特許第6142418号(P6142418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142418
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】カーボンブラック分散液およびその利用
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20170529BHJP
   C09C 1/48 20060101ALI20170529BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20170529BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20170529BHJP
【FI】
   C09D17/00
   C09C1/48
   H01M4/62 Z
   H01M4/13
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-215953(P2013-215953)
(22)【出願日】2013年10月17日
(62)【分割の表示】特願2013-125306(P2013-125306)の分割
【原出願日】2013年6月14日
(65)【公開番号】特開2014-193996(P2014-193996A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2016年4月11日
(31)【優先権主張番号】特願2013-36920(P2013-36920)
(32)【優先日】2013年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康平
(72)【発明者】
【氏名】真木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】廣田 尚久
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 昌洋
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−110145(JP,A)
【文献】 特開2009−123463(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/046078(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/024799(WO,A1)
【文献】 特開2012−243522(JP,A)
【文献】 特開2011−070908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48
C09D 17/00
H01M 4/13、4/62、10/0525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂と、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンとを含んでなるカーボンブラック分散液であって、ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が、60〜85mol%であり、カーボンブラックのBET比表面積をXm2/g、カーボンブラック1gに対するポリビニルアルコール樹脂の添加量をaXgとした場合に、aが0.00017≦a≦0.00256の範囲であり、カーボンブラック100重量部に対するポリビニルアルコール樹脂が2重量部未満であることを特徴とするカーボンブラック分散液。
【請求項2】
カーボンブラック100重量部に対するポリビニルアルコール樹脂が0.65重量部以上、2重量部未満であることを特徴とする請求項1記載のカーボンブラック分散液。
【請求項3】
請求項1または2いずれか記載のカーボンブラック分散液に、さらに、正極活物質または負極活物質を含有してなる電池用カーボンブラック分散液。
【請求項4】
請求項1もしくは2いずれか記載のカーボンブラック分散液または請求項記載の電池用カーボンブラック分散液を塗布してなる電池電極合材層。
【請求項5】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、請求項記載の電池電極合材層を具備してなるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性、貯蔵安定性に優れたカーボンブラック分散液に関する。また、該分散液を使用した電池電極合材層およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池分野において、カーボンブラックは、導電助剤として広く用いられているが、電池電極合材層を形成する際、生産プロセスを効率化して短縮するためには、カーボンブラックを溶剤中に、いかに高濃度かつ均一に分散して、容易に塗工可能とするかが重要である。
【0003】
近年、特に環境や生産コストへの配慮から、従来よりも、より高濃度かつ均一に分散されたカーボンブラック分散液を作製することによって、溶剤使用量を低減することや乾燥時の使用エネルギーを低減することが求められている。
これらの要求は、溶剤のコストや乾燥時の使用エネルギーに大きな影響があることから、使用する溶剤が高価であるほど、または、使用する溶剤が高沸点であるほど重要になる。非水系二次電池で使用されるN−メチル−2−ピロリドンは、一般的な溶剤と比較して高価であり、さらに200℃以上と沸点が非常に高いため、溶剤を回収する際に多くのエネルギーを必要とすることから、分散液における溶剤使用量の低減が強く求められている。
