(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
X線撮影で得られる投影画像に対して、補正関数y=f(x)を用いてxを前記投影画像の画素値としyを散乱線補正後の画素値として散乱線補正を行う散乱線補正装置であって、
前記補正関数が、ロジスティック曲線を表すロジスティック関数y=α/[1+exp[-β(x-γ)]]を平行移動して得られる関数の逆関数であることを特徴とする散乱線補正装置。
X線撮影で得られる測定画像に対して、補正関数y=f(x)を用いてxを前記測定画像の画素値としyを散乱線補正後の画素値として散乱線補正を行う散乱線補正装置であって、
前記補正関数が、ロジスティック曲線を表すロジスティック関数y=α/[1+exp[-β(x-γ)]]を平行移動して得られる関数であることを特徴とする散乱線補正装置。
X線撮影で得られる投影画像に対して、補正関数y=f(x)を用いてxを前記投影画像の画素値としyを散乱線補正後の画素値として散乱線補正を行う散乱線補正方法であって、
前記補正関数が、ロジスティック曲線を表すロジスティック関数y=α/[1+exp[-β(x-γ)]]を平行移動して得られる関数の逆関数であることを特徴とする散乱線補正方法。
X線撮影で得られる測定画像に対して、補正関数y=f(x)を用いてxを前記測定画像の画素値としyを散乱線補正後の画素値として散乱線補正を行う散乱線補正方法であって、
前記補正関数が、ロジスティック曲線を表すロジスティック関数y=α/[1+exp[-β(x-γ)]]を平行移動して得られる関数であることを特徴とする散乱線補正方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0025】
まず始めに、本発明の一実施形態に係るX線撮影装置の本体部1(以下、「X線撮影装置の本体部1」と称す)の構成について
図1を参照して説明する。
図1はX線撮影装置1の本体部の外観を示す図であり、
図1(a)は上面図、
図1(b)は正面図、
図1(c)は側面図である。
【0026】
X線撮影装置の本体部1は、歯科用あるいは耳鼻科用等のX線撮影装置の本体部であって、床面に載置されるベース2と、ベース2から鉛直方向に立設された下部ポール3と、鉛直方向にスライド可能に下部ポール3に接続される上部ポール4と、上部ポール4の上端部に固定されている固定アーム5と、回転可能に固定アーム5に接続される旋回アーム6と、上部ポール4の中央部に固定されており被写体(例えば歯など)を含む人体の頭部を保持する頭部保持部7とを備えている。実施形態では、固定アーム5が上部ポール4に固定されているが、例えば、X線撮影装置の本体部1を設置する部屋の壁や天井に固定アーム5が直接あるいは部屋の壁や天井との距離を調整することができる調整機構を介して取り付けられる態様であってもよい。
【0027】
旋回アーム6は、被写体に対してX線を照射するX線照射部8と、被写体を透過したX線を検出するX線検出部9とを対向して配置している。本実施形態では、X線検出部9として、照射されたX線に応じて電気信号を生成する変換素子が二次元状に配置されているフラットパネルディテクターを用いる。そして、フラットパネルディテクターの前面にはカーボンが設置されている。
【0028】
X線撮影装置の本体部1の撮影モードは特に限定されないが、例えば、パノラマ撮影モードやCT撮影モードを挙げることができる。パノラマ撮影モードでは、X線照射部8及びX線検出部9が歯列弓の形状に沿った所定の軌跡を描くように、旋回アーム6の旋回軸を旋回軸に垂直な方向(X方向、Y方向)に移動させ、旋回アーム6を旋回軸回りに旋回させながら断層撮影を行う。CT撮影モードでは、頭部の対象撮影領域(画像再構成範囲)を中心にして旋回アーム6を回転させながら、対象撮影領域(画像再構成範囲)の断層撮影を行う。
【0029】
ここで、パノラマ撮影モードについて
図2を参照してより詳細に説明する。
図2はパノラマ撮影モードの標準(成人用)軌道を示している。パノラマ撮影モードの標準(成人用)軌道では、X線照射部8及びX線検出部9が仮想歯列弓201の形状に沿った所定の軌跡を描いてX線ビームの軌跡が包絡線状の軌跡202になるように、X線照射部8及びX線検出部9が配置されている旋回アーム6を、撮影開始位置P1から
図2に示す軌道に沿って撮影終了位置P2まで移動させる。撮影開始位置P1と撮影終了位置P2との間における旋回アーム6の旋回角度は約220度である。なお、撮影終了位置P2を除く
図2に示された旋回アーム6の位置は被写体の撮影領域の左半分における各撮影位置である。X線照射部8のX線焦点8Aから射出されるX線は、X線照射部8に設けられているX線絞り8Bによって絞られ、X線検出部9上でのX線ビーム幅Wが調整される。
【0030】
