【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年9月17日に、一般社団法人日本ロボット学会発行の「日本ロボット学会第30回記念学術講演会(論文集DVD)」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成24年度科学技術試験研究委託事業「日本の特長を活かしたBMIの統合的研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
野崎孝志,有限要素法によるMcKibben型空気圧ゴム人工筋の発生力特性の解析,日本機械学会論文集(C編),日本,日本機械学会,2010年 3月,76巻763号,112−118ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記デコードされた脳活動が、前記着座方向への運動に対応するとき、前記外骨格型ロボットの重量に対する重力補償を維持し、前記ユーザの下肢の所定割合の重量に対する重力補償が不活性化されるように、各前記能動関節の前記トルクを制御する、請求項1記載の外骨格型ロボット。
各前記エアマッスルにおいて、前記エアマッスルと前記ワイヤとの接合部に設けられ、前記エアマッスルからの前記第1の駆動力の大きさを検出するための第2のセンサをさらに備え、
前記制御部は、
前記第2のセンサの検出結果に応じて、前記エアマッスルの前記第1の駆動力および前記電動モータからの前記第2の駆動力とを制御する、請求項2記載の外骨格型ロボット。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態の外骨格型ロボットおよびそれを用いたリハビリテーション装置の構成について、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
【0032】
以下、本実施の形態において、歩行・姿勢リハビリテーションのための空電ハイブリッド式の外骨格型ロボットについて説明する。
【0033】
ただし、本発明の空電ハイブリッド式外骨格型ロボットは、下肢の運動をアシストするための外骨格型ロボットに対してだけでなく、上肢の運動をアシストする外骨格型ロボットとしても使用することが可能である。
【0034】
また、以下の説明では、下肢の対としての運動をアシストする外骨格型ロボットについて説明するが、下肢のうちのいずれか一方、または、上肢のうちのいずれか一方の運動をアシストする外骨格型ロボットとして使用することも可能である。
【0035】
さらに、本実施の形態の空電ハイブリッド式外骨格型ロボットは、対象となる人間の筋骨格系の運動をアシストするのであれば、上述したような「下肢のうちの少なくともいずれか一方、または、上肢のうちの少なくともいずれか一方の運動」に限定されるものではなく、たとえば、対象となる人間の腰の運動のみをアシストするものであってもよいし、歩行または走行時において下肢の運動と連動して腰の運動をアシストするものであってもよい。本明細書では、このような対象となる人間の運動のアシストを総称して、「対象となる人間の筋骨格系運動の支援」と呼ぶことにする。
【0036】
本実施の形態の外骨格型ロボットは、外骨格を有する。「外骨格」とは、人間の骨格構造に対応してロボットが有する骨格構造のことである。より特定的には、「外骨格」とは、外骨格型ロボットを装着する人間の体の一部を、外部から支えるフレーム(枠組み)構造のことをいう。
【0037】
このフレーム構造には、さらに、フレーム構造の各部を人間の骨格構造に基づく運動に応じて動かすための関節が設けられる。
【0038】
特に、下肢の運動をアシストする外骨格型ロボットは、ベースと下半身とを有し、足首、膝、腰の左右の位置に、能動6自由度の関節を有するロボットである。また、当該6つの関節は、空電ハイブリッド駆動の関節である。以下、このように、外骨格型ロボットにおいて、アクチュエータにより駆動される関節のことを「能動関節」と呼ぶ。
【0039】
図1は、本実施の形態における外骨格型ロボット1の構成事例を示す図である。本外骨格型ロボット1は、10自由度である。
【0040】
図1において、
図1(a)は、外骨格型ロボットの外観を示す図であり、
図1(b)は、
図1(a)の外観において、外骨格型ロボット1の主要部を抽出して示す斜視図である。
【0041】
図1(b)において、外骨格型ロボット1は、両脚に対応したフレーム構造、バックパック101、柔軟シート102、HAA拮抗筋103、HFE伸筋104、HFEモータ111、KFE伸筋105、 KFEモータ106、AFE伸筋107、AFE屈筋108、ジョイント109、フレーム構造に設けられたプーリー付回転関節110を備える。
【0042】
なお、
図1(b)では、バックパック101が運動を支援する構造に直接とりつけられているが、
図1(a)に示すように、バックパック101は、この構造から取り外されていてもよい。
【0043】
また、プーリー付回転関節110には、たとえば、光学式エンコーダを回転軸に取り付け、関節角度を計測する。光学式エンコーダは、軸に取り付けるのではなく、軸に巻かれたベルトの移動方向と移動量を読み取る構成としてもよい。なお、ハイブリッド関節であるHFEおよびKFE関節においては、モータ付属のエンコーダを用いて関節角度を計測してもよい。ジョイント109は、AAA関節に相当し、この構成では、駆動機構は取り付けられず、受動的な関節となっている。
【0044】
図2は、外骨格型ロボット1の自由度の構成を示す図である。
【0045】
図2において、各関節において、「R_」との表示は、右側の関節であることを示し、「L_」との表示は、左側の関節であることを示す。
【0046】
図1および
図2を参照して、全10自由度のうち、HFE関節とKFE関節はハイブリッド駆動としている。また、
図2において、全10自由度のうち、左右のAFE関節は伸筋と屈筋による拮抗駆動を採用している。ハイブリッド駆動および拮抗駆動以外の関節は、パッシブな駆動である。ただし、より多くの関節、たとえば、全ての関節をハイブリッド駆動としてもよい。
【0047】
図1において、両脚が接続する胴体部には姿勢センサを搭載してベース部の姿勢を検出している。また、全ての関節にワイヤ式エンコーダ(またはモータ付属のエンコーダ)を取り付け、関節角度を計測できるようにしている。ベースの姿勢と関節角度を検出することで、重心から接触部への正確なヤコビ行列が算出でき、各関節に発生させる目標トルクが算出できる。
