(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の歪みセンサの実施の形態を、第一実施形態、及びその他の実施形態として、適宜図面を参照にしつつ詳説する。
【0016】
<第一実施形態>
図1の歪みセンサ1は、基板2と、この基板2の表面側に設けられ、一方向に配向する複数のCNT繊維8からなるCNT膜4と、このCNT膜4の、前記CNT繊維8の配向方向とは異なる方向Aの両端に配設される一対の電極3と、前記CNT膜4を保護する保護部5とを主に備える。
【0017】
基板2は柔軟性を有する板状体である。基板2は、エラストマーを主成分とした基材層2aと、この基材層2aの表面に積層され、同じくエラストマーを主成分としたCNT含浸層2bとを有する。
【0018】
基材層2aに用いるエラストマーとしては、柔軟性を有する限り特に限定されず、例えばゴム、合成樹脂等を挙げることができ、これらの中でもゴムが好ましい。ゴムを用いることで、基材層2a(基板2)の柔軟性をより高めることができる。
【0019】
前記ゴムとしては、例えば天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、ブタジエンゴム(BR)、ウレタンゴム(U)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、フッ素ゴム(FKM)、PDMS等を挙げることができる。これらの中でも強度等の点から天然ゴム、シリコーンゴム又はウレタンゴムが好ましい。
【0020】
前記合成樹脂としては、例えばフェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、ポリメチルメタアクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状ポリオレフィン(COP)等を挙げることができる。
【0021】
基材層2aの平均厚みとしては特に限定されず、例えば10μm以上5mm以下とすることができる。
【0022】
CNT含浸層2bは、基材層2aの表面に積層され、その内部に後述するCNT膜4を構成する複数のCNT繊維8が含浸している。CNT含浸層2bに用いるエラストマーとしては、基材層2aと同様のエラストマーを用いることができるが、CNT繊維8の含浸によるCNT膜4との複合化が容易な熱可塑性を有するエラストマーが好ましい。また、CNT含浸層2bに用いるエラストマーは、基材層2aに用いるエラストマーと溶解性パラメータ(SP値)及び弾性率が近いものを用いることが好ましく、基材層2aと同種のエラストマーを用いることが特に好ましい。CNT含浸層2bのエラストマー及び基材層2aのエラストマーの溶解性パラメータ及び弾性率を近くすることで、CNT含浸層2bと基材層2aとの親和性及び層境界における連続性が高まり、2層間の結合力及び剥離耐久性を向上させることができる。
【0023】
また、CNT含浸層2bはカップリング剤を含有しているとよい。CNT含浸層2bがカップリング剤を含有することで、CNT含浸層2bを構成するエラストマーとCNT繊維8とを架橋し、CNT膜4と基板2との接合力を向上させることができる。
【0024】
前記カップリング剤としては、例えばアミノシランカップリング剤、アミノチタンカップリング剤、アミノアルミニウムカップリング剤等のアミノカップリング剤やシランカップリング剤などを用いることができる。
【0025】
カップリング剤のCNT含浸層100質量部に対する含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましい。一方、カップリング剤のCNT含浸層100質量部に対する含有量の上限としては、10質量部が好ましく、5質量部がより好ましい。カップリング剤の含有量が前記下限未満の場合、CNT繊維8とエラストマーとの架橋構造の形成が不十分となるおそれがある。逆に、カップリング剤の含有量が前記上限を超える場合、架橋構造を形成しない残留アミン等が増加し、当該歪みセンサ1の品質が低下するおそれがある。
