(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において「メモリーT細胞」とは、リンパ球細胞表面抗原としてCD45ROを発現するT細胞をいい、かかるメモリーT細胞としてはセントラルメモリーT細胞やエフェクターメモリーT細胞を例示することができる。リンパ球細胞は、その表面に多様な細胞表面抗原を発現しており、表面抗原に基づいて多数のサブセットに分類区別することが可能である。例えば、リンパ球細胞はT細胞とB細胞に分けられるが、T細胞はその表面にCD3表面抗原を有することでB細胞と区別される。さらに、表面抗原として、CD45ROやCD45ROのアイソフォームであるCD45RA抗原があり、これらの抗原の有無による分類がある。CD45ROは、CD45RAを発現するナイーブなリンパ球細胞が、特異的であれ非特異的であれ抗原刺激を受けた際にCD45RAに代わって発現するメモリー細胞の指標の1つとなる抗原型である。CD62Lは、セレクチンファミリーに属する74kDaの糖タンパク質であり、大半のリンパ球細胞に発現しており、リンパ球細胞のリンパ節へのホーミングに関与する細胞接着分子である。これは細胞表面抗原としてナイーブ細胞でも発現するが、CD45ROの発現を伴う場合、CD62Lの発現強度によって、セントラルメモリーやエフェクターメモリーといったメモリー細胞サブセットの区別が可能となる。そして、CD45RO+かつCD62L+の表面抗原を有するT細胞はセントラルメモリーT細胞と、CD45RO+かつCD62L−の表面抗原を有するT細胞はエフェクターメモリーT細胞とされている。
【0021】
すなわち、リンパ球細胞表面に抗原CD3を発現している、CD3陽性(CD3+)のT細胞のうち、細胞表面抗原CD45RO陽性かつCD62L陽性のT細胞群(CD45RO+、CD62L+)はセントラルメモリーT細胞群、細胞表面抗原CD45RO陽性かつCD62L陰性のT細胞群(CD45RO+、CD62L−)はエフェクターメモリーT細胞群であり、これらセントラルメモリーT細胞群とエフェクターメモリーT細胞群は合わせてメモリーT細胞群を構成する。かかる細胞表面抗原の検出は、蛍光色素で標識した抗体(抗CD3抗体、抗CD45RO抗体、抗CD62L抗体)を用いてリンパ球細胞を染色し、例えばFACS Calibur(ベクトン・ディッキンソン社製)等のフローサイトメーターによって、その蛍光色素標識抗体の有無及び細胞数を計測することができる。また、リンパ球細胞を蛍光色素標識抗体や一次抗体及び蛍光標識二次抗体で染色し、共焦点レーザー蛍光顕微鏡で観察することもできる。
【0022】
通常、健常人の末梢血リンパ球細胞群におけるメモリーT細胞の占有率は40%前後であるが、本発明の製造方法により、その占有率を上昇させることが可能である。本発明における「メモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群」(以下、「メモリーT細胞高含有リンパ球細胞群」ともいう)としては、メモリーT細胞高含有リンパ球細胞群におけるメモリーT細胞の占有率が、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上のリンパ球細胞群を意味する。なかでも、リンパ球細胞群におけるメモリーT細胞の占有率が75%以上であることが好ましい。さらに、本発明のリンパ球細胞群としては、リンパ球細胞群の70%以上、より好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上がセントラルメモリーT細胞であることが好ましい。なお、本発明のメモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群は、メモリーT細胞以外のT細胞の混入を除外するものではない。
【0023】
また、本発明のメモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群の製造方法においては、工程(a)〜(c)を順次備えた高増殖培養法により、同一生体に戻す養子免疫療法の実施や第三者に投与する医薬組成物の調製のための十分な量のメモリーT細胞高含有リンパ球細胞群を提供することができる。ここで、高増殖培養法とは、採血試料中のリンパ球数を500倍以上、好ましくは600倍以上、700倍以上、800倍以上より好ましくは900倍以上に増殖させることができる培養方法であり、かかる培養法により、例えば、50mLの血液から得られるメモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群における総リンパ球数が、好ましくは5×10
8個以上、より好ましくは8×10
8個、さらに好ましくは1×10
9個以上、最も好ましくは3×10
9個以上、メモリーT細胞を高含有するリンパ球細胞群を得ることができる。また、メモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群の細胞密度としては5×10
4個/mL以上、好ましくは1×10
5個/mL以上、5×10
5個/mL以上、より好ましくは1×10
6個/mL以上のメモリーT細胞高含有リンパ球細胞群を得ることができる。
【0024】
また、工程(a)における「採取されたリンパ球細胞」としては、常法により採取された末梢血や臍帯血由来、さらに骨髄由来のリンパ球細胞を例示することができるが、採取の機会や採取の容易さから末梢血由来のリンパ球細胞が好ましい。かかる末梢血としては、他者由来末梢血や自己由来末梢血があげられるが、養子免疫療法に用いるときには自己由来末梢血が有利に用いられる。腫瘍及びその再発、ならびにウイルス感染症や自己免疫疾患に対する予防及び治療の観点から、臓器又は骨髄移植等を受けた患者の場合は、移植臓器又は骨髄等の提供者由来の末梢血であることが好ましい。また、採取されたリンパ球細胞として単離されたリンパ球細胞を用いることが好ましく、かかる単離されたリンパ球細胞は、血管からの採血やフェレーシス等により採取された末梢血、好ましくは静脈から採取された末梢血を一般的手法で処理することにより得ることができる。末梢血からのリンパ球細胞の分離は、ショ糖や市販のリンパ球細胞分離剤等を用いた不連続密度勾配遠心法などの周知のリンパ球細胞分離法によって取得できる。リンパ球細胞単離用の末梢血は、血液の凝固が起こらないように、ヘパリンやクエン酸を加えたものを使用することができる。かかる末梢血の量は特に制限されず、ドナーの負担、採血の手間、リンパ球細胞の分離操作等に基づいて適宜設定することができ、一回に採血する量を0.01mLから100mL程度、より好ましくは5mLから50mL程度、さらに好ましくは10mLから20mLとすることができる。
【0025】
またリンパ球細胞の由来は特にヒトのみに制限されず、サル、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ハムスターを挙げることもできるが、本発明のリンパ球細胞群をヒトに投与する場合は、ヒト由来であることが好ましい。また、本発明のリンパ球細胞群は、投与対象由来でも、投与対象以外の個体由来でもよく、すなわちドナーとレシピエントは同一でも一致しなくてもよい。
【0026】
工程(a)や工程(c)における「活性化培養」としては、インビトロ培養により、メモリーT細胞群の占有率を上昇しうる、例えば特開平3−80076号公報に記載のような周知のリンパ球細胞の活性化培養であれば特に制限されないが、インターロイキン2(IL−2)の存在下に培養することが好ましく、IL−2と抗CD3抗体の存在下に培養することがより好ましい。例えば、IL−2を含む培養用培地にリンパ球細胞を浮遊させ、抗CD3抗体を固相化した培養容器中での培養を好適に例示することができる。さらに、必要により各種マイトージェンを使用してリンパ球細胞の活性化を行うことができる。かかる抗CD3抗体としては、リンパ球細胞表面のCD3表面抗原を認識して増殖・活性化を促進できる抗体であれば、どのようなものでも使用できる。リンパ球細胞の活性化刺激に使用する抗CD3抗体は、精製したCD3分子を使用して動物又は細胞に産生させることもできるが、安定性、容易性に優れた市販品のOKT−3抗体(製造元:eBIO社)を有利に使用することができる。そして、メモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群の製造システムにおけるリンパ球細胞の活性化培養手段としては、細胞の培養に通常用いられる手段、例えば、細胞培養容器、細胞培養装置、細胞培養槽等を挙げることができる。
