特許第6142565号(P6142565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6142565
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】樹脂用組成物の重合停止方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/08 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
   C08G75/08
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-30828(P2013-30828)
(22)【出願日】2013年2月20日
(65)【公開番号】特開2013-209628(P2013-209628A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2016年1月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-45600(P2012-45600)
(32)【優先日】2012年3月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】西森 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】輿石 英二
(72)【発明者】
【氏名】竹内 基晴
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/136401(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/136241(WO,A1)
【文献】 特開2010−137526(JP,A)
【文献】 特開2010−053279(JP,A)
【文献】 特開2010−105229(JP,A)
【文献】 特開2004−137481(JP,A)
【文献】 特開2007−197615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00−75/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)化合物と重合触媒を含む樹脂用組成物に、酸性亜リン酸エステル類、有機スルホン酸類、ハロゲン化ケイ素類、ハロゲン化ゲルマニウム類およびハロゲン化アンチモン類から選ばれる少なくとも一種の化合物を添加することにより前記樹脂用組成物の重合反応を停止する方法。
(a)下記(1)式で表される分子内に2個のエピスルフィド基を有する化合物
【化1】
(mは0〜4の整数、nは0〜2の整数)
【請求項2】
前記樹脂用組成物がさらに下記(b)化合物を含む請求項1に記載の重合反応を停止する方法。
(b)チオール基を1 分子中に1 個以上有する化合物
【請求項3】
前記樹脂用組成物がさらに下記(c)化合物を含む請求項2に記載の重合反応を停止する方法。
(c)イソシアナート基を1分子中に1個以上有する化合物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂用組成物の重合反応を停止する方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は軽量かつ靭性に富み、また染色が容易であることから、各種光学材料、特に眼鏡レンズに近年多用されている。光学材料、中でも眼鏡レンズに特に要求される性能は、低比重、高透明性および低黄色度、光学性能として高屈折率と高アッベ数であり、高耐熱性、高強度などである。高屈折率はレンズの薄肉化を可能とし、高アッベ数はレンズの色収差を低減する。高強度は二次加工を容易にするとともに、安全性等の観点からも重要である。光学性能の高屈折率および高アッベ数、高耐熱性を同時に実現する手法として、エピスルフィド化合物の使用があげられるが、該化合物からなる光学材料については、高強度化が課題となっていた。このため、エピスルフィド化合物にチオール化合物とイソシアナート化合物を添加することにより、引張強度、耐衝撃性などの各種強度の向上に関する検討が行われている( 特許文献1〜4参照)。
【0003】
しかしながら、これらエピスルフィド基を有する化合物を含有する樹脂用組成物は、重合触媒存在下での反応性が高いため、操作ミスなどで高い発熱、発泡および発煙等を伴う異常重合を引き起こす場合があった。さらに、エピスルフィド基を有する化合物にイソシアナート基を1分子中に1個以上有する化合物とチオール基を1 分子中に1 個以上有する化合物を加えた組成物に関しては、その反応が複数あり反応性も異なることから、異常反応を引き起こす可能性が高い。さらには、エピスルフィド基を有する化合物を含む樹脂用組成物は硫黄含有率が高いために、この異常重合が生じる際に、硫黄酸化物、硫化水素および一酸化炭素等の有害なガスが発生する危険性もある。このようなことから、重合触媒を含む該組成物の重合反応を速やかにかつ簡便に停止させる方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−292950号公報
【特許文献2】特開2001−131257号公報
【特許文献3】特開2001−330701号公報
【特許文献4】特開2007−084629公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、エピスルフィド基を有する化合物を含有する樹脂用組成物と該組成物を硬化する触媒との混合物の重合反応を速やかにかつ簡便に停止させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、分子内に2個のエピスルフィド基を有する化合物を含有する樹脂用組成物と該組成物を硬化する触媒との混合物に、酸性亜リン酸エステル類、有機スルホン酸類、ハロゲン化ケイ素類、ハロゲン化ゲルマニウム類およびハロゲン化アンチモン類から選ばれる少なくとも一種の化合物を添加することにより、重合反応を速やかにかつ簡便に停止できることを見出し、解決に至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エピスルフィド基を有する化合物を含有する樹脂用組成物と該組成物を硬化する触媒との混合物の重合反応を速やかにかつ簡便に停止させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
すなわち、本発明は、以下のようである。
1.下記(a)化合物と重合触媒を含む樹脂用組成物に、酸性亜リン酸エステル類、有機スルホン酸類、ハロゲン化ケイ素類、ハロゲン化ゲルマニウム類およびハロゲン化アンチモン類から選ばれる少なくとも一種の化合物を添加することにより前記樹脂用組成物の重合反応を停止する方法。
(a)下記(1)式で表される分子内に2個のエピスルフィド基を有する化合物
【化1】
(mは0〜4の整数、nは0〜2の整数)
2.前記樹脂用組成物がさらに下記(b)化合物を含む第1項に記載の重合反応を停止する方法。
(b)チオール基を1 分子中に1 個以上有する化合物
