【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、3価クロムめっき処理を行うに従って3価クロムめっき用アノードの酸素発生電位が上昇し、これがアノード上で3価クロムを酸化し6価クロムを生成させる一因となることを見出した。そして、特定の再生処理液中において、3価クロムめっき処理に用いたアノードを陰極として電解処理を行うことによって、電極の酸素発生電位を低下させることができ、その結果、電解処理後のアノードを用いて3価クロムめっき処理を行った場合に6価クロムの生成を抑制することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の3価クロムめっき用アノードの再生処理方法を提供するものである。
項1. 導電性の電極基体上に金属酸化物を含む被覆を施した不溶性電極からなる3価クロムめっき用アノードの再生処理方法であって、無機酸及び/又は有機酸を含有するpHが3以下の酸性水溶液からなる再生処理液中において、3価クロムめっき処理に用いたアノードを陰極として、電解処理を行うことを特徴とする3価クロムめっき用アノードの再生処理方法。
項2. 再生処理液のpHが−1〜3である上記項1に記載の3価クロムめっき用アノードの再生処理方法。
項3. 3価クロムめっき用アノードが、導電性の金属基体上に酸化イリジウムを含む被覆を施した不溶性電極である上記項1又は2に記載の3価クロムめっき用アノードの再生処理方法。
項4. 3価クロムめっき用アノードが、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ又はこれらの合金からなる電極基体上に、電極触媒として酸化イリジウムとともに、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、スズ、アンチモン、ルテニウム、白金、コバルト、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属又はその酸化物の被覆を施した不溶性電極である上記項1〜3のいずれかに記載の3価クロムめっき用アノードの再生処理方法。
項5. 3価クロムめっき用アノードが、チタンからなる電極基体上に、電極触媒として酸化イリジウム及び酸化タンタルの混合酸化物の被覆を施した不溶性電極である上記項1〜4のいずれかに記載の3価クロムめっき用アノードの再生処理方法。
項6. 3価クロムめっき浴中の6価クロムイオン濃度が、100ppm以上となった場合の3価クロムめっき用アノードを処理対象とする上記項1〜5のいずれかに記載の3価クロムめっき用アノードの再生処理方法。
項7. 水銀/硫酸第一水銀電極を参照電極とし、98%硫酸150g/Lの水溶液を測定液として、電流密度50A/dm
2で測定した場合の電位が、0.96V以上となった場合の3価クロムめっき用アノードを処理対象とする上記項1〜5のいずれかに記載の3価クロムめっき用アノードの再生処理方法。
項8. 無機酸が硫酸である上記項1〜7のいずれかに記載の3価クロムめっき用アノードの再生処理方法。
項9. 陰極電流密度0.1〜40A/dm
2で電解処理を行う上記項1〜8のいずれかに記載の3価クロムめっき用アノードの再生処理方法。
【0013】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0014】
3価クロムめっき用アノード
本発明の再生処理方法において処理対象となる3価クロムめっき用アノードは、3価クロムめっき処理において用いられる、導電性の電極基体上に金属酸化物を含む被覆を施した不溶性電極である。特に、このような不溶性電極としては、導電性の電極基体上に電極触媒として酸化イリジウム等を含む被覆を施した不溶性電極は酸素発生電位が低いことから、3価クロムめっき用アノードとして好ましく用いられている。本発明では、これらの不溶性電極をいずれも処理対象とすることができる。
【0015】
本発明の処理対象とすることができる不溶性電極についてより具体的に説明すると、例えば、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ又はこれらの合金からなる電極基体上に、電極触媒として酸化イリジウムとともに、チタン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、スズ、アンチモン、ルテニウム、白金、コバルト、モリブデン及びタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属又はその酸化物の被覆を施した不溶性電極等を挙げることができる。
【0016】
中でも、チタンからなる電極基体上に、電極触媒として酸化イリジウム及び酸化タンタルの混合酸化物の被覆を施した不溶性電極が3価クロムめっき用アノードとして広く用いられている。本発明の再生処理方法をこの不溶性電極に適用する場合には、該不溶性電極を再生して繰り返し使用することが可能となり、該不溶性電極の優れた性能を長期間維持することができる。
【0017】
再生処理液
本発明の再生処理方法において用いる再生処理液は、無機酸及び/又は有機酸を含有するpH3以下の水溶液であればよい。pHが低いほど再生処理液の電気伝導度が高くなり再生処理効果が向上することから、−1〜3程度の範囲内にあることが好ましく、−1〜1程度の範囲内にあることがより好ましい。なお、pHは25℃で測定した値である。
【0018】
無機酸及び有機酸の種類については特に限定的ではなく、無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸などを例示することができ、有機酸としては、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などを例示することができる。これらの無機酸及び有機酸の中でも再生処理液の取扱いが容易であることから硫酸が好ましい。無機酸及び有機酸は上記したpHの範囲内となるように添加すればよい。例えば、無機酸として98%硫酸を用いる場合には、0.1〜200mL/L程度添加することによって、上記したpHの範囲に調整することができる。
