(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記主コイルは、電磁界共振結合によって給電回路から受電回路へ電力伝送を行う給電装置において、前記給電回路を構成する一次コイル、及び前記受電回路を構成する二次コイルの少なくとも一方である請求項1又は2に記載のアンテナコイルユニット。
前記逆相状態は、前記第1基準軸に沿った方向に見て、前記主コイルの導体線及び前記補助コイルの導体線を流れる前記高調波成分の交流電流の向きが、当該高調波成分のピーク時において互いに逆方向となる状態である請求項1から3の何れか一項に記載のアンテナコイルユニット。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、情報端末(PDA)、電動アシスト自転車、電気自動車、ハイブリッド自動車など、一箇所に据え置かれることなく移動可能な電気機器や電動装置は、外部から電源を供給されることなく動作可能なように、内部に電池などの蓄電装置を有している。多くの場合、蓄電装置の充電は、例えば、機器や装置に設けられた充電口と、電力供給装置とをケーブル等で接続することによって行われる。しかし、近年、このようなケーブルを用いることなくワイヤレスで、つまり非接触で電力を供給する技術が注目されている。非接触で電力を供給する技術の1つに、電磁界共振結合(以下適宜“磁界共鳴”と略称する)を利用したものがある。磁界共鳴は、共通の固有振動数(共振周波数)を有した一対の共振回路、例えば電力供給設備側の共振回路と、機器や装置側の共振回路とを磁界を介して共鳴させ、この磁界を介して電力を伝送する技術である。特開2011−234496号公報(特許文献1)には、この磁界共鳴を利用して車両外部の電源から車両に非接触で給電する技術が開示されている。
【0003】
ところで、磁界共鳴を利用した給電では、共振回路に備えられてアンテナとなる共振コイル(アンテナコイル)を含むコイルユニットの周囲に生じる磁界が電磁ノイズを生じさせる場合がある。これにより、車両に搭載されている電子機器等が電磁ノイズによる影響を受ける場合がある。例えば、車載オーディオにおいて可聴雑音を生じさせる可能性がある。また、磁界内に金属などの導電体が存在すると、電磁ノイズにより導電体が加熱される可能性もある。例えば車両の底部にコイルユニットが設置された場合には、車両の底部の金属部品が加熱される場合がある。このため、このような電磁ノイズを抑制する技術が求められる。特許文献1に開示されたコイルユニットは、共振コイルを複数備え、1つの共振コイルに生じる磁界とその他の少なくとも1つの共振コイルに生じる磁界とが互いに逆位相となるように配置されている。これによって、共振回路以外の場所での磁界が相殺され、漏洩磁界が低減される(第5〜12段落等)。但し、磁界が相殺されるため、同じ電力を給電側の共振コイルに与えた場合の磁界の強さは低下し、給電の効率も低下する。また、複数のコイルの共振周波数の設定を同じ値としているため、高調波ノイズを効果的に抑制するには不充分である。
【0004】
特開2012−115069号公報(特許文献2)には、平面コイルとその内側に配置されたループコイルからなる複合コイルとして構成されるアンテナコイルが開示されている。特許文献2によれば、このアンテナコイルは、平面コイルから発生した磁束をループコイルによって相殺することができるように構成されている。特許文献2には、平面コイルに電流を流した場合に、その電流に対応した周波数がループコイルを含む共振回路の共振周波数と一致した場合にのみ、当該ループコイルが電磁誘導によって励磁され、平面コイルから発生する磁束とは逆向きの磁束を発生させると記載されている。即ち、特許文献2では、ノイズキャンセル用のループコイルを含む共振回路の共振周波数を、除去したいノイズ源の周波数と一致させることでノイズを低減する(第39段落等)。しかし、例えば、磁界共鳴によるワイヤレス電力伝送では、このようにノイズ源の周波数と、ノイズキャンセル用の共振回路の共振周波数とを一致させても、必ずしも大きなノイズ低減効果を得られるものではないということが発明者らの実験等によって明らかになりつつある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑みて、アンテナとして機能する主たるコイルに流れる電流によって生じる電磁波の基本波成分の減衰を抑制しつつ、当該基本波成分の高調波成分などのノイズ成分を抑制する技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みた本発明に係るアンテナコイルユニットは、
