特許第6142213号(P6142213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6142213有機EL素子および有機EL素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142213
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】有機EL素子および有機EL素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20170529BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   H05B33/22 A
   H05B33/10
   H05B33/14 A
   H05B33/22 B
【請求項の数】14
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-526155(P2015-526155)
(86)(22)【出願日】2014年7月2日
(86)【国際出願番号】JP2014003525
(87)【国際公開番号】WO2015004882
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2015年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-145243(P2013-145243)
(32)【優先日】2013年7月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514188173
【氏名又は名称】株式会社JOLED
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホアン ミン ヒェップ
(72)【発明者】
【氏名】松末 哲征
(72)【発明者】
【氏名】西村 征起
(72)【発明者】
【氏名】米田 和弘
【審査官】 井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−015873(JP,A)
【文献】 特開2005−166637(JP,A)
【文献】 特開2004−335468(JP,A)
【文献】 特開2006−287078(JP,A)
【文献】 特開2004−071460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
前記陽極の上方に配された発光層と、
前記発光層上に配され、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である第1金属のフッ化物を含む第1中間層と、
前記第1中間層上に配され、前記第1金属のフッ化物における前記第1金属とフッ素との結合を切る性質を有する第2金属を含む第2中間層と、
前記第2中間層上に配され、電子輸送性および電子注入性のうち少なくとも一方の性質を有する機能層と、
前記機能層の上方に配された陰極と、を有し、
前記第1中間層の膜厚をD1、前記第2中間層の膜厚をD2とするとき、D1は、1〔nm〕以上、10〔nm〕以下であると共に、D2は、0.1〔nm〕以上、1〔nm〕以下であり、かつ、3〔%〕≦D2/D1≦25〔%〕の関係を満たす
ことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記第2金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である
ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記機能層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属がドープされた有機材料から成る
ことを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記ドープされたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の前記機能層中の濃度は、5〔wt%〕以上、40〔wt%〕以下である
ことを特徴とする請求項に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記ドープされたアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、前記第2金属と同じ種類の金属である
ことを特徴とする請求項またはに記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記第2金属および、前記ドープされたアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、バリウムである
ことを特徴とする請求項に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記第1金属は、ナトリウムである
ことを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の有機EL素子。
【請求項8】
陽極を形成し、
前記陽極の上方に発光層を形成し、
前記発光層上に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である第1金属のフッ化物を含む第1中間層を膜厚D1で形成し、
前記第1中間層上に、前記第1金属のフッ化物における前記第1金属とフッ素との結合を切る性質を有する第2金属を含む第2中間層を膜厚D2で形成し、
前記第2中間層上に、電子輸送性および電子注入性のうち少なくとも一方の性質を有する機能層を形成し、
前記機能層の上方に、陰極を形成し、
前記第1中間層の膜厚D1および前記第2中間層の膜厚D2は、D1は、1〔nm〕以上、10〔nm〕以下であると共に、D2は、0.1〔nm〕以上、1〔nm〕以下であり、かつ、3〔%〕≦D2/D1≦25〔%〕の関係を満たす
ことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である
ことを特徴とする請求項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記機能層の形成において、有機材料にアルカリ金属またはアルカリ土類金属をドープして、前記機能層を形成する
ことを特徴とする請求項8または9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項11】
前記機能層の形成において、前記有機材料にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を、5〔wt%〕以上、40〔wt%〕以下の濃度でドープして、前記機能層を形成する
ことを特徴とする請求項10に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項12】
前記機能層の形成において、前記有機材料にドープするアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、前記第2金属と同じ種類の金属である
ことを特徴とする請求項10または11に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項13】
前記第2金属および、前記機能層の形成において前記有機材料にドープするアルカリ金属またはアルカリ土類金属前記は、バリウムである
ことを特徴とする請求項12に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項14】
前記第1金属は、ナトリウムである
ことを特徴とする請求項から13の何れか1項に記載の有機EL素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子および有機EL素子の製造方法に関し、特に、保管安定性と発光特性に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、自己発光を行うため視認性が高く、さらに完全固体素子であるので耐衝撃性に優れるなどの特徴を有するため、近年、表示装置に有機EL素子を利用したものが普及しつつある。
【0003】