【0048】
また、足底部には、床反力センサを搭載し、接触を想定する足底部が実際に接触しているかどうかを判定したり、ヤコビ行列に含まれるモデル誤差を修正するために補助的に使用する構成としてもよい。
【0049】
このようなヤコビ行列を用いた順運動学モデルに基づいて、目標作用力から夫々のアクチュエータに配分するトルク値を算出する方法については、たとえば、上述した特許文献1に開示がある。
【0050】
また、バックパック101内には制御器の他、エアマッスルのバルブおよび電動モータのドライバを内蔵している。
【0051】
また、バックパック101内に、バッテリーと圧搾したCO
2ガスボンベ、レギュレータを搭載し、電源ラインとエア供給が断絶した場合に備え、短時間の自律駆動を可能にする構成であってもよい。
【0052】
また、
図3は、外骨格型ロボット1を含むリハビリテーション装置のブロック図の例である。
【0053】
外骨格型ロボット1を制御するためのコマンドが、外部制御装置20から、通信経路を介して外骨格型ロボットに与えられる。特に限定されないが、外部制御装置20は、汎用のパーソナルコンピュータを用いることが可能であり、通信経路としては、イーサネット(登録商標)ケーブルを用いることができる。もちろん、通信経路としては、その他の規格の有線通信の経路の他、無線による通信経路、たとえば、無線LAN(Local Area Network)や他の通信規格の無線などを使用してもよい。
【0054】
外部制御装置20は、ユーザからの指示入力を受ける入力部210と、コマンドを生成するためのプログラムや、様々な制御パラメータなど制御のために必要とされるデータが記録された不揮発性の記憶装置206と、外部制御装置20を起動するためのファームウェアが記憶されたROM(Read Only Memory)や、ワーキングメモリとして動作するRAM(Random Access Memory)などを含むメモリ204と、プログラムに応じて、コマンドを生成する処理を実行する演算装置208と、コマンドを通信経路を介して、外骨格型ロボットに送信するためのインタフェース(I/F)部202と、演算装置208の制御の下で、外骨格型ロボット1への制御の状態や脳活動の判別結果に関する情報などを表示するための表示信号を出力する表示I/F部212とを備える。
【0055】
上述のとおり、外部制御装置20が、汎用のパーソナルコンピュータである場合は、演算装置208は、CPU(Central Processing Unit)で構成され、不揮発性の記憶装置206としては、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブなどを用いることができる。ただし、外部制御装置20の機能ブロックの一部または全部は、専用のハードウェアにより構成されてもよい。
【0056】
さらに、外部制御装置20は、外骨格型ロボットが装着されるユーザの脳情報を検出するためのブレインキャップ14からの信号を、A/Dコンバータ16において増幅してデジタル化した信号を受信し、後に説明するように、検出された脳波パターンがいずれの分類に属するかの確率を判別する。外部制御装置20は、このような判別結果に基づいて、外骨格型ロボットを制御するコマンドを生成する。外部制御装置20は、I/F部202を介して、A/Dコンバータ16からの信号を受信する。ここで、ブレインキャップ14により取得されるユーザの脳活動の信号は、たとえば、脳波(EEG:Electroencephalogram)信号であるものとする。
【0057】
ここで、脳波パターンの分類とは、脳波のパターンが、ユーザの行う運動のどの局面に対応するかを示すものであり、たとえば、後に説明する、起立およびしゃがみ込み運動では、脳波が起立運動の状態を示しているか、あるいは、しゃがみ込み運動の状態を示しているかを示す。ただし、たとえば、歩行運動において、右足または左足を、歩行運動の各フェーズのどの態様で運動させる状態かということを示す情報であってもよいし、あるいは、さらに、他の運動の各フェーズに対する分類であってもよい。
【0058】
表示装置214は、表示I/F部212からの信号に基づいて、外骨格型ロボット1への制御の状態や脳活動の判別結果に関する情報などを表示する。
【0059】
外骨格型ロボット1は、外骨格部12、内部制御装置10を備える。
【0060】
外骨格部12は、ベース121、下半身122、能動関節123、検出機構124を備える。さらに、能動関節123は、エアマッスル1231(図示せず)、電動モータ1232(図示せず)を備える。
【0061】
また、内部制御装置10は、I/F部11、記録装置131、記憶装置 132、計測装置133、制御部134、出力装置135を備える。
【0062】
I/F部11は、外部制御蔵置20から指令された制御コマンド等を受け付けることができる。
【0063】
なお、ベース121は、腰の位置の骨格、腰の位置の能動関節123を含むと考えても良いし、腰の位置の骨格のみであると考えても良い。
【0064】
下半身122は、腿や足の位置の骨格、腿や足の位置の能動関節123を含むと考えても良いし、腿や足の位置の骨格のみであると考えても良い。
【0065】
能動関節123は、左右の足首、左右の膝、および腰の左右の各位置に配置されている能動の関節である。ここで、能動関節123とは、アクチュエータで能動的に動作することのできる関節である。つまり、能動関節123は、アクチュエータを備える。
【0066】
また、ここでの1以上の能動関節123は、ハイブリッド型である。つまり、能動関節123の少なくとも一部のものは、エアマッスル1231、電動モータ1232を備えるハイブリッド型である。なお、アクチュエータは、制御目標値となるトルク値を駆動信号として受け付け、受け付けたトルク値に基づいて制御する機能を有している。
【0067】
アクチュエータとして、サーボモータを使用する場合、アクチュエータは、例えば、電流制御が可能な駆動回路を有し、電流に比例したトルクを発生させるサーボモータは、制御目標値として入力されたトルク値に、ギヤ比により決定されるトルク定数を乗じて駆動回路に指令することで入力されたトルクを発生させるトルク制御を実現する。特に、能動関節123にトルクセンサを配設し、当該トルクセンサにより検出した値を駆動回路にフィードバックすることにより、高精度のトルク制御が可能となる。
【0068】
