【文献】
Shih-Hsien Yang, et al.,Atmospheric-pressure plasma deposition of SiOx films for super-hydrophobic application,Thin Solid Films,2009年 3月20日,Vol. 517,pp. 5284-5287
【文献】
Lianbin Zhang, et al.,Layer-by-Layer Deposition of Poly(diallyldimethylammoniumchloride) and Sodium Silicate Multilayers on Silica-Sphere-coated Substrate - Facile Method to Prepare a Superhydrophobic Surface,Chemistry of Materials,2007年 1月19日,Vol. 19,pp. 948-953
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属性表面を有する基材に対して、有機ケイ素化合物を導入した大気圧雰囲気中でプラズマを発生させることにより、前記基材上に平均粒径が10nm〜2000nmの超微粒子シリカ化合物を堆積させること、
前記超微粒子シリカ化合物が堆積された基板を、200℃以上の温度で前記有機ケイ素化合物を含む雰囲気に曝すことにより前記超微粒子シリカ化合物を成長させ、平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物が互いに結合してなる表面に凹凸構造を有する膜を形成すること、を包含する、超撥水性材料の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の(a)および(b)に示した手法は、水化処理を真空チャンバー内で行う必要があるため、基材の大きさに制限が生じたり、設備が高コストとならざるを得なかった。また、上記の(a)〜(d)に示した従来法はいずれも基材の表面を親水化処理した後に疎水化することで撥水性を発現させているため、作業工程が煩雑で、長時間を要するものとなってしまっていた。
【0006】
ところで、発明者らは、高分子基材表面に、ドライエッチングにより表面粗さが5〜200nmの範囲内の凹凸を形成したのち、この凹凸上に気相法により膜厚が1〜150nmの範囲内である撥水層を形成することを提案している(特許文献2参照)。この撥水層は有機ケイ素材料または有機フッ化ケイ素材料あるいはその重合体から構成され、その分子構造内にメチル基などの疎水基を備えることから、例えば、水に対する接触角が70度以上(例えば、140度程度)の撥水性が発現されている。
しかしながら、かかる撥水層では、水に対する接触角が150度以上となるいわゆる超撥水性は実現されていなかった。また、この撥水層は強度が弱く、撥水層を構成する自己組織化単分子膜と基材との密着性に課題が残されていた。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みて創出されたものであり、大気圧環境下で透明で超撥水性を示す膜を基材との密着性を高く形成することができる超撥水性材料の製造方法と、透明な超撥水性膜が強固に結合されている超撥水性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の従来技術の課題を解決するものとして、本発明は超撥水性材料の製造方法を提供する。かかる製造方法は、金属性表面を有する基材に対して、有機ケイ素化合物を導入した大気圧雰囲気中でプラズマを発生させることにより、上記基材上に平均粒径が1nm〜100nmの超微粒子シリカ化合物を堆積させること、上記超微粒子シリカ化合物が堆積された基材を、上記有機ケイ素化合物を含む雰囲気に曝すことにより上記超微粒子シリカ化合物を成長させ、平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物が互いに結合してなる表面に凹凸構造を有する膜を形成すること、を包含することを特徴としている。
【0009】
本発明者らの研究によると、有機ケイ素化合物を熱分解させて得られる超微粒子状のシリカ化合物は、基材表面に無秩序に堆積される。かかる超微粒子の無秩序な堆積は、超微粒子間に液相が入り込めない多数の空隙を形成する。そして、かかる超微粒子と空隙とにより形成される微細な凹凸構造は、そのままで150度以上の超撥水性を発現し得る。しかしながら、このように形成される超微粒子シリカは互いが堅く結合されておらず、極めて不安定な状態で存在し得る。そのため、膜強度や膜と基材との密着性等については十分満足できるものではない。
【0010】
本発明の製造方法においては、このような超微粒子シリカ化合物の堆積物に対し、さらに気相法により有機ケイ素化合物を供給することで超微粒子シリカ化合物を適切に粒成長させ、同時に、成長された粒状のシリカ化合物同士を確実に結合させて膜を形成するようにしている。また、かかる粒成長により、基材に近い領域の隣り合う粒状シリカ化合物の間の間隙は減少し、比較的緻密で強度の高い膜となり得る。さらに、基材として金属性表面を有する材料を用いることで、かかる粒状シリカ化合物からなる膜状体と基材との強固な結合をも実現する。これにより、基材上に超撥水性を示す膜が密着性良く備えられた超撥水性材料を製造することができる。
【0011】
なお、学術的に定義はなされていないものの、撥水性の程度は、一般に、固体表面における水(所定の体積の水滴)との接触角で区別される。すなわち、水との接触角θが90度以上120度未満の場合を撥水性、120度以上150度未満を高撥水性、150度以上の場合を超撥水性、として区別されている。本明細書において「超撥水」とは、水との接触角θが150度以上となる状態をいうものとする。
また、「超微粒子シリカ化合物」および「粒状シリカ化合物」とは、主としてシリカ(SiO
2)から構成されているが、かかるシリカSi−O−Siネットワークが有機官能基により終端されることでC,H,F等の異種元素を含み得る点において、「化合物」と呼ぶようにしている。
