特許第6142407号(P6142407)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142407
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】樹脂めっき方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/24 20060101AFI20170529BHJP
   C23C 18/16 20060101ALI20170529BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20170529BHJP
   C02F 1/461 20060101ALI20170529BHJP
   C25C 1/20 20060101ALN20170529BHJP
【FI】
   C23C18/24
   C23C18/16 Z
   C02F1/62 Z
   C02F1/46 101Z
   !C25C1/20
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-532466(P2016-532466)
(86)(22)【出願日】2015年4月24日
(86)【国際出願番号】JP2015062485
(87)【国際公開番号】WO2016006301
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2016年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-142468(P2014-142468)
(32)【優先日】2014年7月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永峯 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】北 晃治
(72)【発明者】
【氏名】大塚 邦顕
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/143190(WO,A1)
【文献】 特表2005−504178(JP,A)
【文献】 特開2001−059195(JP,A)
【文献】 特開2010−138434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を含む物品を被処理物として用い、マンガンを含有する酸性エッチング浴によるエッチング工程、触媒金属としてパラジウムを用いる触媒付与工程、及び無電解めっき工程を含む樹脂めっき方法において、
該酸性エッチング浴中のパラジウム濃度を100mg/L以下に維持する工程を更に含み、
酸性エッチング浴中のパラジウム濃度を100mg/L以下に維持する工程が、治具に吸着したパラジウムを除去する方法、陰極電解によってエッチング浴中のパラジウム濃度を低下させる方法、及びエッチング浴中にヨウ化物を添加してパラジウム濃度を低下させる方法から選ばれた一種又は二種以上の方法によって実施されるものであり、
治具に吸着したパラジウムを除去する方法が、硝酸、過硫酸塩、過酸化水素、及びパラジウムとの安定度定数が2.0以上の化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を含有する水溶液からなるパラジウム除去処理液に治具を浸漬する方法である、
ことを特徴とする樹脂めっき方法。
【請求項2】
陰極電解によってエッチング浴中のパラジウム濃度を低下させる方法が、電解処理によって、エッチング浴中のパラジウムを陰極上に金属パラジウムとして析出させる方法である、請求項に記載の樹脂めっき方法。
【請求項3】
エッチング浴中にヨウ化物を添加してパラジウム濃度を低下させる方法が、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ素酸、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸、及び過ヨウ素酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のヨウ化物をエッチング浴中に添加し、形成された沈殿を分離する方法である、請求項に記載の樹脂めっき方法。
【請求項4】
マンガンを含有する酸性エッチング浴中に存在するパラジウム濃度を100mg/L以下に維持する樹脂めっき用エッチング浴の管理方法であって、
治具に吸着したパラジウムを除去する方法、陰極電解によってエッチング浴中のパラジウム濃度を低下させる方法、及びエッチング浴中にヨウ化物を添加してパラジウム濃度を低下させる方法から選ばれた一種又は二種以上の方法によって実施されるものであり、