検出機構124は、ロボットの状態を検出する。検出機構124は、例えば、各関節に配置されたエンコーダ、足平に配置された床反力センサ、骨盤部に配置された姿勢検出のためのジャイロセンサ、各エアマッスルの駆動力を検知するロードセルなどである。検出機構124は、関節の角度を検出する角度センサや、ロボットの姿勢を取得する姿勢センサ、外力センサなどでも良い。
【0069】
内部制御装置10は、能動関節123を動作させる。内部制御装置10は、I/F部11が受け付けたトルクまたは位置指令等に対応して、能動関節123を動作させる。内部制御装置10は、例えば、目標とする床作用力を、ヤコビ行列にて規定される順運動学モデル等に基づいて、各能動関節123を駆動する夫々のアクチュエータの夫々のトルク値に変換し、変換した夫々のトルク値を各アクチュエータに制御目標値として出力する。
【0070】
計測装置133は、センサ等の検出機構124から検出結果を示す様々な信号(データ)を受け付ける。
【0071】
制御部134は、制御目標値の算出等の様々な演算を行う。制御部134が行う演算は後に説明する。
【0072】
出力装置135は、能動関節123に制御信号を出力する。出力装置135は、例えば、目標とするトルク値を能動関節123に出力する。
【0073】
図4は、BMIリハビリテーションシステムの構成のうち、脳活動信号のデコーディングの構成を説明するための概念図である。
【0074】
すなわち、本実施の形態のBMIリハビリテーションシステムは、脳活動のデコーディング技術を使用することにより、ユーザが外骨格型ロボットをコントロールすることができるように、外骨格型ロボットが脳波検知システムに接続された脳波(EEG)外骨格型ロボットシステムである。
【0075】
図4に示すように、EEG信号は、ブレインキャップ14の電極によって検知され、A/D変換器16により、検知されたEEG信号は増幅され、たとえば、2048Hzのサンプリングレートのデジタル信号に変換される。
【0076】
データサンプリング処理部2082は、A/D変換器16からの信号をリサンプルし、たとえば、128Hzにダウンサンプルされた信号に変換する。データサンプリング処理部2082からの信号は、デコーディング処理部2084により、外骨格型ロボットに対する制御コマンドを生成するためにデコーディングされる。制御信号生成部2086は、デコーディング結果(判別結果)に応じて、制御コマンドを生成し、外骨格型ロボット1の制御部134に対して送信する。制御コマンドにより、外骨格型ロボット1はアシスト・コントロール・システムを活性化する。なお、データサンプリング処理部2082、デコーディング処理部2084および制御信号生成部2086は、演算装置208の機能として実現される。また、
図3においては、演算装置208は、単体の演算装置であるものとして記載されているものの、演算処理を行うプロセッサは、シングルコアであっても、マルチコアであってもよいし、また、演算装置208は、単体ではなく、その演算処理は、複数のプロセッサによる分散処理であってもよい。
【0077】
脳活動をデコードするために、特に限定されないが、以下では、脳波スペクトルのl
1ノルム正規化されたマトリックスを分類する、公知文献1および公知文献2に開示された分類法を使用するものとして説明する。
【0078】
公知文献1:R. Tomioka and K. Aihara, ”Classifying matrices with a spectral regularization,” in Proceedings of the 24th international conference on Machine learning (ICML’07). ACM Press, 2007, pp. 895-902.
公知文献2:R. Tomioka and K. R. M¨uller, ”A regularized discriminative framework for EEG analysis with application to brain−computer interface,” NeuroImage, vol. 49, pp. 415-432, 2010. [Online]. Available: http://dx.doi.org/10.1016/j.neuroimage.2009.07.045
さらに、判別器は、公知文献1に開示されるように、凸面の最適化問題の解法により効率的に導出することができる。
【0079】
公知文献1の中で示唆されるように、入力変数としては、測定されたEEG信号Ctの分散行列を使用する。
【0080】
この分類法では、2クラス分類問題の出力確率は、以下の式(1)および式(2)として表わされる。
【0081】
【数1】
ここでq
tはクラス・ラベルを示し、Tr[・]は、行列のトレースを表す。
【0082】
対数オッズすなわちロジットは、以下のように入力C
tの線形関数としてモデル化される。
【0083】
【数2】
ここで、Wはパラメータマトリックス(重み行列)であり、bはバイアスである。なお、EEG信号についての入力マトリックスC
tについては、後に説明する。
【0084】
(判別器の学習)
判別器を構築するために、以下の目的関数を最小化するものとする。
【0085】
【数3】
ここで、λは、正規化定数であり、目的関数の各項は、以下の式(7)および式(8)として表わされる。
【0086】
【数4】
ここで、σi[W](i=1,…,r)は、マトリックスWのi番目の特異値であり、rはWのランクである。
【0087】
すなわち、判別式を構成するにあたっては、上記のような目的関数の最小化を、所定数のトレーニングサンプルについて求め、パラメーター・マトリックスWおよびバイアスbを決定できればよい。
【0088】
この最適化問題は、等価な線形行列不等式(LMI:Linear Matrix Inequality)問題を考慮することにより、効率的に解くことができる。詳しくは、公知文献1に記載されるが、式(6)および(7)は、以下のような線形行列不等式に置き換えることができる。
【0089】
【数5】
ここで、行列Q
1およびQ
2は、上記のような非負定値条件を満たす行列である。
【0090】
このような線形行列不等式は、たとえば、以下の公知文献3に記載の「内点法(interior point method)」により、解くことができる。
【0091】
公知文献3:Boyd, S., & Vandenberghe, L. (2004). Convex Optimization. Cambridge University Press.