パノラマ撮影モードは、上述した標準(成人用)軌道の他に、小児用軌道、直行軌道、顎関節撮影軌道、上顎洞撮影軌道などを有していることが好ましい。小児用軌道は、仮想歯列弓201の形状が小さくなる点が標準軌道と異なっている。直行軌道は、各撮影位置でのX線ビームが患者歯列弓203の歯と歯の間を通過するようにしている点が標準軌道と異なっている。顎関節撮影軌道(側面)は、X線照射部8及びX線検出部9が仮想歯列弓201の両端部分(顎関節撮影可能部分)の形状に沿った所定の軌跡を描くように旋回アーム6を移動させる点が標準軌道と異なっている。顎関節撮影軌道(正面)は、X線照射部8及びX線検出部9が仮想線204の形状に沿った所定の軌跡を描くように旋回アーム6を移動させる点が標準軌道と異なっている。上顎洞撮影軌道は、X線照射部8及びX線検出部9が仮想線205の形状に沿った所定の軌跡を描くように旋回アーム6を移動させる点が標準軌道と異なっている。
【0031】
続いて、CT撮影モードについて
図3〜
図8を参照してより詳細に説明する。なお、
図3〜
図8において
図2と同一の部分には同一の符号を付す。
【0032】
局所CT撮影モードは、歯顎領域内の上下歯牙領域全体よりも狭い特定の領域を撮影対象とするCT撮影モードである。局所CT撮影モードの画像再構成範囲は例えば直径51mm高さ55mmの円柱形状の空間領域である。
図3は局所CT撮影モードの軌道を示している。局所CT撮影モードでは、
図3に示すように、X線検出部9の中心がX線照射部8と旋回アーム6の旋回軸中心206とを結ぶラインの延長線上にくるように旋回アーム6を旋回させながら複数の撮影位置で撮影が行われる。また、局所CT撮影モードでは、通常、
図3に示すように、旋回アーム6の旋回軸中心206は定位置になっている。なお、
図3には撮影位置として4箇所が図示されているが、これはあくまで例示であり撮影位置は図示された箇所に限定されるものではない。
【0033】
局所CT撮影モードは、後述する全歯CT撮影モードや全顎CT撮影モードに比べてX線検出部9上でのX線ビーム幅Wが狭いため、X線検出部9のサイズが小さくても実施可能である。
【0034】
なお、局所CT撮影モードでは、撮影対象部位(関心領域)の中心を何処に設定するかに応じて旋回アーム6の旋回軸中心206の位置を変えるようにしており、通常、
図3に示すように、撮影対象部位(関心領域)の中心と旋回アーム6の旋回軸中心206の位置とが一致するように位置調整がなされる。局所CT撮影モードにおける撮影対象部位(関心領域)の中心は任意に設定することができる。
図3に示した位置設定の他にも、例えば、
図4に示すように撮影対象部位(関心領域)の中心208を仮想歯列弓201上の前歯の位置に設定することもでき、
図5に示すように撮影対象部位(関心領域)の中心208を仮想歯列弓201上の左顎の位置に設定することもでき、
図6に示すように撮影対象部位(関心領域)の中心208を仮想歯列弓201上の右第2小臼歯の位置に設定することもでき、その他種々の位置設定が可能である。
【0035】
全歯CT撮影モードは、上下歯牙領域全体を撮影対象とするCT撮影モードである。全歯CT撮影モードの画像再構成範囲は例えば直径97mm高さ100mmの円柱形状の空間領域である。
図7は全歯CT撮影モードの軌道を示している。全歯CT撮影モードでは、
図7に示すように、X線検出部9の中心がX線照射部8と旋回アーム6の旋回軸中心206とを結ぶラインの延長線上にくるように旋回アーム6を旋回させながら複数の撮影位置で撮影が行われる。また、全歯CT撮影モードでは、通常、
図7に示すように、旋回アーム6の旋回軸中心206は定位置になっている。なお、
図7には撮影位置として4箇所が図示されているが、これはあくまで例示であり撮影位置は図示された箇所に限定されるものではない。
【0036】
全歯CT撮影モードは、上述した局所CT撮影モードに比べて撮影対象が広範囲になりX線検出部9上でのX線ビーム幅Wが広くなるため、その広いX線ビーム幅Wに見合ったX線検出部9のサイズを必要とする。
【0037】
全顎CT撮影モードは、歯顎領域の全ての範囲を撮影対象とするCT撮影モードである。全顎CT撮影モードの画像再構成範囲は例えば直径161mm高さ100mmの円柱形状の空間領域である。
図8は全顎CT撮影モードの軌道を示している。全顎CT撮影モードでは、
図8に示すように、X線検出部9の中心がX線照射部8と旋回アーム6の旋回軸中心206とを結ぶラインの延長線上からずれるように旋回アーム6を旋回させながら複数の撮影位置で撮影が行われる。また、全顎CT撮影モードでは、通常、
図8に示すように、旋回アーム6の旋回軸中心206は定位置になっている。なお、
図8には撮影位置として4箇所が図示されているが、これはあくまで例示であり撮影位置は図示された箇所に限定されるものではない。
【0038】
全顎CT撮影モードは、X線検出部9の中心をX線照射部8と旋回アーム6の旋回軸中心206とを結ぶラインの延長線上からずらして撮影を行っているので、上述した全歯CT撮影モードよりも画像再構成範囲207を拡大することができる。したがって、X線検出部9のサイズアップを抑えながら歯顎領域の全ての範囲を撮影対象とすることができる
【0039】
なお、全顎CT撮影モードにおいて、X線検出部9をサイズアップして、X線検出部9上でのX線ビーム幅Wを
図8に示す場合よりも拡大し、画像再構成範囲を例えば直径230mm高さ164mmの円柱形状の空間領域にすることで、歯顎領域の全ての範囲のみならず、頭頸部領域の全ての範囲を撮影対象とすることも可能である。
【0040】
上述したパノラマ撮影モード及びCT撮影モードでは、撮影時に患者歯列弓203が想定した位置(
図2、
図3、
