19,19.5,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,110,120,130,140,又は約150μmであってよい。
【0021】
レーザーシステムは、約3マイクロメートル〜約7.5マイクロメートル、又は約3μm〜約5μm又は約3μm〜約4μm、又は約3.2μm〜約3.8μm、例えば約3.0μm、又は3.1,3.2,3.3,3.4,3.5,3.6,3.7,3.8,3.9,4.0,4.1,4.2,4.3,4.4,4.5,4.6,4.7,4.8,4.9,5.0,5.1,5.2,5.3,5.4,5.5,5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,又は約7.5μmの波長を有する第1波長のポンプ光を生成するためのポンプ源を含んでいてよい。ポンプ光はラマン材料中で出力波長に変換される。ポンプ源は、ラマン材料をエンドポンピング又はサイドポンピングすることが可能であってよい。別の構成では、ラマン材料はエンドポンピングされ且つサイドポンピングされてよい。ダイヤモンド・ラマンレーザー材料にとっては、ポンプ波長が約3.8μm〜7.5μmの範囲内にある場合、ラマン材料のサイドポンピングが特に有利である。ポンプ・ビームは偏光ポンプ・ビームであってよい。ポンプ・ビームの偏光は、ポンプ・ビームがラマンゲインの増大のために適宜の結晶軸に対して平行になるように配向されてよい。偏光ポンプ・ビームの偏光は、ダイヤモンド結晶格子の<111>、<100>又は<110>軸に対して平行又はほぼ平行であってよい。ブリュースターカットされたダイヤモンド結晶の場合、結果として生じるラマン変換ストークス光の偏光は、ポンプ光と同じ配向に偏光することにより、ブリュースターカット・ファセットにおいてストークス光の反射損失を最小限にすることができる。ポンプ・ビームは、ラマン材料のラマンゲインの線幅よりも小さい又はこれにほぼ等しい線幅を有していてよい。ポンプ・ビームは、約1.6cm-1以下、例えば約0.01〜約1.6cm-1、又は約0.01cm-1,0.02,0.03,0.04,0.05,0.06,0.07,0.08,0.09,0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,1.6cm-1の半値幅を有する線幅を有していてよい。或いは、線幅は約0.01cm-1〜約10cm-1、例えば約0.01cm-1,0.02,0.03,0.04,0.05,0.06,0.07,0.08,0.09,0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,1.6,1.7,1.8,1.9,2.0,2.1,2.2,2.3,2.4,2.5,2.6,2.7,2.8,2.9,3.0,3.1,3.2,3.3,3.4,3.5,3.6,3.7,3.8,3.9,4.0,4.1,4.2,4.3,4.4,4.5,4.6,4.7,4.8,4.9,5.0,5.1,5.2,5.3,5.4,5.5,5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,7.5,7.6,7.7,7.8,7.9,8.0,8.1,8.2,8.3,8.4,8.5,8.6,8.7,8.8,8.9,9.0,9.1,9.2,9.3,9.4,9.5,9.6,9.7,9.8,9.9又は10.0cm-1であってもよい。
【0022】
ラマンシフト出力ビームは、ラマン材料中の第1ストークス・シフトに相当する波長であってよい。ラマンレーザーシステムは非ドープ固体ラマン材料を含んでよく、レーザーシステムからの出力波長は5.5マイクロメートルを上回る。ラマン材料はダイヤモンドであってよい。ラマン材料は非ドープ・ダイヤモンドであってよい。ラマン材料は単結晶ダイヤモンドであってよい。ラマン材料はダイヤモンドの2つ又は3つ以上の単結晶を含んでよく、これらの結晶は(例えば接着剤なしの接触結合処置、例えば拡散結合によって)互いに結合されていてよい。ラマン材料は多結晶又は単結晶ダイヤモンドであってよい。ラマン材料は低複屈折ダイヤモンドであってよい。ダイヤモンド・ラマン材料は低い窒素不純物含量を有していてよい。窒素不純物含量は約0.1ppb〜約10000ppb、又は0.1ppb〜500ppb、又は0.1ppb〜200ppb、例えば約0.1ppb、又は0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1,2,3,4,5,10,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,105,110,115,120,125,130,135,140,145,150,155,160,165,170,175,180,185,190,195,200,300,400,500,600,700,800,900,1000,1250,1500,1750,2000,2500,3000,3500,4000,4500,5000,5500,6000,6500,7000,7500,8000,8500,9000,9500,又は約10000ppbであってよい。
【0023】
第2の態様によれば、非ドープ固体ラマン材料を含む固体ラマンレーザーシステムであって、レーザーシステムからの出力波長が5.5マイクロメートルを上回る、固体ラマンレーザーシステムが提供される。ラマン材料はダイヤモンドであってよい。ラマン材料は多結晶又は単結晶ダイヤモンドであってよい。ラマン材料は同位体的に純粋なダイヤモンド材料(結晶)(例えばエンリッチされた炭素−12)であってよい。ラマン材料は低複屈折ダイヤモンドであってよい。ダイヤモンド・ラマン材料は低い窒素不純物含量を有していてよい。窒素不純物含量は約0.1ppb〜約10000ppb、又は0.1ppb〜500ppb、又は0.1ppb〜200ppb、例えば約0.1ppb、又は0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1,2,3,4,5,10,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,105,110,115,120,125,130,135,140,145,150,155,160,165,170,175,180,185,190,195,200,300,400,500,600,700,800,900,1000,1250,1500,1750,2000,2500,3000,3500,4000,4500,5000,5500,6000,6500,7000,7500,8000,8500,9000,9500,又は約10000ppbであってよい。出力波長は約5.5μm〜200μm、例えば5.5μm、又は5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,7.5,7.6,7.7,7.8,7.9,8.0,8.1,8.2,8.3,8.4,8.5,8.6,8.7,8.8,8.9,9.0,9.1,9.2,9.3,9.4,9.5,9.6,9.7,9.8,9.9,10,10.5,11,11.5,12,12.5,13,13.5,14,14.5,15,15.5,16,16.5,17,17.5,18,18.5,19,19.5,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,又は約200μmであってよい。レーザーシステムは、約3マイクロメートル〜約7.5マイクロメートル、又は3μm〜約5μm又は3μm〜約4μm、又は3.2μm〜約3.8μm、例えば約3.0μm、又は3.1,3.2,3.3,3.4,3.5,3.6,3.7,3.8,3.9,4.0,4.1,4.2,4.3,4.4,4.5,4.6,4.7,4.8,4.9,5.0,5.1,5.2,5.3,5.4,5.5,5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,約7.5μmの第1波長を有するポンプ源によってポンピングされてよい。ポンプ源は同調可能であってよい。出力波長は同調可能であってよい。
【0024】
第3の態様によれば、中赤外から遠赤外の固体ラマンレーザーシステムが提供される。レーザーシステムは共振器を含んでいてよい。共振器は、約3〜約7.5マイクロメートルの範囲内の第1波長を有するポンプ・ビームを共振器空洞内に入れるために、第1波長を有する光について高透過性であるようになっている入力リフレクタを含んでよい。共振器はさらに、約5.5マイクロメートルを上回る第2波長を共振器内で共振させて出力ビームを出力するために、第2波長を有する光について部分的に透過性であるようになっている出力リフレクタを含んでよい。入力リフレクタはさらに、共振器内の第2波長を共振させるために、第2波長において高反射性であってよい。レーザーシステムはさらに、ポンプ・ビームをラマンシフトして第2波長を生成するために共振器空洞内に配置された固体ラマン材料を含んでいてよい。第2波長は約5.5マイクロメートルを上回っていてよい。或いは、第1波長は約3〜約4マイクロメートルの範囲内にあってよい。或いは、第1波長は約3.2〜約3.8マイクロメートルの範囲内にあってもよい。ラマン材料はダイヤモンドであってよい。ラマン材料は非ドープ・ダイヤモンドであってよい。ラマン材料は単結晶ダイヤモンドであってよい。ラマン材料はダイヤモンドの2つ又は3つ以上の単結晶を含んでよく、これらの結晶は(例えば接着剤なしの接触結合処置、例えば拡散結合によって)互いに結合されていてよい。ラマン材料は多結晶又は単結晶ダイヤモンドであってよい。ラマン材料は低複屈折ダイヤモンドであってよい。ダイヤモンド・ラマン材料は低い窒素不純物含量を有していてよい。窒素不純物含量は約0.1ppb〜約10000ppb、又は0.1ppb〜500ppb、又は0.1ppb〜200ppb、例えば約0.1ppb、又は0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1,2,3,4,5,10,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,105,110,115,120,125,130,135,140,145,150,155,160,165,170,175,180,185,190,195,200,300,400,500,600,700,800,900,1000,1250,1500,1750,2000,2500,3000,3500,4000,4500,5000,5500,6000,6500,7000,7500,8000,8500,9000,9500,又は約10000ppbであってよい。
【0025】
第3の態様の構成によれば、共振器空洞と固体ラマン材料を含む中赤外から遠赤外の固体ラマンレーザーシステムであって、共振器空洞は、入力リフレクタと出力リフレクタとを含み、入力リフレクタは、約3〜約7.5マイクロメートルの範囲内の第1波長を有するポンプ・ビームを共振器空洞内に入れるために、第1波長を有する光について高透過性であるようになっており、出力リフレクタは、約5.5マイクロメートルを上回る第2波長を共振器内で共振させて出力ビームを出力するために、第2波長を有する光について部分的に透過性であるようになっており、入力リフレクタはさらに、共振器内の第2波長を共振させるために、第2波長において高反射性であるようになっており、固体ラマン材料はポンプ・ビームをラマンシフトして第2波長を生成するために共振器空洞内に配置されている、固体ラマンレーザーシステムが提供される。或いは、第1波長は約3〜約4マイクロメートルの範囲内にあってよい。或いは、第1波長は約3.2〜約3.8マイクロメートルの範囲内にあってもよい。
【0026】
高反射性の入力リフレクタの、第2波長における反射率は70%を上回っていてよく、すなわち、約70%〜99.99%、又は約90%〜99.99%であってよく、第2波長における反射率は例えば約70%,75%,80%,85%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,99%,99.5%,99.9%,99.95%,又は約99.99%であってよい。部分透過性の出力リフレクタの、第2波長における透過率は約1%〜約80%、又は約20%〜約50%であってよく、部分透過性の出力リフレクタの、第2波長における透過率は例えば、約1%,約2%,約3%,約4%,約5%,約6%,約7%,約8%,約9%,約10%,約15%,約20%,約25%,約30%,約35%,約40%,約45%,約50%,約55%,約60%,約65%,約70%,約75%,約80%であってよい。
【0027】
第1波長(本明細書中では、ポンプ・ビームがポンプ波長/第1波長を有するビームであり、ポンプ源によって生成/提供される場合、互換的にポンプ波長とも呼ばれる。この定義は本明細書中に開示された態様、構成及び例のそれぞれに当てはまる)は約3.8マイクロメートル未満であってよく、第2波長(出力ビームが出力波長/第2波長を有するビームである場合、互換的に出力波長とも呼ばれる。この定義は本明細書中に開示された態様、構成及び例のそれぞれに当てはまる)は約5.5マイクロメートル超、又は約6マイクロメートル超であってよい。第1波長は約3〜約7.5μmの範囲にあってよい。或いは、第1波長は約3〜約4μmの範囲にあってもよい。或いは、第1波長は約3.2〜約3.8μmの範囲にあってもよい。レーザーシステムは、約3マイクロメートル〜約7.5マイクロメートル、又は3μm〜約5μm又は3μm〜約4μm、又は3.2μm〜約3.8μmの第1波長のポンプ光を生成するためのポンプ源を含んでよい。第1波長は、例えば約3.0μm、又は3.1,3.2,3.3,3.4,3.5,3.6,3.7,3.8,3.9,4.0,4.1,4.2,4.3,4.4,4.5,4.6,4.7,4.8,4.9,5.0,5.1,5.2,5.3,5.4,5.5,5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,約7.5μmであってよく、ポンプ光はラマン材料中で出力波長に変換される。第1波長は、同調可能なポンプ源によって生成されることができる。
【0028】
ポンプ源はラマン材料をエンドポンピング又はサイドポンピングすることが可能であってよい。別の構成では、ラマン材料はエンドポンピングされ且つサイドポンピングされてよい。ダイヤモンド・ラマンレーザー材料にとっては、ポンプ波長が約3.8μm〜7.8μmの範囲内にある場合、ラマン材料のサイドポンピングが特に有利である。ポンプ・ビームは偏光ポンプ・ビームであってよい。ポンプ・ビームの偏光は、ポンプ・ビームがラマンゲインの増大のために適宜の結晶軸に対して平行になるように配向されてよい。結果として生じるラマン変換ストークス光の偏光は、ポンプ光と同じ配向に偏光することにより、ラマン材料中のストークス光の吸収損失を最小限にすることができる。
【0029】
ラマン材料は非ドープ・ラマン材料であってよい。ラマン材料はダイヤモンドであってよい。ラマン材料は単結晶ダイヤモンド・ラマン材料であってよい。ダイヤモンド・ラマン材料は化学蒸着製造工程から導出されてよい。ラマン材料は冷却されてよい。ラマン材料の冷却は、ラマン材料中の多フォノン相互作用を最小化し、材料の吸収係数を低減することができる。いくつかの波長における吸収量を低減するためには、同位体的に純粋なダイヤモンド結晶が有利な場合もある(Thomas R. Anthony, William F. Banholzer, Properties of diamond with varying isotopic composition, Diamond and Related Materials, Volume 1, Issues 5-6, Proceedings of the Second European Conference on Diamond, Diamond-like and Related Coatings, 15 April 1992, Pages 717-726, ISSN 0925-0635,DOI: 10.1016/0925-9635(92)90197-V.参照)。
【0030】
レーザーシステムは連続波レーザーシステムであってよく、共振器空洞は第2波長の光について高フィネス共振器空洞であり、第2波長における共振器空洞のフィネスは100を上回る。或いは、第2波長における共振器空洞のフィネスは15超、200超、250超、300超、400超、500超、1000超、2000超、3000超、4000超、5000超、6000超、7000超、8000超、9000超、10000超、15000超、20000超、25000超、30000超、35000超、40000超、45000超であってよい。第2波長における共振器空洞のフィネスは、100〜50000、100〜45000、100〜40000、100〜35000、100〜30000、100〜25000、100〜20000、100〜15000、100〜10000、100〜9000、100〜8000、100〜7000、100〜6000、100〜5000、100〜4000、100〜3000、100〜2000、100〜1000、100〜500の範囲にあってよく、そしてほぼ100,150,200,250,300,350,400,450,500,550,600,650,700,750,800,850,900,950,1000,1100,1200,1300,1400,1500,1600,1700,1800,1900,2000,2250,2500,2750,3000,3250,3500,3750,4000,4250,4500,4750,5000,6000,7000,8000,9000,10000,11000,12000,13000,14000,15000,16000,17000,18000,19000,20000,25000,30000,35000,40000,45000,又は約50000以上であってよい。
【0031】
第2波長は一次ストークス波長若しくは二次ストークス波長又はこれらの任意の組み合わせであってよい。
【0032】
レーザーシステムはエンドポンプ・レーザーシステムであってよい。レーザーシステムはサイドポンプ・レーザーシステムであってよい。レーザーシステムは非共線ポンプ・レーザーシステムであってよい。
【0033】