図5は、EEG信号のデコード処理の手続きを示すフローチャートである。
【0092】
ブレインキャップ14の64個の電極によって検知された信号は、A/D変換器16により、たとえば2048Hzのサンプリングレートの64チャネルのデジタル信号としてサンプリングされ(S100)、データサンプリング処理部2082により、所定の周波数帯域(7−30Hz)のバンドパス・フィルタ処理が適用される(S102)。フィルタリングされた信号は、データサンプリング処理部2082により、たとえば、128Hzでダウンサンプリングされる(S104)。データサンプリング処理部2082は、さらに、ダウンサンプルされた信号に、ラプラス・フィルタ処理を施し、各データから共通に平均値を減算することで、電極上のバイアス電圧を取り除く(S106)。
【0093】
デコーディング処理部2084は、上記のように処理されたデータの分散行列を算出して(S108)、判別器の入力変数として使用することで、以下に説明するような判別処理を実行する(S110)。
【0094】
ここでは、以下に説明するように、選択された正規化パラメータとして、たとえば、λ=14とした判別器を使用する。
【0095】
デコーディング処理部2084においては、すべての時間ステップ(t=1,2,…)でフィルタリングされたEEG信号に基づく分散行列Ctが、以下のように更新される。
【0096】
【数6】
ここで、xt(xtはR
1×Dの要素)は、時間t(チャネル数D=64)でのフィルタリングされたEEG信号である。
【0097】
パラメータマトリックスW(WはR
D×Dの要素)およびバイアス定数b(bはRの要素)により、式(1)および(2)で示したような確率P(qt=+1|Ct)およびP(qt=−1|Ct)を評価する。
【0098】
次に、ロボットに与えられる制御コマンドgt={up, down}を選択する方法について説明する。
【0099】
入力変数が測定されたEEG信号に基づくので、判別器の出力も変動する場合がある。
したがって、制御コマンドの選択にあたっては、次のヒステリシス式(9)を使用する。
【0100】
【数7】
ここで、制御コマンド”up”は、後に説明する1自由度システムの上向きの状態か外骨格型ロボットの起立状態を表し、制御コマンド”down”は、1自由度システムの下向きの状態か外骨格型ロボットの着座方向への運動(または、しゃがみ込み運動)の状態であることを表す。以下では、「着座方向への運動」とは、しゃがみ込み運動だけではなく、完全にしゃがみ込むわけではないものの着座する運動である場合も、総称して表すものとし、アシストされる動作の具体例としては、しゃがみ込み運動を例にとって説明することとする。ただし、アシストされる動作としては、たとえば、しゃがみ込み運動だけではなく、いすなどに着座する運動であってもよい。
【0101】
なお、特に限定されないが、ここでは、Pthreshold=0.7として、しきい値をセットする。
【0102】
判別器の出力にしたがって、後に説明するような1自由度システムあるいは外骨格型ロボットの、上向き/起立動作、あるいは、下向き/しゃがみ込み動作に対応するアシストは、それぞれ、後に説明するようなトルク制御方法で制御される。
【0103】
なお、以上の説明では、判別器は、上述した公知文献1および公知文献2に記載されるように、単純に、脳波信号のみに基づき生成されるものとした。ただし、特に限定されないが、ここでのデコーディング処理は、以下の文献に記載された方法により、脳活動を推定した信号に基づいて、判別器を構成することとしてもよい。また、この場合、判別器は、2クラスだけでなく、より多くのクラスに対する判別器としてもよい。
【0104】
すなわち、デコーディング処理部2084は、ブレインキャップ14からの脳波信号に基づいて、階層変分ベイズ推定法により、脳の活動領域を推定し、これに基づき、判別器を構成することとしてもよい。
【0105】
階層変分ベイズ推定法は、時間分解能に優れた脳波(EEG)と空間分解能に優れたfMRI/NIRSを統合することで、脳の活動を可視化することができる。すなわち、ミリ秒単位の時間分解能を持つ脳波(EEG)と、mm単位の空間分解能を持つfMRIまたはNIRSの長所を組み合わせることで、高い時間・空間分解能で脳の活動を見ることができる。
【0106】
このようなVBMEGの内容については、たとえば、以下の文献に開示がある。
【0107】
文献1:T. Yoshioka, K. Toyama, M. Kawato, O. Yamashita, S. Nishina, N. Yamagishi, and M. Sato, ”Evaluation of hierarchical Bayesian method through retinotopic brain activities reconstruction from fMRI and MEG signals,” NeuroImage, vol. 42, pp. 1397-1413, 2008.
文献2:Takatsugu Aihara, Yusuke Takeda, Kotaro Takeda, Wataru Yasuda, Takanori Satoa, Yohei Otaka, Takashi Hanakawa, Manabu Honda Meigen Liu, Mitsuo Kawato, Masa-aki Sato, Rieko Osu, ”Cortical current source estimation from electroencephalograpy in combination with nar-infrared spectroscopy as a hierarchical prior,” NeuroImage, in press, 2011(出願時点では、電子出版されており、次のURLからアクセス可能:http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811911011797)
さらに、VBMEGのソフトウェアは、以下のサイトからダウンロードして誰でも使用することが可能である。
【0108】
http://vbmeg.atr.jp/
(空電ハイブリッド式アクチュエータ用のトルク制御器)
以下では、空電ハイブリッド式アクチュエータ用のトルク制御器の構成について説明する。
【0109】
以下に説明するように、このような制御器は、制御部134に対して、機械学習を実行させることにより、実行させる構成とすることが可能である。
【0110】
空圧式エアマッスルは軽量であるもの、圧縮空気(または圧縮気体)のエネルギーをゴムチューブにより収縮力に変換することにより大きな力を生み出すことができる。
【0111】
エアマッスルが、力を発生させる原理は、空圧式の空気袋が埋め込まれたらせん状のファイバーが、圧縮空気が送り込まれて空気袋が膨張すると、長手方向(縦方向)に収縮するというものである。
【0112】
より詳しく説明すると、両端部に栓をしたゴムチューブに対して、動径方向を拘束するよう、表面にらせん状にまかれたファイバーを被せた構造になっている。このゴムチューブの中に空気を送り込むと、空気の圧力でゴムチューブが膨張する。しかし、動径方向はファイバーによって拘束されているため膨張できず、径方向の膨張に引っ張られて縦方向に収縮する。膨らみながら収縮する様が動物の筋肉に似ているところが人工筋肉と呼ばれる。
【0113】
アクチュエーター自体が軽く、柔らかい。さらに、ゴムチューブの内面全体がアクチュエーターの収縮に寄与するため、断面積のみで圧力を受ける構造になっている一般的なエアシリンダー等よりも、パワー・ウェイト・レシオを大きく取りやすい。反面、上述したように、一般に空気圧による機器制御は空気の収縮・膨張などによる、制御遅れが大きく、素早い動作は苦手である。
【0114】
なお、「空気袋」は、流体により膨張ないし収縮運動をするものであれば、袋中に流入するものは、空気に限られないので、より一般には、「流体袋」と表現する。
【0115】
図6は、外骨格型ロボットの構成において、1自由度分の動作を行う空電ハイブリッドアクチュエータの部分(1自由度システム)を抜き出した外観を示す図である。
【0116】
図6において、空圧式エアマッスルのうち上側のエアマッスル302は、屈筋(PAM1)に相当し、下側のエアマッスル304ものは伸筋(PAM2)に相当する。
【0117】
