特許第6142258号(P6142258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6142258-光ノード装置 図000002
  • 特許6142258-光ノード装置 図000003
  • 特許6142258-光ノード装置 図000004
  • 特許6142258-光ノード装置 図000005
  • 特許6142258-光ノード装置 図000006
  • 特許6142258-光ノード装置 図000007
  • 特許6142258-光ノード装置 図000008
  • 特許6142258-光ノード装置 図000009
  • 特許6142258-光ノード装置 図000010
  • 特許6142258-光ノード装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142258
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】光ノード装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/31 20060101AFI20170529BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   G02F1/31
   G02F1/13 505
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-164555(P2012-164555)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-26028(P2014-26028A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年5月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591102693
【氏名又は名称】サンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084364
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 宜喜
(72)【発明者】
【氏名】上原 昇
(72)【発明者】
【氏名】堀田 雄二
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−010005(JP,A)
【文献】 特開2012−108346(JP,A)
【文献】 特開2010−281981(JP,A)
【文献】 特開2009−223289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/01−1/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光を入射する入力ポートと、選択された波長の光信号を出射する出力ポートとを有する入出射部と、
信号光をその波長に応じて空間的に分散させる波長分散器と、
前記波長分散器によって分散された光を2次元平面上に集光する光学結合器と、
波長に応じて展開されたx軸方向と、これに垂直なy軸方向から成るxy平面に展開された入射光を受光する位置に配置され、xy平面に格子状に配列された多数の画素を有する空間光変調素子と、
前記空間光変調素子のxy方向に配列された各画素の電極を駆動し、各波長の光を夫々の方向に反射又は透過する空間光変調素子駆動部と、を具備し、
前記空間光変調素子は、
2本のデータ線を一組とする複数組のデータ線と複数本のゲート線とがそれぞれ交差する交差部に設けられた複数の画素と、
前記複数組のデータ線に対してそれぞれ設けられており、一組の前記2本のデータ線の一方に正極性信号を供給し、かつ、他方のデータ線に負極性信号を供給することを、前記複数組のデータ線に対して組単位で順次行う複数のスイッチと、
前記複数のスイッチを水平走査期間内で前記組単位で駆動する水平方向駆動回路と、
複数本の前記ゲート線を水平走査期間毎に選択する垂直方向駆動を行う垂直方向駆動回路と、を有し、
前記複数の画素は、
対向する画素電極と共通電極との間に液晶層が挟持された液晶素子と、
前記正極性画素信号をサンプリングして一定期間保持する第1のサンプリング回路と、
前記負極性画素信号をサンプリングして前記一定期間保持する第2のサンプリング回路と、