治具に吸着したパラジウムを除去する方法が、硝酸、過硫酸塩、過酸化水素、及びパラジウムとの安定度定数が2.0以上の化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を含有する水溶液からなるパラジウム除去処理液に治具を浸漬する方法である、
ことを特徴とする樹脂めっき用エッチング浴の管理方法。
【請求項5】
陰極電解によってエッチング浴中のパラジウム濃度を低下させる方法が、電解処理によって、エッチング浴中のパラジウムを陰極上に金属パラジウムとして析出させる方法である、請求項4に記載の樹脂めっき用エッチング浴の管理方法。
【請求項6】
エッチング浴中にヨウ化物を添加してパラジウム濃度を低下させる方法が、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ素酸、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸、及び過ヨウ素酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のヨウ化物をエッチング浴中に添加し、形成された沈殿を分離する方法である、請求項4に記載の樹脂めっき用エッチング浴の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を軽量化する目的等から、自動車用部品として樹脂成形体が使用されている。この様な目的では、例えば、ABS樹脂、PC/ABS樹脂、PPE樹脂、ポリアミド樹脂等が用いられており、高級感や美観を付与するために、銅、ニッケルなどのめっきが施されることが多い。更に、樹脂基板に対して導電性を付与して導体回路を形成する方法としても、樹脂基板上に銅などのめっき皮膜を形成する方法が行われている。
【0003】
樹脂基板、樹脂成形体等の樹脂材料にめっき皮膜を形成する方法としては、脱脂及びエッチングを行った後、必要に応じて、中和及びプリディップを行い、次いで、錫化合物及びパラジウム化合物を含有するコロイド溶液を用いて無電解めっき用触媒を付与し、その後必要に応じて活性化処理(アクセレーター処理)を行い、無電解めっき及び電気めっきを順次行う方法が一般的な方法である。
【0004】
この場合、エッチング処理液としては、三酸化クロムと硫酸の混合液からなるクロム酸混液が広く用いられている。しかしながら、クロム酸混液は、有毒な6価クロムを含むために作業環境に悪影響があり、しかも廃水を安全に処理するためには、6価クロムを3価クロムイオンに還元した後、中和沈殿させることが必要であり、廃水処理のために煩雑な処理が要求される。このため、現場での作業時の安全性や廃水による環境への影響を考慮すると、クロム酸を含むエッチング処理液を用いないことが望まれる。
【0005】
クロム酸混液に替わり得るエッチング液としては、マンガンを有効成分として含むエッチング浴が知られている。例えば、下記特許文献1には、過マンガン酸塩を含む酸性のエッチング浴が記載されている。このエッチング浴では、pHの調整に各種の無機酸、有機酸を使用できると記載されており、実施例では、硫酸を用いてpHを1以下に調整している。下記特許文献2にも、過マンガン酸塩及び無機酸を含むエッチング処理液が記載されている。また、下記非特許文献1には酸化マンガン(IV)を用いた酸性エッチング処理剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−228083号公報
【特許文献2】特開2008−31513号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the Chinese Chemical Society, 2009, 56, 1225-1230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したマンガンを含む酸性エッチング浴は、有毒な6価クロムを含有しないために、作業環境や環境への影響の点では有利なエッチング液であるが、連続した使用した場合にエッチング力が大きく低下するという欠点があり、これが酸性のマンガン含有エッチング浴の実用化を妨げる一因となっている。したがって、マンガンを有効成分とするエッチング浴を用いる樹脂めっき方法において、連続使用時においても安定したエッチング性能を維持することが可能な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、樹脂成形品等の樹脂材料を被処理物として用い、エッチング処理を行った後、触媒付与、及び無電解めっきの工程を含むプロセスでめっき処理を行う場合には、上記工程を繰り返して長期間継続してめっき処理を行うと、触媒金属として用いたパラジウムがエッチング浴中に徐々に蓄積することを見出した。そして、マンガンを有効成分として含有する酸性のエッチング浴を用いてエッチング処理を行う場合には、浴中のパラジウム濃度の増加に伴ってエッチング性能が大きく低下するという、これまで全く予期できなかった現象を見出した。その結果、エッチング浴中のパラジウム濃度を一定濃度以下に制御することによって、良好なエッチング性能を長期間に亘って維持することが可能となることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の樹脂めっき方法、及び樹脂めっき用エッチング浴の管理方法を提供するものである。