【0026】
また、CNT含浸層2bはCNT繊維8に対する吸着性を有する分散剤を含有していてもよい。吸着性を有する分散剤としては、吸着基部分が塩構造になっているもの(例えばアルキルアンモニウム塩等)や、CNT繊維8の疎水性の基(例えばアルキル鎖や芳香族リング等)と相互作用できる親水性の基(例えばポリエーテル等)を分子中に有するもの等を用いることができる。
【0027】
前記分散剤のCNT含浸層100質量部に対する含有量の下限としては、0.1質量部が好ましく、1質量部がより好ましい。一方、分散剤のCNT含浸層100質量部に対する含有量の上限としては、5質量部が好ましく、3質量部がより好ましい。分散剤の含有量が前記下限未満の場合、CNT繊維8とエラストマーとの接合力が不十分となるおそれがある。逆に、分散剤の含有量が前記上限を超える場合、CNT繊維8との接合に寄与しない分散剤が増加し、当該歪みセンサ1の品質が低下するおそれがある。
【0028】
CNT含浸層2bの平均厚みの下限としては、1μmが好ましく、2μmがさらに好ましい。一方、CNT含浸層2bの平均厚みの上限としては、5μmが好ましく、4μmがさらに好ましい。CNT含浸層2bの平均厚みが前記下限未満の場合、CNT含浸層2bに含浸するCNT繊維8の量が減少し、基板2とCNT膜4との接合力が向上しないおそれがある。逆に、CNT含浸層2bの平均厚みが前記上限を超える場合、CNT含浸層2bに含浸するCNT繊維8の量が過大となるため、CNT膜4の導電性が損なわれてセンサ機能が低下又は消失するおそれがある。
【0029】
前記基材層2a及びCNT含浸層2bが積層されてなる基板2のサイズとしては特に限定されず、例えば幅が1mm以上5cm以下、長さが1cm以上20cm以下とすることができる。
【0030】
一対の電極3は、基板2の表面側の長手方向A(CNT繊維8の配向方向と略垂直な方向)の両端部分に配設されている。具体的には、各電極3は、基板2の表面の長手方向Aの両端部分に離間して配設される一対の導電層6の表面にそれぞれ配設されている。
【0031】
導電層6は、基材層2a及びCNT膜4の表面に積層され、電極3とCNT膜4との電気的な接続性を高めている。導電層6を形成する材料としては、導電性を有する限り特に限定されず、例えば導電性ゴム系接着剤等を用いることができる。導電層6としてこのように接着剤を用いることで、基板2、電極3及びCNT膜4の両端の固着性を高め、当該歪みセンサ1の持続性を高めることができる。
【0032】
電極3は、帯状形状を有している。一対の電極3は、基板2の幅方向に、互いに平行に配設されている。電極3を形成する材料としては、特に限定されず、例えば銅、銀、アルミニウム等の金属等を用いることができる。
【0033】
電極3の形状としては、特に限定されず、例えば膜状、板状、メッシュ状等とすることができるが、メッシュ状が好ましい。このようにメッシュ状の電極3を用いることで、導電層6との密着性及び固着性を高めることができる。このようなメッシュ状の電極3としては、金属メッシュ製のものや、不織布に金属を蒸着又はスパッタさせたものを用いることができる。なお、電極3としては、導電性接着剤の塗布等によって形成したものであってもよい。
【0034】
CNT膜4は、平面視矩形形状を有し、長手方向Aの両端部分がそれぞれ導電層6を介して電極3と接続している。当該歪みセンサ1においては、前記CNT含浸層2bにCNT膜4の一部(裏面側)が含浸している。具体的には、CNT膜4を構成する複数のCNT繊維8の一部がCNT含浸層2b内に存在している。また、CNT膜4の両端部分は導電層6と基材層2aとに挟持された状態で固定されている。
【0035】