前記第1,第2のサンプリング回路により夫々保持された正極性信号電圧及び負極性信号電圧を、前記垂直走査期間より短い所定の周期で切り替えて前記画素電極に交互に印加する切替回路と、を備える光ノード装置。
【請求項2】
前記複数の画素は、
前記第1のサンプリング回路により保持された前記正極性信号電圧をインピーダンス変換する第1のバッファアンプと、
前記第2のサンプリング回路により保持された前記負極性信号電圧をインピーダンス変換する第2のバッファアンプと、を更に有し、
前記切替回路は、前記第1のバッファアンプから出力される前記正極性信号電圧、及び前記第2のバッファアンプから出力される前記負極性信号電圧を前記所定の周期で交互に切り替える請求項1記載の光ノード装置。
【請求項3】
前記第1及び第2のバッファアンプは、
それぞれインピーダンス変換用トランジスタと、ゲートに印加されるバイアス電圧によりチャンネル電流特性を制御可能な定電流負荷トランジスタとを有し、
前記定電流負荷トランジスタは、前記スイッチの前記所定の周期の切り替えタイミングに同期して間欠的にアクティブとなるように制御される請求項2記載の光ノード装置。
【請求項4】
前記空間光変調素子は、2次元に配列された多数の画素を有するLCOS素子である請求項記載の光ノード装置。
【請求項5】
前記切替回路の切替えのスイッチング周波数を1.2KHz以上、3.6KHz以下とした請求項1〜4のいずれか1項記載の光ノード装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信分野に用いられる液晶空間光変調素子を用いた波長選択光スイッチ装置や波長ブロッカ装置などを含む光ノード装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日の高度情報通信社会を支える高速大容量光ネットワークには、波長多重光通信技術が利用されている。光ネットワーク網の分岐点に相当する光ノードでは、再構成可能なアド、ドロップ機能を有するROADM(Reconfigurable Optical Add Drop Multiplexer)装置の導入が進められている。ROADM装置は主に波長選択光スイッチ装置(Wavelength Selective Switch;WSS ともいう)や波長ブロッカ装置(Wavelength Blocker;WB ともいう)など、光フィルタ機能、光減衰機能、光スイッチ機能が含まれる光ノード装置から構成される。ROADM装置を実現するため、波長選択スイッチは任意の波長の光を任意の方向に切り換えるものである。波長選択スイッチでは、波長を選択し所望の出力ポートへ光ビームを偏向させる光ビーム偏向素子が用いられている。波長ブロッカ装置では、波長を選択し所望の出力ポートへ光ビームを出力したり出力しないようにするため、光ビーム偏向素子が用いられている。特許文献1,2では光ビーム偏向素子としてMEMS(Micro-Electro-Mechanical System) ミラーアレイの機械的変位を利用したものが提案されている。光ビーム偏向素子として液晶を用いた空間光変調素子(Spatial Light Modulator; SLM ともいう)も知られている。その中にはLCOS素子(Liquid Crystal on silicon)と呼ばれるCMOS技術を用いた液晶空間光変調素子がある。特許文献3,4,5ではLCOS素子(Liquid crystal on silicon)を利用したものが提案されている。
【0003】
液晶空間光変調素子における制御方法として、位相変調機能による位相回折格子(Optical Phased array; OPA ともいう)を形成して、その回折現象を利用した制御方法と、偏波回転により光強度を制御する方法とが広く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許7725027明細書
【特許文献2】米国特許7787720明細書
【特許文献3】米国特許7014326明細書
【特許文献4】米国特許7822303明細書
【特許文献5】特開2012−108346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LCOS素子に代表される液晶空間光変調素子を用いた光ノード装置では、液晶空間光変調素子を位相変調による回折制御や強度変調による偏波制御により制御している。しかし、LCOS素子は従来はビデオ信号の表示用に開発された駆動素子を用いており、各画素のスイッチング速度はビデオ信号の交流周波数(フレームレート)の120Hzで駆動されている。このため液晶空間光変調素子を用いた光ノード装置では、出力信号のパワーがビデオ信号に起因する周期で変動するフリッカと呼ばれるちらつき現象が生じるという問題があった。またそのパワー変動量は光減衰量に依存して増減することも問題であった。