【0019】
また、再生処理液は、電気伝導度が低いと浴電圧が上昇して電解中に浴温が上昇することがあるため、必要に応じて電導性塩を添加してもよい。電導性塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウムなどのアルカリ金属塩;塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムなどのアンモニウム塩等が挙げられる。これらの電導性塩は、一種単独又は二種以上混合して使用することができる。これらの電導性塩の中でも、電解処理時に電極表面の金属酸化物皮膜の剥離が生じにくい点においてアンモニウム塩を用いることが好ましい。電導性塩の添加量は要求される電気伝導度の範囲に応じて適宜決定すればよく、特に限定的ではないが、通常50〜400g/L程度とすればよい。
【0020】
3価クロムめっき用アノードの再生処理方法
前述した通り、本発明者の研究によって、3価クロムめっき浴中で6価クロムが生成する原因として、めっき処理を長期間行うことによって3価クロムめっき用アノードの酸素発生電位が上昇することによるものであることが見出された。
【0021】
本発明の再生処理方法によれば、上記した再生処理液中において、3価クロムめっき処理に用いたアノードを陰極として、後述する条件で電解処理を行うことによって酸素発生電位を低下させることができ、その結果、3価クロムめっき用アノードの性能を回復させ、6価クロムの生成を抑制することができる。
【0022】
再生処理を行う時期については特に限定的ではなく、例えば、3価クロムめっき浴中に6価クロムの蓄積が生じた場合、3価クロムめっき用アノードの酸素発生電位が上昇した場合等に適宜、再生処理を行えばよい。
【0023】
3価クロムめっき浴中に6価クロムの蓄積が生じた場合を本発明の再生処理を行う時期の目安とする場合、基準となる6価クロムイオンの濃度は、目的とするめっき液の性能に応じて適宜決めればよい。
【0024】
通常、3価クロムめっき浴中の6価クロムイオン濃度が200ppm程度以上となると、3価クロムめっき処理のめっき速度やめっき皮膜の外観等に悪影響を及ぼすことがある。このため、3価クロムめっき浴中の6価クロムイオン濃度が200ppm程度以上となった場合に再生処理を行えばよいが、より高いめっき品質を望む場合には、100ppm程度以上となった時期を本発明の再生処理を行う時期の目安とすることが好ましい。3価クロムめっき浴中の6価クロム濃度は、ジフェニルカルバジドを用いた吸光度分析法等により測定することができる。
【0025】
また、上記した3価クロムめっき浴中の6価クロムイオン濃度を測定する方法だけでなく、3価クロムめっき用アノードの酸素発生電位を測定することによっても本発明の再生処理を行う時期を決定することができる。電極の酸素発生電位を測定する方法は特に限定されないが、例えば、簡易的な方法として、
図1に示すような電位測定装置を用いて測定した電位を酸素発生電位の目安とすることができる。
【0026】
具体的には
図1に示すように、対極としてチタンを用い、水銀/硫酸第一水銀電極を参照電極として、25℃の98%硫酸中で、測定対象物を陽極として、電流密度が50A/dm
2となるように一定電流を流した場合の3価クロムめっき用アノードの電位を測定すればよい。
【0027】
上記した方法で測定した場合の未使用の3価クロムめっき用アノードの電位は、通常0.95V程度である。本発明者の研究によれば、上記した方法で測定した電位が0.97V程度以上の3価クロムめっき用アノードを用いると、3価クロムめっき浴中で6価クロムの生成が確認された。このため、例えば、上記した方法で測定した場合の電位が0.97V程度以上となった場合に再生処理を行えばよい。なお、より高いめっき品質を望む場合には、0.96V程度以上となった時期を本発明の再生処理を行う時期の目安とすればよい。
【0028】
なお、3価クロムめっき浴中に6価クロムの蓄積が生じた場合を、再生処理を行う時期の目安とする場合には、蓄積した6価クロムがめっき速度やめっき皮膜の外観等に悪影響を与えることがあり、さらには蓄積した6価クロムを3価クロムめっき浴から除去する手間等が生じることから、電極の酸素発生電位を測定することによって本発明の再生処理を行う時期を決定することが好ましい。
【0029】
再生処理を行う場合の陰極電流密度については特に限定的ではないが、電流密度が極端に低い場合には良好な再生処理効果が得られず、再生処理後に短時間で酸素発生電位が上昇することがあるため好ましくない。このため、通常は0.1〜40A/dm
2程度とすればよく、0.5〜25A/dm
2程度とすることが好ましく、10〜15A/dm
2程度とすることがより好ましい。
【0030】
再生処理を行う時間については特に限定的ではないが、処理時間が極端に短い場合には十分な再生処理効果が得られないことがあるため好ましくない。このため、通常は1〜30分程度の電解処理時間とすればよく、5〜20分程度の電解処理時間とすることが好ましい。
【0031】
再生処理液の液温については特に限定的ではないが、10〜70℃程度とすることが好ましく、25〜60℃程度とすることがより好ましい。
【0032】
再生処理に用いるアノードとしては、電気伝導性の不溶性電極であればよく、特に限定的ではないが、例えば、カーボン、チタン−白金電極などを使用できる。また、これらの不溶性電極を用いることなく、処理対象の3価クロムめっき用アノードを2本利用して、交互に陽極と陰極を入れ替えることによって効率よくアノードの再生処理を行うことができる。