特許第6142316号(P6142316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 奥野製薬工業株式会社の特許一覧

特許6142316無機金属塩の呈味改善方法、ならびに食品添加剤の製造方法および食品添加剤
<>
  • 特許6142316-無機金属塩の呈味改善方法、ならびに食品添加剤の製造方法および食品添加剤 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142316
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】無機金属塩の呈味改善方法、ならびに食品添加剤の製造方法および食品添加剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20170529BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20170529BHJP
   A23L 27/40 20160101ALI20170529BHJP
【FI】
   A23L27/00 D
   A23L29/00
   A23L27/40
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-271393(P2012-271393)
(22)【出願日】2012年12月12日
(65)【公開番号】特開2013-143934(P2013-143934A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2015年10月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-276516(P2011-276516)
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】北野 由希
(72)【発明者】
【氏名】市岡 法隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【審査官】 田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−062117(JP,A)
【文献】 特開2009−077651(JP,A)
【文献】 特開平05−017314(JP,A)
【文献】 特開2009−027927(JP,A)
【文献】 特開2010−004767(JP,A)
【文献】 特開2010−235557(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/034919(WO,A1)
【文献】 ピロリン酸第二鉄,富田製薬−製品情報,日本,2006年,URL,http://www.tomitaph.co.jp/products/food/index15.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00
A23L 27/40
A23L 29/00
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機金属塩を燻煙で処理する工程を含む、無機金属塩の呈味改善方法であって、
該無機金属塩が塩化カリウムである、方法
【請求項2】
前記燻煙が、前記塩化カリウムを攪拌した状態で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記燻煙が、30分から2時間30分の燻煙時間で行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
無機金属塩を燻煙で処理する工程を含む、呈味が改善された食品添加剤の製造方法であって、
該無機金属塩が塩化カリウムである、方法
【請求項5】
前記燻煙が、前記塩化カリウムを攪拌した状態で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記燻煙が、30分から2時間30分の燻煙時間で行われる、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機金属塩の呈味改善方法、ならびに食品添加剤の製造方法および食品添加剤に関し、より詳細には、無機金属塩を含有する食品添加剤の呈味を改善させた、無機金属塩の呈味改善方法、ならびに食品添加剤の製造方法および食品添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の味付けにおいて、塩味は最も重要な要素である。食品のおいしいとされる塩分濃度は食材や調理方法によって自ずと決まってくるが、現代人の食生活においては、塩分の摂り過ぎが問題となっている。食塩(塩化ナトリウム)は、過剰摂取により高血圧、心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病を引き起こすリスクを高める。
