(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは究極の半導体基板として期待されている。その理由は、ダイヤモンドが高熱伝導率、高い電子・正孔移動度、高い絶縁破壊電界強度、低誘電損失、そして広いバンドギャップといった、半導体材料として他に類を見ない、優れた特性を数多く備えているためである。バンドギャップは約5.5eVで、既存の半導体材料中では極めて高い値を有する。特に近年では、広いバンドギャップを活かした紫外発光素子や、優れた高周波特性を持つ電界効果トランジスタなどが開発されつつある。
【0003】
ダイヤモンドを半導体に利用することを考えると、数インチ径と云ったある程度の大きさが必要となる。その理由として、Si等の一般的な半導体の微細加工で使用される加工装置をダイヤモンドにも適用させる場合、数インチ未満の小型基板に適用することが困難だからである。
【0004】
そこで、ある程度の大きさを有するダイヤモンドを成長させる方法として、幾つかのアイデアが提案されており、その中でも、複数の小型のダイヤモンド単結晶基板を並べたダイヤモンド単結晶成長方法(所謂、モザイク成長法。例えば特許文献1参照)や、単結晶の酸化マグネシウム(MgO)基板を下地基板として用い、その下地基板上にヘテロエピタキシャル成長法によりダイヤモンド膜を形成する製造方法(例えば、特許文献2参照)が有力な候補として挙げられる。
【0005】
モザイク成長法は、複数のダイヤモンド単結晶基板をタイル状に並べ、そのダイヤモンド単結晶基板上に、新たにダイヤモンド単結晶をホモエピタキシャル成長させることで、大型のダイヤモンド単結晶基板を成長形成する手法である。しかしタイル状に並べたダイヤモンド単結晶基板どうしの結合境界上には、結晶品質の劣化した領域として、結合境界が発生する。従って、モザイク成長法で得られたダイヤモンド単結晶には、必ず結合境界が生じてしまう。
【0006】
結合境界が発生する理由として、結合境界の領域では成長がランダムに発生し、様々な方向からのコアレッセンスが起こり、結合境界で大量の転位が発生するためである、この結合境界は目視でも確認できる程の明確な境界線となる。
【0007】
結合境界の部分は、半導体デバイスの成長には使用できないため、モザイク成長法で得られるダイヤモンド単結晶基板の面積に対して、実際に使用可能な面積は限定されてしまう。
【0008】
更に悪いことに、半導体デバイスの作製が可能なダイヤモンド単結晶基板の領域と、半導体デバイスチップの大きさが必ずしも一致しない。従って、このようなダイヤモンド単結晶基板に半導体デバイスを作製するプロセスでは、結合境界を避けるようにプロセスを進める必要がある。従って、半導体デバイス作製のプロセスが複雑になってしまう。
【0009】
一方、前記ヘテロエピタキシャル成長法は、異なる物性を持つ材料からなる下地基板上に、ダイヤモンド基板となるダイヤモンド膜をエピタキシャル成長させる手法である。1つの下地基板上に1枚のダイヤモンド膜をエピタキシャル成長させるので、前記モザイク成長法のように複数のダイヤモンド単結晶基板どうしの結合境界が発生する虞が無い。
【0010】
従って、モザイク結晶法及びヘテロエピタキシャル成長法の2つの方法のうち、半導体デバイスが作製可能な基板面積の制約を受けにくいという点で、ヘテロエピタキシャル成長法が特に有望である。
【0011】
しかし下地基板とダイヤモンド間の格子定数及び熱膨張係数の相違により、成長形成されるダイヤモンド基板の結晶内部に応力が生じ、ダイヤモンド基板に反りやクラックが発生する。よって、ヘテロエピキシャル成長法でもたやすく大型の基板が得られる訳ではない。
【0012】
そこでヘテロエピキシャル成長法でダイヤモンドに生ずる応力の低減に対し、いくつかの先行技術が報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記紹介したような従来技術が報告されてから10年余り経つにも関わらず、現在までに達成されたヘテロエピキシャル成長法によるダイヤモンド基板は1.5インチが最大であり、半導体への応用に必要な2インチ以上の基板は達成されていない。この点を考慮すると先行技術では、ヘテロエピキシャル成長法におけるダイヤモンド結晶内部の応力緩和に対して、根本的な解決が出来ていないと言わざるを得ない。即ち、2インチ以上のダイヤモンド基板での反りやクラックの低減は実際には実現されておらず、依然として反りやクラックが低減されるダイヤモンド基板の上限口径値は、1.5インチのままである。
