特許第6142415号(P6142415)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142415
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】カーボンブラック分散液およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20170529BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20170529BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20170529BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170529BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   C09C1/48
   C09C3/10
   C09C3/08
   H01M4/62 Z
   C09D17/00
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-160469(P2013-160469)
(22)【出願日】2013年8月1日
(65)【公開番号】特開2015-30777(P2015-30777A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康平
(72)【発明者】
【氏名】真木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】廣田 尚久
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 昌洋
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−070908(JP,A)
【文献】 特開2011−184664(JP,A)
【文献】 特開2011−162698(JP,A)
【文献】 特開2010−086955(JP,A)
【文献】 特開2003−157846(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/147989(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/024799(WO,A1)
【文献】 特開2005−213405(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133031(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/132809(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/00− 3/12
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
C09D 11/00− 11/54
C09D 17/00
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、ビニルアルコール骨格含有樹脂と、N−メチル−2−ピロリドンと、アミン系化合物とを含有し、カーボンブラック100重量部に対して、ビニルアルコール骨格含有樹脂を1重量部以上、15重量部以下含有し、かつアミン系化合物を0.1重量部以上、2.6重量部以下含有することを特徴とする、カーボンブラック分散液。
【請求項2】
カーボンブラック100重量部に対して、ビニルアルコール骨格含有樹脂を1重量部以上、8重量部以下含有し、かつアミン系化合物を0.2重量部以上、1.5重量部以下含有することを特徴とする、請求項1記載のカーボンブラック分散液。
【請求項3】
上記アミン系化合物が、脂肪族1級アミン、脂肪族2級アミン、脂肪族3級アミン、アミノ酸、アルカノールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリアミンおよび脂環式含窒素複素環化合物からなる群より選ばれた1種以上のアミン系化合物であることを特徴とする、請求項1または2いずれか記載のカーボンブラック分散液。
【請求項4】
アミン系化合物が、アミノ基を1つのみ有する、脂肪族1級アミン、脂肪族2級アミン、脂肪族3級アミン、アルカノールアミンおよびポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群より選ばれた1種以上のアミン系化合物であることを特徴とする、請求項3記載のカーボンブラック分散液。但し、アミノ基は1級、2級または3級の官能基である。
【請求項5】
ビニルアルコール骨格含有樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリビニルホルマール樹脂からなる群より選ばれた1種以上のビニルアルコール骨格含有樹脂であることを特徴とする、請求項1ないし4いずれか記載のカーボンブラック分散液。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか記載のカーボンブラック分散液に、さらに、正極活物質または負極活物質を含有してなる電池用カーボンブラック分散液。
【請求項7】
請求項1ないし5いずれか記載のカーボンブラック分散液または請求項6記載の電池用カーボンブラック分散液を塗布してなる電池電極合材層。
【請求項8】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、請求項7記載の電池電極合材層を具備してなるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性、貯蔵安定性に優れたカーボンブラック分散液に関する。また、該分散液を使用した電池電極合材層およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、着色顔料、遮光材料、導電材料、熱伝導材料、高分子の補強材などとして、印刷インキ、インクジェットインキ、筆記具用インキ、塗料、プラスチック形成材料などの幅広い分野で使用されている。これらの用途への要求品質を満たし、かつ生産プロセスを効率化して短縮するためには、カーボンブラックを溶剤中に分散して、容易に塗工可能にすることが重要となる。
【0003】
近年では、特に環境や生産コストへの配慮から、従来よりも、より高濃度なカーボンブラック分散液を作製し、溶剤使用量を低減することや乾燥時の使用エネルギーを低減することが求められている。
【0004】
これらの要求は、溶剤のコストや乾燥時の使用エネルギーに大きな影響があることから、使用する溶剤が高価であるほど、または、使用する溶剤が高沸点であるほど重要になる。非水系二次電池などで使用されるN−メチル−2−ピロリドンは、一般的な溶剤と比較して高価であり、さらに200℃以上と沸点が非常に高いことから、分散液における溶剤使用量の低減が強く求められている。
【0005】
多量のカーボンブラックを溶剤中に分散するためには、カーボンブラックの表面に分散剤を吸着処理して分散安定な状態にすることが、特に有効な方法であり、様々な分散剤を用いたカーボンブラック分散液が提案されている。
【0006】
N−メチル−2−ピロリドンを溶剤としてカーボンブラックを分散するための分散剤としては、特許文献1にあるような低分子量の界面活性剤や、特許文献2にあるような色素誘導体等の低分子化合物(以下、単に色素誘導体と記載)、または特許文献3、4にあるような高分子化合物(以下、単に樹脂型分散剤と記載)が知られている。これらの分散剤は、塗料を構成する主要成分がそのまま分散剤として機能する場合を除いては、極力少ない添加量であることが求められる。
【0007】
これらの分散剤を使用する場合、それぞれの分散剤の特徴に応じて使い分けが必要であり、例えば、得られる分散液の可能な組成範囲や粘性、表面張力などは、分散剤に用いる材料によって大きく異なる事から、分散剤を適切に選定することは非常に重要である。以下、分散剤として、低分子量の界面活性剤、色素誘導体、樹脂型分散剤を用いた場合について、それぞれの特徴について記述する。