ポンプ源が、強度が約0.3GW/cm2〜約60GW/cm2、又は約1GW/cm2〜約60GW/cm2、約1GW/cm2〜約30GW/cm2、約1GW/cm2〜約20GW/cm2、約1GW/cm2〜約10GW/cm2、約2GW/cm2〜約5GW/cm2、例えば約0.3GW/cm2、又は0.4,0.5,0.6.0,7,0.8,0.9,1,1.5,2,2.5,3,3.5,4,4.5,5,5.5,6,6.5,7,7.5,8,8.5,9,9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5,13,13.5,14,14.5,15,15.5,16,16.5,17,17.5,18,18.5,19,19.5,20,25,30,35,40,45,50,55,又は60GW/cm2の第1波長のポンプ・パルスを含むパルス化ポンプ・ビームを生成するようになっていてよい。ポンプ源は、パルス幅が約1ns〜100nsの第1波長のポンプ・パルスを含むパルス化ポンプ・ビームを生成するようになっていてよい。パルス幅は、約1ns〜20ns、又は約1ns〜15ns、又は1ns〜10ns、又は5ns〜20ns又は5ns〜15nsであってよい。強度は約0.3GW/cm2超であってよい。別の構成では、パルス幅は約1ns〜1μs、又は約1μs〜1ms、又は1ms〜1sであってよい。或いはさらに、ポンプ源は連続波ポンプ・ビームを生成するようになっていてよい。
【0034】
出力波長は約5.5マイクロメートル〜約8マイクロメートルの範囲内にあってよい。或いは、出力波長は約5.5〜7.5マイクロメートル、又は約5.5〜7マイクロメートル、又は約5.5〜6.5マイクロメートル、又は約3〜6マイクロメートルの範囲内にあってもよい。或いは、出力波長は約8マイクロメートル超であってもよい。第2波長は約8マイクロメートル〜約200マイクロメートルの範囲内にあってよい。第2波長は、100マイクロメートルを上回る波長を有するテラヘルツ・スペクトル領域内にあってよく、例えば出力波長は、約5.5μm〜200μm、例えば5.5μm、又は5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,7.5,7.6,7.7,7.8,7.9,8.0,8.1,8.2,8.3,8.4,8.5,8.6,8.7,8.8,8.9,9.0,9.1,9.2,9.3,9.4,9.5,9.6,9.7,9.8,9.9,10,10.5,11,11.5,12,12.5,13,13.5,14,14.5,15,15.5,16,16.5,17,17.5,18,18.5,19,19.5,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,又は約200μmであってよい。出力波長は同調可能であってよい。
【0035】
上記態様又は構成のうちのいずれか1つにおいて、第1波長は、光パラメトリック発振器、固体ラマンシフト・ツリウム・レーザー、固体ホルミウム・レーザー、及び固体エルビウム・レーザー、及びクロミウムドープ・セレン化亜鉛レーザー(Cr3+:ZnSe)から成る群から選択されたポンプ・レーザー源から導出されてよい。エルビウム、ツリウム、又はホルミウム・レーザーはラマンシフト・レーザーであってよい。例えばこれは、約3.8マイクロメートルの波長で動作するラマンシフトEr:YAGレーザーであってよい。ポンプ・レーザー源は、付加的な光増幅器を含む光パラメトリック発振器であってよい。光増幅器は光パラメトリック増幅器であってよい。ポンプ源は、約3〜約7.5マイクロメートルの範囲内の第1波長でポンプ放射を生成するようになっていてよい。ポンプ放射は約3マイクロメートル〜約4マイクロメートル、又は3.2〜約3.8マイクロメートルの範囲内にある波長、例えば約3.0μm、又は3.1,3.2,3.3,3.4,3.5,3.6,3.7,3.8,3.9,4.0,4.1,4.2,4.3,4.4,4.5,4.6,4.7,4.8,4.9,5.0,5.1,5.2,5.3,5.4,5.5,5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,約7.5μmの波長を有していてよい。第1波長は同調可能なポンプ源によって生成されてよい。ポンプ放射は、ラマン材料のラマンゲインの線幅よりも小さい又はこれにほぼ等しい線幅を有していてよい。ポンプ放射は、約1.6cm-1以下、例えば約0.5〜約1.6cm-1、又は約0.5cm-1,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,又は約1.6cm-1の半値幅を有する線幅を有していてよい。或いは、線幅は、約0.01cm-1〜約4cm-1、例えば約0.01,0.02,0.03,0.04,0.05,0.06,0.07,0.08,0.09,0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,1.6,1.7,1.8,1.9,2.0,2.1,2.2,2.3,2.4,2.5,2.6,2.7,2.8,2.9,3.0,3.1,3.2,3.3,3.4,3.5,3.6,3.7,3.8,3.9,又は約4cm-1であってもよい。ポンプ源は、パルス化ポンプ・ビームを生成するように適合されていてよく、ポンプ・パルスのパルス長は約100ns以下であってよい。パルス長は、約1〜100ns、又は約1〜90ns、1〜80ns、1〜70ns、1〜60ns、1〜50ns、1〜40ns、1〜30ns、1〜20ns、1〜10ns、1〜5ns、2〜20ns、2〜10ns、2〜5ns、5〜20ns、又は約5ns〜15ns、又は約5ns〜10ns、例えば約1ns,又は2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,又は約100nsであってよい。別の構成では、パルス幅は約1ns〜1μs、又は約1μs〜1ms、又は1ms〜1sであってよい。或いはさらに、ポンプ源は連続波ポンプ・ビームを生成するようになっていてよい。ポンプ源は、1ミリ・ジュールよりも大きいパルス・エネルギーを有するポンプ放射を生成するようになっていてよい。ポンプ・パルス・エネルギーは約0.1mJ〜約10J、例えば約0.1mJ,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9又は1.0mJ,2,3,4,5,6,7,8,9,又は10mJ,15,20,25,30,35,40,45,50,100,200,300,400,500,600,700,800,900,1000,1100,1200,1300,1400,1500,1600,1700,1800,1900,2000,3000,4000,5000,6000,7000,8000,9000,又は約10000mJ(10J)であってよい。言うまでもなく、ラマン材料中のポンプ・パルス・エネルギー送達及び変換効率は、材料中のポンプ・ビームのエネルギー密度、すなわちラマン材料中のポンプ・ビームのサイズに依存する。パルス・エネルギーは一般に概ね、パルス継続時間、パルス・エネルギー時間、ラマン材料中のスポット・サイズでありうる。例えば、約10nsのパルス継続時間の場合、ラマン材料中のポンプ・パルス・エネルギーは約0.1GW/cm2〜約60GW/cm2、又は約1〜45GW/cm2、約1〜30GW/cm2、約1〜20GW/cm2、約1〜10GW/cm2、約2〜5GW/cm2、例えば約0.1GW/cm2、又は0.2,0.3,0.4,0.5,0.6.0,7,0.8,0.9,1,1.5,2,2.5,3,3.5,4,4.5,5,5.5,6,6.5,7,7.5,8,8.5,9,9.5,10,10.5,11,11.5,12,12.5,13,13.5,14,14.5,15,15.5,16,16.5,17,17.5,18,18.5,19,19.5,20,25,30,35,40,45,50,55,又は60GW/cm2であってよい。別のパルス幅の場合、パルス・エネルギーは上記関係に従って変化してよい。或いは、より低いパルス・エネルギーで十分な連続波ポンプ・ビームの場合、例えばエネルギー密度は約0.1mW/cm2〜約10MW/cm2であってよく、また約0.1MW/cm2、又は0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1,1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,1.6,1.7,1.8,1.9,2,3,4,5,6,7,8,9,又は10MW/cm2であってよい。
【0036】
別の構成では、ラマン材料は、共振器空洞内において第1波長及び/又は第2波長の光を案内するための導波路を含んでよい。
【0037】
ラマンレーザーシステムは空洞内ラマンレーザーシステムであってよく、共振器空洞は、3.2マイクロメートル未満の波長を有するポンプ光を入力するようになっていてよく、レーザーシステムはさらに、3〜7.5マイクロメートルの範囲内の第1波長を生成するために共振器空洞内に配置されたレーザー材料を含み、レーザー材料は、第1波長を生成するようになっている外部ポンプ源からのポンプ・ビームによってポンピングされるようになっていてよい。レーザー材料によって生成された第1波長は、約3〜約4マイクロメートル、又は約3.2〜約3.8マイクロメートルの範囲内にあってよい。レーザー材料によって生成された第1波長は例えば、約3.0μm、又は3.1,3.2,3.3,3.4,3.5,3.6,3.7,3.8,3.9,4.0,4.1,4.2,4.3,4.4,4.5,4.6,4.7,4.8,4.9,5.0,5.1,5.2,5.3,5.4,5.5,5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,又は約7.5μmであってよい。
【0038】
態様又は構成のうちのいずれか1つにおいて、第1波長を同調することによって第2波長を同調することができるように、第1波長は同調可能な源から導出されてよい。第2波長は約5.5マイクロメートル〜200マイクロメートルの範囲にわたって同調可能であってよい。第2波長は、5.5マイクロメートル〜約200マイクロメートルの範囲にわたって、例えば約5.5μm、又は5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,7.5,7.6,7.7,7.8,7.9,8.0,8.1,8.2,8.3,8.4,8.5,8.6,8.7,8.8,8.9,9.0,9.1,9.2,9.3,9.4,9.5,9.6,9.7,9.8,9.9,10,10.5,11,11.5,12,12.5,13,13.5,14,14.5,15,15.5,16,16.5,17,17.5,18,18.5,19,19.5,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,又は約200μmに連続的に同調可能である。
【0039】
第4の態様によれば、中赤外から遠赤外の固体ラマンレーザーシステムを提供する方法が提供される。この方法は、共振器空洞を提供するステップであって、共振器空洞は、ポンプ・ビームを共振器空洞に入れるために、約3〜約7.5マイクロメートルの範囲内の波長を有する光について高透過性であるようになっている入力リフレクタと、約5.5マイクロメートルを上回る第2波長を共振器内で共振させて出力ビームを出力するために、第2波長を有する光について部分的に透過性であるようになっている出力リフレクタとを含む、ステップを含んでよい。入力リフレクタは、共振器内の第2波長を共振させるために第2波長において高反射性であってよい。この方法はさらに、共振器空洞内に配置された固体ラマン材料を提供するステップを含んでよい。この方法はさらに、第1波長を有するポンプ・ビームを共振器空洞内に導いてラマン材料に入射させ、このことによってラマン材料内において誘導ラマン散乱を誘発して第2波長を生成するステップを含んでよい。この方法はさらに、第2波長を有する出力ビームを共振器空洞から出力するステップを含んでよい。第1波長は約3〜約4マイクロメートル又は約3.2〜約3.8マイクロメートルの範囲内にあってよい。
【0040】
第4の態様の構成によれば、中赤外から遠赤外の固体ラマンレーザーシステムを提供する方法であって、共振器空洞を提供するステップであって、共振器空洞は、ポンプ・ビームを共振器空洞内に入れるために、約3〜約7.5マイクロメートルの範囲内の波長を有する光について高透過性であるようになっている入力リフレクタと、約5.5マイクロメートルを上回る第2波長を共振器内で共振させて出力ビームを出力するために、第2波長を有する光について部分的に透過性であるようになっている出力リフレクタとを含み、入力リフレクタはさらに、共振器内の第2波長を共振させるために第2波長において高反射性であるようになっている、ステップと、ポンプ・ビームをラマンシフトして出力ビームを生成するために共振器空洞内に配置された固体ラマン材料を提供するステップと、ポンプ・ビームを共振器空洞内に導いてラマン材料に入射させ、このことによってラマン材料内において誘導ラマン散乱を誘発して出力ビームを生成するステップと、出力ビームを共振器空洞から出力するステップとを含む、方法が提供される。第1波長は約3〜約4マイクロメートル又は約3.2〜約3.8マイクロメートルの範囲内にあってよい。第1波長(ポンプ波長とも呼ばれる)は例えば、約3.0μm、又は3.1,3.2,3.3,3.4,3.5,3.6,3.7,3.8,3.9,4.0,4.1,4.2,4.3,4.4,4.5,4.6,4.7,4.8,4.9,5.0,5.1,5.2,5.3,5.4,5.5,5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,又は約7.5μmであってよい。第1波長は同調可能なポンプ源によって生成されてよい。出力ビームは約5.5μm〜200μm、例えば5.5μm、又は5.6,5.7,5.8,5.9,6.0,6.1,6.2,6.3,6.4,6.5,6.6,6.7,6.8,6.9,7.0,7.1,7.2,7.3,7.4,7.5,7.6,7.7,7.8,7.9,8.0,8.1,8.2,8.3,8.4,8.5,8.6,8.7,8.8,8.9,9.0,9.1,9.2,9.3,9.4,9.5,9.6,9.7,9.8,9.9,10,10.5,11,11.5,12,12.5,13,13.5,14,14.5,15,15.5,16,16.5,17,17.5,18,18.5,19,19.5,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,又は約200μmの波長を有していてよい。出力波長は同調可能であってよい。高反射性の入力リフレクタの、第2波長における反射率は90%を上回っていてよく、すなわち、約90%〜99.99%であってよく、第2波長における反射率は例えば90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,99%,99.5%,99.9%,99.95%,又は約99.99%であってよい。部分透過性の出力リフレクタの、第2波長における透過率は約1%〜約80%、又は約20%〜約50%であってよく、部分透過性の出力リフレクタの、第2波長における透過率は例えば、約1%,約2%,約3%,約4%,約5%,約6%,約7%,約8%,約9%,約10%,約15%,約20%,約25%,約30%,約35%,約40%,約45%,約50%,約55%,約60%,約65%,約70%,約75%,約80%であってよい。
【0041】
第5の態様によれば、レーザー処理方法が提供される。この方法は第1〜第3の態様のうちのいずれか1つに記載のレーザーシステムを提供するステップを含んでよい。この方法はさらに約3.47マイクロメートルの第1波長を有するポンプ・ビームを提供するステップを含んでよい。この方法はさらに、ポンプ・ビームを共振器空洞内に導いてラマン材料に入射させ、このことによってラマン材料内において誘導ラマン散乱を誘発して、約6.45マイクロメートルの第2波長を有する出力ビームを生成するステップを含んでよい。この方法はさらに、選択された処理区域にレーザー処理を施すべく、処理区域に出力ビームを導くステップを含んでよい。
【0042】
第5の態様の構成によれば、レーザー処理方法であって、第1〜第3の態様のうちのいずれか1つに記載のレーザーシステムを提供するステップと、約3.47マイクロメートルの第1波長を有するポンプ・ビームを提供するステップと、ポンプ・ビームを共振器空洞内に導いてラマン材料に入射させ、このことによってラマン材料内において誘導ラマン散乱を誘発して、約6.45マイクロメートルの第2波長を有する出力ビームを生成するステップと、選択された処理区域にレーザー処理を施すべく、処理区域に出力ビームを導くステップとを含む、レーザー処理方法が提供されている。この方法は神経外科のために適合されていてよい。
【0043】
第6の態様によれば、リモート・センシング方法が提供される。この方法は、第1〜第3の態様のうちのいずれか1つに記載のレーザーシステムを提供するステップを含んでよい。この方法はさらに、約3〜7.5マイクロメートルの範囲内の第1波長を有するポンプ・ビームを提供するステップを含んでよい。この方法はさらに、ポンプ・ビームを共振器空洞内に導いてラマン材料に入射させ、このことによってラマン材料内において誘導ラマン散乱を誘発して、約5.5マイクロメートル〜約100マイクロメートルの範囲内の第2波長を有するビームを生成するステップを含んでよい。この方法はさらに、共振器空洞から第2波長を出力ビームとして出力するステップを含んでよい。この方法はさらに、出力ビームを対象に向かって又は対象若しくは環境物質が位置していることが疑われる環境内に導くステップを含んでよい。この方法はさらに、対象又は環境物質からの後方散乱放射を検出することを含んでよい。この方法はさらに、検出された放射を処理し、このことによって対象又は環境物質の有無を検知するステップを含んでよい。
【0044】
