(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る、ドグクラッチを備えたシフト装置を有する自動変速機を車両に適用した一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、その車両の構成を示す概要図である。
図1に示すように、車両Mは、エンジン11、クラッチ12、自動変速機13(本発明の変速機に該当する)、ディファレンシャル装置14、駆動輪(左右前輪)Wfl,Wfrを含んで構成されている。エンジン11は、燃料の燃焼によって駆動力を発生させるものである。エンジン11の駆動力は、クラッチ12、自動変速機13、およびディファレンシャル装置14を介して駆動輪Wfl,Wfrに伝達されるように構成されている。このように、車両Mは、いわゆるFF車両である。なお、FF車両は一例であって、これに限るものではない。例えば、
後輪駆動車でもよいし、4輪駆動車でもよい。
【0021】
クラッチ12は、図示しない制御部の指令に応じて自動で断接されるように構成されている。
図2に示すように、自動変速機13は、ドグクラッチの機構を備えたシフト装置10を組み込んで、例えば前進5段、後進1段を自動的に選択するものである。ただし、
図2では、前進2段分の変速段のみを記載してある。
図1に示すディファレンシャル装置14は、ファイナルギヤおよびディファレンシャルギヤの両方を含んで構成されており、自動変速機13と一体的に形成されている(詳細は図示しない)。
【0022】
自動変速機13は、
図2に示すように、ケーシング21、入力シャフト22(本発明の一方の軸に該当する)、出力シャフト28(本発明の他方の軸に該当する)およびシフト装置10を含んで構成されている。
【0023】
ケーシング21は、ほぼ有底円筒状に形成された本体21a、本体21aの底壁である第1壁21b、および本体21a内を左右方向に区画する第2壁21cを含んで構成されている。
【0024】
入力シャフト22は、ケーシング21に回転自在に支承されている。すなわち、入力シャフト22の一端(左端)が軸受21b1を介して第1壁21bに軸承され、入力シャフト22の他端(右端)側が軸受21c1を介して第2壁21cに軸承されている。入力シャフト22の他端は、クラッチ12を介してエンジン11の図略の出力軸に回転連結されている(
図1参照)。よって、エンジン11の出力はクラッチ12が接続されているときに入力シャフト22に入力される。また、クラッチ12が遮断されると、入力シャフト22はフリー回転可能な状態となる。
【0025】
出力シャフト28は、ケーシング21に回転自在に支承されている。すなわち、出力シャフト28の一端(左端)が軸受21b2を介して第1壁21bに軸承され、出力シャフト28の他端(右端)が軸受21c2を介して第2壁21cに軸承されている。出力シャフト28には、第一出力ギヤ28a、第二出力ギヤ28bおよび第3出力ギヤ28cがスプライン嵌合等で固定されている。
【0026】
第一出力ギヤ28aは、後述する第一クラッチリング23と噛合するものであり、外周面には第一クラッチリング23と噛合するギヤ(ヘリカルギヤ)が形成されている。第二出力ギヤ28bは、後述する第二クラッチリング24と噛合するものであり、外周面には第二クラッチリング24と噛合するギヤ(ヘリカルギヤ)が形成されている。
【0027】
第3出力ギヤ28cは、ディファレンシャル装置14のクラッチリング(図示省略)と噛合するものであり、外周面には、当該クラッチリングと噛合するギヤ(ヘリカルギヤ)が形成されている。このように、出力シャフト28は、ディファレンシャル装置14を介して、駆動輪Wfl,Wfrに回転連結されている。
【0028】
これにより、車両走行時には、駆動輪Wfl,Wfrの回転が、ディファレンシャル装置14、第3出力ギヤ28c、出力シャフト28、第一出力ギヤ28aおよび第二出力ギヤ28bを介して、第一クラッチリング23および第二クラッチリング24を強制回転させている。
【0029】
よって、エンジン11の駆動力は、断接可能なクラッチ12が接続状態にされると、入力シャフト22から入力し、出力シャフト28に伝達され、最終的に第3出力ギヤ28c、ディファレンシャル装置14を介して、駆動輪Wfl,Wfrに出力される。
【0030】
次に、シフト装置10について説明する。シフト装置10は、
図2〜
図4に示すように、回転軸19と、上述した第一クラッチリング23および第二クラッチリング24と、クラッチハブ25と、スリーブ26と、軸動装置27と、スリーブ26を中立状態Nおよび第一、第二シフト状態S1、S2で保持する保持機構と、を備えている。詳細は後述するが、保持機構は、スリーブ26と、クラッチハブ25と、