第1基準軸周りに導体線を周回させて構成された主コイルと、
前記主コイルとは電気回路的に絶縁された状態で第2基準軸周りに導体線を周回させて構成されると共に、前記主コイルに流れる電流によって生じる磁界によって誘導電流を生じる位置に配置される補助コイルと、を備え、
前記補助コイルは、前記主コイルに流れる電流によって生じる電磁波の基本波成分に対する高調波成分の内の予め規定された対象周波数から、予め規定された偏位方向に予め規定された偏位量だけ偏位した周波数が共振周波数となる状態で構成され、
前記偏位方向及び前記偏位量は、前記補助コイルに流れる交流電流の位相が、前記主コイルを流れる交流電流の高調波成分の位相に対して逆である逆相状態となる方向及び量に設定されている。
ここで、逆相状態とは、主コイルに流れる交流電流の位相と、補助コイルに流れる交流電流の位相との位相差が、180°±90°未満(90°<位相差<270°)となっている状態をいう。
【0008】
アンテナコイルユニットがこのように構成されると、主コイルに流れる電流によって生じる磁束の内ノイズ成分となる周波数成分の磁束が、補助コイルに引き込まれ、補助コイルを介して主コイルへ戻っていくようになる。つまり、主コイルから発生するノイズ成分の磁束は、遠方まで進行せず、当該磁束によって誘導電流を生じる程度の近傍に配置された補助コイルへ向かって進行することとなる。その結果、主コイルから見て補助コイルよりも遠方におけるノイズ成分を抑制することが可能となる。尚、発明者らによる検証、実験、シミュレーション等によって、補助コイルの共振周波数は、抑制したいノイズ成分の周波数ではなく、抑制したいノイズ成分の周波数からある程度ずれた周波数である方が、ノイズ抑制効果が高いことが確かめられている。影響の大きいノイズ成分は、主コイルに流れる電流によって生じる電磁波の基本波成分の高調波成分であることが多く、補助コイルの共振周波数は、当該高調波成分に対して予め規定された条件で偏位した周波数であると好適である。このように、本発明に係るアンテナコイルユニットによれば、アンテナとして機能する主たるコイルに流れる電流によって生じる電磁波の基本波成分の減衰を抑制しつつ、当該基本波成分の高調波成分などのノイズ成分を抑制することが可能となる。
【0009】
本発明に係るアンテナコイルユニットは、1つの態様として、前記第1基準軸と前記第2基準軸とが、平行状であると好適である。第1基準軸と第2基準軸とが、平行状であると、主コイルと補助コイルとをほぼ同一の平面に沿って配置することができるので、アンテナコイルユニットを大型化することなく構成することができる。
【0010】
本発明に係るアンテナコイルユニットは、例えば、電磁界共振結合(以下適宜“磁界共鳴”と略称する)を利用して、非接触で電力を伝送する装置に適用すると好適である。即ち、1つの態様として、本発明に係るアンテナコイルユニットの前記主コイルは、電磁界共振結合によって給電回路から受電回路へ電力伝送を行う給電装置において、前記給電回路を構成する一次コイル、及び前記受電回路を構成する二次コイルの少なくとも一方として適用することができる。
【0011】