項1. 樹脂材料を含む物品を被処理物として、マンガンを含有する酸性エッチング浴によるエッチング工程、触媒金属としてパラジウムを用いる触媒付与工程、及び無電解めっき工程を含む樹脂めっき方法において、
該酸性エッチング浴中のパラジウム濃度を100mg/L以下に維持する工程を更に含むことを特徴とする樹脂めっき方法。
項2. 酸性エッチング浴中のパラジウム濃度を100mg/L以下に維持する工程が、治具に吸着したパラジウムを除去する方法、陰極電解によってエッチング浴中のパラジウム濃度を低下させる方法、及びエッチング浴中にヨウ化物を添加してパラジウム濃度を低下させる方法から選ばれた一種又は二種以上の方法によって実施されるものである、上記項1に記載の樹脂めっき方法。
項3. 治具に吸着したパラジウムを除去する方法が、硝酸、過硫酸塩、過酸化水素、及びパラジウムとの安定度定数が2.0以上の化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を含有する水溶液からなるパラジウム除去処理液に治具を浸漬する方法である、上記項2に記載の樹脂めっき方法。
項4. 陰極電解によってエッチング浴中のパラジウム濃度を低下させる方法が、電解処理によって、エッチング浴中のパラジウムを陰極上に金属パラジウムとして析出させる方法である、上記項2に記載の樹脂めっき方法。
項5. エッチング浴中にヨウ化物を添加してパラジウム濃度を低下させる方法が、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ素酸、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸、及び過ヨウ素酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のヨウ化物をエッチング浴中に添加し、形成された沈殿を分離する方法である、上記項2に記載の樹脂めっき方法。
項6. マンガンを含有する酸性エッチング浴中に存在するパラジウム濃度を100mg/L以下に維持することを特徴とする、樹脂めっき用エッチング浴の管理方法。
【0011】
以下、本発明の樹脂めっき方法について具体的に説明する。
【0012】
樹脂めっき方法
本発明の樹脂めっき方法は、樹脂材料を含む物品を被処理物として、マンガンを含有する酸性エッチング浴によるエッチング処理工程、触媒金属としてパラジウムを用いる触媒付与工程、及び無電解めっき工程を含む方法である。以下、この方法について具体的に説明する。尚、通常、各処理の間には水洗処理を行う。
【0013】
(1)被処理物
本発明の樹脂めっき方法の被処理物は、樹脂材料を構成要素として含む物品である。例えば、樹脂材料からなる成形品やプリント配線板など樹脂材料を一部に含む物品等を被処理物とすることができる。
【0014】
被処理物とする樹脂材料の種類については特に限定はないが、特に、従来からクロム酸-硫酸の混酸によってエッチング処理が行われている各種の樹脂材料に対して良好な無電解めっき皮膜を形成することができる。例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がアクリルゴム成分に置き換わった樹脂(AAS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がエチレン−プロピレンゴム成分等に置き換わった樹脂(AES樹脂)等のスチレン系樹脂を処理対象物として、良好な無電解めっき皮膜を形成することが可能である。また、上記スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂(例えば、PC樹脂の混合比率が30〜70重量%程度のアロイ樹脂)等も好適に使用できる。更に、耐熱性、物性に優れたポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂なども同様に使用可能である。
【0015】