【0015】
以上のことは、下記数1を用いて理論的に示すことが出来る。数1は、ダイヤモンド基板の径Iが大きくなるに伴い、ダイヤモンド基板の撓みδは径Iの2乗の変化量で増大することを示す。従って、ダイヤモンド基板の径Iの大型化に伴い、ダイヤモンド結晶内部に発生する応力σは大きくなる。そのため、従来技術によってダイヤモンド結晶内部の応力を抑え込みには限界があり、実際に1.5インチ程度までしか実現の報告例が無いのは、このためである。なお、数1中のEはヤング率、νはポアソン比、bは下地基板の厚さ、dはダイヤモンド基板の厚さである。
【0016】
【数1】
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、直径2インチ以上の大型のダイヤモンド基板を提供することを課題とする。
【0018】
また、直径2インチ以上という大型のダイヤモンド基板の製造を可能にする、ダイヤモンド基板の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題は、以下の本発明により達成される。即ち、本発明のダイヤモンド基板は、ダイヤモンド単結晶から成り、
更にダイヤモンド基板の平面方向の形状が、円形状又はオリフラ面が設けられた円形状であり、直径が2インチ以上であることを特徴とする。
【0020】
また本発明のダイヤモンド基板の製造方法は、下地基板を用意し、
その下地基板の片面にダイヤモンド単結晶から成る柱状ダイヤモンドを複数形成し、
各柱状ダイヤモンドの先端からダイヤモンド単結晶を成長させ、各柱状ダイヤモンドの先端から成長した各ダイヤモンド単結晶をコアレッセンスしてダイヤモンド基板層を形成し、
下地基板からダイヤモンド基板層を分離し、
ダイヤモンド基板層からダイヤモンド基板を製造し、
ダイヤモンド基板の平面方向の形状を、円形状又はオリフラ面が設けられた円形状とし、直径が2インチ以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るダイヤモンド基板に依れば、ダイヤモンド単結晶から形成された、直径2インチ以上の大型のダイヤモンド基板を実現することが可能となる。
【0022】
また本発明に係るダイヤモンド基板の製造方法に依れば、各柱状ダイヤモンドから成長させたダイヤモンド単結晶どうしをコアレッセンスしてダイヤモンド基板層を製造している。従って、柱状ダイヤモンドの本数を増やすだけで、直径2インチ以上という大径のダイヤモンド基板層を容易に製造することが出来る。
【0023】
更に本発明に係るダイヤモンド基板の製造方法に依れば、ダイヤモンド基板層の成長時に下地基板とダイヤモンド基板層の格子乗数差及び/又は熱膨張係数差により、各柱状ダイヤモンドに応力を発生させ、この応力により柱状ダイヤモンドを破壊し、ダイヤモンド基板層を下地基板から分離している。
【0024】
従って、大型化に伴いダイヤモンド基板層で発生する応力が大きくなっても、柱状ダイヤモンドの破壊によりダイヤモンド基板層の応力が外部に解放されるため、ダイヤモンド基板層へのクラック発生が防止され、この点でも大型のダイヤモンド基板の製造を可能としている。
【0025】
このようなダイヤモンド基板層からダイヤモンド基板を製造することにより、直径2インチ以上という大径のダイヤモンド基板の製造が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、
図1を参照して、本発明に係るダイヤモンド基板を詳細に説明する。本発明に係るダイヤモンド基板の平面方向の形状は特に限定されず、例えば方形等でも良い。しかし表面弾性波素子、サーミスタ、半導体デバイス等と云った用途の製造工程での使用が容易という観点から、円形状が好ましい。特に、
図1に示すようにオリフラ面(オリエンテーションフラット面)が設けられた円形状が好ましい。
【0028】
ダイヤモンド基板1の形状が円形状、または
図1に示すようにオリフラ面が設けられた円形状の場合、実用的な基板での大型化という観点から、直径は2インチ(約50.8mm)以上が好ましく、3インチ(約76.2mm)以上であることがより好ましく、6インチ(約152.4mm)以上であることが更に好ましい。なおダイヤモンド基板1の寸法公差を考慮し、本願では、直径2インチに関しては50.8mmの2%に当たる1.0mmを減算した、直径49.8mm以上〜50.8mmの範囲も2インチに該当すると定義する。