第6の態様の構成によれば、リモート・センシング方法であって、第1〜第3の態様のうちのいずれか1つに記載のレーザーシステムを提供するステップと、約3〜7.5マイクロメートルの範囲内の第1波長を有するポンプ・ビームを提供するステップと、ポンプ・ビームを共振器空洞内に導いてラマン材料に入射させ、このことによってラマン材料内において誘導ラマン散乱を誘発して、約5.5マイクロメートル〜約100マイクロメートルの範囲内の第2波長を有するビームを生成するステップと、共振器空洞から第2波長を出力ビームとして出力するステップと、出力ビームを対象に向かって又は対象若しくは環境物質が位置していることが疑われる環境内に導くステップと、対象又は環境物質からの後方散乱放射を検出するステップと、検出された放射を処理し、このことによって対象又は環境物質の有無を検知するステップとを含む、リモート・センシング方法が提供される。ポンプ・ビームの波長は約3〜約4マイクロメートル又は約3.2〜約3.8マイクロメートルの範囲内にあってよい。
【0045】
上記態様又は構成のうちのいずれにおいても、第2波長は一次ストークス波長若しくは二次ストークス波長又はこれらの任意の組み合わせであってよい。第1波長又はポンプ波長λ1と、第2波長又は出力波長λ2とは組合せ(λ1,λ2)であってよく、第2波長/出力波長が第1波長/ポンプ波長の第1ストークス・ラマンシフト波長である場合、組合せ(λ1,λ2)は例えば(λ1≒3.0μm,λ2≒5.0μm)、又は(3.1μm,5.3μm)、(3.2μm,5.6μm)、(3.3μm,5.9μm)、(3.4μm,6.2μm)、(3.5μm,6.6μm)、(3.6μm,6.9μm)、(3.7μm,7.3μm)、(3.8μm,7.7μm)、(3.9μm,8.1μm)、(4.0μm,8.6μm)、(4.1μm,9.0μm)、(4.2μm,9.5μm)、(4.3μm,10.1μm)、(4.4μm,10.6μm)、(4.5μm,11.2μm)、(4.6μm,11.9μm)、(4.7μm,12.6μm)、(4.8μm,13.3μm)、(4.9μm,14.1μm)、(5.0μm,15.0μm)、(5.1μm,15.9μm)、(5.2μm,16.9μm)、(5.3μm,18.0μm)、(5.4μm,19.2μm)、(5.5μm,20.6μm)、(5.6μm,22.0μm)、(5.7μm,23.7μm)、(5.8μm,25.5μm)、(5.9μm,27.6μm)、(6.0μm,29.9μm)、(6.1μm,32.5μm)、(6.2μm,35.6μm)、(6.3μm,39.2μm)、(6.4μm,43.4μm)、(6.5μm,48.4μm)、(6.6μm,54.6μm)、(6.7μm,62.3μm)、(6.8μm,72.2μm)、(6.9μm,85.3μm)、(7.0μm,103.6μm)、(7.1μm,130.8μm)、(7.2μm,175.8μm)、(7.3μm,264.1μm)、(7.4μm,516.8μm)、(λ1≒7.5μm,λ2≒7500μm)であってよい。或いは、第2波長/出力波長が第1波長/ポンプ波長の第2ストークス・ラマンシフト波長である場合、組合せ(λ1,λ2)は例えば(λ1≒3.0μm,λ2≒14.9μm)、(3.1μm,17.8μm)、(3.2μm,21.7μm)、(3.3μm,27.3μm)、(3.4μm,36.1μm)、(3.5μm,51.8μm)、(3.6μm,87.9μm)、又は(3.7μm,258.4μm)であってよい。ラマン変換(ダウンシフト)出力波長λ2=1/ν2は、所与のポンプ波長λ1=1/ν1に対して、関係ν2=ν1−νR(ν1,ν2及びνRのそれぞれは[cm-1]の単位で表される)によって割り出すことができる。ここでνRはラマン材料の特性ラマンシフトであり、例えばダイヤモンドにおいて、νR≒1332cm-1である。
【0046】
添付の図面を参照して、ラマンレーザーシステムの構成を一例として以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1A図1Aは、基本的な外部空洞ラマンレーザーのアーキテクチャを示す概略図である。
図1B図1Bは、サイドポンプ外部空洞ラマンレーザーのアーキテクチャを示す概略図である。
図1C図1Cは、前方散乱、後方散乱、及び90°散乱に対応するベクトルκvの種々の大きさ及び方向を示す位相整合ダイヤグラムである。
図1D図1Dは、基本的な空洞内ラマンレーザーのアーキテクチャを示す概略図である。
図1E図1Eは、出力波長間で選択的に切り換わるように適合された基本的な切り換え可能ラマンレーザーシステムを示す概略図である。
図1F図1Fは、他の代表的なラマンレーザー材料とダイヤモンドとの透明度範囲の比較を示す図である。
図2図2は、本明細書に記載された数値モデルにおいて使用される外部空洞形態を示す概略図である。
図3図3は、第1ストークス波長の関数としてのラマンゲイン係数を示すグラフである。
図4図4は、数値モデルの検証のために使用される可視ダイヤモンド・ラマンレーザーの一例を示す概略図である。
図5図5は、図4の可視ダイヤモンド・ラマンレーザーに対応する出力パルス・エネルギーを示すグラフである。
図6図6は、図4の可視ダイヤモンド・ラマンレーザーに対応するポンプ出力パルス及びラマン出力パルスを示すグラフである。
図7図7は、図4の可視ダイヤモンド・ラマンレーザーに対応する第1及び第2ストークス出力(10Hzのポンプ・レーザ−)のために選択された出力カプラの性能の比較を示すグラフである。
図8A図8Aは、図4の可視ダイヤモンド・ラマンレーザーに対応する入力ポンプ・パルス、ラマン変換出力パルス、及び枯渇ポンプ・パルスの予測パルス形状を示すグラフである。
図8B図8Bは、図4の可視ダイヤモンド・ラマンレーザーに対応する入力ポンプ・パルス、ラマン変換出力パルス、及び枯渇ポンプ・パルスの観察パルス形状(図6の再現)を示すグラフである。
図9図9は、ダイヤモンド・ラマン材料が閾値に達して7.5μmの第1ストークス光を生成開始するまでの予測時間(黒丸)をナノ秒で、強度3.6μmのポンプ入力場の関数として示す図であり、また、定常状態変換効率も示されている(白丸903及び907)(2組のモデル結果がThomas(実線902)及びWilks(破線906)の吸収データに関して提示されている)。
図10図10は、入力パラメータg.Ip=2cm-1、αp=0.4cm-1、及びαs=0.1cm-1に対応する7.5μmのダイヤモンド・ラマンレーザーの数値シミュレーション・モデルからの出力を示すグラフである。
図11A図11Aは、Thomas[Thomas,M.E. & Joseph, R.I., Optical phonon characteristics of diamond, beryllia and cubic zirconia Proc. SPIE, Vol. 1326, 120(1990);doi:10.1117/12.22490の図6]の吸収係数データを考慮に入れて、入力エネルギー密度の増大に対応する数値モデリングされたパルス形状を示す、図8Aと同様の一連のグラフである。
図11B図11Bは、Wilks[Wilks,E. & Wilks, J., Properties and Applications of Diamond Paperback: 525頁、発行元:Butterworth-Heinemann (April 15, 1994) ISBN-10:07506191の図3.5]の吸収係数データを考慮に入れて、入力エネルギー密度の増大に対応する数値モデリング・パルス形状を示す、図8Aと同様の一連のグラフである。
図12図12は、ステップ関数ポンプ・パルス及び閾値までの時間10nsを考慮に入れて、7.5μmの出力を生成するダイヤモンド・ラマンレーザーの数値モデリング閾値Ip.gを、3.6μmのポンプ波長の吸収係数αpの関数として示すグラフである。
図13図13は、ステップ関数ポンプ・パルス及び閾値までの時間10nsを考慮に入れて、7.5μmの出力(ポンプ波長3.6μm)を生成するダイヤモンド・ラマンレーザーの数値モデリング閾値Ip.gを、7.5μmのストークス出力波長の吸収係数αsの関数として示すグラフである。
図14図14は、本明細書中に記載された数値モデルから得られたダイヤモンド・ラマンレーザーシステムの低い効率及び高い閾値に相当する波長ゾーンを示す概略図である。
図15A図15Aは、サイドポンプ・ダイヤモンド・ラマンレーザーに適した配置を示す概略図である。
図15B図15Bは、エンドポンプ・ダイヤモンド・ラマンレーザーに適した配置を示す概略図である。
図15C図15Cは、ラマンレーザーシステムのサイドポンプ形態及びエンドポンプ(挿入)形態の例に関して、結晶のポンプ面によって伝達されるポンプ・エネルギーの関数として、出力エネルギーを示すグラフである。
図16図16は、{100}及び{110}ファセットを有する方形ダイヤモンド結晶の後方散乱偏光ラマンスペクトルを示すグラフである。
図17図17は、ダイヤモンド・ラマンレーザーシステムのためのOPOポンプ源の配置を示す概略図である。
図18A図18Aは、ダイヤモンド・ラマンレーザーシステムのための別のOPOポンプ源の配置を示す概略図である。
図18B図18Bは、ダイヤモンド・ラマンレーザーシステムのための別のOPOポンプ源の配置を示す概略図である。
図18C図18Cは、ダイヤモンド・ラマンレーザーシステムのための別のOPOポンプ源の配置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本明細書中に開示されているのは、中赤外から遠赤外のスペクトル領域(約5.5μm超)、そしてテラヘルツ領域(100μm超)へ延びる領域において出力放射を生成するためのラマンレーザーシステムである。具体的には、開示されたレーザーシステムは、ラマン材料中の誘導ラマン散乱によって第1波長をラマンシフトするための固体ダイヤモンド・ラマン材料を含むことによって、レーザーシステムから中赤外〜遠赤外出力放射を生成する。外部ラマンレーザーシステム及び内部ラマンレーザーシステムの両方が、出力放射の生成のために想定される。ダイヤモンド・ラマン材料は単結晶ダイヤモンド又は多結晶ダイヤモンドであってよい。或いは、ダイヤモンド・ラマン材料は2つ以上の単結晶を含んでいてもよく、これらの結晶は接着剤なしの工程、例えば拡散結合によって互いに結合されていてよい。ラマン材料は低い窒素不純物含量、例えば10000ppb未満、又は5000ppb未満、又は1000ppb未満、又は500ppb未満、又は200ppb未満、又は150ppb未満、又は120ppb未満、又は100ppb未満のダイヤモンド材料中の窒素不純物含量を有することによって、7〜11μm領域内の(例えばラマンシフトされる出力放射に対する)吸収損失を最小化することができる。窒素不純物含量は約0.1ppb〜約10000ppb、又は0.1ppb〜500ppb、又は0.1ppb〜200ppb、例えば約0.1ppb、又は0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1,2,3,4,5,10,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,105,110,115,120,125,130,135,140,145,150,155,160,165,170,175,180,185,190,195,200,300,400,500,600,700,800,900,1000,1250,1500,1750,2000,2500,3000,3500,4000,4500,5000,5500,6000,6500,7000,7500,8000,8500,9000,9500,又は約10000ppbであってよい。ラマン材料は多結晶又は単結晶ダイヤモンドであってよい。ラマン材料は低複屈折ダイヤモンドであってよい。ダイヤモンド・ラマン材料は低い窒素不純物含量を有していてよい。
【0049】
ラマンレーザーは、レーザー共振器内で光増幅するための誘導ラマン散乱(SRS)の現象に依存する。波長λ1及び周波数ω1=ωp=λ1/c(ここでcは光の速度である)を有する第1波長の入力ポンプ光子は、ラマン材料の結晶格子内の正規振動モードを励起し、そして残りのエネルギーは、第2波長λ2及び周波数ω2=ωs=λ2/cのストークス・シフトされた光子として運び去られる。第1及び第2波長は、波数(それぞれν1=1/λ1及びν2=1/λ2)で表されることもでき、そしてセンチメートルの逆数[cm-1]の単位で表される。ラマン変換(ダウンシフト)ストークス波長λ2=1/ν2は、所与のポンプ波長λ1=1/ν1に対して、関係ν2=ν1−νR(ν1,ν2及びνRのそれぞれは[cm-1]の単位で表される)によって割り出すことができる。ここでνRはラマン材料の特性ラマンシフトである。例えばダイヤモンドにおいて、特性ラマン周波数はνR≒1332cm-1である。
【0050】
固体材料の場合、ラマン散乱の確率は、格子振動の小さな変位dqとともに分極率αが変化する材料の場合に、すなわちdα/dqが大きい場合により高くなる。分極率の変化率dα/dqは、入射光の結果としてラマン材料中の電子雲が被る歪みの量の尺度であり、そしてその二乗(dα/dq)2は、自然発生的なラマン断面積に対して正比例する。
【0051】
SRSは、ストークス光子と2つのポンプ光子との相互作用を必要とし、ひいては(第3高調波、四波混合、及び二光子吸収の非線形過程と同様の)三次非線形光学的過程である。z軸に沿ってラマン媒質を通って伝搬するのに伴う、ストークス周波数ωsによるストークス場強度Isの増幅は、
dIs/dz=g.Ip.Is (1)
の関係によって与えられ、
上記式中、Ipは波長λp=λ1のポンプ場の強度であり、Isは、波長λs=λ2のラマンシフト・ストークス場の強度であり、そしてゲイン係数gは(dα/dq)2に対して比例する。
【0052】
ポンプ・パルス継続時間が、コヒーレント格子フォノンが材料中に残る脱位相時間T2よりも長い定常状態下では、ラマンゲイン係数は
g=k/m.ωs.(dα/dq)2.T2 (2)
の関係によって与えられ、
上記式中、mは振動原子の換算質量であり、kは定数である(しかしながら、ポンプ・パルス継続時間がフォノン脱位相時間T2と同等であるか又はこれよりも短い場合には、コヒーレント・フォノンの蓄積速度が考慮される必要があり、また有効ゲインが低減される)。
【0053】
ダイヤモンドは、(dα/dq)2/m及びT2の両方の値が高いため、例外的に高いラマンゲイン係数を有する。注目に値するいくつかの興味深いラマンレーザー特性がある。
1) ラマン増幅の等式は、反転分布を伴うコンベンショナルなレーザーゲインと極めて類似している。ラマンの場合、自然発生的なラマン断面積が、誘導放出断面積材料パラメータと類似しており、反転分布項はIpによって置き換えられる。
2) ポンプ場が存在している間だけゲインが存在するので、出力パルスとポンプ・パルスとの間には一般に密接な時間的オーバラップがある。結果として、ラマンレーザーはしばしば非線形光学コンバータと考えられる。レーザーエネルギーは反転分布吸収レーザーと同様に媒質中に貯えられない。
3) 高調波生成及び四波混合のような非線形光学的変換過程とは対照的に、ラマン生成は自動的に位相整合される。すなわちポンプ・ビーム及び出力ビームの運動量ベクトルとは本質的に独立して,運動量は相互作用中に保存される。ラマン材料中の散乱フォノンがあらゆるリコイル(recoil)をも持ち去るため、相互作用中に運動量が保存され、その結果ラマンレーザーはいくつかの重要な特性を有する。ラマンビームの位相特性は、ラマン共振器の設計によって拘束され、そして結果として、ラマン出力ビームの空間特性はしばしばポンプ・ビームよりも良好であり、これは、ラマンレーザーが「ラマンビーム・クリーンアップ」としばしば呼ばれるプロセスにおいてビーム質コンバータとして作用するのを可能にする特性である。このことは、位相整合非線形変換過程、つまり出力ビームの位相特性がポンプ・ビームの位相特性と直接に関係してビーム・プロフィール内の歪み及びホットスポットの悪化を招くように作用する過程とは異なっている。ラマンレーザーは、コンベンショナルなレーザーにおいてしばしば使用されるサイドポンプ形態におけるように、出力ビーム軸に対して非共線的な種々の角度でポンピングすることもできる。非共線ポンプ配置において、ポンプ・ビームはラマン活性媒質中でレーザー空洞の共振器モードと実質的にオーバラップするが、しかしポンプ・ビームは、ラマン活性媒質を通過するため、共振器モード軸と共線的ではない。サイドポンピング配置は、非共線ポンプ形態の一例であり、ここでポンプ・ビームは共振器モード軸に対して90°又はその近くの角度を成しているが、90°よりも小さい角度を用いてもよい。自動位相整合の必然的な結果は、ラマン過程をカスケード式に行うことにより、整数のストークス・シフトを生成することができる。注意深いラマンレーザーの設計によって、選択されたストークス次数又は複数のストークス次数での効率的な生成を達成することができる。
【0054】
ラマンレーザーの設計は、図1A及び1Bに最も基本的なよく知られた形態で示されているような、外部空洞ラマンレーザー及び空洞内ラマンレーザーという2つのカテゴリーに分けることができる。図1Aに示されているような外部空洞ラマンレーザー110の場合、ラマン活性媒質116が、入力リフレクタ114と出力リフレクタ115とを含む共振器空洞111とともに配置されている。外部ポンプ源117からの第1波長のポンプ・ビーム112が共振器111内に入れられてラマン活性媒質116に入射するように、リフレクタは構成されている。ラマン活性媒質116は、ポンプ・ビーム112を、共振器111内で共振する第2波長のラマン変換ビーム113(ストークス・ビーム)に変換する。入力ミラー114はポンプ波長に対して実際にできるだけ高透過性であるべきであり、また、出力ミラー115は、ポンプ放射112がラマン活性媒質116をダブルパスするのを可能にするようにポンプ波長で反射性であるべきである。出力リフレクタ/ミラー115はまた、ラマン変換ビーム113の一部を透過して、第2波長のラマン出力ビーム118を生成するように適合されている。
【0055】
ラマン出力ビーム118のスペクトル・空間特性は共振器の設計によって決定づけられる。例えば所望のストークス次数で出力結合するように、しかしより低いストークス次数を反射させるように出力ミラー115を設計して、これらの低いストークス次数が空洞111内で共振させられ、ラマン材料116内で連続してより高いストークス次数に順次変換されるようにすることによって、高次ストークス出力を選択することができる。外部ラマンレーザー110はパルス化ポンプ・レーザーのために最も効率的に動作するが、好適な空洞設計によって連続波動作も可能である。外部共振器配置の主な魅力は、これが変更なしのポンプ源に対する単なる付加物であることが可能であり、ひいては、入手可能なレーザーシステムをポンプ源として活用するアプローチを可能にすることである。