伸筋PAM2は、屈筋PAM1とは相反し反対向きの力を生成する。
【0118】
プーリー付回転関節310には、電動モータからの駆動力も印加され、空圧式エアマッスルからの駆動力と電動モータからの駆動力とが合成される。
【0119】
エアマッスル302からの駆動力は、ワイヤ306によりプーリー付回転関節310に伝達され、エアマッスル304からの駆動力は、ワイヤ308によりプーリー付回転関節310に伝達される。このような構成により、駆動力の伝達機構自体を軽量化することが可能となる。
【0120】
プーリー付回転関節310へ加えられた駆動トルクにより、脚(または腕)350が駆動される。
【0121】
図7は、
図6に示した1自由度分の動作を行う空電ハイブリッドアクチュエータのシステムを制御する構成を説明するための機能ブロック図である。
【0122】
図7においては、内部制御装置10は、マルチファンクションボード(Multi Function board)として構成される。
【0123】
外部制御装置20に接続されたマルチファンクションボード10は、外部制御装置20からのコマンドに応じて、アクチュエーターを制御する。具体的には、マルチファンクションボード10は、空圧式エアマッスル302および304の収縮を制御するためのバルブ301とバルブ302、ならびに、電動モータ312を制御するためのモータドライバ311を制御する。さらに、マルチファンクションボード10は、関節角度θを検知する角度エンコーダ324およびエアマッスルからの駆動力を検知するロードセル、能動関節に加わるトルクを検知するトルクセンサからの計測データを読み取ることで、これらに基づき、以下に説明するような制御を実行する。
【0124】
角度エンコーダ324は、たとえば、直交エンコーダを使用することが可能である。
【0125】
エアマッスル302および304ならびに電動モータ312からの駆動力は、プーリー付回転関節310において合成され、脚350にトルクτを与える。
【0126】
図8は、各アクチュエーターが、関節を動かす態様を説明するための概念図である。
【0127】
以下では、まず、
図8(a)に示されるように、腱ワイヤの伸長を無視できる場合を考える。
【0128】
空圧式エアマッスルフォースからの駆動力f
PAMi(i=1,2,…)は、ワイヤとプーリにより、腕(または脚)にトルクとして転送され/変換される。このプーリーを介して、電動モータの駆動力も伝達される。空圧式エアマッスルフォースからの駆動力f
PAMiは、空圧式エアーマッスルと駆動力をプーリーに伝達するワイヤーとの接合部に設けられたロードセルにより検知される。
【0129】
以下のモデルの説明は、拮抗筋と電動モータの組合せの場合に限らず、たとえば、伸筋と電動モータの組合せにも広く適用することが可能である。ただし、以下では、説明の簡単のために、単純な2つの拮抗筋のモデルを考える。
【0130】
トルクτ
PAMは、駆動力f
PAMiにより、以下の式ように表される。
【0131】
【数8】
τ
PAMは、空圧式エアマッスルの駆動力によるトルクであり、一方、r
0はプーリー半径で、この単純なモデルでは、r
0は定数とする。
【0132】
モーターの駆動力によるトルクは、空圧式エアマッスルの駆動力と並行して伝達される。例えば、小さなトルクが機械的なベルトによりプーリー経由で伝達される。
【0133】
空圧式エアマッスルは、直流的または低周波のトルクの生成において優れている。また、電動モータによる駆動力は、迅速で周波数の高いトルクとして、空圧式エアマッスルの駆動力によるトルクτ
PAMの誤差をカバーするので、電動式のトルクτmotorの値は、空圧式エアマッスルによるトルクよりも小さな値でよい。
【0134】
トータルのトルクは、以下の式で表される。
【0135】
τ=τ
PAM+τmotor (11)
したがって、特に限定されないが、たとえば、内部制御装置10が、第一の閾値よりも(「より」は「以上」も含む、とする)高周波であるトルクに対して電動モータ312を追加動作させることは好適である。 なお、追加動作とは、エアマッスル302および304に加えて電動モータ312を動作させることである。ここで、第一の閾値は、例えば、3Hzである。
【0136】
空圧式エアマッスルから、ワイヤがプーリーへ駆動力を伝達し、指定された一方向へ関節を駆動する。
【0137】
ワイヤとしては、金属線、チェーンあるいは機械的なベルトなどの方式と比較して、軽量で強く、柔軟であるので、液晶ポリマー繊維を採用することができる。液晶ポリマー繊維としては、たとえば、クラレ社製ベクトラン(登録商標)を用いることができ、これは、高分子繊維であるにも関わらず、高強力高弾性率を有する素材として知られている。
【0138】
(空圧式エアマッスルの力学モデル)
空圧式エアマッスル、ワイヤおよびプーリを含む空圧式アクチュエーターは、人間の筋肉と多くの共通点を持っている。
【0139】
外骨格型ロボットが人間の重さを支持する際に、ワイヤは、その特性において、人間の腱に類似している。
【0140】
そこで、以下に説明するように、平衡の仮定を置いて、空圧式エアマッスルのためのトルク制御器を導出する。
【0141】
空圧式エアマッスルの圧力の制御には、たとえば、比例的に圧力を調整するバルブを使用し、圧力pはクローズドフィードバックループにより制御され、十分に安定であるものとする。
【0142】
過渡状態においては、バルブ圧力と空圧式エアマッスルの圧力との間には、空気力学的な運動が存在するものの、一定の時定数の後には、ロボットと人間の重量のような外部の運動上の制約条件に駆動力が釣り合うまで、空圧式エアマッスルは収縮する。
【0143】
したがって、空気回路の動力学の影響は小さく、準静的な動作では無視することができる。
【0144】
この均衡点で、駆動力の生成は、内圧および収縮割合に依存し、空圧式エアマッスルの駆動力モデルは、以下のように与えられる:
【0145】
【数9】
ここで、εは、収縮割合であり、D
0とψ
0とは、常圧における空圧式エアマッスルの径と、空圧式エアマッスルにおいて、空圧式の空気袋が埋め込まれたらせん状のファイバーの収縮方向に直交する方向に対する巻方向の傾きの角度である。
【0146】
このような「空圧式エアマッスルの駆動力モデル」は、たとえば、以下の文献に開示されている。
【0147】
公知文献4:K. Inoue. Rubbertuators and applications for robots. In Proceedings of the 4th international symposium on Robotics Research, pp. 57-63. MIT Press, 1988.
公知文献5:D.G. Caldwell, A. Razak, and MJ Goodwin. Braided pneumatic muscle actuators. In Proceedings of the IFAC Conference on Intelligent Autonomous Vehicles, pp. 507-512, 1993.
空気シリンダーと異なり、関節角が変化することによってトルクは非線形に変化する。
運動上の制約条件が常に不変であるという仮定の下では、空圧式エアマッスルの圧力は常に同じ均衡点での収縮割合ε(p)を与えることになる。すなわち、収縮割合ε(p)は、圧力pの関数となる。
【0148】
このとき、このような「空圧式エアマッスルの駆動力モデル」の逆モデルは、機械学習により学習することができる。すなわち、所望の駆動力fを得るための圧力pを求めることに相当する。内部制御装置10は、このような圧力pをエアマッスルに与えるように、バルブを制御することで、所望の駆動力を出力させることになる。
【0149】
例えば、ハートマン等は、動力学的な学習について、以下の文献で提案している。
【0150】
公知文献6:Christoph Hartmann, Joschka Boedecker, Oliver Obst, Shuhei Ikemoto, and Minoru Asada. Real-time inverse dynamics learning for musculoskeletal robots based on echo state gaussian process regression. In Accepted at RSS 2012, 2012.