【0029】
なお、直径の上限値は特に限定されないが、実用上の観点から8インチ(約203.2mm)以下が好ましい。また、一度に沢山の素子やデバイスを製造するために、直径2インチと同等以上の面積を有する、方形のダイヤモンド基板を用いても良い。
【0030】
従って、ダイヤモンド基板1の表面2は、少なくとも20cm
2の表面積を有する。更に、大型化という観点から、1297cm
2までの表面積を有することが、より好ましい。
【0031】
また、ダイヤモンド基板1の厚みtは任意に設定可能であるが、自立した基板として3.0mm以下であることが好ましく、素子やデバイスの製造ラインに用いるためには1.5mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下が更に好ましい。一方、厚みtの下限値は特に限定されないが、ダイヤモンド基板1の剛性を確保して亀裂や断裂またはクラックの発生を防止するとの観点から、0.05mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましい。
【0032】
ここで本発明における「自立した基板」又は「自立基板」とは、自らの形状を保持できるだけでなく、ハンドリングに不都合が生じない程度の強度を有する基板を指す。このような強度を有するためには、厚みtは0.3mm以上とするのが好ましい。またダイヤモンドは極めて硬い材料なので、素子やデバイス形成後の劈開の容易性等を考慮すると、自立基板としての厚みtの上限は3.0mm以下が好ましい。なお、素子やデバイス用途として最も使用頻度が高く、且つ自立した基板の厚みとして、厚みtは0.5mm以上0.7mm以下(500μm以上700μm以下)が最も好ましい。
【0033】
ダイヤモンド基板1を形成するダイヤモンド結晶は、ダイヤモンド単結晶が望ましい。ダイヤモンド単結晶は、Ia型、IIa型、又はIIb型の何れでも良いが、ダイヤモンド基板1を半導体デバイスの基板として用いる場合は、結晶欠陥や歪の発生量又はX線ロッキングカーブの半値全幅の大きさの点から、Ia型がより好ましい。更に、ダイヤモンド基板1は単一のダイヤモンド単結晶から形成することとし、表面2上に複数のダイヤモンド単結晶を結合した結合境界が無いこととする。
【0034】
ダイヤモンド基板1の表面2には、ラッピング、研磨、又はCMP(Chemical Mechanical Polishing)加工が施される。一方、ダイヤモンド基板1の裏面には、ラッピングかつ/または研磨が施される。表面2の加工は、主に平坦な基板形状を達成するために施され、裏面の加工は、主に所望の厚みtを達成するために施される。更に表面2の表面粗さRaは、素子やデバイス形成が可能な程度が望ましいので、1nm未満に形成することが好ましく、より好ましくは、原子レベルで平坦となる0.1nm以下に形成することである。Raの測定は、表面粗さ測定機により行えば良い。
【0035】
ダイヤモンド基板1が単結晶の場合、その表面2の結晶面の面方位は、(111)、(110)、(100)の何れでも良く、これら面方位に限定されない。但し、素子やデバイス形成、又はダイヤモンド単結晶の成長などの用途で最も用いられるとの点から、(100)が好ましい。
【0036】
ダイヤモンド基板1が、単一のダイヤモンド単結晶から形成されている場合、表面2上に複数のダイヤモンド単結晶を結合した結合境界が無いため、境界部分での結晶品質の劣化が防止される。よって、ダイヤモンド基板1が、単一のダイヤモンド単結晶から形成されている場合、その表面2(特に(100))における、前記のX線によるロッキングカーブの半値全幅(FWHM:full width at half Maximum)は、表面2の全面に亘り300秒以下が実現可能となる。
【0037】
以上のように、単一のダイヤモンド単結晶から形成されているダイヤモンド基板1では、X線によるロッキングカーブの半値全幅300秒以下を実現することが可能となり、高品質のダイヤモンド基板1を提供することが可能となる。更にこのようなダイヤモンド基板1を使用することにより、高品質及び高効率な素子やデバイスを作製することが出来る。
【0038】
次に、
図2〜
図9を参照して、本発明に係るダイヤモンド基板の製造方法を詳細に説明する。まず、
