(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンと車輪との間に介在される油圧式無段変速装置であって、前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプに流体的に接続される油圧モータとを含み、前記油圧ポンプ及び前記油圧モータはそれぞれ容量が連続的に変化する連続容量可変式である油圧式無段変速装置と、
加速操作子の位置を検出する操作子センサと、
前記加速操作子の位置から前記油圧ポンプの容量を変化させる制御部とを備え、
前記制御部は、前記加速操作子が低速側に変位することで、前記油圧ポンプの容量が小さくなるのにしたがって、前記油圧モータの容量を大きくし、
前記加速操作子はアクセルペダルであり、
さらにブレーキペダルの位置を検出するブレーキペダルセンサを備え、
前記制御部は、前記アクセルペダルの位置が操作位置から非操作位置とされた後、前記ブレーキペダルの位置が操作位置となった場合に、前記油圧ポンプの容量が小さくなるのに応じて前記油圧モータの容量が大きくなる程度を、通常時よりも減速初期段階で小さくすることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
エンジンと車輪との間に介在される油圧式無段変速装置であって、前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプに流体的に接続される油圧モータとを含み、前記油圧ポンプ及び前記油圧モータはそれぞれ容量が連続的に変化する連続容量可変式である油圧式無段変速装置と、
加速操作子の位置を検出する操作子センサと、
前記加速操作子の位置から前記油圧ポンプの容量を変化させる制御部とを備え、
前記制御部は、前記加速操作子が低速側に変位することで、前記油圧ポンプの容量が小さくなるのにしたがって、前記油圧モータの容量を大きくし、
前記油圧ポンプの容量に対する前記油圧モータの容量の関係を無段階または複数段階で異なる関係に設定可能な減速状態設定部を備え、
前記制御部は、前記加速操作子の位置が操作位置から非操作位置となったときに、前記減速状態設定部での設定に応じて、前記油圧モータの容量を前記油圧ポンプの容量に応じて変化させることにより、車両の減速の程度を変更可能とすることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
エンジンと車輪との間に介在される油圧式無段変速装置であって、前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプに流体的に接続される油圧モータとを含み、前記油圧ポンプ及び前記油圧モータはそれぞれ容量が連続的に変化する連続容量可変式である油圧式無段変速装置と、
加速操作子の位置を検出する操作子センサと、
前記加速操作子の位置から前記油圧ポンプの容量を変化させる制御部とを備え、
前記制御部は、前記加速操作子が低速側に変位することで、前記油圧ポンプの容量が小さくなるのにしたがって、前記油圧モータの容量を大きくし、
標準減速モードと、前記油圧ポンプの容量が小さくなるのに応じて前記油圧モータの容量が大きくなる程度を、前記標準減速モードよりも減速初期段階で小さくする積極減速モードとのいずれかを選択可能なモード選択部を備え、
前記制御部は、前記モード選択部での選択に応じたモードで前記油圧モータの容量を前記油圧ポンプの容量に応じて変化させることを特徴とする作業車両の走行制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。
図1から
図8は、本発明に係る実施の形態を示す図である。
図1は、本実施形態の作業車両の走行制御装置を搭載する作業車両の全体構成を示す概略図である。本実施形態の走行制御装置を搭載する作業車両は、例えば農作業を行う農用トラクタ、芝刈り作業を行う芝刈車両、土木作業を行うホイールローダ等とすることができる。