【0004】
多量のカーボンブラックを溶剤中に分散するためには、カーボンブラックの表面に分散剤を吸着処理して分散安定な状態にすることが、特に有効な方法であり、様々な分散剤を用いたカーボンブラック分散液が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、カーボンブラック、未変性又は変性ポリビニルアルコール、及びN−メチル−2−ピロリドンを含有する塗工液が記載されており、また、特許文献1には、前記塗工液に正極活物質又は負極活物質を添加して、リチウムイオン二次電池の電極板を製造することが記載されている。しかしながら、これら特許文献1、2におけるポリビニルアルコール類は、結着剤(樹脂バインダー)として多量のポリビニルアルコール類を使用しており、ポリビニルアルコール類を分散剤として使用するという技術的思想はない。
【0006】
一般に、分散剤を使用してカーボンブラックを分散する場合、分散剤の量が極端に少なくなるとカーボンブラックの分散性は悪化し、逆に分散剤の量が非常に多くなると分散性は良好になるものの、電池用途で使用する場合には、抵抗値が高くなり導電性が悪化するといった電池特性に悪影響を及ぼすことが予想される。
しかしながら、高濃度かつ均一に分散されたカーボンブラック分散液を得るために、使用するカーボンブラック、溶剤種、分散剤の物理的、化学的性質はもとより、それらの量的関係についてまで詳細に検討された例は報告されておらず、N−メチル−2−ピロリドンという特定の溶剤と、ポリビニルアルコール類を分散剤として使用する場合、カーボンブラックとポリビニルアルコール類の物理的、化学的性質、さらには、それらの量的関係が、カーボンブラック分散液や電池電極合材層、電池特性へどう影響するかについては何ら検討されていないのが実状であった。
【0007】
また、一般に、リチウムイオン二次電池用電極を製造する際には、電池中の結合剤に用いる高分子材料によって電極合材液の作製に用いる溶剤が決定される。現在、リチウムイオン二次電池用電極の生産においては、電極を形成するために特に好適な結合剤としてポリフッ化ビニリデンが、ポリフッ化ビニリデンを溶かすための溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンが、一般に用いられている。N−メチル−2−ピロリドンは沸点が202℃と非常に高く、そのために、電極合材液の乾燥には多量のエネルギーと時間を費やす必要があった。この問題を解決するために、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤とした、出来るだけ高濃度な電極合材液を得る試みが行われてきた。リチウムイオン二次電池の電極合材液用のカーボンブラック分散液に求められるもう1つの性能として、分散剤添加量は極力少ない方が望ましいことが挙げられる。これは、分散剤を添加した分だけ、電極膜における他の電極構成成分の比率が下がるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2009/147989号
【特許文献2】国際公開第2011/024799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の状況を鑑み、本発明では、従来公知の樹脂型分散剤と比較して、得られるカーボンブラック分散液を顕著に低粘度化すること、すなわち、達成できるカーボンブラック濃度が顕著に高く、カーボンブラックの分散性と分散液の貯蔵安定性に優れた、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤とするカーボンブラック分散液を提供することが課題である。また、均質で良好な塗膜物性と、表面抵抗の低い電池電極合材層を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、カーボンブラック、溶剤種、分散剤の物理的、化学的性質に着目し、それらの量的関係についてまで詳細に検討した結果、カーボンブラックの比表面積と、特定のけん化度を有するポリビニルアルコール樹脂の使用量との間に分散性に大きく寄与する臨界的範囲があることを見出し、これらが一定の範囲内である場合に高濃度、低粘度、かつ長期保存安定性が良好なカーボンブラック分散液を製造できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明の実施態様は、カーボンブラックと、分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂と、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンとを含んでなるカーボンブラック分散液であって、ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が、60〜85mol%であり、カーボンブラックのBET比表面積をXm2/g、カーボンブラック1gに対するポリビニルアルコール樹脂の添加量をaXgとした場合に、aが0.00017≦a≦0.00256の範囲であり、カーボンブラック100重量部に対するポリビニルアルコール樹脂が2重量部未満であることを特徴とするカーボンブラック分散液に関する。
【0012】
また、本発明の実施態様は、カーボンブラック100重量部に対するポリビニルアルコール樹脂が0.65重量部以上、2重量部未満であることを特徴とする上記カーボンブラック分散液に関する。
【0014】
また、本発明の実施態様は、上記カーボンブラック分散液に、さらに、正極活物質または負極活物質を含有してなる電池用カーボンブラック分散液に関する。
【0015】