有機EL素子は、一対の電極(陽極および陰極)間に、少なくとも発光層が挟まれた構成を有している。そして、有機EL素子は、多くの場合、発光層の他に、発光層に電子を供給するための機能層(電子輸送層、電子注入層)または、正孔注入層、正孔輸送層等が発光層と陰極との間にさらに挟まれた構成を有している。また、機能層に仕事関数の低いアルカリ金属やアルカリ土類金属を含む層を用いると、良好な電子注入性が得られることが知られている。
【0004】
仕事関数が低いアルカリ金属やアルカリ土類金属は、水分や酸素といった不純物と反応しやすい。そのため、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含む機能層は、不純物が存在すると劣化が促進され、有機EL素子の発光効率の低下や発光寿命の短縮といった悪影響が発生して保管安定性が低下する。また、金属から成る陰極に不純物が接触すると、腐食や劣化を引き起こし、上記と同様の悪影響が引き起こされる虞がある。
【0005】
そこで、特許文献1には、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層(特許文献1では、これらを「有機発光媒体層」と呼んでいる。)の間に無機バリア層を設けた構成が開示されている。無機バリア層は、無機バリア層よりも前に形成された有機発光媒体層表面に吸着された不純物(特許文献1では、「劣化要因因子」)による、無機バリア層よりも後に形成された有機発光媒体層の劣化を防止するために設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4882508号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の構成においては、無機バリア層が、絶縁体または半導体、もしくは仕事関数が4.0[eV]以上の金属から成り、電子注入性が低いため、発光層に十分な電子が供給されず、良好な発光特性が得られない虞がある。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、不純物に対する十分なブロック性を確保して良好な保管安定性を確保しつつ、良好な発光特性を実現することができる有機EL素子および当該有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様である有機EL素子は、陽極と、前記陽極の上方に配された発光層と、前記発光層上に配され、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である第1金属のフッ化物を含む第1中間層と、前記第1中間層上に配され、前記第1金属のフッ化物における前記第1金属とフッ素との結合を切る性質を有する第2金属を含む第2中間層と、前記第2中間層上に配され、電子輸送性および電子注入性のうち少なくとも一方の性質を有する機能層と、前記機能層の上方に配された陰極と、を有し、前記第1中間層の膜厚をD1、前記第2中間層の膜厚をD2とするとき、D1およびD2は、3〔%〕≦D2/D1≦25〔%〕の関係を満たすことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様である有機EL素子の製造方法は、陽極を形成する陽極形成工程と、前記陽極の上方に発光層を形成する発光層形成工程と、前記発光層上に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である第1金属のフッ化物を含む第1中間層を膜厚D1で形成する第1中間層形成工程と、前記第1中間層上に、前記第1金属のフッ化物における前記第1金属とフッ素との結合を切る性質を有する第2金属を含む第2中間層を膜厚D2で形成する第2中間層形成工程と、前記第2中間層上に、電子輸送性および電子注入性のうち少なくとも一方の性質を有する機能層を形成する機能層形成工程と、前記機能層の上方に、陰極を形成する陰極形成工程と、を含み、前記第1中間層の膜厚D1および前記第2中間層の膜厚D2は、3〔%〕≦D2/D1≦25〔%〕の関係を満たすことを特徴とする。
【0011】
本発明の別の一態様である有機EL素子は、陽極と、前記陽極の上方に配された発光層と、前記発光層上に配された中間層と、前記中間層上に配され、電子輸送性および電子注入性のうち少なくとも一方の性質を有する機能層と、前記機能層の上方に配された陰極と、を有し、前記中間層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である第1金属のフッ化物と、前記第1金属のフッ化物における前記第1金属とフッ素との結合を切る性質を有する第2金属と、を含み、前記中間層中において、前記第1金属は、前記機能層側よりも前記発光層側において濃度が高く、前記第2金属は、前記発光層側よりも前記機能層側において濃度が高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る有機EL素子においては、第1中間層および第2中間層を備える。第1中間層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である第1金属のフッ化物を含んでおり、高い不純物ブロック性を有する。これにより、発光層側からの不純物の浸入をブロックして機能層の劣化を防止し、良好な保管安定性を実現することができる。また、第2中間層に含まれる第2金属は、第1中間層に含まれる第1金属のフッ化物における第1金属とフッ素との結合を切って第1金属を遊離させる。そして、遊離した第1金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、仕事関数が小さく電子注入性が高いため、発光層への電子供給を十分に行うことができる。
【0013】
ここで、遊離する第1金属が少ないと、発光層に対して電子を十分に供給することができず、十分な輝度が得られない。一方、遊離する第1金属が多すぎると、発光層内の正孔の量に対して、供給される電子の量が過剰になり、発光効率(電流に対する輝度)が低下する。
【0014】
本発明の一態様に係る有機EL素子においては、第1中間層の膜厚D1と第2中間層の膜厚D2とが、3〔%〕≦D2/D1≦25〔%〕の範囲内であるため、不純物ブロック性と電子供給性とのバランスにおいて好適な範囲内にあり、良好な発光特性を実現することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法においても、上記と同様の効果を得ることができる。
【0016】
本発明の別の一態様に係る有機EL素子においては、中間層の発光層側において、高い不純物ブロック性を有する第1金属のフッ化物の濃度は機能層側よりも高く、第2金属の濃度は機能層側よりも低い。従って、発光層側において第2金属が第1金属を過剰に遊離させて不純物ブロック性を低下させることがなく、第1金属のフッ化物により発光層側からの不純物の浸入を防止することができる。また、主に中間層の機能層側において、第2金属が第1金属を遊離させることにより、発光層に対する良好な電子注入性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子1の構成を模式的に示す断面図である。
図2】第2中間層の膜厚の違いによる電流密度の違いを示すグラフである。
図3】第2中間層の膜厚の違いによる発光効率比の違いを示すグラフである。
図4】(a)は、第1中間層の膜厚の違いによる輝度保持率の違いを示すグラフである。(b)は、第1中間層の膜厚の違いによる発光効率比の違いを示すグラフである。
図5】(a)は、第1中間層の膜厚に対する第2中間層の膜厚の割合の違いによる、発光効率比の違いを示すグラフである。(b)は、正孔輸送層に(a)とは異なる物質を用いた場合における、第1中間層の膜厚に対する第2中間層の膜厚の割合の違いによる、発光効率比の違いを示すグラフである。
図6】機能層における有機材料に対する金属のドープ濃度の違いによる発光効率比の違いを示すグラフである。
図7】本発明の実施形態に係る有機EL素子の製造過程の一部を模式的に示す部分断面図である。(a)は、基板上にTFT層および層間絶縁層が形成された状態を示す部分断面図である。(b)は、層間絶縁層上に画素電極が形成された状態を示す部分断面図である。(c)は、層間絶縁層および画素電極上に隔壁材料層が形成された状態を示す部分断面図である。
図8図7の続きの有機EL素子の製造過程の一部を模式的に示す部分断面図である。(a)は、隔壁層が形成された状態を示す部分断面図である。(b)は、隔壁層の開口部内において画素電極上に正孔注入層が形成された状態を示す部分断面図である。(c)は、隔壁層の開口部内において正孔注入層上に正孔輸送層が形成された状態を示す部分断面図である。