さらに、超微粒子シリカ化合物が「無秩序」に堆積するとは、超微粒子シリカ化合物の堆積態様に幾何学的な秩序性がみられない様子を表現するものである。例えば、超微粒子シリカ化合物の堆積機構が、化学的あるいは熱力学的秩序等に基づくことを妨げるものではない。
【0012】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様においては、上記超微粒子シリカ化合物が堆積された基材を、200℃以上の温度で上記有機ケイ素化合物を含む雰囲気に曝すことを特徴としている。
かかる製造方法では、超微粒子シリカ化合物の成長時に熱エネルギーを与えることで粒成長を促進させるようにしており、粒子間を例えばネックの形成等により確実に結合させることを可能とする。また、200℃以上の温度に加熱することで、形成される粒状シリカの結晶性をも高めることができ、機械的強度(例えば、硬度)の高い膜を形成することができる。
【0013】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様においては、さらに、基材に金属膜を形成して前記金属性表面を有する基材を用意する工程を含み、上記金属膜を、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)および鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種の金属又はその合金で構成することを特徴としている。
かかる構成によると、任意の素材からなる基材に対し、超撥水性の付与を目的とする表面に金属膜を設けることで、本発明の金属性表面を有する基材として用いることができる。すなわち、基材としては、その表面が金属性表面であれば、その他の部位の素材については限定されない。
【0014】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様においては、上記金属膜を1μm以下の厚みに形成することを特徴としている。
金属膜を1μm以下、典型的には10nm〜500nm程度、より好ましくは10nm〜300nm程度の厚みで形成することで、かかる金属膜を透明(可視光に対して透明、以下同じ。)とすることができる。なお、上記の粒状シリカ化合物からなる膜は本質的に透明であるため、例えば、基材として透明な材料を用いた場合に超撥水性材料の全体を透明なものとして製造することができる。
【0015】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様においては、上記基材として、ガラスまたは樹脂材料を用いることを特徴としている。
本発明の製造方法は、例えば、高温(例えば、350℃程度以上)での熱処理を必要としない。したがって、例えば350℃程度以上の高温で変質または溶融される各種の材料を基材とした超撥水性材料を製造することができる。また、上記の通り、超撥水性材料の全体を透明なものとして製造することができる。かかる特徴から、本発明の製造方法は、基材としてガラス材料または樹脂材料を用いる場合にその利点を最大限に発揮することができるために好ましい。
そしてここに開示される発明は、上記のいずれかの製造方法により製造されている、超撥水性材料をも提供する。
【0016】
上記課題を他の側面から解決するものとして、ここに開示される発明は、超撥水性材料を提供する。かかる超撥水性材料は、金属性表面を有する基材上に、有機ケイ素化合物が分解されてなる平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物が互いに結合してなり、表面に凹凸構造を有する膜が備えられていることを特徴としている。
本発明の超撥水性材料は、表面が粒状のシリカ化合物の繋がりにより形成されているため、粒状シリカ化合物の堆積状態により形成される凹凸に加え、隣り合う粒状シリカ化合物により形成される凹凸とで、極めて複雑な凹凸構造が形成されている。その結果、表面積が著しく拡大され、実質の自由表面エネルギーが平面に比べて高く、濡れやすい表面がより濡れやすく形成される。かかる形状的な特徴により、本発明の超撥水性材料は、撥水性の高い表面が実現され得る。
【0017】
上記の超撥水材料の好ましい一形態として、上記膜の表面における水の接触角は150度以上であることを特徴としている。
上記のとおりの極めて複雑な凹凸構造により、粒状シリカ化合物からなる膜は極めて高い撥水性、すなわち超撥水性を示し得る。したがって、例えば、超撥水性を示す透明な材料が提供される。
【0018】
上記の超撥水材料の好ましい一形態として、上記膜と上記金属性表面との界面には、上記膜と上記金属性表面とが反応されてなる反応層が形成されていることを特徴としている。
かかる超撥水材料は、この反応層の存在により金属性表面を構成する金属元素と、粒状シリカ化合物を構成するケイ素とが化学的に結合している。これにより、粒状シリカ化合物からなる膜と基材表面とが強固に結合(固定)された超撥水材料が提供される。
【0019】
上記の超撥水材料の好ましい一形態として、スクラッチ試験に基づく上記基材から上記膜が剥離する際の臨界荷重が、50mN以上であることを特徴としている。
かかる超撥水性材料は、上記の通り粒状シリカ化合物からなる膜と基材表面とが化学的に結合しており、高い膜密着性を有している。例えば、JIS R−3255(ガラスを基板とした薄膜の付着性試験方法)に基づくスクラッチ試験を指標とすると、臨界荷重が50mN以上という高い膜密着性を有するものとして実現される。
【0020】
上記の超撥水材料の好ましい一形態として、上記金属性表面は厚みが1μm以下であることを特徴としている。
金属膜は厚みが1μm以下、典型的には10nm〜500nm程度、より好ましくは10nm〜300nm程度であることで、透明であり得る。なお、上記の粒状シリカ化合物からなる膜は本質的に透明であるため、例えば、基材として透明な材料を用いた場合に超撥水性材料の全体が透明なものとして実現され得る。
【0021】
上記の超撥水材料の好ましい一形態として、上記基材がガラスまたは樹脂であって、上記金属性表面は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)および鉄鋼からなる群から選択される少なくとも1種の金属又はその合金で構成されていることを特徴としている。