図7、
図8に図示した位置)に存在することで、撮影者が意図していた通りの撮影を行うことができる。患者歯列弓203の想定した位置への位置合わせを容易に実現する方法としては、例えば、光ビームを利用する方法を挙げることができる。当該光ビームとしては、例えば、頭の正中線の位置を示す正中線光ビーム、眼窩下縁と外耳道を結ぶ線の位置を示す水平線光ビーム、犬歯の位置(断層撮影の基準位置)を示す断層基準線光ビームなどがあり、これらの光ビームの出力部をX線撮影装置に設け、これらの光ビームを参考にして患者が頭の位置を微調整するとよい。
【0041】
また、旋回アーム6から離れた位置に設置するセファロ用ユニット(不図示)を用い、セファロ撮影モードでの撮影が行えるようにしてもよい。セファロ用ユニットは、被写体を透過したX線を検出して、被写体をセファロ撮影するためのセファロ用X線検出部と、頭部を固定するための頭部固定部とを備える。セファロ撮影は、歯科矯正の診断等に用いられ、頭部規格X線撮影法(セファロ撮影法)を用いて撮影する。セファロ撮影では、例えば、頭部固定部のイヤーロッドを頭部の左右の外耳孔部に挿入して固定し、旋回アーム6に設けられたX線照射部8からX線を照射して、被写体を透過したX線をセファロ用X線検出部で検出する。
【0042】
本発明の一実施形態に係るX線撮影装置は、X線撮影装置の本体部1の他に、
図9に示す画像処理装置10も備えている。
【0043】
画像処理装置10は、ROM102やHDD107に格納されているプログラムに従って画像処理装置10全体を制御するCPU101と、固定的なプログラムやデータを記録するROM102と、作業メモリを提供するRAM103と、X線撮影装置の本体部1内に格納されX線撮影装置の本体部1の各部を制御する制御部(不図示)との間で通信を行うための通信インターフェース部104と、画像データを一時的に記憶するVRAM105と、VRAM105に記憶された画像データに基づいて画像を表示する表示部106と、前記制御部及びCPU101が協働してX線撮影動作を制御するための撮影制御プログラム、再構成画像を生成するための画像再構成処理プログラム、散乱線補正処理を行うための散乱線補正処理プログラム等の各種プログラム、各種プログラムを実行する際に用いられる各種パラメータの設定値、並びに、再構成画像データ等の各種データを記憶するHDD107と、キーボード、ポインティングデバイス等の入力部108とを備えている。
【0044】
画像処理装置10は、画像処理装置10と前記制御部との通信方法は、有線通信でもよく、無線通信でもよく、有線と無線を組み合わせた通信であってもよい。画像処理装置10としては、例えば、パーソナルコンピュータを挙げることができる。なお、画像処理装置10は、画像処理以外に、X線撮影装置の本体部1の遠隔操作、画像表示も行う。HDD107に記憶されている各プログラムは、画像処理装置10にプリインストールされていてもよく、光ディスク等の記憶媒体に格納された形態で流通されて画像処理装置10にインストールされてもよく、ネットワークを介して流通されて画像処理装置10にインストールされてもよい。
【0045】
散乱線補正処理プログラムを実行すると、画像処理装置10は散乱線補正装置として機能する。散乱線補正処理は画像再構成処理中に割り込んで実施される。
【0046】
X線検出部9から出力され、画像処理装置10が受信する画像は、測定画像と呼ばれる。測定画像の各画素値は、X線検出部9の各検出素子に到達したX線量子の個数に近似的に比例した値を表しているとみなすことができる。
【0047】
画像再構成処理プログラムで使用される再構成アルゴリズムは、X線量子の個数ではなく、X線の線減弱係数の線積分を用いて断面を再構成する。このため、画像再構成処理において、X線量子の個数の分布を示す測定画像を、線減弱係数の線積分の分布を示す画像(投影画像)に変換する必要がある。以下、測定画像から投影画像への変換(対数変換)について詳述する。
【0048】
画素のラベルをi、被写体が存在しないときの測定画像の画素値をI
0(i)、今回再構成を所望する被写体を置いたときの測定画像の画素値をI(i)、X線の経路をs、位置sにおける線減弱係数をμ(s)とすると、次の式(1)が成り立つ。この式(1)は、X線の減弱の様子を表す方程式である。
【数1】
【0049】
式(1)の左辺が測定画像の画素値であるのに対し、右辺の指数関数の中身は投影画像の画素値を正負反転したものである。よって、式(1)を指数関数の中身に関して解くことで、測定画像から投影画像への変換(対数変換)の変換式が求まる。よって、対数変換の変換式は次の式(2)のようになる。
【0051】
ここで、測定画像の一例を
図10(a)に示し、
図10(a)の測定画像を対数変換して得られる投影画像を
図10(b)に示す。
【0052】
画像処理装置10は、投影画像に対して、補正関数y=f(x)を用いて散乱線補正を行う。ここで、補正関数y=f(x)は、ロジスティック曲線を表すロジスティック関数y=α/[1+exp[-β(x-γ)]]を平行移動して得られる関数の逆関数である。さらに、本実施形態では、ロジスティック関数α、β、γをα=2a、β=2/a、γ=0に設定している。よって、本実施形態では、補正関数y=f(x)は次の式(3)で表され、aが補正関数y=f(x) の関数形を微調節するためのパラメータとなる。
