【実施例】
【0074】
実施例1
本実施形態の細胞保存液を用いて細胞を保存した後、該細胞のDNAの保存安定性を検討した。比較のため、市販の細胞保存液を用いて、同様の検討を行った。
【0075】
1.材料
(1-1) 細胞保存液
メタノール(和光純薬工業株式会社)及び塩化マグネシウム(キシダ化学株式会社)を、以下の表1に示される組成となるように混合して調製した(以下、「実施例1の細胞保存液」ともいう)。この細胞保存液の調製において、溶媒として水を用い、緩衝剤としてPIPES(同仁化学研究所)を20 mMとなるよう添加した。pHの調整にはNaOH水溶液を用いた。この細胞保存液のpHは6.7であった。市販の細胞保存液として、PreservCyt(登録商標)(ホロジック社)を用いた。PreservCyt(登録商標)の詳細な組成は公開されていないが、メタノールを主成分とする水性緩衝液であることが知られている。なお、ICP発光分光分析装置(エスアイアイナノテクノロジー社)を用いた組成分析によると、PreservCyt(登録商標)から二価の金属イオンは検出されなかった。
【0076】
【表1】
【0077】
(1-2) 細胞
細胞保存液で保存する細胞として、ヒト子宮頸癌細胞株HeLa(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)より入手)を用いた。HeLa細胞は、ウシ胎仔血清(FBS:ハイクローン社)を10%含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM:シグマアルドリッチ社)を用いて、37℃、5%CO
2雰囲気下で培養した。
【0078】
2.DNAの保存安定性の検討
(2-1) 細胞の保存
培養したHeLa細胞を常法により回収して計数した。HeLa細胞(1×10
6個)を、15 mL容量のプラスチックチューブ(ラブコン社)に分注した実施例1の細胞保存液(12 mL)又は市販の細胞保存液(12 mL)に添加して、細胞を細胞保存液に浸漬した。これらを1℃又は31℃の温度条件下で2週間、1ヶ月間又は2ヶ月間保存した。なお、臨床現場では、細胞の保存は一般的に冷蔵庫内(約4℃)で行われる。本実施例で設定した温度条件である「1℃」は、この冷蔵庫の温度よりも低い温度である。また、本実施例においては、細胞保存液が臨床現場の室温で用いられ得るか否かを検証するため、室温よりも高温の「31℃」でも実験を行った。
【0079】
(2-2) DNA抽出
HeLa細胞と保存液とを含む試料を、10,000 rpmで1分間遠心し、上清を除去した。回収した細胞から、QIAamp DNA Mini Kit(キアゲン社製)を用いてDNAを抽出した。具体的な操作は、当該キットに添付されたマニュアルに従って行った。また、対照として、実施例1の細胞保存液又は市販の細胞保存液に3時間浸漬したHeLa細胞(以下、「固定直後の細胞」ともいう)から、上記と同様にして、DNAを抽出した。
【0080】
(2-3) 電気泳動
各DNA溶液の吸光度を分光光度計nanodrop2000 (Thermo Fisher Scientific社製)で測定して、DNA濃度を取得した。アガロースゲル電気泳動用サンプルを、各サンプルに含まれるDNA量が500 ng/レーンとなるように、DNA溶液から調製した。得られたサンプルを、0.5%アガロースゲルに電気泳動した。
【0081】
3.結果
電気泳動の結果を、
図1に示す。
図1に示されるように、市販の細胞保存液を用いた場合では、一定期間保存した細胞から取得したDNAのヌクレオチド長は、固定直後の細胞から取得したDNAに比べて短くなっており、DNAが分解されていたことがわかる。これは、市販の細胞保存液では、保存の間にDNAが適切に維持されなかったことを示している。よって、市販の細胞保存液を用いた場合、保存後の細胞のDNA分析を適切に行えない可能性があることが示唆される。これに対して、実施例1の細胞保存液を用いた場合では、いずれの温度条件及び保存期間であっても、保存後の細胞から取得したDNAのヌクレオチド長は、固定直後の細胞から取得したDNAのヌクレオチド長とほぼ変わらなかった。よって、実施例1の細胞保存液を用いれば、細胞を一定期間保存した後であってもDNA分析を適切に行えることが示唆された。
