(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この蛍光X線分析装置は、複数のX線源から1つのX線源を選択するX線源選択手段、X線源の位置を調整するX線源調整手段、分光素子の位置を調整する分光素子位置調整手段など多くの手段が必要であり、装置の構成が複雑になり、コストアップになっていた。
【0006】
そこで、本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、基板に溶液を点滴乾燥した試料中の元素の定量や基板に形成された薄膜試料の膜厚測定など種々の測定において、低コストの簡易な構成で試料に照射される1次X線と試料の表面との成す角度である視射角を最適な角度に設定して、高感度、高精度の分析が行える斜入射蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成の斜入射蛍光X線分析装置は、X線を放射するX線源と、前記X線源から放射されたX線を分光し、試料の表面の一定位置に集光するX線ビームを形成する湾曲分光素子と、前記湾曲分光素子と試料との間に配置され、通過する前記X線ビームの幅を集光角方向に制限する線状開口を有するスリットと、前記線状開口を通過する前記X線ビームと交叉する方向へ前記スリットを移動させるスリット移動手段と、前記スリット移動手段によって前記スリットを移動させて前記X線ビームの視射角を所望の角度に設定する視射角設定手段と、前記X線ビームを照射された試料から発生する蛍光X線の強度を測定する検出器と、を備える。
【0008】
本発明の第1構成の斜入射蛍光X線分析装置によれば、基板に溶液を点滴乾燥した試料中の元素の定量や基板に形成された薄膜試料の膜厚測定など種々の測定において、低コストの簡易な構成で最適な視射角に設定して、高感度、高精度の分析が行える。
【0009】
本発明の第1構成の斜入射蛍光X線分析装置においては、前記スリットが、前記線状開口の幅を可変する可変スリットであるのが好ましい。この場合には、分析目的に応じて前記スリットを通過するX線ビームの幅を可変してX線ビームの集光角を可変することによって、より高感度かつ高精度の測定をすることができる。特に、可変スリットの線状開口の幅を広げた場合には、より高強度のX線ビームが試料に照射されてより高感度にすることができる。
【0010】
本発明の第1構成の斜入射蛍光X線分析装置においては、前記湾曲分光素子が、反射層とスペーサ層からなり所定の周期長を有する層対を基板上に複数積層した多層膜で構成され、前記反射層とスペーサ層との厚さの比が、1対1.4ないし1対4である、または、前記湾曲分光素子が、反射層とスペーサ層からなり所定の周期長を有する層対を基板上に複数積層した多層膜で構成され、前記多層膜を複数備え、基板に近い多層膜ほど前記所定の周期長が小さく設定されている、のが好ましい。これを第1の好ましい構成とする。
【0011】
前記反射層とスペーサ層との厚さの比が、1対1.4ないし1対4である湾曲分光素子を備える場合には、X線源から放射される特性X線のみならず、2次線としてその2分の1の波長をもつ連続X線をも強く反射して同時に試料に照射するので、複数のX線源と複数のX線源の中から1つのX線源を選択するX線源選択手段とを備えることなく、広い範囲の波長にわたって迅速正確な分析ができる。
【0012】
多層膜を複数備え、基板に近い多層膜ほど所定の周期長が小さく設定されている湾曲分光素子を備える場合には、深さ方向に周期長の相異なる複数の多層膜が、相異なるエネルギーのX線を反射するとともに、基板に近い多層膜ほど周期長が小さく設定されているので、エネルギーが小さくて吸収されやすいX線ほど、入射面から浅い位置で反射されることになり、全体としての反射の効率もよく、複数のX線源と複数のX線源の中から1つのX線源を選択するX線源選択手段とを備えることなく、広い範囲の波長にわたって迅速正確な分析ができる。
【0013】
上述の第1の好ましい構成においては、さらに、前記X線源から試料までのX線光路中に進退自在であって、高エネルギー側(短波長側)により高い透過率を有するフィルター、または、前記X線源に印加される印加電圧を可変する印加電圧可変手段を備え、前記フィルターまたは前記印加電圧可変手段によって、前記X線ビームに含まれるエネルギーの相異なる複数のX線における強度比を可変するのが好ましい。