【0056】
中赤外から遠赤外及びテラヘルツの外部ラマンレーザーシステムの1配置例において、中赤外から遠赤外の固体ラマンレーザーシステムは、入力リフレクタ114を有する共振器111を含んでおり、この入力リフレクタ114は、第1(入力)ビームを共振器空洞111へ入れるために、第1波長を有する光に対して高透過性であるように適合されている。第1波長は約3〜約7.5マイクロメートル、又は約3〜5マイクロメートル、3〜4マイクロメートル、又は約3.2〜約3.8マイクロメートルの範囲内にあってよい。入力リフレクタ114はさらに、所望の中赤外から遠赤外の出力放射118の波長で高反射性であるように適合されている。入力リフレクタ114は概ね、所望の透過特性及び反射特性を得るために光学コーティングを含むことになる。共振器111はまた出力リフレクタ115を含んでいる。出力リフレクタ115は、約5.5マイクロメートルを上回る第2波長を共振器111内で共振させるために、そして出力ビーム118を出力するために、第2波長を有する光に対して部分的に透過性であるように適合されている。入力リフレクタ114はさらに、共振器111内の第2波長を共振させるために、第2波長において高反射性である。
【0057】
共振器空洞111内には固体ラマン材料116が配置されているので、使用時には、第1波長の入射ポンプ・ビーム112がラマンシフトされて、ラマン材料116内の誘導ラマン散乱によって第2波長を生成する。第2波長は約5.5マイクロメートルよりも大きい。共振器内のラマン生成放射の一部が出力リフレクタによって透過されることにより、システムの動作中に中赤外から遠赤外の出力ビーム118を形成する。部分透過性の出力リフレクタ115のラマンシフトされた第2波長における透過率は約1%〜約80%又は約20%〜約50%であってよい。入力リフレクタの第2波長における反射率は典型的には90%を上回り、すなわち90%〜99.99%である。
【0058】
この共振器配置例110の場合、第1波長の入力ポンプ・ビーム112を生成するためにポンプ源117が必要とされる。入力ポンプ・ビーム112は使用時に、所望の中赤外から遠赤外の出力ビーム118を生成するためにラマンレーザーシステムに導かれる。ポンプ・ビーム112は、当業者には明らかな適切なレンズ(図示せず)を用いてラマン材料内に集束されることができる。エンドポンプ配置の場合、集束されたポンプ・ビームのウエストが共振器空洞111のモードの直径未満又はこれにほぼ等しいように、そしてポンプ・ビーム112のレイリー範囲がラマン材料116の長さにほぼ等しいように、ポンプ・ビーム112を集束することができる。ポンプ・レーザー源は、光パラメトリック発振器、固体ツリウム・レーザー、固体ホルミウム・レーザー、及びエルビウム・レーザーから成る群から選択されてよく、約3〜約7.5マイクロメートルの範囲内にあるポンプ放射を生成するように適合されていてよい。別の配置の場合、ポンプ源は、約3〜約7.5マイクロメートルの範囲内にある放射を生成するように適合された光パラメトリック発振器(OPO)であってよい。
【0059】
レーザーシステムはさらにヒートシンクを含んでいてよい。ヒートシンクはラマン材料と熱接触しており、これにより動作中、ラマン材料表面からの過剰な熱を取り除く。ヒートシンクは例えば熱電冷却装置であってよい。レーザーシステムはさらに、特に放射が約4〜約5.5マイクロメートルの範囲内にある場合には、ラマンレーザー材料を室温未満に冷却するための冷却メカニズムを含むことによって、多フォノン吸収量を最小化する(そしてラマンゲインを高める)ことができる。冷却メカニズムは例えばラマン材料を液体窒素温度まで、又は必要な場合にはこの温度未満に冷却してよい(すなわち液体窒素又は別の冷却用液体を使用することにより、明細書に開示されたラマンレーザーシステムのうちのいずれかに使用されるラマン材料を冷却することができる)。
【0060】
さらなる配置において、ラマン材料は、第1波長及び/又は第2波長の光を共振器空洞内で案内するための導波路を含んでいてよい。導波路は、さもなければ回折によって可能になるよりも長い、ラマン材料中の距離にわたって、ポンプ放射又はストークス放射(又はその両方)の閉じ込めを可能にする。従って導波路は、ラマンレーザー作用の閾値を低くするために重要であり、低いポンプ・ピーク・パワーを使用するときに効率を高める。理想的には、導波路は低損失であり、ポンプ場とストークス場との良好な空間的なオーバラップを可能にする.現在まで、ダイヤモンド内の導波路はリブ導波路をマイクロマシン加工することによって形成されている[例えばHiscocks, M.P. et al,“Diamond waveguides fabricated by reactive ion etching(反応性イオンエッチングによって製作されたダイヤモンド導波路)”Opt. Express 16, 19512-19519 (2008) 参照]。また、イオン注入[例えばOlivero, P. et al,“Controlled variation of the refractive index in ion-damaged diamond(イオン損傷されたダイヤモンドにおける屈折率の制御された変化)”(20th European Conference on Diamond,Greece (2009)で発表)参照]、及び直接レーザー書き込み(例えば結晶性Nd:YAGにおけるフェムト秒レーザー書き込み[例えばRodenasl, A. et al, “Refractive index change mechanisms in femtsecond laser written ceramic Nd:YAG waveguides: micro-spectroscopy experiments and beam propagation calculations”(フェムト秒レーザー書き込みされたセラミックNd:YAG導波路における屈折率変化メカニズム:マイクロスペクトロスコピー試験及びビーム伝搬計算), Applied Physics B: Lasers and Optics, Volume 95, Pages 85-96 (2009)参照]参照)によって、低損失埋め込み式チャネル導波路の形成も可能である。
【0061】
具体的な構成において、固体ラマン材料116は、νR=1332cm-1の特性ラマンシフトを有するダイヤモンドである。有利には、ダイヤモンド固体ラマン材料116は低複屈折単結晶ダイヤモンドである。このように、約3.2μm〜約3.8μmの範囲内にある第1波長を有する入力ビーム112を使用することにより、ダイヤモンド・ラマン材料116中の入力放射112の第1ストークス・ラマンシフトを活用して、約5.5μm〜約7.7μmの範囲内にある第2波長を有する出力ビーム118を生成することができる。他の配置では、共振器111の入力リフレクタ114及び出力リフレクタ115の両方が、約5.5μm〜約7.7μmの範囲内にある放射に対して高反射性であるように適合されていてよく、これにより、共振器111内部でこの波長範囲内にある放射を共振させる。この放射は続いて、ダイヤモンド・ラマン材料116中のカスケード・ラマン過程によって第2ストークス波長に変換される。
【0062】
出力リフレクタ115を、第2ストークス波長で少なくとも部分的に透過性であるように適合することにより、この波長の共振器内の放射の一部が共振器を出て出力放射118を形成することができる。約3.2μm〜約3.8μmの範囲内にある波長を有する入力ビーム/ポンプ・ビーム112を使用する場合、第2ストークスの生成のために共振器111の入力リフレクタ114及び出力リフレクタ115の透過率及び反射率の特性を最適化すると、結果として、約21μm〜約200μmの範囲内にある波長を有する出力ビーム118が生じる。
【0063】
別の外部空洞ラマンレーザーアーキテクチャが、図1B(同様の数字は同様のエレメントを意味する)に概略的に示すようなサイドポンプ配置120である。ここでは、ラマン材料は出力ビーム軸に対して非共線的な角度を成してポンピングされる。ポンプ源117aは、ポンプ光112aを発するように配置されている。ポンプ光112aは、共振器111aの共振モード軸上でラマン材料116の長さに沿って共振器111aのモードをポンピングする。レーザー結晶のサイドポンピングは、より高いラマン閾値を有することがあるものの、依然として高い光−光変換効率をもたらすことができ、そしてより容易にスケーリング可能(scalable)であり、又は共振器構成部分を配置することができるより大きなフレキシビリティを可能にする。
【0064】
レーザー軸に沿うのではなくレーザー媒質をサイドポンピングすることは、レーザー設計の制約を著しく変化させ、いくつかの利点、例えば共振器ミラーコーティングに対する要件の緩和、入射パワー密度の低減、及び活性媒質内部のポンプ・レーザー浸透の短縮のような利点を含む。サイドポンピングは、ポンプ・ビームと出力ビームとを空間的に分離し、そしてレーザー構造におけるいくつかの設計の自由を可能にする。主要な自由は、ラマン媒質による著しい吸収を被る波長のレーザーをポンピングする可能性を含む。結晶の長さと幅との比と同じ量だけ、損失を軽減することができる。このことは数桁の改善となり得る。利点はまた、ミラーに対する制約、及びより広い範囲のピーク及び平均パワーを有するビームを結合するための制約が大幅に低減されることを含む。
【0065】
サイドポンピングは、コンベンショナルな反転分布レーザーにおけるパワースケーリング(power scaling)のためのよく知られた方法ではあるものの、ラマンレーザーにおける用途は最近になってようやく詳細に研究されだしたにすぎない。発明者によって企てられたこれらの研究が示したところによれば、効率及び閾値ポンプ強度は、誘電結晶性ラマンレーザーの場合のエンドポンピング・システムにおいて観察されるものと同様である。
【0066】
ポンプ波長におけるラマン媒質の吸収深さは一般に反転分布レーザーよりも著しく長いので、多軸ポンピングが任意の結晶形状及び寸法に対して容易であり、高輝度用途のためのコヒーレント・ビーム結合への興味深いアプローチをもたらす。サイドポンピングはまた、媒質を通過する光路が長いことに起因して又はエンドミラーコーティングの制約に起因してエンドポンピングが問題をはらむ場合に、効率的な動作を可能にする代替手段を提供する。サイドポンピングは、著しい多フォノン吸収を被る波長(すなわち2〜6ミクロンの範囲内にあるポンプ波長)でポンピングされるダイヤモンド・ラマンレーザーにとって特に有利である。横型形態が、ビーム直径とラマン材料長さとの比と同じ量だけポンプ吸収量を低減することになる。ポンプ波長が材料バンドギャップの近傍にあるシステムにおいて同様の原理が当てはまる。このような形態はポンプ放射の寄生吸収を最小化することもできる。それというのも媒質を通るポンプ光線の光路長が、ラマンレーザービーム直径と同じ短さであることが可能であるからである。このことは、ポンプ放射の光路長がラマン材料の長さのオーダーであるエンドポンピング配置とは対照的である。従ってサイドポンプ配置の場合、光路長及び結果として生じる吸収量は、数桁低くなることが可能である。例えばラマン材料中のポンプ放射の吸収量が高い(すなわちダイヤモンドにおいて約3.8〜約5.5μm又は約7〜約11μm)特定の配置の場合、エンドポンプ及びサイドポンプの両方にとって、ラマン材料は同時に有利である。
【0067】
SRSについてのゲイン及び閾値を実証する理論は1960年代に確立されているが、散乱ジオメトリー及び振動波の関連動力学特性に明確に対処する結晶におけるSRSの詳細な取り扱いはほとんどない。Shen及びBloembergen[Y.R. Shen及びN. Bloembergen, “Theory of Stiumulated Brillouin and Raman Scattering(誘導ブリルアン・ラマン散乱の理論)”, Phys. Rev. 137, A1787-A1805 (1965)参照]は光学フォノン波ベクトルの関数としてSRSを具体的に調査した。問題点は古典的に十分に対処される。なぜならば、相互作用は大きなフォトン群に関与するからである。閾値近くの挙動に関しては、ポンプ場Epの枯渇は無視することができ、またほとんどの振動中心が基底状態にあるので反ストークス波を無視し得ることが想定される。ストークス場Es〜exp[i(κs.r−ωst)]と振動波Qv〜exp[i(κv.r−ωvt)]との結合等式がラグランジュ法を用いて得られた。
【数1】
上記式中、Qvは√(2ρ)によって正規化された核位置の相対変位であり(ρは換算質量密度である)、εsは、ストークス波の自由空間の誘電率であり、そしてcは光の速度である。β2項は、β<<ω0/κvがラマン媒質中の音響フォノン速度と等しい場合に、運動量の伝搬を可能にする。これらの等式はそれぞれ、駆動項Ep.Esで減衰調和振動を記述し、そして駆動項Qv.Epでストークス場に関するマックスウェル等式を記述する。振動波の減衰定数はΓ(=1/T2、式中T2はフォノン脱位相時間である)である。ラマン結合の強度はN.dα/dQv(αは光学的分極率テンソルであり、Nは散乱中心の数密度である)であり、そしてgs=2πωs2(N.dα/dq)2/c2κsωvΓによって定常状態ラマンゲイン係数(等式6参照)と関係づけられる。エネルギーの保存はωp=ωs+ωvを必要とする。
【0068】
等式(3)からは、フォノンと光子との結合強度が伝搬とは独立しており、そしてポンプ及びストークスの偏光、及びαの特性にのみ依存していることが判る。唯一の方向依存性は、運動量保存(κp=κs+κv)のための要件から生じる。90°散乱の場合、フォノン波ベクトルの大きさは、図1C(a)に示された前方散乱のものと後方散乱のものとの間にある。しかし、フォノン波ベクトルがブリルアンゾーン境界と比較して極めて小さく、フォノン分散も低いことがほとんどいつも一般には想定される。可視波長のラマン後方散乱の例では、κvは105cm-1のオーダーであり又はゾーン境界のほぼ1%である。結果として、光学フォノンの共振周波数の変化ωv0=(ω02−β2v20.5は無視できる程度であり、ラマン線幅内の周波数のフォノンを、散乱方向とは無関係に、運動量保存相互作用において生成することができる。Γがフォノン波ベクトルの大きさに依存しており、この場合、ラマンゲインが定常状態レジームにおいて影響を及ぼされることも示唆されている。著者はκvに対する有意なΓ依存の証拠を知らず、その効果は無視できるものと想定される。従って、ラマンゲインは一次的には散乱ジオメトリーから独立していると結論づけられる。
【0069】
図1Bのサイドポンプ配置120では、入力リフレクタがポンプ光112aを透過させる必要がないため入力リフレクタの反射率要件を緩和することができ、従って入力リフレクタをリフレクタ119と置き換えてもよい。リフレクタ119は、ラマン材料116によって生成された共振ラマンシフト波長113において高反射性であるように適合されている。ここでもやはり、ポンプ・ビーム112aは、適切なレンズ(図示せず)を用いてラマン材料内に集束されることができる。サイドポンプ形態の場合、当業者には明らかなように、円柱状に集束されるポンプ・ビームのウエストが共振器空洞111aのモード・ウエストの直径未満又はこの直径にほぼ等しいように、そしてポンプ・ビーム112aのレイリー範囲が共振器ビーム・ウエストよりも概ね大きいか又はこれにほぼ等しいように、ポンプ・ビーム112aを集束することができる。サイドポンプ・レーザーの場合、高いビーム質を有するビームを生成するために、不安定共振器を使用することが重要な場合がある。
【0070】
図15Aのラマンレーザー1500では、サイドポンプ配置例が示されている。ここではポンプ・ビーム1501はラマン共振器軸1503に対して垂直である。この配置は、タングステン酸カリウムガドリニウム(KGW)ラマン材料を使用して示されているが、この配置はダイヤモンド・ラマン材料にも容易に適合させることができる。532nmポンプ・レーザー1507からの線焦点(円柱レンズ1511を使用)と、共振器1515を形成するために図示のポンプ・ビーム方向に対して垂直な軸を有する状態で配置されたラマン共振器光学素子1509及び1510を使用して、ラマン材料、すなわち方形KGW結晶1505をサイドポンピングした。この配置のラマンレーザー閾値は4.5mJであり、出力ビーム1520中の最大出力エネルギーは、スロープ効率47%のポンプ・エネルギー12mJを使用して2.7mJが得られた。KGWラマン結晶1505の長さは25mmであった。共振器1515の空洞長さは34mmであった。KGWのラマンシフト901cm-1に対して最大ゲインdα/dQを提供するために、Nm軸がポンプ・ビーム1501の偏光に対してほぼ平行であるように、ラマン結晶1505を整列させた。リフレクタ1509は、範囲530〜650nmの波長のための広帯域高反射リフレクタ(CVI−TLM2)であり、出力カプラ1510は第1ストークス波長559nmにおいてHRであり、そして第2ストークス波長589nmにおいて70%Tであった(それぞれポンプ源1507からの532nmポンプ放射に対応)。532nmポンプ・ビーム1501はTEM00モードであり、約8nsのパルス継続時間を有した。ポンプ源1507からの6mm出力ビーム1501を、10×の円柱テレスコープ1517を使用して水平方向に拡大した。拡大されたポンプ・ビームを、アパーチャ1519を使用してクリップして、ポンプ・ビーム1501の中心部分だけが使用されるように、そしてポンプ・ビーム1501aがラマン結晶1505の長さの中央90%だけを照射するようにした。ポンプ・ビーム1501のエッジのクリッピングは、使用されるポンプ・エネルギー範囲に対応して、ラマン材料1505の端部角隅、及びラマン結晶1505中のポンプ放射の最も強力な線焦点領域にあるバルク領域の両方にとって、結晶損失閾値を超えないことを保証した。41mm焦点長の円柱レンズ1511を使用して鉛直方向に集束することによって、ポンプ・ビーム1501aの線焦点をラマン結晶中に形成した。ラマン結晶1505中のポンプ・ストライプ長は20mmであり、既知のビーム特性(M2=1.5)に基づいた。計算された鉛直方向ウエスト・マイナー半径及びレイリー範囲はそれぞれ5μm及び100μmであった。