上述した逆相状態を作り出すためには、主コイルの導体線及び補助コイルの導体線を流れる高調波成分の交流電流の向きが逆方向である必要がある。好適な態様として、前記逆相状態は、前記第1基準軸に沿った方向に見て、前記主コイルの導体線及び前記補助コイルの導体線を流れる前記高調波成分の交流電流の向きが、当該高調波成分のピーク時において互いに逆方向となる状態であるとよい。ここで、ピークとは、当該高調波成分の正負両方向のピーク(ピーク及びボトム)をいう。また、「高調波成分のピーク時において互いに逆方向となる状態」とは、前記主コイルの導体線を流れる前記高調波成分の交流電流のピークと前記補助コイルの導体線を流れる前記高調波成分の交流電流のピークとの位相がずれている場合には、いずれか一方の前記高調波成分の交流電流のピーク時に、他方の前記高調波成分の交流電流の向きが逆方向となっていることをいう。最も好ましくは、当該「互いに逆方向となる状態」とは、前記主コイルの導体線を流れる前記高調波成分の交流電流のピークと前記補助コイルの導体線を流れる前記高調波成分の交流電流のピークとが、何れか一方の前記高調波成分の交流電流が正方向のピークとなる時に他方の前記高調波成分の交流電流が負方向のピークとなる関係となっている状態をいう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、電磁界共振結合(以下適宜“磁界共鳴”と略称する)を利用して、車両に対してワイヤレス給電(ワイヤレス電力伝送)を行うワイヤレス給電システムを例として、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、ワイヤレス給電システム1(磁界共鳴式給電装置)は、給電施設に設置された給電システム2と、車両9の側に搭載された受電システム3とにより構成される。本実施形態では、給電システム2は、例えば、屋外施設であれば地面Gの近傍に、屋内施設であれば床面の近傍に設置されている。
【0014】
図1に示すように、給電システム2は、交流電源21と、ドライバ回路22と、給電側共振回路25とを有して構成されている。給電側共振回路25は、給電側共振コイル24を有して構成されている。受電システム3は、受電側共振回路35と、整流回路32と、蓄電装置31とを有して構成されている。受電側共振回路35は、受電側共振コイル34を有して構成されている。給電側共振回路25と受電側共振回路35とは、同じ固有振動数(共振周波数)を有する共振回路であり、両者を総称して共振回路5と称する。また、給電側共振コイル24及び受電側共振コイル34を総称して、共振コイル或いはアンテナコイル4と称する。
【0015】
給電システム2の交流電源21は、例えば、電力会社が保有する商用の配電線網から供給される電源(系統電源)であり、その周波数は例えば50Hzや60Hzである。ドライバ回路22は、50Hzや60Hzの系統電源の周波数を、給電側共振回路25(共振回路5)の共振周波数に変換する回路であり、高周波電源回路により構成される。受電システム3の蓄電装置31は、充放電可能な直流電源であり、例えばリチウムイオンやニッケル水素などの二次電池やキャパシタが利用される。受電側共振回路35が受電した電力は、受電側共振回路35の共振周波数を有する交流電力である。整流回路32は、この共振周波数を有する交流電力を直流電力に整流する。尚、ドライバ回路22と給電側共振回路25とを併せて、或いは給電システム2全体は、広義の給電回路に相当する。また、給電側共振回路25は、狭義の給電回路に相当する。同様に、受電側共振回路35と整流回路とを併せて、或いは受電システム3の全体は、広義の受電回路に相当する。また、受電側共振回路35は、狭義の受電回路に相当する。
【0016】
車両9は、例えば、回転電機91により駆動される電気自動車や、不図示の内燃機関及び回転電機91により駆動されるハイブリッド自動車である。回転電機91は、例えばインバータ92などの回転電機駆動装置を介して蓄電装置31に接続されている。本実施形態において、回転電機91は、例えば3相交流回転電機であり、回転電機駆動装置は、直流と交流との間で電力を変換するインバータ92を中核として構成されている。回転電機91は、電動機及び発電機として機能することが可能である。
【0017】