【0008】
まず、分散剤として低分子量の界面活性剤を用いる例が、特許文献1に記載されているが、有機溶剤中では官能基の電離が弱いと考えられ、良好な分散安定性を得るには多量の添加が必要になる傾向にあるため、分散剤添加量の観点から好ましくない。
【0009】
特許文献2記載の色素誘導体は、カーボンブラック表面に化学的に吸着されることによって粒子の表面を安定化し、さらに良好な粒子表面電荷を形成するために、分散剤として機能すると考えられている。色素誘導体は、少ない添加量でも良好な分散液を得ることが出来ることから、分散剤添加量の観点からは有機溶剤中の分散剤として好適である。
【0010】
例えば、特許文献3や4記載の樹脂型分散剤は、色素誘導体同様、比較的少ない添加量でも良好な分散液を得ることが出来、分散剤添加量の観点から、有機溶剤中での分散剤として好適である。これら樹脂型分散剤においては、カーボンブラック表面に化学的または物理的に吸着されることと、吸着後の高分子鎖の溶解構造が、それぞれ重要だと考えられる。これは、高分子化合物が粒子表面に上手く吸着されたとしても、高分子鎖が溶剤側に上手く張り出されない場合は、粒子間で効果的に立体反発することが出来ないためだと考えられている。また、高分子化合物であることから、低分子である色素誘導体と比較して、厳しい環境下において化学的に安定であること、または反応性の制御や管理がより容易であると、期待する事が出来る。
【0011】
N−メチル−2−ピロリドンを溶剤としてカーボンブラックを分散するための樹脂型分散剤としては、例えば特許文献3または4記載のポリビニルピロリドンやポリビニルブチラールが知られている。これらの樹脂は、N−メチル−2−ピロリドンに溶解し、カーボンブラックの粒子表面に吸着され、異なる粒子に吸着された樹脂の高分子鎖同士が立体的に反発することによって、分散性能が発現すると考えられている。しかし、これらの樹脂型分散剤を用いて高濃度なカーボンブラック分散液を作製した場合、得られる分散液の粘度が非常に高くなる問題がある。カーボンブラック分散液の粘度が非常に高い場合、分散液の流動性が悪いために、他のバインダー成分や他の粉体成分を添加した上での、液の加工性や均質性、塗工性を確保することが困難となり、均一な塗工層を得る事が困難になる。
【0012】
この問題のために、ポリビニルピロリドンやポリビニルブチラールよりも分散性能が高く、より高濃度なカーボンブラック分散液を得ることが出来る分散剤の開発が求められている。
【0013】
例えば、特許文献5には、各種非イオン性界面活性剤を用いる可能性が示唆されており、非イオン性界面活性剤の一つとしてポリビニルアセタール樹脂やポリビニルアルコール樹脂が、溶剤の一つとしてN−メチル−2−ピロリドンが、公知の添加剤の一つとしてアミン化合物やアンモニウム化合物などの窒素化合物が、それぞれ記述されている。しかし、これまで、N−メチル−2−ピロリドン溶剤という特定の溶剤を使用した場合において、特定骨格を含有する樹脂と、特定の添加剤とを分散剤として併用することによって、特に良好な分散液が得られる可能性があるのかについては、依然として不明であった。
【0014】
また、電池分野において、カーボンブラックは、導電助剤として広く用いられているが、電池電極合材層を形成する際、生産プロセスを効率化して短縮するためには、カーボンブラックを溶剤中に、いかに高濃度かつ均一に分散して、容易に塗工可能とするかが重要である。
【0015】
例えば、特許文献6、7には、カーボンブラック、未変性又は変性ポリビニルアルコール樹脂またはポリビニルアセタール樹脂、及びN−メチル−2−ピロリドンを含有する塗工液が記載されており、また、特許文献6には、前記塗工液に正極活物質又は負極活物質を添加して、リチウムイオン二次電池の電極板を製造することが記載されている。しかしながら、これら特許文献6、7におけるポリビニルアルコール類およびポリビニルアセタール樹脂は、結着剤(樹脂バインダー)として多量に使用されており、ポリビニルアルコール類およびポリビニルアセタール樹脂を分散剤として使用するという技術的思想はない。
【0016】
一般に、分散剤を使用してカーボンブラックを分散する場合、分散剤の量が極端に少なくなるとカーボンブラックの分散性は悪化し、逆に分散剤の量が非常に多くなると分散性は良好になるものの、電池用途で使用する場合には、抵抗値が高くなり導電性が悪化するといった電池特性に悪影響を及ぼすことが予想される。
【0017】
しかしながら、高濃度かつ均一に分散されたカーボンブラック分散液を得るために、使用するカーボンブラック、溶剤種、分散剤の物理的、化学的性質はもとより、それらの量的関係についてまで詳細に検討された例は報告されておらず、N−メチル−2−ピロリドンという特定の溶剤と、ビニルアルコール骨格含有樹脂を分散剤、アミン系化合物を添加剤として使用する場合、カーボンブラックとビニルアルコール骨格含有樹脂およびアミン系化合物の物理的、化学的性質、さらには、それらの量的関係が、カーボンブラック分散液や電池電極合材層、電池特性へどう影響するかについては何ら検討されていないのが実状であった。
【0018】
また、一般に、リチウムイオン二次電池用電極を製造する際には、電池中の結合剤に用いる高分子材料によって電極合材液の作製に用いる溶剤が決定される。現在、リチウムイオン二次電池用電極の生産においては、電極を形成するために特に好適な結合剤としてポリフッ化ビニリデンが、ポリフッ化ビニリデンを溶かすための溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンが、一般に用いられている。N−メチル−2−ピロリドンは沸点が202℃と非常に高く、そのために、電極合材液の乾燥には多量のエネルギーと時間を費やす必要があった。この問題を解決するために、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤とした、出来るだけ高濃度な電極合材液を得る試みが行われてきた。リチウムイオン二次電池の電極合材液用のカーボンブラック分散液に求められるもう1つの性能として、分散剤添加量は極力少ない方が望ましいことが挙げられる。これは、分散剤を添加した分だけ、電極膜における他の電極構成成分の比率が下がるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平8−190912号公報
【特許文献2】特開2011−162698号公報
【特許文献3】特開2003−157846号公報
【特許文献4】特開2011−184664号公報
【特許文献5】特開2011−70908号公報
【特許文献6】国際公開第2009/147989号
【特許文献7】国際公開第2011/024799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
以上の状況を鑑み、本発明では、従来公知の樹脂型分散剤と比較して、得られるカーボンブラック分散液を顕著に低粘度化すること、すなわち、達成できるカーボンブラック濃度が顕著に高く、カーボンブラックの分散性と分散液の貯蔵安定性に優れた、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤とするカーボンブラック分散液を提供することが課題である。また、均質で良好な塗膜物性と、表面抵抗の低い電池電極合材層を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、カーボンブラック、溶剤種、分散剤の物理的、化学的性質に着目し、それらの量的関係についてまで詳細に検討した結果、カーボンブラックと、ビニルアルコール骨格含有樹脂の使用量と、アミン系化合物の使用量との間に、分散性に大きく寄与する臨界的範囲があることを見出し、これらが一定の範囲内である場合に高濃度、低粘度、かつ長期保存安定性が良好なカーボンブラック分散液を製造できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0022】