【0071】
サイドポンプ形態の性能をエンドポンプ形態の性能と対比するために、エンドポンプ・ラマンレーザーシステム1500aを図15Bに示すように研究した。サイドポンプ形態における高反射リフレクタ(図15Aのリフレクタ1509)を二色性入力カプラ1509aと交換した。この二色性入力カプラ1509aは、532nmにおける透過率が92%であり、またストークス波長において高反射性であった。上で使用されたものと同じポンプ源1507からのポンプ・ビーム1501(532nm、TEM00モード、パルス継続時間8ns、及びM2ビーム質因数約1.5)を、焦点長f=500mmを有する球面レンズ1525を用いて、上で使用されたのと同じKGWラマン結晶1505内に集束することにより、それぞれ約55μm及び約3.5cmのポンプ・ビーム1501bのウエスト半径及びレイリー範囲を提供した。
【0072】
エンドポンプ・ラマンレーザー1500aを、最大12mJのポンプ・エネルギーについて調査した。高いパルス・エネルギーでポンピングした時にポンプ・ビーム1501bの平面内に観察される増幅された自然発生的なラマン散乱を用いることによって、ラマン共振器1515aを整列させた。先ず、観察されたダブルパス第1ストークスSRS信号を最大化することによって、高反射性リフレクタ1509aをポンプ・ストライプ軸と整列させた。(サイドポンプ形態のために使用されるような)出力カプラ1510を次いで所定の位置に置いて整列させることにより、第2ストークス・レーザー出力を最大化した。整列されたサイドポンプ・ラマンレーザー1500のエネルギー変換を下記のように図15Cに示す。サイドポンプポンプ形態からの出力ビーム1520a中のストークス出力に対するポンプ閾値(図15Cのグラフ1530参照)は、ポンプ・エネルギー>6.5mJについての線形フィットによって定義して6.2mJであった。比較すると、図15Bのエンドポンプ形態1500aに対するエネルギー閾値(図15Cのグラフ1535参照)は0.16mJであり又は図15Aのサイドポンプ形態の39分の1の低さである。
【0073】
閾値におけるポンプ強度は、エンドポンピング及びサイドポンピングのラマンゲイン係数が比較されるのを可能にする。閾値近くのストークス強度の成長は、それぞれの場合にdIs=Is.(gs.Ip(z)-L).dzによって与えられる。式中、往復運動損失係数Lは固定的であると想定される。従って閾値においてゲインは、往復運動全体にわたってIp(z)の積分に対して反比例する。閾値における∫Ip(z).dzの値は、これらを計算するために使用されるパラメータとともに、下記表1に示されているように因数2以内で互いに類似している。理論から予測されるパリティからの逸脱は、ポンプ・モード体積と共振器モード体積との想定モード・オーバラップが無効であること、そしてポンプ・レーザー内の複数の長手方向モードの存在から生じる影響によるものである。サイドポンプ・レーザー形態の場合、遠距離場出力ビーム・プロフィールが著しく非対称である(Mx2/My2はほぼ750であって、My2=1.8であり、式中xはポンプ方向である)ことに注目すべきである。このことはストークス・モードのシーディングがエンドポンプの事例(この場合Mx,y2<1.5)とは大きく異なることを示唆する。
【表1】
【0074】
図15Cから判るように、サイドポンプ形態1500からの横方向ラマンレーザー出力エネルギー1530は、スロープ46%でポンプ・エネルギーと線形スケーリングし、エンドポンプ形態1500aを使用した場合に見られる最大値よりも僅かに低い。エンドポンプ形態1500aでは、レーザー出力エネルギー1535はスロープ効率53%を呈した。最大ポンプ・エネルギーにおいて、サイドポンプ形態の変換効率は22%である。これは、ニトロベンゼンに関して以前に実証されたシングルパス・サイドポンプの100倍超高い効率である[J.H. Dennis及びP.E. Tannenwald, “Stimulated Raman emission at 90o to the ruby beam(ルビービームに対して90°を成す誘導ラマン発光)”Appl. Phys. Lett. 5, 58-60 (1964)参照]。より高いポンプ・エネルギーで、そしてポンプ・ビームの改善されたモード制御によって行われる将来的な活動によって、著しく高い変換効率が可能になり、そしてエンドポンプ・レーザーから見られる、>50%であり得る最大値に近づくことが予測される。
【0075】
例えば図1Dに示されているような空洞内ラマンレーザー130は、エンド・リフレクタ132と出力リフレクタ134とを含む共振器131を含んでいる。レーザー媒質133及びラマン活性媒質135の両方が共振器空洞131内に配置されている。レーザー媒質133を外部ポンプ源(図示せず)によってポンピングすることによって、第1波長136のポンプ・ビームを生成する。第1波長はラマン媒質135内で、ストークス・ビームへのラマン変換過程を介して第2波長へ変換される。共振器131は、第1(ポンプ波長及び第2ラマン/ストークス)波長の両方を共振させるように適合されており、これは、ラマン媒体中の変換を促進し、ポンプ・パワー閾値の低下を可能にするという利点を伴い、また低いピーク・パワーで効率的に動作可能なコンパクトなダイオード・ポンプ装置によく適したアーキテクチャをもたらす。出力リフレクタ134は、第2波長で部分透過性であることにより、ラマン変換された波長の出力ビーム138が共振器131から出るのを可能にする。空洞内システムの利点は、第1波長における広いポンプ場(ラマン材料によって変換されることになる)と、第2波長におけるラマン結晶によって生成されたラマン(ストークス)場とが、ラマン変換波長への変換効率を改善することである。しかしながら、ラマン材料中の空洞内ポンプ場の(第1波長)の吸収が大量である場合には、空洞内システムは一般に利益が少ない。従って、空洞内ラマンレーザーの効率的動作のために、共振器は、ポンプ場の波長において高品質共振器(すなわち吸収に起因する損失を含む、最小限の損失)であることを必要とする。
【0076】
更なる配置において、レーザーシステムは、2つの出力波長の間で切り換え可能であるように適合されていてよい。いくつかの用途、例えば医療処置において、出力波長間の迅速な切り換え、例えば水吸収量が高い3.47μmと吸収係数が大幅に低い6.45μmとの間で切り換え可能な出力を送達することができるレーザーは、外科医が浸透深さ及びレーザーシステムのアブレーション特徴を変更するのを可能にするために特に有利である。出力波長間で選択的に切り換わるように適合された、基本的な切り換え可能なラマンレーザーシステム140の配置例が図1Eに概略的に示されている。ここではポンプ・レーザー141は、ポンプ波長λ1を有するポンプ・ビーム142を生成するように適合されている。切り換え可能なシステム140は、ここではリフレクタとして示すスイッチ145を含んでいる。このリフレクタは、第1位置145aと第2位置145bとの間で機械的に移動可能である。例えば偏光に基づく方法、又は光ファイバー切り換え方法(ポンプ・ビームが光ファイバーを介して送達される)、及び当業者には明らかな他の方法を含む他の切り換えメカニズムを使用してもよい。スイッチ145が第1位置145aにある間は、ポンプ・ビーム142はダイヤモンド・ラマンレーザーシステム143に導かれる。ダイヤモンド・ラマンレーザーシステム143は、ラマンシフト波長λ2の出力ビーム144を生成するための、本明細書中に記載されたシステムであってよい。或いは、スイッチ145が第2位置145bにある時には、ポンプ・ビーム142はラマンレーザーシステム143を迂回し、そして切り換え可能なレーザーシステムの代わりの出力ビーム145を形成する。具体的な配置において、レーザーシステム140は、1つ以上の光ファイバー、又は当業者に明らかなような連結された出力送達システム(図示せず)を介して、出力ビーム144及び145のいずれも送達するように適合されていてよい。一例として、3.47μmと6.45μmとの出力波長間で容易に切り換え可能なレーザーシステム140を提供するために、ポンプ・レーザー141は波長λ1=3.47μmのポンプ・ビーム142を生成してよく、そしてラマンレーザーシステム143は、ポンプ・ビームを波長λ2=6.45μmの出力ビームに変換するように構成されていてよい。
【0077】
言うまでもなく、ラマンレーザーシステムにおいて、出力波長はポンプ・ビームの波長に依存し、そしてポンプ・ビーム波長λ1と出力ビーム波長λ2とが表2に示されている。
【表2】
【0078】
さらに言うまでもなく、上に開示した切り換え手段を加えることによって、切り替え可能なラマンレーザーシステムからの出力を、表2に挙げたλ1とλ2との所望の組み合わせのためにポンプ・ビーム波長λ1と出力ビーム波長λ2との間で切り換えることができる。
【0079】
結晶性(固体状態)ラマン材料は、(気体及び液体と比較した)廃熱の迅速な除去、(ガラス材料と比較した)狭いラマン線幅、及び高いゲイン係数という固体状態材料の利点をもたらす。硝酸バリウム、タングステン酸カリウムガドリニウム、タングステン酸バリウム、バナジウム酸イットリウム、及びこれらに近い結晶類縁体のような材料が、ラマンレーザーシステムにおけるラマン材料として広く知られている。これら全ての材料は、効率的なラマン変換を行うのを可能にする高いゲイン係数及び/又は高い損傷閾値を特徴とする。ラマンシフトは典型的にはνR=700〜1332cm-1の範囲にある。ダイヤモンドは、ラマンレーザーにおいて幅広く使用される全ての結晶の最大シフト約νR=1332cm-1を有している。ラマンシフトは、重要な波長ゾーン、例えば黄−赤におけるゾーン、及び1.5μm付近の眼に安全な領域が、既存レーザー源から低次ストークス・シフトを介してアクセスされるのを可能にする。
【0080】
ラマン変換ストークス出力へのラマンレーザーの変換効率は極めて高いことが可能である。ラマン媒質中の変換効率を割り出すのが容易な外部空洞ラマンレーザーの場合、50%を上回る効率が日常的に観察される。いくつかのラマン結晶、例えばバナジウム酸塩、及び二重金属タングステン酸塩も「セルフ・ラマン」レーザー作用を可能にする。「セルフ・ラマン」レーザー作用において、ラマン媒質は基本場及びストークス場の両方の増幅因子として作用することができる。セルフ・ラマン・ダイヤモンド・レーザーには多大な潜在能力があろうが、しかし十分な濃度の好適な活性レーザー種を有するダイヤモンド結晶のドーピングは目下のところ難関である。
【0081】
上記の考察は、波長及びビーム質の変換のための、任意にポンピングされるレーザーとしての、ラマンレーザーの多用途の特性を強調している。ラマンレーザーを用途に組み込むことを現在まで制限している顕著な問題は、ラマン過程の弱い性質(すなわち小さなラマン断面積)である。結果として、効率的な装置を形成するために、ポンプ・ビームにおけるスペクトル・パワー密度、及び光学素子の損傷閾値について高い要求が課される。横方向にポンピングされる(すなわちサイドポンプ)ラマンレーザーは、これらの要件を満たすことがさらに一層難しいため実施されるのは稀である。ここ数年にわたってポンプ・レーザー、光学コーティング、及びラマン材料品質を改善することにより、場が著しく成長することが可能となっており、ラマンレーザーは、とりわけ、眼科、リモート・センシング、及び天文学的ガイド星におけるような数多くの用途を見いだしつつある。
【0082】
ラマンレーザー材料としてのダイヤモンド
ダイヤモンドは、ラマンレーザーシステムにとって特に魅力的な多くの際だった特性を有している。ダイヤモンドは、ラマンレーザーがより短い結晶で形成されるのを可能にする特に高いラマンゲイン係数を有している。また、高い熱伝導率及び低い熱膨張係数は、他のラマン材料よりも著しく高い平均パワーでラマン変換を可能にする上で有望であり、他のラマン材料と比較して良好な耐光学損傷性をダイヤモンドに与える。別の固体ラマン材料と比較してダイヤモンドの幅広い透過範囲(図1F参照)はダイヤモンドを、赤外スペクトル領域内の他の材料の範囲外にある波長を生成するために重要な材料にする。
【0083】
表3は、ラマンレーザー設計にとって重要なダイヤモンド結晶の主要パラメータと、他の一般的な固体ラマン材料との詳細な比較を含んでいる。ダイヤモンドの熱特性は他の材料から最も際立って傑出している。ここでは熱伝導率が、誘電結晶よりも2桁を上回って高く、シリコンよりも10〜15倍高い。SRSは熱をラマン材料中にデポジットするので、この特性は、複屈折を導入するか又は壊滅的被害を招く、熱で誘発される(サーマル)レンジング力(lensing force)及び材料内部の応力を軽減するのに重要である。ダイヤモンドの傑出して低い熱膨張係数もまた、これらの問題点に対処する。熱光学係数(dn/dT)がハイエンドではあるが、このことは高い熱除去速度、ひいては高い熱伝導率による温度勾配の緩和によって相殺されることになる。
【表3】
【0084】
図1Fは、一般的な固体ラマン材料の透過範囲を、ダイヤモンドのものと比較して示す概略図である。図から判るように、ほとんどの他のラマン材料が約0.35〜5μmの範囲内でだけ光学的に透明である。対照的に、ダイヤモンドは6μmよりも長い波長でも透明である。代替的な材料が欠乏している6μmよりも長い波長に対しては、微量ガス検知、医療、セキュリティ及び防衛のためのレーザー源のための有意義な需要が依然としてあり、ひいてはこの領域内で動作するラマンレーザーは種々多様な用途に幅広く適用可能となる。しかし約3〜約6μmにダイヤモンドの多フォノン吸収帯域が存在するため、そしてまた波長が増大するにつれて(すなわちストークス波長の周波数ωsが減少するにつれて)減少するラマンゲイン係数gの減退に起因して、長波長の延長には大きな難題がある。
【0085】
ラマンシフトによって導入される最大線拡大の指標であるダイヤモンドのライン線幅は、他の材料と比較してローエンドではあるが、しかし硝酸バリウムほど狭くはない。ダイヤモンド・ラマンレーザーの効率的な動作のために、ポンプ放射は、ラマン材料のラマンゲインの線幅未満又はこれにほぼ等しい線幅を有していると有利である。ダイヤモンドは線形光学現象に対して等方性である。このことは欠点としばしば考えられる。なぜならば、応力によって誘発された複屈折が、透過された放射を偏光解消しやすいからである。CVDダイヤモンドにしばしばついて回る、応力によって誘発される複屈折は、レーザー閾値の面で問題をはらむことがあり、従って低複屈折ダイヤモンドが有利である。またダイヤモンド結晶を搭載するときには、結晶に応力を加えないことにより、応力によって誘発される複屈折を最小限に抑えるように注意すべきである。
【0086】
ポンプ・レーザーの偏光に対するダイヤモンド結晶軸の配向は、ラマンゲインを最大化するように行われてよい。図16は、{100}及び{011}ファセットを有する方形ダイヤモンド・ラマンレーザー結晶1600の後方散乱偏光ラマンスペクトルを示すグラフである。図16からは、ラマン散乱放射の偏光が、{011}平面内のポンプ偏光のためのポンプ・レーザーに対して平行である(例えば下記図4の例におけるラマン材料のブリュースターファセット(Brewster facet)は、低損失偏光が、ポンプ放射に対して平行な偏光とともにラマン散乱させられるように配向されている)ことが判る。また図16からは、ラマン散乱放射の偏光が、{100}平面内のポンプ偏光のためのポンプ・レーザーに対して垂直であることが判る。中間角度のポンプ偏光のために、ポンプは、ダイヤモンドの結晶クラスに対応する三次感受性テンソルに従って偏光混合体内に散乱させられる[Gardiner, D.J.他、Practical Raman Spectroscopy, (Springer-Verlag, 1989) p.24参照]。実際には、ダイヤモンド・ラマン材料をポンプ放射の偏光に対して配向することによって、より高効率のラマンゲイン係数にアクセスし、ひいてはより効率的な動作を可能にするべきである。従って、ダイヤモンド・ラマンレーザー配置のいずれかを最適化するためには、ポンプ・ビームが偏光ポンプ・ビームであること、そしてポンプ・ビームの偏光が、これがラマンゲインの増大のために好適な結晶軸に対して平行であるように配向されていることを保証することが有利である。結晶軸はダイヤモンド結晶格子の<100>,<110>又は<111>軸であってよく、入力ポンプ・ビームの偏光は結晶軸に対して平行にされる。ブリュースターカット・ラマン結晶の場合にも、結果としてのラマン変換ストークス光の偏光がやはりポンプ光と同じ配向で偏光され、これによりラマン材料のブリュースターファセットにおけるストークス光及びポンプ光の反射損失を同時に最小化し得ることを保証することが有利である。
【0087】
ダイヤモンドのレーザー損傷閾値も重要なパラメータではあるが、現在まで、特に最近の材料に関して入手可能な情報が不足している。単結晶ダイヤモンドの測定は、継続時間1nsのパルス化された1064nm放射についてほぼ10GW.cm-2であり、多くの他のラマン材料よりもおそらくは高いことを示唆している。
【0088】
ダイヤモンド・ラマンレーザーのモデリング
固体ダイヤモンド・ラマン材料中のラマン過程を理解・予測するために、図2に示されているような(図1Aの外部空洞ラマンレーザーシステム110と同様の)基本的な外部空洞形態におけるポンプ場及びストークス場の時間的動力学特性をシミュレートするように、数値モデルを作成した。数値モデルの基本仮定は、平面波相互作用だけが考察されること、そして入力ポンプ・ビームの線幅がラマン線幅よりも概ね小さいか又はこれとほぼ等しいことである。第1ストークスへのラマン変換のためのよく知られた結合等式は、
【数2】
であり、上記式中
【数3】
及び
【数4】
は、前方及び後方に伝搬するポンプ波p及びストークス波sであり、
【数5】
であり、αs,pは材料吸収(損失)係数であり、そしてzは空洞内の長手方向位置である。
【0089】
モデルは、時間ステップdt=dz.n/cを使用して場を伝搬し、外部共振器は、ポンプ場及びストークス場を結晶を通して伝搬することによりモデリングされる。結晶と共振器ミラーとの間の小さな空隙も考えられる。入力カプラ及び出力カプラは、ストークス波長の光を共振させるように、そしてまた、入力ポンプ・レーザーのダブルパスが一般試験条件と一致するのを可能にするように適合される。
【0090】