【数3】
【0053】
このような補正関数y=f(x)を用いることにより、X線撮影で得られる投影画像(散乱線成分を含む投影画像)を補正関数y=f(x)によって変換して、散乱線成分を低減した投影画像にすることができる。すなわち、X線撮影で得られる投影画像から散乱線成分を低減した投影画像を直接的に導出することができる。また、X線撮影で得られる投影画像の画素値に対して連続的に散乱線補正を行っているので、散乱線補正の効果が不自然にならない。
【0054】
以下、パラメータaの値を設定する手順について説明する。このパラメータaの値を設定する手順は、画像処理装置10が行ってもよいが、他の画像処理装置が行うようにしてもよい。
【0055】
まず、同一の被写体に対して同一の投影角度でX線撮影して得られる散乱線成分の有無のみが異なる二つの投影画像を何らかの手段によって用意する。当該手段の具体例については後述する。なお、散乱線成分を含まない投影画像は、理想的には散乱線成分を全く含まない投影画像であるが、散乱線成分が多少残存していてもよい。
【0056】
次に、散乱線成分を含む投影画像と散乱線成分を含まない投影画像のそれぞれを、同一の分割方法で複数の領域に分割する。この分割例を
図11に示す。
図11に示す分割例では投影画像を等分割しているが、例えば歯列部分は細かく分割し、歯列以外の部分は粗く分割するようにしてもよい。また、分割するときの領域の広さは任意でよいが、投影画像に含まれるノイズの影響を考慮して調整することが望ましい。
【0057】
次に、散乱線成分を含む投影画像と散乱線成分を含まない投影画像のそれぞれに対し、各領域内の平均画素値を計算する。
【0058】
次に、散乱線成分を含む投影画像と散乱線成分を含まない投影画像の同じ領域内の平均画素値の対応関係を、グラフ中に一つの点としてプロットする。このプロットを全ての領域に対して行うことで、散乱線成分を含む投影画像と散乱線成分を含まない投影画像の同じ領域内の平均画素値の対応関係を示す点の集合体を得る。この点の集合体の一例を
図12に示す。
【0059】
そして、散乱線成分を含む投影画像と散乱線成分を含まない投影画像の同じ領域内の平均画素値の対応関係を示す点の集合体に、上記の式(3)で表される補正関数がフィッティングするように、パラメータaの値を調節する。散乱線成分を含む投影画像と散乱線成分を含まない投影画像の同じ領域内の平均画素値の対応関係を示す点の集合体に、上記の式(3)で表される補正関数がフィッティングしている例を
図13に示す。
図13中の白抜き四角は上記の式(3)で表される補正関数上の点を示している。
【0060】
ここで、X線撮影の際にX線検出部9が検出する全体的な散乱線の量はX線撮影の投影角度によって異なっている。このため、散乱線成分を含む投影画像と散乱線成分を含まない投影画像の同じ領域内の平均画素値の対応関係を示す点の集合体にフィッティングする補正関数の関数形は、X線撮影の投影角度によって異なることになる。したがって、X線撮影の投影角度に応じてパラメータaの値を調節する。
【0061】
本実施形態では、被写体の周りを一周する360度を等分して510回のX線撮影を行う場合、510個の投影角度のうち特定の投影角度の投影画像に対してのみ、上記の式(3)で表される補正関数のフィッティングを実行し、残りの投影角度に対応するパラメータaの値は補間によって間接的に導出する。このため、HDD107は、特定の投影角度それぞれに対応するパラメータaの各値を投影角度と対応付けて記憶し、パラメータaの値を補間するための補間プログラムを記憶している。補間プログラムが実行された後の投影角度とパラメータaの値との関係は例えば
図14のようになる。特定の投影角度同士の間隔は任意でよいが、補間により求まるパラメータaの値の精度と、補間後のパラメータaの値が振動する程度とのトレードオフを考慮して調整することが望ましい。
【0062】
適用する補間としては、補間後のパラメータaの値の推移が滑らかであり、かつ補間後のパラメータaの値ができるだけ振動しない補間が望ましく、例えば、Catmull-Romスプライン補間、Bスプライン補間などを挙げることができる。Catmull-Romスプライン補間は次の通り演算処理が簡単であるため、特に望ましい。補間後のパラメータaの値に関して多少の振動を許容する場合や、与えられる点の個数が少ない場合は、例えば、ニュートン補間、ラグランジュ補間などを適用しても良い。
【0063】
Catmull-Romスプライン補間で求まるパラメータaの値
は、注目投影角度に対応する投影画像のラベル(510枚の投影画像を投影角度順に並べたときの順序)をz、上記の式(3)で表される補正関数のフィッティングによってパラメータaの値を直接求めた投影画像のラベルのうち、注目する投影画像のラベルzから二つ前、一つ前、一つ後、二つ後のものをz
i (i=1,2,3,4)としたとき、次の式(4)で表される。
【数4】
【0064】
最後に、同一の被写体に対して同一の投影角度でX線撮影して得られる散乱線成分の有無のみが異なる二つの投影画像を用意する手段の一例について説明する。
【0065】