また、本発明の実施態様は、上記カーボンブラック分散液または上記電池用カーボンブラック分散液を塗布してなる電池電極合材層に関する。
【0016】
また、本発明の実施態様は、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、リチウムを含む電解質とを具備するリチウムイオン二次電池であって、正極および負極の少なくとも一方が、上記電池電極合材層を具備してなるリチウムイオン二次電池に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、従来公知の樹脂型分散剤を用いた場合よりも、顕著に低粘度なカーボンブラック分散液を得ることができ、カーボンブラック濃度を高くすることが可能となる。その結果、従来よりも高濃度なカーボンブラック分散液を提供できるようになり、N−メチル−2−ピロリドン溶剤の使用量を大幅に低減できると共に、塗工した塗膜の乾燥プロセスも大幅に短縮することが出来るようになる。また、カーボンブラックの分散性と分散液の貯蔵安定性に優れた、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤とするカーボンブラック分散液を提供することが可能となる。
【0018】
また、該分散体を用いて二次電池用電極合材液を調製した場合、低粘度であることから活物質粉体の添加や混練が容易になり、さらに、各電極成分が高濃度な電極合材液を用いても、均質で良好な塗膜を得ることが出来るため、表面抵抗の低い電池電極合材層を得る事が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の詳細を説明する。尚、本明細書では、「カーボンブラック分散液」、「電池用カーボンブラック分散液」を「分散液」、「N−メチル−2−ピロリドン」を「NMP」と略記することがある。
【0020】
<カーボンブラック>
本発明に用いるカーボンブラックとしては、市販のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボンブラック、黒鉛化処理されたカーボンブラック、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなども使用できる。
【0021】
カーボンブラックの酸化処理は、カーボンブラックを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることによって、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基のような酸素含有極性官能基をカーボンブラック表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンブラックの分散性を向上させるために一般的に行われている。
【0022】
本発明で用いるカーボンブラックは、特に限定されるものではないが、アセチレンブラックやファーネスブラックなど、高い導電性を有し、かつ工業的に生産されるカーボンブラックが好適に用いられる。
【0023】
また、分散液の製造に用いるカーボンブラックの平均一次粒子径としては、一般的な分散液や塗料に用いられるカーボンブラックの平均一次粒子径範囲と同様に0.01〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましく、0.01〜0.1μmがさらに好ましい。ここでいう平均一次粒子径とは、電子顕微鏡で測定された算術平均粒子径を示し、この物性値は一般にカーボンブラックの物理的特性を表すのに用いられている。
【0024】
カーボンブラックの物理的特性を表すその他の物性値としては、BET比表面積やpHが知られている。BET比表面積は、窒素吸着によりBET法で測定された比表面積(以下、単に比表面積と記載)を指し、この比表面積はカーボンブラックの表面積に対応しており、比表面積が大きいほど分散剤を必要とする量も多くなる。pHはカーボンブラック表面の官能基や含有不純物の影響を受けて変化する。
【0025】
<ポリビニルアルコール樹脂>
本発明では、分散剤としてポリビニルアルコール樹脂を用いる。すなわちポリビニルアルコール樹脂をバインダーとしてではなく分散剤として使用する。本発明で用いるポリビニルアルコール樹脂の製造方法については特に制限はないが、以下、ポリ酢酸ビニルを原料とし、これをけん化することによって得られたポリビニルアルコール樹脂について記述する。
一般に、ポリビニルアルコール樹脂は、酢酸ビニルを重合させて得られたポリ酢酸ビニルを原料とし、このポリ酢酸ビニルをけん化して、アセチル基を水酸基に置換することによって得られる。この合成プロセスのために、ポリビニルアルコール樹脂はアセチル基と水酸基を有し、その比率はけん化度として表される。なお、本発明におけるけん化度とは、業界公知のけん化度の定義と同一であり、けん化によりビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。特に、ポリ酢酸ビニルを原料として用いた場合、ポリビニルアルコール樹脂中に含まれるビニルアルコール骨格に由来した水酸基数を、酢酸ビニル骨格に由来したアセチル基数とビニルアルコール骨格に由来した水酸基数の和で除した値を意味する。
【0026】
本発明で使用するポリビニルアルコール樹脂は、ポリビニルエステル、特にポリ酢酸ビニルをけん化することによって得られるポリビニルアルコール樹脂が専ら使用されるが、これに限定されない。また、けん化度は60〜85mol%のものが使用される。上記けん化度のポリビニルアルコール樹脂であれば、各種の市販品、合成品を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0027】