かかる金属性表面は、粒状シリカ化合物からなる膜を構成するケイ素と化学的に結合し得る金属元素を含むよう構成されていることが好ましい。したがって、金属性表面が上記の金属元素を含む金属またはその合金から構成されることで、膜密着性等の機械的性質に優れた撥水性材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の超撥水性材料とその製造方法について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(超微粒子シリカ化合物の堆積膜や粒状シリカ化合物からなる膜の構成の形成条件等)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(プラズマ発生装置の構成や金属膜の作成条件等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書および図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
ここに開示される超撥水性材料の製造方法は、本質的に、以下の工程を含んでいる。
(1)金属性表面を有する基材に対して、有機ケイ素化合物を導入した大気圧雰囲気中でプラズマを発生させる。これにより、基材上に平均粒径が10nm〜2000nmの超微粒子シリカ化合物を堆積させる。
(2)超微粒子シリカ化合物が堆積された基材を、有機ケイ素化合物を含む雰囲気に曝すことにより超微粒子シリカ化合物を成長させる。これにより、平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物が互いに結合してなる表面に凹凸構造を有する膜を形成する。
【0024】
1.超微粒子シリカ化合物の堆積
本発明の製造方法においては、上記のとおり、有機ケイ素化合物を原料とした大気圧下でのプラズマ処理により、基材上に平均粒径が10nm〜2000nmの有機ケイ素化合物由来の超微粒子シリカ化合物を堆積させるようにしている。
[基材]
本発明において粒状シリカ化合物からなる超撥水性を示す膜(以下、単に超撥水膜という場合がある。)が備えられる基材としては、当該超撥水膜が備えられる部位に金属性表面を備える材料であれば、素材等に特に制限はない。例えば、基材そのものが金属材料から構成されていても良い。あるいは、基材が主として金属材料以外の、例えば、ガラス材料、セラミック材料、樹脂材料等やそれらの複合体から構成されており、その表面の少なくとも一部に金属材料からなる金属性表面が備えられていてもよい。この場合の金属性表面としては、典型的には、金属膜を考慮することができ、例えば、基材(基材本体)に金属膜を形成することで、金属性表面を有する基材とすることができる。
【0025】
すなわち、上記の工程(1)の前に、予め、基材本体に金属膜を形成して金属性表面を有する基材を用意する工程を含むようにしてもよい。基材本体に金属膜を形成する手法は特に制限されず、例えば、一例として、基材本体を構成する素材の特性等に応じて公知の各種の成膜方法から適宜選択して利用することができる。このような成膜方法としては、例えば、代表的なものとして、ゾルゲル法、スピンコート能等に代表される液相成膜方法や、スパッタ法、蒸着法およびイオンプレーティング法等に代表される物理的気相成長法(PVD法)、熱化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法等に代表される化学気相成長法(CVD法)が挙げられる。中でも、本発明においては、金属材料以外の素材に対して密着性良く金属膜の形成が可能なPVD法を採用するのが好ましい例として示される。
【0026】
金属性表面の形態に特に制限はないが、例えば、厚みを1μm程度以下、典型的には10nm〜500nm程度、より好ましくは10nm〜300nm程度とすることで、かかる金属膜を透明とすることができる。したがって、基材本体および金属膜、並びに例えば、エレクトロニクス関連材料、光学材料、包装材料等としての用途に好適に使用することができる。
かかる金属性表面を構成する材料としては特に制限はなく、各種の金属あるいはその合金とすることができる。例えば、金属膜を、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)および鉄(Fe)またはこれらの合金で構成すると、かかる金属膜状に形成される球状シリカ化合物と反応し、球状シリカ化合物からなる膜の密着性を高めることができるために好ましい。
【0027】
[有機ケイ素化合物]
本発明において、有機ケイ素化合物としては、プラズマにより発生される各種のラジカルの作用により、Si−O−Si結合(ネットワークであり得る。)が少なくとも1種の有機基で終端されている有機基含有シリカを形成し得る各種の化合物を特に制限なく用いることができる。かかる有機ケイ素化合物は、プラズマCVD法等によるSiO
2成膜に用いられる原料化合物として広く知られた材料であり得る。有機ケイ素化合物としては、具体的には、例えば、典型例として、(a)SiあるいはSiを主骨格元素とするSi−O−Siネットワークに少なくとも一つのメチル基,エチル基等の有機官能基が直接結合した化合物や、(b)SiあるいはSiを主骨格元素とするSi−O−Siネットワークに、メトキシ基,エトキシ基等のアルコキシ基が結合した化合物等が挙げられる。より具体的には、例えば、テトラメチルシラン:Si(CH
3)
4等のシラン類、テトラメトキシシラン:Si(OCH
3)
4,テトラエトキシシラン:Si(OC
2H
5)
4,テトライソプロポキシシラン:Si(i−OC
3H
7)
4テトラターシャリブトキシシラン:Si(t−OC
4H
9)
4等のアルコキシシラン類、ジイソプロポキシジアセトキシシラン:Si(OC
3H
7)
2(OCOCH
3)
2(DADBS)等のアルコキシアセトキシシラン類、ヘキサチメチルジシロキサン:Si
2C
6H
18O(HMDS),テトラメチルジシロキサン:Si
2C
4H