CNT膜4は、一方向(一対の電極3の対向方向Aと異なる方向)に配向する複数のCNT繊維8からなる。CNT繊維8がこのように配向していることにより一対の電極3が離れる方向(方向A)へ歪みが加わった場合に、CNT繊維8同士の接触具合に変化が起こり、当該歪みセンサ1により抵抗変化を得ることができる。なお、より効率よく歪みを検出するには、CNT膜4は、一対の電極3の対向方向Aと略垂直方向、好ましくは垂直方向にCNT繊維8が配向されていることが望ましい。
【0036】
各CNT繊維8は、
図2に示すように、複数のCNT単繊維9からなる。ここで、CNT単繊維9とは、1本の長尺のCNTをいう。また、CNT繊維8は、CNT単繊維9の端部同士が連結する連結部10を有する。CNT単繊維9同士は、これらのCNT単繊維9の長手方向Bに連結している。このように、CNT膜4において、CNT単繊維9同士がその長手方向Bに連結してなるCNT繊維8を用いることで、CNT繊維8の配向方向に幅の広いCNT膜4を形成することができ、その結果、CNT膜4の抵抗値を下げ、かつ、この抵抗値のバラツキも低減することができる。
【0037】
また、複数のCNT繊維8は、
図2に示すように網目構造を形成している。具体的には、複数のCNT繊維8は連結部10等により網目状に連結又は接触している。この際、連結部10において、連結部10aのように3つ以上のCNT単繊維9の端部が結合していてもよいし、連結部10bのように2つのCNT単繊維9の端部と他のCNT単繊維9の中間部とが結合していてもよい。複数のCNT繊維8がこのような網目構造を形成することで、CNT繊維8同士が密接し、CNT膜4の抵抗を下げることができる。
【0038】
また、この際、前記連結部10a、10bが主な基点となって近隣のCNT繊維8同士が連結又は接触することによって、CNT繊維8が両持ち梁構造として機能することができる。CNT繊維8同士の連結とは前記連結部10a、10b等とCNT繊維8が電気的に繋がることであり、CNT繊維8の連結部ではない部分同士が電気的に繋がった場合も連結に含まれる。CNT繊維8同士の接触とは前記連結部10a、10b等とCNT繊維8が触れているが電気的に繋がっていないことであり、CNT繊維8の連結部ではない部分同士が触れているが電気的に繋がっていない場合も接触に含まれる。両持ち梁として機能するCNT繊維8はバネ定数が大きくなる。そのため、CNT繊維8は、この配向方向Bと垂直方向(CNT膜4の長手方向A)には伸縮しにくい構造となっている。従って、CNT膜4がCNT繊維8の配向方向Bと垂直方向(CNT膜4の長手方向A)に対して剛性が強くなり、当該歪みセンサ1によれば、CNT膜4の長手方向Aの歪みに対して、敏感に検知することができ、さらにリニアリティを高めることができる。なお、当該CNT繊維8の連結部10が主な基点となって、隣り合うCNT繊維8間に限らず、何本か飛び越えた場所のCNT繊維8と連結又は接触してもよい。このように、複雑な網目状のCNT繊維8からなるCNT膜4であれば、より抵抗値が低くなり、CNT繊維8と垂直な方向に剛性の強い歪みセンサとすることができる。
【0039】
なお、前記CNT繊維8は、各CNT単繊維9が実質的にCNT繊維8の長手方向Bに配向され、撚糸されていない状態のものである。このようなCNT繊維8を用いることで、CNT膜4の均一性を高め、歪みセンサとしてのリニアリティを高めることができる。
【0040】
また、前記連結部10において、各CNT単繊維9同士は分子間力により結合している。このため、複数のCNT繊維8が連結部10により網目状に連結した場合においても、連結部10の存在による抵抗の上昇が抑えられる。
【0041】
CNT膜4の幅の下限としては、1mmが好ましく、1cmがより好ましい。一方、CNT膜4の幅の上限としては、10cmが好ましく、5cmがより好ましい。このようにCNT膜4の幅を比較的大きくすることで、上述のようにCNT膜4の抵抗値を下げ、かつ、この抵抗値のバラツキも低減することができる。
【0042】