即ち、本発明の実施態様は、カーボンブラックと、ビニルアルコール骨格含有樹脂と、N−メチル−2−ピロリドンと、アミン系化合物とを含んでなるカーボンブラック分散液であって、カーボンブラック100重量部に対して、ビニルアルコール骨格含有樹脂を1重量部以上、15重量部以下含有し、かつアミン系化合物を0.1重量部以上、2.6重量部以下含有することを特徴とする上記カーボンブラック分散液に関する。
【0023】
また、本発明の実施態様は、カーボンブラック100重量部に対して、ビニルアルコール骨格含有樹脂を1重量部以上、8重量部以下含有し、かつアミン系化合物を0.2重量部以上、1.5重量部以下含有することを特徴とする上記カーボンブラック分散液に関する。
【0024】
また、本発明の実施態様は、上記アミン系化合物が、脂肪族1級アミン、脂肪族2級アミン、脂肪族3級アミン、アミノ酸、アルカノールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリアミンおよび脂環式含窒素複素環化合物からなる群より選ばれた1種以上のアミン系化合物であることを特徴とする上記カーボンブラック分散液に関する。
【0025】
また、本発明の実施態様は、上記アミン系化合物が、アミノ基を1つのみ有する、脂肪族1級アミン、脂肪族2級アミン、脂肪族3級アミン、アルカノールアミンおよびポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群より選ばれた1種以上のアミン系化合物であることを特徴とする上記カーボンブラック分散液に関する。但し、アミノ基は1級、2級または3級の官能基である。
【0026】
また、本発明の実施態様は、ビニルアルコール骨格含有樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリビニルホルマール樹脂からなる群より選ばれたビニルアルコール骨格含有樹脂であることを特徴とする上記カーボンブラック分散液に関する。
【0027】
また、本発明の実施態様は、上記カーボンブラック分散液に、さらに、正極活物質または負極活物質を含有してなる電池用カーボンブラック分散液に関する。
【0028】
また、本発明の実施態様は、上記カーボンブラック分散液または上記電池用カーボンブラック分散液を塗布してなる電池電極合材層に関する。
【0029】
また、本発明の実施態様は、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、上記電池電極合材層を具備してなるリチウムイオン二次電池に関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、従来公知の樹脂型分散剤を用いた場合よりも、顕著に低粘度なカーボンブラック分散液を得ることができ、カーボンブラック濃度を高くすることが可能となる。その結果、従来よりも高濃度なカーボンブラック分散液を提供できるようになり、N−メチル−2−ピロリドン溶剤の使用量を大幅に低減できると共に、塗工した塗膜の乾燥プロセスも大幅に短縮することが出来るようになる。また、カーボンブラックの分散性と分散液の貯蔵安定性に優れた、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤とするカーボンブラック分散液を提供することが可能となる。
【0031】
また、該分散体を用いて二次電池用電極合材液を調製した場合、低粘度であることから活物質粉体の添加や混練が容易になり、さらに、各電極成分が高濃度な電極合材液を用いても、均質で良好な塗膜を得ることが出来るため、表面抵抗の低い電池電極合材層を得る事が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明におけるカーボンブラック分散液は、カーボンブラックと、ビニルアルコール骨格含有樹脂と、アミン系化合物と、N−メチル−2−ピロリドンとを含むことを特徴とする。以下にその詳細を説明する。尚、本明細書では、「カーボンブラック分散液」、「電池用カーボンブラック分散液」を「分散液」、「N−メチル−2−ピロリドン」を「NMP」と略記することがある。
<カーボンブラック>
本発明に用いるカーボンブラックとしては、市販のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボンブラック、黒鉛化処理されたカーボンブラック、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなども使用できる。
【0033】
カーボンブラックの酸化処理は、カーボンブラックを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることによって、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基のような酸素含有極性官能基をカーボンブラック表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンブラックの分散性を向上させるために一般的に行われている。
【0034】
本発明で用いるカーボンブラックは、特に限定されるものではないが、アセチレンブラックやファーネスブラックなど、高い導電性を有し、かつ工業的に生産されるカーボンブラックが好適に用いられる。
【0035】
また、分散液の製造に用いるカーボンブラックの平均一次粒子径としては、一般的な分散液や塗料に用いられるカーボンブラックの平均一次粒子径範囲と同様に0.01〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましく、0.01〜0.1μmがさらに好ましい。ここでいう平均一次粒子径とは、電子顕微鏡で測定された算術平均粒子径を示し、この物性値は一般にカーボンブラックの物理的特性を表すのに用いられている。
【0036】
カーボンブラックの物理的特性を表すその他の物性値としては、BET比表面積やpHが知られている。BET比表面積は、窒素吸着によりBET法で測定された比表面積(以下、単に比表面積と記載)を指し、この比表面積はカーボンブラックの表面積に対応しており、比表面積が大きいほど分散剤を必要とする量も多くなる。pHはカーボンブラック表面の官能基や含有不純物の影響を受けて変化する。
<ビニルアルコール骨格含有樹脂>
本発明には、分散剤としてビニルアルコール骨格含有樹脂を用いる。すなわちビニルアルコール骨格含有樹脂をバインダーとしてではなく分散剤として使用する。本発明で用いるビニルアルコール骨格含有樹脂の製造方法については特に制限はないが、以下、ポリ酢酸ビニルを原料とし、これをけん化することによって得られたポリビニルアルコール樹脂、および、ポリビニルアルコール樹脂を原料としてホルマール化反応またはアセタール化反応することによって得られたポリビニルホルマール樹脂またはポリビニルアセタール樹脂、について記述する。
【0037】
一般に、ポリビニルアルコール樹脂は、酢酸ビニルを重合させて得られたポリ酢酸ビニルを原料とし、このポリ酢酸ビニルをけん化して、アセチル基を水酸基に置換することによって得られる。この合成プロセスのために、ポリビニルアルコール樹脂はアセチル基と水酸基を有し、その比率はけん化度として表される。なお、本発明におけるけん化度とは、業界公知のけん化度の定義と同一であり、けん化によりビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。特に、ポリ酢酸ビニルを原料として用いた場合、ポリビニルアルコール樹脂中に含まれるビニルアルコール骨格に由来した水酸基数を、酢酸ビニル骨格に由来したアセチル基数とビニルアルコール骨格に由来した水酸基数の和で除した値を意味する。
【0038】
また一般に、ポリビニルホルマール樹脂またはポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドと反応させ、ホルマール化またはアセタール化することによって得られる。この合成プロセスのために、ポリビニルホルマール樹脂はアセチル基と水酸基とホルマール基とを有し、ポリビニルアセタール樹脂はアセチル基と水酸基とアセタール基とを有する。これらの樹脂としての性質は、主として水酸基と、ホルマール基またはアセタール基の比率によって特徴づけられる。