図3に示す弾性部材41と、を備えている。
【0031】
回転軸19は、自動変速機13の入力シャフト22に回転連結され、入力シャフト22とともに軸線回りに回転可能に軸承されている。
【0032】
第一クラッチリング23および第二クラッチリング24は、回転軸19に遊転(回転)可能に支承されている。
図2、
図4に示すように、第一クラッチリング23および第二クラッチリング24は、クラッチハブ25の両側でクラッチハブ25と隣接して配置されている。そして、第一クラッチリング23の外周面には、出力シャフト28に固定される第一出力ギヤ28aと噛合するギヤ(ヘリカルギヤ)が形成されている。そして、第一クラッチリング23と第一出力ギヤ28aとの噛合によって第一ギヤ比の変速段が構成されている。
【0033】
第二クラッチリング24の外周面には、出力シャフト28に固定される第二出力ギヤ28bと噛合するギヤ(ヘリカルギヤ)が形成されている。第二クラッチリング24と第二出力ギヤ28bとの噛合によって第二ギヤ比の変速段が構成されている。なお、本実施形態においては、第一ギヤ比>第二ギヤ比の関係となっている。このようにして、第一クラッチリング23および第二クラッチリング24は、出力シャフト28と回転連結されている。
【0034】
図2、
図4に示すように、第一クラッチリング23のクラッチハブ25側の側面には、スリーブ26に形成されているスプライン26aに係合する第一ドグクラッチ部23aが形成されている。また、第二クラッチリング24のクラッチハブ25側の側面には、スリーブ26のスプライン26aに係合する第二ドグクラッチ部24aが形成されている。
【0035】
なお、第一ドグクラッチ部23a、および第二ドグクラッチ部24aの歯の構成等については、通常のドグクラッチであるので、詳細な説明については省略する。
【0036】
クラッチハブ25は、回転軸19に、軸線回りに一体回転可能にスプライン嵌合等で固定されている。
図3に示すように、クラッチハブ25の外周面には、スリーブ26の内周面に形成されているスプライン26a(本発明のスリーブスプラインに該当する)に、入力シャフト22の軸線方向に摺動可能、かつ相対回転を規制して係合するスプライン25aが形成されている。
【0037】
軸動装置27は、スリーブ26を軸線方向に沿って往復動させるものであり、スリーブ26を第一クラッチリング23または第2クラッチリング24に押圧させている際、第1クラッチリング23または第2クラッチリング24から反力が加わった場合に、スリーブ26がその反力によって移動することを許容するように構成されている。
【0038】
軸動装置27は、フォーク27a、フォークシャフト27b及びアクチュエータ27c等を含んで構成されている。本実施形態においてアクチュエータ27cは、出力軸が回転する回転駆動モータである。フォーク27aの先端部は、スリーブ26の外周溝26dの外周形状にあわせて形成されている。フォーク27aの基端部は、フォークシャフト27bに固定されている。フォークシャフト27bは、ケーシング21に軸線方向に沿って摺動自在に支承されている。すなわち、フォークシャフト27bの一端(左端)が軸受21b3を介して第1壁21bに支承される。また、フォークシャフト27bの他端(右端)側がブラケット27dに固定されている。ブラケット27dは、第2壁21cから軸線方向に突出するガイド部材27eによって摺動可能であるとともに、ナット部材27fに固定されている。ナット部材27fはアクチュエータ27cに回転連結される駆動シャフト27hに対して進退可能に螺着されている。駆動シャフト27hは軸受21c3を介して第2壁21cに支承されている。
【0039】
図略の制御部がアクチュエータ27cへの通電量を制御することで、アクチュエータ27cの回転軸が回転し、回転軸に連結された駆動シャフト27hを任意の回転数だけ回転させる。これによって、ナット部材27f、ブラケット27dおよびフォークシャフト27bが軸線方向に往復動し、任意の位置に位置決め固定可能となる。なお、フォークシャフト27bが位置決め固定される任意の位置は、図略のストロークセンサによって常時取得されフィードバック制御されている。
【0040】
なお、アクチュエータ27cは、回転駆動するモータ以外に、どのような形式のものを用いてもよい。例えば、特開2008−259413号公報に記載されているような、リニアモータを用いてもよい。さらには、MT車において、アクチュエータを用いず、運転者の手動によって、フォークシャフト27bが軸線方向に作動するようにしてもよい。