【0082】
実施例2
実施例1の細胞保存液を用いて細胞を保存した後、該細胞のDNAに含まれる所定の核酸(HPV由来の核酸)を検出することにより、細胞中のDNAの保存安定性を検討した。比較のため、市販の細胞保存液であるPreservCyt(登録商標)(ホロジック社)を用いて、同様の検討を行った。
【0083】
1.市販の細胞保存液によるDNAの保存安定性の検討
(1-1) 細胞の保存
8名の被検者の子宮頸部から子宮頸部細胞(8検体)を採取した。8検体をそれぞれPreservCyt(登録商標)(12 mL)に添加して、細胞を細胞保存液に浸漬した。それぞれの検体を3つに等分して、アリコート1〜3を得た。アリコート1については、細胞保存液への添加直後(固定直後)に後述の核酸検出を行った。アリコート2については、1℃で1ヶ月間又は2ヶ月間保存した後、後述の核酸検出を行った。アリコート3については、31℃で1ヶ月間又は2ヶ月間保存した後、後述の核酸検出を行った。各検体の検体番号及び保存条件を、表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
(1-2) 核酸検出
実施例2では、子宮頸部細胞に感染したHPVに由来する核酸をハイブリッドキャプチャー(HC)法により検出した。HC法の前処理として、HC2 Sample Conversion Kit(製品番号5127-1220、キアゲン社)を用いて、各アリコートに含まれる細胞のDNAを抽出した。具体的な操作は、当該キットに添付されたマニュアルに従って行った。各アリコートから得たDNAについて、HPV-DNA検出キットであるHPV DNA「キアゲン」HCII(製品番号618915、キアゲン社)を用いて、HPV由来の核酸の検出を行った。具体的な操作は、当該キットに添付されたマニュアルに従って行った。
【0086】
(1-3) 結果
結果を
図2A及び
図2Bに示す。図中、縦軸は、HC法により測定された化学発光強度(HC2インデックス値)の対数を示し、横軸の「0 day」は、保存期間が0日(固定直後)であることを示し、「1m/2m」は、保存期間が1ヶ月又は2ヶ月であることを示す。
図2Aに示されるように、アリコート2のHC2インデックス値は、アリコート1のHC2インデックス値よりも低下している傾向にあった。また、
図2Bに示されるように、アリコート3のHC2インデックス値は、アリコート1のHC2インデックス値よりも低下していた。これらの結果は、被検者から採取した子宮頸部細胞を、市販の細胞保存液中に1℃又は31℃で1ヶ月間又は2ヶ月間保存したことにより、細胞中の核酸が分解したことを示す。
【0087】
2.本実施形態の細胞保存液によるDNAの保存安定性の検討
(2-1) 細胞の保存
上記の8名とは異なる12名の被検者の子宮頸部から子宮頸部細胞(12検体)を採取した。12検体をそれぞれ実施例1の細胞保存液(12 mL)に添加して、細胞を細胞保存液に浸漬した。それぞれの検体を3つに等分して、アリコート1〜3を得た。アリコート1については、細胞保存液への添加直後(固定直後)に、細胞を回収して−60℃にて保存した。2ヶ月後、アリコート1から回収した細胞について、アリコート2及び3と共に、後述の核酸検出を行った。アリコート2については、1℃で2ヶ月間保存した後、後述の核酸検出を行った。アリコート3については、31℃で2ヶ月間保存した後、後述の核酸検出を行った。各検体の検体番号及び保存条件を、表3に示す。
【0088】
【表3】
【0089】
(2-2) 核酸検出
上記と同様にして、子宮頸部細胞に感染したHPVに由来する核酸をハイブリッドキャプチャー(HC)法により検出した。HC法の前処理及びHC法による核酸の検出は、それぞれ、HC2 Sample Conversion Kit(キアゲン社)及びHPV DNA「キアゲン」HCII(キアゲン社)を用いて行った。具体的な操作は、各キットに添付されたマニュアルに従って行った。
【0090】
(2-3) 結果
結果を
図3A及び