【0003】
日本人の食塩摂取量が、成人で平均10.9g/日(男性11.9g/日、女性10.1g/日、平成20年国民健康・栄養調査結果の概要(厚労省発表))であるのに対して、健康を維持するために目標とされる成人の食塩摂取量は、男性で9.0g/日未満、女性で7.5g/日未満である(日本人の食事摂取基準2010)。特に、塩分過多が指摘される加工食品の減塩(食塩摂取量の低減)が課題となっている。
【0004】
特許文献1は、減塩飲食品に塩味を付与することなくおいしさを付与するための組成物として、植物性たん白加水分解物と酵母エキスの混合物を開示している。特許文献2は、塩化ナトリウムの塩味を増強するために、ソルビトール、高糖化還元水飴を添加する方法を開示している。
【0005】
一方、塩味を維持しつつ減塩を図るために、塩化ナトリウムに替わる塩味成分として塩化カリウムの利用が検討されている。しかし、塩化カリウムは、塩味以外に苦味、えぐ味(収斂味)などの不快味を呈するため、食塩の代替物とはなり得ていない。従来より、塩化カリウムの苦味などを抑える技術が検討されている。
【0006】
特許文献3は、塩化カリウムに塩化アンモニウム、乳酸カルシウム、L−アスパラギン酸ナトリウム、L−グルタミン酸塩、核酸系呈味物質を配合した調味料用組成物を開示している。特許文献4は、塩化カリウムにアミノ酸系旨味成分、核酸系旨味成分、グリチルリチン(甘草成分)を添加した塩味料を開示している。特許文献5は、植物抽出物、植物精油などを含有するカリウム塩の呈味改善剤を開示している。しかし、十分な効果が得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−4668号公報
【特許文献2】特開2008−99624号公報
【特許文献3】特開平11−187841号公報
【特許文献4】特開昭57−138359号公報
【特許文献5】特開2010−4767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、食品用添加素材として有用な無機金属塩が固有に有する呈味を保持または向上しつつ、かつ当該金属塩が副次的に有する不快味を解消または低減し得る、無機金属塩の呈味改善方法、ならびに食品添加剤の製造方法および食品添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、塩化カリウムを燻煙処理することによって、塩化カリウムの塩味を保ちつつ不快味を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、無機金属塩を燻煙で処理する工程を含む、無機金属塩の呈味改善方法である。
【0011】
1つの実施態様では、上記無機金属塩は、中性から酸性の無機金属塩である。
【0012】
1つの実施態様では、上記中性から酸性の無機金属塩は、塩化カリウム、ピロリン酸第二鉄、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウム、塩化カルシウム、および塩化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属塩である。
【0013】
本発明はまた、無機金属塩を燻煙で処理する工程を含む、食品添加剤の製造方法である。
【0014】
1つの実施態様では、上記無機金属塩は、塩化カリウム、ピロリン酸第二鉄、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウム、塩化カルシウム、および塩化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属塩である。
【0015】