CNT膜4の平均厚みとしては、特に限定されないが、例えばCNT膜4の平均厚みの下限としては、1μmが好ましく、10μmがさらに好ましい。一方、CNT膜4の平均厚みの上限としては、5mmが好ましく、1mmがさらに好ましい。CNT膜4の平均厚みが前記下限未満の場合は、このような薄膜の形成が困難になるおそれや、抵抗が上昇しすぎるおそれのほか、CNT含浸層2bにCNT膜4が十分含浸できないおそれや、CNT膜4が含浸した場合に当該歪みセンサ1のセンサ機能が低下又は消失するおそれがある。逆に、CNT膜4の平均厚みが前記上限を超える場合は、歪みに対する感受性が低下するおそれがある。
【0043】
CNT膜4のCNT含浸層2bへの含浸部分の平均厚みの下限としては、CNT膜4の平均厚みの5%が好ましく、10%がさらに好ましい。一方、含浸部分の平均厚みの上限としては、CNT膜4の平均厚みの80%が好ましく、50%がさらに好ましい。CNT膜4の含浸部分の平均厚みが前記下限未満の場合、基板2とCNT膜4との接合力が向上しないおそれがある。逆に、CNT膜4の含浸部分の平均厚みが前記上限を超える場合、CNT含浸層2bに含浸するCNT繊維8の量が過大となるため、当該歪みセンサ1のセンサ機能が低下又は消失するおそれがある。
【0044】
CNT膜4の密度の下限としては、1.0g/cm
3が好ましく、0.8g/cm
3がより好ましい。一方、CNT膜4の密度の上限としては、1.8g/cm
3が好ましく、1.5g/cm
3がより好ましい。CNT膜4の密度が前記下限未満の場合、CNT膜4の抵抗値が高くなるおそれがある。逆に、CNT膜4の密度が前記上限を超える場合、十分な抵抗変化が得られないおそれがある。
【0045】
なお、CNT膜4は、CNT繊維8を平面状に略平行に配置した単層構造からなってもよいし、多層構造からなってもよい。但し、ある程度の導電性を確保するためには、多層構造とすることが好ましい。
【0046】
また、CNT膜4の表面には導電性ゴム系接着剤を塗布することが好ましい。導電性ゴム系接着剤を塗布することで、CNT繊維8間が電気的に接合されるため、当該歪みセンサ1のセンサ機能を向上させることができる。この導電性ゴム系接着剤としては導電性を有すれば特に限定されず、例えばカーボンブラックや銀ナノ粒子等を含有する接着剤を好適に用いることができる。
【0047】
前記導電性ゴム系接着剤の塗布量としては、CNT膜4の質量に対して、固形分比で5質量%以上10質量%以下が好ましい。導電性ゴム系接着剤の塗布量が前記範囲未満の場合、電気接合度の向上効果が十分得られないおそれがある。逆に、導電性ゴム系接着剤の塗布量が前記範囲を超える場合、当該歪みセンサ1の柔軟性が低下するおそれがある。なお、導電性ゴム系接着剤は、CNT膜4の表面に被膜を均一に形成するために複数回に分けて塗布することが好ましい。
【0048】
CNT単繊維9(CNT)としては、単層のシングルウォールナノチューブ(SWNT)や、多層のマルチウォールナノチューブ(MWNT)のいずれも用いることができるが、導電性及び熱容量等の点から、MWNTが好ましく、直径1.5nm以上100nm以下のMWNTがさらに好ましい。
【0049】
前記CNT単繊維9(CNT)は、公知の方法で製造することができ、例えばCVD法、アーク法、レーザーアブレーション法、DIPS法、CoMoCAT法等により製造することができる。これらの中でも、所望するサイズのCNT(MWNT)を効率的に得ることができる点から、鉄を触媒とし、エチレンガスを用いたCVD法により製造することが好ましい。この場合、石英ガラス基板や酸化膜付きシリコン基板等の基板に、触媒となる鉄あるいはニッケル薄膜を成膜した上に、垂直配向成長した所望する長さのCNTの結晶を得ることができる。
【0050】
保護部5は膜状であり、CNT膜4の表面に積層されている。具体的には