ワイヤレス給電システム1(磁界共鳴式給電装置)は、一対の共振回路5(25,35)を磁界を介して共鳴させ、当該磁界を介して給電するシステムである。尚、「磁性」を利用した「共鳴」技術としては、しばしば医療分野において用いられる磁気共鳴画像法(MRI:magnetic resonance imaging)が知られている。但し、MRIが「磁気スピンの共振」という物理的事象を利用しているのに対して、本発明における「磁界共鳴式給電装置」ではそのような物理的事象は利用していない。本発明における「磁界共鳴式給電装置」では、上述したように、2つの共振回路5を「磁界」を介して共鳴させるものである。従って、ここでは、いわゆるMRIと明確に区別することも含めて、磁界における共鳴を利用して電力を伝送するワイヤレス給電システム1の伝送方式を「電磁界共振結合方式」又は「磁界共鳴方式」と称する。また、この伝送方式は、いわゆる「電磁誘導方式」とも異なる方式である。
【0018】
上述したように、給電側共振回路25と受電側共振回路35とは、同じ固有振動数(共振周波数)を有する。本実施形態においては、給電側共振回路25及び受電側共振回路35は、同一構成のLC共振器である。従って、以下の説明では、両者を区別する必要がない場合は、「共振回路5」として説明する。
図2の等価回路に示すように、共振回路5は、インダクタンス成分“L”を有するアンテナコイル4と、キャパシタンス成分“C”を有するコンデンサ6とを有して構成されている。
【0019】
給電側共振回路25及び受電側共振回路35は、同じ共振周波数を有する回路である。例えば、離間して配置された2つの音叉の内の一方を空気中で振動させると、他方の音叉も、空気を介して伝搬した振動に共鳴して振動するのと同様に、給電側共振回路25と受電側共振回路35とも共鳴する。より詳しくは、給電側共振回路25の共振(電磁気的振動)により生じた磁界を介して受電側共振回路35に伝搬した電磁気的振動に共鳴して、受電側共振回路35も共振する(電磁気的に振動する)。
【0020】
ところで、ワイヤレス給電システム1は、給電側及び受電側の共振回路5を結合する磁界が形成される空間以外の空間への磁束の漏洩を抑制しつつ、高い伝送効率で給電することが好ましい。これを実現するため、本発明では、共振回路5に附加的な共振回路(補助共振回路5c)を備えて共振回路ユニット50が構成される。補助共振回路5cは、ノイズ成分となる電磁波を抑制する働きをする回路である。共振回路ユニット50において、電力伝送のための共振回路5を特に区別する場合には、補助共振回路5cに対応する回路として、主共振回路5pと称する。また、共振回路ユニット50においては、後述するように、主共振回路5p及び補助共振回路5cをそれぞれ構成するアンテナコイル(主コイル41、補助コイル42)が予め規定された相対配置で備えられる。ここでは、これらのアンテナコイルを総称して、アンテナコイルユニット40と称する。
【0021】
共振回路ユニット50は、
図3に示すように、主コイル41を備えて構成される主共振回路5pと、補助コイル42を備えて構成される補助共振回路5cとを備えて構成されている。主コイル41は、第1基準軸X1の周りに導体線を周回させて構成されており、上述した共振回路5(主共振回路5p)を構成する。補助コイル42は、主コイル41とは電気回路的に絶縁された状態で第2基準軸X2の周りに導体線を周回させて構成されている。また、補助コイル42は、主コイル41に流れる電流によって生じる磁界によって誘導電流を生じる位置に配置されている。補助コイル42は、主コイル41に流れる電流によって生じる電磁波の基本波成分に対する高調波成分の内の予め規定された対象周波数から、予め規定された偏位方向に予め規定された偏位量だけ偏位した周波数が共振周波数(fc)となる状態で構成されており、上述した補助共振回路5cを構成する。ここで、偏位方向及び偏位量は、補助コイル42に流れる交流電流の位相が、主コイル41を流れる交流電流の高調波成分の位相に対して逆である逆相状態となる方向及び量に設定されている。逆相状態については後述する。
【0022】