【0039】
本発明で使用するビニルアルコール骨格含有樹脂は、従来公知の合成法により合成されたものであり、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができるが、これに限定されない。
【0040】
また、ビニルアルコール骨格含有樹脂に含まれる官能基としては、水酸基、アセチル基、アセタール基またはホルマール基以外の官能基として、例えば、アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基を導入されたものや、エーテル、エステル等の構造を有するもの、各種の塩によって変性されたもの、その他アニオンあるいはカチオン変性されたものも、本発明で使用するビニルアルコール骨格含有樹脂の範囲に含まれ、これらは、単独、もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0041】
カーボンブラックに対するビニルアルコール骨格含有樹脂の分散剤としての効果は、NMPに対する溶解性や膨潤性、平均重合度、ビニルアルコール骨格含有比率によって影響される。
【0042】
ビニルアルコール骨格含有樹脂は、ビニルアルコール骨格の含有率が10〜90mol%のものが好ましく、20〜85mol%のものがさらに好ましい。
【0043】
分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂は、平均重合度が50〜3000のものが好ましく、100〜2000のものが特に好ましく、100〜1500のものがさらに好ましい。
【0044】
分散剤としてのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂は、平均計算分子量が5000〜200000のものが好ましく、10000〜150000のものが特に好ましく、15000〜150000のものがさらに好ましい。
【0045】
また、分散剤としてのビニルアルコール骨格含有樹脂は、特に限定されるものではないが、特許文献1から4記載の従来公知の分散剤や、従来公知の添加剤などと、併用して用いることが出来る。
【0046】
市販のビニルアルコール骨格含有樹脂としては、例えば、クラレポバール(クラレ社製ポリビニルアルコール樹脂)や、ゴーセノール(日本合成化学工業社製ポリビニルアルコール樹脂)、デンカポバール(電気化学工業社製)、J−ポバール(日本酢ビ・ポバール社製)、エスレック(積水化学工業社製ポリビニルアセタール樹脂)、モビタール(クラレ社製ポリビニルブチラール樹脂)、ビニレック(JNC社製ポリビニルホルマール樹脂)などの商品名で、種々のグレードを市場より入手することが出来る。
【0047】
より具体的には、例えば、クラレポバールPVA−403、PVA−505、L−8、L−9、L−9−78、L−10、C−506、KL−506、や、エスレックBL−1、エスレックBL−10、エスレックBX−Lや、モビタールB16H、モビタール30T、モビタール30HH、モビタール60Tや、ビニレックK、ビニレックL、ビニレックH、ビニレックE、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
<アミン系化合物>
本発明には、アミン系化合物を用いる。アミン系化合物としては、主に第1アミン(1級アミン)、第2アミン(2級アミン)、第3アミン(3級アミン)が用いられ、アンモニアや第4級アンモニウム化合物は含まない。アミン系化合物は、モノアミン以外にも、分子内に複数のアミノ基を有するジアミン、トリアミン、テトラミン、ポリアミンといったアミン系化合物を用いることができる。また、上記以外のものとして、アミノ酸や脂環式含窒素複素環化合物等も使用することができる。なお、本明細書中のアミノ基は1級、2級または3級の官能基である。
【0048】
本発明で用いるアミン系化合物は、脂肪族1級アミン、脂肪族2級アミン、脂肪族3級アミン、アミノ酸、アルカノールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアミン、ポリエチレンイミン、ポリアミン、脂環式含窒素複素環化合物からなる群より選ばれた1種以上のアミン系化合物が好ましく、アミノ基を1つのみ有する、脂肪族1級アミン、脂肪族2級アミン、脂肪族3級アミン、アルカノールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミンからなる群より選ばれた1種以上のアミン系化合物がより好ましい。
【0049】
本発明で使用するアミン系化合物は、市販品、合成品に関わらず、単独もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0050】
具体的には、例えば、エチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族1級アミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジステアリルアミンなどの脂肪族2級アミン、トリエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルバルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリオクチルアミンなどの脂肪族3級アミン、アラニン、メチオニン、プロリン、セリン、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システインなどのアミノ酸、ジメチルアミノエタノール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンオクタデシルアミンなどのポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアミン(ポリエーテルアミン)、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミンなどのポリアミン、ヘキサメチレンテトラミン、モルホリン、ピペリジンなどの脂環式含窒素複素環化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
アミン系化合物の分子量は、30以上、15000以下のものが好ましく、45以上、10000以下のものがより好ましく、89以上、1200以下のものがさらに好ましく、89以上、500以下のものが特に好ましい。
【0052】
アミン系化合物の炭素数は、2以上、1000以下のものが好ましく、3以上、700以下のものがより好ましく、4以上、60以下のものがさらに好ましく、4以上、24以下のものが特に好ましい。
【0053】
アミン系化合物が脂肪族アミンの場合には、炭素数が2以上40以下であるものが好ましく、8以上36以下であるものがより好ましく、8以上24以下であるものが特に好ましい。
【0054】
アミン系化合物の酸解離定数(pKa)は、7以上、12以下であることが好ましく、8以上、11以下であることがより好ましく、9以上、10.5以下であることが特に好ましい。なお、酸解離定数は、25℃の水溶液における値である。
【0055】
アミン系化合物が有するアミノ基の数は、分散液の貯蔵安定性の観点から、1以上、4以下であることが好ましく、1以上、2以下であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0056】
アミン系化合物の化学構造としては、脂環式含窒素複素環化合物、アミノ基がカルボニル基またはカルボキシル基のα炭素と共有結合したアミン系化合物、2つ以上のカルボニル基またはカルボキシル基を有するアミン系化合物以外のアミン系化合物であることが好ましい。
【0057】
アミン系化合物は、大気圧下、0℃以上、40℃以下において、N−メチル−2−ピロリドン100重量部に対して、1重量部以上溶解することが好ましい。
【0058】