【0012】
図1に示すように作業車両10は、図示しない車両フレームと、車両フレームにそれぞれ支持されたエンジン12、左右2つの車輪である図示しない前輪、及び左右2つの車輪である後輪14(
図1では1つのみ図示する。)と、耕うん機、芝刈り機等の作業機(図示せず)とを備える。また、車両フレームに動力伝達部である動力伝達装置16が支持され、エンジン12の回転力が油圧力に変換された後、再び回転力に変換されてから各前輪と各後輪14とに伝達される。作業車両10に設けられた図示しない運転席の前側に加速操作子であるアクセルペダル18(
図2)と制動操作子であるブレーキペダル20(
図2)とが設けられている。
【0013】
図2は、本実施形態の走行制御装置で制御される無段変速装置の油圧制御回路及び制御部を示す図である。
図2では、ペダル18,20をそれぞれ2つ示しているが、これは位置の違いを示すためのもので、実際にはそれぞれ1つが設けられている。アクセルペダル18は踏み込むことで加速が指示され、ブレーキペダル20は踏み込むことで制動が指示される。ブレーキペダル20は、車輪の周辺部に設けたブレーキ装置に機械式または電気式に接続され、ブレーキペダル20の制動に応じてブレーキ装置を使用して車輪を制動させることもできる。
【0014】
各ペダル18,20のいずれのペダルも踏み込みがされないときには非操作となる。また、運転席の周辺部に前後進切替レバー22及び副変速レバー24が、それぞれ車両の前後方向の揺動可能に設けられている。前後進切替レバー22を前側に倒すことで前進が指示され、後側に倒すことで後進が指示され、直立状態で中立状態が指示される。また、副変速レバー24を前側に倒すことで作業機が作業位置に降下して駆動される作業モードが指示され、後側に倒すことで作業機が上昇して駆動が停止される非作業の通常走行モードが指示される。高速走行時には、副変速レバー24で通常走行モードを指示し、作業機を上昇させた状態で走行することが行われる。
【0015】
図1に戻って、動力伝達装置16は、エンジン12と前輪及び後輪14との間に介在される静油圧式無段変速装置(以下、「HST」という。)26と、歯車機構28,30と差動機構32とを含む。HST26は、ケース内に設けられ、流体的に接続された油圧ポンプ34と油圧モータ36とを含む。油圧ポンプ34の回転軸はエンジン12の回転軸に連結され、エンジン12により駆動される。油圧ポンプ34及び油圧モータ36は、それぞれ可動斜板38,40を有し、容量が連続的に変化する連続容量可変式である。すなわち、油圧ポンプ34及び油圧モータ36は閉回路を構成しており、油圧ポンプ34の第1ポートP1と油圧モータ36の第1ポートM1とは第1油路S1により接続され、油圧ポンプ34の第2ポートP2と油圧モータ36の第2ポートM2とは第2油路S2により接続される。HST26は、油圧ポンプ34及び油圧モータ36により静油圧伝動を行う。油圧モータ36及び油圧ポンプ34では、可動斜板38,40の傾斜角が変更されることによりそれぞれの容量が連続的に変更可能である。
【0016】
エンジン12に補助ポンプ42が動力伝達可能に連結されている。油圧ポンプ34の回転軸が駆動することにより、第1ポートP1及び第2ポートP2の一方のポートから加圧された作動油が吐出され、他方のポートから作動油が吸入される。油圧ポンプ34の可動斜板38は斜板操作軸である操作ピン52(
図2)が移動されることにより可動斜板38の向き及び角度が変更可能である。可動斜板38の向きや角度により油圧ポンプ34の吐出側及び吸入側が決定され、吐出容量も決定される。
【0017】
油圧モータ36のモータ軸44の動力は、歯車機構28及びクラッチを介して2つの前輪を駆動する車軸に伝達可能とされている。しかも油圧モータ36のモータ軸44の動力は、差動機構32及び遊星歯車機構46を介して左右の後輪14に伝達可能とされている。すなわちモータ軸44は、動力伝達装置16を介して2つの前輪及び2つの後輪14に作動的に連結されている。また、エンジン12の駆動軸の動力は別のクラッチ及び別の歯車機構30を介して作業機の回転軸に伝達可能とされている。