図3Bに示す。図中、縦軸は、HC法により測定された化学発光強度(HC2インデックス値)を示し、横軸の「0 day」は、保存期間が0日(固定直後)であることを示し、「2m」は、保存期間が2ヶ月であることを示す。
図3Aに示されるように、アリコート2のHC2インデックス値は、アリコート1のHC2インデックス値とほぼ同等であった。また、
図3Bに示されるように、アリコート3のHC2インデックス値は、アリコート1のHC2インデックス値よりも低下していた。これらの結果は、被検者から採取した子宮頸部細胞を、実施例1の細胞保存液中に1℃又は31℃で2ヶ月間保存しても、細胞中の核酸を適切に維持できることがわかった。
【0091】
実施例3
実施例1の細胞保存液で保存した細胞が、細胞標本染色に適するかを検討した。比較のため、市販の細胞保存液であるPreservCyt(登録商標)(ホロジック社)で保存した細胞を用いた。
【0092】
1.市販の細胞保存液で保存した細胞の染色
被検者の子宮頸部から採取した細胞を、PreservCyt(登録商標)(20 mL)中に懸濁し、室温で2日間静置した。スライド作成装置ThinPrep2000(ホロジック社)を用いて、細胞懸濁液から、細胞を付着させたスライドを作成した。具体的な操作は、当該装置の取扱説明書に従って行った。作成したスライドを、下記の表4に示す手順に従ってパパニコロウ染色した。
【0093】
【表4】
【0094】
2.本実施形態の細胞保存液で保存した細胞の染色
被検者の子宮頸部から採取した細胞を、実施例1の細胞保存液(20 mL)中に懸濁し、室温で2日間静置した。そして、細胞懸濁液を800 gで10分間遠心し、上清を除去した。沈殿物に200μLの脱イオン水を添加して懸濁した後、得られた懸濁液の全量を、スライドガラス(BDシュアパスプレコートスライド、ベクトン・ディッキンソン社)に設置したチャンバー(BDセトリングチャンバー、ベクトン・ディッキンソン社)内に添加し、10分間静置した。その後、スライド上の細胞を95%エタノールで固定した。作成したスライドを、上記の表4に示す手順に従い、パパニコロウ染色した。
【0095】
3.結果
結果を
図4に示す。
図4に示されるように、本実施形態の細胞保存液で保存した細胞をパパニコロウ染色すると、市販の細胞保存液で保存した細胞と同等の染色像が得られた。
【0096】
実施例4
細胞保存液のマグネシウムイオン濃度と、細胞のDNAの安定性との関連を、フローサイトメトリにより検討した。
【0097】
1.材料
(1-1) 細胞保存液
実施例4では、メタノール(和光純薬工業株式会社)及び塩化マグネシウム(キシダ化学株式会社)を、以下の表5に示される組成となるように混合して細胞保存液を調製した。これらの細胞保存液の調製において、溶媒として水を用い、緩衝剤としてPIPES(同仁化学研究所)を20 mMとなるよう添加した。pHの調整にはNaOH水溶液を用いた。いずれの細胞保存液もpHは6.6であった。
【0098】
【表5】
【0099】
(1-2) 細胞
細胞保存液で保存する細胞として、ヒト子宮頸癌細胞株HeLa(ATCCより入手)を用いた。HeLa細胞は、実施例1と同様にして培養した。
【0100】
(1-3) 試薬及びフローサイトメータ
染色液及びRNA除去剤として、GC-SEARCH KIT(シスメックス株式会社)を用いた。希釈液として、GC-PACK(シスメックス株式会社)を用いた。フローサイトメータとして、剥離細胞分析装置LC-1000(シスメックス株式会社)を用いた。
【0101】
2.細胞の保存及びフローサイトメトリ(FCM)分析
細胞保存液1〜4のそれぞれにHeLa細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を1℃又は31℃で24時間静置した。細胞懸濁液を10,000 rpmで1分間遠心分離した後、上清を除去した。細胞を含む残存液(30μL)に希釈液(1mL)を加え、10,000 rpmで1分間遠心分離した後、上清を除去した。細胞を含む残存液(30μL)に、染色液、RNA除去剤、及び希釈液を加えて測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、個々の細胞から検出された蛍光面積を横軸に取り、細胞数を縦軸に取った頻度分布(ヒストグラム)を作成した。なお、蛍光面積は、細胞のDNA量を反映する指標である。