【0014】
前記X線源から試料までのX線光路中に高エネルギー側により高い透過率を有するフィルターを挿入した場合には、高エネルギー側のX線の強度はあまり弱くならないが、低エネルギー側のX線の強度が弱くなり、低エネルギー側の妨害線の影響を少なくすることができる。特に、分析対象の蛍光X線が高エネルギー側の場合には低エネルギー側の蛍光X線の信号を除去して、いわゆる検出器の不感時間を短縮することができる。
【0015】
X線源に印加される印加電圧を可変する印加電圧可変手段を備える場合には、X線源に印加される印加電圧が高くなるにしたがって、より高エネルギー側により強く発生する連続X線を利用して、X線ビームに含まれるエネルギーの相異なる複数のX線における強度比を可変し、測定対象元素に最適な分析ができる。
【0016】
本発明の第2構成の蛍光X線分析方法では、本発明の第1構成の斜入射蛍光X線分析装置を用いて分析する。
【0017】
本発明の第2構成の蛍光X線分析方法によれば、本発明の第1構成の斜入射蛍光X線分析装置を用いて分析するので、本発明の第1構成の斜入射蛍光X線分析装置と同様の効果を奏することができる。
【0018】
請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成のどのような組合せも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲の各請求項の2つ以上のどのような組合せも、本発明に含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1実施形態の斜入射蛍光X線分析装置について図にしたがって説明する。
図1に示すように、この斜入射蛍光X線分析装置1は、X線3を放射するX線源2と、X線源2から放射されたX線3を分光し、試料Sの表面の一定位置に集光するX線ビーム5を形成する湾曲分光素子4と、湾曲分光素子4と試料Sとの間に配置され、通過するX線ビーム5の幅を集光角φ方向に制限する線状開口61を有するスリット6と、線状開口61を通過するX線ビーム5と交叉する方向へスリット6を移動させるスリット移動手段7と、スリット移動手段7によってスリット6を移動させてX線ビーム5の視射角αを所望の角度に設定する視射角設定手段8と、X線ビーム5を照射された試料Sから発生する蛍光X線9の強度を測定する検出器10と、を備える。なお、試料Sは、例えば溶液試料が点滴乾燥された試料基板11である。
【0021】
斜入射蛍光X線分析装置1では、試料Sに照射されるX線ビーム5が、例えば0.1°以下の微小な視射角αで試料Sの表面に入射され、そのほとんどが反射X線となり、いわゆる全反射現象を起こす。
【0022】
X線源2は、例えばモリブデンターゲットを有するX線管である。湾曲分光素子4は、例えば、単湾曲分光素子4であり、X線源2から放射された特性X線であるMo−Kα線を反射し、X線ビーム5として視射角αの方向に集光させる方向に湾曲させて形成した単結晶基板上に多層膜を形成して作製されている。単結晶基板はシリコン基板、ゲルマニウム基板などであり、視射角αと直行する方向(紙面垂直方向)にもX線ビーム5を集光させるよう二重湾曲に形成したものであってもよい。湾曲分光素子4は、単結晶基板上に多層膜が形成された分光素子に限らず、熱塑性変形で湾曲させて形成したグラファイト、フッ化リチウム、ゲルマニウム、TAP、PETなどの分光結晶であってもよい。検出器10は、例えばSDD、SSDなどの半導体検出器であり、高計数まで計数できるSDDが好ましい。
【0023】
スリット6は所望の長さと幅とを有する線状開口61を有する。
図1において、スリット6は、線状開口61の長さ方向と試料Sの表面を含む平面とが平行になるように配置され、
図1では線状開口61の長さ方向が紙面に垂直になるように示されている。X線源2からのX線3が、湾曲分光素子4に入射して分光され、試料Sの表面の一定位置15に集光されるが、スリット6によってX線ビーム5の幅が制限され、集光角φが小さくされたX線ビーム5となる。線状開口61を通過したX線ビーム5は、試料Sの表面の一定位置15に線状に集光される。試料Sに集光されるX線ビーム5において集光角φ方向の中心に位置するX線51と試料Sの表面との成す角度を視射角αという。
【0024】