図9図8の続きの有機EL素子の製造過程の一部を模式的に示す部分断面図である。(a)は、隔壁層の開口部内において正孔輸送層上に発光層が形成された状態を示す部分断面図である。(b)は、発光層および隔壁層上に第1中間層が形成された状態を示す部分断面図である。(c)は、第1中間層上に第2中間層が形成された状態を示す部分断面図である。
図10図9の続きの有機EL素子の製造過程の一部を模式的に示す部分断面図である。(a)は、第2中間層上に機能層が形成された状態を示す部分断面図である。(b)は、機能層上に対向電極が形成された状態を示す部分断面図である。(c)は、対向電極上に封止層が形成された状態を示す部分断面図である。
図11】本発明の実施形態に係る有機EL素子の製造過程を示す模式工程図である。
図12】本発明の実施形態に係る有機EL素子を備えた有機EL表示装置の構成を示す模式ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪本発明の一態様の概要≫
本発明の一態様に係る有機EL素子は、陽極と、前記陽極の上方に配された発光層と、前記発光層上に配され、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である第1金属のフッ化物を含む第1中間層と、前記第1中間層上に配され、前記第1金属のフッ化物における前記第1金属とフッ素との結合を切る性質を有する第2金属を含む第2中間層と、前記第2中間層上に配され、電子輸送性および電子注入性のうち少なくとも一方の性質を有する機能層と、前記機能層の上方に配された陰極と、を有し、前記第1中間層の膜厚をD1、前記第2中間層の膜厚をD2とするとき、D1およびD2は、3〔%〕≦D2/D1≦25〔%〕の関係を満たすことを特徴とする。
【0019】
これにより、第1中間層の膜厚D1と第2中間層の膜厚D2との割合が、不純物ブロック性と電子供給性とのバランスにおいて好適な範囲内にあるため、良好な発光特性を実現することができる。
【0020】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記第2金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であることを特徴とする。
【0021】
第2金属に比較的仕事関数が低く電子供給能の高いアルカリ金属またはアルカリ土類金属が用いられているため、フッ素との反応性が比較的高く、第1金属とフッ素との結合を切りやすい。
【0022】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記第1中間層の膜厚D1は、1〔nm〕以上、10〔nm〕以下であることを特徴とする。
【0023】
これにより、第1中間層の膜厚D1が、十分な不純物ブロック性を得るのに必要な膜厚は確保しつつ、膜厚が厚くなりすぎて電子注入性が低下するのを防止することができる。
【0024】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記第2中間層の膜厚D2は、0.1〔nm〕以上、1〔nm〕以下であることを特徴とする。
【0025】
これにより、発光層へ注入される電子が少なすぎず、過剰にもならない好適な電子注入能を第2中間層が発揮することができ、良好な発光効率を実現することができる。
【0026】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記機能層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属がドープされた有機材料から成ることを特徴とする。
【0027】
これにより、機能層が電子輸送機能を有し、陰極から発光層へと効果的に電子を供給することができる。
【0028】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記ドープされたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の前記機能層中の濃度は、5〔wt%〕以上、40〔wt%〕以下であることを特徴とする。
【0029】
これにより、機能層の電子供給能が好適な範囲内であるため、良好な発光効率が得られる。
【0030】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記ドープされたアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、前記第2金属と同じ種類の金属であることを特徴とする。
【0031】
これにより、同じ原料を用いて第2中間層と機能層とを形成することができるため、製造が容易である。
【0032】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記第2金属および、前記ドープされたアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、バリウムであることを特徴とする。
【0033】
これにより、バリウムという汎用性のある材料を用いて第2中間層および機能層を形成することができるため、コスト抑制に資することができる。
【0034】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記第1金属は、ナトリウムであることを特徴とする。
【0035】
これにより、第1中間層は、吸湿性が低く、酸素との反応性が低いフッ化ナトリウムを含むため、良好な不純物ブロック性を有することができる。また、ナトリウムは仕事関数が低く、電子注入性が高いため、発光層へと効果的に電子を供給することができる。
【0036】
本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法は、陽極を形成する陽極形成工程と、前記陽極の上方に発光層を形成する発光層形成工程と、前記発光層上に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である第1金属のフッ化物を含む第1中間層を膜厚D1で形成する第1中間層形成工程と、前記第1中間層上に、前記第1金属のフッ化物における前記第1金属とフッ素との結合を切る性質を有する第2金属を含む第2中間層を膜厚D2で形成する第2中間層形成工程と、前記第2中間層上に、電子輸送性および電子注入性のうち少なくとも一方の性質を有する機能層を形成する機能層形成工程と、前記機能層の上方に、陰極を形成する陰極形成工程と、を含み、前記第1中間層の膜厚D1および前記第2中間層の膜厚D2は、3〔%〕≦D2/D1≦25〔%〕の関係を満たすことを特徴とする。
【0037】
これにより、第1中間層の膜厚D1と第2中間層の膜厚D2との割合が、不純物ブロック性と電子供給性とのバランスが好適な範囲内となるような割合となり、良好な発光特性を備えた有機EL素子を製造することができる。
【0038】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法の特定の局面では、前記第2金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であることを特徴とする。
【0039】
これにより、第2金属に比較的仕事関数が低く電子供給能の高いアルカリ金属またはアルカリ土類金属が用いられているため、フッ素との反応性が比較的高く、第1金属とフッ素との結合を切りやすい。
【0040】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法の特定の局面では、前記第1中間層の膜厚D1は、1〔nm〕以上、10〔nm〕以下であることを特徴とする。
【0041】
これにより、良好な不純物ブロック性を得るのに必要な膜厚は確保しつつ、電子注入性を損なわない程度の膜厚を有する第1中間層を備えた有機EL素子を製造することができる。
【0042】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法の特定の局面では、前記第2中間層の膜厚D2は、0.1〔nm〕以上、1〔nm〕以下であることを特徴とする。
【0043】
これにより、発光層へ注入される電子が少なすぎず、過剰にもならない好適な電子注入能を有する第2中間層を備えた有機EL素子を製造することができる。