【0006】
さらには、液晶空間光変調素子のフリッカの程度は使用する環境の温度に依存する。光通信機器で使用される温度は室温に比べて高温であり、例えば65℃ではフリッカが増加するという問題があった。そこで光通信用途にLCOS素子を使用するため、ペルチュ素子などの電子冷却素子(TEC)を用いて室温程度に温度維持することも行われている。しかし電子冷却素子を用いた場合には、電子冷却のために消費電力が増加し、装置の大型化が避けられないという問題もあった。
【0007】
本発明では、空間光変調素子を用いた光ノード装置において、フリッカを低減できるようにすることを目的とする。更には、電子冷却素子を用いない、小型で消費電力の少ない光ノード装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明の光ノード装置は、信号光を入射する入力ポートと、選択された波長の光信号を出射する出力ポートとを有する入出射部と、信号光をその波長に応じて空間的に分散させる波長分散器と、前記波長分散器によって分散された光を2次元平面上に集光する光学結合器と、波長に応じて展開されたx軸方向と、これに垂直なy軸方向から成るxy平面に展開された入射光を受光する位置に配置され、xy平面に格子状に配列された多数の画素を有する空間光変調素子と、前記空間光変調素子のxy方向に配列された各画素の電極を駆動し、各波長の光を夫々の方向に反射又は透過する空間光変調素子駆動部と、を具備し、前記空間光変調素子は、2本のデータ線を一組とする複数組のデータ線と複数本のゲート線とがそれぞれ交差する交差部に設けられた複数の画素と、前記複数組のデータ線に対してそれぞれ設けられており、一組の前記2本のデータ線の一方に正極性信号を供給し、かつ、他方のデータ線に負極性信号を供給することを、前記複数組のデータ線に対して組単位で順次行う複数のスイッチと、前記複数のスイッチを水平走査期間内で前記組単位で駆動する水平方向駆動回路と、複数本の前記ゲート線を水平走査期間毎に選択する垂直方向駆動を行う垂直方向駆動回路と、を有し、前記複数の画素は、対向する画素電極と共通電極との間に液晶層が挟持された液晶素子と、前記正極性画素信号をサンプリングして一定期間保持する第1のサンプリング回路と、前記負極性画素信号をサンプリングして前記一定期間保持する第2のサンプリング回路と、前記第1,第2のサンプリング回路により夫々保持された正極性信号電圧及び負極性信号電圧を、前記垂直走査期間より短い所定の周期で切り替えて前記画素電極に交互に印加する切替回路と、を備えるものである。
【0009】
ここで前記複数の画素は、前記第1のサンプリング回路により保持された前記正極性信号電圧をインピーダンス変換する第1のバッファアンプと、前記第2のサンプリング回路により保持された前記負極性信号電圧をインピーダンス変換する第2のバッファアンプと、を更に有し、前記切替回路は、前記第1のバッファアンプから出力される前記正極性信号電圧、及び前記第2のバッファアンプから出力される前記負極性信号電圧を前記所定の周期で交互に切り替えるようにしてもよい。
【0010】
ここで前記第1及び第2のバッファアンプは、それぞれインピーダンス変換用トランジスタと、ゲートに印加されるバイアス電圧によりチャンネル電流特性を制御可能な定電流負荷トランジスタとを有し、前記定電流負荷トランジスタは、前記スイッチの前記所定の周期の切り替えタイミングに同期して間欠的にアクティブとなるように制御されるようにしてもよい。
【0011】
ここで前記空間光変調素子は、2次元に配列された多数の画素を有するLCOS素子としてもよい。
【0012】
ここで前記切替回路の切替えのスイッチング周波数を1.2KHz以上、3.6KHz以下としてもよい
【発明の効果】
【0013】
このような特徴を有する本発明によれば、光減衰量の如何にかかわらず空間光変調素子のフリッカを低減することができる。従って空間光変調素子からの出射光のレベルを安定化することができる。又電子冷却素子を用いる必要がなく、小型で消費電力の少ない光ノード装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は発明の第1の実施の形態による波長選択光スイッチ装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は本実施の形態に用いられる空間光変調素子であるLCOS素子の構成を示すブロック図である。
