【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1:各種燻煙材を用いた塩化カリウムの燻煙処理)
(塩化カリウムの燻煙処理)
回転ドラム式燻製装置(300L容量)を用いて、塩化カリウム(粒径60メッシュ)20kgを燻煙処理した。燻煙材としては、オーク、ヒッコリー、サクラのスモークチップ各1kgを用いた。40℃にて90分間燻煙処理した。
【0045】
(燻煙処理した塩化カリウムの官能評価用食品の調製)
<チキンだし>
鶏ガラ1質量部に水1.83質量部を加え、100℃にて10分間加熱した。次いで、灰汁を除き、さらにプレート式熱濃縮機を用いて118℃にて2時間加熱し、30倍に濃縮してチキンエキスを得た。チキンエキスを水で15倍に希釈してチキンだし汁とした。
【0046】
チキンだし汁に、グルタミン酸ナトリウムを0.01%添加しただし汁、酵母エキスを0.08%添加しただし汁もそれぞれ調製した。
【0047】
<こんぶだし>
水1kgに昆布30gを入れ、5℃にて一晩放置後、昆布を除いてこんぶだし汁とした。
【0048】
<かつおだし>
水2kgを沸騰させ、鰹削り節60gを入れた。煮立たせた後、鰹削り節を除いて放冷し、かつおだし汁とした。
【0049】
<しいたけだし>
水1.7kgに干ししいたけ50gを入れ、5℃にて一晩放置後、干ししいたけを除いてしいたけだし汁とした。
【0050】
(燻煙処理した塩化カリウムの官能評価)
各種だし汁に食塩(塩化ナトリウム)および塩化カリウム(燻煙処理または未処理)を合わせて0.8%添加して官能評価を行った。食塩を0.8%添加したものをコントロールとした。官能評価では、成人男女12人がだし汁を試食し、「塩味」、「不快味(苦味・収斂味)」、「総合的なおいしさ」の各々について、コントロールを基準点の5点とし、5点満点で評価した。結果(平均点)を表1〜表5に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
表1〜5から明らかなように、いずれのだし汁についても、燻煙処理した塩化カリウムを、食塩の一部の代替物として添加した場合も、十分な塩味があり、不快味をほとんど感じることがなく、十分なおいしさを感じることができた。また、だし汁によっておいしさを最も感じる燻煙材が異なっていた。
【0057】
(実施例2:塩化カリウムの燻煙処理)
(塩化カリウムの燻煙処理)
自家製小型燻製装置(燻煙を発生させる空間(A):30×16×16cm(縦×横×奥行);燻煙を充満させる空間(B):29×30×28cm(縦×横×奥行);Bの背面にファンがついており、Aで発生する燻煙を、パイプを通してBに送り込み、Bで燻煙を充満させるとともに煙突から排気する)を用いて、塩化カリウム(粒径60メッシュ)30gを燻煙処理した。燻煙材としては、オークのスモークチップ80gを用いた。40℃にて、10、20、30または40分間燻煙処理した。
【0058】
(燻煙処理した塩化カリウムの官能評価)
チキンだし汁を用いて、実施例1と同様にして、官能評価を行った。結果(平均点)を表6に示す。
【0059】
【表6】
【0060】
表6から明らかなように、燻煙処理時間が短かすぎると燻煙処理による効果が得られず、燻煙処理時間が長すぎると、おいしさが感じられなかった。これは、燻煙臭が強すぎたためであった。
【0061】
(実施例3:燻煙処理した塩化カリウムの食品添加剤としての各種食品への添加)
塩化カリウムの燻煙処理は、実施例1と同様に行った。
【0062】
<うどんつゆ>
以下の表7の配合に従って、うどんつゆを調製し、食塩(塩化ナトリウム)および塩化カリウム(燻煙処理または未処理)を添加して、実施例1と同様にして、官能評価を行った。結果を表8に示す。
【0063】
【表7】
【0064】
【表8】
【0065】
<ラーメンスープ>
以下の表9の配合に従って、ラーメンスープを調製し、食塩(塩化ナトリウム)および塩化カリウム(燻煙処理または未処理)を添加して、実施例1と同様にして、官能評価を行った。結果を表10に示す。
【0066】
【表9】
【0067】
【表10】
【0068】
表8および10から明らかなように、減塩率が同じ減塩区1〜5において、塩化カリウムを添加しなかった場合(減塩区1)、不快味は感じないが、塩味が著しく低下して総合的なおいしさも感じられなかった。燻煙処理した塩化カリウムを添加した場合(減塩区3〜5)、ヒッコリーを燻煙材として用いると燻煙味・燻煙臭が強く風味がよくなかったが、オークやサクラを燻煙材として用いると未処理の塩化カリウムを添加した場合(減塩区2)よりも十分なおいしさを感じることができた。
【0069】