しかしながら、一般的には、運動上の制約条件をダイナミックに変更し、異なる外力Fと釣り合うので、この仮定は、上述したような外骨格型ロボットにおいては、厳密には成り立たない。
【0151】
したがって、この場合の均衡点での収縮割合εは、圧力と外力の関数として、ε(p,F)と表現される。
【0152】
(腱スプリング均衡モデル)
上述したような液晶ポリマー繊維製のワイヤは、高強力高弾性率を有するので、通常は、張力に対して長さが変化しないとの近似がよく成り立つ。高強度・高弾性率繊維としては、ベクトラン(登録商標)のようなポリアリレート繊維の他に、たとえば、超高分子量ポリエチレン繊維、PBO繊維などがある。
【0153】
しかし、人間(たとえば、体重は60kgある)を保持するためには、空圧式エアマッスルは、張力として、典型的には、3000Nを生成する(最大値としては、たとえば、5000Nが必要になる)。
【0154】
このような大きな力が加わると、たとえ、液晶ポリマー繊維製のワイヤ(腱ワイヤ)であっても、その伸長量が無視できず、均衡点を変化させてしまう。
【0155】
以下では、
図8(b)に示すように、腱ワイヤの伸長の影響を考慮したモデルを検討する。
【0156】
そこで、液晶ポリマー繊維製の腱の力学モデルとして、以下に説明するような、線形の腱スプリング・モデルを導入する。
【0157】
f=kΔε (13)
すなわち、このモデルでは、腱ワイヤ(ポリアリレート繊維などの液晶ポリマー繊維製のワイヤ)は、バネに近似され、Δεは、力によって引き起こされた余分なエアマッスルの収縮であり、kはばね定数である。つまり、腱が力によって伸びる分、空圧式エアマッスルは、余分に収縮することが必要になる。このようにバネに近似される腱ワイヤのことを「腱スプリング」と呼ぶことにする。
【0158】
このような腱に相当するワイヤを、腱スプリングとして近似しない場合、空圧式エアマッスルの駆動力モデルg()は3つのパラメーター(そのうちの2つは依存関係にある)を備えた以下の二次式(14)で表される:
【0159】
【数10】
ここで、2次式の係数には、以下の関係が成り立つ。
【0160】
【数11】
均衡点で、駆動力f
*は、腱の伸長によって、以下のように減少する。
【0161】
【数12】
ここで、g´()が腱スプリングの仮定の下での駆動力モデルであり、ε
*は、見かけの収縮割合であり、εは、空圧式エアマッスルの実際の収縮割合であり、Δεは、空圧式エアマッスルの実際の収縮割合への付加項である。
【0162】
式(13)から、Δε=f
*/k となる。
【0163】
実際の収縮割合εは、上述したような外骨格型ロボットの検出機構124では、直接測定するのが困難である。したがって、その代りに、推定収縮割合εest(=ε
*+Δε)を使用する。収縮割合ε
*は、以下の式のように、関節角から計算される。
【0164】
【数13】
ここで、L
0は、関節角θ=0のときの空圧式エアマッスルの初期長さである。つまり、「見かけの収縮割合」とは、アクチュエータにより駆動される関節の角度変化から導かれる収縮割合であって、角度センサから検知できる量に基づく収縮割合であるのに対して、「実際の収縮割合」とは、駆動力f
*を生成するために、エアマッスルが現実に収縮している割合のことである。
【0165】
収縮割合ε
*において、駆動力f
*が必要とされる場合、逆モデルg
−1()から、必要な圧力p
*が、以下のようにして導出される。
【0166】
【数14】
最小二乗アルゴリズムを使用して、既知の空圧式エアマッスルのデータから、空圧式エアマッスルパラメーターa、bおよびcを評価できる。
【0167】
さらに、たとえば、キャリブレーション実験で、1自由度システムによって均衡点駆動力を測定する際に、バネ定数kについては、手動で調整することで最適値を実験的に求めることができる。
【0168】
運動をアシストする主要なトルク(所定の周波数以下の成分のトルク、たとえば、直流成分のトルク)は、空圧式エアマッスルによって供給され、実際のトルクτ
PAMsは、ロードセルにより測定することができる。上述したように、高周波トルク(所定の周波数を超える成分のトルク:交流成分のトルク)は電動モータによって生成される。
【0169】
したがって、モータのトルクは以下の式(18)のように表現される。
【0170】
【数15】
以上のようにして、腱スプリングモデルを腱ワイヤに適用することにより、関節角と腱ワイヤに印加される駆動力を検知する構成において、空圧式エアマッスルの駆動力を正しく反映した逆モデルを、たとえば、機械学習により、構築することが可能となる。その結果、空電アクチュエータを制御する際に、以下に説明するように、その周波数応答性を向上させることが可能となる。
(起立動作を支援する鉛直力の生成)
以下では、外骨格型ロボットにより、鉛直方向の運動、たとえば、起立動作を支援する構成について説明する。
【0171】
鉛直方向の運動を支援する外骨格型ロボットの力(アシスト力)は、次のように生成される。
【0172】
【数16】
ここでJは、ロボットによるアシスト力と外骨格型ロボットの各関節へのトルクとを関連付けるCOM(Center of Mass)ヤコビ行列であり、Fは、起立動作を支援する仮想力Fである。
【0173】
ここでは、鉛直方向の力のみを考慮し、水平方向の力は、ユーザーの上体の動作によって生成されると考える。
【0174】
図9は、うずくまっている姿勢(
図9(a))および直立姿勢(
図9(b))における外骨格型ロボットの各関節と、空圧式エアマッスルの状態を示す図である。
【0175】
図9(a)に示すように、より低くうずくまっている姿勢では、空圧式アクチュエータは大きな張力を生成する。
【0176】
図9(b)に示すように、直立姿勢では、バランスをとり姿勢を保持するために必要とされるトルクは、小さい。
【0177】
図10は、空圧式エアマッスルの収縮割合と駆動力との作動範囲を比較して示す図である。
【0178】
図10では、腱スプリング・モデル有りのモデルおよび腱スプリング・モデルなしの空圧式アクチュエータモデル(PAMオリジナルモデル)を比較して示し、各収縮割合で発生する力の測定結果も示す。図中、vは、圧力制御バルブの制御電圧を表し、エアマッスル内の圧力と比例関係を有する。
【0179】
腱スプリングモデルを考慮することにより、トルク制御器は、特に、駆動力の大きな範囲で、測定された駆動力をよく再現しているのがわかる。
【0180】
図11は、1自由度システムを使用して観察されるトルク制御器の応答特性を示す図である。
