特許第6142215号(P6142215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142215
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】バックグラインドテープ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20170529BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   H01L21/304 622J
   C09J7/02 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-189603(P2012-189603)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-49525(P2014-49525A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山野 正通
(72)【発明者】
【氏名】山田 正太
(72)【発明者】
【氏名】安河内 裕史
(72)【発明者】
【氏名】小林 英一
【審査官】 内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−019666(JP,A)
【文献】 特開2010−092945(JP,A)
【文献】 特開2011−241355(JP,A)
【文献】 特開2002−075942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09J 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの片面にシリコーン樹脂からなる吸着層が設けられ、反対面にメタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ブチル(BA)のブロック共重合体からなる段差吸収層が設けられ、前記メタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ブチル(BA)のブロック共重合体の重量比が25:75〜45:55であり、前記段差吸収層の厚みは10μm以上30μm以下であり、前記吸着層は半導体ウエハ表面の回路パターンと貼合され、前記段差吸収層は研削機の真空チャックテーブル面と貼合されることを特徴とするバックグラインドテープ。
【請求項2】
前記吸着層の厚みが5〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載のバックグラインドテープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハ等の半導体ウエハを研削・研磨する際に、研削機の真空チャックテーブル(回路形成面)に半導体ウエハを固定する用途に用いられるバックグラインドテープに関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップ、LSI等の半導体装置の製造工程において、回路パターン形成後の半導体ウエハは、通常その厚さを薄くするため、研削・研磨、エッチング等の処理が施され、研削・研磨の際には半導体ウエハ表面の回路パターンを保護したり、半導体ウエハの破損を防止する目的で、回路パターン面に粘着シート類(バックグラインドテープ)を貼り付けている。
【0003】
また、近年、ICチップの用途が広がるにつれて、ICカード類に用いたり、積層して使用したりすることができる厚さ30μm以下の極めて薄い半導体ウエハが要求されるようになってきた。しかしながら、厚さが30μm以下の半導体ウエハは、従来の厚さが100〜600μm程度の半導体ウエハに比べて反りが大きく、衝撃により割れやすくなるので取扱性に劣り、また、研削・研磨後の半導体ウエハからバックグラインドテープを剥離する際には、半導体ウエハが破損する場合があった。
【0004】
これに対して、特許文献1では、半導体ウエハの回路パターン面と貼り合わせる密着シートとして、粘着剤を用いた粘着層の代わりに、半導体ウエハからの剥離が容易となるような特定のシリコーン材料からなる密着層が提案されている。
【0005】
しかしながら、これら従来のバックグラインドテープは、30μm以下の極めて薄い半導体ウエハを研削・研磨する際に、研削機の真空チャックテーブルの溝や孔による段差が半導体ウエハ表面に影響を与えて、均一な表面研削ができない。具体的には、TTV値(ウエハ裏面を基準面として厚み方向に測定した高さのウエハ全面における最大値と最小値の差)が3μm以下にできないといった問題や研削・研磨後に研削機の真空チャックテーブルから半導体ウエハをバックグラインドテープとともに剥がす際に、半導体ウエハが破損するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−26950
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、30μm以下の極めて薄い半導体ウエハの研削・研磨工程において、研削・研磨時には研削機の真空チャックテーブルの溝や孔による段差を吸収して、半導体ウエハ表面を均一に研削・研磨できるバックグラインドテープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明は、基材フィルムの片面にシリコーン樹脂からなる吸着層が設けられ、反対面にメタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ブチル(BA)のブロック共重合体からなる段差吸収層が設けられ、前記メタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ブチル(BA)のブロック共重合体の重量比が25:75〜45:55であり、前記段差吸収層の厚みは10μm以上30μm以下であり、前記吸着層は半導体ウエハ表面の回路パターンと貼合され、前記段差吸収層は研削機の真空チャックテーブル面と貼合されることを特徴とするバックグラインドテープである。