<ソーセージ>
以下の表11の配合および以下の方法に従って、ソーセージを調製し、食塩(塩化ナトリウム)および塩化カリウム(燻煙処理または未処理)を添加して、実施例1と同様にして、官能評価を行った。結果を表12に示す。
【0070】
(方法)
1.原料肉(豚もも肉)をミンサーで挽く。
2.原料肉・食塩・リン酸塩・グルコース・アスコルビン酸ナトリウム・水を添加しフードカッターで混合する(1.5分間)。
3.豚脂を投入しフードカッターで混合する(70秒間)。
4.コーンスターチを添加し、混合する(30秒間)。
5.ケーシングチューブに充填する。
6.85℃にて40分間湯煮する。
7.冷却する。
【0071】
【表11】
【0072】
【表12】
【0073】
表12から明らかなように、燻煙処理した塩化カリウムを添加した場合(減塩区3〜5)、未処理の塩化カリウムを添加した場合(減塩区2)と比較して、呈味改善効果が認められた。ソーセージにおいて、食塩の添加は塩味を付与し嗜好性を向上させるだけでなく、肉の保水性・結着性に影響を与える。減塩区1は弾力がなく非常に軟らかい食感であったが、減塩区2〜5の塩化カリウム添加区ではコントロールと同等の弾力のある食感であったため、物性面においても塩化カリウムは食塩の代替品として使用することが可能であるといえる。
【0074】
(実施例4:燻煙処理した塩化カリウムのガスクロマトグラフ質量分析)
実施例1で得られた燻煙処理した塩化カリウム(試料)30gを、500ml容量のヘッドスペースボトルに入れ、このボトルにアルコール用NeedlEX(信和化工株式会社製濃縮用注射針)を挿入した。次いで、このボトルを70℃で1時間インキュベートした後、NeedlEX取り出し、この注射針で濃縮採取した試料を、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−17A,MS−QP5050(株式会社島津製作所製))で分析した。
【0075】
このガスクロマトグラフ質量分析におけるその他の分析条件、昇温プログラムおよびキャリアガス条件はそれぞれ以下の通りであった:
<その他の分析条件>
カラム:DB−1(60m×0.32mm,i.d. 1μmフィルム;J&W Scientific製)
スプリット分析
【0076】
<昇温プログラム>
イニシャル温度:50℃
イニシャル時間:1分
昇温時間:10℃/分
ファイナル温度:300℃
ファイナル時間:1分
【0077】
<キャリアガス>
カラム入口圧:100kPa
カラム流量:2.3mL/分
線速度:38.8cm/秒
全流量:51.3mL/分
【0078】
得られた結果を
図1および表13に示す。
【0079】
【表13】
【0080】
図1に示されるように、実施例1で得られた燻煙処理した塩化カリウムには、燻煙により数多くの化合物が塩化カリウムに担持されており、かつ表13に示されるような物質が、燻煙処理によって特に顕著に担持されたことがわかる。また、この結果と、上記実施例に示す
図1ならびに表8、10および12の結果とを考慮すると、燻煙処理によって、各表に記載されるような塩味および不快味の調整がなされ、総合的なおいしさとして優れた味覚を提供し得たことがわかる。
【0081】
(実施例5〜8:他の無機金属塩の燻煙処理)
表14に示されるように、塩化カリウムの代わりに、それぞれ粒径60メッシュの塩化マグネシウム(実施例5)、ピロリン酸第二鉄(実施例6)、硫酸アルミニウムカリウム(実施例7)および硫酸アルミニウム(実施例8)を用い、所定の燻煙材を用いて20分間燻煙処理したこと以外は、実施例2と同様にして、各無機金属塩を燻煙処理した。
【0082】
【表14】
【0083】
次いで、得られた燻煙処理した無機金属塩と、このような燻煙処理を行わなかった無機金属塩(コントロール)とを用いて、それぞれ0.05%(w/v)水溶液を調製し、成人男女12人による官能評価を行った。官能評価にあたっては、各水溶液を試飲し、不快味(苦味・収斂味・金属味)の各々について、各不快味が「1点:強い」「2点:どちらかというと強い」「3点:強いとも弱いとも思わない」「4点:どちらかというと弱い」「5点:弱い」との基準を設け、5点満点で評価した。それぞれの結果(平均点)、および試飲した際の代表的なコメントについて表15に示す。
【0084】
【表15】
【0085】
表15に示すように、本発明の方法を用いて燻煙処理をした無機金属塩を用いると、コントロールで感じた不快味が実施例5〜8のいずれにおいても著しく低減(評価点は上昇)していることがわかる。このように、上記塩化カリウムだけでなく、他の無機金属塩に対しても燻煙処理によって呈味改善の効果が生じていることがわかる。