3.前記樹脂用組成物がさらに下記(c)化合物を含む第2項に記載の重合反応を停止する方法。
(c)イソシアナート基を1分子中に1個以上有する化合物
【0009】
本発明の(a)化合物である上記(1)式で表される分子内に2個のエピスルフィド基を有する化合物としては、具体的にはビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)トリスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、およびビス(β−エピチオプロピルチオエチル)スルフィドなどが挙げられる。
【0010】
中でも好ましい具体例は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(式(2))および/またはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(式(3))であり、最も好ましい具体例は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドである。
【化2】
ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド
【0011】
【化3】
ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド
【0012】
本発明で使用する(b)化合物は、チオール基を1 分子中に1 個以上有する化合物をすべて包括するが、その具体例としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n−プロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、アリルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−デシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタン、i−プロピルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、t−ノニルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、フェニルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、3−メチルフェニルメルカプタン、4−メチルフェニルメルカプタン、4−クロロベンジルメルカプタン、4−ビニルベンジルメルカプタン、3−ビニルベンジルメルカプタン、メチルメルカプトプロピオネート、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、2−メルカプト−1,3−プロパンジオール、メルカプト酢酸、メルカプトグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、メタンジチオール、1,2−ジメルカプトエタン、1,2−ジメルカプトプロパン、1,3−ジメルカプトプロパン、2,2−ジメルカプトプロパン、1,4−ジメルカプトブタン、1,6−ジメルカプトヘキサン、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、1,2−ビス(2−メルカプトエチルオキシ)エタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、1,2,3−トリメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,3−ジメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,4−ジメルカプトブタン、2−(2−メルカプトエチルチオ)−1,3−ジメルカプトプロパン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,4−ジメルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、1,1,1−トリス(メルカプトメチル)プロパン、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ブタンジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ブタンジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、 ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ジメルカプトシクロヘキサン、1,4−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1−チアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1−チアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)チオフェン、1,2−エピチオメルカプトエタン、1,2−エピチオ−1,2−ジメルカプトエタン、1,2−エピチオ−1,2,3,4−テトラメルカプトエタン、1,2−エピチオ−3−メルカプトプロパン、1,2−エピチオ−3,3−ジメルカプトプロパン、1,2−エピチオ−3,3,3−トリメルカプトプロパン、2,3−エピチオ−1,4−ジメルカプトブタン、2,3−エピチオ−1,1,4,4−テトラメルカプトブタン、1,2−エピチオ−5−メルカプト−4−チアペンタン、1,2−エピチオ−5,5−ジメルカプト−4−チアペンタン、1,2−エピチオ−5,5,5−トリメルカプト−4−チアペンタン、1,2:6,7−ジエピチオ−1,7−ジメルカプト−5−チアヘプタン、1,2:6,7−ジエピチオ−3,5−ジメルカプト−5−チアヘプタン等の脂肪族メルカプタン類、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼン、o−メタキシリレンジチオール、m−メタキシリレンジチオール、p−メタキシリレンジチオール、2,2’−ジメルカプトビフェニル、4、4’−ジメルカプトビフェニル、ビス(4−メルカプトフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトフェニル)スルホン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィド、4−ヒドロキシチオフェノール、メルカプト安息香酸等の芳香族環状メルカプタン類があげられる。さらに、これらチオール化合物の2量体〜20量体といったスルフィドオリゴマーやジスルフィドオリゴマーなどのチオール類をあげることができる。
【0013】
本発明の対象となる(b)化合物に関してはこれらに限定されるわけではなく、また、これらは単独でも、2種類以上を混合して使用してもかまわない。この中でも、好ましくは、メルカプト基を1分子あたり2個以上有する化合物およびOH基とメルカプト基を1分子あたり各々1個ずつ以上有する化合物である。さらに好ましくは、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5一ビス(メルカプトメチル)一1,4一ジチアン、o−キシリレンジチオール、m−キシリレンジチオール、p−キシリレンジチオールである。