上述したように、主共振回路5p(共振回路5)の主コイル41(アンテナコイル4)は、ワイヤレス給電システム1の送受信アンテナとして機能する。即ち、主コイル41は、電磁界共振結合によって給電回路(給電システム2)から受電回路(受電システム3)へ電力伝送を行う給電装置(ワイヤレス給電システム1)において、給電回路を構成する一次コイル、及び受電回路を構成する二次コイルの少なくとも一方として機能する。主共振回路5pは、インダクタンス成分“Lp”を有する主コイル41と、キャパシタンス成分“Cp”を有するコンデンサ61とによって規定される共振周波数の電磁界を発生させる。あるいは、当該共振周波数の電磁界による作用で主コイル41(アンテナコイル4)に電流を流す。
【0023】
一方、補助共振回路5cは、インダクタンス成分“Ln”を有する補助コイル42と、キャパシタンス成分“Cn”を有するコンデンサ62とによって規定される周波数を共振周波数(fc)とする。この共振周波数は、主共振回路5pの共振周波数とは異なる周波数であり、補助共振回路5cは、電力の伝送には寄与しない。補助共振回路5cの共振周波数は、主共振回路5pの共振周波数の基本波成分の高調波成分に基づいて設定されている。この高調波成分、例えば5次、7次、9次などの高次高調波成分は、他の機器等に対してノイズ成分として作用することがある。補助共振回路5cは、主共振回路5pが発生させる電磁界によるノイズ成分の電磁波を減衰させるように作用するノイズキャンセル共振回路である。尚、
図3において符号“Lm”は、主コイル41と補助コイル42との間の相互インダクタンスである。
【0024】
主共振回路5pの端子対t1は、
図1に示したようにドライバ回路22や整流回路32に接続される。一方、補助共振回路5cの端子対t2は、互いに接続されて閉回路を形成し、主共振回路5pが発生させる電磁波に対して共振することで、閉回路内に電流が流れる。以下の説明においては、主共振回路5pから補助共振回路5cへ電力伝送を行うものとして回路特性について説明する。尚、主共振回路5p及び補助共振回路5cの共振の鋭さ“Q”は、例えば“50”以上として、伝送効率を高くすることが好ましい。
【0025】
図4は、
図5及び
図6に示すように主コイル41と補助コイル42とが隣接して配置された場合に形成される
図3のような電力伝送回路における伝送効率(実線)及びノイズ放射率(一点鎖線)の周波数特性を示している。
図4に示すように、伝送効率の周波数特性では、極値に対応する周波数が2つ存在する。ここでは、2つの内、周波数が低い方を第1極値周波数f1、周波数が高い方を第2極値周波数f2と称する。また、
図4において符号“fc”は、補助共振回路5cの共振周波数を示している。
【0026】
ところで、第1極値周波数f1では、主共振回路5pと補助共振回路5cとが、
図5に示すように電流(I)が流れて磁界を生じる第1条件で結合する。点Pは、給電側及び受電側の共振回路5を結合する磁界が形成される空間から離れた点を示している。
図5において主コイル41からの磁束は、補助コイル42へ向かうため、点Pの近傍(例えば領域S)まで到達する磁束は抑制される。つまり、主コイル41に流れる電流によって生じる電磁波の基本波成分の高調波成分によるノイズ性の電磁波が抑制される。
【0027】
一方、補助共振回路5cの共振周波数fcと第2極値周波数f2の間の周波数“f3”では、主共振回路5pと補助共振回路5cとが、
図6に示すように電流(I)が流れて磁界を形成する第2条件で結合する。
図6においては、主コイル41からの磁束と、補助コイル42からの磁束とが同方向であるから、これらの磁束は点Pまで到達し易い。点Pの近傍(領域S)における磁界は、第1条件(
図5)の場合と異なり、主コイル41からの磁束と同方向であるから、点Pの近傍における磁束は補助コイル42がない場合よりも増加する。つまり、主コイル41に流れる電流によって生じる電磁波の基本波成分の高調波成分によるノイズ性の電磁波が増加する。
【0028】
即ち、
図4に示すように、主共振回路5pからのノイズ放射率の周波数特性(一転鎖線)は、第1条件(周波数:f1)で極小値を取り、第2条件(周波数:f3)で極大値を取る。従って、主共振回路5pが発するノイズ成分の電磁波の周波数が、第1極値周波数f1となるように、補助共振回路5cの共振周波数fcを設定すると好適である。即ち、補助コイル42は、主コイル41に流れる電流によって生じる電磁波の基本波成分に対する高調波成分の内の予め規定された対象周波数(例えば“f1”)から、予め規定された偏位方向(例えば周波数が高くなる方向)に予め規定された偏位量(例えば“fs”)だけ偏位した周波数が共振周波数fcとなる状態で構成されていると好適である。