【0027】
上記活性化培養における培養法としては、高増殖培養法の実施完了後にメモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群が高増殖率で大量に製造される限りその条件は特に制限されない。活性化培養は、抗CD3抗体の刺激情報がリンパ球細胞に伝達されること、及びメモリーT細胞群が増殖してリンパ球細胞群に対する占有率を上昇させ、さらにかかる上昇した占有率が大幅に減少しないことが前提となるため、活性化培養の培養期間としては、十分な数のリンパ球細胞が得られるまで、1〜10日間、より好ましくは2〜8日間、さらに好ましくは3〜7日間、特に好ましくは4〜6日間を例示することができる。この培養期間中の培地の交換頻度に特に制限はないが、培養液の劣化及びIL−2活性の低下を防ぐために、1〜7日に1回行うことが好ましく、添加前の培養液中の液量に対して0.1〜5倍程度の量を添加することが好ましい。
【0028】
工程(a)において、リンパ球細胞の活性化培養を行うが、通常、活性化培養リンパ球細胞には、フラスコ底面に付着して増殖する細胞もあり、活性化を受けた後培養液中に浮遊しながら増殖していく細胞もある。付着して増殖する細胞は、浮遊細胞と同様に生細胞である。培養液が活性化培養開始時の培養液と同量である培養方法とすることもできるが、培養途中でさらに培養液を添加して数日、例えば1〜2日活性化培養を継続してリンパ球細胞をさらに増殖する培養方法とすることもできる。かかる培養液の添加量は、活性化培養開始時の培養液量の0.5〜2倍量が好ましく、中でも活性化培養開始時の培養液量と同量の培養液を好適に例示することができる。上記培養液をさらに添加しての継続培養に際しては、培養液中に浮遊するリンパ球細胞のみを植継ぐこともできるが、浮遊リンパ球細胞に加えて培養容器に接着したリンパ球細胞の双方を植継ぐこともできる。
【0029】
また工程(a)の活性化培養において、培養開始時のリンパ球細胞数に特に制限はないが、細胞培養において培養開始時の細胞数が少なすぎると、細胞増殖曲線が立ち上がるまでの期間が遷延し、逆に多すぎると早期にプラトーに達し、培養液を添加して全体量を増やすなどの方法を採用できないため、十分な量の細胞を得ることができない。したがって、リンパ球細胞の増殖の立ち上がりを速やかにし、同時に前記T細胞群が増殖して活性化リンパ球細胞中に占める割合が速やかに上昇し、十分量の細胞を得られるように、開始時の播種数を調整することが好ましい。例えば、1.0×10
5〜1.0×10
6細胞/mL、好ましくは1.5×10
5〜6.0×10
5細胞/mL、より好ましくは4.0×10
5〜6.0×10
5細胞/mLに調製して培養を開始することが好ましい。また、培養容器の容量及び培養液量は、操作性を考慮して適宜選択することができ、例えば225cm
2フラスコに培養液50mLや、25cm
2フラスコに5mL培養液を使用する例を挙げることができる。
【0030】
上記のように、本発明における活性化培養では、抗CD3抗体は、リンパ球細胞の増殖効率や操作の容易性の観点から、固相化して使用することが好ましい。抗CD3抗体を固相化する支持体としてはガラス、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリスチレン等の材質からなる各種フラスコ、シャーレ、プレート、バッグが使用できる。入手が容易であるため、市販のプラスチック製の滅菌済み細胞培養用フラスコ等の器具を使用することもでき、その大きさは適宜選択することができる。前記抗体の固相化方法は、非特異的吸着や化学結合による方法でも行えるが、固相化した抗CD3抗体によりリンパ球細胞が刺激できる固相化方法であればいずれの方法でもよい。固相化は、前記抗CD3抗体の希釈液を固相化する器具に分注し、例えば4〜37℃で2〜24時間静置することによって行うことができる。前記抗CD3抗体の希釈液は、抗CD3抗体を、滅菌したダルベッコりん酸緩衝液等の生理的な緩衝液中に1〜30μg/mLの濃度に希釈して希釈液として用いることが好ましい。固相化した器具は、使用時までコールドルームや冷蔵庫(4℃)で保存することができ、使用時に前記希釈液を除去して、常温のダルベッコりん酸緩衝液等の生理的な緩衝液で洗浄することが好ましい。また上記のように、本発明における活性化培養では、培養用培地液中にインターロイキン2(IL−2)を使用することがリンパ球細胞の増殖効率の観点から望ましい。IL−2は、培養用培地液の濃度が1〜2000U/mLとなるように希釈して使用することが好ましい。かかるIL−2としては市販品を用いることができる。IL−2は、水、生理食塩液、ダルベッコりん酸緩衝液、RPMI−1640、DMEM、IMDA、AIM−V等の一般に広く用いられる細胞培養用培地液等に溶解して使用することができる。また一旦溶解したものは、活性の低下を防ぐために冷蔵保存することが好ましい。
【0031】
また、上記活性化培養における培養液としては、リンパ球細胞の培養に適したものであれば特に制限されず、血清等の生物由来の成分を含有する培養液や平衡塩類溶液にアミノ酸、ビタミン、核酸塩基などを加えた合成培地が使用できる。具体的には、RPMI−1640、DMEM、IMDA、AIM−V等を挙げることができ、中でもAIM−Vが特に好ましい。培養用培地は、正常ヒト血清を添加したものが増殖効果に優れて好ましい。これらの培地及びヒト血清は、市販品を用いることができる。培養は、一般的な細胞培養の方法に従うことができる。例えば、CO
2インキュベーター内で行うことができる。CO
2濃度は1〜10%、特に5%が好ましく、温度は30〜40℃、特に37℃が好ましく、湿度は90〜100%、特に95%が好ましい。
【0032】
本発明における高増殖培養法においては、上記活性化培養の前後に、リンパ球細胞の増殖のための培養を行うこともできる。かかる培養としては、IL−2存在下で抗CD3抗体の非存在下の培養(拡大培養や増幅培養)を挙げることができ、その培地成分は適宜調節することができる。例えば、工程(c)における解凍したリンパ球細胞の活性化培養に続いて実施される増幅培養では、浮遊リンパ球細胞及び接着リンパ球細胞を植継ぎ、4〜13日実施する培養を挙げることができる。また、上記拡大培養や増幅培養における培養液としては、リンパ球細胞の培養に適したものであれば特に制限されず、血清等の生物由来の成分を含有する培養液や平衡塩類溶液にアミノ酸、ビタミン、核酸塩基などを加えた合成培地が使用でき、市販品を入手することができる。具体的には、RPMI−1640、DMEM、IMDA、AIM−V等を挙げることができ、なかでもAIM−Vが特に好ましい。
【0033】
また、工程(b)における「リンパ球細胞密度に基づいて検知」とは、工程(a)でのリンパ球細胞のインビトロでの活性化培養において、必要に応じて逐次培養液中の細胞数を計測しながら細胞密度が一定の閾値以上となるまで活性化培養を継続する判断をすることをいうものである。細胞密度が一定の閾値、例えば4×10