言うまでもなく、ラマンレーザーモデルの精度は、モデル仮定及び入力パラメータの妥当性に依存する。試験入力パラメータ、例えばポンプ・パルス・エネルギー、パルス継続時間、及びパルス速度はよく知られたパラメータであるのに対して、結晶内のビーム輝度は、スポットエリア測定によって導入される際の不確実性が比較的大きいため、僅かに周知度が低い。結晶中の入力ビーム及び出力ビームは典型的には(概ねガウス横方向プロフィールの)低次モード遠距離場プロフィールであるので、このモデルの平面波仮定はいくらかの有意な誤差を招くことにはなるものの、ポンプ線幅とラマン線幅との間のスペクトル・オーバラップは、Ndベースのポンプ・レーザーに対する今日までの良好な仮定であると考えられている。モデル精度はもちろん、ゲイン係数g及び吸収(損失)係数αs,pを含む材料パラメータの十分な知識にも依存する。
【0091】
ラマンゲイン係数
一般に、或る材料に対するラマンゲイン係数は、
【数6】
という関係によって与えられる。上記式中、T2は脱位相時間であり、dα/d1は、振動中心間の変位の関数としての分極率の導関数であり、そしてωs及びωrはそれぞれ、ストークス・ビームの周波数、及び結晶格子のラマン振動モードの特性周波数(すなわちラマン材料の特性ラマン周波数)である。定数k=4πN/(n2.np2m)は集中定数であり、ここでNは換算質量の振動中心の数密度であり、m,n2及びnpはそれぞれストークス周波数及びポンプ周波数の屈折率であり、そしてcは真空中の光の速度である。
【0092】
ラマンゲイン係数の強い波長依存性は、ゲイン等式におけるストークス・ビームの周波数ωsの明確な出現及び波長におけるdα/dqの何らかの依存性から生じる。気体中の試験的研究[W.K. Bishel及びM.J. Dyer, J. Opt. Soc. Am. B 3, 677 (1986)参照]は、
【数7】
(ここでDはフィッティング・パラメータである)の関係(以後「Bishel式」と呼ぶ)に従って、周波数がバンドギャップ周波数viに接近するのに対応して、ゲイン係数が著しく増大することを示唆する。
【0093】
ダイヤモンドに関するラマンゲイン係数の測定は、1970年代前半に遡る僅かな機会に、いくつかの波長だけに関して報告されているにすぎない。初期の研究は天然ダイヤモンドにおいて行われたのに対して、Kaminskiiによる最近の測定[Kaminskii, A. A. et al,“High-order Stokes and anti-Stokes Raman generation in CVD diamond(CVDダイヤモンドにおける高次ストークス及び反ストークスのラマン生成)”, Phys. Status Solidi 242, R4-R6 (2005);及びKaminskii, A. A. et al, “High-order stimulated Raman scattering in CVD single crystal diamond(CVD単結晶ダイヤモンドにおける高次誘導ラマン散乱)”, Laser Phys. Lett. 4, 350-353 (2007)参照]は、CVD工程を用いて成長させられた合成ダイヤモンドを使用して行われた。結晶配向はそれぞれの事例において報告されなかった。おそらくは、ダイヤモンドのラマンゲイン係数gRを最も信頼性高く指し示すものは、ピーク・ラマン断面積を比較することから得られ[Basiev, T.T. et al, Appl. Opt. 38, 594 (1999)参照]、このことによって、488nmにおけるダイヤモンドの定常状態ラマンゲインが、数倍、すなわち硝酸バリウムの1.4倍であり、タングステン酸カリウムガドリニウムの4倍であることが示唆される。
【0094】
全ての測定は、SRSのための観察閾値に基づく方法を用いており、図3の第2ストークス波長の関数としてのラマンゲイン係数のグラフから判るように、結果には有意な変化がある。図3において、黒丸はダイヤモンドの測定データであり、白丸は別のラマン材料のタングステン酸バリウム(BaWO4)の測定データ値である。図3の実線は、計算がKaminskii 2007 データポイント301にフィットするように選択されたフィッティング・パラメータDを有する等式7を用いて計算されている。
【0095】
モデル検証例−可視ダイヤモンド・ラマンレーザー
数値モデルを試験して検証するために、532nm(第1波長)の標準周波数倍増Nd:YAGレーザーによってポンピングされるダイヤモンド・ラマンレーザーシステム例からの試験データと比較した。第1波長は、CVD(低複屈折単結晶)によって第1ストークス波長へラマンシフトされると、外部空洞配置によって573nm(第2波長)の出力ビームを生成した。
【0096】
図4は、上に概要を述べた数値モデルの検証のために使用される可視ダイヤモンド・ラマンレーザーシステムを示す概略図である。ブリュースターファセット401及び403を有する平行六面体ダイヤモンド結晶410をカットすることにより、レーザーシステム400のファセット401及び403からの反射損失の影響をなくした。この例ではダイヤモンド結晶410は、(ファセット401を通ってブリュースター角度を成して結晶410に入り、そしてファセット403から出る光の)光路長6.7mmを提供した。ダイヤモンド結晶寸法は長さ6.7mm、幅3.0mm、そして厚さ1.2mmであり、材料中の複屈折を低減する方法を用いてダイヤモンド結晶を成長させた[Friel, I. et al, Diamond and Related Materials, 18, 808-815, (2009)参照]。
【0097】
ダイヤモンド結晶410を熱電冷却マウント(図示せず)上に載置し、そして図4に示されているような入力リフレクタ402と出力カプラ404とを含む光学共振器空洞420の内部に入れた。共振器空洞420は、ダイヤモンド・ラマン材料を通る光の伝搬方向が結晶構造の(110)方向に対して平行であり且つ成長方向に対して垂直であることにより複屈折を最小化するように設計された。ダイヤモンド結晶410のブリュースターファセット401及び403は、p偏光が(110)平面内にあるように、そして散乱ストークス発光が、ダイヤモンド結晶クラスの三次感受性テンソルに従ってポンプ場に対して平行な偏光を有するように配向された。
【0098】
この例のリフレクタ402は、ポンプ源430からポンプ・ビーム406を透過するように532nmで94.2%透過性(T)であり、そしてストークス波長で空洞408内の光を反射するように560〜650nmで高反射性(HR)である入力カプラである。ラマン結晶410の第2パスを提供するためにポンプ・ビーム406を逆反射させる出力カプラ404は、532nmでHRであり、573nmで20%Tであり、そして620nmで80%Tであった。この例における両共振器リフレクタ402及び404は曲率半径が20cmであった。共振器空洞420の全長が約10〜12mmであるように、リフレクタ402及び404をダイヤモンド・ラマン結晶410に隣接して配置した。この空洞420の最低次の共振器モードに対応する計算ウエスト半径は約85μmであった。
【0099】
それぞれがパルス継続時間8nsとポンプ波長532nmとを有する2つの周波数倍増型Q切り換え式Nd:YAGレーザー(図示せず)のうちの一方からのパルス化されたポンプ・ビーム406を使用して、ダイヤモンド・ラマンレーザー400をポンピングした。第1ポンプ・レーザーは5kHzのパルス繰り返し周波数で動作し、最大0.44mJのポンプ光の出力パルス・エネルギーに相当する最大約2.2Wを生成した。第2ポンプ・レーザーは、10Hzのポンプ・レーザー(HyperYag, Lunomics,図示せず)を使用してより高い出力エネルギーにおける性能を調査するために使用した。それぞれのポンプ・レーザーの出力部に高調波分離器(図示せず)を配置することにより、システム400からのストークス出力パワーの測定に、ポンプ源からの残留1064nm出力の存在による影響が及ぼされないことを保証した。両方のポンプ・レーザー源は、1.3未満の測定ビーム質因数を有する基本空間モード出力を有した。5kHzのポンプ・レーザーについて、10cm焦点長レンズ(図示せず)を使用して出力ビームを結晶内に集束させることにより、共振器420の基本モード範囲とほぼ一致するポンプ・スポット・サイズを提供した。
【0100】
一次ストークス波長573nmの出力ビーム412におけるラマンシフト光へポンプ光を変換した(第1ストークス光)。ストークス出力ビーム412中の出力パワーを、較正(±3%精度)パワーメーター(Newport 18-010-12)を使用して測定し、そしてパルス・エネルギーをエネルギーメーター(ED100, Gentec)を使用して測定した。ビーム412のストークス出力パルスのパルス形状を、高速フォトダイオード及びオシロスコープを500MHzの応答と組み合わせて使用して記録した。較正スペクトル応答を有する格子分光計を使用して、出力ビーム412のスペクトル組成を測定した。
【0101】
図5は、ダイヤモンド結晶410に入射するパルス・エネルギーの関数として出力エネルギー501を示す(入力カプラ401からの反射損失に基づく約5.8%の評価損失を織り込む)。5Hzのポンプレーザーについてのラマンレーザー閾値502は、ほぼ0.1mJのポンプ光406であることが測定された。ポンプ・パワーが高くなると、ストークス出力パワーは、約74.9(±2.0)%のスロープ効率で、最大パルス・エネルギー0.24mJまで線形に増大した。最大エネルギーの変換効率は63.5(±1.0)%であった。入力パルス・エネルギー<0.23mJに対しては、線形フィットを上回る僅かな偏差が観察される(この範囲内でのスロープは80%を越える)。このことは、ポンプ・パルスの特性パルス短縮(約10nsから8nsへ)、及び入力電流が増大するのに伴う、相応のピーク・ポンプ・パワー向上に帰せしめられる。
【0102】
出力ビーム412は概して573nmの第1ストークス光から成っている。(0.28mJを上回る)高入力エネルギーで、第2ストークス波長620nmの少量の光が出力ビーム412中に観察された。観察された最大出力パルス・エネルギー(0.44mJ)では、ほぼ10%が620nmの第2ストークス光であることが観察された。出力パワーの面で、組み合わされた第1及び第2のストークス出力最大値は1180mWであった。より高い入力パワーにおける性能をさらに調査することは、ポンプ・レーザーの能力によって制限された。
【0103】
5kHzのポンプ・パルス(601)及びストークス出力パルス(603)のパルス形状を記録することにより、ストークス変換の時間的挙動を分析し、これを図6に示す。ここでは、測定された入力及び出力のパルス・エネルギーを用いてポンプ・パルス及びストークス・パルスの形状をスケーリングすることにより、瞬時パワー及び変換効率を割り出した。ポンプのラマン変換の開始は、ポンプ・パルス601のパワーがそのピーク値のほぼ30%に達したときに発生し(602)、ポンプ・パルスの立ち上がりエッジから1〜2nsのラグを引き起こした。ストークス・パルス603のFWHM継続時間は約6.5nsであると測定され、これはポンプ・パルス601よりもほぼ1.7ns短い。ストークス・パルス603のピーク・パワーは29kWであった。瞬時変換効率605は3ns以内にゼロから80%超まで急速に増大した。ストークス・パルス603のピーク値は、ポンプ・パルス601のピーク値のほぼ85%である。これは第1ストークスの量子効率(ηS1=92.8%)に密に近似する。実際に、フォトン変換効率605における測定ピークは91%である。ピーク後、変換効率605はポンプ強度がそのピーク値のほぼ30%まで減少すると、ほぼ40%まで徐々に減少する。より長い時間(t>15ns)では、この期間に非線形検出器応答の証拠があること、また信号がゼロに近づくにつれて結果として大きい誤差が出ることにより、図示していない。
【0104】
図6はまた、ラマンレーザー400の共振器空洞420のダブルパスを形成した後の枯渇ポンプ・ビームのパルス形状607を示している。時間積分がポンプ・エネルギーと、ラマン変換によって失われたエネルギーとの間のエネルギー差(すなわち、(第1ストークス・パルス・エネルギー/ηS1)+(第2ストークス・パルス・エネルギー/ηS2))となるように、ラマンレーザーからの逆反射ポンプ・ビームをサンプリングし、そして信号をスケーリングすることによって、パルス形状607を得た。ストークス変換(602)の開始前の枯渇ポンプ・パルス607の挙動は、予測通りポンプ・パルスと密に一致している。一旦閾値に達すると(T>3.5ns)、入射ポンプ強度が増大するのに対して、透過されるポンプ・パルスが急速に減少することにより、大規模な枯渇が明らかである。枯渇がその最大値(tはほぼ7ns)にあるときのパルスのピーク時に、ポンプ枯渇率は88%であり、これは上で計算したストークスへのピーク・フォトン変換効率(91%)と十分に合致する。ポンプ・エネルギーと出力エネルギーとの均衡が、全ポンプパルス段階(すなわちストークス・パルス前、ストークス・パルス中、及びストークス・パルス後)の未変換ポンプ・フォトンによって説明されると推定される。測定可能なポンプ吸収量(熱量測定によって得られた値は532nmで<1.1%cm-1)はあるものの、パルス形状は、これがこれらの条件下で変換効率に有意な影響を及ぼすものではないことを示唆している。
【0105】
10Hzのポンプ・レーザーを使用して、より高いパルス・エネルギーでダイヤモンド・ラマンレーザー400の性能を調査した。ポンプ焦点スポット半径100μmを使用すると、変換効率(42%)及びスロープ効率効率(64%)は、5kHzのものと同様であった。さらに出力エネルギーをスケーリングし、そして入力カプラ上の二色性コーティングに対する損傷を回避するために、ポンプ・ウエスト・サイズを200μmまで増大させることによって、入射フルエンスを制限し、ひいてはダイヤモンド結晶に対する損傷可能性を最小化した。ラマンレーザー閾値エネルギー(図5の符号504)は0.4mJであり、出力(図5の符号503)は(〜80kWのピーク・パワーを有する)0/67mJの最大出力エネルギーに対して(45%のスロープ効率で)線形スケーリングされた。最大変換効率は35%であった。ポンプ・モードと共振器モードとの空間的オーバラップを改善するために、曲率が低減された共振器ミラーを使用することによって、より高い変換効率を予測した。
【0106】
出力カプラ(図4の符号404)を、532nmのポンプ光及び573nmの第1ストークス光について高反射性(反射率>99%)であり且つ620nm第2ストークス光について高透過性(透過率約40%)である出力カプラと交換することによって、ダイヤモンド・ラマンレーザー400からの優先的な第2ストークス出力も、10Hzのレーザーを使用して観察した。第1ストークスと第2ストークスとの出力の性能を(第1及び第2ストークスの生成に適した出力カプラを使用して)比較したものを図7に示し、図7は、620nmの第2ストークス性能701(スロープ効率48%)が、第1ストークス出力703(第1ストークス出力カプラを使用した同様の条件について64%のスロープ効率)と比較して僅かに低効率であることを実証している。
【0107】
図8A及び8Bはそれぞれ、上記数値モデル(図8A)、及び試験的に測定されたパルス形状(図8B、これは比較しやすさのためにここで再び示される図6の再現である)を使用して得られた上記可視ダイヤモンド・ラマンレーザーシステム400に対応するパルス形状を比較したものを示している。上記のように、ダイヤモンド・ラマンレーザー材料の長さは6.7mmであり、空洞全長は11mmであり、そしてそれぞれ532nm及び573nmのポンプ波長及びストークス波長における吸収係数は約αp,s≒0.012cm-1であった。図8Aは、ポンプ(破線801);ストークス(点線803);及び枯渇ポンプ(実線805)のモデリング・パルス形状を示している。同様に、図8Bは、ポンプ(破線802);ストークス(破線804);及び枯渇ポンプ(実線806)の試験的に観察されたパルス形状を示している。試験的なパルス・エネルギー値からモデルに対応する入力エネルギー密度を計算するために、80μmのポンプ・スポット半径を使用した。
【0108】
システム例400のモデル検証からの観察パルス特徴の多くが、図8Aのモデリング結果に見られることが判る。ポンプ・パルスの立ち上がりエッジに対するモデル(図8A)及び試験データ(図6及び8B)双方におけるストークス・パルス発生の遅延はそれぞれの事例において約4nsである。ピーク・ストークス出力の時間及び振幅も極めて類似している。最も際だった不一致は、モデリング・ストークス・パルスの立ち下がりエッジに見られる。枯渇はモデルにおいてより完全であり、モデリング・ストークス強度はより高い。モデリング枯渇ポンプ・パルスは、試験的に見られるものよりも著しく低いベースラインを有しており、パルス内の遅い第2ピークは著しく小さい。この差は、モデル内で用いられる平面波仮定の有効性に限界があることに起因する可能性が高い。不一致区域を理解するためにはより多くの詳細な分析が必要となるが、しかし特に閾値レージング強度(threshold lasing intensity)に関して質的に合致していることは、モデルが、他のポンプ波長のレージングを達成するためのポンプ・パラメータを予測するために有用である可能性があることを示唆する。
【0109】
上記された可視出力のためにダイヤモンド・ラマン材料を使用した結果は、合成低複屈折ダイヤモンドが高効率的なラマンレーザーを実現するのに適していることと、主要な光学パラメータ、例えば吸収、散乱及び偏光解消が効率的なパルス化装置を可能にするのに十分に低いこととを実証する。ダイヤモンド・ラマン材料とともに532nmのポンプ・ビームを使用すると、573nmの出力レーザー波長(第1ストークス)及び620nmの出力レーザー波長(第2ストークス)は、医療及びバイオセンシングのような用途において有用である場合がある。しかしながら、この実証の値は、ダイヤモンドの際だった透明度範囲及び熱特性を活用するダイヤモンド・ラマンレーザーシステムを実現するのに向けた大きな一歩である。ダイヤモンドは、他のラマンレーザーシステム及び非ラマンレーザーシステムを使用しては容易に達成されない特性空間、例えば高輝度レーザー及び生成するのが他では難しい領域内の波長のレーザー、例えば5マイクロメートルを上回る波長のレーザーにおける特性空間にアクセスするのに有望である。