【0018】
図2に示すように、HST26のケース内に、油圧ポンプ34及び油圧モータ36のそれぞれに対応する2つの油圧式のサーボ機構48が設けられている。各サーボ機構48は、シリンダ内部に摺動可能に設けられたサーボピストンと、サーボピストン内に摺動可能に設けられたスプールとを含む。サーボピストンに可動斜板駆動用の操作ピン52が係合されており、スリーブにアーム部材54が係合されている。アーム部材54は、中立位置保持機構56を構成するバネの付勢力により中立位置に保持されている。中立位置保持機構56は、油圧ポンプ34及び油圧モータ36のそれぞれに対応して2つ設けられている。アーム部材54の両側の圧力室のうち、ソレノイド式の方向制御弁58で選択されたいずれかの圧力室に補助ポンプ42から加圧された作動油が導入される。このため、アーム部材54がいずれかの方向へ駆動され、サーボ機構48のスプールが移動する。スプールの移動によりサーボピストン内の油路とスリーブ内の油路との接続状態が切り替わり、サーボピストン両側の圧力室の補助ポンプ42からの作動油導入側と、油溜まりへの作動油排出側とが切り替わる。このため、油圧ポンプ34または油圧モータ36の可動斜板38,40がいずれかの方向に傾斜する。可動斜板38,40の傾斜方向及び傾斜量は、制御部60から方向制御弁58に入力される制御信号に応じて決定される。
【0019】
制御部60は、CPUや、メモリ等の記憶部を有するマイクロコンピュータを含む。制御部60には、複数の操作子センサから検出信号が入力される。すなわち、副変速レバー24の位置は、操作子センサであるレバーセンサ62により検出される。前後進切替レバー22の位置は、操作子センサである第2レバーセンサ64により検出される。アクセルペダル18の位置は、操作子センサであるペダルセンサ66により検出される。アクセルペダル18が踏み込みされると、アクセルペダル18の周辺部に設けられたペダルセンサ66が、アクセルペダル18の踏み込み量、すなわち操作量を検出する。
【0020】
ブレーキペダル20の操作位置は、操作子センサでありブレーキペダルセンサである第2ペダルセンサ68により検出される。各センサ62,64,66,68の検出信号は制御部60に入力される。本実施形態の走行制御装置69は、上記のHST26と、制御部60と、各センサ62,64,66,68とを含む。
【0021】
図3に示すように、制御部60は、油圧ポンプ容量制御部70と、油圧モータ容量制御部72と、記憶部74とを含んでいる。油圧ポンプ容量制御部70は、ペダルセンサ66で検出されたアクセルペダル18の位置から油圧ポンプ34の容量を変化させる。油圧ポンプ容量制御部70は、前後進切替レバー22(
図2)の位置が前進側(F側)である場合に、
図2の油圧ポンプ34の可動斜板をNからFへ、すなわち前進側の傾斜角度が大きくなるように傾斜させる。油圧ポンプ容量制御部70は、方向制御弁58に制御信号を出力する。この出力により、アクセルペダル18の位置が
図2で「最高速」で示される最大踏み込み位置に近くなるのにしたがって油圧ポンプ34の容量を大きくし、
図2で「停止」で示される非操作位置に近くなるのにしたがって油圧ポンプ34の容量を小さくする。方向制御弁58によるアーム部材54の移動により、サーボ機構48及び操作ピン52を介して可動斜板38の傾斜角度が決定される。油圧モータ36の容量が一定であれば、油圧ポンプ34の容量が大きくなるほど油圧モータ36のモータ軸44(
図1)の回転速度は上昇し、前輪及び後輪14の回転速度も上昇する。なお、本実施形態では、油圧モータ36の動力を前輪及び後輪14に伝達する4輪駆動型としているが、油圧モータ36の動力を前輪のみ、または後輪14のみに伝達する2輪駆動型とすることもできる。
【0022】