【0044】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法の特定の局面では、前記機能層形成工程において、有機材料にアルカリ金属またはアルカリ土類金属をドープして、前記機能層を形成することを特徴とする。
【0045】
これにより、電子輸送性を有する機能層を備えた有機EL素子を製造することができる。
【0046】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法の特定の局面では、前記機能層形成工程において、前記有機材料にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を、5〔wt%〕以上、40〔wt%〕以下の濃度でドープして、前記機能層を形成することを特徴とする。
【0047】
これにより、好適な範囲の電子供給能を有する機能層を備え、良好な発光効率が得られる有機EL素子を製造することができる。
【0048】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法の特定の局面では、前記機能層形成工程において、前記有機材料にドープするアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、前記第2金属と同じ種類の金属であることを特徴とする。
【0049】
これにより、同じ原料を用いて第2中間層と機能層とを形成することができるため、製造が容易である。
【0050】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法の特定の局面では、前記第2金属および、前記機能層形成工程において、前記有機材料にドープするアルカリ金属またはアルカリ土類金属前記は、バリウムであることを特徴とする。
【0051】
これにより、バリウムという汎用性のある材料を用いて第2中間層および機能層を形成することができるため、コスト抑制に資することができる。
【0052】
また、本発明の一態様に係る有機EL素子の製造方法の特定の局面では、前記第1金属は、ナトリウムであることを特徴とする。
【0053】
これにより、吸湿性が低く酸素との反応性が低いフッ化ナトリウムにより良好な不純物ブロック性を有する第1中間層を備えた有機EL素子を製造することができる。また、ナトリウムは仕事関数が低く、電子注入性が高いため、発光層へと効果的に電子を供給することができる。
【0054】
本発明の別の一態様に係る有機EL素子は、陽極と、前記陽極の上方に配された発光層と、前記発光層上に配された中間層と、前記中間層上に配され、電子輸送性および電子注入性のうち少なくとも一方の性質を有する機能層と、前記機能層の上方に配された陰極と、を有し、前記中間層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である第1金属のフッ化物と、前記第1金属のフッ化物における前記第1金属とフッ素との結合を切る性質を有する第2金属と、を含み、前記中間層中において、前記第1金属は、前記機能層側よりも前記発光層側において濃度が高く、前記第2金属は、前記発光層側よりも前記機能層側において濃度が高いことを特徴とする。
【0055】
これにより、発光層側において第2金属が第1金属を過剰に遊離させて不純物ブロック性を低下させることがなく、第1金属のフッ化物により発光層側からの不純物の浸入を防止することができる。また、主に中間層の機能層側において、第2金属が第1金属を遊離させることにより、発光層に対する良好な電子注入性を得ることができる。このように、不純物ブロック性と電子供給性とのバランスが好適な範囲内にある中間層を備えることにより、良好な発光特性を実現することができる。
【0056】
また、本発明の別の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記第2金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であることを特徴とする。
【0057】
これにより、第2金属に比較的仕事関数が低く電子供給能の高いアルカリ金属またはアルカリ土類金属が用いられているため、フッ素との反応性が比較的高く、第1金属とフッ素との結合を切りやすい。
【0058】
また、本発明の別の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記機能層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属がドープされた有機材料から成ることを特徴とする。
【0059】
これにより、機能層が電子輸送機能を有し、陰極から発光層へと効果的に電子を供給することができる。
【0060】
また、本発明の別の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記ドープされたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の前記機能層中の濃度は、5〔wt%〕以上、40〔wt%〕以下であることを特徴とする。
【0061】
これにより、機能層の電子供給能が好適な範囲内であるため、良好な発光効率が得られる。
【0062】
また、本発明の別の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記ドープされたアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、前記第2金属と同じ種類の金属であることを特徴とする。
【0063】
これにより、同じ原料を用いて第2中間層と機能層とを形成することができるため、製造が容易である。
【0064】
また、本発明の別の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記第2金属および、前記ドープされたアルカリ金属またはアルカリ土類金属は、バリウムであることを特徴とする。
【0065】
これにより、バリウムという汎用性のある材料を用いて第2中間層および機能層を形成することができるため、コスト抑制に資することができる。
【0066】
また、本発明の別の一態様に係る有機EL素子の特定の局面では、前記第1金属は、ナトリウムであることを特徴とする。
【0067】
これにより、吸湿性が低く酸素との反応性が低いフッ化ナトリウムにより良好な不純物ブロック性を有する第1中間層を備えた有機EL素子を製造することができる。また、ナトリウムは仕事関数が低く、電子注入性が高いため、発光層へと効果的に電子を供給することができる。
【0068】
以下、具体例を示し、構成および作用・効果を説明する。
【0069】
なお、以下の説明で用いる実施形態は、本発明の一態様に係る構成および作用・効果を分かりやすく説明するために用いる例示であって、本発明は、その本質的部分以外に何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0070】
≪実施形態≫
[1.有機EL素子の構成]
本発明の一態様である実施形態に係る有機EL素子の構成について、図1を用い説明する。
【0071】
図1は、本実施形態に係る有機EL素子1を複数備える有機EL表示パネル100(図12参照)の一部拡大断面図であり、1つの有機EL素子1に相当する部分およびその周辺の断面図である。本実施形態においては、1つの有機EL素子1は、1つのサブピクセルに対応している。有機EL素子1は、図1における紙面上側を表示面とする、いわゆるトップエミッション型である。
【0072】
図1に示すように、有機EL素子1は、基板11、層間絶縁層12、画素電極13、隔壁層14、正孔注入層15、正孔輸送層16、発光層17、第1中間層18、第2中間層19、機能層21、対向電極22、および封止層23を備える。なお、基板11、層間絶縁層12、第1中間層18、第2中間層19、機能層21、対向電極22、および封止層23は、サブピクセル(有機EL素子1)ごとに形成されているのではなく、有機EL表示パネル100が備える複数の有機EL素子1に共通して形成されている。
【0073】
<基板>
基板11は、絶縁材料である基材111と、TFT(Thin Film Transistor)層112とを含む。TFT層112には、サブピクセル毎に駆動回路が形成されている。基材111が形成される材料としては、例えば、ガラスが用いられる。ガラス材料としては、具体的には例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英等のガラスなどが挙げられる。
【0074】