<<散乱線成分の有無のみが異なる二つの投影画像を用意する手段の前提となる理論>>
散乱線成分の有無のみが異なる二つの投影画像を用意する手段の内容を説明する前に、その前提となる理論について説明する。当該理論は、測定画像のピクセルの輝度値を元に散乱線による輝度値を算出する理論である。当該理論は、モンテカルロシミュレーションのシミュレーション結果を用いて当該理論を構築される。
【0066】
ここで、モンテカルロシミュレーションの計算のジオメトリーを
図15に示す。
図15(a)は上面図であり、
図15(b)は側面図である。被写体11は、X線焦点8AとX線検出器9Aとの間に配置される。X線検出器9Aはシンチレーター等を備えるフラットパネルディテクターとした。また、X線検出器9Aの手前にはカーボン9Bが設置されている。
【0067】
モンテカルロシミュレーションの計算において、X線焦点8Aで発生させるX線スペクトルは、実際の撮影において使用するX線管等の仕様に基づいてX線管から放出され、X線検出器9Aの位置でX線検出器9Aの有感領域となるようコリメートされた一様なX線束となるようにした。
【0068】
被写体については、生体に近づけるため、顎部を想定した直径15cmの円柱形の水ファントム12A、頭部を想定した直径18cmの円柱形の水ファントム12B、頸部を想定した直径13cmの円柱形の水ファントム12Cを
図16(a)に示す側面図および
図16(b)に示す上面図のように組み合せ、水ファントム12Aの内部に厚さ2mmの円筒状の皮質骨を設置し、水ファントム12Bの内部に厚さ1mmの円筒状の皮質骨を設置し、水ファントム12Aおよび12Cの内部に長径4cm、短径3cm、厚さ3mmの楕円筒状の頸椎部分12Dを設置した。ただし、
図16(a)に示す一点鎖線で囲った部分においては、円筒状の皮質骨および頸椎部分12Dをカットした。
【0069】
モンテカルロシミュレーションの計算においては、
図16に示す一点鎖線で囲った部分を金属の設置場所として、金属によるX線の減衰および散乱線を調べることにする。これは、骨があることによる周りからの散乱線の減衰効果を維持しつつ、骨によらない金属のみによる効果を見積もるためである。
【0070】
まず、
図16に示す水ファントムの組み合わせであって、
図16に示す一点鎖線で囲った部分に金属を設置しないものを被写体にしてモンテカルロシミュレーションの計算を行う。その計算結果を
図17において実線で示す。
図17に示すグラフの横軸は白画像における平均輝度値に対する全X線(直接線と散乱線)による輝度値の比であり、
図17に示すグラフの縦軸はX線検出器9Aの或るピクセルで検出される全X線量に対するその全X線量に含まれる散乱線量の比である。
【0071】
白画像における平均輝度値に対する全X線による輝度値の比は被写体のX線照射方向の厚みが薄いほど大きくなる。
図17において実線で示されている計算結果より、被写体のX線照射方向の厚みが薄いほど全X線量に対する散乱線量の比が小さくなることが分かる。
図17において実線で示されている計算結果は、例えばy=A/(x−C)+Bで近似することができる。A=0.049556、B=0.046501、C=−0.16274とすると、
図17において破線で示されている近似曲線が得られる。
【0072】
次に、下記(1)〜(3)の場合におけるモンテカルロシミュレーションの各計算結果を
図18及び
図19に示すグラフで比較する。
【0073】
図18に示すグラフの横軸は
図16に示すx軸方向のピクセル位置を示すピクセル番号であり、
図18に示すグラフの縦軸は白画像における平均輝度値に対する全X線による輝度値の比である。なお、ピクセル番号が大きいほど、対応するX線検出器9Aのピクセルに入射したX線が透過した被写体の厚みは厚い。
図18中の曲線C1は下記(1)の場合に得られる計算結果である。同様に、
図18中の曲線C2は下記(2)の場合に得られる計算結果であり、
図18中の曲線C3は下記(3)の場合に得られる計算結果である。
【0074】
また、
図19に示すグラフの横軸は
図16に示すx軸方向のピクセル位置を示すピクセル番号であり、
図19に示すグラフの縦軸はX線検出器9Aの或るピクセルで検出される全X線量に対するその全X線量に含まれる散乱線量の比である。
図19中の曲線C11は下記(1)の場合に得られる計算結果である。同様に、
図19中の曲線C12は下記(2)の場合に得られる計算結果であり、
図19中の曲線C13は下記(3)の場合に得られる計算結果である。
【0075】
(1)
図16に示す水ファントムの組み合わせであって、
図16に示す一点鎖線で囲った部分に金属を設置しないものを被写体にした場合
(2)
図16に示す水ファントムの組み合わせであって、
図16に示す一点鎖線で囲った部分に幅5mm、長さ8cm、厚さ3mmのチタンを、幅方向をz軸、長さ方向をy軸、厚さ方向をx軸に合わせて設置したものを被写体にしてX線の照射方向をx軸に合わせた場合
(3)
図16に示す水ファントムの組み合わせであって、
図16に示す一点鎖線で囲った部分に幅5mm、長さ8cm、厚さ1mmのAuAgPd合金を、幅方向をz軸、長さ方向をy軸、厚さ方向をx軸に合わせて設置したものを被写体にしてX線の照射方向をx軸に合わせた場合
【0076】
図18及び