5細胞/mL以上となった場合に、活性化培養液中のメモリーT細胞の占有率上昇を検知するものである。かかるリンパ球細胞密度に基づいての検知には、顕微鏡によるリンパ球細胞数の直接測定や細胞計数装置を用いての直接測定の他一定の細胞培養条件下から間接的にリンパ球細胞数を検知することが含まれる。すなわち、あらかじめ特定の細胞数のリンパ球を一定の活性化培養条件下で培養したときの細胞数の測定データに基づいて間接的にリンパ球細胞数を推測することによる検知も含まれる。また、リンパ球を活性化培養すると、一部の細胞は培養容器の底面に付着して活性化増殖し、一部の細胞は培養液中に浮遊して増殖する。一方、活性化培養中には逐次培養液中の細胞数を計測しながら培養を継続する。そのため複数回にわたりリンパ球細胞数を計測することがある。その場合に、底面に付着したリンパ球細胞をピペット等により剥離して剥離リンパ球細胞と浮遊リンパ球細胞とを均一な懸濁液として計測すると、剥離したリンパ球細胞がその後増殖を停止してしまうことがある。このことはより多くのリンパ球細胞を収穫する観点から問題があるため、培養中の細胞数の計測は、付着した細胞を剥離させずに浮遊リンパ球細胞数を計測することが望ましい。浮遊リンパ球細胞数と付着リンパ球細胞数や総リンパ球細胞数とはある程度相関するものと考えられることから、浮遊リンパ球細胞数を計測することにより増殖の趨勢を推し量ることができる。そこで、操作簡便の簡便性と、それによるコンタミネーションの防止の観点、さらに増殖促進の観点から、浮遊リンパ球細胞の計測が有用である。また、培養を終了する際には、タッピングにより培養容器底面に付着した細胞も剥がして総リンパ球細胞数を計測することが収率等の観点からは望ましい。
【0034】
したがって、工程(b)における「メモリーT細胞群の占有率上昇」とは、工程(a)において活性化培養されたリンパ球細胞の総数におけるメモリーT細胞の占める割合の上昇、具体的にはメモリーT細胞の占有率が、例えば、80%以上、好ましくは85%以上、90%以上、より好ましくは95%以上となることを意味する。このメモリーT細胞の占有率は、抗体を用いてフローサイトメーターによりCD3、CD45RO、CD62L等の細胞表面抗原を直接調べることにより算出することもできる。そして、メモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群の製造システムにおける、リンパ球細胞密度に基づくメモリーT細胞群の占有率上昇の検知手段としては、リンパ球細胞数の測定に通常用いられる手段、例えば、浮遊リンパ球細胞の細胞計数装置等を挙げることができる。
【0035】
工程(b)における「凍結保存」は、一般的な細胞凍結の手法に従って行うことができる。例えば、リンパ球細胞をバンバンカー(リンフォテック社製)やCP−1(極東製薬工業株式会社製)等の細胞凍結保存液製品に懸濁して凍結保存容器に格納し、その容器をバイセル(日本フリーザー社製)に入れ、−80℃の超低温フリーザー(三洋電機株式会社製)で一時保管して2日後に、液体窒素タンク(MVE)へと移しいれて凍結保存細胞として液体窒素中で保存することができる。また、凍結・解凍後の活性化培養における増殖の立ち上がりの観点から、1つの凍結保存容器に格納するリンパ球細胞数を調整することが望ましく、1つの凍結保存容器あたり1×10
7〜5.0×10
7個を保存することが好ましい。複数の凍結保存容器に保存した細胞を合わせて凍結解凍後の培養に用いてもよいが、操作の容易性及び品質管理の観点から1つの凍結保存容器のリンパ球細胞を1つ又は2以上の培養容器に移して培養することが好ましい。そして、メモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群の製造システムにおけるリンパ球細胞の凍結保存手段としては、細胞の凍結保存に通常用いられる手段、例えば、凍結保存容器、バイセル、超低温フリーザー、液体窒素タンク等を挙げることができる。
【0036】
工程(c)における、凍結されたリンパ球細胞の「解凍」は、一般的な凍結細胞の解凍手法に従って行うことができる。例えば、37℃のドライサーモユニット(タイテック社製)等を用いて4分間加熱処理することにより解凍することができる。かかる解凍したリンパ球細胞を適量の培地に移しいれた後に室温にて遠心操作を行い、上清を除去することにより細胞凍結保存液を除去することが好ましい。またかかる解凍後のリンパ球細胞の活性化培養は、抗CD3抗体の存在下の活性化培養後、さらに抗CD3抗体の活性化刺激無しの増幅培養を継続して行うこともできる。すなわち、抗CD3抗体を固相化していない器具、例えば培養用フラスコ、ローラーボトル、ガス透過性培養バッグ等で大量の細胞を得るまで培養を継続することができる。このとき、インターロイキン2(IL−2)存在下とすることが好ましい。これら条件でのリンパ球細胞の培養は、抗CD3抗体の刺激がないこと以外は、ヒト血清の濃度等、活性化刺激がある培養の条件と同じであることが好ましく、無血清培地を適時使用することが、作業性、コスト性、安全性等においてより好ましい。そして、メモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群の製造システムにおける凍結されたリンパ球細胞の解凍手段としては、凍結細胞の解凍に通常用いられる手段、例えば、ドライサーモユニット等を挙げることができる。
【0037】
本発明のメモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群の製造方法によると、75%以上、好ましくは80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上のメモリーT細胞を含むリンパ球細胞群や、70%以上、より好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上のセントラルメモリーT細胞を含むリンパ球細胞群を得ることができる。また本発明は、これらのメモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群を有効成分として含有する養子免疫療法や第三者に投与するための医薬組成物とすることができる。かかる医薬組成物は、抗腫瘍剤、HIV治療薬、ウイルス感染症治療薬、自己免疫疾患治療薬、細胞または臓器の移植後の移植細胞または臓器の生着促進薬、腫瘍の再発予防薬として使用することができる。また、本発明のメモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群は、メモリーT細胞群の比率が80%以上と高いため、リンパ球細胞群の細胞表面に存在する表面抗原に対する抗体等を用いてメモリーT細胞群を分離する等の煩雑な単離濃縮操作を施すことなく、医薬の材料として、適当な溶液に懸濁したものを使用することができる。本発明の医薬組成物の形態としては、非経口投与が好ましく、本発明のリンパ球細胞群を懸濁した、注射剤、点滴剤等の液体形状が好ましい。特に、ヒト血清アルブミンを0.01〜5%となるように添加した輸液用生理食塩液等に本発明のリンパ球細胞群を懸濁した注射剤や点滴剤がより好ましいが、これに限定されるものではない。投与方法としては、静脈への点滴又は静脈、動脈、局所等への注射が望ましい。投与する液量は、投与方法、投与する部位によって異なるが、通常は1〜500mLとするのが好ましく、この液量中に後述するリンパ球投与量のリンパ球細胞数が含まれるようにするのが好ましい。また、本発明の医薬組成物は、メモリーT細胞高含有リンパ球細胞群の他に、安定剤や緩衝液成分、他の治療薬やサプリメント等を含有していてもよい。本発明の医薬組成物の投与量、投与回数、投与期間等、及び本発明の医薬組成物におけるリンパ球細胞群の濃度は特に制限されず、投与対象の体調、病状、体重、年齢、性別等によって適宜調整することができ、通常の場合においては、投与対象の体重1Kgあたりのリンパ球投与量を、1×10
2個〜1×10
9個を目安として設定することが好ましい。さらに有効とするためには、体重1Kgあたりのリンパ球投与量を1×10
3個以上とすることが好ましいが、5×10
8個を超えても効力増大が見込めないことから、体重1Kg当たりの投与量を1×10
3個〜5×10
8個とすることが最も好ましい。投与頻度は、1回/日〜1回/月を好適に例示することができ、また投与回数は少なくとも1回以上は必要である。本発明の医薬組成物の使用においては、他の手術や投薬治療を併用することもできる。
【0038】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
[リンパ球細胞の活性化増殖]
(1)末梢血リンパ球細胞の調製