<層間絶縁層>
層間絶縁層12は、基板11上に形成されている。層間絶縁層12は、樹脂材料からなり、TFT層112の上面の段差を平坦化するためのものである。樹脂材料としては、例えば、ポジ型の感光性材料が挙げられる。また、このような感光性材料として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂が挙げられる。また、図1の断面図には示されていないが、層間絶縁層12には、サブピクセル毎にコンタクトホールが形成されている。
【0075】
<画素電極>
画素電極13は、導電性の材料からなり、層間絶縁層12上に形成されている。画素電極13は、サブピクセル毎に個々に設けられ、コンタクトホールを通じてTFT層112と電気的に接続されている。本実施形態においては、画素電極13は、陽極として機能しており、有機EL表示パネル100がトップエミッション型であるので、光反射性を具備した導電材料により形成されるとよい。光反射性を具備する導電材料としては、金属が挙げられる。具体的には、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、アルミニウム合金、Mo(モリブデン)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、MoW(モリブデンとタングステンの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)などがある。
【0076】
また、ボトムエミッション型の場合には、画素電極13は、光透過性を具備するとよい。光透過性を具備する導電材料としては、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、ZnO(酸化亜鉛)などがある。
【0077】
<隔壁層>
隔壁層14は、画素電極13の上面の一部の領域を露出させ、その周辺の領域を被覆した状態で画素電極13上に形成されている。画素電極13上面において隔壁層14で被覆されていない領域(以下、「開口部」という。)は、サブピクセルに対応している。即ち、隔壁層14は、サブピクセル毎に設けられた開口部14aを有する。
【0078】
本実施形態においては、隔壁層14は、画素電極13が形成されていない部分においては、層間絶縁層12上に形成されている。即ち、画素電極13が形成されていない部分においては、隔壁層14の底面は層間絶縁層12の上面と接している。
【0079】
隔壁層14は、例えば、絶縁性の有機材料(例えばアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂等)からなる。隔壁層14は、発光層17を塗布法で形成する場合には塗布されたインクがあふれ出ないようにするための構造物として機能し、発光層17を蒸着法で形成する場合には蒸着マスクを載置するための構造物として機能する。本実施形態では、隔壁層14は、樹脂材料からなり、隔壁層14の材料としては、例えば、ポジ型の感光性材料が挙げられる。また、このような感光性材料として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂が挙げられる。本実施形態においては、フェノール系樹脂が用いられている。
【0080】
正孔注入層15は、画素電極13から発光層17への正孔の注入を促進させる目的で、開口部14a内において画素電極13上に設けられている。正孔注入層15は、例えば、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)などの金属の酸化物、あるいは、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料から形成される。上記の金属酸化物は、正孔(ホール)を安定的に、または正孔(ホール)の生成を補助して、発光層17に対し正孔(ホール)を注入する機能を有し、大きな仕事関数を有する。本実施形態においては、正孔注入層15は、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料からなる。
【0081】
ここで、正孔注入層15が遷移金属の酸化物から構成される場合、遷移金属は複数の酸化数をとることが可能であり、これにより複数のエネルギー準位をとることができるため、その結果、正孔注入が容易になり駆動電圧を低減することができる。
【0082】
<正孔輸送層>
正孔輸送層16は、高分子化合物を用い開口部14a内に形成されている。正孔輸送層16の形成に用いられる高分子化合物としては、具体的には例えば、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体などの高分子化合物であって、親水基を備えないものなどを用いることができる。
【0083】
正孔輸送層16は、正孔注入層15から注入された正孔を発光層17へ輸送する機能を有する。
【0084】
<発光層>
発光層17は、R(赤)、G(緑)、B(青)何れかの発光色に対応した材料を用いて開口部14a内に形成されている。発光層17は、正孔と電子の再結合によりR、G、Bのうち対応する色の光を出射する機能を有する。発光層17の材料としては公知の材料を利用することができる。例えば、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属鎖体、2−ビピリジン化合物の金属鎖体、シッフ塩とIII族金属との鎖体、オキシン金属鎖体、希土類鎖体等の蛍光物質や、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウムなどの燐光を発光する金属錯体等の公知の燐光物質を用いることができる。
【0085】
<第1中間層>
第1中間層18は、発光層17上に形成されている。第1中間層18は、発光層17、正孔輸送層16、正孔注入層15、隔壁層14の内部や表面に存在する不純物が、機能層21や対向電極22へと侵入するのを防止するための層である。従って、第1中間層18は、不純物ブロック性を有する材料を含む。第1中間層18に含まれる不純物ブロック性を有する材料は、例えば、アルカリ金属のフッ化物またはアルカリ土類金属のフッ化物であり、より具体的には、本実施形態においてはNaF(フッ化ナトリウム)である。第1中間層18に含まれるアルカリ金属のフッ化物中のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物中のアルカリ土類金属を、第1金属とする。
【0086】
また、第1中間層18は、膜厚D1〔nm〕で形成されている。
【0087】
<第2中間層>
第2中間層19は、第1中間層18上に形成されている。第2中間層19は、第1中間層18に含まれる第1金属のフッ化物における第1金属とフッ素との結合を分解する金属(以下、「第2金属」という。)を含む。第1金属とフッ素との結合を分解する第2金属としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属が用いられる。本実施形態においては、第2金属は、具体的には、Ba(バリウム)である。
【0088】
また、第2中間層19は、膜厚D2〔nm〕で形成されている。
【0089】
なお、第1中間層18と第2中間層19とで、中間層20を構成している。
【0090】
<機能層>
機能層21は、第2中間層19上に形成されており、対向電極22から注入された電子を発光層17へと輸送する機能を有する。機能層21は、本実施形態においては、電子輸送層であり、有機材料に金属をドープさせて形成される。機能層21に用いられる有機材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料が挙げられる。有機材料にドープされる金属(以下、「ドープ金属」という。)としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属が用いられる。より具体的には、例えば、リチウム、バリウム、カルシウム、カリウム、セシウム、ナトリウム、ルビジウム等の低仕事関数金属、フッ化リチウム等の低仕事関数金属塩、酸化バリウム等の低仕事関数金属酸化物、リチウムキノリノール等の低仕事関数金属有機錯体などが用いられる。
【0091】
<対向電極>
対向電極22は、各サブピクセル共通に設けられている。対向電極22は、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)等の導電性を有する光透過性材料で形成されている。本実施形態においては、対向電極22は、陰極として機能している。