図19から、X線検出器9Aのピクセルで検出される全X線による輝度値(測定画像のピクセルの輝度値に相当)が同程度であっても、X線が透過する金属の種類や厚さによって散乱線量が異なることが分かる。
【0077】
例えば、白画像の平均輝度値が3万であり、X線検出器9Aのピクセルで検出される全X線による輝度値が600である条件すなわち白画像における平均輝度値に対する全X線による輝度値の比が0.02である条件を満たすピクセル番号は、上記(2)の場合は201であり、上記(3)の場合は5である(
図18参照)。これらのピクセル番号に対応するピクセルで検出される全X線量に対するその全X線量に含まれる散乱線量の比を
図19からから求めると、それぞれ0.491、0.987となり、散乱線による輝度値に変換するとそれぞれ295、592となる。したがって、測定画像のピクセルの輝度値が同じ600であっても、X線がどのような材質の物質を透過したかによって、すなわち、物質の減弱係数の違いによって、散乱線量(測定画像のピクセルの散乱線成分)は異なってくる。
【0078】
図16に示す水ファントムの組み合わせであって、
図16(a)に示す一点鎖線で囲った部分に金属を設置しないものを被写体にしてモンテカルロシミュレーションの計算を行って得られる白画像における平均輝度値に対する全X線による輝度値の比は、被写体のX線照射方向の厚みに応じて異なる(
図18中の曲線C1参照)。以下、被写体の着目する部位を透過するX線経路上の骨あるいは金属を皮膚に置き換えた場合にX線検出器9Aのピクセルで得られる輝度値を理想値と呼び、白画像における平均輝度値に対する理想値の比を理想値比と呼ぶ。
【0079】
理想値比を固定した状態で金属の種類や厚さを変えながら、白画像における平均輝度値に対する全X線による輝度値の比と、X線検出器9Aの或るピクセルで検出される全X線量に対するその全X線量に含まれる散乱線量の比との関係を求めることで
図20に示す一つのグラフを得る。例えば、理想値比を0.1に固定した状態で
図18及び
図19中の白抜き丸、白抜き三角から
図20中の白抜き丸、白抜き三角の各点を得て、その各点からy=A/(x−C)+Bの曲線を近似してA、B、Cの各値を求めることで
図20中の曲線C29を得ることができる。
【0080】
そして、理想値比を変更することで、
図20に示すそれぞれのグラフを得る。
図20中の曲線C21は理想値比が1のグラフであり、
図20中の曲線C22は理想値比が0.3のグラフであり、
図20中の曲線C23は理想値比が0.1のグラフであり、
図20中の曲線C24は理想値比が0.03のグラフである。
【0081】
ここで、
図20中の各曲線はX線撮影の投影角度を或る値に固定した場合に対応するものである。そして、白画像における平均輝度値に対する全X線による輝度値の比と、X線検出器9Aの或るピクセルで検出される全X線量に対するその全X線量に含まれる散乱線量の比との関係を示す曲線は、X線撮影の投影角度に応じて異なる。なぜなら、歯列がX線焦点8Aに近い側に位置するような投影角度のX線撮影に対応する場合には、
図16(a)に示す一点鎖線で囲った部分内で金属をX線焦点8Aに近い側に設置し、歯列がX線焦点8Aに遠い側に位置するような投影角度のX線撮影に対応する場合には、
図16(a)に示す一点鎖線で囲った部分内で金属をX線焦点8Aに遠い側に設置するといったように、X線撮影の投影角度によって被写体中における金属の設置位置が異なり、この金属の設置位置の違いが金属を透過した直接線を検出するX線検出器9Aのピクセルで検出される散乱線量に影響を与えるからである。
【0082】
以上により、測定画像のピクセルの輝度値を元に散乱線による輝度値を算出する方法をまとめると、以下のようになる。
[1]測定画像の全てのピクセルについて理想値比を算出する。
[2]理想値比と、白画像における平均輝度値に対する測定画像の輝度値の比と、X線撮影の投影角度とから、測定画像の全てのピクセルの散乱線成分を算出する。
【0083】
ところで、CT撮影においては余分な被ばくを抑えるためX線の照射範囲がX線検出器9Aの有感領域に一致するようX線焦点8Aの近傍でX線をカットしている。よって、X線検出器9Aの端部に位置するピクセルでは、X線検出器9Aの中央部に位置するピクセルと比較して被写体からの散乱線による影響が少ない。その結果、端部に位置するピクセルでは散乱線成分が減少する。
【0084】
この減少傾向は、X線検出器9Aの端のピクセルほど強いが、X線検出器9Aの端から離れるにつれて連続的に小さくなり、X線検出器9Aの端から120ピクセル以上離れたX線検出器9Aの中央部ではほぼ0となる。しかし、白画像における平均輝度値に対する全X線による輝度値の比が高いピクセルにおいては、被写体のX線照射方向の厚みが薄いので元々被写体からの散乱線は少ない。このため、理想値比が高いピクセルほど、ピクセルがX線検出器9Aの端部に位置したことによる散乱線成分の減少は小さくなる。したがって、ピクセルがX線検出器9Aの端部の方に位置し、且つ、理想値比が低い場合は、上述した散乱線成分の減少を加味して散乱線成分を求めることが望ましい。
【0085】
<<散乱線成分の有無のみが異なる二つの投影画像を用意する手段の内容>>