【0102】
3.結果
作成した蛍光面積のヒストグラムを、
図5に示す。ここで、蛍光面積のヒストグラムについて説明する。蛍光面積のヒストグラムでは、通常、2つのピークが認められることが知られている。すなわち、二倍体細胞の集団により形成されるピークと、細胞増殖により四倍体になった細胞の集団により形成されるピークである。DNA量は、四倍体になった細胞の方が二倍体細胞よりも多い。一般に、二倍体細胞のDNA量は一定であることが知られている。よって、DNAが安定である場合、二倍体細胞の蛍光面積は一定となるので、蛍光面積のヒストグラムにおいて二倍体細胞のピークがシャープに出現する。一方で、蛍光面積はDNA量を反映する指標であることから、DNAが不安定化して分解や断片化が生じた場合、二倍体細胞のDNA量は一定でなくなり、蛍光面積の変動が生じる。その結果、ヒストグラムにおいて、二倍体細胞のピークはシャープではなくなる。
【0103】
図5に示されるように、1℃の温度条件では、細胞保存液1〜4のいずれを用いて細胞を保存しても、蛍光面積のヒストグラムの形状が正常であった。しかし、二価の金属イオン濃度が低い細胞保存液1、2及び3を用いて31℃で細胞を保存すると、ヒストグラムの形状が崩れた。これに対して、二価の金属イオン濃度を20 mmol/Lとした細胞保存液4を用いた場合は、31℃の温度条件でも、ヒストグラムの形状の崩れは確認されなかった。よって、二価の金属イオン濃度を適切に設定することにより、高温で保存する場合でも、低温で保存した場合と同様にDNAを安定に維持し、ヒストグラムの崩れを防止できることが示された。
【0104】
実施例5
細胞保存液のマグネシウムイオン濃度と、細胞のDNAの安定性との関連を、フローサイトメトリにより検討した。
【0105】
1.材料
実施例5では、メタノール(和光純薬工業株式会社)及び塩化マグネシウム(キシダ化学株式会社)を、以下の表6に示される組成となるように混合して細胞保存液を調製した。これらの細胞保存液の調製において、溶媒として水を用い、緩衝剤としてPIPES(同仁化学研究所)を20 mMとなるよう添加した。pHの調整にはNaOH水溶液を用いた。いずれの細胞保存液もpHは6.6であった。細胞、試薬及びフローサイトメータは、実施例4と同じである。
【0106】
【表6】
【0107】
2.細胞の保存及びFCM分析
細胞保存液5〜26のそれぞれにHeLa細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を25℃で4時間又は30℃で24時間静置した。実施例4と同様にして、細胞懸濁液から測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、実施例4と同様にして、蛍光面積のヒストグラムを作成した。ヒストグラム形状の安定性の指標を、次のようにして算出した。なお、算出についての説明のため、
図6を参照する。細胞保存液14(MgCl
2濃度が20 mmol/L)を用いて25℃で4時間保存した細胞のヒストグラムより、二倍体細胞領域の蛍光面積の最頻値を算出した。最頻値は、
図6中、アローヘッドで示されるピークに該当する。二倍体細胞領域の蛍光面積の最頻値の75%を下限とし、二倍体細胞領域の蛍光面積の最頻値の125%を上限とする二倍体細胞出現領域を定義した。この領域は、
図6中、二本の線で挟まれた領域に該当する。二倍体細胞出現領域における蛍光面積の変動係数(CV)を算出し、これを、ヒストグラムの形状の安定性の指標とした。当該領域における蛍光面積の変動係数(CV)の値が大きいほど、二倍体細胞についてのヒストグラムの形状が崩れていることを示す。
【0108】
3.結果
結果を、
図7A及び
図7Bに示す。
図7Aに示されるように、25℃で4時間保存した場合は、0mmol/L〜200 mmol/Lの範囲のうち、いずれの塩化マグネシウム濃度の細胞保存液を用いても、二倍体細胞出現領域におけるCVの値は低く、また塩化マグネシウムの濃度によるCVの値の変動はほとんど認められなかった。一方、
図7A及び