ポリオキシアルキレンアルキルアミンにおいて、アミノ基中の窒素原子が1分子内に1重量%以上、15重量%以下含有されることが好ましく、3重量%以上、6重量%以下含有されることがより好ましい。
<N−メチル−2−ピロリドン>
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)は、リチウムイオン二次電池の電極製造に用いられている。本発明では、ビニルアルコール骨格含有樹脂の分散剤としての性能、電池性能を損なわない範囲で、他の溶剤を1種類以上併用しても良いが、本発明の想定する産業上の利用可能性から、NMPを単独で用いることが好ましい。
<カーボンブラック分散液の製造方法>
本発明の分散液は、ビニルアルコール骨格含有樹脂を分散剤として、アミン系化合物を添加剤または分散剤として用いてカーボンブラックをNMP中に分散したものである。この場合、ビニルアルコール骨格含有樹脂とカーボンブラックを同時、または順次添加し、混合することで、ビニルアルコール骨格含有樹脂をカーボンブラックに作用(吸着)させつつ分散する。但し、カーボンブラック分散液の製造をより容易に行うためには、ビニルアルコール骨格含有樹脂をNMP中に溶解、膨潤、または分散させ、その後、液中にカーボンブラックを添加し、混合することでビニルアルコール骨格含有樹脂をカーボンブラックに作用(吸着)させることが、より好ましい。また、カーボンブラック以外の粉体として、例えば二次電池用電極活物質等を添加して、電極合材液として使用する場合、NMP中にビニルアルコール骨格含有樹脂とカーボンブラックと電極活物質とを同時に仕込み分散処理を行っても良い。
【0059】
なお、アミン系化合物の添加は、ビニルアルコール骨格含有樹脂をカーボンブラックに作用させる前に行っても良いし、分散処理が終了した後で行っても良く、どちらの場合についても好適な効果が得られる。
【0060】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
本発明において、カーボンブラックに対する分散剤としてのビニルアルコール骨格含有樹脂の添加量は、カーボンブラック100重量部に対して、1重量部以上、15重量部以下が好ましく、1重量部以上、10重量部以下がより好ましく、1重量部以上、8重量部以下がさらに好ましく、1重量部以上、5重量部以下が特に好ましい。
【0062】
本発明において、カーボンブラックに対するアミン系化合物の添加量は、カーボンブラック100重量部に対して、0.1重量部以上、2.6重量部以下が好ましく、0.2重量部以上、1.5重量部以下がより好ましく、0.2重量部以上、1重量部以下が特に好ましい。
【0063】
本発明において、ビニルアルコール骨格含有樹脂に対するアミン系化合物の添加量は、ビニルアルコール骨格含有樹脂100重量部に対して、10重量部以上、67重量部以下が好ましく、20重量部以上33重量部以下がより好ましい。
【0064】
このような比率で配合することにより、本発明が解決しようとする課題であるカーボンブラック分散液の低粘度化が可能となり、高濃度で分散性と貯蔵安定性に優れた分散液を得ることが容易となる。
<活物質>
本発明の分散液を電池電極合材層に用いる場合は、さらに、正極活物質または負極活物質を含有させることができる。
【0065】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。
【0066】
例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V25、V613、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0067】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能なものであれば特に限定されない。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系、LiXFe23、LiXFe34、LiXWO2、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0068】
これら活物質は、平均粒径が0.05〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜50μmの範囲内である。本明細書でいう活物質の平均粒径とは、活物質を電子顕微鏡で測定した粒子径の平均値である。
【0069】
本発明では、上記課題に支障を及ぼさない範囲で、塗膜物性等の調整等の目的で、従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等を併用しても良い。
【0070】
そのような分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂やポリビニルピロリドン樹脂、従来公知の色素誘導体、低分子量の界面活性剤等が挙げられる。また樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの各種ゴム、リグニン、ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、セルロース系樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、キチン類、キトサン類、デンプン等が挙げられる。また添加剤としては、リン化合物、硫黄化合物、有機酸、アミン化合物やアミド化合物、有機エステル、各種シラン系やチタン系、アルミニウム系のカップリング剤等が挙げられる。これらの従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等は、単独または2種類以上併用して用いることが出来る。
<カーボンブラック分散液の用途>
本発明のカーボンブラック分散液の利用分野としては、特に制限はないが、遮光性、導電性、耐久性、漆黒性等が要求される分野、例えば、グラビアインキ、オフセットインキ、磁気記録媒体用バックコート、静電トナー、インクジェット、自動車塗料、繊維・プラスチック形成材料、電池用電極、電子写真用シームレスベルトにおいて、安定かつ均一な組成物を提供し得るものである。中でも、NMPを使用すること、ポリフッ化ビニリデンやポリイミド前駆体などと相溶すること、および形成される塗膜や成型物の強度、柔軟性が良好なことから、リチウムイオン二次電池用電極、電気二重層キャパシタ用電極、リチウムイオンキャパシタ用電極、電子写真用シームレスベルトなどに好適に用いられる。
【0071】
本発明のカーボンブラック分散液を用いて、更にはポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のバインダーを添加してリチウムイオン二次電池用電極や電気二重層キャパシタ用電極、リチウムイオンキャパシタ用電極のプライマー層、更にコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物、黒鉛、活性炭、グラファイト、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの正極活物質や負極活物質を添加してリチウムイオン二次電池用電極や電気二重層キャパシタ用電極、リチウムイオンキャパシタ用電極の電極層を製造することができる。また、電子写真用シームレスベルトは、導電材としての本発明のカーボンブラック分散液、ポリイミド、ポリアミドイミド等およびその前駆体を成分として用いて、従来公知の方法によって製造することができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は重量部を、%は重量%を、それぞれ表す。
【0073】
実施例及び比較例で使用したカーボンブラック(「CB」と略記することがある)、ポリビニルブチラール樹脂(「PVB」と略記することがある)、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂(「PVA」と略記することがある)、その他分散剤、アミン系化合物、バインダー、電極活物質等を以下に示す。
【0074】