散乱線成分の有無のみが異なる二つの投影画像を用意する手段は、理想値比算出処理、散乱線成分算出処理、補正処理、変換処理を実行するコンピュータである。当該コンピュータは、理想値比算出処理、散乱線成分算出処理、補正処理、変換処理の順で処理を実行する。
【0086】
<理想値比算出処理>
コンピュータは、理想値比算出処理において、例えば、512×512ピクセルの測定画像を16×16ピクセルごとにまとめ、横方向32個×縦方向32個の合計1024個の領域に分割し、各領域の理想値比を計算した後に各ピクセルの理想値比を算出する。このような算出手順にした理由は、被写体のX線照射方向の厚みに応じてピクセルの輝度値は徐々に変化するものの、1ピクセルごとに調べていたのでは、各ピクセルの輝度値の誤差が大きいため、輝度値の減少または増加が被写体のX線照射方向の厚みが変化したためであるのか、それとも誤差によるものなのか判別するのが非常に難しくなるからである。なお、上記のピクセルサイズや分割する領域の個数はあくまで例示であり、上記に示した値に限定されない。
【0087】
また、コンピュータは、横方向32個×縦方向32個の領域の各中心位置の理想値比について、まず横方向に領域を移動して得られる32個の曲線(横方向の領域をx、白画像における平均輝度値に対する中心位置の全X線による輝度値の比をyとして得られる曲線)を測定画像と
図16に示す水ファントムの組み合わせであって、
図16(a)に示す一点鎖線で囲った部分に金属を設置しないものを被写体にしてモンテカルロシミュレーションの計算を行って得られるデータとからそれぞれ算出し、次に縦方向に領域を移動して得られる32個の曲線(縦方向の領域をx、白画像における平均輝度値に対する中心位置の全X線による輝度値の比をyとして得られる曲線)を測定画像と
図16に示す水ファントムの組み合わせであって、
図16(a)に示す一点鎖線で囲った部分に金属を設置しないものを被写体にしてモンテカルロシミュレーションの計算を行って得られるデータとからそれぞれ算出するという手順で理想値比算出処理を行う。なお、本実施形態では、各領域を代表する理想値比としてそれぞれの中心位置の理想値比を採用しているが、各領域を代表する理想値比はこれに限定されることはなく、例えば、各領域において領域全体の理想値比の平均値を求め、各領域を代表する理想値比として各平均値を採用してもよい。
【0088】
測定画像を対象として横方向に輝度値の高い方から低い方へ行う方向で領域を移動したとき、白画像における平均輝度値に対する中心位置の全X線による輝度値の比は、骨部分に入るまでの皮膚のみの部分においては基本的にy=A/(x−C)+Bの曲線に従って変化し、皮膚のみの部分から骨部分に入ると当該曲線から外れて大きく落ち込む。また、当該曲線(xの範囲は骨部分に入るまでの皮膚のみの部分に限定)と
図18中の曲線C1とは必ずしも一致しない。
【0089】
そこで、コンピュータは、当該曲線(xの範囲は骨部分に入るまでの皮膚のみの部分に限定)と
図18中の曲線C1とが一致するように、
図18中の曲線C1をx軸方向に伸縮処理或いは縮小処理し、x軸方向に伸縮処理或いは縮小処理した後の
図18中の曲線C1に基づいて領域の中心位置の理想値比を算出する。
【0090】
しかし、X線を被写体の背面付近から照射する場合および正面付近から照射する場合については、皮膚のみの部分の範囲が極端に狭くなってしまうため、測定画像を対象として横方向に輝度値の高い方から低い方へ行う方向で領域を移動したときに求まる理想値比の算出精度が悪くなってしまう。
【0091】
一方、縦方向に関しては、顎部や頸部等の広い範囲で皮膚のみの部分がある。そこで、X線を被写体の背面付近から照射する場合や正面付近から照射する場合に対応する投影角度においては、横方向に領域を移動させたときの理想値比の計算で皮膚のみの部分がある範囲以下となった時点で、縦方向に領域を移動させたときの理想値比の計算に切り替え、端から例えば5列分について縦方向に領域を移動させたときの理想値比の計算を行うようにする。この縦方向に領域を移動させたときの理想値比の計算結果から得られる値を、皮膚のみの部分から得られる理想値比と仮定することによって、皮膚のみの部分から理想値比を算出することが困難だった横方向に領域を移動させたときの理想値比の算出が可能となるので、その後横方向に領域を移動させたときの理想値比の計算を再開する。
【0092】
横方向に領域を移動させたときの理想値比の計算は各行で行うため、
図18中の曲線C1に対するx軸方向の伸縮処理或いは縮小処理の程度も各行で異なる。このため、縦方向の理想値比の変化が滑らかではなく、凸凹になることが多い。そこで、縦方向についても理想値比の変化を滑らかにする処置を施す必要がある。ただし、横方向の場合と同様の処置を行ったのでは、次は横方向の理想値比の変化がまた凸凹になってしまうので、本実施形態では、最小二乗法を利用することにした。
【0093】
y=A/(x−C)+Bに最小二乗法を適用すると非常に複雑になり、A、B、Cの値を求めることができない。そこで、理想値比に対して対数z=logyをとると、zは局所的にはxに比例することから、z=Ax+Bについて最小二乗法を適用し、その後にzをyに戻すことで、理想値比を算出するようにした。本実施形態は、最小二乗法を適用する範囲を4つに分割し、それぞれについて境界が滑らかになるようにしつつ別々に最小二乗法を適用した。なお、最小二乗法を適用する範囲の分割数は4つ以外であってもよい。