【0041】
次に、スリーブ26の保持機構について説明する。保持機構は、
図3に示すように、スリーブ26、クラッチハブ25および弾性部材41を備えている。そして、保持機構は、スリーブ26とクラッチハブ25との間で構成されている。本実施形態においては、保持機構は、スリーブ26およびクラッチハブ25の円周上において、ほぼ180度離間した任意の2点に設けられている(
図3参照)。
【0042】
図5〜
図7の断面図に示すように、弾性部材41は、クラッチハブ25とスリーブ26との間に介在されている。弾性部材41は、突部41a(本発明の第一係合部に該当する)、41b(本発明の第二係合部に該当する)およびベース部41cを備えている。弾性部材41は、長方形の板状部材から形成され、ベース部41cの両端からそれぞれ同じ方向に2回屈曲させて、同じ大きさの突部41a、41bが形成される。各屈曲部はR形状で形成されている。
【0043】
突部41a、41bは、
図5〜
図7に示すように、弾性部材41を板厚方向からみたときに略三角形状を呈している。このような形状において、突部41a、41bの三角形の頂点A、Bをクラッチハブ25の中心方向に押し、突部41a、41bを撓ませると、反力として上方に向かう付勢力F2、F3が発生される。この、付勢力F2、F3によってスリーブ26を外径方向に付勢し安定的に保持する。なお、弾性部材41は、必要な付勢力を備えていれば、どのような材質によって形成してもよい。このとき、必要な付勢力は任意に設定可能である。
【0044】
そして、弾性部材41は、2個の突部41a、41bの中間のベース部41cが、ボルト45によってクラッチハブ25の外周面(本発明の一方側の面に該当する)に螺着されて固定されている。このとき、弾性部材41を固定する位置は、2箇所であり、クラッチハブ25のスプライン25aの谷部の平面部25b(
図3参照)および、平面部25bと円周方向に180度離間したスプライン25aの谷部の平面部とする。ただし、弾性部材41の取付け位置は、これに限らず、ドグクラッチの係合を行なう際に支障がなければどこに配置してもよい。例えば、スプライン25aの山部を加工して平面部を形成し、当該平面部に設けてもよい。
【0045】
次に、弾性部材41は、2個の突部41a、41bと係合する第一被係合部である係止用凹部42および第二被係合部である係止用凹部43について説明する。
図3に示すように、係止用凹部42、43は、クラッチハブ25の外周面に固定した弾性部材41に対向するようにスリーブ26の内周面(本発明の他方側の面に該当する)に軸線方向に離間して一対で設けられる。係止用凹部42、43は、
図5〜
図7に示すように、それぞれ軸線と直角で互いに対向する対向面42c、42dおよび対向面43c、43dを有する凹設された孔部である。そして、
図5〜
図7に示すように、弾性部材41の突部41a、41bは、係止用凹部42、43の対向面42c、42dおよび43c、43dの出口側の角部42a、42bおよび角部43a、43bと当接して係合している。
【0046】
なお、このとき、弾性部材41に対向する位置のスリーブ26の内周面には、スプライン26aの山部が設けられているが、弾性部材41の突部41a、41bの高さに適合するようスプライン26aの山部を加工すればよい。そして、クラッチハブ25とスリーブ26との位置関係が中立状態Nとなる位置で、弾性部材41と係止用凹部42、43の関係が、
図6に示すような状態となるように係止用凹部42、43を設ければよい。つまり、中立状態Nでは、第一被係合部が第一被係合部と係合し、第二係合部が第二被係合部と係合されるよう係止用凹部42、43を設ければよい。
【0047】
詳細には、
図6に示すように、突部41a、41bが共に、係止用凹部42、43にそれぞれ係入される。そして、係止用凹部42(第一被係合部)の角部42a、42bおよび係止用凹部43(第二被係合部)の角部43a、43bが、突部41aの直線部41a1、41a2および突部41bの直線部41b1、41b2にそれぞれ当接された状態でスリーブ26が中立状態で位置決めされる。なお、このような態様に限らず、係止用凹部42の角部42a、42bおよび係止用凹部43の角部43a、43bが、突部41a、41bの頂点近傍のR部と当接していてもよい。また、このとき、突部41a、41bの頂点A、Bは、係止用凹部42、43の底面42c、43cに当接しない。
【0048】