12O(TMDS)等の鎖状ポリシロキサン類、オクタメチルシクロテトラシロキサン:Si
4C
8H
24O
2(OMCTS),テトラメチルシクロテトラシロキサン:Si
4C
4H
16O
4(TOMCATS)等の環状ポリシロキサン等を挙げることができる。これらはいずれか1種を単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0028】
[超微粒子シリカ化合物の堆積]
本発明においては、上記の原料としての有機ケイ素化合物を、平均粒径が10nm〜2000nmの超微粒子の形態のシリカ化合物として、基材上に堆積させる。かかる超微粒子シリカの堆積には、プラズマ気相成長(CVD)法を採用することができ、特に、酸化物の超微粒子を常圧近傍で安定して形成可能な熱プラズマCDV法を用いるのがより好ましい。
例えば、熱プラズマを例にして説明すると、プラズマ発生条件については、例えば、プラズマ発生装置の構成や、原料である有機ケイ素化合物の種類等に応じて適宜設定することができる。
熱プラズマ発生装置としては、特に制限なく、各種のプラズマ発生装置(典型的には、プラズマ製膜装置であり得る。)を用いることができる。例えば、原料の導入を比較的容易に行うことができることから、電極間の直流アーク放電を利用した溶射用プラズマ装置等を好適に用いることができる。その他、熱プラズマは、かかる直流アーク放電による発生手法以外にも、多相放電、誘導結合型放電、大気圧マイクロ波加熱放電等により発生することもできる。
【0029】
熱プラズマCVD法においては、超微粒子シリカの原料である上記の有機ケイ素化合物を気相(典型的には、蒸気)として含む大気圧雰囲気中で、超高温のプラズマを発生させることにより、この有機ケイ素化合物に由来する化合物の超微粒子の合成と堆積とを行うことができる。熱プラズマCVD法においては、典型的には、微粒子の生成過程がプラズマ尾炎部での均一核生成ステップおよびこれに続く核成長ステップから成ることが知られている。そこで、気相状態の有機ケイ素化合物は、プラズマ尾炎部近傍に導入されるのが好ましい。上記の有機ケイ素化合物は、常温では液体または固体であることが殆どであるが、一般的に飽和蒸気圧が高いという性質を利用して、温度を一定に保った原料中にキャリアガスを導入してバブリングすることで、超微粒子シリカ化合物の形成に十分な量の原料を気体として安定した流量で供給する事ができる。
【0030】
キャリアガスとともにプラズマ中(典型的には、尾炎部)に導入された有機ケイ素化合物は、プラズマ中で原子あるいはイオンにまで分解され、化学反応は主としてプラズマ−雰囲気間の境界層やプラズマ−基材間の境界層での非平衡反応過程で支配されると考えることができる。
そこで、例えば、超微粒子シリカ化合物の原料となる有機ケイ素化合物の組成等に応じて、プラズマ雰囲気を自由に選択することができる。具体的には、例えば、アルゴンを用いた不活性雰囲気、酸素を用いた酸化雰囲気、水素を用いた還元雰囲気等を自由に選択できるので、有機ケイ素化合物に対して所望の分解処理を施すことができる。例えば、有機ケイ素化合物から超微粒子シリカ化合物の形成に還元性環境が必要な場合は、プラズマが還元プラズマとなるよう、キャリアガスの種類等を調製することができる。例えば、キャリアガスが水素ガスを含むようにすることができる。また、例えば、有機ケイ素化合物から超微粒子シリカ化合物の形成に酸化性環境が必要な場合は、プラズマが酸化雰囲気となるよう、キャリアガスの種類等を調製することができる。例えば、キャリアガスが酸素ガスを含むようにすることができる。
【0031】
以上のようにして導入される有機ケイ素化合物は、プラズマ中においては、主として質量数の比較的小さな化学種として存在し得る。例えば、具体的には、Siを含む化学種としては原子状Si,SiO,SiH,SiCHx等の形態で、Siを含まない化学種としてはS,O,HC,H
2,CHx,OH,H
2O,CO,CO
2等の形態で存在し得る。このうち、H,O,H
2,CH,OHおよびCOについては、プラズマ発光分光により気相中に存在することが確かめられている。また、質量数の大きいクラスタも、原料分子の二量体までは質量分析により存在が確認されているが、その空間密度は低く、成膜に関与するレベルではないと考えられる。したがって、超微粒子シリカ化合物の前駆体としては、Si,SiHx,SiOxがその候補として考慮される。
なお、超微粒子シリカ化合物の前駆体は、必須ではないものの、基材の温度を制御しておくことで、比較的安定して基材上に堆積される。かかる基材温度としては、例えば、50℃〜150℃程度の範囲を例示することができる。
【0032】
この様にして活性化された有機ケイ素化合物は、プラズマ気流に乗って気相中で超微粒子シリカの核を形成する(均一核生成ステップ)。そして、本発明の製造方法においては、かかる核形成がなされた後、核成長が過度に進行する前に、すなわち、核成長ステップに移行する前に、平均粒径が10nm〜2000nmの超微粒子状のシリカ化合物を基材に堆積させるようにする。かかる超微粒子シリカ化合物の粒径は、たとえは、原料(有機ケイ素化合物)供給量、原料供給口〜基材間距離、基材温度、等の条件により制御することができる。
このように熱プラズマ法により基材上に堆積される超微粒子シリカ化合物は、明瞭な輪郭を有したシリカ化合物の超微粒子が、粒子間に空気を含みながら(空隙をもって)パウダー状に堆積される。また、超微粒子シリカ化合物は幾何学的に無秩序に堆積されており、微粒子間には液相(例えば、水滴)が入り込めない程度の多数の微細な空隙が形成される。かかる超微粒子と空隙とにより形成される微細な凹凸構造は、そのままで150度以上の超撥水性を発現し得る。しかしながら、このように形成される超微粒子シリカは互いが堅く結合されておらず、また基材との密着性も十分なものではない。そしてこのような超微粒子シリカ化合物は、非常に活性があると同時に不安定であり得る。
【0033】
2.粒状シリカ化合物からなる膜の形成