図7Bに示されるように、30℃で24時間保存した場合は、二倍体細胞出現領域におけるCVの値は、塩化マグネシウム濃度が低値又は高値の細胞保存液を用いたときに顕著に増大した。これらの結果より、細胞保存液11〜19を用いた場合、すなわち、細胞保存液における二価の金属イオン濃度が6mmol/L〜82 mmol/Lである場合、ヒストグラム形状の崩れを防止する効果があることが確認された。上述のとおり、蛍光面積は、細胞のDNA量を反映する指標であることから、DNAが不安定化して分解や断片化が生じた場合、二倍体細胞のDNA量は一定でなくなり、蛍光面積の変動が生じる。その結果、二倍体細胞のヒストグラムの形状が崩れる。したがって、細胞保存液の二価の金属イオン濃度を6mmol/L〜82 mmol/Lとすることで、細胞のDNAの安定化に寄与したと考えられる。
【0109】
実施例6
細胞保存液の低級アルコール濃度と、細胞のDNAの安定性との関連を、フローサイトメトリにより検討した。
【0110】
1.材料
実施例6では、メタノール(和光純薬工業株式会社)及び塩化マグネシウム(キシダ化学株式会社)を、以下の表7に示される組成となるように混合して細胞保存液を調製した。これらの細胞保存液の調製において、溶媒として水を用い、緩衝剤としてPIPES(同仁化学研究所)を20 mMとなるよう添加した。pHの調整にはNaOH水溶液を用いた。いずれの細胞保存液もpHは6.7であった。細胞、試薬及びフローサイトメータは、実施例4と同じである。
【0111】
【表7】
【0112】
2.細胞の保存及びFCM分析
細胞保存液27〜46のそれぞれにHeLa細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を30℃で24時間静置した。実施例4と同様にして、細胞懸濁液から測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、実施例4と同様にして、蛍光面積のヒストグラムを作成した。
【0113】
3.結果
作成した蛍光面積のヒストグラムを、
図8A、
図8B及び
図8Cに示す。
図8A及び
図8Bに示されるように、細胞保存液の二価の金属イオン濃度が10 mmol/L〜60 mmol/Lであるとき、メタノール(MeOH)濃度が38 v/v%〜48 v/v%であっても、蛍光面積のヒストグラムの形状は良好に維持された。また、
図8Cに示されるように、細胞保存液の二価の金属イオン濃度が20 mmol/L又は40 mmol/Lであるとき、メタノール濃度が35 v/v%又は50 v/v%であっても、蛍光面積のヒストグラムの形状は良好に維持された。
【0114】
実施例7
細胞保存液のpHと、細胞のDNAの安定性との関連を、フローサイトメトリにより検討した。
【0115】
1.材料
実施例7では、メタノール(和光純薬工業株式会社)及び塩化マグネシウム(キシダ化学株式会社)を、以下の表8に示される組成となるように混合して細胞保存液を調製した。これらの細胞保存液の調製において、溶媒として水を用い、緩衝剤としてPIPES(同仁化学研究所)を20 mMとなるよう添加した。pHの調整にはNaOH水溶液を用いた。細胞保存液47〜50のpHは6.4であり、細胞保存液51〜54のpHは7.0であった。細胞、試薬及びフローサイトメータは、実施例4と同じである。
【0116】
【表8】
【0117】
2.細胞の保存及びFCM分析
細胞保存液47〜54のそれぞれにHeLa細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を30℃で24時間静置した。実施例4と同様にして、細胞懸濁液から測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、実施例4と同様にして、蛍光面積のヒストグラムを作成した。
【0118】
3.結果
作成した蛍光面積のヒストグラムを、
図9に示す。
図9に示されるように、細胞保存液の二価の金属イオン濃度が10 mmol/L〜60 mmol/Lであるとき、pHが6.4又は7.0であっても、蛍光面積のヒストグラムの形状は良好に維持された。
【0119】
実施例8