スリット6はスリット移動手段7によって、線状開口61を通過するX線ビーム5と交叉する方向へ移動される、例えば、
図1に示す矢印方向に試料Sの表面を含む平面に対して垂直方向に移動される。スリット6が試料Sの表面に対して上方向に移動されると、視射角αは大きくなり、試料Sの表面に対して下方向に移動されると、視射角αは小さくなる。視射角設定手段8は、スリット移動手段7によってスリット6を移動させながら試料基板11から発生する蛍光X線9の強度を検出器10で測定し、測定された蛍光X線9の強度に基づいてX線ビーム5の視射角αを所望の角度に設定する。
【0025】
次に、第1実施形態の斜入射蛍光X線分析装置1の動作について説明する。まず、視射角αを所望の角度に設定するため、シリコンウエハである試料基板11が斜入射蛍光X線分析装置1の試料台(図示なし)に配置され、試料基板11中のシリコンの測定が開始される。試料基板11は石英基板やガラス基板であってもよい。
【0026】
測定が開始されると、X線源2からのX線3が湾曲分光素子4に入射され、分光され集光されたMo−Kα線がX線ビーム5としてスリット6の線状開口61を通過する。スリット6の線状開口61を通過したX線ビーム5であるMo−Kα線が試料基板11に照射され、スリット移動手段7によってスリット6が試料基板11の表面に対して上方向に移動されながら試料基板11から発生する蛍光X線9であるSi−Kα線の強度が検出器10で測定される。
【0027】
スリット6が試料基板11の表面に対して上方向に徐々に移動されると、視射角αは徐々に大きくなる。この視射角αと蛍光X線9の強度との関係を
図2に示す。
図2において、Si−Kα線の強度変化の勾配が最大になる視射角αを視射角設定手段8で算出する。算出される視射角αは例えば0.11°であり、Si−Kα線の強度変化の勾配が最大になる角度が臨界角である。
【0028】
算出された臨界角0.11°の約1/2の角度である0.05°の視射角αになるように、視射角設定手段8がスリット移動手段7を制御してスリット6を移動し、所望の視射角αである0.05°に設定する。0.05°は試料Sや装置の状態によって変更させてもよい。臨界角以下の視射角αにすると、X線ビーム5が試料基板11内に侵入せず、バックグラウンドを低くすることができる。臨界角の1/2の角度の視射角αは、斜入射蛍光X線分析装置1において、基板に点滴乾燥された元素の定量測定や基板に形成された薄膜の膜厚測定など種々の試料の測定に最適な角度である。
【0029】
所望の視射角αである0.05°に設定されると、試料Sが順次測定される。例えば、溶液である試料が試料基板11上にマイクロピペットで50μl点滴乾燥され、その試料基板11が試料Sとして斜入射蛍光X線分析装置1の試料台(図示なし)に配置され、試料S中の元素の測定が開始される。
【0030】
本発明の第1実施形態の斜入射蛍光X線分析装置1によれば、簡易な構成であるスリット移動手段7によってスリット6を移動させてX線ビーム5の視射角αを所望の角度に設定することにより、基板に点滴乾燥された元素の定量や基板に形成された薄膜の膜厚測定など種々の測定において、低コストの簡易な構成で最適な視射角αに設定して、高感度、高精度の分析が行える。
【0031】
本発明の第2実施形態の斜入射蛍光X線分析装置30について
図3にしたがって説明する。本発明の第2実施形態の斜入射蛍光X線分析装置30は、本発明の第1実施形態の斜入射蛍光X線分析装置1とは、スリットおよび湾曲分光素子が異なり、本発明の第1実施形態の斜入射蛍光X線分析装置1が備えない、フィルター34および印加電圧可変手段32を備えており、これらの異なる構成について説明する。
【0032】
本発明の第2実施形態の斜入射蛍光X線分析装置30が備えるスリットは線状開口61の幅を可変する可変スリット36である。可変スリット36の線状開口61の幅は連続可変であっても、ステップ可変であってもよく、線状開口61の初期幅は最小幅に設定されている。
【0033】
本発明の第2実施形態の斜入射蛍光X線分析装置30が備える、湾曲分光素子43は、
図4に示すように、反射層4aとスペーサ層4bからなり所定の周期長dを有する層対を基板4c上に複数積層した多層膜で構成され、反射層4aとスペーサ層4bとの厚さの比が、1対1.4ないし1対4である、または、