そこで、本発明では、上記のように超微粒子シリカ化合物が堆積された基材を、有機ケイ素化合物を含む雰囲気(典型的には蒸気)に曝す。これにより超微粒子シリカ化合物の表面に有機ケイ素化合物の蒸気が接触させるとともに、Si−O−Si結合により一体化させて、超微粒子シリカ化合物を成長させるようにしている。これにより、超微粒子シリカ化合物を、平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物へと成長(典型的には、気相成長)させることができる。
ここで用いる有機ケイ素化合物は、上記の超微粒子シリカ化合物の形成に用いたのと同じものとすることができる。また、超微粒子シリカ化合物が堆積された基材と、有機ケイ素化合物とは、同一の密閉容器に入れることで、超微粒子シリカ化合物を粒状シリカ化合物へと効率的に成長させることができる。
【0034】
ここで、粒状シリカ化合物は、成長の途中で隣り合う粒子同士がネックを形成して結合し、互いがSi−O−Si結合により一体化される。すなわち、超微粒子シリカ化合物の堆積物から、一体的な膜が形成される。また、このような粒成長に伴い、特に基材に近い領域では隣り合う粒状シリカ化合物の間に形成されていた間隙が減少して、比較的緻密な膜が形成される。さらに、かかる粒状シリカ化合物からなる膜と、基材の金属性表面とが接する部位では、粒状シリカ化合物と金属性表面とが化学的に結合する。すなわち、有機ケイ素化合物の蒸気は、基材に達すると分解および化学反応を生じて、金属性表面の結晶情報を引き継ぎながら超微粒子シリカ化合物を成長させる。これにより、粒状シリカ化合物からなる膜と基材との強固な結合もが実現されることとなる。かかるケイ素(Si)と化学的に結合しやすい金属としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、銀(Ag)および亜鉛(Zn)等が例示される。かかる金属により基材の金属性表面が構成されていることで、粒状シリカ化合物と金属性表面とがより確実に化学的に結合するために好ましい。
【0035】
以上の成長の工程において、有機ケイ素化合物の気化(蒸気の発生)を促すために、有機ケイ素化合物を単独で、あるいは密閉容器ごと加熱する等してもよい。かかる加熱は、必須の要件ではないものの、加熱を行うことで気相成長を促進させるとともに、ネックの形成による粒子間の結合を強固なものとすることができ、膜の密着性および機械的強度を高めることができる。さらに、膜を構成する粒状シリカ化合物の結晶性を高めることもでき、より一層膜強度を向上させることができる。このような加熱は、用いる有機ケイ素化合物の種類や、基材を構成する材料等に応じて適切に行うことができる。例えば、具体的には、密閉容器内を200℃以上の温度(例えば、200℃以上240℃未満)とすると有機ケイ素化合物の気化を効果的に促進できるために好ましい。また、例えば、密閉容器内を240℃以上の温度(例えば、240℃以上260℃未満)とすると超微粒子シリカ化合物の気相成長を効果的に促進できるために好ましい。また、例えば、密閉容器内を260℃以上の温度(例えば、260℃以上300℃未満)とすることで、粒状シリカ化合物からなる膜の密着性を急激に上昇させることができるために好ましく、例えば、密閉容器内を300℃以上の温度(例えば、300℃以上350℃未満)とすることで粒状シリカ化合物からなる膜の硬度を効果的に高めることができるためにより好ましい。しかしながら、例えば350℃を超える加熱は特段必要ではなく、例えば、好適には、350℃以下の比較的低温での加熱であってよい。
これにより、基材上に超撥水性を示す膜が密着性良く備えられた超撥水性材料を製造することができる。
【0036】
以上の超微粒子シリカ化合物の成長により、平均粒径が10nm〜5000nmの粒状シリカ化合物が結合してなる膜が形成される。かかる粒状シリカ化合物の大きさは、気相成長の際の温度条件、基材の金属性表面を構成する金属種およびその結晶性(結晶面)、気相成長時間等によって変化し得る。この様にして形成される膜の表面状態は、超微粒子シリカ化合物の堆積状態と略相似的な形状であり、平坦な部分が殆どない、非常に複雑な凹凸構造を維持している。
【0037】
その形態を適切に表現することは困難であるが、大略としては、超微粒子シリカ化合物が上方へ優先的に堆積してゆく過程で平らだった表面が乱れ、かかる乱れ部において部分的な堆積が進行し、小さな突起部が成長して行く。そして更に、その突起部の表面が乱れ、かかる突起部から更なる微小な突起が成長してゆく。しかしながら表面エネルギーの大きな超微粒子シリカ化合物(特に先端部の超微粒子シリカ化合物)は、左右方向への堆積(超微粒子シリカ化合物同士の結合であり得る。)も実現し得るため、例えば、
図1に示すような、複雑な凹凸構造が形成されるものと考えられる。また、超微粒子シリカ化合物の気相成長においても、超微粒子シリカ化合物の表面に気体分子状の有機ケイ素化合物が上記と同様に堆積してゆくことにより成長が進行し、粒状シリカ化合物が形成される。これにより、例えば
図2Bに示すような、当該複雑な形態を維持した超撥水膜が形成される。なお、かかる気相成長の段階においては、例えば、雰囲気温度により粒子の表面エネルギーが高まり、粒状シリカ化合物同士の結合や一体化、表面の平坦化等が生じ得る。また、局所的に堆積を重ねた突起部が斜方ないしは横方に傾いて、さらに複雑な形態をとり得る。
【0038】
このような凹凸は、例えば、膜の最大厚みが100μm程度であったとき、その最小厚みは20μm〜50μm程度となることがあり得る。換言すると、凹凸を構成する突起部は、高さが50μm〜80μm程度の範囲で様々な高さでありうる。また、突起部の間に形成される空間は、全体として、基材からの厚みが厚くなるほど拡大する傾向にはあるものの、基材からの厚みが厚くなる方向に行くほど粒状シリカ化合物の粒径よりも大きい寸法で狭まる部分が存在し得る。
かかる形状は、一見無秩序的であり、完全にフラクタルな秩序性は見られないものの、自己アフィン性を示し得る。そして、水に対する撥水性は、150度以上の超撥水性を示し得る。すなわち、気相成長させた後も、150度以上の超撥水性を維持している。すなわち、透明な超撥水性膜が強固に結合されている超撥水性材料が提供される。
【0039】