【0092】
<封止層>
対向電極22の上には、発光層17が水分や酸素等に触れて劣化することを抑制する目的で封止層23が設けられている。有機EL表示パネル100はトップエミッション型であるため、封止層23の材料としては、例えばSiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の光透過性材料が選択される。
【0093】
<その他>
なお、図1には図示されていないが、封止層23の上にカラーフィルターや上部基板を載置し、接合してもよい。上部基板の載置および接合により、水分、空気などから、正孔輸送層16、発光層17、機能層21の保護が図られる。
【0094】
[2.不純物ブロック性と電子注入性]
正孔注入層15、正孔輸送層16、発光層17をウェットプロセスで形成する場合、これらの層の内部および表面に存在する不純物が機能層21に到達すると、機能層21の有機材料にドープされている金属と反応して、機能層21の機能を低下させる。また、不純物が有機材料と反応すると、有機材料が変質し、安定性を損なう虞もある。
【0095】
隔壁層14をウェットプロセスで形成する場合にも、隔壁層14の内部および表面に存在する不純物が、上記と同様の問題を引き起こす原因となる。
【0096】
本実施形態に係る有機EL素子1は、発光層17と機能層21との間に、第1中間層18および第2中間層19を備えている。第1中間層18は、NaFを含んでいる。NaFは、吸湿性が低く、アルカリ金属やアルカリ土類金属と比較して酸素との反応性が低いため、良好な不純物ブロック性を有している。よって、第1中間層18により、発光層17側からの不純物の侵入が阻害される。これにより、機能層21に含まれるアルカリ金属やアルカリ土類金属が不純物と反応するのを防いで、機能層21の電子供給能の低下を抑制することができる。さらには、対向電極22がAlやMgAg等の金属から形成されている場合には、不純物による対向電極22の劣化を防止することができる。
【0097】
その一方で、NaFは電気絶縁性が高いため、対向電極22および機能層21から供給される電子の発光層17への移動を阻害し、発光特性を低下させるという問題がある。
【0098】
本実施形態に係る有機EL素子1においては、第1中間層18と機能層21との間に、第2中間層19が設けられている。第2中間層19は、第2金属としてBaを含んでいる。Baは、第1中間層18中の第1金属であるNaのフッ化物(NaF)におけるNaとF(フッ素)との結合を分解する。これにより、第1中間層18中のNaFの一部が乖離し、Naが遊離していてもよい。Naは仕事関数が低く、電子供給能が高いため、機能層21から発光層17への電子の移動をアシストし、発光特性の低下を抑制することができる。これと同時に第1中間層18中の乖離していないNaFにより良好な不純物ブロック性を得ることができる。
【0099】
なお、第1金属のフッ化物における第1金属とフッ素との結合を分解する機構としては、上記に限られない。第1中間層18、第2中間層19、発光層17、機能層21等の機能を損なわない限り、何れの機構により第1金属とフッ素との結合が分解されてもよい。
【0100】
このように、第1中間層18が、高い不純物ブロック性を有する第1金属のフッ化物を含むことにより、発光層17側からの不純物の侵入をブロックして機能層21(および対向電極22)の電子供給能の低下を抑制することができる。そして、第2中間層19が、第1金属とフッ素との結合を分解する第2金属を含むことにより、第1金属が遊離し、絶縁性の高い第1中間層18を超えて機能層21から発光層17へと電子が移動しやすくなり、良好な発光特性を得ることができる。
【0101】
なお、このとき、実際は、第1中間層18と第2中間層19の境界は、明確には分かれておらず、第1中間層18を形成する材料と、第2中間層19を形成する材料とが、製造の過程で多少混ざり合って形成されている場合もあると考えられる。即ち、第1中間層18および第2中間層19の膜厚は、それぞれ正確にD1、D2〔nm〕というわけではなく、その境界がはっきりしていない場合もあると考えられる。このような場合、中間層20において、第1金属は、機能層21側よりも発光層17側において濃度が高く、第2金属は、発光層17側よりも機能層21側において濃度が高いということができる。
【0102】
また、ここでは、第1中間層18および第2中間層19を形成する際に、それぞれ膜厚がD1およびD2となるように意図した方法により形成された場合、形成された第1中間層18および第2中間層19の膜厚は、それぞれD1およびD2であるとする。他の層の膜厚についても、同様である。以下、変形例においても、同様である。
【0103】
[3.第2中間層の効果]
図2は、第2中間層19の膜厚D2が互いに異なる4種類の有機EL表示パネル100を試験体に用い、それぞれの試験体に電圧を印加して電流密度を測定した結果を示すグラフである。第2中間層19の膜厚D2は、0,0.5,1,2〔nm〕の4種類である。それぞれの試験体に対して印加電圧を変化させ、電流密度の測定を行った。電流密度の測定は、それぞれの試験体に対し複数セル(異なる複数の有機EL素子1)について行った。
【0104】
なお、上記4つの試験体における第1中間層18の膜厚D1は、何れも4〔nm〕である。
【0105】
図2に示すように、膜厚D2=0〔nm〕の試験体(即ち、第2中間層19を備えない試験体)と比較して、膜厚D2=0.5,1,2〔nm〕の試験体は、何れも高い電流密度を示した。これは、即ち、第2中間層19を設けることによって、有機EL素子1により多くの電流が流れることを示している。言い換えると、第2中間層19を設けることによって、発光層17により多くの電流が流れ、有機EL素子の輝度向上の効果が得られることが確認された。
【0106】
一方、膜厚D2=0.5,1,2〔nm〕の3試験体の中では、膜厚D2=2〔nm〕の試験体が最も高い電流密度を示したものの、膜厚D2=0〔nm〕と0.5〔nm〕との間の違いに比べると、上記3試験体間の電流密度の差は小さい結果となった。従って、第2中間層19の膜厚D2は、0.5〔nm〕あれば十分であるということができる。
【0107】
[4.第2中間層の膜厚と発光効率比]
図3は、第2中間層19の膜厚D2が互いに異なる6種類の有機EL表示パネル100についての発光効率比を示すグラフである。第2中間層19の膜厚D2は、0,0.1,0.2,0.5,1,2〔nm〕の6種類である。これら6種類の膜厚で形成された第2中間層19をそれぞれ有する6種類の有機EL表示パネルを試験体として、電流密度が10〔mA/cm2〕となるような電圧を印加した際の輝度を測定し、測定された輝度の値から発光効率を算出した。そして、基準となる有機EL表示パネルの発光効率の値を発光効率基準値として、発光効率基準値に対する比(発光効率比)をグラフにプロットした。
【0108】
なお、第2中間層19を備えず、正孔輸送層16に正孔注入性の低い物質(具体的には、酸化タングステンである。)を用いた有機EL表示パネルの発光効率の値を、発光効率基準値として用いた。
【0109】
図3に示すように、第2中間層19の膜厚D2=0.2〔nm〕の試験体が、最も高い発光効率比を示した。そして、膜厚D2=2〔nm〕の試験体では、膜厚D2=0〔nm〕の試験体と略同じ発光効率比であった。これは、正孔輸送層16から発光層17へと注入される正孔の量は一定であるため、それよりも過剰な電子が発光層17へと注入されても、電流の増加に対して輝度は増加せず、結果として発光効率が低下し、発光効率比も低下したためと考えられる。
【0110】
図3に示すように、膜厚D2=2〔nm〕の試験体は、膜厚D2=0〔nm〕の試験体と略同じ発光効率比であったことから、本実施形態においては、0.1≦D2≦1〔nm〕が、効果的な膜厚D2の範囲と言うことができる。また、第2中間層19の膜厚D2が1〔nm〕以下であれば、有機EL表示パネル100がトップエミッション型の場合であっても、第2中間層19における光吸収量を低く抑えることができ、良好な光取出し性を実現することができる。
【0111】
なお、上記6種類の有機EL表示パネル試験体においては、第1中間層18の膜厚D1=4〔nm〕である。
【0112】
[5.第1中間層の膜厚と保管安定性]