同意を得た健常者3名の末梢血各50mLを静脈からヘパリンを加えて採血した。各採血検体を250mLの遠沈管(BDファルコン;352075)に移し、検体毎に洗浄用液(0.1%ヒトアルブミン加生理食塩水:生理食塩液500mL 製造元;大塚製薬、25%ヒト献血アルブミン2.0mL 製造元;田辺三菱製薬)100mLを加え静かに混和して3倍に希釈した。本操作を含む以下の操作は無菌的に行った。1検体あたり、15mLのフィコール(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を分注した50mL遠沈管(BDファルコン;352070)4本に、3倍希釈した血液を重層し、その遠沈管を1800rpmで20分間、室温でブレーキをかけずに遠心した(遠心機:株式会社コクサン製;H-700)。中間層の単核球層を、予め洗浄用液を分注した50mL遠沈管に回収した。遠沈管の蓋を閉めて2〜3回転倒混和して1800rpmで15分間、室温にて遠心した。遠心後に上清を除去し、ペレットを分散させた後に洗浄用液を添加し、総量50mLの細胞懸濁液とした。前記懸濁液を1800rpm、10分間、常温にて遠心し、得られたペレットに50mLの培地1(2%ヒト血清(リンフォテック社製)及び350U/mL rIL−2(プロロイキン:ノバルティス社製)を含むAIM−V培地(インビトロジェン社製))を加えて懸濁して細胞懸濁液とした。
40μLのチュルク氏液(武藤化学薬品社製)を5mLラウンドチューブ(BDファルコン;352008)に分注し、これに前記細胞懸濁液10μLを加えて混和し、混和液10μLをノイバウエル血球計算盤(エルマー社製;9731)上に流し込み、顕微鏡(オリンパス光学工業株式会社製;211320)下に細胞数を算出した。
また、20μLのトリパンブルー染色液(SIGMA社製;93595)を5mLラウンドチューブ(BDファルコン;352008)に分注し、これに前記細胞懸濁液10μLを混和し、混和液10μLをノイバウエル血球計算盤に流し込み、顕微鏡下に染色されていない生細胞を計測し、生存率を算出した。
【0040】
(2)OKT3固相化フラスコの調製
OKT3(輸入発売元:ヤンセン協和株式会社、製造元:オーソファーマスーティカル:OKT3注)溶液を生理食塩液で5μg/mLに調製し、調製液10mLを底面積225cm
2の培養用フラスコ(住友ベークライト株式会社製;MS-2180R)に分注し、その底面全面がOKT3溶液で覆われるようにした。3時間以上静置後にフラスコ内のOKT3溶液を吸引機で吸い取り、約100mLの生理食塩液(製造元;大塚製薬)を注ぎ込み、フラスコの蓋を閉めて激しく振蕩した後に、中の液を捨てた。再度、約100mLの生理食塩液(製造元;大塚製薬)をフラスコに流し込み、固相化面を下にして室温で15分間静置した。その後、蓋を閉めて1分間激しく振蕩し、中の液を捨てた。フラスコ内と蓋に残っている液を吸引機で丁寧に吸い取り、OKT3固相化フラスコとした。調製当日に使用しない場合は、少量の生理食塩液を残して使用時まで4℃で保存した。
底面積25cm
2の培養用フラスコ(住友ベークライト株式会社製;MS2105R)にも上記記載と同様に、固相化処理を施した。
【0041】
(3)播種リンパ球細胞数の検討−1
(1)で調製した細胞懸濁液を800rpmで15分間、室温にて遠心した。細胞密度を培地1により、それぞれ0.2×10
5個/mL、1.0×10
5個/mL、2.0×10
5個/mL、2.0×10
6個/mL、6.0×10
6個/mLに調製した。各細胞密度の細胞懸濁液5mLを上記(2)で調製したOKT3固相化25cm
2フラスコにそれぞれ分注播種し、培地1を用いてテーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%にて培養した。培養期間中に適宜、浮遊細胞数と生存率を(1)と同様の方法で計測・算出し、増殖状態に応じて培養液の色調変化を観察しながら適宜培地1を添加して10日間培養を継続した。また、培養終了時には、培養フラスコをタッピングして、底面に付着したリンパ球細胞も回収し、総リンパ球細胞数及び生存率を(1)と同様の方法で計測・算出した。
【0042】
結果:
表1から、播種細胞密度が0.2×10
5個/mLでは、10日間培養しても十分な細胞数が得られないこと、また、6×10
6個/mLでは、増殖が低下し、生存率も不良であることより、両播種細胞密度は不適当と判定した。さらに生存率が90%以下になることがない播種細胞密度1.0×10
5個/mLと2.0×10
6個/mLとの間で、播種細胞密度を再検討することとした。また、本検討では、培養液の色調変化と浮遊細胞数を指標として適宜培地1を追加したが、手技をより簡便なものとし、より速やかな細胞増殖を得るために、細胞密度と培養日数から培地の追加時期を決定するべく、培養液追加時期の検討を行うこととした。
【0043】
【表1】
【0044】
(4)培養液追加時期の検討
同意を得た健常者3名より(1)と同様の手順で末梢血リンパ球細胞を調製し、細胞数を計測した。
調製したリンパ球細胞を(3)と同様に遠心し、培地1を用いて細胞密度がそれぞれ0.5×10
5個/mL、1×10
5個/mL、2.0×10
5個/mL、4×10
5個/mL、8×10
5/個mLとなるように調製した。各細胞密度の細胞懸濁液50mLを上記(2)で調製したOKT3固相化225cm
2フラスコ(住友ベークライト株式会社製;MS−2180R)に分注し、培地1を用いてテーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%にて培養を開始した。培養効率化の観点から、培養開始3日目に各フラスコに培養液50mLを追加したが、培養液追加前に浮遊細胞数を、追加翌日4日目の細胞回収時に総細胞数を、(1)と同様の手法で計測した。
【0045】
結果:
表2から、播種細胞数を2.0×10
7(4.0×10
5個/mL)又は4.0×10
7(8.0×10
5個/mL)とした場合に培養後総細胞数を播種細胞数で除した増殖率が2.5倍以上となる検体があった。すなわち検体1の4日目(1.1×10
8個及び1.3×10
8個)ならびに検体3の4日目(1.0×10
8個)である。培養液添加後に得られた総細胞数が10
8を超えた検体では、当該検体の培養液追加前の浮遊細胞数は、1.9×10
7個及び6.3×10
7(検体1の3日目)ならびに2.0×10
7個(検体3の3日目)であった。そこで培養開始3日目以降で、浮遊細胞数が3.8×10
5個/mL以上、あるいは4.0×10
5個/mLに到達したときに培養液を添加することとした。
【0046】
【表2】
【0047】
(5)播種リンパ球細胞数の検討−2
同意を得た健常者3名より(1)と同様の手順で末梢血リンパ球細胞を調製し、細胞数を計測した。
調製したリンパ球細胞を(3)の播種リンパ球細胞数の検討−1と同様に遠心し、培地1を用いて細胞密度がそれぞれ1.0×10
5個/mL、1.5×10
5個/mL、2.0×10
5個/mL、4.0×10
5個/mL、6×10
5個/mL、8×10
5個/mLとなるように調製し、各細胞懸濁液5mLを上記(2)で調製したOKT3固相化25cm
2フラスコに分注し、培地1を用いてテーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%にて培養した。培養開始後浮遊細胞数及び生細胞率を(1)と同様な方法で漸次計測し、細胞密度4×10
5個/mL以上となったときに各フラスコに培養液5mLを追加し、最長計6日間培養した。培養終了時には、底面に付着したリンパ球細胞を(3)と同様に処理して全ての細胞を採取し、(1)と同様な方法で総細胞数及び生存率を計測・算出した。
【0048】
結果:
本検討においては、最短日数で活性化培養を行い最多の細胞を得ることを目標とした。
播種細胞密度1.0×10
5個/mLでは、培養5日目でも3検体中2検体において、浮遊細胞数が4×10
5個/mLに到達しなかった。播種細胞密度1.0×10
5個/mLの検体3、1.5×10
5個/mLの検体1〜3、2.0×10
5個/mLの検体1〜3、及び4.0×10