図2に示すように下地基板4を用意する。下地基板4の材質は、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3:サファイア)、Si、石英、白金、イリジウム、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)等が挙げられる。
【0039】
その中でも特にMgO単結晶基板と酸化アルミニウム(サファイア)単結晶基板は、熱的に極めて安定しており、8インチ(約203.2mm)までの直径の基板が出ているため、簡単に入手可能との理由から、ダイヤモンド単結晶成長用の下地基板として好ましい。
【0040】
また下地基板4は、少なくとも片面4aが鏡面研磨されたものを用いる。後述するダイヤモンド層の成長工程において、ダイヤモンド層は鏡面研磨された面側(片面4aの面上)に成長形成される。なお、必要に応じて片面4a及び裏面4bが鏡面研磨された下地基板を用いても良く、この場合何れか一方の面をダイヤモンド層の成長面として任意に利用できる。
【0041】
鏡面研磨は、少なくとも片面4a上でダイヤモンド層が成長可能な程度まで平滑となるように行われれば良く、目安としては表面粗さRaで10nm以下まで研磨することが好ましい。片面4aのRaが10nmを超えると、片面4a上に成長させるダイヤモンド層の品質悪化を招いてしまう。更に、片面4a上にはクラックが無いものとする。Raの測定は、表面粗さ測定機により行えば良い。
【0042】
更に、下地基板4にMgO単結晶基板を用いる場合、ダイヤモンド層の成長面として好ましくは(001)が挙げられる。しかし、(001)以外の面も使用可能である。
【0043】
下地基板4の平面方向の形状は特に限定されず、例えば円形状や方形でも良い。なお、下地基板4が円形状の場合は大型化という観点から、下地基板4の直径は2インチ(約50.8mm)以上であることが好ましく、3インチ(約76.2mm)以上であることがより好ましく、6インチ(約152.4mm)以上であることが更に好ましい。なお、直径の上限値は特に限定されないが、実用上の観点から8インチ以下が好ましい。なお下地基板4の寸法公差を考慮し、本願では、直径2インチに関しては50.8mmの2%に当たる1.0mmを減算した、直径49.8mm以上〜50.8mmの範囲も2インチに該当すると定義する。
【0044】
一方、下地基板4が方形の場合は大型化という観点から、50mm×50mm以上であることが好ましく、75mm×75mm以上であることがより好ましい。なお、寸法の上限値は実用上の観点から、200mm×200mm以下が好ましい。
【0045】
従って、下地基板4の表面は、少なくとも20cm
2の表面積を有する。更に、大型化という観点から、1297cm
2までの表面積を有することが、より好ましい。
【0046】
また下地基板4の厚みd4は、3.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1.0mm以下であることが更に好ましい。厚みd4の下限値は特に限定されないが、下地基板4の剛性を確保する観点から0.05mm以上であることが好ましく、0.4mm以上であることがより好ましい。なお下地基板4の平面方向の形状が円形状で、直径が50mm以上150mm以下のときは、厚みd4は0.3mm以上であることが好ましく、直径が150mmを超えるときは、厚みd4は0.6mm以上が好ましい。
【0047】
下地基板4を用意したら、次に片面4aに
図3に示すようにダイヤモンド単結晶から成るダイヤモンド層9を成長させて形成する。ダイヤモンド層9の成長方法は特に限定されず、公知の方法が利用できる。成長方法の具体例としては、パルスレーザ蒸着(PLD:Pulsed Laser Deposition)法や、化学気相蒸着法(CVD:Chemical Vapor Deposition)法等の気相成長法等を用いることが好ましい。
【0048】
ダイヤモンド層9の成長前には下地基板4のサーマルクリーニングを行い、次にダイヤモンド層9を成長させる。前記PLD法としては、実質的に酸素からなるガス雰囲気下で、グラファイト、アモルファスカーボン又はダイヤモンドを含有するターゲットに対し、レーザスパッタリングを行ってターゲットから炭素を飛散させ、下地基板4の片面4a上にダイヤモンド層9を成長させる。また、炉内圧力は1.33×10
-4Pa〜133.32Pa、下地基板4の温度は300℃〜1000℃、ターゲットと下地基板4との間の距離は10mm〜100mmの範囲であることが好ましい。