また、各表には、各原料の組成のみを記載しているが、特に記載の無い残りの成分は、全てN−メチル−2−ピロリドン(NMP)である。
<カーボンブラック>
・#30(三菱化学社製):ファーネスブラック、一次粒子径30nm、比表面積74m2/g、以下#30と略記する。
・#5(三菱化学社製):ファーネスブラック、平均一次粒子径76nm、比表面積29m2/g、以下#5と略記する。
・MA77(三菱化学社製):酸化処理カーボンブラック、一次粒子径23nm、比表面積130m2/g、以下MA77と略記する。
・デンカブラックHS−100(電気化学工業社製):アセチレンブラック、一次粒子径48nm、比表面積39m2/g、以下HS−100と略記する。
・デンカブラック粒状品(電気化学工業社製):アセチレンブラック、一次粒子径35nm、比表面積69m2/g、以下粒状品と略記する。
・EC−300J(アクゾ社製):ケッチェンブラック、一次粒子径40nm、比表面積800m2/g、以下300Jと略記する。
(カーボンブラックの平均一次粒子径の測定方法)
カーボンブラックの平均一次粒子径(MV)は、以下に示す方法により測定(算出)した。カーボンブラックの粉末にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを加え、樹脂型分散剤としてDisperbyk−161を少量添加し、超音波洗浄機の水浴中で1分間分散処理して測定用試料を調製した。この試料を測定用ターゲットに塗布、乾燥し、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製透過型電子顕微鏡H−7650)により、100個以上のカーボンブラックの一次粒子が観察出来る写真を撮影した。撮影された画像にて、カーボンブラック粒子の任意の100個を選び、その一次粒子の短軸径と長軸径の平均値を粒子径(d)とし、次いで個々のカーボンブラックを、求めた粒子径(d)を有する球とみなして、それぞれの粒子の体積(V)を求め、この作業を100個のカーボンブラック粒子について行い、そこから下記式(1)を用いて算出した。

式(1) MV=Σ(V・d)/Σ(V)

<ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂>
・エスレックBL−10(積水化学工業社製): ポリビニルブチラール樹脂、水酸基28mol%、ブチラール化度71mol%、計算分子量15000。以下BL−10と略記する。
・エスレックBX−5(積水化学工業社製): ポリビニルアセタール樹脂、水酸基33mol%、アセタール化度66mol%、計算分子量130000。以下BX−1と略記する。
・エスレックKS−10(積水化学工業社製): ポリビニルアセタール樹脂、水酸基25mol%、アセタール化度74mol%、計算分子量17000。以下KS−10と略記する。
・モビタール B30HH(クラレ社製): ポリビニルブチラール樹脂、水酸基11%。以下B30HH と略記する。
<ポリビニルホルマール樹脂>
・ビニレックK(JNC社製): ポリビニルホルマール樹脂。以下ビニレックと略記する。
<ポリビニルアルコール樹脂>
・クラレポバール PVA−405(クラレ社製): ポリビニルアルコール樹脂、けん化度82mol%、平均重合度500、以下、PVA−405と略記する。
・クラレポバール C−506(クラレ社製):カチオン変性ポリビニルアルコール樹脂、けん化度76mol%、平均重合度600、以下C−506と略記する。
<分散剤>
[界面活性剤]
・エマルゲンA−60(花王社製):ノニオン性の界面活性剤(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル)、以下、EmA−60と略記する。
・デモールN(花王社製):アニオン性の界面活性剤(β−ナフタレンスルホン酸−ホルマリン縮合物のナトリウム塩)、以下、DemNと略記する。
・アジスパーPB−821(味の素ファインテクノ社製):塩基性官能基含有共重合物、以下PB−821と略記する。
<アミン系化合物>
・エチルアミン: 脂肪族1級アミン。分子式C27N。分子量45。
・n−オクチルアミン: 脂肪族1級アミン。分子式C817NH2。分子量129。以下、オクチルアミンと略記する。
・ステアリルアミン: 脂肪族1級アミン。分子式C1837NH2。分子量269.5。
・ジステアリルアミン: 脂肪族2級アミン。分子式C3675N。
・ジメチルオクチルアミン: 脂肪族3級アミン。分子式C1023N。分子量157。
・ジメチルヘキサデシルアミン: 脂肪族3級アミン。分子式C1839N。分子量269.5。
・トリ−n−オクチルアミン: 脂肪族3級アミン。分子式C2451N。分子量354。以下、トリオクチルアミンと略記する。
・トリエタノールアミン: アルカノールアミン系3級アミン。分子式C615NO3。pKa=7.6。
・ジエタノールアミン: アルカノールアミン系2級アミン。分子式C411NO2。pKa=8.9。
・N,N−ジメチル−2−アミノエタノール: アミノエタノール系3級アミン。分子式C411NO。pKa=9.8。以下、DMAEと略記する。
・アミート102(花王社製): ポリオキシエチレンドデシルアミン(平均EO=2モル付加、3級アミン)。
・アミート105(花王社製): ポリオキシエチレンドデシルアミン(平均EO=5モル付加、3級アミン)。
・アミート302(花王社製): ポリオキシエチレンオクタデシルアミン(平均EO=2モル付加、3級アミン)。
・アミート320(花王社製): ポリオキシエチレンオクタデシルアミン(平均EO=20モル付加、3級アミン)。
・ポリエチレンイミン 1200(純正化学社製): 分子量1200、アミン価19。以下、PEI1200と略記する。
・ポリエチレンイミン 1800(純正化学社製): 分子量1800、アミン価19。以下、PEI1800と略記する。
・ポリエチレンイミン 10000(純正化学社製): 分子量10000、アミン価18。以下、PEI10000と略記する。
・ヘキサメチレンテトラミン: 脂環式含窒素複素環化合物(3級アミン)。分子式C6124
・L(+)−アルギニン: 塩基性アミノ酸。分子式C61442。以下、アルギニンと略記する。
・L−アスパラギン酸: 酸性アミノ酸。分子式C47NO2。以下、アスパラギン酸と略記する。
・L−アスパラギン1水和物: 中性アミノ酸。分子式C4823。以下、アスパラギンと略記する。
<その他の含窒素化合物>
・アクリルアミド: アミド系化合物。分子式C35NO。
・アセトニトリル: ニトリル系化合物。分子式C23N。
<バインダー>
・KFポリマーW1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、以下、PVDFと略記する。
・KFポリマーW7300(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、以下、#7300と略記する。
<活物質>
・HLC−22(本荘ケミカル社製):正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO2)、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m2/g、以下、LCOと略記する。
・人造黒鉛:負極活物質、平均粒径18μm、以下、黒鉛と略記する。
<カーボンブラック分散液の評価>
実施例、比較例で得られたカーボンブラック分散液の評価は、粘度、分散後平均粒径を測定することにより行った。
【0075】
粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、分散液温度25℃、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて、分散液をヘラで充分に撹拌した後、直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2000mPa・s未満の場合はNo.3を、2000以上10000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。得られた粘度値が10000mPa・s以上の場合については、「>10000」と記載したが、これは評価に用いたB型粘度計では評価不可能なほどに高粘度であったことを表す。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。貯蔵安定性の評価は、カーボンブラック分散液を50℃にて、10日間静置して保存した後の、粘度値の変化から評価した。変化の少ないものほど安定性が良好であることを示す。