【0110】
ダイヤモンドの際だって高い熱伝導率から予期されるように、現在の出力パワーレベルでは、結晶における熱効果の証拠は観察されなかった。より高いパルス・エネルギー又は繰り返し速度を用いることにより、著しく高い出力パワーが生じ得る。ピーク入力パワー密度がコーティング損傷の及び自己焦点のような寄生非線形効果についての閾値を下回り続けることを保証するために、パルス・エネルギー増大時にはビーム・ウエスト直径を増大させることが必要となる場合がある。ダイヤモンドの高い熱伝導率に単純に基づけば、他のラマン材料よりもほぼ2桁高いストークス・パワーについて、熱レンズ効果は予期されない。ダイヤモンド以外のラマン材料を使用した現在利用可能な外部空洞ラマンレーザーシステムのための現在の出力パワーが目下のところ10Wに接近しつつあることを考えれば、熱レンズによる影響を性能が受けることなしに、ダイヤモンドが数百ワットのダイヤモンド・ラマンレーザーまでスケーリングする見込みがある(もっともダイヤモンドの等方性が、熱的に誘発される応力複屈折を考慮することを必要とするようになる)。
【0111】
上記された可視ダイヤモンド・ラマンレーザーの性能を、関連の研究[R.P. Mildren, H.M. Pask, and J. A. Piper, in Advanced Solid-State Photonics, OSA Technical Digest Series (Optical Society of America, 2006), paper MC2参照]において発明者によって記述されたKGWラマンレーザーと比較することが有用である。このKGWラマンレーザーは、効率的な外部空洞ラマンレーザーにおける最新技術を提示しており、同一のポンプ・レーザー源及び共振器ミラーを使用して極めて類似した条件下で操作された。10Hz及び5kHzのポンプ入力源を使用してポンピングされるときの、図4のダイヤモンド・ラマンレーザーシステム400からの最大出力パラメータの要旨を表4に示す。
【表4】
【0112】
注目すべき主要な試験的相違は、ダイヤモンドの長さが短い(KGWの50mmに対して6.7mm)という結果と、KGWのストークス・シフトνR=約901cm-1と比較してより大きなストークス・シフトνR=約1332cm-1であるという結果とである。ダイヤモンドにおける著しく長いストークス・シフトは、ダイヤモンド共振器長さが著しく短いことを可能にし(KGWレーザーシステムの共振器長さが約55mmであるのと比較して12mmである)、そしてダイヤモンド・システムの一次出力波長が第1ストークスであることを可能にする。ここで、(KGWレーザーの588nmの第2ストークスの場合には70%であることと比較して)出力カプラの透過率は25%である。これらの相違点にもかかわらず、ラマン材料としてダイヤモンドを使用する最大変換率はほとんど同一であり(KGWでは約64%であるのと比較して約63.5%)、そしてダイヤモンドのスロープ効率は辛うじて高いだけである(KGWでは約71%であるのと比較して約74.9%)。約74.9%のダイヤモンド・ラマンレーザー効率は、発明者が目下承知している高効率ナノ秒外部空洞ラマンレーザーの全ての他の報告よりも高い。
【0113】
上記されたダイヤモンド・ラマンレーザーシステムからの結果は、合成低複屈折固体ダイヤモンド結晶が、高効率ラマンレーザーを実現するのに適し、実際に、他のラマン結晶に関して報告されたものと少なくとも同じ効率を有するように思われることを実証する。ダイヤモンド・ラマンレーザーにおいて観察された高い光子変換効率(>90%)を考えると、吸収、弾性散乱、及び偏光解消のような仮定からの複合損失が少ないことが予期される。
【0114】
上記可視ダイヤモンド・ラマンレーザー設備の例では、結晶の吸収及び複屈折を割り出すことも可能である。レージングを防止するように誤整列された共振器を用いて、熱電冷却器によってポンピングされたパワーを測定することによって、吸収量の上限を割り出した。2W入力パワーで結晶中にデポジットされたパワーは16mWであった。これは0.012±0.001cm-1未満の吸収係数に相当する。同一製造業者によって製造された同様の単結晶材料(0.0026cm-1)(ただし低複屈折ではない)よりも著しく高いこの値は、冷却マウントに衝突する結晶からの散乱光に由来する付加的な熱寄与による上限である。波長580〜700nmのダイヤモンド結晶からの蛍光は可視であり、これは、よく知られた窒素空孔中心N−V-のような色中心による何らかの吸収と整合する。光路に沿った平均複屈折δnは、出口ファセットからのs偏光された外部反射を測定することによって見いだされる。この反射は結晶のシングル・パスによって誘発される偏光解消に対して比例的である。ファセット反射は、入射ポンプの0.10(±0.02)%であり、これはδn=1.0(±0.2)×10-6に相当する。この値は、同様の低複屈折材料(δn=5×10-7)に関して以前に報告されたものと同様である。
【0115】
上記例における可視ダイヤモンド・ラマンレーザーシステム400で達成された最大出力パワー(1.2W)は、この例で使用されたポンプ源から利用可能なポンプ・レーザーパワーによって制限された。結晶中の熱硬化の証拠は観察されていない。このことはKGWラマンレーザーシステムにおける経験、並びにダイヤモンドの極めて高い熱伝導率から予期される。ピーク入力パワー密度がコーティング損傷及び自己焦点のような寄生非線形効果についての閾値を下回り続けることを保証するために、より高いパワーのポンプ・レーザーを使用することによって、そしてビーム・ウエスト直径を増大させることによって、著しく高い出力パワーが達成される見込みがある。従って、ダイヤモンドの高いラマンゲイン、広い透明度、及び高い損傷閾値によって、小さなサイズ及び広い波長範囲を有する効率的であり高パワーのラマンレーザーにかなりの将来性がある。
【0116】
中赤外から遠赤外のダイヤモンド・ラマンレーザーのモデリング
中赤外から遠赤外のダイヤモンド・ラマンレーザーのレーザー閾値を達成するために、上に概要を述べた数値モデルを用いて入力ポンプ要件を予測することができる。
【0117】
図14から判るように、閾値及び効率がダイヤモンド(α>1cm-1)内の二フォノンバンドによって制約される。二フォノンバンドは約3.8〜6.0μm(すなわち1650〜2650cm-1)の範囲内で強く吸収する。νR=1332nmのダイヤモンドの大きい特性ラマンシフトに基づき、吸収帯の短い波長側(約3.8μm未満のポンプ波長)でダイヤモンド・ラマンレーザーシステムをポンピングするとともに、長波側(約5.5μm超)でストークス出力をもたらすことが可能である。3.8μmよりも長いポンプ波長の場合、ポンプの強い吸収は特に4〜5.5マイクロメートル範囲において重要な考慮事項であり、また第1ストークス波長の吸収も、3.2μm未満のポンプ波長に対して考慮されることが必要ではあるが、このことは、多フォノン吸収の確率を最小化するようにダイヤモンド・ラマン材料を冷却することによって軽減することができ、これにより約3μm〜約7.5μmの範囲内の波長でダイヤモンド・ラマンレーザーシステムをポンピングすることが可能である。約3.2μm〜約3.8μmの範囲内のポンプ波長に対して最良の性能が予期される。上述のように、同位体的に純粋なダイヤモンド結晶が、望まれない吸収を最小化する上で有利であることもある。
【0118】
以下のモデリングに関する考察に関して、入力ポンプ波長3.6μm(2760cm-1)に相応して、約7.5μm(1430cm-1)の第1ストークス・シフト出力波長を使用することにより、これらの波長における、すなわち単結晶固体ダイヤモンド結晶の多フォノン吸収帯[Thomas,M.E. & Joseph, R.I., Optical phonon characteristics of diamond, beryllia and cubic zirconia Proc. SPIE, Vol. 1326, 120(1990);doi:10.1117/12.22490のFigure 6;及びWilks,E. & Wilks, J., Properties and Applications of Diamond Paperback: 525頁、発行元:Butterworth-Heinemann (April 15, 1994) ISBN-10:07506191の図3.5参照]の周りにおけるダイヤモンドの好ましい低い吸収係数値αs,pと一致させる。
【0119】
Kaminskii 2007データポイント(図3の301)、Basiev他の相対的測定[Basiev, T.T. et al, Appl. Opt. 38, 594 (1999)参照]、及び上記された可視ダイヤモンド・ラマンレーザーシステムのモデリング結果を考察すると、532nmにおける単結晶固体ダイヤモンド結晶のラマンゲイン係数は、約45(±〜15)cm/GWの近傍にあることが評価される。上記等式7のBishel式が有効であると想定すると、ストークス波長7.5μmに当てはめられたゲインは約2cm/GWである。しかし、注意すべきは、Bishel式(等式7)が約3〜5μmに延びるダイヤモンド多フォノン吸収特徴から生じた攪乱に起因して、長波赤外波長のダイヤモンド・ラマン材料に対しては正確でない場合がある点である。この例において使用されたダイヤモンド・ラマンレーザーのための数値モデルに対する入力パラメータを表5に示す。ここでは、ポンプ線幅がダイヤモンドのラマン線幅と同様又はこれよりも小さいことが想定されている(半値幅は、典型的には約1.6cm-1であるが、一般の線幅拡大メカニズムに応じて大きくなり得る)。
【表5】
【0120】
レーザー閾値に達するために2つの重要な考慮事項がある。往復運動損失を超えるラマン材料中のゲインを生成するのに十分なポンプ強度が必要とされる。また、ポンプ光は、ポンプ・ビームをほとんど枯渇させるほど十分に強力なストークス・ビームを形成可能にするのに十分な継続時間にわたって存在することが必要である。図9は、ダイヤモンド・ラマンレーザーについて、ポンプ強度とゲイン係数との積(Ip.g)[cm-1]を単位として表される3.6μmのポンプ入力場の強度の関数として、閾値に達して7.5μmの第1ストークス光の生成を開始するための予測時間(黒丸901及び905)をナノ秒で示す。定常状態の変換効率も示されている(白丸903及び907)。このモデル計算は、一般には試験と比較可能ではないステップ関数レーザーパルスを使用している(生モデル出力の一例が図10に示されている)。しかしながら、これらの結果は、閾値に達して効率変換を達成するのに必要とされるポンプ・パワー及びパルス継続時間の要件を良好に指示している。2組のモデル結果を、それぞれThomas(実線902)Wilks(破線906)の吸収データに関して提示する。定常状態の効率は、ダイヤモンド中のポンプ及びストークスの吸収損失に起因して、量子効率(48%)よりも著しく低い。
【0121】
図9におけるモデル結果は、10nsオーダーのパルスについて、使用される入力パラメータの例について少なくとも1GW/cm2のポンプ強度が必要とされることを予測する。Thomas基準(上記)から得られた吸収係数の場合、ポンプ・パルス<1GW/cm2では、レージング閾値には決して到達しない。それというのも往復運動吸収損失がゲインよりも大きいからである。Wilks基準(上記)から得られる吸収係数の場合、閾値はほぼ0.3GW/cm2まで減少する。
【0122】
数値モデルを次に用いて、図11A及び11Bに示されるような10nsのFWHMの3.6μmのレーザーポンプ・パルスについて、それぞれThomas基準及びWilks基準から得られた吸収値を使用して、いくつかのポンプ強度に対応する時間的レーザー性能を計算した。Wilks吸収係数を用いた数値結果(図11B)は、ダイヤモンド・ラマンレーザー閾値が約10J/cm2であることを示唆しているのに対して、より高いThomas吸収値に関しては閾値はほぼ2倍である(図11B)。パルスの大部分は、約30J/cm2よりも大きい入力エネルギー密度の場合にストークスに変換される。公称ポンプ・スポット・サイズ60μmに対して、必要とされる対応ポンプ・パルス・エネルギーが図6に示されている。ポンプ強度が結晶全長にわたって維持されることを保証するために、材料中のレイリー範囲は約5mmよりも大きいか又はこれにほぼ等しくあるべきであり、入力ビーム質はM2=1.5未満であるか又はこれにほぼ等しくあるべきである。
【表6】
【0123】
モデルにおける平面波近似は、ダイヤモンド・ラマン材料内でポンプ場とストークス場との良好なモード・オーバラップを成す。実際に、このことは、外部共振器形態について、容易に達成することができる。なぜならば、ポンプ・ウエスト・サイズを共振ストークス場のウエスト・サイズとは独立して制御できるからである。ラマン材料を通過するのに伴うポンプ・モード・サイズは、ポンプ・レーザー、及びラマン材料中にビームを中継するビーム光学素子のビーム特性によって決定される。例えば、焦点長を低減すること、又は集束レンズ又は画像化テレスコープの位置を動かすことによって、ラマン結晶内のポンプ・スポットを増大させることができる。他方において、ストークス場のモード・サイズは主として、共振器ミラーのレンズ特性によって決定される。一般に、ポンプ・モード・サイズが共振器(ストークス)モード・サイズにほぼ等しいか又はこれよりも僅かに小さい、例えばストークス・モード・サイズの約0.5〜約1.1倍(共振器モード・サイズの例えば0.50倍、又は0.55,0.60,0.65,0.70,0.75,0.80,0.85,0.90,0.95,1.00,1.05,又は約1.10倍)であることを条件として、良好な変換効率を維持することができる。ここでポンプ・モード半径はラマン材料中で最小値である。
【0124】
基礎理論によれば、全ての他のパラメータは一定であり、モード・サイズは波長(すなわちラマンレーザーシステムの共振器内で共振するラマンシフト波長)と比例してスケーリング(増大)する。従って、同調可能なラマンレーザーシステムの場合、レーザーを同調している間に、光学素子の空間、例えばビーム・テレスコープ内のレンズの空間を調節することにより変換・出力効率を維持することが有利なことがある。すなわち、ポンプ波長が同調されるときに、ポンプ・ビームのビーム・サイズを同時に同調することによって、ラマン材料中のポンプ・ビームのサイズとラマン変換波長についての共振器モードとの間のモード整合状態を維持することができる。このことは、より長いポンプ波長に同調するときに特に重要である。なぜならば、ストークス波長はポンプ波長の増大に伴って、著しく高い速度で増大するからである。モード整合原理は外部空洞レーザー及び空洞内ラマンレーザーの両方の分野においてよく知られており、本明細書中に開示されたダイヤモンド・ラマンレーザーシステムに、必要に応じて適用することができる。
【0125】
モデリングされたレーザーポンプの閾値及び出力効率は、異なる吸収係数を用いると著しく変化することが上で判った。種々の不純物を有するダイヤモンドを使用したとき、及び動作波長を変えたときの性能の予測を可能にするために、閾値及び効率がポンプ波長及びストークス波長(それぞれαp及びαs)における吸収係数の関数として、どのように変化するかを理解することが重要である。吸収値におけるこの不確実性がどのようにモデルに影響を及ぼすかを理解することも重要である。
【0126】
これらの事項を調査するために、数値モデルを使用して、閾値に達するために必要となる所要ポンプ強度がαp及びαsの関数としてどのように変化するかを計算した。ステップ関数ポンプ・パルスを使用し、ポンプ強度を、ラマンレーザー出力が固定時間t=10nsの閾値を超えるまで変化させた。定常状態変換効率(すなわち、t→∞)も記録した。ここでもまた、試験と直接に比較することは真には実現可能ではあるが、このアプローチは、閾値及び効率の傾向が調査されるのを可能にする。効率値はこのように、より現実的な(例えばガウス)時間的ポンプ・パルス・プロフィールを用いて達成可能な最大ピーク値である。
【0127】
図12に示されているように、閾値Ip.gはαpが高められるにつれて線形よりも僅かに大きく増大する。このことは、吸収量が高くなると、結晶全長にわたって積分されたIp.gが直接に低減されることを考えれば驚くには値しない。定常状態の効率は全調査範囲にわたって僅かに減少するが、明らかにαpの強い関数ではない。他方において、αsを増大させると、主要な効果は効率を低下させることであるのに対して、閾値は弱く変化するだけである(図13参照)。これらの結果は、一次的には、ポンプ波長αpにおけるより高い吸収係数値での動作を、比例的に高いポンプ強度を用いることによって補償し得ることを示唆している。ストークス波長αsにおけるより高い吸収係数で動作する際には、閾値はほぼ同じであり続けるが、達成可能な変換効率は低くなる。
【0128】
波長の関数として、生じ得る性能に関するいくつかの定性的説明をここで行うことができる。αpはポンプ周波数1700〜2650cm-1に対してのみ大きい(>2cm-1)ので、主要な閾値増大はこの範囲内で予期されるものと思われる。原則的には、結晶に対する損傷の閾値を超えないことを条件とすると、比例的に大きいポンプ強度を用いれば、ラマンレーザー動作がこの範囲内で可能である。これらの高い吸収条件下でより短いダイヤモンド結晶を使用することは利点となり得る。範囲νs=1700〜2600cm-1(約3.8μm〜約5.8μm)内のストークス周波数における動作のために、この周波数範囲内のダイヤモンドの高い吸収係数は、最大変換効率を10%未満に制限する。このような低い変換率は多くの用途についてそれでもなお十分であることに留意されたい。良好な最大効率(>10%)が波長>5.5μm(νs>1800cm-1)に対して予測される。これらの結論は図14において、波長及び波数の関数として強調されている。
【0129】