【0049】
前記CVD法としては、CVD成長炉内に下地基板4を配置し、下地基板4の片面4a上にCVDダイヤモンド単結晶を成長させる。成長方法は、直流プラズマ法、熱フィラメント法、燃焼炎法、アークジェット法等が利用可能であるが、不純物の混入が少ない高品質なダイヤモンドを得るためにはマイクロ波プラズマ法が好ましい。
【0050】
マイクロ波プラズマCVDによるダイヤモンド層9のエピタキシャル成長では、原料ガスとして水素、炭素を含む気体を使用する。水素、炭素を含む気体としてメタン/水素ガス流量比0.001%〜30%でメタンを成長炉内に導入する。炉内圧力は約1.3×10
3Pa〜1.3×10
5Paに保ち、周波数2.45GHz(±50MHz)、或いは915MHz(±50MHz)のマイクロ波を電力100W〜60kW投入することによりプラズマを発生させる。そのプラズマによる加熱で温度を700℃〜1300℃に保った下地基板4の片面4a上に活性種を堆積させて、CVDダイヤモンドを成長させる。
【0051】
なおダイヤモンド層9の成長前に、前処理として下地基板4の面上に、イリジウム(Ir)単結晶膜を成膜し、そのIr単結晶膜の上にダイヤモンド層9を成長形成しても良い。
【0052】
図6に示すダイヤモンド層9の厚みd9は、形成しようとする柱状ダイヤモンドの高さ分となるように設定し、30μm以上500μm以下の厚みで成長することが好ましい。
【0053】
次にダイヤモンド層9から、複数の柱状ダイヤモンド11を形成する。その形成には、エッチングやフォトリソグラフィ、レーザ加工等で柱状ダイヤモンド11を形成すれば良い。
【0054】
下地基板4に対してダイヤモンド層9はヘテロエピタキシャル成長により形成されるため、ダイヤモンド層9には結晶欠陥が多く形成されるものの、複数の柱状ダイヤモンド11とすることにより欠陥を間引くことが可能となる。
【0055】
次に、柱状ダイヤモンド11の先端に、ダイヤモンド基板層12を成長させて形成する。各柱状ダイヤモンド11の先端からダイヤモンド単結晶を成長させることにより、どの柱状ダイヤモンド11からも均等にダイヤモンド単結晶の成長を進行させることが出来る。そして、各柱状ダイヤモンド11の高さ方向に対して横方向に成長させることにより、同じタイミングで各柱状ダイヤモンド11から成長されたダイヤモンド単結晶のコアレッセンス(coalescence)を開始させることが可能となる。
【0056】
各柱状ダイヤモンド11から成長させたダイヤモンド単結晶どうしをコアレッセンスすることでダイヤモンド基板層12を製造する。下地基板4の径に応じて、形成できる柱状ダイヤモンド11の本数も変わり、下地基板4の径が大きくなるに伴い柱状ダイヤモンド11の本数も増やすことが出来る。従って2インチの下地基板からは2インチのダイヤモンド基板層を作製することが可能となり、8インチの下地基板からは8インチのダイヤモンド基板層を作製することが可能となる。
【0057】
更に各柱状ダイヤモンド11間のピッチを、ダイヤモンド単結晶の核どうしの成長と同じ間隔(ピッチ)に設定して、各柱状ダイヤモンドからダイヤモンド単結晶を成長させることにより、ダイヤモンド基板層12の表面の品質が改善され、表面の全面に亘り300秒以下の半値全幅を実現することが可能となる。
【0058】
なお、柱状ダイヤモンド11の直径とピッチをそれぞれ10μm以下に設定することにより、ダイヤモンド基板層12の表面の品質が改善され、300秒以下の半値全幅が実現可能となった。
【0059】
各柱状ダイヤモンド11間のピッチの値に関しては適宜選択可能である。しかしながら、各柱状ダイヤモンド11から成長したダイヤモンド単結晶のコアレッセンスが、同じタイミングで開始するかどうかとの観点から、ピッチの値を適宜選択すれば良い。
【0060】
ダイヤモンド基板層12の形成後、柱状ダイヤモンド11部分でダイヤモンド基板層12を下地基板4から分離する。柱状ダイヤモンド11部分で分離させるためには、柱状ダイヤモンド11部分になんらかの力を加える必要がある。本発明ではダイヤモンド基板層12の成長時に、下地基板4とダイヤモンド基板層12に発生する反りにより柱状ダイヤモンド11に応力を発生させ、その応力により柱状ダイヤモンド11を破壊し、ダイヤモンド基板12を下地基板4から分離する。
【0061】
例えば、