図3図3は本実施の形態によるLCOS素子の1つの画素の回路例である。
図4図4は本実施の形態によるLCOS素子の1画素の詳細な構成を示す回路図である。
図5図5は従来と本実施の形態によりLCOS素子を駆動したときに印加電圧と画素電圧とを示す波形図である。
図6A図6Aは本発明の第2の実施の形態による波長選択光スイッチ装置のLCOS素子の構成を示す回路図である。
図6B図6Bはこの実施の形態によるLCOS素子の表示面の一例を示す図である。
図7図7は本実施の形態によるLCOS素子の詳細なブロック図である。
図8図8は本実施の形態によるLCOS素子の駆動時の波形を示すタイムチャートである。
図9図9は従来と本実施の形態によりLCOS素子を駆動したときに印加電圧と画素電圧とを示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施の形態)
光ノード装置の代表例として図1に波長選択光スイッチ装置の構成図を示す。波長ブロッカ装置の場合も同様にLCOS電圧駆動できる。波長選択光スイッチ装置1は、電気回路基板1Aと光学モジュール1Bから構成される。波長選択光スイッチ装置1の光学モジュール1Bは、1つの入力ポート11及び複数の出力ポート12−1〜12−Nを有している。ここで入力ポート11に入力される光信号は多数の波長が多重化された波長多重光信号(WDM信号)光とする。このWDM信号光は光ファイバ等の入力ポート11よりコリメートレンズから成るビーム変換器13に入力される。ビーム変換器13の出力側には偏波分離器14が設けられる。偏波分離器14は入力ポートのWDM光をs偏光成分とp偏光成分の光ビームに分離する偏光ビームスプリッタと、分離した光ビームのいずれか一方の偏光方向を他方の偏光方向に変換する波長板とを有しており、WDM光を2本の平行な光ビームとするものである。2本の光ビームは波長分散器15に与えられる。波長分散器15は波長に応じて光を異なった方向に分散するものであり、例えば回折格子によって実現することができる。波長分散器15からの出力はレンズ等の光学結合器16を介して空間光変調素子17に導かれる。空間光変調素子17は各波長の分散された光を受光し、各波長毎に光学結合器16に出力するように方向を変化させて反射する素子である。空間光変調素子17には電気回路基板1Aのコントローラ18が接続されている。そして空間光変調素子17からの反射光は光学結合器16を介して波長分散器15に与えられて合成される。波長分散器15の出力は偏波分離器14に戻り、偏波分離器14で合成された反射光の一方の偏光方向を回転させて合成される。偏波分離器14の出力はビーム変換器13を介して出力ポート12−1〜12−Nより出力される。尚ここでは入力ポート11と出力ポート12−1〜12−Nを用いているが、入出力を逆転させるようにして用いることもできる。これらの入力ポート及び出力ポートは入出射部を構成している。
【0016】
本実施の形態では、空間光変調素子17はLCOS素子20によって実現している。第1の実施の形態において、LCOS素子20に加わる光はWDM光を波長帯に応じてxy平面に展開した光である。ここでLCOS素子20は波長分散方向(x方向)に1920素子、これと垂直な方向(y方向)に1080画素が格子状に配列された素子とする。この波長選択光スイッチ装置では、波長毎に反射させる方向を制御することによって、任意の波長の光を選択することができる。コントローラ18はxy平面の光の反射方向を選択波長に合わせて決定する。コントローラ18は空間光変調素子17内のLCOS素子20のxy方向に配列された各画素の電極を駆動することによって、x軸及びy軸方向の所定の位置の画素の特性を制御する空間光変調素子駆動部を構成している。
【0017】
本実施の形態では、LCOS素子20の夫々の画素を個々にビデオ信号の周期内でビデオ周波数より高い周波数でスイッチングすることによってフリッカを低減するようにしたものである。このような液晶空間光変調素子は液晶プロジェクタに使用できることが特開2009−223289号等に示されている。
【0018】