5個/mLの検体1では、浮遊細胞密度が4×10
5個/mLを超えたのは5日目であり、培養液5mLを追加したところ、翌日6日目に大半で総細胞数が1.2×10
7を超えていた。4.0×10
5個/mLの検体2及び3、6.0×10
5個/mLの検体1〜3、ならびに8.0×10
5個/mLの検体1〜3は、いずれも4日目に浮遊細胞密度が4×10
5個/mLを超え、培養液を追加した翌5日目には全てで総細胞数が1.2×10
7個を超えていた。
以上まとめると、培養開始時播種細胞密度は、1.5×10
5個/mLでは5日目に4×10
5個/mLを超えて翌日には培養を終了し、4.0×10
5個/mLでは4日目にほぼ4×10
5個/mLを超えて翌日には培養を終了し、6.0×10
5個/mL及び8.0×10
5個/mLでは、4日目で全例が4×10
5個/mLを超えて翌日に培養を終了した。これより、培養期間を短縮するためには、播種細胞密度を4.0×10
5個/mL以上、8.0×10
5個/mL以下に設定することが適当と思われた。
【0049】
【表3】
【実施例2】
【0050】
[活性化培養時のリンパ球細胞表面抗原の推移]
(1)リンパ球細胞の調製及び活性化培養
同意を得た健常者3名より実施例1の(1)と同様の手順で末梢血リンパ球細胞を調製し、細胞数を計測した。
調製したリンパ球細胞を実施例1の(3)と同様に遠心し、培地1を用いてリンパ球細胞の細胞密度を6×10
5個/mLに調製した。この細胞懸濁液50mLを実施例1の(2)で作製した225cm
2OKT3固相化フラスコ(住友ベークライト株式会社製:MS-2180R)に分注し、実施例1の(3)と同様に培地1を用いてテーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%にて培養した。培養時に、随時浮遊細胞を採取して実施例1の(1)と同様に浮遊細胞数を計測した。培養4日目に4×10
5個/mL以上となったため、50mLの培地1を追加し、培養を継続した。培養5日目に再度50mLの培地1を追加し、培養を継続した。培養6日目に、固相化フラスコの底面に付着したリンパ球細胞をタッピングにより剥離させて細胞浮遊液とした。この25mLをOKT3が固相化されていない225cm
2フラスコに分注し、さらに75mLの培地1を添加して培養を継続した。培養9日目に100mLの培地1を添加してさらに培養を13日目まで継続した。培養13日目にフラスコの底面に付着したリンパ球細胞をタッピングにより剥離させて細胞浮遊液として回収し、培養を終了した。
この間、培養開始時、培養開始5日目(培地添加直前)、6日目(付着細胞剥離前/後)、及び13日目に、細胞浮遊液の一部を採取し、直ちに採取リンパ球細胞の表面抗原を解析した。なお、このときリンパ球細胞のほぼ100%がCD3陽性細胞であることがわかっている(非特許引用文献3)。
【0051】
(2)リンパ球細胞表面抗原の解析方法
上記(1)のスケジュールで採取した細胞浮遊液の各5mLを15mL遠沈管(BDファルコン;352097)に取り、1800rpmで5分間、室温にて遠心した。得られたペレットにアルブミンシース液(ベックマンコールター社製:アイソフロー)を添加して1.0×10
7個/mLに各細胞懸濁液を調製した。5mLラウンドチューブ(BDファルコン)に蛍光色素で標識した各抗体(抗CD3抗体 ベクトン・ディッキンソン社製349201、抗CD45RO抗体 同340438、抗CD62L抗体 ベクトン・ディッキンソン・ファーミンジェン社製 555544)10μLをそれぞれ分注し、次に前記各細胞懸濁液50μLを各チューブに分注し、遮光、4℃で30分静置反応させた。反応後の各チューブにアルブミンシース液2mLを添加し、1800rpm、5分間、室温にて遠心した。上清を吸引除去し、各ペレットにセルフィックス(ベクトン・ディッキンソン社製)500μLを添加して懸濁液とし、目的の抗体染色リンパ球細胞集団について、フローサイトメーター(ベクトン・ディッキンソン社製;FACS Calibur)を使用して細胞数10,000個を測定した。
【0052】
(3)抗体染色リンパ球細胞集団の解析
上記(2)の方法で作製した抗体染色リンパ球細胞集団の解析を行った。
結果:
通常、末梢血リンパ球細胞に占めるCD45RO+CD62L+Tリンパ球細胞とCD45RO+CD62L−Tリンパ球細胞の比率は20〜40%程度である(表4)。しかし、活性化培養を施すことにより、5日目には既にその占有率が90%を超え、6日目には95%を超えた。しかし、培養を継続すると上昇した占有率が40%台へと当初のレベルに低下することが判明した(表4、
図1)。NaiveはCD45RO−、CD62L+、CD3+のナイーブT細胞を、EffectorはCD45RO−、CD62L−、CD3+のエフェクターT細胞を、CMはCD45RO+、CD62L+、CD3+セントラルメモリーT細胞を、EMはCD45RO+、CD62L−、CD3+のエフェクターメモリーT細胞を、CM+EM又はmemoryとしてCD45RO+、CD62L+/−、CD3+のメモリーT細胞を表す。
したがって、活性化培養中の浮遊細胞密度が4×10
5個/mL以上となり培地を追加した翌日以降にはCD45RO+、CD62L+Tリンパ球細胞とCD45RO+、CD62L−Tリンパ球細胞の占有率上昇を確認できた。そこで、収穫メモリー細胞数を増やすために、浮遊細胞密度が4×10
5個/mL以上となり培地を追加した翌日以降で、なおかつメモリーT細胞占有率の低下が起きる前に活性化培養を中止して、フラスコの底面に付着したリンパ球細胞をタッピングにより剥離させて浮遊細胞とし、全細胞を回収することとした。
【0053】
【表4】
【実施例3】
【0054】
[凍結工程における凍結細胞密度の検討]
本発明の方法により得られるT細胞群を含有する製剤は、治療に使用するものであり、最終的に得られるリンパ球細胞の数は多い方が効率的である。そこで、凍結保存時の1チューブあたりの細胞数がその後の活性化増幅培養に影響する可能性を検討した。
【0055】
(1)凍結細胞密度の検討−1 活性化培養
同意を得た健常者3名より実施例1の(1)と同様の手順で末梢血リンパ球細胞を調製し、細胞数を計測した。
調製したリンパ球細胞を実施例1の(3)と同様に遠心し、培地1を用いてリンパ球細胞の細胞密度を6×10
5個/mLに調製した。この細胞懸濁液50mLを実施例1の(2)で作製した225cm
2OKT3固相化フラスコ(住友ベークライト株式会社製;MS-2180R)に分注し、実施例1の(3)と同様にテーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%にて培養した。培養開始3日目に浮遊細胞数が4×10
5個/mLを超えていたことから、50mLの培地1を添加して翌日まで培養を継続した。培養開始4日目に活性化培養を中止して、フラスコの底面に付着したリンパ球細胞をタッピングにより剥離させて浮遊細胞とし、全細胞を回収して培地1による細胞懸濁液を得た。前記懸濁液中の細胞数を実施例1の(1)と同様の手順で計測した。
【0056】
(2)凍結細胞密度の検討−2 凍結保存
上記(1)で計測した細胞密度を元に、3検体について、凍結保存チューブ(コーニング社製)1本あたりのリンパ球細胞数を0.5×10
7個、1.0×10
7個、3.0×10
7個、5.0×10
7個となるように培地1を加えて調製し、15mL遠沈管に分注して1200rpm、5分間、室温にて遠心した。遠心後、各遠沈管中の上清を除去し、得られたペレットを分散させ、凍結保存チューブ1本あたり1.8mLの液量となるように細胞凍結保存液(CP−1:極東製薬工業株式会社製)を添加して細胞を懸濁して凍結保存チューブに分注し、その凍結保存チューブをバイセル(日本フリーザー社製)に入れ、−80℃の超低温フリーザー(三洋電機株式会社製)で一時保管2日後に液体窒素タンク(MVE)へと移しいれて凍結保存細胞として保存した。
【0057】
(3)凍結細胞密度の検討−3 解凍処理