【0076】
また、分散後平均粒径の測定は、カーボンブラック分散液をNMPにより適切な濃度に希釈した後に、超音波処理を施した液を測定サンプルとして用い、動的光散乱法方式の粒度分布計(日機装社製「ナノトラックUPA−EX」、光源波長780nm)を用いて平均粒径(D50値)を測定することにより行った。各種測定条件は、上記方法によりNMP希釈した分散液のローディングインデックス値を0.7以上1.3以下に、粒子条件を、吸収性粒子、粒子形状非球形、密度1.80とし、溶媒条件を、溶媒屈折率1.47、液温20℃における溶媒粘度1.80mPa・s、液温25℃における溶媒粘度1.65mPa・sと設定し、得られたメジアン径をD50値として表記した。測定結果は、液温25℃のNMP溶剤についてバックグラウンド値を測定した後、上記方法にて調製した液温25℃のサンプルを測定容器に充填し、上記測定条件にて測定を行うことにより得た。
【0077】
同じカーボンブラックを使用した場合、D50値が小さいほど分散性が良好であり、大きいほど分散性が不良であることを示す。貯蔵安定性の評価は、カーボンブラック分散液を50℃にて、10日間静置して保存した後のD50値の変化から評価した。変化の少ないものほど安定性が良好であることを示す。
<カーボンブラック分散液の調製>
(ポリビニルブチラール樹脂またはポリビニルアセタール樹脂と、各種アミン系化合物とを用いたカーボンブラック分散液)
[実施例1−1〜実施例1−17]
表1に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPとポリビニルブチラール樹脂またはポリビニルアセタール樹脂と各種アミン系化合物を仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、1.25mmφジルコニアビーズをメディアとして、ペイントシェーカーで2時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。いずれも低粘度かつD50値が小さく、貯蔵安定性も良好であった。
[比較例1−1〜比較例1−4]
表1に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと、BX−5または各種分散剤とを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、1.25mmφジルコニアビーズをメディアとして、ペイントシェーカーで2時間分散した。しかし、得られた分散液は、いずれも高粘度な状態、あるいは著しく高粘度な状態であるか、または、D50値が大きいことから、カーボンブラックを十分に分散する事が出来ていないことがわかる。この結果から、各種ビニルアルコール骨格含有樹脂を分散剤として単独で用いた場合、または従来公知の分散剤を用いた場合には、所望とする高濃度かつ低粘度のカーボンブラック分散液を得る事ができないことが明らかとなった。
<バインダーを含むカーボンブラック分散液の調製>
[実施例2−1〜実施例2−31]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと各種ビニルアルコール骨格含有樹脂と各種アミン系化合物と各種バインダーを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。いずれも粗大粒子がなく、かつ低粘度であり、貯蔵安定性も良好であった。
[実施例2−39]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPとBL−10とオクチルアミンを仕込み、充分に混合溶解した。次いで、粒状品とPVDFとを均質に混合した粉体混合品を調製し、これを事前に調製したBL−10とオクチルアミンのNMP溶液に添加した。その後、ホモジナイザーで1時間分散し、カーボンブラック分散液を得た。粗大粒子がなく、かつ低粘度であり、貯蔵安定性も良好であった。
[実施例2−40]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶に実施例1−1のカーボンブラック分散液を65部、PVDFを6.5部、NMPを28.5部加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。粗大粒子がなく、かつ低粘度であり、貯蔵安定性も良好であった。
[比較例2−1〜比較例2−3]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと各種ビニルアルコール骨格含有樹脂とPVDFを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、粒状品を加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。しかし、得られた分散液の粘度は、バインダーを添加せずに調製した場合と同様に高粘度であり、カーボンブラックおよびバインダー濃度のさらなる向上はできないことが明らかとなった。
[比較例2−4〜比較例2−5]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと、BL−10と各種添加剤とPVDFを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、粒状品を加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。しかし、得られた分散液の粘度は、各種ビニルアルコール骨格含有樹脂を単独で分散剤として用いた場合と同様に高粘度であり、カーボンブラックおよびバインダー濃度のさらなる向上はできないことが明らかとなった。
[比較例2−6、比較例2−8、比較例2−10]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと、各種ビニルアルコール骨格含有樹脂とオクチルアミンとPVDFを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、HS−100を加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。しかし、得られた分散液の粘度は、各種ビニルアルコール骨格含有樹脂を単独で分散剤として用いた場合と同様に高粘度であり、カーボンブラック100重量部に対するオクチルアミンの添加量が0.1重量部よりも小さい場合、カーボンブラックおよびバインダー濃度のさらなる向上はできないことが明らかとなった。
[比較例2−7、比較例2−9、比較例2−11]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと、各種ビニルアルコール骨格含有樹脂とオクチルアミンとPVDFを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、粒状品を加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。粗大粒子がなく、かつ低粘度であったが、貯蔵安定性が良好では無かった。
[比較例2−12〜比較例2−13]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと、BL−10とオクチルアミンとPVDFを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、粒状品を加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。得られた分散液は、いずれも著しく高粘度な状態であり、D50値が大きいことから、カーボンブラックを十分に分散する事が出来ていない状態であった。