図1に示すように、保護部5は、CNT膜4及び一対の導電層6の表面の一部を被覆している。なお、一対の導電層6の一部は、保護部5に被覆されない電極3を積層するための露出部分を有する。このように保護部5を積層することで、前記保護部5はCNT繊維8表面の少なくとも一部と接触し、CNT膜4を保護している。特に、当該歪みセンサ1によれば、前記保護部5をCNT膜4の表面に積層させていることで、不意の接触等によるCNT膜4の破損、CNT繊維8間の隙間への異物混入、または湿気や浮遊ガス等のCNT繊維8への付着等を抑えることができる。
【0051】
保護部5は、エラストマー製である。このエラストマーとしては、基板2の材料として例示したゴムや合成樹脂等を挙げることができ、これらの中でもゴムが好ましい。ゴムを用いることで、大きな歪みに対しても十分な保護機能を発揮することができる。
【0052】
保護部5は、水性エマルジョンから形成されていることが好ましい。水性エマルジョンとは、分散媒の主成分が水であるエマルジョンをいう。CNTは疎水性が高い。そのため、前記保護部5を水性エマルジョンから形成すると、例えば塗工や浸漬によりこの保護部5を設けた場合、保護部5がCNT膜4に含浸せずにCNT膜4表面に積層された状態とすることができる。このようにすることで、保護部5を形成するエラストマーがCNT膜4にしみ込んで、CNT膜4の抵抗変化に影響を及ぼすことを抑制し、保護部5の存在によるCNT膜4の歪み感受性の低下を抑えることができる。水性エマルジョンは乾燥工程を経ることによって、より安定した保護部5とすることができる。
【0053】
前記水性エマルジョンの分散媒の主成分は、水であるが、その他の例えばアルコール等の親水性分散媒が含有されていてもよい。また、前記エマルジョンの分散質としては、通常エラストマーであり、上述したゴム、特には天然ゴムが好ましい。この好ましいエマルジョンは、分散媒を水とし、ゴムを分散質とするするいわゆるラテックスが挙げられ、天然ゴムラテックスが好ましい。天然ゴムラテックスを用いることで、薄くかつ強度のある保護膜を形成することができる。
【0054】
保護部5の平均厚みとしては、特に限定されず、例えば10μm以上3mm以下とすることができる。
【0055】
CNT膜4は、CNT繊維8の配向方向Bに沿って開裂可能な部分11を有する。このように、前記CNT膜4にCNT繊維8の配向方向Bに沿って開裂可能な部分11を形成することで、抵抗変化の過渡応答性が高まり、より大きな歪み(伸縮)に対しても優れたセンサ機能を発揮することができる。この場合、開裂可能な部分11に接触する保護部5は大きく変形し、一方開裂しない部分に接触する保護部5は変形が小さいこととなる。なお、この開裂可能な部分11は、CNT含浸層2bに含浸した部分まで挿通して形成してもよい。
【0056】
当該歪みセンサ1によれば、CNT膜4がこのように設けられていることで、基板2の歪みに応じて、CNT膜4が歪み(伸縮し)、CNT膜4の抵抗が変化するため、歪みを検知するセンサとして機能することができる。なお、基板2の歪みには、長手方向Aの伸縮のみではなく、基板2の法線方向の変形や、長手方向を軸としたねじれ等も含む。当該歪みセンサ1によれば、このような基板2の歪みも検知することができる。また、当該歪みセンサ1によれば、基板2(CNT含浸層2b)にCNT膜4の一部(裏面側)が含浸しているため、CNT膜4の基材2からの剥離を抑制し、センサ機能の持続性を高めることができる。
【0057】
(製造方法)
歪みセンサ1の製造方法としては、特に限定されないが、例えば以下の製造工程で製造することができる。
【0058】
(1−1)
図3(a)に示すように、スライドガラス等の離型板上に基材層2aを形成する。具体的には、スライドガラスXをラテックスやエラストマー溶液に浸漬し、その後乾燥させる。これにより、スライドガラスXの表面にエラストマー製の平面視矩形状の基材層2aを形成することができる。なお、離形板としては、スライドガラス以外の合成樹脂等の他の板材を用いてもよい。
【0059】
(1−2)
図3(b)に示すように、前記基材層2aの表面にCNT含浸層2bの形成材料であるエラストマー溶液を塗布する。