また、上記けん化度の範囲内であれば、水酸基、酢酸基以外の官能基として、例えば、アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基を導入されたものや、各種の塩によって変性されたもの、その他アニオンあるいはカチオン変性されたもの、アルデヒド類によってアセタール変性(ブチラール変性等)されたものなども、本発明で使用するけん化度が60〜85mol%であるポリビニルアルコール樹脂の範囲に含まれ、これらは、単独もしくは2種類以上併せて使用することができる。
【0028】
分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂は、平均重合度が50〜3000のものが好ましく、100〜2000のものが特に好ましく、100〜1500のものがさらに好ましい。
【0029】
分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂は、JIS K6726に準ずる4%水溶液粘度が2.0〜25mPa・sのものが好ましく、2.0〜20.0mPa・sのものがさらに好ましい。
【0030】
けん化度が60mol%より小さいものは、NMPに対する溶解性は非常に良好だが、カーボンブラックに対する吸着性が乏しいために分散には有効ではないと考えられ、また、けん化度が85mol%より大きいものは、NMPに対してほとんど溶解、膨潤しないことから、たとえカーボンブラックに吸着されたとしても、NMP側に高分子鎖を伸ばすことが出来ず、そのために効果的に立体反発出来ないものと推察される。これに対して、けん化度が60〜85mol%のものは、NMPに対する溶解、または膨潤性と、カーボンブラックに対する吸着性や吸着後の立体反発効果の兼合いが良好であることから、分散剤として特に有効に機能するものと考えられる。
【0031】
上記けん化度範囲に含まれる市販のポリビニルアルコール樹脂としては、例えば、クラレポバール(クラレ社製ポリビニルアルコール樹脂)や、ゴーセノール(日本合成化学工業社製ポリビニルアルコール樹脂)、デンカポバール(電気化学工業社製)、J−ポバール(日本酢ビ・ポバール社製)などの商品名で、種々のグレードを市場より入手することが出来る。
【0032】
より具体的には、クラレポバールPVA−403(けん化度78.5〜81.5mol%、平均重合度300、JIS K6726に準ずる液温20℃における4%水溶液粘度2.8〜3.3mPa・s)、クラレポバールPVA−505(けん化度72.5〜74.5mol%、平均重合度500、4%水溶液粘度4.2〜5.0mPa・s)、L−8(同69.5〜72.5mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度5.0〜5.8mPa・s)、L−9(同69.5〜72.5mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度6.0〜6.5mPa・s)、L−9−78(同76.5〜79.0mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度6.0〜6.7mPa・s)、L−10(同71.5〜73.5mol%、平均重合度1000以下)、C−506(同74.0〜79.0mol%、平均重合度600、4%水溶液粘度4.0〜6.0mPa・s)、KL−506(同74.0〜80.0mol%、平均重合度600、4%水溶液粘度5.2〜6.2mPa・s)、や、ゴーセノールKL−03(同78.5〜82.0mol%、平均重合度500以下、4%水溶液粘度2.8〜3.4mPa・s)、KL−05(同78.5〜82.0mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度4.0〜5.0mPa・s)、NK−05R(同71.0〜75.0mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度4.5〜5.5mPa・s)、KP−08R(同71.0〜73.5mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度6.0〜8.0mPa・s)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
<N−メチル−2−ピロリドン>
【0034】
NMPは、リチウムイオン二次電池の電極製造に用いられている。本発明では、ポリビニルアルコール樹脂の分散剤としての性能、電池性能を損なわない範囲で、他の溶剤を1種類以上併用しても良いが、本発明の想定する産業上の利用可能性から、NMPを単独で用いることが好ましい。
【0035】
<カーボンブラック分散液の製造方法>
本発明の分散液は、ポリビニルアルコール樹脂を分散剤として用いてカーボンブラックをNMP中に分散したものである。この場合、ポリビニルアルコール樹脂とカーボンブラックを同時、または順次添加し、混合することで、ポリビニルアルコール樹脂をカーボンブラックに作用(吸着)させつつ分散する。但し、カーボンブラック分散液の製造をより容易に行うためには、ポリビニルアルコール樹脂をNMP中に溶解、膨潤、または分散させ、その後、液中にカーボンブラックを添加し、混合することでポリビニルアルコール樹脂をカーボンブラックに作用(吸着)させることが、より好ましい。また、カーボンブラック以外の粉体として、例えば二次電池用電極活物質等を添加して、電極合材液として使用する場合、NMP中にポリビニルアルコール樹脂とカーボンブラックと電極活物質とを同時に仕込み分散処理を行っても良い。