<カーボンブラック以外の粉体として正極活物質または負極活物質を含むカーボンブラック分散液の調製>
[実施例3−1〜実施例3−7]
表3に示す組成に従い、実施例2−2〜2−4、実施例2−6、実施例2−8、実施例2−9、および実施例2−11で得た、バインダーを含有するカーボンブラック分散液に対し、正極活物質であるLCOを仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各混合液を得た。用いたカーボンブラック分散液が低粘度であるために、LCOを多量に添加することができ、また、得られた混合液も低粘度な状態であった。
[実施例3−8〜実施例3−10]
表3に示す組成に従い、実施例2−2、実施例2−4および実施例2−8で得た、バインダーを含有するカーボンブラック分散液に対し、負極活物質である黒鉛を仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各混合液を得た。用いたカーボンブラック分散液が低粘度であるために、黒鉛を多量に添加することができ、また、得られた混合液も低粘度な状態であった。
[比較例3−1〜比較例3−3]
表3に示す組成に従い、比較例2−1、比較例2−6および比較例2−7で得た、バインダーを含有するカーボンブラック分散液に対し、正極活物質であるLCOを仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各混合液を得た。いずれも、用いたカーボンブラック分散液の粘度値が高いことから、実施例3−1〜実施例3−7と比較して、LCOを添加した際の粘度値の上昇が大きく、また、安定性評価試験における粘度の上昇幅も大きかった。
[比較例3−4〜比較例3−6]
表3に示す組成に従い、比較例2−1、比較例2−6および比較例2−7で得た、バインダーを含有するカーボンブラック分散液に対し、負極活物質である黒鉛を仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各混合液を得た。いずれも、用いたカーボンブラック分散液の粘度値が高いことから、実施例3−8〜実施例3−11と比較して、MFCを添加した際の粘度値の上昇が大きく、また、安定性評価試験における粘度の上昇幅も大きかった。
<電池電極合材層の作製>
上記の各実施例、比較例で得られた正極活物質または負極活物質を含むカーボンブラック分散液を電池電極合材液として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にドクターブレードを用いて塗工した後、減圧下120℃で30分間乾燥し、乾燥後膜厚100μmの塗膜(電池電極合材層)を作製した。
【0078】
得られた電池電極合材層の評価は、表面抵抗と塗膜外観により行った。表面抵抗の測定にはロレスタ−GP(三菱化学アナリテック社製)を用い、JIS K7194に準じて測定した。塗膜外観は、目視で、○:問題なし(良好)、△:斑模様あり(不良)、×:粗粒の筋引きあり(極めて不良)、とした。
[実施例4−1〜実施例4−7、比較例4−1〜比較例4−2]
正極合材液として、実施例3−1〜実施例3−7、比較例3−2〜比較例3−3で得た電池電極合材液を使用して、正極合材層(電池電極合材層)を作製した。評価結果を表4に示した。
[実施例4−8〜実施例4−10、比較例4−3〜比較例4−4]
負極合材液としては、実施例3−8〜実施例3−10、比較例3−5〜比較例3−6で得た電池電極合材液を使用して、負極合材層(電池電極合材層)を作製した。評価結果を表4に示した。
【0079】
表4より、実施例4−1〜実施例4−10の電池電極合材層は、比較例4−1〜比較例4−4の電池電極合材層と比較して塗膜外観が良好であり、さらに、塗膜の表面抵抗が優れていることが明らかとなった。比較例4−1および比較例4−3では、使用した電極合材液の粘度が高すぎるために塗工が困難であった。また、比較例4−2および比較例4−4では多量に含まれるアミン系化合物が絶縁成分として機能した結果、表面抵抗値が高くなったものと考えられる。
<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの組み立て>
[実施例5−1〜実施例5−7、比較例5−1〜比較例5−2]
先に調製した電池電極合材液(実施例3−1〜実施例3−7、比較例3−2、比較例3−3の正極合材液)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥した後、ローラープレス機にて圧延処理し、厚さ100μmの正極合材層を作製した。これを直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
<リチウムイオン二次電池負極評価用セルの組み立て>
[実施例5−8〜実施例5−10、比較例5−3〜比較例5−4]
先に調製した電池電極合材(実施例3−8〜実施例3−10、比較例3−5、比較例3−6の負極合材液)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥した後、ローラープレス機にて圧延処理し、厚さ100μmの負極合材層を作製した。これを直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
<リチウムイオン二次電池正極特性評価>
作製した正極評価用セルを25℃で、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を使用して、充電レート1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で、放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計50サイクル行い、充放電を行った。評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観(50サイクル後の塗膜外観)を目視にて確認した。塗膜外観の評価基準は、剥がれが認められず外観に全く変化が無い場合を○(極めて良好)、剥がれてはいないが外観に変化が認められる場合を△(良好)、部分的に合材が集電体より剥がれが認められる場合を×(不良)とした。また、容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の百分率であり、数値が100%に近いものほど良好であることを示す。ショート等により正常な充放電曲線が得られず、容量が求められなかった場合は数値無し(−)とした。評価結果を表5に示した。
<リチウムイオン二次電池負極特性評価>
作製した負極評価用セルを25℃で、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を使用して、充電レート1.0Cの定電流定電圧充電(下限電圧0.5V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で電圧が1.5Vになるまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計50サイクル行い、充放電サイクルを行った。評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観(50サイクル後の塗膜外観)について、正極特性評価と同じ基準で評価した。また、容量維持率についても正極特性と同様に求めた。評価結果を表5に示した。
【0080】
表5より、本発明の電極を使用した実施例5−1〜実施例5−7および実施例5−8〜実施例5−10は、比較例5−1〜比較例5−2および比較例5−3〜比較例5−4と比較して、塗膜外観が良好であり、かつ、50サイクル後の容量維持率についても、良好な結果であった。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
但し、アクリルアミド、アセトニトリルはその他の含窒素化合物である。
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】