二価の金属イオンとしてカルシウムイオンを用いて、細胞保存液のカルシウムイオン濃度と、細胞のDNAの安定性との関連を、フローサイトメトリにより検討した。
【0120】
1.材料
実施例8では、メタノール(和光純薬工業株式会社)及び塩化カルシウム(キシダ化学株式会社)を、以下の表9に示される組成となるように混合して細胞保存液を調製した。これらの細胞保存液の調製において、溶媒として水を用い、緩衝剤としてPIPES(同仁化学研究所)を20 mMとなるよう添加した。pHの調整にはNaOH水溶液を用いた。いずれの細胞保存液もpHは6.7であった。細胞、試薬及びフローサイトメータは、実施例4と同じである。
【0121】
【表9】
【0122】
2.細胞の保存及びFCM分析
細胞保存液55〜57のそれぞれにHeLa細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を1℃又は31℃で24時間静置した。実施例4と同様にして、細胞懸濁液から測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、実施例4と同様にして、蛍光面積のヒストグラムを作成した。
【0123】
3.結果
作成した蛍光面積のヒストグラムを、
図10に示す。
図10に示されるように、1℃の温度条件では、細胞保存液55〜57のいずれを用いて細胞を保存しても、蛍光面積のヒストグラムの形状が正常であった。しかし、二価の金属イオン濃度が低い細胞保存液55及び56を用いて31℃で細胞を保存すると、ヒストグラムの形状が崩れた。これに対して、二価の金属イオン濃度を20 mmol/Lとした細胞保存液57を用いた場合は、31℃の温度条件でも、ヒストグラムの形状の崩れは確認されなかった。よって、二価の金属イオン濃度を適切に設定することにより、高温で保存する場合でも、低温で保存した場合と同様にDNAを安定に維持し、ヒストグラムの崩れを防止できることが示された。
【0124】
比較例1
市販の細胞保存液を用いて保存した細胞について、DNAの安定性をフローサイトメトリにより検討した。
【0125】
1.材料
比較例1では、市販の細胞保存液として、PreservCyt(登録商標)(ホロジック社)を用いた。また、細胞、試薬及びフローサイトメータは、実施例4と同じである。
【0126】
2.細胞の保存及びFCM分析
PreservCyt(登録商標)にHeLa細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を室温で30分間、31℃で24時間又は31℃で7日間静置した。実施例4と同様にして、細胞懸濁液から測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、実施例4と同様にして、蛍光面積のヒストグラムを作成した。
【0127】
3.結果
作成した蛍光面積のヒストグラムを、
図11に示す。
図11に示されるように、室温で30分間の保存条件では、蛍光面積のヒストグラムの形状が正常であった。しかし、31℃で24時間又は7日間の保存条件では、ヒストグラムの形状が崩れた。よって、市販の細胞保存液は、本実施形態の細胞保存液とは異なり、31℃の温度条件での保存には適していないことがわかる。
【0128】
実施例9
細胞保存液のカルシウムイオン濃度と、細胞のDNAの安定性との関連を、フローサイトメトリにより検討した。
【0129】
1.材料
(1-1) 細胞保存液
実施例9では、メタノール(和光純薬工業株式会社)及び塩化カルシウム(キシダ化学株
式会社)を、以下の表10に示される組成となるように混合して細胞保存液を調製した。これらの細胞保存液の調製において、溶媒として水を用い、緩衝剤としてPIPES(同仁化学研究所)を20 mMとなるよう添加した。pHの調整にはNaOH水溶液を用いた。いずれの細胞保存液もpHは6.6であった。細胞、試薬及びフローサイトメータは、実施例4と同じである。
【0130】
【表10】
【0131】
2.細胞の保存及びFCM分析