【0029】
尚、
図5及び
図6のように、主コイル41と補助コイル42とがほぼ同じ平面に沿って隣接して配置される場合、第1条件は、主コイル41と補助コイル42との間の対称面Wが、“磁気壁”と称される状態となっている“磁気壁条件”と言うことができる。また、第2条件は、主コイル41と補助コイル42との間の対称面Wが“電気壁”と称される状態となっている“電気壁条件”と言うことができる。ここで、対称面Wは、主コイル41の配置領域と補助コイル42の配置領域との中間を仕切る位置に設けられた面である。言い換えると、対称面Wは、主コイル41の配置領域と補助コイル42の配置領域とが、当該対称面Wを挟んで対称に配置されるように設定された面である。磁気壁や電気壁の概念については、「居村岳広、堀洋一、『電磁界共振結合による伝送技術』、IEEJ Journal, Vol.129, No.7, 2009」等に詳しいので、ここでは詳細な説明は省略し、以下、簡単に説明する。
【0030】
図7は、対称面Wとして磁気壁Wmが形成される場合を例示しており、
図8は、対称面Wとして電気壁Weが形成される場合を例示している。磁気壁Wmでは、
図7に示すように磁界が直交し、電気壁Weでは、
図8に示すように磁界が平行する。磁界と電界とは、作用する方向が90°ずれているため、図示は省略するが、磁気壁Wmでは電界が平行し、電気壁Weでは電界が直交する。
【0031】
図7に示すように、主コイル41と補助コイル42とがほぼ同じ平面に沿って隣接して配置される際に、磁気壁Wmが形成される第1条件(磁気壁条件)では、補助コイル42に流れる交流電流の位相が、主コイル41を流れる交流電流の高調波成分の位相に対して逆である逆相状態である。この逆相状態は、主コイル41に流れる交流電流の位相と、補助コイル42に流れる交流電流の位相との位相差が、ちょうど180°である場合に限定されるものではなく、ある程度のずれは許容される。当該位相差が180°±90°となると、磁気壁条件が成立しなくなるので、物理的には180°±90°未満(90°<位相差<270°)の範囲が許容される。換言すれば、第1基準軸X1に沿った方向に見て、主コイル41の導体線及び補助コイル42の導体線を流れる高調波成分の交流電流の向きが、当該高調波成分の正負両方向のピーク(ピーク及びボトム)の時において互いに逆方向となる状態であればよい。しかし、ノイズの抑制効果を考慮すれば、概ね180°±45°未満(135°<位相差<225°)であることが好ましい。当然ながら、位相差が180°であることが最も好ましい。
【0032】
図5及び
図7に示すように、主コイル41と補助コイル42とが、互いの基準軸が平行状となる状態で隣接して配置されている場合には、磁気壁Wmが形成される第1条件(磁気壁条件)を満たすように、補助共振回路5cが構成されると好適である。
【0033】
上述したように、補助コイル42は、主コイル41に流れる電流によって生じる磁界によって誘導電流を生じる位置に配置されている。そして、補助コイル42は、主コイル41に流れる電流によって生じる電磁波の基本波成分に対する高調波成分の内の予め規定された対象周波数から、予め規定された偏位方向に予め規定された偏位量だけ偏位した周波数が共振周波数となる状態で構成されて、補助共振回路5cを構成する。発明者らによる実験やシミュレーションによって、補助共振回路5cの共振周波数fcは、以下のようにして求めると好適であることがわかった。
【0034】
(1)一次側(給電側共振回路25)及び二次側(受電側共振回路35)の端子対t1を開放/短絡することによって、補助共振回路5cから見た結合度“K”を測定する。
【0035】
(2)主コイル41(例えば一次側の主コイル)と補助コイル42との相互インダクタンスLmを求める(Lm=K・Ln)。
【0036】
(3)下記に示す式(1)に基づき、減衰させたい高調波周波数でのコンデンサ62の値Cnを算出する(式(2))。