被処理物とする物品の形状、大きさなどについても特に限定はなく、表面積の広い大型の被処理物に対しても、装飾性、物性等に優れた良好なめっき皮膜を形成できる。このような大型の樹脂製品としては、ラジエターグリル、ホイールキャップ、中・小型のエンブレム、ドアーハンドルなどの自動車関連部品や、電気・電子分野での外装品、水廻りなどで使用されている水栓金具、パチンコ部品などの遊技機関係品等が挙げられる。
【0016】
(2)エッチング処理工程
本発明による樹脂めっき方法で用いるエッチング浴は、マンガンを有効成分として含む酸性水溶液からなるものである。
【0017】
該エッチング浴中に含まれるマンガンは、3価、4価、及び7価のいずれの状態でもよい。例えば、エッチング浴に含まれるマンガンは、3価のマンガンイオン、4価のマンガンイオン等のマンガンイオンの状態で存在してもよく、或いは、過マンガン酸イオンなどの状態で7価のマンガンとして含まれていても良い。
【0018】
エッチング浴中のマンガンの濃度については特に限定はないが、例えば、マンガン濃度として0.01〜100g/L程度のエッチング浴を処理対象とすることができる。
【0019】
該エッチング浴は、酸成分を含有する酸性の水溶液からなるものである。該エッチング浴に含まれる酸成分としては、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などの有機スルホン酸などを例示できる。
【0020】
エッチング浴中の酸成分の濃度については、特に限定的ではないが、例えば、100〜1800g/L程度である。
【0021】
該エッチング浴は、更に、各種の添加剤を含有するものであってもよい。この様な添加剤としては、界面活性剤を例示できる。界面活性剤の種類については、エッチング液の表面張力を下げることができれば特に限定的ではないが、特に、酸化雰囲気で比較的安定な界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸、ペルフルオロオクタン酸塩、ペルフルオロヘプタン酸塩などのアニオン系界面活性剤を例示できる。
【0022】
エッチング処理条件については、特に限定的ではなく、使用するエッチング浴の種類、処理対象の樹脂材料の種類、目的とするエッチング処理の程度等に応じて適宣決めればよい。処理条件の一例としては、エッチング浴の液温を30℃〜70℃程度としてエッチング浴中に被処理物を3〜30分程度浸漬すればよい。
【0023】
また、被処理物である樹脂材料の表面の汚れがひどい場合には、エッチング処理に先立って、必要に応じて、常法に従って脱脂処理を行えばよい。
【0024】
(3)触媒付与工程
上記した方法でエッチング処理を行った後、無電解めっき用触媒を付与する。
【0025】
本発明の樹脂めっき方法における触媒付与工程では、触媒金属としてパラジウムを含む触媒付与液を用いる。パラジウム触媒の付与方法としては、例えば、いわゆる、センシタイジング−アクチベーティング法、キャタライジング法等と称される方法が代表的な方法である。
【0026】
これらの方法の内で、センシタイジング−アクチベーティング法は、塩化第一錫と塩酸を含む水溶液で感受性化処理(センシタイジング)を行った後、塩化パラジウム等のパラジウム塩を含む水溶液を用いて活性化(アクチベーティング)する方法である。
【0027】
キャタライジング法は、酸性キャタライジング法とアルカリキャタライジング法に大別される。酸性キャタライジング法は塩化パラジウムと塩化第一錫を含む酸性コロイド溶液によって被めっき物を触媒化処理した後、硫酸水溶液、塩酸水溶液等を用いて活性化する方法であり、アルカリキャタライジング法は、塩化パラジウムとアミン化合物を含むアルカリ性溶液によって被めっき物を触媒化処理した後、ジメチルアミンボランや次亜リン酸を用いて還元する方法である。
【0028】
これらの方法の具体的な処理方法、処理条件等については、公知の方法に従えばよい。
【0029】
尚、触媒付与工程に先立って、必要に応じて、エッチング処理によって被処理物の表面に付着したマンガンを除去するために、硫酸や塩酸などの無機酸やエリソルビン酸や過酸化水素などの還元剤を用いてエッチング処理の後処理を行ってもよい。
【0030】
(4)めっき工程
上記した方法で触媒を付与した後、無電解めっき処理を行う。無電解めっき液としては、公知の自己触媒型無電解めっき液をいずれも用いることができる。この無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解銅-ニッケル合金めっき液、無電解ニッケル−コバルト合金めっき液、無電解金めっき液等を例示できる。
【0031】
無電解めっきの条件についても、公知の方法と同様にすれば良い。また、必要に応じて、無電解めっき皮膜を二層以上形成しても良い。
【0032】