図4(a)は、第1中間層18の膜厚D1が互いに異なる3種類の有機EL表示パネル100を試験体に用いて行った保管安定性試験の結果を示すグラフである。保管安定性は、高温保管後の輝度保持率を用いて評価した。保管安定性試験に用いた試験体における第2中間層19の膜厚D2は、1,4,10〔nm〕である。保管安定性試験は、次のようにして行った。先ず、各試験体に通電して初期輝度を測定し、80℃の環境下に7日間保管した後、再び通電して高温保管後の輝度を測定した。そして、輝度保持率(初期輝度に対する高温保管後の輝度の割合〔%〕)をそれぞれの試験体について算出し、その結果をグラフにプロットしたのが図4(a)である。
【0113】
図4(a)に示すように、第1中間層18の膜厚D1=1〔nm〕の場合、輝度保持率が59〔%〕であり、良好な保管安定性を得ることができなかった。膜厚D1=4〔nm〕以上の場合、輝度保持率が95〔%〕以上であり、良好な保管安定性を示した。従って、第1中間層18の膜厚が4〔nm〕以上であれば、良好な保管安定性を得ることができると言える。
【0114】
なお、膜厚D1=10〔nm〕の試験体で、輝度保持率が100〔%〕を超える結果となったが、これは、高温保管前の状態において、正孔と電子とのバランスが最適な状態からずれていたのが、高温保管により、最適なバランス状態に近づいたためであると考えられる。
【0115】
[6.第1中間層の膜厚と発光効率比]
図4(b)は、第1中間層18の膜厚D1が互いに異なる3種類の有機EL表示パネル100についての発光効率比を示すグラフである。膜厚D1は、1,4,10〔nm〕の3種類である。発光効率比は、図3に示す発光効率比の場合と同様に、電流密度が10〔mA/cm2〕となるような電圧を印加した際の輝度を測定し、測定された輝度の値から発光効率を算出した。そして、基準となる有機EL表示パネルの発光効率の値を発光効率基準値として、発光効率基準値に対する比(発光効率比)をグラフにプロットした。
【0116】
図4(b)に示すように、3種類の試験体うち、膜厚D1=4〔nm〕の試験体が、最も高い発光効比を示し、膜厚D1=1〔nm〕および10〔nm〕の試験体は、ほぼ同じ発光効率比を示した。この結果から、第1中間層18の膜厚D1が、1〔nm〕よりも薄い場合および10〔nm〕よりも厚い場合には、さらに発光効率比が低くなると考えられる。これは、第1中間層18の膜厚D1が薄くなりすぎると、乖離する第1金属(本実施形態においてはNa)の絶対量が少なくなり、機能層21から発光層17への電子の移動があまり促進されなくなるためであると考えられる。また、第1中間層18の膜厚D1が厚くなりすぎると、絶縁層としての機能が強く働いてしまい、発光効率が低下するためであると考えられる。従って、第1中間層18の膜厚D1は、1〔nm〕以上、10〔nm〕以下が望ましいと言える。
【0117】
[7.第1中間層の膜厚に対する第2中間層の膜厚の割合と発光効率比]
以上説明したように、第1中間層18の膜厚D1については、不純物ブロック性を確保するための最低限の膜厚が必要である。一方で、D1が厚くなりすぎると、絶縁膜としての性質が強くなって発光層17へと電子が注入されにくくなり、十分な輝度が得られなくなる。
【0118】
また、第2中間層19の膜厚D2が薄すぎると、第2中間層19に含まれる第2金属(本実施形態ではBa)が、第1中間層18に含まれる第1金属(本実施形態ではNa)を十分に遊離させることができず、発光層17に十分な電子を供給することができない。一方で、D2が厚くなりすぎると、発光層17に供給される正孔の量に対して過剰な電子が発光層に供給されることとなり、発光効率が低下する。
【0119】
さらには、第1中間層18の膜厚D1に対して第2中間層19の膜厚D2が厚すぎると、第2金属が第1金属を過剰に遊離させて、第1金属のフッ化物(本実施形態ではNaF)が減少する結果、第1中間層18の不純物ブロック性が十分でなくなる虞がある。
【0120】
以上の結果から、本願発明者らは、第1中間層18および第2中間層19は、それぞれの膜厚の好適な値の範囲が存在するのみならず、膜厚D1と膜厚D2との割合にも好適な値の範囲が存在するのではないかと考えた。そこで、本願発明者らは、膜厚D1に対する膜厚D2の比を変えて、発光効率比がどのように異なるかを調べた。その結果を、図5(a)および(b)に示す。図5(a)に示す試験体と、図5(b)に示す試験体とでは、正孔輸送層16に用いられた正孔輸送物質が異なる以外は、基本的な構成は同じである。図5(a)の試験体の正孔輸送層16に用いられた正孔輸送物質Aは、図5(b)の試験体の正孔輸送層16に用いられた正孔輸送物質Bよりも、正孔供給能が高い。
【0121】
図5(a)は、膜厚比D2/D1=1.25,2.5,5,25,37.5〔%〕の5種類の試験体について発光効率比をプロットしたグラフである。図5(b)は、膜厚比D2/D1=0,1.25,5,12.5,25〔%〕の5種類の試験体について発光効率をプロットしたグラフである。
【0122】
図5(b)に示すように、正孔供給能が比較的低い正孔輸送物質Bを用いた場合、膜厚比D2/D1=3〜5〔%〕のところに、発光効率比のピークが観察された。図5(a)に示すように、正孔供給能が比較的高い正孔輸送物質Aを用いた場合、膜厚比D2/D1=20〜25〔%〕のところに、発光効率比のピークが観察された。
【0123】
以上の結果から、膜厚比D2/D1=3〜25〔%〕であれば、発光効率比が好適である、即ち、良好な発光効率が得られることがわかった。
【0124】
なお、先に述べたように、実際には、第1中間層18と第2中間層19の境界は、明確には分かれておらず、第1中間層18を形成する材料と、第2中間層19を形成する材料とが、製造の過程で多少混ざり合って形成されている場合もあると考えられる。そのような場合には、中間層20において、第1金属と第2金属の成分比(モル比)が、1〔%〕≦第2金属/第1金属≦10〔%〕であれば、良好な発光効率が得られると考えられる。
【0125】
[8.電子輸送層のドープ金属濃度と発光効率比]
図6は、機能層21のドープ金属濃度の違いによる発光効率比の違いを示すグラフである。ドープ金属は、ここではBa(バリウム)であり、ドープ金属濃度は5,20,40〔wt%〕の3種類である。なお、ここでの試験体における第1中間層18の膜厚D1=4〔nm〕であり、第2中間層19の膜厚D2=0.2〔nm〕である。
【0126】
図6に示すように、ドープ金属濃度が20[wt%]の試験体が最も高い発光効率比を示した。また、3種類の試験体いずれもが発光効率比が1以上であり、発光効率基準値よりも良好な発光効率を示したことから、機能層21におけるドープ金属濃度が5〜40[wt%]の範囲内であれば、良好な発光効率が得られることがわかった。
【0127】
[9.有機EL素子の製造方法]
本実施形態に係る有機EL素子1の製造方法について図7図11を用いて以下に説明する。なお、図7図10は、有機EL素子1の製造過程を模式的に示す断面図であり、図11は、有機EL素子1の製造過程を示す模式工程図である。
【0128】
まず、図7(a)に示すように、基材111上にTFT層112を成膜して基板11を形成し(図11のステップS1)、基板11上に層間絶縁層12を成膜する(図11のステップS2)。層間絶縁層12の材料である層間絶縁層用樹脂には、本実施形態においては、ポジ型の感光性材料であるアクリル樹脂を用いる。層間絶縁層12は、層間絶縁層用樹脂であるアクリル樹脂を層間絶縁層用溶媒(例えば、PGMEA:Propyleneglycol monomethylether acetate:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)に溶解させた層間絶縁層用溶液を基板11上へ塗布し、成膜する。そしてその後、焼成を行う(図11のステップS3)。焼成は、例えば、150℃以上210℃以下の温度で180分間行う。
【0129】
なお、図7図10に示す断面図および図11の工程図には現れないが、このとき、層間絶縁層12の各開口部14a(が形成される予定の領域)の間に該当する位置にコンタクトホールを形成する。コンタクトホールは、パターン露光と現像を行うことにより形成する。層間絶縁層12は焼成により硬くなるため、コンタクトホールの形成は、層間絶縁層12の焼成前に行う方が容易である。
【0130】
次に、図7(b)に示すように、真空蒸着法またはスパッタ法に基づき、厚み150〔nm〕程度の金属材料からなる画素電極13を、サブピクセル毎に形成する(図11のステップS4)。
【0131】
続いて、画素電極13および層間絶縁層12上に、隔壁層14の材料である隔壁層用樹脂を塗布し、隔壁材料層14bを形成する(図7(c))。隔壁層用樹脂には、例えば、ポジ型の感光性材料であるフェノール樹脂が用いられる。隔壁材料層14bは、隔壁層用樹脂であるフェノール樹脂を溶媒(例えば、乳酸エチルとGBL(Gamma−Butyrolactone:γ-ブチロラクトン)の混合溶媒)に溶解させた溶液を画素電極13および層間絶縁層12上にスピンコート法などを用いて一様に塗布し、形成する。