【0038】
(4)下記に示す式(3)により、補助共振回路5cの設定周波数(共振周波数fc)を算出する。尚、補助共振回路5cの回路定数(Ln,Cn)は、上記(3)までにおいて既に決定しているので、実用上は共振周波数fcを計算する必要はない。
【0040】
以上、磁気壁条件を満たすように補助コイル42を配置して、補助コイル42を用いた補助共振回路5cを構成する例について説明した。しかし、この態様に限らず、電気壁条件を満たすように補助コイル42を配置してノイズを抑制することも可能である。以下、その態様について説明する。
図9は、主コイル41と補助コイル42とが、互いの基準軸が平行状となる状態で、ほぼ同一の平面に沿って同心円状に配置されている態様を例示している。
図9では、主コイル41の内部に補助コイル42が配置されており、対称面Wとして電気壁Weが形成される。尚、ここで、同心円状とは、主コイル41の内部に補助コイル42が配置されている、又は、補助コイル42の内部に主コイル41が配置されていればよく、第1基準軸X1と第2基準軸X2とが一致している必要はない。
【0041】
但し、この際には、
図4に例示した態様とは周波数特性が異なり、
図10に示すような特性を示す。主共振回路5pからのノイズ放射率の周波数特性(一転鎖線)は、第2条件(周波数:f2)で極小値を取り、第1条件(周波数:f4)で極大値を取る。従って、主共振回路5pが発する電磁界の周波数が、第2極値周波数f2となるように、補助共振回路5cの共振周波数fcを設定すると好適である。即ち、補助コイル42は、主コイル41に流れる電流によって生じる電磁波の基本波成分に対する高調波成分の内の予め規定された対象周波数(例えば“f2”)から、予め規定された偏位方向(例えば周波数が低くなる方向)に予め規定された偏位量(例えば“fs”)だけ偏位した周波数が共振周波数fcとなる状態で構成されていると好適である。
【0042】
尚、
図9に示す態様においても、ノイズ成分の電磁波が低減される条件(ここでは、第2条件(電気壁条件))が満たされる際には、補助コイル42に流れる交流電流の位相が、主コイル41を流れる交流電流の高調波成分の位相に対して逆である逆相状態である。即ち、第1基準軸X1に沿った方向に見て、主コイル41の導体線及び補助コイル42の導体線を流れる高調波成分の交流電流の向きが、当該高調波成分の正負両方向のピーク(ピーク及びボトム)の時において互いに逆方向となる状態である。
【0043】
この場合、補助共振回路5cの共振周波数fcは、以下のようにして求める。基本的には、上述した(1)〜(4)と同様であるが、偏位方向が正負逆方向であるので、(3)の式(1)及び式(2)は、下記式(4)及び式(5)となる。
【0045】
ところで、
図9では、主コイル41と補助コイル42とが、互いの基準軸が平行状となる状態で同心円状に配置されている態様として、主コイル41の内部に補助コイル42が配置されている態様を例示した。しかし、互いの基準軸が平行状となる状態で、ほぼ同一の平面に沿って同心円状に配置されている態様としては、
図11に示すように、補助コイル42の内部に主コイル41が配置されている態様を採ることも可能である。この場合も、
図11に示すように、電気壁Weが形成される。主コイル41に流れる交流電流と補助コイル42に流れる交流電流の位相が逆相状態であることや、共振周波数fcの求め方については同様であるので説明を省略する。
【0046】
上記実施形態においては、車両9に搭載された蓄電装置に対してワイヤレス給電を行う場合を例示したが、当然ながら本発明は、車両への適用に限定されるものではない。例えば、小型水力発電や太陽光発電、小型風力発電により発電された電力を、一般家屋やビルディングなどに伝送する用途、つまりスマートグリッドシステムにおける電力伝送にも利用することができる。また、補助共振回路5c(ノイズキャンセル共振回路)を利用したノイズ対策は、電力伝送への適用に限定されるものではなく、例えば、電磁調理器など、コイルがノイズ源となる様々なシステムや装置において、ノイズを低減させるために利用することができる。