細胞保存液58〜64のそれぞれにHeLa細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を30℃で24時間静置した。実施例4と同様にして、細胞懸濁液から測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、実施例4と同様にして、蛍光面積のヒストグラムを作成した。
【0132】
3.結果
作成した蛍光面積のヒストグラムを、
図13に示す。
図13に示されるように、カルシウムイオン濃度が6、20及び82 mmol/Lの細胞保存液60、61及び62を用いて30℃で細胞を保存した場合は、ヒストグラムの形状が良好であった。上述のとおり、蛍光面積は、細胞のDNA量を反映する指標である。すなわち、蛍光面積のヒストグラムの形状が良好であることは、保存の間、細胞のDNAが安定に維持されていたことを示す。よって、カルシウムイオン濃度を適切に設定することにより、30℃の温度条件で保存しても細胞のDNAを安定に維持できることが示された。
【0133】
実施例10
二価の金属イオンとしてマグネシウムイオン及びカルシウムイオンの両方を含む細胞保存液を用いて細胞を固定及び保存した。保存した細胞のDNAの安定性を、フローサイトメトリにより検討した。比較のため、二価の金属イオンを含まない細胞保存液も用いた。
【0134】
1.材料
(1-1) 細胞保存液
実施例10では、メタノール(和光純薬工業株式会社)、塩化マグネシウム(キシダ化学株式会社)及び塩化カルシウム(キシダ化学株式会社)を、以下の表11に示される組成となるように混合して細胞保存液を調製した。これらの細胞保存液の調製において、溶媒として水を用い、緩衝剤としてPIPES(同仁化学研究所)を20 mMとなるよう添加した。pHの調整にはNaOH水溶液を用いた。いずれの細胞保存液もpHは6.7であった。細胞、試薬及びフローサイトメータは、実施例4と同じである。
【0135】
【表11】
【0136】
2.細胞の保存及びFCM分析
細胞保存液65及び66のそれぞれにHeLa細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を30℃で24時間静置した。実施例4と同様にして、細胞懸濁液から測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、実施例4と同様にして、蛍光面積のヒストグラムを作成した。
【0137】
3.結果
作成した蛍光面積のヒストグラムを、
図14に示す。
図14に示されるように、二価の金属イオンを含まない細胞保存液65を用いて30℃で細胞を保存すると、ヒストグラムの形状が崩れた。これに対して、二価の金属イオンの合計濃度が20 mmol/Lの細胞保存液66を用いた場合は、ヒストグラムの形状が良好であった。よって、2種類の二価の金属イオンを適切な濃度で含む細胞保存液を用いることにより、30℃の温度条件で保存しても細胞のDNAを安定に維持できることが示された。
【0138】
実施例11
低級アルコールとしてエタノールを含む細胞保存液を用いて細胞を固定及び保存した。保存した細胞のDNAの安定性を、フローサイトメトリにより検討した。
【0139】
1.材料
(1-1) 細胞保存液
実施例11では、エタノール(和光純薬工業株式会社)及び塩化マグネシウム(キシダ化学株式会社)を、以下の表12に示される組成となるように混合して細胞保存液を調製した。これらの細胞保存液の調製において、溶媒として水を用い、緩衝剤としてPIPES(同仁化学研究所)を20 mMとなるよう添加した。pHの調整にはNaOH水溶液を用いた。この細胞保存液のpHは6.7であった。細胞、試薬及びフローサイトメータは、実施例4と同じである。
【0140】
【表12】
【0141】
2.細胞の保存及びFCM分析
細胞保存液67にHeLa細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を30℃で7日間静置した。実施例4と同様にして、細胞懸濁液から測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、実施例4と同様にして、蛍光面積のヒストグラムを作成した。
【0142】
3.結果
作成した蛍光面積のヒストグラムを、
図15に示す。