【0181】
図11においては、制御目標としての入力である所望のトルクはサイン波であり、空圧式エアマッスルのみの特性を考慮した場合と、腱スプリングモデルとを比較して示す。
【0182】
反力を発生するエアマッスル(伸筋)の圧力を最大値(0.6Mpa)に維持した状態で、屈筋のエアマッスルにサイン波のトルクを発生させるように、制御器に信号を入力している。このような信号入力により、関節が駆動される。
【0183】
図11では、腱スプリングモデルにおいて、周波数応答における時間遅れをほぼ変化させることなく、より所望のトルクに近いトルクを発生できていることがわかる。
【0184】
なお、
図11では、腱スプリングを考慮しない従来のエアマッスルのみのモデル(PAMオリジナルモデル)との対比のために、空圧式エアマッスルを駆動させることによる腱スプリングモデルの時間応答を比較している。ただし、空電ハイブリッド駆動の場合、上述のとおり、所望のトルクとエアマッスルの駆動力によるトルクと誤差は、電動モータによるトルクによりカバーされるので、空電ハイブリッド駆動では、トータルのトルクとしては、所望のトルクを得ることができる。
【0185】
図12は、空電ハイブリッド式アクチュエータの1自由度の腕のエンドエフェクタの端部に錘がつりさげられた状態での重力補償タスクを示す図である。
【0186】
空電ハイブリッド式アクチュエータとしては、
図4に示した構成のものを使用する。
【0187】
各図は、動画から、残像のある静止画として抽出したものである。
【0188】
図12(a)に示すように、10kgの錘を吊り下げている状態で、腱スプリングモデルを利用した制御器で、重力を補償して、腕を下方に向く角度としておく。
【0189】
次に、
図12(b)に示すように、指1本でも、腕を上方向に動かすことが可能である。
【0190】
さらに、
図12(c)に示すように、重力が補償されているため、腕は、上方を向く角度のまま、静止する。
【0191】
ここで、このような制御器は、位置/アングル制御器ではなく、あくまで、トルク制御器であるにも関わらず、
図12(a)〜(c)のような動きをすることが可能である。
【0192】
図13は、外骨格型ロボットが、2つの異なる運動模型を切り替える重力補償によって達成された、起立タスクを支援する動作を示す図である。
【0193】
図13(a)〜(b)に示すように、しゃがみ込んだ状態を初期状態とすると、初めは、外骨格型ロボットは、ロボットの運動のみを考慮して、ロボット重量に対するトルクを生成する。
【0194】
次に、
図13(c)に示すように、運動モデルを、ロボットと人間の脚との双方を考慮したものに切り替えることで、人間は、上方向へのアシスト力を受け取ることになり、ユーザは、起立動作をアシストされる。
(EEG信号によるロボットの制御)
以下では、EEG信号から判別器によりデコードされたコマンド信号により、ロボットを制御する構成を有するリハビリテーション装置について説明する。
【0195】
なお、被験者は、以下に説明するすべての構成において、リアルタイムに判別器の出力(EEG信号のデコーダ出力)を認識するために、ディスプレイに表示されるデコード結果を表す表示を見るものとする。すなわち、被験者は、ニューロフィードバックを受けている状態で、ロボットをEEG信号により制御することになる。
(EEG信号による1自由度システムの制御)
以下では、外骨格型ロボットをEEG信号で制御するための予備段階として、上述した1自由度システムをEEG信号で制御する場合について、まず、説明する。
【0196】
図14は、1自由度システムをEEG信号で制御する構成を説明するための図である。
【0197】
図14に示されるように、ブレインキャップ14を装着した被験者は、視覚的なEEG信号のデコーディッドフィードバックを受けるために、実験中においてディスプレイの表示を注視する。
【0198】
ビジュアルフィードバックは、EEG信号のデコーダ出力の確率(それぞれP(qt=+1|Ct)およびP(qt=−1|Ct))に応じて、画像上で、赤い棒が、所定レベルの上側か下側かに、確率の大きさに応じた長さで伸びるものとして表示される。
【0199】
現在、どちら側の方向へのコマンドが生成されているかについては、棒の中間に表示される。
【0200】
図15は、1自由度システムのコントロール・パフォーマンスを示す図である。
【0201】
被験者は、この例においては、1自由度システムを着用していない。
【0202】
被験者は、ディスプレイ上で示された、上または下の方向に対する指示にしたがって、動作を想像することにより、1自由度システムをコントロールしようとする。
【0203】
図15(a)では、ディスプレイ上に、上向きの指示が表示され、これに応じて、被験者が上向きへの運動に対応したイメージを想像することで、EEG信号のデコーダ出力の確率も、上向きのものとなり、かつ、1自由度システムも上方向に運動している。
【0204】
同様に、
図15(b)では、ディスプレイ上に、下向きの指示が表示され、これに応じて、被験者が下向きへの運動に対応したイメージを想像することで、EEG信号のデコーダ出力の確率も、下向きのものとなり、かつ、1自由度システムも下方向に運動している。
【0205】
図16は、判別器の出力、コマンド出力および1自由度システムの関節角度の時間変化を示す図である。
【0206】
図16(a)は、判定された上向きの確率の時間変化を示し、
図16(b)は、コマンド信号の時間変化を示し、
図16(c)は、1自由度システムの関節角度の軌道を示す。
【0207】
また、
図16の中で、白または灰色の領域は、上方向または下方向の目標方向が表示されている期間をそれぞれ示す。
【0208】
パフォーマンス(0.5をしきい値とする正解割合)は、150秒から300秒までのセッションの後半で0.8113であった。
【0209】
図17は、1自由度システムのコントロール・パフォーマンスを示す図である。
【0210】
被験者は、この例においては、1自由度システムを着用している。
【0211】
被験者は、ディスプレイ上で示された、上または下の方向に対する指示にしたがって、動作を想像することにより、1自由度システムをコントロールしようとする。
【0212】