図6に示すように、湾曲分光素子44が、反射層4aとスペーサ層4bからなり所定の周期長dを有する層対を基板4c上に複数積層した多層膜4eで構成され、多層膜4eを複数備え、基板4cに近い多層膜4eほど所定の周期長dが小さく設定されている。周期長とは、積層された反射層4aとスペーサ層4bとの1組すなわち層対の厚さであるd値をいう。
【0034】
湾曲分光素子43は、詳細には
図4に示すように、反射層4aと、この反射層4aを形成する元素よりも原子番号の小さい元素を含むスペーサ層4bとを基板4c上に交互に複数組積層した多層膜で構成される。各層4a,4bの現実的な厚さは8Å以上であることを考慮すると、2次線を強く反射するような反射層4aとスペーサ層4bとの厚さの比としては、1対1.4ないし1対4が好ましく、1対1.8ないし1対3がより好ましい。
図5に反射層4aとスペーサ層4bの厚さの比に対する2次線の反射率を示す。例えば、ここでは、反射層4aとスペーサ層4bとの厚さの比を1対2とし、d値を40.7Åとする。湾曲分光素子43は入射角度θが0.5°になるように配置されていると、モリブデンターゲットのX線源2から放射される特性X線であるMo−Kα線17.4keVが1次線として強く反射され、同時に2次線として34.8keVの連続X線が強く反射される。
【0035】
湾曲分光素子43を備えた斜入射蛍光X線分析装置30によれば、本発明の第1実施形態の効果に加え、X線源2から放射される特性X線のみならずその2分の1の波長をもつ連続X線をも強く反射して同時に試料Sに照射するので、複数のX線源と複数のX線源の中から1つのX線源を選択するX線源選択手段とを備えることなく、広い範囲の波長にわたって迅速正確な分析ができる。
【0036】
湾曲分光素子44は、詳細には
図6に示すように、例えば多層膜段数2であり、多層膜4e2は基板4c上に反射層4aとスペーサ層4bとの厚さの比が1対1、d値23.7Åの層対を20積層したもので、30keVの連続X線が強く反射される。多層膜4e1は基板4c上に多層膜4e2を介して反射層4aとスペーサ層4bとの厚さの比が1対1、d値40.7Åの層対を20積層したもので、モリブデンターゲットのX線源2から放射される特性X線であるMo−Kα線17.4keVが強く反射される。湾曲分光素子44は入射角度θが0.5°になるように配置されている。多層膜段数は3以上であってもよい。基板4cに近い多層膜ほど周期長が小さく設定されているので、エネルギーが小さくて吸収されやすいX線ほど、入射面から浅い位置で反射されることになり、全体としての反射の効率もよい。
【0037】
湾曲分光素子44は、多層膜4e2で30keVの連続X線を強く反射させる一方、多層膜4e1においてMo−Kα線17.4keVの1次線に加えて34.8keVの2次線を強く反射させるために、多層膜4e1を湾曲分光素子43と同様に反射層4aとスペーサ層4bとの厚さの比を、例えば1対2とするのがより好ましい。
【0038】
湾曲分光素子43、44は、例えばX線3の入射角度θが中央部で0.5°になるように配置されている。X線3の入射位置が中央部から離れるに従い、入射角度θは連続的に変化する。これに合わせて多層膜の周期長dを連続的に変えることにより、X線ビーム5の集光特性と単色性を向上させることができる。
【0039】
本発明の第2実施形態の斜入射蛍光X線分析装置30は、X線源2から試料SまでのX線光路中に進退自在であって、高エネルギー側(短波長側)により高い透過率を有するフィルター34、および/または、X線源2に印加される印加電圧を可変する印加電圧可変手段32を備え、フィルター34および/または印加電圧可変手段32によって、X線ビーム5に含まれるエネルギーの相異なる複数のX線における強度比を可変する。
【0040】
フィルター34は、X線源2から試料SまでのX線光路中で高エネルギー側により高い透過率を有する、例えばAl、Cu、Zrなどの、分析目的に適した厚さの板材で形成される。フィルター34は、
図3に示すようなスリット36と試料Sとの間、X線源2と湾曲分光素子43、44との間、湾曲分光素子43、44とスリット36との間のいずれかにおいて進退自在であればよい。フィルター34は進退自在手段35によって進退自在にされる。
【0041】