図2において、前後進切替レバー22の位置が後進側(R側)である場合には、油圧ポンプ容量制御部70は、油圧ポンプ34の可動斜板をNからRへ、すなわち後進側の傾斜角度が大きくなるように傾斜させる。また、作業車両10(
図1)にはステアリングホイール等の図示しない旋回操作子が設けられており、旋回操作子の操作位置に応じて機械式または電気式に連結された前輪を操舵可能としている。
【0023】
油圧モータ容量制御部72(
図3)は、ペダルセンサ66(
図2)で検出されたアクセルペダル18の位置から油圧モータ36の容量を変化させる。この場合、油圧モータ36の可動斜板40の傾斜角、すなわちモータ軸44(
図1)の軸方向に対し直交する面に対する傾斜角度は、
図2のL位置とH位置との間で連続的に変化させることができる。油圧モータ36の可動斜板40の傾斜角度が最大となり、L位置にある場合、油圧モータ36は最大容量を有する。すなわちモータ軸44の1回転で油圧モータ36のシリンダ内でピストンにより圧縮され、吐出される作動油量が最大となる。一方、油圧モータ36の可動斜板40の傾斜角度が最小となり、H位置にある場合、油圧モータ36は最小容量を有する。すなわちモータ軸44の1回転で油圧モータ36のシリンダ内でピストンにより圧縮され、吐出される作動油量が最小となる。このように油圧モータ36は、最小容量と最大容量との間で容量を連続的に変化可能な構造を有する。
【0024】
油圧モータ容量制御部72は、アクセルペダル18が操作され、アクセルペダル18の位置が
図2の「停止」位置、すなわち非操作位置から
図2の「最高速」位置に向かうほど、車速の上昇量を高くするように、油圧モータ36の可動斜板40を
図2のL位置からH位置に向かうように変化させることができる。また、油圧モータ容量制御部72は、アクセルペダル18の位置が
図2の「停止」位置から
図2の「最高速」位置に向かうにしたがって、アクセルペダル18の踏み込み前半時に油圧モータ36の可動斜板40を
図2のL位置としたままで、油圧ポンプ34の容量を大きくして、車速を上昇させることもできる。次いで、油圧モータ容量制御部72は、油圧ポンプ34の可動斜板40がF位置となり最大容量となった後に、アクセルペダル18の位置が
図2の「最高速」位置に向かうにしたがって、油圧モータ36の可動斜板を
図2のL位置からH位置に近づけるように変化させ、車速を上昇させることもできる。
【0025】
アクセルペダル18が非操作となると、アクセルペダル18またはアクセルペダル18に連結された部材の周辺部に設けられたバネの力で、アクセルペダル18は停止位置に自動復帰する。また、高速走行時においてアクセルペダル18が非操作となり、アクセルペダル18の位置が高速側から低速側、すなわち踏み込んだ位置から停止位置に変位することで、油圧ポンプ容量制御部70は油圧ポンプ34の容量を小さくするように制御する。一方、油圧モータ容量制御部72は、このように油圧ポンプ34の容量が小さくなるのにしたがって、油圧モータ36の容量を大きくするように制御する。
【0026】
このために制御部60は、走行時にアクセルペダル18の非操作により車両を減速させるときの、油圧ポンプ34の斜板位置と油圧モータ36の容量比との関係を表すデータを予め記憶部74(
図3)に記憶させている。
【0027】
図4は、本実施形態において、高速走行から停止制御に移行する場合に使用する油圧ポンプの斜板位置と油圧モータの容量比との関係を、複数の減速モードを用いて示す図である。なお、以下の説明では、
図1から
図3に示した要素と同一の要素には同一の符号を付して説明する。例えば記憶部74に、「標準減速モード」を表すデータを記憶させている。この場合、油圧モータ容量制御部72は、車両走行中にアクセルペダル18が非操作となったと判定した場合に、記憶部74で記憶された標準減速モードで規定される油圧ポンプ34の斜板位置と油圧ポンプ34の容量比との関係にしたがって、油圧モータ36の容量を変化させる。