本実施の形態によるLCOS素子20とその駆動回路の一例を図2に示す。LCOS素子は、画素部31と、水平方向駆動回路32、垂直方向駆動回路33などから構成されている。画素部31はx軸方向に1920の画素、y軸方向に1080の画素31−1,1〜31−1920,1080が格子状に形成されたものである。LCOS素子20には、水平信号線34a,34bと、データ線35−1a,35−1b・・・、スイッチ36−1a,36−1b・・・とが夫々2系統設けられている。水平信号線34aは共通電極電圧に対して正側のシリアルの画素信号をスイッチ36−1a、36−2a、・・・に供給するものであり、水平信号線34bは負側のシリアルの画素信号をスイッチ36−1b、36−2b、・・・に供給するものである。垂直方向駆動回路33からはゲート線37−1、37−2、・・・が画素部31との間に接続されている。更に各画素には共通電極線38がコントローラ18との間に接続されている。尚、図中で、各符号のハイフン後のサフィックス番号は、同一種類の構成要素で異なった位置にあることを示している。また、サフィックス番号に続くアルファベットの小文字aは2系統のうちの1系統目、bは2系統目であることを示す。なお、この図2は構成要素全体の一部を示したものである。ここで示したHD規格以外の640×480画素(VGA規格)、1400×1050画素(SXGA+規格)など、類似の解像度規格にも適用できる。
【0019】
図1のコントローラ18は、水平信号線34a,34bに加えられる2系統の入力画素信号に同期するように生成した各種クロック信号を水平方向駆動回路32と垂直方向駆動回路33に供給する。そして入力画素信号と同期した形でデータ線35−1a、35−1b、・・・、ゲート線37−1、37−2、・・・を夫々駆動することで、水平と垂直の各走査を伴った画素選択を行う。
【0020】
次に、図3は1つの画素31−1,1の内部回路である。図3においてデータ線35−1aは画素選択用のトランジスタQ1のドレインに、データ線35−1bは画素選択トランジスタQ2のドレインに接続される。これらのトランジスタQ1,Q2のゲートはゲート線37−1に共通に接続され、ソースと共通電極線38との間に電圧保持のための保持容量C1,C2が夫々図示のように接続される。トランジスタQ1と保持容量C1は第1のサンプリング回路、トランジスタQ2と保持容量C2は第2のサンプリング回路を構成している。保持容量C1,C2の端部にはバッファアンプA1,A2が接続され、交互に断続するスイッチS1,S2を介して画素の画素電極Eに接続されている。コンデンサC3は保持容量である。スイッチS1,S2は正極性信号電圧を画素電極に交互に印加する切替回路を構成している。画素電極Eには図示しない共通電極との間に液晶層が挟持され、1つの画素の表示部分を構成している。
【0021】
図4は1つの画素31−1,1の内部回路を更に詳細に示す回路図である。図4に示すように、本実施の形態のLCOS素子の1つの画素は、正極性、負極性の画素信号を書き込むための画素選択トランジスタQ1及びQ2と、各々の極性の画素信号電圧を並列的に保持する独立した2つの保持容量C1及びC2と、トランジスタQ3〜Q8と、反射電極E等からなる。図2のバッファアンプA1は、ゲートに印加される電圧によって電流値が制御可能な定電流負荷トランジスタQ7とインピーダンス変換用のトランジスタQ3から成り立っている。同様に図2のバッファアンプA2も定電流負荷トランジスタQ8とインピーダンス変換用のトランジスタQ4から成り立っている。トランジスタQ3のソースにドレインが接続されたトランジスタQ5と、トランジスタQ4のソースにドレインが接続されたトランジスタQ6とは、夫々図3のスイッチS1、S2に相当するスイッチングトランジスタである。定電流源負荷用トランジスタQ7、Q8は、ゲートが同一行画素について行方向配線Bに共通配線され、定電流負荷のバイアス制御が可能な構成となっている。
【0022】
次にこの内部回路の動作について説明する。水平方向駆動回路32はスイッチ36−1aによって水平信号線34aよりデータ線35−1aを介して液晶の共通電極電圧に対して正側の画素信号を供給する。又これと同時に、信号線34−bよりデータ線35−1bを介して共通電極電圧に対して負側の画素信号を供給する。トランジスタQ1及びQ2は、ゲート線37−1を介してゲートに印加される電圧により同時にオンになる。これにより、データ線35−1aから供給される正側の画素信号がトランジスタQ1を介して保持容量C1に書き込まれ、データ線35−1bから供給される負側の画素信号がトランジスタQ2を介して保持容量C2に書き込まれる。次にトランジスタQ1及びQ2は、ゲート線37−1を介してゲートに印加される電圧により同時にオフになる。これにより保持容量C1に正側、保持容量C2に負側の画素信号が保持される。
【0023】