図7に示すように、印加電圧可変手段32によってX線源2に印加される印加電圧が高くなるにしたがって、より高エネルギー側に連続X線がより強く発生するので、印加電圧可変手段32によって、X線ビーム5に含まれるエネルギーの相異なる複数のX線における強度比を可変して、測定対象元素に最適な分析ができる。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態の斜入射蛍光X線分析装置30が、例えばMo−Kα線17.4keVおよび、連続X線の30keVと34.8keVを強く反射する湾曲分光素子44を備える場合の動作について説明する。本発明の第1実施形態の斜入射蛍光X線分析装置1と同様の動作で、視射角設定手段8によって視射角αが0.05°に設定される。このとき、可変スリット36の線状開口61の幅は初期幅である最小幅に設定されている。
【0043】
視射角αが0.05°に設定されると、例えば、カドミウム、鉄、銅を含有する溶液の試料が試料基板11上で点滴乾燥された試料Sが試料台(図示なし)に配置され、測定される。
図8に測定した試料Sの蛍光X線スペクトルを示す。
【0044】
斜入射蛍光X線分析装置30が備える湾曲分光素子44により、
図6に示すようにモリブデンターゲットのX線源2から放射される特性X線17.4keV(Mo−Kα線)に加え、連続X線から34.8keV(Mo−Kα線の2次線)および30keVが強く反射され、励起X線として試料Sに照射される。17.4keVによる励起で6.4keVであるFe−Kα線および8.0keVであるCu−Kα線が、34.8keVおよび30keVによる励起で23.1keVであるCd−Kα線が試料Sから強く発生し、鉄、銅、カドミウムを高感度に測定することができる。カドミウムは34.8keVまたは30keVのどちらか一方でも励起できる。
【0045】
湾曲分光素子44を備えた斜入射蛍光X線分析装置30によれば、本発明の第1実施形態の効果に加え、深さ方向に周期長dの相異なる複数の多層膜が、相異なるエネルギーのX線を反射するとともに、基板4cに近い多層膜ほど周期長dが小さく設定されているので、エネルギーが小さくて吸収されやすいX線ほど、入射面から浅い位置で反射されることになり、全体としての反射の効率もよく、複数のX線源と複数のX線源の中から1つのX線源を選択するX線源選択手段とを備えることなく、広い範囲の波長にわたって迅速正確な分析ができる。
【0046】
次に、本発明の第2実施形態の斜入射蛍光X線分析装置30が湾曲分光素子44を備え、視射角αの設定後にフィルター34がスリット36と試料Sとの間に挿入される場合(
図3の2点鎖線で表されている)の動作について説明する。本発明の第1実施形態の斜入射蛍光X線分析装置1と同様の動作で、視射角設定手段8によって視射角αが0.05°に設定される。このとき、可変スリット36の線状開口61の幅は初期幅である最小幅に設定されている。
【0047】
視射角αが0.05°に設定されると、
図3に示すように、例えば、2mm厚のアルミニウム板であるフィルター34が進退自在手段35によってスリット36と試料Sとの間に挿入されて試料Sが測定される。
図9に測定した試料Sの蛍光X線スペクトルを示す。
図9から分かるように
図8に示された蛍光X線スペクトルに比べて、Mo−Kα線の強度が低減され、Mo−Kα線によって励起されていたMo−Kα線17.4keV以下のエネルギーのX線強度が弱くなっているが、30keVおよび34.8keV(Mo−Kα線の2次線)の強度はほとんど変化していない。このように、X線ビーム5に含まれるエネルギーの相異なる複数のX線における強度比を可変することができる。
【0048】
湾曲分光素子44を備え、視射角αの設定後に、X線源2から試料SまでのX線光路中に高エネルギー側により高い透過率を有するフィルター34が挿入される斜入射蛍光X線分析装置30によれば、本発明の第1実施形態の効果に加え、高エネルギー側のX線の強度はあまり弱くならないが、低エネルギー側のX線の強度が弱くなり、低エネルギー側の妨害線の影響を少なくすることができる。特に、分析対象元素が高エネルギー側の場合には分析対象元素以外の蛍光X線の信号を除去して、いわゆる検出器10の不感時間を短縮することができる。
【0049】