【0014】
本発明で使用する(c)化合物は、イソシアナート基を1分子あたり1個以上有する化合物をすべて包括するが、その具体例としては、メチルイソシアナート、エチルイソシアナート、プロピルイソシアナート、シクロヘキシルイソシアナート、フェニルイソシアナート、トルイルイソシアナート、ジエチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、シクロヘキサンジイソシアナート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアナート、ノルボルネンジイソシアナート、2,6−ビス(イソシアナトメチル)デカヒドロナフタレン、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、o−トリジンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、ジフェニルエーテルジイソシアナート、1,3−フェニレンジイソシアナート、1,4−フェニレンジイソシアナート、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、m−キシリレンジイソシアナート、p−キシリレンジイソシアナート等をあげることができる。また、以上のうちポリイソシアナート類についてはビュレット型反応による二量体、環化三量体およびアルコールもしくはチオールの付加物等のイソシアナート類をあげることができる。
【0015】
本発明の対象となる(c)化合物に関してはこれらに限定されるわけではなく、また、これらは単独でも、2種類以上を混合して使用してもかまわない。以上記載の(c)成分のうち、好ましくはイソシアナート基を1分子中に2個有する化合物であり、さらに好ましくは高屈折率な光学材料を得るために芳香環を有しかつ耐候性を高めるために脂肪族イソシアナート化合物である。具体的には、m−キシリレンジイソシアナート、p−キシリレンジイソシアナート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアナート、p−テトラメチルキシリレンジイソシアナートが挙げられる。
【0016】
本発明における、(a)、(b)、及び(c)化合物の割合は、各化合物の種類によって得られる光学材料の光学特性、強度、耐熱性など各種物性等により一概には決められないが、通常は(a)化合物50〜100質量部に対して(b)化合物0〜50質量部、(c)化合物0〜50質量部、好ましくは(a)化合物60〜95質量部に対して(b)化合物5〜40質量部、(c)化合物0〜35質量部である((a)、(b)及び(c)化合物の合計を100質量部とする)。
【0017】
本発明の樹脂用組成物に添加する重合触媒としては、アミン類、ホスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類などを挙げることができる。これらのうち好ましくはアミン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類である。
【0018】
重合触媒は、重合硬化を発現するものであれば、特に限定されるものではない。また、これら重合触媒は単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。これらのうち好ましい具体例は、N,N−ジメチル−2−アミノエタノール、トリエチルアミン等のアミン類、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩が挙げられる。これらの中で、さらに好ましい具体例は、トリエチルベンジルアンモニウムクロライドおよび/またはテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドである。
【0019】
重合触媒の添加量は、(a)、(b)及び(c)化合物の合計100質量部に対して、0.001〜5質量部であり、好ましくは0.002〜5質量部であり、より好ましくは0.005〜3質量部である。
【0020】
本発明の樹脂用組成物には、重合硬化する際に、ポットライフの延長や重合発熱の分散化などを目的として、必要に応じて重合調節剤を添加することができる。重合調節剤はケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物である。好ましくはケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物であり、さらに好ましくはアルキル基を有するゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物である。最も好ましいものの具体例はジブチルスズジクロライド、ブチルスズトリクロライド、ジオクチルスズジクロライド、オクチルスズトリクロライド、ジブチルジクロロゲルマニウム、ブチルトリクロロゲルマニウム、ジフェニルジクロロゲルマニウム、フェニルトリクロロゲルマニウム、トリフェニルアンチモンジクロライドである。これら重合調節剤は、単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
【0021】
重合調節剤の添加量は、(a)、(b)および(c)化合物の合計100質量部に対して、0.001〜5質量部であり、好ましくは0.002〜5質量部であり、より好ましくは0.005〜3質量部である。
【0022】
本発明の樹脂用組成物において、任意成分として、樹脂改質剤として(a)、(b)および/または(c)化合物と反応可能な化合物、公知の酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、消臭剤等の各種添加剤を必要に応じて加え、得られる材料の実用性をより向上せしめることはもちろん可能である。また、本発明の光学材料が重合中に型から剥がれやすい場合には公知の外部および/または内部密着性改善剤を、または型から剥がれにくい場合には公知の外部および/または内部離型性改善剤を、重合硬化に用いるガラスもしくは金属製の型に塗布するか、光学材料用組成物に添加して、得られる光学材料と型の密着性または離型性を向上せしめることも有効である。
【0023】
本発明の樹脂用組成物の重合反応を停止する際に使用する化合物は、酸性亜リン酸エステル類、有機スルホン酸類、ハロゲン化ケイ素類、ハロゲン化ゲルマニウム類、またはハロゲン化アンチモン類から選ばれる少なくとも一種の化合物であり、好ましくはハロゲン化水素ガス発生の恐れのない酸性リン酸エステル類、酸性亜リン酸エステル類、有機スルホン酸類である。さらに、酸性リン酸エステル類は、樹脂用組成物との相溶性が高く速やかに樹脂用組成物と均一に混合し重合反応を停止できることからより好ましく、なかでも、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェートがもっとも好ましい。これらの化合物は、樹脂用組成物にそのまま添加しても良いし、有機溶媒あるいは水に溶解させた溶液を添加しても良い。