本発明はまた、上記で得られた食品添加剤を含有する、食品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、食品用添加素材として有用な無機金属塩が固有に有する呈味を保持または向上しつつ、かつ無機金属塩の不快味を解消または低減させた食品添加剤を提供することができる。その結果、各種の食品製造および調理に際し、製造される食品、料理等において当該無機金属塩固有の呈味を一層活かすことができる。本発明の食品添加剤は身体にとって安全であり、その製造においては複雑な製造設備を必要とせず、製造従事者にとって安全な環境で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で得られた燻煙処理した塩化カリウムについて、ガスクロマトグラフ質量分析にかけた際(実施例4)の当該燻煙処理した塩化カリウムのスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の食品用無機金属塩の呈味改善方法について説明する。
【0019】
本発明においては、無機金属塩が燻煙で処理される。
【0020】
本発明に用いられる無機金属塩は、食品製造分野または調理分野において一般に使用され得る食品用あるいは食用の無機金属塩である。
【0021】
無機金属塩の例としては、特に限定されないが、例えば、無機性の、カリウム塩、マグネシウム塩、鉄(II)塩、アルミニウム塩、およびカルシウム塩ならびにそれらの組合せが挙げられる。
【0022】
1つの実施態様では、本発明に用いられる無機金属塩は、例えば、水に溶解させた際に、中性から酸性である。無機金属塩の具体的な例としては、塩化カリウム、ピロリン酸第二鉄、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウム、塩化カルシウム、および塩化マグネシウムならびにそれらの組合せが挙げられる。すなわち、本発明の呈味改善方法においては、上記無機金属塩は1種またはそれ以上を組み合わせたものが使用され得る。複数の無機金属塩を組み合わせる場合の量比は特に限定されず、当業者がその使用目的に応じて任意に設定することができる。
【0023】
本発明において、無機金属塩の燻煙処理は、例えば燻煙を充満させた空間にこのような無機金属塩を一定時間配置することにより行われる。
【0024】
燻煙は、例えば、燻煙材を高温下で加熱することにより発生する煙であって、燻煙材に含まれる種々の化学的成分から構成されるものである。燻煙の発生は、無機金属塩を処理する閉鎖空間と同じ空間内で行われてもよく、あるいは燻煙を発生させる空間は燻煙を充満させる空間とは異なる空間で行われてもよい。この場合、燻煙は燻煙を発生させる空間から燻煙を充満させる空間に配管などを介して導入される。
【0025】
燻煙を充満させる空間の大きさは、特に限定されない。燻煙処理は、例えば、閉鎖空間で行われ得るが、燻煙の排気口を備えた空間(例えば燻製装置内)で行われてもよい。
【0026】
無機金属塩の燻製処理は、例えば、回転式ドラムに無機金属塩を仕込んだ燻製装置においてドラムを回転しながら(すなわち適度に攪拌された環境下で)行われてもよい。攪拌すると、均一に燻煙処理された無機金属塩を含む食品添加剤などを一度に多く得ることができる。さらに、燻煙を充満させる空間の省スペース化を図ることもできる。攪拌手段としては、必ずしも上記に限定されず、例えば、当業者に公知の機械式攪拌手段、送風式攪拌手段が用いられてもよい。
【0027】
燻煙材としては、特に限定されず、例えば、オーク、ヒッコリー、サクラ、ナラ、リンゴ、ブナ、クヌギ、クルミ、ならびにこれらの組合せのような木材が挙げられる。燻煙材の種類および/または組合せは、後述する本発明の呈味が改善された食品添加剤およびそれを配合させた食品の呈味を考慮して、適宜選択することができる。なお、燻煙材には、上記木材の樹皮を除いた木質部を粉砕し、得られた粉末を棒状に固めたスモークウッド、および/または木質部を粒状に細かくしたスモークチップを用いてもよい。
【0028】
燻煙を充満させた空間の燻煙の濃度は特に限定されない。
【0029】
燻煙を充満させた空間の温度は、特に限定されず、例えば、10℃〜140℃であり、好ましくは20℃〜90℃である。10℃未満の場合、燻煙が液化して木酢液を生じ、無機金属塩と一緒になってペースト状になることがあり、140℃を超えると、燻煙量が多くなりすぎて、所望でない風味となることがある。
【0030】
無機金属塩は、必ずしも限定されないが、一定の粒度に整粒されたものを用いることが望ましい。粒径は、特に限定されず、例えば、10メッシュ〜400メッシュであり、好ましくは20メッシュ〜100メッシュである。粒径が10メッシュ未満の場合、呈味の偏りが出やすく、400メッシュを超えると、無機金属塩粉末が上記のような攪拌下での燻煙の際に飛散し易くなって現実的な作業に適さなくなるおそれがある。なお、上記メッシュサイズは、日本工業規格(JIS Z8801)による。
【0031】