【0036】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
次に、乾式処理により、カーボンブラックをポリビニルアルコール樹脂で表面処理した後、分散液を製造する場合について説明する。NMP中に、下記乾式処理により得たカーボンブラックとポリビニルアルコール樹脂の混合物を添加、混合する事により、カーボンブラック分散液を得ることが出来る。ポリビニルアルコール樹脂により表面処理されたカーボンブラックを得る方法としては、乾式処理による方法が挙げられる。
【0038】
本発明における乾式処理は、常温もしくは加熱下で乾式処理装置により、カーボンブラックおよびポリビニルアルコール樹脂の混合、粉砕等を行いながら、カーボンブラック表面に上記樹脂を作用(吸着)させるものである。但し、カーボンブラック表面に上記樹脂が完全に吸着されている必要はなく、ある程度均質に混合出来ていれば、実用上は問題無い場合もある。使用する装置は、特に限定されるものではく、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、アトライター、振動ミル等のメディア型分散機、ニーダー、ローラーミル、石臼式ミル、プラネタリーミキサー、フェンシェルミキサー、ハイブリダイザー((株)奈良機械製作所)、メカノマイクロス((株)奈良機械製作所)、メカノフュージョンシステムAMS(ホソカワミクロン(株))等のメディアレス分散・混錬機が使用できるが、コンタミ等を考慮し、メディアレスの分散・混錬機を使用するのがより好ましい。
【0039】
また、このとき処理物がゲル状にならない範囲で有機溶剤を添加してもよい。溶剤の添加によるポリビニルアルコール樹脂の濡れ、または(一部)溶解、およびカーボンブラックの上記樹脂に対する濡れが向上することで、カーボンブラックと上記樹脂間相互作用の促進が期待される。このとき用いる溶剤は特に限定されるものではないが、NMP以外を使用する場合は処理後に乾燥することが望ましい。また、有機溶剤の添加量は用いる材料により異なるが、上記樹脂の添加量に対して0.5〜100重量%である。さらに、必要に応じて窒素ガスなどを流すことで、乾式処理装置内部を脱酸素雰囲気として処理を行っても良い。
【0040】
乾式処理時間は、用いる装置によって、また希望とする混練度に応じて任意に設定できる。これらの乾式処理を行うことにより、粉状もしくは塊状の処理物を得ることができる。得られた処理物については、その後さらに、乾燥、粉砕しても良い。
【0041】
本発明において、カーボンブラックに対する分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂の添加量は、カーボンブラック100重量部に対して、0.65重量部以上好ましく、重量部以上さらに好まし
【0042】
カーボンブラック分散液における分散剤としてのポリビニルアルコール樹脂の添加量は、添加するカーボンブラックの比表面積やカーボンブラック粒子の分散後の平均粒径等により決定される。特にカーボンブラックの比表面積に対するポリビニルアルコール樹脂の添加量は重要であり、ポリビニルアルコール樹脂のけん化度が60〜85mol%である場合、カーボンブラックのBET比表面積をXm2/g、カーボンブラック1gに対するポリビニルアルコール樹脂の添加量をaXgとした場合に、aが0.00017≦a≦0.00256の範囲で、高濃度、低粘度、かつ長期保存安定性が良好なカーボンブラック分散液を製造できる臨界的範囲があることが本発明によって見出された。
更に良好な分散液や電池特性を得る観点から、0.00019≦a≦0.00217の範囲であることがより好ましく、0.00026≦a≦0.00145の範囲であることがさらに好ましく、0.00051≦a≦0.00145の範囲であることが特に好ましい。
このような比率で配合することにより、本発明が解決しようとする課題であるカーボンブラック分散液の低粘度化が可能となり、高濃度で分散性と貯蔵安定性に優れた分散液を得ることが容易となる。
【0043】
<活物質>
本発明の分散液を電池電極合材層に用いる場合は、さらに、正極活物質または負極活物質を含有させることができる。
【0044】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。
例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V25、V613、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0045】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能なものであれば特に限定されない。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系、LiXFe23、LiXFe34、LiXWO2、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0046】
これら活物質は、平均粒径が0.05〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜50μmの範囲内である。本明細書でいう活物質の平均粒径とは、活物質を電子顕微鏡で測定した粒子径の平均値である。
【0047】
本発明では、上記課題に支障を及ぼさない範囲で、塗膜物性等の調整等の目的で、従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等を併用しても良い。