以上、本発明の超撥水性材料と、その製造方法について、好適な実施形態に基づき説明したが、かかる超撥水性材料の構成および製造方法はこの例に限定されず、適宜に態様を変化して行うことができる。例えば、基材に形成する金属性表面は、必ずしも真空蒸着の手段により形成する必要はなく、例えば、基材の表面に凹凸構造を形成した後にプラズマCVD法等の低圧性膜法等の各種の成膜手法により形成してもよい。また、熱プラズマを発生させる装置についても、例えば、三相交流アーク放電型のプラズマトーチによっても好適に発生させることができる。また、熱プラズマの発生条件は、実際に使用するプラズマ発生装置や有機シリカ化合物、基材等の条件に応じて適宜調節できることは言うまでもない。
【0040】
以上の通り、本発明の超撥水性材料の製造方法は、例えば超撥水膜を任意の基材に密着性良く、かつ、比較的低温(例えば350℃以下)で形成し得る手法と理解することができる。これにより、例えば、透明な超撥水膜を、任意の基材に密着性良く形成することが可能となる。
次に、本発明に関する実施例を示すとともに、本発明についてさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0041】
[実施形態1]
基材としてガラス基板を用い、以下の手順で基板上に超撥水膜を形成し、超撥水材料を得た。
1.基板の準備
ガラス基板の表面に付着している有機物等を除去するために、ビーカーにガラス基板およびエタノールを入れて超音波洗浄機にて30分間程洗浄した。エタノールから取り出したガラス基板を乾燥させた後、さらに、ビーカーにガラス基板およびアセトンを入れて超音波洗浄機にて30分間ほど洗浄した。
【0042】
2.金属性表面の形成
本実施形態では、金属薄膜によるコーティングを比較的簡便に実施できる真空蒸着法を採用して、ガラス基板に金属性表面としての銅(Cu)膜を形成した。すなわち、上記のとおり洗浄したガラス基板を真空チャンバー内に設置し、板状フィラメントにCu片を載置した状態で、チャンバー内をロータリーポンプにて1×10
−3Torrまで排気し、さらに、拡散ポンプにて1×10
−5Torrまで減圧した。次いで、フィラメントに通電することでCuを溶解させ、発生したCuの蒸気をガラス基板上に堆積させることで、Cu膜を形成した。なお、Cu膜は、フィラメントと基板との間に設けたシャッターの開閉により約1μmの膜厚となるように形成した。Cu膜が形成されたガラス基板は、シリカ乾燥材を入れた乾燥容器内にて保管した。
【0043】
3.超微粒子シリカ化合物の形成
Cu膜が形成されたガラス基板を
図11に示す溶射用プラズマ発生装置内に設置した。ガラス基板は、基板温度が約100℃程度となるようにプラズマ噴射口から120mm離して設置した。また、後述の原料ガスは、プラズマ噴射口と基板との間で、基板からの距離が10mmの位置に導入口を設置した。
まず、キャリアガスとしてのArガスを6L/minの流量で供給しながらプラズマ発生用電極間に電圧24.8V、電流25Aを印加して発生させたプラズマを、基板に5分間照射した。次いで、キャリアガスを、ArガスにH
2ガスを1%添加したものに切り替えて発生させたプラズマを、基板に5分間照射した。その後、液体の1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)にArガスを0.4L/minの流量で注入してバブリングさせることで気化させたTMCTSを原料ガスとし、6L/minのArガスとともに導入しながら発生させたプラズマを、基板に7分間照射した。これにより、ガラス基板上のCu膜の表面に、超微粒子シリカ化合物を堆積させた。
【0044】
ここで、上記で得られた超微粒子シリカ化合物が堆積したガラス基板を破断し、破断面と表面とを走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。その結果を、
図1(a)破断面および(b)表面として示した。
図1(a)に示されるように、ガラス基板上には、粒径が数0.010μm〜数0.1μm程度の超微粒子状のシリカが堆積しているのが確認された。これらの超微粒子は明瞭な輪郭を有しており、気相中で超微粒子の核が形成され、核成長が進行する前にパウダー状の粒子として合成されており、粒子間に空気を含みながら(空隙をもって)ふんわりと堆積している様子が見てとれる。超微粒子シリカ化合物はランダムに堆積しており、その最表面には極めて複雑で微細な凹凸が形成されていた。この場合の超微粒子シリカ化合物のおおよその堆積高さ(厚み)は約50μmであった。
【0045】
4.超微粒子シリカ化合物の成長
上記で得られた超微粒子シリカ化合物が堆積されたガラス基板と、ガラス容器に入れたTMCTSとを、密閉が可能なステンレス容器に入れて密閉し、電気炉にて昇温速度5℃/min、(A)240℃,(B)260℃,(C)270℃および(D)290℃の4通りの温度まで加熱して各温度で3時間保持した後、電気炉の電源を切って室温まで炉冷した。このようにして得たガラス基板を、それぞれサンプル(A)〜(D)とした。
そしてサンプル(A)〜(D)を破断し、破断面と表面とを走査型電子顕微鏡(SEM)にてそれぞれ観察した。その結果を、
図2A〜
図2Dに示した。なお、サンプル(A)〜(C)については、(a)破断面および(b)表面の観察結果を、サンプル(D)については(a)破断面の観察結果と、その部分拡大図(b)を示した。
【0046】
図2A〜
図2Dの比較からわかるように、熱処理の温度が高くなるにつれて超微粒子シリカ化合物の粒径が増大し、堆積高さ(厚み)も増していることが確認できた。例えば、
図2D(a)および(b)等に示されるように、超微粒子シリカ化合物の粒径は、数μm程度にも増大しており、膜厚も平均して約30μm〜100μm程度と増しているのがわかった。また、各々の超微粒子シリカ化合物は周囲のシリカとネックを形成して結合しており、超微粒子シリカ化合物の間にみられた空隙も全体としては小さくなっていることが確認できた。また、粒子間に形成される空間は、全体として、基板からの厚みが厚くなるほど拡大する傾向にはあるものの、例えば
図2A(a)等に示されるように、基板に平行な方向に空間が広がる部分があるのが観察された。また、基板からの厚みが厚くなる方向に行くほど粒状シリカ化合物の粒径よりも大きい寸法で狭まる部分が多数存在し得ることも確認された。