図15に示されるように、低級アルコールとしてエタノールを含む細胞保存液67で細胞を保存した場合、ヒストグラムの形状が良好であった。よって、エタノール及び二価の金属イオンを適切な濃度で含む細胞保存液を用いることにより、30℃の温度条件で保存しても細胞のDNAを安定に維持できることが示された。
【0143】
比較例2
本実施形態の細胞保存液及び特許文献1(米国特許第5,256,571号明細書)の実施例5に記載の細胞保存液を用いて保存した細胞について、DNAの安定性を比較した。
【0144】
1.材料
(1-1) 細胞保存液
本実施形態の細胞保存液として、上記の実施例1の細胞保存液を用いた。また、特許文献1の実施例5に記載の細胞保存液(以下、「比較例2の細胞保存液」ともいう)として、下記の組成の細胞保存液を調製した。なお、細胞、試薬及びフローサイトメータは、実施例4と同じである。
【0145】
<比較例2の細胞保存液>
1 mM 酢酸マグネシウム六水和物
2 mM 酢酸カルシウム一水和物
10 mM 塩化カリウム
0.1% 塩化ナトリウム
20% メタノール
【0146】
2.細胞の保存及びFCM分析
実施例1の細胞保存液及び比較例2の細胞保存液のそれぞれにHeLa細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を30℃で7日間静置した。実施例4と同様にして、細胞懸濁液から測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、実施例4と同様にして、蛍光面積のヒストグラムを作成した。
【0147】
3.結果
作成した蛍光面積のヒストグラムを、
図16に示す。
図16に示されるように、実施例1の細胞保存液で細胞を30℃で7日間保存した場合は、蛍光面積のヒストグラムの形状が正常であった。これに対して、比較例2の細胞保存液で細胞を保存した場合は、ヒストグラムの形状が崩れた。よって、米国特許第5,256,571号明細書の実施例5に記載の細胞保存液は、本実施形態の細胞保存液とは異なり、30℃の温度条件での保存には適していないことがわかる。
【0148】
実施例12
マグネシウムイオンを含む細胞保存液を用いて、正常組織由来の細胞を固定及び保存した。保存した細胞のDNAの安定性を、フローサイトメトリにより検討した。
【0149】
1.材料
(1.1) 細胞保存液
実施例12では、メタノール(和光純薬工業株式会社)及び塩化マグネシウム(キシダ化学株式会社)を、以下の表13に示される組成となるように混合して細胞保存液を調製した。これらの細胞保存液の調製において、溶媒として水を用い、緩衝剤としてPIPES(同仁化学研究所)を20 mMとなるよう添加した。pHの調整にはNaOH水溶液を用いた。いずれの細胞保存液もpHは6.7であった。
【0150】
【表13】
【0151】
(1-2) 細胞、試薬及びフローサイトメータ
細胞保存液で保存する正常組織由来の細胞として、ヒト臍帯静脈内皮細胞株HUVEC(ATCCより入手)を用いた。HUVEC細胞は、実施例1のHeLa細胞の培養と同様にして培養した。試薬及びフローサイトメータは、実施例4と同じである。
【0152】
2.細胞の保存及びFCM分析
細胞保存液68〜71のそれぞれにHUVEC細胞を添加して懸濁し、得られた細胞懸濁液を30℃で24時間静置した。実施例4と同様にして、細胞懸濁液から測定試料を調製した。得られた測定試料をフローサイトメータに導入して光学信号(蛍光信号及び前方散乱光信号)を取得した。そして、実施例4と同様にして、蛍光面積のヒストグラムを作成した。
【0153】
3.結果
作成した蛍光面積のヒストグラムを、
図17に示す。
図17に示されるように、マグネシウムイオンを含まない細胞保存液68を用いて30℃でHUVEC細胞を保存すると、ヒストグラムの形状が崩れた。これに対して、マグネシウムイオン濃度が6、20及び82 mmol/Lの細胞保存液69、70及び71を用いて30℃で細胞を保存した場合は、ヒストグラムの形状が良好であった。よって、本実施形態の細胞保存液を用いれば、正常組織由来の細胞を30℃の温度条件で保存しても該細胞のDNAを安定に維持できることが示された。