【0060】
(1−3)
図3(c)に示すように、未硬化状態のCNT含浸層2bの形成材料表面に、CNT繊維8を含浸させつつCNT膜4を形成する。具体的には、一方向に配向する複数のCNT繊維8からなるCNTペーパー(フィルム)をCNT含浸層2bの表面から配置し、その裏面側をCNT含浸層2bに含浸させる。このとき、後工程で積層される一対の電極3の対向方向(長手方向)と略垂直方向にCNT繊維8が配向するようにCNTペーパーの向きを調節する。
【0061】
(1−4)CNT繊維8が含浸した未硬化状態のCNT含浸層2bの形成材料を硬化し、CNT含浸層2bを形成する。具体的には、CNTペーパーを配置後、未硬化状態のCNT含浸層2bを乾燥又は加熱することで硬化させる。
【0062】
なお、前記CNTペーパーは、成長用基材上に触媒層を形成し、CVD法により一定の方向に配向した複数のCNT繊維8を成長させ、
図5のように撚糸せずにそのまま引き出し、他の板材又は筒材等に巻き付けた後に、必要な分のシート状のCNT繊維8を取り出すことで得ることができる。このCNTペーパーは、CNT含浸層2bの表面に配置される。
【0063】
また、CNT膜4形成後、例えばイソプロピルアルコールやエタノール等の溶媒をCNT膜4に噴霧するか、又はこの溶媒に浸した後、乾燥させることが好ましい。この工程を経ることで、CNT膜4とCNT含浸層2bとの密着性をさらに高めることができると共に、CNT膜4を構成するCNT繊維8を高密度化することができる。なお、このようにCNT繊維8を高密度化することによって、CNT繊維同士の接触面積をあらかじめ増やすことができ、CNT膜4の抵抗を下げて消費電力を下げる効果と、歪みを加えた時に抵抗変化の感度を高める効果を得ることができる。
【0064】
(1−5)前記CNT膜4の表面に導電性ゴム系接着剤を塗布する。その後、常温で30分間乾燥させ、導電性ゴム系接着剤を硬化させる。なお、導電性ゴム系接着剤の塗布回数は2回以上が好ましい。
【0065】
(1−6)
図3(d)に示すように、この基板2の長手方向両端部分に導電性ゴム系接着剤を塗布し、導電層6を形成する。この際、CNT膜4の一部を導電層6が被覆するように導電層6を形成する。
【0066】
(1−7)
図3(e)に示すように、CNT膜4及び導電層6の表面に保護部5を積層する。具体的には、スライドガラスも含めた全体をラテックスに浸漬するか、あるいはCNT膜4の表面にラテックスを塗布することで保護部5を形成する。このようにラテックスを用いることで、保護部5をCNT膜4表面に積層させることができる。なお、この際、電極3が配設できるように導電層6の一部は露出するように保護部5を形成する。ラテックスは上述のとおり水性エマルジョンであり、親水性を有する。
【0067】
なお、前記水性エマルジョンの代わりに油性エマルジョンを用いることで、保護部5がCNT膜4を構成するCNT繊維8の隙間の少なくとも一部に存在する歪みセンサとすることもできる。
【0068】
(1−8)
図3(f)に示すように、各導電層6の表面に電極3を積層する。
【0069】
(1−9)電極3の積層後、スライドガラスの両面からこれらの積層体を切り出すことで、少なくとも1対の歪みセンサ1を得ることができる。スライドガラスにおける幅方向両端部分は切り落としてもよい。また、長手方向に分断することで、片面から複数の歪みセンサ1を製造することもできる。なお、スライドガラスから切り出した後、歪みセンサ1を電極3の対向方向に伸張させて、CNT膜4や保護膜5に開裂可能な部分11を形成することができる。
【0070】
なお、CNT膜4の積層手順である前記(1−2)〜(1−4)は以下のような手順とすることも可能である。
【0071】
(1−2’)前記基材層2aの表面にCNT含浸層2bの形成材料であるエラストマー溶液を塗布し、乾燥又は加熱により硬化させる。
【0072】
(1−3’)