燻煙を充満させた空間で無機金属塩を処理する時間(燻煙時間)は、一度に処理する無機金属塩の量、燻煙濃度、処理する空間容積等によって変動するため、必ずしも限定されないが、例えば、10分〜5時間であり、好ましくは10分〜3時間であり、より好ましくは20分〜2時間30分である。塩化カリウムを攪拌する場合、好ましくは30分〜2時間30分であり、塩化カリウムのすべての粒子が燻煙に接することができるように薄く広げて静置する場合、好ましくは20分〜40分である。燻煙時間がこのような時間内に設定されることにより、製造効率を良好に保持したまま、燻煙臭が適度に抑制され、無機金属塩に良好な呈味を付与することができる。
【0032】
このようにして食品用無機金属塩の呈味を改善することができる。
【0033】
次に、本発明の食品添加剤の製造方法について説明する。
【0034】
この食品添加剤の製造方法においては、無機金属塩が燻煙で処理される。
【0035】
本発明の製造方法において、無機金属塩には、上記無機金属塩の呈味改善方法で使用する無機金属塩を使用することができる。
【0036】
無機金属塩の例としては、特に限定されないが、例えば、無機性の、カリウム塩、マグネシウム塩、鉄(II)塩、アルミニウム塩、およびカルシウム塩ならびにそれらの組合せが挙げられる。
【0037】
1つの実施態様では、本発明に用いられる無機金属塩は、例えば、水に溶解させた際に、中性から酸性である。無機金属塩の具体的な例としては、塩化カリウム、ピロリン酸第二鉄、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウム、塩化カルシウム、および塩化マグネシウムならびにそれらの組合せが挙げられる。
【0038】
すなわち、本発明の製造方法においては、上記無機金属塩は1種またはそれ以上を組み合わせたものが使用され得る。複数の無機金属塩を組み合わせる場合の量比は特に限定されず、当業者がその使用目的に応じて任意に設定することができる。
【0039】
さらに、本発明の製造方法において、燻煙処理の方法、燻煙のための温度、時間および使用する燻煙材の種類等は上記無機金属塩の呈味改善方法で使用するものと同様である。
【0040】
このようにして、食品添加剤を製造することができる。
【0041】
本発明の製造方法により得られた食品添加剤は、主成分として無機金属塩を含有するが、当該無機金属塩が有していた不快味が解消または低減され、当該無機金属塩が固有に有する呈味が改善されたものである。本発明の製造方法により得られる呈味が改善された食品添加剤は、例えば、10ppm〜1000ppmの燻煙成分を含有する。
【0042】
本発明の呈味が改善された食品添加剤は、調味料、栄養強化材、または従来の塩化ナトリウム自体の代替としての減塩素材として、食品製造分野または各種調理において有用である。このような食品添加剤が使用され得る食品としては、例えば、汁物、スープ、うどんつゆ、ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産加工品、麺・パン等の小麦粉加工品、漬物が挙げられる。食品に添加する呈味が改善された食品添加剤の割合は、特に限定されず、例えば、塩化カリウムを用いた場合、食品に含まれる従来の塩化ナトリウムの20質量%〜50質量%を代替することができる割合である。20質量%未満では、減塩効果が低く、50質量%を超えると、食品添加剤を構成する無機金属塩の不快味や燻煙臭を感じることがある。例えば、上記無機金属塩のうち塩化カリウムを用いて食品添加剤を製造した場合では、塩化ナトリウム含量2質量%の食品の場合、塩化ナトリウム含量1.6〜1.0質量%および塩化カリウム含量0.4〜1.2質量%となるように塩化ナトリウムの一部を本発明の食品添加剤(この場合、燻煙処理した塩化カリウム)で代替することができ、その際に従来の食品が有する塩味を保持したまま、使用する塩化ナトリウムの量を低減することができるとともに、塩化カリウムの不快味が解消または低減される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1:各種燻煙材を用いた塩化カリウムの燻煙処理)
(塩化カリウムの燻煙処理)
回転ドラム式燻製装置(300L容量)を用いて、塩化カリウム(粒径60メッシュ)20kgを燻煙処理した。燻煙材としては、オーク、ヒッコリー、サクラのスモークチップ各1kgを用いた。40℃にて90分間燻煙処理した。
【0045】
(燻煙処理した塩化カリウムの官能評価用食品の調製)
<チキンだし>