【0024】
重合反応を停止する際に使用する化合物の添加量は、樹脂用組成物の合計100質量部に対して、0.001〜100質量部、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは5〜80質量部添加することができる。
【0025】
本発明の樹脂用組成物での異常重合は、(a)、(b)及び(c)化合物の劣化、樹脂用組成物への重合触媒の過剰量添加、樹脂用組成物の過剰な加熱や除熱不足、有機化合物や無機化合物の混入などに代表される操作ミスなどにより引き起こされ、通常では樹脂用組成物が設定温度に対して10℃以上の発熱が見られたり、変色、発泡および発煙等が起こる。異常重合が引き起こされたときに、本発明の重合反応を停止する際に使用する化合物あるいはその溶液を添加して、樹脂用組成物の異常な重合反応を停止するためには、樹脂用組成物と重合反応を停止する際に使用する化合物とが良好に混合され、出来る限り均一とするために十分に撹拌することが望ましい。撹拌混合が不十分で十分な均一性が無い場合、十分な重合停止効果が得られず局所的に異常重合が進行し発泡や発煙が生じることがある。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
実施例1
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド500g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド5gを混合撹拌して均一液とした後、50℃に加熱したところ組成物は60℃以上に発熱し発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物にブトキシエチルアシッドホスフェート100gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0028】
実施例2〜9
実施例1と同様の操作を、表1に示す重合反応を停止する際に使用する化合物を用いる以外は、これを繰り返した。結果を表1に示す。
どの場合も、組成物の異常な重合反応は停止した。
【0029】
実施例10
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド500g、重合触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド3gを混合撹拌して均一液とした後、50℃に加熱したところ組成物は60℃以上に発熱し発煙および発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物にトルエン100gに溶解させたブトキシエチルアシッドホスフェート100gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発煙および発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0030】
実施例11
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド500g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド5gを混合撹拌して均一液とした後、50℃に加熱したところ組成物は60℃以上に発熱し、発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物に水100gに溶解させたモノブチルトリクロロスズ200gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0031】
実施例12
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド450g、(b)化合物としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド50g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド5g、重合調節剤としてジブチルスズジクロライド1gを混合撹拌して均一液とした後、50℃に加熱したところ組成物は60℃以上に発熱し発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物にブトキシエチルアシッドホスフェート100gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0032】
実施例13〜20
実施例12と同様の操作を、表1に示す重合反応を停止する際に使用する化合物を用いる以外は、これを繰り返した。結果を表1に示す。
どの場合も、組成物の異常な重合反応は停止した。
【0033】
実施例21
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド450g、(b)化合物としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド50g、重合触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド3gを混合撹拌して均一液とした後、50℃に加熱したところ組成物は60℃以上に発熱し発煙および発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物にトルエン100gに溶解させたブトキシエチルアシッドホスフェート100gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発煙および発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0034】
実施例22
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド450g、(b)化合物としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド50g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド5g、重合調節剤としてジブチルスズジクロライド2gを混合撹拌して均一液とした後、50℃に加熱したところ組成物は60℃以上に発熱し、発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物に水100gに溶解させたモノブチルトリクロロスズ200gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0035】
実施例23
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド420g、(b)化合物としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド48g、(c)化合物としてm−キシリレンジイソシアナート32g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド5g、重合調節剤としてジブチルスズジクロライド1gを混合撹拌して均一液とした後、50℃に加熱したところ組成物は60℃以上に発熱し発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物にブトキシエチルアシッドホスフェート100gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0036】