図4に示すように、CNT繊維8をスライドガラス(CNT含浸層2b)上に巻き付ける。このようにすることで、一方向(一対の電極3の対向方向と略垂直方向)に配向する複数のCNT繊維8からなるCNT膜4を得ることができる。この際、スライドガラス(基板2)の両端を一対の支持具13で挟持し、スライドガラス(基板2)の長手方向を軸に回転させることで、CNT繊維8を巻き付けることができる。なお、スライドガラスの幅方向両端部分をマスキングテープ12等によりマスクしておいてもよい。
【0073】
(1−4’)CNT繊維8の巻き付け量が一定値(CNT含浸層2bに含浸させる分量)に達した時点で、CNT含浸層2bをアイロン等により加熱して軟化状態にし、巻き付けたCNT繊維8をCNT含浸層2bに含浸させる。その後、乾燥又は加熱により再びCNT含浸層2bを硬化させ、残りのCNT繊維8をCNT含浸層2b上に巻き付けることでCNT膜4を形成する。
【0074】
なお、前記CNT繊維8は、上述のようにCVD法により基板上に垂直配向成長したCNT単繊維9(CNT)の結晶を撚糸せずにそのまま引き出すことで得ることができる(
図5参照)。このようにして得られたCNT繊維8は、複数のCNT単繊維9からなり、このCNT単繊維9同士が長手方向に連結する連結部を有する構造となっている。
【0075】
<その他の実施形態>
本発明の歪みセンサは前記実施形態に限定されるものではない。例えば本発明は、
図6に示す歪みセンサ101のように、電極3をCNT繊維8の配向方向(方向A)の両端に配設してもよい。この歪みセンサ101は、一対の電極3が離れる方向(方向A)へ歪みが加わった場合に、CNT繊維8に長手方向の変形(伸縮)が起こり、抵抗変化を得ることができる。なお、このように歪みの感知方向がCNT繊維8の配向方向である歪みセンサ101の場合、保護層5をCNT膜4に含浸させることが好ましく、CNT膜4におけるCNT繊維8の密度は第一実施形態よりも小さくてもよい。また、CNT繊維8は複数の束となって存在する傾向にあり、CNT膜4のおける複数の束の隙間に保護層5が含浸することで、CNT繊維8の強度を高め、CNT繊維8の配向方向の歪みにより切断することを防止することができる。
【0076】
また、当該歪みセンサは、電極の裏面及び表面に導電層を設けた構成としてもよい。具体的には、基板の表面に長手方向Aの両端部分に離間して配設される一対の第一導電層を設け、この第一導電層の表面にCNT膜の一部及び一対の電極を積層し、さらにCNT膜及び電極の表面の一部を被覆するように一対の第二導電層を設ける。これによりCNT膜の長手方向の両端部分が第一導電層と第二導電層とで挟持される。このような導電層を設けることで、電極とCNT膜との電気的な接続性を高めることができる。
【0077】
さらに、当該歪みセンサにおいて、保護部はCNT繊維表面の少なくとも一部と接触していればよく、例えばCNT膜の表面近傍のみ等、CNT膜の一部のみに保護膜を形成するエラストマーが含浸しているものであってもよい。さらには、CNT繊維間の隙間の少なくとも一部に保護部を有しつつ、CNT膜に保護部が積層されている構成であってもよい。このような歪みセンサにおいても、保護部によりCNT膜が保護されるので、当該歪みセンサの持続性を高めることができる。
【0078】
また、基板は、完全な直方体からなる板状体に限定されるものではなく、変形させて用いることもできる。例えば、筒状や波状とすることで、当該歪みセンサの用途を広げることができる。CNT繊維としても、CNTを紡いで得られたCNTファイバー等を用いてもよい。さらには、CNT膜において、一対の電極の対向方向と垂直方向に対向するさらにもう一対の電極を設けてもよい。このように直交する2対の電極を設けることで、当該歪みセンサを二次元センサとして用いることもできる。また、粘着性を有する樹脂で当該歪みセンサの表面を被覆することによって、人体、構造物等の歪みを検出したい場所へ簡易に貼り付けて用いることもできる。