特許第6142209号(P6142209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142209
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】大型サファイア基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/20 20060101AFI20170529BHJP
   C30B 15/34 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   C30B29/20
   C30B15/34
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-560036(P2016-560036)
(86)(22)【出願日】2016年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2016068446
(87)【国際公開番号】WO2016208603
(87)【国際公開日】20161229
【審査請求日】2016年10月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-124393(P2015-124393)
(32)【優先日】2015年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】並木精密宝石株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古滝 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】矢口 洋一
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−504274(JP,A)
【文献】 特表2011−504451(JP,A)
【文献】 特開2003−327495(JP,A)
【文献】 特開2015−120612(JP,A)
【文献】 特開2015−124096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶引き上げ後の最も広い端面について、表面に対するC面又はR面結晶方位のうねりによるズレが全て2°以内である、幅6インチ以上の単結晶サファイアリボン。
【請求項2】
結晶引き上げ後の最も広い端面について、表面に対するC面又はR面結晶方位のうねりによるズレが全て2°以内である、幅6インチ以上の単結晶マルチサファイアリボン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EFG法によって育成される単結晶サファイアに関する。
【0002】
現在、LED等に用いられる6インチ以上の大型サファイア基板についてはその多くがCZ法等によって育成されたインゴットからの切り出しによって加工されている。これは、従来用いられてきたEFG法による当該基板の育成に際して、シード基板の撓み増加及び、当該撓みに伴う削りしろの付与といった課題が生じ、引き上げが難しくなった事による。
【0003】
これに伴い、サファイア単結晶材料の量産についてはインゴットからの切り出し以外での結晶育成が難しくなっており、当該インゴットの育成後、X線回折又は偏光によるC軸方向の測定によって結晶方位を決定し、基板の切り出しを行っている。この様な加工手順を用いる際の結晶方位について、一般的なインゴットからの基板切り出しでは、特開平02−271241(以下特許文献1として記載)及び特開平10−011138(以下特許文献2として記載)に記載の測定方法が用いられている。
【0004】
これら2件のうち、特許文献1記載の測定方法ではインゴットの結晶表面に平行光を入射させ、当該平行光の反射角からその結晶方位を測定する事を可能にしている。また、特許文献2に記載の加工方法では、当該反射角によって結晶方位を検出し、切断方向を決定することをその技術的特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平02−271241号公報
【特許文献2】特開平10−193338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の発明によってインゴットに対する結晶方位の測定が容易になった一方で、サファイアインゴットに同様の測定方法を用いると、その結晶構造上、当該測定方法を使用可能な結晶方位及び測定範囲が限定されてしまう。この為、当該測定方法でサファイアインゴットを測定すると、対象とする結晶方位及び測定角度によってはインゴットの切断面と結晶方位とのズレによって平行光が散乱し、当該測定ができないといった課題を発生してしまう。
【0007】
加えて、特許文献2記載の測定方法は略円筒形となるインゴット端面の測定を前提としている。この為、前記測定方法が使用可能な結晶方位以外を端面とするサファイアインゴットに対しては、前記測定方法を使用することができない。
【0008】
上記課題に対して本願記載の発明では、育成直後の状態で汎用レーザー等の平行光による結晶方位の測定が可能な幅6インチ以上の単結晶サファイアの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的のために本発明に於ける第1の態様記載の発明は、EFG法によって育成する幅6インチ以上の単結晶サファイアリボンについて、表面に対するC面又はR面結晶方位のうねりによるズレを2°以内に設定したことを特徴としている。より具体的には、6インチ以上の単結晶サファイアリボンの最も広い端面に対する、C面又はR面結晶方位のズレを全て2°以内としたことをその技術的特徴としている。
【0010】
また、本発明に於ける第2の態様記載の発明は、EFG法によって育成する幅6インチ以上の単結晶マルチサファイアリボンについて、各サファイアリボンの表面に対するC面又はR面結晶方位のうねりによるズレを2°以内に設定したことを特徴としている。より具体的には、マルチサファイアリボンとして育成された各サファイアリボンについて、各サファイアリボン毎に有する最も広い端面とC面又はR面結晶方位とのズレを2°以内としたことをその技術的特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
上述した技術的特徴によって本発明に於ける第1の態様記載の発明は、幅6インチ以上の単結晶サファイアリボンに関し、育成直後の状態に於いて簡単な測定手段による結晶方位の測定を行うことを可能にしている。これは、EFG法によって育成する幅6インチ以上の単結晶サファイアリボンについて、C面又はR面のみに限定して測定する結晶方位を設定したことによる効果となっている。
【0012】