次に、クラッチハブ25とスリーブ26との位置関係が、第一シフト状態S1または第二シフト状態S2となった場合について説明する。第一シフト状態S1とは、スリーブ26が、
図6の状態から右方に移動し、スリーブ26のスプライン26aが、第一ドグクラッチ部23aに噛合して第一ギヤ比の変速段を成立させた
図7に示す状態である。また、第二シフト状態S2とは、スリーブ26が、
図6の状態から左方に移動し、スリーブ26のスプライン26aが、第二ドグクラッチ部24aに噛合して第二ギヤ比の変速段を成立させた
図5に示す状態である。なお、前述したが、本実施形態においては、第二ギヤ比の変速段(第二シフト状態S2)が、第一ギヤ比の変速段(第一シフト状態S1)よりも低速側のギヤ段であるものとする。また、第一ギヤ比の変速段および、第二ギヤ比の変速段は、どのような変速段同士の組み合わせとしても良い。
【0049】
上述したように、スリーブ26の位置が、第一シフト状態S1、または第二シフト状態S2に至った場合には、弾性部材41の突部41a、41bと係止用凹部42、43との関係は
図7(第一シフト状態S1)および
図5(第二シフト状態S2)に示す状態となる。これより、軸線方向に離間する係止用凹部42と係止用凹部43との間の距離は、スリーブ26が中立状態Nから軸線方向に移動し、第一ギヤ比の変速段または第二ギヤ比の変速段を成立させるのに必要な距離となっている。
【0050】
図7に示すように、第一シフト状態S1においては、突部41aが、スリーブ26の左方の係止用凹部43に係合され、係止用凹部43の角部43a、43bが、突部41aの直線部41a1、41a2にそれぞれ当接した状態でスリーブ26が位置決めされる。これによって、スリーブ26は、軸線方向への移動が良好に規制されている。また、このとき、突部41aが、スリーブ26を外径方向に付勢する付勢力の大きさF2は、中立状態Nにおいて突部41a、41bがスリーブ26を外径方向に付勢した付勢力の大きさF1の略半分となっている。これは、付勢する突部41aの数に応じたものである。
【0051】
また、
図5に示すように、第二シフト状態S2においては、突部41bが、スリーブ26の右方の係止用凹部42に係入され、係止用凹部42の角部42a、42bが、突部41bの直線部41b1、41b2にそれぞれ当接した状態でスリーブ26が位置決めされる。これによって、スリーブ26は、軸線方向への移動が良好に規制されている。また、突部41bが、スリーブ26を外径方向に付勢する付勢力の大きさF3は、
F2と等しく、中立状態における付勢力の大きさF1の略半分となっている。
【0052】
次に作動について説明する。例えば、始めに、シフト装置10が、第二シフト状態S2を形成していたとする。そして、第二シフト状態S2から、第一クラッチリング23と第一出力ギヤ28aとによって形成される増速側のギヤ段(第一シフト状態S1)に切替える場合について説明する。
【0053】
このとき、第二シフト状態S2におけるシフト装置10の保持機構の状態は、
図5に示すとおりである。そして、制御部(図略)は、ギヤ段の切替えのため、まず、クラッチ12を遮断する。次に、制御部は、軸動装置27を作動させ、フォークシャフト27bを、軸線方向で、第一クラッチリング23側に作動させる。
【0054】
これにより、保持機構では、突部41bがクラッチハブ25側に撓みつつ、突部41bと係止用凹部42との係合が解除される。そして、突部41bの頂点Bが、スリーブ26の内周面上を摺動し、やがて、突部41bが係止用凹部43に係合される。また、このとき、突部41bの移動の途中から突部41aの頂点Aが、スリーブ26の内周面上を摺動しはじめ、係止用凹部42に係合される。これによって、中立状態Nが形成され、第二クラッチリング24と、第二出力ギヤ28bとによって形成されていた第二ギヤ比の変速段は切断される。
【0055】
この状態で、停止させたい場合には、軸動装置27の作動を停止させればよい。この場合、2つの突部41a、41bによって、スリーブ26が外径方向に付勢力F1(=F2+F3)で付勢されるので、スリーブ26が中立状態Nを超え、第一クラッチリング23と接触してしまう虞はない。また、このとき、突部41aの各直線部41a1、41a2と係止用凹部42の角部42a、42b、並びに突部41bの各直線部41b1、41b2と係止用凹部43の角部43a、43bとが当接して係合されるので、スリーブ26は大きな面圧で突部41a、41bと係合される。これにより、軸線方向への移動も規制されて係合状態が安定する。
【0056】