各細胞密度で凍結保存した凍結保存チューブを液体窒素タンクより取り出し、37℃に設定したドライサーモユニット(タイテック社製)中で4分間加温し、凍結リンパ球細胞を解凍した。解凍したリンパ球細胞を、10mLの培地1を用いて懸濁しながら15mL遠沈管に移しいれ、1200rpm、3分間、室温にて遠心した。遠心後、上清を除去し、ペレットを分散させ10mLの培地1を添加して細胞懸濁液とし、実施例1の(1)と同様に細胞数を計測した。解凍したリンパ球細胞は、チューブ毎に細胞数が異なるため、そのまま同量の培地で懸濁播種すると、播種細胞数の差が増殖に影響する可能性がある。この可能性を排除するために、解凍した細胞を播種して培養する工程では、播種前及び工程毎にリンパ球細胞数を計測し、播種時の細胞密度はもとより、添加する培養液量を調製して細胞密度をほぼ一定とした(7.5×10
5個/mL)。凍結保存チューブにより異なる細胞数を培養開始時に液量調整するこの手法は、次の拡大培養、活性化培養、増幅培養においても採用した。表5に、各工程における培養液量と添加液量を示す。
解凍時の操作として、表5に示す液量の前記懸濁液をプレーン24穴マルチウェルプレート(住友ベークライト社製)に1ウェル当たり2mLずつ播種し、播種日を第1日として、37℃、湿度95%、CO
2濃度5.0%の炭酸ガス培養器内で2日間培養した。
【0058】
【表5】
【0059】
(4)拡大培養と活性化培養
前記(3)で解凍処理後に培養したリンパ球細胞を、3日目に24穴マルチウェルプレートよりそれぞれプレーンのフラスコに移し、表5に記載されるそれぞれの添加液量の培地1で24穴マルチウェルプレートのウェル内を洗浄して残った細胞を回収し、フラスコ内の液量を表5に記載される液量に調製した。各フラスコをテーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95%、CO
2濃度5.0%の炭酸ガス培養器内でさらに2日間培養した(表5、拡大培養)。
前記拡大培養後に、培養フラスコ中の細胞懸濁液を、活性化培養を行うために、実施例1の(2)と同様に調製した表5に示した容量のOKT3固相化フラスコ内に移し、前記培養フラスコの中を培地1で洗浄して残った細胞を回収し、最終的にOKT3固相化フラスコ内の液量を表5に記載の液量に調製し、各フラスコをテーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95%、CO2濃度5.0%でさらに2日間培養した(表5、活性化培養2)。
【0060】
前記活性化培養後に、各OKT3固相化フラスコをタッピングして底面に付着した細胞を剥離させて細胞懸濁液とした。得られた細胞懸濁液を表5に記載の新規のプレーン培養フラスコ(住友ベークライト社製)又は新規ガス透過性培養バッグ(1000mL、コージンバイオ社製16087528)に移しいれ、さらに各フラスコ内を表5に示す添加液量の培地2(1%ヒト血清(リンフォテック社製)、175U/mL rIL−2(プロロイキン;ノバルティス社製)を含むAIM−V培地:インビトロジェン製)で洗浄し、前記洗浄液を前記プレーンフラスコまたはガス透過性培養バッグ内の細胞懸濁液に併せて、テーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95%、CO
2濃度5.0%でさらに3日間培養した(表5、増幅培養1)。
【0061】
前記増幅培養1後に、前記培養容器に、表5に記載の添加液量の培地2を添加し、37℃、湿度95%、CO
2濃度5.0%の炭酸ガス培養器内でさらに4日間培養を継続した。ここで培養容器としてフラスコを新たに追加した場合は、培養中のフラスコに添加液量の培地2を添加し、フラスコを振蕩して細胞懸濁液を攪拌し、新たなフラスコ内に容量の半量を移して培養を継続した。培養容器としてフラスコからバッグに移行した場合は、2つのフラスコに添加液量の培地2を分注し、フラスコを振蕩して細胞懸濁液を攪拌し、新たなバッグに内容量の全てを移して培養を継続した。培養容器としてバッグを新たに増やして使用する場合は、新たに使用する培養バッグに表5に記載の添加液量の培地2を添加し、これを前記増幅培養1で培養していた培養バッグに無菌的に接合し、両バッグ内の内容物を良く混合し、さらに培養を継続した(表5、増幅培養2)。
【0062】
(3)及び(4)に記載した各手技を行う際に、各検体の細胞数と生存率を実施例1の(1)と同様に計測・算出した。その結果を表6に示す。
結果:凍結保存チューブに格納する細胞数をそれぞれの設定値に調整して凍結保存したが、各処理工程において3検体間に大きな差異は認められなかった。しかし、本発明の方法で製造したメモリーTリンパ球細胞群は治療用であり、効率の観点から、一連の培養から得られる細胞数は多い方が望ましい。したがって、適切な培養規模が望まれることから、凍結保存チューブ一本あたりの細胞数は、1.0×10
7個〜5.0×10
7個が妥当と考えた。本実施例(1)〜(4)の工程では、培養増殖に対する播種細胞密度の影響を除外するために、表5に示すように、添加液により細胞密度を一定に調節していた。一方、増幅培養1の培養開始時細胞数を1×10
8個、2×10
8個、3×10
8個に設定して培養開始時液量を一定として培養を行ったところ、1×10
8個では増幅が約2日遅れたが、2×10
8個及び3×10
8個では有意差なく上記の増幅培養2の工程後に十分量のメモリーTリンパ球細胞群を得られることが確認できた。上記の凍結保存チューブ一本あたりの細胞数を1.0×10
7〜5.0×10
7個とすると、この条件を満たすことができる。
【0063】
【表6】
【実施例4】
【0064】
[凍結保存を経て活性化増幅する工程でのリンパ球細胞表面抗原の推移]
(1)凍結保存細胞の作製
実施例2において、細胞凍結前の活性化培養では、培養液中の細胞密度が4×10
5個/mL以上となった段階で培養液中の細胞中のメモリーT細胞群の占有比率が上昇することが判明していた。
そこで実施例3の(1)と同様に、同意を得た健常者3名より実施例1の(1)と同様の手順で末梢血リンパ球細胞を調製し、得られた細胞懸濁液の細胞数を計測して細胞密度を6×10
5個/mLに調製し、その50mLを実施例1の(2)と同様の手順で作製したOKT3固相化フラスコ225cm
2に分注してテーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%にて培養した。培養開始3日目に浮遊細胞数が4×10
5個/mLを超えていたことから、メモリーT細胞群の占有比率が上昇したものとして、50mLの培地1を添加して翌日まで培養を継続した。翌日、つまり培養開始4日目に活性化培養を中止して、フラスコの底面に付着したリンパ球細胞をタッピングにより剥離させて浮遊細胞とし、全細胞を回収して培地1により細胞懸濁液とした。前記懸濁液中の細胞数及び生存率を実施例1の(1)と同様の手順で計測し、7.0×10
7個の細胞相当量の懸濁液を50mL遠沈管に移しいれ、1200rpm、5分間、室温にて遠心した。遠沈管中の上清を除去し、ペレットに3.6mLのCP−1細胞凍結保存液(極東製薬製)を添加して懸濁した。前記懸濁液を、1.8mLずつ2本の凍結保存チューブに分注し、実施例3の(2)と同様に、凍結保存した。
【0065】
(2)凍結保存細胞の解凍処理
凍結保存細胞を、1週間後に液体窒素タンクより取り出し、実施例3の(3)凍結細胞密度の検討−3と同様に解凍処理した。37℃に設定したドライサーモユニット(タイテック社製)中で4分間加温し、凍結リンパ球細胞を解凍した。解凍したリンパ球細胞を、10mLの培地1を用いて懸濁しながら15mL遠沈管に移しいれ、1200rpm、3分間、室温にて遠心した。遠心後、上清を除去し、ペレットを分散させ40mLの培地1を添加して細胞懸濁液とし、実施例1の(1)と同様に細胞数を計測した。なお、凍結保存後のリンパ球細胞のほぼ100%がCD3陽性細胞であることがわかっている(非特許引用文献1)。
【0066】
(3)凍結保存細胞の拡大活性化増幅培養
前記懸濁液を、実施例3の(4)と同様にプレーン24穴マルチウェルプレート(住友ベークライト社製)に1ウェル当たり2mLずつ播種し、播種日を第1日として、37℃、湿度95%、CO