【0028】
図4の横軸は油圧ポンプ34の斜板位置を示しており、斜板位置1が油圧ポンプ34が最大容量を有することを示しており、3/4、1/2、1/4の順に容量が徐々に小さくなり、斜板位置0でスタンバイ位置となる。スタンバイ位置は、油圧ポンプ34の回転軸に対し直交する面上に可動斜板38が位置する状態である。すなわち
図4の横軸は、油圧ポンプ34の容量に置き換えることもできる。
【0029】
図4の縦軸は油圧モータ36の容量比、すなわち油圧モータ36が最大容量を有する場合を1として、最大容量に対する容量の比を示している。したがって容量比が1/2では、油圧モータ36が最大容量の1/2倍の容量比を有する最小容量を有することを意味する。
図4で油圧ポンプ34の斜板位置が1で油圧モータ36の容量比が1/2である点Aと、油圧ポンプ34の斜板位置が0で油圧モータ36の容量比が1である点Bとを結ぶ直線を基準線a0として想定する。点Aは車両が最高速で走行する状態に対応し、点Bは車両の停止状態に対応する。「標準減速モード」は、この基準線a0よりも上側に描かれる曲線で、点Aと点Bとを結ぶ曲線で表される。このため、点Aの状態から油圧ポンプ34の容量が小さくなるのにしたがって、減速初期段階で油圧モータ36の容量が大きくなる程度を大きくし、停止直前段階で油圧モータ36の容量が大きくなる程度を小さくしている。
【0030】
また、記憶部74には、
図4に示す複数の「積極減速モード」(アグレッシブモード)を表すデータを予め記憶させている。「積極減速モード」は、「標準減速モード」を通常時として、車両走行中にアクセルペダル18が非操作となった場合の減速の程度を、減速初期段階で「標準減速モード」よりも急激に増大させる。油圧モータ容量制御部72は、標準減速モードを設定するか、または積極減速モードを設定するかを、ブレーキペダルの操作と非操作の違いにより決定することができる。例えばブレーキペダルが非操作であれば「標準減速モード」にしたがって油圧モータ36の容量が油圧ポンプ34の容量に応じて決定される。これに対して、第2ペダルセンサ68から入力される検出信号が表すブレーキペダル20の位置が操作位置となった場合、すなわち、ブレーキペダル20が操作された場合に「積極減速モード」にしたがって油圧モータ36の容量が油圧ポンプ34の容量に応じて決定されるようにする。
【0031】
「積極減速モード」は
図4の標準減速モードa1上のいずれかの点と点Bとを結ぶ複数の線分b1、b2・・・b6で描かれるもので、例えば点Aと点Bとを、基準線a0の下側を通過するように描かれる曲線b1で表される。標準減速モード上のいずれの点と点Bとを結ぶかは、ブレーキペダル20の操作を開始した時点での油圧ポンプ34の斜板位置で決定される。例えば車両上の運転者がアクセルペダル18を非操作とした後、ブレーキペダル20を踏み始めた時点での油圧ポンプ34の斜板位置が3/4であれば点Pと点Bとを結ぶ積極減速モードb4が選択され、b4のモードにしたがって油圧モータ36の容量が油圧ポンプ34の容量に応じて変化する。また、制御部60は、ペダルセンサ66から入力される検出信号が表すアクセルペダル18の位置が非操作位置になった場合に、油圧ポンプ34の容量がスタンバイ容量になるのと同時に油圧モータ36の容量を最大容量に変化させる。また、アクセルペダル18の非操作後、ブレーキペダル20が操作された場合、すなわち積極減速モードが選択された場合に、油圧ポンプ34の容量が小さくなるのに応じて油圧モータ36の容量が大きくなる程度を、通常時である標準減速モードa1に従う場合よりも減速初期段階で小さくする。
【0032】
また、制御部60は、減速状態設定部である感度調節ダイアル76(
図2)を含んでいる。感度調節ダイアル76は、車両の走行時においてアクセルペダル18が非操作となったときに停止制御を行う場合の減速の程度をユーザにより設定可能とするもので、摘み部を回すことで標準減速モードから最大積極減速モードまでのモードを複数段階または無段階で設定可能とする。例えば