図17(a)では、ディスプレイ上に、上向きの指示が表示され、これに応じて、被験者が上向きへの運動に対応したイメージを想像することで、EEG信号のデコーダ出力の確率も、上向きのものとなり、かつ、1自由度システムも、上方向へのアシスト力を生成している。このとき、特に限定されないが、たとえば、判別の容易のために、左腕を動かすイメージでロボットが上方向へのアシストをし、右腕を動かすイメージでロボットが下方向へのアシストをするというように、必ずしも、ロボットの動作と人の動作のイメージとが一致していなくてもよい。
【0213】
同様に、
図17(b)では、ディスプレイ上に、下向きの指示が表示され、これに応じて、被験者が下向きへの運動に対応したイメージを想像することで、EEG信号のデコーダ出力の確率も、下向きのものとなり、かつ、1自由度システムも下方向へのアシスト力を生成している。
【0214】
図18は、判別器の出力、コマンド出力を示す図である。
【0215】
図18においても、白または灰色の領域は、上方向または下方向の目標方向が表示されている期間をそれぞれ示す。
【0216】
図18(a)は、判定された上向きの確率の時間変化を示し、
図18(b)は、コマンド信号の時間変化を示す。
【0217】
パフォーマンス(0.5をしきい値とする正解割合)は、150秒から300秒までのセッションの後半で0.7188であった。
【0218】
図15および
図17の両方の場合に、つまり、1)被験者がロボットを着用していない場合、および2)被験者がロボットを着用している場合に、ほとんどの場合で、提示されたロボットの運動が、正しく生成されていることがわかる。
(EEG外骨格型ロボットシステム)
図19は、EEG外骨格型ロボットシステムのコントロール・パフォーマンスを示す図である。
【0219】
被験者は、ディスプレイ上で示された起立またはしゃがみ込み方向にしたがって、対応する動作を想像することにより、EEG外骨格型ロボットシステムをコントロールする。
【0220】
ここでは、脳波をデコーディングした判別器の出力が”up”である時、下肢部分の全重量(外骨格型ロボットの下肢部分および人間の下肢部分の全重量)の重力補償が活性化されるように、外骨格型ロボットの各関節のトルクが制御されるものとする。したがって、この場合、脳波をデコーディングした判別器の出力が”down”である時、人間の下肢部分の重量に対する重力補償が不活性化され、ロボットの下肢部分の重量に対する重力補償については活性化が維持される。このようにすることで、しゃがみ込む(あるいは、座る)ときに、ロボットの重さが使用者にいきなり負荷とならないようにすることができる。
【0221】
トルク制御は、上述した腱スプリング均衡モデルを採用している。
【0222】
なお、たとえば、脳波のデコーディング結果に対応したEEG外骨格型ロボットシステムのトルクの制御は、上述したものに限られず、判別器の出力が”up”である時、下肢部分の所定割合の重量、たとえば、「外骨格型ロボットの下肢部分の全重量および人間の下肢の所定割合の重量」の重力補償が活性化されるように、外骨格型ロボットの各関節のトルクを制御する構成としてもよい。したがって、この場合は、たとえば、脳波をデコーディングした判別器の出力が”down”である時は、上記のようにして活性化された、下肢部分の所定割合の重量に対する重力補償のうち、たとえば、人間の下肢の重量に対する重力補償が不活性化され、ロボットの下肢の重量についての重力補償は活性化が維持されるとしてもよい。あるいは、脳波をデコーディングした判別器の出力が”up”である時または”down”である時に、活性化され、または、不活性化される重力補償の割合は、リハビリテーションの目的やリハビリテーションの段階に応じて、変更される構成であってもよい。
【0223】
そこで、「下肢部分の全重量」の重力補償が活性化されている場合も、広義には、「下肢部分の所定割合の重量」の重力補償が活性化されている場合(全重量の場合、所定割合とは100%)に含まれるものとする。
【0224】
また、たとえば、重力補償にあたっては、エアーマッスルによるトルクが主として重力補償を担い、電動モータによるトルクは、所望のトルクとエアーマッスルにより生成されるトルクとの差を補うように生成されるものとしてもよい。起立およびしゃがみ込みの動作においても、1自由度システムと同様に、判別の容易さを考慮して、左腕を動かすイメージでロボットが起立方向へのアシストであり、右腕を動かすイメージでロボットがしゃがみ込み方向(着座方向)へのアシストであるというように、必ずしも、ロボットの動作と人の動作のイメージとが一致していなくてもよい。
【0225】
あるいは、被験者のタスクも、しゃがみ込み動作および起立動作に限られず、たとえば、歩行動作であってもよい。この場合は、たとえば、被験者の「右足を踏み出す」「左足を踏み出す」という動作に対応する脳活動が検出された場合、外骨格型ロボットの右足および左足の各関節のトルクを、歩行運動に合わせて、制御する構成としてもよい。
【0226】
なお、このシステムをリハビリテーションで使用する場合、自動均衡のトルク・コントローラーや、他の安全装置を設けておく構成とすることも可能である。
【0227】
図20は、
図19の状態において、判別器の出力、コマンド出力を示す図である。
【0228】
図20においても、白または灰色の領域は、上方向または下方向の目標方向が表示されている期間をそれぞれ示す。
【0229】
図20(a)は、判定された上向きの確率の時間変化を示し、
図20(b)は、コマンド信号の時間変化を示す。
【0230】
パフォーマンス(0.5をしきい値とする正解割合)は、60秒から120秒までのセッションの後半で0.7146であった。
【0231】
図19および
図20に示されるように、被験者が、脳活動を使用して、外骨格型ロボットをうまくコントロールできることがわかる。
【0232】
以上説明したように、以上、本実施の形態の外骨格型ロボットおよびそれを用いたリハビリテーション装置によれば、筋骨格系運動を支援して、BMIリハビリテーションを行うことが可能となる。
【0233】
また、本実施の形態の外骨格型ロボットでは、空圧の人工筋(エアマッスル)と電動モータとを組み合わせ、駆動力の伝達機構を軽量化して、歩行や姿勢の機能回復やアシストに必要な高負荷トルクを正確に制御できる外骨格型ロボットを提供できる。
【0234】
より特定的には、本実施の形態の外骨格型ロボットを、下肢の運動のアシストに使用することで、体幹・下肢部の運動支援を適切に行えるという効果を有し、歩行や姿勢のリハビリテーションのための外骨 格型ロボット等として有用である。
【0235】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。