2濃度5.0%の炭酸ガス培養器内で2日間培養した。培養したリンパ球を、3日目に24穴マルチウェルプレートよりプレーンのフラスコに移し、培地1で24穴マルチウェルプレートのウェル内を洗浄して残った細胞を回収し、フラスコ内の細胞懸濁液の液量を90mLに調製した。前記フラスコをテーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95%、CO
2濃度5.0%の炭酸ガス培養器内でさらに2日間培養した(拡大培養)。前記培養後に、培養フラスコ内の細胞懸濁液を、活性化培養を行うために225cm
2のOKT3固相化フラスコ内に移し、前記培養フラスコの中を培地1で洗浄して残った細胞を回収し、最終的にOKT3固相化フラスコ内の液量を240mLに調整し、フラスコをテーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95%、CO2濃度5.0%でさらに2日間培養した(活性化培養2)。前記活性化培養後に、OKT3固相化フラスコをタッピングして底面に付着した細胞を剥離させて細胞懸濁液とした。得られた細胞懸濁液を新規ガス透過性培養バッグ(1000mL、コージンバイオ社製 16087528)に移しいれ、さらにフラスコ内を培地2(1%ヒト血清(リンフォテック社製)、175U/mL rIL−2(プロロイキン;ノバルティス社製)を含むAIM−V培地:インビトロジェン製)で洗浄し、前記洗浄液を前記ガス透過性培養バッグ内の細胞懸濁液に併せて液量を1000mLとし、テーハー式CO
2培養器(ヒラサワ社製)内で温度37.0±0.5℃、湿度95%、CO
2濃度5.0%でさらに3日間培養した(増幅培養1)。前記培養後、新たに使用する培養バッグに1000mLの培地2を添加し、これを前記増幅培養1で培養していたガス透過性培養バッグに無菌的に接合し、両バッグ内の内容物を良く混合し、さらに培養を継続した。前記培養容器は37℃、湿度95%、CO
2濃度5.0%の炭酸ガス培養器内でさらに4日間培養した(増幅培養2)。
【0067】
(4)抗体染色リンパ球細胞集団の解析
本実施例4の(2)から(3)の工程において、凍結細胞を解凍した日を第1日とし、プレーンのフラスコ(225cm
2)で培養終了してOKT3固相化フラスコでの活性化培養を開始する直前を第5日目とし、活性化培養を終了してガス透過性培養バッグ(1000mL、コージンバイオ社製 16087528)での培養を開始する直前を第7日目とし、ガス透過性培養バッグでの培養を終了してもう1つのガス透過性培養バッグを接合しての培養が終了した日を第14日目とし、第1日目(解凍直後)、第5日目(活性化直前)、第7日目(活性化直後)、及び第14日目(終了直前)に培養中の細胞懸濁液の一部を無菌的に採取して、得られた細胞のサブセットの解析を、実施例2の(2)と同様な方法で、抗CD3抗体(ベクトン・ディッキンソン社製349201)、抗ヒトCD45RO抗体(ベクトン・ディッキンソン社製340438)及び抗ヒトCD62L抗体(ベクトン・ディッキンソン・ファーミンジェン社製555544)に関して実施した。
【0068】
結果:
表7に示す。凍結保存前に活性化培養細胞の中で占有率が上昇したメモリーT細胞群は、凍結解凍後、通常の培養及び活性化培養の過程にあってもよく高い存在比率が維持されることが判明した。第7日目にセントラルメモリーT細胞の存在比が若干の低下を示すものの、培養継続により回復が認められ、メモリーT細胞群としては緩やかな存在比の低下を示すものの、占有率は80%を超えていた。上記より、被験者より末梢血リンパ球細胞の採取を行った直後のリンパ球細胞サブセット像に比較して、メモリーT細胞群が高率に存在する活性化リンパ球細胞を得られることが明らかとなった(
図2)。NaiveはCD45RO−、CD62L+、CD3+のナイーブT細胞を、EffectorはCD45RO−、CD62L−、CD3+のエフェクターT細胞を、CMはCD45RO+、CD62L+、CD3+セントラルメモリーT細胞を、EMはCD45RO+、CD62L−、CD3+のエフェクターメモリーT細胞を、CM+EM又はmemoryとしてCD45RO+、CD62L+/−、CD3+のメモリーT細胞を指す。
【0069】
【表7】
【0070】
(5)凍結保存細胞の安定性
上記実施例4(1)と同様の方法で、同時に凍結保存した細胞を1週間、1ヶ月、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月間液体窒素下で保管し、凍結保存細胞の安定性について検討を行った(n=3)。
解凍後の細胞数、細胞表現型や解凍後の細胞増幅率及び増幅細胞の細胞表現型を解析した結果、凍結保存後6ヶ月までは解凍後の細胞数、生存率及び細胞表現型、また解凍後の培養工程における細胞増幅率及び細胞表現型においても何ら差は認められなかった。したがって、凍結保存細胞は少なくとも6ヶ月間は安定であり、凍結保存細胞は安定に長期保存できることが示された。
【実施例5】
【0071】
本発明のメモリー細胞を主成分とした医療組成物を製造した。製造工程の概要を
図3に示す。
[本発明のメモリー細胞を主成分とした医療組成物の製造]
1.活性化培養1工程
抗CD3抗体(OKT3)を固相化した225cm
2の活性化フラスコに、実施例1(1)と同様に調整した50mLの細胞浮遊液を分注し、温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%のテーハー式CO
2培養器内で培養した。調製した細胞浮遊液量が100mLを超える場合は2つの活性化フラスコに50mLずつ細胞浮遊液を分注した。細胞浮遊液量が50mL以上100mL未満の場合は50mLを分注した。培養開始3日目に培養液0.01mLを採取して浮遊細胞数を計測した(工程内検査II)。浮遊細胞密度が4×10
5個/mL以上の場合は培養液1を50mL追加した(培養液追加)。
培養開始3日目の工程内検査IIで浮遊細胞密度が4×10
5個/mLに達していない場合は、更に1日培養を続け、翌日(培養開始4日目)浮遊細胞数を計測し、浮遊細胞密度が4×10
5個/mL以上の場合は培養液追加工程に進めた。
培養開始6日目までに浮遊細胞密度が4×10
5個/mLに達していれば培養液追加工程に進むが、達していない場合は培養を中止し、再度採血を行う。
【0072】
2.凍結保存工程
培養液を追加した翌日フラスコ底面に付着した細胞を剥離させ、均一に懸濁し、工程内検査III用サンプルとして1mLをサンプリングした。細胞懸濁液より室温1200rpm5分間遠心により細胞を回収して、細胞を3×10
7個/チューブで凍結する。ここで細胞は3×10
7個/チューブで細胞凍結保存液CP−1(極東製薬製)に浮遊させ、凍結保存チューブに格納し、そのチューブをバイセルに入れて−80℃フリーザー内で急速に凍結させた。翌日−80℃フリーザーから凍結チューブを取り出し、液体窒素中で保存した。
【0073】
3.解凍処理工程
凍結保存細胞を格納したチューブを液体窒素タンクより取り出し、37℃に加熱したドライサーモユニットで4分間加温し、凍結細胞を解凍した。10mLの培地1の入った15mLの遠心管に解凍した細胞液を加え、転倒混和によりよく攪拌し、室温で1200rpm、3分間遠心した。上清を除去し、細胞を分散させた後40mLの培地1を用い均一に浮遊させた。細胞をよく混和し、0.5mLをサンプリングして工程内検査IVのサンプルとした。
残りの細胞浮遊液をプレーンの24穴マルチウェルプレートに2mL/wellで分注し、温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%のCO
2培養庫内で2日間培養した。
【0074】
4.拡大培養工程
培養3日目に24穴マルチウェルプレートから細胞をプレーンの225cm
2フラスコに移した。培地1を用いて24穴マルチウェルプレートを洗浄して残った細胞を回収した。最終的に計90mLとなるように培地1を用いて細胞を浮遊させ、温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%のCO