図4の油圧ポンプ34の斜板位置と油圧モータ36の容量比との関係が同じ点と、点Bとを結ぶ複数の積極減速モードを表す線分を設定することができる。
【0033】
図5は、油圧ポンプの斜板位置と油圧モータの容量比が同じ点と停止状態を表す点とを結ぶ複数の積極減速モードを設定した状態を示す、
図4に対応する図である。
図5では、標準減速モードを表す曲線a1上の点Pと点Bとを結ぶ複数の線分b41、b42、b43、b44を設定し、これらの線分に対応して複数の積極減速モードを設定している。感度調節ダイアル76は摘み部を回すことで複数の積極減速モードb41、b42、b43、b44のいずれか1つまたは標準減速モードa1を設定可能としている。感度調節ダイアル76を用いて減速初期の減速強度を調節できる。感度調節ダイアル76で積極減速モードを設定した場合、ブレーキペダル20の操作による積極減速モードの設定を適用しない構成とすることができる。
【0034】
このような積極減速モードが設定された場合にはアクセルペダル18の非操作時点で、ブレーキペダル20が非操作でも、設定された積極減速モードで油圧モータ36の容量を変化させることができる。
図5では、油圧ポンプ34の斜板位置と油圧モータ36の容量比とがそれぞれ同じ点Pと停止状態を表す点Bとを結ぶ複数の積極減速モードb41、b42、b43、b44を表す線分のみを示しているが、標準減速モードa1上の複数の点に応じてそれぞれ感度調節ダイアル76の設定に応じた複数の積極減速モードを設定できる。なお、
図4、
図5において、記憶部74に標準減速モードを表す曲線a1上で積極減速モードを表す線分との交差点が記憶されていない点では、標準減速モードa1上のその点の両側で記憶されている積極減速モードから補間または予め設定した関係式を用いてその点での積極減速モードを設定できる。
【0035】
図6は、本実施形態の走行制御装置を使用して、減速制御を実行する方法を示すフローチャートである。ステップS10(以下ではステップSは単にSという。)で制御部60でアクセルペダル18がオフ、すなわち非操作であると判定されると、S12でブレーキペダル20がオンすなわち操作されたことと、感度調節ダイアル76で積極減速モードが設定されたこととの少なくとも一方が成立したか否かが判定される。S12の判定結果が肯定であるときはS14で積極減速モードが実行される。積極減速モードでは、
図4、
図5等で設定された積極減速モードを表す関係に応じて油圧モータ36の容量を油圧ポンプ34の容量に応じて変化させ、車両を減速させ、停止させる。これに対して、S12の判定結果が否定である場合、S16に移行して
図4の曲線a1で表される標準減速モードで油圧モータ36の容量を油圧ポンプ34の容量に応じて変化させ、減速させ、再びS10のステップに戻る。すなわち
図6のENDに達するとSTARTに戻り、これを繰り返す。
【0036】
このような本実施形態の作業車両の走行制御装置によれば、車両の走行中にアクセルペダル18が非操作により低速側に変位した場合でも、油圧ポンプ34の容量が小さくなるのに伴って油圧モータ36の容量が大きくなる。このため、油圧モータ36の急減速を緩和でき、アクセルペダル18が低速側に変位する場合の車両の急減速を緩和できる。したがって、運転者に加わる減速の衝撃感を緩和できる。また、油圧ポンプ34及び油圧モータ36をそれぞれ容量が連続的に変化する連続容量可変式としているので、車両の最高速度を高くできるのにもかかわらず、アクセルペダル18の非操作による減速の衝撃感を最高速度が低い車両の場合に近づけることができる。このため、運転者による車両の操縦性が向上する。
【0037】
図7は、本実施形態において、高速走行から停止制御に移行する場合の油圧ポンプ34の斜板位置と油圧モータ36の容量比とを、比較例との関係で示す図である。