多次ストークス生成が、ダイヤモンド・ラマンレーザーがポンプ・レーザーの波長からのシフトを増大させるのを可能にする。例えば二次ストークス生成は、出力波長をダイヤモンド・ラマンシフト(2665cm-1)の2倍ステップさせる方法を提供し、3.75μmよりも短いポンプ波長に適切である。原理的にはこのことは、極めて長い波長の源が中IRポンプ・レーザーに基づくことを可能にする。外部共振器では、第2ストークスにおける出力を集中させる方法が以前に報告されてきた[Mildren, R.P et al, “Efficient, all-solid-state, Raman laser in the yellow, orange and red(黄、橙及び赤における効率的な全固体ラマンレーザー)”, Opt. Express, vol. 12, pp785-790 (2004) 参照]が、三次にカスケーディングすることによってエネルギー損失を防止する手段は、ポンプ波長が2.5μm未満である限り、この事例では必要とならないことにも注目すべきである。
【0130】
長波長の多次ストークス生成において、ストークス波長、及びポンプ場と低次ストークス場との四波混合に対するラマンゲインの依存が、閾値を割り出すために考慮される必要があり得る。光子変換効率が極めて高いにもかかわらず、パワー又はエネルギーに基づく変換効率は、それぞれ大きいエネルギーがポンプ光子から差し引かれることに基づき、多次ストークス変換にとっては極めて低いものとなり得る。
【0131】
上記数値モデルは、ポンプ波長、結晶長、結晶吸収特性、ポンプ・パルス継続時間、及び出力カプラ値を含む多くの固定パラメータを有する外部空洞ダイヤモンド・ラマンレーザーのための予測を可能にする。これらのパラメータは、閾値に達するために必要な最低ポンプ・エネルギーを提供するパラメータに関する簡潔で非厳密な研究に基づいて選ばれる。厳密な最適化ならば、詳細で長期にわたる分析が必要となるところであるが、下記表7に見られるように、(ポンプ・レーザー、結晶材料、及び共振器設計を含む)設計パラメータを選択するのを補助するために、重要パラメータの効果を定性的に検討すれば有用である。
【表7】
【0132】
中赤外から遠赤外のダイヤモンド・ラマンレーザーシステムの数値モデリングは、約5.5マイクロメートル超の光(典型的には約5.5〜約8マイクロメートルの範囲内)を生成する実際のレーザーシステムを、約3.2〜約3.8マイクロメートルの範囲内のポンプ放射を生成するポンプ源を使用して実現することができる。数値モデリングはまた、約3〜約7.5マイクロメートルの範囲内のダイヤモンド・ラマン材料についてのポンプ波長も実現可能であることを示唆している。
【0133】
多フォノン吸収遷移に起因して、レーザーシステムのラマン閾値は約4〜5.5マイクロメートルの領域内で増大するが、モデリングはこのことが十分な強度及び/又は配置で克服され得ることを示唆している。例えばエンドポンプ配置ではなくサイドポンプ・ラマンレーザーシステムにおいて、ポンプ放射の吸収量は、所要浸透深さが短いことに起因して最小化される。
【0134】
ダイヤモンド・ラマンレーザーポンプ源
中赤外から遠赤外のダイヤモンド・ラマンレーザーシステムをポンピングするのに適したポンプ源は固体レーザー、光パラメトリック発振器、ファイバーレーザー、色中心レーザーなどを含んでよい[3〜4マイクロメートル範囲内の潜在的なレーザー源の概説として、Sorokina, I. T., Crystalline mid-infrared lasers; in Solid-State Mid-Infrared Laser Sources, Topics in Applied Physics, Springer Berlin/ Heidelberg Volume 89 2003 DOI 10.1007/3-540-36491-9_7 Pages 255-351参照]。
【0135】
光パラメトリック発振器
高ピーク・パワーパルス化ポンプ・レーザーの潜在的な候補は、光パラメトリック発振器を含む。KTA[例えばRui Fen Wu, et al, “Multiwatt mid-IR output from a Nd:YALO laser pumped intracavity KTA OPO(Nd:YALOレーザーでポンピングされた空洞内KTA OPOからのマルチワット中IR出力)” Optics Express, Vol. 8 Issue 13, pp. 694-698参照]、及びLiNbO3[例えばHideki Ishizuki and Takunori Taira, “High-energy quasi-phase-matched optical parametric oscillation in a periodically poled MgO:LiNbO3 device with a 5mm x 5mm aperture(5mm×5mmのアパーチャを有する周期的分極MgO:LiNbO3デバイスにおける高エネルギー擬似位相整合光パラメトリック発振)” Opt. Lett. 30, 2918-2920 (2005)参照]は堅牢な材料であり、有意なエネルギー及びパワーのための能力が証明されている。光パラメトリック発振器は、関心事のポンプ波長への良好なアクセスを提供し(例えば3〜7.5マイクロメートル)、そしてポンプ波長を同調することにより、同調可能なダイヤモンド・ラマンレーザー出力を提供するために使用されることができる。このような光パラメトリック発振器は、付加的な段、例えば増幅器段を含むことにより、パルス化ポンプ放射のピーク・パワーが、ダイヤモンド・ラマンレーザーシステムの閾値を得るのに十分であることを保証することができる。このような増幅器段の例は光パラメトリック発振器を含んでいてよい。
【0136】
上記モデル予測に基づいて、好適な光パラメトリック発振器(OPO)ポンプ源は、波長(約3〜7.5μm)、パルス・エネルギー(約1mJ〜約10J)、パルス継続時間(約1〜100ns)、線幅(約2cm-1未満又はこれに等しい)、及びビーム質(輝度)のための要件を満たす必要がある。3〜7.5μmのOPOは、ガス検知、及び防衛対策のような用途のために容易に入手可能ではあるものの、公表済みの利用可能なシステムの性能はこれら全ての要件を同時には満たさない。それにもかかわらず、所要の特性を有するOPOを開発する方法及び技術は、十分に確立されており、当業者に理解されている。要件を満たすことができると思われるOPOの数多くの形態も存在する。
【0137】
図17に概略的に示されている最も基本的な形において、OPO1700は、高いカイ二乗(χ2)非線形性を有する非線形結晶1701を含んでいる。非線形結晶は、共振器空洞1703内部に配置され、且つ、周波数ωpを有するポンプ・ビーム1706を生成するポンプ・レーザー1705によってポンピングされる。OPO1700は2つのビームを生成する。これらのビームは、周波数ωsを有するシグナル・ビーム1707と、周波数ωiを有するアイドラー・ビーム1709と呼ばれる。ここでアイドラーはより長い波長を有しており、そして位相整合条件ωp=ωs+ωiが満たされている。共振器1703は単一共振型であってよく、この場合、共振器リフレクタ1711及び1713は、シグナル・ビーム1707又はアイドラー・ビーム1709のうちの一方を共振させるように適合されるので、非共振ビームがOPO1700から出力ビーム1710として発せられ、或いは、共振器は二重共振型であってもよく、この場合、共振器リフレクタ1711及び1713は、シグナル・ビーム1707及びアイドラー・ビーム1709の両方を共振させるように適合され、そし出力リフレクタ1713は、シグナル・ビーム又はアイドラー・ビームの周波数で部分透過性となるように適合されるので、共振ビームの透過部分はOPO1700から出力ビーム1710として発せられる。3〜5ミクロンの範囲内の出力波長のためには、1μmに近い波長を有するポンプ・レーザー1705(例えば波長1.064μmを有するNd:YAGレーザー源)を使用すると、所望の出力ビームはアイドラー・ビーム1709となる。両事例において、入力リフレクタ1711は、ポンプ・ビーム1706を共振器1703内に透過させることにより非線形結晶1701をポンピングすることになる。
【0138】
非線形材料1701は堅牢な材料、例えばKTP、KTA及びニオブ酸リチウムを含む。KTAは、中IR波長領域における吸収量が少ないことに基づいて、高い平均パワーについてKTPに優先して使用される。非線形材料、例えばリン化亜鉛ゲルマニウム及びAgGaSe2を使用することもできるが、しかしこれらの非線形材料の損傷閾値がより低いことに基づいて、所要ピーク・パワーへのスケーリングがより難しい場合があり、さらに、これらの材料は、2ミクロン未満の波長でポンピングすることができず、標準的なポンプ・レーザー源、例えばNdドープ固体レーザーの使用を排除してしまうという欠点を有している。KTP、KTA及びニオブ酸リチウムという材料は、より高い非線形性がアクセスされるのを可能にするために、周期的に分極されてよい。
【0139】
OPOの効率は、出力光子の数をポンプ光子の一部と考えると、典型的には40〜70%である。出力ビーム1710中の出力エネルギーは、ポンプ・ビーム1706中のエネルギーを増大させることにより増大させることができる。しかし、OPO源のエレメントに対する光学損傷を回避するためには、さらに非線形材料1701中のポンプ・ビーム1706のサイズ(すなわちビーム・ウエスト)を増大させることが必要な場合がある。
【0140】
OPOポンプ源からの出力ビーム1710の線幅及びビーム質は、一般に、システムを注意深く設計しない限り、上記ダイヤモンド・ラマンレーザーをポンピングするための要件を満たさない。線幅は、共振器光学素子の帯域幅、及び非線形結晶1701内の位相整合条件によって決定される(但しポンプ線幅と他のシグナル・ビーム/アイドラー・ビームとの和よりも大きくなることはない)。出力ビーム1710の線幅は、当業者にはよく知られているように、ポンプ・ビーム1706及びシグナル・ビーム1707又はアイドラー・ビーム1709の周波数範囲を制限することによって制約されることができる。このことは、OPO共振器1703内部の付加的な線選択的エレメント、例えば格子、プリズム又はエタロン(図示せず)を使用することによりしばしば達成される。
【0141】
当業者には明らかな別の配置において、OPO1700及びポンプ・ビーム源1705は同じ共振器を共有してもよく、これはしばしば空洞内OPOと呼ばれる。これは、低パルス・エネルギーで効率的な変換を可能にするために、高パルス・レートでしばしば使用される。
【0142】
非線形材料中のポンプ・ビームのスポット・サイズをスケーリングすることによってOPOからの出力ビーム中の出力エネルギーをスケーリングする場合、高いビーム質を維持することがしばしば難しい。さらに、狭線幅OPOの出力スケーリングも、線選択的エレメント(例えば格子、プリズム、又はエタロン)の損傷閾値が典型的には低いことに起因して困難である。これらの問題点を克服するよい方法は、図18Aに概略的に示されているような注入シードOPO1810、又は図18Bに概略的に示されているような光学パラメトリック増幅器(OPA)1820を使用することである。OPO又はOPA(それぞれ1817,1827)を、親発振器シード源(それぞれ1813,1823)からのシード・ビーム(それぞれ1814,1824)でシーディングすることにより、ビーム質及びOPOからの出力(それぞれ1819,1829)の空間特性は、シード・ビーム(それぞれ1814,1824)のものと、より密接に類似する。本明細書中に開示されたOPOシステムのそれぞれは、本明細書中に開示されたダイヤモンド・ラマンレーザーシステムをポンピングするために利用可能な光学パワーを高めるために、任意には出力部の増幅段(例えば光学パラメトリック増幅器)を含んでいてもよい。
【0143】
低い繰り返し速度でポンプ・レーザーを操作することが、ポンプ・ビーム中の光学ピーク・パワーを増大させるために有利である場合もある。シード・レーザー又は親発振器(それぞれ1813,1823)はしばしば、主要「パワー」OPO又はOPAと同じポンプ・レーザーによってポンピングされたOPOであるが、別個のレーザーであってもよい。注入シードOPO装置の利点は、より高いゲインが可能なので、必要となる注入エネルギーが極めて低いことである。
【0144】
本明細書中に開示された中赤外から遠赤外のダイヤモンド・ラマンレーザーシステムをポンピングするための要件に近い性能特性を有する多くのOPO例がある。
【0145】
例えば、Das [S. Das, IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. 45, No. 9, September 2009]は、3.5ミクロンへの変換率10%、パルス・エネルギー2〜5mJ、パルス継続時間10ns、及び線幅0.5〜2cm-1を有する、1064nmでポンピングされるKTA OPOのよい例を記述している。
【0146】
Wu [Rui Fen Wu, et al, “Multiwatt mid-IR output from a Nd:YALO laser pumped intracavity KTA OPO(Nd:YALOレーザーでポンピングされた空洞内KTA OPOからのマルチワット中IR出力)” Optics Express, Vol. 8 Issue 13, pp. 694-698参照]も、平均パワー4Wで動作する空洞内3.5ミクロンKTA OPOの例を記述しており、このKTA OPOは、ダイヤモンド・ラマンレーザーをポンピングする適合性のために改変され、パルス・エネルギーを高めることによって改善されることができる。このことは、例えばパルス繰り返し速度を低下させ、そして線選択的エレメントを含むことによって線幅を低減させることによって達成されることができる。
【0147】
Johnson [B.C. Johnson, V.J. Newell, J.B. Clark, and E.S. McPhee, J. Opt. Soc. Am. B/Vol. 12, p2122 (1995)]は、同時に高パルス・エネルギー、狭線幅、及び高出力ビーム質を有して動作する注入シード・パワーOPOを示している。Johnsonの設計は、本明細書中に論じられた設計原理を中赤外OPOシステムに適用することによって、所要の中IR波長を生成する適合性のために改変されることができる。
【0148】
本明細書中に開示された中赤外から遠赤外のダイヤモンド・ラマンレーザーシステムをポンピングするための、線幅、ビーム質、及びピーク・パワーの要件を満たすことを目的とした出力ビーム1840を有するOPOポンプ源1830の示唆される実際の設計例が、図18Cに概略的に示されている。概略図は、狭線幅シードOPO1833、及び不安定共振器空洞を有するパワーOPO1835をポンピングする10nsポンプ・パルスを生成するように適合された単一のNd;YAGパルス・レーザー源1831を示している。不安定共振器が、より良好なビーム質を生成するためにレーザーシステムにおいて利点を有している。
【0149】
上記技術は、5〜7.5ミクロンの範囲内の波長を有する好適なダイヤモンド・ラマンレーザーポンプ源を形成するように適合されることができる。
【0150】
固体レーザーポンプ源
上述のように、好適な波長及び光学特性、すなわち3〜7.5μmの波長、約1mJ〜約10mJのパルス・エネルギー、約1〜20nsのパルス継続時間、約10cm-1以下の線幅(例えば約0.1〜約10cm-1、約0.1cm-1未満の線幅に対しては、アクティブな線幅減少を採用してもよい)、及び良好なビーム質(輝度)を有する固体レーザー源を用いて、本明細書中に開示されたダイヤモンド・ラマンレーザーシステムをポンピングすることもできる。例えばEr:YAGは、高いエネルギーと2.9ミクロン近くの高いパワーとを生成する、幅広く使用されているレーザー材料であり、高いピーク・パワーを生成するためにQ切り換えモードで操作されることができる。約7.5μmのダイヤモンド・ラマンレーザーシステムからのラマン変換出力を提供するために、タングステン酸カリウムガドリニウム(KGW)の768cm-1ラマンシフトを用いてEr:YAGレーザーをラマンシフトすることによって、約3.8μmのポンプ波長を有する源の一例を実現することができる。ポンプ源におけるレーザーErレーザーホスト(例えばEr:YSGG)又はタングステン酸ラマン材料の組成を変えることにより、他の隣接する波長が可能である。3〜4マイクロメートルのポンプ光の更なる潜在的な源は、ホルミウム及びツリウムでドープされたレーザー(これらは2ミクロン近くの良好なポンプレーザー源である)のラマンシフト出力を含む。ホルミウム・レーザー材料Cr:Tm:Ho:YAGをQ切り換えモードで操作することにより、2.1マイクロメートルの高いピーク・パワーを生成することができる。このピーク・パワーは次いでラマンシフトすることによって、3〜4マイクロメートル範囲内のポンプ波長を提供することができる。
【0151】
希土類でドープされたレーザー材料、すなわち、ランタニド(例えばエルビウム、ホルミウム、ツリウム、プラセオジミウム、イッテルビウム)又はその他の不純物イオン(例えばセリウム)でドープされた固体ホスト材料(ガラス、結晶、ポリマー、又はセラミック材料)の好適な組み合わせを、好適な固体非線形及び/又はラマン活性材料と一緒に使用して、約3μm〜約7.5μmの範囲内の出力波長を有する他の固体ポンプ源を開発することにより、レーザー材料からの基本レーザー出力を、ダイヤモンド・ラマンレーザーシステムをポンピングするための所望範囲内の波長に変換することもできる。材料の好適な組み合わせは当業者によって容易に選択されるが、ポンプ源はまた、効率的な動作のためのダイヤモンド・ラマンレーザーシステムのモデリングに関連して上述したポンプ・ビーム質要件を満たすことを必要とすることになる。
【0152】
本明細書中に記載され且つ/又は図面に示されたダイヤモンド・ラマンレーザーシステム、及び操作方法は一例にすぎず、本発明の範囲として限定されることはない。他に特に明記しない限り、本明細書中に記載されたシステム及び方法の個々の態様及び構成部分は変更されてよく、或いは、既知の等価物、又は未知の代替物、例えば将来開発され得る、又は将来容認可能な代替物であることが見いだされ得るものによって置き換えられていてよい。潜在的な用途が多様であるため、また、ここに記載した本システム及び本方法が数多くのこのような変化に適合し得るようになっているため、本明細書中に記載されたシステム及び方法は、主張された本発明の範囲及び思想の中に留まりながら種々の用途のために変更されてもよい。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16
図17
図18A
図18B
図18C