鶏ガラ1質量部に水1.83質量部を加え、100℃にて10分間加熱した。次いで、灰汁を除き、さらにプレート式熱濃縮機を用いて118℃にて2時間加熱し、30倍に濃縮してチキンエキスを得た。チキンエキスを水で15倍に希釈してチキンだし汁とした。
【0046】
チキンだし汁に、グルタミン酸ナトリウムを0.01%添加しただし汁、酵母エキスを0.08%添加しただし汁もそれぞれ調製した。
【0047】
<こんぶだし>
水1kgに昆布30gを入れ、5℃にて一晩放置後、昆布を除いてこんぶだし汁とした。
【0048】
<かつおだし>
水2kgを沸騰させ、鰹削り節60gを入れた。煮立たせた後、鰹削り節を除いて放冷し、かつおだし汁とした。
【0049】
<しいたけだし>
水1.7kgに干ししいたけ50gを入れ、5℃にて一晩放置後、干ししいたけを除いてしいたけだし汁とした。
【0050】
(燻煙処理した塩化カリウムの官能評価)
各種だし汁に食塩(塩化ナトリウム)および塩化カリウム(燻煙処理または未処理)を合わせて0.8%添加して官能評価を行った。食塩を0.8%添加したものをコントロールとした。官能評価では、成人男女12人がだし汁を試食し、「塩味」、「不快味(苦味・収斂味)」、「総合的なおいしさ」の各々について、コントロールを基準点の5点とし、5点満点で評価した。結果(平均点)を表1〜表5に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
表1〜5から明らかなように、いずれのだし汁についても、燻煙処理した塩化カリウムを、食塩の一部の代替物として添加した場合も、十分な塩味があり、不快味をほとんど感じることがなく、十分なおいしさを感じることができた。また、だし汁によっておいしさを最も感じる燻煙材が異なっていた。
【0057】
(実施例2:塩化カリウムの燻煙処理)
(塩化カリウムの燻煙処理)
自家製小型燻製装置(燻煙を発生させる空間(A):30×16×16cm(縦×横×奥行);燻煙を充満させる空間(B):29×30×28cm(縦×横×奥行);Bの背面にファンがついており、Aで発生する燻煙を、パイプを通してBに送り込み、Bで燻煙を充満させるとともに煙突から排気する)を用いて、塩化カリウム(粒径60メッシュ)30gを燻煙処理した。燻煙材としては、オークのスモークチップ80gを用いた。40℃にて、10、20、30または40分間燻煙処理した。
【0058】
(燻煙処理した塩化カリウムの官能評価)
チキンだし汁を用いて、実施例1と同様にして、官能評価を行った。結果(平均点)を表6に示す。
【0059】
【表6】
【0060】
表6から明らかなように、燻煙処理時間が短かすぎると燻煙処理による効果が得られず、燻煙処理時間が長すぎると、おいしさが感じられなかった。これは、燻煙臭が強すぎたためであった。
【0061】
(実施例3:燻煙処理した塩化カリウムの食品添加剤としての各種食品への添加)
塩化カリウムの燻煙処理は、実施例1と同様に行った。
【0062】
<うどんつゆ>
以下の表7の配合に従って、うどんつゆを調製し、食塩(塩化ナトリウム)および塩化カリウム(燻煙処理または未処理)を添加して、実施例1と同様にして、官能評価を行った。結果を表8に示す。
【0063】
【表7】
【0064】
【表8】
【0065】
<ラーメンスープ>
以下の表9の配合に従って、ラーメンスープを調製し、食塩(塩化ナトリウム)および塩化カリウム(燻煙処理または未処理)を添加して、実施例1と同様にして、官能評価を行った。結果を表10に示す。
【0066】
【表9】
【0067】
【表10】
【0068】
表8および10から明らかなように、減塩率が同じ減塩区1〜5において、塩化カリウムを添加しなかった場合(減塩区1)、不快味は感じないが、塩味が著しく低下して総合的なおいしさも感じられなかった。燻煙処理した塩化カリウムを添加した場合(減塩区3〜5)、ヒッコリーを燻煙材として用いると燻煙味・燻煙臭が強く風味がよくなかったが、オークやサクラを燻煙材として用いると未処理の塩化カリウムを添加した場合(減塩区2)よりも十分なおいしさを感じることができた。
【0069】
<ソーセージ>
以下の表11の配合および以下の方法に従って、ソーセージを調製し、食塩(塩化ナトリウム)および塩化カリウム(燻煙処理または未処理)を添加して、実施例1と同様にして、官能評価を行った。結果を表12に示す。
【0070】
(方法)
1.原料肉(豚もも肉)をミンサーで挽く。
2.原料肉・食塩・リン酸塩・グルコース・アスコルビン酸ナトリウム・水を添加しフードカッターで混合する(1.5分間)。
3.豚脂を投入しフードカッターで混合する(70秒間)。
4.コーンスターチを添加し、混合する(30秒間)。
5.ケーシングチューブに充填する。