次に保持容量C1、C2にそれぞれ保持された正側と負側の画素信号は、それぞれ高入力抵抗のインピーダンス変換回路であるバッファアンプA1、A2を介して読み出され、スイッチS1、S2で交互に選択されて、反射電極の電圧を変化させることで各画素を交流駆動する。これにより、本実施の形態では、LCOS素子の交流駆動を高速に行うことが可能になる。即ち本実施の形態のLCOS素子によれば、画素信号の書き込み周期とは独立にLCOS素子を例えばフレーム周波数の数十倍の高周波数で交流駆動することにより、ちらつきを防止することができる。
【0024】
図5はLCOS素子の各画素に電圧を与えるタイミングを従来例と本願の実施の形態の場合を比較して示す図である。LCOS素子を画像表示用の駆動回路で駆動する場合は、通常は図5(a)にビデオ信号を表示するため交流の120Hzで各画素に電圧が与えられる。しかし実際には画素に電圧が印加されている時間が短いため、図5(b)に示すように時間の経過と共に徐々に画素に与えた電圧レベルが低下する。このために前述したちらつき現象が発生するという問題点がある。
【0025】
これに対し本実施の形態では、画素回路そのものに極性反転機能を備えており、これを高速でスイッチングすることにより、垂直走査周波数に制約されず、高い周波数での交流駆動が可能である。本実施の形態ではこのスイッチング周波数を例えば1.2kHz〜3.6kHzとし、図5(c)に示すようにビデオ周波数よりも十分に高速で画素電圧を供給している。従って画素電圧がほとんど低下せず、ちらつき現象を防止することができる。
【0026】
例えば従来のLCOS素子を画像表示用の駆動回路を用いて画素信号を供給し交流周波数120Hz、環境温度25℃で駆動する場合に、パワーの安定度は光減衰量が0dBのときに0.06dBであり、光減衰量が10dBの設定時には0.14dBであった。
【0027】
これに対してこの実施の形態によるLCOS素子を用いた波長選択光スイッチ装置の場合には、環境温度25℃で光減衰量が0dBの設定時には出力パワー変動は0.003dBであり、光減衰量が10dBの設定時には0.004dBと極めて小さい変動であった。次に環境温度65℃で、光減衰量10dBに設定したところ、出力パワー変動は0.03dBと光通信用途では良好な範囲内であった。これにより光の減衰量に依らず低フリッカを特長とする波長選択光スイッチ装置を実現することができる。更に電子冷却素子による温度制御は不要とすることができる。
【0028】
(第2の実施の形態)
次に本発明の第2の実施の形態による波長選択光スイッチ装置について説明する。この実施の形態においても波長選択光スイッチ装置を光ノード装置の一例とするが、全体構成は図1と同様である。この実施の形態においては、空間光変調素子17とその駆動装置のみが異なっている。この実施の形態においても空間光変調素子17にLCOS素子50を用いる。図6AはLCOS素子示す図であり、コントローラ60からの信号に応じて動作する水平方向駆動回路51、垂直方向駆動回路52と画素群53を有している。このLCOS素子50もx方向に1920画素、y方向に1080画素からなる高精細パネル(ハイデフィニッション:HD規格)とし、1画素の大きさは縦横8.0μmとする。
【0029】
図7はLCOS素子50の詳細な構成を示すブロック図であり、画素の一部は省略して示している。図7において、水平方向駆動回路51はHシフトレジスタ54とソースドライバ55を有しており、垂直方向駆動回路52はVシフトレジスタ56とゲートドライバ57を有している。そしてコントローラ60よりHシフトレジスタ54には水平クロック信号H_Clock及び水平開始信号H_Startが入力される。又ソースドライバ55には各画素に加えるべき電圧がシリアル信号として入力される。更にVシフトレジスタ56にはV_Clock信号、V_Start信号が入力されている。画素53において斜線部が光ビームが照射される画素である。
【0030】
図6Bはパネルの一部だけを利用する使用エリア制限法の説明図であり、斜線部が光ビームが照射される領域である。光ビームの照射領域はYi=400からYj=536までとし、その幅は136画素とする。従ってこの使用エリアのみの画素を駆動すればよく、他の画素については駆動する必要はない。このように一部のみの画素について画素電圧を与えるように制御することを部分エリア使用という。図6Aにおいてコントローラ60は部分エリア使用の場合にV_ClockをYiまで送り、YiからYjの間は通常の速度で駆動し、Yjからy軸の終了の位置Ynまで早送りするようなクロック信号を出力するものとする。
【0031】