【0094】
さらに、コンピュータは、上述した手順で算出した各領域の理想値比の変化をより滑らかにするため、各領域を注目領域の対象とし、注目領域の周りの領域の理想値比の平均値を注目領域の理想値比とする平滑化処理を行う。
【0095】
理想値比算出処理の最後において、コンピュータは、各領域の中心位置の理想値比に基づいて各ピクセルの理想値比の値を算出する。例えば、理想値比の値の算出対象であるピクセルが、隣り合う領域の中心位置同士を結ぶ線分上に位置する場合は、当該線分上で理想値比が線形的に変化するものとし、理想値比の値の算出対象であるピクセルが、隣り合う領域の中心位置同士を結ぶ線分上に位置しない場合は、当該ピクセルを囲む四つの中心位置の理想値比を利用し、まず当該ピクセルと横方向の座標が同一であって横方向に隣り合う一組の領域の中心位置同士を結ぶ線分上に位置する第1の点の理想値比を当該線分上で理想値比が線形的に変化するものとして算出し、次に当該ピクセルと横方向の座標が同一であって横方向に隣り合うもう一組の領域の中心位置同士を結ぶ線分上に位置する第2の点の理想値比を当該線分上で理想値比が線形的に変化するものとし算出し、そして第1の点と第2の点とを結ぶ線分上に位置する場合は、当該線分上で理想値比が線形的に変化するものとすることで各ピクセルの理想値比の値を算出できるが、他の方法で各ピクセルの理想値比の値を求めてもよい。例えば、上記の方法において横方向を縦方向に置き換えてもよい。
【0096】
<散乱線成分算出処理>
コンピュータは、測定画像のピクセル毎に、上述した理想値比算出処理で算出した理想値比と、白画像における平均輝度値に対する測定画像の輝度値の比と、X線撮影の投影角度とから、
図20に示す曲線のデータを用いて測定画像の散乱線成分を算出する。
図20に示す曲線のデータは、y=A/(x−C)+Bの定数A、B、Cの各値が、理想値比と投影角度とに関連付けられたデータテーブルの形式でコンピュータの記憶部に記憶されている。
【0097】
ここで、コンピュータは、ピクセルがX線検出器9Aの端部の方に位置し、且つ、理想値比が低い場合は、上記の通り算出した散乱線成分を減少させる修正処理を行うようにしてもよい。
【0098】
<補正処理>
コンピュータは、測定画像のピクセル毎に、測定画像のピクセルの輝度値から、上述した散乱線成分算出処理で算出した散乱線成分を除去する補正処理を行う。
【0099】
<変換処理>
コンピュータは、X線撮影で得られる測定画像と上記補正処理後の測定画像のそれぞれに対して上記の式(2)を用いた対数変換を行い、投影画像に変換する。これにより、散乱線成分の有無のみが異なる二つの投影画像を用意することができる。
【0100】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。例えば、人間の頭部を模したファントムをコンピュータ上で生成し、EGS(Electron-Gamma Shower)などを用いたシミュレーションによって、同一の被写体に対して同一の投影角度でX線撮影して得られる散乱線成分の有無のみが異なる二つの投影画像を用意してもよい。
【0101】
また例えば、上述した実施形態では、測定画像に対して、ロジスティック曲線を表すロジスティック関数y=α/[1+exp[-β(x-γ)]]を平行移動して得られる関数の逆関数を用いて散乱線補正を行ったが、投影画像は測定画像を対数変換した画像であるため、上述した実施形態で行った散乱線補正の代わりに、測定画像に対して、ロジスティック曲線を表すロジスティック関数y=α/[1+exp[-β(x-γ)]]を平行移動して得られる関数を用いて散乱線補正を行ってもよい。
【0102】
また例えば、X線撮影の撮影範囲が制限されている等の理由により、X線撮影の投影角度が変わっても補正関数の関数形がほとんど変化しない場合には、パラメータaの値を一つに固定してもよい。
【0103】
上述した実施形態では、特定の投影角度に対応するパラメータaの各値のみをHDD107が記憶しているが、X線撮影を行う全ての投影角度に対応するパラメータaの各値を記憶するようにしてもよい。また、投影角度とパラメータaの値との関係を関数式で近似できるのであれば、その関数式を用いた演算によって投影角度に応じたパラメータaの値を求めるようにしてもよい。
【0104】
上述した実施形態において説明した歯科用あるいは耳鼻科用等のX線撮影装置では、被写体が人間の頭部(特に顎部)に限定されており、被写体は毎回似通った形状である。このため、X線撮影で得られる画像に含まれる散乱線成分の分布の仕方も個人差は小さいとみなしてもよいと考えられる。従って、被写体が人間の頭部(特に顎部)である場合は、同一の補正関数および同一のパラメータaの値の推移で散乱線補正を行うことで、適切に散乱線成分を低減できることが期待できる。ただし、本発明は被写体が人間の頭部(特に顎部)である場合に限定されるものではない。例えば、被写体の種類をはじめとする投影角度以外の撮影条件に応じて、補正関数の固定係数や補正関数に含まれるパラメータの値の投影角度に応じた推移を変更するようにしてもよい。