6.85℃にて40分間湯煮する。
7.冷却する。
【0071】
【表11】
【0072】
【表12】
【0073】
表12から明らかなように、燻煙処理した塩化カリウムを添加した場合(減塩区3〜5)、未処理の塩化カリウムを添加した場合(減塩区2)と比較して、呈味改善効果が認められた。ソーセージにおいて、食塩の添加は塩味を付与し嗜好性を向上させるだけでなく、肉の保水性・結着性に影響を与える。減塩区1は弾力がなく非常に軟らかい食感であったが、減塩区2〜5の塩化カリウム添加区ではコントロールと同等の弾力のある食感であったため、物性面においても塩化カリウムは食塩の代替品として使用することが可能であるといえる。
【0074】
(実施例4:燻煙処理した塩化カリウムのガスクロマトグラフ質量分析)
実施例1で得られた燻煙処理した塩化カリウム(試料)30gを、500ml容量のヘッドスペースボトルに入れ、このボトルにアルコール用NeedlEX(信和化工株式会社製濃縮用注射針)を挿入した。次いで、このボトルを70℃で1時間インキュベートした後、NeedlEX取り出し、この注射針で濃縮採取した試料を、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−17A,MS−QP5050(株式会社島津製作所製))で分析した。
【0075】
このガスクロマトグラフ質量分析におけるその他の分析条件、昇温プログラムおよびキャリアガス条件はそれぞれ以下の通りであった:
<その他の分析条件>
カラム:DB−1(60m×0.32mm,i.d. 1μmフィルム;J&W Scientific製)
スプリット分析
【0076】
<昇温プログラム>
イニシャル温度:50℃
イニシャル時間:1分
昇温時間:10℃/分
ファイナル温度:300℃
ファイナル時間:1分
【0077】
<キャリアガス>
カラム入口圧:100kPa
カラム流量:2.3mL/分
線速度:38.8cm/秒
全流量:51.3mL/分
【0078】
得られた結果を図1および表13に示す。
【0079】
【表13】
【0080】
図1に示されるように、実施例1で得られた燻煙処理した塩化カリウムには、燻煙により数多くの化合物が塩化カリウムに担持されており、かつ表13に示されるような物質が、燻煙処理によって特に顕著に担持されたことがわかる。また、この結果と、上記実施例に示す図1ならびに表8、10および12の結果とを考慮すると、燻煙処理によって、各表に記載されるような塩味および不快味の調整がなされ、総合的なおいしさとして優れた味覚を提供し得たことがわかる。
【0081】
(実施例5〜8:他の無機金属塩の燻煙処理)
表14に示されるように、塩化カリウムの代わりに、それぞれ粒径60メッシュの塩化マグネシウム(実施例5)、ピロリン酸第二鉄(実施例6)、硫酸アルミニウムカリウム(実施例7)および硫酸アルミニウム(実施例8)を用い、所定の燻煙材を用いて20分間燻煙処理したこと以外は、実施例2と同様にして、各無機金属塩を燻煙処理した。
【0082】
【表14】
【0083】
次いで、得られた燻煙処理した無機金属塩と、このような燻煙処理を行わなかった無機金属塩(コントロール)とを用いて、それぞれ0.05%(w/v)水溶液を調製し、成人男女12人による官能評価を行った。官能評価にあたっては、各水溶液を試飲し、不快味(苦味・収斂味・金属味)の各々について、各不快味が「1点:強い」「2点:どちらかというと強い」「3点:強いとも弱いとも思わない」「4点:どちらかというと弱い」「5点:弱い」との基準を設け、5点満点で評価した。それぞれの結果(平均点)、および試飲した際の代表的なコメントについて表15に示す。
【0084】
【表15】
【0085】
表15に示すように、本発明の方法を用いて燻煙処理をした無機金属塩を用いると、コントロールで感じた不快味が実施例5〜8のいずれにおいても著しく低減(評価点は上昇)していることがわかる。このように、上記塩化カリウムだけでなく、他の無機金属塩に対しても燻煙処理によって呈味改善の効果が生じていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、無機金属塩の固有の良好な味を保ちつつ不快味を抑制することができる。呈味が改善された無機金属塩を、例えば食塩(塩化ナトリウム)の代替物として用いることで、塩化ナトリウムの過剰摂取による高血圧、心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病のリスクを低減することができる。本発明により得られる食品添加剤は、食品製造、調理等の種々の分野において有用である。
図1