図8に示すようにMgO単結晶製の下地基板4は、その熱膨張係数及び格子乗数がダイヤモンド単結晶製のダイヤモンド基板層12のそれよりも大きい。従って、ダイヤモンド基板層12の成長後の冷却時において、ダイヤモンド基板層12側に中心部から端部側に向かって、矢印で示すように引張り応力が発生する。引張り応力は、下地基板4とダイヤモンド基板層12との格子定数差によって発生する応力、及び/又は、下地基板4とダイヤモンド基板層12との熱膨張係数差によって発生する。その結果、
図8に示すようにダイヤモンド基板層12側が凸状となるように、ダイヤモンド基板層12、下地基板4、及び各柱状ダイヤモンド11全体が大きく反る。
【0062】
更に、各柱状ダイヤモンド11に大きな引張り応力が加わり、各柱状ダイヤモンド11にクラックが発生する。このクラック発生が進行することにより、
図9に示すように柱状ダイヤモンド11が破壊され、ダイヤモンド基板層12が下地基板4から分離される。
【0063】
ダイヤモンド基板層12の大型化に伴い、ダイヤモンド基板層12で発生する応力が大きくなっても、柱状ダイヤモンド11の破壊によりダイヤモンド基板層12の応力が外部に解放される。従って、ダイヤモンド基板層12へのクラック発生が防止され、この点でも大型のダイヤモンド基板1の製造を可能としている。
【0064】
更に、下地基板4とダイヤモンド基板層12との格子定数差によって発生する応力、及び/又は、下地基板4とダイヤモンド基板層12との熱膨張係数差によって発生する応力を分離に用いることにより、ダイヤモンド基板層12の成長後に別途、分離のための装置や器具または工程が不必要となる。従って、ダイヤモンド基板1の製造工程の簡略化および分離工程の容易化が可能になる。
【0065】
なお、柱状ダイヤモンド11の高さ方向を、ダイヤモンド層9及び各柱状ダイヤモンド11を形成するダイヤモンド単結晶の(001)面に対して、垂直な方向に設定することにより、応力付加による柱状ダイヤモンド11の破壊が円滑に進行するので好ましい。
【0066】
また、
図6に示すダイヤモンド層9の厚みd9は、形成しようとする柱状ダイヤモンドの高さ分となるように設定し、30μm以上500μm以下の厚みで成長することが好ましい。なお
図10に示すように、厚みd9の底部の一部厚みに相当するダイヤモンド層9を残して、柱状ダイヤモンド11を形成しても良い。
【0067】
図4〜
図10における各柱状ダイヤモンド11のアスペクト比は、ダイヤモンド基板層12の成長時に各柱状ダイヤモンド11が埋まり切らないような値とし、具体的には5以上が望ましい。
【0068】
柱状ダイヤモンド11の断面形状は、方形でも円形状でも良い。しかし、柱状ダイヤモンド11は応力が印加された際に、速やかに破壊される必要がある。以上の点を考慮すると、柱状ダイヤモンド11の断面形状は円形状(即ち、柱状ダイヤモンド11が円柱状)の方が、応力が円周方向に亘って均等に掛かるため、各柱状ダイヤモンド11の破壊を均一に出来る。従って、破壊不均一によるダイヤモンド基板層12への亀裂や断裂またはクラック発生などを防止することが出来るため、円形状がより好ましい。
【0069】
更に、各柱状ダイヤモンド11の直径は、サブミクロン〜5μm程度と設定し、高さ方向において柱状ダイヤモンドの中心部分の直径を、先端部分の直径よりも細く形成することが、柱状ダイヤモンド11の破壊をより容易に且つ円滑に進行可能となり、好ましい。
【0070】
下地基板4からダイヤモンド基板層12を分離後、ダイヤモンド基板層12を研磨して残存する柱状ダイヤモンド11を除去し、スライス、及び円抜き加工して円板を切り出す。更に、その円板にラッピング、研磨、CMP等の種々の加工、及び必要に応じて鏡面研磨を施すことにより、ダイヤモンド基板層12からダイヤモンド基板1を製造する。従って、ダイヤモンド基板層12の厚みd12は、研磨代等を考慮し、前記tよりも若干厚く設定する。研磨代としては、ダイヤモンドは最高硬度を有する材料なので研磨工程の困難さから見てなるべく薄く設定することが好ましく、一例として、50μmとすれば良い。
【0071】
このようなダイヤモンド基板層12からダイヤモンド基板1を製造することにより、直径2インチ以上という大径のダイヤモンド基板の製造が可能になる。更に、ダイヤモンド基板1の表面2でのX線によるロッキングカーブの半値全幅として、表面2の全面に亘り300秒以下が実現出来るので、高品質のダイヤモンド基板1を提供することが可能となる。