次に、本発明の第2実施形態の斜入射蛍光X線分析装置30が湾曲分光素子44とフィルター34を備え、視射角αの設定後に可変スリット36の線状開口61の幅が初期幅よりも広く設定される場合の動作について説明する。本発明の第2実施形態の斜入射蛍光X線分析装置30が湾曲分光素子44とフィルター34を備える場合と同様の動作で、視射角設定手段8によって視射角αが0.05°に設定される。このとき、可変スリット36の線状開口61の幅は初期幅である最小幅に設定されている。視射角αが設定されるときに、可変スリット36の線状開口61の幅が初期幅よりも広く設定されていると、X線ビーム5の集光角φが大きくなり、視射角αと蛍光X線9の強度との関係を示す
図2のSi−Kα線の強度変化の勾配が緩やかになり、視射角設定手段8による視射角αの算出精度が低下する。したがって、視射角αの設定時には、可変スリット36の線状開口61の幅は最小幅に設定されている。例えば、可変スリット36の線状開口61の最小幅は集光角が0.01°になるように設定され、最大幅は集光角が1°になるように設定される。
【0050】
視射角αが0.05°に設定されると、X線ビーム5が試料基板11の端面に照射されない範囲で、可変スリット36の線状開口61の幅が初期幅よりも広く設定されて試料Sが測定される。
図10に線状開口61を広く設定し、フィルター34を挿入して測定した試料Sの蛍光X線スペクトルを示す。可変スリット36の線状開口61の幅が広く設定されているので、より高強度のX線ビーム5が試料Sに照射されて、
図10から分かるように
図9に示された蛍光X線スペクトルに比べて、34.8keV(Mo−Kα線の2次線)および30keVが励起X線として試料Sにより強い強度で照射されて、23.1keVであるCd−Kα線がより強く発生して、カドミウムをより高感度に測定することができる。
【0051】
図10に示すように、可変スリット36の線状開口61を広げて1次X線としてX線ビーム5を試料Sに照射すると、X線ビーム5の集光角φが大きくなって、X線ビーム5中に含まれる、臨界角を超えた角度で試料Sに入射するX線が試料基板11内に侵入して、連続X線のバックグラウンドが大きくなる。バックグラウンドとなる連続X線のエネルギーは20keV未満が主であり、Cd−Kα線(23.1keV)の現れる20keV以上のエネルギー領域には現れない。したがって、20keV以上の蛍光X線9が測定対象となる場合には、可変スリット36の線状開口61の幅を広げてより高強度のX線ビーム5を試料Sに照射して、測定対象の蛍光X線9を強く発生させて高感度に測定することができる。
【0052】
湾曲分光素子44を備え、視射角αの設定後に可変スリット36の線状開口61の幅が初期幅よりも広く設定される斜入射蛍光X線分析装置30によれば、本発明の第1実施形態の効果に加え、分析目的に応じてスリット6を通過するX線ビーム5の幅を可変して集光角φを可変することによって、より高感度かつ高精度の測定をすることができる。
【0053】
図7に示すように、X線源2に印加される印加電圧が高くなるにしたがって、より高エネルギー側(短波長側)に連続X線がより強く発生するので、印加電圧可変手段32によって、X線ビーム5に含まれるエネルギーの相異なる複数のX線における強度比を可変して測定対象元素に最適な分析ができる。印加電圧が同じなら、連続X線強度のエネルギー分布は変わらず、管電流に比例してX線強度が変わるが、X線源に印加できる電力(印加電圧×管電流)には上限(最大定格)があり、その上限内に設定する必要がある。上述の本発明の第2実施形態の斜入射蛍光X線分析装置30の動作において、測定対象元素が高エネルギー側に励起線を有するカドミウムのような元素の場合には、印加電圧は60kVが好ましいが、測定対象元素が鉄や銅の場合には印加電圧は50kVに下げて管電流を増加させるのが好ましい。
【0054】
本発明による他の分析例における利点について以下に説明する。基板上に存在するナノ粒子の粒子径の測定および基板上のナノ粒子の分布状態を調べる分析において、斜入射蛍光X線分析装置1または斜入射蛍光X線分析装置30を用いて、X線ビーム5に含まれるエネルギーの相異なる複数のX線を順次試料Sに照射し、視射角αを変化させて試料Sから発生する蛍光X線9を測定することによって、ナノ粒子の粒子径の測定精度を向上させるとともに、ナノ粒子が基板表面上に分布するのか、基板内にナノ粒子の一部が侵入しているのかの判別精度を向上させることができる。
【0055】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、添付の請求の範囲から定まるこの発明の範囲内のものと解釈される。