そのような分散剤としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂やポリビニルピロリドン樹脂、従来公知の色素誘導体、低分子量の界面活性剤等が挙げられる。また樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの各種ゴム、リグニン、ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、セルロース系樹脂、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルエーテル、キチン類、キトサン類、デンプン等が挙げられる。また添加剤としては、リン化合物、硫黄化合物、有機酸、アミン化合物やアミド化合物、有機エステル、各種シラン系やチタン系、アルミニウム系のカップリング剤等が挙げられる。これらの従来公知の分散剤や樹脂、添加剤等は、単独または2種類以上併用して用いることが出来る。
【0048】
<カーボンブラック分散液の用途>
本発明のカーボンブラック分散液の利用分野としては、特に制限はないが、遮光性、導電性、耐久性、漆黒性等が要求される分野、例えば、グラビアインキ、オフセットインキ、磁気記録媒体用バックコート、静電トナー、インクジェット、自動車塗料、繊維・プラスチック形成材料、電池用電極、電子写真用シームレスベルトにおいて、安定かつ均一な組成物を提供し得るものである。中でも、NMPを使用すること、ポリフッ化ビニリデンやポリイミド前駆体などと相溶すること、および形成される塗膜や成型物の強度、柔軟性が良好なことから、リチウムイオン二次電池用電極、電気二重層キャパシタ用電極、リチウムイオンキャパシタ用電極、電子写真用シームレスベルトに好適などに用いられる。
【0049】
本発明のカーボンブラック分散液を用いて、更にはポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のバインダーを添加してリチウムイオン二次電池用電極や電気二重層キャパシタ用電極、リチウムイオンキャパシタ用電極のプライマー層、更にコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物、黒鉛、活性炭、グラファイト、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの正極活物質や負極活物質を添加してリチウムイオン二次電池用電極や電気二重層キャパシタ用電極、リチウムイオンキャパシタ用電極の電極層を製造することができる。また、電子写真用シームレスベルトは、導電材としての本発明のカーボンブラック分散液、ポリイミド、ポリアミドイミド等およびその前駆体を成分として用いて、従来公知の方法などの公知の方法によって製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は重量部を、%は重量%を、それぞれ表す。
実施例及び比較例で使用したカーボンブラック(「CB」と略記することがある)、ポリビニルアルコール樹脂(「PVA」と略記することがある)、バインダー、電極活物質等を以下に示す。また、各表には、各原料の組成のみを記載しているが、特に記載の無い残りの成分は、全てN−メチル−2−ピロリドン(NMP)である。
【0051】
<カーボンブラック>
・#30(三菱化学社製):ファーネスブラック、平均一次粒子径30nm、比表面積74m2/g、以下#30と略記する。
デンカブラックHS−100(電気化学工業社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m2/g、以下HS−100と略記する。
・デンカブラック粒状品(電気化学工業社製):アセチレンブラック、平均一次粒子径35nm、比表面積69m2/g、以下粒状品と略記する
【0052】
(カーボンブラックの平均一次粒子径の測定方法)
カーボンブラックの平均一次粒子径(MV)は、以下に示す方法により測定(算出)した。カーボンブラックの粉末にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを加え、樹脂型分散剤としてDisperbyk−161を少量添加し、超音波洗浄機の水浴中で1分間分散処理して測定用試料を調製した。この試料を測定用ターゲットに塗布、乾燥し、透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製透過型電子顕微鏡H−7650)により、100個以上のカーボンブラックの一次粒子が観察出来る写真を撮影した。撮影された画像にて、カーボンブラック粒子の任意の100個を選び、その一次粒子の短軸径と長軸径の平均値を粒子径(d)とし、次いで個々のカーボンブラックを、求めた粒子径(d)を有する球とみなして、それぞれの粒子の体積(V)を求め、この作業を100個のカーボンブラック粒子について行い、そこから下記式(1)を用いて算出した。

式(1) MV=Σ(V・d)/Σ(V)
【0053】
<ポリビニルアルコール樹脂>
・クラレポバール L−8(クラレ社製):ポリビニルアルコール樹脂、けん化度71mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度5.5mPa・s、以下L−8と略記する。
クラレポバール PVA−205(クラレ社製): ポリビニルアルコール樹脂、けん化度88mol%、以下、平均重合度500、4%水溶液粘度5.0mPa・s、PVA−205と略記する。
・ゴーセファイマー LL−02(日本合成化学工業社製):ポリビニルアルコール樹脂、けん化度50mol%、平均重合度1000以下、4%水溶液粘度7.7mPa・s、以下、LL−02と略記する
【0054】
<バインダー>
・KFポリマーW1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、以下、PVDFと略記する