実施例24〜31
実施例23と同様の操作を、表1に示す重合反応を停止する際に使用する化合物を用いる以外は、これを繰り返した。結果を表1に示す。
どの場合も、組成物の異常な重合反応は停止した。
【0037】
実施例32
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド400g、(b)化合物としてm−キシリレンジチオール55g、(c)化合物としてm−テトラメチルキシリレンジイソシアナート45g、重合触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド3gを混合撹拌して均一液とした後、50℃に加熱したところ組成物は60℃以上に発熱し発煙および発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物にトルエン100gに溶解させたブトキシエチルアシッドホスフェート100gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発煙および発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例33
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド400g、(b)化合物として2,5一ビス(メルカプトメチル)一1,4一ジチアン65g、(c)化合物として1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン35g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド5g、重合調節剤としてジブチルスズジクロライド2gを混合撹拌して均一液とした後、50℃に加熱したところ組成物は60℃以上に発熱し、発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物に水100gに溶解させたモノブチルトリクロロスズ200gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0039】
実施例34
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド440g、(b)化合物としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド60g、(c)化合物としてイソホロンジイソシアナート40g、重合触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド1gを混合撹拌して均一液とした後、90℃に加熱したところ組成物は100℃以上に発熱し、発煙および発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物に2−エチルヘキシルアシッドホスフェート50gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発煙および発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0040】
実施例35
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド418g、(b)化合物としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド48g、(c)化合物としてm−キシリレンジイソシアナート32g、その他の化合物として硫黄2g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド5g、重合調節剤としてジブチルスズジクロライド1gを混合撹拌して均一液とした後、50℃に加熱したところ組成物は60℃以上に発熱し発泡し始めた。この異常な重合反応が開始した組成物に2−エチルヘキシルアシッドホスフェート50gを加え速やかに撹拌混合したところ発熱と発泡は収まり異常な重合反応は停止した。結果を表1に示す。
【0041】
比較例1〜5
実施例1と同様の操作を、表1に示す重合反応を停止する際に使用する化合物を用いる以外は、これを繰り返した。結果を表1に示す。
どの場合も、組成物の異常な重合反応は停止せず、発熱および発泡は収まらなかった。
【0042】
比較例6〜10
実施例12と同様の操作を、表1に示す重合反応を停止する際に使用する化合物を用いる以外は、これを繰り返した。結果を表1に示す。
どの場合も、組成物の異常な重合反応は停止せず、発熱および発泡は収まらなかった。
【0043】
比較例11〜15
実施例23と同様の操作を、表1に示す重合反応を停止する際に使用する化合物を用いる以外は、これを繰り返した。結果を表1に示す。
どの場合も、組成物の異常な重合反応は停止せず、発熱および発泡は収まらなかった。
【0044】
【表1】
【0045】
表1中の異常反応の停止
停止A:極めて良好に均一混合し、極めて速やかに異常反応は停止した。
停止B:良好に均一混合し、速やかに異常反応は停止した。
停止C:均一混合し、異常反応は停止した。
停止せず:組成物の異常な重合反応は停止せず、発熱および発泡は収まらなかった。
【0046】
表1中の化合物略号
a1=ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド
a2=ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド
b1=ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド
b2=2,5一ビス(メルカプトメチル)一1,4一ジチアン
b3=m−キシリレンジチオール
c1=m−キシリレンジイソシアナート
c2=m−テトラメチルキシリレンジイソシアナート
c3=1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン
c4=イソホロンジイソシアナート
CAT1=テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド
CAT2=ジブチルスズジクロライド
CAT3=トリエチルベンジルアンモニウムクロライド
CAT4=N,N−ジメチル−2−アミノエタノール
AD1=ブトキシエチルアシッドホスフェート
AD2=2−エチルヘキシルアシッドホスフェート
AD3=エチルアシッドホスフェート
AD4=ジフェニルハイドロゲンホスファイト
AD5=ジエチルハイドロゲンホスファイト
AD6=ジエチルジクロロシラン
AD7=モノブチルトリクロロスズ
AD8=ドデシルベンゼンスルホン酸
AD9=トリフェニルゲルマニウムクロライド
AD10=トルエン
AD11=10%塩酸
AD12=ポリリン酸
AD13=酢酸