しかし、ここでは、スリーブ26を、第一シフト状態S1まで作動させることが目的である。このため、軸動装置27は、スリーブ26を、中立状態Nを通過させ、さらに右方に移動させる。これにより、突部41aの頂点Aおよび突部41bの頂点Bが、スリーブ26の内周面上を摺動し、やがて、突部41aが係止用凹部43に係合され、突部41bはスリーブ26の内周面から完全にはずれる。これにより、突部41aの各直線部41a1、41a2と係止用凹部43の角部43a、43bとが当接して係止されるので、スリーブ26は大きな面圧で突部41aと係合されて係合状態が安定する。
【0057】
上述の説明から明らかなように、第1の実施形態によれば、スリーブ26の位置を規制するための弾性部材41が、スリーブ26とクラッチハブ25との間に設けられる。このため、スリーブ26とクラッチハブ25との間の位置関係は、スリーブ26、クラッチハブ25および弾性部材41という少ない部品の公差に基づき決定することができる。よって、スリーブ26の軸線方向の位置決め、特に中立状態Nでの位置決めを精度よく行なうことができる。このため、スリーブ26の中立状態Nでの位置が定まらず、スリーブ26と第一および第二ドグクラッチ部23a、24aとが接触することが抑制されるので、設計上、スリーブ26と第一および第二ドグクラッチ部23a、24aとの間の距離を短縮して設定することができる。これにより、軸線方向長さを短縮できるのでシフト装置10の小型化が図れる。また、スリーブ26を作動させた時に、第一または第二ドグクラッチ部23a、24aと噛合するまでの時間が短縮され、変速機の変速性能向上に寄与する。また、弾性部材41が有する2箇所の突部41a、41b(第一および第二係合部)と、弾性部材41と対向する2箇所の係止用凹部42、43(第一および第二被係合部)とを組み合わせて係合させることにより、中立状態N、第一シフト状態S1および第二シフト状態S2を成立させている。これにより、中立状態N、第一シフト状態S1および第二シフト状態S2を成立させるため、被係合部である凹部を軸線方向に3個整列させて設けていた従来技術に対し、軸線方向長さを短縮できシフト装置10の小型化が図れる。さらに、中立状態Nにおいては、弾性部材41の2箇所の突部41a、41bが同時にスリーブ26を付勢するので、スリーブ26は中立状態Nで確実に保持される。このように、シンクロナイザリングを設けない、ドグクラッチ機構において保持機構を設けることができた。
【0058】
また、第1の実施形態によれば、両端部が屈曲されて突部41a、41b(第一および第二係合部)に形成された弾性部材41が、クラッチハブ25の外周面にボルト45によって固定される。このため、クラッチハブ25が回転軸回りに回転されても、弾性部材41が遠心力でクラッチハブ25の外径方向に向かって浮き上がることはない。これにより、スリーブ26を付勢する弾性部材41の付勢力が変動することはなく、シフト装置10は安定した状態での作動が可能となる。
【0059】
また、第1の実施形態によれば、係止用凹部42、43(第一および第二被係合部)は、離間して凹設され、軸線と直角で互いに対向する対向面42c、42dおよび対向面43c、43dを有する一対の係止用凹部である。このため、弾性部材41の突部41a、41b(第一および第二係合部)は、それぞれ係止用凹部42、43の対向する対向面42c、42dおよび対向面43c、43dに挟持されて係合されるので、軸線方向の移動が良好に規制される。
【0060】
次に第2の実施形態について
図8〜
図10に基づき説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態に対して、被係合部である係止用凹部42、43の形状が異なる。第2の実施形態では、弾性部材41の突部41a、41bを係止さるために、係止用突部51を設けた。上記以外は、第1の実施形態と同様であるので、変更点のみについて説明し、同様部分については、説明を省略する。
【0061】
係止用突部51は、
図8〜
図10に示すとおり、スリーブ26の内周面(本発明の他方の面に該当する)から突設されている突起である。そして、突起の一方端61が第一被係合部を形成し、他方端62が第二被係合部を形成している。中立状態Nにおいては、
図9に示すように弾性部材41の突部41a、41bがそれぞれ有する直線部41a1、41a2および直線部41b1、41b2のうち、直線部41a2および41b1が係止用突部51の角部である一方端61および他方端62にそれぞれ当接して係止されている。これによって、スリーブ26の軸線方向への移動を良好に規制している。
【0062】