【0009】
第2発明は、前記吸着層の厚みが5〜50μmであることを特徴とする第1発明に記載のバックグラインドテープである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、30μm以下の極めて薄い半導体ウエハの研削・研磨工程において、研削・研磨時には研削機の真空チャックテーブルの溝や孔による段差を吸収して、半導体ウエハ表面を均一に研削・研磨できるバックグラインドテープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のバックグラインドテープは、基材フィルムの片面に吸着層、もう一方の面に段差吸収層が形成されてなるものである。吸着層は半導体ウエハ表面の回路パターンと貼合され、段差吸収層は研削機の真空チャックテーブル面と貼合される。
【0012】
基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ナイロン、ウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等からなる1層または多層構造のフィルムを使用することができる。基材フィルムの厚みは、通常12〜200μmであり、好ましくは25〜100μmである。
【0013】
基材フィルムの表面には吸着層、段差吸収層との密着性を向上させるため、コロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー層塗工等を施してもよい。
【0014】
吸着層に使用されるシリコーン樹脂としては、例えば、ラジカル重合型、縮合型、付加型、架橋型、又は開環重合型反応系シリコーン樹脂から選ばれる少なくとも1種のシリコーン樹脂を架橋させてなるものが挙げられ、特に付加型反応系シリコーン樹脂が好ましい。また、吸着層に使用されるシリコーン樹脂中には、吸着層表面の吸着性を向上させる目的で、MQレジン類を含有してもよい。
【0015】
ここで架橋反応に用いる架橋剤は公知のものでよい。架橋剤の例としては、オルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
【0016】
架橋反応に用いる白金系触媒は公知のものでよく、これには塩化第一白金酸、塩化第二白金酸などの塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール化合物、アルデヒド化合物あるいは塩化白金酸と各種オレフィンとの鎖塩などが挙げられる。
【0017】
吸着層の厚みは、5〜50μmが好ましい。さらに好ましくは、15〜35μmであるとよい。吸着層の厚みが、5μm未満であると、半導体ウエハ表面の回路パターンに吸着しにくくなり、半導体ウエハに対するバックグラインドテープの剪断力が小さくなり、半導体ウエハの研削・研磨時にズレが発生する可能性が出てくる。吸着層の厚みが50μmを超えると、シリコーン樹脂の使用量が多くなりコスト上不経済となる。
【0018】
次に、段差吸収層に使用されるメタクリル酸メチル(以下、MMA)とアクリル酸ブチル(以下、BA)のブロック共重合体としては、重量平均分子量(Mw)が4万〜10万であり、MMAとBAの重量比が25:75〜45:55であるブロック共重合体が好ましい。重量平均分子量(Mw)が4万未満であると段差吸収層の粘性が強すぎて、研削・研磨後に研削機の真空チャックテーブルから半導体ウエハをバックグラインドテープとともに剥がしにくくなり、10万を超えると段差吸収層の弾性が強すぎて、研削機の真空チャックテーブルの溝や孔による段差の吸収が不充分となる。又、MMAの重量比が25:75未満であると段差吸収層の粘性が強すぎて、段差吸収層が研削・研磨後に研削機の真空チャックテーブルから半導体ウエハをバックグラインドテープとともに剥がしにくくなり、45:55を超えると段差吸収層の弾性が強すぎて、研削機の真空チャックテーブルの溝や孔による段差の吸収が不充分となる。
【0019】
段差吸収層の厚みは、5〜45μmが好ましい。さらに好ましくは、10〜30μmであるとよい。段差吸収層の厚みが、5μm未満であると、研削機の真空チャックテーブルの溝や孔による段差の吸収が不充分となり、吸着層の厚みが45μmを超えると、段差吸収層が研削・研磨後に研削機の真空チャックテーブルから半導体ウエハをバックグラインドテープとともに剥がしにくくなるといった不具合を生じる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を下記実施例によってさらに具体的に説明するが、勿論本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。なお、各実施例中「部」は特に断らない限り、「重量部」を示すものである。
【0021】
参考例1
<吸着層の作製>50μmPETに、付加型反応系シリコーン樹脂(商品名「8500」荒川化学工業(株)製)60部、MQレジン(商品名「SQT−221」Gelest社製)10部、架橋剤(商品名「12031」荒川化学工業(株)製)1.4部、白金触媒 (商品名「12070」荒川化学工業(株)製)3部、トルオール30部からなる塗工液を、グラビアコーターにて塗工後の硬化膜厚が20μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度150℃、滞留時間100秒で熱硬化し、吸着層を形成した。
【0022】
<段差吸収層の作製>
次いで吸着層と反対面に、メタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ブチル(BA)のブロック共重合体(商品名「クラリティLA2250」(株)クラレ製)、MMA:BA=32:68(重量比)、Mw=6.8万)30部、メチルエチルケトン70部からなる塗工液を、グラビアコーターにて塗工後の乾燥膜厚が5μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度100℃で乾燥し、段差吸収層を形成した。