更に、無電解めっき後、電気めっきを行っても良い。この場合、無電解めっきの後、必要に応じて、酸、アルカリ等の水溶液によって活性化処理を行い、その後、電気めっきを行えば良い。電気めっき液の種類についても特に限定はなく、公知の電気めっきから目的に応じて適宣選択すればよい。
【0033】
本発明の樹脂めっき方法は、上記したエッチング処理工程、触媒付与工程、及びめっき工程を含む方法であるが、更に、必要に応じて、各種の処理工程を含んでもよい。この様な処理工程としては、エッチング前の膨潤処理(プリエッチング)や治具への析出を防止するためのラックプロテクション処理等を例示できる。
【0034】
パラジウム濃度を100mg/L以下に維持する工程
本発明の樹脂めっき方法では、マンガンを含有する酸性エッチング浴によるエッチング処理工程、触媒金属としてパラジウムを用いる触媒付与工程、及び無電解めっき工程を含む樹脂めっき方法において、この工程を繰り返して連続してめっき処理を行う際に、マンガンを含有する酸性エッチング浴中に含まれるパラジウム濃度を100mg/L以下に維持することが必要である。
【0035】
本発明者の研究によれば、上記した方法によって樹脂材料に対するめっき処理を繰り返すと、エッチング処理の後の工程である触媒付与工程で用いる触媒付与液に含まれるパラジウムが、エッチング浴中に徐々に蓄積することが見出された。そして、エッチング浴中に含まれるパラジウム濃度が100ml/gを上回ると、エッチング性能が大きく低下するという、これまで全く知られていない現象が見出された。
【0036】
このため、本発明のめっき方法では、マンガンを含有する酸性エッチング浴によるエッチング処理工程、触媒金属としてパラジウムを用いる触媒付与工程、及び無電解めっき工程を含む方法によって樹脂材料を含む物品に対してめっき処理を行う際に、エッチング浴中に含まれるパラジウム濃度を管理して、パラジウム濃度を100mg/L以下に維持することが必要である。特に、エッチング浴中のパラジウム濃度は、50mg/L程度以下に維持することが好ましく、20mg/L程度以下に維持することが更に好ましい。
【0037】
パラジウム濃度を100mg/L以下に維持するための具体的な方法については特に限定はなく、例えば、エッチング浴の全体又は一部を更新して、パラジウム濃度を100mg/L以下に維持してもよいが、経済性を考慮すると、治具に吸着したパラジウムを除去する方法、陰極電解によってエッチング浴中のパラジウム濃度を低下させる方法、エッチング浴中にヨウ化物を添加してパラジウム濃度を低下させる方法などを採用することが好ましい。これらの方法は、単独で行う他に、2種類以上の方法を組み合わせて実施しても良く、これにより、より効率よくパラジウム濃度を低下させることができる。また、これらの処理は、上記した工程を含む樹脂めっき方法において、毎回行う必要はなく、エッチグ浴中へのパラジウムの蓄積の程度に応じて、適宜実施すればよい。
【0038】
以下、これらの方法について具体的に説明する。
【0039】
(i)治具に吸着したパラジウムを除去する方法
本発明者の研究によれば、エッチング浴中にパラジウムが蓄積する主な要因は、めっき処理に用いる治具に吸着したパラジウムが、エッチング浴中で脱離することであることが見出された。このため、本発明の樹脂めっき方法において、治具に吸着したパラジウムを除去する工程を設けることによって、エッチング浴中にパラジウムが蓄積することを抑制してエッチング浴中のパラジウム濃度を100mg/L以下に維持することが可能となる。
【0040】
治具に吸着したパラジウムを除去する方法としては、特に限定的ではないが、例えば、硝酸、過硫酸塩、過酸化水素、及びパラジウムとの安定度定数が2.0以上の化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物(以下、「パラジウム除去用化合物」ということがある)を含有する水溶液からなるパラジウム除去処理液に治具を浸漬する方法が挙げられる。
【0041】
これらのパラジウム除去用化合物の内で、過硫酸塩の具体例としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等を挙げることができる。また、パラジウムとの安定度定数が2.0以上の化合物の具体例としては、エチレンジアミン、チオ尿素、アセチルアセトン等の各種化合物や、ジメチルグリオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ベンズフェノンオキシム、ジフェニルメタノンオキシム等のオキシム化合物を挙げることができる。
【0042】
パラジウム除去処理液中のパラジウム除去用化合物の濃度については特に限定的ではないが、低すぎると十分なパラジウムの除去効果が得られない場合があり、また、パラジウム除去用化合物の溶解度との兼ね合いもあるが、濃度が高すぎるとコスト的に不利となる。このため、パラジウム除去処理液中のパラジウム除去用化合物の濃度は、0.01〜1000g/L程度とすることが好ましく、0.1〜500g/L程度とすることがより好ましく、1〜100g/L程度とすることが更に好ましい。