図7の「比較例」の欄で示すように、比較例は、車両の高速走行中にアクセルペダル18が非操作となったときに、油圧ポンプ34の斜板位置は1から0に向かって容量が小さくなるように変化するが、油圧モータ36の容量比が1/2で一定に維持される。この場合、上記の
図4で油圧モータ36の容量比が1/2である横軸上を右から左へ移行するのと同じである。この場合、油圧ポンプ34の容量が小さくなるのに油圧モータ36の容量が小さいままであるので、閉回路での油圧ポンプ34から吐出される作動油や油圧モータ36から吐出される作動油の行き場がなくなり、油圧モータ36のモータ軸44が急減速する。このため、アクセルペダル18の非操作時に作業車両10が急減速して、運転者に加わる減速の衝撃感が大きくなる可能性がある。
【0038】
本実施形態の場合、
図7の「本発明」の欄で示すように、車両の高速走行中にアクセルペダル18が非操作となったときに、油圧ポンプ34の斜板位置は1から0に向かって容量が小さくなるとともに、油圧モータ36の容量比が1/2から1に向かって容量が大きくなる。このため、油圧モータ36の急減速を緩和して、アクセルペダル18の非操作時の車両の減速を緩やかにし、運転者に加わる減速の衝撃感を緩和できる。なお、車両が最高速にないときのアクセルペダルの非操作での油圧モータ36の容量は、
図5の曲線a1上の点Aと点Bとの間の油圧ポンプ34の斜板位置から決定される。
【0039】
また、車両が最高速での高速走行中にアクセルペダル18が非操作となると、
図4の点Aから曲線a1で示される標準減速モードに沿って減速されるので、油圧ポンプ34の容量が小さくなるのにしたがって油圧モータ36の容量が徐々に大きくなる。しかも点Aと点Bとを直線で結ぶ基準線a0よりも上側で曲線a1が設定されているので、減速初期段階で油圧モータ36の容量が大きくなる程度が大きくなり、油圧ポンプ34の容量が小さくなるのにしたがってその油圧モータ36の容量が大きくなる程度が徐々に小さくなる。このため、アクセルペダル18が非操作となった時点での運転者に加わる減速の衝撃感をより緩和できる。車速が十分に低下した状態、すなわち油圧ポンプ34の容量が十分に小さくなった状態で油圧モータ36の容量が大きくなる程度は小さくなるが、このような低速領域では運転者に加わる減速の衝撃感は十分に小さい。
【0040】
図8は、本実施形態の走行制御装置を搭載する作業車両において、アクセルペダル18を非操作とした時点から車両が進む距離と車速との関係を示す図である。
図8のK1は本実施形態で最高速V1からアクセルペダル18を非操作とした場合の距離と車速との関係を示しており、J1は比較例の場合を示している。「標準減速モード」にしたがうK1では車速の低下が緩やかであるが比較例のJ1では車速の低下が急である。K1とJ1とを比較すれば明らかなように本実施形態によれば、高速走行中でのアクセルペダル18の非操作時の減速の衝撃感を緩和できる。また、十分に速度が低下した
図8のα領域で車速が急に低下しても車速の絶対値自体が十分に小さいので、衝撃感は十分に小さい。
【0041】
また、制御部60は、ペダルセンサ66から入力される検出信号が表すアクセルペダル18の位置が非操作位置になった場合に、油圧ポンプ34の容量がスタンバイ容量になるのと同時に油圧モータ36の容量を最大容量に変化させる。このため、車両の停止直前でも車両の急減速を十分に小さくできる。
【0042】
また、制御部60は、ペダルセンサ66から入力される検出信号が表すアクセルペダル18の位置が操作位置から非操作位置とされた後、第2ペダルセンサ68から入力される検出信号が表すブレーキペダル20の位置が操作位置となった場合や、感度調節ダイアル76で積極減速モードが設定されている場合に、油圧ポンプ34の容量が小さくなるのに応じて油圧モータ36の容量が大きくなる程度を、通常時よりも減速初期段階で小さくする。このため、運転者の操作に基づいて車両の減速度を減速初期段階で通常時よりも高くして、車両を短い距離で停止させることができる。
【0043】