【0055】
<活物質>
・HLC−22(本荘ケミカル社製):正極活物質コバルト酸リチウム(LiCoO2)、平均粒径6.6μm、比表面積0.62m2/g、以下、LCOと略記する
【0056】
<カーボンブラック分散液の評価>
実施例、比較例で得られたカーボンブラック分散液の評価は、粘度、分散後平均粒径を測定することにより行った。
【0057】
粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、分散液温度25℃、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて、分散液をヘラで充分に撹拌した後、直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500以上2000mPa・s未満の場合はNo.3を、2000以上10000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。得られた粘度値が10000mPa・s以上の場合については、「>10000」と記載したが、これは評価に用いたB型粘度計では評価不可能なほどに高粘度であったことを表す。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。貯蔵安定性の評価は、カーボンブラック分散液を50℃にて、30日間静置して保存した後の、粘度値の変化から評価した。変化の少ないものほど安定性が良好であることを示す。
【0058】
また、分散後平均粒径の測定は、カーボンブラック分散液をNMPにより適切な濃度に希釈した後に、超音波処理を施した液を測定サンプルとして用い、動的光散乱法方式の粒度分布計(日機装社製「ナノトラックUPA−EX」、光源波長780nm)を用いて平均粒径(D50値)を測定することにより行った。各種測定条件は、上記方法によりNMP希釈した分散液のローディングインデックス値を0.7以上1.3以下に、粒子条件を、吸収性粒子、粒子形状非球形、密度1.80とし、溶媒条件を、溶媒屈折率1.47、液温20℃における溶媒粘度1.80mPa・s、液温25℃における溶媒粘度1.65mPa・sと設定し、得られたメジアン径をD50値として表記した。測定結果は、液温25℃のNMP溶剤についてバックグラウンド値を測定した後、上記方法にて調製した液温25℃のサンプルを測定容器に充填し、上記測定条件にて測定を行うことにより得た。
同じカーボンブラックを使用した場合、D50値が小さいほど分散性が良好であり、大きいほど分散性が不良であることを示す。貯蔵安定性の評価は、カーボンブラック分散液を50℃にて、30日間静置して保存した後のD50値の変化から評価した。変化の少ないものほど安定性が良好であることを示す。
【0059】
<カーボンブラック分散液の調製
【0060】
[比較例1−1〜比較例1−2]
表1に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと各種ポリビニルアルコール樹脂とを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、1.25mmφジルコニアビーズをメディアとして、ペイントシェーカーで2時間分散した。しかし、得られた分散液は、いずれも著しく高粘度な状態であり、D50値が大きいことから、カーボンブラックを十分に分散する事が出来ていないことがわかる。この結果から、カーボンブラックの比表面積に対するポリビニルアルコール樹脂の添加量より算出されるa値が、0.00017≦a≦0.00256の範囲内であっても、けん化度が60mol%未満または85mol%を越えるポリビニルアルコール樹脂を使用した場合には、所望とする高濃度かつ低粘度のカーボンブラック分散液を得る事ができないことが明らかとなった。
【0061】
実施例1−13、実施例1−14
表1に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPとポリビニルアルコール樹脂を仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、1.25mmφジルコニアビーズをメディアとして、ペイントシェーカーで2時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。いずれも低粘度かつD50値が小さく、貯蔵安定性も良好であった。
【0062】
[比較例1−3、参考例1−1]
表1に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPとポリビニルアルコール樹脂を仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、1.25mmφジルコニアビーズをメディアとして、ペイントシェーカーで2時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。得られた分散液は、いずれも著しく高粘度な状態であり、D50値が大きいことから、カーボンブラックを十分に分散する事が出来ていない状態であった。この結果から、けん化度が60〜85mol%のポリビニルアルコール樹脂を使用しても、カーボンブラックの比表面積に対するポリビニルアルコール樹脂の添加量より算出されるa値が、0.00017≦a≦0.00256の範囲以外の場合には、所望とする高濃度かつ低粘度のカーボンブラック分散液を得る事ができないことが明らかとなった。
【0063】
<バインダーを含むカーボンブラック分散液の調製>
[実施例2−7、実施例2−