【0043】
パラジウム除去処理液の液温については特に限定的ではないが、低すぎると十分なパラジウムの除去効果が得られない場合があり、また、液温が高すぎると治具の劣化が生じやすくなる。このため、パラジウム除去処理液の液温は、10〜70℃程度とすることが好ましく、20〜50℃程度とすることがより好ましい。
【0044】
パラジウム除去処理液への治具の浸漬時間については特に限定的ではないが、短すぎると十分なパラジウムの除去効果が得られない場合があり、また、長すぎると工業的な見地からの生産性の面で不利となる。このため、パラジウム除去処理液への浸漬時間は、1秒〜5時間程度とすることが好ましく、10秒〜2時間程度とすることがより好ましく、1分〜1時間程度とすることが更に好ましい。
【0045】
パラジウム除去処理は、無電解めっき処理の後、エッチング処理前の任意の段階で行うことができる。特に、電気めっき後被処理物を治具から取り外した後に、パラジウム除去処理を行うことによって、パラジウム除去処理液の組成にもよるが、治具の接点に析出しためっき皮膜の溶解剥離工程(いわゆる「治具剥離」)と兼ねることができる場合がある。例えば電気めっき処理後、被処理物を取り外した治具を硝酸に浸漬すれば治具に吸着したパラジウムを除去しつつ、治具接点に析出しためっき皮膜の溶解剥離を行うことができるので効率のよい処理が可能となる。
【0046】
(ii)陰極電解によってパラジウム濃度を低下させる方法
エッチング浴中に蓄積したパラジウムは、例えば、電解処理によって、エッチング浴中のパラジウムを陰極上に金属パラジウムとして析出させる方法によって除去することができる。
【0047】
電解処理の条件については特に限定的ではなく、エッチング浴の組成やパラジウムの蓄積量に応じて適宜決めればよい。例えば、陰極電流密度については、効率良くパラジウムを除去するためには、例えば、50A/dm程度以下、好ましくは40A/dm程度以下、より好ましくは30A/dm程度以下とすればよい。陰極電流密度の下限値については特に限定的ではないが、処理効率を考慮すると、通常、0.1A/dm程度以上であることが好ましく、0.5A/dm程度以上であることがより好ましい。
【0048】
電解処理時のエッチング浴の液温については特に限定的ではないが、液温が低すぎると十分なパラジウム除去効率が得られない場合があり、また、液温が高すぎると電極など設備面への負荷が大きくなる。このため、例えば、電解処理時のエッチング浴の液温は、30〜80℃程度とすることが好ましく、50〜70℃程度とすることがより好ましい。
【0049】
電解処理に用いる陽極としては、酸性溶液中において耐久性を有しかつ十分な電気伝導性を示す電極材であれば特に限定無く使用できる。例えばPt/Ti, カーボン, SUS, Pt, Pb, PbO2, Ta, Zr、Fe-Si, ダイヤモンドなどを使用することができる。
【0050】
陰極についても、陽極と同様に、酸性溶液中において耐久性を有しかつ十分な電気伝導性を示す電極材であれば特に限定無く使用できる。例えばPt/Ti, カーボン, SUS, Pb, PbO2, Ta, Zr、Fe-Si, ダイヤモンドなどを使用することができる。
【0051】
電解時間については、エッチング浴中に含まれるパラジウムが目的とする濃度以下となるまで行えばよい。
【0052】
(iii)ヨウ化物を添加してパラジウム濃度を低下させる方法
パラジウムが蓄積したエッチング浴中にヨウ化物を添加することによって、不溶性のヨウ化パラジウムの沈殿を形成することができる。この沈殿物を濾別等の方法によって分離することによって、エッチング浴からパラジウムを除去することができる。
【0053】
この場合、パラジウム除去のために添加するヨウ化物としては、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ素酸、ヨウ素酸塩(Na塩、K塩、アンモニウム塩など)、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩(Na塩、K塩、アンモニウム塩など)などを例示できる。これらのヨウ化物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0054】
ヨウ化物の添加量については特に限定的ではないが、低すぎると十分なパラジウムの除去効果が得られない場合があり、また、大過剰に添加してもコストに見合った効果が得られない。このため、エッチング浴に添加するヨウ化物の濃度としては、浴中パラジウム濃度に対して、モル比で2〜100倍程度とすることが好ましく、5〜50倍程度とすることがより好ましい。