2培養器内で2日間培養した。
【0075】
5.活性化培養2工程
2日間培養後、プレーンの225cm
2フラスコ内の細胞を抗CD3抗体(OKT3)が固相化された活性化フラスコに移した。培地1でプレーンの225cm
2フラスコを洗浄し、残った細胞を回収して最終的に培養液量を250mLとした。温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%のCO
2培養庫内で2日間培養した。
【0076】
6.増幅培養1工程
2日間培養後、活性化フラスコの底面に付着した細胞を剥離させ細胞浮遊液を得た。1mLの細胞浮遊液をサンプリングして工程内検査Vのサンプルとした。残りの細胞浮遊液250mLを750mLの培地2(175U/mLのIL−2を含む1%ヒト血清添加培地)を充填したガス透過性培養バッグに移し、温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%のCO
2培養庫内で3日間培養した(総培養液量約1L)。
【0077】
7.増幅培養2工程
3日間培養した培養バッグと1Lの培地2を充填したガス透過性培養バッグとを無菌的に接合し、2つの培養液をよく混合し、温度37.0±0.5℃、湿度95.0±5.0%、CO
2濃度5.0±0.2%のCO
2培養器内で4日間培養した(総培養液量約2L)。
【0078】
8.調製及び充填工程
増幅培養2開始後、4日目(通算14〜17日目)に2連結された培養バッグの一方から250mLの遠心管4本に250mLずつ培養液を移し、室温1,500rpm、8分間遠心した。上清を除去し、残り1バッグの培養液を前記の250mLの遠心管に移した。始めのバックと同条件で遠心し、上清を除去した。250mL遠心管4本の細胞を分散させた後、0.1%ヒトアルブミン加生理食塩水500mLで懸濁し、2本の250mL遠心管に集め、4℃で1,700rpm、8分間遠心し、細胞を洗浄した。同様の操作を繰り返し、細胞を2回洗浄した。洗浄した細胞を分散させ、4℃に冷却した1%ヒトアルブミン加生理食塩水210mLに懸濁させた。懸濁させた細胞液の10mLを採取して出荷検定用のサンプルとした。残りの200mLを製品充填用バッグに充填し製品とした。
【0079】
[本発明のメモリー細胞を主成分とした医療組成物の解析]
本発明の方法により得られた活性化リンパ球細胞と、従来法にて作製した活性化リンパ球細胞のサブセットの解析を、実施例2の(2)と同様な方法で、抗ヒトCD45RO抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)及び抗ヒトCD62L抗体(ベクトン・ディッキンソン・ファーミンジェン社製)に関して実施した(
図4)。
本発明の方法は実施例5に記載の方法で行った。培養開始時の末梢血管より採血分離した単核球細胞(リンパ球細胞リッチ画分)(PBMC)をOKT固相化フラスコで活性化培養した。この4×10
5/mL以上に達した活性化培養後4日目にサンプル(+50)を採取した後、50mLの培地1を添加し、一日間培養し、サンプル(Freeze)を採取した後凍結保存工程を行った。凍結細胞の解凍直後にサンプル(TW(Thaw))を採取して拡大培養工程を行い、その後に活性化培養2をOKT固相化フラスコで行った。活性化培養2の直前にサンプル(OKT)を採取し、直後にサンプル(解凍BP)を採取した。その後培養バッグで増幅培養2を行ってリンパ球細胞を収穫したが、収穫直前に細胞サンプル(解凍H(Harvest))を採取した。
【0080】
従来法においては、培養開始時の末梢血管より採血分離した単核球細胞(リンパ球細胞リッチ画分)(PBMC)を培地1で細胞懸濁液とし、その懸濁液50mLをOKT固相化フラスコで活性化培養した。この4×10
5/mL以上に達した活性化培養後4日目にサンプル(+50)を採取した後、50mLの培地1を添加し、一日間培養した。5日目にサンプル(+150)を採取して150mLの培地1を加え培養した。さらに翌日サンプル(生BP)を採取した。100mLの培地1を加えて培養し、培養終了直前にサンプル(生H)を採取した。なお+150及びFreezeサンプルは、凍結群と非凍結群に分けた直後に採取するサンプルであるので、実質的に同じものである。
【0081】
上記サンプルの細胞サブセットを調べた結果、従来法の凍結処理工程を含まない方法では、得られたリンパ球細胞群においてメモリーT細胞の割合が40%程度と、PBMCと同程度となったが(
図4A)、本発明の方法を用いると、得られたリンパ球細胞群においてメモリーT細胞が約75%を占めた(
図4B)。したがって、本発明の方法により、採取したリンパ球細胞を凍結保存することで利便性を高めることができただけでなく、養子免疫療法等において有効成分であるメモリーT細胞を主成分とするリンパ球細胞群を得ることができた。
【0082】
大隅らが、養子免疫療法に使用される活性化リンパ球細胞の作用メカニズムを解明するために、活性化増幅培養して得られた活性化リンパ球細胞の機能をメモリーT細胞サブセットに着目してこれを解析した。その結果、活性化リンパ球細胞に含まれるエフェクターメモリーT細胞が癌細胞に対して24時間で細胞障害活性を示したこと、そしてセントラルメモリーT細胞が腫瘍抗原を認識した後に活性化されてエフェクターメモリーT細胞へと分化して48時間で細胞障害活性を発現することが明らかとなった。
以下に、セントラルメモリーT細胞及びエフェクターメモリーT細胞の腫瘍細胞に対する効果を示す。活性化自己リンパ球細胞(KC−362)を、抗ヒトCD45RO抗体(ベクトン・ディッキンソン社製)及び抗ヒトCD62L抗体(ベクトン・ディッキンソン・ファーミンジェン社製)の有無を指標にしてフローサイトメーター(ベクトン・ディッキンソン社製;FACS Calibur)によりセントラルメモリーT細胞(CM)とエフェクターメモリーT細胞(EM)群に分けた(CM純度99.6%、EM純度98.5%)。次に、分けた各細胞群とKT−362(患者由来腫瘍細胞株)との共培養を行い、細胞障害活性を解析した(表8)。
【0083】
【表8】
【0084】
KT−362単独(コントロール)では細胞数が培養開始時点の細胞数と比較して、24時間で2.5倍に、48時間で5.3倍に増加した。一方、CMとの共培養では24時間で0.9倍と増殖抑制が認められ、48時間では0.3倍に減少した。培養後48時間時点でリンパ球細胞を回収してフローサイトメーター(ベクトン・ディッキンソン社製;FACS Calibur)で解析したところ、CMの抗原型はEMに変化していた。
KT−362とEMとの共培養では、コントロールの培養開始時点の細胞数と比較して、24時間で0.2倍に細胞数が減少し、48時間では生細胞は認められなかった。
したがって、CM及びEMはいずれも細胞障害活性を有し、なかでもCMは、障害活性の発現に時間差はあるものの、EMに比べてその寿命が遥かに長いことより、長期に亘りEMの安定的供給源となるものと考えられ、この点からCMを選択的に増幅したリンパ球細胞群を含有する組成物は効果的な治療剤となることが示唆される。
【0085】
従来法で得られる活性化リンパ球細胞群は、PBMC採取後活性化培養3〜7日程度の限られた期間しかセントラルメモリーT細胞占有率が高い活性化リンパ群を得ることができず、しかもこの期間はいまだ細胞数が十分に増えておらず、そして細胞数が十分に増えた後は、セントラルメモリーT細胞占有率が20%以下に低下しているという問題があった(非特許文献3)。それに対し、本願発明の方法によれば、十分に細胞数を増やし、かつEMに比べてCMが圧倒的多数となる本発明の活性化リンパ球細胞群を得ることができ、細胞障害活性ではEMに比べると活性発現に若干の遅れはあるものの、活性そのものはEMのそれと遜色のないその投与により、細胞障害活性が高いEMの長期安定な供給が得られ、有効な治療効果が実現すると考えられる。しかも、細胞凍結段階を含み、その凍結期間は特に制限されないことから、長期保管並びに急な要請に対しても迅速にメモリーT細胞、特にセントラルメモリーT細胞占有率の高い活性化リンパ球細胞群を調製することができる点で利便性が大変高い。