【0047】
なお、シリカ源として用いたTMCTSは、沸点が130℃程度であって容易に気化され、また重合し易いという性質を有する。これらのことから、先のプラズマ熱還元処理により形成された超微粒子シリカ化合物を、さらにTMCTSの蒸気に晒すことで、超微粒子シリカ化合物が成長していることがわかった。超微粒子状のシリカは非常に活性が高く不安定であることから、安定になろうとする傾向が強い。そのため、熱エネルギーを与えることで、容易に、しかもランダムな付着条件で付着して粒成長し、粒子間の結合を形成するものと考えられる。
【0048】
なお、ガラス基板上に設けられたCu膜もまた活性で安定になろうとする傾向が強い。そのため、
図2D(b)に示されるように、超微粒子シリカ化合物はCu膜に密着しているのが確認された。
【0049】
[評価]
[FT−IR分析]
以上のようにして作製されたサンプルのうち、超微粒子シリカ化合物を成長させる際の温度を(B)260℃,(C)270℃および(D)290℃としたサンプル(B)〜(D)と、超微粒子シリカ化合物を成長させなかったサンプル(X)とについてフーリエ変換赤外分光分析(FT−IR)を行い、超微粒子シリカ化合物の堆積物における化学結合状態を分析した。FT−IRスペクトルの測定には、フーリエ変換赤外吸収分光測定(FT−IR;(株)島津製作所製,FTIR8400S、制御ソフトウェア;IRPrestige−21)を行いた。その結果を
図3に示した。
気相成長させていない、すなわちプラズマ熱還元コーティングのみにより形成された超微粒子シリカ化合物を備えるサンプル(X)と比較して、気相成長を行ったサンプル(B)〜(D)は、気相成長の際の温度が高くなるほど、CH
X−,Si−CH
3,Si−O−Si,Si−OHおよびSi−CH
3の各結合に帰属するピーク強度が高くなっていくことが確認できた。なお、気相成長の際の温度が高くなるほどSi−O−Siのピークが増大していることから、超微粒子シリカ化合物の結晶性が向上することがわかった。また、気相成長の際の温度が高くなるほどSi−CH
3のピークが著しく高まることから、撥水性も向上されることが示された。
【0050】
[撥水性評価]
上記のサンプル(X),(B)〜(D)について、水の接触角を測定した。接触角の測定には、接触角測定装置(協和界面科学(株)製、CA−Z)を用い、サンプル表面に所定の体積の純水を滴下させ、一定時間が経過した後にCCDカメラを用いて水滴形状を観察することで接触角を求める方法を採用した。
その結果、いずれのサンプルも水の接触角が150度以上であって、超撥水性を示すことが確認された。つまり、気相成長温度を300℃近くまで上昇させた場合であっても、接触角は150度以上を維持していた。なお、測定のためにサンプル表面に滴下した水滴は濡れずに弾かれて略球状となり、サンプルを少し動かすことでサンプル表面を転がる様子が観察された。その際の様子から、サンプル(B)〜(D)については、水の接触角が150度を上回っていることが予想された。
【0051】
[スクラッチ試験]
ガラス基板と、該ガラス基板上に形成された超微粒子シリカ化合物の堆積膜との膜密着強度を評価するために、JIS R−3255(ガラスを基板とした薄膜の付着性試験方法)に準じ、スクラッチ試験機を用いてスクラッチ試験を行った。
なお、このスクラッチ試験に用いたサンプルは以下の条件で作製した。すなわち、まず、上記の「3.超微粒子シリカ化合物の形成」においてガラス基板をプラズマ噴射口から120mm離して設置し、TMCTSおよびArガスを供給しながら発生させたプラズマを(1)11分間および(2)12分間の2とおりで照射した。次いで、かかる基板に対し、「4.超微粒子シリカ化合物の成長」における気相成長温度を、室温(25℃)と、200℃以上の温度とで変化させてシリカ化合物を気相成長させ、その他の条件は上記と同様にした。スクラッチ試験の条件は以下の通りとした。
【0052】
ダイヤモンド圧子先端形状:R=10.0μm
荷重負荷速度:54.13mN/mm
ステージ速度:9.8μm/sec
ステージ角度:3deg
かかる試験により測定された、超撥水膜がガラス基板から剥がれ始める際の臨界荷重を、
図4に示した。なお、図中、△印はプラズマを11分間照射して作製したサンプルの臨界荷重を、○印はプラズマを12分間照射して作製したサンプルの臨界荷重を示している。
図4から明らかなように、気相成長の際の温度が200℃程度を超えると、臨界荷重が急激に増大することが確認できた。これは、超微粒子シリカ化合物が粒成長すること、シリカと基板表面のCu膜とが化合物を形成して強固に結合すること、さらに、かかる化合物の形成により超微粒子シリカ化合物の堆積膜の結晶性および基板との密着性が大幅に改善されること、によるものと考えられる。
【0053】
[実施形態2]
<Cu膜>
上記実施形態1の「4.超微粒子シリカ化合物の気相成長」における気相成長温度を265℃,280℃,300℃,330℃および350℃とし、その他の条件は実施形態1と同様にして、ガラス基板上にCu膜の成膜、プラズマ熱還元による超微粒子シリカ化合物の堆積、および、シリカの気相成長を行い、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。また、気相成長温度を350℃とした場合については、かかる温度での保持時間3時間から1時間へと短縮した条件でも、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。
【0054】
<Ni膜>
ガラス基板に形成する金属性表面として、ニッケル(Ni)膜を作製した。すなわち、上記実施形態1の「2.金属性表面の形成」において、Cu片に代えてNi片を板状フィラメントに載置し、後は同様にしてNi膜からなる金属性表面を形成した。その後、「4.超微粒子シリカ化合物の気相成長」における気相成長温度を330℃および350℃とし、その他の条件は実施形態1と同様にして、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。なお、気相成長温度を350℃とした場合については、かかる温度での保持時間を1時間と短縮した条件においても、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。