【0055】
パラジウム除去処理時の液温については特に限定的ではないが、低すぎると十分なパラジウムの除去効果が得られない場合があり、また、液温が高すぎると治具の劣化が生じやすくなる。このため、例えば、30〜80℃程度とすることが好ましく、50〜70℃程度とすることがより好ましい。
【0056】
ヨウ化パラジウムの沈殿を効率よく形成するためには、エッチング浴中にヨウ化物を添加した後、エッチング浴を撹拌することが好ましい。撹拌時間については特に限定的ではないが、短すぎるとヨウ化パラジウムの生成反応が不完全となり十分な効果が得られない場合がある。また、撹拌時間が長すぎると工業的な見地からの生産性の面で不利となる。このため、ヨウ化物添加後の撹拌時間は、1分〜2時間程度とすることが好ましく、10分〜1時間程度とすることがより好ましい。
【発明の効果】
【0057】
本発明の樹脂めっき方法によれば、マンガンを有効成分として含む酸性エッチング浴を連続して使用した場合であっても、エッチング力の低下を抑制して、優れたエッチング性能を長期間維持できる。
【0058】
このため、本発明の樹脂めっき方法によれば、各種の樹脂材料を含む物品を被めっき物として、良好なめっき皮膜を長期間連続して形成することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0060】
実施例1〜7および比較例1〜7
試験片として、ABS樹脂(UMG ABS(株)製、商標名:UMG ABS3001M)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm)を用い、塩化ビニルでコーティングされた治具に試験片を取り付け、下記表1に記載した工程でめっき処理を行った。尚、各処理に用いた処理液の液量は全て1Lであり、各処理の間には水洗を行った。
【0061】
【表1】
【0062】
上記しためっき工程で用いたエッチング浴の組成を下記表2〜5に示す。
【0063】
上記した処理工程を含む樹脂めっき方法において、下記表2〜5に示す条件で、治具からのPd除去処理、陰極電解によるPd除去処理、及び/又はヨウ化物添加によるPd除去処理を行った。
【0064】
これらの処理の内で、治具からのPd除去処理は、3価クロムめっき後、試験片を治具から取り外した後に毎回行なった。陰極電解処理とヨウ化物添加によるPd除去処理については、上記した処理工程からなる樹脂めっき処理を100回行う毎に、使用したエッチング浴に対して行った。
【0065】
それぞれの実施例について、試験片1000枚を処理した後(処理面積1000dm2/L)のエッチング浴中のパラジウム濃度と、得られためっき皮膜のピール強度を測定した。浴中パラジウム濃度についてはICP法により測定した。ピール強度については、上記の工程によりめっき処理を行った試験片について、80℃で120分間乾燥させ、室温になるまで放置した後、めっき皮膜に10mm幅の切り目を入れ、引っ張り試験器((株)島津製作所製、オートグラフAGS−J 1kN)を用いて、樹脂に対して垂直にめっき被膜を引っ張る方法によって測定した。結果を下記表2〜5に示す。
【0066】
尚、各実施例に対して、治具からのPd除去処理、陰極電解によるPd除去処理、及びヨウ化物添加によるPd除去処理をいずれも行うことなく、それ以外は各実施例と同様にして樹脂めっきを行った場合の結果を、比較例として表2〜5に記載する。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
以上の結果から明らかなように、治具に対するPd除去、陰極電解によるエッチング浴中のPd除去、およびヨウ化物添加によるエッチング浴中のPd除去のいずれかの処理を行うことによってエッチング浴中のパラジウム濃度を100 mg/L以下に維持した場合(実施例1〜7)は、試験片を1000枚処理後(処理面積1000 dm2/L)においてもピール強度の低下はほとんど認められず、良好なエッチング力を維持できることが確認できた。なお、上記の処理を二種以上組み合わせて実施した場合(実施例5〜7)には、特にエッチング浴中のパラジウム濃度をより低い濃度に保つことができ、良好なエッチング性能を発揮できた。
【0072】
一方、Pd濃度を低下させるための処理を行わない場合(比較例1〜7)には、試験片を1000枚処理後には、浴中パラジウム濃度が114〜210 mg/Lまで上昇し、建浴直後と比較してエッチング力が低下し、形成されるめっき皮膜のピール強度の顕著な低下が認められた。
【0073】
これらの結果から、マンガンを有効成分として含有する酸性エッチング浴中の金属パラジウム濃度を100 mg/L以下で管理することにより、良好なエッチング力を長期間にわたり維持できることが明らかである。