図8は実施の形態による部分エリア使用法のLCOS素子50への入力信号を示す。部分エリア使用の場合、Vシフトレジスタ56に入ったV_Start信号を使用開始ラインYiまで通常のV_Clockよりも早く送る。そして使用位置まで到達した後、H_Start、H_Clockで通常の駆動を行う。使用エリアの最後となる使用終端ラインYjに到達したら、再びV_ClockでYnまで早送りする。こうすれば1つの画面を使用するフレームレートを向上させることができる。本実施例の場合は、使用エリアの各画素の実質駆動周波数は、全エリア使用時の交流駆動の周波数を120Hzとして、
120Hz×(1080画素)/(136画素)=952Hz
に相当する。このように画面使用領域が約1/8であれば、画素に印加する周波数を約8倍とし、電位の変化を少なくすることができる。このため画面のちらつきを少なくすることができる。この効果は使用するエリアが小さければ小さいほど高まることとなる。
【0032】
同様にX方向で部分使用を行う場合、より高速なH_ClockでX方向へ送ることも可能である。又Yjラインの電圧印加後、Vシフトレジスタにリセット機能を設けることでYj表示後YnまでVラインを送る必要はなくなり、より高いフレームレートを実現することができる。同様に、Hシフトレジスタにもリセット機能を設ける事でより高速フレームレートが実現できる。リセット方法は、専用リセットラインを付加する他に、V_Start、H_Startでリセットすれば、信号線数を低減することができる。
【0033】
図9はLCOS素子の各画素に電圧を与えるタイミングを従来例と本願の実施の形態の場合を比較して示す図である。LCOS素子を画像表示用の駆動回路で駆動する場合は、通常は図9(a)にビデオ信号を表示するため交流の120Hzで各画素に画素電圧が与えられる。しかしこの場合は、図9(b)に示すように時間の経過と共に徐々に画素に与えた電圧レベルが低下する。
【0034】
これに対し本実施の形態では、LCOS素子の使用領域以外を早送りしているため、通常の垂直走査周波数に制約されず、実質の駆動周波数を図9(c)に示すように高くすることができる。このため図9(d)に示すように画素電圧がほとんど低下せず、ちらつき現象を防止することができる。
【0035】
上記のようにLCOS素子を駆動した場合に、環境温度25℃で光減衰量を0dBに設定すると、出力パワー変動は0.001dB以下であり、光減衰量を10dB設定した場合には、出力パワー変動は0.014dBと極めて小さい変動であった。次に環境温度65℃で、光減衰量10dB設定したところ、出力パワー変動は0.05dBと光通信用途では良好な範囲内であった。そのため、電子冷却素子による温度制御は不要とすることができる。
【0036】
尚この実施の形態では、LCOS素子の画面の一部を使用エリアとしているが、使用エリアが1/2以下となれば駆動周波数はその逆数、即ち元の周波数の2倍以上に高速化することができる。従ってこの使用エリアの数や大きさは任意に設定できることができるが、ちらつきを少なくするという効果を得るためには、使用エリアが1/2以下、好ましくは1/3以下となるように使用エリアを設定することが必要となる。
【0037】
尚この実施の形態では波長選択光スイッチ装置について説明しているが、本発明は空間光変調素子が用いられる光ノード装置の種々の装置、例えば波長ブロッカや波長イコライザ等の種々の装置に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明はLCOS素子等の空間光変調素子をビデオ周波数とは独立して早い速度で各画素に電圧を供給することによってちらつきを少なくすることができる。従って液晶空間素子を有する波長選択光スイッチ装置や波長ブロッカ装置などを有する光ノード装置に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 波長選択光スイッチ装置
1A 電気回路基板
1B 光学モジュール
11 入力ポート
12−1〜12−N 出力ポート
13 ビーム変換器
14 偏波分離器
15 波長分散器
16 光学結合器
17 空間光変調素子
18,60 コントローラ
20,50 LCOS素子
31 画素群
32 水平方向駆動回路
33 垂直方向駆動回路
34a,34b 水平信号線
35−1a,35−1b・・・ データ線
36−1a,36−1b・・・ スイッチ
37−1〜37−N ゲート線
A1,A2 バッファアンプ
S1,S2 スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9