また、第一シフト状態S1においては、
図10に示すように係止用突部51の角部である他方端62と、弾性部材41の突部41aの直線部41a1とが当接している。これによって、スリーブ26の軸線方向で、中立状態N方向への移動を良好に規制している。また、第二シフト状態S2においては、
図8に示すように係止用突部51の角部である一方端61と、弾性部材41の突部41bの直線部41b2とが当接している。これによっても、スリーブ26の軸線方向で、中立状態N方向への移動を良好に規制している。
【0063】
上述の説明から、明らかなように、第2の実施形態によれば、スリーブ26の内周面から突設された突起である係止用突部51の一方端61が第一被係合部を形成し、他方端62が第二被係合部を形成する。このように、単純な構造で製作コストが安価な一方端61および他方端62(第一および第二被係合部)によっても、中立状態においては、一方端61と他方端62とが弾性部材41の突部41aおよび41b(第一および第二係合部)に当接し、軸線方向の移動を良好に規制することができる。また、第一シフト状態S1および第二シフト状態S2においても、スリーブ26の軸線方向で、中立状態N方向への移動を良好に規制することができる。
【0064】
次に、第1および第2の実施形態の変形例1について説明する。第1および第2の実施形態では、弾性部材41を、クラッチハブ25の外周面にボルト45によって螺着し固定した。しかし、この態様に限らず、
図11に示す変形例1では、クラッチハブ25の外周面に凹設された、軸線と直角方向に形成され両端を壁65a、65bによって閉塞された凹溝65を設け、当該凹溝65内に弾性部材41を収納して保持する。
【0065】
このような状態で、スリーブ26をクラッチハブ25の外周部に嵌合させて組み付ければ、弾性部材41は、凹溝65、壁65a、65bおよびスリーブ26に阻まれてクラッチハブ25の外周面から脱落することはないとともに、第1および第2の実施形態と同様の効果を奏する。また、弾性部材41の組み付けに対して、ボルト45の部品費、および組み付け工数が低減される。
【0066】
また、
図12に示すように、変形例2として、変形例1における、凹溝65の閉塞された両端の壁65a、65bの一方または両方をスナップリング67と取り替え、スナップリング67を壁の代用としてもよい。なお、変形例2では、一方の壁65aをスナップリング67に変更した態様を示す。スナップリング67は、クラッチハブ25の側面に係入溝を設けて係入させておけばよい。これにより、凹溝65に対し壁を形成するための加工が不要となるので低コスト化に寄与する。
【0067】
なお、上記第1および第2の実施形態においては、弾性部材41をボルト45によってクラッチハブ25の外周面に螺着して固定した。そして、スリーブ26の内周面に係止用凹部42、43または係止用突部51を設けた。しかし、この態様に限らず、弾性部材41をボルト45によってスリーブ26の内周面に螺着して固定し、クラッチハブ25の外周面に係止用凹部42、43または係止用突部51を設けてもよい。これによっても上記と同様の効果が期待できる。
【0068】
また、上記においては、弾性部材41は、一つの部材で突部41a、41bを備えるよう構成された。しかし、この態様に限らず、突部41a、41bを分割してもよい。そして、分割した突部41a、41bをクラッチハブ25の外周面上において、別々の場所に配置してもよい。分割した突部41a、41bは、
図13に示すようボルト45でクラッチハブ25にそれぞれ螺着して固定すればよい。なお、
図13では、突部41aのみ示すが、分割した突部41bは、別の谷部に突部41aと同様の方法で固定すればよい。
【0069】
また、上記においては、弾性部材41を、クラッチハブ25の外周面上において、2つ配置し、2つの弾性部材41は外周方向に略180°離間して配置されている。しかし、この態様に限らず、弾性部材41を一つだけ配置しても良いし、3つ以上配置してもよい。3つ以上配置する場合には、弾性部材41によって外径方向に付勢されるスリーブ26がクラッチハブ25の外周でバランスよく保持されるよう例えば外周方向に等間隔で配置されることが好ましい。
【0070】
また、弾性部材41の突部41a、41bの形状は、三角形に限らず、どのようなものでもよい。
【0071】
さらに、自動変速機は上記実施形態において説明した態様のものには限らない。例えば手動変速機(MT)や、2つのクラッチを備えるDCT(デュアル クラッチ トランスミッション)にも適用できる。これらによっても、同様の効果が得られる。