図8のK2、K3は積極減速モードにしたがって減速させる場合を示している。K2は、
図5の点Aから積極減速モードを示す曲線b1に沿って減速させる場合に対応する。K3はアクセルペダル18の非操作後、ある速度V2に達した時点でブレーキペダル20を操作する場合を示している。
図8のJ1、K1とK2とを比較すれば明らかなように、本実施形態では、減速時に油圧モータ36の容量を一定のままとする比較例の場合に比べて、減速時の衝撃感を小さくしつつ、通常時である標準減速モードよりも短い距離で車両を停止させることができる。この場合、減速初期時の衝撃感は標準減速モードに従うよりも大きくなるが、障害物の迅速回避等のための運転者の急停止要求に、より迅速に対応できる。この場合、HST26の油圧ブレーキ機能を有効利用できる。また、感度調節ダイアル76で減速の程度を設定可能であり、ユーザにより減速時の衝撃感を調節できる。
【0044】
なお、
図4において、点Aと点Bとを結ぶ線分として、標準減速モードをa1とする場合に、積極減速モードとして、直線状のa0で示される関係を使用することもできる。また、積極減速モードをb1とする場合に、標準減速モードとして、直線状のa0で示される関係を使用することもできる。なお、感度調節ダイアル76で、積極減速モードを設定した場合に、アクセルペダル18の非操作時点からではなく、ブレーキペダル20の操作時点から、感度調節ダイアル76で設定された積極減速モードに従って減速制御を行うこともできる。また、感度調節ダイアル76で無段階で減速初期時の減速強度を調節することもできる。例えば、
図5のモードb41、b42・・・で規定されない間のモードは、両側の規定されたモードb41、b42・・・から、補間または予め設定した関係式を用いて設定することができる。
【0045】
また、上記の感度調節ダイアル76を省略することもできる。この場合、ブレーキペダル20の操作により
図4の積極減速モードb1、b2・・・等で減速制御される。また、感度調節ダイアル76の代わりに、走行制御装置69が
図2に示すモード選択部であるモード選択スイッチ78を備えるようにすることもできる。モード選択スイッチ78は、標準減速モードと積極減速モードとのいずれかをユーザにより選択可能としている。「積極減速モード」は、油圧ポンプ34の容量が小さくなるのに応じて油圧モータ36の容量が大きくなる程度を、「標準減速モード」よりも減速初期段階で小さくするモードであり、例えば
図4のb1、b2・・・b6で示される。制御部60は、モード選択スイッチ78での選択に応じたモードで油圧モータ36の容量を油圧ポンプ34の容量に応じて変化させる。その他の構成は、上記の実施形態と同様である。このようにモード選択スイッチ78を使用する場合も、感度調節ダイアル76で積極減速モードを設定する場合と同様の効果を得られる。また、モード選択部として、モード選択スイッチ78の代わりに、モード選択ボタンまたは液晶表示部を使用して、標準減速モードと積極減速モードとのいずれかをユーザにより選択可能とすることもできる。
【0046】
なお、上記では加速操作子としてアクセルペダル18を使用する場合を説明したが、加速操作子として運転席周辺部に変速レバーを設けることもできる。例えば、変速レバーを前後に揺動可能として前側に倒すことで前進速度を高くすることを、後側に倒すことで後進速度を高くすることを指示することができる。この場合、変速レバーの直立位置が中立位置となり速度が0となることを指示する。このような変速レバーを使用する場合でも制御部60は、高速走行中に変速レバーが0に近づく、すなわち低速側に変位することで油圧ポンプ34の容量が小さくなるのにしたがって、油圧モータ36の容量を大きくする構成を採用できる。この構成でも上記の実施形態と同様の効果を得られる。
【0047】
なお、上記の実施形態では積極減速モードを設定する場合を説明したが、ブレーキペダル20の操作にかかわらず積極減速モードを設定しない構成を採用することもできる。