即ち、上記CZ法等によって育成されるサファイアインゴットと異なり、EFG法によって育成される単結晶サファイアリボンはその育成条件によって育成する結晶方位を決定することができる。より具体的には、育成条件を適宜設定することによって、育成直後のサファイアリボンの端面について、任意の結晶表面で形成された端面をサファイアリボン表面に形成することが可能となっている。本願では幅6インチ以上の単結晶サファイアリボンに於ける最も広い端面について、当該最も広い端面と結晶方位面とのズレを2°以内として育成することで、結晶表面に対して直角に入射する汎用レーザーをC面又はR面から散乱を抑えた状態で反射し、当該反射角を用いた測定への対応を可能にしている。また、本願では、EFG法によって育成した単結晶を用いて前記反射角を用いた測定に対応している。この為、前記サファイアリボンに於ける一箇所の測定結果から、サファイアリボン全体の結晶方位を判断することができる。
【0013】
更に、本態様記載の単結晶サファイアリボンでは、前記ズレを2°以内としたことで幅6インチ以上の単結晶サファイアリボンに於ける厚みの低減と、当該リボンのEFG法による育成の容易化という効果をも付与することができる。これは、当該ズレの設定によって、結晶方位測定後、半導体基板用途等で結晶方位の傾きを補正するための削りしろを低減させることによる効果となっている。即ち、当該削りしろの低減により、本願記載のサファイアリボンは育成時の厚みを減らすことが可能となる。これにより、本願記載のサファイアリボンはその重量を軽減し、結晶育成時、シード基板の撓みを抑えて幅6インチ以上の単結晶サファイアリボンを引き上げることが可能となっている。
【0014】
また上記第1の態様記載の効果に加えて、本発明に於ける第2の態様記載の発明では、単一のシードから複数のサファイアリボンを育成する幅6インチ以上の単結晶マルチサファイアリボンについて、育成される各サファイアリボン毎に上記第1の態様記載の発明が有する効果を付与することができる。加えて、本態様記載の発明では、前記サファイアリボンの厚みを減らすことによって、シード基板1個毎に育成するサファイアリボン間の間隔を狭めて枚数を増やし、当該サファイアリボンの量産性を向上させることもまた、可能となっている。
【0015】
以上述べたように、本願記載の発明を用いることで、育成直後の状態で汎用レーザー等の平行光による結晶方位の測定が可能な幅6インチ以上の単結晶サファイアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に於ける最良の実施形態にて用いるマルチサファイアリボンの斜視図
図2図1に於いて示したマルチサファイアリボンの各サファイアリボン表面説明図
図3図2に於いて示したサファイアリボンの結晶方位説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図1図2及び図3を用いて、本発明に於ける最良の実施形態を示す。尚、図中の記号及び部品番号について、同じ部品として機能するものには共通の記号又は番号を付与している。
【0018】
図1に本発明に於ける最良の実施形態に於いて用いるマルチサファイアリボンの斜視図を、図2に当該マルチサファイアリボンの各サファイアリボンに於ける表面の説明図を、そして図3に当該サファイアリボンの表面と結晶方位との説明図を、それぞれ示す。尚、引き上げ用のクランプ等については、図中での記載を省略している。
【0019】
図1に於いて示す様に、本実施形態ではEFG法によってサファイアマルチリボン1を育成している。尚、図1中、シード基板2から複数育成されている各サファイアリボン3は全て幅6インチ以上となっている。また、図2から解るように、本実施形態では図1中、ハッチングにて示したサファイアリボン3の表面方向s側にサファイア単結晶の結晶方位[0.0.0.1]面となるC面を設けて育成しており、サファイアリボン3の表面方向sとC面の結晶方位cとのズレは2°以内として育成した。
【0020】
本実施形態ではシード基板2の結晶方位、引き上げ方向、引き上げ速度及び、育成温度といった各種条件を設定することで、サファイアリボン3表面のうねりとして現れる表面方向sに対するC面の結晶方位cの角度を全て2°以内に収めている。より具体的には、シード基板端面をC軸として垂直方向に引き上げる本実施形態の育成に於いて、引き上げ速度を0.8インチ/時から緩やかに速度を上げて最終的に1.5インチ/時まで上昇させると共に温度範囲を2060〜2100℃、2090℃〜2130℃等の40℃温度を上げる温度範囲にて育成し、当該温度の変更を1度につき1℃以内の範囲で行うことにより、前記うねりを2℃以内に収めることを可能にしている。これにより、サファイアリボン3の晶癖面となるサファイアリボン3の表面に垂直方向から入射する汎用レーザーを、当該サファイアリボン3のC面から散乱を抑えた状態で反射し、当該反射角からの結晶方位測定に対応することができた。尚、本実施形態と同じ技術的見地から、表面方向s側に図2にて示した[1.−1.0.2]面となるR面を設けて育成し、表面方向sとR面の結晶方位とのズレを2°以内とすることによって、前記汎用レーザーをR面から散乱を抑えた状態で反射し、当該反射角からの結晶方位測定に対応することもまた、可能となっている。
【0021】
尚、図3に示す様に、サファイアリボン3全体としての表面方向sは、育成時の型となるダイパックの形状及び前述した各種育成条件によって決定される為、表面方向sと本実施形態で用いる結晶方位cとの間には常に一定のズレが生じる。本実施形態ではこのズレを2°以内に設定したことで、サファイアリボン3の厚みを低減し、6インチ、8インチといった大型のマルチサファイアリボンの育成を容易に行うことを可能としている。これは、当該ズレの設定により、前記結晶方位の測定後、半導体基板用途等で結晶方位の傾きを補正するための削りしろを低減させたことによる効果となっている。
【0022】
即ち、前記厚みの低減によって、サファイアリボン3一枚辺りの重量が減少し、シード基板2から育成する各サファイアリボン3同士の密度を高めることができる。これにより、育成時、シード基板2にかかる加重を均等に配分し、重心を安定させた状態で結晶の引き上げ及び育成を行うことが可能となった。加えて、当該密度を高めたことで、各サファイアリボン間の温度分布を平坦にし、育成時の結晶品質について、各サファイアリボン間でのバラツキ抑制という効果をも得ることができた。
【0023】
以上述べたように、本願実施形態記載の構造を用いることによって、育成直後の状態で汎用レーザー等の平行光による結晶方位の測定が可能な幅6インチ以上の単結晶サファイアを提供することができた。
【符号の説明】
【0024】
1 サファイアマルチリボン
2 シード基板
3 サファイアリボン
c C面結晶方位
r R面結晶方位
s サファイアリボンの表面方向
図1
図2
図3