【0023】
実施例2:
参考例1で使用した吸着層の反対面に、参考例1で使用した段差吸収層塗工液をグラビアコーターにて塗工後の乾燥膜厚が10μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度100℃で乾燥し、段差吸収層を形成した。
【0024】
実施例3:
参考例1で使用した吸着層の反対面に、参考例1で使用した段差吸収層塗工液をグラビアコーターにて塗工後の乾燥膜厚が30μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度100℃で乾燥し、段差吸収層を形成した。
【0025】
参考例2
参考例1で使用した吸着層の反対面に、参考例1で使用した段差吸収層塗工液をグラビアコーターにて塗工後の乾燥膜厚が45μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度100℃で乾燥し、段差吸収層を形成した。
【0026】
参考例3
参考例1で使用した吸着層の反対面に、段差吸収層としてメタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ブチル(BA)のブロック共重合体(商品名「クラリティLA2140e」(株)クラレ製)、MMA:BA=22:78(重量比)、Mw=7.9万)30部、メチルエチルケトン70部からなる塗工液をグラビアコーターにて塗工後の乾燥膜厚が10μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度100℃で乾燥し、段差吸収層を形成した。
【0027】
実施例6:
参考例1で使用した吸着層の反対面に、段差吸収層としてメタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ブチル(BA)のブロック共重合体(商品名「クラリティLA2250」(株)クラレ製)、MMA:BA=32:68(重量比)、Mw=6.8万)15部、(商品名「クラリティLA2140e」(株)クラレ製)、MMA:BA=22:78(重量比)、Mw=7.9万)15部、メチルエチルケトン70部からなる塗工液をグラビアコーターにて塗工後の乾燥膜厚が10μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度100℃で乾燥し、段差吸収層を形成した。
【0028】
実施例7:
参考例1で使用した吸着層の反対面に、段差吸収層としてメタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ブチル(BA)のブロック共重合体(商品名「クラリティLA2250」(株)クラレ製)、MMA:BA=32:68(重量比)、Mw=6.8万)10部、(商品名「クラリティLA4285」(株)クラレ製)、MMA:BA=50:50(重量比)、Mw=6.7万)20部、メチルエチルケトン70部からなる塗工液をグラビアコーターにて塗工後の乾燥膜厚が10μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度100℃で乾燥し、段差吸収層を形成した。
【0029】
参考例4
参考例1で使用した吸着層の反対面に、段差吸収層としてメタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸ブチル(BA)のブロック共重合体(商品名「クラリティLA4285」(株)クラレ製)、MMA:BA=50:50(重量比)、Mw=6.7万)30部、メチルエチルケトン70部からなる塗工液をグラビアコーターにて塗工後の乾燥膜厚が10μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度100℃で乾燥し、段差吸収層を形成した。
【0030】
比較例1:
参考例1で使用した吸着層の反対面に、段差吸収層を設けていないバックグラインドテープ。
【0031】
比較例2:
参考例1で使用した吸着層の反対面に、同じく参考例1で使用した吸着層塗工液をグラビアコーターにて塗工後の硬化膜厚が10μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度150℃、滞留時間100秒で熱硬化し、段差吸収層を形成した。
【0032】
比較例3:
参考例1で使用した吸着層の反対面に、段差吸収層としてアクリル粘着剤(アクリル酸ブチル:アクリル酸=97:3,Mw=90万)59部、架橋剤(トリレンジイソシアネート)1部、トルオール40部からなる塗工液をグラビアコーターにて塗工後の硬化膜厚が10μmとなるよう塗工し、ドライヤー温度100℃、滞留時間100秒で熱硬化し、段差吸収層を形成した。
【0033】
<評価方法>
実施例2、3、6、7、比較例1〜3、参考例1〜4のバックグラインドテープを使用し、下記の評価方法に基づいて、評価を実施した。

段差吸収性:
ウエハ研削機に(株)岡本工作機械製作所製「バックグラインダーGNX200」を使用し、直径200mmの半導体ウエハを粗削り用研削材と仕上げ用研削材により、30μm厚みまで研削・研磨した際のウエハ表面凹凸(TTV値)をFILMETRICS製「F50」により測定した。
○:ウエハの表面凹凸(TTV値) 1.5μm未満
△:ウエハの表面凹凸(TTV値) 1.5〜3.0μm
×:ウエハの表面凹凸(TTV値) 3.0μmを超える。

真空チャックテーブルからの剥離性:
上記研削機による研削・研磨作業後、真空チャックテーブルの真空解除を行い、テーブル面からエアーを噴出して、真空チャックテーブルから半導体ウエハを剥がす際のウエハ破損状態を確認した。
○:ウエハの破損なし
△:ウエハの端部破損
×:ウエハの全面破損
【0034】
【表1】