【0055】
[膜硬度]
上記の通り、ガラス基板上に形成された超微粒子シリカ化合物の堆積膜について、成膜条件と膜硬度との関係を評価するために、ナノインデンテーション(押込み)法による膜の硬度測定を行った。膜硬度の測定には、ナノインデンター(ハイジトロン社製、TI900−D)を用い、三角錐型圧子をサンプル表面に初期接触荷重0.03mNで押し込んだ時の変位と、除荷曲線とから、マイヤー硬さpm(GPa)を算出した。その結果を、
図5に示した。
図5に示されるように、超微粒子シリカ化合物の気相成長温度を上昇させることで、超微粒子シリカ化合物の堆積膜の膜硬度を大幅に高められることが確認できた。また、気相成長時間をより長くすることでも膜硬度を高め得ることが確認できた。特に、気相成長温度を260℃程度以上とすることで、膜硬度を著しく膜硬度を高め得ることが確認できた。
なお、基板の金属性表面をCu膜からNi膜へと代えた場合や、気相成長時間を変化させた場合は、成長温度を変化させた場合に比べて、得られる超微粒子シリカ化合物の堆積膜の膜硬度に顕著な差異は認められなかった。
【0056】
[実施形態3]
<Al膜>
ガラス基板に形成する金属性表面として、アルミニウム(Al)膜を作製した。すなわち、上記実施形態1の「2.金属性表面の形成」において、Cu片に代えてAl片を板状フィラメントに載置し、後は同様にしてAl膜からなる金属性表面を形成した。その後、「4.超微粒子シリカ化合物の気相成長」における気相成長温度を265℃とし、その他の条件は実施形態1と同様にして、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。
この様にして得られたサンプルを破断し、その表面と破断面とをSEMにより観察した。その結果、表面の中心付近のSEM像を
図6(a)に、断面のSEM像を(b)に示した。
図6に示されるように、金属性表面をAl膜とした場合も、Cu膜の場合と同様の、超微粒子シリカ化合物の粒成長、基板との接合(Si−Alの化合物の形成)、150度以上の水接触角となる超微粒子シリカ化合物の堆積膜が得られたことが確認された。
【0057】
[実施形態4]
<Ni膜>
本実施形態では、実施形態1の「2.金属性表面の形成」において、ガラス基板に形成する金属性表面としてニッケル(Ni)膜を採用し、「4.超微粒子シリカ化合物の気相成長」における気相成長温度を350℃とし、その他の条件は実施形態1と同様にして、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。なお、気相成長温度を350℃とした場合については、かかる温度での保持時間を1時間と短縮した条件においても、超微粒子シリカ化合物からなる堆積膜(超撥水膜)を形成した。
この様にして得られたサンプルを破断し、その表面と破断面とをSEMにより観察した。その結果、表面の中心付近のSEM像を
図7(a)に、断面のSEM像を(b)に示した。
【0058】
図7(a)に示されるように、得られた超微粒子シリカ化合物の堆積膜は、実施形態1〜3で得られた超微粒子シリカ化合物堆積膜とは若干異なり、高温で気相成長を試みたにも関わらずシリカの粒成長がさほど進んでおらず、どちらかというとプラズマ熱還元により形成されたポーラスな状態に近いものであった。
図7(b)の断面像からわかるように、超微粒子シリカ化合物の堆積膜は、基板に近い領域で、約2μmの厚みに成長した柱状のシリカ粒子が見られ、その表面に空気を含んだようにふんわりとシリカ粒子が堆積しているのが観察された。また、基板は、Si−Niの混合層が形成されていることが伺えた。しかしながら、かかる堆積膜は、水の接触角が150度以上の超撥水性を示すことが確認された。また、
図5に示すように、気相法で加熱することによって硬度が上昇することが確認された。
【0059】
[実施形態5]
本実施形態では、(a)Zn,(b)Cu,(c)Al,(d)Agおよび(e)Siからなる金属性表面に、プラズマ熱還元により超微粒子シリカ化合物を堆積させた後、超微粒子シリカ化合物を気相成長させて、超微粒子シリカ化合物の堆積膜を形成した。
気相成長は、(1)250℃で1時間の加熱を行うものと、(2)270℃で1時間の加熱を行うものとの2通りの条件で行った。
得られたサンプルを破断して破断面をSEMにより観察し、また表面を観察した結果を
図8(a)〜(e)に示した。
図8(a)〜(e)に示されるとおり、金属性表面の金属種を変えた場合でも、粒状シリカ化合物による複雑な凹凸構造を有する膜が形成されているのが確認できた。また、上記の金属性表面と堆積膜との間には、いずれも各金属とシリカとが反応して化合物が形成されていることが確認された。
また得られた粒状シリカ化合物の堆積膜の物理的特性はいずれも実施形態1と同様で、超撥水性と、高い膜密着性とを両立していることが確認された。
【0060】
[実施形態6]
本実施形態では、SUS鋼からなる金属性表面に、プラズマ熱還元により超微粒子シリカ化合物を堆積させた後、超微粒子シリカ化合物を気相成長させて、超微粒子シリカ化合物の堆積膜を形成した。
気相成長は、(1)250℃で1時間の加熱を行うものと、(2)270℃で1時間の加熱を行うものとの2通りの条件で行い、サンプル(1)(2)を得た。
得られたサンプル(1)を破断して破断面をSEMにより観察し、その結果を
図9Aに、サンプル(2)については
図9Bに示した。これらの図から確認できるように、サンプル(1)には直径が1〜2μmの粒状シリカ化合物が、サンプル(2)には直径が1〜4μm程度の粒状シリカ化合物が、それぞれネックで結合して堆積しているのが確認された。それぞれのサンプルについて、スクラッチ試験を行った結果、サンプル(1)については臨界荷重77mN、サンプル(2)については臨界荷重125mNの結果が得られた。また、撥水性については、いずれのサンプルも150度以上であった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。