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと各種ポリビニルアルコール樹脂と各種バインダーを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。いずれも粗大粒子がなく、かつ低粘度であり、貯蔵安定性も良好であった。
【0066】
[比較例2−1〜比較例2−5]
表2に示す組成に従い、ガラス瓶にNMPと、各種ポリビニルアルコール樹脂とPVDFを仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、各種カーボンブラックを加え、ホモジナイザーで1時間分散し、各カーボンブラック分散液を得た。しかし、得られた分散液の粘度は、バインダーを添加せずに調製した場合と同様に高粘度であり、カーボンブラックおよびバインダー濃度のさらなる向上はできないことが明らかとなった。
【0067】
表2より、NMPに溶解、または分散可能な樹脂をバインダーとして用いた場合、得られるカーボンブラック分散液の性状は、表1のバインダーを添加せずに分散液を調製した場合と同様に、高濃度かつ低粘度であり、貯蔵安定性も良好な分散液を得られることが分かる。
【0068】
<正極活物質または負極活物質を含むカーボンブラック分散液の調製>
[実施例3−、実施例3−
表3に示す組成に従い、実施例2−7、実施例2−で得たバインダーを含有するカーボンブラック分散液に対し、正極活物質であるLCOを仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各混合液を得た。用いたカーボンブラック分散液が低粘度であるために、LCOを多量に添加することができ、また、得られた混合液も低粘度な状態であった。
【0071】
[比較例3−1〜比較例3−3]
表3に示す組成に従い、比較例2−3〜比較例2−5で得た、バインダーを含有するカーボンブラック分散液に対し、正極活物質であるLCOを仕込み、ディスパーにより充分に混合し、各混合液を得た。いずれも、用いたカーボンブラック分散液の粘度値が高いことから、実施例3−1〜実施例3−14と比較して、LCOを添加した際の粘度値の上昇が大きく、また、安定性評価試験における粘度の上昇幅も大きかった。
【0073】
<電池電極合材層の作製>
上記の各実施例、比較例で得られた正極活物質または負極活物質を含むカーボンブラック分散液を電池電極合材液として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にドクターブレードを用いて塗工した後、減圧下120℃で30分間乾燥し、乾燥後膜厚100μmの塗膜(電池電極合材層)を作製した。
得られた電池電極合材層の評価は、表面抵抗と塗膜外観により行った。表面抵抗の測定にはロレスタ−GP(三菱化学アナリテック社製)を用い、JIS K7194に準じて測定した。
表面抵抗は、数値の小さい程、良好であることを示す。また、塗膜外観は、目視で、○:問題なし(良好)、△:斑模様あり(不良)、×:粗粒の筋引きあり(極めて不良)、とした。
【0074】
[実施例4−6、実施例4−、比較例4−1〜比較例4−3]
正極合材液として、実施例3−7、実施例3−、比較例3−1〜比較例3−3で得た電池電極合材液を使用して、正極合材層(電池電極合材層)を作製した。評価結果を表4に示した。
【0076】
<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの組み立て>
[実施例5−6実施例5−、比較例5−1〜比較例5−3]
先に調製した電池電極合材液(実施例3−7、実施例3−、比較例3−1〜比較例3−3の正極合材液)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥した後、ローラープレス機にて圧延処理し、厚さ100μmの正極合材層を作製した。これを直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製#2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0078】
<リチウムイオン二次電池正極特性評価>
作製した正極評価用セルを25℃で、北斗電工社製SM−8を使用して、充電レート1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で、放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計50サイクル行い、充放電を行った。評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観(50サイクル後の塗膜外観)を目視にて確認した。塗膜外観の評価基準は、剥がれが認められず外観に全く変化が無い場合を○(極めて良好)、剥がれてはいないが外観に変化が認められる場合を△(良好)、部分的に合材が集電体より剥がれが認められる場合を×(不良)とした。また、容量維持率は、数値が100%に近いものほど良好であることを示す。評価結果を表5に示した。
【0080】
表5より、本発明の電極を使用した実施例5−6、実施例5−は、比較例5−1〜比較例5−3比較して、塗膜外観が良好であり、かつ、50サイクル後の容量維持率についても、良好な結果であった。
【0081】
表5より、実施例5−6、実施例5−は50サイクルの充放電サイクル後も、塗膜外観が良好で、かつ容量維持率も良好であることが判明した。一方、比較例5−1〜比較例5−は、良好な塗膜を得ることが出来なかったため、正極特性および負極特性を評価することが出来なかった。


【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】