【0132】
次に、隔壁材料層14bにパターン露光と現像を行うことで隔壁層14を形成し(図8(a)、図11のステップS5)、隔壁層14を焼成する(図11のステップS6)。これにより、発光層17の形成領域となる開口部14aが規定される。隔壁層14の焼成は、例えば、150℃以上210℃以下の温度で60分間行う。
【0133】
また、隔壁層14の形成工程においては、さらに、隔壁層14の表面を所定のアルカリ性溶液や水、有機溶媒等によって表面処理するか、プラズマ処理を施してもよい。これは、開口部14aに塗布するインク(溶液)に対する隔壁層14の接触角を調節する目的で、あるいは、表面に撥水性(撥液性)を付与する目的で行われる。
【0134】
そして、図8(b)に示すように、マスク蒸着法やインクジェットによる塗布法により、開口部14a内に正孔注入層15を製膜し、焼成する(図11のステップS7)。
【0135】
次に、図8(c)に示すように、隔壁層14が規定する開口部14a内に正孔輸送層16の構成材料を含むインクを塗布し、焼成(乾燥)を経て、正孔輸送層16を形成する(図11のステップS8)。
【0136】
同様に、図9(a)に示すように、発光層17の構成材料を含むインクの塗布および焼成(乾燥)により開口部14a内に発光層17を形成する(図11のステップS9)。
【0137】
続いて、図9(b)に示すように、発光層17および隔壁層14の上に、真空蒸着法などにより、第1中間層18を膜厚D1で成膜する(図11のステップS10)。
【0138】
そして、図9(c)に示すように、第1中間層18の上に、真空蒸着法などにより、第2中間層19を膜厚D2で成膜する(図11のステップS11)。第1中間層18と第2中間層19とで、中間層20を構成する。
【0139】
次に、図10(a)に示すように、第2中間層19の上に、機能層21を構成する材料を用いて真空蒸着法により成膜し、機能層21を形成する(図11のステップS12)。
【0140】
続いて、図10(b)に示すように、機能層21の上に、ITO、IZO等の材料を用い、真空蒸着法、スパッタ法等により、対向電極22を成膜する(図11のステップS13)。
【0141】
そして、図10(c)に示すように、対向電極22の上に、SiN、SiON等の光透過性材料を用いてスパッタ法、CVD法等により封止層23を形成する(図11のステップS14)。
【0142】
以上の工程を経ることにより有機EL素子1および有機EL素子1を備えた有機EL表示パネル100が完成する。なお、封止層23の上にカラーフィルターや上部基板を載置し、接合してもよい。
【0143】
[10.有機EL表示装置の全体構成]
図12は、有機EL素子1を複数有する有機EL表示パネル100を備えた有機EL表示装置1000の構成を示す模式ブロック図である。図12に示すように、有機EL表示装置1000は、有機EL表示パネル100と、これに接続された駆動制御部200とを有し構成されている。有機EL表示パネル100は、有機材料の電界発光現象を利用した表示パネルであり、複数の有機EL素子1が、例えば、マトリクス状に配列されて構成されている。駆動制御部200は、4つの駆動回路210〜240と制御回路250とから構成されている。
【0144】
なお、実際の有機EL表示装置1000では、有機EL表示パネル100に対する駆動制御部200の配置については、これに限られない。
【0145】
[実施形態のまとめ]
以上説明したように、本発明の実施形態に係る有機EL素子1の構成によれば、第1中間層18により発光層17側からの機能層21や対向電極22への不純物の侵入を防止することができる。加えて、第2中間層19により対向電極22側から発光層17への電子注入を促進することができる。これにより、良好な保管安定性と発光特性を実現することができる。
【0146】
また、第1中間層18の膜厚D1と第2中間層19の膜厚D2とが、3〔%〕≦D2/D1≦25〔%〕の関係を満たすため、良好な発光効率を実現することができる。
【0147】
さらに、第2中間層19の膜厚D2が、1〔nm〕以下であるため、トップエミッション型の場合においても、第2中間層19における光吸収量を低く抑えることができ、良好な光取出し性を実現することができる。
【0148】
なお、上記説明における、膜厚の範囲や膜厚の割合についての条件は、必ずしも開口部14aで規定されるサブピクセルの全領域において条件を満たしていなくてもよい。少なくとも平面視でのサブピクセルの中央部における膜厚が、上記説明における膜厚の条件を満たしていればよい。サブピクセルの一部領域(例えば、隔壁層14に近接した領域や、隔壁層14に一部乗り上げて形成されている領域)において、上記膜厚条件を満たさない部分があってもよい。
【0149】
[変形例]
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明が上述の実施形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例を実施することが出来る。
【0150】
(変形例1)上記実施形態においては、有機EL素子1が、正孔注入層15、正孔輸送層16、機能層21を備えた構成について説明したが、これに限られない。例えば、これらのうちいずれか1つ以上の層、または全部を備えない構成としてもよい。
【0151】
(変形例2)さらには、電子注入層や、透明導電層などの他の層をさらに含む構成とすることもできる。電子注入層を備える場合には、電子注入層と電子輸送層とをまとめて、機能層として扱ってもよい。また、電子輸送層を備えず、電子注入層を備える場合には、電子注入層を機能層として扱ってもよい。
【0152】
(変形例3)上記実施形態においては、有機EL素子1の基材111を構成する絶縁材料としてガラスを用いた例について説明したが、これに限られない。基材111を構成する絶縁材料として、例えば、樹脂やセラミック等を用いてもよい。基材111に用いられる樹脂としては、例えば、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂等の絶縁性材料が挙げられる。基材111に用いられるセラミックとしては、例えば、アルミナ等が挙げられる。
【0153】
(変形例4)上記実施形態においては、画素電極13が陽極で、対向電極22が陰極であったが、これに限られない。画素電極13が陰極で、対向電極22が陽極である構成としてもよい。その場合は、層間絶縁層12上に陰極としての画素電極13および隔壁層14が配され、開口部14a内において、画素電極13の上に、機能層21、第2中間層19、第1中間層18、発光層17がこの順に配される。そして、その上に、正孔輸送層16、正孔注入層15が配され、さらにその上に、陽極としての対向電極22が配される構成となる。
【0154】
そして、本変形例に係る有機EL表示パネルがトップエミッション型の場合、陽極としての対向電極22は、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)等の導電性を有する光透過性材料で形成される。そして、陰極としての画素電極13は、Ag、Al、アルミニウム合金、Mo、APC、ARA、MoCr、MoW、NiCr等の光反射性を具備した導電材料により形成されるとよい。
【0155】
また、本変形例に係る有機EL表示パネルがボトムエミッション型の場合は、上記とは逆で、陽極としての対向電極22が、導電性を有する光透過性材料から形成され、陰極としての画素電極13が、光反射性を具備した導電材料により形成されるとよい。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明の有機EL素子等は、例えば、家庭用もしくは公共施設、あるいは業務用の各種表示装置、テレビジョン装置、携帯型電子機器用ディスプレイ等として用いられる有機EL素子および有機EL表示パネルの製造方等に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0157】
1 有機EL素子
13 画素電極(陽極)
17 発光層
18 第1中間層
19 第2中間層
20 中間層
21 機能層(電子輸送層)
22 対向電極(陰極)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12